<第一実施形態>
(1.概要)
以下、本発明のステアリング装置の具体的な実施形態について図面を参照しつつ説明する。ステアリング装置の一例として、車両用の電動パワーステアリング装置について説明する。電動パワーステアリング装置は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。
なお、本発明のステアリング装置は、電動パワーステアリング装置の他に、4輪操舵装置、後輪操舵装置、ステアバイワイヤ装置などに適用できる。図1に示すように、電動パワーステアリング装置S1は、操舵機構10、転舵機構20、操舵補助機構30、及びトルク検出装置40を有する。
(2.電動パワーステアリング装置の構成)
図1に示すように、操舵機構10は、ステアリングホイール11、及びステアリングシャフト12を備える。ステアリングホイール11は、ステアリングシャフト12の端部に固定される。ステアリングシャフト12は、転舵輪26,26を転舵するために、ステアリングホイール11に加えられる操舵荷重Q(操舵トルク)を伝達する。
ステアリングシャフト12は、コラム軸13、中間軸14、及びピニオン軸15を連結して構成される。ピニオン軸15は、入力シャフト15a、出力シャフト15b、及びトーションバー15cを有する。入力シャフト15aの入力側部分には、中間軸14の出力側部分が接続され、出力シャフト15bの出力側部分には、ピニオン歯15dが形成される。
転舵機構20は、本発明に係るラックシャフト21(転舵軸)、及び略円筒状に形成されたハウジング22を有する。ラックシャフト21は、ステアリングホイール11の操舵角度に応じて軸線方向に往復移動し、車両の転舵輪26,26を転舵させる。ラックシャフト21は、軸線方向に沿って直線往復移動可能にハウジング22に収容されて支持される。
以下の説明において、このラックシャフト21の軸線方向に沿った方向を単に「A軸方向(図1参照)」とも称する。ハウジング22は、第一ハウジング22aと、第一ハウジング22aのA軸方向一端側(図1中、左側)に固定された第二ハウジング22bとを備える。
ピニオン軸15は、第一ハウジング22a内において回転可能に支持される。ラックシャフト21には、ラック歯21aが形成され、ラック歯21a及びピニオン歯15dは、互いに噛合されて、ラックアンドピニオン機構を構成する。
ラックシャフト21は、両端部にジョイント27,28を有する。ジョイント27,28の両端部には、タイロッド24,24が連結されており、タイロッド24,24の先端は、転舵輪26,26が組み付けられた図示しないナックルに連結される。
これにより、ステアリングホイール11が操舵されると、その操舵荷重Q(操舵トルク)が、ステアリングシャフト12に伝達されピニオン軸15が回転される。ピニオン軸15の回転は、ピニオン歯15d及びラック歯21aによって、ラックシャフト21の直線往復移動に変換される。そして、このA軸方向に沿った移動がタイロッド24,24を介してナックル(図略)に伝達されることにより、転舵輪26,26が転舵され、車両の進行方向が変更される。なお、上述した操舵荷重Qは、主に、ステアリングホイール11の操舵角度θと、そのときの車両の車速Vとに応じて転舵輪26,26が路面から受ける抵抗力の大きさである。
ハウジング22の両端には、樹脂製で、ジョイント27,28とタイロッド24,24とのジョイント部分を覆い、A軸方向に伸縮可能な筒状の蛇腹部を有するブーツ25,25の一端部が固定される。ブーツ25,25の他端部はタイロッド24,24に固定され、ハウジング22の内部を含む転舵機構20の収容空間の気密性がブーツ25,25によって保たれる。
操舵補助機構30は、トルク検出装置40の出力に基づいて制御されるモータMを駆動源として操舵機構10に操舵補助力を付与する機構である。操舵補助機構30は、第一ハウジング22a、第二ハウジング22b、第三ハウジング31、MCU(モータコントロールユニット)、回転軸32、ボールネジ機構33、及びベルト伝達機構35を備える。
図1に示すように、操舵補助機構30では、制御部ECUとモータMを一体化したMCUが、ラックシャフト21よりも下側(重力方向下方)に配置される。このように、第一実施形態の電動パワーステアリング装置S1は、所謂、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置として構成され、車両前方のエンジンルーム内(車室外)に配置される。
図1、図2に示すように、操舵補助機構30は、モータMの回転トルクを、上述したベルト伝達機構35を介してボールネジ機構33に伝達する。そして、ボールネジ機構33で、回転トルクをラックシャフト21の直線往復動の移動力に変換し、操舵機構10に操舵補助力を付与する。
操舵補助機構30を構成する第一ハウジング22aは、図2に示すように、円筒状の第1筒状部221と、第1筒状部221の第二ハウジング22b側に形成された第一操舵補助用ハウジング222と、を有する。第1筒状部221は、主にラックシャフト21を収容するハウジング部分である。
第一操舵補助用ハウジング222は、主に操舵補助機構30に係る装置を収容する部分であり、第1筒状部221よりも大径の筒状であって、下側に膨出した形状に形成される。第一操舵補助用ハウジング222における下側に膨出した部分の端面には、ラックシャフト21のA軸方向に貫通した開口部222aが形成される。
第二ハウジング22bは、円筒状の第二筒状部231と、第二筒状部231の第一ハウジング22a側に形成された第二操舵補助用ハウジング232とを有する。第二筒状部231は主にラックシャフト21を収容するハウジング部分である。第二操舵補助用ハウジング232は、主に第一操舵補助用ハウジング222と共に操舵補助機構30に係る装置を収容する部分であり、第二筒状部231よりも大径で円筒状に形成される。
