本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、焼結鉱を製造するときに使用される無煙炭(以下、焼結用無煙炭ともいう)の燃焼性(具体的には、燃焼速度)を評価するものである。本発明において、焼結用無煙炭とは、この無煙炭に含まれる揮発分が10重量%未満の石炭である。
焼結用無煙炭は酸素を吸着(又は吸収)することにより、焼結用無煙炭の重量が増加する。本実施形態では、焼結用無煙炭の燃焼性が、焼結用無煙炭による酸素の吸着量(すなわち、焼結用無煙炭の重量増加量)に依存することに着目し、焼結用無煙炭の重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価している。
焼結用無煙炭の重量増加量及び燃焼速度の間には、以下に説明する相関がある。すなわち、焼結用無煙炭の重量増加量が多いほど、焼結用無煙炭の燃焼速度が高くなり、焼結用無煙炭の重量増加量が少ないほど、焼結用無煙炭の燃焼速度が低くなる。このような相関に基づけば、焼結用無煙炭の重量増加量を測定することにより、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。そして、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することにより、焼結鉱の生産率を向上させることができる焼結用無煙炭を選別することができる。
焼結用無煙炭の重量増加量とは、所定の雰囲気に放置される前の焼結用無煙炭の重量と、所定の雰囲気において酸素を吸着したときの焼結用無煙炭の重量との差である。焼結用無煙炭の重量増加量は、熱天秤を用いて測定される。熱天秤としては、既存の熱天秤が用いられ、例えば、示差熱天秤が用いられる。本実施形態では、既存の熱天秤を用いることにより、焼結用無煙炭の重量増加量を測定して、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。
焼結用無煙炭の重量増加量を測定するときには、まず、不活性ガスの雰囲気において、雰囲気温度を所定温度まで上昇させることにより、焼結用無煙炭に予め吸着されている酸素を、焼結用無煙炭から脱離させる。焼結用無煙炭から酸素を脱離させる処理を前処理という。
上述したように、本実施形態は、酸素の吸着に伴う焼結用無煙炭の重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価するものであるが、この重量増加量を把握する上では、焼結用無煙炭に予め吸着されている酸素を除去しておくことが好ましい。焼結用無煙炭に酸素が予め吸着されたまま、重量増加量の測定を行ってしまうと、焼結用無煙炭に予め吸着されている酸素の量が、重量増加量を測定するときの酸素の吸着性能に影響を与えてしまう。これにより、焼結用無煙炭に酸素が予め吸着されている場合と、焼結用無煙炭に酸素が吸着されていない場合とで、測定される重量増加量が異なってしまう。この場合には、重量増加量に基づく燃焼性の評価にズレが生じてしまい、燃焼性を評価するときの精度が低下してしまう。そこで、燃焼性を評価するときの精度が低下することを抑制するために、上述した前処理によって、焼結用無煙炭から酸素を脱離させておくことが好ましい。
一方、上述した前処理では、雰囲気温度を上昇させているため、焼結用無煙炭に含まれる水分を蒸発させやすくなり、熱天秤を用いて焼結用無煙炭の重量増加量を測定するときの精度を向上させることができる。熱天秤の測定精度は、焼結用無煙炭に含まれる水分量に依存しやすいため、熱天秤を用いて焼結用無煙炭の重量増加量を測定する前に、焼結用無煙炭に含まれる水分を蒸発させておくことにより、焼結用無煙炭の重量増加量を精度良く測定することができる。
前処理を行うとき、不活性ガスとして、例えば、アルゴンガスを用いることができる。不活性ガスを用いることにより、雰囲気ガスによる焼結用無煙炭の反応が進行することを抑制しながら、前処理を行うことができる。
