要介護者が同じ寝姿勢を続けていると、体重で圧迫されている部分の血流が滞り、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、寝台と擦れて傷ができる「褥瘡」といわれる症状が出ることがある。皮膚が弱った状態においては、電動ベッドの上半身側を起こす際に、要介護者の腰の位置が下方に滑るだけでも擦り傷ができることがある。
要介護者に対しては、血流を滞りにくくさせ、褥瘡を患わないように、数時間おきに介護者が寝姿勢を変える「体位変換」といわれる処置がされている。要介護者が腕や脚を自由に動かせない症状の場合には、体位変換の処置を介護者が一人だけですることは大変困難である。そのため、従来から体位変換のための体位変換器が提供されている。
体位変換器の一例として、要介護者の身体を傾けさせて寝姿勢を変えるクッション材がある。要介護者の体を持上げつつ背中や腰と寝台との間にクサビ形のクッション材を挿し入れるだけで、仰向けから横向きに寝姿勢を体位変換させることができる。体圧が寝台とクッション材とに分散されるように姿勢が変えられ、僅かに身体が傾けられただけであっても褥瘡の予防ができるとされている。
しかし、従来のクッション材は、主としてウレタンフォーム等の低反発素材や、径が1mm以下の微細な粒体を詰めた袋体であった。これらは通気性が悪く汗蒸れを起こしやすいと共に、反発力が弱いために身体が深く沈み込み、同じ寝姿勢が長時間続くと血流を滞らせる傾向があった。
また、従来の体位変換器は、使用中に体位変換器の位置がずれることがあり、寝姿勢に応じた体圧の分散ができなくなるという課題もあった。一方、介護者が付き添う場合には、体位変換器の位置をずらして、寝姿勢を変えたほうが褥瘡予防に好ましいこともある。そのため、介護の状況や要介護者の症状に応じて、位置を固定することができると共に、容易に位置を変えることができる体位変換器が求められていた。
褥瘡の症状と同様に、関節包外の軟部組織が原因でおこる関節可動域が制限される「拘縮」という症状も、要介護者が長期間寝たきりの状態であることが原因の一つとされている。「手が開かなくなる」、「肘関節や肩関節が伸びなくなる」、「股関節を広げられなくなる」等という、拘縮の症状を緩和させるには、毎日長時間に亘って、要介護者の身体を按摩し、関節を引き伸ばす運動の介助を繰り返すことが必要であるとされている。
従来から「拘縮」の対策具として、手が開かなくなることを改善させるために「握るだけの拘縮対策具」、「股関節の間に挟むだけの拘縮対策具」が提供されている。しかし、従来の拘縮対策具は、低反発素材のクッション材であったため、押しつぶされてから形状が復元されないため、拘縮が発生した筋肉に刺激が与えられず、症状の改善がほとんど期待できなかった。
特許文献1には、ベッドから落下することを防止させる支持部材の技術が開示されている。この文献に記載の技術は、仰向け姿勢で寝ている使用者の体格に応じた上下両側四ヶ所のマットレスのシーツに、体に沿って延びる支持部材を突設させるようにファスナで固定させて、使用者がベッドから落下することを防止する技術であるとされている。
しかし、この文献に記載の技術によれば、ファスナが支持部材の長手方向に沿って伸びているため、ファスナの係着力が強くなり、シーツから容易に剥がせなかった。支持部材の位置を変えるためには、予め使用者の身体の位置を支持部材から離すように移動させ、ファスナを外して支持部材剥がすことが必要であった。そのため使用者が自分で体が動かせない要介護者である場合には、一人の介護者では支持部材の位置を変えることが困難であり、介護器具としては適用できないという課題があった。
特許文献2には、身体に交差する方向に延びる長尺の介護器具の技術が開示されている。この技術によれば、方形状の軟質性素材からなる帯体により肩部と腰部とを支え、体圧を分散させるとされている。各々の褥瘡予防帯をなす帯体の両縁部にはファスナが備えられ、各々褥瘡予防帯の位置ずれが防止されている。
