まず、本願発明者らがなした発明は以下のとおりである。
本願の第1の発明にかかる流量計測装置は、流路内を流れるガス流量を一定時間間隔で計測する流量計測手段と、連続する2つの計測タイミングの流量値間の差分値を算出する演算手段と、流量値および差分値を一時的に保持する保持手段と、所定の判定条件が満たされる場合に、稼動開始したガス器具が特定のガス器具であると判定する器具判定手段とを備え、器具判定手段は、所定の判定条件として、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数の差分値が、第1所定範囲内の第1差分値を含み、かつ、第1所定個数の差分値のうち、第1差分値に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する差分値が、第1所定範囲を超える正の差分値を含む第1の判定条件が満たされる場合に、ガス器具を特定のガス器具と判定する。
本願の第2の発明にかかる流量計測装置において、器具判定手段は、所定の判定条件として、第1所定個数の差分値の算出に用いられる複数の流量値よりも後に計測された第2所定個数の流量値の算術平均が第2所定範囲内である第2の判定条件がさらに満たされる場合に、ガス器具を特定のガス器具と判定する。
本願の第3の発明にかかる流量計測装置において、器具判定手段は、所定の判定条件として、第2所定個数の流量値における算術平均からのばらつきが第3所定範囲内である第3の判定条件がさらに満たされる場合に、ガス器具を特定のガス器具と判定する。
本願の第4の発明にかかる流量計測装置において、器具判定手段は、複数個の流量値から移動平均値を複数個求め、所定の判定条件として、第4の判定条件がさらに満たされる場合に、ガス器具を特定のガス器具と判定し、第4の判定条件は、複数の移動平均値のうちの連続する2つの移動平均値間の差が、第2所定回数以上連続して第4所定範囲内となる条件である。
本願の第5の発明にかかる流量計測装置は、差分値の大きさに応じた複数の区分と各区分に応じて決められた傾斜度とが対応付けられた変換表を保持する変換表保持手段と、差分値を変換表に基づき傾斜度に変換する差分値変換手段とをさらに備え、器具判定手段は、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数の差分値に対応する第1所定個数の傾斜度が、第5所定範囲内の第1傾斜度を含み、かつ、第1所定個数の傾斜度のうち、第1傾斜度に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する傾斜度が、第5所定範囲を超える傾斜度を含む否かを判定することにより、第1の判定条件が満たされているか否かを判定する。
(本願発明者らの得た知見)
ここで、本発明にかかる流量計測装置の実施形態の説明に先立ち、本願発明者らが見出した課題を説明する。
図2は、緩点火動作を行うガス器具の使用開始時における流量変化の典型例を示す。図2中、グラフの縦軸は、流量値(L/h)を示し、横軸は、流量値の計測のタイミングを表している。ここでは、計測のタイミングは、一定時間間隔(以下、「サンプリング間隔」ということがある。)であり、その間隔(サンプリング間隔)は、例えば、0.5秒である。
図2に示す例では、計測タイミング0および1の間において流量が比較的大きな増大を示している。これは、計測タイミング0においてガス器具の使用が開始されたことに対応している。流量は、計測タイミング0から増大を示した後、計測タイミング2〜4の間において比較的小さな増加率を示し、計測タイミング4および5の間において再び増加率が増大している。したがって、この例では、流量の変化のパターンにおいて、計測タイミング2〜4の間(破線F1により囲まれた部分)にフラットな部分が現れている。流量の変化のパターンにおけるこのフラットな部分は、緩点火動作が行われたことを反映している。なお、計測タイミング6以降は、流量は、ほぼ一定に推移しており、安定している。本願発明者らの検討によると、ガス器具の着火後には、流量の変化のパターンには一般にこのような流量の安定した領域が現れる。
上述の特許文献1に記載の技術では、隣接する2つの計測タイミング間における流量値の差の絶対値が20L/h以下となるような流量変化が2回連続した場合に、そのときの流量値の平均を中間安定流量として算出している。図2に示す例において、計測タイミング3とその1つ前の計測タイミング2との間の流量値の変化は、5L/hであり、計測タイミング4とその1つ前の計測タイミング3との間の流量値の変化は、8L/hである。特許文献1に記載の技術では、中間安定流量として、計測タイミング3における流量値150L/hと、計測タイミング4における流量値158L/hの算術平均である154L/hが算出され、ガス器具の判別に利用される。
