JP6661445B2 - 高周波アンテナ素子、及び高周波アンテナモジュール - Google Patents

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Description

本発明は、高周波アンテナ素子、及び高周波アンテナモジュールに関する。
携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおいて、高周波帯域の電磁波の使用が広がっている。しかし、高周波帯域の電磁波の利用の拡大には、電子部品同士の干渉による電子機器の故障や誤動作等を招く懸念がある。このような問題の対策として、不要な電磁波を電磁波吸収体により吸収する方法がとられている。
このため、高周波帯域の電磁波を利用するレーダー等においても、本来受信されるべきでない不要な電磁波の影響を軽減するために、電磁波吸収体が利用されている。
このような要求に応えるため、高周波数帯域の電磁波を良好に吸収できる電磁波吸収体が種々提案されている。具体例としては、例えば、カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シート(特許文献1を参照。)が知られている。
特開2009−060060号公報
しかしながら、高周波帯域の電磁波を利用する種々のシステムにおいて、高周波帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体を、電磁波を受信するアンテナに接触させるか近傍に設置すると、アンテナが受信すべき電磁波まで吸収されてしまい、システムが所望される動作を実行できない。
このため、特に、電磁波吸収体を備える高周波アンテナ素子においては、小型が困難であったり、受信アンテナ部を保護できなかったりする問題がある。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、電磁波吸収体を用いる場合でも小型化が容易であり、受信アンテナ部を被覆することで、受信アンテナ部を保護できる高周波アンテナ素子と、当該高周波アンテナ素子を備える高周波アンテナモジュールとを提供することを目的とする。
本発明者らは、高周波アンテナ素子を、基材と、誘電体層と、受信アンテナ部と、被覆層とから構成し、誘電体層が基材上に積層されており、受信アンテナ部が、誘電体層上に載置されており、被覆層が、誘電体層上の受信アンテナ部が載置されていない表面を受信アンテナ部の側面全面に接しつつ被覆し、且つ受信アンテナ部の上面の少なくとも一部を被覆するようにすることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の第一の態様は、基材と、誘電体層と、受信アンテナ部と、被覆層とを含む高周波アンテナ素子であって、
誘電体層が基材上に積層されており、
受信アンテナ部が、誘電体層上に載置されており、
被覆層が、誘電体層上の受信アンテナ部が載置されていない表面を受信アンテナ部の側面全面に接しつつ被覆し、且つ受信アンテナ部の上面の少なくとも一部を被覆している高周波アンテナ素子である。
本発明の第二の態様は、第一の態様にかかる高周波アンテナ素子を備える、高周波アンテナモジュールである。
本発明によれば、電磁波吸収体を用いる場合でも小型化が容易であり、受信アンテナ部を被覆することで、受信アンテナ部を保護できる高周波アンテナ素子と、当該高周波アンテナ素子を備える高周波アンテナモジュールとを提供することができる。
被覆層が受信アンテナ部を被覆する形態の一例を示す図である。 被覆層が受信アンテナ部を被覆する形態の一例を示す図である。 被覆層が受信アンテナ部を被覆する形態の一例を示す図である。 基材と、誘電体層と、被覆層とによって、電磁波の減衰が生じるメカニズムを模式的に示す図である。 実施例1の積層体についての反射減衰量の周波数依存性を示す図である。 実施例2の積層体についての反射減衰量の周波数依存性を示す図である。
≪高周波アンテナ素子≫
高周波アンテナ素子は、基材と、誘電体層と、受信アンテナ部と、被覆層とを含む高周波アンテナ素子である。
誘電体層は基材上に積層されている。
受信アンテナ部は、誘電体層上に載置されている。
被覆層は、誘電体層上の受信アンテナ部が載置されていない表面を受信アンテナ部の側面全面に接しつつ被覆し、且つ受信アンテナ部の上面の少なくとも一部を被覆している。
高周波アンテナ素子は、上記の構成を備えるため、電磁波吸収体を用いる場合であっても小型化が容易であり、受信アンテナ部が被覆されているのでで、受信アンテナ部が良好に保護される。
以下、高周波アンテナ素子を構成する各部材について説明する。
<基材>
基材10は、誘電体層11、受信アンテナ部12、及び被覆層13を、直接又は間接的に支持する部材である。
基材10の材料は特に限定されないが、電磁波の反射特性の点から導体が好ましい。導体の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、金属が好ましい。基材10が金属からなる場合、基材10の材料である金属としては、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、白金等が好ましい。
基材10の形状は特に限定されず、種々の形状であってよい。高周波アンテナ素子1の小型化の観点から、通常、板状の基材10が選択される。板状の基材10の形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよい。基材10の形状としては、膜厚の均一な誘電体層12や被覆層13の形成が容易であること等から、平板状であるのが好ましい。
基材10が板状である場合、基材10の厚さは特に限定されない。電波吸収体の小型化の観点から、基材10の厚さは、0.1μm〜5cmであるのが好ましい。
<誘電体層>
誘電体層11は、誘電体からなる膜である。誘電体層11の材料として使用される誘電体は、アンテナ素子において、絶縁等の目的で使用されている種々の誘電体から適宜選択される。かかる誘電体の好適な例としてはPTFE、及びガラス繊維含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