この文献に記載の技術は、体圧のかかる肩甲骨周辺と仙骨周辺とを、寝台に接しないようにさせることを目的とし、要介護者の下に敷かれて使用される介護器具であった。そのため要介護者が寝ている状態では位置の変更ができず、寝姿勢に応じて位置を変更させる体位変換器として適用することができないという課題があった。
特許文献3には、立体網目状弾性体を芯材とし、通気性のある袋体で覆った体位保持パットの技術が開示されている。この文献に記載の技術によれば、体位保持パットの底面に、滑り止め手段としてのシリコンシート等が備えられ、位置ずれしにくくされている。この文献に記載の技術によっては、介護器具の位置を固定させていないため、要介護者の身体の適切な場所に維持できないという課題があった。
特許文献4には、本出願人による拘縮対策具の技術が開示されている。この文献に記載の技術によれば、拘縮対策具の芯材は、熱可塑性樹脂繊維糸が立体的で不規則に絡まって部分的に融着され、一体化されて立体網状構造体とされている。
要介護者が、特許文献4に記載の拘縮対策具を握ることにより、芯材の三次元反発力により手指を開く方向に力が作用され、手指が伸展方向の力を受けて、屈筋が弛緩し、伸筋が緊張し、24時間手指のストレッチをし、リハビリを行っていることと同様の効果が得られるとされている。そして、屈筋の緊張が緩み、手指の伸展、手指間の拡大が起き、腕の運動可動領域の拡大にもつながり、拘縮対策具として機能するとされている。
本発明が解決しようとする課題は、要介護者の寝姿勢に合わせて介護器具を接しさせて位置決めさせて、そのまま固定できると共に、要介護者の寝姿勢に応じて、要介護者に接しさせたままで、介護器具の位置を変えて固定できる介護器具を提供することである。また、要介護者の拘縮が認められる位置に挟んで、拘縮の程度に応じて、筋肉に反発刺激を与える拘縮対策具とすることができる介護器具を提供することである。
本発明の第1の発明の介護器具は、要介護者に接して使用される介護器具であって、芯材と、袋体とを含み、前記芯材が、熱可塑性樹脂繊維3次元結合体からなり、直線と円弧線で囲まれた断面形状とされると共に長手方向に平坦面を有する細長体とされ、前記袋体が、通気性を有する布帛からなり、面ファスナと係着選択手段とを備え、前記面ファスナが、前記細長体がなす前記芯材の周囲を包む前記袋体の平坦面の両短辺縁部のみに備えられ、前記係着選択手段が、前記面ファスナの縁部に備えられた添着片とされ、前記添着片が、前記面ファスナを覆って非係着状態とされ、前記添着片が面ファスナから剥がされて係着状態とされ、前記介護器具を寝姿勢の要介護者を支えるように接しさせたままで、前記袋体の平坦面の中央部と係着相手とがなす隙間に、介護者が前記細長体の長辺に交差する方向から手を挿し込んで、係着させた前記面ファスナを脱離させることができ、要介護者の寝姿勢を変えなくても、係着位置を変更可能とされていることを特徴としている。
熱可塑性繊維3次元結合体とは、複数の熱可塑性樹脂繊維糸が立体をなし、絡み合った部分が熱溶着されて結合され、互いを支え合っている立体的な網状の弾性体をいう。そのため、芯材が空隙部を有し、体重が掛かり圧縮された状態であっても湿気や熱を放散させやすい。
芯材の反発力が40N以下とされると、弾発力による反発刺激を与えつつ身体を支えることができると共に、身体を支えた際に要介護者に痛みを与えることがなく好適である。反発力の値は、クッション材の反発力の試験法である「JIS K6400-2 A法」に準拠している。なお、消費者庁の規定によれば、ウレタンフォームマットレスの反発力が75N未満の場合が「やわらかめ」の区分に分類されている。
