以下、本発明の実施の形態に係る掴線器について、図を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態に係る掴線器1について、図1〜図5を用いて説明する。図1は正面側から見た掴線器1の全体斜視図である。図2は背面側から見た掴線器1の全体斜視図である。図3は、図1のA−A線で切断した断面図であり、図4は、図1のB−B線で切断した断面図である。また、図5は、掴線器1の分解図である。
この掴線器1は、無停電工事に用いられる活線振り分け工具の構成の一部として用いられる他、単に電線に張力を付与するための引き込み具の構成の一部としても用いられる。本実施の形態では、特に、活線振り分け工具の一構成としての作用について後述する。
図1を参照して、掴線器1は、電線の掴線機構として、上下に対向する一対のクサビ片からなるクサビ部4を備えている。このクサビ部4は厚さ方向とそれぞれの傾斜部分(上側傾斜部6b、下側傾斜部8b)とを囲うように本体2に保持されている。本体2の下方にはアイボルト14が螺合されている。
なお、ここでは、便宜的に、クサビ機構の絞まる向きを前方とし、緩む向きを後方として表している。この後方には、絶縁棒等の外部の工具と連結するための工具連結部2bが延設されている。
図2を参照して、上側クサビ片6の背面側には上側傾斜部6bと平行に傾斜溝6cが形成されている。また、本体2には、この傾斜溝6cに摺動可能に嵌合する傾斜凸条2cが形成されている。この傾斜溝6cと傾斜凸条2cとの摺動機構をガイドとして、電線当接面6aが平行移動できる。
クサビ部4の背面前方側には、離接ガイド部10が設けられている。この離接ガイド部10は、下側クサビ片8が上側クサビ片6に対して離接する際の移動方向を対向方向に規制するガイドである。上側クサビ片6から垂設された連結棒10aと、下側クサビ片8に設けられた、連結棒10aを摺動可能に挿入できる連結棒挿入部10bとにより離接ガイド部10が構成されている。
下側クサビ片8の下側傾斜部8bには、下溝8cが形成されている。そして、この下溝8cには、クサビバネ13が配置されている。このクサビバネ13は下側クサビ片8を前方へ付勢するための構成であり、後述する台座12と下側クサビ片8の前方側のバネ止め8eとの間に収縮配置されている。上側クサビ片6は、離接ガイド部10を介して下側クサビ片8と一体的に構成されているので、クサビ部4全体が前方へ付勢されていることになる。また、離接ガイド部10は、クサビ部4の背面側前方に設けられているので、本体2の前方側の側面と係合することにより、クサビ部4が後方へ脱落することを防止できる。
次に図3の断面図を参照して、下側クサビ片8は台座12に載置されている。台座12の上方は、下側クサビ片8の下側傾斜部8bと同じ傾斜角に形成されており、この台座12に沿って下側クサビ片8は摺動可能である。下側クサビ片8の後方側には、台座12の後方側への相対移動を規制するストッパー8dが突設されている。したがって、外力が作用しない状態において、上述のクサビバネ13により前方へ付勢された下側クサビ片8は、ストッパー8dが台座12の後方端部に係合する位置で安定する。
台座12は、アイボルト14のネジ軸14aの先端と回転自在に連結されている。
更に、図4の断面図を参照して、台座12の背面側には凸部12eが形成されているのが見て取れる。また、本体2側には、上下方向に延びる溝が形成されている。この溝は台座12の上下方向への移動をガイドする台座ガイド溝2dである。これにより、アイボルト14の螺進退において、台座12が伴回りを生じることなく安定して上下動することが可能となる。また、台座12の上下方向の可動範囲を設定することができる。
続いて、図5の分解図を参照して、台座12の上方には、下側クサビ片8の下溝8cに
摺動可能に嵌合する下側ガイド部12aが、傾斜した凸条として形成されている。
台座12の下方には、アイボルト14のネジ軸14aの先端が嵌入できるように軸受け穴12bが形成されている。また、台座12の正面側から軸受け穴12bに貫通するように形成された止めネジ穴12dに止めネジ12cが設けられている。これに対して、アイボルト14のネジ軸14aの先端には、周方向に延びる周設溝14bが形成されている。正面側から挿入された止めネジ12cの先端がネジ軸14aの周設溝14bに係合することにより、アイボルト14が台座12に対して軸周りに回転自在に連結される。本実施の形態に係る掴線器1では、ネジ軸14aの周設溝14bの幅は止めネジ12cの外径より僅かに大きい幅となるように設定されているので、軸方向へのガタツキは生じない。
