JP6727585B2 - センサ - Google Patents
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Description
神経伝達物質の一例としてアデノシン三リン酸(この明細書で「ATP」と略することがある)を採り上げ、スライスしたラットの海馬細胞へ刺激を与えたときにこのサンプル細胞から放出されるATPの分布を把握する。そのため、ATPの分解酵素であるアピラーゼをpHイメージセンサ上に固定した。サンプル細胞の表面にATPが発現すると、このアピラーゼがATPを加水分解して水素イオンを発生させる。
この水素イオンの濃度分布がpHイメージセンサで観察される。即ち、水素イオンはATPに起因しているので、観察された水素イオン濃度の分布がATPの濃度分布を示していると考えられた(非特許文献1及び2参照)。
この観察に使用されるpHイメージセンサには、微量なATPの濃度変化(即ち、水素イオンの濃度変化)を観察できる高感度性、更には、そのATPの濃度変化をリアルタイムで観察するための高い応答性、並びに微小領域での変化を観察するための高い分解能が要求される。かかる要求を満足するpHイメージセンサとして、いわゆる澤田チップが提案されている(特許文献1)。
その他、本願発明に関連する文献として、特許文献2−4を参照されたい。
(勿論、刺激により他の神経伝達物質や他のタンパク質もサンプル細胞の表面に発現すると考えられるが、これらはpHイメージセンサで観察される水素イオン濃度に何ら関与しないので、その説明は省略する、以下同様)
しかしながら、刺激を与えられたサンプル細胞が水素イオン自体を放出若しくは吸収する可能性があることがわかった。例えば、グルタミン酸により細胞を刺激したとき、細胞が備えるグルタミン酸トランスポータが刺激されてこれが細胞外からグルタミン酸やナトリウムイオンとともに水素イオンを細胞内へ取り込むと予想される。
図1は、イオノマイシンの刺激が与えられたラットの海馬細胞のスライスをpHイメージセンサとしての澤田チップ(アピラーゼを固定している)で観測した結果を示す。図1の結果から、水素イオン濃度の上昇が確認できた。これは、イオノマイシンの刺激を受けたサンプル細胞の表面にATPが出現し、このATPが澤田チップのアピラーゼで加水分解されて、水素イオン濃度が上昇し、その上昇がpHイメージセンサで観察されたものである。
他方、図2に、グルタミン酸の刺激を与えたときの水素イオン濃度変化を示す。図2の結果では、60秒後に水素イオン濃度の低下がみられる。この水素イオン濃度の低下は既述したグルタミン酸トランスポータが影響しているものと考えられる。
ちなみに、何ら刺激がないときは、図3に示す通り、水素イオン濃度に変化は見られない。
換言すれば、分解酵素の作用に起因する水素イオンの濃度と、細胞自体に起因する水素イオン濃度とを峻別して観察することが望まれる。他方、前者のイオン濃度の観察時に後者のイオン濃度の影響をキャンセルできれば、前者の水素イオン濃度の変化を正確に観察できることとなる。
被測定物を含む観察対象のイオンを検出する画素のアレイを備えるセンサであって、
前記アレイを構成する画素のうちの第1の画素は前記第1のイオンを検出し、該第1のイオンを透過させる第1の被膜で被覆されており、
前記アレイを構成する画素のうちの第2の画素は前記第1のイオンを検出し、該第1のイオンを透過させる第2の被膜で被覆されているか、若しくは該第2の画素は表出しており、
前記第1の被膜の表面に存在する前記第1のイオンが前記第1の画素に検出されるのに要する第1の検出時間は、前記第2の被膜の表面または表出した前記第2の画素の表面に存在する前記第1のイオンが第2の画素に検出されるのに要する第2の検出時間と異なり、
前記第1の被膜には、前記被測定物に作用して前記観察対象の前記第1のイオンの量を変化させる第1のイオン制御物質が保持される、センサ。
このように同じイオン種(第1のイオン)に対して第1の画素と第2の画素とで検出時間に差が生じている。
第1の検出時間経過後においては、第1の被膜を拡散してきた観察対象に直接存在する水素イオンの影響が現れる。ここに、表出した第2の画素は観察対象に直接存在する水素イオンをリアルタイム(第2の検出時間=0)で観察しているので、第2の画素の出力から得られた水素イオン濃度を、第1の画素の出力から得られた水素イオン濃度から減算すれば、第1の画素においてATPの分解のみにより発生した水素イオン濃度が得られることとなる。
第2の画素が第2の被膜で被覆されているときにも、第1の検出時間と第2の検出時間の時間差に基づいて、第1の画素の出力から得られた水素イオン濃度より第2の画素の出力から得られた水素イオン濃度(観察対象に直接存在する水素イオン濃度)を減算する。