第三ハウジング31は、第一操舵補助用ハウジング222の膨出端面223に、プレート36を介して固定される。第一操舵補助用ハウジング222の膨出端面223に対向する第三ハウジング31の面は、開口311を有する。開口311は、プレート36によって塞がれる。また、プレート36には、モータMの出力シャフト32bをA軸方向に挿通する貫通孔が形成される。
モータMを含むMCU(モータコントロールユニット)は、第三ハウジング31内に収容される。つまり、MCUは、ラックシャフト21と離間してハウジング22に取り付けられ、モータMの出力シャフト32bがハウジング22内に延在するよう配置される。詳細には、図2に示すように、出力シャフト32bの軸線が、ラックシャフト21の軸線と平行となるように、出力シャフト32bがハウジング22の第二ハウジング22b内に延在して設けられる。MCUは、モータM、並びに、モータMを駆動するための制御部ECU等を備える。
回転軸32は、モータMの出力軸であり、操舵補助力を伝達する。回転軸32は、出力シャフト32bと、出力シャフト32bの外周側に配置される駆動プーリ32a(ベルト伝達機構35を構成する)と、を備える。出力シャフト32bは、プレート36の貫通孔に、軸受313を介して回転可能に支持される。駆動プーリ32aは、出力シャフト32bの外周面のうちA軸方向において第三ハウジング31の外部に位置する部位に配置され、第一操舵補助用ハウジング222内に収容される。
ベルト伝達機構35は、前述した駆動プーリ32a、歯付きベルト35a、及び従動プーリ34によって構成される。駆動プーリ32a、及び従動プーリ34は、それぞれ外歯を備える歯付きのプーリである。ベルト伝達機構35は、歯付きベルト35aを介して駆動プーリ32aと従動プーリ34との間で、モータMが発生させる駆動力(回転駆動力又は回転トルク)を伝達する機構である。駆動プーリ32aは、出力シャフト32bの外周側に出力シャフト32bと一体回転可能に設けられる。歯付きの従動プーリ34は、ボールナット33aの外周に、ボールナット33aと一体回転可能に固定される。
歯付きベルト35aは、内歯を内周側に複数有する円環状のゴムベルトであり、従動プーリ34の外周と駆動プーリ32aの外周との間に、各外周に設けられた各歯と噛合した状態で掛け渡され、歯付きの駆動プーリ32aの回転駆動力(駆動力)を歯付きの従動プーリ34に伝達する。歯付きベルト35aは、従動プーリ34及び駆動プーリ32aとの噛合が外れないように、即ち、歯飛びが起きないように、所定の張力を有した状態で従動プーリ34と駆動プーリ32aとの間に掛け渡される。
上記の構成により、操舵補助機構30は、ステアリングホイール11の回転操作に応じてモータMを駆動し、出力シャフト32b及び駆動プーリ32aを回転させる。駆動プーリ32aの回転は、歯付きベルト35aを介して従動プーリ34に伝達される。従動プーリ34が回転することにより、従動プーリ34に一体的に設けられるボールナット33aが回転する。そして、ボールナット33aが回転することにより、後に詳述するボールネジ機構33が有する複数のボール38(主に大径ボール38a)を介してラックシャフト21の軸線方向への操舵補助力(動力)がラックシャフト21に伝達される。
トルク検出装置40は、ピニオン軸15の周囲にあるハウジング22の取付開口部22cに固定される。トルク検出装置40は、トーションバー15cの捩れ量を検出し、捩れ量に応じた信号を制御部ECUに出力する。ここでいう、トーションバー15cとは、入力シャフト15aのトルクと出力シャフト15bのトルクとの差に応じて捩れる特性を有する部材である。制御部ECUは、トルク検出装置40の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。
制御部ECUは、予め記憶された中立情報及び走行状態に基づく学習制御によりステアリングセンタを決定する。なお、中立情報は、ステアリングセンタに対応するモータMが有する角度センサの位置(電気角)情報であり、車両組立時に測定され、制御部ECU内の不揮発性メモリに記憶される。
(3.ボールネジ機構)
(3−1.ボールネジ機構の構成)
本発明に係るボールネジ機構33について説明する。前述したように、ボールネジ機構33は、ベルト伝達機構35を介して伝達されたモータMの回転トルクを、ラックシャフト21の直線往復動の移動力に変換することで操舵機構10に操舵補助力を付与する機構である。
図2、図3に示すように、ボールネジ機構33は、ボールネジ部21b(転動体ネジ部に相当)と、前述したボールナット33a(転動体ナットに相当)と、連結部材37と、複数のボール38(転動体に相当)と、を備える。複数のボール38は、複数の大径ボール38a(大径転動体に相当)及び大径ボール38aより所定径差αだけ直径の小さな複数の小径ボール38b(小径転動体に相当)で構成されるボール群である。
ボールネジ部21bは、図1に示すラックシャフト21の外周面に、A軸方向に沿った一定範囲に亘って形成される(図1中、左側)。ボールネジ部21bには、第一ネジ溝21b1が形成される。第一ネジ溝21b1は、ラックシャフト21の外周面に所定のリード(ピッチ)で形成された螺旋状の溝である。
ボールナット33a(転動体ナット)は、ボールネジ部21bの外周側に配置される円筒状部材である。ボールナット33aは、図2に示すように、円筒の一端側がボールベアリング16を介して第二筒状部231(第二ハウジング22b)の第二操舵補助用ハウジング232に支持される。他端側には前述した歯付きの従動プーリ34が固定される。従動プーリ34には、駆動プーリ32aの外周との間で歯付きベルト35aが所定の張力を有した状態で掛け渡されている。