誘電体層11の膜厚は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。誘電体層11の膜厚は、典型的には、0.050mm〜4mmが好ましく、0.10mm〜2mmがより好ましい。
<受信アンテナ部>
受信アンテナ部12について、アンテナとしての機能を奏する金属配線からなる回路であってもよく、アンテナとしての機能を奏する全前述の回路が封止された、所謂チップアンテナであってもよい。
高周波アンテナ素子1は、誘電体層11上に、2以上の複数の受信アンテナ部12を備えていてもよい。
受信アンテナ部12が、アンテナとしての機能を奏する金属配線からなる回路である場合、当該金属配線の厚さは、被覆層13よりも薄ければよく、アンテナとしての機能が阻害されない範囲で薄い程好ましい。
また、受信アンテナ部12として機能する金属配線は、通常パターン化された金属膜である。この場合のパターン形状は特に限定されず、従来からアンテナとして使用される回路の形状から適宜選択できる。具体的な形状としては、渦巻き状や、配線を蛇行させた形状が挙げられる。
なお、受信アンテナ部12が、パターン化された金属配線である場合、パターン化された当該金属配線の側面全面が、後述する被覆層13と接するように、被覆層13が形成される。
この場合、渦巻き状や、蛇行形状の金属配線において、隣接した金属配線間の隙間に被覆層13により充填されるのが好ましい。
受信アンテナ部12が、チップアンテナである場合、チップアンテナの形状は特に限定されない。チップアンテナの形状としては、典型的には、正方形又は長方形の一対の主面を有する平板形状や、円板形状、又は楕円板形状が好ましい。
チップアンテナの厚さは、被覆層13よりも薄ければよく、アンテナとしての機能が阻害されない範囲で薄い程好ましい。なお、チップアンテナの厚さは、基材10の主面に対して垂直方向の厚さである。
高周波アンテナ素子1を、他の部品と組み合わせてアンテナモジュールを形成する場合、受信アンテナ部12は、通常、配線により他の部品と接続される。
このため、高周波アンテナ素子1では、高周波アンテナ素子1の表面の任意の箇所に端子が設けられ、当該端子と、受信アンテナ部12とを接続する配線が設けられるのが好ましい。
<被覆層>
被覆層13は、誘電体層11上の受信アンテナ部12が載置されていない表面を受信アンテナ部の側面全面に接しつつ被覆し、且つ受信アンテナ部12の上面の少なくとも一部を被覆する。
これにより、受信アンテナ部12の側面全面と、上面の少なくとも一部とが被覆層13により保護されるため、受信アンテナ部が、他の物品との接触による損傷、腐食性ガス等による腐食、過酷な温度条件下で温度刺激等を受けにくい。このため、動作の信頼性の高い高周波アンテナ素子1を製造できる。
受信アンテナ部12をより完全に保護するためには、被覆層13が、受信アンテナ部12の上面全面を被覆するのが好ましい。
図1〜3は、被覆層13の好ましい被覆の形態を示す、基材1の面方向に対して垂直な面に関する、高周波アンテナ素子1の断面図である。
図1に示されるのは、受信アンテナ部12の上面の一部を被覆層13が被覆する形態である。この形態では、被覆層は、受信アンテナ部12の上面の周縁部を被覆する一方で、受信アンテナ部12の上面の中央部は被覆しない。
図2に示されるのは、受信アンテナ部12の上面の一部を被覆層13が被覆する形態であって、図1とは異なる形態である。この形態では、被覆層は、受信アンテナ部12の上面の周縁部を被覆しない一方で、受信アンテナ部12の上面の中央部を被覆する。
図3に示されるのは、特に好ましい被覆形態であって、この形態では、受信アンテナ部12の上面全面が被覆層13により被覆される。
被覆層13が、受信アンテナ部12の上面の周縁部を被覆し、上面の中央部を被覆しない場合、被覆層は当該周縁部の少なくとも一部を被覆していればよい。
被覆層13が、受信アンテナ部12の上面の周縁部を被覆せず、上面の中央部を被覆する場合、当該中央部は、単一の被覆層13で被覆されてもよく、互いに離間した2以上の被覆層13で被覆されていてもよい。
被覆層13の膜厚は、受信アンテナ部12を上記所定の要件を満たすように被覆可能な膜厚であれば特に限定されない。つまり、受信アンテナ部12の厚さより厚ければ特に限定されない。
被覆層13の、誘電体層11を被覆する部分の膜厚は、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。被覆層13の、受信アンテナ部12の上面を被覆する部分の膜厚は、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
被覆層の厚さの下限は、特に限定されないが、0.1μm以上が好ましい。
被覆層13は、高周波アンテナ素子1に電磁波吸収特性を付与することが可能な膜であるのが好ましい。
なお、「高周波アンテナ素子に電磁波吸収特性を付与することが可能な膜」とは、高周波アンテナ素子に、高周波アンテナ素子全体としての電磁波吸収特性を付与する一方で、受信アンテナ部12に直接入射する電磁波を、高周波アンテナ素子1が所望する動作を実行できない程度に減衰させない膜である。
受信アンテナ部12に直接入射する電磁波まで著しく減衰させてしまう膜を採用する場合、そもそもアンテナ素子としての機能を果たさないためである。
被覆層13は、受信アンテナ部12に直接入射する電磁波を過度に減衰させない一方で、被覆層13と誘電体層11との界面や、誘電体層11と基材との界面で反射した電磁波を減衰させるのが好ましい。
受信アンテナ部12に直接入射する電磁波は、高周波アンテナ素子1が所望する機能を奏するために必要な電磁波である。他方、被覆層13と誘電体層11との界面や、誘電体層11と基材との界面で反射した電磁波は、本来受信アンテナ部12に入射すべきでない不要な電磁波である。
