本発明において、インクジェット記録用インク(以下、「インク」と言うことがある。)の「再分散性」とは、例えば、インクが一度蒸発乾固し、固形物が生じた後、新たにインクと接触した際の前記固形物の溶解性及び分散性を意味する。再分散性が悪いと、例えば、インクジェットヘッドでインクが加熱され、蒸発乾固することで固形物が生じた後に、新たにインクと接触しても前記固形物が溶解及び分散せず、吐出不良の原因となる。
本発明のインクジェット記録装置用充填液(以下、「充填液」と言うことがある。)について説明する。前記充填液は、インクジェット記録装置の液体流路に充填される。前記充填液としては、例えば、保管液、検査液、導入液、出荷液等があげられる。前記保管液は、インクジェット記録装置の保管(例えば、長期間不使用)時に液体流路内に充填される液体である。前記検査液は、工場でインクジェットヘッドの吐出を検査するために使用される液体である。前記導入液は、工場でインクジェットヘッドの吐出を検査するときに検査液が液体流路内に容易に導入されるように事前に導入される液体である。前記出荷液は、工場から出荷される状態のインクジェット記録装置の液体流路に充填されて、前記液体流路内の状態を保つための液体である。
前記充填液は、アルキルエーテル系界面活性剤と、親水性ポリマーとを含む。
前記アルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤等があげられる。前記アルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ライオン(株)製の「サンノール(登録商標)NL1430」;花王(株)製の「エマール(登録商標)20CM」、「エマール(登録商標)E−27E」、「エマール(登録商標)327」、「ラテムル(登録商標)E−150」、「エマルゲン(登録商標) 408」、「エマルゲン(登録商標) 105」、「エマルゲン(登録商標) 150」、「エマルゲン(登録商標) 220」、「エマルゲン(登録商標) 306P」、「エマルゲン(登録商標) 404」、「エマルゲン(登録商標) 430」、「エマルゲン(登録商標) 705」;三洋化成工業(株)製の「ビューライト(登録商標)NA−25S」等があげられる。
前記充填液は、前記アルキルエーテル系界面活性剤を含むことで、液体流路にインクに含まれる成分が付着するのを抑制可能である。前記付着抑制のメカニズムは、例えば、つぎのように推定される。近年、インクの記録媒体表面への定着性向上の観点等から、インクへの疎水性ポリマーの添加が一般的となっている。例えば、図1(A)に示すように、インクが、前記アルキルエーテル系界面活性剤を含まない充填液で置換された場合には、顔料分散用樹脂としてインクに添加された疎水性ポリマー41の疎水部が、顔料40を巻き込んで、疎水性である液体流路30に付着する。一方、図1(B)に示すように、インクが、アルキルエーテル系界面活性剤50を含む前記充填液で置換された場合には、疎水性ポリマー41の疎水部をアルキルエーテル系界面活性剤50が覆うことで、疎水性ポリマー41及び顔料40の液体流路30への付着が抑制される。なお、図1では、インクに添加された疎水性ポリマーが、顔料分散用樹脂である場合を例にとって説明したが、前記疎水性ポリマーが、記録媒体表面に顔料が定着するのを補助する顔料定着用の樹脂(バインダー樹脂)である場合にも、同様のメカニズムで前記付着抑制が達成されると推定される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
液体流路へのインクに含まれる成分の付着抑制の観点から、前記アルキルエーテル系界面活性剤は、アニオン性であることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムであることがより好ましい。このようなアルキルエーテル系界面活性剤としては、前述の市販品のうち、ライオン(株)製の「サンノール(登録商標)NL1430」;花王(株)製の「エマール(登録商標)20CM」、「エマール(登録商標)E−27E」、「エマール(登録商標)327」、「ラテムル(登録商標)E−150」;三洋化成工業(株)製の「ビューライト(登録商標)NA−25S」があげられる。
前記アルキルエーテル系界面活性剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。前記充填液全量における前記アルキルエーテル系界面活性剤の配合量は、例えば、0.2重量%以上、0.5重量%以上、0.8重量%以上である。前記アルキルエーテル系界面活性剤の配合量の上限は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、1.5重量%以下である。
前記充填液は、さらに、アルキルエーテル系界面活性剤以外の界面活性剤を含んでもよい。
前記親水性ポリマーは、酸価が100mgKOH/g〜250mgKOH/gである。また、前記親水性ポリマーの重量平均分子量は、例えば、4000〜16500である。前記酸価及び前記重量平均分子量は、例えば、JISK0070及びJISK0124に準じて測定可能である。前記親水性ポリマーとしては、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、BASF社(旧ジョンソンポリマー(株))製の「ジョンクリル(登録商標)586」(酸価108mgKOH/g、重量平均分子量4600)、「ジョンクリル(登録商標)61J」(酸価195mgKOH/g、重量平均分子量12000)、「ジョンクリル(登録商標)62」(酸価200mgKOH/g、重量平均分子量8500)、「ジョンクリル(登録商標)354」(酸価200mgKOH/g、重量平均分子量8500)、「ジョンクリル(登録商標)57」(酸価215mgKOH/g、重量平均分子量4900)、「ジョンクリル(登録商標)70」(酸価240mgKOH/g、重量平均分子量16500)等があげられる。
