以下、本発明にかかる燃料噴射制御装置、およびその装置を含む燃料噴射システムの各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1に示すインジェクタ10は、点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)に搭載されており、内燃機関の燃焼室2へ直接燃料を噴射するものである。具体的には、燃焼室2を形成するシリンダヘッド3のうちシリンダの軸線Cと一致する位置に、インジェクタ10を挿入する取付穴4が形成されている。
インジェクタ10へ供給される燃料は、図示しない燃料タンクに貯蔵されている。燃料タンク内の燃料は、低圧ポンプにより汲み上げられ、高圧ポンプ40により昇圧されてデリバリパイプ30へ圧送される。デリバリパイプ30内の高圧燃料は、各気筒のインジェクタ10へ分配供給される。高圧ポンプ40の構造については、図5を用いて後に詳述する。
シリンダヘッド3には点火プラグ6が取り付けられている。点火プラグ6およびインジェクタ10は、シリンダヘッド3のうち燃焼室2に対してピストンの反対側の部分に並べて配置されている。
図2に示すように、インジェクタ10は、ボデー11、弁体12、コイル13、固定コア14、可動コア15、ハウジング16等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に燃料通路11aが形成されるよう、磁性材料にて形成されている。ボデー11は、弁体12が離着座する着座面17b、および燃料を噴射する噴孔17aを形成する。
図3を用いてより詳細に説明すると、ボデー11には、着座面17bが形成された噴孔体17が取り付けられている。噴孔体17には、噴孔17aが形成された噴孔プレート17pが取り付けられている。弁体12のうち着座面17bに着座する部分がシート部12aである。具体的には、弁体12の本体部12bと先端部12cとの境界線が、着座面17bに着座するシート部12aとして機能する。本体部12bは軸線C方向に延びる円柱形状であり、先端部12cは、本体部12bの噴孔側先端から噴孔17aに向けて延びる円錐形状である。要するに、円柱と円錐の境界線である角部が、軸線C周りに延びる環状のシート部12aに相当する。
シート部12aを着座面17bに着座させるよう弁体12を閉弁作動させると、噴孔17aからの燃料噴射が停止される。シート部12aを着座面17bから離座させるよう弁体12を開弁作動(リフトアップ)させると、噴孔17aから燃料が噴射される。燃料通路11aのうち弁体12のシート部12aより下流側、かつ、噴孔17aの上流側部分がサック室17sである。サック室17sの燃圧(サック燃圧)が高いほど、噴孔17aから噴射した燃料の噴霧粒径が小さくなる。
噴孔17aの流路長さLは、噴孔17aの入口直径Dよりも小さい。噴孔プレート17pの板面の垂直方向に対して噴孔17aの流路方向が傾くよう、噴孔プレート17pに噴孔17aが形成されている。また、噴孔17aの断面形状は円形である。したがって、噴孔17aの入口形状は楕円であり、厳密には、入口直径Dは楕円の長径寸法である。
図2の説明に戻り、コイル13は、樹脂製のボビン13aに巻き回して構成され、該ボビン13aと樹脂材13bにより封止されている。つまり、コイル13、ボビン13a、樹脂材13bにより、円筒形状のコイル体が構成されている。
固定コア14は、磁性材料にて円筒形状に形成され、円筒内部に燃料通路14aを形成する。ボデー11の内周面には固定コア14が挿入され、ボデー11の外周面にはボビン13aが挿入されている。さらに、コイル16を封止する樹脂材13bの外周面は、ハウジング16により覆われている。ハウジング16は、磁性材料にて円筒形状に形成されている。なお、ハウジング16の開口端部には、磁性材料にて形成される蓋部材18が取り付けられている。これにより、コイル体は、ボデー11、ハウジング16および蓋部材18により取り囲まれることとなる。
可動コア15は、磁性材料にて円盤形状に形成され、ボデー11の内周面に挿入配置されている。なお、ボデー11、弁体12、コイル体、固定コア14、可動コア15およびハウジング16は、各々の中心線が一致するように配置されている。そして、可動コア15は、固定コア14に対して噴孔17aの側に配置されており、コイル13への非通電時には固定コア14と所定のギャップを有するよう、固定コア14に対向配置されている。
コイル13へ通電して固定コア14に電磁吸引力を生じさせると、この電磁吸引力により可動コア15が固定コア14に引き寄せられる。その結果、可動コア15に連結されている弁体12は、メインスプリングSP1の弾性力および燃圧閉弁力に抗してリフトアップ(開弁作動)する。燃圧閉弁力とは、燃料通路11a内の燃料圧力が弁体12を閉弁側に押す力のことである。一方、コイル13への通電を停止させると、メインスプリングSP1の弾性力により、弁体12は可動コア15とともに閉弁作動する。
図4は、図2の拡大図であるとともに、シリンダヘッド3の取付穴4へインジェクタ10を挿入して取り付けた状態を示す。先述の如くコイル体を取り囲むボデー11、ハウジング16、蓋部材18および固定コア14は、磁性材料により形成されるため、コイル13への通電により生じた磁束の通路となる磁気回路を形成することとなる。つまり、図中の矢印に示すように磁気回路中を磁束が流れる。
なお、ハウジング16のうちコイル13を収容する領域の部分をコイル領域部16aと呼ぶ。また、ハウジング16のうち磁気回路を形成する領域の部分を磁気回路領域部16bと呼ぶ。換言すれば、挿入方向(図4の上下方向)のうち、蓋部材18の反噴孔側(図4の上側)の端面位置が、磁気回路領域部16bの反噴孔側の領域境界である。図4の例では、磁気回路領域部16bのうち挿入方向(図4の上下方向)の全体が、全周に亘って、取付穴4の内周面4aにより囲まれている。そして、シリンダヘッド3のうち磁気回路を全周に亘って取り囲んでいる部分が、「環状導電部3a(内燃機関の所定箇所)」に相当する。
