以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
[電動車両の構成]
図1は、一実施形態における電動車両10の主要構成を示すブロック図である。本実施形態における電動車両10は、モータ12の駆動及び制動をモータコントローラ38(制御装置)及びブレーキコントローラ48(制御装置)により行うものである。
また、電動車両10は、アクセルペダル(不図示)の操作で電動車両10の加速を行うとともにブレーキペダル(不図示)の操作で電動車両10の減速及び停止の制御を行うアクセルモードと、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御する1ペダルモードを備え、いずれかの走行モードをドライバーが選択できるようになっている。
1ペダルモードを選択した場合、ドライバーは、加速時にアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には、踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、または、アクセルペダルの踏み込み量をゼロとする。なお、登坂路においては、電動車両10の後退を防ぐためにアクセルペダルを踏み込みつつ停止状態に近づく場合もある。
モータ12は、インバータ14から供給される交流電流により駆動力を発生させ、減速機18及びドライブシャフト20を介して、左右の駆動輪22a、22bに駆動力を伝達する。また、モータ12は、電動車両10の走行時に駆動輪22a、22bに連れ回されて回転するときに、回生制動力を発生させることで、電動車両10の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ14は、モータ12の回生制動時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ16に供給する。
インバータ14は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ16から供給される直流の電流を交流に変換し、モータ12に所望の電流を流す。
摩擦ブレーキ26は、左右の駆動輪22a,22b、従動輪24a,24bに設けられ、ブレーキ液圧に応じてブレーキパッドをブレーキロータに押しつけて、駆動輪22a,22b及び従動輪24a,24bに摩擦制動力を付与する。
電流センサ28は、モータ12に流れる三相交流の電流iu,iv,iwを検出する。ただし、三相交流の電流iu,iv,iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
回転センサ30は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、モータ12の回転子位相αを検出する。
液圧センサ34は、摩擦ブレーキ26のブレーキ液圧を検出し、ブレーキ液圧信号をモータコントローラ38及びブレーキコントローラ48に出力する。
車輪速センサ32は、各輪のタイヤに取り付けられたセンサにて、各タイヤの回転数Nを検出する。回転数Nの情報は、モータコントローラ38及びブレーキコントローラ48に出力される。
前後Gセンサ36は、電動車両10が走行する路面の傾斜角度(上り坂、下り坂)を算出し、傾斜角度の情報をモータコントローラ38及びブレーキコントローラ48に出力する。
モータコントローラ38には、車速V、アクセル開度θ、モータ12(三相交流モータ)の回転子位相α、モータ12の電流iu,iv,iw等の車両状態を示す信号がデジタル信号として入力される。モータコントローラ38は、入力された信号に基づいて、トルク目標値Tm1*を設定し、このトルク目標値Tm1*に基づいてモータ12を制御するためのPWM信号を生成する。また、モータコントローラ38は、生成したPWM信号に応じてインバータ14の駆動信号を生成する。さらに、モータコントローラ38は後述のように、摩擦制動量指令値を生成する。
モータコントローラ38には、ドライバーの操作(例えば、シフトレバーの操作)によりアクセルモード及び1ペダルモードのいずれかを選択したことを示す走行モード信号DMが入力される。走行モード信号DMは、例えば1ビットのデータであり、0がアクセルモードを表し、1が1ペダルモードを表す。アクセルモードでは、アクセルペダルの踏み込みを解除しても電動車両10の走行抵抗に伴う制動力(回生制動力も含まれる)が発生するのみであるが、1ペダルモードではアクセルモードよりも大きな回生制動力を発生させる制動トルクT*(トルク目標値Tm1*)が設定される。
モータコントローラ38は、前後Gセンサ36から入力される傾斜角の情報により、モータ12における駆動力及び回生制動力を補正して、ドライバーのアクセル操作のアシストを行う。
ブレーキコントローラ48には、ドライバーのブレーキ操作に伴い生成されるブレーキ量を表すブレーキ信号、ブレーキ液圧センサが検知したブレーキ液圧信号が入力される。
ブレーキコントローラ48は、ブレーキ信号が入力されるとモータコントローラ38に回生制動力要求信号を出力する。モータコントローラ38は、回生制動力要求信号が入力されると、当該信号が表す要求回生制動力の大きさを算出し、この要求回生制動力をモータ12が全て賄えると判断した場合には、当該回生制動力要求信号に基づいて制動トルクT*(トルク目標値Tm1*)を設定する。一方、当該要求回生制動力をモータ12が全て賄えないと判断した場合には、賄える分について制動トルクT*(トルク目標値Tm1*)を設定し、当該賄えない分を摩擦制動量指令値としてブレーキコントローラ48に出力する。ここで、要求回生制動力をモータ12が全て賄えない場合とは、モータ12が生成できる回生制動力の最大値よりも要求回生制動力が上回る場合、またはバッテリ16がフルに充電され、回生電力を充電できない場合等である。