芯材の断面形状が、直線と円弧線で囲まれた形状とされている。芯材の円弧線がなす湾曲面を天面として要介護者に接しさせると、湾曲面の頂部から徐々に潰れて身体が介護器具に支えられた状態となる。反発力と体圧とが釣り合った状態においては、接触面積も広く力が分散されるため、一部だけが圧迫されるようにはならない。また、変形しやすい素材であるため、要介護者の寝姿勢が変わった場合には、寝姿勢の変化に応じた形状で身体を支える。これにより、寝姿勢の変化に応じて、体圧を速やか、かつ、効果的に分散させることができる。
袋体が通気性を有する布帛からなり、通気性の良い芯材を包んでいるだけなので、長期間身体に接しても汗蒸れを起こしにくい。また、面ファスナが袋体の平坦面の両短辺縁部のみに備えられるため、両端部以外は係着されていない。また、面ファスナの縁部には、係着選択手段としての添着片を有している。
添着片を面ファスナから剥がすことにより、面ファスナが係着できる係着状態とされ、添着片で面ファスナを覆うことにより、面ファスナが係着できない非係着状態とされる。要介護者の寝姿勢に合せて介護器具を置く位置を決めてから添着片を剥がせば、意図しない位置に介護器具が係着されることが防がれる。面ファスナの一部だけを露出させて、面ファスナの係着力を調整させてもよい。また、位置ずれを許容して使用したい場合には、片方の面ファスナのみを係着状態とさせ、他方を非係着状態とさせておいてもよい。
介護器具の芯材が細長体とされるため、要介護者の身体に沿って支えることができる。袋体の平坦面の両短辺縁部のみに面ファスナが備えられているだけなので、細長体の中央部に手を挿し込んでから端部に手を滑らせて、端部の面ファスナを剥がすことが容易である。端部の面ファスナを剥がしてから添着片で面ファスナを覆えば、面ファスナが係着しない状態となる。これにより、要介護者の寝姿勢に応じて、介護器具を寝姿勢の要介護者を支えるように接しさせたままで、一人の介護者でも介護器具を容易に移動させることができるようになるという従来にない有利な効果を奏する。
芯材の寸法は限定されないが、拘縮対策具としても使用される場合に備えて、要介護者の両脚の間や脇に挟みやすい厚さの芯材とすると好適である。芯材が熱可塑性繊維3次元結合体であるため、拘縮が認められる位置に挟んでいるだけで、拘縮患者に痛みを与えることなく、継続した反発刺激を与えることができる。これにより、手指の拘縮対策具よりも、大きな拘縮対象である腕、足、腰の関節に係る屈筋を弛緩し、伸筋を緊張させ、関節の伸展を起こさせ運動可動領域の拡大をもたらすという効果を奏する。
本発明の第2の発明は、第1の発明の介護器具であって、前記面ファスナが、鉤部と、前記鉤部が係着される環状部とが混在されてなることを特徴としている。本発明の第2の発明によれば、面ファスナを係着させる対象が、鉤部のみ又は環状部のみからなる面ファスナであっても、鉤部を係着可能な布帛であっても係着させることができる。これにより、複数の介護器具を組み合わせることが容易であるだけでなく、面ファスナを有しない毛羽だった布帛にも係着させることもできる。
本発明の第3の発明は、第1の発明又は第2の発明の介護器具であって、袋体の少なくとも一方の長手方向端部に手掛け部が備えられていることを特徴としている。第3の発明によれば、天面が円弧形状とされ掴みにくい形状であっても、手掛け部を掴んで介護器具の位置を変更させることができ、介護者が使いやすい介護器具とすることができる。
本発明の第4の発明の介護器具セットは、第1の発明から第3の発明の介護器具を含み、いずれかの前記介護器具の前記面ファスナを他の前記袋体に係着させて、複数の介護器具を組み合わせて使用可能とされていることを特徴としている。
面ファスナを他の袋体に係着させるとは、面ファスナ同士を係着させる場合に限られない。例えば、袋体をなす布帛が面ファスナを係着可能とする材質とさせれば、袋体のいずれの面に対しても面ファスナを係着させることができる。また、添着片の外面にも面ファスナを係着可能とさせてもよい。この場合には、二つの介護器具のうち、一方の添着片のみを剥がせばよく、介護者の準備作業が少なくなる。
