JP6677016B2 - モータ制御装置及びそれを搭載した電動パワーステアリング装置 - Google Patents

モータ制御装置及びそれを搭載した電動パワーステアリング装置 Download PDF

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Description

本発明は、2系統巻線を有するモータを2つの制御部で駆動制御するモータ制御装置及びそれを搭載し、少なくとも操舵トルクに基づいて演算された電流指令値により、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置に関する。特に2つの制御部がそれぞれ、ノイズ除去のローパスフィルタ(LPF)を備えてモータ逆起電圧(EMF)の補償を行う逆起電圧補償機能を有し、片系統駆動及び両系統駆動で同一の伝達関数を有する角度フィードバックフィルタをフィードバック経路に設け、切換による干渉を抑制したモータ制御装置及びそれを搭載し、操舵フィーリングを向上した電動パワーステアリング装置に関する。
モータ制御装置を搭載した電動パワーステアリング装置(EPS)は、車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与するものであり、インバータで制御されるモータの駆動力を、ギア等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与する。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクThを検出するトルクセンサ10及び操舵角θを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによって、EPS用モータ20に供給する電流を制御する。
なお、舵角センサ14からは操舵角θが検出され、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから操舵角を取得することも可能である。
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
コントロールユニット30は主としてCPU(MPUやMCU等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図2のようになる。
図2を参照してコントロールユニット30を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTh及び車速センサ12で検出された(若しくはCAN40からの)車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTh及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差ΔI(=Irefm−Im)が演算され、その偏差ΔIが操舵動作の特性改善のためのPI制御部34に入力される。PI制御部34で特性改善された電圧制御指令値VrefがPWM制御部35に入力され、更にインバータ36を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器37で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。インバータ36は、半導体スイッチング素子としてのFETのブリッジ回路で構成されている。
モータ20にはレゾルバ等の回転センサ21が連結されており、回転センサ21からモータ回転角度θが出力され、更にモータ速度ωがモータ速度演算部22で演算される。
また、加算部32Aには補償信号生成部38からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部38は、セルフアライニングトルク(SAT)38−1と慣性38−2を加算部38−4で加算し、その加算結果に更に収れん性38−3を加算部38−5で加算し、加算部38−5の加算結果を補償信号CMとしている。
このような電動パワーステアリング装置のモータ制御装置では、モータ駆動時にモータ20が逆起電圧を発生するため、モータ逆起電圧を抑制若しくは減衰するための補償が必要である。その理由を以下に説明する。
電流指令値Irefからモータ20が駆動される制御系を伝達関数で示すと、図3のようになる。電流指令値Irefは制御フィルタ(GFF)101を経て減算部104に入力され、実モータ電流Imnとの偏差eが算出される。偏差eは制御フィルタ(GFB)を経て減算部105に入力され、減算部105でモータ20の逆起電圧EMFが減算され、その差分eがモータ20の電気系特性部110(1/(L・s+R))を経て、更にトルク定数Kt[Nm/A]を経て機械系特性部120(1/(J・s+D))に入力される。逆起電圧EMFは、機械特性部120の出力であるモータ角速度(モータ回転数)ωmに逆起電圧定数Ke[V/(rad/s)]を乗算して得られる。電気系特性部110からのモータ電流Imは検出されてフィードバックされるが、実際には電流検出ノイズNiが混入し、実モータ電流Imnとしてフィードバックされる。