前記充填液は、前記親水性ポリマーを含むことで、インクの再分散性を向上可能である。前記再分散性向上のメカニズムは、例えば、つぎのように推定される。例えば、図2(A1)〜(A3)に示すように、インクが、前記親水性ポリマーを含まない充填液で置換された場合、前記インクが一度蒸発乾固し、疎水性ポリマー41及び顔料40の固形物が生じると、新たにインクと接触しても、前記固形物は分散しない。一方、図2(B1)〜(B3)に示すように、インクが、親水性ポリマー51を含む前記充填液で置換されると、疎水性ポリマー41及び顔料40が、親水性ポリマー51を巻き込みながら固形物となるため、新たにインクと接触すると、前記固形物は分散する。なお、図2では、インクに添加された疎水性ポリマーが、顔料分散用樹脂である場合を例にとって説明したが、前記疎水性ポリマーが、前記バインダー樹脂である場合にも、同様のメカニズムで前記再分散性向上が達成されると推定される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
前記親水性ポリマーの酸価は、100mgKOH/g〜200mgKOH/gであることが好ましい。前記酸価が100mgKOH/g以上であることで、前記親水性ポリマーの親水性が充分なものとなり、前記固形物の分散性に優れた充填液を得ることができる。また、前記酸価が200mgKOH/g以下であれば、保存安定性により優れた充填液を得ることができる。
前記親水性ポリマーの重量平均分子量は、8000〜15000であることが好ましい。前記重量平均分子量が8000以上であれば、前記親水性ポリマーの溶解性が適度なものとなり、分散性及び保存安定性により優れた充填液を得ることができる。また、前記重量平均分子量が15000以下であれば、充填液の粘度が適度なものとなり、前記親水性ポリマーの分酸性により優れる。
前記親水性ポリマーは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。前記充填液全量における前記親水性ポリマーの配合量は、例えば、0.05%以上、0.15重量%以上、0.2重量%以上である。前記親水性ポリマーの配合量の上限は、例えば、2重量%以下、1.5重量%以下、0.8重量%以下である。
前記充填液は、さらに、着色剤を含んでもよい。前記充填液が着色剤を含めば、前記充填液が前記液体流路の材料を劣化させるのを抑制可能である。また、前記充填液が前記検査液として用いられる場合、前記充填液が着色剤を含めば、前記充填液を視認しやすく、好ましい。前記充填液に含まれる前記着色剤は、染料又は顔料のいずれであってもよい。また、前記充填液に含まれる着色剤として、顔料及び染料を混合して用いてもよい。
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレット及びC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッブルー9、22、40、59、90、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14及び37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14及び27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。また、前記染料としては、式(1)で表される染料もあげられる。
式(1)において、
nは、0、1又は2であり、
R
1、R
2及びR
3は、それぞれ、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基であり、R
1、R
2及びR
3は互いに同一でも異なっていてもよく、
R
4、R
5及びR
6は、それぞれ、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアラルキル基、置換又は無置換の脂環基、置換又は無置換のヘテロ環基であり、R
4、R
5及びR
6は互いに同一でも異なっていてもよく、
R
1〜R
6のいずれかが酸基を有する場合、その一部又は全部は、塩型のものであってもよく、
3つのMは、それぞれ、H、Li、Na、K、NH
4、NH
3CH
3、N(CH
3)
4、NH
3C
2H
5、N(C
2H
5)
4、NH
2(C
2H
4OH)
2、NH
3(C
2H
4NH)
5、C
2H
4NH
2のいずれかであり、3つのMは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキル基である。前記置換又は無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、トリフルオロメチル基、ジメチルアミノメチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルコキシ基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルコキシ基である。前記置換又は無置換のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のカルバモイル基としては、例えば、カルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のスルファモイル基としては、例えば、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N−エチル−N−フェニルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、p−カルボキシフェニルスルファモイル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、カルバモイルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、アセチルアミノ基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるスルホン酸エステル基としては、例えば、フェノキシスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアルキルスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキルスルホニル基である。前記置換又は無置換のアルキルスルホニル基としては、例えば、ヒドロキシスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3における置換又は無置換のアリールスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が6〜15のアリールスルホニル基である。前記置換又は無置換のアリールスルホニル基としては、例えば、ベンジルスルホニル基等があげられる。
