図1は、電磁波吸収体1のパターン層5の配列の一部を示す参考図である。図2は、電磁波吸収体1の一部を示す断面図である。電磁波吸収体1は、たとえばオフィスなどの空間の電磁波環境を改善するために用いられ、その空間の電磁波を吸収する。この電磁波吸収体1は、図2の上方側である電磁波入射側から、パターン層5と、損失層7と、導電性反射層(以下「反射層」という)2とが、この順序で厚み方向に積層される構成である。電磁波吸収体1は、可撓性を有し、湾曲可能である。この電磁波吸収体1は、外力が作用しない自然状態で曲面状である構成であってもよいが、本実施の形態では、平面状であり、いわゆる平板状である。
パターン層5は、複数の導電性パターン(以下「パターン」という)12を有する。各パターン12は、形状および寸法に依存する共振周波数を有し、その共振周波数の電磁波を受信する受信アンテナとして機能する。パターン層5は、板状基材11の電磁波入射側の表面(以下「第1基材表面」という)に、各パターン12が形成されて構成される。第1基材表面は、板状基材11の厚み方向一方側の表面である。図1には、理解を容易にするために、各パターン12に斜線のハッチングを付して示す。
板状基材11は、たとえば合成樹脂である誘電体から成っており、この板状基材11もまた誘電材料であり誘電損失材である。板状基材11の材料としては、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、紙、樹脂、木、ガラス等を用いることができる。各パターン12は、導電性材料、たとえば金属から成る。各パターン12の材料としては、たとえば金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステンおよび鉄を用いることができる。また酸化亜鉛や酸化インジウム等の導電性酸化物を用いることも可能である。各パターン12は、板状基材11に、たとえば蒸着、メッキ、金属箔の貼着、それらのエッチング処理またはスクリーン印刷によって形成される。
損失層7は、複素比透磁率(μ’、μ”)を有する磁性損失材および複素比誘電率(ε’、ε”)を有する誘電損失材の少なくともいずれか一方である材料から成る部分を有する層である。この損失層7は、磁性損失材である材料から成る部分だけを有する層であってもよいし、誘電損失材である材料から成る部分だけを有する層であってもよいし、磁性損失材である材料から成る部分と誘電損失材である材料から成る部分とを有する層であってもよいし、磁性損失材でありかつ誘電損失材である材料から成る部分を有する層であってもよい。
本実施の形態では、損失層7は、電磁波吸収層(以下「吸収層」という)4と、誘電体層3とを有し、電磁波入射側から吸収層4および誘電体層3の順序で積層されている。本実施の形態では、吸収層4は、磁性損失材でありかつ誘電損失材である材料から成り、誘電体層3は、誘電損失材から成る。
吸収層4は、絶縁性を持つ磁性体を用いることができる。フェライトなどの焼結体、金属酸化物系膜、金属高分子系膜、結合材と磁性体の複合体などが使用できる。このような材料は、磁性損失材でありかつ誘電損失材である。吸収層4は、有機重合体と磁性体とだけから成ってもよいし、他の素材、たとえばグラファイト、炭素繊維などが加えられてもよい。このように吸収層4は、少なくとも磁性体を含む材料から成る層であり、磁性体層に相当する。
吸収層4は、たとえば結合剤と軟磁性粉末とを含む複合体である磁性体から成り、電磁波吸収効果を有する。具体的には、以下の材料を使用することができる。
(結合剤)
結合剤は、各種の有機重合体材料が使用可能であり、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチックなどの高分子材料等が挙げられる。前記ゴムとしては、たとえば天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。
これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。ゴムには、加硫剤のほか、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、充填剤、着色剤などの従来からゴムの配合剤として使用されていたものを適宜配合することができる。これら以外にも、任意の添加剤を使用することができる。たとえば、誘電率や導電率を制御するために所定量の誘電体(カーボンブラック、黒鉛、酸化チタン等)を、使用される電子機器内に発生する不要電磁波へのインピーダンスマッチングや温度環境に応じて、材料設計して添加することができる。さらに加工助剤(滑剤、分散剤)も適宜選択して添加してもよい。
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体が挙げられる。これらの結合剤として、低分子量のオリゴマータイプや液状タイプを用いることができる。熱、圧力、紫外線、硬化剤、水分、時間、力、荷重等により成型後にシート状になるものであれば、有機系材料に限ることなく、あらゆる材料を選択することができる。
特に、本発明では、結合剤として塩化ビニル樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
(軟磁性粉末)
軟磁性粉末としては、たとえば磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金のFe系合金等が挙げられる。また、フェライト若しくは純鉄粒子を用いてもよい。フェライトとしては、たとえばMn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト、Ba−Ni−Coフェライトなどのソフトフェライト、あるいは永久磁石材料であるハードフェライトが挙げられる。純鉄粒子としては、たとえばカルボニル鉄粉が挙げられる。これらの金属はアモルファス状態であっても、なくても良く、さらに非晶質と結晶質が混在したものでもよい。
軟磁性粉末の形状(球状、扁平状、繊維状等)は、特に限定されるものではないが、高い充填率で充填できることから、球状、略球状または塊状を使用するのが好ましい。これらの磁性粉末は単体で使用するほか、複数をブレンドしても構わない。磁性粉末の平均粒径または扁平状軟磁性粉末の長径は0.1〜500μm、好ましくは1〜200μmであるのがよい。また、扁平状軟磁性粉末のアスペクト比は2〜500、好ましくは10〜100であるのがよい。
誘電体層3は、少なくとも誘電体を含む材料から成り、本実施の形態では、誘電体から成る。誘電体としては、たとえば合成樹脂、ゴム、段ボール等の紙、木材、石膏、発泡体、アスファルト、土、リサイクル材セメントおよびガラスなどを用いることができる。
反射層2は、少なくとも導電性を有し、電磁波を反射させる層である。反射層2は、導電性材料から成る板、シート、フィルム、箔、織布または不織布であってもよいし、合成樹脂に導電性材料を混合した混合材料から成る板、シート、フィルム、箔、織布または不織布であってもよいし、合成樹脂等から成る基材に導電性材料から成る導電性膜が形成される板、シート、箔、織布またはフィルムであってもよい。導電性の付与はメッキ、蒸着(スパッタ)、印刷等の方法がある。反射層2を形成する導電性材料は、金属であってもよいし、カーボンなどの金属以外の材料であってもよい。反射層2を形成する導電性材料として、各パターン12を形成するために用いることができる導電性材料を、同様に用いることができる。本実施の形態では、反射層2は、板状基材の電磁波入射側の表面上に、全面にわたって金属膜が形成されて構成される。本実施例の反射層は、KEC法にて測定した電界シールド性はUHF帯で30dBを超えている。
