JP6661171B2 - 蛍光性標識一本鎖核酸及びその用途 - Google Patents

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Description

本発明は、蛍光性標識一本鎖核酸及びその用途に関する。本発明は、蛍光バックグラウンドをより低減することが可能な蛍光性標識一本鎖核酸及びその用途に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2014年3月31日出願の日本特願2014−72280号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
細胞の生命現象の解析および病気因子の診断において分子レベルでの検出や診断が要求されてきている。これを達成するには特定のたんぱく質や核酸配列を検出する必要があり、その検出には、蛍光が広く利用されている。具体的には、標的たんぱく質、および標的核酸配列のような標的物質に結合して、蛍光強度が増大するような蛍光物質を用いる方法が知られている。前記蛍光物質としては、例えば、フォレスター共鳴エネルギー・トランスファー(FRET)効果を示すものや二重らせん構造にインターカレーションし、励起光の照射により蛍光を発する物質が利用されている。
例えば、非特許文献1に記載されるMolecular Beacon法では、単独でステム・ループ構造をとる核酸配列の5’末端、3’末端にそれぞれ異なる色素を導入した核酸を使用する。ハイブリダイズしていない時にはFRET効果により消光し、特異的ハイブリダイゼーションが生じると蛍光を発する。この方法では、配列がステム・ループ構造をとる必要があることや、蛍光色素を末端に導入する必要があることなどの制約があった。
そこで、上記のような従来の技術に代わる別の消光機構として、2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果を採用する方法が提案されている(非特許文献2〜5、特許文献1)。これは1本鎖の時にはエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーブバインディング(溝結合)すると、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子の化学構造を同一分子内に有する複合体標識物質を用いる方法である。
この標識物質をオリゴヌクレオチドに導入したプライマーまたはプローブ(エキシトンオリゴマーと呼ぶことがある)を用いて、標的核酸の増幅や検出に使用することができる。このエキシトンオリゴマー等は、ハイブリダイゼーション前後の蛍光のスイッチングを1種類の色素で可能にするものであり、また、増幅反応のリアルタイムモニタリングに利用する場合、配列特有の蛍光シグナルを与えることができる。そのため、SYBRグリーンIなどのインターカレーターを用いたときに非特異的増幅も検出されてしまうという従来技術の問題を克服することができる。さらに、蛍光団をdTまたはdCに導入できるので、配列の制約をほとんど回避することもできる。
特許文献1:日本特開2009−171935号公報(特許第4370385号公報)
特許文献2:日本特開2013−183736号公報
特許文献1及び2の全記載は、ここに特に開示として援用される。
非特許文献1:Tyagi, S., Kramer, F. R. (1996) Nat. Biotechnol. 14,303-308.
非特許文献2:Ikeda S, Kubota T, Kino K, Okamoto A., Bioconjug Chem. 2008. 19. 1719-1725.
非特許文献3:Ikeda S, Kubota T, Yuki M, Okamoto A., Angew Chem Int Ed Engl. 2009. 48. 6480-6484.
