以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、窒化処理装置、および、窒化処理方法として広く適用することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化処理装置1の模式図である。図1を参照して、窒化処理装置1は、アンモニアガスを含む熱処理用ガスを熱処理炉6内に導入することで、熱処理炉6内に配置された被処理物100に窒化処理を行うように構成されている。
被処理物100の材質は、表面に窒化処理を施されることが可能な材質であればよく、特に限定されない。被処理物100の一例として、鋼材部品などの金属部品を例示することができる。窒化処理は、たとえば、約550℃〜600℃に加熱された熱処理炉6内に、アンモニアガスを主成分とする熱処理用ガス(混合ガス)を供給する処理である。
この処理により、窒素原子および炭素原子は、被処理物100の表面から内部へ浸透および拡散することで被処理物100の金属部分に固溶する。その結果、窒素原子と炭素原子の化合物(窒化層)が、被処理物100の表面近傍に形成される。これにより、被処理物100の耐摩耗性、疲労強度、および、耐食性が向上する。
本実施形態で用いられる熱処理用ガスは、窒素ガス(N2)と、アンモニアガス(NH3)と、炭酸ガス(CO2)と、を含んでいる。なお、熱処理用ガスは、アンモニアガスと、吸熱型変成ガス(CO、N2、H2)と、を含んでいてもよい。
窒化処理装置1は、ガス供給ユニット2と、熱処理ユニット3と、ガスセンサ4と、制御部5と、を有している。熱処理ユニット3は、熱処理炉6と、ファン7と、ヒータ8と、を有している。
ガス供給ユニット2は、前述したアンモニアガス、窒素ガス、および、炭酸ガスを含む熱処理用ガスを、熱処理炉6へ向けて供給するために設けられている。本実施形態では、ガス供給ユニット2は、アンモニアガスと、窒素ガスと、炭酸ガスのそれぞれの流量(L/min)を個別に設定することが可能に構成されている。
ガス供給ユニット2は、アンモニアガス供給部11と、窒素ガス供給部12と、炭酸ガス供給部13と、集合管14と、を有している。
アンモニアガス供給部11は、供給管11aと、マスフローセンサ11bと、電磁弁11cと、を有している。
供給管11aは、アンモニアガスが充填されたタンク(図示せず)などのアンモニアガス供給源に接続されており、当該アンモニアガス供給源からのアンモニアガスが流れる。供給管11aに、マスフローセンサ11bと、電磁弁11cとが設けられている。
マスフローセンサ11bは、供給管11aにおけるアンモニアガスの流量を検出するために設けられている。マスフローセンサ11bは、電磁弁11cに対して、供給管11aにおける流れ方向の上流側に配置されている。マスフローセンサ11bは、たとえば、熱式流量センサであり、供給管11aを通過するアンモニアガスの流量を検出するように構成されている。マスフローセンサ11bは、アンモニアガスの検出流量を示す信号を、制御部5へ出力する。電磁弁11cは、供給管11aにおけるアンモニアガスの流量を調整するために設けられている。電磁弁11cは、たとえば、ソレノイドなどのアクチュエータを有しており、このアクチュエータの動作によって、当該電磁弁11cの開度が設定される。電磁弁11cは、制御部5によって制御される。より具体的には、電磁弁11cは、マスフローセンサ11bで検出されたアンモニアガスの流量と、制御部5で設定されたアンモニアガスの目標流量との差分がゼロとなるように動作する。
窒素ガス供給部12は、供給管12aと、マスフローセンサ12bと、電磁弁12cと、を有している。
供給管12aは、窒素ガスが充填されたタンク(図示せず)などの窒素ガス供給源に接続されており、当該窒素ガス供給源からの窒素ガスが流れる。供給管12aに、マスフローセンサ12bと、電磁弁12cとが設けられている。
マスフローセンサ12bは、供給管12aにおける窒素ガスの流量を検出するために設けられている。マスフローセンサ12bは、電磁弁12cに対して、供給管12aにおける流れ方向の上流側に配置されている。マスフローセンサ12bは、たとえば、熱式流量センサであり、供給管12aを通過する窒素ガスの流量を検出するように構成されている。マスフローセンサ12bは、窒素ガスの検出流量を示す信号を、制御部5へ出力する。電磁弁12cは、供給管12aにおける窒素ガスの流量を調整するために設けられている。電磁弁12cは、たとえば、ソレノイドなどのアクチュエータを有しており、このアクチュエータの動作によって、当該電磁弁12cの開度が設定される。電磁弁12cは、制御部5によって制御される。より具体的には、電磁弁12cは、マスフローセンサ12bで検出された窒素ガスの流量と、制御部5で設定された窒素ガスの目標流量との差分がゼロとなるように動作する。
炭酸ガス供給部13は、供給管13aと、マスフローセンサ13bと、電磁弁13cと、を有している。
供給管13aは、炭酸ガスが充填されたタンク(図示せず)などの炭酸ガス供給源に接続されており、当該炭酸ガス供給源からの炭酸ガスが流れる。供給管13aに、マスフローセンサ13bと、電磁弁13cとが設けられている。
マスフローセンサ13bは、供給管13aにおける炭酸ガスの流量を検出するために設けられている。マスフローセンサ13bは、電磁弁13cに対して、供給管13aにおける流れ方向の上流側に配置されている。マスフローセンサ13bは、たとえば、熱式流量センサであり、供給管13aを通過する炭酸ガスの流量を検出するように構成されている。マスフローセンサ13bは、炭酸ガスの検出流量を示す信号を、制御部5へ出力する。電磁弁13cは、供給管13aにおける炭酸ガスの流量を調整するために設けられている。電磁弁13cは、たとえば、ソレノイドなどのアクチュエータを有しており、このアクチュエータの動作によって、当該電磁弁13cの開度が設定される。電磁弁13cは、制御部5によって制御される。より具体的には、電磁弁13cは、マスフローセンサ13bで検出された炭酸ガスの流量と、制御部5で設定された炭酸ガスの目標流量との差分がゼロとなるように動作する。
集合管14は、各供給管11a〜13aに接続されており、供給管11a〜13aからのアンモニアガス、窒素ガスおよび炭酸ガスを、熱処理炉6内に導入するように構成されている。上記の構成により、アンモニアガス、窒素ガスおよび炭酸ガスを含む熱処理用ガスは、制御部5による制御によって、熱処理炉6へ供給される。
熱処理炉6は、被処理物100を収容する収容室として設けられている。熱処理炉6は、箱状に形成されており、被処理物100を出し入れすることが可能に構成されている。被処理物100を収容した状態の熱処理炉6内に、ガス供給ユニット2から熱処理用ガスが供給される。熱処理炉6内の熱処理用ガスおよび被処理物100は、ヒータ8によって加熱される。ヒータ8は、たとえば、電熱ヒータまたはガスバーナなどであり、熱処理炉6内に配置されている。