また、ボールナット33aは、内周面に第二ネジ溝33a1を備える。第二ネジ溝33a1は、ボールネジ部21bの第一ネジ溝21b1に対応する溝である。第二ネジ溝33a1は、ボールネジ部21bの第一ネジ溝21b1と対向して形成された螺旋状の溝である。
また、第二ネジ溝33a1は、図4の模式図に示すように、ボールナット33aの軸線方向中央部でピッチ円内径φd1がもっとも小さく、両側に向かってピッチ円内径が徐々に大きくなっていき、軸線方向両端部でピッチ円内径φd2がもっとも大きくなるよう形成される(φd1<φd2)。これにより、路面からの外部入力が作用してラックシャフト21が撓んだとき、ラックシャフト21とボールナット33aとが干渉しないようになっている。なお、このとき、第二ネジ溝33a1のピッチ円内径とは、JISB1192で規定されるボールネジのピッチ円径に相当するものである。
第一ネジ溝21b1と、第二ネジ溝33a1とによって、螺旋軌道39が形成される。詳細には、第一ネジ溝21b1の溝面及び第二ネジ溝33a1の溝面と各溝面の間の空間とによって複数のボール38(転動体)が収容される螺旋軌道39が形成される(図6の模式図参照)。上述したように、第二ネジ溝33a1は、ボールナット33aの軸線方向中央部で、ピッチ円内径が小さく、軸線方向両端でピッチ円内径が大きくなるよう形成される。このため、螺旋軌道39は、ボールナット33aの軸線方向中央位置で径方向における通路径が小さく両端で径方向における通路径が大きくなる。
これにより、第二ネジ溝33a1とボール38を介して螺合する第一ネジ溝21b1を有するラックシャフト21が、少なくとも何れかの端部に入力された荷重によって撓んでも、第一ネジ溝21b1がボールナット33aの軸線方向両端近傍に配置されるボール38を第二ネジ溝33a1との間で挟持し過大な荷重で押圧することが防止される。
螺旋軌道39の第一ネジ溝21b1、及び第一ネジ溝21b1に対向する第二ネジ溝33a1は、図5に示すように形成される。本実施形態においては、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1は、ともに公知の単一Rで形成されるものとして説明する。ただし、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1の溝形状は、単一R形状に限らず、公知の単ゴシックアーチ形状等で形成されたものであってもよい。
ボールナット33a(転動体ナット)とラックシャフト21とが相対回転するボールネジ回転時においては、ボール38のうち、直径の大きな大径ボール38aが、図5に示すように、第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)の溝面上の点q、及び第一ネジ溝21b1(ボールネジ部21b)の溝面上の点pとそれぞれ当接する。そして、ボールネジ回転時において、大径ボール38aを介して第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)と第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)との間で動力P(図略)が伝達される。
また、図6の模式図に示すように、螺旋軌道39は、一条螺旋通路a,bが、例えば、軸線周りに2回巻回して形成される一条旋通路の集合体である。一条螺旋通路a,bは、それぞれラックシャフト21の軸線周りに一回転(360度)以内で螺旋状に回転して形成される螺旋通路であるものとする。つまり、螺旋軌道39は、一条螺旋通路が軸線周りに複数回巻回して形成される螺旋軌道であり、このような一条螺旋通路の集合体を本実施形態では多列の螺旋軌道と称す。
なお、螺旋軌道39は、一回転する一条螺旋通路a,bのみによって形成されるだけではなく、一条螺旋通路a、bの軸線方向外側には、端部にA端及びB端をそれぞれ備える一回転(360度)に満たない一条螺旋通路a´、b´がそれぞれ設けられる。また、一条螺旋通路は、何回巻回してもよい。
本実施形態において、連結部材37は、前述したボールナット33aとデフレクタ33bとを備える。連結部材37は、螺旋軌道39の両端(例えば、図6におけるA端、及びB端)に接続され螺旋軌道39とともにひとつながりの循環路50(図3、図6参照)を形成する連結通路51を備える。連結通路51は、ボールナット33a内、及びデフレクタ33b内に形成される複数のボール38の通路である。
図7に示すように、ボールナット33aの軸線方向の他端側には、フランジ部33a2が形成される。また、ボールナット33aには、その外周面33a3から内周面の第二ネジ溝33a1に貫通する長孔状の一対の取付孔33a4、33a5が形成される。
一対の取付孔33a4、33a5は、螺旋軌道39の、例えば二列の一条螺旋通路a,bを跨ぐようにボールナット33aの軸方向に離間して配置される。一対の取付孔33a4、33a5には、デフレクタ33b、33bがそれぞれ圧入される。また、ボールナット33aの外周面33a3には、一対の取付孔33a4、33a5を連通する連通溝33a6が形成される。
図8及び図9に示すように、連通溝33a6は、ボールナット33aの外周面33a3に開口する開口部33a7を有する断面C字状の溝からなる。図9に示すように、連通溝33a6の直径D2は、ボール38のうち大径の大径ボール38a(大径転動体)の直径D1よりも若干大きい。また、連通溝33a6の開口部33a7の幅Wは、大径ボール38aの直径D1よりも小さい。
また、図3に示すように、各デフレクタ33bには、螺旋軌道39の両端であるA端,B端と連通溝33a6とを連結する貫通孔33b1が形成される。デフレクタ33bは、螺旋軌道39の一端(A端、又はB端)から掬い上げたボール38(大径ボール38a,又は小径ボール38b)を、貫通孔33b1を介して連通溝33a6に導く機能を有する。また、デフレクタ33bは、連通溝33a6内のボール38を、貫通孔33b1を介して、螺旋軌道39の他端(B端、又はA端)に排出する機能を有する。