緩点火動作を行うガス器具の使用開始時における流量の計測結果は、理想的には、図2に示すように、相対的に大きな増加率を示す流量の立ち上がりから一旦増加率が鈍化し、再び増加率が大きくなった後、ほぼ一定のレベルに安定する挙動を示す。しかしながら、本願発明者らの詳細な検討によると、緩点火動作を行うガス器具を使用開始した場合において、一定時間間隔の計測によって得られる流量の瞬時値における変動が激しいと、流量変化を示すグラフ中の、中間安定流量に対応するフラットな部分の検出が困難なことがある。
図3は、緩点火動作を行うガス器具の使用開始時における流量変化の他の例を示す。図3に示す例において、図示する範囲中、流量の立ち上がり(ガス器具の使用開始に相当)から、流量が最大となるまでの期間に注目する。図3に例示するパターンでは、大局的に見れば、流量は、計測タイミング0〜8においてガス器具の使用開始に伴って概ね緩やかな増大を示し、その後、計測タイミング9〜16において100L/h〜120L/h程度の流量帯で推移している。この例においては、計測タイミング1〜2の、相対的に増加率の小さな部分(破線F2により囲まれた部分)が、緩点火動作に対応する流量変化である。
図3に示される範囲において、計測された流量は、概略的には増大から安定に向かう傾向を示しているものの、流量が概ね増大している期間(計測タイミング0〜8)においても、流量がほぼ一定の流量帯にある期間(計測タイミング9〜16)においても、流量の変化を示すグラフは、波打っている。このように流量の変化を示すグラフが波打っていると、流量の変化のパターン中のフラットな部分を検出できなかったり、緩点火動作とは直接の関連の無い部分を誤って検出してしまったりすることがある。例えば、上述したような、流量値の差の絶対値が20L/h以下となる流量変化が2回連続するという条件のもとでは、計測タイミング4〜5の部分(破線F3により囲まれた部分)が、緩点火動作に対応する流量変化として検出される。つまり、本来、緩点火動作に対応する流量変化として、計測タイミング1〜2の部分が検出されるべきであるのに、緩点火動作とは直接の関連の無い部分が検出されてしまう。結果として、ガス器具の判別の精度が低下してしまう。
このように、流量の変化を示すグラフが波打っていると、緩点火動作を行うガス器具の使用が開始されたことの判定が困難になることがある。本願発明者らは、上記に鑑み鋭意検討を行い、本発明を完成させた。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明にかかる流量計測装置の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態では、流量計測装置の例として、ガスメータを挙げ、その処理を説明する。図面において、同じ構成要素には同じ参照符号を付し、既に説明した構成要素については再度の説明を省略する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態によって限定されることはない。
(流量計測装置の例示的な構成)
図1は、本発明の実施形態によるガスメータ100の構成例を示す。ガスメータ100は、その内部に流路102を有し、ガスを供給するガス管10aに接続された状態で使用される。ガスメータ100は、ガス管10aと、1以上のガス器具(ガスコンロ、ガスファンヒータ、給湯器など)との間に配置される。図1は、ガスメータ100の流路102の一端が上流側のガス管10aに接続され、流路102の他端が下流側のガス管10bに接続された状態を示しており、ここでは、ガス管10bにガス器具13、14および15が接続されている。
図1に例示する構成において、ガスメータ100は、概略的には、流路の途中に配置された流量計測手段104と、制御手段105と、遮断手段122とを有する。流量計測手段104は、流路102に流れるガスの流量を一定時間間隔で計測する。流量計測手段104としては、例えば超音波流量計を適用することができる。超音波流量計は、流路102に流れるガスに対して一定時間間隔で超音波を発射し、ガス流によって生じる伝搬時間差を求めることにより、ガスの瞬時流量を計測する。流量計測手段104によって検出される一定時間間隔の流量を示すデータを取得することにより、ガスの使用量の変動を検出することができる。
図1に例示する構成において、制御手段105は、保持手段106と、演算手段108と、器具判定手段116とを有する。図示される例では、制御手段105は、さらに、変換表保持手段110と、差分値変換手段112とを有している。ガスメータ100の動作の典型例は、後述する。
この例では、ガスメータ100は、ガス管10aと流量計測手段104との間に配置された遮断手段122を有している。遮断手段122は、ガス流量の異常な増加が検出されたときなどに、制御手段105の制御に基づき、ガス管10bに接続されたガス器具13、14および15へのガスの供給を停止する。遮断手段122としては、例えば遮断弁を用いることができる。