ヒータ8は、熱処理炉6内の被処理物100および加熱用ガスを、窒化処理に必要な温度(たとえば、約550℃〜約600℃)に加熱する。また、熱処理炉6内の雰囲気は、ファン7によって撹拌され、より均一な分布とされる。ファン7は、たとえば、遠心ファンである。ファン7は、熱処理炉6の内部の天井部分などに配置され、図示しない電動モータによって回転することで、熱処理炉6内の雰囲気(熱処理用ガス)を撹拌する。熱処理炉6内のガスは、ガスセンサ4によって検出される。
ガスセンサ4は、サンプリング管15と、熱処理炉6内に分解されず且つ他の物質と反応せずに残留しているアンモニアガスとしての残留アンモニアガスの濃度を検出するためのアンモニアセンサ(残留アンモニア濃度検出部)16と、熱処理炉6内の水素の濃度を検出するための水素センサ17と、を有している。
なお、残留アンモニア濃度C1とは、熱処理炉6内において、気体の全成分の合計の濃度(100%)に対するアンモニアガスの濃度の割合をいう。同様に、水素濃度C2とは、熱処理炉6内において、気体の全成分の合計の濃度(100%)に対する水素ガスの濃度の割合をいう。
サンプリング管15は、熱処理炉6内のガスを取り出すために設けられている。サンプリング管15の一端は、熱処理炉6に接続されている。サンプリング管15の他端は、熱処理炉6の外部に開放されており、サンプリング管15に導入されたガスを排出する。サンプリング管15の途中部に、アンモニアセンサ16、および、水素センサ17が設けられている。
アンモニアセンサ16は、たとえば、赤外線吸収式ガス分析計などを用いて形成されており、熱処理炉6内のアンモニアガスの濃度に応じた信号を出力するように構成されている。また、水素センサ17は、たとえば、熱線型半導体式センサなどを用いて形成されており、熱処理炉6内の水素ガスの濃度に応じた信号を出力するように構成されている。アンモニアセンサ16のアンモニアガス検出信号、および、水素センサ17の水素ガス検出信号は、制御部5へ出力される。
制御部5は、各ガス供給部11,12,13のマスフローセンサ11b,12b,13b、および、ガスセンサ4の少なくとも一方を用いて、熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1と、窒化ポテンシャルPと、を検出するように構成されている。そして、制御部5は、窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1に基づいて、熱処理炉6内への熱処理用ガス、特にアンモニアガスの供給態様を制御する。本実施形態では、制御部5は、窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1が所定の値となるように、各ガス供給部11,12,13の動作を制御する。
より具体的には、本実施形態では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1に基づいて、熱処理炉6へのアンモニアガスの流量比を設定するように構成されている。同様に、本実施形態では、制御部5は、窒化ポテンシャルPに基づいて、熱処理炉6へのアンモニアガスの流量(単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量)を設定するように構成されている。
制御部5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含むコンピュータを用いて形成されている。なお、制御部5は、PLC(Programmable Logic Controller)などであってもよい。
制御部5は、演算器5aと、調整計5bと、を有している。本実施形態では、演算器5a、および、調整計5bは、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行することにより実現されている。
演算器5aは、演算処理を行うために設けられている。この演算器5aは、各マスフローセンサ11b,12b,13bと、アンモニアセンサ16と、水素センサ17と、に接続されている。演算器5aは、アンモニアガスの流量、窒素ガスの流量、炭酸ガスの流量、熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1、および、熱処理炉6内の水素濃度C2を用いて演算処理を行う。演算器5aは、演算結果を基に、調整計5bを制御する。
調整計5bは、熱処理炉6への熱処理用ガスの各成分ガスの供給態様を調整するために設けられている。調整計5bは、各電磁弁11c,12c,13cに接続されており、これらの電磁弁11c,12c,13cの開度を設定するように構成されている。
なお、本実施形態では、熱処理用ガスの各成分ガス(アンモニアガス、窒素ガス、炭酸ガス)の流量を計測するマスフローセンサ11b,12b,13bと、残留アンモニア濃度C1を検出するアンモニアセンサ16と、水素濃度C2を検出する水素センサ17と、が設けられる形態を例に説明する。しかしながら、この通りでなくてもよく、下記(1)〜(3)の機構の少なくとも1つが設けられていればよい。
すなわち、(1)熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1および水素濃度C2を検出する機構(アンモニアセンサ16および水素センサ17)、(2)熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1および熱処理用ガスの各成分ガスの流量を計測する機構(アンモニアセンサ16およびマスフローセンサ11b,12b,13b)、(3)熱処理炉6内の水素濃度C2および熱処理用ガスの各成分ガスの流量を計測する機構(水素センサ17およびマスフローセンサ11b,12b,13b)の少なくとも1つが設けられていればよい。但し、上記(3)の構成においては、上記のセンサから得られたデータを用いて、演算器5aによって、残留アンモニア濃度C1が算出される。上記(1)〜(3)の何れかの構成と演算器5aとの組み合わせにおいて、演算器5aは、窒化ポテンシャルPを演算可能である。
本実施形態では、マスフローセンサ11b,12b,13bと、残留アンモニア濃度C1を検出するアンモニアセンサ16と、水素ガス濃度C2を検出する水素センサ17と、制御部5とが、窒化ポテンシャル検出部18を形成している。そして、窒化ポテンシャル検出部18の制御部5の演算器5aは、熱処理炉6内における残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPを検出する。
本実施形態では、演算器5aは、各マスフローセンサ11b,12b,13bと、アンモニアセンサ16と、水素センサ17のそれぞれから得られたデータを用いて、窒化ポテンシャルPを演算(算出)する。窒化ポテンシャルPは、以下の式によって演算される。
P=(残留アンモニア濃度C1×0.01)/{(水素濃度C2×0.01)1.5}