電気系特性部110は1/(L・s+R)で表され、機械系特性部120は1/(J・s+D)で表わされる。電気系特性部110のLはモータインダクタンス[H]、Rはモータ抵抗[Ω]であり、機械系特性部120のJはモータ慣性モーメント[Kg・m2]、Dはモータ粘性係数[Nm/(rad/s)]である。
電流指令値Irefからモータ電流Imまでの系を、図4に示すように周波数帯域を制御し易い1次フィルタ(1/(T・s+1))とするため、T〜Tを時定数として、制御フィルタ(GFF)101の伝達関数は下記数1で設定され、制御フィルタ(GFB)102の伝達関数は下記数2で設定されている。
即ち、電流指令値Irefからモータ電流Imまでの系を“1/(T・s+1)”(数3)とし、時定数Tの設定で電流指令値Irefからモータ電流Imまでの特性である電流制御帯域を決定(1次フィルタ)するために、制御フィルタ(GFF)101及び制御フィルタ(GFB)102の特性を決定する。
そして、制御フィルタ(GFB)102を含む電流制御のフィードバック閉ループの系では、逆起電圧EMFとEMF補償を0として、数4及び図5に示すように、外乱の電流検出ノイズ(Ni)除去用の2次フィルタ(時定数T,T)と1次位相進みフィルタ(T)となる構成を採る。1次位相進みフィルタ(T)の項がないと、制御フィルタ(GFF)101の分子の微分項が2次になってしまい、非常に不安定になるからである。要するに、制御フィルタ(GFF)101は、電流指令値Irefからモータ電流Imまでの特性を決めるフィルタであり、制御フィルタ(GFB)102は、電流検出ノイズNiを除去するフィルタを含めた、電流指令値Irefからモータ電流Imまでの特性を決めるフィルタと言える。
上記数1及び数4をGFBについて解くと、制御フィルタ(GFB)102は上記数2となる。
このように、制御フィルタ(GFF)101及び制御フィルタ(GFB)102の設定では、モータ逆起電圧EMFとEMF補償の混入を考慮していない。しかしながら、モータ逆起電圧EMFの発生は、実電流に影響を与えるため、モータ出力を正確に制御する上で大きな問題となる。このような対策として、モータ逆起電圧の補償が考えられ、例えば特開2013−219870号公報(特許文献1)では、電圧指令値及び電流検出値に基づいてモータの逆起電圧を推定し、逆起電圧推定値を電流指令値に加算するようにしている。また、特開2012−236472号公報(特許文献2)では、回転角速度に基づいて逆起電圧を推定し、この推定逆起電圧に補償係数を乗じて逆起電圧補償制御値を算出し、逆起電圧補償制御値を基本電圧に加算して電圧指令値としている。
また、近年、電動パワーステアリング装置の安全性とEPS故障時の機能持続性を含めた多系統制御とが、クライアントの声として大きく要求されてきている状況にある。その場合、モータの安全性を高めるため、モータ巻線を多系統化したモータが出現している。図6はY結線の3相モータを示しており、1系統がU相巻線UW1、V相巻線VW1、W相巻線WW1で構成され、他の1系統がU相巻線UW2、V相巻線VW2、W相巻線WW2で構成されている。巻線UW1〜WW1又は巻線UW2〜WW2に3相電流を流すことによってモータが駆動される。また、図7はΔ結線の3相モータを示しており、1系統がU相巻線UW1、V相巻線VW1、W相巻線WW1で構成され、他の1系統がU相巻線UW2、V相巻線VW2、W相巻線WW2で構成されている。巻線UW1〜WW1又は巻線UW2〜WW2に3相電流を流すことによってモータが駆動される。
また、制御構成としては、2系統巻線毎に制御部を設け、各制御部でモータを駆動するようになっている。このような2系統の制御構成とした場合、2系統を同時に駆動する両系統駆動時と、1系統が故障して他の系統で駆動する片系統駆動時とでモータトルクに差が出てしまい、運転者へ不快感を与える可能性がある。その理由は、モータ出力は同一(1つの出力)であるのに、逆起電圧補償の1つの信号が、それぞれの制御系統にフィードバックされているため、相互に干渉してしまうからである。
2系統の制御系として、例えば特開2008-271624号公報(特許文献3)に開示された装置が提案されている。特許文献3の装置は、モータの誘起電圧定数パラメータの目標値と観測値との偏差に応じて、該偏差を解消するように位相差変更駆動手段を制御すると共に、偏差に基づいて両ロータ間の位相差の変更動作の異常の有無を判定する手段備え、異常の有無の判定には、偏差の積分値を用いている。
