JP6703661B2 - 銅イオン含有水溶液の製造方法及び製造装置 - Google Patents

銅イオン含有水溶液の製造方法及び製造装置 Download PDF

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Description

本願は、金属銅から銅イオン含有水溶液を効率的に製造可能な方法及び装置を開示する。
金属銅は硫酸に直接溶解し難いことから、酸溶液(例えば、硫酸や塩酸)への溶解操作によって銅イオン含有水溶液を得ることは困難である。そのため、効率的に銅イオン含有水溶液を製造する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、イオン交換膜を用いた電気透析によって硫酸銅水溶液を効率的に製造する技術が開示されている。
特開2008−038213号公報
特許文献1に開示された方法では水素イオン交換膜(陽イオン交換膜)を使用しているが、水素イオン交換膜のみを用いた電気透析にあっては、水素イオンと銅イオンの選択透過性があまり高くないことから、銅イオンの一部が陰極室に透過してしまい、銅イオンの溶出を基準とした硫酸銅の収率が低下してしまうという問題がある。このような問題は、例えば、塩酸から塩化銅水溶液を得る場合等、金属銅から各種銅イオン含有水溶液を得る場合に同様に生じるものと考えられる。尚、特許文献1に開示された方法では、希硫酸水溶液を使用しており、硫酸酸性を示す硫酸銅水溶液(HSO+CuSO)しか得ることができない。よって、得られた硫酸銅水溶液の用途が限定されてしまうという問題もあった。
そこで本願は、効率的且つ高収率にて銅イオン含有水溶液を製造することが可能な方法及び装置を開示する。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
電気透析を利用して陽イオン透過膜の一面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S1)と、前記工程(S1)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S2)と、前記工程(S2)の後で、電気透析を利用して前記陽イオン透過膜の他面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S3)とを備え、前記工程(S1)は下記工程(S1−1)〜(S1−4)を含み、前記工程(S3)は下記工程(S3−1)〜(S3−4)を含み、前記陽イオン透過膜が、一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、銅イオン含有水溶液の製造方法
を開示する。
(S1−1)前記陽イオン透過膜の一面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する工程
(S1−2)前記陽イオン透過膜の他面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する工程
(S1−3)前記陽イオン透過膜を介した電気透析によって、前記水溶液に含まれる前記1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程
(S1−4)前記陽イオン透過膜の他面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって該銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる工程
(S3−1)前記陽イオン透過膜の他面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する工程
(S3−2)前記陽イオン透過膜の一面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する工程
(S3−3)前記陽イオン透過膜を介した電気透析によって、前記水溶液に含まれる前記1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程
(S3−4)前記陽イオン透過膜の一面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって該銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる工程
本開示の製造方法において、前記1価の陽イオンがナトリウムイオンであることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記水溶液が陰イオンとして硫酸イオンを含むことが好ましい。
本開示の製造方法において、前記工程(S3)の後で前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S4)をさらに備えることが好ましい。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
陽イオン透過膜の一面側に第1室、他面側に第2室が設けられており、前記第1室と前記第2室とが電気化学的に接続されており、前記第1室と前記第2室との極性を反転させる極性反転手段が備えられており、前記第1室には切り替え手段を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源と銅キレート錯体溶液の供給源とが接続されており、前記第2室には切り替え手段を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源と銅キレート錯体溶液の供給源とが接続されており、前記陽イオン透過膜が、一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、銅イオン含有水溶液の製造装置
を開示する。
本開示の製造装置において、前記1価の陽イオンがナトリウムイオンであることが好ましい。
本開示の製造装置において、前記水溶液が陰イオンとして硫酸イオンを含むことが好ましい。
本開示の製造装置において、前記第1室、前記陽イオン透過膜及び前記第2室からなる構成物が、複数スタックされてなることが好ましい。
上記本開示の製造方法では、銅イオン含有水溶液の製造(銅イオンの溶出)を行う側とは反対側において、銅キレート錯体溶液の電気分解を行うことを前提としたが、当該反対側における反応は特に限定されるものではない。この点、本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、
陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S11)と、前記工程(S11)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S12)と、前記工程(S12)の後で、陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S13)と、を備え、前記陽イオン透過膜が、前記一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、前記他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、銅イオン含有水溶液の製造方法
を開示する。
この場合、銅イオンの溶出を行う側において、種々の方法により「金属銅」を事前に設置しておけばよい。
尚、本願において、「陽イオン透過膜」とは、一面側表面及び他面側表面に正荷電層(陰イオン交換層)を備えるとともに、当該正荷電層の間に負荷電層(陽イオン交換層)を備えるものであればよく、正荷電層は表面改質処理がなされていてもよい。
本開示の製造方法及び製造装置によれば、電気透析を利用して1価の陽イオンを含む水溶液中に銅イオンを一段の操作で効率的に溶出させることができる。また、特定の層を備えた陽イオン透過膜を使用することにより、多価イオンである銅イオンの透過を抑えながら、1価の陽イオンを選択的に他面側へと透過させることができる。さらに、S1において一面側の系内で銅イオンの溶出を、他面側の系内で銅イオンの析出を行った後で、S2において一面側の系内と他面側の系内とで極性を反転させ、引き続くS3において他面側の系内で銅イオンの溶出を、一面側の系内で銅イオンの析出を行うことができる。すなわち、供給溶液を切り替えるとともに極性を反転させるだけで、銅イオン含有水溶液を連続的に製造することができる。
以上の通り、本開示の製造方法及び製造装置によれば、効率的且つ高収率にて銅イオン含有水溶液を製造することが可能である。
