以下、被覆電線の芯線の露出部を絶縁性高分子材料からなる保護部材で包覆する保護構造の製造方法、複合電線の保護構造の製造方法、及び保護構造の製造装置(以下、保護構造の製造方法等と呼ぶ)について説明する。まず、保護構造の製造方法等の第1形態について説明する。
保護構造の製造方法等の第1形態は、従来手法とは全く異なる手法により露出部(複合電線の場合は、例えば束ねられた露出部)を保護できるものであって、浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に、当該絶縁性高分子材料の溶融温度以上に昇温された露出部を浸漬することにより、当該露出部に絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成するものである。
従来手法で適用されている保護キャップ等の保護部材は、例えば一般的な被覆電線と同様に、射出成形機や押出し成形機等を用いた設備により作成されている。このような成形機等を用いた設備によれば、例えば形状等が同一の保護部材を大量に生産することは容易になるものの、当該保護部材は露出部に適用するまでの間は所定の保管場所で保管しておくことになり、また、成形機を設置する必要もあるため、設備の大型化や高コストを招き、その保護部材に係る無駄(例えば、保護部材が余ったり、射出成形の場合は所謂ランナー等に残存する材料による無駄)が生じる虞もある。さらに、作業スペースが狭くなり、設備内における各工程の作業効率(例えば露出部の保護に係る作業効率)を低下させてしまう虞もある。
例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線の露出部を従来手法による保護部材で保護する場合には、当該複合電線と保護部材とを別々の設備で製造、あるいは大型の設備を用意する必要があった。
また、露出部の形状は、被覆電線の種類や適用方法によって異なる。例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線においては、その自動車に合わせて複数本の被覆電線の芯線の露出部が適宜束ねられ電気的接続した構成であり、各露出部の形状等は多様なものとなる。このため、前述のように大量に生産された保護部材を共用させることは困難となっていた。
したがって、従来手法の場合には、予め各露出部の形状に合わせて保護部材を成形(例えば各露出部用の型を利用して成形)する成形工程や、当該保護部材を手作業で露出部に被せる包覆工程等が必要となっていた。例えば包覆工程の手作業は、露出部や保護部材の形状等によって、煩雑で作業時間を費やすことになり、所望の電線特性を得ることが困難になる虞がある。
一方、保護構造の製造方法等の第1形態によれば、従来手法のような煩雑な工程は不要であり、たとえ露出部の形状等が多様であっても、絶縁性高分子材料の溶融温度以上に露出部を昇温させ(昇温工程)、その昇温された露出部を浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に浸漬することにより(浸漬工程)、露出部に当該絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成することができる。このような昇温工程や浸漬工程は、従来手法の成形工程や包覆工程と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、保護構造の製造方法等の第1形態においては、従来手法と比較して、露出部を容易に保護でき、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることが十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。さらに、露出部を保護したい時に前述のような昇温工程や浸漬工程を経て保護部材を形成すれば良く、保護部材に係る無駄を省き低コスト化を図ることも可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線の露出部に保護部材を形成して保護する場合において、当該複合電線と保護部材とを同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することが十分可能である。
保護構造の製造方法等の第1形態においては、前述したように露出部に絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成し保護できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,溶着分野,粉体塗装分野,絶縁性高分子材料分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような保護構造の一例が挙げられる。
≪保護構造の製造方法等の第1形態における露出部の保護構造の一例≫
図1〜図8(各図の詳細については、それぞれ適宜後述する)に示す複合電線110は、芯線121と、当該芯線121を被覆する被覆部122と、を有した被覆電線120を複数本束ねた構成の複合電線であって、例えば自動車用ワイヤハーネス等に適用可能な一例を示すものである。この複合電線110においては、一端側(各被覆電線120の一端側)の被覆部122が皮剥ぎ等により除去されて芯線121の一部が露出することにより、当該芯線121における露出部121aが形成され、さらに、これら複数本の露出部121aが束ねられて電気的に接続されて複合露出部102が形成されている。
この複合電線110のように、複数本の被覆電線120によって複合露出部102が形成された構成の場合、例えば複合露出部102における各芯線121を束ねて溶着(例えば電気抵抗溶着や超音波溶着等)する等により、互いに電気的接合(すなわち各芯線121を電気的接合)したり、散けないようにすることが可能となる。図1〜図4,図6〜図8の複合露出部102の場合、前述の溶着によって延板状の溶着部123が成形された構成となっている。
このように形成された複合露出部102(または、複合露出部102および後述の縁部125;以下、単に複合露出部102と適宜称する)は、例えば図2,図6,図7に示すように粉体状の絶縁性高分子材料(以下、単に粉体材料)131が充填された浸漬容器103を用いた手法で、例えば図3,図6(B)に示すように粉体材料131(すなわち絶縁性高分子材料)からなる保護部材104で包覆して保護することにより、所望の電線特性を得ることが可能となる。
この浸漬容器103を用いた手法では、まず、所望の昇温手段(例えば後述の加熱炉106等)を用いた昇温工程により、複合露出部102を粉体材料131の溶融温度(以下、単に粉体溶融温度)以上に昇温させる。次に、浸漬工程により、前記の昇温された状態の複合露出部102を、例えば図2,図6,図7に示すように浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬すると、その複合露出部102の周囲の粉体材料131が溶融し、その溶融物は当該複合露出部102に対して包覆するように付着する。その後、複合露出部102を浸漬容器103から取り出し、溶融物が粉体溶融温度よりも低い温度に降温して固化すると、図3(A),図6(B)に示すように複合露出部102を包覆する保護部材104が形成される。この保護部材104は、例えば再昇温工程により粉体溶融温度以上に再度昇温して軟化すると、表面が平滑化(例えば図3(A)の保護部材104の場合は図3(B)のように平滑化)され、外観性等が良好なものとなる。
<保護構造の製造方法等の第1形態における被覆電線の一例>
被覆電線120においては、所望の電線特性等に応じて種々の形態を適用することができ、例えば図1に示したように、芯線121が被覆部122によって覆われ、所望の箇所(被覆電線120の端部や中央部)の被覆部122を皮剥ぎ等により除去して芯線121の露出部121aを形成できる構成が挙げられる。具体例としては、一般的な押出し成形機等を用いて作成できるものが挙げられる。このような被覆電線120を複数本適用することにより、自動車用ワイヤハーネス等に適用される複合電線110を構成したり、その複合電線110の各被覆電線120の所望の箇所において露出部121aを適宜形成し、溶着部123を形成する等により電気的に接合して複合露出部102を形成することが可能である。
芯線121の材質や形状(横断面形状や直径等)等についても、所望の電線特性等に応じて適宜設定することが可能であり、例えば銅,アルミ,合金等の導電性材料をワイヤ状または撚り線状に成形した素線を、単数または複数用いて成る構成が挙げられる。
被覆部122の材質や形状(被覆厚さ等)等も、所望の電線特性に応じて適宜設定することが可能であり、例えば芯線121を被覆でき絶縁性,防水性等の所望の電線特性が得られる絶縁性高分子材料(以下、被覆部122に適用する絶縁性高分子材料を被覆材料と適宜称する)を適用することが挙げられるが、耐熱性を有し溶融温度(以下、被覆部122の溶融温度を被覆溶融温度と称する)が粉体溶融温度よりも高い被覆材料を適用することが好ましい。このような耐熱性を有した被覆材料を適用することにより、昇温工程等において複合露出部102を昇温する場合に、被覆部122の溶融を防止することが可能となる。
被覆材料の具体例としては、熱可塑性樹脂等の絶縁性高分子材料を主成分とし、これに、絶縁性高分子材料成形技術の分野で一般的に用いられている各種添加剤、例えば熱安定剤,光安定剤(紫外線防止剤),酸化防止剤,老化防止剤,顔料,着色剤,無機充填剤(フィラー),微小無機充填材(ナノ粒子)、難燃剤、抗菌剤、防腐食剤等を、所望の電線特性を損なわない範囲で適宜適用したものが挙げられる。また、主成分(熱可塑性樹脂等)としては、PVC系,EVA系,PA,ポリエステル、ポリオレフィン系等、種々の絶縁性高分子成分が挙げられる。
複合露出部102の形状や形成箇所等は、被覆電線120(あるいは複合電線110)の使用目的等に応じて適宜設定することが可能であり、その一例として図1に示したように被覆電線120の端部に形成される形態が挙げられるが、特に限定されるものではなく、後述する昇温工程や浸漬工程を経て保護部材104を形成できる形態であれば良い。
例えば、図4に示す複合電線110のように、複数本の被覆電線120を束ねた中央部において被覆部122を皮剥ぎ(いわゆる中剥ぎ)して形成された複合露出部102(図4中では符号102a)が挙げられる。また、図5〜図7に示すように、複合電線110の中央部等に分岐部111を有した構成の場合には、分岐された被覆電線120毎に適宜皮剥ぎして形成された複合露出部102(図5中では符号102b〜102e)や、当該分岐部111において皮剥ぎされた複合露出部102(図6,図7では符号102f)が挙げられる。
<保護構造の製造方法等の第1形態における昇温工程の一例>
昇温工程は、昇温手段を用いて複合露出部102を粉体溶融温度以上に昇温する工程であって、その昇温された状態の複合露出部102を後段の浸漬工程にて浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬した場合に、当該粉体材料131を溶融(複合露出部102周囲の粉体材料131を溶融)、および溶融した溶融物を複合露出部102に対して付着(包覆するように付着)できる工程であれば、特に限定されるものではない。
例えば、昇温手段として図8に示すような加熱炉106を適用し、その加熱炉106の炉内部161に複合電線110を収容して複合露出部102を加熱して昇温する工程が挙げられる。この加熱炉106による昇温条件は、複合露出部102の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,後段の浸漬工程の条件(粉体溶融温度や浸漬時間等)に応じて適宜設定することが可能である。
また、複合露出部102の昇温温度を、例えば粉体溶融温度以上で被覆溶融温度未満の範囲内で設定することにより、被覆部122の溶融を抑制しながら複合露出部102を昇温することが好ましい。例えば、昇温工程により複合露出部102を粉体溶融温度以上に昇温すると、被覆部122における複合露出部102側(縁部125等)も粉体溶融温度以上に昇温し得るが、当該被覆部122の複合露出部102側は、被覆溶融温度未満の昇温であれば溶融が抑制されることとなる。
<保護構造の製造方法等の第1形態における浸漬工程の一例>
浸漬工程においては、一般的な粉体塗装法(パウダーコーティング法)を適宜利用して行うことができ、例えば図2,図6,図7に示したような浸漬容器103を用いた浸漬塗装法を利用することが挙げられる。この浸漬塗装法では、目的とする複合露出部102(表面等)を前述のような昇温工程により予め加熱(予熱)して昇温し、その昇温された状態の複合露出部102を浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬することにより、当該複合露出部102の熱によって粉体材料131(浸漬された複合露出部102周辺の粉体材料131)を溶融し、その溶融物を複合露出部102に対して付着させて、当該複合露出部102に保護部材104を形成させる方法である。
浸漬容器103については、浸漬させる複合露出部102の形状等に応じて種々の形態を適用することが可能であり、当該浸漬容器103に対し粉体材料131を十分に充填でき、その充填された粉体材料131中に複合露出部102を浸漬できるものであれば良い。具体例としては、図2,図6,図7に示したように、有底筒状の周壁132と、周壁132内の開口部133側に形成された浸漬部134と、周壁132内の底壁135側に形成され浸漬部134との間が仕切壁136を介して仕切られた気体噴出部137と、周壁132外周側と気体噴出部137との間を連通し当該気体噴出部137に気体を供給することが可能な供給部138と、を有した構成が挙げられる。
なお、図7に示す浸漬容器103においては、周壁132における浸漬部134側に貫通孔132aが形成(図7中では3個形成)され、その貫通孔132aに複合電線110の一部(図中では両端側)を貫通させることが可能な構成となっている。このような構成により、例えば図示するように複合電線110を直線状に延在させながら複合露出部102を浸漬部134に浸漬することが可能となる。このように貫通孔132aを有した構成においては、適宜設計(例えば図外の逆止弁等を貫通孔132aに設ける等)することにより、図7に示すように貫通孔132aに複合電線110の一部が貫通した状態でも、浸漬部134内の粉体材料131が周壁132外周側に漏出することを抑制できる。
気体噴出部137の仕切壁136は、粉体材料131の大きさと同等程度、または当該粉体材料131の大きさ以下の形状の孔(図示省略)が複数個穿設された多孔性型の構造のものを適用でき、例えば焼結,繊維クロス,機械加工によって得られるものが挙げられる。このような仕切壁136を有した浸漬容器103により、供給部138を介して気体噴出部137に供給された気体が、仕切壁136の各孔を介して浸漬部134に対して均等に噴出(例えば大気圧下で噴出)され、当該浸漬部134内の粉体材料131が流動し易くなる。このように粉体材料131を流動させた状態であれば、その粉体材料131中に複合露出部102を浸漬し易くなる。
供給部138から供給する気体は、特に限定されるものではないが、例えば空気,乾燥空気,窒素,乾燥窒素等の不活性気体を適用することが挙げられる。気体の流量においては、浸漬部134に充填される粉体材料131の粒径,分布,形状,密度等に応じて適宜設定することが挙げられる。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(浸漬部134のうち気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定することが挙げられる。
<保護構造の製造方法等の第1形態での浸漬工程における粉体材料の一例>
粉体材料131においては、例えば絶縁性高分子材料の組成物(例えばペレット状の組成物;以下、単に組成物)を微粉化して得られるものであって、前述のような浸漬塗装法により目的とする複合露出部102(被塗装部位)に保護部材104を形成できる程度に微紛化したものを、適用することが挙げられる。例えば、平均粒径が数十μm〜数百μm程度に微紛化(具体例としては80μm〜170μm程度に微紛化)した粉体材料131が挙げられるが、目的とする複合露出部102や適用する浸漬塗装法(例えば昇温工程、浸漬工程の条件等)に応じて適宜設定することが可能である。なお、微紛化によって得られる粉体材料131の形状(粒径,粉体形状等)は、例えば微紛化に用いる装置の種類(機種,型式等)や微紛化時間等によって変化し得るものの、前記のように浸漬塗装法により目的とする複合露出部102に保護部材104を形成できる程度の範囲内であれば良い。
微紛化に用いる装置としては、例えば種々のミル装置を適用することが挙げられ、具体例としては回転,衝撃,振動等による装置が挙げられる。なお、ミル装置による微紛化の際に少なからず熱が発生し、当該熱によって組成物自体が意図しない溶融(自己融着)や劣化する恐れがある。このような場合には、ミル装置全体や一部(微紛化に係る部分)を冷却したり、当該組成物自体を予め冷却(冷蔵庫,冷凍庫,液体窒素等を用いて冷却)しておくことが考えられる。また、組成物において、大きな塊状態である等の理由によりミル装置に投入できない場合、その投入ができる程度まで当該組成物を粗粉砕しても良い。
粉体材料131における粉体同士の融着(自己融着)や接着を防止する方法としては、シリカや炭酸カルシウム等の無機粉体を配合した組成物を用い、その組成物を微紛化して得られる粉体材料131を適用することが考えられる。この無機粉体においては、目的とする粉体材料131の特性を損わない程度であれば適宜用いることができ、例えば平均粒径0.1μm〜20μm程度のものを0.1wt%〜10wt%添加することが挙げられる。
また、粉体材料131の具体例としては、熱可塑性樹脂等の絶縁性高分子材料を主成分とし、これに、高分子材料成形技術の分野で一般的に用いられている各種添加剤、例えば熱安定剤,光安定剤(紫外線防止剤),酸化防止剤,老化防止剤,顔料,着色剤,無機充填剤(フィラー),微小無機充填材(ナノ粒子)、難燃剤、抗菌剤、防腐食剤等を、所望の電線特性を損なわない範囲で適宜適用したものであって、所定温度(すなわち粉体溶融温度)以上に昇温すると溶融し当該所定温度未満に降温すると固化するものが挙げられる。また、主成分(熱可塑性樹脂等)としては、PVC系,EVA系,PA,ポリエステル、ポリオレフィン系等、種々の絶縁性高分子成分が挙げられる。
<保護構造の製造方法等の第1形態での浸漬工程における浸漬の一例>
浸漬工程における浸漬条件、例えば浸漬容器103の浸漬部134に対する複合露出部102の浸漬時間,浸漬位置(浸漬中の空間的位置,方向,浸漬時の複合電線110の状態等)は、複合露出部102の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,形状や、粉体溶融温度や、目的とする保護部材104の形状等に応じて、適宜設定することができる。
例えば、複合電線110の端部に複合露出部102が形成されている場合には、図2に示すように複合電線110の複合露出部102側を浸漬部134に浸漬することが挙げられる。また、複合電線110の中央部に複合露出部102が形成されている場合には、図6に示すように複合電線110の複合露出部102側を基点にして折曲した状態(図6では折曲して各被覆電線120を束ねた状態)にしたり、図7に示すように複合電線110を直線状に延在させた状態にして、当該複合露出部102側を浸漬部134に浸漬することが挙げられる。
なお、図2,図6,図7においては、複合露出部102の他に被覆部122(一部(縁部125等)あるいは全部)も浸漬部134に浸漬され得る状態を示しているが、当該被覆部122の温度が粉体溶融温度未満の場合には、当該被覆部122(例えば縁部125)に対する粉体材料131の溶融物の付着を抑制すると共に、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間を隙間無くシールできるように、保護部材104を形成することが可能となる。一方、例えば項目<保護構造の製造方法等の第1形態における昇温工程の一例>で説明したように、複合露出部102の昇温により、被覆部122の縁部125の温度が粉体溶融温度以上(および被覆溶融温度未満)になっている状態の場合には、当該複合露出部102の他に縁部125にも粉体材料131の溶融物が付着し、当該複合露出部102および縁部125を包覆するように保護部材104(縁部125を包覆する保護部材104については図示省略)が形成され、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無く、よりシールされることにもなる。
また、複合露出部102(または/および被覆部122)において、例えば保護部材104による包覆を不用(あるいは一時的に不用)とする箇所が存在する場合には、当該箇所に適宜マスキングしてから浸漬工程を行うことが好ましい。さらに、浸漬工程は、単に1回行うだけでなく、複数回に分割し繰り返して行っても良い。
複合露出部102に付着する溶融物(粉体材料131の溶融物)の厚さは、浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を適宜調整することにより、変更することが可能である。このように浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を調整しなくても、複合露出部102の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間においては、時間経過と共に溶融物の厚さが厚くなるものの、当該一定の浸漬時間以降は、溶融物の厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になることが考えられる。例えば、複合露出部102の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になることも考えられる。このような傾向は、昇温工程での昇温温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得る。このような場合には、前述のように浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を適宜調整する他に、後述の再昇温工程を適宜行うことが好ましい。