上記の特徴を備える、「高周波アンテナ素子に電磁波吸収特性を付与することが可能な膜」としては、後述するメカニズムにより、受信アンテナ部12に直接入射する電磁波以外の電磁波を減衰させることができるものであれば、特に限定されない。
受信アンテナ部12に直接入射する電磁波を過度に減衰させない一方で、被覆層13と誘電体層11との界面や、誘電体層11と基材との界面で反射した電磁波を減衰させる、好ましい被覆層13としては、特定のイプシロン型酸化鉄を含む膜が挙げられる。
イプシロン型酸化鉄を含むかかる被覆層13としては、比誘電率が6.5〜65である膜が用いられる。
かかる被覆層13採用する場合、被覆層13の材料の組成や膜厚に応じて、例えば、60〜270GHz帯域の電磁波を吸収することができる。
なお、かかる被覆層13では、被覆層13の膜厚が1mm未満の薄膜である場合であっても、高周波アンテナ素子1が良好な電磁波吸収特性を示す。このため、特定のイプシロン酸化鉄を含み、且つ所定の比誘電率を示す膜を被覆層13として用いる場合、高周波アンテナ素子1の小型化が容易である。
これらの条件を満たす被覆層13を、前述の基材10、及び誘電体層12と組み合わせることによって、幅広い周波数帯域の電磁波に適用可能であって、被覆層13と誘電体層11との界面や、誘電体層11と基材10との界面で反射した電磁波を減衰させることができる高周波アンテナ素子1が得られる。
イプシロン型酸化鉄を含む上記の被覆層13により、被覆層13と誘電体層11との界面や、誘電体層11と基材10との界面で反射した電磁波が減衰する理由を、図4に模式的に示す。
かかる被覆層13は、被覆層13に入射してくる電磁波Aはほとんど減衰させない。
他方、被覆層13と誘電体層11との界面で反射した電磁波Bと、誘電体層11と基材10との界面で反射した電磁波Cとの間では、位相差が生じる。
具体的には、基材10は、高周波アンテナ素子1に入射する電磁波のうち、被覆層13と、誘電体層11とを透過した電磁波を反射させる。その際、基材10は、基材10と誘電体層11との界面で反射する電磁波(電磁波C)の位相を、基材10と誘電体層11との界面に入射する電磁波の位相に対して変化させる。
他方、基材10と誘電体層11との界面で反射する電磁波(電磁波B)の位相は、基材10と誘電体層11との界面に入射する電磁波の位相に対して大きく変化しない。
これにより、図4に示されるように、基材10と誘電体層11との界面で反射する電磁波(電磁波C)と、誘電体層11と被覆層13との界面で反射する電磁波(電磁波B)との間に位相差が生じる。
その結果、基材10と誘電体層11との界面で反射する電磁波Cと、誘電体層11と被覆層13との界面で反射する電磁波Bとは互いに打ち消し合い、それぞれ減衰する。
あるいは、次のようなメカニズムで減衰することが考えられる。高周波アンテナ素子1に入射する電磁波のうち、被覆層13と誘電体層11の界面では、被覆層13の誘電率が誘電体層11の誘電率よりも高いために、電磁波はほとんど反射されない。すなわち電磁波Bの強度は小さく、受信アンテナ部に到達する電磁波は低減されている。一方、被覆層13から誘電体層11に侵入した電磁波は、誘電体層11と基材10の界面で反射されて再び誘電体層11に到達するが、被覆層13の誘電率が誘電体層11の誘電率よりも高いために、ほとんど反射されて被覆層13に侵入する電磁波Cは低減されている。被覆層13と誘電体層11の間で反射して、誘電体層11に戻ってきた電磁波は、同様にして誘電体層11と基材10の界面と、被覆層13と誘電体層11の間の界面と往復することになり(閉じ込め効果)、その間に減衰される。
被覆層13がイプシロン型酸化鉄を含む膜である場合、被覆層13について、誘電体層11を被覆する部分の膜厚は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。高周波アンテナ素子1の小型化の観点から、被覆層13の誘電体層11を被覆する部分の膜厚は3mm未満であるのが好ましく、50μm以上3mm未満であるのがより好ましい。
なお、被覆層13を構成する材料の組成や、被覆層13の比誘電率や比透磁率に応じて、最適な電磁波吸収効果が得られる被覆層13の膜厚が変動する場合がある。この場合、被覆層13の膜厚を微調整して、高周波アンテナ素子1における、電磁波吸収効果を最適化するのが好ましい。
以下、被覆層13がイプシロン型酸化鉄を含み、且つ上記所定の比誘電率を有する場合における、被覆層13が含む必須又は任意の成分と、被覆層13の比誘電率及び比透磁率の調整方法とについて説明する。
(イプシロン型酸化鉄)
イプシロン型酸化鉄として、具体的には、ε−Fe結晶、及び、結晶と空間群がε−Feと同じであって、ε−Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε−MFe2−xで表され、前記xが0以上2未満である結晶から選択される1種以上を用いる。このようなイプシロン型酸化鉄の結晶は磁性結晶であるため、本出願の明細書では、その結晶について「磁性結晶」と呼ぶことがある。
ε−Fe結晶については、周知のものを用いることができる。結晶と空間群がε−Feと同じであって、ε−Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε−MFe2−xで表され、前記xが0以上2未満である結晶については、後述する。
なお、本出願の明細書においてε−Fe結晶のFeサイトの一部が置換元素Mで置換されたε−MFe2−xを「M置換ε−Fe」とも呼ぶ。
ε−Fe結晶及び/又はM置換ε−Fe結晶を磁性相に持つ粒子の粒子径は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。例えば、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性相に持つ粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径が5〜200nmの範囲にある。
