以下、図1〜図4を用いて、スリップフォーム装置及びスリップフォーム工法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、スリップフォーム装置を用いて、石炭サイロの筒体など円筒形状のRC(鉄筋コンクリート)構造物を構築する場合を想定する。
図1に示すように、スリップフォーム装置10は、各種計測部(71〜73,75,76)、コンピュータ端末80を備えている。コンピュータ端末80は、スリップフォーム装置10の後述する油圧ジャッキ15、位置調整モータ55及び勾配調整モータ65を制御する。コンピュータ端末80により、スリップフォーム装置10の制御を行なうためのシステム構成の詳細については後述する。
ここでは、まず、図2を用いて、スリップフォーム装置10の構造について説明する。
図2(a)に示すように、本実施形態のスリップフォーム装置10は、内周側の型枠11と、この型枠11に対向する外周側の型枠12と、これらを支持する複数のヨーク20と、複数の油圧ジャッキ15とを備えている。型枠11,12は、構築する筒体100の形状に合わせて、それぞれ円弧形状を有している。複数の型枠11を連接して構成した円周と、複数の型枠12を連接して構成した円周とにより、型枠11,12の間に円筒形状の石炭サイロの筒体100を形成する。この型枠11,12の詳細については後述する。ここで、図2(a)に示す筒体100は、形成途中の石炭サイロ(コンクリート構造物)である。この筒体100は、内側と外側に配置された格子状の鉄筋101を内蔵したコンクリートで構成される。更に、この筒体100には、後述するロッド110が、鉛直に建て込まれている。
各ヨーク20は、形成途中の筒体100を跨ぐように配置されており、門型フレームを備えている。門型フレームは、内周側の固定柱材21と、外周側の固定柱材22と、これら固定柱材21,22を連結する連結梁23,25とを備えている。上段の連結梁23の上面には、内周側に内側上段足場31が固定され、外周側に外側上段足場32が固定されている。
また、連結梁23よりも下方に配置された連結梁25の中央には、移動機構としての油圧ジャッキ15が固定されている。油圧ジャッキ15には、筒体100の上端から上方に突出しているロッド110が挿通されている。この油圧ジャッキ15は、ロッド110を締め付けている。そして、油圧ジャッキ15を駆動すると、ロッド110に対して反力が発生し、油圧ジャッキ15が、ロッド110の鉛直方向に上昇し、スリップフォーム装置10を揚重する。なお、ロッド110は、所定長さ(例えば、本実施形態では6m)の鋼管を、順次、継ぎ足して構成されており、筒体100の上端から突出する高さまで延在されている。
また、内周側の固定柱材21には、内側中段足場33が固定されている。更に、外周側の固定柱材22には、外側中段足場34が固定されている。また、内周側の固定柱材21の下端には、吊部材35を介して内側下段足場37が固定されている。更に、外周側の固定柱材22の下端には、吊部材36を介して外側下段足場38が固定されている。
更に、各固定柱材21,22には、型枠調整装置40が取り付けられている。固定柱材21の型枠調整装置40は、内周側の可動柱材41を備え、固定柱材22の型枠調整装置40は、外周側の可動柱材42を備える。固定柱材21に取り付けられた型枠調整装置40と、固定柱材22に取り付けられた型枠調整装置40とは、筒体100を介して向かい合って対称に設置されている。以下、可動柱材42を有した外周側の型枠調整装置40について説明し、可動柱材41を有した内周側の型枠調整装置40については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図2(b)に示すように、型枠調整装置40は、固定柱材22よりも筒体100側に配置されている。型枠調整装置40は、水平位置調整機構部50と勾配調整機構部60とを備えている。更に、固定柱材22には、型枠調整装置40の調整量を測定する型枠位置計測部75が取り付けられている。型枠位置計測部75は、例えば、可動柱材42までの距離をレーザで測定するレーザ測定器を用いることができる。また、型枠12には、勾配調整機構部60の調整量を測定する型枠勾配計測部76が取り付けられている。
水平位置調整機構部50は、可動柱材42を水平移動させる。この水平位置調整機構部50は、スリップフォーム装置10の上昇時に型枠12に作用する摩擦力(鉛直荷重)に耐え得るように構成されている。本実施形態では、可動柱材42をヨーク20の連結梁25に摺動可能に取り付けることにより、鉛直荷重を連結梁25に負担させている。この水平位置調整機構部50の構成については後述する。
可動柱材42の中央には、支持材44の上端部が、接合部材43を介して、ピン接合により取り付けられている。支持材44の下部には、支持材44の勾配(傾斜)を調整する勾配調整機構部60が設けられている。この勾配調整機構部60の構成については後述する。
