JP6725777B1 - ホイール付きバットを用いたアップライト型ピアノアクション機構 - Google Patents
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Abstract
Description
このUPの特徴から、ピアノ演奏人口の大多数を占める一般ユーザーは、UPを選択し、演奏性能の低さに不満を持ちつつも甘受している実情がある。
他方、キーを介したハンマー操作性能についても、発音機構(アクション)の改善努力がなされてきている。
しかし、UPにおいては、類似の技術はいまだ知られていない。
なお、ここで用いた用語※については、段落「0017」を参照されたい。
なお、機構を説明する上で、軸方向に関して次のように定める。ピアノの前後軸において、奏者側を前方、奏者から遠い方を後方とする。
(1−1)通常奏法での打弦行程(エスケープメント機構を使う奏法):
エスケープメント機構を使う通常の奏法では、奏者は、キーを最下部まで押し切って発音させる。
ここで、奏者がキー前端付近を押し下げると、キー後端に設けられたキャプスタンが上昇する。
次に、キャプスタンの上昇により、ウィッペンが押し上げられる。
次に、ウィッペンの上昇により、ウィッペン上にピン留めされているジャックが上昇する。
この際、ジャック頂部は、ハンマーバット下部にあるハンマーバットフェルトに当たっているため、ウィッペンが左回旋しつつ上昇するのに対し、ジャック頂部は回旋せず、ほぼ垂直に上昇する。
ジャックが上昇を開始し、0.2mmほどの空隙を進んだ時、ジャック突き上げ面がハンマーバット被突き上げ部下面に接触して、ハンマーバットを押し上げる。
また、このキーの押し下げに伴うジャックの上昇により、ハンマーバットが左回旋し、ハンマーヘッドが弦に近づく。
また、更にキーの押し下げが続くと、ジャックが右回旋しつつ上昇する。
そして、このジャックの右回旋と同時に、ジャック突き上げ面がハンマーバット被突き上げ部下面から外れ、ハンマーはジャックから自由になる。
即ち、「ジャックによるハンマー突き放し」現象が起こる。
上述の突き放し機能をレットオフと呼び、この機構をエスケープメント機構と呼ぶ。
既存UPは、ジャックによる「1つのエスケープメント機構のみを持つ」ため、この機構をシングルエスケープメント機構と呼んでいる。
他方、既存GPは、ジャックによるエスケープメント機構の他に、レペティションレバーが類似の突き放し動作を行うエスケープメント機構を持つため、既存GPのアクション機構は「ダブルエスケープメント機構」と呼ばれる。(図6参照)
そして、ダブルエスケープメント機構は、「押し切ったキーをわずかに戻すだけで、ジャック突き上げ部が常に円滑に、ハンマーシャンクローラーという名の被突き上げ部材の下面に潜りこみ、直ちに同音再打弦の準備が完了する」と言う機能をもっている。
この機能を「ダブルエスケープメント機能」と言う。
(1−2)キーを極浅い押し下げ範囲で打鍵するハーフタッチ奏法の打弦行程:
キーの極浅い位置での押し下げによりハンマーを十分に加速させ、その後、キーの押し下げを直ぐにやめる場合、未だジャックのレットオフは発生していないが、ハンマーバットは、ジャック頂部を離れ、ハンマーの慣性運動を開始させることができる。
これはハーフタッチと呼ばれる演奏方法の一つの形態であり、ダンパーペダルを併用して弦を自由にすることにより、既存GPのアクション機構においては利用可能である。
キーをやや深い位置(=レットオフ発生の直前の位置)まで押し下げ、その後、キーの押し下げをレットオフ発生の直前に止めると、ハンマーの慣性運動を開始させることができる(ハーフタッチ奏法の別の一形態である)。
この場合には、ウィッペン上のブライドルワイヤーが大きく上昇しているため、ブライドルテープがハンマーの慣性運動を邪魔しないので(あるいは、わずかしか邪魔しないので)、ハンマーヘッドの速度が十分ならハンマーヘッドは打弦する。このとき、この深いキーの押し下げ位置では、ダンパーヘッドがすでに浮き上がって弦が自由であるから、打弦・発音が可能である。
既存UPにおけるハンマーの戻り力の発生源は、「打弦時の弦の反発力、弱いバネ力のバットスプリング及びブライドルテープの引っ張り力」の3つで構成される。