ボデー11のうちハウジング16よりも噴孔側に位置する部分の外周面は、取付穴4の内周面4bに接触している(図1参照)。これに対し、ハウジング16の外周面は、取付穴4の内周面4aとの間に隙間CLを形成している(図4参照)。換言すれば、磁気回路領域部16bの外周面と取付穴4の内周面4aとは、隙間CLを隔てて対向する。
このように、磁気回路が環状導電部3aに取り囲まれているため、コイル13へ電流を流して磁気回路で磁束変化が生じると(図4中の矢印参照)、その磁束変化に伴い環状導電部3aに渦電流が生じる。この渦電流は図4の紙面垂直方向に流れる。
図2の説明に戻り、可動コア15には貫通孔15aが形成されており、この貫通孔15aに弁体12が挿入配置されることで、弁体12は可動コア15に対して摺動して相対移動可能に組み付けられている。弁体12の反噴孔側端部には係止部12dが形成されている。可動コア15が固定コア14に吸引されて移動する際には、係止部12dが可動コア15に係止された状態で移動するので、可動コア15の移動開始と同時に弁体12も移動(開弁作動)を開始する。但し、可動コア15が固定コア14に接触した状態であっても、弁体12は可動コア15に対して相対移動してリフトアップすることが可能である。
弁体12の反噴孔側にはメインスプリングSP1が配置され、可動コア15の噴孔側にはサブスプリングSP2が配置されている。これらのスプリングSP1、SP2はコイル状であり、軸線C方向に変形して弾性変形する。メインスプリングSP1の弾性力(メイン弾性力Fs1)は、調整パイプ101からの反力として弁体12へ閉弁方向に付与される。サブスプリングSP2の弾性力(サブ弾性力Fs2)は、ボデー11の凹部11bからの反力として可動コア15へ吸引方向に付与される。
要するに、弁体12は、メインスプリングSP1と着座面17bとの間に挟まれており、可動コア15は、サブスプリングSP2と係止部12dとの間に挟まれている。そして、サブ弾性力Fs2は可動コア15を介して係止部12dに伝達され、弁体12へ開弁方向に付与されることとなる。したがって、メイン弾性力Fs1からサブ弾性力Fs2を差し引いた弾性力Fsが、弁体12へ閉弁方向に付与されているとも言える。
詳細には、弁体12がリフトアップすると、メインスプリングSP1については、圧縮量(弾性変形量)が増大するのでメイン弾性力Fs1は増大する。一方、サブスプリングSP2については、弁体12がリフトアップすると圧縮量(弾性変形量)が減少するのでサブ弾性力Fs2が減少する。これらの合成弾性力Fs(=Fs1+Fs2)はリフトアップに伴い増大する。
閉弁時(ストローク=0)におけるメイン弾性力Fs1(セット荷重Fset1)は、閉弁時におけるサブ弾性力Fs2(セット荷重Fset2)よりも大きい。したがって、閉弁時の合成弾性力Fsはセット荷重Fset1よりも小さい。図2に示すように、固定コア14の円筒内部に対する、調整パイプ101の取付位置を調整することで、メインスプリングSP1のセット荷重Fset1が調整可能である。
次に、図5を用いて、高圧ポンプ40について説明する。高圧ポンプ40は、プランジャ45の往復運動により燃料の吸入および吐出を行うピストンポンプである。詳しくは、高圧ポンプ40の駆動軸5は、内燃機関のクランク軸により回転駆動される。つまり、高圧ポンプ40は、内燃機関の回転トルクで駆動する機械式ポンプである。カム機構46は、駆動軸5の回転運動をプランジャ45の往復運動に変換する。プランジャ45は、燃料通路48の途中に配置されたポンプ室44内で往復運動する。これにより、低圧ポンプから高圧ポンプ40へ供給された燃料は、ポンプ室44内に吸入され、プランジャ45により圧縮された後、ポンプ室44からデリバリパイプ30へ吐出される。
高圧ポンプ40の燃料吸入側には、通電に伴い閉弁する常開式の調量弁43が設けられており、この調量弁43の閉弁時間を制御することで高圧ポンプ40の燃料吐出量が調整される。すなわち、プランジャ45が下降する際には、ポンプ室44に燃料が吸入される。その後、プランジャ45が上昇に転じた際に調量弁43が非通電の場合には、調量弁43が開弁状態を保つことにより、ポンプ室44内の燃料が上流側に戻される。一方、調量弁43への通電に伴い調量弁43が閉弁されると、ポンプ室44内の燃料の圧力が上昇し、その高圧燃料がデリバリパイプ30に圧送される。かかる場合、調量弁43の閉弁タイミング(通電タイミング)を遅角させるほど、燃料圧送期間が小さくなり、ひいては燃料圧送量が少なくなる。なお、調量弁43としては、常開式の代わりに常閉式のものを採用してもよい。
また、逆止弁42の下流側には、燃料吐出圧を制限する圧力開放弁としてのリリーフ弁47が設けられている。リリーフ弁47は、高圧ポンプ40の燃料吐出圧が所定のリリーフ圧(例えば25MPa)以上の場合に開弁し、その開弁時に高圧ポンプ40の吐出燃料を、燃料戻し管49を介して燃料タンク25に戻す。これにより、デリバリパイプ30内の燃料圧力がリリーフ圧を超えないようになっている。なお、リリーフ弁47については、高圧ポンプ40に設ける代わりに、デリバリパイプ30に設けてもよい。
図1の説明に戻り、電子制御装置(ECU20)は、特許請求の範囲に記載の「燃料噴射制御装置」に相当するものであり、マイクロコンピュータ(マイコン21)、集積IC22、昇圧回路23、スイッチング素子SW2、SW3、SW4等を備える。
マイコン21は、中央演算装置、不揮発性メモリ(ROM)および揮発性メモリ(RAM)等を有して構成され、内燃機関の負荷および機関回転速度に基づき、燃料の要求噴射量Qreqおよび目標噴射開始時期を算出する。なお、通電時間Tiと噴射量Qとの関係を示す特性線(図7参照)を予め試験して取得しておき、その特性線にしたがってコイル13への通電時間Tiを制御することで、噴射量Qを制御する。