式(1)において、R1、R2及びR3におけるカルボン酸エステル基としては、例えば、メトキシカルボニル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜18のアルキル基である。前記置換又は無置換のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基、エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシシクロヘキシルメチル基、1−カルボキシ−2−メルカプトエチル基、1−カルボキシ−2−カルバモイル−エチル基、1−イソプロピル−1−カルボキシメチル基、1,2−ジカルボキシプロピル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアルケニル基は、好ましくは、総炭素原子数2〜18のアルケニル基である。前記置換又は無置換のアルケニル基としては、例えば、2−メチル−1−プロペニル基、ビニル基、アリル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアリール基としては、例えば、3,4−ジカルボキシフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−カルボキシフェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−カルボキシ−2−フェニル−エチル基、1−カルボキシ−2−ヒドロキシフェニルエチル基、4−カルボキシベンジル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換の脂環基としては、例えば、シクロヘキシル基、4−カルボキシシクロヘキシル基等があげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6における置換又は無置換のヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
式(1)において、R4、R5及びR6としては、少なくとも一つが1〜4個のカルボキシ基又はスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環基、アラルキル基若しくはヘテロ環基であってもよい。
式(1)において、R4及びR5は、それぞれ、水素原子又は3置換フェニル基であってもよく、R4及びR5は互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、前記3置換フェニル基の三つの置換基は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、総炭素原子数が1〜9の置換又は無置換のアルキル基、総炭素原子数が1〜9の置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、カルボン酸エステル基であり、前記三つの置換基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
式(1)で表される染料の好ましい態様としては、例えば、式(1)において、R4、R5及びR6の少なくとも一つが、1〜4個のカルボキシ基又はスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基若しくはシクロへキシル基である態様があげられる。
式(1)で表される染料は、その構造中に、スルホ基及びカルボキシ基又はこられの塩を合計で6個以下、好ましくは5個以下、特に好ましくは4個以下有することが好ましい。
式(1)で表される染料の好ましい態様としては、例えば、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、カルボキシ基、カルバモイル基、トリフルオロメチル基又はスルファモイル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、カルボキシ基又はスルファモイル基で置換されてもよいフェニル基又はカルボキシアルキル基であり、
R6は、水素原子又はアルキル基であり、
R1〜R6のいずれかが酸基を有する場合、その一部又は全部は、塩型のものであってもよく、
3つのMは、それぞれ、H、Li、Na、K、NH4、NH3CH3、N(CH3)4、NH3C2H5、N(C2H5)4、NH2(C2H4OH)2、NH3(C2H4NH)5、C2H4NH2のいずれかである態様があげられる。
式(1)で表される染料の好ましい具体例としては、式(1−1)〜(1−5)で表される化合物があげられる。
式(1−1)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−カルボキシフェニル基であり、
R6は、水素原子であり、
Mは、NH4である態様である。
式(1−2)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルバモイル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−カルボキシフェニル基であり、
R6は、水素原子であり、
Mは、Naである態様である。