支持材44の筒体100側には、上下に対向した対となる2つの腹起し取付部材45a,45bが、支持材44の上部と下部に2段で、離散して配置されている。腹起し取付部材45a,45bの間には、腹起し材46,47がそれぞれ遊嵌されている。腹起し材46,47は、筒体100の曲率に対応して湾曲形成されており、例えば、円形断面の鋼管(丸パイプ)を曲げ加工して形成されている。また、型枠12の支持材44側には、挟持部材48a,48bが取り付けられている。挟持部材48a,48bは、腹起し材46,47を遊嵌するように配置されている。
型枠12は、筒体100の壁面の形状に沿うように湾曲形成されており、例えば、いわゆるメタルフォームを用いる。型枠12は、隣の型枠12と隣接する縁部の側に重ね代を設けてある。なお、この重ね代が受けるコンクリート圧はわずかであり、例えば3mm程度の厚みの薄板で形成される。また、この重ね代の大きさは変更可能になっている。そして、円周状に配置された複数の型枠12を径外方向や径内方向に移動させることにより、周長方向の長さを変更する。
次に、型枠調整装置40の水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60の構成について説明する。ここでは、外側の型枠調整装置40に含まれる水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60について説明する。型枠調整装置40の水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60によって、支持材44が取り付けられた可動柱材42の固定柱材22に対する水平方向の相対位置及び支持材44の勾配を変更することにより、筒体100の形状を変更させたり、筒体100の厚みを変更や修正したりする。
水平位置調整機構部50は、送りねじ51と、送りねじ51に螺合されたナット52及びギア53と、位置調整モータ55とを備えている。送りねじ51の両端部は、可動柱材42及び固定柱材22に回転可能に支持されている。ナット52は、固定柱材22の可動柱材42側の表面に固着されている。ギア53は、可動柱材42の固定柱材22側に配置されている。
位置調整モータ55は、取付部材56を介して、可動柱材42の固定柱材22側の表面に取り付けられている。位置調整モータ55の回転軸の先端には、ギアが設けられている。この位置調整モータ55のギアは、送りねじ51のギア53に噛み合っている。本実施形態では、送りねじ51のギア53の歯数が位置調整モータ55のギアの歯数よりも多く、位置調整モータ55の回転数は減速されて送りねじ51に伝達される。位置調整モータ55の回転軸が回転されると、ギア53を介して送りねじ51が回転する。そして、この送りねじ51の回転力が、固定柱材22に固着されたナット52において直進力に変換されることにより、固定柱材22と可動柱材42との相対距離を変更することができる。本実施形態では、水平位置調整機構部50は、型枠12の全面が、筒体100から剥離可能な位置以上に、可動柱材42が水平移動するように可動範囲が設定されている。
ここで、具体的に、筒体100の壁厚の目標値600mm、型枠位置計測部75で計測した壁厚609mm(壁厚調整量9mm)の場合の位置調整モータ55の制御量を説明する。送りねじ51の1回転あたり型枠移動量6mmであり、位置調整モータ55とギア53の減速比を2.4と設定した場合、位置調整モータ55は、3.6(=9/6×2.4)回転を目標に制御する。
勾配調整機構部60は、送りねじ61と、送りねじ61に螺合されたナット62及びギア63と、勾配調整モータ65とを備えている。送りねじ61の両端部は、可動柱材42と、支持材44の下部に回転可能に支持されている。ナット62は、固定柱材22のロッド110側の表面に固着されている。ギア63は、可動柱材42の固定柱材22側に配置されている。
勾配調整モータ65は、位置調整モータ55と同様に、取付部材66を介して、可動柱材42の固定柱材22側の表面に取り付けられている。勾配調整モータ65の回転軸の先端に設けられたギアは、送りねじ61のギア63に噛み合っている。本実施形態では、送りねじ61のギア63の歯数が勾配調整モータ65のギアの歯数よりも多く、勾配調整モータ65の回転数は減速されて送りねじ61に伝達される。勾配調整モータ65の回転軸が回転されると、ギア63を介して送りねじ61が回転する。そして、この送りねじ61の回転力が、可動柱材42に固着されたナット62において直進力に変換されることにより、可動柱材42と、支持材44の下部との相対距離を変更することができる。これにより、接合部材43と支持材44とのピン接合部分を支点として、支持材44が回転し、支持材44の勾配(傾斜)を変更することができる。なお、各モータ(55,65)をそれぞれ覆うように、図示しない屋根が可動柱材42に取り付けられている。