このように、各デフレクタ33bの貫通孔33b1、及びボールナット33aの連通溝33a6により、螺旋軌道39のA端、B端間を短絡する連結通路51が構成される(図3、図6参照)。これにより、循環路50内に配置されるボール38は、連結通路51を介して螺旋軌道39とひとつながりとなった循環路50を無限循環可能である。
このように、多列の螺旋軌道39と一本の連結通路51とによって形成される循環路50を本実施形態では多列一循環路と称す。なお、連結通路51内において、全てのボール38は、自由に移動可能である。しかし、ボール38は、連結通路51内を、自ら転動して移動できず、螺旋軌道39の一端から掬い上げられたボール38(大径ボール38a,又は小径ボール38b)の付勢により押されることで連結通路51内での移動が可能となる。
前述したように、複数のボール38は、複数の大径ボール38a、及び複数の小径ボール38bで構成されるボール群である。図10の模式図に示すように、本実施形態においては、大径ボール38a及び小径ボール38bは、循環路50内において、一個ずつ交互に整列して配置される。大径ボール38aの直径と、小径ボール38bの直径との間には、所定量の径差であり予め設定される所定径差αが設けられる。大径ボール38aと、小径ボール38bとの直径の所定径差αは、概ね、数μm〜十数μm程度である。所定径差αの設定方法については後述する。また、大径ボール38a、及び小径ボール38bは、例えば、ステンレス軸受鋼等の鉄系材料によって形成される。
(3−2.所定径差αについて)
ここで、大径ボール38aの直径と、小径ボール38bの直径との間に所定径差αを設ける理由について説明する。このため、ボールネジ機構に配置されるボールに直径の径差がない図11に示す従来技術の場合を例に挙げて説明する。従来技術のように、ボールネジ機構に配置されるボールBが全て同径のボールBのみで形成された場合において、複数のボールBに図11に示すような公知の玉寄せが生じる場合について考える。
なお、玉寄せとは、螺旋軌道内の複数のボールBが、相互に接近し、やがて当接する公知の現象である(図11の左側3個参照)。玉寄せが生じる原因は様々である。例えば、螺旋軌道内の通路径に偏りが生じることにより玉寄せが発生する場合がある。なお、本実施形態では、この玉寄せの態様を想定している。
つまり、本実施形態では、ボールナット33aの第二ネジ溝33a1は、前述したように、ボールナット33aの軸線方向中央部で、ピッチ円内径φd1が小さく、軸線方向両端でピッチ円内径φd2が大きくなるよう形成される。このため、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1とによって、形成される螺旋軌道39の径方向における通路径は、ボールナット33aの軸線方向中央部で小さく両端部で大きい(図4参照)。
これにより、螺旋軌道39内のボール38は、ボールナット33aの軸線方向中央部から両端部に向かって押し出される場合がある。更にボールナット33aの両端部における螺旋軌道39内では径方向における通路径が大きいため、ボール38は、図12に示すように、ボールナット33aの両端部において重力によって上方から下方に向かって落下しやすい。よって、螺旋軌道39内の両端部で、且つ下方部分において、隣接するボール38の大径ボール38aと小径ボール38bとが当接する玉寄せ状態となる場合がある。
また、別の玉寄せの態様の例としては、ステアリングホイール11を、例えば±5〜20deg程度の範囲で小刻みに左右に操舵させることによって、螺旋軌道内の複数のボールBが、相互に接近し、やがて当接する場合もある。何れの場合においても玉寄せは公知の現象であるので詳細な説明については省略する。
ボールネジ機構の複数のボールBに、上記のような重力による玉寄せが生じた状態で、図13に示すように、ドライバーがステアリングホイールを操舵し、例えばラックシャフトRS(転動体ネジ部)が、図13において左方向(図13中、RS内の矢印参照)に移動するものとする。これにより、螺旋軌道RK内において当接した複数のボールBは、ラックシャフトRS(転動体ネジ部)とボールナットBN(転動体ナット)との相対回転方向に応じてそれぞれ同じ方向に回転する(図13のボールB内の矢印参照)。
このため、図13に示すように、各ボールB同士の当接部T1では、相互に逆方向の移動(回転)M1,M2が生じ、各ボールBは、当接する相手ボールBの回転を発生する摩擦によって相互に妨げるとともに摩耗が生じる。これにより、ラックシャフトRSを軸方向に作動させるために必要なステアリングホイールの操舵力が大きくなり、ドライバーが、ステアリングホイールの操舵荷重Qが上昇し重くなったと感じる場合がある。以後、このように玉寄せによって操舵荷重Qが上昇し重くなることを、操舵荷重変動と称す。
これに対して、本発明では、ボールネジ機構33の螺旋軌道39に玉寄せが生じても、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達される動力Pが所定値P1以下の場合には、操舵荷重変動を生じにくくさせるよう、図10に示すように、循環路50内に大径ボール38aと大径ボール38aより所定径差αだけ小径の小径ボール38bと、を交互に整列して配置する。
このようにボール38が配置された状態で、ボールネジ機構33のボール38に玉寄せが生じると、図14に示すように、各大径ボール38aは、第一ネジ溝21b1と、第二ネジ溝33a1との間で、ラックシャフト21とボールナット33aとの相対移動の方向に応じて、従来技術と同様に、同方向に転動される。
