JP6729926B2 - ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質及びそのスクリーニング方法 Download PDF

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本発明は、細胞膜受容体ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質及び当該シグナル伝達抑制物質のスクリーニング方法に関する。
ErbBは上皮成長因子(Epidermal Growth Factor: EGF)受容体として、ErbB1、2、3、4の少なくとも4種のファミリーが知られている。ErbBファミリー分子は正常組織では組織の形成や維持を制御する。ErbBファミリーのいずれかの分子の活性化に伴う過剰なシグナル伝達はがんの発症・進展に関与している。例えば、ErbB2による過剰なシグナルを抑制する抗体はヒト乳がんなどの抗がん剤として使用されている。ErbB3は、乳がんなど、種々のがんでその発現が上昇しており、ErbB3が他のErbBファミリー分子とヘテロ二量体を形成することで、下流へのシグナルを増幅する。そのため、ErbB3が過剰なシグナルの重要なメディエーターであることが近年判明し、ErbB3は治療標的として注目されている。
ホルモン、神経伝達物質及びサイトカイン等、例えばEGFやヘレグリン(Heregulin: 以下「HRG」という。)などのリガンドがいずれかのErbBに結合すると、各ErbBファミリー分子はホモ又はヘテロ二量体を形成し、その結果ErbBのいずれかの細胞内領域でのチロシンリン酸化反応が促進される。チロシンリン酸化されたErbBの細胞内領域はSH2ドメインを有するアダプタータンパク質やシグナル伝達分子と結合し、細胞内にシグナル伝達する。ErbB以外の細胞膜受容体の中でも、細胞膜を1回貫通している受容体は基本的に同じ様式で活性化されて、シグナルを細胞内に伝達する。
免疫グロブリン(Ig)様分子であるネクチン(Nectin)を介する新しい細胞間接着分子について報告がある。当該細胞間接着分子は、細胞の接着と共に細胞の極性形成、生存、増殖、運動、分化など、種々の重要な細胞機能を制御する。生体内にはネクチンに類似した(Nectin like)少なくとも5つのネクチン様分子(Necl-1、-2、-3、-4、及び-5)が存在することが知られており、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体によるシグナル増幅が、ネクチン様分子のうちNecl-2により阻害されることを、本願発明者たちのグループが報告している(非特許文献1)。Necl-2はがん抑制因子として知られており、Necl-2はその細胞外領域を介してErbB3の細胞外領域と結合する。Necl-2はその細胞内領域を介して脱リン酸化酵素であるPTPN13と結合し、PTPN13はチロシンリン酸化されたErbB3を脱リン酸化に導き、その結果細胞内へのシグナル伝達を抑制する(非特許文献1)。ErbB2-ErbB3の二量体形成を阻害するために、HRG結合部位とは異なる部位でHRG共役型HER3(ErbB3)に特異的に結合する抗体について開示がある(特許文献1)。
ネクチン様分子のうちNecl-4もNecl-2と同様にがん抑制因子であり、全長のNecl-4はNecl-2と同様の機構でErbB2-ErbB3ヘテロ二量体のシグナル伝達を抑制する(非特許文献2)。しかしながら、Necl-4によるErbB2-ErbB3の二量体形成阻害がどのような作用機序によるかについては解明されていない。
ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成を阻害するために、抗ErbB3抗体の開発が進められているが、抗体医薬には抗体医薬特有の副作用発現、製造技術の確立、製剤製造コスト等の面から改善すべき点が多く残されている。
J Biol Chem. 2009 Aug 28;284(35):23793-805. Genes Cells. 2013 Jun;18(6):519-28.