ブレーキコントローラ48は、モータコントローラ38で生成された摩擦制動量指令値に応じたブレーキ液圧を発生させる。ブレーキコントローラ48はまた、液圧センサ34により検出されるブレーキ液圧が摩擦制動量指令値に応じて決まる値に追従するようにフィードバック制御を行う。
ブレーキコントローラ48には、前後Gセンサ36から傾斜角の情報が入力される。ブレーキコントローラ48は傾斜角の情報により、ブレーキパッドに発生させる摩擦制動力を補正して、ドライバーのブレーキ操作のアシストを行う。
その他、ブレーキコントローラ48には、駆動輪22a,22b及び従動輪24a,24bの回転数の情報、横加速度の情報、ヨーレートの情報、舵角の情報が入力され、また高度道路交通システムや自動運転における制動力の情報が入力され、電動車両10の駆動制御に反映させる。
なお、1ペダルモードにおいてもドライバーは、ブレーキペダルを操作することができる。この場合、モータコントローラ38は、モータ12に発生させる回生制動力となる制動トルクT*(トルク目標値Tm1*)をブレーキ液圧信号に基づいて補正することができる。
[モータ電流制御の処理]
図2は、モータコントローラ38によって行われるモータ電流制御の処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS201では、車両状態を示す信号がモータコントローラ38に入力される。ここでは、車速V(m/s)、アクセル開度θ(%)、モータ12の回転子位相α(rad)、モータ12の回転速度Nm(rpm)、モータ12に流れる三相交流の電流iu,iv,iw、バッテリ16とインバータ14間の直流電圧値Vdc(V)、ブレーキ制動量推定値B、傾斜角の情報、及び、走行モード信号DMが入力される。
車速V(m/s)は、駆動力または制動力が伝達される車輪(駆動輪22a,22b)の車輪速(回転数)である。回転数の情報は、ブレーキコントローラ48等の他のコントローラより通信にて取得してもよい。車速Vは、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得される。または、車速V(km/h)は、回転子角速度ω(機械角)にタイヤ動半径rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除算することにより求められる。
アクセル開度θ(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得されるか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得される。
モータ12の回転子位相α(rad)は、回転センサ30から取得される。モータ12の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)をモータ12の極対数pで除算して、モータ12の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求められる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
モータ12に流れる電流iu,iv,iw(A)は、電流センサ28から取得される。
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ16とインバータ14間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)、または、バッテリコントローラ(不図示)から送信される電源電圧値から求められる。
ブレーキ制動量推定値Bは、液圧センサ34が検出したブレーキ液圧信号の値から取得される。あるいは、ドライバーのペダル操作によるブレーキペダルの踏み込み量を検出するストロークセンサ(不図示)等による検出値を使用しても良い。また、モータコントローラ38や、他のコントローラにより生成された摩擦制動量指令値を通信等により取得して、取得した摩擦制動量指令値を、ブレーキ制動量推定値Bとして用いてもよい。
ステップS202のトルク目標値算出処理では、モータコントローラ38がトルク目標値Tm1*を設定する。具体的には、ドライバーが電動車両10の走行モードとして、アクセルモードを選択した場合、ステップS201で入力されたアクセル開度θ及びモータ回転速度ωmに応じて算出されるアクセルモードの駆動力特性の一態様を表した図3に示すアクセル開度θ−トルクテーブルを参照することにより、トルク目標値Tm1*を設定する。
また、ドライバーが電動車両10の走行モードとして、1ペダルモードを選択した場合、ステップS201で入力されたアクセル開度θ及びモータ回転速度ωmに応じて算出される1ペダルモードの駆動力特性の一態様を表した図4に示すアクセル開度θ−トルクテーブルを参照することにより、トルク目標値Tm1*を設定する。図4に示すように、例えば、アクセル開度θを1/8にした場合には、ほぼ全てのモータ回転数(電動車両10の速度)についてモータトルクが負となり、制動トルクT*を発生させていることがわかる。
ステップS203では、駆動輪22a,22bのスリップによるロックを回避しつつ制動を行うロック制御処理を行う。ロック制御処理においては、駆動輪22a,22bの回転数の2輪平均(N1)と従動輪24a,24bの回転数の2輪平均(N2)を入力し、スリップ率S(スリップ量)に基づいて、ロック制御処理が行われる。ロック制御処理の詳細は後述する。
ステップS204では、モータコントローラ38が制振制御処理を行う。具体的には、ステップS202で設定されたトルク目標値Tm1*とモータ回転速度ωm(検出値)を入力し、ドライブシャフト20のトルク応答を犠牲にすることなく、駆動力伝達系振動(ドライブシャフト20の捻れ振動など)を抑制する最終トルク目標値Tmf*を設定する。最終トルク目標値Tmf*を設定する制振制御演算処理の詳細については、従来技術なので説明を省略する。