演算手段108は、流量計測手段104によって取得される流量値に基づき、連続する2つの計測タイミングの流量値間の差分値を算出する。すなわち、ある計測タイミングにおける流量値をQ(n)、その1つ前の計測タイミングにおける流量値をQ(n−1)としたとき、演算手段108は、各計測タイミングに対応した差分値D(n)=Q(n)−Q(n−1)を算出する。
保持手段106は、流量計測手段104が出力した流量の瞬時値のデータ(以下、「流量値のデータ」ということがある。)、上述の差分値D(n)の計算結果を示すデータなどを一時的に記憶するメモリである。保持手段106は、差分値の計算において流量値を一時的に保持するほか、演算手段108からの演算結果、例えば、計算によって得られた差分値も一時的に保持し得る。差分値および流量値は、単一のメモリに保持されてもよいし、それぞれが別個のメモリに保持されてもよい。保持手段106は、単一のメモリだけでなく、複数のメモリを有する構成も包含する。保持手段106は、制御手段105内に配置されていてもよいし、制御手段105外に配置されていてもよい。
器具判定手段116は、保持手段106に保持された差分値に基づき、所定の判定条件が満たされるか否かを判定し、所定の判定条件が満たされる場合に、稼動開始したガス器具が特定のガス器具であると判定する。図1において模式的に示すように、流量計測手段104によって取得された流量値のデータが器具判定手段116に提供されてもよい。器具判定手段116は、所定の判定条件が満たされる場合、例えば、稼動開始したガス器具、すなわち、使用の開始されたガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。
(判定動作の例)
以下、図面を参照しながら、器具判定手段116の判定動作の例を説明する。以下の説明から明らかになるように、本発明の実施形態によれば、一定時間間隔の計測によって得られる流量の瞬時値における変動が激しい場合であっても、緩点火動作を行うガス器具(例えばファンヒータ)の稼働開始を検出し得る。
上述したように、器具判定手段116は、保持手段106に保持された差分値に基づき、所定の判定条件が満たされるか否かの判定を実行する。後述するように、所定の判定条件は、単一の条件に限定されず、2以上の条件を含んでいてもよい。
(第1の判定条件)
器具判定手段116は、流路102に流れるガスの流量の一定時間間隔での計測により流量計測手段104から出力される、流量値のデータのうち、所定個数のデータを用いて判定を行う。ここで説明する第1の例では、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数の差分値を算出し、第1所定個数の差分値を用いて判定を行う。
再び図3を参照する。図3には、一定のサンプリング間隔で計測された17個の流量値がプロットされている。下記の表1に、図3に例示されるグラフの各計測タイミングにおける流量値Q(n)と、各流量値Q(n)に対応する差分値D(n)とを示す。
サンプリング間隔は、例えば0.5秒であり、この場合、図3は、ガス器具の使用開始から8秒間のガス流量の変化を示す。特許文献1において説明されるような、一定時間間隔で取得される流量の変化のパターンに基づくガス器具の判別は、典型的には、8秒程度の期間に取得される複数の流量値に基づいて実行される。換言すれば、使用が開始されたガス器具の判別には、ガス器具の稼動開始から8秒程度の期間(以下、説明の便宜のために「判定期間」と呼ぶことがある。)にわたる流量値の取得が必要である。一方、ここで説明する第1の例では、流量値が概ね増大を示す期間に得られる、第1所定個数の差分値を利用して判定を実行する。
器具判定手段116は、所定の判定条件として、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数の差分値が、第1所定範囲内の第1差分値を含み、かつ、第1所定個数の差分値のうち、第1差分値に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する差分値が、第1所定範囲を超える正の差分値を含むか否かを判定する(第1の判定条件)。ここでは、ガス器具の稼動開始からの6個の差分値を第1所定個数の差分値として利用した判定を例示する。例えば、器具判定手段116は、ガス器具の稼動開始からの6個の差分値が、−10L/h以上10L/h以下の範囲内の差分値(第1差分値)を含むか否かと、そのような第1差分値が見つかった場合に、その第1差分値に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する差分値が、上述の範囲を超える正の差分値を含むか否かを判定する。
