JP6766532B2 - 高強度熱間鍛造非調質鋼部品 - Google Patents

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Description

本発明は、高強度熱間鍛造非調質鋼部品に関するものである。
自動車エンジン用部品および足廻り用部品では、熱間鍛造で成形を行い、次いで焼入れ焼戻しといった熱処理を行い(以降、熱処理が行われる部品を調質部品と称する)、または、熱処理を適用することなく(以降、熱処理が行われない部品を非調質部品と称する)、適用する部品に必要な機械特性を確保する。最近は製造工程における経済効率性の観点から、調質を省略して製造された部品、すなわち、非調質部品が多く普及している。
自動車エンジン用部品の事例としてコネクティングロッド(以降、コンロッドと称する)が挙げられる。この部品は、エンジン内でピストンの往復運動をクランクシャフトによる回転運動に変換する際に、動力を伝達する部品である。コンロッドは、クランクシャフトのピン部と称される偏芯部位をコンロッドのキャップ部とロッド部とで挟み込んで締結し、ピン部とコンロッドの締結部とが回転摺動する機構によって動力を伝達する。このキャップ部とロッド部との締結を効率化するために、近年、破断分離型コンロッドが多く採用されている。
破断分離型コンロッドとは、熱間鍛造等でキャップ部とロッド部とが一体となった形状に鋼材を成形した後、キャップ部とロッド部との境界に相当する部分に切欠きを入れて、破断分離する工法を採用したものである。この工法では、キャップ部及びロッド部の合わせ面において破断分離した破面同士を嵌合させるので、合わせ面の機械加工が不要な上に、位置合わせのために施す加工も必要に応じて省略できる。これらから、部品の加工工程を大幅に削減でき、部品製造時の経済効率性は大幅に向上する。このような工法で製造される破断分離型コンロッドには、破断面の破壊形態が脆性的であり、破断分離による破面近傍の変形量が小さく、且つ破断分離による欠け発生量が小さいこと、すなわち破断分離性が良好であることが求められる。
破断分離型コンロッドに供する鋼材として、欧米で普及しているのは、DIN規格のC70S6である。これは0.7質量%のCを含む高炭素非調質鋼であり、破断分離時の寸法変化を抑えるために、その金属組織を延性及び靭性の低いパーライト組織としたものである。C70S6は、破断時の破断面近傍の塑性変形量が小さいので破断分離性に優れる一方、現行のコンロッド用鋼である中炭素非調質鋼のフェライト・パーライト組織に比べて組織が粗大であるので、降伏比(=降伏強さ/引張強さ)が低く、高い座屈強度が要求される高強度コンロッドには適用できないという問題がある。
鋼材の降伏比を高めるためには、炭素量を低減し、フェライト分率を増加させることが必要である。しかしながら、フェライト分率を増加させると鋼材の延性が向上して、破断分離時に塑性変形量が大きくなり、クランクシャフトのピン部に締結されるコンロッド摺動部の形状変形が増大し、コンロッド摺動部の真円度が低下するといった部品性能上の問題が発生する。
高強度の破断分離型コンロッドに好適な鋼材としては、いくつかの非調質鋼が提案されている。例えば、特許文献1および特許文献2には、鋼材にSiまたはPのような脆化元素を多量に添加し、材料自体の延性および靭性を低下させることによって破断分離性を改善する技術が記載されている。特許文献3および特許文献4には、第二相粒子による析出強化を利用してフェライトの延性および靭性を低下させることによって鋼材の破断分離性を改善する技術が記載されている。さらに、特許文献5〜7には、Mn硫化物の形態を制御することによって鋼材の破断分離性を改善する技術が記載されている。
一方、近年は高出力ディーゼルエンジンあるいはターボエンジンの普及によるエンジン出力増大に伴い、コンロッドの高強度化ニーズが高まっている。この高強度化手段の一つとして、例えば、特許文献1〜7に記載の技術では、Vを多量に添加し、微細なVCによる鋼の析出強化が利用されてきた。合金炭化物を生成する元素の中でもVは、熱間鍛造前の加熱(1250℃前後)で鋼材への固溶量が多く、析出強化量が多く得られる。しかしながら、鋼材においてVの固溶量には限界があり、VCの析出強化によるより一層の高強度化は難しい。
以上のように、近年のコンロッドの高強度化要求に対応可能な、優れた強度を有する破断分離型コンロッドを製造可能な鋼は、現状では得られていないのが実情である。
特許第3637375号公報 特許第3756307号公報 特許第3355132号公報 特許第3988661号公報 特許第4314851号公報 特許第3671688号公報 特許第4268194号公報
本発明は上記の実情に鑑み、優れた強度、優れた降伏強さ及び降伏比を有する高強度熱間鍛造非調質鋼部品を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するために、本発明者らは、優れた強度、優れた降伏強さ及び降伏比を有する高強度熱間鍛造非調質鋼部品(以下の説明において、「高強度熱間鍛造非調質鋼部品」を単に「鋼」と記載する場合がある)を実現する方策について鋭意検討した。その結果、以下の(a)〜(d)の知見を得た。