また、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性層に持つ粒子の変動係数(粒子径の標準偏差/平均粒子径)は80%未満の範囲にあり、比較的微細で粒子径の整った粒子群である。
好適な被覆層13において、このようなイプシロン型酸化鉄の磁性粒子(すなわち、ε−Fe結晶及び/又はM置換ε−Fe結晶を磁性相に持つ粒子)の粉体を、被覆層13中の電磁波吸収材料として用いる。ここでいう「磁性相」は当該粉体の磁性を担う部分である。
「ε−Fe結晶及び/又はM置換ε−Fe結晶を磁性相に持つ」とは、磁性相がε−Fe結晶及び/又はM置換ε−Fe結晶からなることを意味し、その磁性相に製造上不可避的な不純物磁性結晶が混在する場合を含む。
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶は、ε−Fe結晶と空間群を異にする鉄酸化物の不純物結晶(具体的には、α−Fe、γ−Fe、FeO、及びFe、並びにこれらの結晶においてFeの一部が他の元素で置換された結晶)を含んでいてもよい。
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶が不純物結晶を含む場合、ε−Fe及び/又はM置換ε−Feの磁性結晶が主相であるのが好ましい。すなわち、当該電磁波吸収材料を構成するイプシロン鉄酸化物の磁性結晶の中で、ε−Fe及び/又はM置換ε−Feの磁性結晶の割合が、化合物としてのモル比で50モル%以上であるものが好ましい。
結晶の存在比は、X線回折パターンに基づくリードベルト法による解析で求めることができる。磁性相の周囲にはゾル−ゲル過程で形成されたシリカ(SiO)等の非磁性化合物が付着していることがある。
(M置換ε−Fe
結晶と空間群がε−Feと同じであって、ε−Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであるとの条件を満たす限り、M置換ε−Feにおける元素Mの種類は特に限定されない。M置換ε−Feは、Fe以外の元素Mを複数種含んでいてもよい。
元素Mの好適な例としては、In、Ga、Al、Sc、Cr、Sm、Yb、Ce、Ru、Rh、Ti、Co、Ni、Mn、Zn、Zr、及びYが挙げられる。これらの中では、In、Ga、Al及びRhが好ましい。MがAlである場合、ε−MFe2−xで表される組成において、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。MがGaである場合、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。MがInである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲内であるのが好ましい。MがRhである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲であるのが好ましい。
以上説明したイプシロン型酸化鉄を含む被覆層13を採用する場合、例えば、60〜270GHz帯域、好ましくは60〜230GHz帯域に電磁波吸収量が最大となるピークを有する高周波アンテナ素子1が提供される。電磁波吸収量が最大となる周波数は、M置換ε−Feにおける元素Mの種類及び置換量の少なくとも一方を調整することにより調整することができる。
このようなM置換ε−Fe磁性結晶は、例えば後述の、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程によって合成することができる。また、特開2008−174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル−ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε−Fe磁性結晶を合成することができる。
具体的には、
Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48−51、
Shin−ichi Ohkoshi,Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,97,10K312(2005)、
Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946−1949、
Asuka Namai,Shunsuke Sakurai,Makoto Nakajima,Tohru Suemoto,Kazuyuki Matsumoto,Masahiro Goto,Shinya Sasaki,and Shinichi Ohkoshi,Journal of the American Chemical Society, Vol.131,p.1170−1173,2009.等に記載されるような、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程により、M置換ε−Fe磁性結晶を得ることができる。
逆ミセル法では、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させる。次に、ゾル−ゲル法によって、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコートを施す。シリカコート層を備える水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700〜1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε−Fe結晶の微粒子が得られる。
より具体的には、例えば以下のようにしてM置換ε−Fe磁性結晶が製造される。
まず、n−オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相に、鉄源としての硝酸鉄(III)と、鉄の一部を置換させるM元素源としてのM硝酸塩(Alの場合、硝酸アルミニウム(III)9水和物、Gaの場合、硝酸ガリウム(III)n水和物、Inの場合、硝酸インジウム(III)3水和物)と、界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)とを溶解させる。