前処理時の雰囲気ガスに酸素が含まれていると、酸素が焼結用無煙炭に吸着されてしまい、焼結用無煙炭から酸素を脱離させるという、前処理の目的を達成することができなくなってしまう。また、前処理時の雰囲気ガスに酸素が含まれていると、焼結用無煙炭が酸化されて、酸化に伴うガス(CO,CO2,H2O)が発生してしまう。これにより、重量増加量を測定するときにおける、焼結用無煙炭の酸素の吸着性能に影響を与えてしまい、重量増加量に基づいて燃焼性を評価するときの精度が低下してしまうおそれがある。
そこで、上述したように、不活性ガスを用いて前処理を行うことにより、重量増加量を測定するときの酸素の吸着性能に影響を与えることを抑制しながら、焼結用無煙炭に吸着されている酸素を脱離させることができる。
前処理において、雰囲気温度を上昇させるときの目標温度(上述した所定温度)は、焼結用無煙炭から酸素を脱離させやすい温度であればよい。例えば、目標温度の上限を600℃とすることができる。ここで、雰囲気温度を600℃よりも高い温度まで上昇させてしまうと、焼結用無煙炭の石炭性状の変質(官能基の脱離や細孔構造の変化など)を招きやすくなる。そこで、焼結用無煙炭の石炭性状を維持するために、前処理時の目標温度を600℃以下の温度とすることが好ましい。
上述した前処理を行った後、熱天秤を用いて焼結用無煙炭の重量増加量を測定する。具体的には、雰囲気ガスを不活性ガスから酸素ガスに変更し、酸素の雰囲気において、焼結用無煙炭を放置しながら、熱天秤を用いて焼結用無煙炭の重量増加量を測定する。
焼結用無煙炭の重量増加量を測定するときの雰囲気温度は、150℃以上であり、250℃以下であることが好ましい。このように雰囲気温度を設定することの意義について、以下に説明する。
雰囲気温度が150℃よりも低いと、焼結用無煙炭が酸素を吸着しにくくなり、焼結用無煙炭の重量が増加しにくくなるため、熱天秤による重量増加量の測定精度が低下しやすくなる。このため、焼結用無煙炭が酸素を吸着しやすくするために、雰囲気温度を150℃以上とすることが好ましい。
雰囲気温度が高いほど、焼結用無煙炭が酸素を吸着しやすくなるが、雰囲気温度が250℃よりも高いと、酸素雰囲気下では、焼結用無煙炭が酸素と反応してしまい、焼結用無煙炭の酸化によってガスが発生してしまう。この場合には、ガスが発生した分だけ、焼結用無煙炭の重量が低下してしまい、酸素の吸着に伴う焼結用無煙炭の重量増加量を把握しにくくなってしまう。そこで、焼結用無煙炭による酸素の吸着を優先的に発生させるために、雰囲気温度を250℃以下とすることが好ましい。
一方、焼結用無煙炭の重量増加量を測定するときには、雰囲気温度を上述した温度範囲(150〜250℃)に含まれる所定温度に維持する必要がある。
焼結用無煙炭の反応(酸素の吸着)は、雰囲気温度に依存するため、焼結用無煙炭の重量増加量を測定する間に雰囲気温度が変動してしまうと、焼結用無煙炭による酸素の吸着性能が変化しやすくなり、重量増加量が変化しやすくなる。この場合には、複数種類の焼結用無煙炭について、重量増加量に基づく燃焼性の評価にバラツキが発生しやすくなり、燃焼性を評価しにくくなる。
そこで、雰囲気温度を上述した温度範囲(150〜250℃)内の所定温度に維持することにより、雰囲気温度の変化によって、焼結用無煙炭の酸素の吸着性能が変化することを抑制しながら、焼結用無煙炭の重量増加量を測定することができる。
焼結用無煙炭の重量増加量を測定するとき、雰囲気ガスとしては、酸素を含むガスを用いればよい。本実施形態では、酸素の吸着に伴う焼結用無煙炭の重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価しているため、酸素を含むガスを用いて、焼結用無煙炭に酸素を吸着させればよい。