次に、図1〜5を適宜参照して(特に、図3を参照)、掴線器1の動作について説明する。
上述のように、外力が加わらない状態では、クサビ部4は、クサビバネ13の付勢により、前方に押し出された状態で安定する。この状態でアイボルト14を操作して台座12を降下させると、下側クサビ片8は、離接ガイド部10に沿って上側クサビ片6から離れ、台座12とともに降下する。このとき、上側クサビ片6は本体2の傾斜凸条2cに傾斜溝6cが係合しているので(図2参照)、上側ガイド部2a(図3参照)に当接した状態で上方配置が維持される。台座12が最も下方位置にあるとき、すなわち、図3の状態にあるとき、上側クサビ片6と下側クサビ片8との間隔が最大となり、下側クサビ片8の後方のストッパー8dが台座12の後方側に当接した状態となる。
このように台座12を降下させると、上側クサビ片6の電線当接面6aと下側クサビ片8の電線当接面8aとの間に電線を収容可能な空間が形成される。この空間に電線を収容した状態で、アイボルト14を操作して台座12を押し上げると、下側クサビ片8は離接ガイド部10に沿って上側クサビ片6に近づき、電線当接面6a、8aが電線の上下に当接する。
この状態で更に、アイボルト14を上方へ締め付けると、上側クサビ片6は上側ガイド部2aに沿って後方斜め上側へ摺動するとともに、下側クサビ片8は台座12の下側ガイド部12aに沿って後方斜め下側へ摺動する。すなわち、クサビ部4は挟持した電線と一体となってクサビバネ13の付勢に抗して、電線の延びる方向に沿って後退する。
このとき、クサビ部4による電線の挟持力は増大するとともに、下側クサビ片8のストッパー8dが台座12の後方側の端部から離間することにより、クサビ部4の前方側への移動代(しろ)が形成される。
よって、電線が前方へ引っ張られた場合、クサビ部4が上側及び下側ガイド部2a、12aに沿ってクサビ作用によって絞られる方向へ力を受けるので、電線の挟持力が増大して安定する。
また、作業中に電線に何らかの外力が作用して、張力が瞬間的に失われるような状態であっても、クサビ部4は、常に、クサビバネ13から前方(クサビが絞まる向き)への付勢を受け、且つ、アイボルト14により電線を挟持する方向へ圧力が加わっているので、緩みが生じることもなく安定する。
以上のように、本実施の形態の掴線器1は、、単にアイボルト14を操作するだけで、電線を容易に掴持することができるので、作業効率が著しく向上することに加えて、電線の張力が緩む方向への力が瞬間的に作用した場合であっても、電線の掴持状態に変化を生
じさせることなく安定して保持することができる。
ところで、本実施の形態に係る掴線器1は、単に電線を掴持するのみならず、張線機能も備えている。すなわち、電線を掴持した状態のクサビ部4を、台座12を介してアイボルト14で操作すると、電線の延びる方向に沿ってクサビ部4を移動させることができるので、電線の張力を調節することが可能となる。これにより、単に電線に張力を付与するための引き込み具として利用する構成などにおいて、それほど大きな引き込み量を必要としない場合は、張線器を併用することなく掴線及び張線作業が可能となる。
なお、本実施の形態では、上側クサビ片6の背面に形成された傾斜溝6cと、本体2の内側に形成された傾斜凸条2cとが係合することにより、上側クサビ片6を本体2の上方に摺動可能に保持できる構成を例として示した。しかし、本体2側に傾斜溝を形成し、上側クサビ片6に傾斜凸条を形成する構成であっても構わない。
また、上側クサビ片6を本体2の上方に摺動可能に保持できる構成であれば、傾斜凸条2cのように上側ガイド部2aに沿って延びる形状ではなく、部分的に形成された凸部であっても構わない。
また、本実施の形態では、本体2に形成された台座ガイド溝2dに対して台座12の背面に形成された凸部12eが摺動可能に嵌合される構成を例として示した。しかし、台座12の正面又は背面の一側面が本体2の内面と接することにより供回りを防止できる構成であれば、台座ガイド溝2d及び凸部12eからなる構成は必須ではない。台座ガイド溝2d及び凸部12eを備えない場合、台座12の上昇限界位置を設定するためには、例えばアイボルト14のネジ軸14aに上昇を規制するためのストッパーを設けてもよい。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る掴線器について、図6を用いて説明する。本実施の形態に係る掴線器は、アイボルト24と台座22との連結構造以外の構成において、第1の実施の形態と同じである。このため、便宜的に、他の構成についての図示はせず、アイボルト24及び台座22と、台座22が当接する下側クサビ片8のみについて図示による説明を行う。また、第1の実施の形態と同一の構成については、適宜、図1〜図5を参照することとする。