特表2012-525432号公報
本発明は、細胞膜受容体ErbB3活性化に伴う過剰なシグナルの伝達抑制物質及び当該シグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。具体的には、抗ErbB3抗体と同等若しくはそれ以上の活性を有するErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質を提供することを課題とし、及び当該ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
ネクチン様分子のうちNecl-4もNecl-2と同様にがん抑制因子であり、全長のNecl-4はNecl-2と同様の機構でErbB2-ErbB3ヘテロ二量体のシグナル伝達を抑制する。Necl-4はその細胞外領域を介して、Necl-2とは異なる機構でErbB2-ErbB3ヘテロ二量体によるシグナル伝達を抑制する。しかしながら、Necl-4によるErbB2-ErbB3の二量体形成阻害がどのような作用機序によるかについては解明されていない。そこで、本発明者らは上記課題を解決するために、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成を阻害するNecl-4に着目し、Necl-4によるErbB2-ErbB3の二量体形成阻害の作用機序の解明について検討を行い、鋭意研究を重ねた結果、ErbB3とNecl-4が相互作用する部位がErbB3のドメインIIIであることを見出すと共にNecl-4によるErbB2-ErbB3の二量体形成阻害がNecl-4の細胞外領域のドメインIg3領域がErbB3に結合することによるものであることを明らかにし、本発明を完成した。本発明により、初めてNecl-4によるErbB2-ErbB3の二量体形成阻害の作用機序が解明された。
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ErbB3のドメインIIIに結合する物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
2.ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
3.ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質が、ErbB3のドメインIIIとNecl-4のドメインIg3との相互作用を阻害しうる物質である、前項2に記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
4.ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が、ErbB2とErbB3の二量体形成を阻害する物質である、前項1〜3のいずれかに記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
5.ErbB3のドメインIIIを標的とする物質であることを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
6.ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質であることを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
7.ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質が、ErbB3のドメインIIIとNecl-4のドメインIg3との相互作用を阻害しうる物質である、前項6に記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
8.ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が、Necl-4のドメインIg3の構造類似物である、前項5〜7のいずれかに記載のシグナルの伝達抑制物質。
9.Necl-4のドメインIg3の構造類似物が、以下の1)〜4)に示されるいずれかのペプチドであることを特徴とする、前項8に記載のシグナルの伝達抑制物質:
1)配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなるペプチド;
2)配列番号4で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、導入されてなるアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド;
3)配列番号4で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド。
10.ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が、ErbB2とErbB3の二量体形成阻害物質である、前項5〜9のいずれかに記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
本発明のErbB3のドメインIIIに結合する物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法によれば、低コストで簡便に製造可能な、当該シグナル伝達抑制物質を選別することができる。また、当該シグナル伝達抑制物質の候補化合物が抗体の場合であっても、より効果的に作用しうる抗体を選別することができる。更に、本発明によりNecl-4の細胞外領域に存在するドメインIg3の構造類似物をErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質として提供することができる。