(a)フェライト・パーライト組織の鋼の引張強度を増大させるためにC含有量を増大させると、降伏比が低下する。何故なら、C含有量増大に伴う引張強さの増大量に対して、降伏強さの増大量は小さいからである。これは、フェライト主体のフェライト・パーライト組織を有する比較的C含有量が低い鋼は、引張破断時に降伏点現象(不連続降伏)が生じるのに対して、パーライト主体のフェライト・パーライト組織を有する比較的C含有量が高い鋼は、引張破断時の降伏の形態が、弾性変形から塑性変形への遷移がなめらかである連続降伏となるからである。
(b)本発明者らは、C含有量を増大させながらフェライト量の減少を抑制する手段について検討を重ねた。その結果、フェライト変態の核となるMn硫化物を微細分散させることにより、鋼の製造中にフェライト変態を促進させ、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の量を増加させることができることを見出した。フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を20面積%以上にすることにより、高炭素組成でも降伏点現象が生じ、高い降伏比が得られることを見出した。
(c)本発明者らは、MnおよびSの含有量を所定範囲内として破断分離性を保ちながら、Mn硫化物を微細分散するための別の手段について検討を重ねた。その結果、微量Biに加えて、Sb、Sn、Te及びPbからなる群から選択される1種または2種以上を含有することが有効であることを見出した。
(d)本発明者らは、C含有量を高め、且つフェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を高めることに加えて、VCによる析出強化を組み合わせることで降伏比が向上し、さらに降伏強さが向上することを見出した。
以上のような(a)〜(d)の知見に基づき、鋼中に微量Biに加えて、Sb、Sn、Te及びPbからなる群から選択される1種または2種以上を含有することによりMn硫化物を微細分散させることにより、C含有量が0.50%以上の高炭素組成でありながらフェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を20面積%以上とすれば鋼の降伏比が向上し、さらに降伏強さを向上させ得ることを見出し、本発明をなすに至った。
その発明の要旨とするところは、次の通りである。
(1)本発明の一態様に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品は、化学成分が、単位質量%で、C:0.50〜0.65%、Si:0.60〜1.20%、Mn:0.60〜1.00%、P:0.040〜0.060%、S:0.060〜0.100%、Cr:0.05〜0.20%、V:0.25〜0.40%、N:0.0020〜0.0080%、Bi:0.0001〜0.0050%を含有し、さらにSb:0.0001〜0.0050%、Sn:0.0001〜0.0050%、Te:0.0001〜0.0050%及びPb:0.0001〜0.0050%からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Bi+Sb+Sn+Te+Pbが0.0002〜0.0050%であり、鋼組織がフェライト・パーライトであり、そのうちフェライト組織の面積率が20面積%以上であることを特徴とする。
(2)本発明において、さらに、前記化学成分が、単位質量%で、Ti:0.10%以下及びNb:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することができる。
(3)本発明において、さらに、前記化学成分が、単位質量%で、Ca:0.005%以下、Zr:0.005%以下及びMg:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有することができる。
本発明によれば、優れた強度、優れた降伏強さ及び降伏比を有する破断分離型コンロッドなどの高強度熱間鍛造非調質鋼部品を提供できる。
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の一例である破断分離型コンロッドを示す分解斜視図である。
図1は、本発明に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品からなる破断分離型コンロッドの一例を示す分解斜視図である。
この例の破断分離型コンロッド1は、図1に示すように、上下に分割されたロッド付半円弧状のアッパ側半割体2と、半円弧状のロア側半割体3とから構成されている。
