JP6744611B2 - 研磨液 - Google Patents
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Description
中性のpH領域においてマイナスの表面電荷を有する砥粒と、
pH7.0においてプラスの表面電荷を有する塩基性多糖類からなる繊維状物であり、研磨液中で前記砥粒と凝集物を形成する多糖ファイバーと、を含み、
前記多糖ファイバーは、その繊維径がナノサイズであり、
研磨液のpHが、5.8〜9.0の範囲に設定されていることを要旨とする。
本開示に係る研磨液は、例えば化学機械研磨(CMP)などの機械研磨等において使用可能なものである。研磨液は、被研磨体に合わせて適宜選択される砥粒(研磨粒子)と、添加物としての多糖ファイバー(例えば図1に示すようなキトサンファイバー)とを含み、砥粒および多糖ファイバーが凝集物(図2)を形成した状態で分散媒に分散するように構成されている。なお、以下の説明において、表面電荷(ゼータ電位)は、レーザードップラー式によるゼータ電位測定装置により測定した場合である。
砥粒は、中性のpH領域(pH6以上でpH8以下)においてマイナスの表面電荷を有するものを用いることができる。砥粒としては、例えば、ダイヤモンド、セリア(酸化セリウム)などのセリウム系化合物、アルミナ(酸化アルミニウム)、ヒュームドシリカやコロイダルシリカなどのシリカ(酸化ケイ素)、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)、炭化ケイ素、h−ボロンナイトライド、C−ボロンナイトライドなどを選択することができる。砥粒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。砥粒は、被研磨体に合わせて適宜選択されるが、SiCなどの硬い材料が被研磨体である場合、ダイヤモンドが好適である。ダイヤモンドは、単結晶および多結晶の何れであってもよいが、価格の面からは単結晶が好ましく、研磨レート向上の観点からは多結晶が好ましい。研磨液が調製されるすべてのpH領域において、砥粒の表面電荷がマイナスになる必要はない。中性のpH領域において表面電荷がマイナスを示す砥粒は、酸性側に傾くと表面電荷が0に近づくように変化し、アルカリ側に傾くと表面電荷がよりマイナス側へ向かう傾向がある。
砥粒は、各々の工程(粗ラッピング、仕上げラッピング、粗ポリッシングまたは仕上げポリッシングなど)に適したサイズに設定される。例えば、砥粒は、ラッピング用として、その平均粒径が3μm〜30μmの範囲にあることが好ましく、6μm〜9μmの範囲にあることがより好ましい。このように比較的小さい砥粒を用いることで、被研磨体における研磨面の平滑性を良好にすることができる。なお、砥粒のサイズは、フロー方式画像解析法で測定した場合である。
砥粒は、研磨液に対して、0.1重量%〜1.0重量%の範囲で含有することが好ましい。砥粒を前述した範囲で含有することで、研磨液によって被研磨体を効率よく研磨することができる。
多糖ファイバーは、pH7.0においてプラスの表面電荷を有するものを用いることができる。なお、多糖ファイバーとは、多糖からなる繊維状物である。このような多糖ファイバーを構成する多糖としては、例えば、キトサン、塩基性ムコ多糖、アミノ化セルロース、アミノ化デンプン、アミノ化グルコマンナン、アミノ化アガロース、アミノ化デキストラン等の塩基性多糖類を用いることができ、当該多糖類には、これらの多糖の塩類または誘導体を含んでいる。多糖ファイバーの中でも、キトサンファイバーは、前述した砥粒と好適なサイズの凝集物を形成し得るので好ましく、キトサンファイバーを含む研磨液は、キトサンファイバーの抗菌作用により、研磨後に出る廃液をかび難くすることができる。図1に示すようなキトサンファイバーとしては、例えば、キチン脱アセチル化物やキチン部分脱アセチル化物などであってもよく、またこれらの誘導体であってもよい。キトサンファイバーの脱アセチル化率は、10%〜100%の範囲、好ましくは、50%〜100%の範囲である。キトサンファイバーの脱アセチル化率が前記範囲であると、アミノ基(図1参照)が多くなって荷電をもつ部分が多くなるので、砥粒を凝集する能力が向上するため、研磨レートを向上させることができる。
