以下、本発明の焼結部材およびその製造方法の実施形態の例を、図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1は、本発明の羽根車形状を有する焼結部材の一実施形態であるターボチャージャ用タービンホイール1(単にタービンホイール1と呼ぶ)の斜視図である。図2は、タービンホイール1の断面図である。図2は、タービンホイール1の回転軸心Axに沿った面での断面を示している。
図1に示すように、タービンホイール1は、羽根車形状である。タービンホイール1は、回転軸心Ax回りに回転する。タービンホイール1は焼結部材である。焼結部材とは、鋳造部材とは異なる概念である。焼結部材は、等軸状の結晶粒(等軸晶)からなる金属組織形態を有する。鋳造部材は、チル晶、柱状晶および等軸晶などの結晶粒を含む金属組織形態を有する。
図2に示すように、タービンホイール1は、本体部2と、複数の翼部3と、ノーズ部4と、水かき部5とを備える。本体部2は、回転軸心Axが通る部位である。本体部2は、見掛けが概ね円柱状または円錐台状の形状であって、回転軸心Axに沿って延びる部位である。翼部3は、本体部2から回転軸心Axの径方向に延びている。ノーズ部4は、回転軸心Axの一方側において、本体部2から回転軸心Axに沿って延びている。水かき部5は、回転軸心Axの他方側に設けられ、見掛けが概ね円柱状または円錐台状の形状である本体部2の下底(端面2a)の周縁の部位を構成している。水かき部5は、隣接する翼部3の間に、本体部2から回転軸心Axの径方向に沿って翼部3の翼の途中まで延びるように設けられている。なお、タービンホイールの羽根車形状は、上述したタービンホイール1に限られない。例えば、タービンホイールの水かき部は、隣接する翼部の間に、本体部から回転軸心の径方向に沿って翼部の翼の先端まで延びるように、あるいは翼部の翼の先端よりも外側に張り出して延びるように、設けられていてもよい。
なお、以降の説明において、タービンホイール1の直径とは、図2にφで示す部分の長さを言う。そして、タービンホイール1の直径φとは、タービンホイール1が回転軸心Ax回りに回転したときに、最も回転軸心Axから離れたタービンホイール1のいずれかの点(例えば翼部3や水かき部5の外縁上の点)がなす円状の軌跡の直径を言う。また、タービンホイール1の高さとは、図2にHで示す部分の長さを言う。そして、タービンホイール1の高さHとは、回転軸心Axに沿った方向において、ノーズ部4の端面4aと本体部2の端面2aが最も離間している部分の長さを言う。
次に、羽根車形状を有する焼結部材の製造方法として、上述したタービンホイール1の製造方法を説明する。
<成形工程>
まず、バインダと金属の粉末を混合し、十分に混練し、混練材料を得る。なお、本明細書において、特に断りのない限り、粉末は粒子が複数集まった状態の集合体(粉体)を意味する。この混練材料をメタルインジェクション(metal injection molding)法により金型の中へ送り込み、ランナーを伴う成形体を形成する。このランナーを伴う成形体は、少なくとも上述したタービンホイール1に対応する羽根車形状を有する製品部を備えている。ランナーを伴う成形体から製品部以外の部分を除去すると、上述したタービンホイール1に対応する羽根車形状を有する製品部を含む成形体を得ることができる。この成形体は、後述する焼結工程やHIP処理工程における寸法の変化を考慮して最終的な製品が所望の形状となるように、形状や寸法が定められている。
バインダとしては、有機バインダを用いることができる。バインダには、成形時に成形体の形状を維持する効能(保形性)、複雑な形状を形成しやすくする効能(流動性)、および焼結時に消失して焼結体(焼結部材)の内部に残留しない効能(消失性)などが求められる。
金属の粉末としては、製品(焼結部材や焼結部材を含む部品)に求められる特性などに応じて様々な金属の粒子からなる粉末を用いることができる。例えば、自動車などのエンジンに用いるターボチャージャに搭載される、本発明の焼結部材の一実施形態であるタービンホイール1に好適な金属の粒子の材質としては、チタンアルミ合金系やNi基合金系が挙げられる。
例えば、質量%で、27%〜31%のAl(アルミニウム)、13%〜19%のNb(ニオビウム)、これら以外の任意元素Mおよび残部Ti(チタニウム)からなるチタンアルミ合金系が挙げられる。また、32%〜35%のAl、1%〜3%のMo(モリブデン)、これら以外の任意元素Mおよび残部Tiからなるチタンアルミ合金系が挙げられる。また、29%〜35%のAl、0%超〜4%のCr(クロミウム)、4%〜16%のNb、これら以外の任意元素Mおよび残部Tiからなるチタンアルミ合金系が挙げられる。また、27%〜30%のAl、8%〜10%のNb、1%〜4%のMo、これら以外の任意元素Mおよび残部Tiからなるチタンアルミ合金系が挙げられる。なお、上記Mは、C(炭素)、Si(珪素)、Ni(ニッケル)、B(ボロン)およびV(バナジウム)などのうちの1種または2種以上の元素(それぞれ1質量%以下が好ましい)であり、これら以外のO(酸素)、N(窒素)および不可避元素(不純物)も含む。