式(1−3)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の3位に位置するスルファモイル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、2−スルファモイルフェニル基であり、
R6は、イソプロピル基であり、
Mは、NH3C2H5である態様である。
式(1−4)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するトリフルオロメチル基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、1−カルボキシ−2−メチルブチル基であり、
R6は、メチル基であり、
Mは、NH3CH3である態様である。
式(1−5)で表される化合物は、式(1)において、
nは、0であり、
R1は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
R2、R3及びR5は、それぞれ、水素原子であり、
R4は、フェニル基であり、
R5は、水素原子であり、
Mは、NH4である態様である。
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等があげられる。
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報、特表2011−515535号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」、「MA100」及び「#2650」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・コーポレーション社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」及び「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
前記充填液全量における前記着色剤の配合量は、例えば、0重量%を超えて0.05重量%以下である。前記着色剤の配合量が0.05重量%以下の前記充填液は、記録に用いても着色剤が少なすぎて記録内容を判別できないため、実質的にインクではない。
前記充填液に含まれる前記着色剤は、親水基1個当たりの分子量(以下、「単位分子量」と言う。)が300〜450の染料であることが好ましい。このような染料であれば、記録時に、前記液体流路に充填された前記充填液を、前記インクに置換する際に、前記インクの泡立ちが抑制され、前記液体流路への前記インクの導入性により優れる。このような染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド52(前記単位分子量302)、C.I.アシッドレッド289(前記単位分子量349)、C.I.ダイレクトイエロー132(前記単位分子量335)、C.I.アシッドブルー90(前記単位分子量424)等があげられる。
前記充填液は、さらに、水を含んでもよい。前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記充填液全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
前記充填液は、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。
前記充填液における前記水溶性有機溶剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜85重量%、5重量%〜60重量%である。
前記充填液は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース等があげられる。
前記充填液は、例えば、前記アルキルエーテル系界面活性剤と、前記親水性ポリマーと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
つぎに、本発明のインクジェット記録用インクセットについて説明する。本発明のインクジェット記録用インクセットは、インクジェット記録用インクと、インクジェット記録装置用充填液とを含むインクジェット記録用インクセットであって、前記インクは、着色剤と、疎水性ポリマーとを含み、前記充填液は、本発明のインクジェット記録装置用充填液であることを特徴とする。
前記インクに含まれる着色剤としては、例えば、前述の前記充填液に含まれる着色剤と同様のものを用い得るが、顔料であることが好ましい。前記インク全量における前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%、1重量%〜15重量%、2重量%〜10重量%である。
前記疎水性ポリマーは、例えば、前記顔料分散用樹脂であってもよいし、前記バインダー樹脂であってもよいし、前記顔料分散用樹脂と前記バインダー樹脂とを兼ねるものであってもよいし、前記顔料分散用樹脂と前記バインダー樹脂の双方であってもよい。前記疎水性ポリマーは、前記インクに含まれる前記着色剤が前記自己分散型顔料である場合には、例えば、前記バインダー樹脂である。
前記疎水性ポリマーとは、例えば、酸価が100mgKOH/g未満のポリマーである。前記疎水性ポリマーとしては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むもの、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合体塩、スチレン/無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル/エチレン共重合体樹脂等があげられる。前記疎水性ポリマーは、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、BASF社(旧ジョンソンポリマー(株))製の「ジョンクリル(登録商標)611」;ビックケミー社製の「Disperbyk190」及び「Disperbyk194」;等があげられる。