本発明の第4の発明によれば、面ファスナを他の袋体に係着させることにより、複数の介護器具を組合せた全体の外形を変更させることができる。これにより、要介護者の体の大きさや寝姿勢に応じて適合させることができるという従来にない有利な効果を奏する。
また、拘縮対策具として使用する場合には、要介護者の拘縮の症状にあわせて、両脚や脇等に挟む介護器具の太さを調整することができる。具体的には、拘縮の症状が重度な者は、細い介護器具を一つだけ挟むようにすればよい。そして、拘縮の症状が軽度な者は、複数の介護器具を組合せて太い介護器具を挟むようにすればよい。これにより、拘縮の症状に応じた適切な太さの介護器具とすることができるという従来にない有利な効果を奏する。
本発明の第5の発明の介護器具セットは、第1の発明から第3の発明の介護器具と、更に、手掛け部を有する敷布を含み、前記敷布の表面が、前記面ファスナが係着可能な布帛とされ、前記敷布の裏面が、液体を透過させない防水性を有し、前記敷布の大きさが、要介護者の上肢から大腿部よりも広い大きさとされ、前記手掛け部が、寝姿勢状態とされた前記要介護者の外側に、少なくとも上下左右の位置に備えられていることを特徴としている。
敷布の表面が、面ファスナと係着可能な布帛からなることにより、要介護者の寝姿勢に合せた位置に介護器具を係着させることができる。敷布の裏面が、液体を透過させない防水性を有すると共に、大きさが要介護者の上肢から太腿部よりも広いため、排泄により敷布が濡れても、敷布の下の寝台までが汚損されることがない。
また、敷布表面に手掛け部が備えられていることにより、要介護者を寝かせたまま敷布を引き上げるようにして要介護者を体位変換させることができる。これにより、寝具を衛生的に保つことができると共に、体位変換を容易に行うことができ、介護者の負担を低減させることができるという有利な効果を奏する。
・本発明の第1の発明によれば、介護器具を要介護者に接しさせたままで、一人の介護者でも介護器具を容易に移動させることができるようになるという従来にない有利な効果を奏する。また、手指の拘縮対策具よりも、大きな拘縮対象である腕、足、腰の関節に係る屈筋を弛緩し、伸筋を緊張させ、関節の伸展を起こさせ運動可動領域の拡大をもたらすという効果を奏する。
・本発明の第2の発明によれば、複数の介護器具を組み合わせることが容易であるだけでなく、面ファスナを有しない毛羽だった布帛にも係着することもできる。
・本発明の第3の発明によれば、天面が円弧形状とされ掴みにくい形状であっても、手掛け部を掴んで介護器具の位置を変更させることができ、介護者が使いやすい介護器具とすることができる。
・本発明の第4の発明によれば、面ファスナを他の袋体に係着させることにより、複数の介護器具を組合せて、その外形を変更させることができ、要介護者の体の大きさや寝姿勢に応じて適合させることができるという従来にない有利な効果を奏する。また、拘縮の症状に応じた適切な太さの介護器具とすることができるという従来にない有利な効果を奏する。
・本発明の第5の発明によれば、寝具を衛生的に保つことが容易とされると共に、体位変換を容易に行うことができ、介護者の負担を低減させることができるという有利な効果を奏する。
要介護者の身体に接して使用される介護器具を、細長く延びる芯材と、その周囲を覆う袋体とから構成させた。袋体に面ファスナと係着選択手段を備えさせ、面ファスナの係着状態・非係着状態を選択することができるようにした。芯材を熱可塑性樹脂繊維3次元結合体とさせていることにより、筋肉に反発刺激を与える拘縮対策具としても使用できる。