続くステップS205では、モータコントローラ38が電流指令値算出処理を行う。具体的には、ステップS205で算出した最終トルク目標値Tmf*に加え、モータ回転速度ωmや直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id*、q軸電流目標値iq*を求める。例えば、最終トルク目標値Tmf*、モータ回転速度ωm、d軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*との関係を定めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*を求める。
ステップS206では、d軸電流id及びq軸電流iqをそれぞれ、ステップS206で求めたd軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流の電流iu,iv,iwの値と、モータ12の回転子位相αの値と、に基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。続いて、d軸電流目標値id*とd軸電流idとの偏差からd軸電圧目標値vdを算出し、q軸電流目標値iq*とq軸電流iqとの偏差からq軸電圧目標値vqを算出する。
そして、d軸電圧目標値vd及びq軸電圧目標値vqと、モータ12の回転子位相αの値から、三相交流電圧目標値vu,vv,vwを求める。求めた三相交流電圧目標値vu,vv,vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%),tv(%),tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu,tv,twにより、インバータ14のスイッチング素子を開閉する。これにより、アクセルモードにおいては、最終トルク目標値Tmf*で指示された所望のトルクでモータ12を駆動させることができ、1ペダルモードにおいては最終トルク目標値Tmf*に係る所望のトルクでモータ12を駆動または制動させることができる。1ペダルモードにおいて、アクセルペダルの踏み込みを解除すると、解除後のトルク目標値Tm1*が制動トルクT*として機能し、電動車両10を減速させることになる。
[ロック制御処理]
本実施形態のロック制御処理について説明する。本実施形態のロック制御処理は、モータ12に制動トルクT*を付与することで駆動輪22a,22bがスリップしてロック傾向になる場合に行う制御であり、アクセルモード及び1ペダルモードにおいて行うことができる。
本実施形態のロック制御処理は、モータ12に制動トルクT*を付与した場合、駆動輪22a,22bはスリップするが従動輪24a,24bはほとんどスリップしないという前提で実行される。すなわち、モータコントローラ38は、車輪速センサ32から駆動輪22a,22bの回転数N1の情報、従動輪24a,24bの回転数N2の情報を取得し、スリップ率Sを、S=(N2−N1)/N2として算出する。またスリップ率S(スリップ量)をS=N2−N1として算出してもよい。
スリップ率Sが第1所定値S1を超えた場合には、制動トルクT*に回生制動力を減少させるための減少速度ΔTdnを加算することでモータ12に対する回生制動力を減少させる。その後、スリップ率Sが第2所定値S2以下になった場合には、制動トルクT*に回生制動力を増加(回復)させるための増加速度ΔTupを減算することでモータ12に対する回生制動力を増加させる。
ここで、第1所定値S1は、それ以上のスリップ率であると電動車両10の制御が困難となる目安の値であり、第2所定値S2とは、駆動輪22a,22bのスリップが一定の範囲で収まっていると判断できる目安の値であり、それぞれ電動車両10の特性や駆動輪22a,22bの摩擦特性等を考慮して定められる。また、減少速度ΔTdnは、駆動輪22a,22bの1サイクルごとに、制動トルクT*を増加させる、すなわち1サイクルごとの回生制動力の減少量である。また、増加速度ΔTupは、駆動輪22a,22bの1サイクルごとに、制動トルクT*を減少させる、すなわち1サイクルごとの回生制動力の増加量である。減少速度ΔTdn及び増加速度ΔTupは、電動車両10の速度や横加速度、摩擦制動の有無、電動車両10のABS(AntiLock Brake System)や横滑り防止装置の動作の有無等により変化する。
ロック制御処理を行っている間、ドライバーがアクセルペダルの踏み込みを解除している、またはアクセルペダルの踏み込み量を維持している限り、制動トルクT*はトルク目標値Tm1*よりも大きくなっている。そして、ドライバーがアクセルペダルを踏み込み、トルク目標値Tm1*が制動トルクT*の値に到達する場合や、電動車両10の速度(従動輪24a,24bの回転数N2)がゼロになった場合にロック制御処理は終了する。
[第1実施形態の制動トルクの増加速度の切替処理]
図5は、第1実施形態の制動トルクT*の増加速度の切替処理を説明するための図である。本実施形態では、コースト制動力の小さいアクセルモードと、コースト制動力が高い1ペダルモードに応じて、増加速度ΔTupを切り替えている。
モータコントローラ38は、走行モード信号DMに基づいて増加速度ΔTupを設定するが、アクセルモードの場合はΔTup0に設定し、1ペダルモードの場合はΔTup1に設定する。そして、ΔTup0とΔTup1の関係は、ΔTup0>ΔTup1となっている。すなわち、1ペダルモードにおける増加速度ΔTup1は、アクセルモードにおける増加速度ΔTup0よりも小さく設定されている。これにより。1ペダルモードにおいては、制動トルクT*がアクセルモードに比べて緩やかに上昇する。このため、制動トルクT*の減少及び復帰の繰り返しを低減することができ、車両の加減速度による振動を抑制することができる。
