本発明に係る溶接装置の実施形態について図1から図19を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す正面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す側面図である。
図3は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す背面図である。
図1から図3に示す本実施形態に係る溶接装置1は、筒形状の一対の被溶接物200a、200bを溶接して一体化させる。一対の筒形状の被溶接物200a、200bは、例えば配管であり、端部に突合せ継手を備えている。溶接装置1は、この継手を溶接して一対の被溶接物200a、200bを一体化させる。なお、説明を容易にするために溶接装置1は、被溶接物200a側に固定されて被溶接物200a、200b間の継手を溶接する態様とするが、被溶接物200b側に固定されて被溶接物200a、200b間の継手を溶接することもできる。
溶接装置1は、被溶接物200aの外周に固定される環状の基部2と、基部2の周方向へ移動自在であって溶接ヘッド3を支える旋回台5と、旋回台5の駆動力を発生させる複数の電動機6と、複数の電動機6を支持するモータハウジング7と、を備えている。
基部2は、被溶接物200aの外周に固定されて溶接装置1全体を支えている。基部2の内径寸法は、被溶接物200aの外径寸法より大きく、被溶接物200aは、基部2の内側であって円形の空間に配置されている。
また、基部2は、正面および背面それぞれの内周縁部に配置されて、基部2の径方向へ出没自在な複数(例えば5つ)のクランプ8を備えている。複数のクランプ8は、基部2の周方向へ略等間隔に配置されている。クランプ8は、基部2の内径よりも被溶接物200a側へ移動して、基部2の内径よりも小径な被溶接物200aに接して溶接装置1全体を支えている。
さらに、基部2は、溶接ヘッド3へ電力を供給する電源供給導体9が挿し通される電源用貫通孔11と、電源供給導体9を被溶接物200aに接地させる接地電極片(図示省略)と、を備えている。
基部2は、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部2a、2bに分割されている。溶接装置1は、この基部2の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、基部2を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
また、基部2は、半円弧部2a、2bを連結して固定する固定機構12を備えている。固定機構12は、基部2の正面および背面のそれぞれであって、半円弧部2a、2bの分割面の近傍に配置されている。
旋回台5は、溶接ヘッド3を支えるトーチホルダ13を備えている。旋回台5は、基部2の外周縁部に沿って被溶接物200aおよび被溶接物200bの周囲を旋回し、溶接ヘッド3を移動させる。トーチホルダ13は、被溶接物200a、200bの口径や溶接ヘッド3の寸法にもよるが、基部2の円周長さに比べて極めて小さく、溶接装置1の重量軽減に寄与している。
複数の電動機6は、例えば、旋回台5の駆動力を発生させる旋回用電動機15と、溶接トーチ19を被溶接物200a、200bの長手方向(配管の延び方向)へ移動させる駆動力を発生させるトーチ縦動電動機16と、溶接トーチ19を被溶接物200a、200bへ近づけたり、遠ざけたりする駆動力を発生させるトーチ遠近電動機17と、溶接トーチ19へワイヤを送給するワイヤ送給電動機18と、を含んでいる。なお、溶接トーチ19の被溶接物200a、200bの長手方向(配管の延び方向)への移動を、溶接トーチ19の縦動移動と呼ぶ。
モータハウジング7は、基部2の背面のいずれかの箇所に配置されている。
なお、溶接装置1は、溶接ヘッド3とともに旋回台5に支持されて送給前のワイヤを巻き付けておくリール(図示省略)と、ワイヤを被溶接物200a、200bの継手へ導くワイヤガイド(図示省略)と、を備えている。
溶接ヘッド3は、被溶接物200a、200bの継手をアーク溶接で接合する。具体的には、ティグ溶接(TIG溶接:Tungsten Inert Gas welding)、マグ溶接(MAG溶接:Metal Active Gas welding)、ミグ溶接(MIG溶接:Metal Inert Gas welding)など各種のアーク溶接に好適な溶接トーチ19が適宜選択されて、溶接ヘッド3に装着されている。
次に、溶接装置1の駆動機構について詳細に説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す正面図である。
図5は、図4のV−V線において、本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す断面図である。
図4および図5に示すように、本実施形態に係る溶接装置1は、筒形状の被溶接物200aの外周に固定される環状の基部2と、基部2に沿って環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22を含む環状ギヤ列23を複数列有する歯車列機構25と、いずれかの環状ギヤ列23の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯27を有する弧状の旋回ギヤ28と、旋回ギヤ28に固定されて基部2の周方向へ移動自在であって溶接ヘッド3を支える旋回台5と、旋回台5に往復動自在に保持されて他のいずれかの環状ギヤ列23の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯31、および外歯32を有する弧状の往復動ギヤ33と、旋回台5に支持されて往復動ギヤ33の外歯32に噛み合わされて溶接ヘッド3へ動力を伝達する動力伝達ギヤ35と、環状ギヤ列23それぞれの第一ギヤ21へ伝達される駆動力をそれぞれ個別に発生させる複数の電動機6と、を備えている。
また、溶接装置1は、複数の電動機6それぞれと複数の環状ギヤ列23それぞれの第一ギヤ21との間に介在する差動歯車機構36を備えている。