既存GPにおけるハンマーの戻り力の発生源は、「打弦時の弦の反発力及びハンマーヘッドに掛かる重力」の2つで構成されている。
従って、既存GPにあっては、弦の反発力が例え0g重のときでも、ハンマーが自由になった瞬間に重力加速度と同程度の加速度で、ハンマーヘッドの戻り動作が開始・継続する。
即ち、既存GPにあっては、どんなにかすかな弱打弦の後でも、ハンマーの戻り加速度は最低でも重力加速度と同程度であり、安定的な高速戻り動作が保証されている。
この条件の場合、弦の反発力が大きいため、打弦後にハンマーは高速で戻る。
また、このとき、通常奏法ではキーは最下部まで押し下げられることで、レットオフ動作が終わっており、ウィッペンが大きく上昇すると共に、バックチェックがせり上がった状態にある。
そして、キーの押し下げを維持していると、高速で戻ったキャッチャーをバックチェックが挟んで、ハンマーの動作を停止させる。
この条件の場合、弦の反発力は非常に弱く、かつ既存UPの戻しバネ(=バットスプリング)は、バネ力が非常に弱い構造なので、ハンマーヘッドは重力加速度と比べはるかに小さい加速度でゆっくりと引き戻され、続いて、ゆっくりと引き戻されたキャッチャーは、せり上がった状態のバックチェックに接触又は挟まれて、停止する。
なお、この工程は、通常奏法で、弱音を伸ばす場合に相当する。
既存GPのハンマーヘッドで、弦反発力=0g重の場合に働くハンマーの戻り力は、実測10g重程度であり、ハンマーヘッドの戻り加速度は、ほぼ重力加速度に近い。
他方、既存UPで、弦反発力=0g重、かつブライドルテープが作用しない状況下で、ハンマーヘッド位置で計測したハンマーの戻り力は、実測3g重程度であり、ハンマーヘッドの戻り加速度は、重力加速度と比べはるかに小さい。
この条件の場合、弱打弦後、当初はハンマーがゆっくりと戻る。
続いて、高速で同音の強打弦を行うためには、キーを急速に大きく戻す必要がある。
ここで、キーを急速に戻し続けると、連動してウィッペン及びその上に乗るジャックが、ほぼ重力加速度と同程度の大きさの加速度で下降する。
このウィッペン上のブライドルワイヤーに繋がれているブライドルテープは、ある時点からキャッチャーを突然、衝撃的に引っ張り、引き戻す。
この後、ブライドルテープに引かれたキャッチャーとウィッペンは、一緒に下降する。
この条件の場合も、弱打弦後、当初はハンマーがゆっくりと戻る。
続いて、高速で同音の弱打弦を行うためには、次のハンマーヘッドの打弦速度を小さくする必要があるため、「キーを大きく戻すことなく、直ちに再度キーを押し下げる」必要がある。
一方で、キーの押し切り位置からの戻り量が小さい範囲では、ウィッペンの戻り量が小さいため、ブライドルテープの引っ張り力が発生せず、従ってハンマーヘッドの戻り加速度は重力加速度に比べはるかに小さく、ハンマーの戻りに長時間を要する。
別の視点で言うと、「既存UPのバットスプリングとブライドルテープとによるハンマー戻し力機構」では、弱打弦後のハンマーヘッドを「急速に引き戻す」ためには、大きくキーを引き戻すことが必要であり、従って次の打弦を急いで行うとハンマーヘッドの打弦速度が必ず大きくなる。
この条件の場合、「(2−1−2−2)通常奏法での弱打弦後、高速で同音・強打弦の準備をする場合」と同じで、キーを完全に戻してダンパーを弦に圧着させる必要から、キーを押し切った後直ちに、キーを大きく戻す必要があり、これに伴いウィッペンが、ブライドルテープを介して高速でハンマーを引き戻す。
(2−2)ハーフタッチ奏法でキーを極浅い押し下げ範囲で打鍵後のハンマー戻り行程:
上述したように、この条件の場合では発音せず、ウィッペンにより高速で引き戻される。
ハーフタッチ奏法ではハンマー加速距離が短いため、強打弦は不可能であり、この状況は生じない。
上述(1−3)のように、この条件の場合では、ブライドルテープがほぼ邪魔しないため、ハンマーヘッドの速度が適切なら、ハンマーヘッドは打弦し、弱音を発音可能である。
また、この場合、ハンマーの戻り力は、極弱い弦の反発力及び弱いバットスプリングのバネ力によって生じ、ブライドルテープの引っ張り力は作用しない。