<保護構造の製造方法等の第1形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬工程にて複合露出部102に形成された保護部材104(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該保護部材104の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した昇温工程と同様に、昇温手段として図8に示すような加熱炉106を適用し、その加熱炉106の炉内部161に被覆電線120を収容して保護部材104を加熱して昇温する工程が挙げられる。また、再昇温工程での加熱炉106による昇温条件は、保護部材104の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。また、保護部材104の昇温温度を、例えば粉体溶融温度以上で被覆溶融温度未満の範囲内で設定することにより、被覆部122の溶融を抑制しながら保護部材104を昇温することが好ましい。
以上示した、浸漬工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする保護部材104に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<保護構造の製造方法等の第1形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネスに形成され得る複合露出部102において保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、図1に示したように複数本の被覆電線120からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な複合電線110を用意し、複合電線110の端部の被覆部122を皮剥ぎして芯線121を露出し、その露出された芯線121を互いに束ね溶着して、溶着部123を有する複合露出部102を形成した。
次に、図8に示したような昇温工程により、加熱炉106の炉内部161に複合電線110を収容し、複合露出部102を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された複合露出部102を、図2に示したような浸漬工程により、浸漬容器103の浸漬部134内に充填された粉体材料131中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該複合露出部102を浸漬部134から取り出した。なお、粉体材料131には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図3(A)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、複合電線110を再び加熱炉106の炉内部161に収容し、保護部材104を加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから当該複合電線110を炉内部161から取り出し観察したところ、図3(B)に示すように保護部材104の表面が平滑化されていることを確認できた。
<保護構造の製造方法等の第1形態による実施例2>
自動車用ワイヤハーネスに適用可能で図4〜図7に示すように中央部に複合露出部102が形成された複合電線110についても、保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、実施例1と同様の手法により、図8に示したような昇温工程により、加熱炉106の炉内部161に複合電線110を収容し、複合露出部102を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された複合露出部102を、図6,図7に示したような浸漬工程により、浸漬容器103の浸漬部134内に充填された粉体材料131中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該複合露出部102を浸漬部134から取り出した。なお、粉体材料131には、実施例1と同様のものを適用した。
浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図6(B)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、複合電線110を再び加熱炉106の炉内部161に収容し、保護部材104を加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから当該複合電線110を炉内部161から取り出し観察したところ、保護部材104の表面が平滑化(例えば図3(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、保護構造の製造方法等の第2形態について説明する。この第2形態は、上述した保護構造の製造方法等の第1形態とは、昇温に誘導加熱を用いている他は、同等なものである。以下、保護構造の製造方法等の第2形態について、保護構造の製造方法等の第1形態との相違点に注目して説明を行い、同等な点については重複説明を割愛する。
保護構造の製造方法等の第2形態では、まず、保護構造の製造方法等の第1形態と同等な構成を有することで、従来手法のような煩雑な工程は不要であり、たとえ露出部の形状等が多様であっても、絶縁性高分子材料の溶融温度以上に露出部を昇温させ(昇温工程)、その昇温された露出部を浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に浸漬することにより(浸漬工程)、露出部に当該絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成することができる。このような昇温工程や浸漬工程は、従来手法の成形工程や包覆工程と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、保護構造の製造方法等の第2形態においては、従来手法と比較して、露出部を容易に保護でき、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることが十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。さらに、露出部を保護したい時に前述のような昇温工程や浸漬工程を経て保護部材を形成すれば良く、保護部材に係る無駄を省き低コスト化を図ることも可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線の露出部に保護部材を形成して保護する場合において、当該複合電線と保護部材とを同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することが十分可能である。
また、昇温工程において誘導加熱手段を適用し被覆電線のうち芯線のみを昇温、例えば露出部のみを局部的に昇温することにより、当該昇温工程の際に被覆電線の被覆部の溶融を防止したり、保護構造の形成に関するハイサイクル化や省エネ化に貢献することが可能となる。
保護構造の製造方法等の第2形態においては、前述したように露出部に絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成し保護できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,溶着分野,粉体塗装分野,誘導加熱分野,絶縁性高分子材料分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような一例が挙げられる。
以下、保護構造の製造方法等の第2形態について、図9及び図10を参照して説明する。尚、図9及び図10では、図1〜図8までに示されている構成要素と同等な構成要素については、図1〜図8と同等な符号が付されており、以下ではそれら同等な構成要素についての重複説明を割愛する。
<保護構造の製造方法等の第2形態における昇温工程の一例>
昇温工程は、昇温手段を用いて複合露出部102を粉体溶融温度以上に昇温する工程であって、その昇温された状態の複合露出部102を後段の浸漬工程にて浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬した場合に、当該粉体材料131を溶融(複合露出部102周囲の粉体材料131を溶融)、および溶融した溶融物を複合露出部102に対して付着(包覆するように付着)できる工程であれば、特に限定されるものではない。
例えば、昇温手段として図9に示すような誘導加熱手段206を適用し、その誘導加熱手段206により複合露出部102を誘導加熱して昇温する工程が挙げられる。図9に示す誘導加熱手段206においては、例えばコイル状に延在した導電体261からなる加熱コイル部260を有し、その加熱コイル部260に交流電流を通電できる構成となっている。
この誘導加熱手段206のような昇温手段によれば、例えば図9に示すように加熱コイル部260の内側部262(軸心側)に複合露出部102(加熱対象)を配置し、加熱コイル部260に交流電流を通電すると、例えば被覆部122を加熱(溶融)することなく、複合露出部102を誘導加熱(非接触で直接加熱)して昇温することが可能となる。
また、例えば一般的な加熱炉によって複合露出部102を加熱して昇温する場合と比較すると、複合露出部102のみを局所的かつ速やかに誘導加熱して昇温でき、昇温効率(加熱効率)も良いことから、設備(特に昇温手段)の小型化や低コスト化を図ったり、保護部材104の形成に関するハイサイクル化や省エネ化を図ることも可能となる。また、複合露出部102のスケール発生も抑制できる。
加熱コイル部260の形状(加熱コイル部260の巻数,直径,軸心方向長さや、導電体261の横断面形状等),通電条件(交流電流の周波数,通電時間等),内側部262に対する複合露出部102の配置位置(内側部262での空間的位置,方向等)等については、特に限定されるものではなく、例えば加熱対象である複合露出部102の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,電気的特性(電気伝導率,透磁率等),後段の浸漬工程の条件(粉体溶融温度や浸漬時間等)に応じて、適宜設定することが可能である。
また、前記のように複合露出部102を誘導加熱して昇温すると、その複合露出部102の熱が芯線121等を介して被覆部122に伝達し当該被覆部122も昇温することが考えられるが、加熱コイル部260の通電条件を適宜設定(例えば通電時間を短く)する等により、当該被覆部122の昇温や溶融を抑制することが可能となる。例えば、昇温工程により複合露出部102を粉体溶融温度以上に昇温すると、被覆部122における複合露出部102側(縁部125等)も粉体溶融温度以上に昇温し得るが、当該被覆部122の複合露出部102側は、被覆溶融温度未満の昇温であれば溶融が抑制されることとなる。
導電体261においては、前述のように交流電流を通電できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば銅等の金属材料から導電体261を適用することが挙げられる。また、図10に示すように中空部263を有したチューブ状の導電体261を適用し、その中空部263に冷媒を循環できる構成とすることにより、加熱コイル部260に交流電流を通電した場合に当該加熱コイル部260が昇温することを抑制できる。
<保護構造の製造方法等の第2形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬工程にて複合露出部102に形成された保護部材104(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該保護部材104の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した昇温工程と同様に、図9,図10に示すような誘導加熱手段206を適用し、複合露出部102を再び誘導加熱して、その複合露出部102の熱を保護部材104に伝達させて昇温(間接加熱により昇温)する工程が挙げられる。
この再昇温工程での誘導加熱手段206による保護部材104の昇温条件については、保護部材104の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。また、保護部材104の昇温温度を、例えば粉体溶融温度以上で被覆溶融温度未満の範囲内で設定することにより、被覆部122の溶融を抑制しながら保護部材104を昇温することが好ましい。その他、この再昇温工程での誘導加熱手段206については、前述の項目<保護構造の製造方法等の第2形態による昇温工程の一例>の内容に基づいて適宜適用することが可能であり、その詳細な説明は省略する。
以上示した、浸漬工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする保護部材104に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<保護構造の製造方法等の第2形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネスに形成され得る複合露出部102において保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、図1に示したように複数本の被覆電線120からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な複合電線110を用意し、複合電線110の端部の被覆部122を皮剥ぎして芯線121を露出し、その露出された芯線121を互いに束ね溶着して、溶着部123を有する複合露出部102を形成した。
次に、図9,図10に示したような昇温工程により、誘導加熱手段206を適用し、加熱コイル部260の内側部262に複合電線110の複合露出部102を配置し、加熱コイル部260に交流電流を通電することにより、複合露出部102を誘導加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された複合露出部102を、図2に示したような浸漬工程により、浸漬容器103の浸漬部134内に充填された粉体材料131中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該複合露出部102を浸漬部134から取り出した。なお、粉体材料131には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図3(A)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、前記のように保護部材104が形成された複合露出部102を、再び加熱コイル部260の内側部262に配置し、加熱コイル部260に交流電流を通電して複合露出部102を誘導加熱することにより、保護部材104を間接加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから観察したところ、図3(B)に示すように保護部材104の表面が平滑化されていることを確認できた。
<保護構造の製造方法等の第2形態による実施例2>
自動車用ワイヤハーネスに適用可能で図4〜図7に示すように中央部に複合露出部102が形成された複合電線110についても、保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、実施例1と同様の手法により、図9,図10に示したような昇温工程により、誘導加熱手段206を適用し、複合露出部102を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された複合露出部102を、図6,図7に示したような浸漬工程により、浸漬容器103の浸漬部134内に充填された粉体材料131中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該複合露出部102を浸漬部134から取り出した。なお、粉体材料131には、実施例1と同様のものを適用した。
浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図6(B)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、前記のように保護部材104が形成された複合露出部102を、再び誘導加熱手段206を適用して誘導加熱することにより、保護部材104を間接加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから観察したところ、保護部材104の表面が平滑化(例えば図3(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、保護構造の製造方法等の第3形態について説明する。この第3形態は、上述した保護構造の製造方法等の第1形態とは、複合露出部102が既に粉体材料131に浸漬された状態で複合露出部102の昇温が行われる他は、同等なものである。以下、保護構造の製造方法等の第3形態について、保護構造の製造方法等の第1形態との相違点に注目して説明を行い、同等な点については重複説明を割愛する。
保護構造の製造方法等の第3形態では、まず、保護構造の製造方法等の第1形態と同等な構成を有することで、従来手法のような煩雑な工程は不要であり、たとえ露出部の形状等が多様であっても、浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に露出部を浸漬した状態で、当該浸漬容器の外周側に位置する誘導加熱手段によって、当該露出部を絶縁性高分子材料の溶融温度以上に誘導加熱して昇温することにより(浸漬・昇温工程)、露出部に当該絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成することができる。このような浸漬・昇温工程を経て保護部材を形成する保護構造の製造方法等の第3形態は、従来手法の成形工程や包覆工程により保護部材を形成する場合と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、保護構造の製造方法等の第3形態においては、従来手法と比較して、少ない工程数で容易に露出部を保護でき、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることが十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。さらに、露出部を保護したい時に前述のような浸漬・昇温工程を経て保護部材を形成すれば良く、保護部材に係る無駄を省き低コスト化を図ることも可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線の露出部に保護部材を形成して保護する場合において、当該複合電線と保護部材とを同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することが十分可能である。
また、露出部の昇温手段として誘導加熱手段を適用することにより、被覆電線のうち芯線のみを昇温、例えば露出部のみを局部的に昇温できるため、当該浸漬・昇温工程の際に被覆電線の被覆部の溶融を防止したり、保護構造の形成に関するハイサイクル化や省エネ化に貢献することが可能となる。
保護構造の製造方法等の第3形態においては、前述したように露出部に絶縁性高分子材料を付着させて保護部材を形成し保護できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,溶着分野,粉体塗装分野,誘導加熱分野,絶縁性高分子材料分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような一例が挙げられる。
以下、保護構造の製造方法等の第3形態について、図11〜図14を参照して説明する。尚、図11〜図14では、図1〜図8までに示されている構成要素と同等な構成要素については、図1〜図8と同等な符号が付されており、以下ではそれら同等な構成要素についての重複説明を割愛する。
<保護構造の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の浸漬容器の一例>
浸漬・昇温工程は、一般的な粉体塗装法(パウダーコーティング法)を適宜利用して行うことができ、例えば図11,図12,図13に示したような浸漬容器103を用いた浸漬塗装法を利用することが挙げられる。
浸漬容器103については、浸漬させる複合露出部102の形状等に応じて種々の形態を適用することが可能であり、当該浸漬容器103に対し粉体材料131を十分に充填でき、その充填された粉体材料131中に複合露出部102を浸漬できるものであれば良い。具体例としては、図11,図12,図13に示したように、有底筒状の周壁132と、周壁132内の開口部133側に形成された浸漬部134と、周壁132内の底壁135側に形成され浸漬部134との間が仕切壁136を介して仕切られた気体噴出部137と、周壁132外周側と気体噴出部137との間を連通し当該気体噴出部137に気体を供給することが可能な供給部138と、を有した構成が挙げられる。また、浸漬容器103を例えば絶縁性や耐熱性を有する材料を用いて成形する等により、後述の誘導加熱手段306による誘導加熱で溶融しないようにすることが好ましい。
なお、図13に示す浸漬容器103においては、周壁132における浸漬部134側に貫通孔132aが形成(図13中では3個形成)され、その貫通孔132aに複合電線110の一部(図中では両端側)を貫通させることが可能な構成となっている。このような構成により、例えば図示するように複合電線110を直線状に延在させながら複合露出部102を浸漬部134に浸漬することが可能となる。このように貫通孔132aを有した構成においては、適宜設計(例えば図外の逆止弁等を貫通孔132aに設ける等)することにより、図13に示すように貫通孔132aに複合電線110の一部が貫通した状態でも、浸漬部134内の粉体材料131が周壁132外周側に漏出することを抑制できる。