図6では、アイボルト24のネジ軸24aの先端と台座22との連結構造が、正面側から見た断面図により示されている。ここでは、アイボルト24を台座22に係合させるための止めネジ22cの位置を点線で表している。図6(a)は、台座22に外力が加わっていない状態を示しており、図6(b)は、台座22がアイボルト24により上向きの力を受けている状態を示している。
第1の実施の形態において図3に示した掴線器1との構成の違いは、台座22とアイボルト24のネジ軸24aの上端との間に、台座押し上げバネ25が介在している点である。
また、本実施の形態では、アイボルト24が台座22に対して軸方向へ相対的に移動可能となる空間が形成されている点において、第1の実施の形態の構成とは異なっている。
第1の実施の形態に係るアイボルト14のネジ軸14aの先端に形成された周設溝14bは、台座12にアイボルト14を係合させるための止めネジ12cの外径と略同じ幅に形成されていた。しかし、本実施の形態では、図6(a)に示すように止めネジ12cの径に相当する幅を除いた間隙Dの空間が形成されている。この間隙Dの範囲内で、ネジ軸
24aは台座22に対して軸方向へ移動可能となる。
図6(a)と図6(b)とに渡って水平に引かれた一点鎖線は、図6(a)の台座22に外力が加わっていない状態におけるネジ軸24aの上端の位置を表している。図6(b)に示すように、ネジ軸24aが一点鎖線よりも上方に突き上げられた場合、台座22が当接する下側クサビ片8に対して抵抗があると、台座押し上げバネ25は収縮する構造となっている。止めネジ22cは台座22と一体に固定されているので、ネジ軸24aが上昇すると、相対的に止めネジ22cは周設溝24bの中で下降する。
すなわち、第1の実施の形態において、掴線器1の動作説明について述べたように、クサビ部4の電線当接面6a、8aの間に電線を配置し、アイボルト14により下側クサビ片8を押し上げる際、電線が電線当接面6a、8aに挟まれた(当接した)時点で、アイボルト14の締結力が直接伝達される構成となっていた。
これに対して、本実施の形態では、電線が電線当接面6a、8a(図3参照)に当接した時点では、アイボルト24の締結力が直接伝達されず、台座押し上げバネ25により力の一部が吸収される。そして、台座押し上げバネ25の収縮限界に達した場合、又は、止めネジ22cが周設溝24bの下端に突き当たった時点で、アイボルト24の締結力が電線に直接伝達される。
このように構成されているので、電線に対してクサビ部4が完全に絞め込まれる前の段階で、台座押し上げバネ25の付勢力だけで当接する仮留めの状態を保持することができる。
したがって、電線を掴持する際に、台座押し上げバネ25のクッション効果が効いている仮留めの状態で位置変更が容易になる。また、電線を開放する際には、突然、掴持力が開放されてしまうことがないので、脱落事故を防止することが可能である。
なお、本実施の形態に係る掴線器においても、第1の実施の形態において示した掴線器1と同様に、張線機能を有している。したがって、張線器兼掴線器として用いられる場合、作業効率の向上が図られる。
次に、実際の工事における掴線器1の使用状態について、図7を用いて説明する。
図7は、無停電工事において設定される活線振り分け工具27の構成を示している。ここでは、電線200を一点鎖線により模式的に示している。
無停電工事では、切断箇所の電線を弛ませて、張力から開放する必要がある。このために、切断箇所を挟む2箇所を2つの掴線器1を用いて掴持する。2つの掴線器1の間には、直列に張線器30と絶縁棒28とが配置されている。
このように配置された状態で、張線器30の伸縮機構を収縮させると、2つの掴線器1で掴持された電線の2点が引き寄せられるので、その間で弛みを形成することができる。こうして弛ませた状態で電線の切断作業が行われ、バイパスされる。工事後、切断された電線の導体端部同士は、スリーブを用いて接続され、スリーブカバーで覆われて保護される。
この活線振り分け工具27に用いられる張線器30及び各種スリーブの例については、以下に説明する。
<張線器>
次に、図7の活線振り分け工具27に用いられる張線器30について説明する。