従って、ハンマーヘッドの戻り加速度は、重力加速度に比べはるかに小さく、ゆっくりと戻ることになる。
キーの操作でハンマーヘッドによる打弦をするためには、ジャック突き上げ面がハンマーバット被突き上げ部下面に位置するように、ジャックの打弦準備を行うことが必要である。
直前のハンマーの動作次第でジャックの打弦準備動作が異なるため、以下に詳述する。
エスケープメント機構を使う通常奏法の打弦では、上述のように、打弦後にハンマーが戻り、キャッチャーがバックチェックに接触し又は挟まれることで、停止する。
ここで、キーを戻し始めると、連動してウィッペンが下降し始め、バックチェックがキャッチャーから離れる。
このとき、ジャック頂部は上昇し、レギュレーティングボタンにより右回旋させられ、かつ、その可動範囲内で最も高い位置に配置させられている。(図5参照)
他方、ハンマーバット被突き上げ部は、ジャック頂部より下方に位置し、ハンマーバット側面がジャック頂部に対面した状態にある。
既存UPのジャックスプリングは弱いので(段落「0043」参照)、この時点でハンマーバットを押しのけることができず、ジャックの左回旋は停止する。
即ち、この時点では、まだジャック頂部はハンマーバット下面に潜ることができない。
続いてハンマーシャンクがハンマーレストに当たり、ハンマーバットの下降が止まる。
引き続くキー戻しで、ジャック頂部が下降し、ハンマーバット下面との間に空隙が発生した時点で、ようやくジャック頂部はハンマーバット下面に潜ることになる。
この状態では、キーはほぼ完全に休止位置に戻っている。
これは、よく知られた「シングルエスケープメント機構の重要な欠点」の1つである。
また、同時にウィッペン上のバックチェックが上昇し、キャッチャーが挟まれて停止し、突然に「キャッチャー、ハンマーバット、ウィッペン、キャプスタン及びキー」が一斉にロックされ、押し下げ不能になるという不快な現象が発生する。
ジャック頂部が、ジャックスプリングの作用によりハンマーバットの側面を押す力(=ジャック戻し力)は、実測で5g重程度である。
他方、ジャック頂部がハンマーバット側面を押しのけるために要する力は、実測で60〜90g重程度である。
上述(1−2)のように、この条件でのハーフタッチ奏法は、既存UPでは発音が不可能である。
しかし、打鍵操作後、ハンマーはブライドルテープで急速に引き戻され、ハンマーバット下面はジャック突き上げ面の上に戻り、次の打弦準備は完了する。
(3−3)ハーフタッチ奏法で、キーを深い押し下げ範囲で打弦後のジャック打弦準備行程:
上述のように((1−3)、(2−3−2)参照)、この条件では、ブライドルテープがほぼ邪魔しないので、ハンマーヘッド速度が適切なら打弦・発音できる。
この際、ジャックのレットオフが生じないので、ジャック頂部は常にハンマーバット下面に位置している。
従って、ハンマーヘッドが戻り、ハンマーバットが戻ってくると同時に、再打弦の準備が完了する。
ただし、既存UPでハーフタッチ奏法を行うための指操作には、非常に正確で微細なコントロールが要求される。
即ち、「ハンマーの慣性運動がブライドルテープで邪魔されないように、レットオフ位置付近のやや深いキー押し下げ深さ、かつレットオフしない範囲のキー押し下げ量であって、更にハンマーヘッドの打弦に必要なハンマーヘッド速度を与えるようなキー押し下げ速度を与える」という困難なキー操作が求められる。
これを高速で繰り返す「ハーフタッチ奏法による同音高速連打」は、演奏技術上の難易度が高く、現実の演奏では、「ハーフタッチ奏法による同音高速連打」の演奏中に、キーを押し過ぎることでレットオフ機能が作動してしまう事態が頻繁に起こる。
もし、直前までの「ハーフタッチ同音連打」の指操作をしてしまうと、ハンマーバット下面にジャック頂部が来ておらず、外れているため、キーは空打ちとなってしまう。
この問題点は、上述の「シングルエスケープメント機構の欠点」(問題点5)に帰着する。
既存UPのジャック打弦準備行程を支える機構(シングルエスケープメント機構)上、休止時点でジャック突き上げ面とハンマーバット下面との間に間隙があることが原因で生じる、「キー押し下げ運動開始とハンマーヘッド加速反応開始の間にタイムラグが生じるため、演奏しづらい」と感じられる問題。