次に、図1及び図3を用いて、スリップフォーム装置10の制御を行なうためのシステム構成について説明する。
図3(a)に示すように、スリップフォーム装置10には、ヨーク20上に指令室c2が設けられている。この指令室c2には、コンピュータ端末80が設置されている。
図1に示すように、コンピュータ端末80は、高さ計測部71、偏位計測部72、ヨークレベル計測部73、型枠位置計測部75、型枠勾配計測部76から取得した計測値を取得する。コンピュータ端末80は、これらの計測値に応じて、各ヨーク20の油圧ジャッキ15、型枠調整装置40の位置調整モータ55及び勾配調整モータ65を制御する。
図3(a)に示すように、高さ計測部71は、ヨーク20に設置したレーザ距離計71aと、このレーザ距離計71aに対向した地上面に設置された反射板71bとを備えている。具体的には、レーザ距離計71aから光波(レーザ光)を発し、反射板71bに反射した光波を受光することによって、レーザ距離計71aが取り付けられたヨーク20の高さを計測する。本実施形態では、任意の1つのヨーク20に対して高さ計測部71が設けられており、この高さ計測部71の計測結果をスリップフォーム装置10の高さの代表値として用いる。
なお、大口径の石炭サイロなど、スリップフォーム装置10の平面形状が大きい場合には、複数のヨーク20に高さ計測部71を設置し、各高さ計測部71でスリップフォーム装置10の高さを測定するようにしてもよい。この場合、すべてのヨーク20に高さ計測部71を取り付けることにより、ヨークレベル計測部73の役割を兼ねさせることもできる。この場合、ヨークレベル計測部73を省略することができる。
また、高さ計測部71には、レーザ距離計71aと反射板71b以外の機器を用いることもできる。例えば、光波距離計と反射プリズムとを用いてもよい。また、霧発生によりレーザ光の遮断が予測される場合などには、エンコーダ等の他の計測方法を用いてもよい。
偏位計測部72は、レーザ受光ターゲット72aと、地盤面に設置されたレーザ自動鉛直器72bとから構成される。図3(b)及び図3(c)に示すレーザ受光ターゲット72a上のレーザ光L1,L2の位置は、指令室c2のコンピュータ端末80にリアルタイムに伝送される。偏位計測部72は、スリップフォーム工事開始時までに、スリップフォーム装置10の中心SCから180度対称な2箇所に設置される。そして、各レーザ受光ターゲット72a上のレーザ光の位置を原点L0として、コンピュータ端末80に記憶させる。その後、コンピュータ端末80は、各レーザ受光ターゲット72a上でのレーザ光L1,L2の移動量を演算し、スリップフォーム装置10全体の水平移動量や回転量としてディスプレイ上に表示する。
ここで、図3(b)を用いて、スリップフォーム装置10に水平移動が生じた場合を説明する。例えば、スリップフォーム装置10の中心SCから各レーザ受光ターゲット72aは東西に設置され、原点L0までの距離を10mと想定する。ここで、スリップフォーム装置が回転することなく、南に5mm,西に10mm移動したと仮定する。スリップフォーム装置10上の作業員から見ると、2箇所のレーザ受光ターゲット72aは、どちらもレーザ光L1,L2が北に5mm、東に10mm移動しているように見える。一方、レーザ自動鉛直器72bは地上に設置されているため、レーザ光L1,L2の光源位置は不動である。この場合、コンピュータ端末80は、レーザ受光ターゲット72a上のレーザ光L1,L2の移動量の分だけ、逆方向にスリップフォーム装置10の移動を検知する。
次に、図3(c)を用いて、スリップフォーム装置10に回転が生じた場合を説明する。この場合も、水平移動と同様に、スリップフォーム装置10の中心SCから各レーザ受光ターゲット72aの原点L0までの距離は、東西に10mと仮定する。更に、各レーザ光L1,L2が原点L0からそれぞれ南北に5mm移動したと仮定する。すなわち、スリップフォーム装置10は水平移動することなく、反時計方向に約0.029度(=360度×0.5/〔2×π×1000〕)だけ回転した状態を示す。スリップフォーム装置10上の作業員には、2箇所のレーザ受光ターゲット72aにおいて各レーザ光L1,L2が南北にそれぞれ5mm移動しているように見える。この場合、コンピュータ端末80は、レーザ受光ターゲット72a上のレーザ光L1,L2の回転量の分だけ逆方向にスリップフォーム装置10の回転を検知する。
スリップフォーム装置において水平移動と回転とが同時に生じた場合、コンピュータ端末80は、先述の水平移動及び回転についての計算を同時に行なうことで、水平移動と回転を特定する。
なお、大口径の石炭サイロなどではスリップフォーム装置10の真円度を監視する目的で、2組の偏位計測部72を90度ずらした位置に配置することも可能である。
更に、1組の偏位計測部72で使用する2台のレーザ受光ターゲット72aは、スリップフォーム装置10の中心SCから正確に180度対称の位置である必要はない。この場合には、コンピュータ端末80は、レーザ受光ターゲット72aの初期位置を考慮して、移動量や回転量を算出する。