図8は、張線器30の全体斜視図を示している。この張線器30はパンタグラフ式の伸縮機構を備えている。4本のリンク片31a、31b、31c、31dがひし形に組まれたリンク部31が正面側に配置され、背面側にも同様に構成されたリンク部32が配置されている。このように、2組のパンタグラフ機構が構成されている。リンク部31、32の上下方向の対角に位置した一対の関節部36は、上側ベース40と下側ベース42とにそれぞれ軸支されている。これら上側ベース40及び下側ベース42は、1本のアイボルト44の互いに逆ネジの関係にあるネジ軸44a、44bの部分に対して、それぞれネジ対偶の構成で連結されている。上記一対の関節部36と異なる、水平方向の対角に位置した他の一対の関節部37は、図8中に点線で囲んだように、外部工具と接続可能な断面コの字型の接続部38aを有する一対の接続金具38に軸支されることにより構成されている。
このように構成されているので、一対の関節部36が互いに離間するようにアイボルト44を回転操作すると、(他の)一対の関節部37は互いに近接し、接続された外部工具を介して掴持された電線の張力を増大させることができる。
逆に、一対の関節部36が互いに近付くようにアイボルト44を回転操作すると、他の一対の関節部37同士が離間するので、電線の張力が減少する。
また、アイボルト44のネジ軸44a、44bに対して、一対の関節部36の間(上側ベース40と下側ベース42との間)に生じる圧縮方向への力は、一対の関節部36同士の間隔が大きくなるほど増大するので、この圧縮方向への力が作用する分だけ張力を解除するために要する力は少なくて済む。
本実施の形態に係る張線器30の伸縮構造では、上記構成に加えて、水平方向の対角位置に配置される他の一対の関節部37の少なくとも一方は、上下方向の対角位置に配置された一対の関節部36から延びるリンク片31a、31b、31c、31dの端部にそれぞれ形成されたギア33、34同士が係合する近接した2軸によって、上記接続金具38に軸支されている。
このように構成されているので、ギア33、34同士が噛み合うことにより、リンク片31a、31b、31c、31dを軸支する2軸が並ぶ方向とネジ軸44aの延びる方向との関係が一定に保たれる(本実施の形態では平行が維持される)。これにより、伸縮構造を中心とする電線の不安定な揺れを防止することが可能となる。
次に、張線器30の動作について説明する。
図9は、張線器30の動作を示しており、(a)は伸長状態を、(b)は収縮状態を表している。また、それぞれのパンタグラフ機構を構成するリンク片31a、31b、31c、31dに沿って作用する力と、ネジ軸44a、44bに働くそれらの合力を矢印で表している。
張線器30全体の構成のうち、水平方向への移動に寄与する可動部分の伸縮方向への変化の大きさを比較すると、図9(a)の伸長状態において、リンク部31の対角の位置に対向配置された接続金具38に連結されたリンク端同士の間の距離は、幅W1で表されている。これに対して、図9(b)の収縮状態においては、リンク端同士の間の距離は、幅W2で表されている。
したがって、電線を引き込むことのできる引き込み量をLで表すと、最も伸長したときのリンク端同士の間隔(幅W1)は、W2+L/2+L/2(=W2+L)で表される。
すなわち、本構成によれば、引き込み量Lを得るために、余分に、幅W2の長さを占める構成が必要になるということである。
これと比較して、従来の、例えば、径の異なる筒部材を入れ子状に繋いだ伸縮構造(特許文献1の棒型張線器など)においては、引き込み量Lを得るためには、少なくとも、伸縮可能な長さ(引き込み量)Lの部分を収容するために同じ長さの鞘となる部分が必要となる。よって、従来の構成では、筒部材の入れ子構造の場合、少なくとも2Lの長さが必要となる。
これに対して、図9の構成においては、幅W2が引き込み量Lよりも小さくなるようにリンク機構を構成することが可能であり、収縮状態の可動部の全長が従来の全長(2L)よりも小さくなるので、コンパクトに設計することが可能となる。
ところで、図9には、パンタグラフ機構を構成するリンク部31において、上側ベース40を中心として、リンク片31a、31b及びネジ軸44aに作用する力が矢印で表されている(下側ベース42に作用する力も同様)。また、上下2つのリンク片がなす角が開き角θで表されている(図9(b))。
リンク部31に作用する力を図9(b)に矢印で示したように、一対の関節部37の位置がネジ軸44a、44bに近付くほど、リンク片31a、31b、31c、31dに沿った力は大きくなる。
これは、例えば、2本のワイヤーロープで荷を吊り上げる際の力関係と類似している。クレーンのフックに2本のワイヤーロープを引っ掛けて荷を吊り上げる場合、フックの位置が荷に近いほど、2本のワイヤーロープの間の角度(つり角度)は大きくなり、ワイヤーロープ1本に生じる張力が大きくなる。そして、それぞれのワイヤーロープに生じる張力が大きくなるほど、それらの合力である内側に引き寄せる力(荷に生じる圧縮力)も大きくなる。