例えば、上記特性線に基づき、通電時間Tiと噴射量Qとの関係を示すマップ(Ti−Qマップ)を作成しておき、該Ti−Qマップをメモリに記憶させておく。そして、要求される噴射量(要求噴射量Qreq)に適合する通電時間Tiを、Ti−Qマップを参酌して設定する。なお、インジェクタ10に供給される燃圧(つまり、デリバリパイプ30内の燃圧)が高いほど、通電時間Tiは短くて済む。そこで、供給燃圧毎にTi−Qマップを作成して記憶させておき、噴射時の供給燃圧に応じて参酌するTi−Qマップを切り替える。
集積IC22は、スイッチング素子SW2、SW3、SW4の作動を制御する噴射駆動回路22a、および昇圧回路23の作動を制御する充電回路22bを有する。これらの回路22a、22bは、マイコン21から出力された噴射指令信号に基づき作動する。噴射指令信号は、インジェクタ10のコイル13への通電状態を指令する信号であり、先述した要求噴射量Qreqおよび目標噴射開始時期と、後述するコイル電流検出値Iとに基づき、マイコン21により設定される。噴射指令信号には、後述する噴射信号、ブースト信号およびバッテリ信号が含まれている。
昇圧回路23は、コイル23a、コンデンサ23b、ダイオード23cおよびスイッチング素子SW1を有する。スイッチング素子SW1がオン作動とオフ作動を繰り返すように充電回路22bがスイッチング素子SW1を制御すると、バッテリ端子Battから印加されるバッテリ電圧がコイル23aにより昇圧(ブースト)されて、コンデンサ23bに蓄電される。このように昇圧されて蓄電された電力の電圧が「ブースト電圧」に相当する。
そして、噴射駆動回路22aがスイッチング素子SW2、SW4をともにオン作動させると、インジェクタ10のコイル13へブースト電圧が印加される。一方、スイッチング素子SW2をオフ作動させてスイッチング素子SW3をオン作動させるように切り替えると、インジェクタ10のコイル13へバッテリ電圧が印加される。なお、コイル13への電圧印加を停止させる場合には、スイッチング素子SW2、SW3、SW4をオフ作動させる。ダイオード24は、スイッチング素子SW2のオン作動時に、ブースト電圧がスイッチング素子SW3に印加されることを防止するためのものである。
シャント抵抗25は、スイッチング素子SW4を流れる電流、つまりコイル13を流れる電流(コイル電流)を検出するためのものであり、マイコン21は、シャント抵抗25で生じた電圧降下量に基づき、先述したコイル電流検出値Iを検出する。
次に、コイル電流を流すことにより生じる電磁吸引力(開弁力)について、詳細に説明する。
固定コア14で生じさせる起磁力(アンペアターンAT)が大きいほど、電磁吸引力は大きくなる。つまり、コイル13の巻き数が同じであれば、コイル電流を多くしてアンペアターンATを大きくするほど、電磁吸引力は大きくなる。但し、通電を開始してから吸引力が飽和して最大値になるまでには時間がかかる。本実施形態では、このように飽和して最大値になった時の電磁吸引力を、静的吸引力Fbと呼ぶ。
また、弁体12が開弁作動を開始するのに必要な電磁吸引力を、必要開弁力Faと呼ぶ。なお、インジェクタ10への供給燃圧が高いほど、弁体12が開弁作動を開始するのに必要な電磁吸引力(開弁開始吸引力)は大きくなる。また、燃料の粘性が大きい場合等、各種状況に応じて開弁開始吸引力は大きくなる。そこで、開弁開始吸引力が最も大きくなる状況を想定した場合の開弁開始吸引力を、必要開弁力Faと定義する。
図6(a)は、燃料噴射を1回実施する場合における、コイル13への印加電圧波形を示す。図示されるように、噴射指令信号により指令される電圧印加開始時期t1(つまり、通電時間Tiの開始時期)に、ブースト電圧を印加して通電を開始させている。すると、通電開始に伴いコイル電流が第1目標値I1まで上昇する(図6(b)参照)。そして、先述したコイル電流検出値Iが、第1目標値I1に達したt1時点で、通電をオフさせている。要するに、初回の通電によるブースト電圧印加により、第1目標値I1までコイル電流を上昇させるように制御する。
その後、第1目標値I1よりも低い値に設定された第2目標値I2にコイル電流が維持されるように、バッテリ電圧による通電を制御する。具体的には、コイル電流検出値Iと第2目標値I2との乖離が所定幅以内となるよう、バッテリ電圧による通電オンオフを繰り返すことで、変動するコイル電流の平均値が第2目標値I2に保持されるようにデューティ制御する。そして、第2目標値I2は、静的吸引力Fbが必要開弁力Fa以上となるような値に設定されている。
その後、第2目標値I2よりも低い値に設定された第3目標値I3にコイル電流が維持されるように、バッテリ電圧による通電を制御する。具体的には、コイル電流検出値Iと第3目標値I3との乖離が所定幅以内となるよう、バッテリ電圧による通電オンオフを繰り返すことで、変動するコイル電流の平均値が第3目標値I3に保持されるようにデューティ制御する。
図6(c)に示すように、電磁吸引力は、通電開始時点、つまり上昇制御開始時点(t0)から、ピックアップ制御終了時点(t3)までの期間に上昇し続ける。なお、電磁吸引力の上昇速度は、上昇制御期間よりもピックアップ制御期間の方が遅い。そして、吸引力が上昇する期間(t0〜t3)のうちに吸引力が必要開弁力Faを超えることとなるよう、第1目標値I1、第2目標値I2およびピックアップ制御期間は設定されている。
ホールド制御期間(t4〜t5)では吸引力が所定値に保持される。開弁状態を保持するのに必要な開弁保持力Fcよりも上記所定値が高くなるよう、第3目標値I3は設定されている。なお、開弁保持力Fcは必要開弁力Faよりも小さい。
噴射指令信号に含まれる噴射信号は、通電時間Tiを指令するパルス信号であり、目標噴射開始時期よりも所定の噴射遅れ時間だけ早い時期t0にパルスオン時期が設定されている。そして、パルスオンしてから、通電時間Tiに応じた時間が経過した時期t5(つまり、通電時間Tiの終了時期)にパルスオフ時期が設定されている。この噴射信号にしたがってスイッチング素子SW4は作動する。