また、ヨークレベル計測部73は、スリップフォーム装置10の各ヨーク20に取り付けられており、各ヨーク20の高さを測定する。コンピュータ端末80は、ヨークレベル計測部73から取得した各ヨーク20の高さに基づいて、各ヨーク20の高さの差を出力する。これにより、スリップフォーム装置10の傾きや、特定のヨーク20の油圧ジャッキ15の不調などを把握することができる。
更に、スリップフォーム装置10の各ヨーク20には、内周側及び外周側の型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76を備えている。本実施形態においては、型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76として、アブソリュート型やインクリメンタル型のエンコーダを用いることができる。これら型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76の計測値によって、型枠11(12)の水平位置及び勾配を計測することができる。具体的には、型枠位置計測部75は、固定柱材21(22)と可動柱材41(42)との距離を計測し、この計測値をコンピュータ端末80に供給する。型枠勾配計測部76は、可動柱材41(42)の下部と型枠11(12)の下部とを計測し、この計測値をコンピュータ端末80に供給する。
図1に示すコンピュータ端末80は、図示しない入力部や出力部を備えている。入力部は、キーボードやポインティングデバイスを備えている。出力部は、ディスプレイを備えている。
更に、コンピュータ端末80は、制御部81、設計情報記憶部82及びモータ情報記憶部83を備えている。
制御部81は、CPU、RAM、ROM等から構成された制御手段として機能し、後述する処理(計測値取得段階、制御量算出段階、機構制御段階等を含む処理)を行なう。このための制御プログラムを実行することにより、制御部81は、計測値取得部811、制御量算出部812、機構制御部813等として機能する。
計測値取得部811は、高さ計測部71、偏位計測部72及びヨークレベル計測部73からの計測値を取得し、スリップフォーム装置10の現在の高さ、水平位置(回転)及び傾きを特定する。更に、計測値取得部811は、各ヨーク20の内周側及び外周側の型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76からの計測値を取得し、各ヨーク20の型枠11,12の現在の水平位置及び勾配を特定する。
制御量算出部812は、特定したスリップフォーム装置10の現在の高さに応じた設計値を設計情報記憶部82から取得する。制御量算出部812は、各ヨーク20の位置を特定する情報を記憶している。そして、制御量算出部812は、取得した設計値と計測した各ヨーク20の型枠11,12の水平位置及び勾配とを比較して、設計値となるような各ヨーク20の内周側及び外周側の型枠調整装置40の目的量を算出する。本実施形態では、目的量として、可動柱材41,42の移動量と型枠11,12の勾配を用いる。更に、制御量算出部812は、目的量となるように、各水平位置調整機構部50の位置調整モータ55及び勾配調整機構部60の勾配調整モータ65の制御量(モータの回転量)を算出する。更に、制御量算出部812は、制御結果についての許容範囲に関するデータを記憶している。本実施形態では、筒体100の半径に対して「−10mm」〜「+25mm」を許容範囲として記憶している。
機構制御部813は、各ヨーク20の油圧ジャッキ15、水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60を制御する。本実施形態では、機構制御部813は、油圧ジャッキ15の停止及び駆動を制御する。この機構制御部813は、油圧ジャッキ15を停止したときの停止時刻を記憶するメモリを備えている。更に、機構制御部813は、油圧ジャッキ15が長時間停止したと判定するための基準時間(例えば6時間)に関するデータを記憶している。また、機構制御部813は、基準時間以上で停止した後に、油圧ジャッキ15を再稼働する場合には、同時に複数の型枠(以下、ブロックと呼ぶ)を筒体100から剥離する処理を実行する。この処理において、具体的には、機構制御部813は、モータ(55,56)を駆動して、剥離対象ブロックの内周側の型枠11又は外周側の型枠12を水平方向に移動させる。この場合、機構制御部813は、型枠11,12の当接面が筒体100から剥離する位置まで、型枠11又は型枠12を移動させる。そして、このブロックの型枠11,12を剥離できた場合には、モータ(55,65)を逆回転方向に駆動して、剥離した型枠11,12を筒体100に当接させる。本実施形態では、ブロックとして、筒体100の内周側及び外周側に配置された複数の型枠11,12を、4つのブロックに分ける。機構制御部813は、各ブロックに属する内周側の型枠11及び外周側の型枠12を識別する識別情報と、剥離するブロックの順番に関する情報を記憶している。本実施形態では、機構制御部813は、4つのブロックを右回りに剥離する順番に関する情報を記憶している。