しかし、このとき、大径ボール38aの間に配置される小径ボール38bの直径は、大径ボール38aの直径に対して負の所定径差αを有している。このため、玉寄せ状態においては、隣接する大径ボール38aとは当接するが、ラックシャフト21及びボールナット33aに当接せず両者の間に挟持されない。これにより、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1に拘束されない。
従って、ボールネジ回転時において、小径ボール38bは、隣接する両側の大径ボール38aと当接しながら、大径ボール38aの回転方向とは逆向きに回転される。つまり、図14に示すように、小径ボール38bと大径ボール38aとの当接部T2、T3では、大径ボール38a及び小径ボール38bが、ともに同方向であるM3方向又はM4方向に向かって一緒に移動するので、摩擦が発生せず相互に回転を妨げることはない。従って、当接部T2、T3においては、摩耗も生じない。よって、ステアリングホイール11の操舵荷重Qが上昇し重くなることはなく、スムーズなステアリングホイール11の操舵ができる。
しかしながら、このとき、小径ボール38bは、上述したように、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1に接触しない。このため、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と、第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で動力を伝達するのは、大径ボール38aのみである。
つまり、全てのボールBが同径で構成される従来技術に対し、本実施形態では、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と、第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で動力Pを伝達する大径ボール38aの数は概ね半分となる。これにより、ラックシャフト21と、ボールナット33aとの間で伝達される動力Pが大きくなると、従来技術に対し、大径ボール38aの強度に対する耐久性が低下する虞がある。
(3−3.所定径差αの設定の詳細)
そこで、本実施形態では、伝達される動力が所定値P1を超え大きくなった場合において、大径ボール38aの強度を確保する。このため、まず、操舵荷重変動を生じさせないステアリングホイール11の操舵角度θの所定の操舵角度θ1の範囲を定める。つまり、伝達される動力Pの所定値P1をステアリングホイール11の操舵角度θに置き換えて考える。
発明者は、文献の調査、及び実験等から、車両の直進走行状態において、玉寄せによる操舵荷重変動を生じさせない操舵角度θの所定の操舵角度θ1を、±40deg以下の範囲とすれば、ドライバーの感じる違和感が抑制できると考えた。そして、操舵荷重変動を生じさせないステアリングホイール11の所定の操舵角度θ1の範囲を、±40deg以下とした(図16参照)。ただし、±40degは、一例であり、所定の操舵角度θ1の範囲は何度でもよい。
従って、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)以下の場合、大径ボール38aのみによって、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と、第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で動力Pを伝達することとなる。
次に、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲を超えた場合に、大径ボール38aの強度に対する耐久性を向上させる方法について説明する。その方法とは、伝達させる動力Pが所定値P1を超えた場合には、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1とを、大径ボール38aだけではなく、小径ボール38bにも当接させるようにするというものである。
このため、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)を超えた場合における動力Pの所定値P1によって、大径ボール38a、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1の少なくとも一つの部材をさらに弾性変形させ、第一ネジ溝21b1の溝面及び第二ネジ溝33a1の溝面を小径ボール38bに当接させる(図15参照)。
なお、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)を超える以前においても、大径ボール38a、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1の少なくとも一つの部材の弾性変形は始まっている。このとき、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)を超えた場合との違いは、第一ネジ溝21b1の溝面及び第二ネジ溝33a1の溝面と小径ボール38bとが当接しているか否かである。所定値P1は、グラフG1に基づき求める値であり、後述する。
第一ネジ溝21b1の溝面及び第二ネジ溝33a1の溝面が小径ボール38bに当接する際、各溝面が、ステアリングホイール11の操舵角度θが中立状態における位置を始点とし、小径ボール38bに向かって変位して、それぞれ小径ボール38bに当接するまでの各変位量tは、第一ネジ溝21b1、第二ネジ溝33a1及び大径ボール38aの変位量の合計となる。その合計が、大径ボール38aの直径と小径ボール38bの直径との間の所定径差αを越えると、小径ボール38bも第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1に当接する。