あるいは、例えば、質量%で、10%〜16%のCr、2%〜7%のMo、3.5%〜8%のAl、0.3%〜2%のTi、1%〜3.5%のNb(NbとTaの合計が1%〜3.5%でもよい)、これら以外の任意元素(C、Zr(ジルコニウム)およびBなどであり、これら以外の不可避元素(不純物)も含む)および残部NiからなるNi基合金(アロイ713C)系が挙げられる。また、13%〜19%のCr、2.5%〜8%のMo、1.5%〜5%のAl、1%〜4%のTi、6%〜14%のFe、これら以外の任意元素(C、Si、Mn(マンガン)、Bなどであり、これら以外の不可避元素(不純物)も含む)および残部NiからなるNi基合金(アロイ235)系が挙げられる。また、6%〜12%のCr、1%〜5%のMo、3%〜8%のAl、0.5%〜3%のTi、7%〜13%のW(タングステン)、7%〜13%のCo(コバルト)、0.5%〜3%のTa(タンタル)、これら以外の任意元素(C、Zr、Bなどであり、これら以外の不可避元素(不純物)も含む)および残部NiからなるNi基合金(アロイ246)系が挙げられる。また、6%〜10%のCr、3%〜8%のAl、0.5%〜3%のTi、7%〜13%のW、0.2%〜1.5%のMo、7%〜13%のCo、2%〜5%のTa、0.5%〜3%のHf(ハフニウム)、これら以外の任意元素(C、Zr、Bなどであり、これら以外の不可避元素(不純物)も含む)および残部NiからなるNi基合金(アロイ247)系が挙げられる。なお、本明細書において、α〜βの記載はα以上β以下を意味し、α超〜βの記載はαより大きくβ以下を意味する。
金属の粉末(金属の粒子の集合体)としては、積算体積分布曲線から求まる(d90−d10)/d50が0.5以上1.8以下である粒度分布を有する金属の粉末を用いる。d10は積算体積分率が10%のときの粉末の粒径であり、d50(メジアン径)は積算体積分率が50%のときの粉末の粒径であり、d90は積算体積分率が90%のときの粉末の粒径である。この(d90−d10)/d50で表わす指標は、金属の粉末の粒径のばらつきの度合いを示す。金属の粉末の粒度分布(積算体積分布曲線)はレーザー回折散乱法により測定することができる。
(d90−d10)/d50で表す指標が0.5よりも小さいと、金属の粉末の粒径が揃い過ぎ、金属の個々の粒子が隣接して形成される隙間に入り込む金属の粒子が少なくなる。すると、成形体の内部に残存する空孔が多くなって成形体の密度が小さくなりやすい。この結果、成形体に残存している空孔が焼結時に十分につぶされずに焼結部材の焼結密度が過度に低くなることがある。したがって、この指標は0.5以上とする。好ましくは、この指標は0.7以上とする。また、この指標が1.8よりも大きいと、金属の粉末の粒径のばらつきが大きくなり過ぎる。この結果、焼結部材の金属組織を構成する結晶の粒径のばらつきが過度に大きくなることがある。したがって、この指標は1.8以下とする。この指標は、好ましくは1.6以下とし、より好ましくは1.5以下とし、より一層好ましくは1.4以下とする。
(d90−d10)/d50で表す指標を求める際に使用するd50は、一般にメジアン径と呼ばれ、金属の粉末(金属の粒子の集合体)の平均粒径を表す指標として利用することができる。例えば、メジアン径d50が5μm未満の場合や50μmを超える場合は、成形装置にもよるが、メタルインジェクション法による成形体の形成や、金属の粉末の焼結によって羽根車形状を有する焼結部材を形成するのが難しいときがある。また、メジアン径d50が50μmを超える場合は、焼結部材の金属組織を構成する結晶の粒径が大きくなる。したがって、本発明の適用に際してメジアン径d50を設定する場合は、5μm以上50μm以下とするのが好ましい。
また、製造時の収率などに影響される金属の粉末のコストを下げる観点では、メジアン径d50の下限を、好ましくは10μmとし、より好ましくは15μmとし、さらに好ましくは20μmとし、一層好ましくは25μmとする。また、成形体の成形性の容易化と焼結部材の金属組織を構成する結晶の粒径の好適化をバランスさせる観点では、メジアン径d50の上限を、好ましくは45μmとし、さらには40μmとする。また、メジアン径d50の範囲を、好ましくは10μm以上45μm以下とし、より好ましくは15μm以上40μm以下とする。また、焼結部材の密度向上と結晶粒径のばらつきを抑制する観点では、メジアン径d50の上限を上記同様に考慮し、また、メジアン径d50の範囲を、好ましくは20μm以上45μmとし、より好ましくは25μm以上40μm以下とする。
<焼結工程>
次に、上述した製造方法により得られたタービンホイール1に対応する羽根車形状を有する製品部を含む成形体からバインダを焼失させて、さらに金属の粉末を焼結して、タービンホイール1に対応する羽根車形状を有する製品部を含む焼結体を得る。さらに、得られた焼結体から製品部以外を除去することによりタービンホイール1(焼結部材)を得る。なお、後述のHIP処理を行わないものをHIPなし焼結部材と呼び、HIP処理を行ったものをHIPあり焼結部材と呼ぶ。
成形体を構成する金属の粉末を焼結する際の保持温度は、その金属の粉末として用いた金属(金属の粒子)の摂氏で表す固相線温度の90%以上99%以下の温度とする。保持温度が摂氏で表す固相線温度の90%未満では、金属の粉末の焼結による焼結部材の密度(焼結密度)を高くするのが難しい。保持温度が摂氏で表す固相線温度の99%を超えると、金属の粉末の溶融による液相焼結が生じてしまうおそれがある。保持温度の下限を、好ましくは金属の摂氏で表す固相線温度の93%の温度とする。また、保持温度の上限を、好ましくは金属の摂氏で表す固相線温度の97%の温度とする。これにより、焼結部材の焼結密度をより高め、また、より確実に液相焼結を防止することができる。また、成形体を構成する金属の粉末を焼結する保持時間は、金属組織を構成する結晶粒を過度に成長させることなく焼結密度を高くすることができるように、その際の保持温度に適する時間に設定するのがよい。