特開2013−219870号公報 特開2012−236472号公報 特開2008−271624号公報
しかしながら、特許文献1及び2に示されるような逆起電圧補償はいずれも、ノイズが混入しないことを前提にして補償しているが、実際にはノイズが混入するため、電流指令値に対して正確にモータ出力を追従させることができない課題がある。
また、特許文献3の装置では、偏差を積分しているので誤差が蓄積される可能性があり、ノイズの混入やモータ逆起電圧の補償を考慮していないので、制御系のバランスが崩れる可能性がある。
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、モータ逆起電圧を補償すると共に、2系統巻線を有するモータを、モータ逆起電圧補償機能を有する2つの制御部で駆動制御する場合、片系統駆動と両系統駆動で同一の伝達関数を有するフィルタを制御系に介挿することで、片系統駆動と両系統駆動を相互に切り換えた場合にも干渉することのないモータ制御装置を提供すると共に、操舵フィーリングを向上した電動パワーステアリング装置を提供することにある。
本発明は、2系統巻線を有するモータを前記2系統巻線毎に駆動制御する制御部1及び2を備え、前記制御部1及び2はそれぞれ、電流指令値に基づく電流フィードバック制御で前記モータを駆動制御すると共に、モータ角度若しくはモータ角速度に基づく逆起電圧補償信号によりモータ逆起電圧の補償を行うモータ制御装置に関し、本発明の上記目的は、前記モータ逆起電圧を補償する経路にそれぞれノイズ除去用のLPFが設けられていると共に、片系統駆動及び両系統駆動で同一の伝達関数を有する角度フィードバックフィルタをフィードバック経路に設けることにより達成される。
本発明の上記目的は、前記電流指令値を1/2ずつに分配する係数部が設けられており、前記係数部からの分配電流指令値により前記制御部1及び2を駆動するようになっていることにより、或いは前記電流指令値を入力する前記制御部1及び2が、前記電流指令値を1/2にする可変ゲインを有する制御フィルタを備えることにより、或いは前記電流指令値がdq軸電流指令値であり、前記制御部が2相フィードバック式ベクトル制御系であることにより、或いは前記電流指令値がdq軸電流指令値であり、前記制御部が3相フィードバック式ベクトル制御系であることにより、より効果的に達成される。
本発明に係るモータ制御装置によれば、2系統巻線を有するモータの逆起電圧を補償すると共に、2系統巻線を駆動する2つの制御系において、片系統駆動と両系統駆動で同一の伝達関数を有する角度フィルタをフィードバック経路に設けているので、故障(異常を含む)時における片系統駆動おいても、通常時の両系統駆動においても干渉することがなく、2系統制御系の特性のバランスをとることが可能となる。
また、片系統制御と両系統制御でトルクリップルが抑制されるので、電動パワーステアリング装置に搭載すれば、操舵フィーリングを一層向上することができる。
電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。 電動パワーステアリング装置のコントロールユニット(ECU)の構成例を示すブロック図である。 モータ逆起電圧の影響を示すモータ制御装置のブロック線図である。 制御フィルタの特性を説明するための周波数応答図である。 制御フィルタの特性を説明するための周波数応答図である。 2系統巻線を有するY結線モータの線図である。 2系統巻線を有するΔ結線モータの線図である。 逆起電圧補償機能を有するモータ制御装置の構成例を示すブロック線図である。 2系統巻線を有するモータの制御系の構成例を示すブロック図である。 従来装置の特性例(シミュレーション)を示す特性図である。 従来装置のゲインの特性例(両系統駆動及び片系統駆動)を示す周波数応答図である。 従来装置の位相の特性例(両系統駆動及び片系統駆動)を示す周波数応答図である。 本発明の実施形態の一例を示すブロック構成図である。 本発明の効果を示す周波数応答図である。 本発明を適用可能なベクトル制御系(3相FB)の構成例を示すブロック図である。 本発明を適用可能なベクトル制御系(2相FB)の構成例を示すブロック図である。
本発明では、ノイズの混入を含めたモータ逆起電圧の補償を行っており、先ず逆起電圧補償について説明する。
図8は、回転センサ(例えばレゾルバ)で検出されるモータ角度θmに基づいて、逆起電圧EMFを補償する場合の構成例を、図3に対応させて示している。モータ角度θmは微分部130で微分されるが、実際には回転センサ(例えばレゾルバ)にはノイズNrが含まれており、加算部133でノイズNrが加算(混入)されたモータ角度θmrが微分部130に入力される。微分部130で微分されたモータ角速度ωnは、伝達関数が数5で表されるノイズ除去用のローパスフィルタ(LPF)131に入力され、LPF131でノイズNrを除去されたモータ角速度ωn’は、逆起電圧補償定数部132で逆起電圧補償定数Ke’を乗算され、逆起電圧補償信号EMFcとして加算部106に入力される。