アッパ側半割体2の半円弧部2Aの両端側にはそれぞれ、ロア側半割体3に固定するためのねじ溝を有するねじ孔5が形成されている。ロア側半割体3の半円弧部3Aの両端側にはそれぞれ、アッパ側半割体2に固定するための挿通孔6が形成されている。
アッパ側半割体2の半円弧部2Aとロア側半割体3の半円弧部3Aとを円環状に合わせて、相互の両端側の挿通孔6とねじ孔5に結合ボルト7を挿通し、螺合することで円環状のビッグエンド部8が構成されている。アッパ側半割体2のロッド部2Bの上端側には、円環状のスモールエンド部9が形成されている。
図1に示す構造の破断分離型コンロッド1は、自動車エンジン等の内燃機関のピストンの往復運動を回転運動に変換するために内燃機関に組み込まれる。スモールエンド部9が図示略のピストンに接続され、ビッグエンド部8が内燃機関のコネクティングロッドジャーナル(図示略)に接続される。
本実施形態の破断分離型コンロッド1は、以下に説明する成分、組織、及びMn硫化物分散状態を備える高強度熱間鍛造非調質鋼から形成され、アッパ側半割体2の半円弧部2Aとロア側半割体3の半円弧部3Aとは、元々1つの円環状部品であった部分を脆性破断して形成される。破断分離型コンロッド1の製造方法の一例として、熱間鍛造品の一部に切欠きを設けてその切欠きを起点として脆性的に破断分離して、アッパ側半割体2の半円弧部2Aの突き合わせ面2aと、ロア側半割体3の半円弧部3Aの突き合わせ面3aとを形成する方法が挙げられる。これらの突き合わせ面2a、3aは、元々1つの部材を破断分離して形成しているので、良好な位置合わせ精度で突合せが可能となる。
この構造の破断分離型コンロッド1は、突き合わせ面の新たな加工や位置決めピンが不要となり、大幅な製造工程の簡略化がなされる。
以下、破断分離型コンロッド1を構成する高強度熱間鍛造用非調質鋼について説明する。
破断分離型コンロッド1は、一例として、化学成分が、単位質量%で、C:0.50〜0.65%、Si:0.60〜1.20%、Mn:0.60〜1.00%、P:0.040〜0.060%、S:0.060〜0.100%、Cr:0.05〜0.20%、V:0.25〜0.40%、N:0.0020〜0.0080%、Bi:0.0001〜0.0050%を含有し、さらにSb:0.0001〜0.0050%、Sn:0.0001〜0.0050%、Te:0.0001〜0.0050%及びPb:0.0001〜0.0050%からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼組織がフェライト・パーライトであり、そのうちフェライト組織の面積率が20面積%以上である鋼からなる。この組成の鋼を熱間鍛造して空冷し、非調質鋼とすることで上述の目的組成の高強度熱間鍛造非調質鋼製品が得られる。
<鋼成分>
先ず本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の成分組成の限定理由について説明する。
(C:0.50〜0.65%)
Cは、高強度熱間鍛造非調質鋼部品の引張強さを確保する効果を有する。必要な強度を得るには、C含有量の下限を0.50%にする必要がある。なお、C含有量を0.50%以上とした場合、通常であれば鋼の金属組織(鋼組織)に含まれるフェライト量が20面積%未満となり、鋼の降伏比が低くなる。しかし、本実施形態に係る鋼は、後述されるように所定範囲内のMn、S、およびBiを含むことによりMn硫化物が微細分散されているので、C含有量を0.50%以上としながらフェライト量を20面積%以上とすることができる。C含有量の好ましい下限は、0.52%、0.55%、または0.58%である。
しかし、C含有量が0.65%を超えた場合、Mn硫化物が本実施形態に係る鋼の如く微細分散されていても、鋼のフェライト量が不足する。フェライト量の不足は、引張強さに対する降伏強さの比(降伏比)の低下を招く。従って、C含有量の上限を0.65%とする。C含有量の好ましい上限は、0.63%、0.60%、または0.59%である。
なお、本実施形態において、元素の含有量に関し、0.50〜0.65%のように範囲を記載した場合、特に記載しない限り上限及び下限の数値を含む範囲とする。よって、0.50〜0.65%は0.50%以上、0.65%以下の範囲を意味する。
(Si:0.60〜1.20%)
Siは、固溶強化によってフェライトを強化し、鋼の延性及び靭性を低下させる。鋼の延性及び靭性の低下は、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる。この効果を得るためには、Si含有量の下限を0.60%にする必要がある。一方、Siを過剰に含有すると破断面の欠けが発生する頻度が上昇するので、Si含有量の上限を1.20%とする。Si含有量の好ましい下限は、0.70%、0.80%、または0.85%である。Si含有量の好ましい上限は、1.00%、0.95%、または0.90%である。
(Mn:0.60〜1.00%)