なお、本発明において、成形体の密度や焼結部材(焼結体)の焼結密度は、特に断りのない限り相対密度とする。ここでいう相対密度は、実体密度と理論密度との比(実体密度/理論密度)を百分率で表した値である。つまり、相対密度(%)=実体密度/理論密度×100である。実体密度とは、金属(金属元素)で構成された成形体や焼結部材の実体の質量を実体の寸法から求めた体積で除した値である。理論密度とは、成形体の構成組織中や焼結部材の焼結組織中の金属(金属元素)が個々に独立して存在していると仮定して使用原料の配合組成から求めた値である。理論密度を求める場合、例えば使用原料の全質量に対する配合比が1質量%以下の金属元素など、他の金属元素に比べると微量であって、相対密度に及ぼす影響が無視できると推測される金属元素については考慮しなくてもよい。
<HIP処理工程>
上述したように、特定の粒度分布を持つ金属の粉末を含む混練材料で成形体を作成し、これを特定の保持温度で焼結すると、所望の金属組織形態(特に結晶粒径)および機械的特性を有するタービンホイール1(HIPなし焼結部材)を得ることができる。このようにして得られたタービンホイール1(HIPなし焼結部材)の金属組織を構成する結晶の粒径は、後に詳述するように、比較的小さくかつばらつきが小さい。このため、次に説明するHIP処理によって、そのタービンホイール1に所望されるより好ましい特性が得られるように、そのタービンホール1(HIP処理を行わない焼結部材)の金属組織形態(特に結晶粒径)や機械的特性を調整することができる。
次に、好ましいHIP処理工程の形態について説明する。HIP処理(HIP:Hot Isostatic Pressing)は、焼結部材の内部に残存している空孔をつぶして焼結部材の機械的強度などの特性を改善するために行う熱間加工の一種である。また、HIP処理を行う際には、焼結部材を高温に保持するために、焼結部材の金属組織を構成する結晶粒が成長するなど、その金属組織形態に変化が生じる。この金属組織形態の変化を利用して、HIP処理で焼結部材の金属組織を構成する結晶粒の粒径を積極的に増大させるなどの変化を誘起することにより、その焼結部材に所望の機械的特性を付与することができる。この結果、所望の金属組織形態および機械的特性を有するタービンホイール1(HIPあり焼結部材)を得ることができる。
本発明においてHIP処理は、金属の粉末として用いる金属(金属の粒子)の種類とその高温強度を考慮して焼結部材に残存している空孔をつぶすこととともに、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)に所望される金属組織形態(特に結晶粒径)および機械的特性などを考慮して行う。HIP処理は、金属の粉末として用いた金属(金属の粒子)の摂氏で表す固相線温度の86%以上97%以下となる保持温度で行う。保持温度が摂氏で表す固相線温度の86%未満では、特に高温強度の高い金属の粉末を用いた場合など、焼結部材に残存している空孔がHIP処理時に十分につぶされずに焼結部材の焼結密度を高めるのが難しくなる。保持温度が摂氏で表す固相線温度の97%を超えると、結晶粒の成長の速さが大きくなりやすく、焼結部材が所望の機械的特性を有するための結晶粒径となるように、結晶粒の成長を制御するのが難しくなる。
HIP処理において、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)の金属組織を構成する結晶粒の成長を抑制したい場合は、金属の粉末として用いた金属の摂氏で表す固相線温度の97%以下、96%以下、95%以下、94%以下、93%以下、さらには92%以下などとより小さくして、より低い保持温度でHIP処理を行うのが好ましい。また、HIP処理に要する時間をより短縮するとともに焼結部材の金属組織を構成する結晶粒の成長の速さを高めたい場合は、金属の粉末として用いた金属の摂氏で表す固相線温度の86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、さらには92%以上などとより大きくして、より高い保持温度でHIP処理を行うのが好ましい。この結果、所望の機械的特性を得るための金属組織が形成されるように、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)の金属組織を構成する結晶粒の成長を容易に制御することができる。
HIP処理は、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)の表面酸化層を除く金属組織を構成する結晶粒の成長の速さが300μm/h以下となる保持条件で行う。結晶粒の成長の速さが300μm/hを超えると、焼結部材の金属組織を構成する結晶の粒径およびそのばらつきが大きくなりやすい。結晶粒が必要を超えて大きく成長すると、焼結部材の機械的強度が劣化するおそれがある。結晶粒の成長をより緩やかにして結晶粒径の制御を容易化するため、羽根車形状を有する焼結部材の表面酸化層を除く金属組織を構成する結晶粒の成長の速さが260μm/h以下となる保持条件でHIP処理を行うのが好ましい。なお、表面酸化層はバルク層とは異なる金属組織を有するため、ここでは表面酸化層を除いたバルク層の金属組織を構成する結晶粒の成長の速さで定義した。また、金属の粉末として例えばチタンアルミ合金系の金属(金属の粒子)を用いた場合などでは、焼結部材の金属組織を構成する結晶粒の成長に対して保持温度が強く影響することから、結晶粒の成長の速さに拘らずに保持温度を重視するのが好ましい。また、専ら焼結部材に残存している空孔をつぶす目的でHIP処理を行う場合は、結晶粒をより小さい速さで成長させるのがよく、結晶粒の成長の速さの下限は、50μm/h、40μm/h、30μm/h、20μm/h、さらには10μm/hとより小さくするのが好ましい。