なお、LPF131のωは、カットオフ周波数f(例えば40Hz)に対してω=2πfの関係を有している。
この逆起電圧補償はモータ角度θm(モータ角速度ωm)に依存しており、ノイズNrの混入がなければLPF131は不要である。しかし、実際には回転センサから混入するノイズNrの影響があり、その影響を低減するLPF131を具備している。フィルタ処理を行わないと、電動パワーステアリング装置では操舵感が悪化してしまうからである。このLPF131のフィルタ処理により、モータ回転数の周波数が上がると、モータ逆起電圧EMFに対して位相が遅れ、完全にモータ逆起電圧EMFを相殺できない可能性がある。この相殺誤差が外乱として電流制御系内に混入して、フィードバック制御の役割である実モータ電流Imを電流指令値Irefに追従させることができなくなる。逆起電圧補償が完全であれば、下記数6の関係となるべきである。
(数6)
EMFc−EMF=0
しかしながら、ノイズNrの混入により、上記数6は成立しない。そもそも、電流フィードバック制御の主な役割は電流指令値Iref通りに、遅れなく実電流Imを流すことである。フィルタ処理による制御では、制御帯域が高いほど追従性を改善することができるが、ノイズに対しても感度が上がってしまい、電動パワーステアリング装置では操舵感が悪化する。
一方、2系統巻線を有するモータを制御する場合の構成は、例えば図9となる。出力軸111を有するモータ100は2系統のY結線モータ巻線101及び102を備え、モータ100には回転センサ110が接続されている。モータ100を駆動制御するECU200は、電源、操舵トルクTh、舵角θ、車速Vs、イグニション状態、回転角θeを入力し、CAN40及び非CAN41に接続されている。また、ECU200は、全体の制御や演算を行うMCU201と、MCU201からの電流指令値1に従ってモータ巻線101を駆動するGDM211と、MCU201からの電流指令値2に従ってモータ巻線102を駆動するGDM212とを備えている。GDM211及び212は、モータリレー(接点式若しくは半導体式)、モニタ・診断用インタフェース回路、インバータ等を含んでおり、GDM211及び212の電流・電圧検出値はMCU201に入力されている。つまり、MCU201は、電流指令値1と電流指令値2との間の補正演算機能を備えている。
このような2系統巻線のモータ及び2系統の制御系の構成では、一方の系統が故障(異常を含む)した場合、故障していない他の系統の制御系によりある程度、アシスト制御を継続することが可能である。しかしながら、2系統化すると、両系統駆動時と片系統駆動時とでモータトルクに差が出てしまう可能性があり、運転者へ不快感を与える可能性がある。その理由は、モータ逆起電圧補償の信号が、それぞれの系統にフィードバックされているため、相互に干渉してしまうからである。
図10はその様子を示しており、両系統駆動(2系統駆動)時から片系統駆動(1系統駆動)時に遷移すると、図10のA部に示すように段差(モータ出力トルク)が生じ、また、片系統駆動時から両系統駆動時に遷移すると、図10のB部に示すように段差が生じる。このような段差の発生は、モータ制御装置や電動パワーステアリング装置において、回避されるべき動作である。
図10における切換時の段差の発生は、電流指令値が40[A]において、両系統駆動時のゲイン特性が図11の線のようになっており、位相特性が図12の線のようになっているのに対し、片系統駆動時のゲイン特性が図11の線のようになっており、位相特性が図12の線のようになって、変曲点を持っているためである。
そこで、本発明では、モータ逆起電圧補償の誤差を相殺すると共に、片系統駆動と両系統駆動を切り換えても相互に干渉しない角度フィルタを、モータ制御のフィードバック経路に設けている。
本発明の構成例を図13に示して説明する。
2系統巻線を有するモータ(機械系特性部310)に対して制御部320及び330の2系統制御系を具備しており、正常時には制御部320及び330の両系統駆動で制御し、一方の制御系が故障(異常を含む)となったときに他方の制御系で片系統駆動を行う。また、故障が復旧したときには、片系統駆動から両系統駆動に復帰する。
