次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示の伝動ベルト10を含む無段変速機(CVT)1を示す概略構成図である。同図に示す無段変速機1は、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト2と、当該プライマリシャフト2に設けられたプライマリプーリ3と、プライマリシャフト2と平行に配置される従動側回転軸としてのセカンダリシャフト4と、当該セカンダリシャフト4に設けられたセカンダリプーリ5とを含む。図示するように、伝動ベルト10は、プライマリプーリ3のプーリ溝(V字状溝)とセカンダリプーリ5のプーリ溝(V字状溝)とに巻き掛けられる。
プライマリシャフト2は、図示しない前後進切換機構を介して、エンジン(内燃機関)といった動力発生源に連結されたインプットシャフト(図示省略)に連結される。プライマリプーリ3は、プライマリシャフト2と一体に形成された固定シーブ3aと、ボールスプライン等を介してプライマリシャフト2により軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ3bとを含む。また、セカンダリプーリ5は、セカンダリシャフト4と一体に形成された固定シーブ5aと、ボールスプライン等を介してセカンダリシャフト4により軸方向に摺動自在に支持されると共にリターンスプリング8により軸方向に付勢される可動シーブ5bとを含む。
更に、無段変速機1は、プライマリプーリ3の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ6と、セカンダリプーリ5の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ7とを含む。プライマリシリンダ6は、プライマリプーリ3の可動シーブ3bの背後に形成され、セカンダリシリンダ7は、セカンダリプーリ5の可動シーブ5bの背後に形成される。プライマリシリンダ6とセカンダリシリンダ7とには、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との溝幅を変化させるべく図示しない油圧制御装置から作動油が供給され、それにより、エンジン等からインプットシャフトや前後進切換機構を介してプライマリシャフト2に伝達されたトルクを無段階に変速してセカンダリシャフト4に出力することができる。セカンダリシャフト4に出力されたトルクは、ギヤ機構、デファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して車両の駆動輪(何れも図示省略)に伝達される。
また、無段変速機1は、伝動ベルト10に潤滑媒体(および冷却媒体)としての作動油を供給するための2つのノズル9を有する。2つのノズル9は、油圧制御装置(オイルポンプ)から作動油が供給される図示しない作動油供給管に接続されると共に、図2に示すように、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間であって伝動ベルト10の内側に上下方向に間隔をおいて配置される。本実施形態において、各ノズル9は、伝動ベルト10のプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5に巻き掛かろうとする部分や、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5に巻き掛かっている部分に向けて作動油を噴出する。なお、伝動ベルト10の内側には、少なくとも1つのノズル9が配置されればよく、3つ以上のノズル9が配設されてもよい。また、図2において二点鎖線で示すように、プライマリシャフト2およびセカンダリシャフト4の少なくとも何れか一方に形成された油孔からプライマリプーリ3またはセカンダリプーリ5に巻き掛かっている伝動ベルト10の一部に向けて作動油を噴出してもよい。
図3は、伝動ベルト10を示す概略構成図である。同図に示すように、伝動ベルト10は、弾性変形可能な複数(本実施形態では、例えば9個)のリング材11を厚み方向(リング径方向)に積層することにより構成された2個の積層リング12と、積層リング12の内周面に沿って環状に配列(結束)される複数(例えば、数百個)のエレメント20とを含む。積層リング12を構成する複数のリング材11は、それぞれ鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであって、概ね同一の厚みおよびそれぞれについて予め定められた異なる周長を有するように加工されている。また、各リング材11は、軸方向の中央部が径方向外側に僅かに突出するように緩やかに湾曲させられている。