多糖ファイバーは、少なくとも繊維径(短径)がナノサイズ(1nm〜999nm)である、所謂多糖ナノファイバーであることが好ましい。多糖ファイバーは、繊維径が4nm〜999nmの範囲であることが好ましく、繊維の長さ(長径)が4nm〜10000nmの範囲であることが好ましい。このように、多糖ファイバーは、ミクロサイズの砥粒と比べて、サイズが小さいものを用いるとよい。前述したサイズの多糖ファイバーであると、砥粒と比べて比重が小さい多糖ファイバーが、砥粒と適度なサイズの凝集物を形成して、砥粒の沈降を防止する良好な沈降防止性を付与し得る。また、多糖ファイバーと砥粒との凝集により、適度なサイズの凝集物を形成して、研磨液によって被研磨体を効率よく研磨することができる。なお、多糖ファイバーのサイズは、電界放出型走査透過型電子顕微鏡(STEM)で測定した場合である。
多糖ファイバーは、研磨液が調製されるすべてのpH領域において、表面電荷がプラスになる必要はなく、pH7.0にある際に表面電荷がプラスであればよい。このようなpH7.0において表面電荷がプラスを示す多糖ファイバーは、酸性側に傾くと表面電荷がよりプラス側へ向かい、アルカリ側に傾くと表面電荷が0に近づくように変化する傾向がある。
多糖ファイバーは、研磨液に対して、0.01重量%〜1.0重量%の範囲で含有していることが好ましく、0.025重量%〜0.5重量%の範囲で含有することがより好ましい。多糖ファイバーを前述した範囲で含むことで、砥粒の沈降を防止する良好な沈降防止性を付与できると共に、砥粒と共に適度なサイズの凝集物を形成でき、研磨液によって被研磨体を効率よく研磨することができる。
分散媒は、液体であれば特に制限されないが、通常、水を主体とする水系媒体、すなわち水、アルコールアミン類などの防錆剤、および水溶性有機溶剤を主成分としたものを用いるとよい。水以外の分散媒としては水溶性有機溶剤とするのが好ましく、例えばエタノール、ノルマルプロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類、ピロリドン系溶剤などが挙げられる。
研磨液は、pH5.8以上に設定されており、またpH5.8以上で研磨に使用される。研磨液のpHは、より好ましくは5.8〜9.0の範囲である。中性のpH領域で表面電荷がマイナスである砥粒と、pH7.0で表面電荷がプラスである多糖ファイバーとを含んでいることで、pH5.8以上の研磨液中において凝集物のサイズが顕著に大きくなるから、大きなサイズの凝集物により研磨レートを向上し得ると共に、沈降防止効果を向上することができる。多糖ファイバーは、研磨液のpHが5.8より低くなると、研磨液に溶解する傾向を示すようになり、砥粒と多糖ファイバーとの凝集が起こり難くなると考えられる。例えば、キトサンファイバーである場合、キトサンは中性およびアルカリ性条件において水溶性ではないが、弱酸性条件下においてアミノ基(図1参照)がプロトン化して水溶性となる。換言すると、多糖ファイバーとしては、pH5.8以上の研磨液中において溶けないあるいは溶け難いものを用いることが望ましく、例えばキトサンファイバーのように当該pH領域において溶け難いまたは不溶であると、多糖ファイバーの添加によって研磨液の粘度が高くならないメリットがある。
研磨液のpHを調整するpH調整剤としては、塩酸、硫酸、または酢酸や乳酸やリンゴ酸などの有機酸等を用いることができ、研磨定盤の保護の観点から、有機酸を用いることが好ましい。また、pH調整剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基を用いることができる。
研磨液中に形成される砥粒と多糖ファイバーとの凝集物は、そのサイズ(見掛け平均粒子径)が、65μm以上になるようにすることが好ましく、70μm〜200μmの範囲がより好ましい。凝集物のサイズを前記範囲にすることで、砥粒よりも見掛け粒子径が大きい凝集物によって研磨レートを向上させることができる。なお、凝集物のサイズは、フロー方式画像解析法で測定した場合である。
研磨液中において、凝集物の見掛けの表面電荷がプラスになるように設定することが好ましい。このように、見掛けの表面電荷がプラスである凝集物であると、SiC等の被研磨体の多くがマイナスの荷電を有していることから、研磨に際して発生した研磨屑を、研磨屑と凝集物との静電相互作用により、凝集物に捕集させることができる。研磨屑を凝集物で捕集することで、被研磨体の研磨面の平滑性を向上することができる。研磨液は、例えば、中性のpH領域において表面電荷が異なる砥粒に対して、pH7.0において表面電荷がプラスである多糖ファイバーを、電荷的に均衡する量を越えて過剰になるように配合することで、凝集物の表面電荷をプラスにすることができる。