既存UPでのハンマーの戻り力発生が目的のブライドルテープが、ハンマーヘッドの自由慣性運動を制限することが原因で生じる、「浅いキー押し下げ位置でのハーフタッチ奏法を不可能にする」という問題。
既存UPでは、ハンマーヘッドを高速で戻すためにはキーを大きく戻さなければならないことが原因で生じる、「通常奏法で高速同音連打をすると、必然的に大音量となり、弱音で高速同音連打ができない」という問題。
既存UPのハンマー戻し力機構では、弱打弦後にハンマー戻り速度が遅いことが原因で生じる、「ハーフタッチ奏法での弱音同音連打が高速にできず、必ず低速になる」という問題。
既存UPがシングルエスケープメント機構を使っていることが原因で生じる、「レットオフを使う通常奏法での打弦後には、キーをほぼ完全に戻さないと次の打弦準備が完了しない」という欠点。
前記キーが設けられたキーアセンブリと、前記弦を打つハンマーヘッドが設けられたハンマーアセンブリと、前記キーに付与された打鍵力を前記ハンマーヘッドの揺動力として伝達するウィッペンアセンブリと、を備え、
前記ウィッペンアセンブリは、ジャックと、前記打鍵力により後方側端部を支点に回転するウィッペンと、前記ジャックを、その下端部で回転自在に支持するジャックフレンジと、前記ジャックを後方に向かって付勢するジャックスプリングと、レギュレーティングボタンと、を有し、
前記ハンマーアセンブリは、前記ハンマーヘッドが設けられたハンマー本体と、前記ハンマー本体を、その下端部で回転自在に支持するバットフレンジと、前記ハンマー本体を前方に向かって付勢するハンマー戻しバネと、を有し、
前記ハンマー本体は、前記バットフレンジが連結されるハンマーバットと、前記ハンマーバットに連接され、前記ハンマーヘッドに向かって延びるハンマーシャンクと、を含み、
前記ハンマーバットには、前記ハンマーヘッドの打弦動作前において、前記ジャックの頂部を支持するジャック受け面と、前記ジャックの突き上げ力を受ける位置に配置された車輪状のバットホイールと、が設けられ、
前記バットホイールは、その中心を軸として回転自在に、かつその円周面で前記ジャックの頂部に接触可能に設けられ、
前記ジャックと前記バットホイールとは、同一面内で回転するように配置され、
前記レギュレーティングボタンは、前記ジャックと接触することにより前記ジャックを前記バットホイールから離脱させる。
このような構成とすることで、既存UPにおけるハンマーバット被突き上げ部及びハンマーバット側面に相当する部分が、回転自在なバットホイールとなり、打弦後におけるジャックの打弦準備行程において、(ジャックスプリングの戻し力が必要充分に大きい条件の基で、)バットホイールの斜め下方に接触したジャックの頂部が、バットホイールの回転を利用して、常に滑らかにハンマーバットを押し戻し、バットホイール下方にジャック頂部が潜ることになる。
従って、キーをわずかに戻し、ジャックテールがレギュレーティングボタンから離れると、必ず同時に次の打弦準備が完了する。
これにより、既存UPがシングルエスケープメント機構を使っていることが原因で生じる、「レットオフを使う通常奏法での打弦後には、キーをほぼ完全に戻さないと次の打弦準備が完了しない」という欠点(問題点5)を解消することができ、シングルエスケープメント機構でありながら「既存GPのダブルエスケープメント機能」と同じ機能を提供することができる。
前記ハンマーレストは、前記ハンマーヘッドの打弦動作前において、前記ハンマーシャンクと離間して設けられていることが好ましい。
このため、ハンマーレストを上述のような関係に配置すれば、ジャック頂部とバットホイールは、打弦のための突き放し動作期間中を除き、常に接触を維持するようになる。これによって、キーの動きが直接的にハンマーヘッドの動きと連携することになる。
従って、既存UPの「キー押し下げ運動開始とハンマーヘッド加速反応開始の間にタイムラグが生じるため、演奏しづらい」と感じられるという(問題点1)が解消される。
前記ハンマー戻しバネの下端部は、前記バットフレンジに固定され、
前記ハンマー戻しバネの上端部は、前記ハンマーシャンクに接触可能に設けられていることが好ましい。