リガンドによるErbBの活性化及び二量体形成の概念を示す図である。A.リガンドであるEGFによるErbB1刺激とErbB1-ErbB1ホモ二量体形成の概念を示す図である。B.リガンドであるHRGによるErbB3刺激とErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成の概念を示す図である。C.Necl-4によるErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成阻害作用の概念を示す図である。 ErbB3活性化に伴うErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成に伴うシグナルの伝達系、及びシグナルの伝達系に対して抑制作用を示すメカニズムを示す模式図である。A.Necl-2によるErbB2-ErbB3ヘテロ二量体からのシグナル伝達抑制の概念を示す図である。B.Necl-4によるErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成阻害作用の概念を示す図である。 本発明のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法の概念を示す図である。 ErbB3とNecl-4の相互作用に係るリガンド依存性について確認した図である。(参考例1) Necl-4によるErbB3とErbB2とのヘテロ二量体形成阻害作用について確認した図である。A.Necl-4(全長)及びNecl-4(△CP)によるErbB3のリン酸化に及ぼす作用を確認した写真図である。B.Necl-4(全長)及びNecl-4(△CP)によるErbB3とErbB2とのヘテロ二量体形成に及ぼす作用を確認した図である。(実施例1) Necl-4によるErbB3とErbB2とのヘテロ二量体形成阻害作用について確認した図である。A.Necl-4の特定部位によるErbB3のリン酸化に及ぼす作用を確認した写真図である。B.Necl-4によるErbB3とErbB2とのヘテロ二量体形成阻害作用について、ErbB3と相互作用するNecl-4の特定部位を確認した図である。(実施例2) Necl-4と相互作用するErbB3の特定部位を確認した図である。(実施例3) Necl-4-Ig3を含む系でMCF7細胞を培養したときのMCF7細胞の遊走能に及ぼす影響を確認した図である。(実施例4)
本発明は、細胞膜受容体ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質及び当該シグナル伝達抑制物質のスクリーニング方法に関する。
上皮成長因子受容体(EGFR)であるErbBは、上述したようにErbB1、2、3、4の少なくとも4種の分子が知られている。これらの受容体の各々は、多数の類義語を有する。例えば、「HER」及び「ErbB」が挙げられ、HER1はErbB1遺伝子によりコードされ、HER2はErbB2遺伝子によりコードされ、HER3はErbB3遺伝子によりコードされ、及びHER4はErbB4によりコードされる。本明細書では各EGF受容体について、各々ErbB1、ErbB2、ErbB3及びErbB4等で表現され、タンパク質や遺伝子について説明する場合も各々使用される。
リガンドがいずれかのErbBに結合すると、各ErbBファミリー分子はホモ又はヘテロ二量体を形成し、その結果ErbBのいずれかの細胞内領域でのチロシンリン酸化反応が促進されることは背景技術の欄で説明した如くである。具体的には、図1に示す ErbBの各二量体が挙げられる。各二量体を形成することで、下流への過剰なシグナル伝達を増幅する。
A.ErbB1-ErbB1ホモ二量体はリガンドであるEGFの存在により形成されたことを示す。ErbB1は、リガンド依存的に構造変化を起こす(図1A参照)。
B.ErbBファミリーのうち、ErbB3の細胞外領域は4つのドメイン(I、II、III、IV)より構成されている(図1B、図2参照)。後述するリガンドの存在によりErbB3の構造は変化し、ドメインIIがErbB3とは異なる他のErbBファミリー分子と結合し、ヘテロ二量体を形成する(図1B参照)。
Necl-2はがん抑制因子として知られており、Necl-2はその細胞外領域を介してErbB3の細胞外領域と結合する。Necl-2はその細胞内領域を介して脱リン酸化酵素であるPTPN13と結合し、PTPN13はチロシンリン酸化されたErbB3を脱リン酸化に導き、その結果細胞内へのシグナル伝達を抑制する(図2参照)。しかしながら、Necl-2がErbB3と結合しても、細胞内領域のPTPN13がなければErbB3を脱リン酸化に導くことはできない。
C.リガンドがない状態でErbB3はNecl-4と相互作用し、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成が阻害される(図1Ca)。ErbB3がNecl-4と相互作用した後、リガンドであるHRGがErbB3に結合しても、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成は阻害される(図1Cb)。がん細胞では、Necl-4の発現が抑制されるか機能障害を示すことが報告されている。そして、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体が形成されることで、Necl-4のがん抑制因子としての作用は発揮されにくくなる(図1Cc参照)。
ここで、ErbB3のアミノ酸配列情報は、NP_001973(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/54792100)で特定されるアミノ酸配列(配列番号1)からなり、ErbB3のドメインIIIに対応する部位は、上記配列番号1で特定されるアミノ酸配列の328-471番目のアミノ酸で特定される以下のアミノ酸配列(配列番号2)が含まれる。
ErbB3の全長:
MRANDALQVLGLLFSLARGSEVGNSQAVCPGTLNGLSVTGDAENQYQTLYKLYERCEVVMGNLEIVLTGHNADLSFLQWIREVTGYVLVAMNEFSTLPLPNLRVVRGTQVYDGKFAIFVMLNYNTNSSHALRQLRLTQLTEILSGGVYIEKNDKLCHMDTIDWRDIVRDRDAEIVVKDNGRSCPPCHEVCKGRCWGPGSEDCQTLTKTICAPQCNGHCFGPNPNQCCHDECAGGCSGPQDTDCFACRHFNDSGACVPRCPQPLVYNKLTFQLEPNPHTKYQYGGVCVASCPHNFVVDQTSCVRACPPDKMEVDKNGLKMCEPCGGLCPKACEGTGSGSRFQTVDSSNIDGFVNCTKILGNLDFLITGLNGDPWHKIPALDPEKLNVFRTVREITGYLNIQSWPPHMHNFSVFSNLTTIGGRSLYNRGFSLLIMKNLNVTSLGFRSLKEISAGRIYISANRQLCYHHSLNWTKVLRGPTEERLDIKHNRPRRDCVAEGKVCDPLCSSGGCWGPGPGQCLSCRNYSRGGVCVTHCNFLNGEPREFAHEAECFSCHPECQPMEGTATCNGSGSDTCAQCAHFRDGPHCVSSCPHGVLGAKGPIYKYPDVQNECRPCHENCTQGCKGPELQDCLGQTLVLIGKTHLTMALTVIAGLVVIFMMLGGTFLYWRGRRIQNKRAMRRYLERGESIEPLDPSEKANKVLARIFKETELRKLKVLGSGVFGTVHKGVWIPEGESIKIPVCIKVIEDKSGRQSFQAVTDHMLAIGSLDHAHIVRLLGLCPGSSLQLVTQYLPLGSLLDHVRQHRGALGPQLLLNWGVQIAKGMYYLEEHGMVHRNLAARNVLLKSPSQVQVADFGVADLLPPDDKQLLYSEAKTPIKWMALESIHFGKYTHQSDVWSYGVTVWELMTFGAEPYAGLRLAEVPDLLEKGERLAQPQICTIDVYMVMVKCWMIDENIRPTFKELANEFTRMARDPPRYLVIKRESGPGIAPGPEPHGLTNKKLEEVELEPELDLDLDLEAEEDNLATTTLGSALSLPVGTLNRPRGSQSLLSPSSGYMPMNQGNLGESCQESAVSGSSERCPRPVSLHPMPRGCLASESSEGHVTGSEAELQEKVSMCRSRSRSRSPRPRGDSAYHSQRHSLLTPVTPLSPPGLEEEDVNGYVMPDTHLKGTPSSREGTLSSVGLSSVLGTEEEDEDEEYEYMNRRRRHSPPHPPRPSSLEELGYEYMDVGSDLSASLGSTQSCPLHPVPIMPTAGTTPDEDYEYMNRQRDGGGPGGDYAAMGACPASEQGYEEMRAFQGPGHQAPHVHYARLKTLRSLEATDSAFDNPDYWHSRLFPKANAQRT(配列番号1)
ErbB3のドメインIII:
PKACEGTGSGSRFQTVDSSNIDGFVNCTKILGNLDFLITGLNGDPWHKIPALDPEKLNVFRTVREITGYLNIQSWPPHMHNFSVFSNLTTIGGRSLYNRGFSLLIMKNLNVTSLGFRSLKEISAGRIYISANRQLCYHHSLNWT(配列番号2)
本明細書において、「ErbB3活性化」とは、ErbB3がタンパク質やシグナル伝達分子と結合し、細胞内にシグナル伝達するきっかけとなるよう構造変化を起こしたり、複合体を形成したりすることをいう。例えばErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成により、ErbB2による細胞内領域でのチロシンリン酸化反応が促進される。チロシンリン酸化されたErbBの細胞内領域はSH2ドメインを有するアダプタータンパク質やシグナル伝達分子と結合し、細胞内にシグナル伝達する。本明細書において、「ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質」は、ErbB3のドメインIIIを標的とする物質とすることができる。ここで、「ErbB3のドメインIIIを標的とする物質」とは、ErbB3のドメインIIIに作用することで、ドメインIIIの機能に影響を及ぼす物質であってもよいし、ErbB3のドメインIII以外に作用することで、ドメインIIIの機能に影響を及ぼす物質であってもよい。本明細書において、「ErbB3のドメインIIIを標的とする物質」とは、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質であってもよい。その結果、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成阻害物質とすることができる。ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成阻害物質によれば、ErbB3活性化に伴う過剰なシグナル伝達を抑制することができる。
本明細書において、リガンドはErbBに結合すると、各ErbBファミリー分子はホモ又はヘテロ二量体を形成し、その結果ErbBのいずれかの細胞内領域でのチロシンリン酸化反応を促進しうる物質をいう。そのような作用を有する物質であれば特に限定されず、ホルモン、神経伝達物質及びサイトカイン等が挙げられ、具体的にはEGFやHRG、HB-EGF、TGF-α、β-celluin、amphiregulin及びepiregulinなどが挙げられる。ErbB3に作用するリガンドとして、HRGが特に好適である。ErbB1やErbB3はリガンドにより活性化されて、シグナルを細胞内に伝達する。
ネクチン(Nectin)の構造と同様に、3つの免疫グロブリン様ループのある細胞外領域、細胞膜貫通領域、及び細胞内領域から構成されるネクチン様分子(Necl)がある。Neclに存在する3つの免疫グロブリン様ループを各々Ig1、Ig2及びIg3という(図2参照)。Neclは別名CADM(cell adhesion molecule)ともいわれるが、本明細書では「Necl」ということとする。Neclファミリーは、背景技術の欄でも説明したように、少なくとも5つの分子が知られている。各々Necl-1、Necl-2、Necl-3、Necl-4、及びNecl-5等で表現され、本明細書において、タンパク質や遺伝子について説明する場合も各々使用される。本明細書において、Necl-4のアミノ酸配列情報は、GenBank Accession No. NP_694752.1(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/23346547)で特定されるアミノ酸配列(配列番号3)からなる。また、Necl-4のドメインIg3に対応する部位は、上記配列番号3で特定されるアミノ酸配列の221-323番目のアミノ酸で特定される以下のアミノ酸配列(配列番号4)が含まれる。
Necl-4の全長:
MGRARRFQWPLLLLWAAAAGPGTGQEVQTENVTVAEGGVAEITCRLHQYDGSIVVIQNPARQTLFFNGTRALKDERFQLEEFSPRRVRIRLSDARLEDEGGYFCQLYTEDTHHQIATLTVLVAPENPVVEVREQAVEGGEVELSCLVPRSRPAAVLRWYRDRKELKGVSSGQENGKVWSVASTVRFRVDRKDDGGIVICEAQNQALPSGHSKQTQYVLDVQYSPTARIHASQAVVREGDTLVLTCAVTGNPRPNQIRWNRGNESLPERAEAVGETLTLPGLVSADNGTYTCEAANKHGHARALYVLVVYDPGAVVEAQTSVPYAIVGGILALLVFLIICVLVGMVWCSVRQKGSYLTHEASGLDEQGEAREAFLNGGDGHKRKEEFFI(配列番号3)