基部2は、正面に配置される環状の正面面板37と、背面側に配置される環状の背面面板38と、を備えている。正面面板37および背面面板38は、略同じ内外径形状を有して、環状ギヤ列23が配置される隙間を隔てて対向している。正面面板37および背面面板38は、それぞれの内面(相互に対向し合う面)側に旋回台5を案内する環状の案内溝39を有している。
歯車列機構25は、複数の電動機6が発生させる動力をそれぞれの環状ギヤ列23によって旋回ギヤ28または往復動ギヤ33へ伝達して旋回台5の移動、被溶接物200a、200bに対する溶接トーチ19の遠近移動、溶接トーチ19の縦動移動、およびワイヤの送給を行う。そこで、環状ギヤ列23は複数ある。具体的には、環状ギヤ列23は、旋回用電動機15から旋回ギヤ28へ動力を伝達する旋回用ギヤ列45と、トーチ縦動電動機16からトーチ縦動用往復動ギヤ56へ動力を伝達するトーチ縦動用ギヤ列46と、トーチ遠近電動機17からトーチ遠近用往復動ギヤ57へ動力を伝達するトーチ遠近用ギヤ列47と、ワイヤ送給電動機18からワイヤ送給用往復動ギヤ58へ動力を伝達するワイヤ用ギヤ列48と、を含んでいる。
環状ギヤ列23、つまり、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47、およびワイヤ用ギヤ列48のそれぞれは、交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22によって駆動力を伝える。それぞれの環状ギヤ列23の第一ギヤ21および第二ギヤ22は、同一回転軸線上に配置されて、基部2の正面面板37および背面面板38に挟み込まれている。旋回用ギヤ列45は、最も背面面板38よりに配置され、次いでトーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47の順に正面面板37に近づき、ワイヤ用ギヤ列48は、最も正面面板37よりに配置されている。
それぞれの環状ギヤ列23は、基部2の全周に渡って旋回台5を駆動自在な好適な間隔で第一ギヤ21を配置している。第二ギヤ22は、第一ギヤ21よりも小径である。第二ギヤ22は、隣り合う第一ギヤ21の間に配置されて動力を伝達する。なお、第二ギヤ22は、全ての第一ギヤ21間にあっても良いし、本実施形態のように円周上の1箇所を間引かれていても良い。
複数の大径な第一ギヤ21のそれぞれの回転中心を結ぶ線は、環状の基部2と同心円を描いて配置されている。複数の小径な第二ギヤ22のそれぞれの回転中心を結ぶ線は、環状の基部2と同心円を描いて配置されており、かつ、複数の第二ギヤ22のそれぞれの回転中心は、隣り合う一対の第一ギヤ21の回転中心を結ぶ線分上に配置されている。
第二ギヤ22は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有している。また、第二ギヤ22は、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有している。換言すると、第二ギヤ22は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されている。他方、全ての第一ギヤ21は、実質的に同じ寸法を有している。
なお、環状ギヤ列23は、第二ギヤ22と第一ギヤ21との寸法関係を逆転させてもよい。すなわち、第一ギヤ21は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有しており、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有していてもよい。換言すると、第一ギヤ21は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されていても良い。この場合、全ての第二ギヤ22は、実質的に同じ寸法を有することになる。
つまり、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか一方は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有し、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有している。換言すると、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか一方は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されている。そして、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか他方は、全て実質的に同じ寸法を有している。
そして、環状ギヤ列23の第一ギヤ21と旋回ギヤ28の内歯27とは、バックラッシを実質的にゼロにする寸法関係にある。また、環状ギヤ列23の第一ギヤ21と往復動ギヤ33の内歯31とも、バックラッシを実質的にゼロにする寸法関係にある。ただし、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにするものとゼロより大きいバックラッシを有するものとを、第一ギヤ21側に混在させる場合には、内歯27と内歯31とは転移量が大きい方の第一ギヤ21に応じて寸法を調整され、かつ、転移量が大きい方の第一ギヤ21が常時、少なくとも1つは噛み合わされていることが好ましい。
旋回台5は、基部2の案内溝39に嵌め込まれるころ部59を備えている。ころ部59は、第一ギヤ21の回転によって旋回ギヤ28に生じる径方向外側の力に抗して旋回台5を支えている。
また、旋回台5は、基部2の接線方向へ延びて広がるトーチ設置面61を有している。
動力伝達ギヤ35は、トーチ縦動用往復動ギヤ56の外歯32に噛み合わされるトーチ縦動用動力伝達ギヤ66、トーチ遠近用往復動ギヤ57の外歯32に噛み合わされるトーチ遠近用動力伝達ギヤ67、およびワイヤ送給用往復動ギヤ58の外歯32に噛み合わされるワイヤ送給用動力伝達ギヤ68を含んでいる。