なお、上述のようなクレーンで荷を吊り上げる場合、荷の質量に変化は生じないが、本構成では、伸縮機構が収縮するほど電線に生じる張力が大きくなる。
このように構成されているので、上述の使用状態の説明図(図7参照)のように、2つの掴線器1の間の電線200の張力を緩和するために張線器30を収縮させると、徐々に上側及び下側ベース40、42がネジ軸44a、44bを圧縮する力が大きくなる。このネジ軸44a、44bに沿った圧縮力は、伸縮機構が最も収縮した状態において最大となる。
したがって、作業が完了し、張線器30による張力を解除する際には、伸縮機構が大きく収縮状態となっており、上述の圧縮力による寄与が大きいので、小さい力でアイボルト44を緩めることができ、操作性、安全性が向上する。
例えば、ラック及びピニオンの組み合わせによる構成や、送りネジの移動を利用した構成などのような従来の伸縮機構の場合、大きな負荷が加わっている収縮状態に変化を与えるための初動操作においては、固定状態を解消するために衝撃動作が必要となる場合がある。そして、架空線のように安定しない作業対象への衝撃動作においては、揺れが生じるなど、好ましくない力の伝播を伴う場合がある。
しかし、上述のように、本構成の張線器30によれば、電線200に生じさせる張力が大きくなるほど、伸縮機構において、張力を解放させるように作用する圧縮力が増大する。このため、衝撃動作を伴うことなく、緩やかに張力解除のための操作を行うことができ、作業が容易になるという利点がある。
なお、図8に示したように、張線器30には、パンタグラフ機構の2組のリンク部31、32を備えているが、少なくとも、1組のパンタグラフ式のリンク部を備えていれば同様の効果が得られる。
また、図8では、一対の関節部37を構成するリンク片31a、31b、31c、31dは、接続金具38に対して2軸で軸支された構成を例として示した。しかし、共通の1軸により軸支される構成であっても構わない。
また、一対の関節部36を構成するリンク片31a、31b、31c、31dは、共通の1軸で軸支された構成を例として示した。しかし、一対の関節部37のように2軸で個別に軸支される構成でも構わない。
また、一対の関節部37を構成するリンク片31a、31b、31c、31dの端部には、ギア33、34が形成されている構成を例として示した。しかし、これらギア33、34は必須の構成ではない。
以下では、電線を接続する際に用いられる各種スリーブについて説明する。
<C型スリーブ>
図10は、長手方向に側方が開放された、断面C型のスリーブ50を示す斜視図である。
また、図11は、図10のC型スリーブ50による電線の接続手順を示し、(a)はC型スリーブ50に電線200を収容する工程、(b)はC型スリーブ50を圧着する工程、(c)は接続完了状態を示した図である。
図10に示すように、C型スリーブ50は、長手方向の全域に渡って断面C字型に側方が開放されており、電線200の導体端部200aを収容可能な内径となるように形成されている。
このように構成されているので、図11(a)に示すように、電線200を極端に撓ませることなく先端同士を付き合わせた状態で、開放された側方から導体端部200a同士を収容することができる。
従来のように、筒状部材の両端側から電線の導体端部を挿入する場合、挿入長さ分だけ導体端部をそれぞれ後退させる必要がある。しかし、十分な長さのバイパス区間を設けることができない場合、局所的に電線を大きく変形させる必要がある。そして、このような作業を硬質の電線や径の大きい電線について行う場合、形状復元のために電線の矯正工具が必要となり作業負担が大きくなるばかりか、電線に損傷を生じる恐れもある。
これに対して、本構成のように、開放した側方から電線を収容できると、バイパス区間が短い場合であっても、電線に局所的に大きな変形を伴うこともなくスリーブ内に電線を収容でき、作業効率が向上する。
電線200の導体端部200a同士が収容された後、図11(b)に示すように、内面が半円筒型に形成された圧着ダイス51によって所定間隔を空けて複数個所が圧着される。ここでは、説明の便宜のために、圧着工具については図示をせず、圧着ダイス51のみで圧着工程を模式的に表している。
このようにして、開放端縁50a、50b同士が電線200の導体端部200aに巻き付けられて、図11(c)のように接続される。この後、絶縁のために電線200は被覆部分を含めてC型スリーブ50とともにスリーブカバー(図示せず)によって覆われる。本構成のC型スリーブ50に対しては、収縮チューブタイプや、2分割された樹脂製の割型をヒンジで繋いだタイプのスリーブカバーを用いることができる。
図12は、図10のC型スリーブ50の変形例を示している。