なお、第2の検出時間は、第1の被膜においてATPの分解により発生した水素イオンが第2の画素に拡散してくるまでの時間よりも充分短いものとする。そのためには、第2の被膜は第1の被膜より薄いか、若しくは当該被膜は無いことが好ましい。
以上より、第1の画素の検出結果と第2の画素の検出結果とを比較することにより、第1の被膜に保持された第1のイオン制御物質が作用して生じた第1のイオンの量の変化(濃度変化)を、観察可能となる。
上記において、第1のイオン制御物質は、被測定物に作用して第1のイオンを発生させる(即ち、その量を増大させる)ものに限定されず、当該第1のイオン量を減少させるものでもよい。即ち、被測定物の量に比例して、若しくはその他の関係をもって水素イオン濃度が変化すれば、この水素イオン濃度の変化より被測定物の量を特定できるからである。
第1の局面で規定のセンサにおいて、前記第1のイオン制御物質はタンパク質分解酵素であり、前記被測定物としての所定のタンパク質を分解して前記第1のイオンを生じさせる。
このように規定される第2の局面の発明によれば、第1の被膜にタンパク質分解酵素を保持させたので、植物、動物更にはヒトの細胞を観察対象とすることができる。
第3の局面では、タンパク質が生体タンパク質であることを規定した。
第1〜3の何れかの局面で規定のセンサにおいて、前記第2の画素は前記第1の画素に近接して、かつ所定の間隔に配置される。
このように規定される第3の局面のセンサによれば、第1の画素と第2の画素とが近接しているので、実質的に同じ観察対象の領域を第1の画素と第2の画素とで観察できる。また、第1の画素と第2の画素と二次元的に配置してアレイを構成するとき、対応する第1の画素と第2の画素との間隔を一定にしておくことにより、第1の画素のイオン制御物質が作用した第1のイオン量の変化が第2の画素に出力に与える影響を一定にすることができるので、即ち第1の画素から第2の画素への拡散時間をアレイ全体において均一化できるので、第1のイオン量の算出が容易になる。
第1〜第4の何れかの局面に規定のセンサにおいて、前記アレイを構成する画素のうちの第3の画素は前記第1のイオンを検出し、該第1のイオンを透過させる第3の被膜で被覆されており、該第3の被膜の表面に存在する前記第1のイオンが前記第3の画素に検出されるのに要する第3の検出時間は前記第2の検出時間と異なり、 前記第3の被膜には前記観察対象に含まれる他の被測定物に作用して前記第1のイオンの量を変化させる第2のイオン制御物質が保持されている。
第3の被膜において、その表面の第1のイオンが第3の画素に検出されるのに要する時間(第3の検出時間)は、第2の画素の第2の検出時間と異なる。これにより、第3の画素を被覆する第3の被膜において第2のイオン制御物質が作用して第1のイオンが放出されたとき、この第1のイオンは最初に第3の画素に検出され、その後第2の画素で観察される。他方、観察対象に直接第1のイオンが存在していると、その第1のイオンが第3の画素に観察されるタイミングは、第3の被膜の第3の検出時間に依存する。換言すれば、検出開始(センサを観察対象に接触させて)から第3の検出時間までは、第2のイオン制御物質の作用に起因する第1のイオンのみが検出される。第3の検出時間経過後は、第2の画素の出力から得られた第1のイオンの量を減算すればよい。
この実施形態では、水素イオンを検出する画素のアレイを備えるpHイメージセンサ1として澤田チップ1を用いている。この澤田チップ1の構造については後述する(特許文献1及び特許文献2参照)。
図4(A)に示すように、この発明の実施形態のセンサの基礎となる澤田チップ1は128×128の画素のアレイを備える。各画素のセンシングエリアには水素イオン感応膜として汎用的な窒化シリコン膜が積層されている。この水素イオン感応膜が水素イオン濃度に応じてセンシングエリアの電位を変化させる。各画素のセンシングエリアに積層される感応膜は検出対象となるイオン種に応じて適宜選択可能なことは言うまでもない。
第1のイオン発生物質は観察対象(例えば生体組織)に生じた被測定物に作用してこの被測定物から第1のイオンを発生させる。観察対象に生じた被測定物がアデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、γ−アミノ酪酸(GABA)等の神経伝達物質であるとき、これらを加水分解して水素を発生させる分解酵素としてそれぞれATPase、AChE、GABAoxidase等を挙げられる。
樹脂マトリックスと第1のイオン発生物質との配合割合は、観察対象や観察条件等に応じて任意に設定できる。
実施の形態では、樹脂マトリックスに高架橋可能なPVA−AWPを採用し、第1のイオン発生物質としてアピラーゼを採用して、細胞に発現するATPを観察する。樹脂マトリックスとアピラーゼの配合比は4:1(体積比)とした。