雰囲気ガスとして、酸素以外の他の種類のガスを用いると、このガスが焼結用無煙炭に吸着されることなどにより、酸素の吸着とは異なる要因によって、焼結用無煙炭の重量が増加してしまい、酸素の吸着に伴う焼結用無煙炭の重量増加量を把握しにくくなる。そして、酸素の吸着による重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価しにくくなる。
ここで、焼結用無煙炭の重量増加量を測定するときの雰囲気ガスとしては、純酸素ガスを用いることが好ましい。純酸素ガスとは、酸素の濃度が99%以上のガスである。純酸素ガスを用いることにより、焼結用無煙炭による酸素の吸着を迅速に行わせることができ、酸素の吸着に伴う焼結用無煙炭の重量増加量を把握しやすくなる。結果として、焼結用無煙炭の重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価しやすくなる。
ここで、焼結用無煙炭の重量増加量は、焼結用無煙炭が酸素を吸着し始めてから、言い換えれば、酸素の雰囲気下で焼結用無煙炭を放置し始めてから、所定時間が経過したときに測定された値である。酸素の雰囲気下で焼結用無煙炭を放置してからの経過時間が長いほど、焼結用無煙炭が酸素を吸着することにより、焼結用無煙炭の重量が増加する。所定時間は、無煙炭の種類に応じて重量増加量を充分に測定できるのに必要な時間以上であればよく、特に限定はされない。
焼結用無煙炭の燃焼性を評価することにより、焼結用無煙炭を用いて焼結鉱を生産するときにおいて、この生産率を向上させることができる焼結用無煙炭を選別することができる。具体的には、測定された重量増加量が閾値以上である焼結用無煙炭を、焼結鉱の生産に用いることができる。閾値(重量増加量)を予め決めておけば、測定値(重量増加量)及び閾値(重量増加量)を比較することにより、焼結鉱の生産に適した焼結用無煙炭と、焼結鉱の生産に適していない焼結用無煙炭とを区別することができる。
測定値(重量増加量)及び閾値(重量増加量)を比較するとき、重量増加量としては、熱天秤によって測定されたままの値(重量増加量)を用いたり、焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量を用いたりすることができる。
熱天秤によって測定されたままの重量増加量を用いる場合には、測定対象となる焼結用無煙炭の重量、すなわち、重量増加量を測定する前の焼結用無煙炭の重量を一定にする必要がある。これは、焼結用無煙炭の重量が異なると、焼結用無煙炭の重量増加量も異なってしまい、複数種類の焼結用無煙炭について、燃焼性の画一的な評価を行うことができなくなるからである。
焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量を用いる場合において、焼結用無煙炭の重量としては、上述した前処理を行った後の焼結用無煙炭の重量、言い換えれば、重量増加量の測定を開始するときの焼結用無煙炭の重量とすることができる。前処理後の焼結用無煙炭の重量を測定しておき、熱天秤によって測定された重量増加量を、前処理後の焼結用無煙炭の重量で除算することにより、焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量を算出することができる。
焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量を用いることにより、重量増加量を測定するときの焼結用無煙炭の重量が異なっていても、複数種類の焼結用無煙炭について、燃焼性の画一的な評価を行うことができる。焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量を用いるとき、上述した閾値としては、例えば、6[mg/g]に設定することができる。
ここで、焼結用無煙炭の重量増加量は、重量増加量の測定時間に応じて変化する。重量増加量の測定時間とは、重量増加量の測定を開始してからの経過時間である。測定時間が長いほど、焼結用無煙炭が酸素を吸着することにより、焼結用無煙炭の重量が増加する。このため、閾値を設定するときには、所定の測定時間(本発明における所定時間)を基準にする必要がある。上述した6[mg/g]の閾値は、測定時間が10分であるときの値、すなわち、重量増加量の測定を開始してから10分が経過したときの値である。