制御部5は、窒化ポテンシャルPの予め設定された目標値としての目標窒化ポテンシャルPTと、残留アンモニア濃度C1の予め設定された目標値としての目標残留アンモニア濃度C1Tと、を数値データとして記憶している。
そして、演算器5aおよび調整計5bは、検出された窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1と、対応する目標窒化ポテンシャルPTおよび目標残留アンモニア濃度C1Tとを一致させるために、各ガス供給部11,12,13からの対応するガスの流量を、個別に設定する。すなわち、調整計5bは、検出された窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1と、対応する目標窒化ポテンシャルPTおよび目標残留アンモニア濃度C1Tとの差分がゼロとなるように、各ガス供給部11,12,13の電磁弁11c,12c,13cの開度を設定する。
上記の構成を有する制御部5は、熱処理炉6における熱処理用ガスの各成分ガスの供給について、等流量比制御、および、等総流量制御を段階的(交互)に行うように構成されている。
上記の等流量比制御は、単位時間当たりにおける熱処理用ガスにおける各成分ガスの流量比を一定のままで、単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を変更(調整)することで、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか他方(本実施形態では、窒化ポテンシャルP)を変更(調整)する制御である。なお、各成分ガスの流量比とは、熱処理用ガスの総流量を100%としたときの各成分ガスの流量の割合をいう)。上記の等総流量制御は、単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を一定のままで、単位時間当たりの熱処理ガスにおける各成分ガスの流量比を変更(調整)することで、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか一方(本実施形態では、残留アンモニア濃度C1)を調整する制御である。
すなわち、制御部5は、アンモニアガスの流量比を変化させる制御と、熱処理用ガスの総流量を変化させる制御と、を交互に行うように構成されている。本実施形態では、制御部5は、熱処理用ガスの総流量の初期値、アンモニアガスの流量比の初期値、残留アンモニア濃度C1の目標値としての目標残留アンモニア濃度C1T、および、窒化ポテンシャルPの目標値としての目標窒化ポテンシャルPTに基づいて、アンモニアガスの流量比を変化させる制御と、熱処理用ガスの総流量を変化させる制御と、を行うように構成されている。
図2は、制御部5における制御に用いられる制御マップMを示す図である。図1および図2を参照して、制御部5は、制御マップMを数値データとして記憶しており、この制御マップMに基づいて、熱処理用ガスの各成分ガスの供給を制御する。この制御マップMは、残留アンモニア濃度C1を横軸とし、窒化ポテンシャルPを縦軸とするグラフで特定される。
制御マップMでは、等流量比線(等アンモニア流量比率特性)Rと、等総流量線(等総流量特性)Vと、が規定されている。
等流量比線Rは、熱処理用ガス中における各成分ガス(アンモニアガス、窒素ガス、および、炭酸ガス、特にアンモニアガス)について、熱処理用ガスにおける流量比を一定にした場合において、熱処理用ガスの総流量を変化させたときの残留アンモニア濃度C1と窒化ポテンシャルPとの関係(特性)を示している。等流量比線Rにおいては、熱処理用ガスの総流量の増加(減少)に伴い、窒化ポテンシャルPが増加(減少)する。制御部5は、窒化ポテンシャルPが所望の値よりも高い(または低い)と判定した場合、等流量比線Rに従って、熱処理用ガス中の各成分ガスの流量比を一定に維持しつつ、熱処理ガスの総流量を低下(または増加)させる。本実施形態では、等流量比線Rとして、複数(7つ)の等流量比線R1〜R7が設定されている。等流量比線R1〜R7は、たとえば、実験または計算によって、予め設定された線である。なお、等流量比線R1〜R7を総称していう場合、単に「等流量比線R」という。
等流量比線R1は、等流量比線R1〜R7のうち、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率が最も大きく設定されている。また、等流量比線R1は、等流量比線R1〜R7のうち、残留アンモニア濃度C1の最低値が最も小さく設定されている。
同様に、等流量比線Rn(nは、2〜7の何れか)は、等流量比線R1〜R7のうち、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率がn番目に大きく設定されている。また、等流量比線Rnは、等流量比線R1〜R7のうち、残留アンモニア濃度C1の最低値がn番目に小さく設定されている。
一方、等総流量線Vは、熱処理用ガス中における各成分ガス(アンモニアガス、窒素ガス、および、炭酸ガス)の総流量(熱処理用ガスの総流量)を一定にした場合における、残留アンモニア濃度C1と窒化ポテンシャルPとの関係(特性)を示している。等総流量線Vにおいては、アンモニアガスの流量比の増加(減少)に伴い、残留アンモニア濃度C1が増加(減少)する。
本実施形態では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が所望の値よりも高い(または低い)と判定した場合、等総流量線Vに従って、熱処理用ガスの総流量を一定に維持しつつ、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を低下(または増加)させる。本実施形態では、等総流量線Vとして、複数(5つ)の等総流量線V1〜V5が設定されている。等総流量線V1〜V5は、たとえば、実験または計算によって、予め設定されたグラフである。なお、等総流量線V1〜V5を総称していう場合、単に「等総流量線V」という。
等総流量線V1は、等総流量線V1〜V5のうち、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率が最も大きく設定されている。また、等総流量線V1は、等総流量線V1〜V5のうち、窒化ポテンシャルPの最低値が最も大きく設定されている。
同様に、等総流量線Vn(nは、2〜5の何れか)は、等総流量線V1〜V5のうち、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率がn番目に大きく設定されている。また、等総流量線Vnは、等総流量線V1〜V5のうち、窒化ポテンシャルPの最低値がn番目に大きく設定されている。
上記の等流量比線Rおよび等総流量線Vから明らかなように、全般的に、等流量比線Rにおける、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率は、等総流量線Vにおける、残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率よりも大きく設定されている。