Mnは、固溶強化によってフェライトを強化し、鋼の延性及び靭性を低下させる。鋼の延性及び靭性の低下は、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし、破断分離性を向上させる。また、Mnは、Sと結合してMn硫化物を形成する。このMn硫化物は、熱間鍛造による部品成形後の冷却過程においてフェライト変態の核となり、フェライト量を増大させる効果がある。一方、Mnを過剰に含有する場合、フェライトが硬くなりすぎて、破断時の欠けが発生する頻度が増加する。これらに鑑みて、Mn含有量の範囲は、0.60〜1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.70%、0.80%、または0.85%である。Mn含有量の好ましい上限は、0.95%、0.92%、または0.90%である。
(P:0.040〜0.060%)
Pは、フェライト及びパーライトの延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は、鋼の破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし、破断分離性を向上させる効果を有する。ただし、Pは上述の効果を生じさせると同時に、結晶粒界の脆化を引き起こし破断面の欠けを発生しやすくする効果も顕著に生じさせる。以上を考慮すれば、P含有量の範囲は、0.040〜0.060%である。P含有量の好ましい下限は、0.042%、0.045%、または0.048%である。P含有量の好ましい上限は、0.055%、0.053%、または0.050%である。
(S:0.060〜0.100%)
Sは、Mnと結合してMn硫化物を形成する。このMn硫化物は、熱間鍛造による部品成形後の冷却過程においてフェライト変態の核となり、フェライト量を増大させる効果がある。その効果を得るためには、S含有量の下限を0.060%にする必要がある。他方、Sを過剰に含有させると、破断分割時の破断面近傍の塑性変形量が増大し、破断分離性が低下する場合が発生することがある。これに加えて、Sを過剰に含有させると、破断面の欠けを助長することがある。以上から、S含有量の範囲を、0.060〜0.100%とする。S含有量の好ましい下限は、0.070%、0.072%、または0.075%である。S含有量の好ましい上限は、0.095%、0.090%、または0.085%である。
なお、微細なMn硫化物は、熱間鍛造による部品成形後の冷却過程においてフェライト変態の核となるので、微細なMn硫化物を析出させるには、フェライト組織生成に寄与する効果がある。鋼中に析出するMn硫化物の総量は、本実施形態の鋼の組成範囲において大きく変動はしないが、微細なMn硫化物が析出している状況は鍛造による加工により延ばされて微細化したMn硫化物の平均アスペクト比が小さいことで表現できる。
Mn硫化物のアスペクト比とは、Mn硫化物の長軸の長さをMn硫化物の短軸の長さで割って得られる値である。Mn硫化物の平均アスペクト比は、長手方向の平行断面を垂直方向から組織を観察することで測定される、Mn硫化物のアスペクト比の平均値である。
この意味から、微細なMn硫化物の平均アスペクト比は、1.1〜1.4程度の範囲であることが望ましい。
(Cr:0.05〜0.20%)
Crは、Mnと同様に固溶強化によってフェライトを強化し、延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし、破断分離性を向上させる。しかし、Crを過剰に含有すると、パーライトのラメラー間隔が小さくなり、かえってパーライトの延性及び靭性が高くなる。そのため、Crを過剰に含有すると、破断時の破断面近傍の塑性変形量が大きくなり、破断分離性が低下する。さらに、Crを過剰に含有すると、ベイナイト組織が生成しやすくなり、降伏比の低下による降伏強さの低下や破断分離性の顕著な低下が見られる。従って、Cr含有量の範囲を0.05〜0.20%とする。上述の効果に鑑みた場合、Cr含有量の好ましい上限は、0.17%、0.15%、または0.13%である。また、Cr含有量の好ましい下限は、0.07%、0.08%、または0.10%である。
(V:0.25〜0.40%)
Vは、熱間鍛造後の冷却時に主に炭化物または炭窒化物を形成してフェライトを強化し、鋼の延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくして、熱間鍛造部品の破断分離性を良好にする。また、Vは、炭化物または炭窒化物の析出強化により熱間鍛造部品の降伏比を高めるという効果がある。これらの効果を得るためには、V含有量の下限を0.25%にする必要がある。V含有量の下限は、好ましくは0.27%、または0.30%である。一方、Vを過剰に含有してもその効果は飽和するので、V含有量の上限は、0.40%である。V含有量の上限は、好ましくは0.35%、0.33%、または0.31%である。
(N:0.0020〜0.0080%)