上述した本実施形態において、焼結用無煙炭の燃焼性を評価するための手順(一例)を図1に示す。
ステップS101では、焼結用無煙炭に対して前処理を行う。前処理では、上述したように、不活性ガスの雰囲気において、雰囲気温度を上昇させることにより、焼結用無煙炭から酸素を脱離させる。
ステップS102では、雰囲気ガスを不活性ガスから酸素ガスに変更し、雰囲気温度を150〜250℃の温度範囲内の所定温度に維持しながら、熱天秤を用いて、焼結用無煙炭の重量増加量を測定する。具体的には、重量増加量の測定を開始してから、所定時間が経過したときの重量増加量を測定する。
ステップS103では、ステップS102で測定された重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価する。具体的には、測定対象の焼結用無煙炭が、焼結鉱の生産に適した焼結用無煙炭であるか否かを判別することができる。
本実施形態によれば、焼結用無煙炭の重量増加量及び燃焼速度の間に相関があることに着目し、焼結用無煙炭の重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。また、熱天秤を用いて、焼結用無煙炭の重量増加量を測定するだけで、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。
なお、焼結用無煙炭の燃焼速度を直接算出する方法もあるが、この算出方法では、燃焼速度を算出するための測定を、同一条件で複数回行っても、これらの測定結果のそれぞれから算出される燃焼速度にはバラツキが生じやすい。この理由としては、燃焼は極めて速く短時間で終了する反応であり、焼結用無煙炭の粒子の微妙な形状の違いなどの影響も鋭敏に受けるため、算出された燃焼速度が、燃焼速度の算出過程の影響を受けるからであると考えられる。算出された燃焼速度にバラツキが生じやすい場合には、燃焼速度の算出精度を向上させるために、燃焼速度の算出を複数回行い、これらの燃焼速度の平均値を算出しなければならない。
一方、焼結用無煙炭の重量増加量を測定する場合には、同一成分の焼結用無煙炭に対して、重量増加量の測定を複数回行っても、測定結果に大きなバラツキが発生しにくい。この理由としては、熱天秤を用いて、焼結用無煙炭の重量増加量を単に測定しているからであると考えられる。このように、重量増加量のバラツキが発生しにくいと、重量増加量の測定を複数回行い、これらの重量増加量の平均値をしなくても、重量増加量の測定精度を担保することができる。そして、焼結用無煙炭の重量増加量を測定するだけで、重量増加量の測定精度を担保しながら、重量増加量に基づく燃焼性の評価を容易に行うことができる。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
9種類の焼結用無煙炭を用意し、各焼結用無煙炭について、重量増加量を測定するとともに、燃焼速度および比表面積を算出した。
(焼結用無煙炭の種類)
9種類の無煙炭(焼結用無煙炭)A〜Iの分析値(工業分析値および元素分析値)は、下記表1に示す通りである。
(重量増加量の測定)
無煙炭A〜Iは、110℃において乾燥済みの試料を10mgずつ用意した。また、無煙炭A〜Iとしては、粒度が150〜250μmの範囲内のものを用意した。後述するように、示差熱天秤を用いて無煙炭A〜Iの重量増加量を測定するときには、測定精度を担保する上で、粒度が150〜250μmである無煙炭A〜Iを用いることが好ましい。