図10のC型スリーブ50の開放端縁50a、50bが長手方向に沿って直線状に形成されているのに比べて、本構成のC型スリーブ52の開放端縁52a、52bには、互いに噛み合うように凹凸の繰り返し形状が形成されている。また、図13は、図12のC型スリーブ52による電線200の接続手順を示し、(a)はC型スリーブ52に電線200を収容する工程、(b)はC型スリーブ52を圧着する工程、(c)は接続完了状態を示した図である。
このように構成されているので、図13(a)に示すように、図10の構成と同様に、電線200を不要に変形させることなく、側方から容易にC型スリーブ52内に電線200の導体端部200aを収容することができる。
図11(b)と同様に、図13(b)に示すように、圧着ダイス51によって複数個所が圧着されるが、本構成の場合、開放端縁52a、52bには矩形の凹凸形状が形成されているので、互い違いに噛み合わせるように電線200の導体端部200aに巻き付けられる。
このため、図13(c)に示すように、長手方向へ直線的に連続した隙間が形成されるのを防止することができ、良好な被覆状態を形成することが可能となる。
図14は、図10、12とは異なる更なる変形例を示すC型スリーブ54の断面図である。図中の点線は、収容される電線200の導体端部200aを示している。
図14のC型スリーブ54は、開放端縁54a、54bの間隔が、収容される電線200の導体端部200aの外径よりも小さくなるように形成されている。このように形成されていると、図11(b)又は図13(b)に示すような圧着ダイス51で開放端縁54a、54bを巻き付けるように圧縮する際、C型スリーブ54が圧着ダイス51の内側に入り易くなるので、作業効率が向上する。
さらに、テーパー状に形成された開放端縁54a、54bの先端の外側エッジに面取り加工を施すと、引っ掛かりを生ずることなく、よりスムーズに圧着作業を行うことができる。
<2分割スリーブ>
図15は、2分割型のスリーブ60を表している。このうち(a)は斜視図を示し、(b)は部分的に断面図で表した斜視図を示している。
図15に示すように、2分割スリーブ60は2分割で構成されており、それぞれ、電線
200の導体端部200aを収容する電線収容筒部61と、互いに連結するためのスリーブ連結部62とを有している。スリーブ連結部62は、互い違いに合わせることにより円柱が形成される半円柱状に形成されており、結合状態を固定するためのピン63を挿入できるピン挿入孔62aが形成されている。
図15に示す2分割スリーブ60は、2分割に構成されているので、上述のように、それぞれの電線200の導体端部200aに対して、個別に取り付けることが可能である。すなわち、電線200を全く撓ませることなく、電線収容筒部61に収容することができる。
また、ピン結合により互いを接続することができるので作業効率が容易になる。さらに、バイパスケーブルにも同様の2分割スリーブ60を用いると、作業後にバイパスケーブルからの繋ぎ替えを容易に行うことができる。そして、バイパスケーブル側は、他の工事区間で同様に繋ぎ替えを行うために流用することができる。
図16は、図15の2分割スリーブ60による電線の接続手順を示し、(a)は2分割スリーブ60に電線200を収容する工程、(b)は2分割スリーブ60を圧着する工程、(c)は接続完了状態を示した図である。
図16(a)に示すように、電線収容筒部61に電線200の導体端部200aを収容する際は、互いの電線200同士を突き合わせて位置決めする必要はなく、それぞれ個別に収容作業を行うことができる。
そして、図16(b)に示すように、電線収容筒部61が電線200の導体端部200aに対して圧着ダイス51により圧着される。圧着が完了した後、スリーブ連結部62同士がピン63により結合されて、図16(c)のような状態となる。
本構成の場合も、上述のC型スリーブ50の場合と同様に、収縮チューブタイプのスリーブカバーで覆うこともできるが、ピン63の形状に合わせて加工された割型によるスリーブカバーを用いるとピン63の緩み等も防止することができるので、より安定して保護することができる。
図17は、クサビ機構を利用した2分割スリーブ70を表している。このうち(a)は斜視図を示し、(b)は部分的に断面図で表した斜視図を示している。
図17に示すように、2分割スリーブ70は2分割で構成されており、それぞれ、電線200の導体端部200aを収容する電線収容筒部71を有している。電線収容筒部71の内側は、電線受入口71a側に向かって内径が小さくなるようにテーパー面71bが形成されている。そして、このテーパー面71bに嵌合するテーパー部73aを有するコレット73が内設されている。電線受入口71aから挿入された電線200の導体端部200aは、コレット73に掴持されて2分割スリーブ70に固定される。