HIP処理は、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)の表面酸化層を除く金属組織を構成する結晶の粒径の変化率が平均粒径で7倍以下となる保持条件で行う。言いかえれば、HIP処理前の焼結部材の金属組織を構成する結晶粒の平均粒径(平均粒径Aと呼ぶ)と、HIP処理後の焼結部材の金属組織を構成する結晶粒の平均粒径(平均粒径Bと呼ぶ)とを比較し、平均粒径Bが平均粒径Aの7倍以下となる保持条件でHIP処理を行う。なお、平均粒径の評価方法は後に説明する。上述した平均粒径の変化率(平均粒径B/平均粒径A)が7倍以下の保持条件でHIP処理を行うことにより、結晶粒の過度な成長による機械的強度の劣化を抑制することができるとともに、保持時間を短縮して生産効率を高めることができる。HIP処理において保持温度と保持時間の一方、または保持温度と保持時間の両方を大きくすると、結晶粒が成長しやすくなって平均粒径の変化率が大きくなりやすい。好ましくは、この平均粒径の変化率が6倍以下の保持条件でHIP処理を行う。さらに好ましくは、この平均粒径の変化率が5倍以下の保持条件でHIP処理を行う。また、専ら焼結部材に残存している空孔をつぶす目的でHIP処理を行うなどの場合は、この平均粒径の変化率を、結晶粒の成長がほとんど期待できない1倍以上とするか、結晶粒の成長が期待できる2倍以上、3倍以上さらには4倍以上とするなど、必要に応じた条件でHIP処理を行うのが好ましい。なお、表面酸化層はバルク層とは異なる金属組織を有するため、ここでは表面酸化層を除いたバルク層の金属組織を構成する結晶の粒径の変化率で定義した。
<結晶粒径の測定方法および結晶粒径のばらつきの評価方法>
次に、結晶粒径の測定方法および結晶粒径のばらつきの評価方法について説明する。羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)においては、回転軸心を含む平断面において、表面酸化層を除く断面組織を対象としてASTM(American Society for Testing and Materials)−E112に規定される比較法により結晶粒度番号を求め、求めた結晶粒度番号に対応する平均粒径をASTM−E112の付表により求める。以下、この比較法を用いて平均粒径を求める方法を簡単に説明する。参考までに、このASTM−E112の規定は、JIS(Japanese Industrial Standards)―G0551の規定と同一ではないが近似している。
羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)の結晶粒度番号(Grain Size Number)は、ASTM−E112の比較法により決定される。具体的には、図2に示すタービンホイール1および各部の符号を参照すれば、タービンホイール1を回転軸心Axを含む平断面で切断し、切断した平断面に対して研磨やエッチングなどを行って、平断面を平滑化して断面組織(金属組織)を露出させる。そして、顕微鏡などを用いて、露出させた断面組織の画像(倍率100倍)を取得する。その後、取得した断面組織の画像(倍率100倍)とASTM−E112の標準写真(付図)とを比較し、この断面組織の画像と最も近似する一つの標準写真を特定する。こうして特定された一つの標準写真に付与されている結晶粒度番号を、取得した断面組織(画像)の結晶粒度番号として決定する。
また、ASTM−E112の付表(TABLE 4 Grain Size Relationships Computed for Uniform, Randomly Oriented, Equiaxed Grains)に基づいて、上述した評価方法により決定された結晶粒度番号に対応する平均粒径(Average Diameter)を取得する。なお、上記断面組織において観察される結晶粒の大きさによっては、取得する断面組織の画像の倍率を50倍乃至25倍に設定してもよいが、その場合は倍数比係数などによる補正を行うものとする。
その後、上述した製造方法により得られた羽根車形状を有する焼結部材の平均粒径などを求める。具体的には、図2に示すタービンホイール1および各部の符号を参照すれば、上述した評価方法によって、少なくとも本体部2の領域および翼部3の領域を含む複数の領域について、表面酸化層を除く断面組織を対象として結晶粒度番号およびそれに基づいた平均粒径を求める。本体部2の領域は厚肉の部位であり、翼部3の領域は薄肉の部位である。このため、本体部2の領域の金属組織と翼部3の領域の金属組織とは、互いに異なっていることが多い。本体部2の領域の金属組織は、ノーズ部4において本体部2に近い厚肉部分の領域の金属組織と似ていることが多い。翼部3の領域の金属組織は、水かき部5において外縁に近い薄肉部分の領域の金属組織と似ていることが多い。このため、少なくとも本体部2の領域と翼部3の領域の金属組織を比較すると、羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)全体の金属組織を対象として、結晶粒径のばらつきを評価しやすい。
このとき、少なくとも本体部2の領域および翼部3の領域を含む複数の領域について、その複数の領域それぞれの結晶粒度番号を求め、求めた複数の領域それぞれの結晶粒度番号に対応する平均粒径を求める。そして、複数の領域について求めた複数の平均粒径のうちの最小値を最小粒径Gmin、複数の領域について求めた複数の平均粒径のうちの最大値を最大粒径Gmax、および(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標をGrと呼ぶ。本発明の羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール1)においては、この指標Grが0.6以下となっている。これは、羽根車形状を有する焼結部材の全体に亘って、金属組織を構成する結晶の粒径のばらつきが小さいことを示している。