Necl-4-Ig3領域:QYSPTARIHASQAVVREGDTLVLTCAVTGNPRPNQIRWNRGNESLPERAEAVGETLTLPGLVSADNGTYTCEAANKHGHARALYVLVVYDPGAVVEAQTSVPY(配列番号4)
本発明は、ErbB3のドメインIIIに結合する物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法に関する。
本発明におけるシグナルの伝達の抑制は、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成を阻害することによっても達成される。ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成の阻害は、ErbB3のドメインIIIに結合する物質により達成される。ErbB3のドメインIIIに結合する物質を選別するための方法として、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質を選別するのが好適である。Necl-4がErbB3のドメインIIIと相互作用すると、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成を阻害することができる。また、本発明は、ErbB3のドメインIIIに結合するNecl-4の結合部位を明らかにすることを特徴とする。Necl-4によるErbB2-ErbB3ヘテロ二量体形成の阻害によれば、ErbB2-ErbB3ヘテロ二量体による下流への過剰なシグナルの増幅を抑制することができる。いいかえれば、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達はNecl-4の細胞外ドメインIg3がErbB3のドメインIIIに結合することにより抑制することができる。
なお、Necl-2によるErbB2-ErbB3ヘテロ二量体による下流へのシグナルを抑制するには、細胞内領域における脱リン酸化酵素PTPN13との結合が必要である。
ErbB3のドメインIIIに結合する物質の選別は、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質を選別することでも達成される。ErbB3のドメインIIIとNecl-4のドメインIg3との相互作用を阻害しうる物質であれば、なお容易にErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質を選別することができる。ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質のスクリーニング方法は、特に限定されないが、例えば図3に示す方法を適用することができる。また、分泌型スプリットルシフェラーゼを用いたスクリーニング方法を適用することができる。
選別される候補物質、即ちErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質の候補物質としては、低分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質等のいずれであってもよい。候補物質の具体例として、例えば化合物ライブラリーから上記スクリーニング方法により選別することができる。具体的には、Necl-4のドメインIg3の構造類似物やErbB3のドメインIIIに結合しうる抗体、核酸アプタマーなどが挙げられる。
ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質がNecl-4のドメインIg3の構造類似物である場合、以下の1)〜4)に示されるいずれかのペプチドとすることができる:
1)配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなるペプチド;
2)配列番号4で特定されるアミノ酸配列のうち、1個又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、導入されてなるアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド;
3)配列番号4で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド。
ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が抗体の場合、「抗体」は、完全な免疫グロブリンであってもよいし、ErbB3のドメインIIIを抗原結合部位として含むのであれば、不完全型の抗体であってもよい。抗原結合部分は、組換えDNA技術又は完全抗体の酵素的又は化学的開裂により作製することができる。抗原結合部分には、とりわけ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ドメイン抗体(dAbs)、及び相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及び該ポリペプチドに対する特異的抗原結合をもたらすのに充分な免疫グロブリンの少なくとも部分を含むポリペプチドが含まれる。「エピトープ」は、抗原結合タンパク質(例えば、抗体)が結合する分子の部分である。エピトープとして、ErbB3のドメインIIIから選択される部位を決定することができる。
本発明のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質、即ちErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成阻害物質、あるいはそれらの医学的に受容可能な塩を有効成分とし、少なくとも一つの医薬的に受容可能な担体、希釈剤又は賦形剤と共に含む医薬組成物として提供することができる。医薬組成物は、ErbB3活性化やErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成等に係るあらゆる疾患に適用することができる。そのような疾患の例として、腫瘍、悪性腫瘍、がんが挙げられる。本明細書において、腫瘍、悪性腫瘍及びがんとしては、例えば大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部扁平上皮がん、皮膚がん、尿路がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起膠腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫及びウィルムス腫瘍などが例示される。