より具体的には、等流量比線R1〜R7と等総流量線V1〜V5との交点のそれぞれにおいて、等流量比線R1〜R7における残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率は、等総流量線V1〜V5における残留アンモニア濃度C1の変化に対する窒化ポテンシャルPの変化率よりも、大きく設定されている。
前述したように、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を変化させる際、制御マップMにおける等総流量線Vに基づく等総流量制御を行う。この場合において、制御部5は、熱処理炉6への単位時間当たりの熱処理用ガスの総流量は一定にしつつ、熱処理炉6内への熱処理用ガスの各成分ガス(アンモニアガス)の流量比を変化させる。この場合、一例として、等総流量線Vにおいて、符号S3,S4間の線分で示しているように、熱処理用ガスの総流量は変化させずに、アンモニアガスの流量比を増加または減少させることで、残留アンモニア濃度C1を増加または減少させる。
一方、前述したように、制御部5は、窒化ポテンシャルPを変化させる際、制御マップMにおける等流量比線Rに基づく等流量比制御を行う。この場合において、本実施形態では、制御部5は、熱処理炉6への単位時間当たりの熱処理用ガスの各成分ガスの流量比は一定にしつつ、窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を変化させる。この場合、一例として、等流量比線Rにおいて、符号S1〜S2間の線分で示しているように、アンモニアガスの流量比は変化させずに、熱処理用ガスの総流量を増加または減少させることで、窒化ポテンシャルPを増加または減少させる。
本実施形態では、制御部5は、熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1が12%以上で且つ熱処理炉6内の窒化ポテンシャルPが0.75以上となるように、熱処理炉6へのアンモニアガスの供給を制御するように構成されている。より具体的には、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPが、対応する目標残留アンモニア濃度C1T=12%および目標窒化ポテンシャルPT=0.75となるように、目標残留アンモニア濃度C1Tおよび目標窒化ポテンシャルPTを設定し、熱処理炉6への熱処理用ガスの供給態様を制御する。熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1が12%未満であると、被処理物100の表面に形成される化合物の層(窒化層)のばらつきが大きくなってしまい、窒化処理品質が低下してしまう。同様に、熱処理炉6内の窒化ポテンシャルPが0.75未満であると、被処理物100の表面に形成される化合物の層(窒化層)のばらつきが大きくなってしまい、窒化処理品質が低下してしまう。より好ましくは、目標残留アンモニア濃度C1T=18%、目標窒化ポテンシャルPT=1.00である。これにより、窒化処理のばらつき(窒化処理品質の低下)をより確実に抑制しつつ、高価なアンモニアガスの使用量をより低減できる。
次に、窒化処理装置1における熱処理の一例、特に、制御部5による制御動作の一例を説明する。図3は、窒化処理装置1における熱処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。なお、フローチャートを参照して説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明をする。
図1〜図3を参照して、熱処理炉6内に被処理物100が配置された状態で、ヒータ8によって熱処理炉6内の雰囲気が加熱される。そして、この状態において、各ガス供給部11,12,13から熱処理炉6内へ向けて、熱処理用ガスの各成分ガスが供給される。この状態で、アンモニアセンサ16は、残留アンモニア濃度C1を測定する(ステップS1)。
次に、演算器5aは、残留アンモニア濃度C1が所定値a以上であるか否かを判定する(ステップS2)。演算器5aにおいて、残留アンモニア濃度C1が所定値a未満であると判定された場合(ステップS2でNO)、制御部5は、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を増加させる(ステップS3)。
具体的には、制御部5の演算器5aは、調整計5bに、アンモニアガスの流量比を増加させる指令信号を出力する。調整計5bは、アンモニアガス供給部11の電磁弁11cに、アンモニアガスの流量を増加させる指令を出力するとともに、窒素ガス供給部12の電磁弁12cに、窒素ガスの流量を減少させる指令を出力するとともに、炭酸ガス供給部13の電磁弁13cに、炭酸ガスの流量を減少させる指令を出力する。これにより、制御部5は、等総流量線Vに基づいて、熱処理用ガスの総流量は変化させずに、アンモニアガスの流量比を増加させる。なお、炭酸ガスの流量は、熱処理用ガスの総流量の数%程度の小さい値であるので、固定値としてもよい。炭酸ガスは、熱処理用ガスの総流量のたとえば5%程度の小さい値なので、熱処理雰囲気に影響を与えない。
一方、演算器5aにおいて、残留アンモニア濃度C1が所定値a以上であると判定された場合(ステップS2でYES)、演算器5aは、残留アンモニア濃度C1が所定値b以下であるか否かを判定する(ステップS4)。所定値bは、所定値aにたとえば定数(本実施形態では、0.5%)を加算した値である。所定値bは、所定値aに対する誤差範囲として捉えることができる。すなわち、ステップS4では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が実質的に所定値aに到達したか否かを判定している。
演算器5aにおいて、残留アンモニア濃度C1が所定値bより大きいと判定された場合(ステップS4でNO)、制御部5は、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を減少させる(ステップS5)。具体的には、制御部5の演算器5aは、調整計5bに、アンモニアガスの流量比を低下させる指令信号を出力する。調整計5bは、アンモニアガス供給部11の電磁弁11cに、アンモニアガスの流量を低下させる指令を出力するとともに、窒素ガス供給部12の電磁弁12cに、窒素ガスの流量を増加させる指令を出力するとともに、炭酸ガス供給部13の電磁弁13cに、炭酸ガスの流量を増加させる指令を出力する。なお、炭酸ガスの流量は、熱処理用ガスの総流量の数%程度の小さい値であるので、固定値としてもよい。これにより、制御部5は、等総流量線Vに基づいて、熱処理用ガスの総流量は変化させずに、アンモニアガスの流量比を低下させる。