各無煙炭A〜Iの重量増加量を測定するために、示差熱天秤(株式会社リガク製、Thermo Plus Evo2 TG-DTA8120/H-IR スマートローダ)を用いた。示差熱天秤に無煙炭A〜Iをそれぞれ設置し、雰囲気ガスをアルゴンガス(不活性ガス)とした。そして、20℃/minの昇温速度において、雰囲気温度を常温から600℃まで上昇させた後、雰囲気温度を600℃に維持しながら10分間放置した。この処理は、各無煙炭A〜Iに吸着している酸素を脱離させる処理(上述した前処理)である。
次に、20℃/minの降温速度において、雰囲気温度を600℃から200℃まで低下させた後、雰囲気ガスをアルゴンガスから純酸素ガスに変更した。そして、純酸素ガスの雰囲気において、雰囲気温度を200℃に維持しながら、各無煙炭A〜Iを1時間放置した。ここで、雰囲気ガスをアルゴンガスから純酸素ガスに変更してから10分及び1時間が経過したときのそれぞれにおいて、各無煙炭A〜Iの重量増加量を測定した。本実施例では、各無煙炭A〜Iの単位重量当たりの重量増加量(mg/g)を算出した。
図2は、各無煙炭A〜Iにおける経過時間および重量増加量(mg/g)の関係を示す。図2において、横軸は、重量増加量の測定を開始してからの経過時間を示し、縦軸は、各経過時間における無煙炭A〜Iの重量増加量(mg/g)を示す。図2から分かるように、経過時間が長くなるほど、重量増加量が多くなる。ただし、無煙炭A〜Iに応じて、重量増加量の上昇率が異なっている。
(燃焼速度の算出)
無煙炭A〜Iは、10mgずつ用意した。示差熱天秤(株式会社リガク製、Thermo Plus Evo2 TG-DTA8120/H-IR スマートローダ)に無煙炭A〜Iをそれぞれ設置し、雰囲気ガスを窒素ガスとした。そして、無煙炭A〜Iに対して、200mL/minの流量で窒素ガスを流しながら、100℃/minの昇温速度において、雰囲気温度を600℃まで上昇させた。
雰囲気温度が600℃に到達したとき、雰囲気ガスを窒素ガスから空気に変更し、200mL/minの流量で空気を流しながら、無煙炭A〜Iの重量減少量を測定し続けた。重量減少量の測定は、雰囲気ガスを窒素ガスから空気に変更してから、3時間が経過するまで行った。この測定結果に基づいて、経過時間t毎の反応率Xを算出した。反応率Xは、下記式(1)に基づいて算出した。
上記式(1)において、ΔM(t)は、経過時間tにおける無煙炭A〜Iの重量減少量であり、Meは、重量減少量の測定を終了したときの無煙炭A〜Iの重量(未燃焼物の重量)であり、Msは、重量減少量の測定を開始したときの無煙炭A〜Iの重量である。上記式(1)に基づいて、経過時間tのそれぞれにおける反応率Xを算出することができる。
燃焼速度vは、下記式(2)から算出できる。下記式(2)によれば、各経過時間t1、t2における反応率X1、X2の変化量を経過時間の差(t1-t2)で除算することにより、燃焼速度vを算出できる。
反応率Xが0〜0.95までの間における各反応率Xから燃焼速度vを算出し、これらの燃焼速度vの平均値を算出した。ここで、各無煙炭A〜Iに対して、上述した測定を同一条件の下で3回行い、燃焼速度vの平均値をそれぞれ算出した。そして、3つの平均値を平均化したものを、各無煙炭A〜Iにおける燃焼速度の代表値とした。
(比表面積の測定)
流動式比表面積測定装置(株式会社島津製作所(マイクロメリティックス社製)、フローソーブII)を用いて、無煙炭A〜Iの比表面積を測定した。ここで、流動式とは、吸着ガスおよびキャリアガスを混合した混合ガスを流し、吸着時の混合比を検出することにより、比表面積を測定する方式である。
まず、前処理として、無煙炭A〜Iの表面に吸着しているガスを取り除く処理を行った。具体的には、前処理として、真空排気しながら、150℃で4時間の間、予め粒径0.25〜0.5mmに調製した無煙炭A〜Iを加熱した。次に、前処理後の各無煙炭A〜Iを用意し、−196℃において、吸着ガスとしての窒素を無煙炭A〜Iに流すことにより、無煙炭A〜Iに窒素を吸着させる。ここで、キャリアガスとしては、ヘリウムを用いることができる。