コレット73の拡径側の端部には肩部73bに傾斜面が形成されている。そして、2分割スリーブ70には、コレット73の肩部73bの傾斜面に相当する位置に戻り止めネジ75が設けられている。この戻り止めネジ75をコレット73の肩部73bの傾斜面に当接させることにより、コレット73がテーパー面71bに押し付けられるので、コレット73が戻って緩むことを防止できる。
互いの2分割スリーブ70を連結するためのスリーブ連結部72については、図15の2分割スリーブ60の場合と同様にピン結合の構成が用いられている。
図18は、図17の2分割スリーブ70による電線200の接続手順を示し、(a)は2分割スリーブ70に電線200を収容する工程、(b)は2分割スリーブ70を圧着する工程、(c)は接続完了状態を示した図である。
図18(a)に示すように、電線収容筒部71に電線200の導体端部200aを収容する際は、互いの電線200同士を突き合わせて位置決めする必要はなく、それぞれ個別に収容作業を行うことができる。
そして、図18(b)に示すように、電線200の導体端部200aが電線収容筒部71のコレット73内に収容された状態で、戻り止めネジ75を締め込むことにより、導体端部200aは、クサビ作用によってコレット73を介して電線収容筒部71に圧着される(図17参照)。圧着が完了した後、スリーブ連結部72同士がピン76により結合されて、図18(c)のような状態となる。
収縮チューブタイプのスリーブカバーを用いることも、割型のスリーブカバーを用いることもできるのは、図15の構成と同様である。
図19は、圧着結合型の2分割スリーブ80を示し、(a)は斜視図、(b)は縦断面を表した斜視図である。
図19に示すように、本構成の2分割スリーブ80は2分割で構成されているが、図15、図17の構成のように対応するそれぞれの2分割スリーブ80は同形ではなく、雄型スリーブ80aと雌型スリーブ80bとが雌雄一対型の構成となっており、連結構造が異なっている。
雄型スリーブ80aの電線収容筒部81aには、雄型連結部82が延設されている。この雄型連結部82は電線収容筒部81aよりも外径の小さい首部82aが形成されており、この首部82aには、さらに、首部82aよりも外径の大きい頭部82bが形成されている。
これに対して、雌型スリーブ80bの電線収容筒部81bには、雌型連結部83が形成されている。本構成では電線収容筒部81bと雌型連結部83とは内径、外径ともに同径の構成となっており、1本の円筒形状として形成されているが、例えば、電線収容筒部81bと雌型連結部83との間に仕切りが設けられていても構わない。また、雄型連結部82の頭部82bが収容可能な内径を有していれば、雌型連結部83の内径及び外径は電線収容筒部81bと一致していなくても構わない。
図20は、図19の2分割スリーブ80による電線200の接続手順を示し、(a)は2分割スリーブ80に電線200を収容する工程、(b)は2分割スリーブ80を圧着する工程、(c)は雄型及び雌型連結部82、83を圧着固定する工程、(d)は接続完了状態を示した図である。
図20(a)に示すように、電線収容筒部81a、81bにそれぞれ電線200の導体端部200aを収容する際は、互いの電線200同士を突き合わせて位置決めする必要はなく、それぞれ個別に収容作業を行うことができる。
そして、図20(b)に示すように、電線収容筒部81a、81bが電線200の導体端部200aに対して圧着ダイス51により圧着される。
圧着が完了した後、図20(c)に示すように、雄型及び雌型の連結部82、83同士が連結された状態で、雌型連結部83のうち、雄型連結部82の首部82aに重なる領域
が圧着ダイス51により圧着される。このようにして連結された状態が図20(d)に示されている。
本構成では、ピン結合を用いないので、突起のないスムーズな形状の連結構造を形成することができる。
図21は、図19とは異なる圧着結合型の2分割スリーブ90を示し、(a)は斜視図、(b)は縦断面を表した斜視図である。
図21に示すように、雄型連結部92を有する雄型スリーブ90aは、図19に示した構成と同様である。これに対して、雌型連結部93を有する雌型スリーブ90bは、雌型連結部93の外径が、電線収容筒部91bよりも径が小さくなるように形成されている点において、図19の構成とは異なっている。