複数の電動機6は、環状ギヤ列23ごとに設けられている。つまり、旋回用電動機15は少なくとも旋回用ギヤ列45に接続され、トーチ縦動電動機16は少なくともトーチ縦動用ギヤ列46に接続され、トーチ遠近電動機17は少なくともトーチ遠近用ギヤ列47に接続され、ワイヤ送給電動機18は少なくともワイヤ用ギヤ列48に接続されている。
差動歯車機構36は、旋回用電動機15およびトーチ縦動電動機16の駆動力をトーチ縦動用ギヤ列46へ伝達するトーチ縦動用差動歯車機構76と、旋回用電動機15およびトーチ遠近電動機17の駆動力をトーチ遠近用ギヤ列47へ伝達するトーチ遠近用差動歯車機構77と、旋回用電動機15およびワイヤ送給電動機18の駆動力をワイヤ用ギヤ列48へ伝達するワイヤ用差動歯車機構78と、を含んでいる。
図6は、本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図である。
図6に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の旋回ギヤ28は、環状ギヤ列23、具体的には旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21の外周に噛み合わされている。旋回ギヤ28は、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21の回転によって基部2の周方向へ移動して旋回台5の推進力を発生させる。旋回ギヤ28は、少なくとも1つの第一ギヤ21に噛み合っていれば良い。
図7および図8は、本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図である。
図7および図8に示すように、本実施形態に係る溶接装置1のトーチ縦動用往復動ギヤ56は、旋回台5によって移動範囲を規制される一方で、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯31によって基部2の周方向へ移動すると同時に、旋回台5に対しても移動する。
トーチ縦動用往復動ギヤ56は、円弧形状に沿って延びる案内穴79を有している。トーチ縦動用往復動ギヤ56は、案内穴79に配置される案内棒81によって、旋回台5に支持されている。案内棒81は、第一ギヤ21の回転によって移動するトーチ縦動用往復動ギヤ56に生じる径方向外側の力に抗してトーチ縦動用往復動ギヤ56を支えている。
そして、トーチ縦動用往復動ギヤ56の移動は、内歯31もろとも外歯32を移動させ、外歯32に噛み合わされるトーチ縦動用動力伝達ギヤ66を回転させる。
トーチ縦動用動力伝達ギヤ66は、トーチ縦動用往復動ギヤ56、つまり往復動ギヤ33の往動および復動にしたがって二方向へ回転される。
なお、トーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21に噛み合わされるトーチ遠近用往復動ギヤ57およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21に噛み合わされるワイヤ送給用往復動ギヤ58は、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21に噛み合わされるトーチ縦動用往復動ギヤ56と同じ構造を採用しているので説明を省略する。同様にトーチ遠近用動力伝達ギヤ67およびワイヤ送給用動力伝達ギヤ68についてもトーチ縦動用動力伝達ギヤ66と同じ構造を採用しているので説明を省略する。
溶接装置1は、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の回転を連携させることによって、旋回台5の移動、溶接トーチ19の縦動移動、溶接トーチ19の遠近移動およびワイヤの送給を行う。
具体的には、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21が同速度で同方向へ回転すると、旋回台5は移動する一方、溶接トーチ19の縦動移動、溶接トーチ19の遠近移動およびワイヤの送給は停止する。これは、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21が同速度で同方向へ回転することによって、旋回ギヤ28と往復動ギヤ33との移動が同期し、ひいては動力伝達ギヤ35が旋回台5に対して相対的に停止するためである。
ここで、旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46に着目する。
旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46が相対的に異なる速度で回転すると、相互の回転速度差によって、旋回ギヤ28ひいては旋回台5に対してトーチ縦動用往復動ギヤ56が移動し、ひいてはトーチ縦動用動力伝達ギヤ66が回転して溶接ヘッド3を縦動移動させる。なお、溶接トーチ19が縦動移動するか否かは、旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46の相対的な回転速度差が生じているか否かによるものであって、旋回台5が移動しているか否かにはよらない。旋回用ギヤ列45およびトーチ遠近用ギヤ列47の組合せであっても、旋回用ギヤ列45およびワイヤ用ギヤ列48の組合せであっても、同様に作用する。
図9は、本発明の実施形態に係る溶接装置の差動歯車機構を示す断面図である。
図9に示すように、本実施形態に係る溶接装置1のトーチ縦動用差動歯車機構76は、ケーシングとしてのデファレンシャルケース82と、デファレンシャルケース82に回転一体の入力ギヤとしてのリングギヤ83と、デファレンシャルケース82内に収容されてリングギヤ83の回転中心線に直交する方向へ延びるピニオンシャフト85と、ピニオンシャフト85に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ86と、ピニオンギヤ86に噛み合わされてリングギヤ83の回転中心線上で回転する一対のサイドギヤ87、88と、サイドギヤ87に連結されるドライブシャフト89と、サイドギヤ88に回転一体のドライブギヤ91と、を備えている。