気体噴出部137の仕切壁136は、粉体材料131の大きさと同等程度、または当該粉体材料131の大きさ以下の形状の孔(図示省略)が複数個穿設された多孔性型の構造のものを適用でき、例えば焼結,繊維クロス,機械加工によって得られるものが挙げられる。このような仕切壁136を有した浸漬容器103により、供給部138を介して気体噴出部137に供給された気体が、仕切壁136の各孔を介して浸漬部134に対して均等に噴出(例えば大気圧下で噴出)され、当該浸漬部134内の粉体材料131が流動し易くなる。このように粉体材料131を流動させた状態であれば、その粉体材料131中に複合露出部102を浸漬し易くなる。
供給部138から供給する気体は、特に限定されるものではないが、例えば空気,乾燥空気,窒素,乾燥窒素等の不活性気体を適用することが挙げられる。気体の流量においては、浸漬部134に充填される粉体材料131の粒径,分布,形状,密度等に応じて適宜設定することが挙げられる。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(浸漬部134のうち気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定することが挙げられる。
<保護構造の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の昇温手段の一例>
一般的な浸漬塗装法によって保護部材104を形成する場合、例えば、加熱炉等の昇温手段によって複合露出部102を加熱し昇温(すなわち、浸漬前に昇温)してから、その昇温した複合露出部102を浸漬容器103に浸漬することにより、粉体材料131の溶融物を複合露出部102に付着させる手法(以下、加熱後浸漬手法)が考えられる。
しかしながら、単なる加熱後浸漬手法の場合、複合露出部102の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間においては、時間経過と共に溶融物の厚さが厚くなるものの、当該一定の浸漬時間以降は、複合露出部102が粉体溶融温度未満に降温するため、溶融物の厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になることが考えられる。例えば、複合露出部102の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になることも考えられる。このような傾向は、加熱炉等による昇温温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得る。
そこで、保護構造の製造方法等の第3形態では、浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬された複合露出部102を、例えば図11,図12,図13に示すような誘導加熱手段306によって誘導加熱して昇温する手法を適用することにした。この誘導加熱手段306においては、例えば図11,図12,図13に示すように、コイル状に延在した導電体361を有する加熱コイル部360を備え、浸漬容器103の外周側に配置可能な構成を適用することが挙げられる。
この誘導加熱手段306のような昇温手段によれば、例えば図11,図12,図13に示すように浸漬容器103内の粉体材料131中に複合露出部102が浸漬された状態であっても、加熱コイル部360に交流電流を通電することにより、例えば被覆部122等を加熱(溶融)することなく、複合露出部102を誘導加熱(非接触で直接加熱)して昇温することが可能となる。そして、昇温された複合露出部102の熱により、複合露出部102周囲の粉体材料131が溶融し、その溶融した溶融物が複合露出部102に対して付着(包覆するように付着)することになる。
また、加熱炉等による加熱後浸漬手法と比較すると、複合露出部102のみを局所的かつ速やかに誘導加熱して昇温でき、昇温効率(加熱効率)も良いことから、設備(特に昇温手段)の小型化や低コスト化を図ったり、保護部材104の形成に関するハイサイクル化や省エネ化を図ることも可能となる。また、複合露出部102のスケール発生も抑制できる。
さらに、加熱コイル部360に対し継続的に通電することにより、粉体材料131中に浸漬された複合露出部102を粉体溶融温度以上に保つことができ、複合露出部102に付着させる溶融物の厚さを容易に調整して、保護部材104の厚さを制御することが可能となる。
加熱コイル部360は、浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬された複合露出部102を当該浸漬容器103外周側から誘導加熱できる構成であれば良い。したがって、加熱コイル部360の形状(加熱コイル部360の巻数,直径,軸心方向長さや、導電体361の横断面(あるいは縦断面)形状,位置等),通電条件(交流電流の周波数,通電時間等),内側部362に対する浸漬容器103の配置位置(内側部362での空間的位置,方向等)等については、特に限定されるものではなく、例えば加熱対象である複合露出部102の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,電気的特性(電気伝導率,透磁率等),粉体材料131の粉体溶融温度,浸漬条件(詳細を後述する)に応じて、適宜設定することが可能である。
具体例としては、図11,図12に示すように、浸漬容器103の外周側を包囲できるようにコイル状に延在した導電体361を有する加熱コイル部360であって、その加熱コイル部360の内側部362(軸心側)に浸漬容器103を収容できる構成のものを適用することが挙げられる。また、図13に示すように、内側部362の軸心方向に浸漬容器103の浸漬部134が位置するようにコイル状に延在した導電体361を有し、例えば浸漬容器103の底壁135側に配置可能な構成も挙げられる。
また、前記のように複合露出部102を誘導加熱して昇温すると、その複合露出部102の熱が芯線121等を介して被覆部122に伝達し当該被覆部122も昇温することが考えられるが、加熱コイル部360の通電条件を適宜設定(例えば通電時間を短く)する等により、当該被覆部122の昇温や溶融を抑制することが可能となる。例えば、誘導加熱により複合露出部102を粉体溶融温度以上に昇温すると、被覆部122における複合露出部102側(縁部125等)も粉体溶融温度以上に昇温し得るが、当該被覆部122の複合露出部102側は、被覆溶融温度未満の昇温であれば溶融が抑制されることとなる。
導電体361においては、前述のように交流電流を通電できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば銅等の金属材料から導電体361を適用することが挙げられる。また、図11に示すように中空部363を有したチューブ状の導電体361を適用し、その中空部363に冷媒を循環できる構成とすることにより、加熱コイル部360に交流電流を通電した場合に当該加熱コイル部360が昇温することを抑制できる。
<保護構造の製造方法等の第3形態での浸漬・昇温工程における浸漬条件等の一例>
浸漬・昇温工程における浸漬条件、例えば浸漬容器103の浸漬部134に対する複合露出部102の浸漬時間,浸漬位置(浸漬中の空間的位置,方向,浸漬時の複合電線110の状態等)は、複合露出部102の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,形状や、粉体溶融温度や、誘導加熱手段306の構成や、目的とする保護部材104の形状等に応じて、適宜設定することができる。
例えば、複合電線110の端部に複合露出部102が形成されている場合には、図11に示すように複合電線110の複合露出部102側を浸漬部134に浸漬することが挙げられる。また、複合電線110の中央部に複合露出部102が形成されている場合には、図12に示すように複合電線110の複合露出部102側を基点にして折曲した状態(図12では折曲して各被覆電線120を束ねた状態)にしたり、図13に示すように複合電線110を直線状に延在させた状態にして、当該複合露出部102側を浸漬部134に浸漬することが挙げられる。
なお、図11,図12,図13においては、複合露出部102の他に被覆部122(一部(縁部125等)あるいは全部)も浸漬部134に浸漬され得る状態を示しているが、当該被覆部122の温度が粉体溶融温度未満の場合には、当該被覆部122(例えば縁部125)に対する粉体材料131の溶融物の付着を抑制すると共に、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間を隙間無くシールできるように、保護部材104を形成することが可能となる。一方、例えば項目<保護構造の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の昇温手段の一例>で説明したように、複合露出部102の昇温により、被覆部122の縁部125の温度が粉体溶融温度以上(および被覆溶融温度未満)になっている状態の場合には、当該複合露出部102の他に縁部125にも粉体材料131の溶融物が付着し、当該複合露出部102および縁部125を包覆するように保護部材104(縁部125を包覆する保護部材104については図示省略)が形成され、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無く、よりシールされることにもなる。
また、複合露出部102(または/および被覆部122)において、例えば保護部材104による包覆を不用(あるいは一時的に不用)とする箇所が存在する場合には、当該箇所に適宜マスキングしてから浸漬工程を行うことが好ましい。さらに、浸漬工程は、単に1回行うだけでなく、複数回に分割し繰り返して行っても良い。また、必要に応じて、後述する再昇温工程を行っても良い。
<保護構造の製造方法等の第3形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬・昇温工程にて複合露出部102に形成された保護部材104(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該保護部材104の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した浸漬・昇温工程と同様の誘導加熱手段306を適用することが挙げられる。具体例としては、例えば図14に示すように、加熱コイル部360の内側部362(軸心側)に複合露出部102(保護部材104)を配置し、加熱コイル部360に交流電流を通電することにより、複合露出部102を再び誘導加熱して、その複合露出部102の熱を保護部材104に伝達させて昇温(間接加熱により昇温)する工程が挙げられる。
この再昇温工程での誘導加熱手段306による保護部材104の昇温条件については、保護部材104の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。また、保護部材104の昇温温度を、例えば粉体溶融温度以上で被覆溶融温度未満の範囲内で設定することにより、被覆部122の溶融を抑制しながら保護部材104を昇温することが好ましい。その他、この再昇温工程での誘導加熱手段306については、前述の項目<保護構造の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の昇温手段の一例>の内容に基づいて適宜適用することが可能であり、その詳細な説明は省略する。
以上示した、浸漬・昇温工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする保護部材104に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<保護構造の製造方法等の第3形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネスに形成され得る複合露出部102において保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、図1に示したように複数本の被覆電線120からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な複合電線110を用意し、複合電線110の端部の被覆部122を皮剥ぎして芯線121を露出し、その露出された芯線121を互いに束ね溶着して、溶着部123を有する複合露出部102を形成した。
次に、図11に示したような浸漬・昇温工程により、浸漬容器103内の粉体材料131中に複合露出部102を浸漬した状態で、当該浸漬容器103の外周側に位置する誘導加熱手段306の加熱コイル部360に交流電流を通電して、複合露出部102を誘導加熱して120℃程度まで昇温させ、この昇温された状態を30秒程度保持した。なお、粉体材料131には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
その後、浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図3(A)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の浸漬・昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
さらに、前記のように保護部材104が形成された複合露出部102を、図14に示すように加熱コイル部360の内側部362に配置し、加熱コイル部360に交流電流を通電して複合露出部102を誘導加熱することにより、保護部材104を間接加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから観察したところ、図3(B)に示すように保護部材104の表面が平滑化されていることを確認できた。
<保護構造の製造方法等の第3形態による実施例2>
自動車用ワイヤハーネスに適用可能で図4,図11〜図13に示すように中央部に複合露出部102が形成された複合電線110についても、保護部材104による保護構造の作成を試みた。まず、図12,図13に示すように浸漬容器103内の粉体材料131中に複合露出部102を浸漬した状態で、実施例1と同様に複合露出部102を誘導加熱して120℃程度まで昇温させ、この昇温された状態を30秒程度保持した。なお、粉体材料131においても、実施例1と同様のものを適用した。
その後、浸漬部134から取り出された複合露出部102を観察したところ、当該複合露出部102を包覆するように粉体材料131の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図12(B)に示すような保護部材104が形成されていた。なお、前記の浸漬・昇温工程において複合露出部102の他に被覆部122の縁部125も120℃程度まで昇温させた場合には、当該複合露出部102および縁部125を包覆する保護部材104が形成されていた。
この保護部材104は、複合露出部102(あるいは、複合露出部102および縁部125)の外周側を隙間無く包覆し、例えば複合露出部102の首下部124側と被覆部122との間も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
さらに、前記のように保護部材104が形成された複合露出部102を、再び誘導加熱手段306を適用して誘導加熱することにより、保護部材104を間接加熱して120℃程度まで昇温(再昇温工程)させてから観察したところ、保護部材104の表面が平滑化(例えば図3(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、一本または複数本束ねた芯線の外周側を絶縁性高分子材料からなる被覆部で被覆する被覆電線の製造方法、複合電線の製造方法、及び被覆電線の製造装置(以下、被覆電線の製造方法等と呼ぶ)について説明する。まず、被覆電線の製造方法等の第1形態について説明する。
被覆電線の製造方法等の第1形態では、一般的な粉体塗装法や押出し成形法等による手法(以下、従来手法)のように、単に芯線の外周側を被覆部で被覆するのではなく、芯線の任意の露出対象部位には被覆部が被覆されないようにし、当該露出対象部位以外に位置する被覆対象部位のみを被覆部で被覆するものである。
従来手法の場合、例えば形状や電線特性等(芯線の直径や被覆部の厚さ等)が同一の被覆電線を大量(長尺)に生産することは可能となるものの、その被覆電線を適用するまでの間は所定の保管場所で保管しておくことになり、また、成形機を設置する必要もあるため、設備の大型化や高コストを招き、さらに、作業スペースが狭くなり、設備内における各工程の作業効率(例えば各被覆電線を束ねたり露出部にて電気的接続する作業効率)を低下させてしまう虞もある。
例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線において、従来手法による被覆電線を適用する場合には、当該複合電線と被覆電線とを別々の設備で製造、あるいは大型の設備を用意する必要があった。また、目的とする複合電線に応じた被覆電線を作成できたとしても、当該複合電線が設計変更(例えば異なる電線特性の被覆電線が要求)された場合には、その設計変更に応じて新たな被覆電線を作成、あるいは補強テープ等による補強(被覆部の厚さを変更する等)を要することになり、いわゆる遅延差別化(delayed differentiation)を図ることが困難であった。
そして、従来手法による被覆電線を適用する場合には、露出対象部位を被覆している被覆部を皮剥ぎ等により除去する除去工程を要するため取扱性が低く、被覆電線に係る材料の無駄が生じる虞もある。なお、一般的な射出成形法の場合、芯線の被覆対象部位のみを被覆できることも考えられるが、各被覆電線用の型が必要であり、所謂ランナー等に残存する材料による無駄が生じる虞もある。
一方、被覆電線の製造方法等の第1形態によれば、芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆するため、従来手法のような除去工程が不要であるため取扱性が高く、被覆電線に係る材料の無駄を省くことも可能となる。また、目的とする被覆電線の形状や電線特性等が多様、例えば芯線が一線状の形態,複数本束ねた形態,分岐部が形成された形態(例えば複合電線の形態)であっても、当該芯線の被覆対象部位を絶縁性高分子材料の溶融温度以上に昇温(昇温工程)でき、その昇温された被覆対象部位の芯線を浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に浸漬(浸漬工程)できる形態であれば、当該目的とする被覆電線を得ることが可能となる。このような昇温工程や浸漬工程は、押出し成形機等を用いる従来手法と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、被覆電線の製造方法等の第1形態においては、目的とする被覆電線の芯線を用い前述のような昇温工程,浸漬工程を経ることにより、当該被覆電線を容易(従来手法と比較して容易に)に作成することができ、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることも十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機等は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。
さらに、目的とする被覆電線が必要になった場合に、当該被覆電線の芯線を用意し、前述のような昇温工程や浸漬工程を経て当該被覆電線を形成すれば良く、当該被覆電線に係る無駄を省き低コスト化を図ることができ、遅延差別化を図ることも十分可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線と被覆電線とを、同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することも十分可能である。
被覆電線の製造方法等の第1形態においては、前述したように芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆して被覆電線を作成できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,粉体塗装分野,絶縁性高分子材料分野,溶着分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような被覆電線,複合電線の製造方法の一例が挙げられる。
≪被覆電線の製造方法等の第1形態の一例≫
図15〜図28(各図の詳細については、それぞれ適宜後述する)の符号410は、例えばワイヤ状または撚り線状の素線411を複数本束ねた構成であり、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線402に適用可能な被覆電線401の芯線の一例を示すものである。
この芯線410において、任意の部位、例えば図15に示すように芯線410のうち一部(図15中では一端側)は、端子を接続したり他の芯線410と電気的接続(例えば複合電線402の一端側や中央側を溶着等により接続)する露出対象部位(露出部に相当)412であり、当該露出対象部位412以外は、被覆部404で被覆する被覆対象部位413となっている。そして、芯線410の被覆対象部位413を、例えば図16に示すように粉体状の絶縁性高分子材料(以下、単に粉体材料)431が充填された浸漬容器403を用いた手法で、例えば図17に示すように粉体材料431(すなわち絶縁性高分子材料)からなる被覆部404で被覆することにより、所望の電線特性を有した被覆電線401を得ることが可能となる。