各エレメント20は、例えばプレス加工により鋼板から打ち抜かれたものであり、図3に示すように、図中水平に延びる胴部21と、当該胴部21の幅方向における中央部から伝動ベルト10の外周側(伝動ベルト10や積層リング12の径方向における外側)に延出されたネック部22と、胴部21から離間するようにネック部22から胴部21の幅方向における両側に延出された一対のイヤー部23aを有するヘッド部23とを含む。図示するように、胴部21の幅は、ヘッド部23の幅と同一若しくはそれよりも大きく、胴部21、ネック部22およびヘッド部23の各イヤー部23aにより2つのリング収容部(凹部)24が画成される。また、ヘッド部23の正面(一方の表面)の幅方向における中央部には、1個の突起(ディンプル)23pが形成されており、ヘッド部23の背面(他方の表面)には、突起23pの裏側に位置するように窪み23rが形成されている。
各エレメント20のリング収容部24には、当該エレメント20を両側から挟み付けるように積層リング12が嵌め込まれ、各エレメント20の突起23pは、隣り合うエレメント20の窪み23rに遊嵌される。これにより、2個の積層リング12により多数のエレメント20が環状に配列された状態で結束される。また、リング収容部24を画成する胴部21の表面(図2における上面)は、積層リング12(最内層のリング材11)の内周面に接触するサドル面21aとなる。すなわち、サドル面21aは、ネック部22の幅方向における両側に位置する。
各サドル面21aは、積層リング12側に湾曲する凸曲面である。すなわち、各サドル面21aは、幅方向における中央部付近を頂部Tとして当該頂部Tから幅方向における外側およびネック部22側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した左右対称の凸曲面形状(クラウニング形状)を有する。これにより、サドル面21aとの摩擦により積層リング12に頂部Tに向かう求心力を付与し、当該積層リング12をセンタリングすることが可能となる。ただし、サドル面21aは、伝動ベルト10等の径方向における外側に湾曲する凸曲面を複数含むものであってもよい。また、サドル面21a(凸曲面)の曲率半径は、最内層のリング材11(積層リング12)の軸方向に沿った湾曲の曲率半径よりも小さく定められている。
また、各エレメント20の胴部21は、伝動ベルト10の内周側から外周側(伝動ベルト等の径方向における外側)に向かうにつれて互いに離間するように形成された一対の側面21fを有する。各側面21fは、プライマリプーリ3のプーリ溝やセカンダリプーリ5のプーリ溝の表面に摩擦接触してプーリ3,5からの挟圧力を受け、摩擦力によりプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5へとトルクを伝達するトルク伝達面(フランク面)となる。本実施形態において、各側面21fの表面には、図示するように、各エレメント20とプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5との接触部を潤滑・冷却するための作動油を保持するための凹凸(複数の溝)が形成されている。
更に、図3に示すように、本実施形態のエレメント20の正面(突起23p側の表面)は斜面を含み、その背面は平坦に形成されている。すなわち、胴部21の外周側(伝動ベルト10等の径方向における外側)の一部、ネック部22およびヘッド部23は、略一定の厚みを有し、胴部21には、サドル面21aよりも内周側(伝動ベルト10等の径方向における内側)の位置から更に内周側に向かうにつれて背面に近接する斜面21sが形成されている。また、胴部21の内周部(図3における下端部)には、当該胴部21の斜面21sを含む部分よりも肉薄かつ略一定の厚みを有する段差部21bが形成されている。そして、ネック部22やヘッド部23等を含む平坦部と斜面21sとの境界部分は、伝動ベルト10の進行方向において隣り合うエレメント20同士を接触させて両者の回動の支点となるロッキングエッジ25を形成する。すなわち、各エレメント20において、ロッキングエッジ25は、各サドル面21aよりも内周側に位置する。