電磁波吸収体1は、パターン層5の各パターン12によって、その形状および寸法に依存して決定される共振周波数の電磁波を受信し、パターン12と反射層2の間に電磁波エネルギを貯め、その電磁波エネルギを、吸収層4および誘電体層3を含む損失層7で損失させる。電磁波エネルギの損失は、電磁波エネルギの熱エネルギへの変換によって生じる。また電磁波吸収体1は、各パターン12によって受信する電磁波を、各パターン12と反射層2とによる電磁波の干渉によって減衰させる。電磁波吸収体1は、パターン層5を用いることによって電磁波を効率よく受信し、前述のエネルギ変換と、干渉とによって、電磁波を効率良く吸収することができる。
電磁波吸収体1によって吸収する電磁波の周波数は、各パターン12の形状、寸法および間隔に依存するとともに、損失層7の厚み寸法、したがって吸収層4および誘電体層3に依存するので、これの形状および寸法を選択して決定される。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数は、特に限定されるものではないが、300kHz以上3000GHz以下の範囲の周波数であってもよい。電磁波吸収体1は、たとえば特にUHF帯(300MHz以上3GHz未満)、そして2.4GHz帯(2.4GHz以上2.5GHz未満)の電磁波を吸収するために用いられる。
電磁波吸収体1の吸収対象する電磁波の周波数が2.4GHz帯である場合、各パターン寸法d1x,d1yは、たとえば13mmであり、各最小幅寸法exmin,eyminは、たとえば0.25mmであり、各最大幅寸法exmax,eymaxは1.4mm、各変化率Δex,Δeyは、たとえば0.18であり、第1角度θ1は、たとえば80度である。
また電磁波吸収体1は、難燃性、準不燃性または不燃性を有している。難燃性としてはUL94V0の評価を得ることが目安である。電磁波吸収体1の用途は限定されないが、たとえば建材の構成部材として用いられる。難燃性、準不燃性または不燃性を有する電磁波吸収体1は、好適に建材を構成することができる。建材は、建築物を建立するために用いられる素材であり、たとえば内装材、壁材、床材、衝立材、天板材、表面材である。電磁波吸収体1に、難燃性、準不燃性、または不燃性を付与するにあたっては、電磁波吸収体1に、たとえば難燃剤または難燃助剤が添加される。難燃剤または難燃助剤は、たとえば吸収層4および誘電体層3に添加される。
難燃剤としては、たとえばリン化合物、ホウ素化合物、臭素系難燃剤、亜鉛系難燃剤、窒素系難燃剤および水酸化物系難燃剤を用いることができる。難燃剤としては公知なものが単独あるいは組み合わせて使用することができる。たとえば、難燃剤としては、臭素系等のハロゲン系難燃剤、燐酸エステル等の燐化合物系難燃剤、炭酸亜鉛・ホウ酸亜鉛等の亜鉛系難燃剤、トリアジン化合物・ヒンダードアミン化合物・メラミン系化合物等の窒素系難燃剤、水酸化マグネシウム・水酸化アルミニウム等の水酸化物系難燃剤、また難燃助剤としては、カーボンブラックや脂肪酸金属塩等を使用し、UL94のV0等の難燃性を達成すべく配合設計する。
このような電磁波吸収体1によれば、パターン層5は、そのパターン層5全領域の面積を1とした場合、パターン12が形成される領域の面積が0.6以上となる面積比を有している。パターン層5が、前記範囲の面積比に形成されることによって、電磁波の吸収量を大きくすることができるとともに、電磁波の吸収量の大きな周波数帯域の帯域幅を大きくすることができる。またパターン層5は、パターン12間に形成される隙間のうち、少なくとも一部の隙間の幅寸法ex,eyが、その隙間の延在方向に関して連続的に変化する構成である。このようにパターン12間の隙間の幅寸法ex,eyが連続するように形成されることによって、パターン12間の隙間の幅寸法が一様である構成と比べて、電磁波の吸収量を大きくすることができる。また電磁波吸収体1では、損失層7は、少なくとも磁性体を含む材料から成る磁性体層である吸収層4と、誘電体から成る誘電体層3とを有する。吸収層4および誘電体層3の両方で、パターン層5のパターン12によって捉えた電磁波エネルギを損失させるので、損失量を大きくし、電磁波を大きな吸収量で吸収することができる。
またパターン12間の隙間は、その隙間の延在方向に間隔をあけて、幅寸法が小さい少なくとも2個所の接近部位を有し、その接近部位の間に接近部位より幅寸法が大きい離間部位を有する。接近部位は、幅寸法ex,eyが、最小幅寸法exmin,eyminとなる部位であり、離間部位は、幅寸法ex,eyが、最大幅寸法exmax,eymaxとなる部位である。このようにパターン12間の隙間の幅寸法ex,eyが接近したり離れたりする態様で形成されることによって、パターン12間の隙間の幅寸法が一様である構成と比べて、電磁波の吸収帯域を大きくすることができる。これはパターン12間(ex,ey)で形成される共振モードを起こす周波数を増すためである。パターン12間は独立しており、間には絶縁フィルム、空間、他材料が存するだけであるが、高周波数域においてはコンデンサが形成されるように回路的に繋がっていると見なすことができるため、このパターン12間の結合度合い(干渉度合い)を変更することによりパターン層12全体の共振周波数を制御できることを見出したものである。具体的には、隣り合うパターン12間においてパターン12同士が接近/離間/接近の様に、少なくとも2回の接近/離間を繰り返す様な配列とすることによって、パターン12の受信周波数を広くすることができる。
電磁波吸収体1では、電磁波の吸収量が15dB以上である周波数帯域の帯域幅が、70MHz以上である。このように電磁波の吸収量の大きい周波数帯域の帯域幅が大きく、優れた吸収特性の電磁波吸収体1を実現することができる。さらに電磁波吸収体1は、前述のように電磁波の吸収量が大きくなるので、薄形化および軽量化を図ることができる。電磁波吸収体1は、たとえばUHF帯の電磁波を吸収できるように構成すると、総厚み寸法を15mm以下に形成することが可能であり、薄形の電磁波吸収体1を実現することができる。UHF帯とは極細短波であり、300MHz以上3GHz未満の周波数帯域である。ここでRFIDシステムの通信に用いられる周波数帯域は、400MHz帯域と860MHz以上960MHz未満の帯域である。また電磁波吸収体1は、たとえば2.4GHz帯の電磁波を吸収できるように構成すると、総厚み寸法を5mm以下に形成することが可能であり、薄形の電磁波吸収体1を実現することができる。2.4GHz帯とは、2.4GHz以上2.5GHz未満の周波数帯域である。
また電磁波吸収体1は、電磁波遮蔽板として機能する反射層2を有している。これによって電磁波吸収体1は、電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽性を有する。したがって電磁波吸収体1は、電磁波を吸収するだけでなく、電磁波を遮蔽することが可能であり、利便性が向上される。言い換えると金属等のシールド材料の様に遮蔽はするが反射も行い、その反射波による新たな影響が生じる場合と異なり、本発明の電磁波吸収体1は、電磁波を遮蔽するが、且つ特定周波数に対しては反射波も生じない遮蔽体となる。このために無線通信環境に於ける不要波の低減やゾーニングに有用な材料となるといえる。さらに反射層2がない構成では、電磁波吸収体1の近傍に導電性材料から成る物体が存在するか否かによって、またその導電性の違いによっても受信アンテナとして機能する各パターン12のインピーダンスが変化し、受信可能な電磁波の周波数が変化してしまうが、反射層2を備える構成では、近傍に存在する導電性材料から成る物体の影響を排除することが可能であり、この点においても利便性が向上される。また反射層2は、前述のように電磁波吸収体1の内部で電磁波を吸収する一翼を担う電磁波干渉を生じさせる構成でもあり、電磁波の吸収量を大きくすることにも寄与している。この電磁波吸収体1は、優れた電磁波吸収特性を有する。
図3は、本発明の実施の他の形態の電磁波吸収体1Aの断面図である。この実施の形態は、前述の図2の実施の形態に類似し、対応する部分には同一の参照符を付し、異なる構成についてだけ説明する。この実施の形態では、図3の上方側となる電磁波入射側から、吸収層4、パターン層5、誘電体層3と、反射層2とが、この順序で積層して構成される。そのほかの構成は、前述の実施の形態と同様である。このようにパターン層5よりも電磁波入射側に吸収層4を設け、損失層7にパターン層5が挟まれる構成であってもよい。このような構成であっても、前述の実施の形態と同様の効果を達成することができる。