設計情報記憶部82には、スリップフォーム装置10が形成する筒体100の設計情報が記憶されている。本実施形態では、設計情報として、筒体100の高さに関連付けて、形成する筒体100の形状及び筒体100の厚みが記憶されている。ここでは、筒体100が建設される地面を高さの基準位置とし、特定のヨーク20を基準位置とする。
モータ情報記憶部83には、各モータ(55,65)の動作を管理するためのモータ管理情報が記録されている。このモータ管理情報には、モータ識別情報に関連付けられたモータ特性情報が記憶されている。各モータ(55,65)の特性を予め計測しておき、モータの取付位置を決定した場合に、各ヨーク20に関連付けてモータ特性が記録される。
モータ識別情報としては、各モータ(55,56)が取り付けられた取付位置に関する情報が記録されている。この識別情報には、取り付けられたヨーク20を特定する識別子、内周側又は外周側を特定する識別子、位置調整モータ55及び勾配調整モータ65を特定する識別子に関する情報が含まれる。
モータ特性情報としては、モータ(55,65)の回転量に応じた移動量(可動柱材41,42の移動量又は型枠11,12の移動量)が記憶されている。
次に、図4を用いて、以上のように構成されたスリップフォーム装置10を用いたスリップフォーム工法について説明する。
まず、コンピュータ端末80の制御部81は、現在高さ、水平位置及び傾きの取得処理を実行する(ステップS1)。具体的には、制御部81の計測値取得部811は、高さ計測部71、偏位計測部72及びヨークレベル計測部73において計測した計測値データを取得する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、終了位置か否かの判定処理を実行する(ステップS2)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、高さ計測部71から取得した現在の高さが、設計情報の最後の高さ(筒体100の最高値)となった場合には、終了位置に到達したと判定する。ここで、終了位置に到達したと判定した場合(ステップS2において「YES」の場合)には、スリップフォーム装置10の制御処理を終了する。
一方、終了位置でないと判定した場合(ステップS2において「NO」の場合)には、コンピュータ端末80の制御部81は、設計値の取得処理を実行する(ステップS3)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、取得した現在の高さに対応する設計情報を、設計情報記憶部82から取得する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、型枠の水平位置・勾配の決定処理を実行する(ステップS4)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、取得した設計情報に対応する各型枠11,12の目標水平位置及び目標勾配値を特定して、仮記憶する。次に、制御量算出部812は、各ヨーク20の内周側及び外周側の型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76において計測した計測値データを取得する。次に、制御量算出部812は、取得した計測値データから現在の型枠11,12の水平位置及び勾配を算出する。そして、制御量算出部812は、各型枠11,12の目標水平位置及び目標勾配と、現在の各型枠11,12の水平位置及び勾配値を比較し、目標水平位置及び目標勾配となるような水平調整量及び勾配調整量を算出する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、決定した水平位置・勾配に対応するモータ回転量の算出処理を実行する(ステップS5)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、モータ情報記憶部83から、各モータ(55,65)の特性情報を取得する。制御量算出部812は、各ヨーク20の各モータ(55,65)の特性情報に基づいて、水平位置調整量、勾配調整量に対応した各モータ(55,65)のモータ回転量を算出する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、算出したモータ回転量によるモータ駆動処理を実行する(ステップS6)。