Nは、熱間鍛造後の冷却時に主にV窒化物またはV炭窒化物を形成してフェライトの変態核として働くことによって、フェライト変態を促進する。これにより、Nには、熱間鍛造部品の破断分離性を大幅に損なうベイナイト組織の生成を抑制する効果がある。この効果を得るには、N含有量の下限を0.0020%とする。Nを過剰に含有すると熱間延性が低下し、熱間加工時に割れまたは疵が発生しやすくなる場合があるので、N含有量の上限を0.0080%とする。N含有量の下限値を0.0040%、0.0042%、または0.0045%としてもよい。N含有量の上限値を0.0075%、0.0070%、または0.0060%としてもよい。
(Bi:0.0001〜0.0050%)
Biは、本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品において重要な元素である。微量のBiを含有することによって、鋼の凝固組織の微細化に伴い、Mn硫化物が微細分散する。Mn硫化物の微細分散化効果を得るには、Bi含有量を0.0001%以上にする必要がある。しかし、Bi含有量が0.0050%を超えると、BiがMn硫化物上に析出し、フェライト変態の核としての効果を失う。これらのことから、本発明では、Bi含有量を、0.0001%〜0.0050%とする。
(Sb:0.0001〜0.0050%、Sn:0.0001〜0.0050%、Te:0.0001〜0.0050%及びPb:0.0001〜0.0050%からなる群から選択される1種または2種以上)
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品は、上記の成分に加えて、Sb、Sn、Te及びPbからなる群から選択される1種または2種以上をそれぞれ、0.0001〜0.0050%の範囲内で含有することが特徴である。これらの元素は、鋼の凝固組織の微細化に伴い、Mn硫化物が微細分散する。Mn硫化物の微細分散化効果を得るには、これらの元素の含有量を0.0001%以上にする必要がある。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、これらの元素がMn硫化物上に析出し、フェライト変態の核として効果を失うため、これらの元素の含有量の上限を0.0050%とする。上述の効果を鑑みた場合、Bi、Sb、Sn及びPbの合計含有量の上限は、0.0050%であることが好ましい。Bi、Sb、SnおよびPbの合計含有量の上限は、0.0030%であることがより好ましい。
(Ti:0.10%以下及びNb:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種)
Ti及びNbは、熱間鍛造後の冷却時に主に炭化物または炭窒化物を形成して、析出強化によりフェライトを強化し、鋼の延性及び靭性を低下させる。延性及び靭性の低下は、破断時の破断面近傍の塑性変形量を小さくし破断分離性を向上させる効果がある。従って、上述の効果を得るためにTi含有量の下限を0.05%としてもよく、Nb含有量の下限を0.01%としてもよい。しかし、これら元素を過剰に含有するとその効果が飽和するので、Ti含有量の上限を0.10%とし、Nb含有量の上限を0.05%とする。
(Ca:0.005%以下、Zr:0.005%以下及びMg:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上)
Ca、Zr及びMgは、いずれも酸化物を形成し、Mn硫化物の晶出核となりMn硫化物を均一微細分散する効果がある。従って、Ca、Zr及びMgそれぞれの下限値を0.001%としてもよい。一方、いずれの元素も含有量が0.005%を超えると、熱間加工性が劣化し、熱間圧延が困難となる。これらのことから、Ca、Zr及びMgそれぞれの含有量の上限を0.005%とする。
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の化学成分の残部は、鉄(Fe)及び不可避的不純物を含む。不可避的不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
次に、上述した組織の限定理由について説明する。
<鋼組織がフェライト・パーライトであり、そのうちフェライト組織の面積率が20面積%以上>
通常のフェライト・パーライト組織の鋼は、C含有量が増すほど降伏比が低下する。C含有量増大に伴う引張強さの上昇幅に対して、C含有量増大に伴う降伏強さの上昇幅は小さいからである。これは、C含有量が少ないフェライト主体のフェライト・パーライト組織では降伏点現象(不連続降伏)が生じるのに対して、C含有量が多いパーライト主体のフェライト・パーライト組織では、降伏が弾性変形から塑性変形への遷移がなめらかである連続降伏となるためである。