中性のpH領域で表面電荷がマイナスである砥粒と、pH7.0で表面電荷がプラスである多糖ファイバーとのそれぞれを、pHが中性である分散媒に添加する。また、必要に応じて添加剤を添加する。そして、砥粒および多糖ファイバーが添加された混合液を撹拌するなど、適宜操作を行い、砥粒と多糖ファイバーとを凝集させて凝集物を形成する。ここで、砥粒および多糖ファイバーが添加された混合液は、例えば7.9程度の中性のpH領域にあるので基本的にpH調整不要であるが、必要に応じてpH調整剤を添加することでpHを5.8以上になるように調製して、pHが5.8以上である研磨液を得る。
本開示の研磨液によれば、砥粒を多糖ファイバーで静電的に捕集して大きなサイズの凝集物を形成するので、砥粒よりも見掛けの粒径が大きい凝集物が疑似的に研磨剤として作用することによって、研磨レートを向上させることができる。SiC等の被研磨体の研磨速度は、砥粒の粒子サイズの増大に伴って向上することが知られている。しかしながら、砥粒の粒子サイズを単純に大きくすると、ダメージを受ける層(加工変質層)の層厚が大きくなったり、被研磨体に加工痕が大きく残って平滑性が悪化したりするなど、様々な不都合が生じる。また、研磨工程の次の工程において、加工変質層をエッチングもしくは研磨で除去することになるが、SiC等のエッチングは危険な溶融水酸化カリウム(KOH)を使用する必要があり、設備および操業面から工業的には困難である。従って、小さいサイズの砥粒によって研磨するしかなく、一般にはその際に砥粒として用いられるダイヤモンド粒子のサイズが、前述した本発明に係る砥粒のサイズになる。本開示の研磨液が含む凝集物は、柔らかいので、被研磨体における研磨面の表面粗さを小さくすることができ、多糖ファイバー特有の緩和作用により、研磨面のスクラッチを少なくすることができる。しかも、砥粒のサイズよりも見掛けサイズが大きくなった凝集物により、研磨速度が向上し、結果として、加工変質層の厚みの低減化を実現できる。このように、本発明に係る研磨液によれば、砥粒自体のサイズを大きくすることなく研磨レートを向上でき、砥粒のサイズ自体が大きい訳ではないので、加工変質層の層厚を抑えて、被研磨体の平滑性を向上できる。
本開示の研磨液は、鋳鉄、合金鋼、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、超硬合金等の金属材料、およびSiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)およびGaO(ガリウムナオキサイド)、シリコンウエハ、セラミック、水晶、ガラス等の脆性材料の平面研削、円筒研削、内面研削、ホーニング、センタレス、スライシング、ラッピング、ポリッシング等において使用することができる。この中でも、研磨レートを向上できることから、ラッピングに好適であり、特に、SiC(シリコンカーバイド)などの硬い材料のラッピングに好適である。
実施例および比較例に係る研磨液は、砥粒および添加物としての多糖ファイバーを分散媒としての純水に添加し、必要に応じてpH調整剤によってpHを調整した後に、所定の撹拌条件によって撹拌して調製したものである。なお、砥粒および多糖ファイバーの配合量は、表1〜4に示す通りである。また、表1〜4に示す砥粒、多糖ファイバーおよび凝集物のゼータ電位は、研磨液が調整されたpHにおける値である。表1〜4に示す凝集物のサイズは、フロー式粒子画像分析装置(Malvern Panalytical製 FPIA-3000S)により測定しており、多糖ファイバーのサイズは、電界放出型走査透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 SU8000)により測定している。また、ゼータ電位は、レーザードップラー式によるゼータ電位測定装置(Malvern Panalytical製 ゼータサイザーナノZS)により測定している。
・砥粒の種類:多結晶ダイヤモンド(Diaと表記する場合もある。) ダイヤマテリアル株式会社
・砥粒のサイズ:平均粒径9μm(メーカー表示値)
なお、当該砥粒を含む原液のpHは、5.6である。