例えば、器具判定手段116は、ガス器具の稼動開始からの、時系列において連続する6個の差分値D(1)〜D(6)について、上述の範囲内か否かを順に判定する。表1からわかるように、図3に示される例では、差分値D(1)〜D(6)のうち、差分値D(2)およびD5(5)が、上述の範囲内の差分値(すなわち第1差分値)として最初に現れる。したがって、この場合、器具判定手段116は、計測タイミング2よりも後に取得された流量値に関する差分値D(3)〜D(6)が、10L/hを超える正の差分値を含むか否かを判定する。表1からわかるように、この例では、差分値D(3)およびD(6)が10L/h超であるので、器具判定手段116は、第1の判定条件が満たされると判定する。その結果、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具、例えばファンヒータであるとの判定がなされる。この例では、差分値D(5)も上述の範囲内にあり、かつ、差分値D(5)よりも後の差分値(6)が10L/h超である。そのため、差分値D(5)を第1差分値として選択しても、同様の判定結果が得られる。このことからわかるように、第1所定個数の差分値が、第1所定範囲内の第1差分値を複数個含んでいても構わない。複数の第1差分値のうちの少なくとも1つについて、その第1差分値に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する差分値が、第1所定範囲を超える正の差分値を含む場合に、第1の判定条件が満たされると判定してもよい。
なお、本明細書において、器具判定手段116による「判定」は、例えば器具判定手段116から判定結果を示す値が出力されること、または、フラグに値がセットされることなどを包含する。判定の結果は、メモリなどの記憶手段に書き込まれ得る。
ここで、ガス器具の稼働開始は、一定時間間隔で計測される流量値の変化が、所定範囲の増大を示したことによって判定可能である。例えば、10L/h以上の差分値が得られた場合に、上述の判定動作を実行すればよい。ガス器具の稼働開始が検出された後における、緩点火動作を行うガス器具であるか否かの判定は、第1所定個数の差分値が得られてから実行されてもよいし、差分値の算出と並列的に実行されてもよい。
このように、本発明の実施形態によれば、流量の瞬時値における変動が激しい場合であっても、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であることを特定可能である。第1の判定条件における上述の第1所定個数、第1所定範囲および第1所定回数は、稼働開始を検出したいガス器具の種類、サンプリング間隔などに応じて適宜変更され得る。
なお、図2を参照して説明した、緩点火動作を行うガス器具の流量変化のパターンの典型例について、ガス器具の稼動開始からの6個の差分値D(1)〜D(3)を計算すると、それぞれ、90L/h、55L/hおよび5L/hであるので、この例では、差分値D(3)が第1差分値として抽出される。また、差分値D(3)よりも後の差分値D(5)が50L/hであって、上述の範囲を超えているので、所定の判定条件として第1の判定条件を適用した場合、図2に示す例においても、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であるとの判定がなされる。なお、差分値D(3)およびD(5)の間の差分値であるD(4)を計算すると8L/hであり、上述の範囲内にある。このように、第1所定範囲を超える差分値は、第1差分値に対応する計測タイミングの直後の計測タイミングに関する差分値である必要はない。第1差分値に対応する計測タイミングと、第1所定範囲を超える差分値に対応する計測タイミングとの間において、流量の減少、換言すれば、負の差分値が存在していてもよい。
以上に説明したように、ここでは、概略的に述べれば、一定時間間隔で得られる流量値の列において相対的に小さな増加率が現れた後に増加率の増大が現れるか否かを判定している。これは、流量の変化のパターンにおいて、ガス器具の稼働開始に伴う流量の増大の途中に現れた相対的に小さな増加率を示す部分を、中間安定流量を取得できないような部分であったとしても、中間安定流量に対応するフラットな部分とみなしているといえる。ガス器具の稼働開始時の流量の時間的変化において、相対的に小さな流量変化に続く、流量の比較的大きな増大に着目したことは、従来にはない着眼点であるといえる。本発明の実施形態によれば、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であるか否かをより簡易に判定し得る。
上述の判定動作は、単独で実行されてもよいし、特許文献1に説明されているような器具判別の処理と組み合わせて適用されてもよい。例えば、特許文献1に説明されているような器具判別の処理の後に、上述の判定動作を実行してもよい。これにより、緩点火動作を行うガス器具の稼働開始をより確実に捕捉し得る。
(傾斜度を用いた判定)