非特許文献4:Ikeda S, Yuki M, Yanagisawa H, Okamoto A., Tetrahedron Lett. 2009, 51, 7191-7195
非特許文献5:Takeshi Hanami, Diane Delobel, Hajime Kanamori, Yuki Tanaka, Yasumasa Kimura, Ayako Nakasone, Takahiro Soma, Yoshihide Hayashizaki, Kengo Usui, Matthias Harbers, PLOS ONE, August 2013, volume8, Issue 8, e70942
非特許文献1〜5の全記載は、ここに特に開示として援用される。
しかし、本発明者らがさらに検討したところでは、上記エキシトンオリゴマーを用いた場合でも、高い感度の測定においては、一定のバックグラウンドが存在していることが判明した。さらにこのバックグランドは、エキシトンオリゴマーをプローブとして用い、微量なターゲットに結合した際に生じるわずかな蛍光の検出する方法などにおいて、蛍光の検出を阻害する場合があることも判明した。
そこで本発明は、前記エキシトンオリゴマーが有するバックグランドをさらに低減した新規な蛍光性標識一本鎖核酸を提供すること、及びこの蛍光性標識一本鎖核酸の新たな用途を提供すること目的とするものである。
従来のエキシトンオリゴマーは2個の蛍光色素(チアゾールオレンジやその類似物)が導入された標識一本鎖核酸であり、1本鎖の状態では2個の蛍光色素がエキシプレックスを形成するエキシトン効果により、蛍光をほとんど発しない。しかし、例えば、ターゲットDNAとハイブリダイズさせると2個の色素がお互いに離れ、エキシトン効果を解消することによって蛍光色素が本来有する蛍光性を発揮する蛍光スイッチングの性質を持つ。
しかし、本発明者が検討したところでは、エキシトン効果による蛍光の消光機構も完璧ではなく、蛍光色素が本来有する蛍光性を完全に消光することができず、そのため1本鎖のときの蛍光由来のバックグラウンドが少なからず存在することが判明した。そこで、エキシトンオリゴマーを基本骨格として、蛍光のバックグラウンドのさらなる低減を目指して検討を重ねた。その結果、エキシトン効果による蛍光スイッチングとFRET効果と組み合わせることにより、蛍光のバックグラウンドのさらに低減できることを見出して本発明を完成させた。
本発明は以下のとおりである。
[1]エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を少なくとも2個有する標識一本鎖核酸であって、
前記一対の蛍光性原子団の1つ(以下、一対の蛍光性原子団Aと呼ぶ)が有する発光ピーク波長は、一対の蛍光性原子団の別の1つ(以下、一対の蛍光性原子団Bと呼ぶ)が有する励起ピーク波長より短く、
前記一対の蛍光性原子団Aと、前記一対の蛍光性原子団Bとは、フォレスター共鳴エネルギー・トランスファー(FRET)効果を有することを特徴とする標識一本鎖核酸。
[2]前記一対の蛍光性原子団Aを有する塩基と、前記一対の蛍光性原子団Bを有する塩基とは、前記一対の蛍光性原子団Aと前記一対の蛍光性原子団BとがFRET効果を有するような距離で前記標識一本鎖核酸に含まれる、[1]に記載の標識一本鎖核酸。
[3]
前記一対の蛍光性原子団Aを有する塩基と、前記一対の蛍光性原子団Bを有する塩基の間の距離は、1塩基〜11塩基である、[2]に記載の標識一本鎖核酸。
[4]
前記エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、下記式(16)、(16b)、(17)、または(17b)で表される構造を有する[1]〜[3]のいずれか1項に記載の標識一本鎖核酸。
式(16)、(16b)、(17)、および(17b)中、
Bは、天然核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシル)骨格または人工核酸塩基骨格を有する原子団であり、
Eは、
(i)デオキシリボース骨格、リボース骨格、もしくはそれらのいずれかから誘導される構造を有する原子団、または
(ii)ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有する原子団であり、
11およびZ12は、それぞれ、エキシントン効果を示す蛍光性原子団であり、同一でも異なっていてもよく、
1、L2およびL3は、それぞれ、リンカー(架橋原子または原子団)であり、主鎖長(主鎖原子数)は任意であり、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、L1、L2およびL3は、互いに同一でも異なっていても良く、
Dは、CR、N、P、P=O、BもしくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基または任意の置換基であり、
bは、単結合、二重結合もしくは三重結合であるか、
または、前記式(16)および(16b)中、L1およびL2は前記リンカーであり、L3、Dおよびbは存在せず、L1およびL2がBに直接結合していてもよく、
ただし、
式(16)、および(17)中、Eは、前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