この浸漬容器403を用いた手法では、まず、所望の昇温手段(例えば後述の加熱炉406等)を用いた昇温工程により、被覆対象部位413を粉体材料431の溶融温度(以下、単に粉体溶融温度)以上に昇温させる。次に、浸漬工程により、前記の昇温された状態の被覆対象部位413を、例えば図16に示すように浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬すると、その被覆対象部位413の周囲の粉体材料431が溶融し、その溶融物は当該被覆対象部位413を包覆するように付着する。その後、被覆対象部位413を浸漬容器403から取り出し、溶融物が粉体溶融温度よりも低い温度に降温して固化すると、図17に示すように被覆対象部位413を被覆する被覆部404が形成される。この被覆部404は、例えば再昇温工程により粉体溶融温度以上に再度昇温して軟化すると、表面が平滑化(例えば図17(A)の被覆部404の場合は図17(B)のように平滑化)され、外観性等が良好なものとなる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態における芯線の一例>
芯線410においては、目的とする被覆電線401に要求される電線特性等に応じて、種々の形態を適用することができ、その材質や形状(横断面形状や、直径,長さ等)等についても、所望の電線特性等に応じて適宜設定することが可能であり、例えば銅,アルミ,合金等の導電性材料をワイヤ状または撚り線状に成形した素線411を、単数または複数用いて成る構成が挙げられる。
芯線410の露出対象部位412,被覆対象部位413は、被覆電線401の使用目的等に応じて適宜設定することが可能であり、その一例として露出対象部位412を図15〜図17に示したように芯線410の一端側(図15では図示上側)に位置するように設定することが挙げられるが、特に限定されるものではない。例えば図18に示すように、芯線410の中央側や両端側を露出対象部位412としても良い。
また、芯線410は、図15〜図17に示したような単なる一線状に限定されるものではなく、後述する昇温工程や浸漬工程等を経ることができるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。例えば、図18,図19,図21〜図27に示すように、複数本の芯線410を束ねた形態や、分岐部414が形成された形態であっても良い。
分岐部414を有した芯線410においては、例えば複数本の芯線410を用い適宜溶着(電気抵抗溶着や超音波溶着等)して作成することが挙げられる。具体的な一例としては、まず、図26(A)に示すように複数の芯線410a(図中では4本束ねた芯線),410b(図中では2本束ねた芯線)を用意し、芯線410bの中央側(例えば被覆対象部位413側)を、芯線410aの中央側(例えば被覆対象部位413側)に対し巻き付けて(例えばコイル状に巻き付けて)締結する。そして、図26(B)に示すように、締結された芯線410bの両端側(例えば露出対象部位412側)を撚り合わせて撚り線状にすることにより、当該締結箇所に分岐部414が形成された形態の芯線410を得ることができる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態における昇温工程の一例>
昇温工程は、昇温手段を用いて芯線410の被覆対象部位413を粉体溶融温度以上に昇温する工程であって、その昇温された状態の被覆対象部位413を後段の浸漬工程にて浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬した場合に、当該粉体材料431を溶融(被覆対象部位413周囲の粉体材料431を溶融)、および溶融した溶融物を被覆対象部位413に対して付着(包覆するように付着)できる工程であれば、特に限定されるものではない。
例えば、昇温手段として図20に示すような加熱炉406を適用し、その加熱炉406の炉内部461に芯線410を収容して被覆対象部位413を加熱して昇温する工程が挙げられる。この加熱炉406による昇温条件は、被覆対象部位413の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,後段の浸漬工程の条件(粉体溶融温度や浸漬時間等)に応じて適宜設定することが可能である。
また、芯線410の露出対象部位412においては、昇温工程では昇温せず、少なくとも後段の浸漬工程の直前には粉体溶融温度未満に保持しておくことが挙げられる。例えば昇温工程において、被覆対象部位413の他に露出対象部位412も昇温してしまう場合には、その露出対象部位412を必要に応じて冷却し粉体溶融温度未満に降温することが好ましい。これにより、例えば後段の浸漬工程において、露出対象部位412に対する粉体材料431の溶融物の付着を抑制することが可能となる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態における浸漬工程の一例>
浸漬工程においては、一般的な粉体塗装法(パウダーコーティング法)を適宜利用して行うことができ、例えば図16,図21〜図25に示したような浸漬容器403を用いた浸漬塗装法を利用することが挙げられる。この浸漬塗装法では、目的とする芯線の被覆対象部位413(表面等)を前述のような昇温工程により予め加熱(予熱)して昇温し、その昇温された状態の被覆対象部位413を浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬することにより、当該被覆対象部位413の熱によって粉体材料431(浸漬された被覆対象部位413周辺の粉体材料431)を溶融し、その溶融物を被覆対象部位413に対して付着させて、当該被覆対象部位413に被覆部404を形成させる方法である。
浸漬容器403については、浸漬させる被覆対象部位413の形状等に応じて種々の形態を適用することが可能であり、当該浸漬容器403に対し粉体材料431を十分に充填でき、その充填された粉体材料431中に被覆対象部位413を浸漬できるものであれば良い。具体例としては、図16,図21〜図25に示したように、有底筒状の周壁432と、周壁432内の開口部433側に形成された浸漬部434と、周壁432内の底壁435側に形成され浸漬部434との間が仕切壁436を介して仕切られた気体噴出部437と、周壁432外周側と気体噴出部437との間を連通し当該気体噴出部437に気体を供給することが可能な供給部438と、を有した構成が挙げられる。
なお、図24に示す浸漬容器403においては、周壁432における浸漬部434側に貫通孔432aが形成(図24中では3個形成)され、その貫通孔432aに芯線410の一部(図中では露出対象部位412)を貫通させることが可能な構成となっている。このような構成により、例えば図示するように芯線410を直線状に延在させながら被覆対象部位413を浸漬部434に浸漬することが可能となる。このように貫通孔432aを有した構成においては、適宜設計(例えば図外の逆止弁等を貫通孔432aに設ける等)することにより、図24に示すように貫通孔432aに芯線410の一部が貫通した状態でも、浸漬部434内の粉体材料431が周壁432外周側に漏出することを抑制できる。
気体噴出部437の仕切壁436は、粉体材料431の大きさと同等程度、または当該粉体材料431の大きさ以下の形状の孔(図示省略)が複数個穿設された多孔性型の構造のものを適用でき、例えば焼結,繊維クロス,機械加工によって得られるものが挙げられる。このような仕切壁436を有した浸漬容器403により、供給部438を介して気体噴出部437に供給された気体が、仕切壁436の各孔を介して浸漬部434に対して均等に噴出(例えば大気圧下で噴出)され、当該浸漬部434内の粉体材料431が流動し易くなる。このように粉体材料431を流動させた状態であれば、その粉体材料431中に被覆対象部位413を浸漬し易くなる。
供給部438から供給する気体は、特に限定されるものではないが、例えば空気,乾燥空気,窒素,乾燥窒素等の不活性気体を適用することが挙げられる。気体の流量においては、浸漬部434に充填される粉体材料431の粒径,分布,形状,密度等に応じて適宜設定することが挙げられる。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(浸漬部434のうち気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定することが挙げられる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態での浸漬工程における粉体材料の一例>
粉体材料431においては、例えば絶縁性高分子材料の組成物(例えばペレット状の組成物;以下、単に組成物)を微粉化して得られるものであって、前述のような浸漬塗装法により目的とする被覆対象部位413(被塗装部位)に被覆部404を形成できる程度に微紛化したものを、適用することが挙げられる。例えば、平均粒径が数十μm〜数百μm程度に微紛化(具体例としては80μm〜170μm程度に微紛化)した粉体材料431が挙げられるが、目的とする被覆対象部位413や適用する浸漬塗装法(例えば昇温工程、浸漬工程の条件等)に応じて適宜設定することが可能である。なお、微紛化によって得られる粉体材料431の形状(粒径,粉体形状等)は、例えば微紛化に用いる装置の種類(機種,型式等)や微紛化時間等によって変化し得るものの、前記のように浸漬塗装法により目的とする被覆対象部位413に被覆部404を形成できる程度の範囲内であれば良い。
微紛化に用いる装置としては、例えば種々のミル装置を適用することが挙げられ、具体例としては回転,衝撃,振動等による装置が挙げられる。なお、ミル装置による微紛化の際に少なからず熱が発生し、当該熱によって組成物自体が意図しない溶融(自己融着)や劣化する恐れがある。このような場合には、ミル装置全体や一部(微紛化に係る部分)を冷却したり、当該組成物自体を予め冷却(冷蔵庫,冷凍庫,液体窒素等を用いて冷却)しておくことが考えられる。また、組成物において、大きな塊状態である等の理由によりミル装置に投入できない場合、その投入ができる程度まで当該組成物を粗粉砕しても良い。
粉体材料431における粉体同士の融着(自己融着)や接着を防止する方法としては、シリカや炭酸カルシウム等の無機粉体を配合した組成物を用い、その組成物を微紛化して得られる粉体材料431を適用することが考えられる。この無機粉体においては、目的とする粉体材料431の特性を損わない程度であれば適宜用いることができ、例えば平均粒径0.1μm〜20μm程度のものを0.1wt%〜10wt%添加することが挙げられる。
また、粉体材料431の具体例としては、熱可塑性樹脂等の絶縁性高分子材料を主成分とし、これに、高分子材料成形技術の分野で一般的に用いられている各種添加剤、例えば熱安定剤,光安定剤(紫外線防止剤),酸化防止剤,老化防止剤,顔料,着色剤,無機充填剤(フィラー),微小無機充填材(ナノ粒子)、難燃剤、抗菌剤、防腐食剤等を、所望の電線特性を損なわない範囲で適宜適用したものであって、所定温度(すなわち粉体溶融温度)以上に昇温すると溶融し当該所定温度未満に降温すると固化するものが挙げられる。また、主成分(熱可塑性樹脂等)としては、PVC系,EVA系,PA,ポリエステル、ポリオレフィン系等、種々の絶縁性高分子成分が挙げられる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態での浸漬工程における浸漬の一例>
浸漬工程における浸漬条件、例えば浸漬容器403の浸漬部434に対する被覆対象部位413の浸漬時間,浸漬位置(浸漬中の空間的位置,方向,浸漬時の芯線410の状態等)は、露出対象部位412および被覆対象部位413や、被覆対象部位413の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,形状や、粉体溶融温度や、目的とする被覆部404の形状等に応じて、適宜設定することができる。
例えば、浸漬部434に対し、図16に示すように芯線410を一直線状に延在させた状態で当該芯線410の一端側を浸漬したり、図21等に示すように芯線410を折曲した状態(例えばU字状)で当該芯線410の中央側を浸漬したり、図22に示すように芯線410をコンパクトに纏めた状態(例えば図示するように渦巻状)で当該芯線410の中央側を浸漬することが挙げられる。
したがって、被覆対象部位413において、複数本の芯線410を束ねて構成された形態や分岐部414を形成して構成された形態であっても、例えば図21〜図25に示すように当該被覆対象部位413を浸漬部434に対して適宜浸漬し被覆部404を被覆することにより、目的とする被覆電線401を作成することができ、この被覆電線401を複合電線402として適用することも可能となる。
なお、浸漬工程において、被覆対象部位413の他に露出対象部位412(一部あるいは全部)も浸漬部434に浸漬され得る状態であっても、当該露出対象部位412の温度が粉体溶融温度未満であれば、粉体材料431の溶融物が露出対象部位412に付着することを抑制できる。また、例えば図18(A),図25に示すように露出対象部位412をマスキング部材(例えばマスキングテープ等)415により適宜マスキングした場合も、粉体材料431の溶融物が露出対象部位412に付着することを抑制できる。図18(A),図25に示すように芯線410の中央側を露出対象部位412として作成された被覆電線401の適用例としては、例えば図27に示すように被覆電線401を複数本束ね、各被覆電線401の露出対象部位412を溶着し電気的接続して複合電線402を作成する一例が挙げられる。
また、被覆対象部位413において、被覆部404を一時的に不用とする箇所が存在する場合には、当該箇所にも適宜マスキングしてから浸漬工程を行っても良い。さらに、浸漬工程は、単に1回で行うだけでなく、複数回に分割したり繰り返し行っても良い。浸漬工程を複数回に分割して行う場合に、各浸漬工程毎に粉体材料431の種類を変更することにより、被覆対象部位413に対して多様(例えば多色)な被覆部404を形成することも可能となる。
被覆対象部位413に付着する溶融物(粉体材料431の溶融物)の厚さは、浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を適宜調整することにより、変更することが可能である。このように浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を調整しなくても、被覆対象部位413の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間においては、時間経過と共に溶融物の厚さが厚くなるものの、当該一定の浸漬時間以降は、溶融物の厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になることが考えられる。例えば、被覆対象部位413の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になることも考えられる。このような傾向は、昇温工程での昇温温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得る。このような場合には、前述のように浸漬条件や昇温工程の昇温温度等を適宜調整する他に、後述の再昇温工程を適宜行うことが好ましい。
<被覆電線の製造方法等の第1形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬工程にて被覆対象部位413に形成された被覆部404(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該被覆部404の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した昇温工程と同様に、昇温手段として図20に示すような加熱炉406を適用し、その加熱炉406の炉内部461に被覆電線401を収容して被覆部404を加熱して昇温する工程(図による説明は省略)が挙げられる。また、再昇温工程での加熱炉406による昇温条件は、被覆部404の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。
以上示した、浸漬工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする被覆部404に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<被覆電線の製造方法等の第1形態による被覆電線,複合電線の利用形態の一例>
被覆電線の製造方法等の第1形態による被覆電線401,複合電線402は、例えば図28に示すように、幹線420の両端側や中央側から周囲外方に複数個の枝線421(図中では421a〜421h)が延在した構成のワイヤハーネス407に適用する利用形態が挙げられるが、これに限定されるものではない。
図28に示すようなワイヤハーネス407においては、例えば組立設備において、幹線420に枝線421を組み付けたり必要に応じて図外の各種部品を組み付ける等により構成されるが、たとえ少量生産あるいは特殊な仕様であっても、当該ワイヤハーネス407の一部に既製品を適用できることもある。
すなわち、被覆電線401,複合電線402を、単にワイヤハーネス407の幹線420や各枝線421の全てに適用しても良いが、幹線420や各枝線421の一部のみに当該被覆電線401,複合電線402を必要に応じて適用し、残りには既製の電線(例えば大型設備等で大量生産可能な既製品や輸入品等;後述の電線422a,422b等)を適用することとしても良い。
具体例としては、枝線421c,421d,421f,421gには被覆電線の製造方法等の第1形態による被覆電線401あるいは複合電線402を適用し、幹線420と枝線421a,421b,421e,421hには既製の電線422a,422bをそれぞれ適用することが挙げられる。
このように、被覆電線401,複合電線402を適宜適用する利用形態であれば、当該被覆電線401,複合電線402に係る昇温工程,浸漬工程等(必要に応じて再昇温工程も含む)の実施に必要な設備(浸漬容器403等)や資材(粉体材料431等)等を、例えばワイヤハーネス407の既存の組立設備の作業スペース等に設置(各設備を統合)し、当該作業において必要な時に、目的とするワイヤハーネス407に必要な個数,形態の被覆電線401や複合電線402を作成することができ、遅延差別化を図ることが容易となる。
<被覆電線の製造方法等の第1形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能な被覆電線401の作成を試みた。まず、図15に示したように複数本の素線411からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な芯線410を用意した。
次に、図20に示したような加熱炉406の炉内部461に芯線410を収容し、被覆対象部位413を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された被覆対象部位413を、図16に示したように、浸漬容器403の浸漬部434内に充填された粉体材料431中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該被覆対象部位413を浸漬部434から取り出した。なお、粉体材料431には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図17(A)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、芯線410の被覆対象部位413の外周側を隙間無く被覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(境界)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、被覆電線401を再び加熱炉406の炉内部461に収容し、被覆部404を加熱して120℃程度まで昇温させてから当該被覆電線401を炉内部461から取り出し観察したところ、図17(B)に示すように被覆部404の表面が平滑化されていることを確認できた。
<被覆電線の製造方法等の第1形態における実施例2>
次に、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能で図19,図23,図24,図26に示すように分岐部414を有した芯線410を用意し、複合電線402の作成を試みた。まず、実施例1と同様の手法により、図20に示したような加熱炉406の炉内部461に、分岐部414を有した芯線410を収容し、被覆対象部位413を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された被覆対象部位413を、図23,図24に示したように、浸漬容器403の浸漬部434内に充填された粉体材料431中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該被覆対象部位413を浸漬部434から取り出した。なお、粉体材料431には、実施例1と同様のものを適用した。
浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図23(B)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、被覆対象部位413の外周側を隙間無く包覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(および分岐部414)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、複合電線402を再び加熱炉406の炉内部461に収容し、被覆部404を加熱して120℃程度まで昇温させてから当該複合電線402を炉内部461から取り出し観察したところ、被覆部404の表面が平滑化(例えば図17(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、被覆電線の製造方法等の第2形態について説明する。被覆電線の製造方法等の第2形態は、上述した被覆電線の製造方法等の第1形態とは、昇温に誘導加熱を用いている他は、同等なものである。以下、被覆電線の製造方法等の第2形態について、被覆電線の製造方法等の第1形態との相違点に注目して説明を行い、同等な点については重複説明を割愛する。