トーチ縦動用差動歯車機構76は、リングギヤ83へ入力されるトーチ縦動電動機16の駆動力をドライブギヤ91からトーチ縦動用ギヤ列46へ伝達する一方、ドライブシャフト89へ入力される旋回用電動機15の駆動力をドライブギヤ91からトーチ縦動用ギヤ列46へ伝達する。
一対のピニオンギヤ86および一対のサイドギヤ87、88は、いずれも傘歯車であり、一対のピニオンギヤ86それぞれは同一の回転中心線上を回転し、一対のサイドギヤ87、88それぞれも同一の回転中心線上を回転する。ギヤ対間では回転中心が直交している。なお、トーチ縦動用差動歯車機構76は、傘歯車以外の形式の歯車やねじを組み合わせた差動装置であっても良い。トーチ縦動用差動歯車機構76を含む差動歯車機構36のそれぞれも、同様である。
トーチ縦動用往復動ギヤ56の内歯31の有効歯数は、トーチ縦動用差動歯車機構76のリングギヤ83の歯数以下である。
また、溶接装置1は、トーチ縦動用差動歯車機構76のデファレンシャルケース82の回転を検知する回転センサ92を備えている。回転センサ92は、デファレンシャルケース82の回転角度を測定可能なものであっても良いが、本実施形態に係る溶接装置1は、トーチ縦動用往復動ギヤ56の内歯31の有効歯数は、トーチ縦動用差動歯車機構76のリングギヤ83の歯数以下にしておくことによって、トーチ縦動用往復動ギヤ56のいずれか一方の端部位置におけるデファレンシャルケース82の回転位相をマイクロスイッチで検出し、この検出位置を基準にしてトーチ縦動電動機16の回転量からトーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21の回転量を定め、ひいてはトーチ縦動用動力伝達ギヤ66の回転量を算出できる。
ここで先ず、旋回用電動機15と旋回用ギヤ列45との関係について説明する。
旋回用電動機15が発生させる駆動力は、出力軸101に回転一体のギヤ102から、ギヤ102に噛み合わされるギヤ103を経て軸105へ伝達される。軸105に伝わった駆動力は、軸105に回転一体のギヤ106に噛み合わされるギヤ107を経て旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21へ伝達される。
次いで、旋回用電動機15とトーチ縦動用ギヤ列46との関係について説明する。トーチ縦動電動機16は停止しているものとして、図9中に停止部分を破線で描いている。
軸105に伝わった駆動力は、ギヤ106に噛み合わされるギヤ108、ギヤ108に噛み合わされるギヤ109を経て、ドライブシャフト89に回転一体のギヤ111からトーチ縦動用差動歯車機構76へ伝達される。
トーチ縦動用差動歯車機構76は、トーチ縦動電動機16が停止しているためトーチ縦動電動機16の出力軸112に回転一体のギヤ113に噛み合わされるリングギヤ83を介してデファレンシャルケース82の回転を阻止されている。デファレンシャルケース82の回転を阻止されるトーチ縦動用差動歯車機構76は、ドライブシャフト89の駆動力によってサイドギヤ87を回転させ、サイドギヤ87に噛み合わされる一対のピニオンギヤ86の回転を通じてサイドギヤ88へ駆動力を伝達する。サイドギヤ88に伝わった駆動力は、ドライブギヤ91に噛み合わされるギヤ115を経てトーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21へ伝達される。
このような動力伝達経路を経て、旋回用電動機15の駆動力は、旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46へ分配される。そして、それぞれの経路におけるギヤ比を同一に設定することによって、旋回用電動機15を駆動させるのみで、旋回ギヤ28とトーチ縦動用往復動ギヤ56とを同じ角速度で同期して移動させ、ひいてはトーチ縦動用動力伝達ギヤ66を回転させることなく、溶接トーチ19の遠近移動を阻止しながら旋回台5を移動させる。
他方、トーチ縦動電動機16とトーチ縦動用ギヤ列46との関係について説明する。
図10は、本発明の実施形態に係る溶接装置の差動歯車機構を示す断面図である。
旋回用電動機15は停止しているものとして、図10中に停止部分を破線で描いている。
図10に示すように、トーチ縦動電動機16が発生させる駆動力は、出力軸112に回転一体のギヤ113から、ギヤ113に噛み合わされるトーチ縦動用差動歯車機構76のリングギヤ83を経てデファレンシャルケース82へ伝達される。デファレンシャルケース82は、回転中心線の直交する一対のピニオンギヤ86をピニオンシャフト85ごと一体的に回転させる。
このとき、トーチ縦動用差動歯車機構76は、旋回用電動機15が停止しているため出力軸101、ギヤ102、103、軸105、ギヤ106、108、109、111を介してドライブシャフト89の回転を阻止されている。ドライブシャフト89の回転を阻止されるトーチ縦動用差動歯車機構76は、サイドギヤ87の回転も阻止される一方で、非回転のサイドギヤ87によって一対のピニオンギヤ86を回転させ、一対のピニオンギヤ86に噛み合わされるサイドギヤ88へ駆動力を伝達する。サイドギヤ88に伝わった駆動力は、ドライブギヤ91に噛み合わされるギヤ115を経てトーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21へ伝達される。
次いで、トーチ縦動電動機16と旋回用ギヤ列45との関係について説明する。
先の説明の通り、トーチ縦動用差動歯車機構76は、旋回用電動機15が停止しているため出力軸101、ギヤ102、103、軸105、ギヤ106、108、109、111を介してドライブシャフト89の回転を阻止されている。したがって、トーチ縦動電動機16の駆動力は、旋回用ギヤ列45へ伝達されない。
このような動力伝達経路を経て、トーチ縦動電動機16の駆動力は、トーチ縦動用ギヤ列46へ伝達される。
そして、溶接装置1は、旋回用電動機15およびトーチ縦動電動機16を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21との間に角速度差を生じさせて、溶接トーチ19の縦動移動と同時に旋回台5の移動、つまり溶接トーチ19の旋回を両立させる。