銅イオン含有水溶液の製造方法(S10)を説明するための概略図である。 工程(S1)の流れを説明するための図である。 S1を説明するための概略図である。 工程(S2)を説明するための概略図である。 工程(S3)の流れを説明するための図である。 S3を説明するための概略図である。 陽イオン透過膜1の層構成の一例を概略的に示す図である。 銅イオン含有水溶液の製造装置を説明するための概略図である。 参考例1に係る結果を示す図である。 参考例2に係る結果を示す図である。 参考例3に係る結果を示す図である。 参考例4に係る結果を示す図である。 参考例5に係る結果を示す図である。 参考例6に係る結果を示す図である。 比較例1に係る結果を示す図である。 参考例7にて使用した装置の構成や装置内での電気化学反応を説明するための概略図である。 参考例7に係る結果を示す図である。 実施例1に係る結果を示す図である。 参考例8にて使用した装置の構成や装置内での電気化学反応を説明するための概略図である。 参考例8に係る結果を示す図である。 実施例2にて使用した装置の構成や装置内での電気化学反応を説明するための概略図である。 実施例2に係る結果を示す図である。 実施例3にて使用した装置の構成や装置内での電気化学反応を説明するための概略図である。 実施例3に係る結果を示す図である。
1.銅イオン含有水溶液の製造方法(第1形態)
図1〜6を参照しつつ、陽イオン透過膜を用いて電気透析によって銅イオン含有水溶液を製造する方法(S10)について説明する。
1.1.製造工程の特徴
図1に示すように、S10は、電気透析を利用して陽イオン透過膜の一面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S1)と、該工程(S1)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S2)と、該工程(S2)の後で、電気透析を利用して前記陽イオン透過膜の他面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S3)とを備えている。また、S10では、前記工程(S3)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S4)をさらに備え、該工程(S4)の後で、再度工程(S1)を行うことが好ましい。
1.1.1.S1
図2に示すように、S1においては、下記工程(S1−1)、(S1−2)、(S1−3)及び(S1−4)を行う。
1.1.1.1.S1−1
S1−1においては、陽イオン透過膜の一面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する。1価の陽イオンとしては、陽イオン透過膜を透過し易いことから水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましい。この中でも、得られる銅イオン含有水溶液のpHの低下を抑制できる観点から、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましく、入手性、安全性、作業性等を考慮するとナトリウムイオンが特に好ましい。水溶液中の1価の陽イオン濃度については、特に限定されるものではなく、処理すべき金属銅の量等に合わせて適宜調整可能である。一方で、水溶液に含まれる陰イオンは特に限定されるものではない。例えば、硫酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン等が挙げられる。この中でも、硫酸イオン又は塩化物イオンが好ましく、硫酸イオンが特に好ましい。
S1−1において、水溶液の供給速度や温度等については特に限定されるものではない。S1−1に引き続き行われるS1−3において、電気透析を適切に行うことが可能な条件であればいずれも採用可能である。
1.1.1.2.S1−2
S1−2においては、陽イオン透過膜の他面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する。銅キレート錯体溶液については、銅とキレート剤との錯体を含む溶液であればどのようなものであってもよい。例えば、銅とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との錯体を含む溶液を好ましく用いることができる。溶媒は特に限定されるものではないが、好ましくは水を用いる。銅キレート錯体溶液は、例えば、本発明者及び本出願人による先行技術である特開2014−095132号公報に記載されたような、「レアメタルの回収方法において生じた銅キレート錯体」を含む溶液を利用することができる。ここで、当該レアメタルの回収方法においても電気透析や電気分解が利用される。すなわち、銅イオン含有水溶液の製造方法S10と、当該レアメタルの回収方法とで、装置の共用或いは装置の電気化学的な連結が可能である。言い換えれば、当該レアメタルの回収方法における一工程として、S10を組み込むことも可能である。
S1−2において、銅キレート錯体溶液の供給速度や温度等については特に限定されるものではない。S1−2に引き続き行われるS1−4において、電気透析を適切に行うことが可能な条件であればいずれも採用可能である。
1.1.1.3.S1−3
S1−3においては、陽イオン透過膜を介した電気透析によって、上記の水溶液に含まれる1価の陽イオンを陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を水溶液に銅イオンとして溶出させる。このように、S1−3では、金属銅を一段階の処理で銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を得ることができる。金属銅は系外(電気透析を行う室外)で準備・精製等したものを用いてもよいし、系内(電気透析を行う室内)で析出させたものを用いてもよい。特に、同一又は類似の装置を利用して金属銅の析出と銅イオン含有水溶液の製造との双方を行うことができる観点から、系内(電気透析を行う室内)で析出させた金属銅を用いることが好ましい。すなわち、後述するように、銅キレート錯体溶液の電気分解によって析出させた金属銅を用いることができる。
S1−3において、電気透析を行う際の電流密度や水溶液の供給速度や温度等の各種条件については特に限定されるものではない。製造規模等に応じて適宜調整すればよい。尚、S1−3における電気透析は、バッチ式で行われてもよく、連続式で行われてもよい。或いは、S1−3において一面側の系内に供給された水溶液を系外に排出した後、再度、一面側の系内に戻すようにする(水溶液を循環させるようにする)こともできる。このように、水溶液を循環させる場合、電気透析の進行とともに、当該水溶液に含まれる銅イオンの濃度が増大する。すなわち、銅イオンを高濃度で含む水溶液を容易に製造することができる。
1.1.1.4.S1−4
S1−4においては、陽イオン透過膜の他面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる。上述の通り、S10では、S1−3において、陽イオン透過膜の一面側の系内において電気透析によって銅イオンの溶出を行うことから、陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内とは電気化学的に接続されることが前提となる。具体的には、陽イオン透過膜の一面側の系内を陽極、他面側の系内を陰極と接続して、一面側の系内において銅イオンの溶出を行う一方、他面側の系内において銅キレート錯体溶液の電気分解を行うことができる。
S1−4において、電気分解を行う際の電流密度や銅キレート錯体溶液の供給速度や温度等の各種条件については特に限定されるものではない。製造規模等に応じて適宜調整すればよい。尚、S1−4における電気分解は、バッチ式で行われてもよく、連続式で行われてもよい。或いは、S1−4において他面側の系内に供給された銅キレート錯体溶液を系外に排出した後、再度、一面側の系内に戻すようにする(銅キレート錯体溶液を循環させるようにする)こともできる。このように、銅キレート錯体溶液を循環させる場合、電気分解の進行とともに、当該水溶液に含まれる銅キレート錯体の濃度が低下する。すなわち、銅キレート錯体溶液に含まれる銅成分を高い収率で金属銅として析出させることができるとともに、キレート剤を高い収率で再生することができる。
S10において、S1−3とS1−4とは、同時に行われてもよいし、交互に行われてもよい。銅イオン含有水溶液の製造とキレート剤の再生とを効率的に行う観点からは、S10において、S1−3とS1−4とを同時に行うことが好ましい。