従って、本発明のアクション機構では、ハンマー戻し機構にブライドルテープが存在しない構成とすることができ、「ブライドルテープがハンマーの慣性運動を邪魔してハーフタッチ奏法の一部ができない」と言う(問題点2)が解消される。
また、既存UPのハンマー戻し力機構では、弱打弦後にハンマー戻り速度が遅いことが原因で生じる、「ハーフタッチ奏法での弱音同音連打が高速にできず、必ず低速になる」という(問題点4)が解消される。
なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
また、これらの図において、ハッチングが施された部材は、キーの整列方向に伸びる梁状の部材であり、ハッチングが施されていない部材は、各キーに個別で設けられている部材である。
まず、図1を用いて、本実施形態に係るUPのアクション機構の構成の概要について説明する。
なお、ダンパーアセンブリ3、キーアセンブリ4及び弦5は、既存UPのアクション機構と同様の構成であるため、その説明を省略する。
また、ウィッペン11は、その中央やや右寄りから下方に向かって突出するウィッペンヒール11aを含み、キャプスタン42の上端と接触している。
さらに、ジャックAは、ジャックテールA2底部が、ジャックフレンジ16の右方に設けられたジャックスプリング17と連結されることで、常時左回りに圧迫されている。
打弦後に戻ったハンマーバット21dのバットホイールCは、次の打弦準備のためにキー41を戻し始めると、バックチェック13がキャッチャー21fを離すので、一旦ハンマー戻しバネBのバネ力で下降し、バットホイールCの側面がジャック本体A1頂部(ジャッククッション部A3)と接触する。(図2(b)参照)
このとき、ジャックスプリング17のバネ力が小さ過ぎると、ジャック本体A1頂部はバットホイールCに押されて逃げて行き、ジャックAをバットホイールC下方に戻すことが不可能になる。
このため、ジャックスプリング17は、バットホイールCによる押し付け力に抗して、ジャックAがバットホイールCを支え、保持するに足る大きさのバネ力を有することが必要である(参考:概略で、既存UPにおけるジャックスプリングのバネ力の10倍程度必要と推定される)
ジャックスプリング17の形状は、既存UPのジャックスプリングと同じでも正常に機能するが、既存UPのジャックスプリングはコイルばねであるため、バネ力の方向が不安定で外れる危険があり、また、メンテナンス時にバネ力の調整が困難である。
このため、ジャックスプリング17は、捩じりバネ(17´と表示)に変更することが望ましい(図2(c)参照)。このようにすることで、ジャックスプリング17´による反発力の方向が安定し、かつ、メンテナンス時における手でのバネ力の調整を容易に行うことが可能となる。
なお、ジャックスプリング17´は、その下端部が捩じりも含めて固定された場合には、捩じりバネでなく、例えばハンマー戻しバネBのような湾曲した板バネであっても良い。
打弦後戻ったバットホイールCとキー41の押し切り状態でのジャック本体A1頂部との位置関係は、ジャックA打弦準備行程において重要である。
この角θは、キャプスタン42を回す事で調整可能であり、角θを45度前後に設定することが望ましい。こうすることで、ジャックテールA2がレギュレーティングボタン18から離れると同時に、必ずジャック本体A1頂部が滑らかにバットホイールC下に潜りこめるようになる。
即ち、ジャックスプリング17によるバットホイールCの支持・押し戻しが円滑になり、高速でのスムーズな同音連打が可能になる。
即ち、ハンマー本体21にブレーキをかける装置のON/OFF変化量が小さくなり、キャッチャー21fとバックチェック13との連係がうまく機能しなくなり、一度戻ったハンマー本体21が跳ね返る2度打ち現象が生じる恐れがある。
ただし、同じθ角度でも、バットホイールCの半径、またはジャッククッション部A3の半径を大きくすると、レットオフ開始からキー41押し切りまでのバックチェック13移動量を大きくすることが可能である。
ハンマーヘッド21aは、レットオフ後に十分な速度で慣性運動を続け打弦・発音するに足る運動量を持つように、必要十分な大きさの質量が与えられている。
また、バット本体21d1は、ジャッククッション部A3と接触するジャック受け面rと、バットホイールCの収まるホイール溝wと、を含む。