これにより、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間での動力Pの伝達に伴い生じる大径ボール38aへの負荷を小径ボール38bにも分担させることができる。
なお、上記、所定量の所定径差αは、操舵角度θが所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)を超えた場合において、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達される動力Pの所定値P1によって、小径ボール38bと、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1とが当接するよう実験等に基づき設定する。大径ボール38a、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1は、上記作用を成立させることが可能な適切なヤング率を備えた鉄系材料によって形成される。
上述したように、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1の間で伝達させる動力Pの所定値P1は、図16に示すグラフG1に基づいて求める。なお、図16のグラフG1は、通常時(路面は乾燥した舗装路であり、転舵輪26,26は十分な深さのタイヤ溝を有する)にステアリングホイール11を操舵した際における、ステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)の操舵角度(舵角)θと操舵荷重Qとの関係を示す実験に基づくグラフである。
なお、ここでいう通常時とは、例えば、本発明のボールネジ機構33において、循環路50を循環する複数のボール38に、玉寄せが生じておらず、ボール38が螺旋軌道39内をスムーズに転動可能な時をいう。
実線で示すグラフG1は、転舵輪26,26の所定の周速度が、例えばXkm/hで回転する状態、即ち車両が所定の車速Xkm/hで走行する状態におけるステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)の操舵角度θ(deg)と操舵荷重Qとの関係である。本実施形態においては、Xkm/hは、例えば高速道路上での走行速度の一例である80km/hとする。
また、図16において、ステアリングホイール11の操舵角度θ(deg)と操舵荷重Qとの関係は、車両の車速Vに応じてそれぞれ異なる。グラフG1よりも車速Vが大きくなれば、グラフは、グラフG2のように、操舵荷重が小さい側に移動する。また、グラフG1よりも車速Vが小さくなれば、グラフは、グラフG3のように、操舵荷重Qが大きい側に移動する。
また、グラフG1において、操舵角度0degの位置から右方向にステアリングホイール11を操舵したときの操舵荷重Qは、操舵角度0degより右側で且つグラフG1の上側のラインで示されている。また、操舵角度0degの位置から左方向にステアリングホイール11を操舵したときの操舵荷重Qは、操舵角度0degより左側で且つグラフG1の下側のラインで示されている。
つまり、図16においては、右方向にステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)を操舵したときの操舵荷重Qを正とし、左方向にステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)を操舵したときの操舵荷重Qを負として表している。
次に、上記で設定した所定の操舵角度θ1の範囲(±40deg)とグラフG1との交点から、操舵荷重Q1(−Q1)を求める(図16参照)。このとき、操舵荷重Q1(−Q1)は、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達される動力Pの所定値P1に相当する値である。そして、前述したように、大径ボール38aの直径と小径ボール38bの直径との間の所定径差αを、操舵荷重Q1(−Q1)に基づき実験等で求める。
つまり、操舵荷重Q1(−Q1)が、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達されるとした場合に、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1が、操舵荷重Q1(−Q1)によって変位し、小径ボール38bに当接することを可能とする径差の大きさを求め所定径差αとして設定する。
このように、所定径差αが設定された状態で、ステアリングホイール11の操舵角度θが±40degを超え、操舵荷重Qが操舵荷重Q1(−Q1)を超えると、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で負荷を受けた大径ボール38a、第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1の少なくとも一つの部材がさらに弾性変形する。そして、第一ネジ溝21b1の溝面及び第二ネジ溝33a1の溝面が、小径ボール38bの方向に変位して大径ボール38aと小径ボール38bとの間の直径の所定径差αを詰め、小径ボール38bに当接して小径ボール38bを挟持する(図15参照)。
これにより、小径ボール38bは、大径ボール38aとともに、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で付与される荷重を分担する。従って、ボール38(小径ボール38b、及び大径ボール38a)の強度及び摩耗に対する耐久性が向上される。このため、仮に、ステアリングホイール11が所定の操舵角度θである±40degを超えて操舵されても、ボール38(特に大径ボール38a)は良好に保護される。