そして、各エレメント20の正面には、複数(本実施形態では、6個)の潤滑通路27がサドル面21a(胴部21)の幅方向に間隔をおいて形成されている。各潤滑通路27は、エレメント20の正面から背面に向けて窪んだ凹部(溝)であり、ロッキングエッジ25よりも内周側に位置する斜面21sの内周側縁部からロッキングエッジ25を超えてサドル面21aよりも内周側の位置まで延在する。これにより、ロッキングエッジ25は、図3に示すように、断続的に延在することになる。また、各潤滑通路27は、斜面21sと段差部21bとの境界で開口する一方、サドル面21aまで達しておらず、当該サドル面21aでは開口していない。これにより、サドル面21aの潤滑通路27(エレメント20の正面)側の縁部には、切欠が存在しないことになる。
図3に示すように、1つのサドル面21aに対して複数(本実施形態では、3個)の潤滑通路27が設けられる。1つのサドル面21aに対応した複数の潤滑通路27のうち、中央の潤滑通路27は、サドル面21a(凸曲面)の頂部Tの内周側(図3における下方)に位置して伝動ベルト10の径方向からみて当該頂部Tと重なるように形成される。本実施形態において、当該中央の潤滑通路27の幅方向における中心線(図3における一点鎖線参照)は、サドル面21a(凸曲面)の頂部Tと交差する。また、1つのサドル面21aに対応した複数の潤滑通路27のうち、両端の潤滑通路27は、それぞれ無段変速機1の変速比が所定範囲(例えば燃費を良好に維持することが求められる範囲)内にあるときの積層リング12とサドル面21aとの接触範囲の一端または他端の内周側に位置して伝動ベルト10の径方向からみて当該一端または他端と重なるように形成される。
さて、上述のような伝動ベルト10がプライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との間でトルクを伝達する間には、プーリ3,5への巻き掛かりに際して、エレメント20の各サドル面21aと積層リング12との間に周速差を生じ、それによりサドル面21aと積層リング12との間で摩擦が発生する。また、伝動ベルト10がプーリ3,5間でトルクを伝達する間、当該伝動ベルト10のプーリ3,5に巻き掛けられている領域では、エレメント20の正面および背面に沿ったサドル面21aの縁部(エッジ部)が積層リング12に対して実質的に線接触することになる。このため、無段変速機1では、サドル面21a(正面側および背面側の縁部)と積層リング12との間の摩擦を低減化するために、上述のように、伝動ベルト10の内側に配置された各ノズル9から伝動ベルト10のプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5に巻き掛かろうとする部分や、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5に巻き掛かっている部分に向けて作動油が供給される。
ここで、本発明者らの解析によれば、エレメントの正面または背面にサドル面まで達する潤滑通路を設けて伝動ベルトの内側から潤滑媒体としての作動油を供給した場合、潤滑通路からの作動油が供給されることで当該潤滑通路を含まない背面または正面に沿ったサドル面の縁部周辺では、作動油の膜厚を充分に確保することができる。これに対して、潤滑通路を含む正面または背面に沿ったサドル面の縁部(エッジ部)周辺では、当該縁部とリングとの接触面積が減少することで縁部に供給された作動油が潤滑通路へと流出してしまい、却って潤滑媒体の膜厚が低下することが判明した。従って、エレメントにサドル面まで達する潤滑通路を設けた場合、サドル面の両縁部で作動油の膜厚差が生じてしまうことで、潤滑性能を改善することが困難となる。
これを踏まえて、伝動ベルト10では、エレメント20の正面に、ロッキングエッジ25よりも内周側から当該ロッキングエッジ25を超えてサドル面21aよりも内周側の位置まで延在する潤滑通路27が複数形成される。すなわち、潤滑通路27がサドル面21aに達しないことから、サドル面21aの当該潤滑通路27側(正面側)の縁部には、切欠が存在しない。これにより、図4において点線矢印で示すように、内側から供給される作動油を各潤滑通路27に溜めながら、当該潤滑通路27内の作動油をロッキングエッジ25の径方向外側に画成される隣り合うエレメント20同士の隙間を介して遠心力によりエレメント20の正面や背面に沿ったサドル面21aの縁部の全体に供給することができる。この結果、潤滑媒体としての作動油の供給量を必要以上に増やすことなく、各エレメント20のサドル面21aと積層リング12との間に作動油をより適正に供給して両者の間で発生する摩擦を低減化し、伝動ベルト10の耐久性および動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