次に、上述した製造方法により作製された発明例1、2と、上述した製造方法とは異なる方法により作製された比較例1を用いて、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の金属組織を構成する結晶の粒径のばらつきが小さいことを説明する。
発明例1、2は、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の一実施形態であるタービンホイールである。比較例1は、羽根車形状を有する鋳造部材であるタービンホイールである。これらのタービンホイールは、いずれも、本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5を備えている。なお、発明例1、2および比較例1のタービンホイールにおいて、各部の呼称およびその符号は図2を参照する。
<発明例1>
発明例1のタービンホイールは、その直径φが45mm、その高さHが28mmである。質量比で、Ti−33%Al−2.6%Cr−4.8%Nbの組成を有するチタンアルミ合金系の金属(金属Aと呼ぶ)の粉末とバインダを含む混練材料を用いて、メタルインジェクション法により成形体を形成した。
この金属Aの粉末(金属Aの粒子の集合体)は、最大粒径が45μmとなるように篩い分けされ、積算体積分布曲線から求まるメジアン径d50は26.4μm、d90は43.4μmおよびd10は12.8μmであった。したがって、(d90−d10)/d50で表す指標は1.16となる。この金属Aの粉末のメジアン径d50は、本発明において好ましいとする5μm以上50μm以下の範囲に入っている。参考までに、この金属Aの素粉末(篩い分け前の粉末)を、最大粒径が75μmとなるように篩い分けした場合のd50は35.5μm、d90は65.1μm、d10は15.4μm、および上記指標は1.40であった。また、この金属Aの素粉末(篩い分け前の粉末)を、最大粒径が90μmとなるように篩い分けした場合のd50は43.0μm、d90は81.6μm、d10は17.2μm、および上記指標は1.50であった。
続いて、上記成形体からバインダを消失させるとともに、この成形体を構成している金属Aの粉末を保持温度1400℃(保持時間8h)で焼結させて焼結体を得て、この焼結体から羽根車形状を有するタービンホイール(HIPなし焼結部材)を得た。金属Aの示差走査熱量分析による固相線温度は1457℃であった。したがって、この保持温度(1400℃)は、金属Aの固相線温度の96%程度である。得られたタービンホイール(HIPなし焼結部材)は、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の一実施形態である。
その後、得られたタービンホイール(HIPなし焼結部材)にHIP処理を行って、金属組織に残存する空孔をつぶすとともに金属組織を構成する結晶の粒径を変化させたタービンホイール(HIPあり焼結部材)を得た。得られたタービンホイール(HIPあり焼結部材)は、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の一実施形態である。HIP処理は、保持温度1360℃(固相線温度の93%程度)、保持圧力122MPa、保持時間2.3時間の条件で行った。なお、このHIP処理における結晶粒の成長の速さは240.5μm/h(表1参照)であった。この結晶粒の成長の速さは、HIPなし焼結部材とHIPあり焼結部材の製品平均粒径の差をHIP処理の保持時間で除して求まる値である。
上述した製造方法により得られた発明例1のタービンホイール(HIPあり焼結部材)の平均粒径と、焼結後にHIP処理を行わなかった焼結部材(HIPなし焼結部材)の平均粒径とを測定した。それぞれのタービンホイールの本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5のそれぞれの領域について、平均粒径を同様に測定した。例えば、本体部2の領域において平均粒径を測定する際には、本体部2における任意の3箇所について、上述したASTM−E112に規定される比較法による求め方にしたがって、任意の3箇所それぞれの結晶粒度番号を求め、求めた任意の3箇所それぞれの結晶粒度番号に対応する平均粒径をASTM−E112の付表により求め、さらに、求めた任意の3箇所それぞれの平均粒径から平均値を求め、求めた平均値を本体部の代表平均粒径とした。
それぞれのタービンホイール(HIPあり焼結部材とHIPなし焼結部材)において、上記本体部2の領域と同様にして、翼部3、ノーズ部4および水かき部5のそれぞれの領域についても、それぞれの代表平均粒径を求めた。また、本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5のそれぞれの領域の代表平均粒径から平均値を求め、求めた平均値をそのタービンホールの平均粒径(製品平均粒径と呼ぶ)とした。また、それぞれのタービンホイール(HIPあり焼結部材とHIPなし焼結部材)において、代表平均粒径のうちの最小値を最小粒径Gmin、代表平均粒径のうちの最大値を最小粒径Gmaxとし、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grを求めた。
<発明例2>
発明例2のタービンホイールは、その直径φが65mm、その高さHが45mmである。質量比で、Ti−33%Al−2.6%Cr−4.8%Nbの組成を有するチタンアルミ合金系の金属の粉末とバインダを含む混練材料を用いて、メタルインジェクション法により成形体を形成した。この金属の粉末は、発明例1と同じ金属(金属A)の粉末である。