本発明のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質、即ちErbB2-ErbB3ヘテロ二量体の形成阻害物質を有効成分とする医薬組成物は、疾患の種類、程度等に応じて投与量、投与頻度等の投与方法を適宜決定することができる。また、係る医薬組成物は、自体公知の既存の抗腫瘍剤や抗がん剤と共に使用することができる。使用の順序、弊容量等についても適宜最適な方法を決定することができる。
以下、本発明の理解を深めるために参考例及び実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、参考例では、本発明を完成させるに至った実験結果等を示す。
(参考例1)ErbB3とNecl-4の相互作用に係るリガンド依存性について
本参考例では、ErbB3とNecl-4の相互作用に関し、リガンドの有無によるErbB3とNecl-4の相互作用について説明する。
表1に示す各遺伝子を含むプラスミドの種々組合わせで、HEK293E細胞に遺伝子を導入し、48時間培養した。細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解バッファーで溶解して溶出試料を得た。溶出試料をさらに遠心分離し、上清を抗FLAG抗体とプロテインGセファロースビーズを含む溶液中で4℃で2時間転倒混和した。遠心分離によりビーズを回収し、ビーズを溶解バッファーで洗浄した後、結合したタンパク質を溶出し、SDS-PAGE用試料とした。SDS-PAGEを行った後、ウエスタンブロット法で各タンパク質を確認した。
上記の結果、リガンドであるHRGの有無にかかわらず、ErbB3とNecl-4は相互作用することが確認された(図4)。
(材料と方法)
本参考例で示す材料及び方法は、以下の実施例においても同様に適用される。
1.細胞培養と遺伝子導入
HEK293E細胞は10%のFBS、100 U/mLペニシリン及び100 μg/mLストレプトマイシンを含むDMEMで、37℃で5%のCO2条件下で培養した。ヒト・乳腺腺がんMCF7細胞は10%のFBS、100 U/mLペニシリン及び100 μg/mLストレプトマイシン及び10 μg/mLインスリンを含むDMEMで、37℃で5%のCO2条件下で培養した。遺伝子の導入はLipofectamine 2000又はLipofectamine LTX(Thermo Fisher Scientific)を用い、プロトコルにしたがって行った。
2.抗体
ウサギ抗ErbB3 pAB(ポリクローナル抗体:sc-285、Santa Cruz)
ウサギ抗ErbB3 mAb(クローンD22C5、12708S; Cell Signaling Technology)
ウサギ抗-リン酸化ErbB3(Tyr1289)mAb(クローン21D3、4791S;Cell Signaling Technology)
マウス抗FLAG mAb(免疫沈降用、F3165; Sigma-Aldrich)
ウサギ抗FLAG pAB(免疫ブロット用、F7425; Sigma-Aldrich)
ウサギ抗GFP pAB(598; MBL International)
マウス抗HA mAb(MMS-101P; BioLegend)
ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)を結合した二次抗体、
Protein G-Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare)
Protein A-Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare)
HRG-β(Sigma-Aldrich)
ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma-Aldrich)
3.タンパク質の精製
FLAGタグ(DYKDDDDK:配列番号5)付Necl-4を含むプラスミドをHEK293E細胞に導入した。FLAGタグ付Necl-4には、配列番号3に示すNecl-4の全長のアミノ酸配列のうち、ドメインIg1(アミノ酸26-120)、ドメインIg2(アミノ酸121-220)及びドメインIg3(アミノ酸221-323)が含まれる。
遺伝子導入されたHEK293E細胞をピューロマイシンで選択し、無血清培地(SAFC Biosciences社)で培養した。分泌されたIgタンパク質を、DDDDK(配列番号6)-抗体-結合ビーズ(MBL International)で精製した。DDDDK(配列番号6)ペプチドで溶出されたNecl-4 Igタンパク質は、Amicon Ultra-4(3 kDa; Merck Millipore)を用いて透析し、精製した。
4.ErbB3活性の測定
各発現ベクターを導入したMCF7細胞を3×104細胞/cm2の密度で培養容器に播種し、培養した。細胞は、24時間0.5%の脂肪酸不含BSAを含むDMEMで培養し、4分間、脂肪酸不含BSA及び20ng/mLのHRGを含むDMEMで刺激した。細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解バッファー(pH 7.5の20 mM Tris-HCl、1%のNonidet P-40(商標名)、10%のグリセロール、150 mM NaCl、1 mMジチオトレイトール、1 mM CaCl2、1 mM MgCl2、10 μM(p-amidinophenyl)methanesulfonyl fluoride、EDTA(-)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、ホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3(Sigma-Aldrich)で溶解した。溶解産物をSDS-PAGEにかけ、ウエスタンブロッティングを行った。
5.免疫沈降法及び免疫沈降法によるErbB2とErbB3との二量体形成阻害作用の測定
各発現ベクターを導入したHEK293E細胞を48時間培養した。細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解バッファーで溶解して溶出試料を得た。溶出試料をさらに遠心分離し、上清を抗FLAG抗体あるいは抗ErbB3抗体と、プロテインAセファロースビーズあるいはプロテインGセファロースビーズを含む溶液中で4℃で2時間転倒混和した。遠心分離によりビーズを回収し、ビーズを溶解バッファーで洗浄した後、結合したタンパク質を溶出し、SDS-PAGE用試料とした。SDS-PAGEを行った後、ウエスタンブロット法で各タンパク質を確認した。