上述の例では、流量値から算出される差分値を用いて、緩点火動作を行うガス器具が稼働開始されたか否かの判定を行っている。しかしながら、流量値から算出される差分値そのものに限定されず、連続する2つの計測タイミングの流量値の差に基づいて決定される他の量を用いて判定を行ってもよい。例えば、以下に説明するように、流量値から算出される差分値の絶対値に応じて定められる傾斜度を用いて判定を行ってもよい。
再び図1を参照する。図1に例示するガスメータ100は、変換表保持手段110および差分値変換手段112を有している。変換表保持手段110は、上述の差分値D(n)の大きさに応じた複数の区分と各区分に応じて決められた傾斜度とが対応付けられた変換表110aを保持している。下記の表2は、変換表110aの一例を示す。
差分値変換手段112は、演算手段108から差分値D(n)を取得し、変換表保持手段110に保持されている変換表110aを参照することにより、差分値D(n)を、対応する傾斜度C(n)に変換する。各計測タイミングに対応する傾斜度C(n)に関するデータは、差分値変換手段112から器具判定手段116に渡される。
傾斜度C(n)を利用する場合、器具判定手段116は、所定の判定条件として、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数(例えば6個)の差分値に対応する第1所定個数の傾斜度C(n)が、所定範囲内の第1傾斜度を含み、かつ、第1所定個数の傾斜度のうち、第1傾斜度に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する傾斜度が、上述の所定範囲を超える傾斜度を含む否かを判定する。例えば、傾斜度C(n)に関するデータを受け取った器具判定手段116は、ガス器具の稼動開始からの6個の傾斜度C(1)〜C(6)が、所定範囲内、例えば1以上2以下の傾斜度(第1傾斜度)を含むか否かと、そのような第1傾斜度が見つかった場合に、その第1傾斜度に対応する流量値の計測タイミングよりも後に取得された流量値に関する傾斜度が、上述の範囲を超える傾斜度を含むか否かを判定する。
例えば図3に示す例について表1および表2に基づき傾斜度C(1)〜C(6)を求めると、C(1)=6、C(2)=1、C(3)=5、C(4)=2、C(5)=1、C(6)=4となり、C(2)、C(4)およびC(5)が1以上2以下である。傾斜度が最初に1以上2以下となるC(2)の後の計測タイミングに対応するC(3)〜C(6)のうち、C(3)およびC(6)は、2を超えている。したがって、表1に示すような流量値が得られた場合には、器具判定手段116は、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。なお、図2については、C(1)=6、C(2)=6、C(3)=2、C(4)=2、C(5)=6、C(6)=2であり、やはり、差分値D(n)に基づく判定を行った場合と同様に、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であるとの判定がなされる。
このように、連続する2つの計測タイミングの流量値の差から変換された量を用いて判定を行ってもよい。流量値の差を傾斜度に変換して判定を行うことにより、検出を行おうとするガス器具のサイズ(使用するガス流量といってもよい。)に依存しない判定を行い得る。また、流量値の差を傾斜度に変換して判定を行うことにより、判定における計算の負荷を低減し得る。傾斜度の上限を適切に設定することにより、例えばファンヒータの稼働開始を検出したい場合に、流量帯の近いガスコンロの稼働開始をファンヒータの稼働開始として検出してしまう可能性を低減し得る。
なお、上述した例において、差分値D(n)を用いた判定では、算出される差分値D(n)のうちから正の差分値D(n)を抽出していることに対し、傾斜度C(n)を用いた判定では、差分値D(n)の絶対値を傾斜度C(n)に変換して判定に利用している点に注意されたい。ただし、差分値D(n)を用いる場合および傾斜度C(n)を用いる場合のいずれも、連続する2つの計測タイミングの流量値の差に基づいた判定を行う点は共通している。
(第2の判定条件)
上述の第1の例では、ガス器具の稼動開始の初期の期間に含まれる計測タイミングに注目し、所定の判定条件として、ガス器具の稼動開始からの第1所定個数の差分値(あるいは傾斜度)に関する第1の判定条件を適用している。しかしながら、所定の判定条件は、単一の条件に限定されない。以下に説明するように、所定の判定条件として、他の条件がさらに満たされる場合に、使用の開始されたガス器具が特定のガス器具であると判定してもよい。