式(16b)、および(17b)中、Eは、前記(ii)の原子団であり、
式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
[5]
前記式(16)で表される構造が、下記式(16−1)または(16−2)で表される構造であり、
前記式(16b)で表される構造が、下記式(16b−1)または(16b−2)で表される構造であり、
前記式(17)で表される構造が、下記式(17−1)で表される構造であり、
前記式(17b)で表される構造が、下記式(17b−1)で表される構造である、
[4]に記載の標識一本鎖核酸。
式(16−1)、(16−2)、(16b−1)、(16b−2)、(17−1)および(17b−1)中、
l、mおよびnは任意の正の整数であり、同一でも異なっていても良く、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、
B、E、Z11、Z12およびbは、前記式(16)、(16b)、(17)および(17b)と同じであり、
前記式(16−1)、(16−2)および(17−1)において、リン酸架橋中のO原子は、1つ以上がS原子で置換されていてもよい。
[6]
前記エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、前記式(16)で表される構造を有する、[4]または[5]記載の標識一本鎖核酸。
[7]
11およびZ12が、それぞれ独立に、下記式(7)から(10)のいずれかで表される原子団である、[4]〜[6]のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸。
式(7)〜(9)中、
1およびX2は、SまたはOであり、
nは、0または正の整数であり、
1〜R10、R13〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
11およびR12のうち、一方は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
15は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
16は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
11中のX1、X2およびR1〜R21と、Z12中のX1、X2およびR1〜R21とは、互いに同一でも異なっていてもよく、
式(10)中、
Eは、SまたはOであり、
2〜R12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
1は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、
3は、式(10)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
4は、式(10)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良い。
[8]
11およびZ12が、それぞれ独立に、前記式(7)または(8)で表される原子団であり、
前記式(7)または(8)で表されるZ11およびZ12が、下記式(19)または(20)で示される基である[7]に記載の標識一本鎖核酸。
式(19)および(20)中、
1、R1からR10、R13およびR14、R11ならびにR12は、式(7)〜(9)と同じである。
[9]
標的核酸を増幅するためのプライマーまたは標的核酸とハイブリダイズするためのプローブとして用いられる、[1]から[8]のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸。
[10]
[1]から[8]のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズし得る条件下において、プローブとのハイブリダイズの有無を、蛍光を測定することにより求める、標的核酸の検出方法。
[11]
[1]から[8]のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸をプライマーとして用いて、標的核酸を増幅することを含む、標的核酸の増幅方法。
本発明によれば、エキシトンオリゴマーを基本骨格とする標識一本鎖核酸であって、蛍光のバックグラウンドをさらに低減できる標識一本鎖核酸を提供できる。
実施例1で得られた、本発明の2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブのスペクトル測定結果を示す。ここでは、3’末端から12番目の塩基にチアゾールピンク(TP)を有し、3’末端から16番目の塩基にチアゾールオレンジ(TO)を有するオリゴヌクレオチド(EX16-12TOTP)を用いた結果を示す。 実施例1で得られた、1つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(従来技術)のスペクトル測定結果を示す。ここでは、EX16-12TOTPと同じ配列を有し、3’末端から16番目の塩基にチアゾールオレンジ(TO)を有するオリゴヌクレオチド(EX16.TO)を用いた結果を示す。 