被覆電線の製造方法等の第2形態では、まず、被覆電線の製造方法等の第1形態と同等な構成を有することで、芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆するため、従来手法のような除去工程が不要であるため取扱性が高く、被覆電線に係る材料の無駄を省くことも可能となる。また、目的とする被覆電線の形状や電線特性等が多様、例えば芯線が一線状の形態,複数本束ねた形態,分岐部が形成された形態(例えば複合電線の形態)であっても、当該芯線の被覆対象部位を絶縁性高分子材料の溶融温度以上に昇温(昇温工程)でき、その昇温された被覆対象部位の芯線を浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に浸漬(浸漬工程)できる形態であれば、当該目的とする被覆電線を得ることが可能となる。このような昇温工程や浸漬工程は、押出し成形機等を用いる従来手法と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、被覆電線の製造方法等の第2形態においては、目的とする被覆電線の芯線を用い前述のような昇温工程,浸漬工程を経ることにより、当該被覆電線を容易(従来手法と比較して容易に)に作成することができ、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることも十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機等は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。
さらに、目的とする被覆電線が必要になった場合に、当該被覆電線の芯線を用意し、前述のような昇温工程や浸漬工程を経て当該被覆電線を形成すれば良く、当該被覆電線に係る無駄を省き低コスト化を図ることができ、遅延差別化を図ることも十分可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線と被覆電線とを、同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することも十分可能である。
また、昇温工程において誘導加熱手段を適用し芯線の被覆対象部位のみを昇温、例えば被覆対象部位のみを局部的に昇温することにより、当該昇温工程の際に芯線の露出対象部位の昇温を抑制したり、被覆部の形成に関するハイサイクル化や省エネ化に貢献することが可能となる。
被覆電線の製造方法等の第2形態においては、前述したように芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆して被覆電線を作成できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,粉体塗装分野,誘導加熱分野,絶縁性高分子材料分野,溶着分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような被覆電線,複合電線の製造方法の一例が挙げられる。
以下、被覆電線の製造方法等の第2形態について、図29を参照して説明する。尚、図29では、図15〜図28までに示されている構成要素と同等な構成要素については、図15〜図28と同等な符号が付されており、以下ではそれら同等な構成要素についての重複説明を割愛する。
<被覆電線の製造方法等の第2形態における昇温工程の一例>
昇温工程は、昇温手段を用いて芯線410の被覆対象部位413を粉体溶融温度以上に昇温する工程であって、その昇温された状態の被覆対象部位413を後段の浸漬工程にて浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬した場合に、当該粉体材料431を溶融(被覆対象部位413周囲の粉体材料431を溶融)、および溶融した溶融物を被覆対象部位413に対して付着(包覆するように付着)できる工程であれば、特に限定されるものではない。
例えば、昇温手段として図29に示すような誘導加熱手段506を適用し、その誘導加熱手段506により被覆対象部位413を誘導加熱して昇温する工程が挙げられる。図29に示す誘導加熱手段506においては、例えばコイル状に延在した導電体561からなる加熱コイル部560を有し、その加熱コイル部560に交流電流を通電できる構成となっている。
この誘導加熱手段506のような昇温手段によれば、例えば図29に示すように加熱コイル部560の内側部562(軸心側)に被覆対象部位413(加熱対象)を配置し、加熱コイル部560に交流電流を通電すると、例えば露出対象部位412を加熱(昇温)することなく、被覆対象部位413を誘導加熱(非接触で直接加熱)して昇温することが可能となる。
また、例えば一般的な加熱炉によって被覆対象部位413を加熱して昇温する場合と比較すると、被覆対象部位413のみを局所的かつ速やかに誘導加熱して昇温でき、昇温効率(加熱効率)も良いことから、設備(特に昇温手段)の小型化や低コスト化を図ったり、被覆部404の形成に関するハイサイクル化や省エネ化を図ることも可能となる。また、芯線410のスケール発生も抑制できる。
加熱コイル部560の形状(加熱コイル部560の巻数,直径,軸心方向長さや、導電体561の横断面形状等),通電条件(交流電流の周波数,通電時間等),内側部562に対する被覆対象部位413の配置位置(内側部562での空間的位置,方向,芯線410の姿勢等)等については、特に限定されるものではなく、例えば加熱対象である被覆対象部位413の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,電気的特性(電気伝導率,透磁率等),後段の浸漬工程の条件(粉体溶融温度や浸漬時間等)に応じて、適宜設定することが可能である。
例えば、加熱コイル部560の内側部562に対して配置する芯線410の姿勢としては、図29(A)に示すように芯線410を一直線状に延在させた状態にしたり、図29(B)に示すように芯線410をコンパクトに纏めた状態(例えば図示するように分岐部414を基点にして放射状に分散する芯線410を纏めた状態)にすることが挙げられる。
また、前記のように被覆対象部位413を誘導加熱して昇温すると、その被覆対象部位413の熱が露出対象部位412に伝達し当該露出対象部位412も昇温することが考えられるが、加熱コイル部560の通電条件を適宜設定(例えば通電時間を短く)する等により、当該露出対象部位412の昇温を抑制することが可能となる。なお、昇温工程により露出対象部位412が昇温してしまう場合には、その露出対象部位412を必要に応じて冷却し、粉体溶融温度未満に降温することが好ましい。これにより、例えば後段の浸漬工程において、露出対象部位412に対する粉体材料431の溶融物の付着を抑制することが可能となる。
導電体561においては、前述のように交流電流を通電できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば銅等の金属材料から導電体561を適用することが挙げられる。また、図29(B)(C)に示すように中空部563を有したチューブ状の導電体561を適用し、その中空部563に冷媒を循環できる構成とすることにより、加熱コイル部560に交流電流を通電した場合に当該加熱コイル部560が昇温することを抑制できる。
<被覆電線の製造方法等の第2形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬工程にて被覆対象部位413に形成された被覆部404(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該被覆部404の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した昇温工程と同様に、昇温手段として図29に示すような誘導加熱手段506を適用し、被覆部によって被覆された芯線410の被覆対象部位413を誘導加熱手段により再び誘導加熱して、その被覆対象部位413の熱を被覆部404に伝達させて昇温(間接加熱により昇温)する工程が挙げられる。
この再昇温工程での誘導加熱手段506による被覆部404の昇温条件については、被覆部404の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。その他、この再昇温工程での誘導加熱手段506については、前述の項目<昇温工程の一例>の内容に基づいて適宜適用することが可能であり、その詳細な説明は省略する。
以上示した、浸漬工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする被覆部404に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<被覆電線の製造方法等の第2形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能な被覆電線401の作成を試みた。まず、図15に示したように複数本の素線411からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な芯線410を用意した。
次に、図29に示したような誘導加熱手段506を適用し、加熱コイル部560の内側部562に芯線410の被覆対象部位413を配置し、加熱コイル部560に交流電流を通電することにより、当該被覆対象部位413を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された被覆対象部位413を、図16に示したように、浸漬容器403の浸漬部434内に充填された粉体材料431中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該被覆対象部位413を浸漬部434から取り出した。なお、粉体材料431には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図17(A)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、芯線410の被覆対象部位413の外周側を隙間無く被覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(境界)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、前記のように被覆部404が形成された被覆対象部位413を、再び加熱コイル部560の内側部562に配置し、加熱コイル部560に交流電流を通電して当該被覆対象部位413を誘導加熱することにより、被覆部404を間接加熱して120℃程度まで昇温させてから観察したところ、図17(B)に示すように被覆部404の表面が平滑化されていることを確認できた。
<被覆電線の製造方法等の第2形態による実施例2>
次に、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能で図19,図23,図24,図26に示すように分岐部414を有した芯線410を用意し、このような分岐形状の被覆電線401の作成を試みた。まず、実施例1と同様の手法により、図29に示したような誘導加熱手段506を適用し、被覆対象部位413を加熱して120℃程度まで昇温させた。その後、前記の昇温された被覆対象部位413を、図23,図24に示したように、浸漬容器403の浸漬部434内に充填された粉体材料431中に浸漬(昇温してから速やかに浸漬)し、その浸漬された状態で30秒程度保持してから、当該被覆対象部位413を浸漬部434から取り出した。なお、粉体材料431には、実施例1と同様のものを適用した。
浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図23(B)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、被覆対象部位413の外周側を隙間無く包覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(および分岐部414)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
その後、形成された被覆対象部位413を、再び誘導加熱手段506を適用して誘導加熱することにより、被覆部404を間接加熱して120℃程度まで昇温させてから観察したところ、被覆部404の表面が平滑化(例えば図17(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、被覆電線の製造方法等の第3形態について説明する。被覆電線の製造方法等の第3形態は、上述した被覆電線の製造方法等の第1形態とは、被覆対象部位413が既に粉体材料431に浸漬された状態で被覆対象部位413の昇温が行われる他は、同等なものである。以下、被覆電線の製造方法等の第3形態について、被覆電線の製造方法等の第1形態との相違点に注目して説明を行い、同等な点については重複説明を割愛する。
被覆電線の製造方法等の第3形態では、まず、被覆電線の製造方法等の第1形態と同等な構成を有することで、芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆するため、従来手法のような除去工程が不要であり、被覆電線に係る材料の無駄を省くことが可能となる。また、目的とする被覆電線の形状や電線特性等が多様、例えば芯線が一線状の形態,複数本束ねた形態,分岐部が形成された形態(例えば複合電線の形態)であっても、芯線の被覆対象部位を、浸漬容器内の粉体状の絶縁性高分子材料中に浸漬した状態で、浸漬容器の外周側に位置する誘導加熱手段によって、絶縁性高分子材料の溶融温度以上に誘導加熱して昇温(浸漬・昇温工程)できる形態であれば、当該目的とする被覆電線を得ることが可能となる。このような浸漬・昇温工程は、押出し成形機等を用いる従来手法と比較すると、種々の観点において簡便なものと言える。
すなわち、被覆電線の製造方法等の第3形態においては、目的とする被覆電線の芯線を用い前述のような浸漬・昇温工程を経ることにより、当該被覆電線を容易(従来手法と比較して容易に)に作成することができ、絶縁性,防水性,耐久性等の所望の電線特性を得ることも十分可能なものと言える。また、従来手法のような保管場所や成形機等は不要であり、十分な作業スペースを確保して作業効率を高めたり、設備の小型化や低コスト化を図ることが可能となる。
さらに、目的とする被覆電線が必要になった場合に、当該被覆電線の芯線を用意し、前述のような昇温工程や浸漬工程を経て当該被覆電線を形成すれば良く、当該被覆電線に係る無駄を省き低コスト化を図ることができ、遅延差別化を図ることも十分可能となる。したがって、例えば自動車用ワイヤハーネス等の複合電線と被覆電線とを、同じ設備(例えば既存の自動車用ワイヤハーネス設備)で製造することも十分可能である。
また、昇温手段として誘導加熱手段を適用し芯線の被覆対象部位のみを昇温、例えば被覆対象部位のみを局部的に昇温することにより、当該浸漬・昇温工程の際に芯線の露出対象部位の昇温を抑制したり、被覆部の形成に関するハイサイクル化や省エネ化に貢献することが可能となる。
被覆電線の製造方法等の第3形態においては、前述したように芯線の被覆対象部位のみを被覆部で被覆して被覆電線を作成できるものであれば、自動車分野,電線分野,端子分野,粉体塗装分野,誘導加熱分野,絶縁性高分子材料分野,溶着分野等の各種分野で一般的に知られている技術等を適用して適宜設計することが可能であり、例えば以下に示すような被覆電線,複合電線の製造方法の一例が挙げられる。
以下、被覆電線の製造方法等の第3形態について、図30〜図37を参照して説明する。尚、図30〜図37では、図15〜図28までに示されている構成要素と同等な構成要素については、図15〜図28と同等な符号が付されており、以下ではそれら同等な構成要素についての重複説明を割愛する。
<被覆電線の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の浸漬容器の一例>
浸漬・昇温工程においては、一般的な粉体塗装法(パウダーコーティング法)を適宜利用して行うことができ、例えば図30〜図36に示したような浸漬容器403を用いた浸漬塗装法を利用することが挙げられる。
浸漬容器403については、浸漬させる被覆対象部位413の形状等に応じて種々の形態を適用することが可能であり、当該浸漬容器403に対し粉体材料431を十分に充填でき、その充填された粉体材料431中に被覆対象部位413を浸漬できるものであれば良い。具体例としては、図30〜図36に示したように、有底筒状の周壁432と、周壁432内の開口部433側に形成された浸漬部434と、周壁432内の底壁435側に形成され浸漬部434との間が仕切壁436を介して仕切られた気体噴出部437と、周壁432外周側と気体噴出部437との間を連通し当該気体噴出部437に気体を供給することが可能な供給部438と、を有した構成が挙げられる。
図35,図36に示す浸漬容器403においては、周壁432における浸漬部434側に貫通孔432aが形成(図35中では3個、図36では2個形成)され、その貫通孔432aを芯線410が貫通できる構成となっている。このような構成により、例えば図35の浸漬容器403の場合、図示するように芯線410を直線状に延在させながら当該芯線の一部(図中では露出対象部位412)を貫通孔432aに貫通させた状態で、被覆対象部位413を浸漬部434に浸漬することが可能となる。
また、図36の浸漬容器403の場合、一対の貫通孔432aが、浸漬部434を挟んで周壁432の互いに対向する位置に形成され、一線状の芯線410が一対の貫通孔432a間を通過できる構成であり、目的とする被覆電線401を連続的に作成できる構成となっている。図36に示す浸漬容器403によれば、周壁432が開口部433を持たない構成(浸漬部434を包囲する構成)であっても、貫通孔432aを介して、被覆対象部位413を浸漬部434に浸漬することが可能となる。
図36の浸漬容器403により被覆電線401を連続的に作成する具体例としては、まず、例えば一線状の芯線410を、図中の白抜矢印607aのように、一対の貫通孔432aのうち一方から浸漬部434内に導入(芯線410の一端側から導入)して、被覆対象部位413を浸漬部434に浸漬することが挙げられる。そして、浸漬部434内に被覆対象部位413が浸漬された場合に、その被覆対象部位413を誘導加熱手段606により誘導加熱し、被覆対象部位413の周囲の粉体材料431を溶融して、その溶融物を当該被覆対象部位413に付着させた後、例えば図中の白抜き矢印607bのように、一対の貫通孔432aのうち他方から一方から芯線410を浸漬容器403の外周側に導出することにより、被覆部404が形成された被覆電線401を得ることができる。
なお、前述のように貫通孔432aを有した浸漬容器403の構成においては、適宜設計(例えば図外の逆止弁等を貫通孔432aに設ける等)することにより、図35,図36に示すように貫通孔432aに芯線410が貫通した状態でも、浸漬部434内の粉体材料431が周壁432外周側に漏出することを抑制できる。
気体噴出部437の仕切壁436は、粉体材料431の大きさと同等程度、または当該粉体材料431の大きさ以下の形状の孔(図示省略)が複数個穿設された多孔性型の構造のものを適用でき、例えば焼結,繊維クロス,機械加工によって得られるものが挙げられる。このような仕切壁436を有した浸漬容器403により、供給部438を介して気体噴出部437に供給された気体が、仕切壁436の各孔を介して浸漬部434に対して均等に噴出(例えば大気圧下で噴出)され、当該浸漬部434内の粉体材料431が流動し易くなる。このように粉体材料431を流動させた状態であれば、その粉体材料431中に被覆対象部位413を浸漬し易くなる。
供給部438から供給する気体は、特に限定されるものではないが、例えば空気,乾燥空気,窒素,乾燥窒素等の不活性気体を適用することが挙げられる。気体の流量においては、浸漬部434に充填される粉体材料431の粒径,分布,形状,密度等に応じて適宜設定することが挙げられる。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(浸漬部434のうち気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定することが挙げられる。
<被覆電線の製造方法等の第3形態における浸漬・昇温工程の昇温手段の一例>
一般的な浸漬塗装法によって被覆部404を形成する場合、例えば、加熱炉等の昇温手段によって被覆対象部位413を加熱し昇温(すなわち、浸漬前に昇温)してから、その昇温した被覆対象部位413を浸漬容器403に浸漬することにより、粉体材料431の溶融物を被覆対象部位413に付着させる手法(以下、加熱後浸漬手法)が考えられる。
しかしながら、単なる加熱後浸漬手法の場合、被覆対象部位413の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間においては、時間経過と共に溶融物の厚さが厚くなるものの、当該一定の浸漬時間以降は、被覆対象部位413が粉体溶融温度未満に降温するため、溶融物の厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になることが考えられる。例えば、被覆対象部位413の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になることも考えられる。このような傾向は、加熱炉等による昇温温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得る。
そこで、被覆電線の製造方法等の第3形態では、浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬された被覆対象部位413を、例えば図30〜図36に示すような誘導加熱手段606によって誘導加熱して昇温する手法を適用することにした。この誘導加熱手段606においては、例えば図30〜図36に示すように、コイル状(または渦巻状)に延在した導電体661を有する加熱コイル部660を備え、浸漬容器403の外周側に配置可能な構成を適用することが挙げられる。