図4は、本発明の実施のさらに他の形態の電磁波吸収体1Bの断面図である。この実施の形態は、前述の図1および図2の実施の形態に類似し、対応する部分には同一の参照符を付し、異なる構成についてだけ説明する。この実施の形態では、パターン層5に対して図4の上方側となる電磁波入射側に、表面層6が形成される。表面層6は、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方である材料から成る層であって、損失層7を構成する。表面層6は、吸収層4および誘電体層3のいずれかであってもよいし、その他の層であってもよい。そのほかの構成は、前述の実施の形態と同様である。このようにパターン層5よりも電磁波入射側に表面層6を設け、損失層7にパターン層5が挟まれる構成であってもよい。このような構成であっても、前述の実施の形態と同様の効果を達成することができる。
本発明の電磁波吸収体は、パターン層と損失層とを備える構成であればよく、積層構成は、前述の図2〜図4に示す積層構成に限定されるものではない。本発明の実施の形態として、たとえば電磁波入射側から、誘電体層3、吸収層4、パターン層5、吸収層4、誘電体層3、反射層2の順に構成したものなども可能である。さらに本発明の実施の形態として、電磁波入射側からの順序が、パターン層5、吸収層4、反射層2の積層体、パターン層5、誘電体層3、反射層2の積層体などがある。後者は、吸収層4が誘電損失層である場合で、誘電体層3を別に設けない構成である。各層は単層であっても、複層であってもいいし、複層の場合はまったく同一の層である必要もない。これらに限定されるものではなく、様々な態様の積層体が含まれる。またこれらの積層体は主要な層を抽出したものであり、必ずしもこの通りに並ぶ必要もなく、たとえば各層の間に接着層、粘着層、支持体層または保護層などが入っても同様の効果が得られる。また吸収層4および誘電体層3に接着剤もしくは粘着剤を配合することで、吸収層4および誘電体層3が接着層や粘着層を兼ねる構成とすることも可能である。
さらに本発明の実施の形態として、電磁波吸収体は、図2〜図4に示す反射層2を含まず、このような反射層2を含まない電磁波吸収体が、電磁波入射側とは反対側の表面を、電磁波遮蔽性能を有する物体表面に対向させて、設置されるように構成されてもよい。電磁波遮蔽性能を有する物体は、たとえば反射層2と同様な構成を有してもよく、たとえば金属板などによって実現されてもよい。このような構成は、反射層2を有する電磁波吸収体と同様の電磁波吸収特性を得ることができる。
図5は、本発明の実施のさらに他の形態の電磁波吸収体を構成するパターン層5Cを示す正面図である。図6は、図5の一部を拡大して示すパターン層5Cの正面図である。このパターン層5Cは、図1に示す前述のパターン層5に代えて用いられるパターン層であって、図1に示す前述のパターン層5と類似し、対応する部分には同一の参照符を付し、異なる構成についてだけ説明する。図5のパターン層5Cは、図1のパターン5とは、各パターン12の形状および寸法が異なる。図5のパターン12は、複数の放射形パターン30と、複数の略方形パターン31とを有する。
各放射形パターン30は、放射形状にそれぞれ形成され、複数の放射形パターン30が、相互に間隔をあけて設けられる。各放射形パターン30は、x方向およびy方向に沿う放射状である略十文字形に形成され、x方向およびy方向に行列状に規則正しく整列配置される。各放射形パターン30は、図6に仮想線で示す基礎となる十文字(以下「基礎十文字」という)20の交差部分16における4つの角部21を曲線状、具体的には円弧状にした形状である。基礎十文字20は、x方向に細長く延びる第1長方形部分14と、y方向に細長く延びる第2長方形部分15とが、それら各長方形部分14,15の中心を重ねて、交差部分16で直角に交差する形状である。各長方形部分14,15は、交差部分16において垂直な軸線まわりに90度ずれており、同一形状を有する。このような基礎十文字20に、4つの第1略直角三角形22を、交差部分16の4つの角部21に、各第1略直角三角形22の角部がそれぞれ収まるように設けた形状である。各第1略直角三角形22は、大略的に直角二等辺三角形であり、直角の角部に対向する斜辺が直角の角部に向けて凹となるように円弧状に湾曲する形状である。各放射形パターン30は、4回回転対称であり、各長方形部分14,15の中心に関して点対称であり、各長方形部分14,15の中心を通り各長方形部分の長辺に平行な2つの直線に関してそれぞれ線対称であり、各長方形部分14,15の中心を通り各長方形部分の長辺に平行な2つの直線に関して45度ずれた2つの直線に関して線対称である。
各略方形パターン31は、放射形パターン30に囲まれる領域に、放射形パターン30から間隔をあけて配置され、放射形パターン30に囲まれる領域を塗潰すようにそれぞれ配置される。x方向に隣接する2つの放射形パターン31と、これら2つの放射形パターン31にy方向のいずれか一方に隣接する2つの放射形パターン31とを組合わせた4つの放射形パターン31によって囲まれる領域は、大略的に正方形である。この領域に1つの略方形パターン31が嵌まり込むように配置されている。各略方形パターン31は、前記4つの放射形パターン31に囲まれる領域の形状と類似する形状に形成される。
各放射形パターン30が前述のような略十文字形であり、各放射形パターン30に囲まれる各領域は、長方形の各角部を円弧状にした隅丸四角形である。この隅丸四角形の基礎となる長方形は、長辺と短辺の寸法が異なる矩形および長辺と短辺の寸法が同一である正方形を含む。この実施の形態では、各放射形パターン30に囲まれる各領域は、略正方形の隅丸四角形であり、各略方形パターン31は、略正方形の隅丸四角形である。
各略方形パターン31は、基礎となる正方形(以下「第2基礎正方形」という)の4つの角部26を円弧状に変更した形状である。各略方形パターン31は、第2基礎正方形25から、直角の角部が第2基礎正方形25の角部に収まるように配置される4つの第2略直角三角形27を取除いた形状である。各第2略直角三角形27は、大略的に直角二等辺三角形であり、直角の角部に対向する斜辺が直角の角部に向けて凹となるように円弧状に湾曲する形状である。各略方形パターン31は、第2基礎正方形25の中心が、その周囲の4つの放射形パターン31の基礎十文字の中心を結んで形成される正方形の中心と一致し、かつ第2基礎正方形25の各辺が、x方向およびy方向のいずれかに延びるように配置されている。各略方形パターン12は、4回回転対称であり、第2基礎正方形25の中心に関して点対称であり、第2基礎正方形25の2つの対角線に関してそれぞれ線対称であり、第2基礎正方形25の中心を通りいずれかの辺に平行な2つの直線に関してそれぞれ線対称である。
このような放射形パターン30と略方形パターン31とを有する各パターン12が形成されるパターン層5Cは、図1の星形のパターン12が形成されるパターン層5と同様に、パターン層全領域の面積を1とした場合、各パターン12が形成される領域の面積(以下「パターン面積」という)が0.6以上となる面積比を有する。
第1長方形部分14の幅a1yと第2長方形部分15の幅a1xは、互いに等しく、たとえば0.05mm以上10mm以下であり、第1長方形部分14の長さa2xと第2長方形部分15の長さa2yは、互いに等しく、たとえば1mm以上100mm以下である。第1略直角三角形22の直角を挟む2辺の長さ、したがって2辺のうちのx方向に延びる辺の長さa3xとy方向に延びる辺の長さa3yとは、互いに等しく、たとえば0.1mm以上50mm以下であり、第1略直角三角形22の斜辺の曲率半径R1は、たとえば1mm以上100mm以下である。第1略直角三角形22の斜辺の円弧の中心点と、第1略直角三角形22の斜辺の両端をそれぞれ結ぶ2つの直線の成す角度θ3は、5度以上45度以下である。x方向に隣接2つの放射形パターン30の各第1長方形部分14間の距離c2xと、y方向に隣接2つの放射形パターン30の各第2長方形部分15間の距離c2yとは、互いに等しく、たとえば0.1mm以上100mm以下である。