具体的には、制御部81の機構制御部813は、各モータ(55,56)において、ステップS5において算出したモータ回転量だけ駆動する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、計測値の取得処理を実行する(ステップS7)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、各ヨーク20の内周側及び外周側の型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76において計測した計測値データを取得する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、モータ制御した結果が許容範囲内か否かの判定処理を実行する(ステップS8)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、取得した計測値データから現在の型枠11,12の水平位置及び勾配値を算出する。次に、制御量算出部812は、仮記憶している目標水平位置及び目標勾配値と、現在の型枠11,12の水平位置及び勾配値との差分を算出する。そして、この差分が記憶している許容範囲内か否かを判定する。
ここで、許容範囲内でないと判定した場合(ステップS8において「NO」の場合)、コンピュータ端末80の制御部81は、調整するモータ回転量の算出処理を実行する(ステップS9)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、モータ情報記憶部83から、各モータ(55,65)の特性情報を取得する。次に、制御量算出部812は、各ヨーク20の各モータ(55,65)の特性情報に基づいて、算出した差分に対応する水平位置調整量、勾配調整量に対応した各モータ(55,65)のモータ回転量を算出する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、算出したモータ回転量によるモータ駆動処理を実行する(ステップS10)。具体的には、制御部81の機構制御部813は、ステップS6と同様に、算出したモータ回転量だけ各モータ(55,65)を駆動する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、計測値の取得処理を実行する(ステップS11)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、ステップS7と同様に、各ヨーク20の内周側及び外周側の型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76において計測した計測値データを取得する。
次に、コンピュータ端末80の制御部81は、調整終了か否かの判定処理を実行する(ステップS12)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、ステップS8と同様に、取得した計測値データから現在の型枠11,12の水平位置及び勾配値を算出し、仮記憶している目標水平位置及び目標勾配値との差分が許容範囲内の場合には調整終了と判定する。
ここで、調整が終了しなかったと判定した場合(ステップS12において「NO」の場合)、コンピュータ端末80の制御部81は、アラーム出力処理を実行する(ステップS13)。具体的には、制御部81の制御量算出部812は、ディスプレイに、調整できない誤差があることを通知するメッセージを表示する。
一方、調整は終了したと判定した場合(ステップS12において「YES」の場合)や許容範囲内と判定した場合(ステップS8において「YES」の場合)、コンピュータ端末80の制御部81は、ステップS1以降の処理を実行する。
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のスリップフォーム装置10は、ヨーク20に取り付けられた型枠調整装置40を制御する制御部81を備えている。型枠調整装置40は、各型枠11,12を水平方向に移動させる水平位置調整機構部50の位置調整モータ55と、勾配調整機構部60の勾配調整モータ65とを備えている。制御部81は、現在高さに対応する設計値を取得し、型枠の水平位置・勾配の決定し、これに対応するモータ回転量を算出し、この算出したモータ回転量によるモータ駆動処理(ステップS1〜S6)を実行する。これにより、駆動源としてモータ(55,65)を用い、モータの回転運動を直進運動に変換し、型枠の傾斜を調整することができる。
(2)本実施形態のスリップフォーム装置10は、構築する円筒形状の筒体100を挟んで、筒体100の内周側及び外周側に、型枠11,12が複数配置されている。制御部81は、モータ管理情報を記憶したモータ情報記憶部83を備えている。モータ管理情報には、モータの識別情報としては、各モータ(55,56)が取り付けられた取付位置に関する情報が記録されている。これにより、各モータ(55,65)の特性を考慮して、型枠11,12の水平位置及び勾配を、より的確に調整することができる。