図6は、ロック制御処理のフロー図である。モータコントローラ38は、例えばトルク目標値Tm1*が減少するとロック制御処理を開始する。ステップS301において、モータコントローラ38は、駆動輪22a,22bのスリップ率Sを算出する。ステップS302において、モータコントローラ38は、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きいか否かを判断し、Yes(是)であればステップS303に移行し、No(否)であればステップS306に移行する。
ステップS303において、モータコントローラ38は、駆動輪22a,22bの1サイクル前の制動トルクT*の値を記憶した記憶値T_z1*に対して減少速度ΔTdnを加算することで、制動トルクT*を新たに算出し、ステップS304に移行する。
ステップS304において、モータコントローラ38は、制動トルクT*が、ドライバーが要求するトルク目標値Tm1*よりも小さいか否かを判断し、Yes(是)であればステップS305に移行し、No(否)であればステップS308に移行する。
ステップS305において、モータコントローラ38は、記憶値T_z1*を現在の制動トルクT*の値に更新してステップS301に戻る。
ステップS306において、モータコントローラ38は、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さいか否かを判断し、Yes(是)であればステップS307に移行し、No(否)であればステップS304に移行する。
ステップS307において、モータコントローラ38は、1サイクル前の記憶値T_z1*に対して制動トルクT*の増加速度ΔTupを減算することで、制動トルクT*を算出し、ステップS304に移行する。その際、モータコントローラ38は、アクセルモードではΔTup0をΔTupとして選択し、1ペダルモードではΔTup1をΔTupとして選択する。
ステップS308において、モータコントローラ38は、記憶値T_z1*を現在のトルク目標値Tm1*に一致させ、これによりロック制御処理は終了する。
図7は、1ペダルモードにおけるロック制御処理のタイムチャートである。図7は、1ペダルモードにおける駆動輪22a,22bのスリップ率Sと、制動トルクT*の時間推移を表したものである。
時刻t0において、トルク目標値Tm1*が減少することで、ロック制御処理が開始される。時刻t0においてモータ12に対して制動トルクT*(回生制動力)を付与し、時刻t1より前の時刻において駆動輪22a,22bのスリップ率Sが上昇し始めるが、時刻t1以前においては、制動トルクT*はトルク目標値Tm1*と一致している。
時刻t1において、スリップ率Sが第1所定値S1より大きくなると、制動トルクT*を減少速度ΔTdnによりモータ12に対する回生制動力を減少させる。これによりスリップ率Sの上昇は次第になくなり減少に転じる。このとき、制動トルクT*はトルク目標値Tm1*よりも大きくなっている。
時刻t2において、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなると、制動トルクT*を増加速度ΔTupによりモータ12に対する回生制動力を増加させる。ここで、1ペダルモードでは、ΔTupとしてΔTup0よりも小さいΔTup1が選択されるので、回生制動力の増加の割合がアクセルモードの場合よりも抑制される。そして、図7に示すように、所定時間後にスリップ率Sがゼロにまで低下して一時的にスリップは解消する場合もあるが、回生制動力を増加させているので再びスリップが発生する場合もある。
時刻t3において、スリップ率Sが再び第1所定値S1より大きくなると前述同様にモータ12に対する回生制動力を減少させ、スリップ率Sが再び第2所定値S2よりも小さくなると前述同様にモータ12に対する回生制動力を増加させる。すなわち、ロック制御処理では、モータ12の回生制動力の減少と増加を繰り返すことで、スリップ率Sを一定の範囲に抑えつつ電動車両10を減速させている。
時刻t4と時刻t5の間となる時刻においてドライバーがアクセル操作によりトルク目標値Tm1*を上昇させ、時刻t5においてトルク目標値Tm1*の値が制動トルクT*の値に到達すると、制動トルクT*は以後トルク目標値Tm1*と一致し、これによりロック制御処理は終了する。なお、ドライバーがアクセルペダルを踏み込まず、トルク目標値Tm1*がゼロである場合も、電動車両10の速度(従動輪24a,24bの回転数)がゼロになればスリップは発生しない。よって、制動トルクT*も最終的にはゼロとなってトルク目標値Tm1*と一致することでロック制御処理は終了する。
[第1実施形態の効果]
以上説明したように、第1実施形態の電動車両10の制動制御方法は、電動車両10のコースト走行時において、モータ12が所定の大きさの回生制動力を発生するアクセルモードと、アクセルモードよりも大きな回生制動力を発生する1ペダルモードとのいずれかが選択可能とされ、電動車両10の回生制動時、車輪がスリップした際、駆動輪22a,22bのスリップ率Sが第1所定値S1よりも大きい場合には回生制動力を減少させ、スリップ率Sが第1所定値S1よりも小さい第2所定値S2よりも小さい場合には回生制動力を増加させる電動車両10の制動制御方法である。この制動制御方法は、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなった後、第2所定値S2よりも小さくなり、回生制動力を増加させる際、1ペダルモードにおける回生制動力の増加速度ΔTup1を、アクセルモードにおける増加速度ΔTup0よりも小さくすることを特徴とする。
上記方法を実現する本実施形態の電動車両10のモータコントローラ38(制御装置)は、駆動力または回生制動力を発生可能なモータ12と、モータ12により駆動または制動する駆動輪22a,22bと、を備えた電動車両10に取り付けられ、モータ12の駆動制御及び回生制動制御を行うとともに、電動車両10のコースト走行時において、モータ12が所定の大きさの回生制動力を発生するアクセルモードと、アクセルモードよりも大きな回生制動力を発生する1ペダルモードとのいずれかが選択可能とされ、回生制動制御時、車輪がスリップした際、駆動輪22a,22bのスリップ率Sが第1所定値S1よりも大きい場合には回生制動力を減少させ、スリップ率Sが第1所定値S1よりも小さい第2所定値S2よりも小さい場合には回生制動力を増加させる電動車両10のモータコントローラ38である。このモータコントローラ38は、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなった後、第2所定値S2よりも小さくなり、回生制動力を増加させる際、1ペダルモードにおける回生制動力の増加速度ΔTup1を、アクセルモードにおける増加速度ΔTup0よりも小さくすることを特徴とする。