また、伝動ベルト10において、エレメント20の各サドル面21aは、積層リング12側に湾曲する凸曲面を含むものであり、1つのサドル面21aに対応した複数の潤滑通路27のうち、中央の潤滑通路27は、サドル面21aの頂部Tの内周側に位置して伝動ベルト10の径方向からみて当該頂部Tと重なる。これにより、潤滑媒体としての作動油をエレメント20の正面や背面に沿ったサドル面21aの縁部の全体により良好に供給することが可能となる。
更に、伝動ベルト10では、複数の潤滑通路27がサドル面21aの幅方向(長手方向)に間隔をおいてエレメント20の正面に形成されている。これにより、ロッキングエッジ25のサドル面21aの幅方向における総長さを良好に確保しつつ、サドル面21aと積層リング12との間に潤滑媒体としての作動油を良好に供給することが可能となる。そして、ロッキングエッジ25の総長さを確保することで、伝動ベルト10により伝達されるトルクが高いときにエレメント20が弾性変形しても、隣り合うエレメント20同士の間でトルクを良好に伝達することができる。なお、エレメント20には、第1通路としての各潤滑通路27に連続すると共に、伝動ベルト10の径方向(図3における上下方向)におけるロッキングエッジ25とサドル面21aとの間で当該サドル面21aの幅方向に延びる潤滑通路(第2通路)が追設されてもよい。
ただし、エレメント20に複数の潤滑通路27をサドル面21aの幅方向に間隔をおいて形成する代わりに、図5に示す伝動ベルト10Bのエレメント20Bのように、1つのサドル面21aに対して1つの潤滑通路27Bを設けてもよい。これにより、潤滑通路27Bのサドル面21aの幅方向における長さ(幅)を大きくして、サドル面21aと積層リング12との間への作動油の供給量を良好に確保することが可能となる。この場合、図示するように、潤滑通路27Bは、幅方向における中心線(図5における一点鎖線参照)がサドル面21a(凸曲面)の頂部Tと交差するように配置されてもよい。また、図5において二点鎖線で示すように、潤滑通路27Bの幅は、要求される作動油(潤滑媒体)の供給量に応じて任意に定めることができる。
更に、図6に示す伝動ベルト10Cように、潤滑通路27Cがエレメント20Cの背面、すなわちロッキングエッジ25が形成されていないエレメント20Cの表面に形成されてもよい。この場合も、エレメント20Cに複数の潤滑通路27Cがサドル面21aの幅方向に間隔をおいて形成されてもよく(図中、実線参照)、1つのサドル面21aに対して1つの潤滑通路27Cが設けられてもよい(図中、二点鎖線参照)。そして、1つのサドル面21aに対して1つの潤滑通路27Cが設けられる場合には、潤滑通路27Cの幅を要求される作動油(潤滑媒体)の供給量に応じて任意に定めることができる。
また、上述のエレメント20等における段差部21bは、主に隣り合うエレメント20等との干渉を抑制したり、エレメント20等の加工性を向上させたりするために設けられるものであるが、図7に示す伝動ベルト10Dのエレメント20Dように、斜面21sを当該エレメント20Dの内周(下縁)まで延長して段差部21bを省略してもよい。この場合も、エレメント20Dに複数の潤滑通路27Dがサドル面21aの幅方向に間隔をおいて形成されてもよく(図中、実線参照)、1つのサドル面21aに対して1つの潤滑通路27Dが設けられてもよい(図中、二点鎖線参照)。また、1つのサドル面21aに対して1つの潤滑通路27Dが設けられる場合には、潤滑通路27Dの幅を要求される作動油(潤滑媒体)の供給量に応じて任意に定めることができる。更に、斜面21sがエレメント20Dの内周(下縁)まで延長される場合、潤滑通路27Dは、エレメント20Dの内周(下縁)まで達するように形成されてもよく、エレメント20Dの内周(下縁)まで達しないように形成されてもよい。
図8は、本開示の他の伝動ベルト10Eを示す概略構成図である。同図に示す伝動ベルト10Eを構成するエレメント20Eの潤滑通路27Eは、ロッキングエッジ25よりも内周側から当該ロッキングエッジ25を超えてサドル面21aよりも内周側の位置まで延在する第1通路27aと、当該第1通路27aに連続すると共に伝動ベルト10Eの径方向(図8における上下方向)におけるロッキングエッジ25とサドル面21aとの間で当該サドル面21aの幅方向に延びる第2通路27bとを含む。図8の例において、潤滑通路27Eの第1通路27aは、胴部21の幅方向における中央部、すなわちネック部22の内周側に形成され、斜面21sと段差部21bとの境界で開口する。また、第2通路27bは、各サドル面21aに沿って第1通路27aから幅方向の両側に延出されている。