以上の通り、S10では、S1−1〜S1−4によって、陽イオン交換膜の一面側の系内で銅イオンの溶出(銅イオン含有水溶液の製造)を行うことができ、他面側の系内で金属銅の析出やキレート剤の再生を行うことができる。尚、S10は、有害金属イオンによる海洋汚染の除去プロセスにおける一工程として組み込むこともできる。例えば、海洋汚染水を回収したうえで、当該汚染水に対してキレート剤を添加することによって有害金属イオンをキレート錯体として捕捉した後、電気透析を利用して当該有害金属イオンと銅イオンとを置き換えて有害金属を回収するとともに銅キレート錯体を得ることが想定される。このようにして得られる銅キレート錯体から、上述の電気分解によって金属銅と再生キレート剤とを得て、再生キレート剤を有害金属イオンの捕捉に再利用する一方で、上述の電気透析によって金属銅を銅イオンへと転換して再利用することができる。このような形態とすることで、限られた資源で連続的に海洋汚染水から有害金属イオンを除去することができる。
図3に、S1における電気化学反応の一例を示す。図3に示すように、S1では、陽イオン透過膜1の一面側の系内において、1価の陽イオンを含む水溶液を供給し、電気透析によって1価の陽イオンを一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに金属銅5aを銅イオンとして水溶液中に溶出させることができる。一方で、陽イオン透過膜1の他面側の系内において、銅キレート錯体溶液を供給し、当該銅キレート錯体溶液を電気分解することによって、銅キレート錯体から銅イオンを解離させ、他面側の系内に金属銅5bを析出させるとともに、銅イオン解離後のキレート剤の陰イオンに対して、一面側の系内から透過した1価の陽イオンを配位させることによってキレート剤を再生することができる。
1.1.2.S2
図4に示すように、S2においては、陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる。すなわち、S1においては一面側の系内にて銅イオンの溶出を行い、他面側の系内にて金属銅の析出を行うものとしていることから、S1終了後、一面側の系内と他面側の系内の状態は図4(A)の状態となる。すなわち、一面側の系内に存在していた金属銅の少なくとも一部(好ましくは全部)が銅イオンとして溶出し、系外に回収される一方、他面側の系内に金属銅が析出する。このような状態となった後、S2では、図4(B)に示すように、一面側の系内を陰極、他面側の系内を陽極に接続されるように極性を反転させる。これにより、引き続くS3において、陽イオン透過膜1の他面側(Y側)の系内において上記の銅イオンの溶出(銅イオン含有水溶液の製造)を行い、陽イオン透過膜の一面側(X側)の系内において上記の金属銅の析出(及びキレート剤の再生)を行うことができる。
尚、引き続くS3に備えて、S1とS3との間において、S2と同時に、或いは、S2とは別に、陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内とで、供給溶液の種類を切り替える(流路を切り替える)工程(S2’)を備えることが好ましい。すなわち、S2’において、一面側の系内に供給されていた水溶液が他面側の系内に供給されるように切り替える一方、他面側の系内に供給されていた銅キレート錯体溶液が一面側の系内に供給されるように切り替えることが好ましい。
1.1.3.S3
図5に示すように、S3においては、下記工程(S3−1)、(S3−2)、(S3−3)及び(S3−4)を行う。
(S3−1)陽イオン透過膜の他面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する工程
(S3−2)陽イオン透過膜の一面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する工程
(S3−3)陽イオン透過膜を介した電気透析によって、前記水溶液に含まれる前記1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程
(S3−4)陽イオン透過膜の一面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって該銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる工程
S3は、一面側の系内と他面側の系内とで、系内における電気化学反応が入れ替わったこと以外は、S1と同様の工程といえる。例えば図6に示すように、S3では、陽イオン透過膜1の他面側の系内において、1価の陽イオンを含む水溶液を供給し、電気透析によって1価の陽イオンを他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに金属銅5bを銅イオンとして水溶液中に溶出させることができる。一方で、陽イオン透過膜1の一面側の系内において、銅キレート錯体溶液を供給し、当該銅キレート錯体溶液を電気分解することによって、銅キレート錯体から銅イオンを解離させ、他面側に金属銅5aを析出させるとともに、銅イオン解離後のキレート剤の陰イオンに対して、一面側の系内から透過した1価の陽イオンを配位させることによってキレート剤を再生することができる。S3−1〜S3−4の詳細はS1−1〜S1−4にて説明した通りであり、ここでは説明を省略する。
尚、S3−3において、陽イオン透過膜の他面側の系内にある金属銅は、上記S1−4において銅キレート錯体溶液の電気分解によって析出させた金属銅5bである。すなわち、S3−3においては、金属銅を系外で準備する必要はない。
1.1.4.S4
S10では、S3の後で、陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S4)をさらに備えることが好ましい。これにより、S4の後で、例えば、S1を再度行うことができる。この場合、S1−3において、陽イオン透過膜の一面側の系内にある金属銅は、上記S3−4において銅キレート錯体溶液の電気分解によって析出させた金属銅5aである。すなわち、S4に引き続くS1においては、S1−3を行うに際して金属銅を系外で準備する必要はない。このように、S4を介してS1〜S3を繰り返し行うことで、銅イオン含有水溶液を連続的に製造することができる。
1.2.陽イオン透過膜の特徴
図7に本開示の製造方法にて用いられる陽イオン透過膜の層構成の一例を概略的に示す。図7に示すように、陽イオン透過膜1は、一面側の表面に設けられた第1の正荷電層1aと、他面側の表面に設けられた第2の正荷電層1bと、第1の正荷電層1a及び第2の正荷電層1bの間に設けられた負荷電層1cとを備えている。
従来、陽イオン交換膜のみを用いた電気透析にあっては、1価の陽イオンと銅イオン等の多価の陽イオンとの選択透過性があまり高くないことから、銅イオンの一部が他面側(陰極側)に透過してしまい、水酸化銅が生成し、一面側における銅イオンの収率が低下してしまうという問題があった。
一方、S10においては、所定の層を有するイオン透過膜1を用いることにより、電気透析時、1価の陽イオンと多価の陽イオンとの選択透過性を高め、1価の陽イオンを優先的に透過させることができる。すなわち、水溶液から1価の陽イオンを優先的に一面側の系内から他面側の系内に透過させるとともに、銅イオンの他面側の系内への透過を抑制することができる。或いは、水溶液から1価の陽イオンを優先的に他面側の系内から一面側の系内に透過させるとともに、銅イオンの一面側の系内への透過を抑制することができる。これにより、例えば、99%以上といった高い収率で銅イオン含有水溶液を製造することができる。
また、本発明者の知見によれば、陽イオン透過膜を介して電気透析を行う際に陽極側に負荷電層(陽イオン交換層)が存在すると、電気透析の経過とともに系内の電圧が過度に上昇し、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造できなくなる場合がある(未公開先願:特願2015−066231)。また、本発明者の新たな知見によれば、陽イオン透過膜を介して電気透析を行う際に陽極側に負荷電層(陽イオン交換層)が存在すると、陽イオン透過膜の負荷電層表面に金属銅が析出・付着してしまう。このようなことから、陽イオン透過膜を介して電気透析や電気分解を行う際は、陽イオン透過膜の正荷電層(陰イオン交換層)を陽極側に存在させることが有効と考えられる。しかしながら、例えば、「一面側表面に正荷電層を他面側表面に負荷電層を有するバイポーラ膜」を介して電気透析を行う場合、バイポーラ膜の正荷電層を常に陽極側に存在させるためには、極性反転に合わせて、バイポーラ膜の向きを反転させる(正荷電層を一面側から他面側に、負荷電層を他面側から一面側にする)必要があり、製造工程が煩雑となる虞がある。
