JP6728929B2 - 加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板及びその製造方法 - Google Patents

加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板及びその製造方法に関するものである。
質量%で炭素を0.4〜0.7%含有する高炭素鋼板は、鋼帯からブランク材を切り出し、打ち抜き成形、曲げ成形等の冷間プレス成形が施され、自動車の駆動系部品やバネ部品の素材として用いられる。上記部品には耐摩耗特性の確保が必要であり、プレス成形後には焼入れ・焼戻し等の熱処理が施され、部品の強度が高められる。一方、冷間プレス成形では、高炭素鋼板は炭素を多く含むことから、他の鋼種に比べ変形抵抗が高く、さらに、針状炭化物が素材の割れの発生を招くため、成形性が低いことが課題となっている。また、近年に部品の高強度化が進められてきた中で、単純に部品の強度増加のみでは耐摩耗性は改善しない事例が明らかとなっており、特に、部品と部品が互いに摩擦及び摩耗する界面での化学的反応の制御により、耐摩耗性を向上させる必要性が高まっている。
これまで、高炭素鋼板の加工性と焼入れ焼き戻し後の耐摩耗特性を改善する技術について多くの提案がなされてきた(例えば、特許文献1〜5参照)。
例えば、特許文献1には、ベアリング等に使用される冷間鍛造用高耐食鋼材として、重量で、C:0.35〜0.65%、Cr:7.0〜10.0%、N:0.050〜0.20%、Si:2.0%以下、Mn:1.5%以下、C+N≦0.70%とし、かつ変形抵抗式における変形抵抗係数k:1000〜1060MPa、加工硬化指数n:0.12〜0.18として、ベアリングの連続冷間鍛造加工を可能にし、ベアリングに要求される転動疲労特性、耐摩耗性、耐食性、音響特性等の諸特性を満足させる鋼が開示されているものの、Cr及びNを多く含有するため鋳造性は低下し、製造性に課題がある。
また特許文献2には、深絞り性が良好で、しかも高い硬度や優れた耐摩耗性を付与し得る高炭素鋼帯を、安定にかつ良好な表面清浄度を確保しながら製造する方法が開示されているものの、鋼中のセメンタイトの多くが黒鉛化されることから、焼入れの際の加熱に長時間を要する等の部品熱処理性に課題がある。
さらに特許文献3には、焼入、焼戻し後に耐衝撃性、耐摩耗性、耐疲労特性が優れ、しかも製造性、加工性が良好である高靭性高炭素冷延鋼板が開示されているものの、冷間圧延工程を経ることによる製造コストの増加を抑制することはできない。
特許文献4には、熱処理後のビッカース硬度で650以上を要求されるような高強度鋼板部品の素材に供され、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備える高炭素鋼板が開示されているものの、SCM415(0.15%C)との摩耗特性の調査に留まり、摩耗対象部材の強度が高い場合における耐摩耗性については、何ら記述がない。
特許文献5には、耐食性及び冷間加工性に優れ、熱処理後の十分な表面硬さを有して耐摩耗性にも優れており、残留オーステナイト量が少なく経年による寸法変化の少ないマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた玉軸受が開示されているものの、Cr及びMoを多く含むため、合金コストの増加を招くと考えられる。
特開2005−29811号公報 特開平6−108158号公報 特開平5−345952号公報 特開2014−34717号公報 特開2014−55357号公報
本発明は、上記実情に鑑み、熱間圧延・熱延板焼鈍の低コスト高炉一貫製造において、加工性と焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板とその製造方法を提供することを課題とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、鋼中のS濃度とともに、加工前の鋼板の組織における炭化物の分散状態を、熱延から焼鈍における製造条件の最適化により制御し、炭化物を主にフェライト粒界上に析出させ、かつ粒界上の炭化物個数を粒内の炭化物個数よりも増加させることで優れた加工性が確保され、さらに焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性も改善することを知見した。
また、これを満足する鋼板の製造方法は、単に、熱延条件や焼鈍条件などを単一にて工夫しても製造困難であり、熱延・焼鈍工程などの、いわゆる一貫工程にて最適化を達成することでしか製造できないことも、種々の研究を積み重ねることで知見し、本発明を完成した。
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)質量%で、
C:0.40〜0.70%、
Si:0.01〜0.30%、
Mn:0.30〜1.00%、
P:0.0001〜0.0200%、
S:0.0100〜0.1000%、
Al:0.001〜0.100%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼板であり、
フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、フェライト粒径が5μm以上であり、ビッカース硬さが100.0HV以上、180.0HV以下であることを特徴とする加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板。
(2)前記(1)に記載の鋼板が、添加元素として質量%で、さらに、
N:0.0001〜0.0200%、
O:0.0001〜0.0200%
Ti:0.001〜0.0100%、
B:0.0001〜0.0100%
Cr:0.001〜0.500%
Mo:0.001〜0.500%
Nb:0.001〜0.100%、
V:0.001〜0.100%、
Cu:0.001〜0.100%、
W:0.001〜0.100%、
Ta:0.001〜0.100%、
Ni:0.001〜0.100%、
Sn:0.001〜0.050%、
Sb:0.001〜0.050%、
As:0.001〜0.050%、
Mg:0.0001〜0.0500%、
Ca:0.001〜0.050%、
Y:0.001〜0.050%、
Zr:0.001〜0.050%、
La:0.001〜0.050%、
Ce:0.001〜0.050%、
の内の1種または2種以上の含有を許容することを特徴とする前記(1)に記載の加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板。
(3)前記(1)または(2)に記載の成分の鋼片を直接、または一旦冷却後、加熱し熱間圧延する際に、650℃以上、950℃以下の温度域で仕上げ熱延を完了し、400℃以上、600℃以下で捲取った熱延鋼板を酸洗し、その後に2つの温度域で保持する2段ステップ型の箱焼鈍を施すに際し、1段目焼鈍温度までを30℃/hr以上、150℃/hr以下の加熱速度で加熱し、650℃以上、720℃以下の温度域で3hr以上、60hr以下保持する1段目の焼鈍を施し、更に2段目焼鈍温度までを1℃/hr以上、80℃/hr以下の加熱速度で加熱し、725℃以上、790℃以下の温度域で3hr以上、50hr以下保持する2段目の焼鈍を施した後に、650℃までの冷却速度を1℃/hr以上、100℃/hr以下に制御し、その後に室温まで冷却することを特徴とする加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板及びその製造方法。
本発明によれば、加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板及びその製造方法を提供できる。