なお、トーチ遠近用差動歯車機構77およびワイヤ用差動歯車機構78については、トーチ縦動用差動歯車機構76と同じ構造を採用しているので説明を省略する。つまり、溶接装置1は、旋回用電動機15およびトーチ遠近電動機17を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21との間に角速度差を生じさせて、溶接トーチ19の遠近移動と同時に旋回台5の移動、つまり溶接トーチ19の旋回を両立させる。また、溶接装置1は、旋回用電動機15およびワイヤ送給電動機18を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21との間に各速度差を生じさせて、ワイヤの送給と同時に旋回台5の移動、つまり溶接ヘッド3、ひいては溶接トーチ19の旋回を両立させる。
次に、本実施形態に係る溶接装置の溶接ヘッドについて説明する。
図11は、本実施形態に係る溶接装置の溶接ヘッドを示す平断面図である。
図12および図13は、本実施形態に係る溶接装置のワイヤ送給機構の一部を示す図である。
図11から図13に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の溶接ヘッド3は、溶接トーチ19を縦動移動させるトーチ縦動移動機構126と、溶接トーチ19を遠近移動させるトーチ遠近移動機構127と、溶接トーチ19へワイヤを供給するワイヤ送給機構128と、を備えている。
トーチ縦動移動機構126は、動力伝達ギヤ35のうちトーチ縦動用動力伝達ギヤ66から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19を縦動移動させる。
トーチ遠近移動機構127は、動力伝達ギヤ35のうちトーチ遠近用動力伝達ギヤ67から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19を遠近移動させる。
ワイヤ送給機構128は、動力伝達ギヤ35のうちワイヤ送給用動力伝達ギヤ68から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19へワイヤを供給する。
ところで、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68へ動力を伝達するワイヤ送給用往復動ギヤ58は、旋回台5、ひいては溶接ヘッド3に対して往復動するため、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68は正転と逆転とを周期的に繰り返すことになる。つまり、ワイヤを供給するためにはワイヤ送給用往復動ギヤ58の往復動であって、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の周期的な正転と逆転との繰り返しを、ワイヤを送給し続けるための一方向の回転、つまり正転および逆転のいずれかの回転に変換する必要がある。
そこで、ワイヤ送給機構128は、動力伝達ギヤ35の回転方向を維持して伝達する正転ギヤ系列131、および動力伝達ギヤ35の回転方向を逆転させて伝達する逆転ギヤ系列132を有する伝達機構133と、伝達機構133によって駆動される軸135と、正転ギヤ系列131の回転を一方向のみ軸135へ伝達する第一ワンウェイクラッチ136、および逆転ギヤ系列132の回転を第一ワンウェイクラッチ136が伝達する回転の逆方向のみ軸135へ伝達する第二ワンウェイクラッチ137を有して軸135を一方向へのみ回転させるダブルクラッチ機構138と、を備えている。ここで言う動力伝達ギヤ35は、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68である。
なお、図12は正転ギヤ系列131を示し、図13は逆転ギヤ系列132を示している。ここで、正転ギヤ系列131および逆転ギヤ系列132の各ギヤについて、反時計回りを正転と表現し、時計回りを逆転と表現する。
正転ギヤ系列131の第一段ギヤ131aと逆転ギヤ系列132の第一段ギヤ132aとは回転一体化されている。したがって、正転ギヤ系列131の第一段ギヤ131aおよび逆転ギヤ系列132の第一段ギヤ132aは、いずれか一方が動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68に噛み合わされていれば良い。
正転ギヤ系列131は、第一ワンウェイクラッチ136を介して軸135に支持される正転系列最終段ギヤ131bを含む偶数個のギヤを含んでいる。したがって、正転ギヤ系列131は、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向を保って正転系列最終段ギヤ131bを回転させる。
逆転ギヤ系列132は、第二ワンウェイクラッチ137を介して軸135に支持される逆転系列最終段ギヤ132bを含む奇数個のギヤを含んでいる。したがって、逆転ギヤ系列132は、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向を反転させて逆転系列最終段ギヤ132bを回転させる。
換言すれば、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が正転すれば正転系列最終段ギヤ131bは正転して逆転系列最終段ギヤ132bは逆転する一方、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が逆転すれば正転系列最終段ギヤ131bは逆転して逆転系列最終段ギヤ132bは正転する関係にある。正転系列最終段ギヤ131bと逆転系列最終段ギヤ132bとは、互いに逆方向へ回転する。