(実施例1)Necl-4の作用
本実施例では、Necl-4によるErbB3とErbB2との二量体形成阻害作用について確認した。
A.表2に示す各遺伝子を含むプラスミドの種々組合わせで、MCF7細胞に遺伝子を導入し、発現させた。細胞は24時間培養し、20 ng/mLのHRGで4分間刺激した。各抗体を用いてリン酸化ErbB3(Tyr1289)、ErbB3、FLAGについてウエスタンブロット法で各タンパク質を確認した。ここで、Necl-4(△CP)は、Necl-4の細胞外領域の部分をいう。その結果、Necl-4(全長)及びNecl-4(△CP)は、HRG刺激によるリン酸化ErbB3(Tyr1289)を抑制していると考えられた(図5A)。これにより、Necl-4(△CP)も、ErbB3のリン酸化を抑制することが示唆された。FLAGタグ(DYKDDDDK:配列番号5)付加したNecl-4及びNecl-4(△CP)発現用プラスミドは、非特許文献2に示す方法で作製した。
B.表2に示す各遺伝子を含むプラスミドの種々組合わせで、HEK293E細胞に遺伝子を導入し、発現させた。Necl-4によるErbB3-ErbB2二量体形成に及ぼす影響を確認した。細胞は24時間培養し、200 ng/mLのHRGで10分刺激した。ErbB3、FLAG、HAについて各抗体を用いてウエスタンブロット法で各タンパク質を確認した。その結果、参考例と同様に溶解バッファーで溶解して得た溶出試料の場合は、HAが検出されErbB2を含むことが確認された(図5B下)。一方、抗ErbB3抗体で免疫沈降して精製した試料では、Necl-4(全長)及びNecl-4(△CP)のいずれも含まない系でHRG刺激を行った場合にのみHAが検出され、ErbB2を含むことが確認された(図5B上)。このことから、Necl-4の細胞外領域によりErbB3とErbB2の結合が阻害されると考えられた。
(実施例2)Necl-4の作用
本実施例では、Necl-4によるErbB3とErbB2との二量体形成抑制作用に関し、ErbB3の作用部位を確認した。
A.Necl-4にはドメインIg1、ドメインIg2、及びドメインIg3からなる3種類のループ構造からなる免疫グロブリン様分子を含むため、何れの分子がErbB3とErbB2との二量体形成阻害作用に関わるか確認した。MCF7細胞を24時間培養し、表3Aに示す種々組合わせで精製タンパク質存在下で20 ng/mLのHRGで4分間刺激した。細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解バッファー(pH 7.5の20 mM Tris-HCl、1%のNonidet P-40(商標名)、10%のグリセロール、150 mM NaCl、1 mMジチオトレイトール、1 mM CaCl2、1 mM MgCl2、10 μM(p-amidinophenyl)methanesulfonyl fluoride、EDTA(-)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、ホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3(Sigma-Aldrich)で溶解した。溶解産物をSDS-PAGEにかけ、各抗体を用いてリン酸化ErbB3(Tyr1289)、ErbB3についてウエスタンブロット法で各タンパク質を確認した。その結果、FLAG-Necl-4-Ig3は、HRG刺激によるリン酸化ErbB3(Tyr1289)の発現をやや抑制していると考えられた(図6A)。これにより、Necl-4-Ig3はErbB3のリン酸化を抑制することが示唆された。
以下に示す種々のNecl-4をコードするcDNAを含むプラスミドをHEK293E細胞に導入し、各遺伝子組換えNecl-4を作製した。遺伝子導入されたHEK293E細胞をピューロマイシンで選択し、無血清培地(SAFC Biosciences社)で培養した。分泌されたIgタンパク質を、DDDDK(配列番号6)-抗体-結合ビーズ(MBL International)で精製した。DDDDK(配列番号6)ペプチドで溶出されたNecl-4 Igタンパク質は、Amicon Ultra-4(3 kDa; Merck Millipore)を用いて透析し、精製した。
(1)Necl-4:配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列のうち、ドメインIg1に対応する26-120、ドメインIg2に対応するアミノ酸121-220及びドメインIg3に対応する221-323を含む。
(2)Necl-4-Ig1:配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列のうち、ドメインIg1に対応する26-120を含む。
(3)Necl-4-Ig2:配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列のうち、ドメインIg2に対応するアミノ酸121-220を含む。
(4)Necl-4-Ig3:配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列のうち、ドメインIg3に対応する221-323を含む。
B.表3Bに示す各遺伝子を含むプラスミドの種々組合わせで、HEK293E細胞に遺伝子を導入し、細胞表面に発現させた。Necl-4-Ig3によるErbB3-ErbB2二量体形成に及ぼす影響を確認した。細胞は24時間培養し、FLAG-Necl-4-Ig3(200 μg/mL)存在下、200 ng/mLのHRGで10分刺激した。ErbB3、HAについて各抗体を用いてウエスタンブロット法で解析した。その結果、参考例と同様に溶解バッファーで溶解して得た溶出試料の場合は、HAが検出されErbB2を含むことが確認された(図6B下)。一方、抗ErbB3抗体で免疫沈降して精製した試料中におけるHAを付加したErbB2は、Necl-4-Ig3を含まずHRG刺激を行った系で確認されたが、HRGで刺激しない系及びHRGで刺激したがNecl-4-Ig3を含む系では検出を認めなかった(図6B上)。このことから、Necl-4-Ig3によりErbB3とErbB2の結合が阻害されると考えられた。
(実施例3)Necl-4とErbB3の作用
表4及び図7に示す各遺伝子を含むプラスミドの種々組合わせで、HEK293E細胞に遺伝子を導入し、細胞表面に発現させた。