本発明の主成分を有する鋼における、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率と加工性の関係を示す図である。 本発明の副成分を添加した鋼における、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率と加工性の関係を示す図である。 本発明の主成分を有する鋼における、鋼中のS含有量と耐摩耗特性の関係を示す図である。 本発明の主成分を有する鋼における、鋼中のS含有量と耐摩耗特性の関係を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の鋼板の化学成分を限定した理由について説明する。ここで成分についての「%」は質量%を意味する。
(C:0.40〜0.70%)
Cは鋼中で炭化物を形成し、鋼の強化に有効な元素である。焼入れ・焼戻しの熱処理により部品の耐摩耗性を確保するためには0.40%以上のC量が必要であり、0.40%未満では焼入れ・焼戻し後の硬さが不足し、優れた耐摩耗特性を得ることができなくなるため、下限を0.40%以上とする。一方、0.70%を超えると、焼鈍後のフェライト粒径の微細化により、ビッカース硬さが増加し、加工性の低下を招くため、上限を0.70%以下とする。より好ましくは0.41%以上、0.68%以下である。
(Si:0.01〜0.30%)
Siは、脱酸剤として作用し、また、炭化物の形態に影響を及ぼす元素である。フェライト粒内の炭化物個数を減らし、フェライト粒界上の炭化物個数を増やすためには、2段型のステップ箱焼鈍により、焼鈍中にオーステナイト相を生成させ、一旦炭化物を溶解させた後に徐冷し、フェライト粒界への炭化物形成を促進させる必要がある。この際、Siの含有量が0.30%を超えると、[0025]に記載するトライボフィルムの形成を抑制し、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性を低下させるため、上限を0.30%以下とする。Siの含有量は少ないほど好ましいが、0.01%未満への精錬にはコストの増加を招くため、下限を0.01%以上とする。より好ましくは0.01%以上、0.28%以下である。
(Mn:0.30〜1.00%)
Mnは、2段型のステップ箱焼鈍において炭化物とともに、フェライトの形態を制御する元素である。0.30%未満では、2段目焼鈍後の徐冷において、フェライトの核生成、及び、成長が促進され、焼鈍後のフェライト粒径の粗大化、及び、素材硬さの低下を引き起こし、加工性が低下するため、下限を0.30%以上とする。一方、1.00%を超えると、徐冷時のフェライト変態における核生成頻度、及び、成長速度が著しく低下し、焼鈍後のフェライト粒径の微細化及び素材硬さの低下を招くとともに、焼入れ・焼戻し後の靭性低下も引き起こすため、上限を1.00%以下とする。より好ましくは0.33%以上、0.96%以下である。
(P:0.0001〜0.0200%)
Pは、フェライト粒界に強く偏析して、粒界炭化物の形成を抑制する元素である。少ないほど好ましいが、精錬工程において0.0001%未満に高純度化するためには、精錬のために要する時間が多くなり、コストの大幅な増加を招くため、下限を0.0001%以上とする。一方、0.0200%を超えると、粒界炭化物の個数比率が低下し加工性の低下を招くため、上限を0.0200%以下とする。より好ましくは0.0013%以上、0.0189%以下である。
(S:0.0100〜0.1000%)
Sは鋼の加工性と耐摩耗性に大きな影響を及ぼす元素である。まず加工性の効果では、Sはフェライトとセメンタイトの界面に濃化して、その界面の剥離を促す元素であり、この界面剥離の効果によって加工性は向上する。また、耐摩耗性への影響では、耐摩耗環境において部品表層のSは潤滑油/鋼界面にトライボフィルムの形成を促し、かつ形成されるフィルムの硬さは鋼中のS濃度が高いほど増加するため、耐摩耗性は改善する。0.0100%未満の含有では上記の効果を得られないため、下限を0.0100%以上とする。一方、0.1000%を超えてSを含有すると、後述の熱延板焼鈍工程において、フェライト/オーステナイト界面に顕著に濃化したSの効果により、粒界炭化物の形成が抑制され、加工性の低下を招くため、上限を0.1000%以下とする。より好ましくは0.0150%以上、0.0800%以下である。
(Al:0.001〜0.100%)
Alは、鋼の脱酸剤として作用しフェライトを安定化する元素である。0.001%未満では、添加効果が十分に得られないので、下限を0.001%以上とする。一方、0.100%を超えると粒界上の炭化物の個数割合を低下させ、加工性の低下を引き起こす。このため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.004%以上0.091%以下である。
本発明は、上記成分を鋼板の基本成分とするが、さらに、鋼板の加工性を向上させる目的で、以下に述べる成分を選択的に含有させることができる。
(N:0.0001〜0.0200%)
Nは、フェライト粒界への偏析により、粒界上の炭化物の形成を抑制する元素である。含有量は少ないほど好ましいが、0.0001%未満に低減することは精錬コストの増加を招くため、下限を0.0001%以上とする。一方、0.0200%を超える含有量では、2相域焼鈍、及び、徐冷を施したとしても、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界上の炭化物の個数の比が1未満となり、加工性を低下させるため、上限を0.0200%以下とする。より好ましくは0.0006%以上、0.0170%以下である。
(O:0.0001〜0.0200%)
Oは、鋼中に酸化物の形成を促す元素であり、フェライト粒内に存在する酸化物は炭化物の生成サイトとなるため、少ないほうが好ましい。しかし、0.0001%未満に低減することは、精錬コストの増加を招くため、0.0001%以上を下限とする。一方、0.0200%を超える含有では、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界上の炭化物の個数の比が1未満となり、加工性を低下させるため、上限を0.0200%以下とする。より好ましくは0.0006%以上、0.0170%以下である。
(Ti:0.0001〜0.100%)
Tiは、炭化物の形態の制御に重要な元素であり、多量の含有によりフェライト粒内の炭化物の生成を促す元素である。含有量は少ないほど好ましいが、0.0001%未満に低減することは精錬コストの増加を招くため、下限を0.0001%以上とする。一方、0.100%を超える含有量では、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界上の炭化物の個数の比が1未満となり、加工性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.0006%以上、0.0170%以下である。
(B:0.0001〜0.0100%)
Bは、フェライトと炭化物の界面に強く濃化する元素であり、フェライトと炭化物の界面へのSの偏析を抑制するため、少ないほうが好ましい。しかし、0.0001%未満の同定に際しては、分析に細心の注意を払う必要があるとともに、分析装置によっては検出下限に至るため、0.0001%以上を下限とする。一方、0.0100%を超える含有では、フェライト粒内の炭化物の個数に対するフェライト粒界上の炭化物の個数の比が1を超えるように組織を最適化したとしても、フェライトと炭化物の界面へのSの濃化が抑制され、加工性は向上しないため、上限を0.0100%以下とする。より好ましくは0.0005%以上、0.0085%以下である。
(Cr:0.001〜0.500%)
Crは、2相域焼鈍処理時の炭化物の安定化に有効な元素である。0.001%未満では、添加の効果を得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.500%を超える添加では、摩耗環境に鋼部品を投じた際に、潤滑油/鋼表面へのSを主体としたトライボフィルムの形成を抑制させ、耐摩耗性を低下させるため、上限を0.500%以下とする。より好ましくは0.01%以上、0.300%以下である。