上記方法及び上記構成により、1ペダルモードにおいて駆動輪22a,22bのスリップが回復しても、回生制動力の復帰を遅らせることができる。これにより、回生制動力の減少及び復帰の繰り返しを低減することができるので、1ペダルモードにおいて駆動輪22a,22bのスリップが回復しても、回生制動力の復帰を遅らせることができる。これにより、電動車両10の回生制動力による減速度の変化に伴う振動を抑制してドライバーの違和感を緩和させることができる。
また、第1実施形態の電動車両10の制動制御方法によれば、スリップ率Sを、駆動輪22a,22bの回転数N1と従動輪24a,24bの回転数N2の差分に基づいて算出することを特徴とする。これに対応して、モータコントローラ38(制動力制御部40)は、駆動輪22a,22bの回転数N1と従動輪24a,24bの回転数N2の差分に基づいてスリップ率Sを算出することを特徴とする。
上記方法及び上記構成によれば、駆動輪22a,22bのスリップ率Sを容易に算出することができる。スリップ率Sの算出方法は、以下の第2実施形態でも同様である。
第1実施形態のように、ロック制御処理においては、アクセルモードではΔTupとしてΔTup0を選択し、1ペダルモードにおいてはΔTupとしてΔTup1を選択している。一方、例えば、制動中に駆動輪22a,22bが例えばマンホール等の摩擦係数が小さい部分の上を走行する際にスリップが発生して上記のロック制御処理を行ってしまう場合がある。しかし、駆動輪22a,22bは、例えばマンホールであれば直ちにその上を通過するのでスリップも直ちに解消する。しかし、1ペダルモードで例えばマンホールの上を走行中に上記のロック制御処理行った場合でもΔTupとしてΔTup1が選択されることになる。このように、短い時間で終了する小さなスリップが起きている状況において、1ペダルモードを選択した場合、駆動輪22a,22bの回生制動力の回復がアクセルモードの場合よりも遅れるのでドライバーに違和感を与えることになる。
そこで、本実施形態では、駆動輪22a,22bのスリップを2段階で判断して、1ペダルモードを選択してもマンホール等を走行時に発生する小さなスリップに対してはアクセルモードと同様のロック制御処理を行うようにしている。
[第2実施形態の制動トルクの増加速度の切替処理]
図8は、第2実施形態の制動トルクの増加速度の切替処理を説明するための図である。図8は、駆動輪22a,22bのスリップを2段階で判断する場合における制動トルクT*の増加速度ΔTupの切替処理を説明するための図である。本実施形態のモータコントローラ38は、ロック制御処理において、まず入力される走行モード信号DMにより、電動車両10の走行モードが、アクセルモードであるか、1ペダルモードであるかを判断する。モータコントローラ38は、アクセルモードであれば、ΔTupとしてΔTup0を選択する。一方、モータコントローラ38は、1ペダルモードであっても、ΔTupとしてΔTup0を初期値として選択する。また、モータコントローラ38は、1ペダルモードにおけるΔTupの選択先を切り替える切替信号TupSWを参照する。切替信号TupSWは0及び1のいずれかを取るものである。切替信号TupSWの初期値は0である。
切替信号TupSW=0の場合、モータコントローラ38は、ΔTupとしてΔTup0を選択する。切替信号TupSW=0の場合とは、駆動輪22a,22bがマンホール等の上を走行していると仮定できる場合である。
切替信号TupSW=1の場合、モータコントローラ38は、ΔTupとしてΔTup1を選択する。切替信号TupSW=1の場合とは、駆動輪22a,22bが実際に路面上でスリップしており、このままロック制御処理を行うと回生制動力の減少・回復の繰り返しにより振動が発生すると判断される場合である。本実施形態では、切替信号TupSWの切替制御を以下のように行っている。
図9は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第1の切替処理を行う制御ブロック図である。モータコントローラ38は、切替信号TupSWの切替制御を行う構成として、制動力制御部40と、タイマー42と、切替信号出力部44と、を備える。
制動力制御部40は、記憶値T_z1*を記憶するとともに、走行モード信号DM、トルク目標値Tm1*の情報、駆動輪22a,22bの回転数N1の情報、従動輪24a,24bの回転数N2の情報が入力される。制動力制御部40はトルク目標値Tm1*が入力されるとその値を記憶値T_z1*として保持するが、ロック制御処理中は、記憶値T_z1*の上書きを禁止する。
制動力制御部40は、ステップS301に従ってスリップ率Sを回転数N1及び回転数N2を用いて算出し、スリップ率Sが第1所定値S1より大きくなった場合にステップS303の演算を行い、その後第2所定値S2よりも小さくなった場合にステップS307の演算を行う。
制動力制御部40は、ΔTup0の情報及びΔTup1の情報を有している。そして、制動力制御部40は、ステップS307の演算を行う際は、切替信号出力部44から入力された切替信号TupSWに基づいてΔTup0の情報及びΔTup1の情報のいずれかを選択する。
制動力制御部40は、ステップS304に従って制動トルクT*とトルク目標値Tm1*とを比較し、トルク目標値Tm1*が制動トルクT*の値に到達するとステップS308に従って記憶値T_z1*をトルク目標値Tm1*に一致させ、ロック制御処理を終了させる。