そして、第一ワンウェイクラッチ136は、正転系列最終段ギヤ131bが正転している場合には正転系列最終段ギヤ131bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図12中の実線矢)、正転系列最終段ギヤ131bが逆転している場合には正転系列最終段ギヤ131bと軸135との接続を解除して正転系列最終段ギヤ131bを空転させる(図12中の二点鎖線矢)。同じく、第二ワンウェイクラッチ137は、逆転系列最終段ギヤ132bが正転している場合には逆転系列最終段ギヤ132bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図13中の実線矢)、逆転系列最終段ギヤ132bが逆転している場合には逆転系列最終段ギヤ132bと軸135との接続を解除して逆転系列最終段ギヤ132bを空転させる(図13中の二点鎖線矢)。
また、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向に着目して説明すると、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が正転している場合には、第一ワンウェイクラッチ136は、正転している正転系列最終段ギヤ131bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図12中の実線矢)、第二ワンウェイクラッチ137は、逆転している逆転系列最終段ギヤ132bと軸135との接続を解除して逆転系列最終段ギヤ132bを空転させる(図13中の二点鎖線矢)。他方、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が逆転している場合には、第一ワンウェイクラッチ136は、逆転している正転系列最終段ギヤ131bと軸135との接続を解除して正転系列最終段ギヤ131bを空転させる一方(図12中の二点鎖線矢)、第二ワンウェイクラッチ137は、正転している逆転系列最終段ギヤ132bと軸135とを接続して駆動力を伝達する(図13中の実線矢)。
このダブルクラッチ機構138の働きによって、軸135は、一方向、ここでは正転方向のみへ回転する。
第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、軸135の一方の端部に設けられている。第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、同様の構造を有している。第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、スプラグ式であっても良いし、カム式(あるいはローラー式)であっても良い。例えばローラー式の第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、アウターレース(外輪、図示省略)と、ローラー147と、スプリング148と、を含んでいる。アウターレースは、内側にカム面を有するポケット149を備えている。ポケット149にはローラー147が配置されている。スプリング148のばね力は、ローラー147を外輪のカム面と軸135の外周面に接触させている。軸135に対して外輪が一方向に回転(本実施形態においては正転)する場合には、軸135の外周面とカム面との間にローラー147が挟まり込んで接触面圧が高くなり、抵抗になって駆動力を伝達する。軸135に対して外輪が他方向に回転(本実施形態においては逆転)する場合には、ローラー147と軸135の外周面、およびローラー147とカム面との接触面圧が低くなり、滑って駆動力の伝達を遮断する。
軸135の他方の端部には、ワイヤ送給ローラー146が回転一体に設けられている。ワイヤ送給ローラー146は、軸135の回転によって駆動され、溶接トーチ19へワイヤを供給する。軸135はワイヤ送給機構128の働きによって一方向に回転し、ひいてはワイヤ送給ローラー146も一方向に回転して溶接トーチ19へワイヤを供給する。
次に、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路について説明する。
図14は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す縦断面図である。
図15は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す横断面図である。
図16および図17は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路の動作を説明する断面図である。
図14に示すように、本実施形態に係る溶接装置1は、パージガス供給経路151を備えている。
パージガス供給経路151は、基部2の背面面板38に設けられるガス供給口152と、環状ギヤ列23のいずれかの第一ギヤ21の中心軸を貫いて背面面板38から正面面板37へ到達するガス導入管153と、正面面板37に設けられるガス溜部155と、を備えている。
ガス導入管153は、ガス供給口152に流れ込むパージガスを基部2の正面面板37へと導く流路である。ガス導入管153は、同軸上に配置される第一ギヤ21を支える軸芯を兼ねている。なお、ガス導入管153は、環状ギヤ列23のいずれかの第二ギヤ22を支える軸芯を兼ねているものであっても良い。
ガス溜部155は、旋回台5を臨む方向へ開放される溝状の空間である。ガス溜部155は、正面面板37の全周に渡って環状に設けられている。
また、パージガス供給経路151は、基部2の全周に渡って配置される複数のガス流出口156を有する環状の弁座体157と、複数のガス流出口156のそれぞれを開閉させる複数の弁体158と、旋回台5が移動範囲のいずれの場所に移動しても、複数のガス流出口156のうち少なくとも一つに繋がるガス流路159を有して旋回台5に設けられる弧状のガス中継体161と、ガス中継体161に繋がるガス流出口156を閉ざす弁体158を開くバルブ駆動機構162と、を備えている。
弁座体157は、正面面板37のガス溜部155を塞ぐ蓋の役割を担っている。弁座体157は、溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部でもあり、導体である。弁座体157は、正面面板37に固定されているが、弁座体157と正面面板37との隙間からパージガスが漏洩することを防ぎ、かつ弁座体157と正面面板37との電気的な絶縁を図るために、弁座体157と正面面板37との間には、絶縁体のシール板163が挟み込まれている。