前記疎水性ポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記インク全量における前記疎水性ポリマーの配合量は、例えば、0.05重量%〜5重量%、0.3重量%〜3重量%、0.5重量%〜2重量%である。
前記インクは、さらに、水を含んでもよい。前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記インク全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
前記インクは、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
前記インク全量における前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記インク全量における前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%、0重量%〜15重量%、1重量%〜6重量%である。
前記インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース等があげられる。
前記インクは、例えば、前記着色剤と、前記疎水性ポリマーと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録装置の保存方法について説明する。
本発明のインクジェット記録装置は、液体収容部と、液体吐出ヘッドと、前記液体収容部と前記液体吐出ヘッドとの間に設けられた液体流路と、を含むインクジェット記録装置であって、前記液体流路内に、本発明のインクジェット記録装置用充填液を含む組成物が充填されていることを特徴とする。
本発明のインクジェット記録装置の保存方法は、液体収容部と、液体吐出ヘッドと、前記液体収容部と前記液体吐出ヘッドとの間に設けられた液体流路と、を含むインクジェット記録装置の保存方法であって、本発明のインクジェット記録装置用充填液を、前記液体流路に導入し、前記液体流路内の液体の一部又は全部を置換することを特徴とする。
図3に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ(液体収容部)2と、液体吐出ヘッド(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。本例では、前記充填液は、インクジェット記録装置1とは別に、カートリッジ、ボトル等に収容される。ただし、本発明では、インクジェット記録装置1内部に、前記充填液の収容部を設けてもよい。
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記イエローインク、前記マゼンタインク、前記シアンインク及び前記ブラックインクのうちの少なくとも一つのインクが、本発明のインクジェット記録用インクである。本例では、4つのインクカートリッジ2のセットを示したが、これに代えて、イエローインク収納部、マゼンタインク収納部、シアンインク収納部及びブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図3において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等の液体流路により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記インクが供給される。また、これらの態様においては、4つのインクカートリッジ2に代えて、ボトル形状の4つのインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
このインクジェット記録装置1は、例えば、つぎのようにして使用及び保存される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がされる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。インクジェット記録装置1を所定期間以上使用しない時、前記充填液を、前記液体流路に導入し、前記液体流路内のインクの一部又は全部を置換し、その状態で保存する。図3においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
前記インクの前記充填液への置換方法は、特に制限されない。前記置換方法としては、例えば、前記液体流路への前記インクの供給方法と同様にして、前記液体流路に前記充填液を供給する方法、前記充填液の収容容器に圧力を加える等して前記充填液を加圧して、前記液体流路に前記充填液を供給する方法等があげられる。前記液体流路内に充填されている液体組成物は、前記充填液そのものであってもよいし、前記充填液に、前記液体流路に接続された液体収容部(例えば、インクカートリッジ等)から供給される着色剤等が含まれたものであってもよい。前記液体組成物全量に占める前記着色剤の重量は、例えば、前記液体収容部から供給される前記インクに含まれる着色剤の重量よりも少なくてもよく、例えば、0重量%〜6重量%、0重量%〜2重量%、0重量%〜0.5重量%、0重量%〜0.05重量%である。
前記インクの前記充填液への置換率は、高いほど好ましく、例えば、体積にして、60%以上、90%以上、95%以上である。また、前記インクの前記充填液への置換後において、前記液体流路内の液体組成物全量に占める前記疎水性ポリマー(O)の重量と、前記親水性ポリマー(W)の重量との比は、例えば、O:W=1:0.05〜0.3、1:0.3〜0.7、1:0.7〜36である。
図3に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
〔インクの調製〕