制動力制御部40(スリップモード出力部)は、ステップS303の演算、すなわちロック制御処理において制動トルクT*を増加させる演算を行っていることを表すスリップモードダウン信号SMd(第1スリップモード信号)を出力する。また、制動力制御部40(スリップモード出力部)は、ステップS307の演算、すなわちロック制御処理において制動トルクT*を減少させる演算を行っていることを表すスリップモードアップ信号SMu(第2スリップモード信号)を出力する。さらに、制動力制御部40(スリップモード出力部)は、ステップS308の演算、すなわちロック制御処理が終了したことを表すスリップモードゼロ信号SMzを出力する。
制動力制御部40(スリップモード出力部)に入力される走行モード信号DMが0、すなわち電動車両10の走行モードがアクセルモードである場合、制動力制御部40(スリップモード出力部)はスリップモード信号を出力しない。なお、本実施形態では、制動力制御部40とスリップモード出力部が一体となっているが、別体としてもよい。
タイマー42は、制動力制御部40からスリップモードダウン信号SMdが入力されると計時を開始し、計時時間が所定時間Tth(駆動輪22a,22bがマンホール等を通過するのに要する時間)に到達すると切替許可信号SWaを出力する。また、タイマー42は、制動力制御部40からスリップモードゼロ信号SMzが入力されると計時時間をリセットして切替許可信号SWaの出力を停止する。
切替信号出力部44は、切替信号TupSWを出力するものであり、初期状態として切替信号TupSW(=0)を制動力制御部40に出力している。また、切替信号出力部44は、タイマー42から切替許可信号SWaが入力された状態で制動力制御部40からスリップモードダウン信号SMdが入力されると、制動力制御部40に切替信号TupSW(=1)を出力する。さらに、切替信号出力部44は、制動力制御部40からスリップモードゼロ信号SMzが入力されると初期状態に戻る。
図10は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第1の切替処理のフロー図である。図10を用いて切替信号出力部44の切替信号TupSWの切替処理、及びタイマー42の動作について説明する。ステップS401において、切替信号出力部44及びタイマー42は、制動力制御部40がスリップモードゼロ信号SMzを出力しているか否かを判断し、Yes(是)であればステップS406に移行し、No(否)であればステップS402に移行する。
ステップS402において、タイマー42は計時を開始(進行)する。ステップS403において切替信号出力部44は、所定時間Tthが経過してタイマー42から切替許可信号SWaが入力されているか否か判断し、Yes(是)であればステップS404に移行し、No(否)であればENDとなる。しかし、ステップS403でNo(否)である限り、ステップS401〜ステップS403を繰り返すことになる。
ステップS404において、切替信号出力部44は、制動力制御部40からスリップモードダウン信号SMdが入力されているか否か判断し、Yes(是)であればステップS405に移行し、No(否)であればENDとなる。しかし、ステップS404でNo(否)である限り、ステップS401〜ステップS404を繰り返すことになる。
ステップS405において、切替信号出力部44は、制動力制御部40に切替信号TupSW(=1)を出力してENDとなる。しかし、ステップS401においてNo(否)である限り、ステップS401〜ステップS405を繰り返すことになる。
ステップS406において、切替信号出力部44は、切替信号TupSW(=0)を出力する初期状態に戻り、タイマー42は計時時間をリセット(ゼロにする)してENDとなる。
図11は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第1の切替処理のタイムチャートである。図11は、1ペダルモードにおける駆動輪22a,22bのスリップ率S、スリップモード信号の出力、タイマー42の計時、TupSWの出力の時間推移を表したものである。
時刻t0において、トルク目標値Tm1*が減少することで、制動力制御部40がロック制御処理を開始する。このとき、制動力制御部40(スリップモード出力部)はスリップモードゼロ信号SMzを出力している。
時刻t1において、スリップ率Sが第1所定値S1より大きくなると、制動力制御部40は制動トルクT*を増加させる、すなわち回生制動力を減少させる制御を行うとともにスリップモードダウン信号SMdを出力する。これにより、タイマー42は計時を開始する。
時刻t2において、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなると、制動力制御部40は制動トルクT*を減少させる、すなわち回生制動力を増加させる制御を行うとともにスリップモードアップ信号SMuを出力する。一方、タイマー42の計時時間が所定時間Tthを経過しておらず、タイマー42は切替許可信号SWaを出力していない。
時刻t3において、タイマー42の計時時間が所定時間Tthを経過すると、タイマー42は、切替許可信号SWaを切替信号出力部44に出力する。
時刻t4において、スリップ率Sが再び第1所定値S1より大きくなると制動力制御部40は前述同様にスリップモードダウン信号SMdを切替信号出力部44に出力する。このとき、切替信号出力部44には、切替許可信号SWaが入力された状態でスリップモードダウン信号SMdが入力される。よって、切替信号出力部44は、切替信号TupSW(=1)を制動力制御部40に出力する。以後、制動力制御部40は、ΔTup1を用いて制動トルクT*の増加の演算を行う。
時刻t5において、スリップ率Sが再び第2所定値S2よりも小さくなると制動力制御部40はスリップモードアップ信号SMuを出力するが、タイマー42、切替信号出力部44には何ら影響しない。