電流指令値Irefは減算部301に入力され、減算部301で角度フィードバック(FB)フィルタ300からの電流値Ifとの偏差Irefeが算出される。偏差Irefeは制御部320及び330の係数部321及び331に入力され、係数部321及び331には切換信号SWが入力されている。係数部321及び331は通常時(正常時)にはそれぞれ係数“1/2”に設定され、それぞれ半分にされた同一の電流指令値が2つの制御部320及び330に分配される。そして、一方の制御系が故障となった場合には、故障した系統の係数部の係数を“0”にすると共に、正常な系統の係数を“1”にする。即ち、係数部321及び331の出力である電流指令値Ic1及びIc2は、下記数7になる。
(数7)
通常時:Ic1=1/2×Irefe
Ic2=1/2×Irefe
故障時(系統1の故障):
Ic1=0×Irefe=0
Ic2=1×Irefe=Irefe
故障時(系統2の故障):
Ic1=1×Irefe=Irefe
Ic2=0×Irefe=0

電流指令値Ic1及びIc2は、それぞれ上記数1で表わされる制御フィルタ(GFF)322及び332に入力され、制御フィルタ(GFF)322及び332からの電流指令値Ig1及びIg2が、それぞれ減算部323及び333に入力される。減算部323及び333には、それぞれ電気系特性部327及び337からのモータ電流Im1及びIm2がフィードバック入力されており、減算部323及び333で算出された偏差電流Id1及びId2が、上記数2で表わされる制御フィルタ(GFB)324及び334に入力される。
制御フィルタ(GFB)324及び334からの電流指令値Ie1及びIe2はそれぞれ加算部325及び335に入力され、逆起電圧補償信号EMFcと加算され、加算された電流指令値Ib1及びIb2がそれぞれ減算部326及び336に入力される。減算部326及び336には、モータ角速度ωmに逆起電圧定数Keを乗算された逆起電圧EMFが減算入力され、逆起電圧EMFを減算された電流指令値Ir1が、下記数8で表わされる電気系特性部327に入力され、逆起電圧EMFを減算された電流指令値Ir2が、下記数9で表わされる電気系特性部337に入力される。
電気系特性部327からのモータ電流Im1は、トルク定数部328でトルク定数Kt1を乗算されてトルクτ1として加算部313に入力され、電気系特性部337からのモータ電流Im2は、トルク定数部338でトルク定数Kt2を乗算されてモータトルクτ2として加算部313に入力される。加算部313の加算で求められたモータトルクτは機械系特性部310に入力され、機械系特性部310の出力であるモータ角速度ωmが、逆起電圧定数部312で逆起電圧定Keを乗算され、逆起電圧定Keを乗算された逆起電圧EMFが減算部326及び336に減算入力される。
また、モータ角速度ωmは積分部311で積分されてモータ角度θmとして出力され、モータ角度θmにノイズNrが混入して微分部31で微分される。微分部31からのモータ角速度ωnは上記数5で表わされるLPF31に入力され、フィルタ処理された角速度ωn’は逆起電圧補償定数部31で逆起電圧補償定数Ke’を乗算され、逆起電圧補償信号EMFcが加算部325及び33に入力される。
また、モータ角度θmは、角度フィードバックフィルタ(GANG)300を経て減算部301にフィードバックされている。
このような構成で、電流指令値Irefから系統1のモータトルクτ1までの伝達関数は下記数10であり、電流指令値Irefから系統2のモータトルクτ2までの伝達関数は下記数11である。
そして、通常時の両系統駆動時には系統1と系統2は同一状態で駆動され、下記数12で表わされる。
ここで、便宜的にL=L=L,R=R=R,Kt1=Kt2=Ktとすれば、数10〜数12の分母の中の()を0にすることにより(数13)、片系統駆動と両系統駆動での特性を同じにすることができる。()を0とするには、角度FBフィルタ(GANG)300が下記数14となれば良い。
角度FBフィルタ(GANG)300の伝達関数を数14とすることにより、片系統駆動においても両系統駆動においても、モータトルクτは数15となる。
この結果、両系統駆動から片系統駆動に切り換えても、逆に片系統駆動から両系統駆動切り換えても電流指令値Irefに対するモータトルクまでの伝達特性が同じになり、干渉がなく、変曲点の少ない円滑な特性となる。電動パワーステアリング装置においては、片系統制御と両系統制御でトルクリップルが抑制されるので、操舵フィーリングを一層向上することができる。
図14は片系統駆動及び両系統駆動と本発明の角度FBフィルタ(GANG)300の介挿に基づく特性(補償あり)とを比較しており、図14(A)はゲイン特性を示し、図14(B)は位相特性を示している。図14に示すように、角度FBフィルタ(GANG)300の介挿により、変曲点の少ない円滑な特性となっていることが分かる。
本発明は、ブラシレスモータを駆動制御するベクトル制御系についても適用できるので、ベクトル制御系について説明する。