(Mo:0.001〜0.500%)
Moは、Mn、Crと同様に2相域焼鈍処理時の炭化物の安定化に有効な元素である。0.001%未満では、効果が得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.500%を超えると、炭化物中へのMoの濃化により、炭化物の硬さは増加し、加工性の低下を招くため、上限を0.500%以下とする。より好ましくは0.010%以上、0.300%以下である。
(Nb:0.001〜0.100%)
Nbは、炭化物の形態制御に有効な元素であり、その添加により組織を微細化するため、靭性の向上にも効果的な元素である。0.001%未満では、効果が得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.100%を超えると、微細で硬質なNb炭化物が多数析出し、鋼材の強度上昇とともに粒界炭化物の個数比率の低下を招き、加工性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.002%以上、0.092%以下である。
(V:0.001〜0.100%)
Vも、Nbと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素であり、その添加により組織を微細化するため、靭性の向上にも効果的な元素である。0.001%未満では、効果が得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.100%を超えると、微細なV炭化物が多数析出し、鋼材の強度上昇と粒界炭化物の個数比率の低下を招き、加工性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.004%以上、0.094%以下である。
(Cu:0.001〜0.100%)
Cuは、フェライトの結晶粒界に偏析する元素であり、微細な析出物の形成により、鋼材の強度を増加させる元素である。強度増加の効果を有効に発揮するためには、0.001%以上の含有が好ましい。一方、0.100%を超えると、赤熱脆性を招き、熱延での生産性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.008%以上、0.095%以下である。
(W:0.001〜0.100%)
Wも、Nb、Vと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素である。0.001%未満では、効果が得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.100%を超えると、微細なW炭化物が多数析出し、鋼材の強度上昇と粒界炭化物の個数比率の低下を招き、加工性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.003%以上、0.086%以下である。
(Ta:0.001〜0.100%)
Taも、Nb、V、Wと同様に、炭化物の形態制御に有効な元素である。0.001%未満では、効果が得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.100%を超えると、微細なTa炭化物が多数析出し、鋼材の強度上昇と粒界炭化物の個数比率の低下を招き、加工性を低下させるため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.007%以上、0.092%以下である。
(Ni:0.001〜0.100%)
Niは、部品の耐摩耗特性の向上に有効な元素である。その効果を有効に発揮させるためには0.001%以上を含有させることが好ましい。一方、0.100%を超えると、粒界炭化物の個数比率が低下し、加工性の低下を招くため、上限を0.100%以下とする。より好ましくは0.002%以上、0.093%以下である。
(Sn:0.001〜0.050%)
Snは、原料としてスクラップを用いた場合に鋼中に含有される元素であり、少ないほど好ましい。0.001%未満への低減には精錬コストの増加を招くため、下限を0.001%以上とする。また、0.050%を超える含有では、フェライトの脆化による耐摩耗性の低下を引き起こすため、上限を0.050%以下とする。より好ましくは0.002%以上、0.048%以下である。
(Sb:0.001〜0.050%)
Sbは、Snと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に含有される元素であり、粒界に強く偏析して粒界炭化物の個数比率の低下を招くため、少ないほど好ましい。0.001%未満への低減には精錬コストの増加を招くため、下限を0.001%以上とする。また、0.050%を超える含有では、耐摩耗性の低下を引き起こすため、上限を0.050%以下とする。より好ましくは0.002%以上、0.048%以下である。
(As:0.001〜0.050%)
Asは、Sn、Sbと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に含有され、粒界に強く偏析する元素であり、少ないほど好ましい。0.001%未満への低減には精錬コストの増加を招くため、下限を0.001%以上とする。また、0.050%を超える含有では、粒界炭化物の個数比率の低下による加工性の低下を招くため、上限を0.050%以下とする。より好ましくは0.002%以上、0.045%以下である。
(Mg:0.0001〜0.0500%)
Mgは、微量添加で硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。0.0001%未満ではその効果は得られないため、下限を0.0001%以上とする。一方、過剰の含有では粗大な介在物の形成による耐摩耗性の低下を引き起こすため、上限を0.0500%とする。より好ましくは0.0008%以上、0.0493%以下である。
(Ca:0.001〜0.050%)
Caは、Mgと同様に微量添加で硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。0.001%未満ではその効果は得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、過剰の含有では粗大なCa酸化物が生成し、摩耗環境下で割れ発生の起点となるため、上限を0.050%とする。より好ましくは0.003%以上、0.043%以下である。
(Y:0.001〜0.050%)
Yは、Mg、Caと同様に微量添加で硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。0.001%未満ではその効果は得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、過剰の含有では粗大なY酸化物が生成し、耐摩耗性は低下するため、上限を0.050%とする。より好ましくは0.001%以上、0.031%以下である。
(Zr:0.001〜0.050%)
Zrは、Mg、Ca、Yと同様に微量添加で硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。0.001%未満ではその効果は得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、過剰の含有では粗大なZr酸化物が生成し、耐摩耗性が低下するため、上限を0.050%とする。より好ましくは0.004%以上、0.045%以下である。
(La:0.001〜0.050%)
Laは、微量添加で硫化物の形態制御に有効な元素であり、粒界に強く偏析し、粒界炭化物の個数比率の低下を招く元素である。0.001%未満ではその効果は得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.050%を超える含有は、粒界炭化物の個数比率の低下による加工性の低下を招くため、上限を0.050%とする。より好ましくは0.001%以上、0.047%以下である。