実施例1においては、二種類の介護器具1,2について、図1から図3を参照して説明する。図1(A)図には、黒地を背景とし、高さの異なる2つの芯材の長手方向端面の写真を示し、図1(B)図は介護器具端部の斜視図を示している。図2は、介護器具1の斜視図による説明図を示している。図2(A)図は、芯材を袋体に収容させる図を示している。図2(B)図は、介護器具1を湾曲面側から看た図を示し、図2(C)図は、介護器具1を平坦面側から看た図を示している。図3は、介護器具1,2の組合せの一例を示す側面図を示している。
芯材10,20は、熱可塑性樹脂繊維3次元結合体からなり、直線11と円弧線12で囲まれた断面形状とされている(図1(A)図参照)。厚さが薄い芯材10の断面形状は、底辺が約12cm、厚さが約5cmとされている。厚さが厚い芯材20の断面形状は、底辺が約14cm、厚さが約10cmとされている(図1(A)図参照)。また、芯材10の長手方向の長さは約40cmとされている(図2(A)図参照)。いずれも芯材の外形は、長手方向に平坦面13と、円弧状の湾曲面14とを有する略半円柱形状とされている。
熱可塑性樹脂繊維3次元結合体は、複数の熱可塑性樹脂繊維糸が立体をなし、絡み合った部分が熱溶着されて結合され、互いを支え合っている立体的な網状の弾性体である(図1(A)図参照)。芯材の材質・繊維径・空隙率・製造方法等は限定されない。芯材の天面が湾曲面をなしているため、芯材に身体が接し始めた時点では、接触面積も小さいため反発力が小さく変形しやすい。そして、芯材が変形されて身体が沈み込んでいくにつれて徐々に反発力が大きくなる。
そのため、介護器具1を拘縮が認められる部位に挟ませた直後は、芯材の反発力が小さいため拘縮の力に負けて芯材が押し潰される。芯材が潰れるにつれて、芯材の反発力が拘縮の力よりも大きくなると、拘縮が認められる部位が押し戻されるようになる。そして、芯材が、拘縮が認められる部位を押し戻して、芯材の変形が小さくなると、反発力が拘縮の力よりも小さくなり芯材が再度押し潰される。これが繰り返されることにより、筋肉に反復刺激があたえられる。その結果、硬くなった屈筋の緊張が緩み、関節の伸展が起きて運動可動領域の拡大にもつながっていく。
熱可塑性繊維3次元結合体の反発力は、40N以下であると変形されやすく、20N以上であると押し戻しやすく好適である。反発力が20N以上40N以下となる熱可塑性繊維3次元結合体の密度とさせておくと、体位変換器として使用される場合にも、弾発力による反発刺激を与えながら身体を支えることができる。
熱可塑性繊維3次元結合体の反発力は「JIS K6400-2 A法」に準拠して測定させた。具体的には、熱可塑性繊維3次元結合体を、約30cm四方、厚さ約10cmの板状体をなすように切り出したものを試験片とし、直径約20cmの加圧盤で加圧することにより測定した。試験手順は、加圧盤で試験片を元厚の約70%となるまで圧縮させる予備加圧を3回繰り返させた。予備加圧の直後に、加圧盤で試験片を元厚の約40%となるまで圧縮させて静止させた。圧縮状態を約30秒間保持させた後、測定器に表示された反発力の値を読み取らせた。
袋体30は、通気性を有する布帛からなり、芯材10の周囲を包む形状とさせると共に、面ファスナ40と係着選択手段をなす添着片50とを備えさせている(図1(B)図,図2(A)図参照)。実施例1においては、布帛の素材を綿とし、袋体のいずれの面にも、他の介護器具の面ファスナを係着可能としている。袋体の素材は綿に限定されず、面ファスナが係着不可能な布帛であってもよい。
袋体30の平坦面31には、長手方向に延びる筋状ファスナ32が備えられている(図2(C)図参照)。筋状ファスナは、スライダーを動かして開閉させる。袋体30に芯材10を収容させる際には、筋状ファスナを開いた開口34に芯材10を先窄まりとなるように潰しながら袋体30に挿し込む(図2(A)図参照)。袋体30を洗う場合には、芯材10を潰しながら引き出すようにすればよい。また、袋体30の長辺方向の両端部には手掛け部35が備えられている(図1(B)図参照)。