ミセル溶液Iの水相には、適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Ca等)の硝酸塩を溶解させておくことができる。この硝酸塩は形状制御剤として機能する。アルカリ土類金属が液中に存在すると、最終的にロッド形状のM置換ε−Fe磁性結晶の粒子が得られる。形状制御剤がない場合は、球状に近いM置換ε−Fe磁性結晶の粒子が得られる。
形状制御剤として添加したアルカリ土類金属は、生成するM置換ε−Fe磁性結晶の表層部に残存することがある。M置換ε−Fe磁性結晶におけるアルカリ土類金属の質量は、M置換ε−Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
n−オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。
ミセル溶液I及びIIを混合した後、ゾル−ゲル法を適用する。すなわち、シラン(例えばテトラエチルオルトシラン)をミセル溶液の混合液に滴下しながら撹拌を続け、ミセル内で水酸化鉄、又は元素Mを含有する水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成した微細な水酸化鉄の沈殿の粒子表面が、シランの加水分解によって生成するシリカでコーティングされる。
次いで、シリカコーティングされたM元素含有水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、さらに好ましくは950〜1150℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。
この熱処理によりシリカコーティング内で酸化反応が進行して、微細なM元素含有水酸化鉄の微細な粒子が、微細なM置換ε−Feの粒子に変化する。
この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα−Feやγ−Feの結晶ではなく、ε−Feと空間群が同じであるM置換ε−Fe結晶の生成に寄与するとともに、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、適量のアルカリ土類金属が共存していると、粒子形状がロッド状に成長しやすい。
また、前述の通り、特開2008−174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル−ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε−Fe磁性結晶をより経済的に有利に合成することができる。
簡潔に説明すれば、初めに3価の鉄塩と置換元素M(Ga、Al等)の塩が溶解している水溶媒に、撹拌状態でアンモニア水等の中和剤を添加することで、鉄の水酸化物(一部が別元素で置換されていることもある)からなる前駆体が形成される。
その後にゾル−ゲル法を適用し、前駆体粒子表面にシリカの被覆層を形成させる。このシリカ被覆粒子を液から分離した後に、所定の温度で熱処理(焼成)を行うと、M置換ε−Fe磁性結晶の微粒子が得られる。
上記のようなM置換ε−Feの合成において、ε−Fe結晶と空間群を異にする鉄酸化物結晶(不純物結晶)が生成する場合がある。Feの組成を有しながら結晶構造が異なる多形(polymorphism)には最も普遍的なものとしてα−Fe及びγ−Feがある。その他の鉄酸化物としてはFeOやFeが挙げられる。
このような不純物結晶の含有は、M置換ε−Fe結晶の特性をできるだけ高く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。
また、M置換ε−Fe磁性結晶の保磁力Hcは、置換元素Mによる置換量に応じて変化する。つまり、M置換ε−Fe磁性結晶における置換元素Mによる置換量を調整することで、M置換ε−Fe磁性結晶の保磁力Hcを調整することができる。
具体的には、例えばAlやGa等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε−Fe磁性結晶の保磁力Hcが低下する。一方、Rh等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε−Fe磁性結晶の保磁力Hcは増大する。
置換元素Mによる置換量に応じてM置換ε−Fe磁性結晶の保磁力Hcを調整しやすい点からは、置換元素Mとして、Ga、Al、In及びRhが好ましい。
そして、この保磁力Hcの低下に伴い、イプシロン型酸化鉄の電磁波吸収量が最大となるピークの周波数も低周波数側あるいは高周波数側にシフトする。つまり、M元素の置換量により電磁波吸収量のピークの周波数をコントロールすることができる。
一般的に用いられている電磁波吸収体の場合、電磁波の入射角度や周波数が設計した値から外れてしまうと吸収量がほとんどゼロになる。これに対し、イプシロン型酸化鉄を用いた場合、少し値が外れても、広い周波数範囲及び電磁波入射角度で電磁波吸収を呈する。このため、本発明によれば、幅広い周波数帯域の電磁波を吸収可能な電磁波吸収体を提供することができる。
イプシロン型酸化鉄の粒子径について、例えば上記工程において熱処理(焼成)温度を調整することによりコントロール可能である。
前述の逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた手法や、特開2008−174405号公報に開示される直接合成法とゾル−ゲル法を組み合わせた手法によれば、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径として、5〜200nmの範囲の粒子径を有するイプシロン型酸化鉄の粒子を合成することが可能である。イプシロン型酸化鉄の平均粒子径は、10nm以上がより好ましく、20nm以上がより好ましい。