(Ce:0.001〜0.050%)
Ceは、Laと同様に微量添加で硫化物の形態を制御できる元素であり、粒界に強く偏析して粒界炭化物の個数比率の低下を招く元素である。0.001%未満では、硫化物の形態制御効果は得られないため、下限を0.001%以上とする。一方、0.050%を超える含有は、粒界炭化物の個数比率の低下による加工性の低下を招くため、上限を0.050%とする。より好ましくは0.001%以上、0.046%以下である。
なお、本発明鋼板では、上記に述べた成分の残部はFeおよび不可避不純物である。
本発明鋼板は、前述した成分組成に加え、最適な熱延及び焼鈍を施し、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、ビッカース硬さが100.0HV以上、180.0HV以下であることにより、冷間プレス成形性時の加工性に優れ、焼入れ・焼戻し後の部材の耐摩耗特性が向上することは、本発明者らが見いだした新規な知見である。
まず、本開発鋼は実質的にフェライトと炭化物で構成され、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超える組織とする。なお、炭化物とは、鉄と炭素の化合物であるセメンタイト(Fe3C)に加え、セメンタイト中のFe原子をMn、Cr等の合金元素で置換した化合物、合金炭化物(M236、M6C、MC等であり、MはFe及びその他に合金として添加した金属元素)である。
次に、上記の規定理由を説明する。軟質な高炭素鋼板を冷間プレス機により、打ち抜き加工を施す際、プレス機のダイス上に設置された鋼板に向かってプレス機のパンチが下降し、所定の形状の部品前素材を鋼板から切り出す。プレス機のダイスとパンチとの間には僅かに隙間が設けられており、鋼板を“はさみ”の原理で切り落とす。剪断時にプレス機にかかる負荷は、パンチが素材に食い込み、素材を貫通するための荷重に起因する。パンチの押し込みに大きな荷重を要するほど、プレス機を構成する剛性部材(フレーム)の弾性変形量が増加し、また、貫通時には一気に荷重が解放される。この反動でパンチが瞬間的に深くダイスに接触し、大きな振動及び騒音を引き起こすとともに、長期間にわたる使用により、プレス機の損傷を招く。
上記のプレス機の損傷を抑制するためには、素材をパンチにて切り出す際に要する荷重を低く抑えることが有効である。加工時の鋼材の剥離を促す技術としては、切削加工に対する鋼中のMnS等の活用が知られているものの、その効果は工具の刃先がMnSの存在する場所に届いた場合においてのみに限定される課題がある。
そこで発明者らは、課題の解決に向けて前述の切削屑を早期に素材から切り離す技術の開発を進め、具体的にはMnSよりも微細、かつ、均一に分散する炭化物に着目し、パンチが素材に食い込むような高い歪を受ける打ち抜き加工において、炭化物とフェライトの界面が早期に剥離してボイドを生むことによって、加工時のプレス機の負荷は低下し、加工性は向上することを見出した。つまり、炭化物がフェライトの粒界上に多く存在するように、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超える組織に制御し、更にフェライトと炭化物の界面にSを偏析させ、炭化物とフェライトの剥離を促進させることによって、剪断に要する力が低下するため、加工性は著しく向上することを明らかにした。
理論及び原則に基づくと、加工性は、フェライト粒界の炭化物の被覆率の影響を強く受けると考えられ、その高精度な測定が求められるものの、3次元空間におけるフェライト粒界への炭化物の被覆率の測定には、走査型電子顕微鏡内にて、FIBによるサンプル切削と観察を繰り返し行うことによる、シリアルセクショニングSEM観察あるいは3次元EBSP観察が必須となる。これらの手法では膨大な測定時間を要するとともに、技術ノウハウの蓄積が不可欠となることも発明者らは明らかにし、一般的な分析手法には値しないと結論付けられた。
このため、より簡易的で精度の高い評価指標を探索した結果、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率を指標とすることで加工性を評価することが可能となり、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超えることで加工性は著しく向上することを発明者らは見出した。
また、炭化物の平均粒子径は0.1μm以上、2.0μm以下が好ましい。炭化物の粒子径が0.1μm未満であると鋼板の硬さが顕著に増加するため、剪断時の荷重の増大を招き、加工性は低下する。このため、下限を0.1μm以上とする。一方、粒子径が2.0μmを越えると、素材の剪断面における凹凸が顕著になり、剪断面の性状は低下するため上、限を2.0μm以下とする。より好ましくは0.17μm以上、1.95μm以下である。
続いて、上記で規定する組織の観察及び測定方法を述べる。
炭化物の観察は、走査型電子顕微鏡で行なう。観察に先立ち、組織観察用のサンプルを、エメリー紙による湿式研磨、及び、1μmの平均粒子サイズをもつダイヤモンド砥粒により研磨し、観察面を鏡面に仕上げた後、飽和ピクリン酸アルコール溶液にて組織をエッチングしておく。観察の倍率を3000倍とし、板厚1/4層における30μm×40μmの視野をランダムに8枚撮影する。得られた組織画像に対して、三谷商事株式会社製(Win ROOF)に代表される画像解析ソフトにより、その領域中に含まれる各炭化物の面積を詳細に測定する。各炭化物の面積から円相当直径(=2×√(面積/3.14))を求め、その平均値を炭化物粒子径とする。なお、ノイズによる測定誤差の影響を抑えるため、面積が0.01μm2以下の炭化物は評価の対象から除外する。フェライト粒界上に存在する炭化物の個数をカウントし、全炭化物数から粒界上の炭化物数を引くことによりフェライト粒内の炭化物数を求める。上記の手順で測定した個数をもとにフェライト粒内の炭化物に対する粒界の炭化物の個数比率を求める。
冷延板焼鈍後の組織として、フェライト粒径を5.0μm以上、40.0μm以下とすることで、加工性を改善することができる。フェライト粒径が5μm未満であると、硬さが増加して剪断時の荷重増大を招くため、下限を5μm以上とする。40μmを越えると、結晶粒界の面積が減少するとともに、結晶粒界上の炭化物の個数が減少し、加工性が低下するため、上限を40μm以下とする。フェライト粒径の測定は、[0053]に記載の手順で観察面を鏡面に研磨した後、3%硝酸−アルコール溶液でエッチングした組織を光学顕微鏡、もしくは走査型電子顕微鏡にて観察し、撮影した画像に対して線分法を適用して測定する。より好ましくは7.0μm以上、35.0μm以下である。
鋼板のビッカース硬さを100.0HV以上、180.0HV以下とすることで、加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性を改善することができる。ビッカース硬さが100.0HV未満であると、剪断時に残留応力が部品素材へ不均一に導入され、その後の熱処理時に試験片の変形(熱処理歪)を引き起こし、部品の寸法精度を低下させるとともに、耐摩耗特性の低下を招く。このため下限を100.0HV以上とする。一方、硬さが180.0HVを越えると打ち抜き加工時の荷重の増大を招くため、上限を180.0HV以下とする。より好ましくは、100.3HV以上、176.3HV以下である。