図2を参照する。既に説明したように、図2に示すグラフは、緩点火動作を行うガス器具の使用開始時における流量変化の典型例である。図2に示すグラフに注目すると、図2に示される期間の全体(計測タイミング0〜15、判定期間に相当)は、概略的には、2つの期間を含んでいることがわかる。第1の期間は、ガス器具の使用開始に伴い、計測される流量値が概ね増大を示す初期の期間(この例では計測タイミング0〜5)であり、第2の期間は、第1の期間よりも後の期間であって、流量値がほぼ一定のレベルで推移する後期の期間(この例では計測タイミング6〜15)である。特許文献1に記載の技術では、第2の期間に計測された流量値から、ガス器具の特徴を示す器具特徴流量の1つとして「安定流量」を算出し、ガス器具の判別に利用している。なお、第2の期間の始点および終点は、取得される流量の変化のパターンに応じて異なり得る。
ここでは、この第2の期間における流量値の推移に注目した第2の判定条件を設定し、第1の判定条件に加えて第2の判定条件がさらに満たされるか否かを判定する。第1の判定条件に加えて第2の判定条件がさらに満たされる場合に、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。第2の判定条件としては、第1所定個数の差分値の算出に用いられる複数の流量値よりも後に計測された第2所定個数の流量値の算術平均が第2所定範囲内である条件を用い得る。ここで説明する例では、器具判定手段116は、上述の第1の判定条件に加えて第2の判定条件がさらに満たされるか否かを判定し、第1および第2の判定条件が満たされる場合に、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。
ここで、図3を参照する。図3に示すグラフでは、計測タイミング0〜16に得られた17個の流量値がプロットされている。既に説明したように、第1の判定条件が適用された第1の例では、流量値Q(0)〜Q(6)を用いて第1所定個数(ここでは6個)の差分値D(1)〜D(6)を算出している。この例では、差分値D(1)〜D(6)の算出に用いられる流量値Q(0)〜Q(6)の取得の期間を第1の期間と呼ぶことができる。
器具判定手段116は、例えば、第1の期間に計測される複数の流量値(ここでは流量値Q(0)〜Q(6))よりも後に計測された第2所定個数の流量値の算術平均、例えば6個の流量値Q(11)〜Q(16)の算術平均Aveを取得し、その算術平均Aveが第2所定範囲内、例えば90L/h以上210L/h以下であるか否かを判定する。算術平均Aveの算出は、器具判定手段116によって実行されてもよいし、演算手段108によって実行されてもよい。
表1を参照して流量値Q(11)〜Q(16)の算術平均Aveを求めると、113L/hとなり、90L/h以上210L/h以下の範囲内である。つまり、図3に示す流量変化は、第2の判定条件を満たしている。また、すでに説明したように、図3に示す流量変化は、上述の第1の判定条件を満たす。すなわち、第1および第2の判定条件が満たされるので、器具判定手段116は、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。
このように、器具判定手段116が、第2の判定条件が満たされるか否かの判定をさらに実行し、第2の判定条件がさらに満たされる場合に、使用の開始されたガス器具が特定のガス器具であると判定してもよい。所定の判定条件として、2以上の条件の組み合わせを適用することにより、判定の精度を向上させ得る。
例えば、ガスメータ100の下流でガス漏れが発生した場合、計測される流量値は、ガス漏れの発生後に増大を示し、その後は、ほぼ一定の流量値で推移する。しかしながら、ガス漏れの場合、ほぼ一定で推移する流量値は、一般に、例えばファンヒータに関する上述の算術平均Aveおよび安定流量よりもより大きな流量帯に属する。したがって、第1の期間に計測される複数の流量値よりも後に計測された第2所定個数の流量値の算術平均が第2所定範囲内であるか否かを判定することにより、ガス漏れが、例えばファンヒータの稼働開始として偶発的に検出されてしまう可能性を低減し得る。また、特許文献1に開示されるような、ガス器具ごとに予め求めておいた流量の変化のパターンに基づくマッチングのみによっては、第2の期間に取得された流量値において激しい変動があると、例えば本来ファンヒータと判定されるべきであるのにファンヒータと判定できないことがあった。本発明の実施形態によれば、このような場合においても、稼働開始されたガス器具がファンヒータであると正しく判定し得る。
(第3の判定条件)
所定の判定条件として、第3の判定条件がさらに満たされるか否かを判定してもよい。そして、第3の判定条件がさらに満たされる場合に、使用の開始されたガス器具が特定のガス器具であると判定してもよい。加重的な第3の判定条件としては、第1所定個数の差分値の算出に用いられる複数の流量値よりも後に計測された第2所定個数の流量値における、上述の算術平均Aveからのばらつきが第3所定範囲内であるとの条件を適用し得る。