かかる伝動ベルト10Eにおいても、ロッキングエッジ25のサドル面21aの幅方向における総長さを良好に確保しつつ、各サドル面21aと積層リング12との間に潤滑媒体としての作動油を良好に供給することが可能となる。そして、ロッキングエッジ25の総長さを確保することで、伝動ベルト10Eにより伝達されるトルクが高いときにエレメント20Eが弾性変形しても、隣り合うエレメント20E同士の間でトルクを良好に伝達することができる。また、潤滑通路27Eは、エレメント20Eの正面に形成されてもよく、背面に形成されてもよい。更に、斜面21sがエレメント20Eの内周(下縁)まで延長される場合、第1通路27aは、エレメント20Eの内周(下縁)まで達するように形成されてもよく、エレメント20Eの内周(下縁)まで達しないように形成されてもよい。
図9は、本開示の他の伝動ベルト100を示す概略構成図である。同図に示す伝動ベルト100は、弾性変形可能な複数(本実施形態では、例えば9個)のリング材11を厚み方向(リング径方向)に積層することにより構成された1個の積層リング12と、1個のリテーナリング15と、積層リング12の内周面に沿って環状に配列(結束)される複数(例えば、数百個)のエレメント200とを含む。
リテーナリング15は、例えば鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであり、リング材11と概ね同一若しくはそれよりも薄い厚みを有する。また、リテーナリング15は、積層リング12の最外層のリング材11の外周長よりも長い内周長を有する。これにより、積層リング12とリテーナリング15とが同心円状に配置された状態(張力が作用しない無負荷状態)では、図9に示すように、最外層のリング材11の外周面とリテーナリング15の内周面との間に、環状のクリアランスが形成される。
各エレメント200は、例えばプレス加工により鋼板から打ち抜かれたものであり、図9に示すように、図中水平に延びる胴部210と、当該胴部21の両端部から同方向に延出された一対のピラー部220と、各ピラー部220の遊端側に開口するように一対のピラー部220の間に画成された単一のリング収容部(凹部)240とを有する。一対のピラー部220は、リング収容部240の底面であるサドル面240aの幅方向における両側から伝動ベルト100の径方向における外側(伝動ベルト100の内周側から外周側に向かう方向、すなわち図中上方)に延出されており、各ピラー部220の遊端部には、サドル面240aの幅方向に突出するフック部220fが形成されている。一対のフック部220fは、積層リング12(リング材11)の幅よりも若干長く、かつリテーナリング15の幅よりも短い間隔をおいて互いに対向する。
リング収容部240内には、図9に示すように、積層リング12が配置され、当該リング収容部240のサドル面240aは、積層リング12(最内層のリング材11)の内周面に接触する。サドル面240aは、幅方向における中央部を頂部として幅方向外側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した左右対称の凸曲面形状(クラウニング形状)を有する。これにより、サドル面240aとの摩擦により積層リング12に頂部Tに向かう求心力を付与して、当該積層リング12をセンタリングすることが可能となる。ただし、サドル面240aは、積層リング12の径方向における外側に湾曲する凸曲面を複数含むものであってもよい。
また、リテーナリング15は、すべてのエレメント200のリング収容部240内に積層リング12が配置された状態で、弾性変形させられて各エレメント200の一対のフック部220fの間を介してリング収容部240に嵌め込まれる。そして、リテーナリング15は、積層リング12の最外層のリング材11の外周面と各エレメント200のフック部220fとの間に配置されて積層リング12を包囲し、各エレメント200が積層リング12から脱落するのを規制する。これにより、複数のエレメント200は、積層リング12の内周面に沿って環状に結束(配列)される。