この誘導加熱手段606のような昇温手段によれば、例えば図30〜図36に示すように浸漬容器403内の粉体材料431中に被覆対象部位413が浸漬された状態であっても、加熱コイル部660に交流電流を通電することにより、例えば露出対象部位412を加熱(昇温)することなく、当該被覆対象部位413を誘導加熱(非接触で直接加熱)して昇温することが可能となる。そして、昇温された被覆対象部位413の熱により、当該被覆対象部位413周囲の粉体材料431が溶融し、その溶融した溶融物が当該被覆対象部位413に対して付着(包覆するように付着)することになる。
また、加熱炉等による加熱後浸漬手法と比較すると、芯線410の被覆対象部位413のみを局所的かつ速やかに誘導加熱して昇温でき、昇温効率(加熱効率)も良いことから、設備(特に昇温手段)の小型化や低コスト化を図ったり、被覆部404の形成に関するハイサイクル化や省エネ化を図ることも可能となる。また、芯線410のスケール発生も抑制できる。
さらに、加熱コイル部660に対し継続的に通電することにより、粉体材料431中に浸漬された被覆対象部位413を粉体溶融温度以上に保つことができ、当該被覆対象部位413に付着させる溶融物の厚さを容易に調整して、被覆部404の厚さを制御することが可能となる。図36のような浸漬容器403を用いる場合には、加熱コイル部660に対し断続的に通電、例えば被覆対象部位413が浸漬部434に浸漬されている場合に当該加熱コイル部660に対して通電することにより、当該被覆対象部位413のみに所望の被覆部404を作成することが可能となる。
加熱コイル部660は、浸漬容器403内の粉体材料431中に浸漬された被覆対象部位413を当該浸漬容器403外周側から誘導加熱できる構成であれば良い。したがって、加熱コイル部660の形状(加熱コイル部660の巻数,直径,軸心方向長さや、導電体661の横断面(あるいは縦断面)形状,位置等),通電条件(交流電流の周波数,通電時間等),内側部662に対する浸漬容器403の配置位置(内側部662での空間的位置,方向等)等については、特に限定されるものではなく、例えば加熱対象である被覆対象部位413の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,電気的特性(電気伝導率,透磁率等),粉体材料431の粉体溶融温度,浸漬条件(詳細を後述する)に応じて、適宜設定することが可能である。
具体例としては、図30,図31,図33,図34,図36に示すように、浸漬容器403の外周側を包囲できるようにコイル状に延在した導電体661を有する加熱コイル部660であって、その加熱コイル部660の内側部662(軸心側)に浸漬容器403を収容できる構成のものを適用することが挙げられる。また、図32,図35に示すように、内側部662の軸心方向に浸漬容器403の浸漬部434が位置するようにコイル状や渦巻状等に延在した導電体661を有し、例えば浸漬容器403の底壁435側に配置可能な構成も挙げられる。
また、前記のように被覆対象部位413を誘導加熱して昇温すると、その被覆対象部位413の熱が露出対象部位412に伝達し当該露出対象部位412も昇温することが考えられるが、加熱コイル部660の通電条件を適宜設定(例えば通電時間を短く)する等により、当該露出対象部位412の昇温を抑制することが可能となる。
導電体661においては、前述のように交流電流を通電できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば銅等の金属材料から導電体661を適用することが挙げられる。また、図30等に示すように中空部663を有したチューブ状の導電体661を適用し、その中空部663に冷媒を循環できる構成とすることにより、加熱コイル部660に交流電流を通電した場合に当該加熱コイル部660が昇温することを抑制できる。
<被覆電線の製造方法等の第3形態での浸漬・昇温工程における浸漬条件等の一例>
浸漬・昇温工程における浸漬条件、例えば浸漬容器403の浸漬部434に対する被覆対象部位413の浸漬時間,浸漬位置(浸漬中の空間的位置,方向,浸漬時の芯線410の姿勢等)は、露出対象部位412および被覆対象部位413や、被覆対象部位413の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性,形状や、粉体溶融温度や、目的とする被覆部404の形状等に応じて、適宜設定することができる。
例えば、浸漬部434に対し、図30に示すように芯線410を一直線状に延在させた状態で当該芯線410の一端側を浸漬したり、図31等に示すように芯線410を折曲した状態(例えばU字状)で当該芯線410の中央側を浸漬したり、図32に示すように芯線410をコンパクトに纏めた状態(例えば図示するように渦巻状)で当該芯線410の中央側を浸漬することが挙げられる。
したがって、被覆対象部位413において、複数本の芯線410を束ねて構成された形態や分岐部414を形成して構成された形態であっても、例えば図31〜図36に示すように当該被覆対象部位413を浸漬部434に対して適宜浸漬し被覆部404を被覆することにより、目的とする被覆電線401を作成することができ、この被覆電線401を複合電線402として適用することも可能となる。
なお、浸漬・昇温工程において、被覆対象部位413の他に露出対象部位412(一部あるいは全部)も浸漬部434に浸漬され得る状態であっても、当該露出対象部位412の温度が粉体溶融温度未満であれば、粉体材料431の溶融物が露出対象部位412に付着することを抑制できる。また、例えば図18(A),図33に示すように露出対象部位412をマスキング部材(例えばマスキングテープ等)415により適宜マスキングした場合も、粉体材料431の溶融物が露出対象部位412に付着することを抑制できる。図18(A),図33に示すように芯線410の中央側を露出対象部位412として作成された被覆電線401の適用例としては、例えば図27に示すように被覆電線401を複数本束ね、各被覆電線401の露出対象部位412を溶着し電気的接続して複合電線402を作成する一例が挙げられる。
また、被覆対象部位413において、被覆部404を一時的に不用とする箇所が存在する場合には、当該箇所にも適宜マスキングしてから浸漬・昇温工程を行っても良い。さらに、浸漬・昇温工程は、単に1回で行うだけでなく、複数回に分割したり繰り返し行っても良い。浸漬・昇温工程を複数回に分割して行う場合に、各浸漬・昇温工程毎に粉体材料431の種類を変更することにより、被覆対象部位413に対して多様(例えば多色)な被覆部404を形成することも可能となる。
被覆対象部位413に付着する溶融物(粉体材料431の溶融物)の厚さは、浸漬・昇温工程の浸漬時間や昇温温度等の浸漬条件を適宜調整することにより、変更することが可能である。このように浸漬条件を調整しなくても、被覆対象部位413の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間においては、時間経過と共に溶融物の厚さが厚くなるものの、当該一定の浸漬時間以降は、溶融物の厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になることが考えられる。例えば、被覆対象部位413の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になることも考えられる。このような傾向は、浸漬・昇温工程での昇温温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得る。このような場合には、前述のように浸漬条件を適宜調整する他に、後述の再昇温工程を適宜行うことが好ましい。
<被覆電線の製造方法等の第3形態における再昇温工程の一例>
再昇温工程は、前段の浸漬・昇温工程にて被覆対象部位413に形成された被覆部404(完全に固化する前の半溶融状態も含む)を粉体溶融温度以上に昇温し、例えば当該被覆部404の表面を平滑化できる工程であれば、特に限定されるものではない。例えば前述した浸漬・昇温工程と同様の誘導加熱手段606を適用することが挙げられる。具体例としては、例えば図37に示すように、加熱コイル部660の内側部662(軸心側)に被覆対象部位413(被覆部404)を配置し、加熱コイル部660に交流電流を通電することにより、被覆対象部位413を再び誘導加熱して、その被覆対象部位413の熱を被覆部404に伝達させて昇温(間接加熱により昇温)する工程が挙げられる。
この再昇温工程での誘導加熱手段606による被覆部404の昇温条件については、被覆部404の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(降温)特性等に応じて適宜設定することが可能である。例えば、再昇温工程における加熱コイル部660の内側部662に対して配置する被覆対象部位413の姿勢としては、図37(A)に示すように被覆対象部位413を一直線状に延在させた状態にしたり、図37(B)に示すように被覆対象部位413をコンパクトに纏めた状態(例えば図示するように分岐部414を基点にして放射状に分散する被覆対象部位413を纏めた状態)にすることが挙げられる。その他、この再昇温工程での誘導加熱手段606については、前述の項目<浸漬・昇温工程の昇温手段の一例>の内容に基づいて適宜適用することが可能であり、その詳細な説明は省略する。
以上示した、浸漬・昇温工程,再昇温工程においては、それぞれ1回ずつ行っても良いが、例えば目的とする被覆部404に応じて、交互に繰り返し行っても良い。
<被覆電線の製造方法等の第3形態による実施例1>
以上示した内容に基づき、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能な被覆電線401の作成を試みた。まず、図15に示したように複数本の素線411からなり自動車用ワイヤハーネスに適用可能な芯線410を用意した。
次に、図30に示すように浸漬容器403内の粉体材料431中に芯線410の被覆対象部位413を浸漬した状態で、当該浸漬容器403の外周側に位置する誘導加熱手段606の加熱コイル部660に交流電流を通電して、被覆対象部位413を誘導加熱して120℃程度まで昇温させ、この昇温された状態を30秒程度保持した。なお、粉体材料431には、ポリアミド系の熱可塑性樹脂(アルケマ株式会社製のPlatamid、品番HX2544PRA170)を用いてなるものであって、平均粒径が80μm〜170μm程度に微紛化されたものを適用した。
その後、浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、図17(A)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、芯線410の被覆対象部位413の外周側を隙間無く被覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(境界)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
さらに、前記のように被覆部404が形成された被覆対象部位413を、図37に示すように加熱コイル部660の内側部662に配置し、加熱コイル部660に交流電流を通電して当該被覆対象部位413を誘導加熱することにより、被覆部404を間接加熱して120℃程度まで昇温させてから観察したところ、図17(B)に示すように被覆部404の表面が平滑化されていることを確認できた。
<被覆電線の製造方法等の第3形態による実施例2>
次に、自動車用ワイヤハーネス(例えばワイヤハーネス407)に適用可能で図19,図34,図35,図37に示すように分岐部414を有した芯線410を用意し、このような分岐形状の被覆電線401の作成を試みた。まず、図34,図35に示すように浸漬容器403内の粉体材料431中に芯線410の被覆対象部位413を浸漬した状態で、実施例1と同様に被覆対象部位413を誘導加熱して120℃程度まで昇温させ、この昇温された状態を30秒程度保持した。なお、粉体材料431においても、実施例1と同様のものを適用した。
その後、浸漬部434から取り出された被覆対象部位413を観察したところ、当該被覆対象部位413を包覆するように粉体材料431の溶融物が付着し、その溶融物が降温し固化して、例えば図34(B)に示すような被覆部404が形成されていた。この被覆部404は、被覆対象部位413の外周側を隙間無く包覆し、例えば露出対象部位412と被覆対象部位413との間(および分岐部414)も隙間無くシールして形成され、自動車用ワイヤハーネスに求められる電線特性(絶縁性,防水性,耐久性等)を十分付与できることが確認できた。
さらに、前記のように被覆部404が形成された被覆対象部位413を、再び誘導加熱手段606を適用して誘導加熱することにより、被覆部404を間接加熱して120℃程度まで昇温させてから観察したところ、被覆部404の表面が平滑化(例えば図17(B)に示すように平滑化)されていることを確認できた。
次に、上述した保護構造の製造方法等の第1〜第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第1〜第3形態のうち、浸漬容器の外周側に誘導加熱手段が配置されている、保護構造の製造方法等の第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第3形態に適用される浸漬容器の別例について説明する。
上述した保護構造の製造方法等の第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第3形態では、次のような事態が生じ得る。
図38は、保護構造の製造方法等の第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第3形態において生じ得る事態を説明する図である。ここでは保護構造の製造方法等の第3形態を例に挙げている。即ち、被覆対象部は、複合電線110をなす複数本の被覆電線120の芯線121の露出部121aを束ねて溶着した複合露出部102である。また、誘導加熱手段306の加熱コイル部360が、浸漬容器103の外周を囲うように配置されている。このような構成において被覆対象部(即ち加熱対象部)たる複合露出部102を浸漬容器103に挿入する場合、図38(A)に示されているように、被覆対象部たる複合露出部102の中心軸ML1と、加熱コイル部360の中心軸ML2と、の間には往々にしてズレdが生じがちである。加熱コイル部360によって生じた磁束は、2つの中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係に応じた密度で被覆対象部たる複合露出部102と交差して熱を生じさせる。このため、複合電線110を複数セット作成するに当たって、複合露出部102を挿入する度に2つの中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係にバラつきが生じると、加熱状態にバラつきが生じ、複合露出部102を被覆した保護部材104(図3参照)の品質にバラつきが生じかねない。このため、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係は、なるべく安定している方が望ましく、理想的には、図38(B)に示されているように、被覆対象部たる複合露出部102の中心軸ML1と、加熱コイル部360の中心軸ML2と、が一致していることが望ましい。
ここで、図38に示されている浸漬容器103では、その周壁が先細りに絞られた形状を有しているが、この絞りを強くして周壁の傾斜角を大きくして、被覆対象部(即ち加熱対象部)たる複合露出部102を周壁の内面に沿わせて加熱コイル部360の中心軸ML2に向かって案内することが考えられる。しかしながら、絞りを強くし過ぎると被覆対象部(即ち加熱対象部)たる複合露出部102の周囲における粉体材料131の量が不足がちとなる。一方で、絞りが弱すぎると複合露出部102を十分に案内しきれない場合がある。
そこで、以下に説明する別例の浸漬容器では、被覆対象部が挿入される場合上記の2つの中心軸のズレdを抑制させて、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係を安定させるための工夫が施されている。
以下、このような別例の浸漬容器を4種類説明する。尚、ここでも、保護構造の製造方法等の第3形態に適用した例を挙げて説明を行う。
<第1の別例の浸漬容器>
図39は、第1の別例の浸漬容器を示す図である。図39(A)には、被覆対象部たる複合露出部102の挿入初期段階で、複合露出部102の中心軸ML1と、誘導加熱手段306の加熱コイル部360の中心軸ML2と、の間にズレdが生じた状態が示されている。図39(B)には、このズレdが抑制された状態が示されている。
第1の別例の浸漬容器710は、カップ状の容器部711と、この容器部711の底における、この底の中心からズレた位置から突出し、加熱コイル部360の中心軸ML2と一致して延びるように配置される偏心回転軸712と、を有している。そして、浸漬容器710は、偏心回転軸712を中心に矢印D71方向に回転する。これにより、複合露出部102の挿入初期段階で上記のようなズレdが生じていたとしても、浸漬容器710が回転すると、その内面が、複合露出部102に当接しつつ、複合露出部102の中心軸ML1を加熱コイル部360の中心軸ML2に向かわせる方向に複合露出部102を案内する。この回転が続くうちに、2つの中心軸ML1,ML2のズレdが抑制されることとなる。
ここで、容器部711の底における偏心回転軸712の偏心の程度は、両者が固定されているために不変であるので、上記のズレdが抑制される際には、複合露出部102は常に同一点に向かって案内されることとなる。その結果、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係を安定させることができる。
<第2の別例の浸漬容器>
図40は、第2の別例の浸漬容器を示す図である。図40(A)には、2つの中心軸ML1,ML2の間にズレdが生じた状態が示されている。図40(B)には、このズレdが抑制された状態が示されている。
第2の別例の浸漬容器720も、カップ状の容器部721と、この容器部721の底から突出し、加熱コイル部360の中心軸ML2と一致して延びるように配置される回転軸722と、を有している。このとき、回転軸722は、容器部721の底の中心位置から突出している。ただし、容器部721は、その中心軸ML3が、加熱コイル部360の中心軸ML2に対して傾き角θ1で傾斜した姿勢で回転軸722に固定されている。浸漬容器720は、容器部721がこのように傾斜したまま矢印D72方向に回転する。これにより、複合露出部102の挿入初期段階で上記のようなズレdが生じていたとしても、浸漬容器720が回転すると、その内面が、複合露出部102に当接しつつ、複合露出部102の中心軸ML1を加熱コイル部360の中心軸ML2に向かわせる方向に複合露出部102を案内する。そして、この回転が続くうちに、2つの中心軸ML1,ML2のズレdが抑制されることとなる。
ここでも、容器部721の底に対する回転軸722の傾斜の程度は、両者が固定されているために不変であるので、上記のズレdが抑制される際には、複合露出部102は常に同一点に向かって案内されることとなる。その結果、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係を安定させることができる。
<第3の別例の浸漬容器>
図41は、第3の別例の浸漬容器を示す図である。図41(A)には、2つの中心軸ML1,ML2の間にズレdが生じた状態が示されている。図41(B)には、このズレdが抑制された状態が示されている。
第3の別例の浸漬容器730は、カップ状の容器部731と、加熱コイル部360の中心軸ML2を挟んで図中で左右方向となる往復方向D73に往復移動が可能に設けられた軸732と、を有している。軸732の先端に、容器部731の底が、回動軸733を中心とした首降り方向D74に首降り移動が可能に連結されている。
これにより、複合露出部102の挿入初期段階で上記のようなズレdが生じていたとしても、軸732が往復方向D73に往復移動すると、容器部731が首降り方向D74に首降り移動してその内面が、複合露出部102に当接しつつ、複合露出部102の中心軸ML1を加熱コイル部360の中心軸ML2に向かわせる方向に複合露出部102を案内する。そして、この軸732の往復移動(即ち、容器部731の首降り移動)が続くうちに、2つの中心軸ML1,ML2のズレdが抑制されることとなる。
ここでは、軸732の往復移動の範囲(即ち、容器部731の首降り移動の範囲)が決まっているので、上記のズレdが抑制される際には、複合露出部102は常に同一点に向かって案内されることとなる。その結果、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係を安定させることができる。
<第4の別例の浸漬容器>
図42は、第4の別例の浸漬容器を示す図である。この図42には、2つの中心軸ML1,ML2の間のズレdが抑制された状態が示されている。
第4の別例の浸漬容器740は、カップ状の容器部741と、容器部741の底の中心から突出し、加熱コイル部360の中心軸ML2を中心として図中の左右方向や紙面に対する直交方向等に振動可能に設けられた振動軸742と、を有している。容器部741は振動軸742の先端に固定されている。図42に戯画的に記載されているように、振動軸742が振動すると、容器部741も振動する。
これにより、複合露出部102の挿入初期段階で上記のようなズレdが生じていたとしても、振動軸742が振動すると、容器部741が振動してその内面が、複合露出部102に当接しつつ、複合露出部102の中心軸ML1を加熱コイル部360の中心軸ML2に向かわせる方向に複合露出部102を案内する。そして、この振動軸742の振動(即ち、容器部731の振動)が続くうちに、2つの中心軸ML1,ML2のズレdが抑制されることとなる。
ここでは、振動軸742の振動範囲(即ち、容器部741の振動範囲)が決まっているので、上記のズレdが抑制される際には、複合露出部102は常に同一点に向かって案内されることとなる。その結果、上記の中心軸ML1、ML2の相対的な位置関係を安定させることができる。
次に、上述した別例の浸漬容器710,・・・,740と同様に、保護構造の製造方法等の第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第3形態に適用される、加熱対象部(即ち、被覆対象部)の浸漬容器への挿入構造について説明する。