一方、本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品では、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を、Biによって微細分散されたMn硫化物を用いて高めている。本発明者らは、フェライト組織の面積率を鋼全体に対して20面積%以上にすることにより、高炭素組成でも降伏点現象が生じ、高い降伏比が得られることを知見した。したがって、鋼全体に対するフェライト組織の面積率の下限を20面積%とする。鋼全体に対するフェライト組織の面積率の下限を22面積%、23面積%、または25面積%としてもよい。
なお、本実施形態の鋼の組織は、フェライト組織を除くと残部がほぼパーライト組織であり、ベイナイト組織などの他の組織は生成していないことが好ましい。
ただし、2面積%未満の範囲内であれば、ベイナイト、マルテンサイト等のフェライト及びパーライト以外の組織の含有は許容される。また、フェライト組織の量は多い方が好ましいので、鋼全体に対するフェライト組織の面積率の上限値は特に限定されないが、本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の化学成分の範囲内では、フェライト組織の面積率の上限値は約50面積%となることが通常である。鋼全体に対するフェライト組織の面積率の上限を35面積%、30面積%、または28面積%としてもよい。
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品としての破断分離型コンロッド1であれば、突き合わせ面の新たな加工や位置決めピンが不要となり、大幅な製造工程の簡略化をなし得る。
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の製造方法は、上述の本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の化学成分を有する鋼を、鋳造、熱間圧延、及び熱間鍛造する工程を含む。
鋳造条件は特に限定されず、通常の条件とすればよい。
熱間圧延条件も特に限定されず、通常の条件とすればよい。
熱間鍛造においては、鍛造後の冷却速度を小さくする必要がある。本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品のフェライト組織の面積率は、鍛造後の冷却時、即ち放冷による空冷時又は衝風冷却装置による衝風冷却時に冷却速度を変えることで変化する。例えば、冷却速度を3.5℃/秒以上の範囲まで速くすることで、フェライト組織の面積率が20面積%未満になる。従って、鍛造後の冷却時には冷却速度は3.5℃/秒未満とする必要があり、鍛造後の冷却の手段を自然放冷とすることが好ましい。鍛造後の冷却の手段を水冷及び衝風冷却等のいわゆる強制冷却とすることは好ましくない。
本実施形態によれば、優れた強度、優れた降伏強さ及び降伏比を有する破断分離型コンロッドなどの高強度熱間鍛造非調質鋼部品を提供できる。本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品は、優れた破断分離性を有するものとなる。
本実施形態に係る高強度熱間鍛造非調質鋼部品の用途は特に限定されないが、破断分割して用いられる機械部品、例えば、破断分離型コンロッドに適用された場合、特に好適な効果を奏する。
本発明を実施例によって以下に詳述する。なお、これら実施例は本発明の技術的意義、効果を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
以下の表1および表2に示す組成を有する転炉溶製鋼を連続鋳造により製造し、必要に応じて、均熱拡散処理、分塊圧延工程を経て162mm角の圧延素材とした。
次に、熱間圧延によって直径が45mmの棒鋼形状とした。表2の下線部分は本発明の範囲外の例であることを示す。
次に、組織、機械的性質を調べるために、鍛造コンロッド相当の試験片を熱間鍛造で作製した。具体的には、直径45mmの素材棒鋼を1150〜1280℃に加熱後、棒鋼の長さ方向と垂直に鍛造して厚さ20mmとし、放冷による空冷、または衝風冷却装置による衝風冷によって室温まで冷却した。冷却速度を変えることによって、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を造り分けた。冷却後の鍛造材から、JIS4号引張試験片を加工した。
引張試験は、JIS Z 2241に準拠して、常温で20mm/minの速度にて実施した。降伏強さが900MPaに達しないものは強度が劣ると判断した。
上記引張試験片と同一部位から10mm角サンプルを切り出し、長手方向の垂直方向から鋼中にあるMn硫化物の形態やフェライト・パーライト組織を観察した。