一方、S10において用いられる陽イオン透過膜1は、一面側表面に正荷電層1aを有するとともに、他面側表面にも正荷電層1bを有することから、電気透析の際、一面側の系内と他面側の系内とを極性反転させたとしても、常に陽極側には陽イオン透過膜1の正荷電層が存在することとなる。よって、S10では、電気透析における電圧の上昇を抑えることができ、さらには膜表面における金属銅の析出も抑えることができ、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造することができる。
陽イオン透過膜1の正荷電層1a、1bや負荷電層1cは、例えば、炭化水素系のバイポーラ膜として市販されているアストム社のネオセプタCMS、CIMSに備えられる正荷電層や負荷電層と同様の層とすることができる。尚、上記の市販のバイポーラ膜を2枚用意し、負荷電層同士が接触するように互いに重ね合わせることで、一面側表面及び他面側表面に正荷電層を備えるとともに当該正荷電層の間に負荷電層を備える陽イオン透過膜を構成することもできる。また、陽イオン透過膜1は、価数の異なるイオン間の選択透過性を高めるために、負荷電層1cにポリカチオンによる改質処理を施したものや、ポリカチオン層を固定化したものを使用してもよい。
尚、陽イオン透過膜1全体の厚みや、正荷電層1a、1b及び負荷電層1cの各厚みについては、特に限定されるものではない。銅イオン含有水溶液の製造規模や電気透析時の電圧等を考慮して、適宜調整すればよい。また、陽イオン透過膜1は、一面側表面及び他面側表面に正荷電層1a、1bを備え、中間層として負荷電層1cを備えるものであればよく、陽イオン透過性を阻害しない範囲で、負荷電層1c以外の中間層を備えていてもよい。
以上のように、S10によれば、電気透析を利用して1価の陽イオンを含む水溶液中に銅イオンを一段の操作で効率的に溶出させることができる。また、特定の層を備えた陽イオン透過膜1を使用することにより、多価イオンである銅イオンの透過を抑えながら、1価の陽イオンを選択的に透過させることができる。さらに、S1において一面側の系内で銅イオンの溶出を、他面側の系内で銅イオンの析出を行った後で、S2において一面側の系内と他面側の系内とで極性を反転させ、引き続くS3において他面側の系内で銅イオンの溶出を、一面側の系内で銅イオンの析出を行うことができる。すなわち、供給溶液を切り替えるとともに極性を反転させるだけで、銅イオン含有水溶液を連続的に製造することができる。
2.銅イオン含有水溶液の製造方法(第2形態)
上記S10では、銅イオン含有水溶液の製造(銅イオンの溶出)を行う側の系内とは反対側の系内において、銅キレート錯体溶液の電気分解を行うことを前提としたが、当該反対側の系内における電気化学反応は銅キレート錯体溶液の電気分解に限定されるものではない。すなわち、本願は、銅イオン含有水溶液の製造方法の第2形態として、
陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S11)と、前記工程(S11)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S12)と、前記工程(S12)の後で、陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S13)と、を備え、前記陽イオン透過膜が、前記一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、前記他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、銅イオン含有水溶液の製造方法(S20)
を開示する。
S20においては、銅イオン含有水溶液の製造(銅イオンの溶出)を行う側とは反対側において、電解液を供給するだけでもよい。当該反対側に供給する電解液は、電気を通すものであればよく、種々の溶質を含む溶液を適用することができる。例えば、銅以外の異種金属イオンを含む水溶液等である。銅イオンの溶出を行う側に供給される水溶液と同じものを用いることもできる。当該反対側において、何らかの電解液を供給すれば、銅イオンの溶出を行う側から陽イオン透過膜を介して当該反対側の溶液へと、1価の陽イオンを透過させることができる。
一方、S20においては、S11及びS13を行うにあたって、銅イオンの溶出を行う側において、種々の方法により「金属銅」を事前に設置しておけばよい。「金属銅」は、上述した銅キレート錯体溶液の電気分解によって析出させたものを用いてもよいし、外部にて別個に準備した金属銅を用いてもよい。
尚、S20におけるS11、S12、S13は、上記S10におけるS1−3、S2、S3−3と同様であり、ここでは詳細な説明を省略する。
以上の通り、S20では、「陽イオン透過膜を介した電気透析による銅イオンの溶出(S11)」と「極性反転(S12)」と「陽イオン透過膜を介した電気透析による銅イオンの溶出(S13)」とを順次行う際、陽イオン透過膜として所定の構成を備えるものを用いることで、銅イオンの溶出を行う側(陽極側)に常に陽イオン透過膜の正荷電層が存在することとなる。そのため、電気透析における電圧の上昇を抑えることができ、さらには膜表面における金属銅の析出も抑えることができ、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造することができる。
尚、本開示の銅イオン含有水溶液の製造方法は、銅以外の多価金属イオンを含む水溶液の製造方法として応用することもできると考えられる。すなわち、
陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属を前記水溶液に多価金属イオンとして溶出させる工程(S21)と、前記工程(S21)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S22)と、前記工程(S22)の後で、陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属を前記水溶液に多価金属イオンとして溶出させる工程(S23)と、を備え、前記陽イオン透過膜が、前記一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、前記他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、銅イオン含有水溶液の製造方法(S30)
によって、多価金属イオンを含む水溶液を効率的に製造することができる。この場合の金属としては、例えば、Pb、Cd、Zn等が挙げられる。
3.銅イオン含有水溶液の製造装置
本願では、上記製造方法を実施可能な製造装置についても開示する。上記したS10は、陽イオン透過膜1を設置した電解槽において実施することができる。例えば、図8に示すような製造装置100である。
図8に示すように、銅イオン含有水溶液の製造装置100は、陽イオン透過膜1の一面側に第1室11、他面側に第2室12が設けられており、第1室11と第2室12とが電気化学的に接続されており、第1室11と第2室12との極性を反転させる極性反転手段13が備えられており、第1室11には切り替え手段14、15を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源16と銅キレート錯体溶液の供給源17とが接続されており、第2室12には切り替え手段14、15を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源16と銅キレート錯体溶液の供給源17とが接続されており、陽イオン透過膜1が、一面側の表面に設けられた第1の正荷電層1aと、他面側の表面に設けられた第2の正荷電層1bと、第1の正荷電層1a及び第2の正荷電層1bの間に設けられた負荷電層1cとを備えることを特徴とする。
3.1.第1室及び第2室
製造装置100では、第1室11と第2室12とが陽イオン透過膜1によって区切られている。また、第1室11及び第2室12は、供給源16、17から供給される溶液を室内へと導入するための機構と、室内の溶液を外部へと排出する機構とを備えており、すなわち、第1室11及び第2室12ともに、室内において溶液を連続的に流通させることが可能である。また、第1室11及び第2室12にはそれぞれ電極が設けられており、それぞれ陽極や陰極となり得る。第1室11及び第2室12の具体的な形態については、従来の電解槽と同様の形態とすることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