図15のベクトル制御系では、d軸電流指令値i及びq軸電流指令値iを演算して補正する電流指令値演算部220が設けられており、電流指令値演算部220には操舵トルクTh、車速Vs、モータ100に連結された回転センサ100Aからモータ角度(回転角度)θ、角速度演算部226で演算されたモータ角速度ωが入力されている。電流指令値演算部220で演算されたd軸電流指令値i及びq軸電流指令値iは2相/3相変換部221に入力され、モータ角度θに同期して3相の電流指令値Iuref,Ivref,Iwrefに変換される。3相の電流指令値Iuref,Ivref,Iwrefは減算部222(222u,222v,222w)に入力され、電流検出回路225Aで検出されたモータ電流Imu,Imv,Imwとの偏差ΔIu,ΔIv,ΔIwが算出される。算出された偏差ΔIu,ΔIv,ΔIwはPI制御部223に入力され、電流制御された3相の電圧制御指令値Vuref,Vvref,VwrefがPWM制御部224に入力され、PWM制御部224で演算された各相dutyに基づいてインバータ225を介してモータ100が駆動される。
また、図16のベクトル制御系では、電流検出回路225Aで検出された3相のモータ電流Imu,Imv,Imwをモータ角度θに同期して2相に変換する3相/2相変換部227が設けられている。電流指令値演算部220で演算され補正されたd軸電流指令値i及びq軸電流指令値iは減算部222(222d、222q)に入力され、減算部222で3相/2相変換部227からの2相の電流Imd,Imqとの偏差Δi,Δiが算出される。偏差Δi,Δiは2相/3相変換部221に入力され、変換された3相の電流指令値Iuref,Ivref,IwrefがPI制御部223に入力され、以降は図15の場合と同様な動作が実行される。
図15の制御系は、3相のモータ電流Imu,Imv,Imwがフィードバックされる3相フィードバック式ベクトル制御系であり、図16の制御系は、3相のモータ電流Imu,Imv,Imwが2相電流Imd,Imqに変換されてフィードバックされる2相フィードバック式ベクトル制御系である。本発明は、上記3相フィードバック式ベクトル制御系及び2相フィードバック式ベクトル制御系のいずれにも適用でき、他の制御系でも良い。
なお、上述の実施形態では別個のGDMで2系統巻線を有するモータを駆動制御しているが、ハード的には一体構造であっても良い。また、切換可能な係数部を各系統の前段に設けているが、制御フィルタ(GFF)内に可変ゲインを設けるようにしても良い。
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20、100 モータ
30、200 コントロールユニット(ECU)
31、220 電流指令値演算部
34、223 PI制御部
35、224 PWM制御部
36、225 インバータ
110、327、337 電気系特性部
120、310 機械系特性部
131、315 LPF
201 MCU
211、212 GDM
221 2相/3相変換部
227 3相/2相変換部
300 角度フィードバックフィルタ
320、330 制御部
321、331 係数部

Claims (6)

  1. 2系統巻線を有するモータを前記2系統巻線毎に駆動制御する制御部1及び2を備え、前記制御部1及び2はそれぞれ、電流指令値に基づく電流フィードバック制御で前記モータを駆動制御すると共に、モータ角度若しくはモータ角速度に基づく逆起電圧補償信号によりモータ逆起電圧の補償を行うモータ制御装置において、
    前記モータ逆起電圧を補償する経路にそれぞれノイズ除去用のLPFが設けられていると共に、片系統駆動及び両系統駆動で同一の伝達関数を有する角度フィードバックフィルタをフィードバック経路に設けたことを特徴とするモータ制御装置。
  2. 前記電流指令値を1/2ずつに分配する係数部が設けられており、前記係数部からの分配電流指令値により前記制御部1及び2を駆動するようになっている請求項1に記載のモータ制御装置。
  3. 前記電流指令値を入力する前記制御部1及び2が、前記電流指令値を1/2にする可変ゲインを有する制御フィルタを備える請求項1に記載のモータ制御装置。
  4. 前記電流指令値がdq軸電流指令値であり、前記制御部が2相フィードバック式ベクトル制御系である請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ制御装置。
  5. 前記電流指令値がdq軸電流指令値であり、前記制御部が3相フィードバック式ベクトル制御系である請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ制御装置。
  6. 請求項1乃至5のいずれかに記載のモータ制御装置を搭載した電動パワーステアリング装置。
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