噴射指令信号に含まれるブースト信号は、ブースト電圧による通電オンオフを指令するパルス信号であり、噴射信号のパルスオンと同時にパルスオンする。その後、コイル電流検出値Iが第1目標値I1に達するまでの期間、ブースト信号はオンオフを繰り返す。このブースト信号のオンオフにしたがってスイッチング素子SW2は作動する。これにより、上昇制御期間においてブースト電圧が印加される。
噴射指令信号に含まれるバッテリ信号は、ピックアップ制御の開始時点t2でパルスオンする。その後、通電開始からの経過時間が所定時間に達するまでの期間、コイル電流検出値Iが第2目標値I2に保持されるようにフィードバック制御するよう、バッテリ信号はオンオフを繰り返す。さらにその後、噴射信号のパルスオフまでの期間、コイル電流検出値Iが第3目標値I3に保持されるようにフィードバック制御するよう、バッテリ信号はオンオフを繰り返す。このバッテリ信号にしたがってスイッチング素子SW3は作動する。
インジェクタ10への供給燃圧は、デリバリパイプ30に取り付けられた燃圧センサ31(図1参照)により検出されている。ECU20は、燃圧センサ31により検出された供給燃圧に応じて、上述したピックアップ制御を実施するか否かを判定する。例えば、供給燃圧が所定値以上である場合にはピックアップ制御を許可するが、所定値未満である場合にはピックアップ制御を実施せず、上昇制御の後にホールド制御を実施する。
図7は、通電時間Tiと噴射量Qとの関係を表した特性線を示しており、図中の実線は供給燃圧が10MPaの場合、点線は供給燃圧が20MPaの場合の特性線である。本実施形態では、燃料噴射システムがとりうる目標圧力の最大値(システム最大燃圧Pmax)が10MPaである。システム最大燃圧Pmaxは、高圧ポンプ40の最大吐出圧よりも低い値に設定されており、デリバリパイプ30内の燃圧(供給燃圧)を安定して保持可能な最大値に設定されている。
特性線のうち符号A1に示す領域をパーシャル領域、符号A2に示す領域をフルリフト領域と呼ぶ。パーシャル領域A1の通電時間Tiで燃料を噴射(パーシャル噴射)した場合には、可動コア15が固定コア14に衝突する前、つまり弁体12がフルリフト位置に達する前に閉弁作動を開始して、微少量の燃料が噴射される。フルリフト位置とは、可動コア15が固定コア14に衝突した時点における弁体12のリフト位置のことである。一方、フルリフト領域A2の通電時間Tiで燃料を噴射(フルリフト噴射)した場合には、弁体12がフルリフト位置に達した後に閉弁作動を開始するので、パーシャル領域A1で噴射した場合に比べて噴射量は多くなる。
パーシャル領域A1で噴射可能な最大噴射量Bは、供給燃圧が高いほど多くなる。したがって、例えば図7中の符号Q1に示す噴射量を供給燃圧10MPaで噴射させる場合にはフルリフト領域A2で噴射させることになるが、この噴射量Q1を20MPaで噴射させる場合にはパーシャル領域A1で噴射させることになる。
弁体12のシート部12aでの流量絞りによる圧力損失(シート絞り度合い)と、噴孔17aでの流量絞りによる圧力損失(噴孔絞り度合い)との合算値に対する、シート絞り度合いの割合を、シート絞り率と呼ぶ。そして、噴射開始直後では、シート絞り度合いが、噴孔絞り度合いよりも大きくなっており、弁体12がリフトアップするに伴いシート絞り率は小さくなっていく。なお、図7中の符号Cは、供給燃圧が10MPaの場合の特性線におけるシート絞り率50%となる通電時間Tiを示す。
次に、図8、図9および図10を用いて、マイコン21が実施する各種制御の処理手順を説明する。これらの制御は、内燃機関の作動期間中、所定周期(例えばCPUの演算周期)で繰り返し実行される。
はじめに、図8を用いてインジェクタ10を制御する手順を説明する。先ず、図8のステップS10(選択手段)において、先述した要求噴射量Qreqが、システム最大燃圧Pmaxでのパーシャル最大噴射量Qplmax以下であるか否かを判定する。Qreq≦Qplmaxと判定された場合、供給燃圧をシステム最大燃圧Pmaxにすればパーシャル領域A1での噴射が可能になることを意味する。このように肯定判定場合には、次のステップS11(選択手段)において、以下に説明する「出力向上量」および「ポンプ損失量」を大小比較する。
例えば、図7中の符号Q1に示す微少噴射の如く、パーシャル領域A1およびフルリフト領域A2のいずれでも噴射可能な場合において、供給燃圧をシステム最大燃圧Pmaxにしてパーシャル領域A1で噴射することを選択した場合には、フルリフト領域A2で噴射する場合に比べて高圧で噴射することになるので、噴霧粒径が小さくなる。よって、燃料噴射量に対する内燃機関の出力トルク、つまり内燃機関の出力効率が向上する。なお、ここで言う出力トルクには、高圧ポンプ40の駆動に要するトルクは除かれている。
しかし、その背反として、パーシャル噴射を選択して供給燃圧をシステム最大燃圧Pmaxにすると、高圧ポンプ40の吐出量増大に伴い駆動軸5の回転負荷が増大して、先述した燃料噴射量に対する出力トルク(出力効率)が低下する。
このように、フルリフト噴射を選択した場合と比較して、パーシャル噴射を選択して噴霧粒径が小さくなることに起因して内燃機関の出力効率が向上する量を「出力向上量」と呼ぶ。また、フルリフト噴射を選択した場合と比較して、パーシャル噴射を選択して高圧ポンプ40の負荷が大きくなることに起因して内燃機関の出力効率が低下する量を「ポンプ損失量」と呼ぶ。
これらのポンプ損失量および出力向上量は、その時の内燃機関の運転状態に応じて異なってくる。上記運転状態の具体例として、内燃機関の負荷、回転速度、温度、および内燃機関が補機を駆動させる場合の負荷等が挙げられる。そのため、ステップS11ではこれらの運転状態に応じて、出力向上量およびポンプ損失量の大小比較を実行する。
ステップS11にて出力向上量>ポンプ損失量と判定された場合には、続くステップS12、S13において、供給燃圧をシステム最大燃圧Pmaxにしてパーシャル領域A1で要求噴射量Qreqを噴射させるようにインジェクタ10の作動を制御する。