続いて、形成した成形体からバインダを消失させるとともに、この成形体を構成している金属Aの粉末を保持温度1400℃(保持時間8h)で焼結させて、タービンホイール(HIPなし焼結部材)を得た。得られたタービンホイール(HIPなし焼結部材)は、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の一実施形態である。
その後、得られたタービンホイール(HIPなし焼結部材)にHIP処理を行って、金属組織に残存する空孔をつぶすとともに金属組織を構成する結晶の粒径を変化させたタービンホイール(HIPあり焼結部材)を得た。得られたタービンホイール(HIPあり焼結部材)は、羽根車形状を有する本発明の焼結部材の一実施形態である。HIP処理は、保持温度1360℃(固相線温度の93%程度)、保持圧力122MPa、保持時間2.3時間の条件で行った。このHIP処理における結晶粒の成長の速さは86.1μm/h(表2参照)であった。この結晶粒の成長の速さは発明例1と同様に求めた。
上述した製造方法により得られた発明例2のタービンホイール(HIPあり焼結部材)の平均粒径と、焼結後にHIP処理を行わなかった焼結部材(HIPなし焼結部材)の平均粒径とを測定した。発明例1の場合と同様にして、発明例2についても、それぞれのタービンホイールの本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5のそれぞれの領域について、代表平均粒径および製品平均粒径を求めた。また、それぞれのタービンホイール(HIPあり焼結部材とHIPなし焼結部材)において、代表平均粒径のうちの最小値を最小粒径Gmin、代表平均粒径のうちの最大値を最小粒径Gmaxとし、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grを求めた。
<比較例1>
比較例1のタービンホイールは、その直径φが55mm、その高さHが38mmである。質量比で、Ti−30%Al−0.7%Cr―14%Nbの組成を有するチタンアルミ合金系の溶湯を用いたロストワックス精密鋳造法により、タービンホイールを作製した。なお、上述した焼結部材と同様に、HIP処理を行わないものをHIPなし鋳造部材と呼び、HIP処理を行ったものをHIPあり鋳造部材と呼ぶ。
その後、作製したタービンホイール(HIPなし鋳造部材)にHIP処理を行って、金属組織に残存する空孔をつぶしたタービンホイール(HIPあり鋳造部材)を得た。このHIP処理は、金属組織形態の変化を対比するために発明例1、2と同様に保持することとし、保持温度1360℃、保持圧力122MPa、保持時間2.3時間の条件で行った。このHIP処理における結晶粒の成長の速さは37.7μm/h(表3参照)であった。この結晶粒の成長の速さは発明例1と同様に求めた。
上述した製造方法により得られた比較例1のタービンホイール(HIPあり鋳造部材)の平均粒径と、鋳造後にHIP処理を行わなかった鋳造部材(HIPなし鋳造部材)の平均粒径とを測定した。発明例1の場合と同様にして、比較例1についても、それぞれの鋳造部材の本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5のそれぞれの領域について、代表平均粒径および製品平均粒径を求めた。また、それぞれのタービンホイール(HIPあり鋳造部材とHIPなし鋳造部材)において、代表平均粒径のうちの最小値を最小粒径Gmin、代表平均粒径のうちの最大値を最小粒径Gmaxとし、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grを求めた。
発明例1、2および比較例1それぞれのタービンホイールについて、上述した評価方法により求めた結果をまとめて、表1〜3に示す。なお、各表中に示す製品平均粒径の変化率は、HIP処理後の製品平均粒径をHIP処理前の製品平均粒径で除して求まる値である。この変化率は、タービンホイール(焼結部材または鋳造部材)の金属組織を構成する表面酸化層を除く部分の結晶粒がHIP処理によって成長し、結晶粒径(製品平均粒径)が変化して大きくなる度合い(倍率)を示している。
表1に示すように、発明例1のHIP処理を行わないタービンホイール(HIPなし焼結部材)では、最も代表平均粒径が小さかったのは翼部3の領域と本体部2の領域であり、その最小粒径Gminは151.0μmであった。また、最も代表平均粒径が大きかったのはノーズ部4の領域と水かき部5の領域であり、その最大粒径Gmaxは179.6μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0.19となった。また、製品平均粒径は165.3μmであった。一方、発明例1のHIP処理を行ったタービンホイール(HIPあり焼結部材)では、各部の領域の代表平均粒径は等しく718.4μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0となった。また、製品平均粒径は718.4μmであった。
これにより、焼結部材である発明例1のタービンホイールの場合は、HIP処理によって製品平均粒径を大きく変化させることができ、その変化率(倍率)が4.3倍であるのを確認することができた。