続いて、加工性の評価方法を述べる。通常、鋼板の加工性、特に、打ち抜き性を評価する際は、打ち抜き後の素材の形状、及び、端面性状を調査することが多い。一方、素材の形状や端面性状は、プレス機のダイスとパンチの隙間(クリアランス)を小さくすることにより、大きく改善することも知られている。なお、クリアランスを小さくすると剪断荷重は増加するため、本質的には打ち抜き加工時に要する荷重を低下させる鋼板の軟質化が必要と考えられる。ただし、打ち抜き加工時の荷重の評価にあたり、スライド駆動系の軸にかかる歪量(荷重)を調査するのみでは打ち抜き加工に要したエネルギーの全てを把握できるわけではなく、むしろ、試験機のフレームに蓄積された弾性エネルギーも考慮して、打ち抜き加工に要するエネルギーを明らかにするべきと考えられる。また、[0057]に記載するとおり、打ち抜き加工時に生ずる“音”は、プレス機全体に蓄積されたエネルギーと相関を持つため、本発明では、打ち抜き加工時に要するエネルギーを評価することを目的とし、打ち抜き加工時の“音”を測定することによる加工性の評価方法を開発した。測定はJIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」に準拠し、建物内の壁から3m離れた場所に設置されたプレス機において、プレス機を設置する床面から高さ1.5m、かつ、プレス機の前方向、及び、左右方向においてプレス機から1.5m離れた位置にマイクロホンを設置し、板厚4.0mmの各サンプルにダイス穴内径10.5mm、パンチ外径10mmの条件で打ち抜き加工を施した際に生じる最大音量をそれぞれ測定し、各サンプルともに50回の測定値における平均値を求めた。なお、試験中は周辺の機器の運転を停止しており、試験実施前の測定値は54.2dBであった。
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
本発明の製造方法の技術的思想は、上述した成分範囲の材料を用いて、熱間圧延と焼鈍条件の一貫した管理を特徴としている。
本発明の具体的な製造方法の特徴は以下の通りである。
熱延の特徴;所定の成分を有するスラブを連続鋳造後、そのまま、または一旦冷却後に加熱し、熱間で圧延する際に、650℃以上、950℃以下の温度域にて仕上げ熱延を終了する。仕上げ圧延後の鋼帯をROT(RUN OUT TABLE)上で冷却後に400℃以上、600℃以下の温度範囲で捲き取り熱延コイルとする。熱延コイルを酸洗後に、2つの温度域で保持する2段ステップ型の箱焼鈍を施すに際し、1段目焼鈍温度までを30℃/hr以上、150℃/hr以下の加熱速度で加熱し、650℃以上、720℃以下の温度域で3hr以上、60hr以下保持する1段目の焼鈍を施し、更に2段目焼鈍温度までを1℃/hr以上、80℃/hr以下の加熱速度で加熱し、725℃以上、790℃以下の温度域で3hr以上、50hr以下保持する2段目の焼鈍を施した後に、650℃までの冷却速度を1℃/hr以上、100℃/hr以下に制御し、その後に室温まで冷却することにより、加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板を得る。
以下に、本発明の製造方法について具体的に説明する。
(熱間圧延)
所定の成分を有するスラブを連続鋳造後、そのまま、または、一旦冷却後に加熱し、熱間で圧延する際に、熱間で圧延する際に、650℃以上、950℃未以下の温度域にて仕上げ熱延を終了し、得られた鋼帯を400℃以上、600℃以下の温度範囲で捲き取る。
スラブの加熱温度は1300℃以下とし、スラブ表層の温度が1000℃以上に保持される均熱時間は10時間以下とすることが好ましい。加熱温度が1300℃を超え、あるいは加熱時間が10時間を超える場合はスラブ表層からの脱炭が顕著になり、焼入れ前の加熱時に表層のオーステナイト粒が異常に成長し、耐摩耗特性の低下を引き起こす。このため、加熱温度の上限は1300℃以下、均熱時間の上限は10時間以下とすることが好ましい。更に好ましくは、加熱温度は1250℃以下、均熱時間は8時間以下である。
仕上げ熱延は650℃以上、950℃以下で終了させることとする。仕上げ熱延温度が650℃未満であると、鋼材の変形抵抗の増加から、圧延負荷が顕著に高まり、更にロール磨耗量の増大を招き、生産性の低下を引き起こす。このため、下限を650℃以上とする。また、仕上げ熱延温度が950℃を越えると、ROTを通板中に生成する分厚いスケールに起因した疵が鋼板表面に発生し、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性の低下を引き起こす。このため、上限を950℃以下とする。
仕上げ熱延後のROTでの鋼帯の冷却速度は、10℃/s以上、100℃/s以下とすることが好ましい。冷却速度が10℃/s未満では、冷却途中における分厚いスケールの生成とそれに起因する疵の発生を防ぐことができず、表面美観の低下を招く。このため下限を10℃/s以上とすることが好ましい。また、鋼板の表層から内部にわたり100℃/sを超える冷却速度で鋼帯を冷却すると、最表層部は過剰に冷却されて、ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態組織を生じる。捲き取り後に100℃〜室温まで冷却されたコイルを払い出す際には、前述の低温変態組織に微小クラックが発生し、続く酸洗工程においてもクラックを取り除くことは難しく、焼入れ・焼戻し後に衝撃荷重が加わるとクラックを起点に亀裂が進展し、耐摩耗特性の低下を招く場合がある。このため、上限を100℃/s以下とすることが好ましい。なお、上記で定める冷却速度は、仕上げ熱延後の鋼帯が無注水区間を通過後に注水区間で水冷却を受ける時点から、捲取の目標温度までROT上で冷却される時点において、各注水区間の冷却設備から受ける冷却能を指しており、注水開始点から捲取機により捲取られる温度までの平均冷却速度を示すものではない。
捲き取り温度は400℃以上、600℃以下とする。捲き取り温度が400℃未満であると、捲き取り前に未変態であったオーステナイトが硬いマルテンサイトに変態し、コイルの払い出し時に表層にクラックが導入され、耐摩耗特性の低下を招くため、下限を400℃以上とする。また、捲き取り温度が600℃を越えると、ラメラー間隔の大きなパーライトが生成し、熱的安定性の高い分厚い針状の炭化物が形成され、2段ステップ焼鈍後にフェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超えるように制御されないため、上限を600℃以下とする。
前述の条件で製造した熱延コイルを酸洗後に、2つの温度域で保持する2段ステップ型の箱焼鈍を施す。2段のステップ型焼鈍を必須とする理由は、炭化物の安定性を制御し、フェライト粒界への炭化物の形成を促進させるためである。まず1段目の焼鈍をAc1点以下の温度域で実施し、炭化物を粗大化させるとともに、合金元素を濃化させ、炭化物の熱的安定性を高める。その後に、Ac1点以上の温度域に昇温し、オーステナイトを組織中に生成させて、微細なフェライト粒内の炭化物をオーステナイト中に溶解させ、粗大な炭化物をオーステナイト中に残存させる。その後の徐冷により、オーステナイトをフェライトに変態させて、オーステナイト中の炭素濃度を高めていく。徐冷を進めることで、オーステナイト中に残存する炭化物に炭素原子が吸着し、炭化物とオーステナイトがフェライトの粒界を覆うようになり、最終的にはフェライトの粒界に炭化物が多く形成する組織に制御することが可能となる。このため、本発明で規定する組織形態を単純な焼鈍のみで獲得できないことは明白である。以下に具体的な条件を示す。
1段目の焼鈍保持までの加熱速度を30℃/hr以上、150℃/hr以下とする。加熱速度が30℃/hr未満であると、昇温に時間を要し、生産性の低下を引き起こすため、下限を30℃/hr以上とする。一方、150℃/hrを越える加熱速度では、コイル外周部と内部の温度差が増大することにより、熱膨張差に起因したすり疵や焼き付きが発生し、鋼板表面に凹凸が形成される。これにより表面美観は低下するとともに、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性の低下を招くため、上限を150℃/hr以下とする。
1段目の焼鈍温度を650℃以上、720℃以下とする。1段目の焼鈍温度が650℃未満であると炭化物の安定度が不足し、2段目の焼鈍においてオーステナイト中に炭化物を残存させることが困難となる。このため下限を650℃以上とする。また、焼鈍温度が720℃を超えると、炭化物の安定度を高める前にオーステナイトが生成してしまい、[0065]で述べた組織変化に制御することができなくなるため、上限を720℃以下とする。