実施例1で得られた、1つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(従来技術)のスペクトル測定結果を示す。ここでは、EX16-12TOTPと同じ配列を有し、3’末端から12番目の塩基にチアゾールピンク(TP)を有するオリゴヌクレオチド(EX16.TP)を用いた結果を示す。 実施例1で得られた、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(EX8-12TOTP)の融解曲線解析結果を示す(チアゾールオレンジ(TO、3’末端から8番目の塩基)とチアゾールピンク(TP、3’末端から12番目の塩基)間の距離:3塩基)。比較として、上記と同じ位置にチアゾールオレンジ(TO)のみを導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析結果も示す。 実施例1で得られた、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(EX10-12TOTP)の融解曲線解析結果を示す(チアゾールオレンジ(TO、3’末端から10番目の塩基)とチアゾールピンク(TP、3’末端から12番目の塩基)間の距離:1塩基)。比較として、上記と同じ位置にチアゾールオレンジ(TO)のみを導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析結果も示す。 実施例1で得られた、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(EX14-12TOTP)の融解曲線解析結果を示す(チアゾールオレンジ(TO、3’末端から14番目の塩基)とチアゾールピンク(TP、3’末端から12番目の塩基)間の距離:1塩基)。比較として、上記と同じ位置にチアゾールオレンジ(TO)のみを導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析結果も示す。 実施例1で得られた、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(EX16-12TOTP)の融解曲線解析結果を示す(チアゾールオレンジ(TO、3’末端から16番目の塩基)とチアゾールピンク(TP、3’末端から12番目の塩基)間の距離:4塩基)。比較として、上記と同じ位置にチアゾールオレンジ(TO)のみを導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析結果も示す。 実施例1で得られた、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブ(EX18-12TOTP)の融解曲線解析結果を示す(チアゾールオレンジ(TO、3’末端から18番目の塩基)とチアゾールピンク(TP、3’末端から12番目の塩基)間の距離:8塩基)。比較として、上記と同じ位置にチアゾールオレンジ(TO)のみを導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析結果も示す。
<標識一本鎖核酸>
本発明は、エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を少なくとも2個有する標識一本鎖核酸である。そして、この本発明の標識一本鎖核酸は、
(a)前記一対の蛍光性原子団の1つ(一対の蛍光性原子団A)が有する発光ピーク波長は、一対の蛍光性原子団の別の1つ(一対の蛍光性原子団B)が有する励起ピーク波長より短く、かつ
(b)前記一対の蛍光性原子団Aと、前記一対の蛍光性原子団Bとは、フォレスター共鳴エネルギー・トランスファー(FRET)効果を有することを特徴とする。
エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団について、及びこのエキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する標識一本鎖核酸については、特許文献1及び2、並びに非特許文献2〜5に記載されている。しかし、上記(a)及び(b)の特徴を有する少なくとも2個の、エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する標識一本鎖核酸は、特許文献1及び2、並びに非特許文献2〜5に記載されていない。
本発明の標識一本鎖核酸は、少なくとも2個の、エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する一本鎖核酸である。
一本鎖核酸は、DNAまたはRNAあるいはその混成物、さらには一部又は全部に非天然の核酸塩基を有する核酸であることができる。また、本発明の標識一本鎖核酸は、標的核酸とハイブリダイズできる限り部分的に二本鎖構造を含んでもよい。詳細は後述する。
標識一本鎖核酸の塩基長さには特に制限はないが、主な用途がプローブまたはプライマーであること、さらには、少なくとも2個の、エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する一本鎖核酸であり、かつ上記(b)を満足するものであることから、一本鎖核酸の塩基長は、例えば、4〜100塩基長の範囲であり、好ましくは10〜50塩基長の範囲であり、より好ましくは10〜40塩基長の範囲であり、さらに好ましくは10〜30塩基長の範囲である。塩基長は用途により適切に選択される。例えばmRNAのキャプチャーに使用する場合は約80塩基長、PCRプライマーとして使用する場合は約40塩基長、プローブとして使用する場合は約30塩基長の一本鎖核酸が好適に使用される。