相対圧0.3におけるガス吸着量(窒素吸着量)を測定することにより、相対圧およびガス吸着量の関係(吸着等温線)が求められる。相対圧とは、無煙炭A〜Iに吸着された窒素の平衡圧Pと飽和蒸気圧P0との比(P/P0)である。ガス吸着量とは、窒素が無煙炭A〜Iの表面に吸着したときの吸着量である。
相対圧0.3における吸着量、吸着量及びBET式に基づいて、無煙炭A〜Iの比表面積(BET比表面積という)を算出できる。吸着等温線及びBET式に基づいて、BET比表面積を算出する方法は、公知であるため、詳細な説明は省略する。
下記表2は、無煙炭A〜Iについて、重量増加量の測定結果、燃焼速度およびBET比表面積の算出結果を示す。表2では、無煙炭A〜Iの重量増加量として、10分後の重量増加量と、1時間後の重量増加量とを示している。また、表2に示す重量増加量は、無煙炭A〜Iの単位重量当たりの重量増加量である。ここで、無煙炭A〜Iの重量は、前処理を行った後の無煙炭A〜Iの重量である。
上記表2に示す結果に基づいて、無煙炭A〜Iの燃焼速度と、他のパラメータとの関係を評価した。他のパラメータとは、無煙炭A〜Iの揮発分、BET比表面積および重量増加量である。
図3は、無煙炭A〜Iについて、上記表2に示す燃焼速度と、上記表1に示す揮発分との関係をプロットした図である。図3において、縦軸は燃焼速度であり、横軸は揮発分である。図3から分かるように、プロットされた複数の点(無煙炭A〜Iに相当する)は、図3に示す座標系内で散在しており、燃焼速度および揮発分の間で相関を見出すことはできなかった。
図4は、無煙炭A〜Iについて、上記表2に示す燃焼速度およびBET比表面積の関係をプロットした図である。図4において、縦軸は燃焼速度であり、横軸はBET比表面積である。図4から分かるように、プロットされた複数の点(無煙炭A〜Iに相当する)は、図4に示す座標系内で散在しており、燃焼速度およびBET比表面積の間で相関を見出すことはできなかった。
図5,6は、無煙炭A〜Iについて、上記表2に示す燃焼速度および重量増加量の関係をプロットした図である。図5,6のそれぞれにおいて、縦軸は燃焼速度であり、横軸は重量増加量である。図5に示す重量増加量は、10分後の重量増加量であり、図6に示す重量増加量は、1時間後の重量増加量である。ここで、重量増加量は、無煙炭A〜Iの単位重量当たりの重量増加量であり、上記表2に示す単位[mg/g]とは異なる単位[g/g]としている。
図5,6に示すように、燃焼速度および重量増加量の関係では、近似直線L1,L2を得ることができ、燃焼速度および重量増加量の間に相関があることが分かる。ここで、経過時間(10分および1時間)にかかわらず、燃焼速度および重量増加量の間に相関があることが分かる。このように、経過時間は、重量増加量に基づいて燃焼性を評価する上では影響を与えないため、任意の経過時間における重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。
図5,6から分かるように、重量増加量又は、焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量が多いほど、燃焼速度が高くなる。言い換えれば、重量増加量又は、焼結用無煙炭の単位重量当たりの重量増加量が少ないほど、燃焼速度が低くなる。燃焼速度および重量増加量の間には、このような相関があるため、焼結用無煙炭の重量増加量を測定することにより、この重量増加量に基づいて、焼結用無煙炭の燃焼性を評価することができる。
(焼結試験)
焼結機を小型サイズにした実験設備(鍋という)を用いて、焼成処理を行うことにより、燃焼進行速度、成品歩留および生産率を評価した。鍋の直径は300mmであり、鍋の厚みは600mmである。また、焼成処理における燃焼ガスの吸引圧を1530kPaとした。
焼結試験で用いられた原料を下記表3に示す。