なお、数平均粒子径である平均粒子径を求める際、イプシロン型酸化鉄の粒子がロッド状である場合、TEM画像上で観察される粒子の長軸方向の径を当該粒子の径として平均粒子径を算出する。平均粒子径を求める際の、計測対象の粒子数は平均値を算出に当たり十分に多い数であれば特に限定されないが、300個以上であるのが好ましい。
また、ゾル−ゲル法で水酸化鉄微粒子の表面にコーティングされたシリカコートが、熱処理(焼成)後のM置換ε−Fe磁性結晶の表面に存在することがある。結晶の表面にシリカのような非磁性化合物が存在する場合、磁性結晶の取り扱い性や、耐久性、耐候性等が向上する点で好ましい。
非磁性化合物の好適な例としては、シリカのほか、アルミナやジルコニア等の耐熱性化合物が挙げられる。
ただし、非磁性化合物の付着量があまり多いと、粒子同士が激しく凝集する場合があり好ましくない。
非磁性化合物がシリカである場合、M置換ε−Fe磁性結晶におけるSiの質量は、M置換ε−Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、100質量%以下であるのが好ましい。
M置換ε−Fe磁性結晶に付着したシリカの一部又は大部分は、アルカリ溶液に浸す方法によって除去できる。シリカ付着量はこのような方法で任意の量に調整可能である。
被覆層13を構成する材料におけるイプシロン型酸化鉄の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。イプシロン型酸化鉄の含有量は、典型的には、電磁波吸収膜を構成する材料の質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましく、60〜91質量%が最も好ましい。
(比誘電率調整方法)
イプシロン型酸化鉄を含む被覆層13は、その比誘電率が、6.5〜65であり、10〜50であるのが好ましく、15〜30であるのがより好ましい。被覆層13の比誘電率を調整する方法は特に限定されない。被覆層13の比誘電率の調整方法としては、被覆層13に誘電体の粉末を含有させ、且つ、誘電体の粉末の含有量を調整する方法が挙げられる。
誘電体の好適な例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、及び二酸化チタンが挙げられる。被覆層13は、複数の種類の誘電体の粉末を組み合わせて含んでいてもよい。
被覆層13の比誘電率の調整に用いられる誘電体の粉末の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。誘電体の粉末の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、5〜50nmであるのがより好ましい。ここで、誘電体の粉末の平均粒子径は、電子顕微鏡により観察される、誘電体の粉末の一次粒子の数平均径である。
誘電体の粉末を用いて被覆層13の比誘電率を調整する場合、被覆層13の比誘電率が所定の範囲内である限り、誘電体の粉末の使用量は特に限定されない。誘電体の粉末の使用量は、典型的には、被覆層13を構成する材料の質量に対して、0〜20質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
また、被覆層13にカーボンナノチューブを含有させることで、被覆層13の比誘電率を調整することができる。電磁波吸収能が優れる高周波アンテナ素子1を得やすい点からは、カーボンナノチューブを被覆層13に含有させるのが好ましい。カーボンナノチューブは、上記の誘電体の粉末と併用してもよい。
被覆層13を構成する材料へのカーボンナノチューブの配合量は、被覆層13の比誘電率が上記の所定の範囲内である限り特に限定されない。ただし、カーボンナノチューブは導電性材料でもあるため、カーボンナノチューブの使用量が過多であると、被覆層13によりもたらされる電磁波吸収特性が損なわれる場合がある。
カーボンナノチューブの使用量は、典型的には、被覆層13を構成する材料の質量に対して、0〜20質量%が好ましくは、1〜10質量%がより好ましい。
(比透磁率調整方法)
被覆層13の比透磁率は特に限定されないが、1.0〜1.5であるのが好ましい。被覆層13の比透磁率を調整する方法は特に限定されない。被覆層13の比透磁率の調整方法としては、前述の通り、イプシロン型酸化鉄における置換元素Mによる置換量を調整する方法や、被覆層13におけるイプシロン型酸化鉄の含有量を調整する方法が挙げられる。
(ポリマー)
イプシロン型酸化鉄等を被覆層13中に均一に分散させるとともに、膜厚が均一な被覆層13の形成を容易にするために、被覆層13はポリマーを含んでいてもよい。被覆層13がポリマーを含む場合、ポリマーからなるマトリックス中に、イプシロン型酸化鉄等の成分を容易に分散させることができる。また、被覆層13が後述する膜形成用ペーストを用いて形成される場合、膜形成用ペーストがポリマーを含むことにより、膜形成用ペーストの製膜性が向上する。
ポリマーの種類は、本発明の目的を阻害しないものであって、被覆層13の製膜が可能なものであれば特に限定されない。ポリマーは、エラストマーやゴムのような弾性材料であってもよい。また、ポリマーは、熱可塑性樹脂であっても硬化性樹脂であってもよい。ポリマーが硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
ポリマーが熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、FR−AS樹脂、FR−ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR−ポリプロピレン、セルロース樹脂、(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、及びポリスチレン等が挙げられる。