鋼中にあるMn硫化物のアスペクト比を測定するために、鏡面に研磨後、光学顕微鏡にて1000倍の組織写真を10枚撮影し、Mn硫化物の平均アスペクト比を小型汎用画像解析装置(Luzex(ルーゼックス):登録商標、株式会社ニレコ製)によって求めた。Mn硫化物の短軸長さは鍛錬成形比で決まり、また、Mn硫化物の量はS量で決まるため、Mn硫化物の平均アスペクト比が1に近い方がMn硫化物の大きさは小さく、個数密度は多い。つまり、Mn硫化物の平均アスペクト比の値を比較することで、Mn硫化物の大きさと分散状態を判定した。また、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を測定するために、ナイタール腐食液で腐食を行い、光学顕微鏡で200倍の組織写真を5枚撮影し、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率を小型汎用画像解析装置(Luzex:登録商標、株式会社ニレコ製)によって求めた。表1および表2に示す各例の金属組織は、実質的に、フェライト及びパーライトからなるものであった。
Figure 0006766532
Figure 0006766532
表1において、鋼No.A〜AOの本発明例は、いずれも鋼化学成分の規定範囲内であって、降伏強さが900MPa以上の高強度熱間鍛造非調質鋼部品である。
これに対して、表2において、比較例APは、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率が20面積%未満のため、降伏比が低く、降伏強さが低い。
比較例AQは、C含有量が少ないため、必要な降伏強さが得られない。
比較例ARは、C含有量が多く、比較例AS及びATは、Mn含有量が少なく、比較例AUは、S含有量が少ないため、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率が20面積%未満である。このため、降伏比が低く、必要な降伏強さが得られない。
比較例AVは、Cr含有量が多く、比較例BMは、N含有量が少ないため、ベイナイト組織が発生する。このため、降伏比が低く、必要な降伏強さが得られない。
比較例AXは、Bi、Sb、Sn、Te及びPbを含有していないため、Bi、Sb、Sn、Te及びPbによるMn硫化物の微細分散効果がなく、フェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率が20面積%未満となる。このため、降伏比が低く、必要な降伏強さが得られない。
比較例AYは、Biの含有量が多く、かえってBiによるMn硫化物微細分散化効果が低減しフェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率が20面積%未満となる。このため、降伏比が低く、必要な降伏強さが得られない。
比較例AZ〜BLは、Biに加えて、Sb、Sn、Te、Pbのいずれかの含有量が多く、かえってBi、Sb、Sn、Te、PbによるMn硫化物微細分散化効果が低減しフェライト・パーライト組織中のフェライト組織の面積率が20面積%未満となる。このため、降伏比が低く、必要な降伏強さが得られない。
1・・・破断分離型コンロッド(高強度熱間鍛造非調質鋼部品)、2・・・アッパ側半割体、2A・・・半円弧部、2a・・・突き合わせ面、3・・・ロア側半割体、3A・・・半円弧部、3a・・・突き合わせ面、5・・・ねじ孔、6・・・挿通孔、7・・・結合ボルト、8・・・ビッグエンド部、9・・・スモールエンド部。

Claims (3)

  1. 化学成分が、単位質量%で、
    C:0.50〜0.65%、
    Si:0.60〜1.20%、
    Mn:0.60〜1.00%、
    P:0.040〜0.060%、
    S:0.060〜0.100%、
    Cr:0.05〜0.20%、
    V:0.25〜0.40%、
    N:0.0020〜0.0080%、
    Bi:0.0001〜0.0050%を含有し、さらに
    Sb:0.0001〜0.0050%、
    Sn:0.0001〜0.0050%、
    Te:0.0001〜0.0050%及び
    Pb:0.0001〜0.0050%
    からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    Bi+Sb+Sn+Te+Pbが0.0002〜0.0050%であり、
    鋼組織がフェライト・パーライトであり、そのうちフェライト組織の面積率が20面積%以上であることを特徴とする高強度熱間鍛造非調質鋼部品。
  2. さらに、前記化学成分が、単位質量%で、
    Ti:0.10%以下及び
    Nb:0.05%以下
    からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度熱間鍛造非調質鋼部品。
  3. さらに、前記化学成分が、単位質量%で、
    Ca:0.005%以下、
    Zr:0.005%以下及び
    Mg:0.005%以下
    からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度熱間鍛造非調質鋼部品。
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