<変形例1>
なお、上記第一実施形態においては、車両の高速走行時におけるステアリングホイール11の操舵角度θと操舵荷重Qとの関係であるグラフG1に基づいて、所定径差αを設定した。しかし、この態様には限らない。変形例1として、他の車速時におけるステアリングホイール11の操舵角度θと操舵荷重Qとの関係であるグラフG2、G3に基づき、グラフG1のときと同様の方法によって所定径差αを設定してもよい。なお、このときの操舵角度θ1は何度に設定してもよい。これによっても上記実施形態と同様の効果が得られる。
<変形例2>
また、上記第一実施形態においては、車両の高速走行時におけるステアリングホイール11の操舵角度θと操舵荷重Qとの関係であるグラフG1に基づいて、所定径差αを設定した。しかし、この態様には限らない。変形例2として、例えば、走行中の車両の転舵輪26,26が、縁石に乗り上げた場合に、転舵輪26,26からラックシャフト21に対し入力される動力のうち、適切な値を選択し、第一ネジ溝21b1(ラックシャフト21)と第二ネジ溝33a1(ボールナット33a)との間で伝達される所定値P1として所定径差αを設定してもよい。
<別の実施形態>
上記第一実施形態では、本発明に係るボールネジ機構33を、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置S1に適用した。しかし、この態様には限らない。別の実施形態として、ボールネジ機構33は、例えば、特開2011−105075号公報に記載されるような、ラック軸とモータとが同軸に配置される、所謂、ラックダイレクト型の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。これによっても相応の効果が期待できる。
(4.実施形態による効果)
上述の説明から明らかなように、上記実施形態の電動パワーステアリング装置S1(ステアリング装置)によれば、ハウジング22に軸線方向に摺動可能に支承され、軸線方向に往復移動し転舵輪26,26を転舵させるラックシャフト21と、ラックシャフト21の外周面に第一ネジ溝21b1が形成される転動体ネジ部、第一ネジ溝21b1に対応する第二ネジ溝33a1が内周面に形成されるボールナット33a(転動体ナット)、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間に形成される螺旋軌道39の両端に接続され螺旋軌道39とともにひとつながりの循環路50を形成する連結通路51を備える連結部材37、及び循環路50内に整列して収容される複数のボール38(転動体)を備えるボールネジ機構33と、ハウジング22に固定され、ボールナット33aをラックシャフト21の軸線周りに回転作動させるモータMと、を備える。
そして、ボールナット33aの第二ネジ溝33a1のピッチ円内径は、軸線方向中央部よりも軸線方向端部の方が大きく形成され、複数のボール38は、大径ボール38a(大径転動体)と、大径ボール38aよりも径が所定径差α小さく大径ボール38aの間に配置される小径ボール38b(小径転動体)と、を備え、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達する動力Pの大きさが所定値P1以下である場合に、螺旋軌道39では、大径ボール38aのみが、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間における動力Pの伝達を行ない、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達する動力Pの大きさが所定値P1を超えた場合には、螺旋軌道39では、大径ボール38a及び小径ボール38bの両者が、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間における動力Pの伝達を行なうように所定径差αを設定する。
このように構成された電動パワーステアリング装置S1(ステアリング装置)においては、ボールナット33a(転動体ナット)の第二ネジ溝33a1のピッチ円内径は、軸線方向中央部よりも軸線方向端部の方が大きく形成されるので、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との径方向の間隔は、中央部で狭く両端部で大きくなっている。
これにより、ボールナット33aの第二ネジ溝33a1内に整列して収容される複数のボール38(転動体)は、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との径方向の間隔の狭い中央部から径方向の間隔の広い両端部に移動しやすい。また、第二ネジ溝33a1内の両端部においては、第一ネジ溝21b1との間の径方向の間隔が広いので、複数のボール38は、さらに重力方向下方に落下しやすい。これにより、第二ネジ溝33a1内の両端側で且つ下方においてボール38の密集度が高くなり、隣接する各ボール38同士が当接する、所謂、玉寄せ状態となる場合がある。
しかし、螺旋軌道39内には、大径ボール38a(大径転動体)よりも径が所定径差αだけ小さいため、螺旋軌道39である第一ネジ溝21b1及び第二ネジ溝33a1からの拘束を受けずに回転が可能な小径ボール38b(小径転動体)が大径ボール38aの間に配置されている。このため、玉寄せ状態において、ラックシャフト21が軸線方向に移動しようとした場合においても、少なくとも大径ボール38aと小径ボール38bとが当接する部分において、小径ボール38bは、大径ボール38aの回転に伴い、大径ボール38aの回転方向と逆の回転方向に回転できる。従って、大径ボール38aと小径ボール38bとの当接部分では両者の相対移動に伴う摩擦は生じない。