また、エレメント200の正面は斜面を含み、その背面は平坦に形成されている。すなわち、胴部210の外周側(伝動ベルト100等の径方向における外側)の一部およびピラー部220は、略一定の厚みを有し、胴部210には、サドル面240aよりも内周側(伝動ベルト100等の径方向における内側)の位置から更に内周側に向かうにつれて背面に近接する斜面210sが形成されている。斜面210sの外周側の縁部(エレメント200の厚みが変化する境界部分)は、伝動ベルト10の進行方向において隣り合うエレメント200同士を接触させて両者の回動の支点となるロッキングエッジ250を形成する。これにより、ロッキングエッジ250は、サドル面240aよりも内周側に位置する。また、胴部210の正面(一方の表面)の幅方向における中央部には、1個の突起(ディンプル)210pが形成されており、胴部210の背面(他方の表面)には、突起210pの裏側に位置するように窪み210rが形成されている。更に、エレメント200の胴部210は、伝動ベルト100等の内周側から外周側(伝動ベルト100等の径方向における外側)に向かうにつれて互いに離間するように形成されてフランク面として機能する一対の側面210fを有する。
そして、かかる構成を有するエレメント200にも、複数(本実施形態では、6個)の潤滑通路270がサドル面240a(胴部210)の幅方向に間隔をおいて形成されている。各潤滑通路270は、エレメント200の正面から背面に向けて窪んだ凹部(溝)であり、ロッキングエッジ250よりも内周側に位置するエレメント200の外周側縁部からロッキングエッジ250を超えてサドル面240aよりも内周側の位置まで延在する。これにより、ロッキングエッジ250は、図9に示すように、断続的に延在することになる。また、各潤滑通路270は、エレメント200の外周側縁部で開口する一方、サドル面240aまで達しておらず、当該サドル面240aでは開口していない。これにより、サドル面240aの潤滑通路270(エレメント20の正面)側の縁部には、切欠が存在しないことになる。
これにより、多数のエレメント200を含む伝動ベルト100においても、内側から供給される作動油を各潤滑通路270に溜めながら、当該潤滑通路270内の作動油をロッキングエッジ250の径方向外側に画成される隣り合うエレメント200同士の隙間を介して遠心力によりエレメント200の正面や背面に沿ったサドル面240aの縁部の全体に供給することができる。この結果、潤滑媒体としての作動油の供給量を必要以上に増やすことなく、各エレメント200のサドル面240aと積層リング12との間に作動油をより適正に供給して両者の間で発生する摩擦を低減化し、伝動ベルト100の耐久性および動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
また、エレメント200においても、1つのサドル面21aに対応した複数の潤滑通路270のうち、中央の潤滑通路270がサドル面240aの頂部Tの内周側に位置するように配置されてもよい。更に、図10に示すエレメント200Bのように、サドル面240aに対して1つの潤滑通路270Bが設けられてもよい。この場合、潤滑通路270Bは、サドル面240aの頂部Tの内周側に位置するように配置されてもよく、潤滑通路270Bの幅は、要求される作動油(潤滑媒体)の供給量に応じて任意に定めることができる。また、潤滑通路270Bは、エレメント200の内周(下縁)まで達しないものであってもよい。更に、エレメント200,200Bに上記段差部21bに相当する段差部が形成されてもよい。
以上説明したように、本開示の伝動ベルトは、複数のエレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)と、前記複数のエレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)を環状に結束させるリング(12)とを含み、無段変速機(1)の一対のプーリ(3,5)のV字状溝に巻き掛けられて動力を伝達する伝動ベルト(10,10B,10C,10D,10E,100)において、前記エレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)が、前記リング(12)と接触するサドル面(21a,240a)と、前記エレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)の正面および背面の一方に前記サドル面(21a,240a)よりも前記伝動ベルト(10,10B,10C,10D,10E,100)の内周側に位置するように形成され、隣り合うエレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)同士を接触させて両者の回動の支点となるロッキングエッジ(25,250)と、前記エレメント(20,20B,20C,20D,200,200B)の前記正面および前記背面の一方に形成され、前記ロッキングエッジ(25,250)よりも前記内周側から該ロッキングエッジ(25,250)を超えて前記サドル面(21a,240a)よりも前記内周側の位置まで延在する潤滑通路(27,27B,27C,27D,270,270B)とを含むものである。