また第2基礎正方形25のx方向の寸法b1xとy方向の寸法b1yとは、互いに等しく、たとえば1mm以上100mm以下である。これら第2基礎正方形25の各寸法b1x,b1yは、略方形パターン31のx方向寸法およびy方向寸法である。第2略直角三角形27の直角を挟む2辺の長さ、したがって2辺のうちのx方向に延びる辺の長さb2xとy方向に延びる辺の長さb2yとは、互いに等しく、たとえば0.1mm以上50mm以下であり、第2略直角三角形27の斜辺の曲率半径R2は、1mm以上100mm以下である。
また放射形パターン30と略方形パターン31間の隙間(以下「放射方形間隙間」という)の幅寸法c1は、最小幅寸法c1minから最大幅寸法c1maxの間で、隙間の延在方向に連続的に変化する。放射方形間隙間の最小幅寸法c1minは、放射形パターン30の各長方形部分14,15の長手方向の端における略方形パターン31までの寸法であり、たとえば0.1mm以上20mm以下である。放射方形間隙間の最大幅寸法c1maxは、各略直角三角形22,27の直角を2等分する直線に沿う位置の寸法であり、たとえば0.2mm以上50mm以下である。
このように放射方形間隙間の幅寸法c1は、その隙間の延在方向に連続的に変化している。放射方形間隙間の幅寸法c1の変化率Δc1は、たとえば0.001以上10以下である。放射方形間隙間の幅寸法c1の変化率Δc1は、放射形パターン30の縁辺に沿う単位寸法当たりの放射方形間隙間の幅寸法c1の変化量である。また本実施の形態では、変化率Δc1は、一様ではなく、最小幅寸法c1minの位置から最大幅寸法c1maxの位置に向かうにつれて、小さくなる。
変化率Δc1は、式(3)で表される。
電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数がUHF帯である場合、各長方形部分14,15の幅a1x,a1yは、たとえば1mmであり、各長方形部分14,15の長さa2x,a2yは、たとえば20mmであり、第1略直角三角形22の直角を挟む2辺の長さa3x,a3yは、たとえば6.5mmであり、斜辺の曲率半径R1は、6.5mmである。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数がUHF帯である場合、第2基礎正方形25の寸法b1x,b1yは、たとえば25mmであり、第2略直角三角形27の直角を挟む2辺の長さb2x,b2yは、たとえば10.5mmであり、斜辺の曲率半径R2は、10.5mmである。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数がUHF帯である場合、放射方形間隙間の幅寸法c1の最小幅寸法c1minは、たとえば0.5mmであり、最大幅寸法c1maxは、たとえば2mmであり、変化率Δc1は、たとえば0.15である。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数がUHF帯である場合、放射形パターン間の間隔c2x,c2yは、たとえば7mmである。
電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数が2.4GHz帯である場合、各長方形部分14,15の幅a1x,a1yは、たとえば0.5mmであり、各長方形部分14,15の長さa2x,a2yは、たとえば17.5mmであり、第1略直角三角形22の直角を挟む2辺の長さa3x,a3yは、たとえば5mmであり、斜辺の曲率半径R1は、5mmである。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数が2.4GHz帯である場合、第2基礎正方形25の寸法b1x,b1yは、たとえば20.5mmであり、第2略直角三角形27の直角を挟む2辺の長さb2x,b2yは、たとえば8mmであり、斜辺の曲率半径R2は、8mmである。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数が2.4GHz帯である場合、放射方形間隙間の幅寸法c1の最小幅寸法c1minは、たとえば0.5mmであり、最大幅寸法c1maxは、たとえば約1.7mmであり、変化率Δc1は、たとえば0.14である。電磁波吸収体1の吸収対象とする電磁波の周波数が2.4GHz帯である場合、放射形パターン間の間隔c2x,c2yは、たとえば2.5mmである。
図5および図6のパターン層5Cでは、各パターン12のうち少なくとも一部のパターンは、曲線部分を含む外形形状を有する。本実施の形態では、全てのパターン12は、曲線部分を含む外形形状を有している。このようなパターン12では、電磁波を受信したときの共振電流が、曲線状部分でスムーズに流れるようになる。
図7は、パターンPにおいて、TE波である電磁波を受けた場合のパターンPの方向が、パターンP内に生じる電界に与える影響を示すパターンPの正面図である。図7には、電磁波がパターンPに対して垂直に入射する垂直入射の場合を示す。図7(1)は、方形のパターンPを正対する位置関係に置いた場合の電界の生じ方を示す。図7(2)は、図7(1)の位置関係からパターンPを45度(°)角変位させた場合の電界の生じ方を示す。図7(3)は、円形のパターンPの場合の電界の生じ方を示す。図7(4)は、R付き方形のパターンPを、図7(1)と同様に、正対する位置関係に置いた場合の電界の生じ方を示す。図7(5)は、図7(4)の位置関係からパターンPを45度(°)角変位させた場合の電界の生じ方を示す。
図7(1)の位置関係は、電磁波における電界の方向(以下「偏波方向」という)に対して、平行または垂直な辺が存在する方形のパターンPの位置関係である。図7(2)における位置関係は、図7(1)と同様の方形のパターンPを、図7(1)の位置関係からパターンPに垂直な軸線まわりに45度(°)角変位させ、各辺が、偏波方向に対して45度(°)の角度を成す位置関係である。方形とは、4つの内角が直角である四角形である。図7(4)の位置関係は、偏波方向に対して、平行または垂直な辺が存在するR付き方形のパターンPの位置関係である。図7(5)における位置関係は、図7(4)と同様のR付き方形のパターンPを、図7(4)の位置関係からパターンPに垂直な軸線まわりに45度(°)角変位させ、各辺が偏波方向に対して45度(°)の角度を成す位置関係である。R付き方形とは、方形のコーナー部分に曲率を持たせて丸みを付けた、直線と曲線を有する略方形である。図7における各パターンPは、導電性パターンに相当する。
図7に示すように、パターンPによって電磁波を受信したときに、パターンPに生じる電界の方向Eは、パターンPの形状によって異なるとともに、方形のパターンPの場合は、電磁波の偏波方向に対するパターンPの位置関係によって異なる。図7(1)の場合、パターンP内に生じる電界の方向Eは、1つの辺に平行な方向な直線状の方向である。図7(2)、図7(3)および図7(5)の場合、パターンP内に生じる電界の方向Eは、大略的に双曲線状となる。
このように生じる電界の方向Eが変わると、電磁波に対する共振周波数が変わることになる。方形のパターンPにおいて電磁波、特にTE波およびTM波を受ける場合、図7(1)の配置にすると、辺付近に辺に沿って共振電流が流れやすい。これに対して方形のパターンPを図7(1)から45度(°)角変位させた図7(2)の場合および円形のパターンPを用いる図7(3)の場合は、方形のパターンPを図7(1)のように用いる場合ほど、辺付近に共振電流が集中し得ないことを示している。したがって電磁波を受信するために用いるパターンには、電磁波の偏波方向に関わらず、受信状態が一定である円形のパターンのようなパターンと、電磁波の偏波方向によって、受信状態が変化してしまう方形のパターンのようなパターンとが存在する。