弁座体157の内周面は、正面面板37のガス溜部155を塞ぐ一方、ガス流出口156の弁座165を兼ねている。弁座165は、弁座体157の内周に設けられる円形の凹部である。
弁座体157の外周面は、旋回台5側に固定されるガス中継体161に接触している。
弁体158は、基部2のガス溜部155内に配置されている。弁体158は、ウレタンゴム製であって円柱形状を有し、弁座165に対する接触部分である先端部に半球形状を有している。弁体158は、ガス溜部155内に設けられる弁体保持枠体166、弁体保持枠体166に固定される弁軸167、および弁軸167に摺動自在に設けられるガイドブッシュ168によって保持されている。また、弁体158は、コイルバネ169から作用するばね力によってガス流出口156を閉ざす方向に押さえ付けられている。
弁体保持枠体166は、正面面板37に締結部材170で固定される一方で、弁座体157を締結部材171で正面面板37に固定する固定具の役割を果たしている。弁座体157と正面面板37との電気的な絶縁を図るために、弁体保持枠体166も絶縁体である。弁体保持枠体166は、複数の弁体158を保持して弧状に延びている。弁体保持枠体166は、ガス流出口156ごとに基部2の全周に渡って配置される弁体158と同じく、基部2の全周に渡って複数、設けられている。弁座体157は、基部2の分割を阻害しないよう、基部2の分割に応じて分割されており、基部2ごと、周方向において複数の部分に分割して被溶接物の外周に配置自在である。
なお、弁体保持枠体166は、弁座体157の内周面に接してこれを支える一方で、弁体158の直径よりも幅狭でありガス流出口156へ流れ込むパージガスを阻害しない。
弁軸167は、弁体158の中心線に沿って弁体保持枠体166に締結されている。
ガイドブッシュ168は、弁体158に固定されている。ガイドブッシュ168は、バルブ駆動機構162に連動して弁体158を開閉させる。
コイルバネ169は、弁軸167およびガイドブッシュ168に差し込まれて弁体158と弁体保持枠体166との間に挟み込まれている。
ガス中継体161は、溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部でもあり、導体である。弁座体157およびガス中継体161は、相互に接触し合う導体であって溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部を担っている。弁座体157およびガス中継体161は、旋回台5が基部2の周囲を旋回する最中も電気的に接続されて導通を保っている。つまり、弁座体157およびガス中継体161は、被溶接物200a、200bに対して静止状態にある基部2側から被溶接物200a、200bに対して旋回する溶接ヘッド3へ電力を供給する。
ガス中継体161は、絶縁体のホルダー172を介して旋回台5に固定されている。ガス中継体161は、旋回台5の一部であってホルダー172とともに基部2の周囲を旋回する。ガス中継体161の内周面は、弁座体157の外周面に臨み、旋回台5が移動範囲のいずれの場所に移動しても、複数のガス流出口156のうち少なくとも一つに覆い被さっている。
ガス流路159は、ガス中継体161の内周面から外周面へと延びており、ホルダー172および旋回台5内のガス室173、およびガス室173に接続されるガスチューブ(図示省略)を経て溶接トーチ19へパージガスを供給する。
バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動場所においてガス中継体161が覆い被さってガス流路159に繋がるガス流出口156を開放する。なお、旋回台5が移動してきておらず、ガス中継体161が覆い被さっていないガス流出口156は、コイルバネ169に押さえ付けられる弁体158によって閉じられている。
バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動にともなってガス中継体161に接触して回転して弁体158を開くカム175を備えている。カム175は、弁座体157に摺動ブッシュ176を介して回転自在に支えられるバルブ開閉棒177に設けられており、バルブ開閉棒177の一部を切り欠いた半円形のカム面を有している。弁体158が弁座165を閉じている状態において、カム175は、半円形のカム面の弦部分をガイドブッシュ168の先端に当てている。他方、カム175は、バルブ開閉棒177の回転、ひいてはカム面の回転にともなって弁体158を弁座165から浮き上がらせる。
バルブ開閉棒177は、弁座体157の両側面を貫いて延びている。バルブ開閉棒177の両自由端部は、弁座体157の側面から突出している。バルブ開閉棒177の一方の自由端部には、スイングアーム178が設けられている。スイングアーム178は、バルブ開閉棒177の径方向、かつ基部2の径外方向に向いている。
また、バルブ駆動機構162は、旋回台5に設けられるスイングガイド179を備えている。スイングガイド179は、旋回台5の移動方向に傾いた傾斜面を有して旋回台から基部2側へ向かって突出する台形状または三角形状の山部である。スイングガイド179のうち傾斜面の一部、および山の頂上に相当する台形の上底または三角形の頂点は、旋回台5の旋回移動にともなって、スイングアーム178に干渉する軌道上を移動する干渉領域である。
つまり、バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動に同期してスイングガイド179の傾斜面をスイングアーム178に接触させ、スイングガイド179の山の頂上に相当する台形の上底または三角形の頂点を含んだ干渉領域によってスイングアーム178を倒し込み、バルブ開閉棒177を回転させ、ひいてはカム175を回転させて弁体158を弁座165から浮き上がらせてパージガスを流通させる(図16)。また、バルブ駆動機構162は、旋回台5が移動してスイングガイド179とスイングアーム178との干渉が解消されると、弁座165を弁体158で閉じてパージガスの流通を遮断させる。これは、スイングガイド179とスイングアーム178との干渉が解消されることによって、コイルバネ169のばね力が弁体158を弁座165に押し付ける作用によるものである。弁体158を弁座165へ押し付けるばね力は、カム175を回転させてバルブ開閉棒177およびスイングアーム178を復帰させる(図14、図15、図17)。