具体的には、先ずステップS12(噴射指令期間設定手段)において、Pmaxに対応する特性線に基づき作成されたTi−Qマップを参酌して、要求噴射量Qreqに対応する通電時間Tiを設定する。そして、このように設定した通電時間Ti(噴射信号)を含む噴射指令信号を集積IC22へ出力することで、インジェクタ10は、Pmaxに対応する特性線でのパーシャル領域A1で要求噴射量Qreqを噴射する。また、次のステップS13において、後述する目標供給燃圧Ptrg(目標圧力)をシステム最大燃圧Pmaxにするよう、強制指令フラグをオンに設定する。
これに対し、ステップS10にてQreq>Qplmaxと判定された場合(S10:YES)には、パーシャル最大噴射量Qplmaxでは要求噴射量Qreqに対して不足する。そのため、この場合にはステップS14(噴射指令期間設定手段)において、フルリフト領域A2で要求噴射量Qreqを噴射させるようにインジェクタ10の作動を制御する。
また、ステップS11にて出力向上量≦ポンプ損失量と判定された場合(S10:NO)には、上記不足は生じないためパーシャル領域A1での噴射が可能であるものの、パーシャル領域A1で噴射することによるデメリット(ポンプ損失量)がメリット(出力向上量)よりも大きくなる。そのため、この場合にもステップS14において、フルリフト領域A2で要求噴射量Qreqを噴射させるようにインジェクタ10の作動を制御する。ステップS14の処理を実行した後には、続くステップS15にて強制指令フラグをオフに設定する。
次に、図9を用いて高圧ポンプ40を制御する手順を説明する。先ず、図9のステップS20において、図8の処理において強制指令フラグがオンに設定されているか否かを判定する。オンに設定されている場合(S20:YES)には、続くステップS21(目標圧力設定手段)において、目標供給燃圧Ptrgをシステム最大燃圧Pmaxに設定する。一方、オフに設定されている場合(S20:NO)には、続くステップS22(目標圧力設定手段)において、以下に説明する燃圧マップを用いて、内燃機関の負荷および機関回転速度に基づき目標供給燃圧Ptrgを設定する。
具体的には、負荷に相当する目標噴射量Qreqおよび機関回転速度と、供給燃圧の最適値との関係を予め試験して取得しておき、その関係を示す燃圧マップをメモリに記憶させておく。この燃圧マップは、フルリフト領域A2で噴射した場合の試験結果に基づき作成されている。そして、目標噴射量Qreqおよび機関回転速度に基づき、燃圧マップを参酌して目標供給燃圧Ptrgを設定する。
続くステップS23(ポンプ制御手段)では、燃圧センサ31により検出された実燃圧Pactが、ステップS21、S22で設定した目標供給燃圧Ptrgに一致するよう、高圧ポンプ40をフィードバック制御する。具体的には、目標供給燃圧Ptrgと実燃圧Pactとの偏差に基づき調量弁43の作動を制御して、プランジャ45による燃料圧送量をフィードバック制御する。
次に、図10を用いて燃圧マップを更新して学習する手順を説明する。先ず、図10のステップS30(検出手段)において、コイル13への通電時にコイル13を流れる電流の波形(図6(b)参照)、またはコイル13に印加された電圧の波形を取得する。続くステップS31(検出手段)では、ステップS30で取得した波形に基づき、弁体12が着座面17bに着座して噴射を終了させた閉弁時期を推定する。例えば、着座に伴い波形中に特有の脈動が現れるので、その脈動出現時期に基づき閉弁時期を推定する。
続くステップS32(噴射データ取得手段)では、ステップS31で推定した閉弁時期に基づき、実噴射量を推定する。具体的には、先ず、噴射指令信号がコイル13への通電開始を指令した時期に基づき、噴射開始時期(開弁時期)を推定する。例えば、通電開始の指令時期から所定の遅れ時間を加算した時期を、開弁時期として推定すればよい。そして、推定した開弁時期および閉弁時期に基づき噴射期間を算出する。次に、その噴射時の供給燃圧と算出した噴射期間とに基づき実噴射量を算出する。
続くステップS33(噴射データ取得手段)では、ステップS32で推定した実噴射量と、その噴射時の通電時間Tiとに基づき、図8の制御で用いるTi−Qマップに記憶されている噴射量Qを更新して書き換える。これにより、Ti−Qマップの値が実噴射量に基づき学習される。このように学習したTi−Qマップは、開弁指令期間と実噴射量との関係を表した噴射データに相当する。
以上に説明した本実施形態では、要するに、以下に列挙する特徴を備える。そして、それらの各特徴により以下に説明する作用効果が発揮される。
<特徴1>
供給燃圧が目標圧力Ptrgとなるよう高圧ポンプ40を制御するにあたり、パーシャル噴射時にはシステム最大燃圧Pmax(予め設定しておいた下限圧力以上の値)に目標圧力Ptrgを設定する。そのため、パーシャル噴射時には十分に高い供給燃圧で噴射して小さい噴霧粒径となる。よって、噴霧粒径を小さくしつつ微少量の燃料噴射が可能となる。
その一方で、フルリフト噴射時には内燃機関の運転状態に応じて目標圧力Ptrgを設定する。そのため、フルリフト噴射時には不必要に供給燃圧が高くなることを回避でき、高圧ポンプ40の駆動に要するエネルギ、つまり駆動軸5を回転させる内燃機関の負荷が不必要に大きくなることを回避できる。
<特徴2>
ECU20は、パーシャル噴射時の目標圧力Ptrgをシステム最大燃圧Pmaxに設定するので、パーシャル噴射時に噴霧粒径が大きくなることを最大限に抑制できる。よって、単位噴射量当りに得られる燃焼エネルギを大きくできる。
<特徴3>
ECU20は、パーシャル噴射を選択して噴霧粒径が小さくなることに起因する出力向上量と、パーシャル噴射を選択して高圧ポンプ40の負荷が大きくなることに起因するポンプ損失量とを比較する。そして、出力向上量>ポンプ損失量である(S11:YES)ことを条件としてパーシャル噴射を選択する。そのため、パーシャル噴射により噴霧粒径を小さくしたにもかかわらず、噴射量に対して得られる内燃機関の出力が低下する、といった事態を回避できる。
<特徴4>