(実施例および比較例1)
・多糖ファイバーの種類:キトサンファイバー(ChNFと表記する場合もある。)
・多糖ファイバーのサイズ:繊維径20nm、繊維の長さ2000nm
(比較例2)
・多糖ファイバーの種類:セルロースファイバー(CNFと表記する場合もある。)
・多糖ファイバーのサイズ:繊維径20nm、繊維の長さ1000nm
(比較例3)
・多糖ファイバーの種類:TEMPO酸化セルロースファイバー(TEMPOと表記する場合もある。)
・多糖ファイバーのサイズ:繊維径3nm、繊維の長さ不明
実施例および比較例の研磨液について、研磨液のpHと研磨液中で形成される凝集物のサイズとの関係を確認した。その結果を表1〜4および図3に示す。なお、凝集物のサイズは、フロー粒子画像分析装置を用いて凝集物を撮像して、フロー方式画像解析法(体積基準)により算出した。
実施例および比較例の研磨液について、沈降防止性を確認した。沈降防止性は、研磨液を撹拌し、30分静置し、目視により凝集物の沈降度合いを確認した。参考例1よりも沈降していない場合は「〇」と評価し、参考例1よりも沈降している場合は「×」と評価した。なお、比較例2は、実施例と同程度の沈降防止性を示すが、実施例よりも研磨液の粘度を上昇させてしまうので、「△」に分類している。
実施例、比較例および参考例の研磨液を用いて、被研磨体の研磨を行い、研磨レートを測定した。研磨装置は、鋳鉄製の定盤(φ300溝付き)を有する片面研磨装置(ムサシノ電子(株)製 商品名 MA300E)を用いた。チューブポンプにより流量7ml/分で研磨液を流しつつ、荷重3.9kgf(単位面積圧力50.4kgf/cm2)、定盤回転数30rpmおよび加工時間30分の条件で、1枚の被研磨体(4H−SiC(4インチ))のC面を研磨した。研磨後に、被研磨体の研磨量を測定し、研磨量に基づいて研磨レートを算出した。その結果を表1〜4に示す。
評価は、参考例1よりも研磨レートおよび沈降防止性が向上している場合は、「〇」と評価し、参考例1よりも研磨レートおよび沈降防止性の何れかが劣っている場合は、「×」と評価する。なお、比較例2−5は、参考例1よりも研磨レートがわずかに向上しているが、上昇度合いがわずかであるので、「△」に分類している。
表1の実施例3に示すように、ダイヤモンドは、中性のpH6においてゼータ電位のピーク値がマイナスにあり、当該pHにおいて表面電荷がマイナスである。また、キトサンファイバーは、中性のpH6においてゼータ電位のピーク値がプラスにあり、当該pHにおいて表面電荷がプラスである。そして、表1および図3に示すように、キトサンファイバーを配合した実施例の研磨液は、pH5.8以上において凝集物のサイズが顕著に大きくなることが確認できる。これに対して、表2の比較例1が示すように、キトサンファイバーを配合しても、pH5.8より酸性側のpH領域では、凝集物が大きくならないことが判る。また、表3の比較例2および表4の比較例3が示すように、セルロースファイバーおよびTEMPO酸化セルロースファイバーは、pHが変化しても凝集物のサイズがほぼ変わらない。なお、実施例2において凝集物のサイズが「※」になっているが、これは凝集物のサイズが測定装置の測定可能範囲を越えて大きいためであり、140μmよりも大きいといえる。
Claims (6)
- 中性のpH領域においてマイナスの表面電荷を有する砥粒と、
pH7.0においてプラスの表面電荷を有する塩基性多糖類からなる繊維状物であり、研磨液中で前記砥粒と凝集物を形成する多糖ファイバーと、を含み、
前記多糖ファイバーは、その繊維径がナノサイズであり、
研磨液のpHが、5.8〜9.0の範囲に設定されている
ことを特徴とする研磨液。 - 前記砥粒の平均粒径の7倍以上となった見掛け平均粒径の前記凝集物を含んでいる請求項1記載の研磨液。
- 見掛け平均粒径が65μm以上である前記凝集物を含んでいる請求項1または2記載の研磨液。
- 前記凝集物は、研磨液中での見掛けの表面電荷がプラスになっている請求項1〜3の何れか一項に記載の研磨液。
- 前記多糖ファイバーを、0.01重量%〜1.0重量%の範囲で含んでいる請求項1〜4の何れか一項に記載の研磨液。
- 前記砥粒が、ダイヤモンドであり、前記多糖ファイバーは、キトサンファイバーである請求項1〜5の何れか一項に記載の研磨液。
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