C.I.ピグメントブルー15:3 20重量%、顔料分散用樹脂(アクリル−アクリル酸エステル共重合体)5.0重量%に、純水を加えて全体を100重量%とし、撹拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填したサンドミルに入れ、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルタでろ過することにより、表1に示す顔料分散液1を得た。
インク組成(表1)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、表1に示すインクジェット記録用シアンインクを得た。
[実施例1〜14及び比較例1〜5]
表2に示す充填液組成成分を、撹拌し、混合した。その後、前記混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜14及び比較例1〜5のインクジェット記録装置用充填液を得た。なお、表2において、染料(1−1)は、式(1−1)で表される化合物を示す。
実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液について、(a)再分散性評価、(b)付着評価、(c)インク導入性評価及び(d)析出性評価を、下記方法により実施した。
(a)再分散性評価
液体流路を模したポリプロピレン(PP)の板に、実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液(F)と、表1に示すシアンインク(I)との重量比が、F:I=95:5の混合液を円状に滴下し、60℃の環境下で10日間保管した。前記保管後、前記PPの板に純水を滴下し、下記評価基準により評価した。なお、この再分散性評価の結果が良好であれば、液体流路の洗浄性に優れた充填液であると判断できる。
再分散性評価 評価基準
AA:純水の滴下後、数秒以内でシアンインクが再分散し、残渣は確認されなかった。
A :純水の滴下後、数分以内でシアンインクが再分散し、残渣は確認されなかった。
B :光学顕微鏡(倍率200倍)を用いた観察において、目視では確認できないレベルの青色の残渣が確認された。
C :目視観察において、青色の残渣が確認された。
(b)付着評価
液体流路を模したPPの板に、実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液(F)と、表1に示すシアンインク(I)との重量比が、F:I=95:5の混合液を円状に滴下し、60℃、相対湿度40%の環境下で4日間保管した。前記保管後、前記PPの板を純水で洗浄することで、評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの前記滴下部の縁を観察することで、下記評価基準により評価した。なお、この付着評価の結果が良好であれば、液体流路の洗浄性に優れた充填液であると判断できる。
付着評価 評価基準
AA:シアンインクの付着は確認されなかった。
A :若干量のシアンインクの付着が確認された。
B :少量のシアンインクの付着が確認された。
C :多量のシアンインクの付着が確認された。
(c)インク導入性評価
実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液2mLを、開放瓶(口径:20.2mm)に採取し、蓋をした。つぎに、蓋をした前記開放瓶を片手に持ち、15秒間上下に振ることで、評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの泡切れ時間を測定し、下記評価基準により評価した。前記泡切れ時間は、泡の消滅により、前記充填液の上面が確認されるまでの時間とした。なお、このインク導入性評価の結果が良好であれば、記録時にインクに置換する際の前記インクの導入性に優れた充填液であると判断できる。
インク導入性評価 評価基準
A:前記泡切れ時間が、2分以内であった。
B:前記泡切れ時間が、2分を超えた。
(d)析出性評価
液体流路を模したポリアセタール(POM)により、62.5mm×12.7mm×3.2mmの試験片を作製した。前記試験片各7本を、実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液70gに浸漬させ、密閉容器内で60℃の環境下で2週間保管した。前記保管後の密閉容器を放冷した後、前記充填液を採取し、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルター(孔径:0.2μm、直径:15mm)でろ過した。前記ろ過後の前記フィルターを、光学顕微鏡(倍率200倍)にて観察することで、析出物の有無を確認し、下記評価基準により評価した。
析出性評価 評価基準
A:析出物が無かった。
B:析出物があった。
実施例1〜14及び比較例1〜5の充填液の充填液組成及び評価結果を、表2に示す。
表2に示すとおり、実施例1〜14では、再分散性、付着、インク導入性及び析出性の全ての評価結果が良好であった。
アルキルエーテル系界面活性剤の配合量を変更した以外は同条件である実施例1〜3において、前記配合量が0.5重量%である実施例2では、前記配合量が0.2重量%である実施例1と比べて、付着の評価結果が優れており、前記配合量が0.8重量%である実施例3では、付着の評価結果がさらに優れていた。
親水性ポリマーの配合量を変更した以外は同条件である実施例4〜7において、前記配合量が0.15重量%である実施例5では、前記配合量が0.05重量%である実施例4と比べて、再分散性の評価結果が優れており、前記配合量が0.2重量%以上である実施例6及び7では、再分散性の評価結果がさらに優れていた。
前記単位分子量が300〜450である染料を用いた実施例1〜12では、前記単位分子量が300未満である染料を用いた実施例13及び14と比べて、インク導入性の評価結果が優れていた。
着色剤を含む実施例1〜11、13及び14では、着色剤を含まない実施例12と比べて、析出性の評価結果が優れていた。
一方、親水性ポリマーに代えて疎水性ポリマーを用いた比較例1〜3及び親水性ポリマーを含まない比較例5では、再分散性の評価結果が悪かった。また、アルキルエーテル系界面活性剤を含まない比較例4では、付着の評価結果が悪かった。