1段目の焼鈍時間を3hr以上、60hr以下とする。焼鈍時間が3hr未満では炭化物の安定化が充分ではなく、2段目焼鈍時に炭化物を残存させることは困難となる。このため下限を3hr以上とする。また60hrを越える焼鈍では、一層の炭化物の安定度向上は見込めず、さらに生産性の低下を引き起こすため、上限を60hr以下とする。
1段目の焼鈍における保持が完了後、2段目の焼鈍までの加熱速度を1℃/hr以上、80℃/hr以下とする。2段目の加熱時には、フェライト粒界からオーステナイトが生成及び成長する。この時の加熱速度を小さく制御することで、オーステナイトの核生成を抑えることができ、徐冷後に得られる組織において、炭化物の粒界被覆率を高めることが可能となる。このため2段目の加熱速度は小さい方が好ましい。一方で、加熱速度が1℃/hr未満であると、昇温に時間を要し、生産性の低下を引き起こすため、下限を1℃/hr以上とする。また、80℃/hrを越える加熱速度では、コイル外周部と内部の温度差が増大することにより、変態による大きな熱膨張差に起因したすり疵や焼き付きが発生し、鋼板表面に凹凸が形成される。冷間プレス成形時にはこの凹凸を起点として亀裂が生成し、表面美観の低下、及び、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性の低下を招くため、上限を80℃/hr以下とする。
2段目の焼鈍温度を725℃以上、790℃以下とする。1段目の焼鈍温度が725℃未満であるとオーステナイトの生成量が少なく、フェライト粒界上の炭化物個数比率が低下する。このため下限を725℃以上とする。また、焼鈍温度が790℃を超えると、炭化物をオーステナイト中に残存させることが困難となり、[0065]で述べた組織変化に制御することが難しくなるため、上限を790℃以下とする。
2段目の焼鈍時間を3hr以上、50hr以下とする。焼鈍時間が1hr未満ではオーステナイト量の生成量が少なく、かつフェライト粒内の炭化物の溶解が充分ではないため、粒界上の炭化物の個数比率を増加させることが困難となる。このため下限を3hr以上とする。また、50hrを越える焼鈍では、炭化物をオーステナイト中に残存させることが困難となるため、上限を50hr以下とする。
2段目の焼鈍における保持を完了後、650℃までを1℃/hr以上、100℃/hr以下の冷却速度で冷却する。2段目の焼鈍において生成したオーステナイトを徐冷によりフェライトに変態させるとともに、オーステナイト中に残存した炭化物へ炭素を吸着させるためには、冷却速度は小さい方が好ましい。一方、1℃/hr未満の冷却速度であると、冷却時にフェライトが粗大化し、素材の硬さ低下を引き起こすため、下限を1℃/hr以上とする。また、100℃/hrを越える冷却速度ではオーステナイトがパーライトに変態し、鋼板の硬さが増加することにより、加工性の低下を引き起こすため、上限を100℃/hr以下とする。
なお、箱焼鈍の雰囲気は特に限定せず、95%以上窒素の雰囲気、95%以上水素の雰囲気、大気雰囲気いずれの条件でも良い。
以上の本発明の製造方法によれば、実質的にフェライトと炭化物の組織であり、フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、ビッカース硬さが100.0HV以上、180。0HV以下であることにより、加工性に優れ、さらに、焼入れ・焼戻し後の部材の耐摩耗特性にも優れる高炭素鋼板を得ることができる。
次に実施例により本発明の効果を説明する。
実施例の水準は、本発明の実施可能性ならびに効果を確認するために採用した実行条件の一例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
表1に示す成分組成を有する連続鋳造鋳片(鋼塊)を、1240℃で1.3hr加熱後に熱間圧延し、840℃で仕上げ熱延後、ROT上で35℃/sの冷却速度で520℃まで冷却し、530℃で捲き取り、板厚4.0mmの熱延コイルを製造した。熱延コイルを酸洗し、箱型焼鈍炉内にコイルを挿入し、雰囲気を95%水素−5%窒素に制御した後に、室温から695℃までを80℃/hrの加熱速度で加熱し、695℃で28hr保持してコイル内の温度分布を均一化した後に、15℃/hrの加熱速度で760℃まで加熱し、さらに760℃で6hr保持した後、650℃までを15℃/hrの冷却速度で冷却し、その後に室温まで炉冷して、特性評価用のサンプルを作製した。なお、サンプルの組織は[0053]−[0054]に記載する方法にて測定し、加工性は[0056]に記載の手法によって評価して音量が100dBを超えたものを比較鋼とした。
Figure 0006728929
サンプルの焼入れ、及び、焼戻しは下記の条件にて実施した。窒素95%雰囲気に制御した炉内にて840℃で50min保持する処理を施し、60℃の油中に焼入れた。焼入れサンプルに180℃で60min保持後に空冷する焼戻し処理を施し、焼入れ・焼戻しサンプルを作製した。
熱処理後のサンプルの耐摩耗性は、ブロックオンリング試験にて評価した。SUJ2(高炭素Cr軸受鋼鋼材)をリング試験片の形状に加工し、更に[0074]に記載の熱処理を施してリング試験片を作製した。各評価用サンプルをブロック試験片として、すべり速度0.6m/s、油温140℃、荷重5000N、すべり距離10000mの条件にて試験し、ブロック試験片の試験前後における重量変化を測定し、減量が5mg以内の場合は耐摩耗性に優れると判断し、減少量が5mgを超える場合に耐摩耗性に劣位であると判断した。
表2に製造したサンプルのフェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率、ビッカース硬さ、打ち抜き加工時の音量、耐摩耗特性の評価結果を示す。 表2に示すように、発明例のNo.A−1,B−1,C−1,D−1,E−1,F−1,G−1,H−1,I−1,J−1,K−1,L−1,M−1は、いずれもフェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、ビッカース硬さが100.0HV以上、180.0HV以下であり、加工性と焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れることが示される。
Figure 0006728929
これに対して、比較鋼N−1はCの含有量が低く、焼入れ・焼戻し後に高強度化されず、耐摩耗特性が低下した。比較鋼O−1,P−1,S−1はAl,S,Pを過剰に含有し、2段目の焼鈍時にγ/α界面への偏析量が大きくなるため、粒界における炭化物の形成が抑制された。比較鋼U−1はSiを過剰に含有し、耐摩耗特性が低下した。比較鋼Q−1はMn含有量が少なく、焼鈍後、及び、焼入れ・焼戻し後に硬さの低下を抑えることが困難であったため、耐摩耗特性が低下した。比較鋼T−1はSの含有量が少ないため、フェライトと炭化物の界面に濃化するS量が不足し、加工性及び耐摩耗特性がともに低下した。比較鋼R−1はMnを過剰に含有するため、ビッカース硬さが180.0HVを超え、加工性が低下した。比較鋼V−1はCを過剰に含有するため、焼鈍後のフェライト粒径が微細化し、加工性が低下することに加え、焼入れ・焼戻し後にも粗大な炭化物が残存することにより耐摩耗特性が低下した。