その後、図4(C)に示すように、フォトマスク3を介して、スピンコート膜5を部分的にUV硬化し、第1の被膜7を形成する。未硬化部分は除去する。マスクアライナイーにはウシオ電機株式会社製のUSH−500BY1を用いた。紫外線の強さは1000mJ/cm2とした。
実施の形態において第1の被膜7は250μm×250μmの面積で、厚さは0.3μmであった。得られたpHイメージセンサの平面写真(一部拡大図、断面図を含む)を図5に示す。
第1の被膜7の面積、形状(即ち、フォトマスク3の開口部の形状)は観察対象や観察条件等に応じて任意に設計可能である。
第1の被膜7の厚さは0.05μm〜2.5μmとすることが好ましい。この膜厚が0.05μm未満であると、外部環境の水素イオン(即ち、第1の被膜7の表面に存在する水素イオン)が即座に第1の画素で検出されてしまい、露出状態の第2の画素による当該水素イオンの検出時間との間に有意な時間差を得難くなる。他方、その膜厚が2.5μmを超えると、外部環境に発現したATPに対する応答時間が遅くなるおそれがある。
PVA−AWPにアピラーゼを4:1(体積比)で分散して得られる実施形態の第1の被膜7ではその膜厚は0.2μm〜0.6μmとすることが好ましい(図6参照)。
なお、スピンコート膜5を硬化するための紫外線のパワーは1000mJ/cm2以上とすることが好ましい。そのパワーが1000mJ/cm2未満であると、第1の画素に十分な出力が得られないためである(図7参照)。
図8(b)の出力は、観察対象に1mMのATP溶液を滴下したときの出力である。ATP溶液を滴下したときは、1秒後に第1の画素のpHが変化した。これは、第1の被膜7に保持されたアピラーゼがATPに作用して水素イオンが発生したことに起因する。
以上より、測定開始から第1の検出時間の間はATPに起因する水素イオンのみが観察されることがわかる。
第2の画素の出力は時間の経過とともに高くなっている。これは、第1の画素を被覆する第1の被膜のアピラーゼがATPを加水分解して水素イオンを発生させ、その水素イオンが拡散してきたものである。第2の画素の出力が第1の画素の出力と同程度になるのに160秒を要している。
以上より、第1の画素の第1の被膜においてATPに起因する水素イオンが生成されても、それが第2の画素の出力に影響を及ぼすまでには所定のタイムラグがあることがわかる。即ち、そのタイムラグ(この例では10秒)の間は、観察対象に直接存在する水素イオン(観察対象が生体組織のときは当該組織から直接放出された水素イオン)のみが第2の画素で観察される。
また、図9の結果から、第1の画素と第2の画素の間隔は100μm以上とすることが好ましい。両者の間隔が100μm未満であると、第1の画素上の水素イオンが第2の画素まで拡散する時間が早くなりすぎて、2つの画素の出力を比較することが困難になる。また、分解能を向上する見地から、両者の間隔は150μm以下とすることが好ましい。150μmを超えても第1の画素と第2の画素の間の検出時間は殆ど変わらないからである。
観察対象の水素イオンを第1の画素と第2の画素とで検出時間差を設けて観察することを要点とするこの発明の観点からすれば、当該検出時間差を確保したうえで、第2の画素を何らかの被膜(第2の被膜)で被覆することができる。
第2の被膜は、第1の被膜と同様に、スピンコート及びホトリソグラフィの技術により個別に形成することができる。澤田チップの全画素の光感応層の上に樹脂層(第1のイオン発生物質を含まない)を積層し、この樹脂層の上に第1の画素を覆うようにして、第1の被膜7を形成することもできる。
更には、第1及び第2の被膜をインクジェットで形成することもできる。
このようにして得られた図10(c)に示すpHイメージセンサによれば、神経伝達物質としてのATPとAChとを同時に観察可能となる。
この10図の例においても、第2の画素を第2の被膜で被覆できる。
このpHイメージセンサの各画素の原理的な構成を図11に示す。
このpHイメージセンサの各画素10はシリコン基板11とその上に積層される構造体とから構成される。
シリコン基板11には、電荷が注入される電荷供給(ID)領域12から電荷移送方向へ順に、電荷供給調節(ICG)領域13、拡散層14、センシング領域15、電荷移送制御(TG)領域16、電荷蓄積(FD)領域17が区画される。
各領域の区画はシリコン基板11の表面における半導体型の違いにより規定される。例えば、電荷として電子を用いた場合、電荷供給(ID)領域12、拡散層14及び電荷蓄積(FD)領域17はn+型の領域であり、電荷供給調節(ICG)領域13及びセンシング領域15はp型の領域である。