ポリマーが熱硬化性樹脂である場合の好適な例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、種々のビニルモノマーや、種々の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和結合を有する単量体を光硬化させた樹脂を用いることができる。
ポリマーが弾性材料である場合の好適な例としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。
後述する膜形成用ペーストを用いて被覆層13を形成する場合、膜形成用ペーストが分散媒とポリマーとを含んでいてもよい。この場合、ペーストの塗布性の点と、ポリマー中にイプシロン型酸化鉄等を均一に分散させやすいことから、ポリマーが分散媒に対して可溶であるのが好ましい。
被覆層13を構成する材料がポリマーを含有する場合、ポリマーの含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ポリマーの含有量は、典型的には、被覆層13を構成する材料の質量に対して、5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
(分散剤)
イプシロン型酸化鉄や、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を膜中で良好に分散させる目的で、被覆層13は分散剤を含んでいてもよい。被覆層13を構成する材料に分散剤を配合する方法は特に限定されない。分散剤は、イプシロン型酸化鉄やポリマーとともに均一に混合されてもよい。被覆層13を構成する材料がポリマーを含む場合、分散剤はポリマー中に配合されてもよい。また、分散剤により予め処理された、イプシロン型酸化鉄や、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を、被覆層13を構成する材料に配合してもよい。
分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。従来から種々の無機微粒子や有機微粒子の分散用途で使用されている種々の分散剤の中から、分散剤を選択できる。
分散剤の好適な例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、及びアルミネートカップリング剤等が挙げられる。
分散剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤の含有量は、被覆層13を構成する材料の質量に対して、0.1〜30質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。
(その他の成分)
イプシロン型酸化鉄を含む被覆層13を構成する材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記の成分以外の種々の添加剤を含んでいてもよい。被覆層13を構成する材料が含み得る添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、及び界面活性剤等が挙げられる。これらの添加剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、それらが従来使用される量を勘案して使用される。
基材10と、誘電体層11と、受信アンテナ部12と、被覆層13とを、以上説英名したように組み合わせることで、高周波アンテナ素子1が形成される。
(膜形成用ペースト)
被覆層13は、イプシロン型酸化鉄を含む膜形成用ペーストを、誘電体層11及び受信アンテナ部12の表面に塗布して形成されるのが好ましい。
膜形成用ペーストは、被覆層13について前述したイプシロン型酸化鉄を含有する。膜形成用ペーストは、被覆層13について前述した、比誘電率や比透磁率の調整のために添加される物質や、ポリマー及びその他の成分等を含有していてもよい。なお、ポリマーが硬化性樹脂である場合、膜形成用ペーストは、硬化性樹脂の前駆体である化合物を含む。この場合、膜形成用ペーストは、硬化剤、硬化促進剤、及び重合開始剤等を必要に応じて含有する。
膜形成用ペーストでは、当該ペーストを用いて形成されるイプシロン型酸化鉄を含有する被覆層13の比誘電率が、前述の所定の範囲内の値になるように、その組成を決定される。
膜形成用ペーストは、通常、分散媒を含む。しかし、膜形成用ペーストが、液状のエポキシ化合物のような液状の硬化性樹脂の前駆体を含有する場合、必ずしも分散媒は必要ない。
分散媒としては、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液を用いることができる。分散媒としては、有機成分を溶解させやすい点や、蒸発潜熱が低く乾燥による除去が容易であること等から、有機溶剤が好ましい。
分散媒として使用される有機溶剤の好適な例としては、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;n−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系アルコール類;酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等の飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸−n−ブチル等の乳酸エステル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテート等のエーテル系エステル類等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
膜形成用ペーストの固形分濃度は、膜形成用ペーストを塗布する方法や、電磁波吸収膜の膜厚に応じて適宜調整される。典型的には膜形成用ペーストの固形分濃度は、3〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。なお、ペーストの固形分濃度は、分散媒に溶解していない成分の質量と、分散媒に溶解している成分の質量との合計を固形分の質量として算出されるものである。