ErbB3について、種々の遺伝子組換え変異体を作製した。
(1)ErbB3-I/II/III/IV
(2)ErbB3-II/III/IV
ドメインIを欠損する変異体。シグナルペプチド領域、ドメインI及び細胞質内領域を欠損する。配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1-19、20-183、709-1342を欠損する。
(3)ErbB3-III/IV
ドメインI及びドメインIIを欠損する変異体。シグナルペプチド領域、ドメインI及びII、細胞質内領域を欠損する。配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1-19、20-327、709-1342を欠損する。
(4)ErbB3-IV
ドメインI、II、IIIを欠損する変異体。シグナルペプチド領域、ドメインI〜III、細胞質内領域を欠損する。配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1-19、20-471、709-1342を欠損する。
ErbB3から上記各アミノ酸領域を欠損したcDNA破片をそれぞれPCRによって増幅し、pEGFP-N3(Clontech社)に挿入した。プレプロトリプシン・シグナルペプチドをプラスミド中すべてのErbB3変異体のN末端側に挿入した。
上記作製したErbB3の変異体を用いて、Necl-4と相互作用しうるErbB3の部位を確認した。細胞は24時間培養し、FLAG-Necl-4、GFP-ErbB3について、各抗体を用いてウエスタンブロット法で解析した。その結果、ドメインI、II、IIIを欠損する変異体GFP-ErbB3はNecl-4と相互作用しなかったが、ドメインI又はドメインI及びIIを欠損する変異体GFP-ErbB3ではGFP及びFLAGが検出された。このことから、Necl-4と相互作用するErbB3の部位は、ドメインIIIであると考えられた。(図7)。
(実施例4)Necl-4とErbB3の作用
本実施例では、20 μg/mLのNecl-4-Ig3を含む系でMCF7細胞を培養したときのMCF7細胞の遊走能に及ぼす影響を確認した。
ボイデンチャンバーの上部にMCF細胞5×104を加え、下部に10ng/mLのHRGを含む系と含まない系で37℃で16時間培養した。20 μg/mLのNecl-4-Ig3を上部及び下部に添加した。下部に遊走した細胞をクリスタルバイオレットで染色し、細胞数を測定した。その結果、HRGのみを含む系で培養したときは細胞が遊走能を示したのに対し、さらにNecl-4-Ig3を含む系で培養したときは、遊走能が抑制されていることが確認された(図8)。上記結果により、Necl-4-Ig3により、リガンド添加によるがん細胞の細胞遊走能が抑制されることが示唆された。
以上詳述したように、本発明のErbB3のドメインIIIに結合する物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法によれば、抗体のみならず、簡単に低コストで製造可能な、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質を選別することができる。本発明の方法によれば、従来より開発が進められている抗ErbB3抗体特有の副作用や、抗体作製についての多くの課題が解決された、シグナルの伝達抑制物質を提供することができる。ErbB3のドメインIIIに結合するNecl-4の結合部位が細胞外ドメインIg3であることが明らかにされた。ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達はNecl-4の細胞外ドメインIg3をErbB3のドメインIIIに結合させることにより抑制することが確認された。

Claims (6)

  1. ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質を選別することを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
  2. ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質が、ErbB3のドメインIIIとNecl-4のドメインIg3との相互作用を阻害しうる物質である、請求項1に記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
  3. ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が、ErbB2とErbB3の二量体形成を阻害する物質である、請求項1又は2に記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質のスクリーニング方法。
  4. ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうる物質であって、当該物質がNecl-4のドメインIg3の構造類似物であることを特徴とする、ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
  5. Necl-4のドメインIg3の構造類似物が、以下の1)〜4)に示されるいずれかのペプチドであることを特徴とする、請求項に記載のシグナルの伝達抑制物質:
    1)配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなるペプチド;
    2)配列番号4で特定されるアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、導入されてなるアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド;
    3)配列番号4で特定されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を基にして特定されるペプチドであって、ErbB3のドメインIIIとNecl-4との相互作用を抑制しうるペプチド。
  6. ErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質が、ErbB2とErbB3の二量体形成阻害物質である、請求項4又は5に記載のErbB3活性化に伴うシグナルの伝達抑制物質。
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