図7(4)および図7(5)のパターンPは、コーナー部分にRが付いた略方形状である。図7(4)の場合と図7(5)場合との共振電流の経路長および分布の差と、図7(1)の場合と図7(2)の場合との共振電流の経路長および分布の差とを比較すると、図7(4)の場合と図7(5)の場合との差の方が、図7(1)の場合と図7(2)の場合との差よりも小さくなっている。したがって図7(4)および図7(5)のR付き方形のパターンPは、図7(1)および図7(2)の方形のパターンPに比べて、偏波に対する共振周波数のシストが低減できる。このR付き方形というパターン形状は、基本的に方形パターンでありながら、円形パターンの耐偏波特性を組み込んだ効果を有している。
実際の電磁波吸収体の使用環境では、TE波およびTM波のような直線偏波の電磁波だけでなく、円偏波の電磁波が存在するとともに、直線偏波の電磁波であっても偏波方向が必ず同一の方向とは限らず、偏波方向の異なる電磁波が入り乱れた電磁波を吸収しなければならいので、このような偏波方向によって受信状態が異なる偏波依存性を抑えること、つまり偏波特性を良くすることは重要な課題となる。本発明では、この課題を解決することができる。
さらにパターンによって電磁波を受信し、損失層でエネルギを損失させる電磁波吸収体において、パターンの形状に起因する電磁波吸収特性の傾向の分析によると、電磁波吸収量の向上と、偏波依存性を少なくすることである偏波特性の向上とは、両立するものではなく、むしろ二律相反するものである。パターンの形状が、多角形である場合、線状であるか面状であるかを問わず、パターンの外郭形状に、エッジとも呼ばれる鋭角な角部を有する場合、電磁波の吸収量のピーク値は高くなるが、電磁波の電界の方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれが大きくなってしまう。またパターンの形状が、円形である場合、線状であるか面状であるかを問わず、電磁波の偏波方向によって吸収量がピークとなる周波数がずれないが、電磁波の吸収量のピーク値が低くなってしまう。
多角形などの鋭角な角部を有するパターンは、円形のパターンよりも、Q値が高くなる。Q値は、共振周波数と帯域幅で表すことができ、Q=共振周波数/帯域幅となる。帯域幅は、予め定める受信強度、たとえば共振周波数ω0における受信強度の2分の1以上の受信強度を有する帯域の幅である。したがって共振周波数をω0とし、受信強度が共振周波数ω0における受信強度の2分の1となる共振周波数を挟む両側の周波数をそれぞれω1,ω2(>ω1)とすると、Q=ω0/(ω2−ω1)で表すことができる。
このQ値は、パターン電磁波吸収体の電磁波吸収特性を示すために、電磁波吸収量のピーク値に当てはめて表現される。Q値が高いとは、吸収する電磁波の周波数帯域(以下「吸収帯域」という場合がある)の幅は小さいが、高い電磁波吸収量(以下単に「吸収量」という場合がある)のピーク値を有することを表す。またQ値が低いとは、吸収量のピーク値は小さいが、大きい吸収帯域の幅を有することを表す。吸収帯域は、予め定める吸収量以上の吸収量で吸収される電磁波の周波数である。
鋭角な角部を有するパターンは、Q値が高いので、吸収量のピーク値は高くなるが、吸収帯域の幅が狭くなり、偏波方向が異なることによって共振周波数のズレが発生してしまうことになる。これは図7(1)の場合、そのパターンPの辺に沿って強い電流が生じ、その部分で共振が起こるのに対し、図7(2)および図7(3)の場合は、強い電流が流れる経路が、図7(1)の場合ほど、辺に沿って集中しなくなる現象が起きることから明らかである。言い換えれば、電流の経路が広がることで、共振に関わる半波長の波の分布する領域が広がり、共振する条件が多くなると言える。この結果として吸収帯域の幅が大きくなる。方形のパターンの場合、図7(1)のように配置すると、辺に平行にまっすぐな方向の電界ができるが、図7(2)のように45度(°)角変位させると、円弧を描くような方向の電界が生じるため、明らかに分布が異なっている。つまり方形のパターンを用いる構成は、共振が集中して起きる結果、電磁波吸収特性が高くなるけれども、偏波依存性を有している。このような特性は、方形に限らず、多角形のパターンを用いる構成も同様に有している。
以上に対して、図7(4)および図7(5)のR付き方形のパターンPは、耐偏波特性に関しては、図7(1)および図7(2)の方形のパターンPから図7(3)の円形のパターンPに近づけるべく改善し、電波の偏波方向によって生じる吸収周波数の差を低減したものであり、Q値に関しては、方形パターンの持つ高い値を少しでも維持できる設計としたものである。
図5および図6に示す本実施の形態のパターン層5Cは、図7(4)および図7(5)に示すR付き方形パターンPと同様の形状の略方形パターン31を有している。この図5および図6のパターン層5Cを備える電磁波吸収体では、偏波依存性が小さく、かつ電磁波吸収量を高くすることができる。多角形のパターンを用いる場合の前記欠点を改善するために、パターンの形状は、基本的には多角形であるが、少なくとも1つの角部が曲線状に形成される形状にする。角部にRを付与する、つまり曲面状とする効果は、共振電流が角部で滞ることなく流れやすくなることであり、さらに共振する領域が広くなることであり、結果Q値は若干落ちるけれども広帯域性能を示すことにより、偏波特性が改善されることになる。
これによって電磁波の偏波方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれを小さく抑えることができる。したがって電磁波の吸収量のピーク値が高く、かつ電磁波の偏波方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれが小さい優れた電磁波吸収特性の電磁波吸収体を実現することができる。図5および図6のパターン層5Cを備える電磁波吸収体は、このような優れた電磁波吸収体を実現することができる。
本件発明者らは、シミュレーションおよび実際の測定によって、本発明の有用性を確認した。表1は、実施例1〜16の電磁波吸収体の特性を示す。表2は、比較例1〜11の電磁波吸収体の特性を示す。
実施例1〜4の電磁波吸収体は、周波数が2.4GHz帯の電磁波を吸収対象とし、図5に示す角部が曲線状の放射形パターン30および略方形パターン31を有するパターン層5Cを備え、図2に示す積層構成を有する。実施例5〜16、比較例10、11の電磁波吸収体は、周波数がUHF帯の電磁波を吸収対象とし、図5に示す角部が曲線状の放射形パターン30および略方形パターン31を有するパターン層5Cを備え、図2に示す積層構成を有する。ただし比較例10、11は、放射形パターン30と略方形パターン31との間の隙間の幅寸法は一定の構成である。各表に隙間間隔の幅寸法が連続的に変化する場合を導体間隔の連続変化「有」、隙間間隔が一定の場合を導体間隔の連続変化「無」として表示している。
比較例1,2の電磁波吸収体は、周波数が2.4GHz帯の電磁波を吸収対象とし、導電性パターンとして、図8に示す正方形のパターン40が図1の星形のパターン12と同様の配列で形成されるパターン層5を備え、図2に示す積層構成を有する。比較例3〜7の電磁波吸収体は、周波数が2.4GHz帯の電磁波を吸収対象とし、導電性パターンとして、図9に示す円形のパターン41が星形のパターン12の配列で形成されるパターン層5を備え、図2に示す積層構成を有する。実施例10の電磁波吸収体は、周波数が2.4GHz帯の電磁波を吸収対象とし、図5に示す角部が曲線状の放射形パターン30および略方形パターン31を有するパターン層5Cを備え、図2に示す積層構成を有する。比較例8、9の電磁波吸収体は、実施例1〜4の電磁波吸収体とほぼ同様であるが、放射形パターン30と略方形パターン31との間の隙間の幅寸法が一定の構成である点が異なる。