<浸漬容器への挿入構造の一例>
図43は、加熱対象部(即ち、被覆対象部)の浸漬容器への挿入構造の一例を示す図である。この挿入構造750は、加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる上記の複合露出部102を有する複合電線110を保持するとともに浸漬容器103へと移動して、複合露出部102を浸漬容器103に挿入するものである。
ここで、この挿入構造750は、挿入時に複合露出部102の先端と浸漬容器103の内底との間に目標間隔L1が開くように、複合露出部102の挿入位置を制御する。この制御は、挿入構造750の初期位置を、この初期位置の挿入構造750によって保持された複合電線110の複合露出部102の先端と浸漬容器103の内底までとなる第1離隔距離L2から上記の目標距離L1を差し引いた第2離隔距離L3が浸漬容器103の上縁との間に開くような位置に設定することで行われる。このような制御により、挿入時には、加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる複合露出部102が常に同じ位置に配置されることとなり、安定した加熱により、品質の安定した被覆を行うことができる。
次に、上述した保護構造の製造方法等の第1〜第3形態、及び被覆電線の製造方法等の第1〜第3形態のうち、誘導加熱を採用した保護構造の製造方法等の第2及び第3形態、被覆電線の製造方法等の第2及び第3形態に適用可能な加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について数種類説明する。
<第1の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法の一例>
第1の加熱方法は、導電性の加熱対象部を加熱する加熱方法であって、前記加熱対象部を、前記加熱対象部よりも磁性の強い補助部材に接触させて、誘導加熱によって前記補助部材ごと昇温する昇温工程、を備えたことを特徴としている。
この第1の加熱方法によれば、加熱対象部を補助部材に接触させて、誘導加熱によって補助部材ごと昇温する。補助部材の磁性が強く誘導加熱によって加熱し易いことから、本発明の加熱方法によれば、加熱対象部を効率的に加熱することができる。
また、第1の加熱方法を採用した被覆方法の第1例は、導電性の加熱対象部を熱可塑性材料で被覆する被覆方法であって、前記加熱対象部を、前記加熱対象部よりも磁性の強い補助部材に接触させて、誘導加熱によって前記熱可塑性材料の溶融温度以上に前記補助部材ごと昇温する昇温工程と、昇温された前記加熱対象部を浸漬容器内の粉体状の前記熱可塑性材料中に浸漬し、前記加熱対象部に前記熱可塑性材料を付着させることで前記加熱対象部を被覆する浸漬工程と、を有したことを特徴としている。
この第1の被覆方法の第1例によれば、加熱対象部を磁性の強い補助部材ごと昇温することで効率的に加熱を行い、その加熱された加熱対象部を粉体状の熱可塑性材料に浸漬するものである。この本発明の被覆方法によれば、加熱が効率化される分、効率的に被覆を行うことができる。
また、第1の被覆方法の第1例において、前記加熱対象部が、芯線の一部が露出した被覆電線における前記芯線の露出部となっており、複数本の前記被覆電線それぞれの前記露出部を、前記補助部材に接触させた状態で互いに電気的に接続する接続工程をさらに有し、前記昇温工程が、前記接続工程で互いに接続された複数本の前記露出部を前記補助部材ごと昇温する工程であり、前記浸漬工程が、複数本の前記露出部をまとめて被覆することで、複数本の前記被覆電線からなる複合電線を得る工程であることは好適である。
この好適な被覆方法によれば、電気的に接合された露出部が熱可塑性材料による被覆によって保護された複合電線を、効率的に得ることができる。
また、第1の被覆方法の第2例は、導電性の加熱対象部を熱可塑性材料で被覆する被覆方法であって、前記加熱対象部を前記補助部材に接触させるとともに浸漬容器内の粉体状の前記熱可塑性材料中に浸漬させて、さらに、前記浸漬容器の外周側に位置する誘導加熱手段によって前記溶融温度以上に前記補助部材ごと誘導加熱して昇温することで、前記加熱対象部に前記熱可塑性材料を付着させて前記加熱対象部を被覆する浸漬・昇温工程を有したことを特徴としている。
第1の被覆方法の第2例によれば、第1の被覆方法の第1例と同様に、加熱が効率化される分、効率的に被覆を行うことができる。さらに、この被覆方法によれば、加熱対象部の加熱と被覆とが上記の浸漬・昇温工程という一工程で行われるので一層効率的に被覆を行うことができる。
以下、第1の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について、具体例を挙げて説明する。
図44は、第1の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明するための図である。第1の加熱方法は、導電性の加熱対象部を、その加熱対象部よりも磁性の強い補助部材に接触させて、誘導加熱によってその補助部材ごと昇温する昇温工程を備えている。具体的には、加熱対象部(即ち、被覆対象部)が、芯線121の一部が露出した複数本の被覆電線120における複数本の露出部121aを束ねた複合露出部801となっている。つまり、ここにいう第1の加熱方法を採用した被覆方法とは、上述した保護構造の製造方法等の第2及び第3形態に第1の加熱方法を採用したものであり、複数本の被覆電線120を束ねて複合電線110を得る方法となっている。
そして、この被覆方法では、図44に示されているように、昇温工程に先立って、複数本の被覆電線120それぞれの芯線121の露出部121aを互いに電気的に接続して束ねた複合露出部801を、補助部材としての鉄部材802に接触させた状態で形成する接続工程が行われる。そして、昇温工程では、例えば図9や図11に示されている誘導加熱装置206,306等を用いて、上記のように形成された複合露出部801を内部の鉄部材802ごと昇温する。保護構造の製造方法等の第2形態への適用では、昇温工程の後に続く浸漬工程で、例えば図2に示されているように、浸漬容器103に収容された粉体材料131(熱可塑性材料)に、上記のように昇温された複合露出部801が浸漬されることで複合露出部801がまとめられて被覆され、複数本の被覆電線120からなる複合電線110が得られる。保護構造の製造方法等の第3形態への適用では、昇温・浸漬工程において、誘導加熱手段306による昇温が、粉体材料131に浸漬された状態の複合露出部801に対して行われて、この複合露出部801が被覆される。
以上に説明した第1の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法によれば、加熱対象部たる複合露出部801を、より磁性の強い補助部材たる鉄部材802に接触させて、誘導加熱によって鉄部材802ごと昇温する。一般に、芯線121は銅やアルミニウムからなり誘導加熱では加熱し難いことがある。第1の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法によれば、このような加熱対象部に、より磁性が強く誘導加熱によって加熱し易い鉄部材802を接触させることから、短時間で加熱することができる。
尚、上記にいう鉄部材802は、ここでは特定しないが薄い鉄片や鉄粉等が挙げられる。また、上記にいう補助部材は、鉄部材に限るものではなく、加熱対象部よりも磁性の強い部材であれば、その具体的な材質を問うものではない。
また、第1の加熱方法を採用した上記の被覆方法によれば、昇温工程において上記のように効率的に加熱を行い、その加熱された複合露出部801に粉体材料131を付着させることで複合露出部801が被覆される。この被覆方法によれば、加熱が効率化される分、効率的に被覆を行うことができる。
また、第1の加熱方法を採用した上記の被覆方法は、上述したように加熱対象部(即ち、被覆対象部)が、上記の複合露出部801となっており、この複合露出部801を、補助部材たる鉄部材802に接触させた状態で互いに電気的に接続する接続工程を備えている。そして、昇温工程が、接続工程で得られる複合露出部801を鉄部材802ごと昇温する工程であり、被覆工程が、複合露出部801をまとめて被覆することで複合電線110を得る工程となっている。これにより、複合露出部801が被覆によって保護された複合電線110を、効率的に得ることができる。
また、保護構造の製造方法等の第3形態への第1の加熱方法の適用による被覆方法では、浸漬・昇温工程が、浸漬容器103内の粉体材料131中に浸漬された複合露出部801を、鉄部材802に接触させて、浸漬容器103の外周側に位置する誘導加熱手段306によって上記の溶融温度以上に鉄部材802ごと誘導加熱して昇温する。この被覆方法によれば、複合露出部801の加熱と被覆とが上記の昇温工程という一工程で行われるので一層効率的に被覆を行うことができる。
尚、ここでの例では、第1の加熱方法の採用先として、保護構造の製造方法等の第2及び第3形態が挙げられている。しかしながら、第1の加熱方法の採用先は、これに限るものではなく、芯線を加熱対象部(即ち、被覆対象部)とした上記の被覆電線の製造方法等の第2及び第3形態であってもよい。
次に、第2の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明する。
<第2の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法の一例>
図45は、第2の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明するための図である。この図45には、第2の加熱方法が、上述した保護構造の製造方法等の第2形態に適用された例が示されている。そして、加熱対象部(即ち、被覆対象部)が、複合電線110における複合露出部102となっている。
第2の加熱方法では、誘導加熱手段206の加熱コイル部260に、温度センサたる熱電対901が取り付けられている。そして、加熱コイル部260に流される交流電流の大きさが、熱電対901での検出結果に基づいて制御される。
図45(A)に示されているように、昇温初期の段階では、加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる複合露出部102は昇温されておらず、その熱エネルギーを仮に「0」とする。加熱コイル部260に流される交流電流による電流エネルギーを仮に「100」とすると、総エネルギーは「100」となる。このとき、図45(B)に示されているように、複合露出部102がある程度昇温され、その熱エネルギーが「20」であるとすると、加熱コイル部260の電流エネルギーが「100」の場合、総エネルギーは「120」となる。この場合、総エネルギーは「120」のうち、複合露出部102の熱エネルギーに相当する「20」は無駄になってしまう。そこで、第2の加熱方法では、図45(C)に示されているように、複合露出部102の熱エネルギーの分だけ加熱コイル部260に流される交流電流の大きさを下げて、その電流エネルギーを「80」とする。これにより、総エネルギーが「100」となり、複合露出部102の昇温分のエネルギーの無駄が廃される。
ここで、熱電対901の検出結果は、不図示の制御器に送られている。そして、熱電対901の検出結果から求められる温度が、複合露出部102からの輻射熱による温度と捉えられることから、上記の制御器において、その温度から、いわゆるシュテファン・ボルツマンの法則に基づいて複合露出部102の熱エネルギーが算出される。上記のような加熱コイル部260の交流電流に対する制御は、このようにして算出される熱エネルギーに基づいて行なわれる。
このような第2の加熱方法による昇温工程の後に、複合露出部102を粉体材料131に浸漬させる浸漬工程が行われる。
以上に説明した第2の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法によれば、上記のように総エネルギーにおける、複合露出部102の昇温分のエネルギーの無駄が廃される。そして、その無駄が廃された分、加熱コイル部260に対して低出力での加熱が可能となる。また、加熱中は、総エネルギーが常に一定に制御されるので、複合露出部102の安定した昇温、延いては、複合露出部102に対する品質の安定した被覆が可能となる。
尚、ここでの例では、第2の加熱方法の採用先として、保護構造の製造方法等の第2形態が挙げられている。しかしながら、第2の加熱方法の採用先は、これに限るものではなく、保護構造の製造方法等の第3形態や、芯線を加熱対象部(即ち、被覆対象部)とした上記の被覆電線の製造方法等の第2及び第3形態であってもよい。
次に、第3の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明する。
<第3の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法の一例>
図46は、第3の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明するための図である。この図46には、第3の加熱方法が、上述した保護構造の製造方法等の第2形態に適用された例が示されている。そして、加熱対象部(即ち、被覆対象部)が、複合電線110における複合露出部102となっている。
第2の加熱方法では、誘導加熱手段206の加熱コイル部260に、温度センサたる熱電対901と、加熱コイル部260に流れる交流電流の電流値を検出する電流計902が取り付けられている。そして、加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる複合露出部102に対する昇温工程が、熱電対901での検出結果及び電流計902での検出結果に基づいて制御される。
図47は、図46に示されている熱電対の検出結果から求められる温度と、電流計での検出結果と、の時間推移の一例を表したグラフである。この図47のグラフG1では、縦軸に熱電対901の検出結果から求められる温度と、電流計での検出される電流値(実効値)がとられ、横軸に時間がとられている。そして、温度の時間推移が破線ラインL1で示され、電流値の時間推移が実線ラインL2で示されている。この図47に示されている例は、誘導加熱手段206による昇温工程が特に問題なく行われた場合の例である。
加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる複合露出部102の輻射熱を受けた熱電対901の温度は、加熱コイル部260に流れる交流電流の電流値が実線ラインL2で示されているように一定値で推移する場合、特に異常がなければ破線ラインL1で示されているように上昇してある温度に達すると一定した温度となる。このとき、複合露出部102に破損等の何らかの異常が生じた場合、熱電対901の温度の推移形状が、破線ラインL1の形状に対して乱れる。また、加熱コイル部260は、図10を参照して説明したように中空部263に冷媒を循環させることで冷却されている。この冷却系に異常が生じた場合にも熱電対901の温度の推移形状が乱れる。さらに、加熱コイル部260に破損等の異常が生じた場合には、電流計902の電流値の推移形状が、実線ラインL2の形状に対して乱れる。これらの乱れは、不図示の制御器によって検知される。そして、第2の加熱方法では、これらのような乱れが検知されると、制御器が加熱コイル部260への通電を直ちに停止させる、といった制御が行われる。
このような第3の加熱方法による昇温工程の後に、複合露出部102を粉体材料131に浸漬させる浸漬工程が行われる。
以上に説明した第3の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法によれば、上記のような各種センサでの検出結果を用いることにより、加熱対象部(即ち、被覆対象部)たる複合露出部102や、誘導加熱手段206の状態をリアルタイムで監視することができる。そして、その監視結果に基づいて昇温工程の制御を行うことで、無駄な不良品の発生を抑えることができる。また、誘導加熱手段206の加熱コイル部260への電流値の監視結果に基づいて、その加熱コイル部260の交換時期を推測することもできる。
尚、ここでの例では、第3の加熱方法の採用先として、保護構造の製造方法等の第2第3形態が挙げられている。しかしながら、第3の加熱方法の採用先は、これに限るものではなく、保護構造の製造方法等の第3形態や、芯線を加熱対象部(即ち、被覆対象部)とした上記の被覆電線の製造方法等の第2及び第3形態であってもよい。
次に、第4の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明する。
<第4の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法の一例>
図48は、第4の加熱方法と、その加熱方法を採用した被覆方法について説明するための図である。この図48には、第4の加熱方法が、上述した保護構造の製造方法等の第2形態に適用された例が示されている。そして、加熱対象部(即ち、被覆対象部)が、複合電線110における複合露出部102となっている。
上述したように、また、図48(A)及び図48(B)に示されているように、複合露出部102は、複数本の被覆電線120における露出部121aが束ねられて溶着され、延板状の溶着部123が成形された構成となっている。この溶着の直後には、溶着部123を含む複合露出部102は熱を帯びた状態となっている。第4の加熱方法では、その昇温工程において、複合露出部102が熱を帯びた状態にあるうちに、図48(C)に示されているように、誘導加熱手段206の加熱コイル部260に挿入されて誘導加熱が行われる。
図49は、図48に示されている第4の加熱方法での昇温工程で昇温されたときの複合露出部の温度の時間推移を示すグラフである。この図49のグラフG2では、縦軸に複合露出部102の温度がとられ、横軸に時間がとられている。そして、このグラフG2には、第4の加熱方法での昇温工程で昇温されたときの複合露出部102の温度の時間推移が実線ラインL3で示されている。また、グラフG2には、溶着による複合露出部102の熱を一旦常温まで冷ましてから誘導加熱が行われた場合の複合露出部の温度の時間推移が、比較のために破線ラインL4で示されている。
このグラフG2における実線ラインL3と破線ラインL4との比較から、常温まで冷ましてから誘導加熱が行われた場合には、複合露出部102を常温から、溶着による加工温度に達するまでの加熱エネルギーを要する。これに対し、第4の加熱方法での昇温工程では、加熱がそもそも溶着による加工温度から始まるので、上記の加熱エネルギーが削減される。
このような第4の加熱方法による昇温工程の後に、複合露出部102を粉体材料131に浸漬させる浸漬工程が行われる。
以上に説明した第4の加熱方法、及び、その加熱方法を採用した被覆方法によれば、上記のように加熱エネルギーが削減されるので、加熱コイル部260に対する出力を抑えて目標温度まで加熱することができる。
尚、ここでの例では、第4の加熱方法の採用先として、保護構造の製造方法等の第2形態が挙げられている。しかしながら、第4の加熱方法の採用先は、これに限るものではなく、保護構造の製造方法等の第3形態や、芯線を加熱対象部(即ち、被覆対象部)とした上記の被覆電線の製造方法等の第2及び第3形態であってもよい。
次に、保護構造の製造方法等の第3形態や被覆電線の製造方法等の第3形態に適用可能な、上述した各形態における加熱コイル部として採用可能な誘導コイルを用いた別例の加熱装置と、その加熱装置を採用した被覆装置について説明する。
<別例の加熱装置、及び、その加熱装置を採用した被覆装置>
別例の加熱装置は、開口側の外径よりも他の部分の外径が絞られたカップ形状を有する絶縁性の容器中に収容された導電性の加熱対象部を加熱する加熱装置であって、前記容器の外周に、少なくとも一部の径が前記容器の前記開口側に対応する一端側の径よりも絞られた形状に巻かれた誘導コイルを有し、前記容器中に収容された前記加熱対象部を前記誘導コイルによる誘導加熱で昇温する昇温手段、を備えたことを特徴としている。
この別例の加熱装置によれば、誘導コイルにおいて少なくとも一部の径が一端側の径よりも絞られることで、上記の容器中の加熱対象部に誘導加熱による熱を生じさせる磁束の密度が高められている。これにより、誘導加熱における加熱効率を高めることができる。
また、この別例の加熱装置において、前記誘導コイルが、前記一端側が広口となった先細り状に巻かれたものであってもよい。
この別例の加熱装置を採用した被覆装置は、導電性の加熱対象部を熱可塑性材料で被覆する被覆装置であって、開口側の外径よりも他の部分の外径が絞られたカップ形状に形成され、粉体状の前記熱可塑性材料が収容される絶縁性の容器と、前記容器の外周を囲むとともに、少なくとも一部の径が前記開口側に対応する一端側の径よりも絞られた形状に巻かれた誘導コイルを有し、前記容器中の粉体状の前記熱可塑性材料に浸漬された前記加熱対象部を前記誘導コイルによる誘導加熱で前記熱可塑性材料の溶融温度以上に昇温することで、その昇温された前記加熱対象部に粉体状の前記熱可塑性材料を付着させて前記加熱対象部を被覆する浸漬・昇温手段と、を備えたことを特徴としている。
この被覆装置によれば、容器中の加熱対象部に誘導加熱による熱を生じさせる磁束の密度が高められているので、誘導加熱における加熱効率を高めることができる。そして、この本発明の被覆装置によれば、熱効率を高められる分、効率的に被覆を行うことができる。
また、この被覆装置において、前記誘導コイルが、前記一端側が広口となった先細り状に巻かれたものであってもよい。
以下、別例の加熱装置と、その加熱装置を採用した被覆装置について、具体例を挙げて説明する。
図50は、誘導コイルを用いた別例の加熱装置を採用した被覆装置を示す図である。図50(A)に別例の加熱装置を採用した被覆装置950が示され、図50(B)には、この被覆装置950と比較するための比較例の被覆装置950’が示されている。これらの被覆装置950,950’は、何れも、被覆対象部(即ち加熱対象部)が、複合電線110における複合露出部102となっている。即ち、この図50には、保護構造の製造方法等の第3形態への適用例が示されている。