また、バットホイールCは、ホイールピンCpを介して、バット本体21d1に設けられたホイール溝w(図2(a)参照)内部に、摩擦なく、バット本体21d1の回転面と同一面内で回転自在に設けられている。
ホイールピンCpの中心は、休止時点でのジャック中心線(=ジャックフレンジピンp2・ジャック本体A1頂部間を結ぶ線)に対してキャッチャー21f側に少しずれて設置され、ジャックAのレットオフ開始時点までは、ホイールピンCpの位置が常にジャック中心線に対してキャッチャー21f側にあるように設置される。
こうすることで、バットホイールCからジャックAが受ける力の分力が、ジャック本体A1頂部をバット本体21d1のジャック受け面rに押し付けるように作用し、突き上げ動作中にジャック本体A1頂部がレギュレーティングボタン18側に逃げることを防止する。これによって、ジャック突き上げ動作が安定する。
ハンマー戻しバネBの上端部は、ハンマーシャンク21cに設けられたハンマー戻しバネ溝g2に嵌め合わされる。
なお、参考値として、このバネ力は、概ね既存UPにおけるバットスプリングのバネ力の5倍程度の大きさに相当すると推定される。
次に、図1及び図2(a)、(b)を用いて、本実施形態に係るUPのアクション機構の動作態様について説明する。
なお、上述の通り、既存UPの動作態様については既に説明しているため、以下ではそれと対比する形で、動作態様が変更されている部分のみ記述する。また、本実施形態における動作時の各種条件項目は、比較のため、上記既存UPの動作説明での各項目番号と対応させてある。
(1−1)通常奏法での打弦行程(エスケープメント機構を使う奏法):
奏者がキー41を押し下げると、ウィッペン11上にピン留めされているジャックAが上昇する。
本実施形態では、休止時のハンマーシャンク21cはハンマーレストRに乗らず、離れている。(図1参照)
他方、休止時にバットホイールCがジャック本体A1頂部に接して乗っており、ジャック本体A1頂部が、ハンマーの戻り力に対抗して、バットホイールCを支え、停止させている。(図1、図2(a)休止時部分図参照)
このとき、既存UPと同様、ジャック本体A1頂部は、ハンマーバット21d下部にあるジャック受け面r(既存UPにおけるハンマーバットフェルトに相当)に当たっているため、キー押し下げに連れてウィッペン11が左回旋しつつ上昇するのに対し、ジャック本体A1頂部は回旋せず、ほぼ垂直に上昇する。
更にジャックAが上昇すると、ジャックテールA2がレギュレーティングボタン18に当たり、停止する。
更にキー41の押し下げが続くと、ジャックAは右回旋しつつ上昇することになる。
また、本実施形態のハンマー本体21は、ハンマー戻しバネBにより常時ほぼ一定の戻り力を受け続けるが、このジャックテールA2が停止した時点でハンマー本体21が十分な回転速度を得ている場合には、ハンマー戻しバネBによる減速を受けつつも慣性運動を続け、ハンマーヘッド21aは打弦することができる。
なお、この動作態様は、既存GPにおいて、ハンマーが重力加速度により上昇速度を減少しつつも慣性運動で打弦する動作態様と同様である。
(1−2)キーを極浅い押し下げ範囲で打鍵するハーフタッチ奏法の打弦行程:
休止位置から、極浅い位置までキー41を押し、ハンマー本体21を必要十分に加速させ、その後、キー41の押し下げを止めるとき、本実施形態では、慣性運動を邪魔するブライドルテープが存在せず、ハンマー本体21がハンマー戻しバネBにより減速しつつも慣性運動を続け、打弦可能であり、ダンパーが上がっていれば発音可能である。
上記、浅い押し下げ範囲でのハーフタッチ奏法での条件の場合と同様に、ハンマー本体21は慣性運動をし、そのキー深さではダンパーがすでに浮いているので打弦・発音可能である。
(2−1−1)通常奏法での強打弦後のハンマー戻り行程:
この場合、本実施形態ではハンマー戻しバネ力が強く、かつ打弦時の弦反発力も強いので、高速でハンマーが戻る。
この条件の場合、弦5の反発力は非常に弱いが、本実施形態では、バネ力の大きいハンマー戻しバネBにより、重力加速度と同等以上の戻り加速度でハンマーヘッド21aは急速に引き戻される。