比較例1,2では、パターン40間の隙間の幅間隔fは一定であるので、この幅寸法fを、導体間隔(max)とし、導体間隔(min)は省略している。さらに比較例1,2では、パターン40は正方形であり、一辺の長さを導体幅(max)とし、導体幅(min)を省略している。また比較例3〜7において、導体間隔(max)は、図9に示すようにパターン41間の隙間の幅寸法の最大値gmaxであり、導体間隔(min)は、図9に示すようにパターン41間の隙間の幅寸法の最小値gminである。さらに比較例3〜7では、パターン41は円形であり、外径を導体幅(max)とし、導体幅(min)を省略している。また、比較例1〜7において、導体幅/間隔(max)は導体幅(max)を導体間隔(min)で除算した値であり、導体幅/間隔(min)は、導体幅(max)を導体間隔(max)で除算した値である。比較例1,2では、導体間隔(min)がないので、導体幅/間隔(min)を省略している。
また実施例1〜16、比較例8〜11において、Rcpは、第1略直角三角形22の斜辺の曲率半径R1であり、Rspは、第2略直角三角形27の斜辺の曲率半径R2であり、DscはC1min、Lcpは、a2x,a2yであり、Lspは、b1x、b1yである。
また実施例、比較例において、吸収層厚みは、吸収層4の厚み寸法であり、誘電体層厚みは、誘電体層3の厚み寸法である。また、ピーク周波数は、電磁波の吸収量が最大となる周波数であり、ピーク吸収量は、電磁波の吸収量の最大値であり、15dB帯域幅は、15dB以上の吸収量が得られる周波数の幅である。また、面積比の非パターンは、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターン12が形成されていない領域の面積の値であり、面積比のパターンは、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターン12が形成される領域の面積の値である。また実施例1〜16において、磁性材料は、吸収層4に含有される磁性体である。
図10は、図1のパターンの吸収特性を参考として示すグラフである。図11は、実施例1〜4の吸収特性を示すグラフである。図12は、実施例5〜10の吸収特性を示すグラフである。図13は、実施例11〜16の吸収特性を示すグラフである。図10〜図13において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、反射損失を示す。反射損失は、電磁波吸収体で吸収されることによる損失であり、反射損失の絶対値に相当する値が電磁波吸収体による吸収量となる。表1および図11〜13から明らかなように、本発明に従う電磁波吸収体は、吸収量の最大値が大きい、優れた吸収特性を有している。
図14は、パターンの面積比と吸収量との関係を示すグラフである。図15は、パターンの面積比と吸収帯域幅との関係を示すグラフである。図14において、横軸は、パターン層全領域のうちパターンが形成される面積の割合を百分率で示し、縦軸は、電磁波吸収体による吸収量の最大値を示す。図15において、横軸は、パターン層全領域のうちパターンが形成される面積の割合を百分率で示し、縦軸は、電磁波吸収体による吸収量が15dB以上の周波数の帯域幅を示す。吸収量が15dB以上の周波数の帯域幅は、吸収量が15dB以上となる連続した周波数の帯域の最も高い周波数から最も低い周波数を減算した値である。
図14および図15は2.4GHz帯の電磁波吸収体として設計した結果を示す。この図を作成するに当たり、吸収周波数(ピーク周波数)が2.45GHzから3.0GHz外れたものは2.4GHz帯電磁波吸収体となり得ず、この理由で比較例2は図14および図15から除外している。図14および図15には、星形のパターン12を用いた場合の例を×印で示し、図5および図6に示すような放射形パターンと略方形パターン(曲率十字パッチ)のパターン12を用いた実施例1〜4を○印で示し、図8に示すような正方形のパターン40を用いた比較例1,2を◆印で示し、図9に示すような円形のパターン41を用いた比較例3〜7を■印で示す。
表1および図14および図15から明らかなように、パターンの面積比が増すと吸収量が大きくなり、且つ15dB以上の吸収量が得られる帯域幅が大きくなる。パターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積が0.6以上となる場合、吸収量の最大値が大きく、しかも吸収量が15dB以上と高くなり、且つ15dB帯域幅が70MHz以上と広くなる。さらに実施例1〜16のように、放射形と略方形との組合せ(曲率十字パッチ)のパターン12を有し、隣接するパターン12間の隙間の幅寸法が連続的に変化する場合、吸収量が高い帯域幅が広くなり、且つ広帯域特性を示す傾向がある。円形の場合、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積を大きくすることが困難であり、電磁波の吸収量の最大値が小さく、しかも隣接するパターン41間の隙間の幅寸法が連続的に変化しても、吸収量が高い帯域幅は小さい。つまりパターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積が0.6以上とし、かつ隣接するパターン12間の隙間の幅寸法が連続的に変化する構成とすることによって、電磁波の吸収量のピーク値が高く、吸収量の高い帯域、たとえば15dB以上の吸収量が得られる帯域幅を大きくすることができる。実施例1〜16では、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積が0.69以上であり、電磁波の吸収量のピーク値が17dB以上であり、15dB以上の吸収量が得られる帯域幅がたとえば図12に示す通り70MHz以上と、UHF帯全般に渡って優れた電磁波吸収体を実現している。実施例12、14および15などで15dB帯域幅が70dB未満の場合があるが、これは1GHz付近の電磁波吸収体を大幅に薄型化して設計した場合の結果である。
図16は、参考のために、パターン間の隙間の幅寸法の変化と吸収特性との関係を、星形のパターンと正方形のパターンとで比較して示すグラフである。図16において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、反射損失を示す。図16から明らかなように、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積が0.6以上であり、且つパターン間の隙間の幅寸法が連続的に変化する構成は、パターン間の隙間の幅寸法が一定の場合に比べて、その幅寸法が大きいか小さいかに関らず、電磁波の吸収量のピーク値を高くすることができる。
図17は、表1および2に示されるパターン間の隙間の幅寸法の変化と吸収特性との関係を、吸収対象の周波数を2.4GHz帯とし、放射形パターンと略方形パターンとの間の隙間が変化する場合と一定の場合とで比較して参考までに示すグラフである。図18は、表1および2に示されるパターン間の隙間の幅寸法の変化と吸収特性との関係を、吸収対象の周波数をUHF帯とし、放射形パターンと略方形パターンとの間の隙間が変化する場合と一定の場合とで比較して示すグラフである。図17および図18において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、反射損失を示す。図17には、実施例4の特性を実線で示し、比較例8の特性を2点鎖線で示し、比較例9の特性を点線で示す。図18には、実施例7の特性を実線で示し、比較例11の特性を2点鎖線で示し、比較例10の特性を点線で示す。