基板11の表面には酸化シリコン絶縁膜21が積層され、その上に、電荷供給調節領域13の対向位置に該電荷供給調節領域13の電位を制御するICG電極25が積層され、同様に電荷移送制御領域16の対向位置にその電位を制御するTG電極26が積層される。センシング領域15に対応する部分には水素イオン感応膜として窒化シリコン膜23が積層される。この窒化シリコン膜23は、ICG電極25やTG電極26よりも後に形成されるため、これらの電極も被覆している。
各領域の面積や平面形状、ドーパントの導入量、更には感応膜の材質はセンサの測定対象、測定条件及び要求される感度等を考慮して任意に設計できる。
図12(a)はリセット状態を示す。このリセット状態においてリセット部18のリセットゲートRGが高電位となり、電荷蓄積(FD)領域(以下、単に「FD領域」ということがある)17の電荷が外部へ排出されている。
図12(b)はスタンバイ状態を示す。このスタンバイ状態においてリセット部18のリセットゲートRGが低電位となり、FD領域17によって電荷が蓄積され得る状態となる。
図12(c)、(d)は測定状態を示す。この状態の前提として、センシング領域15の電位は外部環境(測定対象のpH)に依存して変化している。まず、図12(c)に示すように電荷供給(ID)領域(以下、単に「ID領域」ということがある)12から電荷(この場合、電子)を注入すると、電荷は電荷供給調節(ICG)領域(以下、単に「ICG領域」ということがある)13を超えてセンシング領域15に至り、その後、図12(d)に示すようにID領域12からの電荷供給を止めると、センシング領域15上の電荷はICG領域13にすり切られる。このとき、ICG領域13の電位とセンシング領域15の電位差は、測定対象のpHに依存しており、当該電位差に対応した量の電荷がセンシング領域15の上に残存する。
図12(d)に示す測定状態において、拡散層14にも電荷が存在し、そのうえに注入された電荷が残存するが、この残存した電荷も含め、ICG領域13とセンシング領域15の電位差に起因する電荷量が検出対象のpH値を規定する。換言すれば、拡散層14の形成する電荷井戸内に存在する電荷はpH値を規定する電荷量に何ら影響を与えない。
なお、図12(c)〜図12(f)の操作を繰り返すことにより、小さなpH変化を大きな電荷量変化に変換可能となる。
図12(g)において、電荷検出部19によりFD領域17に蓄積された電荷量を電気信号に変換する。これにより、pH値の特定が可能となる。
以下、図12(a)〜図12(g)のステップが繰り返される。
3 フォトマスク
5 スピンコート膜
7 第1の被膜
9 第3の被膜
Claims (5)
- センシング領域の電位差に起因する電荷を電荷蓄積領域に移送することを複数回繰り返し、被測定物を含む観察対象のイオンの検出動作を実行する画素のアレイを備えるセンサであって、
前記アレイを構成する画素のうちの第1の画素は第1のイオンを検出し、該第1のイオンを透過させる第1の被膜で被覆されており、
前記アレイを構成する画素のうちの第2の画素は前記第1のイオンを検出し、該第2の画素は表出しており、
前記第1の被膜には、前記被測定物に作用して前記第1のイオンを発生させる第1のイオン発生物質が保持される、センサによる、前記観察対象における前記被測定物に起因しない前記第1のイオンの第1の濃度と前記被測定物に起因する前記第1のイオンの第2の濃度とを検出する検出方法であって、
前記第1の被膜の前記第1のイオン発生物質が前記被測定物質に作用して発生した前記第1のイオンが前記第2の画素へ拡散してそこで検出されるのに要する第1のタイムラグを特定するステップと、
前記被測定物を含む観察対象に接触した前記第1の画素が、観察開始から前記被測定物に起因する前記第1のイオンを観察するまでの第2のタイムラグを特定するステップと、
前記第1のタイムラグと前記第2のタイムラグの間を観察期間として定めるステップと、
該観察期間において、前記第1の画素により前記被測定物に起因する前記第2の濃度を検出するとともに、前記第2の画素により前記観察対象における前記被測定物に起因しない前記第1の濃度を、それぞれ繰り返し検出する、ステップと、
を含む検出方法。 - 前記第1のイオン発生物質はタンパク質分解酵素であり、前記被測定物としての所定のタンパク質を分解して前記第1のイオンを生じさせる、請求項1に記載の検出方法。
- 前記被測定物は生体タンパク質である、請求項2に記載の検出方法。
- 前記第2の画素は前記第1の画素に近接して、かつ所定の間隔で配置される、請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
- 前記第1のイオンは水素イオンである、請求項1〜4のいずれかに記載の検出方法。
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