時刻t6において、トルク目標値Tm1*の値が制動トルクT*の値に到達すると制動力制御部40は、スリップモードゼロ信号SMzをタイマー42及び切替信号出力部44に出力する。これによりタイマー42の計時時間がリセットされ、切替信号出力部44の出力が初期状態にリセットされ、ロック制御処理は終了する。
図12は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第2の切替処理の制御ブロック図である。モータコントローラ38における切替信号TupSWの切替制御を行う構成は、図9に示す構成と類似するが、タイマー42の代わりにカウンタ46を備える。
カウンタ46には、制動力制御部40からスリップモードアップ信号SMu、スリップモードダウン信号SMd、スリップモードゼロ信号SMzが入力される。カウンタ46は、カウント数の初期値は0であるが、スリップモードアップ信号SMuが入力されるとカウントアップし、カウント数が1を超えると(2になると)切替許可信号SWaを出力する。
カウンタ46は、最後に入力されたスリップモード信号を記憶値SM_z1として記憶する。そして、カウンタ46は、記憶値SM_z1がスリップモードアップ信号SMuである場合は、その後新たにスリップモードアップ信号SMuが入力されてもカウントアップしない。またカウンタ46に、スリップモードゼロ信号SMzが入力されるとカウント数をリセットする。
ここでは、カウント数が1までの間は、制動力制御部40が1回目の回生制動力の減少・増加の制御を行っているが、この1回目の制御においては駆動輪22a,22bがマンホール等の上を走行時にスリップしたものと仮定している。しかし、カウント数が1を越える、すなわち、制動力制御部40が2回目の回生制動力の減少・増加の制御を行う場合は、駆動輪22a,22bがマンホール等ではなく路面において実際にスリップしていると判断する。
切替信号出力部44は、初期状態では、切替信号TupSW(=0)を制動力制御部40に出力しているが、カウンタ46から切替許可信号SWaが入力されると切替信号TupSW(=1)を制動力制御部40に出力する。また、切替信号出力部44は、制動力制御部40からスリップモードゼロ信号SMzが入力されると初期状態に戻る。
図13は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第2の切替処理のフロー図である。図13を用いて切替信号出力部44の切替信号TupSWの切替処理、及びカウンタ46の動作について説明する。ステップS501において、切替信号出力部44及びカウンタ46は、制動力制御部40がスリップモードゼロ信号SMzを出力しているか否かを判断し、Yes(是)であればステップS507に移行し、No(否)であればステップS502に移行する。
ステップS502において、カウンタ46はスリップモードアップ信号SMuが入力され、且つ記憶値SM_z1がスリップモードアップ信号SMu以外であるか否かを判断し、Yes(是)であればステップS503に移行し、No(否)であればステップS504に移行する。
ステップS503において、カウンタ46は、カウント数に1を追加する。
ステップS504において、カウンタ46は、最後に入力されたスリップモード信号を記憶値SM_z1として記憶する。
ステップS505において、カウンタ46は、カウント数が1を超えているか否かを判断し、Yes(是)であればENDとなり、No(否)であればステップS506移行する。
ステップS506において、カウンタ46は、切替許可信号SWaを切替信号出力部44に出力する。切替信号出力部44は、切替許可信号SWaが入力されると制動力制御部40に切替信号TupSW(=1)を出力してENDとなる。
ステップS507において、切替信号出力部44は、切替信号TupSW(=0)を出力し、カウンタ46はカウント数をリセットするとともにスリップモードゼロ信号SMzを記憶値SM_z1として記憶しENDとなる。
図14は、制動トルクT*の増加速度ΔTupの第2の切替処理のタイムチャートである。図14は、1ペダルモードにおける駆動輪22a,22bのスリップ率S、スリップモード信号の出力、カウンタ46のカウント数、TupSWの出力の時間推移を表したものである。
時刻t0において、トルク目標値Tm1*が減少することで、制動力制御部40がロック制御処理を開始する。このとき、制動力制御部40(スリップモード出力部)はスリップモードゼロ信号SMzを出力している。
時刻t1において、スリップ率Sが第1所定値S1より大きくなると、制動力制御部40は、回生制動力を減少させスリップモードダウン信号SMdをカウンタ46に出力する。カウンタ46は、スリップモードダウン信号SMdを記憶値SM_z1として記憶する。
時刻t2において、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなると、制動力制御部40は、回生制動力を増加させスリップモードアップ信号SMuをカウンタ46に出力する。カウンタ46は、入力されたスリップモード信号がスリップモードアップ信号SMuであり、記憶値SM_z1がスリップモードダウン信号SMdである(スリップモードアップ信号SMuではない)ことを確認してカウント数を1にする。また、カウンタ46は、スリップモードアップ信号SMuを記憶値SM_z1として記憶する。
時刻t3において、スリップ率Sが再び第1所定値S1より大きくなると制動力制御部40は、前述同様にスリップモードダウン信号SMdをカウンタ46に出力する。カウンタ46は、スリップモードダウン信号SMdを記憶値SM_z1として記憶する。
時刻t4において、スリップ率Sが再び第2所定値S2よりも小さくなると制動力制御部40は、スリップモードアップ信号SMuを出力する。カウンタ46は、入力されたスリップモード信号がスリップモードアップ信号SMuであり、記憶値SM_z1がスリップモードダウン信号SMdである(スリップモードアップ信号SMuではない)ことを確認してカウント数を2にするとともに切替許可信号SWaを切替信号出力部44に出力する。また、カウンタ46は、スリップモードアップ信号SMuを記憶値SM_z1として記憶する。