上記の制御により、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が所定値a未満の場合に、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を増加させる(ステップS3)。また、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が所定値a以上b以下の場合、残留アンモニア濃度C1が実質的に所定値aに到達したとして、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を変化させない。一方、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が所定値bより大きい場合に、熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を減少させる(ステップS5)。
熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を設定するための処理(残留アンモニア濃度調整処理、ステップS1〜S5)の後、制御部5は、熱処理用ガスの総流量を設定するための処理(窒化ポテンシャル調整処理、ステップS6〜S10)を行う。
具体的には、制御部5の演算器5aは、残留アンモニア濃度C1および水素濃度C2の検出結果と、前述の式と、を用いて窒化ポテンシャルPを演算することで、窒化ポテンシャルPを検出する(ステップS6)。
次に、演算器5aは、窒化ポテンシャルPが所定値c以上であるか否かを判定する(ステップS7)。演算器5aにおいて、窒化ポテンシャルPが所定値c未満であると判定された場合(ステップS7でNO)、制御部5は、熱処理用ガスの総流量を増加させる(ステップS8)。具体的には、制御部5の演算器5aは、調整計5bに、熱処理用ガスの総流量を増加させる指令信号を出力する。調整計5bは、各ガス供給部11,12,13の電磁弁11c,12c,13cに、対応するガスの流量を増加させる指令を出力する。これにより、制御部5は、等流量比線Rに基づいて、熱処理用ガス中の各成分ガスの比率は変化させずに、熱処理用ガスの総流量を増加させる。
一方、演算器5aにおいて、窒化ポテンシャルPが所定値c以上であると判定された場合(ステップS7でYES)、演算器5aは、窒化ポテンシャルPが所定値d以下であるか否かを判定する(ステップS9)。所定値dは、所定値cにたとえば定数(本実施形態では、0.05)を加算した値である。所定値dは、所定値cに対する誤差範囲として捉えることができる。すなわち、ステップS9では、制御部5は、窒化ポテンシャルPが実質的に所定値cに到達したか否かを判定している。
演算器5aにおいて、窒化ポテンシャルPが所定値dより大きいと判定された場合(ステップS9でNO)、制御部5は、熱処理用ガスの総流量を低下させる(ステップS10)。具体的には、制御部5の演算器5aは、調整計5bに、熱処理用ガスの総流量を低下させる指令信号を出力する。調整計5bは、各ガス供給部11,12,13の電磁弁11c,12c,13cに、対応する各ガスの流量を低下させる指令を出力する。これにより、等流量比線Rに基づいて、熱処理用ガスの各成分ガスの流量比は変化させずに、熱処理用ガスの総流量を低下させる。
上記の制御により、制御部5は、窒化ポテンシャルPが所定値c未満の場合に、熱処理用ガスの総流量を増加させる(ステップS8)。また、制御部5は、窒化ポテンシャルPが所定値c以上d以下の場合、窒化ポテンシャルPが所定値cに実質的に到達したとして、熱処理用ガスの総流量を変化させない。一方、制御部5は、窒化ポテンシャルPが所定値dより大きい場合に、熱処理用ガスの総流量を減少させる(ステップS10)。
制御部5は、窒化ポテンシャル調整処理(ステップS6〜S10)の後、残留アンモニアガス濃度調整処理(ステップS1〜S5)を再び行う。すなわち、制御部5は、残留アンモニアガス濃度調整処理と、窒化ポテンシャル調整処理と、を交互に繰り返し行う。そして、ステップS3,S5,S8,S10では、窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1に基づいて制御部5が熱処理炉6内の熱処理用ガスの供給を制御する。
次に、上記のフローチャートに沿った処理における、より具体的な例を説明する。図4は、制御部5の制御における制御動作の一つの具体例を説明するための図である。なお、図4では、上記のマップMとは若干異なるマップに基づく制御を示す。しかしながら、図2に示すマップMと図4に示すマップMとは、具体的な数値が異なるのみであり、何れのマップを用いた制御であっても、窒化処理装置1では同様の処理が行われる。
図1、図3および図4を参照して、たとえば、制御部5による制御に先立ち、制御部5は、熱処理用ガスの総流量の初期値およびアンモニアガスの流量比の初期値を設定する。本実施形態では、熱処理用ガスの総流量の初期値=100L/min、および、アンモニアガス流量比の初期値=50%(点D1)に設定される。なお、熱処理用ガスの総流量の初期値およびアンモニアガス流量比の初期値は、制御部5によって一律に設定されてもよいし、熱処理開始直前における熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1および水素濃度C2に基づいて設定されてもよい。
そして、制御部5の演算器5aは、複数の等総流量線V’(V1’〜V3’)のうち、熱処理用ガスの総流量の初期値およびアンモニアガス流量比の初期値が含まれる等総流量線V1’を設定する。
次に、この場合において、制御部5は、残留アンモニア濃度C1が許容上限値bより大きいと判定する(ステップS4でNO)。これにより、制御部5は、等総流量線V1’に沿って、アンモニアガス流量比をたとえば、50%から40%(点D1から点D2)に低下させる(ステップS5)。その結果、熱処理炉6内における残留アンモニア濃度C1の調整が行われ、残留アンモニア濃度C1が低下する。
次に、制御部5の演算器5aは、検出された窒化ポテンシャルPを判定する(ステップS7,S9)。この場合、窒化ポテンシャルPは、所定値dより大きく、所望の範囲c≦P≦dの範囲に無い(ステップS9でNO)。よって、演算器5aは、上記の等総流量線V1’と交差し且つ測定された窒化ポテンシャルPに一番近い等流量比線R1’に沿って、熱処理用ガスの総流量を、100L/minからたとえば83L/min(点D2から点D3)に低下させる(ステップS10)。その結果、熱処理炉6内における窒化ポテンシャルPの調整が行われ、窒化ポテンシャルPが低下する。
次に、制御部5の演算器5aは、再度残留アンモニア濃度C1を判定する(ステップS1,S4)。この場合、残留アンモニア濃度C1は、所定値bより大きく、所望の範囲a≦C≦bの範囲に無い(ステップS4でNO)。よって、演算器5aは、上記の等流量比線R1’と交差し且つ測定された残留アンモニア濃度C1に一番近い等総流量線V2’に沿って、熱処理用ガスのアンモニアガスの流量比を、40%からたとえば35%(点D3から点D4)に低下させる(ステップS5)。その結果、熱処理炉6内における残留アンモニア濃度C1の調整が行われ、残留アンモニア濃度C1が低下する。