(3)本実施形態のスリップフォーム装置10の制御部81は、許容範囲内でない場合(ステップS8において「NO」の場合)、調整するモータ回転量を算出し、このモータ回転量によるモータ駆動処理を実行する(ステップS9,S10)。これにより、制御部81は、モータ(55,65)を制御した後の実際の計測値と、設計値との差分を考慮して、より適切に調整を行なうことができる。
(4)本実施形態のスリップフォーム装置10の制御部81は、基準時間以上で停止した後に、油圧ジャッキ15を再稼働する場合には、同時に複数の型枠を筒体100から剥離する処理を実行する。これにより、長時間停止によって、筒体100に付着した場合には、型枠11,12を筒体100から引き剥がすことができる。
また、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、制御部81は、モータ駆動処理(ステップS6)を実行した後、制御結果許容範囲内でない場合(ステップS8において「NO」の場合)、調整するモータ回転量によるモータ駆動処理を実行する(ステップS9,S10)。この調整するモータ回転量は、次のヨークの現在高さに応じたモータ回転量に加算してもよい。例えば、制御結果が許容範囲内でない場合には、取得した計測値との差分を算出し、次のヨークの現在高さに応じたモータ駆動の際に、算出した差分を加算して、モータ回転量を算出する。
・上記実施形態においては、型枠11,12の水平位置及び勾配を計測するために、型枠位置計測部75及び型枠勾配計測部76を用いた。型枠11,12の水平位置及び勾配を計測する計測方法は、距離を用いた計測方法に限定されるものではない。例えば、型枠11,12の勾配を、型枠11,12に押し当てるデジタル傾斜計や型枠11,12に取り付ける傾斜センサ等で計測してもよい。また、型枠11,12の水平位置や勾配を計測するために、エンコーダに限らず、ポテンションメータやレーザ距離計や、ステレオカメラ等による距離計測を用いてもよい。
・上記実施形態のスリップフォーム装置10の型枠調整装置40は、可動柱材41を備え、この可動柱材41を水平移動させることにより、支持材44を介して型枠11を剥離する。ここで、図5に示すように、可動柱材を備えていない型枠調整装置140を用いることも可能である。この場合、支持材44の上側部と下側部とに、固定柱材21,22との距離を個別に変更可能な水平移動機構150,160を設ける。各水平移動機構150,160によって支持材44の上側部及び下側部と固定柱材21,22との距離を変更することにより、型枠11,12の水平位置及び勾配を調整する。この場合、各水平移動機構150,160の駆動源としてモータ155,165を用いる。なお、このモータ155,165は、固定柱材21,22に取り付ける。
また、上記実施形態では、型枠調整装置40を、内周側の型枠11及び外周側の型枠12に設けた。型枠調整装置40を、型枠11,12の一方のみに設けてもよい。また、型枠調整装置40は、モータ(55,65)の回転力を直線力に変更する機構を有した水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60を備える。水平位置調整機構部50及び勾配調整機構部60の少なくとも一方の駆動源をモータ(55,65)とし、他方の駆動源を他の駆動源としてもよい。
・上記実施形態の型枠調整装置40は、モータ(55,65)の回転速度を減速するギア53,63を嵌合した送りねじ51,61を備えている。これらモータの代わりに、減速機付モータを用いることにより、送りねじに嵌合させたギアを省略することもできる。更に、モータ(55,65)を覆うように屋根を取り付ける代わりに、防水型モータを用いてもよい。
・上記実施形態のスリップフォーム装置10は、円筒形状の筒体100を形成するための型枠形状を有する。スリップフォーム装置10の型枠形状は、これに限定されるものではない。例えば、水平断面が多角形の環状のコンクリート構造物の躯体を構築する場合には、多角形の各辺を構成する複数の矩形状の型枠を用いる。
・上記実施形態のスリップフォーム装置10のコンピュータ端末80は、現在高さに対応する設計値を取得し、型枠の水平位置・勾配の決定し、これに対応するモータ回転量を算出し、この算出したモータ回転量によるモータ駆動処理(ステップS1〜S12)を実行する。これらの処理の一部を手動で行なってもよい。例えば、高さ計測部71、偏位計測部72、ヨークレベル計測部73、型枠位置計測部75、型枠勾配計測部76から取得した計測値を指令室c2に表示して取得し、又は人手で測定してこれら計測値を取得してもよい。そして、コンピュータ端末80に、これらの計測値を手動で入力してもよい。また、計測値と設計値とのずれや制御量を、コンピュータ端末80に手動で入力してもよい。更に、型枠調整装置40の各モータ(55,65)の動作の開始及び停止等を手動で行なうようにしてもよい。