高速で戻ったキャッチャー21fは、せり上がった状態のバックチェック13に挟まれて停止する。
(2−1−2−3)通常奏法での弱打弦後、高速で同音・弱打弦の準備をする場合のハンマー戻り行程:
(2−1−2−4)通常奏法で弱打弦後、直ぐその音を止める場合のハンマー戻り行程:
これらの3つのいずれの条件でも、上述の「(2−1−2−1)通常奏法で弱打弦後、キーを押し下げ続ける場合」と同様、ハンマー本体21は急速に戻り、キャッチャー21fは、せり上がった状態のバックチェック13に挟まれて停止する。
即ち、通常奏法の弱打弦後でも、ハンマーは常に高速で戻るため、浅いキー戻り量(=弱音高速連打に向けた準備を意味する)でも直ぐに次の打弦準備に入ることができる。
(2−2)ハーフタッチ奏法でキーを極浅い押し下げ範囲で打鍵後のハンマー戻り行程:
この条件の場合、本実施形態では、ブライドルテープによる“ハンマーの自由慣性運動の制限”が無いため、ハンマー本体21が自由に慣性運動を続け、打弦することができる。
また、打弦後、ハンマー戻しバネBによりハンマー本体21は常に高速で戻る。
ハーフタッチ奏法ではハンマー加速距離が短いため強打弦は不可能であり、この状況は生じない。
この条件の場合、「(2−2)ハーフタッチ奏法でキーを極浅い押し下げ範囲で打鍵する場合」と同様、本実施形態ではハンマー本体21は自由慣性運動を続け、打弦後、ハンマー戻しバネ力が大きいので、ハンマー本体21が常に高速で戻る。
(3−1)通常奏法での打弦後、同音連打をする場合のジャックの打弦準備行程:
通常奏法で打弦後、キー41をわずかに戻し始めると、連動してウィッペン11が下降し始め、バックチェック13がキャッチャー21fから離れる。同時に、ハンマー戻しバネBの作用で、バット本体21d1が右回旋する。(図2(b)参照)
このとき、ジャック本体A1頂部は、レギュレーティングボタン18により右回旋させられ、かつ、その可動範囲内で最も高い位置にあり、他方、バットホイールCの下面はジャック本体A1頂部より下方に位置し、バットホイールCの側面がジャック本体A1頂部と対面した状態にある。従って、右回旋したバット本体21d1上にあるバットホイールCの側面が、ジャック本体A1頂部に当たることになる。
このとき、本実施形態におけるジャックスプリング17はバネ力が充分大きいので、ジャック本体A1頂部は、ハンマー戻しバネBによるバットホイールCの押し付け力に抗して、バットホイールCをその位置で保持する。
そして、キー41の更なる戻り動作に連動して、ジャックAが左回旋し、ジャック本体A1頂部がバットホイールCを押し戻しながら滑らかにバットホイールC下方に潜る。
なお、この時点でのキー41の戻り量は、キー41の最大の押し切り深さの2〜3割程度である。
そして、更にキー41を引き戻すと、バットホイールCは、ジャック本体A1頂部に接したままジャックAと一緒に下降して行く。
ここで、キー41の引き戻しを反転して押し下げると、再打弦の行程に移る。
(3−3)ハーフタッチ奏法で、キーを深い押し下げ範囲で打弦後のジャック打弦準備行程:
上述のように、この2つの条件とも、本実施形態ではハンマーヘッドが打弦可能であり、かつまた、ジャックAのレットオフが生じないので、ジャック本体A1頂部は、常にバットホイールC下方に位置している。
従って、ハンマー本体21が戻り、ハンマーバット21dの下面が戻ってくると同時に再打弦の準備は完了している。
ハーフタッチ奏法中に誤ってレットオフが生じても、上述のように、本実施形態に係るUPのアクション機構では、ダブルエスケープメント機能が提供されているため、ジャックテールA2がレギュレーティングボタン18から離れると同時に、再打弦の準備が完了する。
Claims (8)
- キーの打鍵操作に応じて弦を振動させる、アップライト型ピアノアクション機構であって、
前記キーが設けられたキーアセンブリと、前記弦を打つハンマーヘッドが設けられたハンマーアセンブリと、前記キーに付与された打鍵力を前記ハンマーヘッドの揺動力として伝達するウィッペンアセンブリと、を備え、
前記ウィッペンアセンブリは、ジャックと、前記打鍵力により後方側端部を支点に回転するウィッペンと、前記ジャックを、その下端部で回転自在に支持するジャックフレンジと、前記ジャックを後方に向かって付勢するジャックスプリングと、レギュレーティングボタンと、を有し、