3.2.極性反転手段
製造装置100は、第1室11と第2室12とが電気化学的に接続されており、当該第1室11及び第2室12に備えられる電極の極性を反転させる極性反転手段13が備えられている。極性反転手段13としては電気回路を切り替える公知のスイッチ等を採用できる。極性反転手段自体は当業者にとっては自明な手段であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
3.3.切り替え手段及び供給源
製造装置100において、供給源16中の水溶液の形態については既に説明した通りである。また、供給源17中の銅キレート錯体溶液の形態についても既に説明した通りである。製造装置100においては、上記の電気透析を利用した銅イオンの溶出と、上記の電気分解を利用した金属銅の析出とを連続的に行うことができるように、第1室11及び第2室12が、切り替え手段14、15を介して、供給源16、17と接続されている。切り替え手段14、15は、流路を切り替えるための公知の手段を採用できる。切り替え手段や供給源自体は当業者にとっては自明なものであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
3.4.陽イオン透過膜
上述の通り、製造装置100は、所定の構成を備える陽イオン透過膜1を備える点に一つの特徴がある。これにより、上述したように、陽極側に常に陽イオン透過膜1の正電荷層が存在することとなり、電気透析における電圧の上昇を抑えることができ、さらには膜表面における金属銅の析出も抑えることができ、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造することができる。
尚、図8では、供給源が一つずつ設けられる形態について説明したが、供給源は2以上ずつ設けられていてもよい。
3.5.その他の構成
尚、上述した通り、S10を実施するにあたっては、S1の前に、陽イオン交換膜1の一面側に金属銅を配置する必要がある。すなわち、製造装置100においては、装置を稼働させてS1を行う前に、第1室11に金属銅を配置しておく。当該金属銅は、上述した通り、銅キレート錯体溶液を電気分解して得られたものであることが好ましい。
製造装置100は、上記の構成を備えていればよく、それ以外の構成(各室の内壁の材質や、電極の種類、形状、大きさ等)については、従来の電解槽と同様の構成とすることができる。
また、製造装置100は、第1室11、陽イオン透過膜1及び第2室12からなる構成物が、複数スタックされたものであってもよい。この場合、構成物はバイポーラ電極を介して複数スタックされることが好ましい(図19及び図21参照)。スタックとすることで、一度に多量の溶液を処理することができ、銅イオン含有水溶液をより効率的に製造することができる。
また、図8においては、供給源16又は17から第1室11又は第2室12に供給された溶液が系外(図8紙面上方)へと排出される形態について例示したが、製造装置100はこの形態に限定されるものではない。第1室11又は第2室12の排出口から系外へと排出された溶液が、再び第1室11又は第2室12の供給口から系内へと戻されるように、製造装置100は一部に循環流路を備えていてもよい。上述したように、循環流路を備えたほうが、高濃度の銅イオン含有水溶液を容易に製造できるものと考えられる。
以上のように、銅イオン含有水溶液の製造装置100によれば、電気透析を利用して1価の陽イオンを含む水溶液中に銅イオンを一段の操作で効率的に溶出させることができる。また、特定の層を備えた陽イオン透過膜1を備えることにより、多価イオンである銅イオンの透過を抑えながら、1価の陽イオンを選択的に他面側へと透過させることができる。さらに、第1室11で銅イオンの溶出を、第2室12で銅イオンの析出を行った後で、極性反転手段13によって第1室11と第2室12とで極性を反転させ、その後、第2室12において銅イオンの溶出を、第1室11において銅イオンの析出を行うことができる。すなわち、切り替え手段14、15を操作して流路を切り替えるとともに極性反転手段13を操作して第1室11と第2室12との極性を反転させるだけで、銅イオン含有水溶液を連続的に製造することができる。
以下、実施例により、本発明に係る硫酸銅水溶液の製造方法及び製造装置について、その効果をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の具体的形態に限定されるものではない。
<参考例1:陽イオン交換膜を用いた電気透析>
陽イオン交換膜(強酸性型陽イオン交換膜 SELEMION CMV、AGCエンジニアリング社製)を用いて、ナトリウムイオンとマグネシウムイオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(CNa)とマグネシウムイオン濃度(CMg)との関係は、CNa+2CMg=90(mol/m)、CNa/(CNa+2CMg)=0.4とし、電流密度は20A/m一定条件として実験を行った。結果を図9に示す。
図9に示すように、電気透析により、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンともに、陽イオン交換膜を透過しており、陽イオン交換膜を用いた場合は、1価の陽イオンと多価の陽イオンとで、選択透過性は認められなかった。
<参考例2:バイポーラ膜を用いた電気透析>
一面側表面に正荷電層を備えるとともに他面側表面に負荷電層を備えるバイポーラ膜(NEOSEPTA CIMS、アストム社製)を用いて、ナトリウムイオンとマグネシウムイオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(CNa)とマグネシウムイオン濃度(CMg)や、電流密度は上記と同様の条件とした。結果を図10に示す。
図10に示すように、電気透析により、ナトリウムイオンはバイポーラ膜を透過する一方、マグネシウムイオンの透過は抑制されており、バイポーラ膜を用いた場合は、1価の陽イオンと多価の陽イオンとで、選択透過性が認められた。
以上の予備実験1の結果から、水溶液に含まれる1価の陽イオンと多価の陽イオンとを選択分離する場合は、正荷電層と負荷電層とを組み合わせた膜を用いた電気透析が有効であることが分かった。
<参考例3:バイポーラ膜を用いた電気透析によるカチオンの選択分離の検討>
上記のバイポーラ膜(NEOSEPTA CIMS、アストム社製)を用いて、ナトリウムイオンと銅イオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(CNa)と銅イオン濃度(CCu)との関係は、CNa+2CCu=60(mol/m)、CNa/(CNa+2CCu)=0.5とし、電流密度は20A/m一定条件として実験を行った。結果を図11に示す。
図11に示すように、電気透析により、ナトリウムイオンはバイポーラ膜を透過する一方、銅イオンの透過は抑制されており、正荷電層と負荷電層とを組み合わせた場合は、1価の陽イオンと銅イオンとで、選択透過性が確認できた。
以上の結果を踏まえて、水溶液に含まれる1価の陽イオンをバイポーラ膜の一面側から他面側へと透過させるとともに、一面側において金属銅を水溶液に銅イオンとして溶出させて、銅イオン含有水溶液を製造することについて検討した。
<参考例4:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(その1)>
陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、図6及び図8に示すような方法(及び装置)により、第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。尚、第2室には硫酸ナトリウム水溶液(40mol/m)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/mであり、電気分解における電流密度は16.1A/m一定条件として実験を行った。
図12に、第1室におけるEDTA−Cu及びEDTAの濃度変化を示す。電流を流すことで時間の経過とともに溶液中のEDTA−Cuが減少し、EDTA濃度が上昇している。また、この他に陽極側でのナトリウムイオンの減少、並びに、目視で陰極板上での金属銅の析出が観察できた。
<参考例5:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その1)>