表2に示すように、発明例2のHIP処理を行わないタービンホイール(HIPなし焼結部材)では、最も代表平均粒径が小さかったのは翼部3の領域であり、その最小粒径Gminは151.0μmであった。また、最も代表平均粒径が大きかった領域は水かき部5であり、その最大粒径Gmaxは213.6μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0.41となった。また、製品平均粒径は181.0μmであった。一方、発明例2のHIP処理を行ったタービンホイール(HIPあり焼結部材)では、最も代表平均粒径が小さかったのは翼部3の領域であり、その最小粒径Gminは302.1μmであった。また、最も代表平均粒径が大きかったのは水かき部5の領域と本体部2の領域であり、その最大粒径Gmaxは427.2μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0.41となった。また、製品平均粒径は378.9μmであった。
これにより、焼結部材である発明例2のタービンホイールの場合も発明例1と同様に、HIP処理によって製品平均粒径を大きく変化させることができ、その変化率(倍率)が2.1倍であるのを確認することができた。
表3に示すように、比較例1のHIP処理を行わないタービンホイール(HIPなし鋳造部材)では、最も代表平均粒径が小さかったのは翼部3の領域と水かき部5の領域であり、その最小粒径Gminは254.0μmであった。また、最も代表平均粒径が大きかったのは本体部2の領域であり、その最大粒径Gmaxは427.2μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0.68となった。また、製品平均粒径は323.6μmであった。一方、比較例1のHIP処理を行ったタービンホイール(HIPあり鋳造部材)では、最も代表平均粒径が小さかったのはノーズ部4の領域であり、その最小粒径Gminは359.2μmであった。また、最も代表平均粒径が大きかったのは本体部2の領域、翼部3の領域および水かき部5の領域であり、その最大粒径Gmaxは427.2μmであった。したがって、(Gmax−Gmin)/Gminで表す指標Grは0.19となった。また、製品平均粒径は410.2μmであった。
これにより、鋳造部材である比較例1のタービンホイールの場合も、HIP処理によって製品平均粒径を大きく変化させることができ、その変化率(倍率)が1.3倍であるのを確認することができた。しかし、鋳造部材である比較例1のタービンホイールの場合は、焼結部材である発明例1および発明例2のタービンホイールの場合と比べて、HIP処理によって変化する製品平均粒径の変化率(倍率)が小さく1.3倍であり、2倍を超えて大きく変化するほどに明確な作用効果が得られなかった。
以上のように、HIP処理を行わない場合、焼結部材である発明例1および発明例2の製品平均粒径は、鋳造部材である比較例1の製品平均粒径よりも小さい。また、焼結部材である発明例1および発明例2の製品平均粒径は300μm以下であるのに対し、鋳造部材である比較例1の製品平均粒径は300μmよりも大きい。また、HIP処理を行わない場合の指標Grを見ると、焼結部材である発明例1の0.19および発明例2の0.41に対し、鋳造部材である比較例1はより大きく0.68である。これは、焼結部材であるタービンホイールは、鋳造部材であるタービンホイールと比べて、タービンホイールの全体に亘って、金属組織を構成する結晶の粒径のばらつきが小さいことを示している。焼結部材である発明例1および発明例2では、HIP処理の前後で指標Grが大きく変化せず、結晶粒径のばらつきが変化しなかった。しかし、鋳造部材である比較例1では、HIP処理の前後で指標Grが0.68から0.19へと大きく変化し、結晶粒径のばらつきが小さくなった。これは、焼結部材であるタービンホイールは、鋳造部材であるタービンホイールと比べて、HIP処理により、金属組織を構成する結晶の粒径のばらつきが変化するのを抑制しながら、製品平均粒径が300μm以下の比較的小さい結晶粒を大きく成長させることができることを示している。
したがって、例えば、自動車などのエンジンに用いるターボチャージャに搭載されるタービンホイールなどの羽根車形状を有する部材において、この部材に求められる機械的特性を満足するように金属組織形態(特に結晶粒径)を制御しようとするときには、比較例1のような鋳造部材よりも、発明例1、2のような焼結部材が好適であり、金属組織を構成する結晶の粒径の大きさの制御を容易に行うことができると考えられる。
本発明に係る部材は、例えば図1に示すタービンホイール1のように、本体部2、翼部3、ノーズ部4および水かき部5を備える羽根車形状を有する部材である。こうした羽根車形状を有する部材は、薄肉の部位と厚肉の部位を有している。図1に示すタービンホイール1の場合は、翼部3や水かき部5は薄肉の部位であり、ノーズ部4や本体部2は厚肉の部位である。また、上記発明例1のタービンホイールにおいて、翼部3の平均的な厚みは1.3mm、本体部2の平均的な厚みは17mmである。上記発明例2のタービンホイールにおいて、翼部3の平均的な厚みは1.5mm、本体部2の平均的な厚みは30mmである。上記比較例1のタービンホイールにおいて、翼部3の平均的な厚みは1.5mm、本体部2の平均的な厚みは25mmである。つまり、発明例1、2および比較例1のいずれのタービンホイールにおいても、各部位を平均的な厚みで評価すると、最も厚肉の部位は最も薄肉の部位の10倍以上の厚みがあり、薄肉の部位と厚肉の部位を有していることが分かる。