続いて製造条件の影響を調べるため、表1のNo.A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,Mの成分を有するスラブを表3に示す条件にて板厚4.0mmの熱延板焼鈍サンプルを作製した。比較鋼A−3は熱延の仕上げ温度が低く、圧延荷重が増加するため生産性が低下した。比較鋼K−3は熱延の仕上げ温度が高く、鋼板表面にスケール疵が生成したことにより、焼入れ・焼戻し後に耐摩耗試験に供した際に、スケール疵を起点として亀裂及び剥離が発生したため、耐摩耗特性が低下した。開発鋼H−4はROTでの冷却速度が遅く、生産性の低下とスケール疵の発生を招いた。開発鋼F−2はROTでの冷却速度が100℃/sを超え、鋼板の最表層部は過剰に冷却されたことにより、該最表層部に微細なクラックが生成した。比較鋼I−4は捲取温度が低く、ベイナイトやマルテンサイト等の低温変態組織が多くなり脆化するため、熱延コイル払い出し時に割れが頻発し、生産性が低下した。さらに、割れ片から採取したサンプルにおける耐摩耗特性は低かった。比較鋼E−4は捲取温度が高く、熱延組織においてラメラー間隔の分厚いパーライトが生成するとともに、針状の粗大な炭化物は熱的安定性が高く、2段ステップ焼鈍後において、フェライト粒内に対する粒界上の炭化物の個数が1を超えるように制御されず、加工性が低下した。比較鋼D−4はステップ焼鈍時の1段目焼鈍への加熱速度が小さいため、生産性が低下した。比較鋼G−3は1段目焼鈍への加熱速度が大きいため、コイル内部、および、内外周部との温度差が大きくなり、熱膨張差に起因したスリ疵、および、焼きつきが発生して、表面美観が低下した。比較鋼L−2は1段目焼鈍時の保持温度が低く、Ac1温度以下での炭化物の粗大化処理が不十分であり、炭化物の熱的安定度が不十分であることにより、2段目の焼鈍時に残存する炭化物が減少し、徐冷後の組織においてパーライト変態を抑制できないため、加工性が低下した。比較鋼G−2は1段目の焼鈍温度が高く、焼鈍中にオーステナイトが生成し、炭化物の安定度を高めることができないため、焼鈍後にパーライトが生成し、ビッカース硬さが180.0HVを超えて、加工性が低下した。比較鋼M−3は1段目焼鈍における保持時間が短く、炭化物の安定度を高めることができず、加工性が低下した。比較鋼B−2は1段目焼鈍における保持時間が長く、生産性が低下することに加え、粗大な炭化物の存在により、打ち抜き加工面の性状が低下し、表面美観が低下した。比較鋼C−2はステップ焼鈍時の2段目焼鈍への加熱速度が小さいため、生産性が低下した。比較鋼M−2は2段目焼鈍への加熱速度が大きいため、コイル内部および内外周部との温度差が大きくなり、変態による大きな熱膨張差に起因したスリ疵および焼きつきが発生して、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性が低下した。比較鋼E−2は2段目焼鈍時の保持温度が低く、オーステナイトの生成量が少なく、粒界における炭化物の個数割合を増やすことができないため、加工性が低下した。比較鋼K−4は2段目の焼鈍温度が高く、焼鈍中に炭化物の溶解が促進したため、徐冷後に粒界炭化物を形成させることが難しくなり、更にパーライトが生成し、ビッカース硬さが180.0HVを超えて加工性が低下した。比較鋼J−3は2段目焼鈍における保持時間が短く、微細な炭化物を残した状態で徐冷を開始するため、粒界への炭化物の形成が抑えられ、粒内の炭化物の割合が高くなることから、加工性が低下した。比較鋼L−4は2段目焼鈍における保持時間が長く、炭化物の溶解が促進したため、加工性が低下した。比較鋼A−4は2段目焼鈍から650℃までの冷却速度が小さく、生産性が低下するとともに、徐冷後の組織に粗大な炭化物が形成することにより、焼入れ・焼戻し後に残存する粗大な炭化物を起点として亀裂が発生し、耐摩耗特性が低下した。比較鋼C−4は2段目焼鈍から650℃までの冷却速度が大きく、冷却時にパーライト変態が生じて硬さは増加するため、加工性が低下した。
Figure 0006728929
Figure 0006728929
次に、その他の元素の許容される含有量の範囲を調べるために、表4に示す成分組成を有する連続鋳造鋳片(鋼塊)を、1240℃で1.3hr加熱後に熱間圧延し、840℃で仕上げ熱延後、ROT上で35℃/sの冷却速度で520℃まで冷却し、530℃で捲き取り、板厚4.0mmの熱延コイルを製造した。熱延コイルを酸洗し、箱型焼鈍炉内にコイルを挿入し、雰囲気を95%水素−5%窒素に制御した後に、室温から695℃までを80℃/hrの加熱速度で加熱し、695℃で28hr保持してコイル内の温度分布を均一化した後に、15℃/hrの加熱速度で760℃まで加熱し、さらに760℃で6hr保持した後、650℃までを15℃/hrの冷却速度で冷却し、その後に室温まで炉冷して、特性評価用のサンプルを作製した。なお、サンプルの組織は[0053]−[0054]に記載する方法にて測定し、加工性は[0056]に記載の手法によって評価して、音量が100dBを超えたものを比較鋼とした。
Figure 0006728929
Figure 0006728929
表5に製造したサンプルのフェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率、ビッカース硬さ、打ち抜き加工時の音量、耐摩耗特性の評価結果を示す。 表5に示すように、発明例のNo.W−1,X−1,Y−1,Z−1,AA−1,AB−1,AC1,AD−1,AE−1,AF−1,AG−1,AH−1,AI−1,AJ−1,AK−1,AL−1,AM−1,AN−1,AO−1,AP−1は、いずれもフェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、ビッカース硬さが100.0HV以上、180.0HV以下であり、加工性と焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れることが示される。
Figure 0006728929
これに対して、比較鋼AQ−1はCの含有量が低く、焼入れ・焼戻し後に高強度化されず、耐摩耗特性が低下した。比較鋼BN−1,AW−1,BK−1,BB−1,BE−1,BQ−1,BJ−1,BG−1,BD−1はAl,S,P,La,As,Cu,Ni,Sb,Ceを過剰に含有し、2段目の焼鈍時にγ/α界面への偏析量が大きくなるため、粒界における炭化物の形成が抑制された。比較鋼AV−1はSiを過剰に含有し、耐摩耗特性が低下した。比較鋼BL−1はMn含有量が少なく、焼鈍後、及び、焼入れ・焼戻し後に硬さの低下を抑えることが困難であったため、加工性及び耐摩耗特性がともに低下した。比較鋼BO−1はSの含有量が少ないため、フェライトと炭化物の界面に濃化するS量が不足し、加工性及び耐摩耗特性が低下した。比較鋼BA−1はMnを過剰に含有するため、ビッカース硬さが180.0HVを超え、加工性が低下した。比較鋼BT−1はCを過剰に含有するため、焼鈍後のフェライト粒径が微細化し、加工性が低下することに加え、焼入れ・焼戻し後にも粗大な炭化物が残存することにより、耐摩耗特性が低下した。比較鋼BS−1,AX−1,BI−1,BM−1,AS−1,BC−1,AZ−1はそれぞれMo,Nb,Cr,B,Ta,W,Vを過剰に含有するため、加工性が低下した。比較鋼AU−1,BR−1,AT−1,BH−1はそれぞれZr,Ca,Mg,Yを過剰に含有し、鋼中に粗大な酸化物、あるいは、非金属介在物を形成することにより、耐摩耗特性の評価試験時に粗大酸化物、あるいは、粗大非金属介在物を起点として亀裂及び剥離が発生し、耐摩耗特性が低下した。比較鋼BP−1はSnを過剰に含有し、鋼が脆化するため、耐摩耗特性が低下した。比較鋼AR−1,AY−1はO,Tiを過剰に含有するため、フェライト粒内に存在する酸化物やTiCが2相域焼鈍後の徐冷において炭化物の生成サイトとなり、粒界における炭化物の形成が抑制され、加工性が低下した。