標識一本鎖核酸が有するエキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団の数は少なくとも2個であり、2個であること、及び3個以上であることができる。実用上は、FRET効果を発揮するためには、エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団の数は2個であれば良い。但し、標識一本鎖核酸の用途、蛍光性原子団の種類、一対の蛍光性原子団の距離、FRET効果の程度などを考慮して、3個であることもでき、さらに4個以上であることもできる。
エキシトン効果によれば、例えば、一本鎖状態での蛍光強度を抑え、二重らせん構造を効果的に検出可能である。エキシトン効果(exciton coupling)とは、例えば、複数の色素が並行に集合し、H会合体(H-aggregate)を形成することにより、ほとんど蛍光発光を示さなくなる効果である。この効果は、色素の励起状態が、Davydov splittingにより2つのエネルギーレベルに分裂し、上位エネルギーレベルへの励起→下位エネルギーレベルへの内部変換(internal conversion)→発光が熱的に禁制、という理由で生じると考えられる。ただし、これらの説明は、本発明を何ら制限しない。エキシトン効果が起こりうることは、H会合体を形成した色素の吸収バンドが単一の色素の吸収バンドより短い波長に現れることで確認できる。このような効果を示す色素としては、例えば、前述したチアゾールオレンジとその誘導体、チアゾールピンクとその誘導体、オキサゾールイエローとその誘導体、シアニンとその誘導体、ヘミシアニンとその誘導体、メチルレッドとその誘導体、ほか一般的にシアニン色素、アゾ色素と呼ばれる色素群が挙げられる。
これらの色素は、二重らせんを形成したDNA-DNA二本鎖やDNA-RNA二本鎖、もしくはホスホチオエート核酸やPNA(ペプチド核酸)やロックト核酸(LNA)(BNA)のような人工核酸とDNAもしくはRNAによって形成される二本鎖にインターカレーションによって結合しやすい。これらのような色素複数個を一本鎖核酸に導入しておくと、通常の一本鎖状態(例えば、ハイブリダイゼーション前のプローブ又はプライマーだけの状態)ではエキシトン効果によって強く消光されるが、標的のDNAもしくはRNAとハイブリダイゼーションすると会合体が解除されそれぞれの色素がばらばらに二本鎖にインターカレーションする。このとき色素間に電子的相互作用は無いのでエキシトン効果は生じず、強い蛍光発光を示す。このときの色素の吸収バンドは、単一の色素の吸収バンドと同じであり、色素間でエキシトン効果が生じていないことを示す。また、色素が二本鎖にインターカレーションしたときに、色素が本来有している構造上のねじれが解消されるので、蛍光発光をさらに強くすることがある。
特徴(a)
一対の蛍光性原子団の1つ(一対の蛍光性原子団A)が有する発光ピーク波長は、残りの一対の蛍光性原子団の1つ(一対の蛍光性原子団B)が有する励起ピーク波長より短い。発光ピーク波長は、一対の蛍光性原子団Aが励起光を照射された際に生じる発光スペクトルのピーク波長を意味し、蛍光性原子団Aの種類に応じて変化する。励起ピーク波長は、一対の蛍光性原子団Bが吸収し得る励起光スペクトルのピーク波長を意味し、蛍光性原子団Bの種類に応じて変化する。一対の蛍光性原子団Aが有する発光ピーク波長及び一対の蛍光性原子団Bが有する励起ピーク波長にはそれぞれ制限はない。但し、本発明の標識一本鎖核酸がプローブやプライマーとして用いられ、蛍光標識を検出に用いる場合には、蛍光発光は、蛍光性原子団Bからのものであることから、検出に適した発光強度及び波長を有する蛍光性原子団Bを選択し、蛍光性原子団Bが有する励起ピーク波長を考慮した上で、蛍光性原子団Aを選択することができる。また、蛍光性原子団Aが有する発光ピーク波長と蛍光性原子団Bが有する励起ピーク波長の関係は、両者の間でえられるFRET効果を考慮の上決定することができる。尚、一対の蛍光性原子団Aが有する2つの蛍光性原子団が同一でも異なってもよく、一対の蛍光性原子団Bが有する2つの蛍光性原子団も同一でも異なってもよい。一対の蛍光性原子団Aが有する2つの蛍光性原子団および一対の蛍光性原子団Bが有する2つの蛍光性原子団の、いずれか一方が異なる場合、各蛍光性原子団は、一対の蛍光性原子団Aが有する2つの蛍光性原子団の少なくとも一方の蛍光性原子団の発光ピーク波長が、一対の蛍光性原子団Bが有する2つの蛍光性原子団の少なくとも一方の蛍光性原子団の励起ピーク波長より短い。好ましくは、一対の蛍光性原子団Aが有する両方の蛍光性原子団の発光ピーク波長が、一対の蛍光性原子団Bが有する両方の蛍光性原子団の励起ピーク波長より短い。
特徴(b)