このように、本発明に係る図1に示すタービンホイールなどの羽根車形状を有する部材は、厚みが大きく異なる複数の部位が混在している。したがって、各部位の厚みの違いによる熱の伝わりにくさなどに起因して、製造過程でタービンホイール全体の金属組織を均等的な結晶粒径に形成することは容易ではない。また、タービンホイールなどの金属組織を構成する結晶粒は、HIP処理を行ってある程度まで成長させることができるが、結晶粒の成長に連れて結晶粒径のばらつきが大きくなることがある。薄肉の部位と厚肉の部位が混在する羽根車形状を有するタービンホイールなどでは、HIP処理を行わなくても結晶粒径のばらつきが大きくなるおそれがある。例えば、比較例1のタービンホイール(HIPなし鋳造部材)では、全体の金属組織の結晶粒径(製品平均粒径)のばらつきを示す指標Grが0.6を超えるような大きな値になっている。こうした結晶粒径のばらつきが大きいタービンホイールなどでは、比較例1とは異なり、HIP処理条件によってはHIP処理を行うことによって結晶粒径のばらつきが一層大きくなることもある。
また、羽根車形状を有する部材であるタービンホイールに求められる種々の機械的特性の中には、結晶粒径の増大に連れて良好になる機械的特性もあれば、結晶粒径の増大に連れて劣化する機械的特性もある。一例を挙げると、チタンアルミ合金系の金属組織を有するタービンホイールなどの場合、結晶粒径が適度に小さい金属組織であると室温から800℃付近までの機械的強度や延性が向上し、結晶粒径が適度に大きい金属組織であると900℃以上の機械的強度(高温強度)が向上する。こうしたことから、タービンホイールなどに使用環境に適合する機械的特性を持たせるために、金属組織を構成する結晶の粒径を適度な大きさに形成するのが好ましいと考えられる。
そこで、発明例1、2のタービンホイール(焼結部材)のように本発明の焼結部材の製造方法は有用である。これにより、HIP処理を行わないHIPなし焼結部材でも、HIP処理を行ったHIPあり焼結部材でも、全体の金属組織の結晶粒径のばらつきが小さく指標Grが0.6以下と小さい、羽根車形状を有する焼結部材を得ることができる。
本発明の焼結部材の製造方法によれば、求められる機械的特性が様々に異なる多様なタービンホイールなどに対して柔軟に対応できる焼結部材を得ることができる。例えば、求められる機械的特性を満たすために比較的小さな結晶粒径が求められる場合がある。HIP処理を行わない場合の本発明の焼結部材(HIPなし焼結部材)は結晶粒径が小さく、例えば発明例1、2はいずれも比較例1よりも小さく、その製品平均粒径は300μmより小さい。逆に、求められる機械的特性を満たすために比較的大きな結晶粒径が求められる場合がある。本発明の焼結部材(HIPなし焼結部材)は、HIP処理が行われて結晶粒が成長しても、発明例1、2のHIPあり焼結部材の指標GrがHIPなし焼結部材の指標Grと同等以下であって、指標Grが大きくなるような変化が生じなかった。このように、本発明の焼結部材の製造方法で得られた焼結部材(HIPなし焼結部材)は、HIP処理が行われても各部位の金属組織の結晶粒径のばらつきは小さいままである。こうしたことから、例えば短時間保持のHIP処理を行って金属組織の結晶粒径の増大を抑制しながら内部の空孔をつぶすことにより、所望の機械的特性を満たすタービンホイールなどを得ることができる。また、全体として均一な機械的特性を有している本発明の焼結部材を信頼性の高い製品として、例えば自動車などのエンジンに用いるターボチャージャに搭載されるタービンホイールなどの羽根車形状を有する製品として、提供することができる。
また、上述したように、HIP処理を行わない場合の本発明の焼結部材(HIPなし焼結部材)は製品平均粒径がいずれも300μmより小さく、300μmを超える大きな製品平均粒径を持つ例えば比較例1のHIPなし鋳造部材と比べて、HIP処理における金属組織の結晶粒の成長の伸び代がより大きくなると考えられる。また、簡便のため昇温過程の結晶成長を無視すると、上記伸び代が例えば120μmの部材に対して2時間保持するHIP処理を行うとすれば、結晶粒径の見込み変化量が最大で1分ごとに10μmになると考えられる。これに対して、上記伸び代が例えば480μmの部材に対して2時間保持するHIP処理を行うとすれば、上記同様に考えて、結晶粒径の見込み変化量が最大で1分ごとに40μmになると考えられる。本発明の焼結部材(HIPなし焼結部材)は結晶粒径が小さいので、上述した発明例1のように4倍以上の上記伸び代が見込める場合もある。こうしたことから、HIP処理を行わなかった場合の本発明の焼結部材は、HIP処理において保持温度や保持時間などの適切な選択によって金属組織の結晶粒径の大きさのきめ細かな制御が容易になると考えられる。したがって、所望の結晶粒径を有する羽根車形状を有する焼結部材(例えばタービンホイール)を容易に得ることができると考えられる。
このように、本発明によれば、羽根車形状を有し、HIP処理を行わない状態で、結晶粒径が小さく、かつ、結晶粒径のばらつきが小さい金属組織形態を有する焼結部材(HIPなし焼結部材)となる。また、さらにHIP処理を行うことによって、羽根車形状を有し、各部位の結晶粒径のばらつきを小さく抑えたまま、結晶粒径を様々な大きさに成長させた焼結部材(HIPあり焼結部材)を得ることができる。このため、本発明によれば、羽根車形状を有する多様な仕様のタービンホイールなどを製造するための出発材料として適した製品(焼結部材)を提供することができる。
なお、本発明とは異なり、製品平均粒径が300μmより大きい、例えば比較例1の鋳造部材のような金属組織を有する部材では、比較的小さな結晶粒径によってもたらされる機械的特性が求められる場合は対応しにくい。
以上のように、本発明の焼結部材は、金属組織の結晶粒径が小さく、かつ結晶粒径のばらつきが小さく、さらにHIP処理を行っても各部位の結晶粒径のばらつきが大きく変化しない。しがたって、HIP処理を行っていない本発明の焼結部材は、さらにHIP処理を行うことによって、金属組織の結晶粒径の大きさをきめ細かく制御しやすい。このように、本発明によれば、金属組織形態(特に結晶粒径)を容易に制御することが可能な焼結部材の製造方法およびそれを用いて焼結部材を提供することができる。