例えば図3に示す流量変化に関し、器具判定手段116は、算術平均Aveからのばらつきとして、例えば、流量値Q(11)〜Q(16)の各々と算術平均Aveとの差の絶対値の和を取得する。すなわち、Σj|Q(j)−Ave|が取得される(jは、11から16までの整数)。器具判定手段116は、Σj|Q(j)−Ave|が第3所定範囲内、例えば、算術平均Aveの50%以下であるか否かを判定し、Σj|Q(j)−Ave|が第3所定範囲内である場合に、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定する。
算術平均Aveからのばらつきとしては、Σj|Q(j)−Ave|のほか、第2所定個数の流量値の各々とこれらの算術平均との差の2乗の和、または、その和を第2所定個数で除した量(これは標本分散に等しい。)などを用いてもよい。第3所定範囲の具体的な数値範囲は、算術平均Aveからのばらつきとしてどのような量を用いるかに応じて適宜設定されればよい。算術平均Aveからのばらつきの算出は、器具判定手段116によって実行されてもよいし、演算手段108によって実行されてもよい。
本願発明者らの検討によると、第2の期間において激しい流量値の変動を示しながら、算術平均Aveが偶然に第2所定範囲内に収まってしまうことがあり得る。例えば、ガス器具によっては、第2の期間において流量値が激しい変動を示すことがあり、第2の期間に取得された流量値の算術平均にのみ注目すると、第2の判定条件が満たされる可能性がある。第1および第2の範囲条件に加えて第3の判定条件が満たされるか否かを判定することにより、例えば、ファンヒータとは異なるガス器具の稼働開始をファンヒータの稼働開始と誤判定してしまう可能性を低減できる。
(第4の判定条件)
次に、図4および図5を参照する。図4および図5は、流量値の変化のさらに他の例を示すグラフであり、検出を行おうとするガス器具とは異なるガス器具に関する流量値の変化の例を示している。これらの例では、流量値が立ち上がり始める計測タイミング0から、判定期間の終点に対応する計測タイミング16までの流量値がプロットされている。
図4および図5を参照すればわかるように、これらの例では、流量値は、計測タイミング0〜16の全体にわたって概ね増大を示している。下記の表3および表4に、それぞれ、図4に示されるグラフおよび図5に示されるグラフの各計測タイミングにおける流量値Q(n)および差分値D(n)を示す。
図4に示す例および図5に示す例のいずれも、緩点火動作を行うガス器具、例えばファンヒータの稼働時の流量値の典型的な変化とは異なる挙動を示している。しかしながら、表3および表4を参照すればわかるように、図4に示す例および図5に示す例のいずれも、計測タイミング1〜6の流量値に対応して得られる6個の差分値は、−10L/h以上10L/h以下の範囲内の第1差分値を含んでおり、第1差分値に対応する流量値の計測タイミングよりも後の差分値に、上述の範囲を超える正の差分値が存在している。そのため、第1の判定条件を満足するとして、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると誤判定されてしまう可能性がある。
また、これらの例については、流量値がほぼ一定のレベルで推移する領域は認識できない。しかしながら、例えば流量値Q(0)〜Q(6)よりも後に計測された6個の流量値Q(11)〜Q(16)の算術平均Aveを計算すると、それぞれ、90L/h以上210L/h以下の範囲内の206.0L/hおよび102.8L/hとなる。したがって、第2の判定条件をさらに適用したとしても、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると誤判定されてしまう可能性がある。さらに、算術平均AveからのばらつきとしてΣj|Q(j)−Ave|を用い、第3所定範囲を、算術平均Aveの50%以下として第3の判定条件をさらに適用しても、稼働開始したガス器具が、緩点火動作を行うガス器具であると判定されてしまう可能性を排除できない。
このように、比較的長い期間(例えば5秒間〜10秒間程度)にわたって流量値が緩やかに上昇していたり、流量値の変化のパターンが上に凸の放物線を描いたりするような場合には、判定期間の一部ではなく、判定期間中の流量値の全体的な推移を把握する方が有利であり得る。ここで説明する例では、判定期間に得られる複数の流量値の推移に着目した第4の判定条件が満たされるか否かをさらに判定する。なお、以下に説明する第4の判定条件は、上述の第1〜第3の判定条件の全てと組み合わせて適用されることは必須ではない。例えば、所定の判定条件として、第1および第4の判定条件が満たされる場合に、使用の開始されたガス器具が特定のガス器具であると判定してもよい。あるいは、第1、第2および第4の判定条件が満たされる場合に、使用の開始されたガス器具が特定のガス器具であると判定してもよい。
加重的な第4の判定条件として、ここでは、以下の条件を設定する。以下、ガスメータ100における動作例を説明することにより、第4の判定条件の具体例を説明する。