次に、制御部5の演算器5aは、再度、検出された窒化ポテンシャルPを判定する(ステップS7,S9)。この場合、窒化ポテンシャルPは、所定値dより大きく、所望の範囲c≦P≦dの範囲に無い(ステップS9でNO)。よって、演算器5aは、上記の等総流量線V2’と交差し且つ測定された窒化ポテンシャルPに一番近い等流量比線R2’に沿って、熱処理用ガスの総流量を、83L/minからたとえば75L/min(点D4から点D5)に低下させる(ステップS10)。その結果、熱処理炉6内における窒化ポテンシャルPの調整が行われ、窒化ポテンシャルPが低下する。
次に、制御部5の演算器5aは、再度残留アンモニア濃度C1を判定する(ステップS1,S4)。この場合、残留アンモニア濃度C1は、所定値bより大きく、所望の範囲a≦C≦bの範囲に無い(ステップS4でNO)。よって、演算器5aは、上記の等流量比線R2’と交差し且つ測定された残留アンモニア濃度C1に一番近い等総流量線V3’に沿って、熱処理用ガスのアンモニアガスの流量比を、35%からたとえば32.5%(点D5から点D6)に低下させる(ステップS5)。その結果、熱処理炉6内における残留アンモニア濃度C1の調整が行われ、残留アンモニア濃度C1が低下する。
次に、制御部5の演算器5aは、再度、窒化ポテンシャルPを判定する(ステップS7,S9)。この場合、窒化ポテンシャルPは、所定値dより大きく、所望の範囲c≦P≦dの範囲に無い(ステップS9でNO)。よって、演算器5aは、上記の等総流量線V3’と交差し且つ測定された窒化ポテンシャルPに一番近い等流量比線R3’に沿って、熱処理用ガスの総流量を、75L/minからたとえば67L/min(点D6から点D7)に低下させる(ステップS10)。その結果、熱処理炉6内における窒化ポテンシャルPの調整が行われ、窒化ポテンシャルPが低下する。
上記の制御処理により、残留アンモニア濃度C1は、約12%、窒化ポテンシャルPは、約0.75となった。
以上の次第で、本実施形態によると、制御部5は、検出された窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1の双方に基づいて、熱処理炉6内への熱処理用ガスの供給態様を設定する。すなわち、窒化処理においては、制御部5は、窒化ポテンシャルPに加えて、残留アンモニア濃度C1も考慮した上で、熱処理炉6内への熱処理用ガスの供給態様を設定する。これにより、被処理物100の窒化処理についての品質(窒化層の成分、厚みの均一性などの要求される仕様)を十分に満たしつつ、熱処理用ガスの使用量、特に、アンモニアガスの使用量をより低減することができる。
また、制御部5は、熱処理炉6内に残留しているアンモニアガスそのものの濃度などに基づいて、熱処理炉6への熱処理用ガス、特に、アンモニアガスの流量比を設定するように構成されている。これにより、制御部5は、より確実に窒化処理についての十分な品質を満たしつつ、熱処理炉6内へのアンモニアガスの供給量をより少なくする制御を行うことができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか一方を変化させる際、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量は一定にしつつ、熱処理炉6内への単位時間当たりのアンモニアガスの流量比を変化させるように構成されている。この構成によると、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか一方を変化させる際においても、熱処理炉6内への単位時間当たりの熱処理用ガスの総流量は変化しない。その結果、窒化処理に関する品質のばらつきを、より確実に抑制できる。
また、制御部5は、窒化ポテンシャルP、すなわち、窒化処理の進行度合いに基づいて、熱処理炉6への熱処理用ガスの総流量を設定できる。その結果、制御部5は、より確実に窒化処理についての十分な品質を満たしつつ、熱処理炉6内へのアンモニアガスの供給量をより少なくする制御を行うことができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか他方を変化させる際、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガス中の各成分ガスの流量比は一定にしつつ、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を変化させるように構成されている。この構成によると、制御部5が残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか他方を変化させる際において、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガス中の各成分ガスの流量比は変化しない。したがって、被処理物100の表面周辺において、窒化反応の態様が急激に変化することが抑制される。その結果、窒化処理に関する品質のばらつきを、より確実に抑制できる。以上の次第で、本実施形態によると、窒化処理の品質を落とすこと無く、熱処理用ガスの使用量をより低減することのできる窒化処理装置1を実現できる。
また、本実施形態によると、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか一方を変化させる際、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量は一定にしつつ、熱処理炉6内への単位時間当たりの熱処理用ガスにおけるアンモニアガスの流量比を変化させるように構成されている。また、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか他方を変化させる際、窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガス中の各成分ガスの流量比は一定にしつつ、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を変化させるように構成されている。この構成によると、窒化処理をより迅速に完了でき、且つ、熱処理用ガスの使用量をより低減することができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、アンモニアガスの流量比を変化させる制御と、熱処理用ガスの総流量を変化させる制御と、を交互に行うように構成されている。この構成によると、窒化処理をより迅速に完了でき、且つ、熱処理用ガスの使用量をより低減することができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、熱処理用ガスの総流量の初期値、アンモニアガスの流量比の初期値、残留アンモニア濃度C1の目標値C1T、および、窒化ポテンシャルPの目標値PTに基づいて、アンモニアガスの流量比を変化させる制御と、熱処理用ガスの総流量を変化させる制御と、を行うように構成されている。この構成によると、窒化処理をより迅速に完了させ、且つ、熱処理用ガスの使用量をより低減するための、よりきめ細かい制御を実現できる。