ECU20は、検出手段S30、S31と、噴射データ取得手段S32、S33と、噴射指令期間設定手段S12、S14と、を備える。検出手段S30、S31は、弁体12の閉弁時期を検出する。噴射データ取得手段S32、S33は、パーシャル噴射時に検出された閉弁時期に基づき、該パーシャル噴射による実噴射量を算出する。噴射データ取得手段S32、S33は、弁体12の開弁指令期間と実噴射量との関係を表した噴射データを取得する。噴射指令期間設定手段S12、S14は、インジェクタ10へ開弁を指令する期間(噴射指令信号)を、要求噴射量および噴射データに基づき設定する。
このように閉弁時期を検出して実噴射量を算出する場合には、サック燃圧が低いと、実噴射量の算出精度が悪くなる。そのため、その算出結果による噴射データに基づき噴射指令信号を設定すると、噴射精度の悪化が懸念される。これに対し本実施形態では、パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定するので、パーシャル噴射時のサック燃圧が大きくなる。よって、実噴射量の算出精度悪化を抑制でき、噴射精度悪化を抑制できる。
<特徴5>
ここで、本実施形態に反して、可動コアが所定量移動した後に弁体が可動コアに係合して開弁作動を開始する構成のインジェクタの場合、弁体が勢い良く開弁する。つまり、開弁作動する弁体の初速が速い。そのため、サック燃圧の上昇速度が速くなるので、「パーシャル噴射時にはサック燃圧が十分に上昇しないまま噴射が終了するので、小さい噴霧粒径の燃料を噴射できない」といった問題が顕著に現れない。
これに対し、本実施形態に係るインジェクタ10は、可動コア15の移動開始と同時に弁体12も移動(開弁作動)を開始する構成である。そのため、「パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定する」との構成による「噴霧粒径を小さくできる」といった効果が顕著に発揮されるようになる。
<特徴6>
噴孔17aの形状に関し、燃料噴霧の微粒化を促進させるには、次の2通りの設計思想がある。一つは、噴孔17aの流路長さLを長くすることで、噴孔17a内で燃料と空気のせん断力により燃料が引き裂かれることを促進させて微粒化を図る、噴孔内せん断の思想である。もう一つは、噴孔17aの流路長さLを短くすることで、噴孔17a内での圧力損失を低減させ、噴孔17aから噴射した直後における燃料と空気のせん断力により燃料が引き裂かれることを促進させて微粒化を図る、噴孔外せん断の思想である。本実施形態では、図3に示すようにL<Dに設定しており、噴射後せん断の思想による構造である。
本実施形態に反して噴孔内せん断による構造(L>D)の場合、噴孔外せん断の場合に比べて、サック燃圧が噴霧微粒化に寄与する度合いが小さい。そのため、「パーシャル噴射時にはサック燃圧が十分に上昇しないまま噴射が終了するので、小さい噴霧粒径の燃料を噴射できない」といった問題が顕著に現れない。
これに対し、本実施形態に係るインジェクタ10は、噴孔外せん断の思想による構造(L<D)である。そのため、「パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定する」との構成による「噴霧粒径を小さくできる」といった効果が顕著に発揮されるようになる。
<特徴7>
本実施形態に係るインジェクタ10は、ハウジング16のコイル領域部16aの少なくとも一部の外周面が、全周に亘って、取付穴4の内周面4aにより囲まれている。ここで、燃焼室2を構成するシリンダヘッド3は高温になるため、コイル領域部16aが取付穴4で囲まれていると、コイル13の温度が高温になりやすい。すると、コイル13の電気抵抗が大きくなるため、通電開始に伴いコイル13に流れる電流値が低くなり、磁気吸引力の上昇速度が遅くなる。つまり、図6(c)中のt0からt1における吸引力上昇速度が遅くなる。すると、開弁直後のサック燃圧が低い期間が長くなるので、この期間における噴霧微粒化の要求が高くなる。
したがって、本実施形態の如くコイル領域部16aが全周に亘って内周面4aにより囲まれているインジェクタ10に、「パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定する」との構成を採用すれば、「噴霧粒径を小さくできる」といった効果が顕著に発揮されるようになる。
<特徴8>
インジェクタ10は、燃焼室2へ燃料を直接噴射する位置に配置されているため、点火プラグ6の近傍に位置する。そのため、インジェクタ10から噴射された燃料が点火プラグ6に付着することを低減させるべく、噴霧粒径を小さくすることが重要になる。そのため、本実施形態の如く直噴配置のインジェクタ10に、「パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定する」との構成を採用すれば、「噴霧粒径を小さくできる」といった効果が顕著に発揮されるようになる。
<特徴9>
図8のステップS10において、要求噴射量Qreqがパーシャル最大噴射量Qplmax以下であるか否かを判定し、Qreq≦Qplmaxであることを条件としてパーシャル噴射を選択する。これによれば、図7中の符号Q1の如く、供給燃圧によってはパーシャル噴射およびフルリフト噴射のいずれも可能である場合には、パーシャル噴射が選択されるようになる。そのため、微少量の燃料を噴射する場合であっても、フルリフト噴射に比べて高圧で噴射されるようになり、燃料噴霧の微粒化を十分に促進できる。
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgをシステム最大燃圧Pmax(例えば20MPa)に設定する。これに対し本実施形態では、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgを、システム最大燃圧Pmaxよりも低い値、かつ、下限圧力よりも高い値に設定する。以下、下限圧力の技術的意味について説明する。