図17および図18から明らかなように、放射形パターン30と略方形パターン31とが組合される構成においても、パターン層全領域の面積を1とした場合、パターンが形成される領域の面積が0.6以上であり、且つパターン間の隙間の幅寸法が連続的に変化する構成は、パターン間の隙間の幅寸法が一定の場合に比べて、その幅寸法が大きいか小さいかに関らず、電磁波の吸収量のピーク値を高くすることができる。しかもこの効果は、吸収対象とする電磁波の周波数に関らず達成することができる。このような効果は、パターン間の隙間の幅寸法を連続的に変化させる、すなわちパターン導体間の結合を連続的に制御させることによって、電磁波に対して共振現象をより強く発現させ、その結果、より電磁波を減衰させる事ができると考えられる。
以下、実測結果を記す。図2の構成の電磁波吸収体1を製作した。パターン層5として実施例10のパターン形状をアルミ蒸着PETシートからパターン形状をエッチング処理にて形成したシートを用い、吸収層4として塩化ビニル樹脂100phrにフェライト粉445phrを加熱混練した後カレンダー成形にて作成したシートを使用した。この吸収層は、950MHz帯での複素比透磁率の実部(μ’)が2.6、虚部(μ”)が1.0、複素比誘電率の実部(ε’)が31、虚部(ε”)が2であるシートを厚さ1.5mmで用いている。さらに誘電体層3としてポリプロピレン樹脂発泡体(磁性はなく、950MHz帯での複素比誘電率の実部(ε’)が1.25、虚部(ε”)が0.05)の5.5mm厚を用い、反射層2としてアルミ蒸着PETシートを使用した。接着剤による積層後、総厚7.5mm、900mm×1,800mmのサイズでの重量7.5kgのUHF帯用電磁波吸収体を得た。
なお本発明で用いた反射層2はアルミ蒸着層が400〜500Åのアルミ蒸着PETシートである。そのシートの、KEC法による1GHzでのシールド性を測定したところ、電界シールド性が45dB、磁界シールド性が28dBであった。
図19は、電磁波吸収体1の電磁波吸収量のシミュレーション結果と実測結果とを示すグラフである。図19において、横軸は周波数を示し、縦軸は反射損失を示す。図19に示されるように、シミュレーション結果と実測結果に大きな差がないことがわかる。実測結果は、吸収周波数のピーク値が960MHzで、吸収量が24dB且つ15dB吸収量を示す吸収帯域が70MHzであった。電磁波吸収測定は、電波暗室内で行い、試料サイズは一辺5λ相当の四角形状とし、電波送受信用のダブルリッジドアンテナから試料までの距離を10λ相当離し、ネットワークアナライザーHP8720ESに同軸ケーブルで接続して、いわゆるフリースペース法に基づいて行った。
RFIDシステムにおいて、リーダ/ライタと、トランスポンダとの間の通信に、UHF帯の電磁波を利用することによって、リーダ/ライタと、トランスポンダとの間の長距離無線通信が可能となる。UHF帯の電磁波を利用する場合、トランスポンダであるICタグを商品に装着しておくことによって、たとえばフォークリフト、台車、あるいはベルトコンベア上の商品ついて、一括して情報管理できることになる。ICタグからの情報読み取りおよび書き込みは、予め定める設置場所に設置されるICゲートとなどと呼ばれる装置に内蔵されるリーダ/ライタによって行なわれる。
このようなRFIDシステムを導入するにあたって、リーダ/ライタの設置場所周辺に、金属類などの導電性材料から成る物体、内部にデッキプレートや筋金を有するコンクリートから成る物体が存在すると、これら物体による反射波の干渉によって通信環境が劣化し、リーダ/ライタによる読取率および書込率の低下を招いてしまう。またリーダ/ライタの設置場所周辺に、他のICゲートが存在するなど、他のリーダ/ライタが存在すると、この他のリーダ/ライタからの直接波の干渉によって通信環境が劣化し、リーダ/ライタによる読取率および書込率を低下させてしまう。これらが、ICタグシステム(RFIDシステム)の導入の障害となっている。
大量の商品を取扱う流通機関では、大量の商品を一括管理可能なUHF帯の電磁波を利用するRFIDシステムの導入が望まれているが、電磁波の干渉の問題を解決できずに、導入が実現されていない。一般に集荷、配送という機能を受け持つ流通部門のある場所や流通センターは、どうしても倉庫やコンテナ、トラックといった金属類の物体が多い環境にあり、しかもそれらが十分に間隔を設けることなく運用されているため、そこに後からICタグシステム(RFIDシステム)を導入しようとしても、前述のような電磁波の干渉の問題が避けられなくなっているためである。
本発明の電磁波吸収体1,1A,1Bは、このようなRFIDシステムの通信環境を改善するために、リーダ/ライタ付近の物体による反射波を吸収し、また互いに近い位置にある2つのリーダ/ライタからの電磁波が干渉しないように電磁波を吸収するために用いることができる。このように電磁波吸収体を備えるRFIDシステムは、読取率および書込率の高い好適なシステムとなる。
図20は、電磁波吸収体1によるRFIDシステムの通信改善効果を確認する実験のための実験装置50を簡略化して示す斜視図である。図21は、電磁波吸収体1によるRFIDシステムの通信改善効果を確認する実験の実験結果を示すグラフである。図21には、床面51に電磁波吸収体1を使用する場合と使用しない場合の電界強度分布を比較して示す。図21において、横軸はアンテナ間距離を示し、縦軸は受信電力を示す。本発明の電磁波吸収体1によるUHF帯の電磁波を利用するRFIDシステムの通信改善の効果を確認するため、実験装置50を用いて電波暗室にて実験を行った。使用した電波暗室は3m法電波暗室である。電波暗室はピラミッド状電波吸収体を5面に設置しているが、床面51は、長辺の寸法L51が4mであり、短辺の寸法W51が2mである長方形状の金属面である。本発明の電磁波吸収体1を、床面51の影響を抑えるために床材として使用した。まず、電磁波吸収体1を設けない状態で、床面51から高さH50=1.2mの位置に送信アンテナ(リーダ:円偏波パッチアンテナ、富士通製TFU−RW351)52と受信アンテナ(ダイポールアンテナ、Advantest社製TR1722)53を設置して、アンテナ間距離L50を変化させながら、受信電力値を測定した。同じくその床面51全体に実施例16のパターン層を有して製造した電磁波吸収体1を敷詰めて、同様にアンテナ間距離L50を変化させながら、受信電力値を測定した。それらの結果と、比較のために自由空間伝搬損失を示す理論値をフリスの式(5)により求め、合わせて図20に示す。式(5)において、PRは、受信電力であり、PTは、送信電力である。
図20から電磁波吸収体1を用いない場合(床面が金属の場合)に理論値から上下に交互に大きく外れ、定在波がたっていることが伺える。直接波と反射波の干渉によるものであるが、この定在波の電界強度の低いエリアがタグの読取感度をより下回った場合に読取不良が発生する。この条件でダイポールアンテナの位置にUHF帯ICタグを10枚設置して、その読み取り試験を行うと、リーダからの距離(アンテナ間距離)L50が1.5〜1.7mに於いて読取率は10〜70%であった。
図20の床材として電磁波吸収体1を用いた場合の結果をみると、定在波発生が抑制されていることがわかる。電磁波吸収体1が反射波を抑制しているためである。この状態でタグ読取率を評価すると、98%以上の読取率を得ることができた。
本発明の電磁波吸収体1は、反射層2を有しており、パターン層5側からの入射電磁波は反射もしないが透過もしない、反射層2側から入射する電磁波は反射するが透過はしない、という電磁波の耐透過性を有している。これにより、他のリーダからの直接波や反射波の経路に電磁波吸収体1を設置することで、それらの不要電波の到来を大きく抑えることが可能となる。特に特定周波数の電磁波を遮蔽するが、反射しないという電波吸収体1が薄型、軽量で得られるため、近接するICゲート間の狭い隙間でも設置可能であり、有効な不要電波低減策として利用することが可能となった。さらに近接したICゲートには電波吸収体の電磁波入射側が対向するそれぞれのゲートに向くように、背面側を合わせて電磁波吸収体を2枚重ねで使うことが有効であるが、限られたスペース(約25cm幅)に収めて使用するため、電磁波吸収体の薄型化は重要な課題であった。本発明の電磁波吸収体1によってはじめて、薄型化が達成できて実際のアプリケーションとして評価検討することが可能となった。このように本発明の電磁波吸収体1,1A,1Bは、このようなRFIDシステムの通信環境を改善することができる。