また、本実施形態によると、制御部5は、窒化ポテンシャルPを制御するために、所定の等流量比線Rに基づいて、熱処理炉6内への熱処理用ガスの総流量を設定可能に構成されている。そして、等流量比線Rは、残留アンモニア濃度C1を横軸とし且つ窒化ポテンシャルPを縦軸としたときのグラフにおいて、単位時間当たりにおける熱処理用ガス中におけるアンモニアガスの流量比を一定にしたときの特性を示す。この構成によると、制御部5は、予め設定された等流量比線Rに基づいて、熱処理炉6内に供給される熱処理用ガス、特にアンモニアガスの供給態様を設定する。これにより、制御部5は、より確実に窒化処理についての十分な品質を満たしつつ、熱処理炉6内へのアンモニアガスの供給量をより少なくする制御を行うことができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を制御するために、等総流量線Vに基づいて、熱処理炉6内への熱処理用ガス中のアンモニアガスの流量比を制御可能に構成されており、等総流量線Vは、単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を一定にしたときの特性を示す。この構成によると、制御部5は、予め設定された等総流量線Vに基づいて、熱処理炉6内に供給される熱処理用ガス、特にアンモニアガスの供給態様を設定する。これにより、制御部5は、より確実に窒化処理についての十分な品質を満たしつつ、熱処理炉6内へのアンモニアガスの供給量をより少なくする制御を行うことができる。
また、本実施形態によると、制御部5は、熱処理炉6内の残留アンモニア濃度C1が12%以上で且つ熱処理炉6内の窒化ポテンシャルPが0.75以上となるように熱処理炉6への熱処理用ガスの供給を制御するように構成されている。この構成によると、残留アンモニア濃度C1を最低で12%とし、且つ、窒化ポテンシャルPを最低で0.75とすることにより、窒化処理に関する品質を十分に確保しつつ、熱処理用ガス、特にアンモニアガスの使用量を、より低減できる
特に、本実施形態では、制御部5は、窒化ポテンシャルPおよび残留アンモニア濃度C1の双方に基づいて、熱処理炉6内への熱処理用ガスの供給量を設定する。すなわち、窒化処理においては、窒化ポテンシャルPに加えて、残留アンモニア濃度C1も考慮した上で、熱処理炉6内への熱処理用ガスの供給量が設定される。これにより、被処理物100の窒化処理についての品質(窒化層の成分、厚みの均一性などの要求される仕様)を十分に満たしつつ、熱処理用ガスの使用量、特にアンモニアガスの使用量を、より低減することができる。
より具体的には、制御部5は、予め設定された等流量比線Rおよび等総流量線Vに基づいて、熱処理炉6内に供給される熱処理用ガス、特にアンモニアガスの流量を設定する。その結果、制御部5は、窒化処理に関する品質を十分に確保しつつ、残留アンモニア濃度C1と窒化ポテンシャルPの双方について、より低減した状態を実現できる。すなわち、制御部5は、窒化処理において、熱処理用ガス、特にアンモニアガスの使用量を、より低減できる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
(1)上述の実施形態では、特に、制御対象(変化させられる対象としての残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルP)と、測定対象(制御対象を変化させるために測定される対象、すなわち、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルP)と、制御方法(総流量を変化させる方法と流量比を変化させる方法)について、図5に示すパターン1である例を説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。
たとえば、図5に示すパターン2,3,4の何れかが採用されてもよい。なお、以下では、熱処理炉6内への単位時間当たりにおける熱処理用ガスの総流量を、単に「総流量」という場合がある。また、熱処理炉6内への単位時間当たりの熱処理用ガスにおけるアンモニアガスの流量比を、単に「流量比」という場合がある。
パターン1では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を変化させる際、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、総流量は一定にしつつ流量比を変化(パターンA)させる。このパターン1では、制御部5は、窒化ポテンシャルPを変化させる際、窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、流量比は一定にしつつ、総流量を変化(パターンB)させる。
パターン2では、制御部5は、窒化ポテンシャルPを変化させる際、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、総流量は一定にしつつ流量比を変化させる。このパターン2では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を変化させる際、窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、流量比は一定にしつつ、総流量を変化させる。
パターン3では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を変化させる際、窒化ポテンシャル検出部18で検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、総流量は一定にしつつ流量比を変化させる。このパターン3では、制御部5は、窒化ポテンシャルPを変化させる際、アンモニアセンサ16により検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、流量比は一定にしつつ、総流量を変化させる。
パターン4では、制御部5は、窒化ポテンシャルPを変化させる際、窒化ポテンシャル検出部18で検出された窒化ポテンシャルPに基づいて、総流量は一定にしつつ流量比を変化させる。このパターン4では、制御部5は、残留アンモニア濃度C1を変化させる際、アンモニアセンサ16により検出された残留アンモニア濃度C1に基づいて、流量比は一定にしつつ、総流量を変化させる。