≪高周波アンテナモジュール≫
高周波アンテナモジュールは、以上説明した高周波アンテナ素子を備えるものであれば特に限定されない。
例えば、高周波アンテナモジュールは、増幅器、フィルタ、信号処理部、電源部、送信アンテナ部、接続端子等の一般的に使用されるアンテナモジュールに搭載されうる種々の部材を備える。
これらの部材は、周知慣用のアンテナモジュールの設計に従って、アンテナモジュール内に配置・接続される。
以下、本発明の実施例を示し、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
金属基板上に、厚さ127μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂を誘電体層として備え、誘電体層上に厚さ125μmの被覆層を備える、積層体を形成した。
被覆層は、樹脂、分散剤、イプシロン型酸化鉄、及びカーボンナノチューブ(CNT)を以下の組成となるように、ターピネオール中に加え、各成分を均一に溶解又は分散させて得た、膜形成用ペーストを誘電体層上に塗布した後、溶剤を除去して得た。なお、膜形成用ペーストの固形分濃度は、40質量%に調整した。
<被覆層組成>
樹脂(セルロース(メチルセルロース)):11.5質量%
分散剤(ジ(イソプロピルオキシ)ジ(イソステアロイルオキシ)チタンと、ビニルトリメトキシシランの質量比1:1の混合物):7.6質量%
ε−GaFe2−x(x〜0.45)(平均粒子径20〜30nm):77.9質量%
多層カーボンナノチューブ(長径150nm):3.0質量%
上記の被覆層の組成について、電磁波を入射した際に被覆層表面から反射される電磁波の減衰量を、伝送理論を用いて計算した。
下記の式により誘電体層における入力インピーダンスを計算した。
Figure 0006661445
ここで、jは虚数単位、fは周波数、d(誘電体)は誘電体層の厚み(=127μm)、cは光速である。ポリテトラフルオロエチレン樹脂の比誘電率(ε(誘電体))は知られている値を用いた。また、非磁性体であるので、比透磁率についてはμ(誘電体)=1とした。
さらに被覆層における入力インピーダンスを下記の式により計算した。
Figure 0006661445
d(被覆層)は被覆層の厚み(=125μm)である。被覆層の比誘電率(ε(被覆層))および比透磁率(μ(誘電体))は、ベクトルネットワークアナライザーを用いた自由空間法により測定した構成成分の比誘電率および比透磁率から求めた値を用いた。
反射減衰量(RL)は次の式を用いて計算した。
Figure 0006661445
図5に計算の結果得られた反射減衰量の周波数依存性を示す。−10dBを超える高い反射減衰量が達成できることが明らかとなった。
〔実施例2〕
金属基板上に、厚さ127μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂を誘電体層として備え、誘電体層上に厚さ97μmの被覆層を備える、積層体を形成した。
被覆層は、樹脂、分散剤、イプシロン型酸化鉄、及びカーボンナノチューブ(CNT)を以下の組成となるように、ターピネオール中に加え、各成分を均一に溶解又は分散させて得た、膜形成用ペーストを誘電体層上に塗布した後、溶剤を除去して得た。なお、膜形成用ペーストの固形分濃度は、40質量%に調整した。
<被覆層組成>
樹脂(セルロース(メチルセルロース)):11.5質量%
分散剤(ジ(イソプロピルオキシ)ジ(イソステアロイルオキシ)チタンと、ビニルトリメトキシシランの質量比1:1の混合物):5.9質量%
ε−GaFe2−x(x〜0.45)(平均粒子径20〜30nm):77.9質量%
多層カーボンナノチューブ(長径150nm):4.7質量%
上記の被覆層の組成について、電磁波を入射した際に被覆層表面から反射される電磁波の減衰量を、実施例2と同様に計算した。
ポリテトラフルオロエチレン樹脂の比誘電率や、被覆層の比誘電率および比等磁率は、ベクトルネットワークアナライザーを用いた自由空間法により測定した構成成分の比誘電率および比透磁率から求めた値を用いた。
図6に示すように、−10dBを超える高い反射減衰量が達成できることが明らかとなった。
1 高周波アンテナ素子
10 基材
11 誘電体層
12 受信アンテナ部
13 被覆層

Claims (5)

  1. 基材と、誘電体層と、受信アンテナ部と、被覆層とを含む高周波アンテナ素子であって、
    前記誘電体層が前記基材上に積層されており、
    前記受信アンテナ部が、前記誘電体層上に載置されており、
    前記被覆層が、前記誘電体層上の前記受信アンテナ部が載置されていない表面を前記受信アンテナ部の側面全面に接しつつ被覆し、且つ前記受信アンテナ部の上面の少なくとも一部を被覆している高周波アンテナ素子であって、
    前記被覆層がイプシロン型酸化鉄を含み、
    前記イプシロン型酸化鉄がε−Fe 結晶、及び、結晶と空間群がε−Fe と同じであって、ε−Fe 結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε−M Fe 2−x で表され、前記xが0以上2未満である結晶から選択される1種以上であり、
    前記被覆層の比誘電率が6.5〜65である、高周波アンテナ素子
  2. 前記被覆層が、前記高周波アンテナ素子に電磁波吸収特性を付与することが可能な膜である、請求項1に記載の高周波アンテナ素子。
  3. 被覆層が、前記受信アンテナ部の前記上面全面を被覆する、請求項1又は2に記載の高周波アンテナ素子。
  4. 前記被覆層がカーボンナノチューブを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の高周波アンテナ素子。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載の高周波アンテナ素子を備える、高周波アンテナモジュール。
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