切替信号出力部44には、切替許可信号SWaが入力された状態でスリップモードアップ信号SMuが入力される。よって、切替信号出力部44は、切替信号TupSW(=1)を制動力制御部40に出力する。以後、制動力制御部40は、ΔTup1を用いて制動トルクT*の増加の演算を行う。
時刻t6において、トルク目標値Tm1*の値が制動トルクT*の値に到達すると制動力制御部40は、スリップモードゼロ信号SMzをカウンタ46及び切替信号出力部44に出力する。これによりカウンタ46のカウント数がリセット(ゼロになる)され、切替信号出力部44の出力が初期状態にリセットされ、ロック制御処理は終了する。
[第2実施形態の効果]
第2実施形態に係る電動車両10の制動制御方法は、1ペダルモードにおいて、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなった後所定時間Tth以内に第2所定値S2よりも小さくなる場合は、アクセルモードにおける増加速度ΔTup0により回生制動力を増加させることを特徴とする。
これに対応して、モータコントローラ38は、切替信号TupSWに基づいて増加速度ΔTup0の情報及び増加速度ΔTup1の情報のいずれか一方に切替選択可能とされ、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなると回生制動力を減少させ、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなると回生制動力を切替信号TupSWにより切り替えられた増加速度ΔTup0または増加速度ΔTup1に基づいて増加させる制動力制御部40と、1ペダルモードにおいて、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなるとスリップモードダウン信号SMdを出力し、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなるとスリップモードダウン信号SMdを停止してスリップモードアップ信号SMuを出力し、アクセルモードでは動作が停止しているスリップモード出力部(制動力制御部40)と、スリップモードダウン信号SMdが入力されると計時を開始して所定時間Tthを経過すると切替許可信号SWaを出力するタイマー42と、初期状態として増加速度ΔTup0の情報を選択する切替信号TupSW(=0)を制動力制御部40に出力し、切替許可信号SWaが入力された状態でスリップモードアップ信号SMuが入力されると、増加速度ΔTup1の情報に切り替える切替信号TupSW(=1)を制動力制御部40に出力する切替信号出力部44と、を備えることを特徴とする。
上記方法及び上記構成によれば、駆動輪22a,22bのスリップを所定時間Tth(マンホール等を通過するのに要する時間)経過前と所定時間経過後の2つの場合で増加速度ΔTupを選択している。よって、1ペダルモードを選択しても所定時間経過前にロック制御処理によち回生制動力が減少・増加しても、マンホール等を走行時に発生する小さなスリップにより起きたと判断してアクセルモードと同様のロック制御処理を行うようにし、ドライバーの違和感を解消することができる。
また第2実施形態は、1ペダルモードにおいて、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなった後に回生制動力を増加させる回数をカウントし、カウント数が1を超える場合は、1ペダルモードにおける増加速度ΔTup1により回生制動力を増加させ、カウント数が1以下である場合に、アクセルモードにおける増加速度ΔTup0により回生制動力を増加させることを特徴とする。
これに対応して、モータコントローラ38は、切替信号TupSWに基づいて増加速度ΔTup0の情報及び増加速度ΔTup1の情報のいずれか一方に切替選択可能とされ、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなると回生制動力を減少させ、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなると回生制動力を切替信号TupSWにより切り替えられた増加速度ΔTup0または増加速度ΔTup1に基づいて増加させる制動力制御部40と、1ペダルモードにおいて、スリップ率Sが第1所定値S1よりも大きくなるとスリップモードダウン信号SMdを出力し、スリップ率Sが第2所定値S2よりも小さくなるとスリップモードダウン信号SMdを停止してスリップモードアップ信号SMuを出力し、アクセルモードでは動作が停止しているスリップモード出力部(制動力制御部40)と、スリップモードアップ信号SMuが入力される回数をカウントし、カウント数が1を越えると切替許可信号SWaを出力するカウンタ46と、初期状態として増加速度ΔTup0の情報を選択する切替信号TupSW(=0)を制動力制御部40に出力し、切替許可信号SWaが入力された状態でスリップモードアップ信号SMuが入力されると、増加速度ΔTup1の情報に切り替える切替信号TupSW(=1)を制動力制御部40に出力する切替信号出力部44と、を備えることを特徴とする。
上記方法及び上記構成によれば、駆動輪22a,22bのスリップをロック制御処理における回生制動力の減少・増加による振幅の回数により増加速度ΔTupを選択している。よって、1ペダルモードを選択してもロック制御処理による1回目の回生制動力の振幅はマンホール等を走行時に発生する小さなスリップと判断してアクセルモードと同様のロック制御処理を行うようにし、ドライバーの違和感を解消することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。