図11は、噴霧粒径と供給燃圧との関係を示す試験結果であり、5MPa、10MPa、20MPaの3点で試験した結果である。図中の実線は、1mgの燃料をパーシャル噴射した場合、点線は、3mgの燃料をパーシャル噴射した場合、一点鎖線は、最小噴射量Qminでフルリフト噴射した場合の試験結果を示す。この試験に用いた燃料噴射システムのハード構成は、第1実施形態に係る燃料噴射システムと同じである。
図11に示すように、基本的には、パーシャル噴射の場合にはフルリフト噴射の場合に比べて噴霧粒径が大きくなる。特に、5MPaのときは噴霧粒径が約5μmも大きくなり、この大きくなった度合いを噴霧粒径悪化度ΔSMDと呼ぶ。しかしながら、10MPaのときには噴霧粒径悪化度ΔSMDは小さく、パーシャル噴射であってもフルリフト噴射と同等の噴霧粒径にできることが分かった。そして、供給燃圧を10MPa以上にしても、噴霧粒径悪化度は殆ど向上せず、10MPaを境に噴霧粒径の改善の余地が無くなっている。
このように、供給燃圧のうち、噴霧粒径悪化度を大きく改善できる境界値、かつ、それ以上供給燃圧を高くしても噴霧粒径悪化度が殆ど向上しない境界値が、先述した下限圧力Paである。図11の試験結果によれば、供給燃圧10MPaという値は、下限圧力よりも高く、かつ、システム最大燃圧Pmaxよりも低い値であることが分かる。
この点を鑑みた本実施形態では、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgを、10MPaに設定する。そのため、供給燃圧を高くして高圧ポンプ40の負荷が大きくなることによる「ポンプ損失量」に対する、パーシャル噴射時の供給燃圧を高くして噴霧粒径が小さくすることによる「出力向上量」の割合(出力向上効率)を高くできる。つまり、ポンプ損失量を低く抑えながら出力向上量の向上を図ることができる。
(第3実施形態)
上記第2実施形態では、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgを10MPaに設定しているが、本実施形態では、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgを下限圧力Paに設定している。図12に示す特性線の変化点Pに対応する供給燃圧が下限圧力Paを示す。以下、変化点Pの技術的意味について説明する。
図11は、供給燃圧と噴霧粒径との関係を表した特性線を、5MPa、10MPa、20MPaの3点で表している。この試験点数を増やしていけば、特性線のうち、5MPaと10MPaとの間の部分に、特性線の2階微分値が最大になる変化点が存在することが、本発明者らが実施した数値解析により明らかとなった。その数値解析の結果を図12は示しており、図12の縦軸は噴霧粒径悪化度ΔSMD、横軸は供給燃圧を示す。図12中の変化点Pが、特性線の2階微分値が最大になる変化点に対応する。
要するに、供給燃圧と噴霧粒径との関係を表した特性線の傾きは、供給燃圧が低いほど大きくなるが、供給燃圧に比例して増大する訳ではなく、供給燃圧の減少に対して指数関数的に増大していく。そして、その増大速度が最大になっている点が、先述した変化点Pである。つまり、特性線の2階微分値が最大となる点が変化点Pであり、特性線の傾き増大速度が最も速くなっており、急激に噴霧粒径が大きくなる(悪化度が大きくなる)ように変化する点であると言える。
この点を鑑みた本実施形態では、変化点Pの燃圧を下限圧力Paとみなし、その下限圧力Paに、パーシャル噴射時の目標供給燃圧Ptrgを設定する。そのため、供給燃圧を高くして高圧ポンプ40の負荷が大きくなることによる「ポンプ損失量」に対する、パーシャル噴射時の供給燃圧を高くして噴霧粒径が小さくすることによる「出力向上量」の割合(出力向上効率)を高くできる。つまり、ポンプ損失量を低く抑えながら出力向上量の向上を図ることができる。
(第4実施形態)
上記第1実施形態では、図8のステップS11において、出力向上量およびポンプ損失量を算出し、その算出結果に基づき出力向上量>ポンプ損失量であるか否かを判定する。これに対し本実施形態では、内燃機関の始動時には、出力向上量およびポンプ損失量を算出することなく出力向上量がポンプ損失量よりも小さいとみなして、フルリフト噴射を選択する。
ここで言う「始動時」とは、スタータモータで内燃機関を駆動させている時のことである。このような始動時においては、出力向上量がポンプ損失量よりも大きくなっている蓋然性が高い。そのため、本実施形態によれば、出力向上量およびポンプ損失量を算出するマイコン21の処理負荷を軽減しつつ、出力向上量<ポンプ損失量である場合にフルリフト噴射する制御を実現できる。
(第5実施形態)
上記第1実施形態では、図8のステップS10において、パーシャル最大噴射量Qplmaxと要求噴射量Qreqを大小比較し、その比較結果に基づきパーシャル噴射を実施するか否かを判定する。これに対し本実施形態では、内燃機関がアイドル運転している時には、QplmaxとQreqとの大小比較をすることなく要求噴射量Qreqがパーシャル最大噴射量Qplmax以下であるとみなして、パーシャル噴射を選択する。
このようなアイドル運転時においては、要求噴射量Qreqがパーシャル最大噴射量Qplmax以下となっている蓋然性が高い。そのため、本実施形態によれば、QplmaxとQreqとを大小比較するマイコン21の処理負荷を軽減しつつ、Qreq≦Qplmaxである場合にパーシャル噴射するように制御できる。
(第6実施形態)
本実施形態では、1燃焼サイクル中に要求噴射量Qreqを複数回に分割して噴射する分割噴射を実施する場合に関する。高圧ポンプ40の燃料吐出量を制御して供給燃圧を目標燃圧Ptrgに制御するにあたり、制御の応答遅れが存在する。そのため、1燃焼サイクル中の複数回の噴射毎に目標燃圧Ptrgを変更しても、実際の供給燃圧を目標燃圧Ptrgの変化に精度良く追従させることはできない。
この点を鑑みた本実施形態では、1燃焼サイクル中の複数回の噴射のうち1回でもパーシャル噴射を選択する条件(S10:YES、S11:YES)を満たす場合に、複数回の噴射の全てに対して目標圧力Ptrgをシステム最大燃圧Pmaxに設定する。そのため、分割噴射に係るパーシャル噴射であっても、十分に高い供給燃圧で噴射して小さい噴霧粒径にすることができる。