複数のエレメントとリングとを含む伝動ベルトが一対のプーリ間で動力を伝達する間、当該伝動ベルトのプーリに巻き掛けられている領域では、エレメントの正面および背面に沿ったサドル面の縁部(エッジ部)がリングに対して実質的に線接触することになる。そして、本発明者らの解析によれば、エレメントの正面または背面にサドル面まで達する潤滑通路を設けて伝動ベルトの内側から潤滑媒体を供給した場合、潤滑通路を含む正面または背面に沿ったサドル面の縁部(エッジ部)周辺では、当該縁部とリングとの接触面積が減少することで縁部に供給された潤滑媒体が潤滑通路へと流出してしまい、却って潤滑媒体の膜厚が低下して潤滑性能を改善し得なくなることが判明した。これを踏まえて、本開示の伝動ベルトでは、エレメントの正面および背面の一方に、ロッキングエッジよりも伝動ベルトの内周側から当該ロッキングエッジを超えてサドル面よりも内周側の位置まで延在する潤滑通路が形成される。すなわち、潤滑通路がサドル面に達しないことから、サドル面の潤滑通路側の縁部には、切欠が存在しない。これにより、内側から供給される潤滑媒体を潤滑通路に溜めながら、当該潤滑通路内の潤滑媒体をロッキングエッジの径方向外側に画成される隣り合うエレメント同士の隙間を介してエレメントの正面や背面に沿ったサドル面の縁部の全体に供給することができる。この結果、潤滑媒体の供給量を必要以上に増やすことなく、エレメントのサドル面とリングとの間に潤滑媒体をより適正に供給して両者の間で発生する摩擦を低減化し、伝動ベルトの耐久性および動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
また、前記サドル面(21a,240a)は、前記リング(12)側に湾曲する凸曲面を含んでもよく、前記潤滑通路(27,27B,27C,27D,270,270B)は、前記凸曲面の頂部(T)の前記内周側に配置されてもよい。これにより、潤滑媒体をエレメントの正面や背面に沿ったサドル面の縁部の全体により良好に供給することが可能となる。この場合、サドル面の幅方向における潤滑通路の中心線が凸曲面の頂部と交差してもよい。
更に、前記潤滑通路(27,27C,27D,270)は、前記正面および前記背面の一方に、前記サドル面(21a,240a)の幅方向に間隔をおいて複数形成されてもよい。これにより、ロッキングエッジのサドル面の幅方向における総長さを良好に確保しつつ、サドル面とリングとの間に潤滑媒体を良好に供給することが可能となる。
また、前記潤滑通路(27E)は、前記ロッキングエッジ(25)よりも前記内周側から該ロッキングエッジ(25)を超えて前記サドル面(21a)よりも前記内周側の位置まで延在する第1通路(27a)と、前記第1通路(27a)に連続すると共に前記伝動ベルト(10E)の径方向における前記ロッキングエッジ(25)と前記サドル面(21a)との間で前記サドル面(21a)の幅方向に延びる第2通路(27b)とを含むものであってもよい。かかる潤滑通路を有するエレメントにおいても、ロッキングエッジのサドル面の幅方向における総長さを良好に確保しつつ、サドル面とリングとの間に潤滑媒体を良好に供給することが可能となる。
更に、1つの前記サドル面(21a,240a)に対して1つの前記潤滑通路(27B,27C,27D,270B)が設けられてもよい。これにより、潤滑通路のサドル面の幅方向における長さ(幅)を大きくして、サドル面とリングとの間への潤滑媒体の供給量を良好に確保することが可能となる。
更に、前記エレメント(20,20B,20C,20D)は、胴部(21)と、前記胴部(21)の幅方向における中央部から前記伝動ベルト(10,10B,10C,10D,10E)の外周側に延出されたネック部(22)と、前記胴部(21)から離間するように前記ネック部(22)から前記幅方向における両側に延出されたヘッド部(23)とを含むものであってもよく、前記サドル面(21a)は、前記ネック部(22)の前記幅方向における両側に位置するように前記胴部(21)に形成されてもよい。また、前記エレメント(200,200B)は、前記サドル面(240a)を有する胴部(210)と、前記サドル面(240a)の幅方向における両側に位置するように前記胴部(210)から前記伝動ベルト(100)の外周側に延出された一対のピラー部(220)とを含むものであってもよい。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。