参考例4に引き続き、電気分解時とは極性を反転させたうえで、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用いた。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は40mol/mとし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.85L/minとした。第1室の内部に析出した金属銅を1.309g設置した。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(40mol/m)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は16.1A/m一定条件として実験を行った。
図13に第1室(anode)におけるナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化と、第2
室(cathode)におけるナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化とを示す。図13に示
すように、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオ
ンが溶出し硫酸銅が生成していることが分かる。また、第2室の銅イオン濃度の上昇は認
められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
<参考例6:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その2)>
陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、図3及び図8に示すような方法及び装置により、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用い、陽極側(第1室側)に正荷電層を、陰極側(第2室側)に負荷電層を配置した。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は260mol/mとし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を1.6L/minとした。第1室には銅板を設置し、当該銅板を電極として併用するものとした。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(260mol/m)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は18A/m一定条件として実験を行った。
図14(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を、図14(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を示す。
図14(A)に示すように、第1室における水溶液のpHは、ごくわずかに低下しているもののほぼ一定(pH7)である(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、銅イオン濃度が上昇する一方、ナトリウムイオン濃度が低下している(b、c)。
図14(B)に示すように、第2室における水溶液のpHはわずかに上昇しているもののほぼ一定(pH13)である(a)。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇する一方、銅イオン濃度は0のまま変化していない。
したがって、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオンが溶出し硫酸銅が生成しており、得られる硫酸銅水溶液のpHの低下も認められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
<比較例1:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その3)>
バイポーラ膜の向きを逆(陰極側に正荷電層、陽極側に負荷電層)にして運転を行った場合に、銅イオン含有水溶液が製造可能かどうか実験を行った。すなわち、陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、図3及び図8に示すような方法及び装置により、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用い、陰極側(第2室側)に正荷電層を、陽極側(第1室側)に負荷電層を配置した。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は253mol/mとし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を1.6L/minとした。第1室には銅板を設置し、当該銅板を電極として併用するものとした。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(253mol/m)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は19.2A/m一定条件として実験を行った。
図15(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を、図15(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を示す。
図15(A)に示すように、第1室における水溶液のpHは、ごくわずかに低下しているもののほぼ一定(pH7)である(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、銅イオン濃度が上昇する一方、ナトリウムイオン濃度が低下している(b、c)。
図15(B)に示すように、第2室における水溶液のpHはわずかに上昇しているもののほぼ一定(pH13)である(a)。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇する一方、銅イオン濃度は0のまま変化していない。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオンが溶出し硫酸銅が生成しており、得られる硫酸銅水溶液のpHの低下も認められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
ただし、図14(B)(b)とは異なり、時間の経過とともに電圧が大きく増加していることから(図15(B)(b))、電気透析を安定して行うためには、陽極側にバイポーラ膜の正荷電層1aを存在させたほうが好ましいことが分かった。
図14及び15の結果から、電気透析時、陽極側にバイポーラ膜1の正荷電層1aを存在させることで、電圧の上昇を抑えつつ、より安定的に銅イオン含有水溶液を製造できるといえる。このことに鑑みると、バイポーラ膜を正荷電層1a/負荷電層1c/正荷電層1bの3層構成とすることで、電気透析時、常に陽極側にバイポーラ膜の正荷電層1aを存在させることが可能となることから、極性反転時にバイポーラ膜の入れ替えが不要となると考えられる。
以下、上記の3層構成を備えたイオン透過膜を用いた場合に、金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液から硫酸銅水溶液を製造できること、並びに、銅キレート錯体溶液の電気分解によって金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができることを確認した。
<参考例7:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(3層膜)>
図16に示すような装置により、第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、アストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。第2室には炭酸ナトリウム水溶液(30mol/m)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/mであり、電気分解における電流密度は30.2A/m一定条件として実験を行った。