また、分割噴射の場合には1回に噴射する量が微少になる。そのため、分割噴射が可能に構成された燃料噴射システムに、パーシャル噴射時に目標燃圧Ptrgを下限圧以上にする構成を適用させる本実施形態によれば、パーシャル噴射時における噴霧微粒化の効果が顕著に発揮される。
(第7実施形態)
上記第6実施形態では、分割噴射に係る複数回の噴射のうち、1回でもパーシャル噴射選択の条件を満たすことを条件として、複数回の噴射の全てに対して目標圧力Ptrgをシステム最大燃圧Pmaxに設定している。これに対し本実施形態では、分割噴射に係る複数回の噴射の全てがパーシャル噴射選択の条件を満たすことを条件として、複数回の噴射の全てに対して目標圧力Ptrgをシステム最大燃圧Pmaxに設定する。
このように複数回の噴射の全てに対してパーシャル噴射を実施する場合には、1燃焼サイクル中に噴霧微粒化の効果が複数回発揮されるようになるので、噴霧微粒化の効果が顕著に発揮される。
(第8実施形態)
図13は、シート絞り率と噴霧粒径との関係を示す数値解析結果であり、図13の縦軸はフルリフト噴射した場合の噴霧粒径悪化度を示し、図13の横軸はフルリフト時のシート絞り率を示す。図13に示す解析結果は、シート絞り率が大きいほど噴霧粒径悪化度が大きいことを示す。
但し、図13に示す特性線の傾きは、シート絞り率が大きいほど増大するが、シート絞り率に比例して増大する訳ではなく、シート絞り率の増大に対して指数関数的に増大していく。そして、その増大速度が最大になっている点が、図中の符号P1に示す変化点である。つまり、図13に示す特性線の2階微分値が最大となる点が変化点P1であり、特性線の傾き増大速度が最も速くなっており、急激に噴霧粒径悪化度が大きくなるように変化する点であると言える。
この点を鑑みた本実施形態では、変化点P1のシート絞り率Ra(例えば30%)以上のシート絞り率に構成されているインジェクタ10に、パーシャル噴射時に目標燃圧Ptrgを下限圧以上にする構成を適用させる。そのため、噴霧微粒化の効果が顕著に発揮される。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
・本発明に係る選択手段は、図8に示すステップS10、S11の手法に限定されるものではない。例えば、図8のフローチャートにおいて、ステップS10またはステップS11の判定処理を廃止してもよい。また、ステップS10では、パーシャル最大噴射量Qplmaxに対して要求噴射量Qreqを大小比較しているが、パーシャル最大噴射量Qplmaxとは異なる値に設定された判定値に対して要求噴射量Qreqを大小比較してもよい。
・分割噴射する場合には、1回の要求噴射量Qreqがパーシャル最大噴射量Qplmax以下となる蓋然性が高い。そこで、分割噴射が要求されている時には、QplmaxとQreqを大小比較する図8のステップS10の処理を実施することなく、Qreq≦Qplmax(S10:YES)であるとみなしてパーシャル噴射を選択してもよい。
・図9に示すポンプ制御では、目標供給燃圧Ptrgと実燃圧Pactとの偏差に基づき調量弁43の作動をフィードバック制御している。しかし、本発明に係るポンプ制御手段はフィードバック制御に限定されるものではなく、例えば目標供給燃圧Ptrgに対する調量弁43の作動を予め設定しておき、その設定にしたがって調量弁43の作動を制御してもよい。
・上記第1実施形態では、噴射後せん断の思想に基づき、噴孔17aの流路長さLを噴孔17aの入口直径Dよりも短くしている。そして、噴孔17aの入口形状が楕円である場合において、上記第1実施形態では、入口直径Dに楕円の長径寸法を用いているが、短径寸法を用いてもよい。また、流路長さLを、噴孔17aの流路断面の直径寸法よりも小さくしてもよい。
・上記第1実施形態に係るインジェクタ10は、可動コア15の移動開始と同時に弁体12も移動(開弁作動)を開始するように構成されている。これに対し、可動コア15の移動を開始しても弁体12は開弁を開始せず、可動コア15が所定量移動した時点で可動コア15が弁体12に係合して開弁を開始する構成であってもよい。
・上記第1実施形態では、磁気回路領域部16bの全体が、全周に亘って、取付穴4の内周面4aにより囲まれている。これに対し、磁気回路領域部16bの一部が、全周に亘って内周面4aにより囲まれるように構成されていてもよい。また、コイル領域部16aの全体が、全周に亘って、取付穴4の内周面4aにより囲まれていてもよいし、コイル領域部16aの一部が、全周に亘って内周面4aにより囲まれるように構成されていてもよい。
・上記第1実施形態に係るインジェクタ10は、図1に示すようにシリンダヘッド3に取り付けられているが、シリンダとの摺動壁面を形成するシリンダブロックに取り付けられたインジェクタであってもよい。また、上記実施形態では、燃焼室10aへ直接燃料を噴射するインジェクタを制御対象としているが、吸気管へ燃料を噴射するインジェクタを制御対象としてもよい。
・上記第1実施形態では、点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)に搭載されたインジェクタ10を適用しているが、圧縮自着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)に搭載されたインジェクタを適用してもよい。
ここで、ガソリンエンジンの場合における目標圧力Ptrgは、ディーゼルエンジンの場合に比べて桁違いに低い。そのため、開弁して直ぐにサック燃圧が上昇しないことに起因して、パーシャル噴射時の噴霧粒径が大きくなるといった懸念は、ガソリンエンジンの場合に顕著となる。よって、ガソリンエンジンのインジェクタに「パーシャル噴射時には下限圧力以上の値に目標圧力を設定する」との構成を適用した場合に、「噴霧粒径を小さくできる」といった効果が顕著に発揮されるようになる。