まず、判定期間に得られた複数の流量値に基づいて複数の移動平均値(単純移動平均値)が生成される。移動平均値の算出は、器具判定手段116によって実行されてもよいし、演算手段108によって実行されてもよい。ここでは、4点移動平均を用いる例を説明する。
4点移動平均値の算出においては、判定期間に含まれる複数の計測タイミングに対応して得られる複数の流量値から、各々が所定個数(ここでは4個)の流量値を要素として有する複数のセットが生成される。k番目のセットSkは、Q(k−1)から時系列において連続する4個分の流量値から構成される。すなわち、1番目のセットS1であれば、Q(0)、Q(1)、Q(2)およびQ(3)が要素として選択される。2番目のセットS2は、計測タイミングが1つシフトされた4個の流量値Q(1)、Q(2)、Q(3)およびQ(4)から構成される。この例では判定期間において17個の流量値が得られているので、14個のセットS1〜S14が生成される。
次に、生成された14個のセットから選択された、隣り合う2つのセットの各々に関する移動平均値の差が、第4所定範囲内となるようなセットの組が第2所定回数以上連続するか否かが判定される。すなわち、14個のセットS1〜S14の各々に関する移動平均値SMA1〜SMA14を算出し、これらから選択された連続する2つの移動平均値間の差(SMA2−SMA1)、(SMA3−SMA2)、…、(SMA14−SMA13)のうち、第4所定範囲内、例えば−5L/h以上5L/h以下となるような差が第2所定回数(例えば5回)以上連続するか否かが判定される。
図4に示す例については、連続する2つの移動平均値間の差(SMA2−SMA1)、(SMA3−SMA2)、…、(SMA14−SMA13)のうち、第4所定範囲内となる差は存在しない。図5に示す例については、連続する2つの移動平均値間の差(SMA2−SMA1)、(SMA3−SMA2)、…、(SMA14−SMA13)のうち、(SMA3−SMA2)、(SMA11−SMA10)、(SMA12−SMA11)、(SMA13−SMA12)および(SMA14−SMA13)が第4所定範囲内である。しかしながら、第4所定範囲内は4回しか連続していない。したがって、図4に示す例および図5に示す例のいずれも、第4の判定条件が満たされていないと判定される。結果として、図4および図5に示すような流量値の変化のパターンを示すガス器具が緩点火動作を行うガス器具であると判定されることを防止し得る。
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、一定時間間隔で計測される流量の変化のパターンから中間安定流量の抽出が困難な場合であっても、緩点火動作を行うガス器具の稼働開始を検出し得る。なお、上述の各種の判定は、判定期間に含まれる複数の計測タイミングに応じた複数の流量値の蓄積を待って実行してもよい。あるいは、流量値または差分値の取得と判定とを並列的に実行してもよい。
(ハードウェア構成)
図6は、ガスメータ100のハードウェア構成の一例を示す。図6に例示する構成において、ガスメータ100は、中央演算回路(CPU)210と、メモリ220と、流量計204と、遮断装置222とを有している。流量計204は、図1に示す流量計測手段104の一例であり、公知の流量計、例えば、超音波流量計であり得る。遮断装置222は、図1に示す遮断手段122の一例であり、公知の遮断装置、例えば、遮断弁を用い得る。
CPU210は、メモリ220に格納されたコンピュータプログラム221を実行する。コンピュータプログラム221には、上述した各種の処理が記述されている。CPU210は、例えば、図1に示す演算手段108、差分値変換手段112および器具判定手段116の各種処理を実行する。メモリ220は、典型的には、RAMおよびROMを含み、例えば、図1に示す保持手段106および変換表保持手段110に対応する。差分値変換手段112および/または器具判定手段116が、メモリ220をその一部に含んでいても構わない。なお、ガスの遮断の判断の基準値は、メモリ220に格納され得る。
演算手段108、差分値変換手段112および器具判定手段116の各々は、単一のプロセッサ(CPU210)の一部であってもよい。制御手段105が、複数のプロセッサの集合によって実現されてもよい。制御手段105は、1以上のメモリ、周辺回路などを含んでいてもよい。制御手段105の外部に、1以上のメモリが配置されてもよい。例えば、保持手段106が、制御手段105の外部に配置されていてもよい。CPU210とメモリ220を用いて上述した各種処理を実行することにより、精度良く器具を判別することができる。
以上、本発明の実施形態を説明した。上述の実施形態の説明は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。本発明は、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、改変、置き換え、付加および省略などが可能である。