図17(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、図17(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図17(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図17(B)に示すように、第2室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが減少している(a)。また、第2室において、電気分解が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が減少している。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過している。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽においても、銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができた。
<実施例1:電解槽における電気透析と電気分解との同時実施(3層膜)>
図3に示すように、参考例7に引き続いて、第1室と第2室とで極性を反転させたうえで、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、第2室内に銅キレート錯体溶液を供給しつつ、電気分解を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は160mol/mとし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.8L/minとした。銅キレート錯体溶液の濃度は60mol/mとし、第2室へ溶液の供給速度を0.8L/minとした。また、電気透析(及び電気分解)における電流密度は30.2A/m一定条件として実験を行った。
図18(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、図18(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を示す。
図18(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図18(B)に示すように、第2室における水溶液のpHが低下したものの、ごくわずかであった(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、ナトリウムイオン濃度が低下する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽では、cathode側(第1室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第2室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができた。
言うまでもなく、その後、溶液の供給の切り替えと極性の反転とを行うことで、再び、cathode側(第2室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第1室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができる。
<参考例8:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(3層膜、スタック)>
図19に示すように、第1室、陽イオン透過膜及び第2室からなる構成物がバイポーラ電極を介して2つスタックされた装置を用意し、それぞれの装置の第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。尚、第2室には炭酸ナトリウム水溶液(60mol/m)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/mであり、電気分解における電流密度は20.0A/m一定条件として実験を行った。
図20(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、図20(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図20(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図20(B)に示すように、第2室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが減少している(a)。また、第2室において、電気分解が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が減少している。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過している。
以上の通り、電解槽をスタックした場合においても、銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができた。
<実施例2:電解槽における電気透析と電気分解との同時実施(3層膜、スタック)>
図21に示すように、参考例8に引き続いて、第1室と第2室とで極性を反転させたうえで、各第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、各第2室内に銅キレート錯体溶液を供給しつつ、電気分解を行った。陽イオン透過膜1における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は160mol/mとし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.4L/minとした。銅キレート錯体溶液の濃度は60mol/mとし、第2室へ溶液の供給速度を0.4L/minとした。また、電気透析における電流密度は20.0A/m一定条件として実験を行った。
図22(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、図22(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を示す。
図22(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図22(B)に示すように、第2室における水溶液のpHが低下したものの、ごくわずかであった(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、ナトリウムイオン濃度が低下する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽をスタックした場合でも、cathode側(第1室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第2室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができた。
言うまでもなく、その後、溶液の供給の切り替えと極性の反転とを行うことで、再び、cathode側(第2室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第1室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができる。
<実施例3:銅キレート錯体溶液以外の電解液を供給する場合>
図23に示すような装置により、陽極板として銅板を備える第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、第2室内に炭酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気分解を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液及び炭酸ナトリウム水溶液の濃度は80mol/mとし、第1室及び第2室へ水溶液の供給速度をそれぞれ0.8L/minとした。また、電気透析(及び電気分解)における電流密度は30.0A/m一定条件として実験を行った。