図50(A)に示されている被覆装置950は、粉体材料131が収容される浸漬容器951と、誘導加熱手段952と、を備えている。浸漬容器951は、開口951a側の外径よりも他の部分の外径が絞られた、即ち、開口951a側から底部951b側に掛けて絞られた先細りカップ形状に形成された容器であり、開口951aにはフランジ951a−1が設けられている。誘導加熱手段952(加熱装置の一例)は、その浸漬容器951の開口951a側に対応する一端952a−1側の径よりも他端952a−2側の径が絞られた先細り形状となるように、浸漬容器951の外周に巻かれた誘導コイル952aと、不図示の電源や制御装置等を有している。つまり、誘導コイル952aは、一端952a−1側が広口となった先細り状に巻かれたものとなっている。浸漬容器951は、この誘導コイル952aの内側に収容され、その誘導コイル952aにおける上記の一端952a−1上に、浸漬容器951のフランジ951a−1が載せられている。
この誘導加熱手段952は、粉体材料131に浸漬されるように浸漬容器951中に収容された、被覆対象部(即ち加熱対象部)たる複合露出部102を、誘導コイル952aによる誘導加熱で粉体材料131の溶融温度以上に昇温することで、その昇温された複合露出部102の周囲の粉体材料131を溶融させ、その溶融した粉体材料131を複合露出部102に付着させて、複合露出部102を被覆する浸漬・昇温手段となっている。また、本例では、誘導加熱手段952自体が加熱装置となっている。
他方、図50(B)に示されている比較例の被覆装置950’は、誘導加熱手段952’における誘導コイル952a’が、一端側から他端側にかけて同径に巻かれた円筒筒状のコイルである点を除いて、図50(A)の被覆装置950と同等なものである。
図50(A)の被覆装置950では、誘導コイル952aが上記のように絞られた形状に巻かれているため、その内部における磁束密度が、図50(B)に示されている比較例の被覆装置950’における誘導コイル952a’の内部における磁束密度よりも高められている。
図51は、図50(A)に示されている被覆装置の加熱コイル部と、図50(B)に示されている比較例の被覆装置の加熱コイル部と、で内部の磁束密度を比較した図である。図51(A)には、図50(A)の誘導コイル952aにおける磁束密度の分布をシミュレートして得られた分布図F1が示されている。この分布図F1では、磁束密度の高低がハッチングの濃さで表されており、図51(B)には、各ハッチングの濃さに対応した磁束密度を表すバーグラフF2が示されている。このバーグラフF2から分かるように、ハッチングが濃い程、磁束密度が高くなっている。また、図51(B)には、図50(B)の比較例における誘導コイル952a’における磁束密度の分布をシミュレートして得られた分布図F3が示されている。
図51(A)の分布図F1及び図51(B)の分布図F3には、被覆対象部(即ち加熱対象部)たる複合露出部102が示されている。そして、2つの分布図F1,F3のうち、図51(A)の分布図F1の方が、複合露出部102の周辺の磁束密度が高くなっている。これは、誘導コイル952aが上記のように絞られた形状に巻かれているため、総磁束量に対して通過面積が絞られて磁束密度が高くなったことによる。
図50に示されている誘導加熱手段952及び被覆装置950によれば、誘導コイル952aにおいて少なくとも一部の径が一端側の径よりも絞られることで、浸漬容器131中の加熱対象部たる複合露出部102に誘導加熱による熱を生じさせる磁束の密度が高められている。これにより、誘導加熱における加熱効率を高めることができる。
尚、ここでは、図50(A)に示される誘導加熱手段952及び被覆装置950の適用先として、保護構造の製造方法等の第3形態が例示されている。しかしながら、誘導加熱手段952及び被覆装置950の適用先は、これに限るものではなく、上述した被覆電線の製造方法等の第3形態であってもよい。
<他の別例の加熱装置及びその方法、並びに、その加熱装置及びその方法を採用した被覆装置>
加熱効率の向上を図るために、他の別例の加熱装置は、導電性の加熱対象部を加熱するための加熱装置であって、誘導コイルと、該誘導コイルに交流電流を流すための電源部と、を備え、前記誘導コイルには、前記加熱対象部を当該誘導コイルの内部に差込むための差込み部が設けられ、前記差込み部は、前記加熱対象部が前記誘導コイルの中心軸に交差する方向から差し込まれる位置に設けられていることを特徴とする。
上述の各例では、加熱対象部である電線(複合電線)をコイルの中心軸に沿って挿入するようにしていたが、上記の加熱装置によれば、加熱対象部が、差込み部から誘導コイルの内部に、誘導コイルの中心軸に交差する方向に差し込まれる。ここで、誘導コイルに交流電流が流れた状態で、加熱対象部が、誘導コイルの中心軸に交差する方向に差し込まれた場合は、誘導コイルの中心軸に沿って挿入される場合に比して、加熱対象部を貫く磁力線の数が増加する。これにより、加熱対象部に電流値の大きな渦電流を生じさせることができる。従って、加熱効率の向上を図ることができる。
また、前記差込み部は、前記誘導コイルの中心軸方向の中央部に設けられていてもよい。
即ち、誘導コイルの中心軸方向の中央部は、両端部に比して、磁力線が誘導コイルの外部に漏れにくい。つまり、誘導コイルの中心軸方向の中央部は、両端部に比して、磁束密度が高いから、差込み部が、誘導コイルの中心軸方向の中央部に設けられていることで、加熱対象部が、磁束密度が高い位置に差し込まれることとなる。従って、加熱対象部の内部に生じる渦電流の電流値が、磁束密度が低い位置に加熱対象部が差し込まれた場合に比して大きくなる。従って、より一層、加熱効率の向上を図ることができる。
また、誘導コイルの中心軸方向の中央部は磁束密度が高く、端部に向かうに従って徐々に磁束密度が低くなるように変化する。このため、加熱対象部を誘導コイルの中心軸に沿って挿入する場合には、加熱対象部を誘導コイルの中心軸方向の中央部近傍まで到達させなければならず、誘導コイルと加熱対象部との相対的な移動量は大きい。一方、ここでは、加熱対象部を誘導コイルの中心軸に交差する方向から差し込むことで、誘導コイルと加熱対象部との相対的な移動量が小さくとも、加熱対象部を磁束密度が高い位置まで到達させることができる。このように加熱対象部と誘導コイルとの相対的な移動量を小さくすることで、加熱対象部の移動量を小さくすることができる。従って、装置の小型化を図ることができる。
また、前記誘導コイルに装着されるとともにその内部に前記加熱対象部が挿入可能な有底筒状の絶縁部材を備え、前記加熱対象部は、前記絶縁部材を介して前記差込み部に挿入され、前記絶縁部材は、その軸方向が、前記誘導コイルの中心軸に対して交差して前記誘導コイルに装着されて、前記誘導コイルに対して位置決めされていてもよい。
即ち、誘導コイルと絶縁部材とが位置決めされている。また、絶縁部材が、加熱対象部を誘導コイルの所定位置までガイドするガイド機能を有していてもよい。この場合には、絶縁部材が誘導コイルに位置決めされた状態で、絶縁部材により加熱対象部が誘導コイルの所定位置までガイドされる。このように、加熱対象部を、例えば最も磁束密度が高い所定位置までガイドすることができるから、より一層、加熱効率の向上を図ることができる。
また、前記絶縁部材には、その径方向外側に延在するフランジが設けられ、前記フランジが、前記差込み部の周縁に係止することで、前記絶縁部材が前記誘導コイルに位置決めされていてもよい。
これにより、差込み部に絶縁部材を差込んで、フランジを差込み部の周縁に係止させることで、絶縁部材を誘導コイルに位置決めすることができる。
加熱効率の向上を図るために、他の別例の加熱方法は、誘導コイルに交流電流を流すことで導電性の加熱対象部を加熱する加熱方法であって、前記加熱対象部を、前記誘導コイルの中心軸に交差する方向又は、前記誘導コイルの中心軸に直交する方向から当該誘導コイルに差し込む差込み工程と、前記加熱対象部を前記誘導コイルに差し込んだ状態で、前記誘導コイルに交流電流を流す電流印加工程と、を有することを特徴とする。
上記の加熱方法によれば、前記加熱対象部を、前記誘導コイルの中心軸に交差する方向又は、前記誘導コイルの中心軸に直交する方向から当該誘導コイルに差し込む差込み工程と、前記加熱対象部を前記誘導コイルに差し込んだ状態で、前記誘導コイルに交流電流を流す電流印加工程と、を有している。ここで、誘導コイルに交流電流が流れた状態で、加熱対象部が、誘導コイルの中心軸に交差する方向又は、誘導コイルの中心軸に直交する方向に差し込まれた場合は、誘導コイルの中心軸に沿って挿入される場合に比して、加熱対象部を貫く磁力線の数が増加する。これにより、加熱対象部に電流値の大きな渦電流を生じさせることができる。従って、加熱効率の向上を図ることができる。なお、この加熱方法によれば、差込み工程と、電流印加工程と、を順次行ってもよく、電流印加工程と、差込み工程と、を順次行ってもよい。
加熱効率の向上を図るために、上記の加熱装置を採用した被覆装置は、上記の加熱装置を備え、前記絶縁部材は、その内部に前記加熱対象部を被覆するための熱可塑性材料を収容可能であることを特徴とする。
この被覆装置によれば、加熱対象部が絶縁部材の内部に挿入された状態で、加熱対象部に電流値の大きな渦電流を生じさせることができ、加熱対象部に生じた熱で、絶縁部材の内部に収容された熱可塑性材料を、効率よく溶融、付着させることができる。このように、加熱効率が高められたから、効率よく加熱対象部を被覆することができる。
加熱効率の向上を図るために、この被覆方法は、上記の被覆装置を用いた加熱対象部の被覆方法であって、前記熱可塑性材料が、前記絶縁部材の内部に収容された状態で、前記加熱対象部を前記絶縁部材の内部に挿入することで、前記加熱対象部を前記熱可塑性材料内に浸漬する浸漬工程と、前記加熱対象部が前記熱可塑性材料内に浸漬された状態で、前記誘導コイルに交流電流を流す電流印加工程と、前記熱可塑性材料を溶融して前記加熱対象部に付着させる溶融付着工程と、を順次行うことを特徴とする。
この被覆方法によれば、加熱対象部が絶縁部材の内部に挿入された状態で、加熱対象部に電流値の大きな渦電流を生じさせることができ、加熱対象部に生じた熱で、絶縁部材の内部に収容された熱可塑性材料を、効率よく溶融、付着させることができる。このように、加熱効率が高められたから、効率よく加熱対象部を被覆することができる。
図52は、誘導コイルを用いた他の別例の加熱装置を採用した被覆装置を示す図である。図52(A)に他の別例の加熱装置を採用した被覆装置1001が示され、図52(B)には、(A)の被覆装置1001と比較するための比較例の被覆装置1001’が示されている。これらの被覆装置1001、1001’は、何れも被覆対象部(加熱対象部)が、複合電線110における複合露出部102となっている。尚、図52では、図50に示されている構成要素と同等な構成要素については、図50と同等な符号が付されており、以下ではそれら同等な構成要素についての重複説明を割愛する。
図52(A)に示されている被覆装置1001は、紛体材料131が収容される浸漬容器1051(絶縁部材)と、誘導加熱手段1052と、を備えている。
浸漬容器1051は、図52(A)に示すように、有底筒状の絶縁材料から構成されている。浸漬容器1051は、誘導加熱手段1052に装着されるものであり、軸方向の一端から他端まで同径となるように形成された有底の筒本体1053と、筒本体1053の開口部周縁に連続形成されたフランジ1054と、を有して構成されている。浸漬容器1051は、誘導加熱手段1052に装着された状態で、浸漬容器1051は、誘導加熱手段1052の所定位置に位置決めされている。
この浸漬容器1051は、内部に複合露出部102が挿入可能なように、筒本体1053の内径寸法が、複合露出部102の最大の外径寸法よりも大きくなるように形成されている。また、浸漬容器1051は、筒本体1053が、誘導加熱手段1052の加熱コイル部1052a(誘導コイル)の(後述の)隙間部1055(差込み部)に差込み可能となるような寸法に形成されている。また、筒本体1053は、その軸寸法が、加熱コイル部1052aの径寸法よりも大きくなるように形成されている。つまり、本例では、浸漬容器1051が加熱コイル1052aに装着された状態で、浸漬容器1051は、加熱コイル1052aから出っ張った状態である。
ここで、筒本体1053は、隙間部1055に挿入可能となるような寸法に形成されていればよい。そして、浸漬容器1051は、加熱コイル部1052aに位置決めされた状態(装着された状態)で、複合露出部102が、加熱コイル部1052aにおける所定の位置(磁束密度が高い位置)に位置するように、筒本体1053における底部の形成位置(筒本体1053の軸寸法)が設定されていてもよい。このように、浸漬容器1051は、複合露出部102を加熱コイル部1052aの所定位置までガイドするように、浸漬容器1051と加熱コイル部1052aとの寸法関係は設定されていてもよい。つまり、複合露出部102は、浸漬容器1051の内周面にガイドされて、加熱コイル部1052aの中心軸に直交する方向から当該加熱コイル部1052aに差し込まれる。
また、本例において、浸漬容器1051の筒本体1053は、軸方向の一端から他端まで同径となるように形成されているが、図50に示された浸漬容器951のように、他端が一端より先細な先細り形状となるように形成されていてもよい。
フランジ1054は、筒本体1053の開口部周縁の全周に設けられている。このフランジ1054は、隙間部1055の周縁に係止可能なように、その外径寸法が、隙間部1055の径寸法よりも大きくなるように形成されている。なお、本例において、フランジ1054が、隙間部1055の周縁に係止することは、フランジ1054の下面が、隙間部1055の周縁に当接することを意味する。従って、フランジ1054の下面が、隙間部1055の周縁に当接可能であれば、フランジ1054は、筒本体1053の全周に設けられていなくともよい。例えば、フランジは、筒本体1053の中心軸を挟んで対向する位置に少なくともあればよい。また、フランジ1054は、筒本体1053の開口部周縁に位置しているが、筒本体1053の軸方向における適宜な位置に設けられていてもよい。
なお、本例では、フランジ1054が、加熱コイル部1052aの隙間部1055の周縁に係止することで、浸漬容器1051は、誘導加熱手段1052の所定位置に位置決めされているが、これに限定されるものではない。例えば、筒本体1053における開口部の外径寸法が、隙間部1055の周縁の外径寸法より大きくなるように形成されて、筒本体1053の開口部が、隙間部1055の周縁に引っ掛かるように形成されていてもよい。このようにして、浸漬容器1051は、誘導加熱手段1052の所定位置に位置決めされていてもよい。この場合において、フランジは省略してもよい。
誘導加熱手段1052は、誘導コイル952a(誘導コイル)と、不図示の電源や制御装置等と、を有して構成されている。誘導コイル952aは、一端から他端にかけて、導線が同径に巻かれた円筒状の多層巻きコイルにおいて、浸漬容器1051の軸が、当該コイルの中心軸に直交(交差)して装着されるように、軸方向に隣接する導線間に隙間部1055(差込み部)を有している。即ち、隙間部1055は、筒本体1053が挿入可能となるような大きさに形成されている。この隙間部1055は、誘導コイル952aの中心軸方向の中央部に設けられている。
次に、被覆装置1001を組み立てる手順について、図53(A)(B)を参照して説明する。図53(A)に示すように、誘導コイル952aに形成された隙間部1055に、浸漬容器1051を底部側から近付けて、挿入する。図53(B)に示すように、浸漬容器1051のフランジ1054が、隙間部1055の周縁に係止する。こうして、浸漬容器1051が加熱コイル部1052aに装着される。この際、浸漬容器1051が加熱コイル部1052aに位置決めされる。誘導コイル952aの両端は、交流電流を流すための電源部に接続されている。こうして、被覆装置1001を組み立てる。
続いて、被覆装置1001を用いた被覆方法について説明する。
浸漬容器1051に、紛体材料131が開口部から注入される。このように、紛体材料131が収容された浸漬容器1051に、複合露出部102を挿入する(差込む)(差込み工程)。ここで、浸漬容器1051は、加熱コイル部1052aの中心軸に直交して当該加熱コイル部1052aに装着されているから、この浸漬容器1051に挿入される複合露出部102もその軸が、加熱コイル部1052aの中心軸に直交して、当該加熱コイル部1052aに差し込まれる。この後、浸漬容器1051に収容された紛体材料131内に複合露出部102を挿入することで、複合露出部102を紛体材料131内に浸漬する(浸漬工程)。
このように複合露出部102が紛体材料131内に挿入、浸漬した状態で、制御装置を用いて、加熱コイル部1052aに交流電流を流す(電流印加工程)。これにより、電磁誘導により複合露出部102に渦電流が生じて、複合露出部102が加熱される。複合露出部102が加熱されることにより、紛体材料131が溶融されて複合露出部102に付着する(溶融付着工程)。こうして、複合露出部102が被覆されて、複合電線110が完成する。
他方、図52(B)に示されている比較例の被覆装置1001’は、誘導加熱手段1052’における加熱コイル部1052a’が、本例の隙間部1055を有さず、複合露出部102が加熱コイル部1052a’の中心軸に沿って当該加熱コイル部1052a’に挿入される点を除いて、図52(A)と同等なものである。
続いて、本例の被覆装置1001における作用効果を、比較例の被覆装置1001’と比較しつつ説明する。
このような図52(A)に示された本例の被覆装置1001によれば、複合露出部102(加熱対象部)が、隙間部1055(差込み部)から加熱コイル部1052aの内部に、加熱コイル部1052aの中心軸に直交する方向に差し込まれる。ここで、加熱コイル部1052aに交流電流が流れた状態で、複合露出部102が、加熱コイル部1052aの中心軸に交差する方向に差し込まれた場合は、図52(B)に示された比較例の被覆装置1001’のように、加熱コイル部1052a’の中心軸に沿って挿入される場合に比して、複合露出部102を貫く磁力線の数が増加する。これにより、複合露出部102に電流値の大きな渦電流を生じさせることができる。従って、加熱効率の向上を図ることができる。
また、加熱コイル部1052a、1052a’の中心軸方向の中央部は、両端部に比して、磁力線がコイルの外部に漏れにくい。つまり、加熱コイル部1052a、1052a’の中心軸方向の中央部は、両端部に比して、磁束密度が高いから、隙間部1055(差込み部)が、加熱コイル部1052aの中心軸方向の中央部に設けられていることで、複合露出部102が、磁束密度が高い位置に差し込まれることとなる。従って、複合露出部102の内部に生じる渦電流の電流値が、磁束密度が低い位置に複合露出部102が差し込まれた場合に比して大きくなる。従って、より一層、加熱効率の向上を図ることができる。
また、加熱コイル部1052aの中心軸方向の中央部は磁束密度が高く、端部に向かうに従って徐々に磁束密度が低くなるように変化する。このため、図52(B)に示すように、複合露出部102を加熱コイル部1052a’の中心軸に沿って挿入する場合には、複合露出部102を加熱コイル部1052a’の中心軸方向の中央部近傍まで到達させなければならず、加熱コイル部1052a’と複合露出部102との相対的な移動量は大きい。一方、図52(A)に示すように、複合露出部102を加熱コイル部1052aの中心軸に交差する方向から差し込むことで、加熱コイル部1052aと複合露出部102との相対的な移動量が小さくとも、複合露出部102を磁束密度が高い位置まで到達させることができる。このように複合露出部102と加熱コイル部1052aとの相対的な移動量を小さくすることで、複合露出部102の移動量を小さくすることができる。従って、装置の小型化を図ることができる。
なお、上述した形態では、浸漬容器1051を加熱装置1050(図54に示す)の構成の一部として用い、この浸漬容器1051に紛体材料131が収容された一例について説明したが、これに限定されるものではない。浸漬容器1051に紛体材料131が収容されなくともよい。つまり、浸漬容器1051は、紛体材料131が収容可能に構成されていなくともよい。この場合において、浸漬容器1051(絶縁部材)は、複合露出部102を加熱コイル部1052aの所定位置までガイドする機能を有して構成されていてもよい。
また、上述した形態では、浸漬容器1051(絶縁部材)は、その軸が、加熱コイル部1052a(誘導コイル)の中心軸に直交して装着される一例を説明した。また、このような浸漬容器1051に、複合露出部102(加熱対象部)が、誘導コイル952aの中心軸に直交して挿入される一例を説明したが、これに限定されるものではない。絶縁部材は、その軸が、誘導コイルの中心軸に交差して装着されていてもよく、このような絶縁部材に、加熱対象部が、当該誘導コイルの中心軸に交差して差し込まれてもよい。
また、上述した形態では、複合露出部102(加熱対象部)は、浸漬容器1051(絶縁部材)を介して隙間部1055(差込み部)に差し込まれているが、これに限定されるものではない。図54に示すように、複合露出部102が、隙間部1055に直接差し込まれていてもよい。この場合において、浸漬容器1051(絶縁部材)は省略してもよい。つまり、加熱装置は、浸漬容器1051(絶縁部材)の構成を有さずともよい。
また、上述した形態では、誘導コイル952aは、一端から他端にかけて、導線が同径に巻かれた円筒状のコイルが用いられているが、これに限らず、例えば、径が異なる部分(小径部)を有するように導線が巻かれたコイルであってもよく、単層巻きであってもよい。
また、上述した各形態では、加熱対象部として、被覆電線120を複数本束ねた構成の複合電線120の複合露出部102を一例として説明したが、これに限らず、1本の電線、シールド電線等、各種の電線において、被覆を必要とする部分に適用してもよい。また、電線として用いられるものではなくとも、導電性の加熱対象部を有したものに適用することもできる。即ち、「導電性の加熱対象部」は、電線以外に適用することもできる。
なお、前述した様々な形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、これらの形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。