図22は、図21の2分割スリーブ90による電線200の接続手順を示し、(a)は2分割スリーブ90に電線200を収容する工程、(b)は2分割スリーブ90を圧着する工程、(c)は雄型及び雌型連結部92、93を圧着する工程、(d)は接続完了状態を示した図である。
接続工程については、図19の圧着結合型の2分割スリーブ80について図20を用いて説明したのと同様であるが、図22(d)に示すように、連結後の形状が異なっている。
本構成においては、雌型連結部93と電線収容筒部91bとの内径は略同じ径に形成されているが、外径は雌型連結部93の方が小さくなるように形成されている。すなわち、連結時の変形が容易になるので、圧着状態が良好になる。
さらに、この雌型連結部93の縮径部93aは、内部で雄型連結部92の首部92aと重なる領域に形成されていると、連結時に圧着すべき領域が確認し易いという利点があり、熟練工でなくても安定して確実に連結作業を行うことが可能となる。
<剥ぎ取り器一体型スリーブ>
図23は、2分割で構成された被覆剥ぎ取り器一体型の剥ぎ取り器スリーブ100の斜視図である。
図23に示すように、本構成の剥ぎ取り器スリーブ100では、切断され、被覆が除去された電線200の導体端部200aを収容可能な内径を有する電線収容筒部101の両端に、電線200の被覆を端部から螺旋状に剥ぎ取ることができる剥ぎ取り器103が一体に設けられている。
それぞれの剥ぎ取り器スリーブ100は同形であり、図15に示した構成と同様の、ピン結合により連結される連結部102を有している。
図24は、図23の剥ぎ取り器スリーブ100による電線200の接続手順を示し、(a)は剥ぎ取り器スリーブ100に電線200を収容する工程、(b)は剥ぎ取り器スリーブ100を圧着する工程、(c)は連結部102をピン104で結合する工程、(d)は接続完了状態を示す図である。
図24(a)に示すように、被覆のある電線200の端部を、一方の剥ぎ取り器103側から電線200の被覆を螺旋状に剥ぎ取りながら挿入し、他方の剥ぎ取り器103側も
同様に挿入する。このとき、回転駆動装置等に剥ぎ取り器スリーブ100を設置して駆動回転させながら進めると、電線200を捻ることなく容易に挿入することができる。
次に、図24(b)に示すように、電線200の導体端部200aが挿入された電線収容筒部101を圧着ダイス51により圧縮変形させると、電線収容筒部101と電線200とが良好に固着される。
本構成においては、図15の2分割スリーブ60と同様に、ピン結合の構成が採用されているので、回転位置を合わせて図24(c)に示すようにピン104で結合される。そして、このようにして結合された状態が図24(d)に示されている。
このように、予め接続する部分の被覆を剥ぎ取る工程を設けることなく、被覆剥ぎ取りと同時に連結工程を行うことができるので、作業時間が大幅に短縮可能である。
本構成に対しては、電線200、剥ぎ取り器103及び電線収容筒部101を覆うことのできる割型により形成されたスリーブカバーが適している。
なお、本構成では、連結のためにピン結合の構成が用いられている例を示したが、図19又は図21に示したような圧着結合型の連結構造を用いても構わない。
図25は、被覆剥ぎ取り器一体型の剥ぎ取り器スリーブ110の斜視図である。
本構成は、電線収容筒部111が一体に形成されている点において、図23の構成とは異なっている。電線収容筒部111の両端に設けられた剥ぎ取り器112のそれぞれから、交互に被覆を剥ぎ取りながら電線200を挿入することができるので、不要に電線200を撓ませることなく接続作業を行うことが可能である。
図26は、図25の剥ぎ取り器スリーブ110による電線200の接続手順を示し、(a)は剥ぎ取り器スリーブ110の一方に電線200を収容する工程、(b)は剥ぎ取り器スリーブ110の他方に電線200を収容する工程、(c)は剥ぎ取り器スリーブ110を圧着する工程、(d)は接続完了状態を示す図である。
図26(a)に示すように、まず、一方の剥ぎ取り器112側を回転させながら電線200を電線収容筒部111へ挿入する。電線収容筒部111の中間位置まで電線200の導体端部200aが達した時点で、図26(b)に示すように、他方の剥ぎ取り器112側を回転させながら電線200を電線収容筒部111へ挿入する。
ここで、2つの剥ぎ取り器112の刃の向きは、挿入される電線200に対して同じ方向に剥ぎ取りが進むように設定すると、一方の被覆を剥ぎ取る際、他方側では逆方向に空転するので、不要に被覆が剥ぎ取られることを防止できる。
このようにして両側から電線200の導体端部200aが挿入された状態で、図26(c)に示すように、電線収容筒部111が圧着ダイス51によって圧縮固定される。そして、圧縮固定が完了した状態が図26(d)に示されている。