図24(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)銅板量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を、図24(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図24(A)に示すように、第1室において、電気透析が進んでも、水溶液のpHはほとんど変化していない(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅が溶出するとともに、ナトリウムイオン濃度が減少する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
図24(B)に示すように、第2室において、電気透析が進んでも、水溶液のpHや電圧はほとんど変化していない(a、b)。すなわち、銅イオン含有水溶液を安定して製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇している(c)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電気透析を利用することで、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造できる。ここで、銅イオン含有水溶液を製造する側(銅イオンの溶出を行う側)とは反対側に供給される溶液は、電気を通す電解液であればその種類は問わないことが分かる。すなわち、当該反対側に供給される溶液は、銅キレート錯体溶液に限られないことが分かる。ただし、極性反転によって、銅イオン含有水溶液を連続的に製造するためには、当該反対側において金属銅の析出を伴う電気分解を行うことが好ましい。
尚、上記実施例では、水溶液に含まれる1価の陽イオンとしてナトリウムを、陰イオンとして硫酸イオンや炭酸イオンを適用した場合について説明したが、1価の陽イオンとして、ナトリウム以外のアルカリ金属イオンや水素イオンを、陰イオンとして塩化物イオンや硝酸イオン等を適用した場合においても、同様の効果を確認できた。
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、銅イオン含有水溶液の製造方法及び製造装置もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
本発明によれば、金属銅から効率的に銅イオン含有水溶液を製造できる。本発明においては1価の陽イオンとして水素イオン以外の陽イオンを適用することも可能であり、陽イオン種を選択することでpHの低下を抑制することもでき、種々の用途・需要に対応可能である。
1 陽イオン透過膜
1a 正荷電層、陰イオン交換層
1b 正荷電層、陰イオン交換層
1c 負荷電層、陽イオン交換層
5a、5b 金属銅
11 第1室
12 第2室
13 極性反転手段
14 切り替え手段
15 切り替え手段
16 1価の陽イオンを含む水溶液の供給源
17 銅キレート錯体溶液の供給源
100 銅イオン含有水溶液の製造装置

Claims (9)

  1. 電気透析を利用して陽イオン透過膜の一面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S1)と、
    前記工程(S1)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S2)と、
    前記工程(S2)の後で、電気透析を利用して前記陽イオン透過膜の他面側の系内において銅イオン含有水溶液を製造する工程(S3)と
    を備え、
    前記工程(S1)は下記工程(S1−1)〜(S1−4)を含み、
    前記工程(S3)は下記工程(S3−1)〜(S3−4)を含み、
    前記陽イオン透過膜が、前記一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、前記他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、
    銅イオン含有水溶液の製造方法。
    (S1−1)前記陽イオン透過膜の一面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する工程
    (S1−2)前記陽イオン透過膜の他面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する工程
    (S1−3)前記陽イオン透過膜を介した電気透析によって、前記水溶液に含まれる前記1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程
    (S1−4)前記陽イオン透過膜の他面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって該銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる工程
    (S3−1)前記陽イオン透過膜の他面側の系内に1価の陽イオンを含む水溶液を供給する工程
    (S3−2)前記陽イオン透過膜の一面側の系内に銅キレート錯体溶液を供給する工程
    (S3−3)前記陽イオン透過膜を介した電気透析によって、前記水溶液に含まれる前記1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程
    (S3−4)前記陽イオン透過膜の一面側の系内において前記銅キレート錯体溶液を電気分解することによって該銅キレート錯体溶液から金属銅を析出させる工程
  2. 前記1価の陽イオンがナトリウムイオンである、
    請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記水溶液が陰イオンとして硫酸イオンを含む
    請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記工程(S3)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S4)をさらに備える、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 陽イオン透過膜の一面側に第1室、他面側に第2室が設けられており、
    前記第1室と前記第2室とが電気化学的に接続されており、
    前記第1室と前記第2室との極性を反転させる極性反転手段が備えられており、
    前記第1室には切り替え手段を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源と銅キレート錯体溶液の供給源とが接続されており、
    前記第2室には切り替え手段を介して1価の陽イオンを含む水溶液の供給源と銅キレート錯体溶液の供給源とが接続されており、
    前記陽イオン透過膜が、一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、
    銅イオン含有水溶液の製造装置。
  6. 前記1価の陽イオンがナトリウムイオンである、
    請求項5に記載の製造装置。
  7. 前記水溶液が陰イオンとして硫酸イオンを含む、
    請求項5又は6に記載の製造装置。
  8. 前記第1室、前記陽イオン透過膜及び前記第2室からなる構成物が、複数スタックされてなる、
    請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造装置。
  9. 陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の一面側の系内から他面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の一面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S11)と、
    前記工程(S11)の後で、前記陽イオン透過膜の一面側の系内と他面側の系内との極性を反転させる工程(S12)と、
    前記工程(S12)の後で、陽イオン透過膜を介した電気透析によって、水溶液に含まれる1価の陽イオンを前記陽イオン透過膜の他面側の系内から一面側の系内へと透過させるとともに、前記陽イオン透過膜の他面側の系内において金属銅を前記水溶液に銅イオンとして溶出させる工程(S13)と、
    を備え、
    前記陽イオン透過膜が、前記一面側の表面に設けられた第1の正荷電層と、前記他面側の表面に設けられた第2の正荷電層と、前記第1の正荷電層及び前記第2の正荷電層の間に設けられた負荷電層とを備えることを特徴とする、
    銅イオン含有水溶液の製造方法。
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