上記パターン1〜4を総括すると、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか一方を変化させる際、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度Pおよび窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPの何れか一方に基づいて、総流量は一定にしつつ、流量比を変化させるように構成される。さらに、制御部5は、残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャルPの何れか他方を変化させる際、アンモニアセンサ16で検出された残留アンモニア濃度C1および窒化ポテンシャル検出部18により検出された窒化ポテンシャルPの何れか他方に基づいて、流量比は一定にしつつ、総流量を変化させるように構成される。
(2)上述の実施形態では、熱処理用ガスを用いた軟窒化処理について説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、窒化処理装置1は、窒化処理、酸窒化処理、浸炭窒化処理など、他の窒化処理に用いられることもできる。
<試験1>
上記の実施形態で説明した構成の窒化処理装置を、実施例として作製した。また、制御部による窒化ポテンシャルの制御および残留アンモニア濃度の制御の双方が行われない点以外は実施例と同様の構成の窒化処理装置を、比較例として作製した。
そして、実施例と比較例のそれぞれを用いて、被処理物の窒化処理を行った。このときにおける、窒化処理開始からの時間(処理時間)と窒化ポテンシャルとの関係、および、処理時間と残留アンモニア濃度との関係について、測定した。結果を図6に示す。
図6のグラフにおいて、横軸は、処理時間を示している。また、縦軸は、窒化ポテンシャルおよび残留アンモニア濃度を示している。図6から明らかなように、処理時間の経過に従い、窒化ポテンシャルが低下している。しかしながら、比較例においては、窒化処理開始の初期段階における窒化ポテンシャルの低下率が緩やかであるのに対して、実施例では、当該窒化ポテンシャルの低下率が顕著に大きい。そして、処理時間が90分の時点で、比較例における窒化ポテンシャルは、1.5近くの大きな値であるのに対して、実施例における窒化ポテンシャルは、約1.0と、十分に小さい値となっている。
また、比較例においては、処理時間の経過に伴い、残留アンモニア濃度が次第に大きくなっている。特に、比較例においては、経過時間が30分までの間において、残留アンモニア濃度の上昇率が大きく、また、経過時間が30分以降においても、残留アンモニア濃度が次第に上昇している。そして、経過時間が90分の時点で、残留アンモニア濃度は、約30%にまで到達している。一方、実施例においては、経過時間が30分までの間において、残留アンモニア濃度の上昇率が小さく、また、経過時間が30分以降において、残留アンモニア濃度の上昇率は、顕著に小さくなっている。そして、経過時間が90分の時点で、残留アンモニア濃度は、20%未満の一定値にほぼ収束している。
以上の次第で、実施例は、窒化処理において、窒化ポテンシャルおよび残留アンモニア濃度を、より小さくできることにより、熱処理用ガス、特に、アンモニアガスの使用量をより低減できることが実証された。
<試験2>
次に、比較例を用いて被処理物に窒化処理を施すことで、比較参考例1〜8を作製した。また、実施例を用いて被処理物に窒化処理を施すことで、実施参考例1〜16を作製した。
比較参考例1〜8を作製する際の条件は、窒化ポテンシャルが0.75未満である条件、および、残留アンモニア濃度が12%未満である条件の少なくとも一方を満たしている。一方、実施参考例1〜16を作製する際の条件は、窒化ポテンシャルが0.75以上で、且つ、残留アンモニア濃度が12%以上である条件を満たしている。
なお、比較参考例1〜8および実施参考例1〜16について、窒化ポテンシャルおよび残留アンモニア濃度は、以下の通りである。
窒化ポテンシャル;残留アンモニア濃度
比較参考例1 0.50;12%
比較参考例2 0.50;18%
比較参考例3 0.50;24%
比較参考例4 0.50;30%
比較参考例5 0.75; 6%
比較参考例6 1.00; 6%
比較参考例7 1.25; 6%
比較参考例8 1.50; 6%
実施参考例1 0.75;12%
実施参考例2 0.75;18%
実施参考例3 0.75;24%
実施参考例4 0.75;30%
実施参考例5 1.00;12%
実施参考例6 1.00;18%
実施参考例7 1.00;24%
実施参考例8 1.00;30%
実施参考例9 1.25;12%
実施参考例10 1.25;18%
実施参考例11 1.25;24%
実施参考例12 1.25;30%
実施参考例13 1.50;12%
実施参考例14 1.50;18%
実施参考例15 1.50;24%
実施参考例16 1.50;30%
比較参考例1〜8および実施参考例1〜16のそれぞれについて、化合物層(窒化層)の厚みのばらつき量Rを測定した。そして、R≦2μmである場合の評価を◎とし、2μm<R<4μmである場合の評価を○とし、4μm≦Rである場合の評価を×とした。結果を
表1に示す。
表1から明らかなように、比較参考例1〜8は、何れも×の結果であり、窒化層の厚みのばらつき量Rが大きく、窒化層表面の処理品質が良くなかった。一方、実施参考例1〜16は、○または◎の結果であり、窒化層の厚みのばらつき量Rが小さく、窒化層表面の処理品質が良いことが実証された。特に、実施参考例6〜8,10〜12,14〜16は、◎の評価であり、窒化層の厚みのばらつき量Rが極めて小さく、窒化層表面の処理品質が極めて良いことが実証された。すなわち、窒化ポテンシャルが0.75以上で且つ残留アンモニア濃度が12%であることが、窒化処理の品質を高くするのに有効であり、特に、窒化ポテンシャルが1.00以上で且つ残留アンモニア濃度が18%以上であることが、窒化処理の品質を高くするのに極めて有効であることが実証された。
また、表2は、窒化処理にかかる熱処理用ガスの費用について示している。
表2では、窒化処理の品質において◎の評価を受けた実施参考例6〜8,10〜12,14〜16について示している。
表2に示されている数値は、比較参考例(比較参考例1〜8の何れか1つ)を作製するために必要な熱処理用ガスの費用を100とした場合における、実施参考例を作製するために必要な熱処理用ガスの費用を示している。ここでは、アンモニアガス:窒素のガスの量の割合を6:1としている。表2から明らかなように、実施参考例6〜8,10〜12,14〜16のうち、実施参考例16以外の作製に必要な熱処理用ガスの費用は、比較参考例の作製費用よりも安い。特に、実施参考例6の作製に必要な熱処理用ガスの費用は、比較参考例の作製に必要な熱処理用ガスの費用の半分で済んだ。また、実施参考例16であっても作製に必要な熱処理用ガスの費用は、比較参考例の作製に必要な熱処理用ガスの費用と同じである。以上より、実施例において、窒化層の厚みのばらつきが小さいことにより、高品質の窒化処理を行うことができ、しかも、安価に窒化処理を実現可能であることが実証された。