このとき、螺旋軌道39を構成する第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達される動力Pが所定値P1以下の場合には、上記で説明した小径ボール38bが自由に回転できる状態が維持される。つまり、大径ボール38aのみが、第一ネジ溝21b1、及び第二ネジ溝33a1と当接し、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で動力Pの伝達を行なう。これにより、当接する大径ボール38aの回転を妨げることなく、ボールネジ部とボールナット33aとの間の相対回転をスムーズなものとすることができるので、ステアリングシャフト12の操舵荷重Qが上昇することはない。
また、螺旋軌道39を構成する第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間で伝達される動力Pが所定値P1を超える場合には、第一ネジ溝21b1、第二ネジ溝33a1、及び第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1とに当接する大径ボール38a(大径転動体)のうち少なくとも一つの部材の弾性変形によって、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間の間隔が狭まる。これにより、螺旋軌道39では、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1とが変位して小径ボール38b(小径転動体)に当接する。そして、大径ボール38a及び小径ボール38bの両者が、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間における動力Pの伝達を行なうので、ボール38(転動体)の耐久性が向上する。
また、第一実施形態のボールネジ機構33によれば、循環路50の螺旋軌道39は、一条螺旋通路a、bが軸線方向に二回(複数回)巻回して形成される多列一循環路によって形成される。このため、例えば、一列一循環路で形成される循環路よりもより多くのボール(転動体)を循環路内で使用する。従って、玉寄せが生じた際に上昇する操舵荷重Qは、多列一循環路のほうが、一つの循環路内で使用するボールの数の分だけ大きくなる。よって、多列一循環路に本発明のボールネジ機構33を適用すると、一列一循環路に本発明のボールネジ機構33を適用するよりも、より大きな効果が得られる。
また、上記のように構成された電動パワーステアリング装置S1(ステアリング装置)においては、ベルト伝達機構35が備える歯付きベルト35aの張力によって、転動体ナット33aが所定の方向に付勢されると張力の方向に応じた偏りを生じる場合がある。これによって、第一ネジ溝21b1と第二ネジ溝33a1との間の間隔(隙間)、即ち螺旋軌道39の半径方向における間隔にも偏りが生じ、螺旋軌道39内における転動体38の通路において更に狭い部分と更に広い部分とが発生する場合がある。このような状態では、通路の狭い部分から通路の広い部分に向かって転動体がさらに押し出され、広い部分において隣接する各転動体38同士が当接する玉寄せ状態となる場合がある。しかし、このような場合においても、本発明のボールネジ機構33を採用することで、より効果的に操舵荷重の上昇を抑制できる。
(5.その他)
なお、上記実施形態では、大径ボール38aは、鉄系の材料によって形成されるものとした。しかし、この態様には限らない。大径ボール38aは、所定の強度、及び小径ボール38bとの間の所定の所定径差αを成立させるヤング率を備えていれば、どのような材料で形成されてもよい。また、小径ボール38bは、例えば、所定の強度を備えていれば、変形しにくい例えばセラミックス等の材料で形成されてもよい。また、小径ボール38bは、樹脂等によって形成されてもよい。
また、上記実施形態では、螺旋軌道39内において、大径ボール38a、及び小径ボール38bが、一個ずつ交互に整列して配置された。しかし、この態様には限らず、小径ボール38bを、2個ずつ並んだ大径ボール38aの間に配置してもよい。また、小径ボール38bを、3個〜N個ずつ並んだ大径ボール38aの間に配置してもよい。
これにより、ボール38の玉寄せ発生時において、大径ボール38a同士が当接する部分では、従来技術どおり発生する摩擦によって相互の回転を妨げ、ステアリングホイール11の操舵荷重Qが上昇してしまう虞がある。しかし、少なくとも小径ボール38bは、上記実施形態と同様に、隣接する大径ボール38aの間で自由に回転できる。従って、小径ボール38bを備える分だけ、玉寄せによるステアリングホイール11の操舵荷重Qの上昇を小さくすることができる。
また、上記実施形態では、循環路50を多列の螺旋軌道39と一本の連結通路51とによって形成する多列一循環路によって形成した。しかし、この態様には、限らない。他の実施形態として、例えば特開2016−020725号公報に開示されるような循環路を一列の螺旋軌道と一本の連結通路とによって構成する一列一循環路によって形成してもよい。この場合は、一列一循環路を軸線方向に任意の数だけ設けることもできる。これによっても相応の効果が期待できる。
また、上記実施形態においては、連結部材37の連結通路51を、ボールナット33aの内部に形成した。しかし、この態様には限らず、連結通路を、ボールナット33aの外部にチューブ等を外付けして形成する公知のリターンチューブ方式によって構成してもよい。また、公知のこまを用いて連結通路を構成するこま方式によって構成してもよい。更には、エンドキャップ方式やガイドプレート方式等によって連結通路を構成してもよい。いずれによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。