鉄鉱石として、A〜Eの銘柄を用意し、これらの鉄鉱石を上記表3に示す質量%で混合した。また、鉄鉱石に対して、副原料としての、石灰石、生石灰および蛇紋岩を混合した。石灰石、生石灰および蛇紋岩の混合量(質量%)は、上記表3に示す通りである。一方、鉄鉱石および副原料の混合物に対して、返鉱および焼結用無煙炭を配合したり、返鉱および粉コークスを配合したりした。
返鉱の配合量は、鉄鉱石および副原料の総質量に対して15質量%とした。また、返鉱と共に配合される焼結用無煙炭としては、上述した無煙炭A,C,F,G,Iを用いた(上記表1参照)。ここで、粒度分布が同一となるように、無煙炭A,C,F,G,Iを調整するとともに、各無煙炭A,C,F,G,Iに含まれる固定炭素の量が等しくなるように、無煙炭A,C,F,G,Iの配合量を調整した。一方、返鉱と共に配合される粉コークスについても、固定炭素の量が各無煙炭A,C,F,G,Iに含まれる固定炭素の量と等しくなるように、粉コークスの配合量を調整した。
下記表4は、各無煙炭A,C,F,G,Iの粒度分布を示し、下記表5は、各無煙炭A,C,F,G,Iおよび粉コークスの配合量を示す。下記表5に示す配合量は、鉄鉱石および副原料の総質量に対する質量%である。
上記表5に示す配合量の無煙炭,C,F,G,I又は粉コークスを用いて、焼結試験を行い、燃焼進行速度(FFS)、成品歩留および生産率を算出した。
成品歩留とは、焼結鉱成品の歩留であり、篩目の大きさが5mmの篩により篩い分けた篩上の焼結鉱の質量Msを、元の焼結ケーキの質量Mtで除算した値(質量%)である。具体的には、下記式(3)に基づいて、成品歩留Rが算出される。
生産率とは、焼結鉱の生産率である。生産率Pは、5mmの篩により篩い分けた篩上の焼結鉱の質量Msを、焼結機の有効面積Sおよび焼結時間tsにより除算した下記式(4)に基づいて算出される。
各無煙炭A,C,F,G,Iおよび粉コークスについて、燃焼進行速度(FFS)、成品歩留および生産率の算出結果を下記表6に示す。
上記表6から分かるように、無煙炭G,Iの生産率は、粉コークスの生産率よりも高く、無煙炭A,C,Fの生産率は、粉コークスの生産率以下であった。このため、粉コークスよりも生産率を高くするために、無煙炭G,Iを用いることができる。
上記表2によれば、無煙炭G,Iの重量増加量(10分後)は、6.0mg/g以上である。このため、焼結用炭材として用いられる無煙炭としては、重量増加量(10分後)が6.0mg/g以上の無煙炭を用いればよい。すなわち、焼結用炭材としての無煙炭を選別するときには、重量増加量(10分後)の閾値を6.0mg/gに設定し、閾値以上の重量増加量(10分後)を示す無煙炭を焼結用炭材として用いることができる。
上述したように、無煙炭の重量増加量は、経過時間に応じて変化するため、経過時間を予め決めておき、この経過時間に応じた重量増加量を、焼結用炭材として用いられる無煙炭を選別するための閾値とすることができる。例えば、経過時間を1時間としたときには、上記表2に基づき、重量増加量(1時間後)の閾値を10.0mg/gに設定することができる。
(燃焼速度および重量増加量の測定バラツキの評価)
上記表1に示す無煙炭A,Iについて、燃焼速度の算出を3回行うとともに、重量増加量の測定を3回行った。燃焼速度の算出および重量増加量の測定は、上述した通りである。燃焼速度の算出結果および重量増加量の測定結果を下記表7に示す。下記表7に示す「n」は、回数を示す。
上記表7に示すように、燃焼速度を算出した場合には、燃焼速度の算出回数(n=1〜3)に応じて、算出された燃焼速度に大きなバラツキが発生していることが分かる。一方、重量増加量を測定した場合には、測定回数(n=1〜3)にかかわらず、重量増加量に大きなバラツキが発生していないことが分かる。
このように、焼結用無煙炭の重量増加量を測定する場合には、同一成分の焼結用無煙炭に対して、重量増加量の測定を複数回行っても、測定結果に大きなバラツキが発生しにくい。このため、焼結用無煙炭の重量増加量を測定するだけで、重量増加量の測定精度を担保しながら、重量増加量に基づく燃焼性の評価を容易に行うことができる。