次に、本実施形態に係る溶接装置の電源供給系統について説明する。
図18は、本実施形態に係る溶接装置の電源供給系統を示す平断面図である。
図19は、本実施形態に係る溶接装置の電源供給系統を示す縦断面図である。
図18および図19に示すように、溶接装置1の電源供給系統181は、基部2の背面面板38から正面面板37へ到達する電源供給導体9を備えている。電源供給導体9は、背面面板38の電源用貫通孔11を通じて正面面板37側へ到達し、電路の一部を兼ねる弁座体157に電気的に接続されている。電源供給導体9のうち背面面板38から正面面板37へ延びる縦断電路182は、複数、例えば3つに分割されて断面積を確保されている。それぞれの縦断電路182は、絶縁体のシース183に覆われている。また、縦断電路182は、環状ギヤ列23のうち隣り合う一対の第一ギヤ21の間の空間、つまり第二ギヤ22が配置される位相に配置されている。
電路の一部を兼ねるガス中継体161は、旋回台5とガス中継体161との間に設けられるコイルバネ185によって、弁座体157に押し付けられている。コイルバネ185は、ガス中継体161と弁座体157との導通の安定を図っている。
本実施形態に係る溶接装置1は、基部2の全周に渡って配置される複数のガス流出口156を有する環状の弁座体157と、ガス流出口156のそれぞれを開閉させる複数の弁体158と、旋回台5が移動範囲のいずれの場所に移動しても、複数のガス流出口156のうち少なくとも一つに繋がるガス流路159を有して旋回台5に設けられる弧状のガス中継体161と、ガス中継体161に繋がるガス流出口156を閉ざす弁体158を開くバルブ駆動機構162と、を備えることによって、環状の部材を極力減らして加工精度の維持、向上と軽量化を両立させ、かつ環状の部材に頼らなくともシールドガスを安定的に供給可能なガス供給路を回転側と非回転側との間に確保できる。特に、本実施形態に係る溶接装置1は、旋回台5側に基部2の全周に対応する部材を要さず、旋回台5の小型化、軽量化、ひいては溶接装置1全体の可搬性を高めることができる。
また、本実施形態に係る溶接装置1は、旋回台5の移動にともなってガス中継体161に接触して回転して弁体158を開くカム175を備えることによって、基部2の周方向に見て極めて短尺な旋回台5が存する領域のみ、パージガスを流通させることができる。
さらに、本実施形態に係る溶接装置1は、相互に接触し合う導電体であって溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部を担う弁座体157およびガス中継体161を備えることによって、基部2に環状に配置される部材を要するパージガス供給経路151および電源供給系統181で弁座体157を共有して有効に活用し、装置全体の簡素化、小型化、軽量化に寄与できる。
さらにまた、本実施形態に係る溶接装置1は、環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22を含む環状ギヤ列23を複数列有する歯車列機構25を備えることによって、被溶接物200a、200bを囲む環状ギヤを備える従来の溶接装置に比べて、極めて小径な第一ギヤ21、第二ギヤ22を適用可能になり、ギヤの加工精度を容易に確保できる。
また、本実施形態に係る溶接装置1は、環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22を含む環状ギヤ列23を複数列有する歯車列機構25を備えることによって、被溶接物200a、200bを囲む環状ギヤを備える従来の溶接装置に比べて、同口径の被溶接物200a、200bに適用可能な寸法であっても溶接ヘッド3の駆動機構をより軽量にして、取り扱いの利便性を高めることができる。溶接ヘッド3の駆動機構の軽量化は、電動機6の必要出力を抑制して溶接装置1のさらなる軽量化および低コスト化に寄与する。
さらに、被溶接物200a、200bを囲む環状ギヤを備える従来の溶接装置では、環状歯車を多段階化して溶接ヘッド3の自由度を高める(つまり、多軸化する)ためには、単に環状ギヤを複数並べるだけでは成立せず、動力伝達軸を環状ギヤへ付加的に搭載せねばならなかったが、本実施形態に係る溶接装置1は、例えば4列の環状ギヤ列23のように、多段化が極めて容易になる。
さらにまた、本実施形態に係る溶接装置1は、周方向において複数の部分に分割して被溶接物200aの外周に配置自在な基部2を備えることによって、被溶接物200aへ装着する際に更なる軽量化を図り、ひいては可搬性を高めることができる。
また、本実施形態に係る溶接装置1は、往復動ギヤ33の往動および復動にしたがって二方向へ回転される動力伝達ギヤ35を備えることによって、旋回用ギヤ列45を基準として環状ギヤ列23、つまりトーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48から容易に溶接ヘッド3の多軸化を実現できる。
さらに、本実施形態に係る溶接装置1は、差動歯車機構36のデファレンシャルケース82の回転を検知する回転センサ92によって、往復動ギヤ33の往動および復動の移動量を算出し、動力伝達ギヤ35の回転量、ひいては溶接ヘッド3の移動量を定めることができる。
さらにまた、本実施形態に係る溶接装置1は、往復動ギヤ33の内歯の有効歯数を差動歯車機構36のリングギヤ83の歯数以下にすることによって、マイクロスイッチを回転センサ92として採用し、装置の簡素化と低コスト化を図ることができる。
したがって、本実施形態に係る溶接装置1によれば、小口径配管においては無論、中大口径においては格別に十分な加工精度による溶接の正確性を確保できるとともに、取り扱いの利便性も良好であって、シールドガスの安定的に供給することもできる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。