図22は、電磁波吸収体1を用いたパーティション57を示す斜視図である。本発明の電磁波吸収体1は、そのまま壁材や床材等として用いることもできるし、たとえば図22に示すように、フレーム55によって電磁波吸収体1を保持し、フレーム55にキャスター56を取付けて、自立型のパーティション57を形成するようにしてもよい。またパーティション57以外にも、電磁波吸収体1をフレーム55で保持したパネルを形成することもできる。フレーム55およびキャスター56は、樹脂、木材、金属等の材料を用いることができる。さらにたとえば、マイクロ波加熱機の加熱機から外部につながる出入口部分の開閉機構(シャッター、扉、カーテン等)に用いて漏洩電波の抑制用途で使用することができる。
図23は、電磁波吸収体1を用いて形成される電磁波暗室構造体60を示す斜視図である。図23には、一部を切欠いて内部を示し、電磁波暗室構造体60内の電界強度測定に用いる装置を併せて示す。電磁波暗室構造体60は、電波暗室または電波暗箱などと呼ばれ、電磁波が遮断される内部空間を形成する構造体である。以下、電磁波暗室構造体60を、電波暗箱60という。電磁波吸収体1を、内方側に電磁波吸収面(図2の上方側であって反射層2と反対側の面)を向ける態様で箱形に組み、UHF帯対応電波暗箱60を作製した。電波暗箱60は、幅寸法L60が1800mmであり、奥行き寸法W60が800mmであり、高さ寸法H60が800mmである。
図24は、電磁波吸収体1を用いて形成される電波暗箱60の内部空間の電界強度分布を測定した結果を示すグラフである。図24において、1つめの軸は受信電力を示し、2つめの軸は横軸移動距離を示し、3つめの軸は縦軸移動距離を示す。電波暗箱60の中で図22のように、図22と同じ送信アンテナ52と受信アンテナ53とを、床面に平行である水平な第1方向αにアンテナ間距離L50=1.5mの間隔をあけて設けた。送信アンテナ52は、床面からの高さH52が1.2mの位置に固定され、受信アンテナ53は、第1方向αに直交する水平な第2方向βと、第1および第2方向α,βに直交する鉛直な第3方向γとに、移動可能に設けた。受信アンテナ53を第2方向βおよび第3方向γに移動させながら、受信される電界強度をRhode & Schwarts製テストレシーバーESSで測定した。
結果を図24示す。図24は、通信距離(アンテナ間距離L50)が1.5mである場合の通信方向(第1方向)に垂直な平面における電界強度(受信電圧)分布を示す。また図24には、受信アンテナ53の第2方向βの位置を、受信アンテナ53が送信アンテナ52と第1方向αに平行な直線上に並ぶ基準点からの第2方向β一方への距離(横軸移動距離)で示し、受信アンテナ53の第3方向γの位置を、基準点からの第3方向γ一方への距離(縦軸移動距離)で示す。
図24に示されるように、電界強度は電波暗箱60内で安定しており、簡易な電波暗箱60として十分に使用可能なレベルである。この電波暗箱60は、反射層2のシールド効果により外乱ノイズや他波干渉等の不要電磁波の影響を受けることなく、その中でタグやリーダ/ライタの品質検査(通信距離評価)や製品開発を遂行することが可能となる。部屋や箱状に組み合わせる場合、電磁波吸収体1の軽量化及び薄型化が重要となる。軽量化は電波暗箱に用いるフレームやアングルや補強筋金の断面積低減に寄与することができ、低コスト化が可能になるためであり、薄型化は内部空間(試験空間)の有効活用につながることになるためである。このように電磁波吸収体を用いて構成される電波暗室構造体は、好適に用いることができる。
図25は、電磁波吸収体1を用いて形成される送受信方向制御装置70を示す斜視図である。図25(1)は、電磁波吸収体1を用いていない状態の送受信アンテナ71を示し、図25(2)は、電磁波吸収体1を用いて形成される送受信方向制御装置70が側壁として用いられる状態の送受信アンテナ71を示す。送受信方向制御装置70は、図25(2)に示すように、電磁波吸収体1を、内方側に電磁波吸収面(図2の上方側であって反射層2と反対側の面)を向ける態様で筒状、たとえば四角筒状に形成し、軸線方向一端部で送受信アンテナ71の側面に装着し、軸線方向他端部を送受信方向に突出させるように設けられる装置である。軸線方向寸法L70は、20cmである。
図26は、送受信方向制御装置70の性能を評価する試験の結果を示すグラフである。図26の実線が図25(1)の結果、図26の点線が図25(2)の結果となる。図26は、送受信アンテナ71の指向性を測定した結果を示す。図26において、横軸は、測定角度を示し、縦軸は、送受信アンテナ71を送信アンテナとし、別途受信アンテナを設け、その受信アンテナで受信した受信電力を示す。測定角度は、送受信アンテナ71が正面(受信アンテナ)を向いた位置を0°として、右旋方向に一周させ、360°で0°の位置に戻る。受信アンテナと反対を向いた位置が180°となる0°(360°)で正対する位置関係に受信電力測定装置を置き、アンテナの向き(測定角度)に応じた受信電力の変化を測定している。0°(360°)の際の受信電力値から3dB(50%)低下するまでの角度範囲をアンテナ電波指向角度として評価する。
この試験では、図25(2)に示すように、送信アンテナ(富士通製リーダ/ライタTFU−RW351)71の側壁に、送受信方向制御装置70を設けて、図25のように送受信方向制御装置70を設けない場合と比べて、指向性を確認する試験を行った。結果を図26に示す。この使用法は金属板が用いられるコーナーリフレクター等の用途に電磁波吸収体1を用いるものである。電磁波吸収体1が、送受信アンテナ71に接近しているために十分な電磁波吸収性を発現できないが、本電磁波吸収体1は反射層2を有しているため、電磁遮蔽性に優れている。これにより送受信アンテナ71から発生するサイドロープを抑えることができ、横方向への干渉を低減することが可能となる。結果は、図26に実線で示すうに、電磁波吸収体1を配置しない場合の0度(°)の受信電力が76.14dBμV、受信電力レベルが半減(3dB低下)する電波指向角度である半値角60度(°)であったものが、電磁波吸収体1(送受信方向制御装置70)を配置することで、図26に破線で示すように、0度(°)の受信電力が70.76dBμV、半値角52度(°)となった。反射波を抑えることで通信距離も短くなるものの、指向性を制御することができている。このように送受信方向制御装置70は、好適に送受信方向を制御することができる。
図20〜図26に示した電波吸収体1の応用例は、薄型かつ軽量化を達成した電磁波吸収体1であるので、より扱い易く、かつ低コストでの提供が可能となる。これらの応用例で用いられる電磁波吸収体1のパターン層は、本発明に従うものであれば、どのようなパターン層であってもよい。また電磁波吸収体1だけでなく、層構成の異なる電磁波吸収体1A,1Bを用いることができる。さらに本発明の電磁波吸収体1,1A,1Bの用途は、前述の用途に限定されるものではなく、本発明の電磁波吸収体を用いる限りあらゆる製品が対象となる。
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、構成を変更することができる。たとえば各パターン12は、吸収層4または誘電体層3など損失層7の表面に直接形成し、板状基材11を用いない構成としてもよい。また損失層7は、必ずしも吸収層4と誘電体層3との両方を備えている必要はなく、いずれか一方だけを備える構成、たとえば吸収層4だけを備え、誘電体層3を備えていない構成であってもよい。また損失層7は、吸収層4と誘電体層3とに加えて、1または複数の他の層を備える構成であってもよい。また反射層2のない構成もあり得る。前述の各形態のうちの2つ以上の形態の構成を組合せてもよい。