面ファスナ40は、袋体30の平坦面31の両短辺縁部36のみに備えられている(図1(B)図,図2(A)図参照)。面ファスナ40が平坦面の両短辺縁部のみに備えられるため、袋体30の平坦面31の中央部37は係着されない。そのため、前記中央部と係着相手との隙間に腕を挿し入れて、介護器具を引き上げるだけで係着相手から容易に脱離させることができる(図5(A)図参照)。面ファスナ40の形態は、鉤部41と環状部42とが混在されてなる面ファスナとされる(図1(B)図参照)。面ファスナの大きさは、例えば、長辺が約10cm、短辺が約2.5cmであればよい。
係着選択手段をなす添着片50は、面ファスナ40の長辺の縁部かつ面ファスナよりも袋体の端部側に備えられると共に、基端部51が袋体と一体をなしている(図1(B)図,図2(A)図参照)。添着片50を面ファスナ40に係着させることにより面ファスナが覆われて非係着状態とされ、体位変換器として使用する際に位置ずれさせることができる状態となる(図2(B)図参照)。添着片50を面ファスナ40から剥がすことにより、面ファスナが露出されて係着状態とされ、体位変換器として使用する際に位置を固定することができる状態となる(図2(C)図参照)。
添着片50は、面ファスナ40の全体を覆うことができればよく、大きさは限定されない。添着片50は、少なくとも面ファスナを覆う面52が面ファスナに係着可能な材質とされる。添着片の両面とも面ファスナに係着可能とさせるとより好適である。
次に、介護器具1,2の組合せ態様の例を、図3を参照して具体的に説明する。図3(A)図から図3(C)図は、二つの介護器具が略円柱形状をなすように組み合わせた例を示している。図3(D)図は、面ファスナ40を、他の袋体30に係着させて組み合わせた例を示している。図3(E)図は面ファスナ40を、他の袋体30に係着させずに組み合わせた例を示している。図3(F)図は、図3(D)図の例が体位変換器として使用された状態を示している。なお、図3の各々の図においては、理解を容易にするため、面ファスナ40から剥がした添着片について図示を省略している。同様に、図3(F)図については、手掛け部の図示を省略している。
介護器具の組合せは、袋体の平坦面31同士を係着させる態様、面ファスナ40を他の袋体の湾曲面38に係着させる態様、面ファスナ40を他の袋体に係着させずに組み合わせる態様等がある。平坦面31同士を係着させる態様は、同じ厚さの介護器具1,1を組み合わせる場合(図3(A)図参照)、又は介護器具2,2を組み合わせる場合(図3(B)図参照)に限られず、厚さの異なる介護器具1,2を組合せてもよい(図3(C)図参照)。そうすると、二種類の厚さの介護器具1,2を用意すれば、単独で使用する場合を含めて、五通りの厚さの介護器具として使い分けることができる。これにより、要介護者の症状・身体の大きさに適合させた厚さの介護器具とすることができる。
二つの介護器具1,1の平坦面同士を係着させる場合には、一方の面ファスナ40のみを係着状態とさせ、他方の添着片50の外面に面ファスナを係着させると、他方の添着片を剥がす手間がない(図3(A)図,図3(C)図参照)。両方の介護器具の面ファスナ40,40を係着状態とさせて、面ファスナ同士を係着させてもよいことは勿論のことである(図3(B)図参照)。
面ファスナ40を他の袋体に係着させる場合は、例えば、一方の介護器具1を、他方の湾曲面38に立てかけるようにして組み合わせる(図3(D)図参照)。この場合には、二つの介護器具1,1が潰れながら要介護者100の身体を支えるため、身体と介護器具1との間に隙間ができにくく、安定した状態で寝姿勢を体位変換させることができる(図3(F)図)。