続いて製造条件の影響を調べるため、表4のNo.W,X,Y,Z,AA,AB,AC,AD,AE,AF,AG,AH,AI,AJ,AK,AL,AM,AN,AO,APの成分を有するスラブを用いて表6−1及び表6−2に示す条件にて板厚4.0mmの熱延板焼鈍サンプルを作製した。続いて、窒素95%雰囲気に制御した炉内にて890℃で30min保持する処理を施し、60℃の油中に焼入れ、表6−1及び表6−2に示す焼戻し温度で60min保持後に空冷する焼戻しを施した。比較鋼AF−3は熱延の仕上げ温度が低く、圧延荷重が増加するため、生産性が低下した。比較鋼Z−4は熱延の仕上げ温度が高く、鋼板表面にスケール疵が生成したことにより、焼入れ・焼戻し後に耐摩耗試験に供した際に、スケール疵を起点として亀裂及び剥離が発生したため、耐摩耗特性が低下した。開発鋼AI−2はROT上での冷却速度が遅く、生産性の低下とスケール疵の発生を招いた。開発鋼AJ−4はROT上での冷却速度が100℃/sを超え、鋼板の最表層部は過剰に冷却されたことにより、該最表層部に微細なクラックが生成した。比較鋼AE−2は捲取温度が低く、ベイナイトやマルテンサイト等の低温変態組織が多くなって脆化するため、熱延コイル払い出し時に割れが頻発し、生産性が低下した。さらに、割れ片から採取したサンプルにおける耐摩耗特性は低かった。比較鋼AH−3は捲取温度が高く、熱延組織においてラメラー間隔の分厚いパーライトが生成するとともに、針状の粗大な炭化物は熱的安定性が高く、2段ステップ焼鈍後においてフェライト粒内に対する粒界上の炭化物の個数が1を超えるように制御されず、加工性が低下した。比較鋼AO−3はステップ焼鈍時の1段目焼鈍への加熱速度が小さいため、生産性が低下した。比較鋼X−4は1段目焼鈍への加熱速度が大きいため、コイル内部および内外周部との温度差が大きくなり、熱膨張差に起因したスリ疵および焼きつきが発生したため、表面美観が低下した。比較鋼W−2は1段目焼鈍時の保持温度が低く、Ac1温度以下での炭化物の粗大化処理が不十分であり、炭化物の熱的安定度が不十分であることにより、2段目の焼鈍時に残存する炭化物が減少し、徐冷後の組織においてパーライト変態を抑制できないため、加工性が低下した。比較鋼X−2は1段目の焼鈍温度が高く、焼鈍中にオーステナイトが生成し、炭化物の安定度を高めることができないため、焼鈍後にパーライトが生成し、ビッカース硬さ180.0HVを超えて加工性が低下した。比較鋼AC−4は1段目焼鈍における保持時間が短く、炭化物の安定度を高めることができず、加工性が低下した。比較鋼AP−3は1段目焼鈍における保持時間が長く、生産性が低下することに加え、粗大な炭化物の存在により、打ち抜き加工面の性状が低下し、表面美観が低下した。比較鋼AL−3はステップ焼鈍時の2段目焼鈍への加熱速度が小さいため、生産性が低下した。比較鋼AB−2は2段目焼鈍への加熱速度が大きいため、コイル内部および内外周部との温度差が大きくなり、変態による大きな熱膨張差に起因したスリ疵および焼きつきが発生して、焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性が低下した。比較鋼AN−4は2段目焼鈍時の保持温度が低く、オーステナイトの生成量が少なく粒界における炭化物の個数割合を増やすことができないため、加工性が低下した。比較鋼AM−4は2段目の焼鈍温度が高く、焼鈍中に炭化物の溶解が促進したため、徐冷後に粒界炭化物を形成させることが難しくなり、更にパーライトが生成し、ビッカース硬さが180.0HVを超えて加工性が低下した。比較鋼AD−3は2段目焼鈍における保持時間が短く、微細な炭化物を残した状態で徐冷を開始するため、粒界への炭化物の形成が抑えられ、粒内の炭化物の割合が高くなることから、加工性が低下した。比較鋼Z−2は2段目焼鈍における保持時間が長く、炭化物の溶解が促進したため、加工性が低下した。比較鋼AA−4は2段目焼鈍から650℃までの冷却速度が小さく、生産性が低下するとともに、徐冷後の組織に粗大な炭化物が形成することにより、焼入れ・焼戻し後に残存する粗大な炭化物を起点として亀裂が発生し、耐摩耗特性が低下した。比較鋼AP−2は2段目焼鈍から650℃までの冷却速度が大きく、冷却時にパーライト変態が生じて硬さは増加するため、加工性が低下した。
Figure 0006728929
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図1に、粒内炭化物個数に対する粒界炭化物個数の比率と加工性評価時の打ち抜き加工音量との関係を示す。個数比率が1を超える場合に打ち抜き加工音量は100dB未満であり、鋼材の成形に要するエネルギーが低下し、加工性に優れることがわかる。
図2に、種々の添加元素を有した鋼サンプルにおいて、粒内炭化物個数に対する粒界炭化物個数の比率と加工性評価時の打ち抜き加工音量との関係を示す。個数比率が1を超える場合に打ち抜き加工音量は100dB未満であり、鋼材の成形に要するエネルギーが低下し、加工性に優れることがわかる。
図3に、鋼中のS含有量と、ブロックオンリング試験後のブロック試験片の重量減少量を示す。S含有量が0.010%を超える場合に、潤滑油/鋼材表面に硬いトライボフィルムが形成されることから、顕著に耐摩耗性が向上することが明らかである。
図4に、種々の添加元素を有した鋼サンプルにおいて、鋼中のS含有量とブロックオンリング試験後のブロック試験片の重量減少量を示す。図3と同様に、S含有量が0.010%を超える場合に、潤滑油/鋼材表面に硬いトライボフィルムが形成されるため、顕著に耐摩耗性が向上することは明らかである。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.40〜0.70%、
    Si:0.01〜0.30%、
    Mn:0.30〜1.00%、
    P:0.0001〜0.0200%、
    S:0.0100〜0.1000%、
    Al:0.001〜0.100%
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼板であり、
    フェライト粒内の炭化物個数に対するフェライト粒界の炭化物個数の比率が1を超え、フェライト粒径が5μm以上であり、ビッカース硬さが100.0HV以上、180.0HV以下であることを特徴とする加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板。
  2. 請求項1に記載の鋼板が、添加元素として質量%で、さらに、
    N:0.0001〜0.0200%、
    O:0.0001〜0.0200%
    Ti:0.0010〜0.100%、
    B:0.0001〜0.0100%
    Cr:0.001〜0.500%
    Mo:0.001〜0.500%
    Nb:0.001〜0.100%、
    V:0.001〜0.100%、
    Cu:0.001〜0.100%、
    W:0.001〜0.100%、
    Ta:0.001〜0.100%、
    Ni:0.001〜0.100%、
    Sn:0.001〜0.050%、
    Sb:0.001〜0.050%、
    As:0.001〜0.050%、
    Mg:0.0001〜0.0500%、
    Ca:0.001〜0.050%、
    Y:0.001〜0.050%、
    Zr:0.001〜0.050%、
    La:0.001〜0.050%、
    Ce:0.001〜0.050%、
    の内の1種または2種以上の含有を許容することを特徴とする前記請求項1に記載の加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる高炭素鋼板。
  3. 前記請求項1または請求項2に記載の成分の鋼片を直接、または一旦冷却後、加熱し、熱間圧延する際に、650℃以上、950℃以下の温度域で仕上げ熱延を完了し、400℃以上、600℃以下で捲取った熱延鋼板を酸洗し、その後に2つの温度域で保持する2段ステップ型の箱焼鈍を施すに際し、1段目焼鈍温度までを30℃/hr以上、150℃/hr以下の加熱速度で加熱し、650℃以上、720℃以下の温度域で3hr以上、60hr以下保持する1段目の焼鈍を施し、更に2段目焼鈍温度までを1℃/hr以上、80℃/hr以下の加熱速度で加熱し、725℃以上、790℃以下の温度域で3hr以上、50hr以下保持する2段目の焼鈍を施した後に、650℃までの冷却速度を1℃/hr以上、100℃/hr以下に制御し、その後に室温まで冷却することを特徴とする加工性及び焼入れ・焼戻し後の耐摩耗特性に優れる請求項1又は2に記載の高炭素鋼板の製造方法。
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