前記ハンマーアセンブリは、前記ハンマーヘッドが設けられたハンマー本体と、前記ハンマー本体を、その下端部で回転自在に支持するバットフレンジと、前記ハンマー本体を前方に向かって付勢するハンマー戻しバネと、を有し、
前記ハンマー本体は、前記バットフレンジが連結されるハンマーバットと、前記ハンマーバットに連接され、前記ハンマーヘッドに向かって延びるハンマーシャンクと、を含み、
前記ハンマーバットには、前記ハンマーヘッドの打弦動作前において、前記ジャックの頂部を支持するジャック受け面と、前記ジャックの突き上げ力を受ける位置に配置された車輪状のバットホイールと、が設けられ、
前記バットホイールは、その中心を軸として回転自在に、かつその円周面で前記ジャックの頂部に接触可能に設けられ、
前記ジャックと前記バットホイールとは、同一面内で回転するように配置され、
前記レギュレーティングボタンは、前記ジャックのジャックテールと接触することにより、前記ジャックの頂部を前記バットホイールから回転摩擦で相対変位しつつ離脱させ
前記ジャックスプリングは、前記ハンマーヘッドの打弦動作後において、前記ジャックの頂部を後方に向かって付勢し、ハンマー戻しバネにより前方に付勢された前記バットホイールに斜め下から接触させることで、前記ジャック頂部が前記バットホイールを回転摩擦しながら押上げ、前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンから離れると同時に、前記ジャック頂部を前記バットホイール下方に配置させるアップライト型ピアノアクション機構。 - 前記キーを押し切った時点でのジャックの頂部と打弦後に前記ハンマー戻しバネにより前方に戻された前記バットホイールとが接した時点において、前記バットホイールの中心から前記ジャック頂部に向かう線分の水平線となす角度が下方に略45度である、請求項1に記載のアップライト型ピアノアクション機構。
- 前記バットホイールの中心は、前記キーの打鍵操作開始前からレットオフ動作開始直前までの間において、前記ジャックの回転軸と前記ジャックの頂部とを結ぶ線に対して、前方側に配置されている、請求項1又は2に記載のアップライト型ピアノアクション機構。
- 前記ジャックスプリングのバネ力は、前記ハンマーヘッドの打弦動作後における前記バットホイールと前記ジャックとの接触動作において、前記ハンマー戻しバネの付勢に基づく前記バットホイールの押し付け力に抗して、前記ジャックが、前記バットホイールにより前方に押し戻されず、前記バットホイールをその位置で保持する、または前記バットホイールを後方に押し戻すに足る大きさに設定されている、請求項1〜3の何れかに記載のアップライト型ピアノアクション機構。
- 前記ハンマーシャンクの前方であって、前記ハンマーシャンクと接触可能に設けられたハンマーレストを備え、
前記ハンマーレストは、前記ハンマーヘッドの打弦動作前において、前記ハンマーシャンクと離間して設けられている、請求項1〜4の何れかに記載のアップライト型ピアノアクション機構。 - 前記ジャックは、その頂部に、柔軟性を有するジャッククッション部を含み、
前記ジャッククッション部は、前記バットホイールとこのバットホイールの円周面で接触可能に設けられている、請求項1〜5の何れかに記載のアップライト型ピアノアクション機構。 - 前記ハンマー戻しバネは、前記バットフレンジから前記ハンマーシャンクに向かって延び、
前記ハンマー戻しバネの下端部は、前記バットフレンジに固定され、
前記ハンマー戻しバネの上端部は、前記ハンマーシャンクに接触可能に設けられている、請求項1〜6の何れかに記載のアップライト型ピアノアクション機構。 - 前記ハンマー戻しバネのバネ力は、前記ハンマーヘッドの打弦動作後において、前記ハンマー戻しバネの付勢に基づく前記ハンマーヘッドの戻り動作の加速度が重力加速度と同等以上となる大きさに設定されている、請求項1〜7の何れかに記載のアップライト型ピアノアクション機構。
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