面ファスナを他の袋体に係着させない場合は、例えば、添着片50で面ファスナを覆ったままとし、複数の介護器具1,1,・・・を交互に上下反転させながら組み合わせる(図3(E)図参照)。この場合は、介護下着の取換作業に好適である。具体的には、組み合わせた介護器具を要介護者の下方に挿し入れると、腰から臀部を寝台から浮かせることができ、介護下着の取換作業を円滑に行うことができる。介護器具の数を増減させれば、要介護者の身体の大きさに拘わらず使用することができる。
実施例2においては、添着片の他の例を、図4を参照して説明する。図4の各々の図は、介護器具1の平坦面側から看た図を示している。図4(A)図は、添着片53が面ファスナ40の短辺縁部に備えられた例を示している。図4(B)図は、添着片54が面ファスナ40の長辺縁部かつ面ファスナよりも内側に備えられた例を示している。添着片53,54を剥がす方向(図4矢印A,B参照)が異なるが、介護器具の用途により、添着片を備えさせる位置を選択すればよい。
実施例3においては、介護器具と敷布とを含んだ介護器具セット3について、図5を参照して説明する。図5は、介護器具を体位変換器として使用した例を示している。図5(A)図は、横向きの寝姿勢の例を示し、図5(B)図は仰向けの寝姿勢の例を示している。図5においては、理解を容易にするため介護器具を着色して示している。実施例4以下においても同様としている。
介護器具セットは、実施例1又は実施例2で説明した介護器具と、手掛け部を有する敷布60とからなる。敷布60は、その表面が、面ファスナが係着可能な布帛とされ、裏面が液体を透過させない防水性を有している。敷布60の大きさは、寝台200全体を覆うことができるように、長さが寝台の長さと略同一であり、幅が寝台の幅よりも長くされている。敷布の大きさは、これに限定されず、要介護者100の上肢から大腿部より広ければよい。
敷布の手掛け部61は、寝姿勢の要介護者の外側に備えられている。具体的には、少なくとも体位変換に必須となる上下左右(両腕・両脚の外側)の二対に加えて、頭部の外側に一対、足の外側に一対の計4対を備えている(図5(B)図参照)。これにより、要介護者の寝姿勢を体位変換させるだけでなく、上半身を起こす又は下半身を浮かせる際にも、敷布の手掛けを引き上げるようにして要介護者の姿勢を変えることができる。
要介護者100の腕と脚の外方にある手掛け部62,62の中心間隔は、介護者110が敷布を引き上げる際に力を加えやすいように約70cmとされる(図5(B)図参照)。両腕及び両脚の外側にある手掛け部63,63の間隔は、要介護者100の外方位置となるように約90cmとされる。頭部と足の外側にある手掛け部64,64の中心間隔は、要介護者100の肩よりも外側となるように約50cmとされる。また、手掛け部の長さはいずれも約20cmとされる。
次に、介護器具を体位変換器として使用する場合の一例を説明する。要介護者100が横向きの寝姿勢をとっている場合(図5(A)図参照)には、介護器具1を、背中から腰部を支える位置と太腿から臀部を支える位置の二ヵ所に大まかに配置させる。この際、面ファスナを非係着状態としておけば、敷布に係着されることはない。次に、要介護者100の身体を軽く持上げ、身体と敷布60との隙間に介護器具1を挿し込み、介護器具を適切な位置に配置させる。そして、介護器具が適切な位置からずれないように、一方の手111で手掛け部35を掴んだ状態で、他方の腕112で添着片を剥がして、面ファスナを敷布に係着させる。
介護器具1の固定された位置を修正させる場合には、一方の手で手掛け部35を掴みながら、他方の手を介護器具1と敷布60との隙間に挿し込んで面ファスナを剥がして位置を修正させるとよい。手掛け部35を掴んで介護器具1の端部を敷布60から浮かせていれば、面ファスナが意図しない位置に係着されにくく作業性がよい。
要介護者が仰向けの寝姿勢をとっている場合(図5(B)図参照)には、要介護者の肩から脇腹の位置101,102に寝台200との間に隙間ができやすい。そのため、肩から脇腹にかけてそれぞれ介護器具を配置させると、背中だけに体圧が集中されなくなり、褥瘡の予防に効果的である。
また、右半身を少し持上げた状態とさせる場合には、要介護者の右半身の肩から脇腹の位置に厚い介護器具2を配置とさせると共に、右半身の腰部から臀部の位置103にも介護器具2を配置させる。左半身の肩から脇腹の位置102については、薄い介護器具1を配置させる。反対に左半身を少し持上げる場合には、介護器具の配置を左右反転させるだけである。足の踵にも褥瘡ができやすい患者の場合には、両足首を載置できるように介護器具1を配置させるとよい。
実施例4においては、介護器具1を脚部の拘縮対策具として使用する例を、図6及び図7を参照して説明する。図6(A)図は、介護器具1を一つだけ挟んでいる状態を示し、図6(B)図は、太さを変えた介護器具1,1を挟んでいる状態を示している。
拘縮の症状が重度の者については、径が太い介護器具を挟むことは困難であるため、介護者が両脚を開かせて、その隙間に一つの介護器具1を押し込んで使用する(図6(A)図参照)。拘縮の症状が軽度の者、又は、症状に緩和があった場合には、両脚の間隔を広げられるように、複数の介護器具1,1を組合せて径を太くさせて挟むようにする(図6(B)図参照)。
介護器具1の芯材が熱可塑性樹脂3次元結合体からなることにより、拘縮の症状がある位置に挟んでいるだけで、拘縮患者に痛みを与えることなく、継続した反発刺激を与えることができる。これにより、手指の拘縮と同様に、両脚・股関節の屈筋の緊張が緩み、関節の伸展が起きて運動可動領域の拡大にもつながっていく。
実施例5においては、介護器具1を要介護者の滑動防止手段として使用する例を、図7を参照して説明する。図7の各々の図は、電動ベッド300において上半身側を起こす動作を示している。電動ベッド300は、上半身を支える第1枠301と、大腿部を支える第2枠302と、膝下を支える第3枠303と、寝具304と、隣り合う枠を回動自在に繋ぐ第1回動部311と第2回動部312とを備えている。
電動ベッド300は、上半身を起こす前に大腿部104と膝105を折り曲げさせて、要介護者100が下方に滑動されにくくしている。具体的には、第2枠302と第3枠303との間が上方に凸に折れ曲がるように、第1回動部311と第2回動部312とが回動されて、要介護者の大腿部104を持上げながら膝105を折り曲げさせる(図7(B)図参照)。しかし、要介護者100の寝姿勢の位置、身長、拘縮の症状によっては、臀部から膝までの位置に隙間106ができることがある。前記隙間があるまま上半身を起こすと、要介護者が下方に滑り、身体が寝具304に擦れて褥瘡の原因ともなる。
そこで、臀部から膝までの位置に隙間106ができた場合には、介護器具1を挿し込んで面ファスナを係着させておく(図7(C)図参照)。具体的には臀部107及び膝裏108にあたる位置(図7(B)図参照)に係着させるとよい。併せて、両腕の外側位置にも介護器具1を係着させておく。この状態で上半身を起こすと、臀部107と膝裏108とが介護器具1に支えられるため、下方に滑ることがない。また、両腕の外側位置にも介護器具1が係着されているため、上半身を起こした際に、要介護者100が側方に倒れ込むこともない。これにより、要介護者100に負担をかけることなく、安全に電動ベッド300を作動させることができる。
(その他)
・実施例3においては、敷布の手掛け部を頭部と足の外側にも備えさせた例を説明したが、要介護者の寝姿勢体勢の上下左右だけに手掛け部を備えさせてもよいことは勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。