一対の蛍光性原子団Aと一対の蛍光性原子団Bとは、FRET効果を示す。フォレスター共鳴エネルギー・トランスファー(FRET)効果は、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer)とも呼ばれ、近接した2個の発色団の間で 励起エネルギーが、電磁波にならず電子の共鳴により直接移動する現象を言う。一方の発色団(供与体)で吸収された光のエネルギーによって他方の発色団(受容体)にエネルギーが移動し、受容体が蛍光分子の場合は受容体から蛍光が放射される。本発明の標識一本鎖核酸においては、一対の蛍光性原子団Bが有する励起ピーク波長より短い発光ピーク波長を有する一対の蛍光性原子団Aを、一対の蛍光性原子団BとFRET効果を示すように配置する。一対の蛍光性原子団Aと一対の蛍光性原子団BとがFRET効果を示す配置とは、例えば、一対の蛍光性原子団Aを有する塩基と、一対の蛍光性原子団Bを有する塩基とが、一対の蛍光性原子団Aと前記一対の蛍光性原子団BとがFRET効果を有するような距離で前記標識一本鎖核酸に含まれる場合である。一対の蛍光性原子団Aと一対の蛍光性原子団Bとが、FRET効果を有するような距離(塩基長)は、蛍光性原子団A及びBの種類や組合せにより異なるが、例えば、1塩基〜11塩基であり、好ましくは2〜8塩基であり、さらに好ましくは2〜7塩基であり、より好ましくは2〜6塩基であり、さらに一層好ましくは2〜5塩基であり、より一層好ましくは2〜4塩基である。尚、ここで、1塩基の距離とは、一対の蛍光性原子団Aと一対の蛍光性原子団Bとの間に、蛍光性原子団を有しない核酸が1つ存在することを意味する。蛍光性原子団Aと蛍光性原子団Bとの組み合わせとしては、例えば、チアゾールオレンジ(D514)とチアゾールピンク(D570)またはD640との組み合わせ、D436とチアゾールオレンジ(D514)、チアゾールピンク(D570)またはD640との組み合わせが挙げられる。
本発明の標識一本鎖核酸は、上記特徴(a)および(b)を満足することに加えて、任意で、一対の蛍光性原子団Aおよび一対の蛍光性原子団Bのいずれの原子団も、該標識一本鎖核酸の両末端から数えて2塩基以上内側に位置する塩基に位置する。この特徴を満足することで、エキシントン効果とFRET効果の両方を発揮することができる。
エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、特許文献1及び2、並びに非特許文献2〜5に記載されているものを例示できる。以下に具体的に記載する。
エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、下記式(16)、(16b)、(17)、または(17b)で表される構造を有することができる。
式(16)、(16b)、(17)、および(17b)中、
Bは、天然核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシル)骨格または人工核酸塩基骨格を有する原子団であり、
Eは、
(i)デオキシリボース骨格、リボース骨格、もしくはそれらのいずれかから誘導される構造を有する原子団、または
(ii)ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有する原子団であり、
11およびZ12は、それぞれ、蛍光性を示す原子団であり、同一でも異なっていてもよく、
1、L2およびL3は、それぞれ、リンカー(架橋原子または原子団)であり、主鎖長(主鎖原子数)は任意であり、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、L1、L2およびL3は、互いに同一でも異なっていても良く、
Dは、CR、N、P、P=O、BもしくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基または任意の置換基であり、
bは、単結合、二重結合もしくは三重結合であるか、
または、前記式(16)および(16b)中、L1およびL2は前記リンカーであり、L3、Dおよびbは存在せず、L1およびL2がBに直接結合していてもよく、
ただし、
式(16)、および(17)中、Eは、前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
式(16b)、および(17b)中、Eは、前記(ii)の原子団であり、
式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中、L1、L2およびL3の主鎖長(主鎖原子数)は、それぞれ2以上の整数であることが好ましい。L1、L2およびL3の主鎖長(主鎖原子数)は、上限は特に制限されないが、例えば100以下であり、より好ましくは30以下であり、特に好ましくは10以下である。
好ましくは、前記式(16)で表される構造が、下記式(16−1)または(16−2)で表される構造であり、前記式(16b)で表される構造が、下記式(16b−1)または(16b−2)で表される構造であり、前記式(17)で表される構造が、下記式(17−1)で表される構造であり、前記式(17b)で表される構造が、下記式(17b−1)で表される構造である。
式(16−1)、(16−2)、(16b−1)、(16b−2)、(17−1)および(17b−1)中、
l、mおよびnは任意の正の整数であり、同一でも異なっていても良く、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、
B、E、Z11、Z12およびbは、前記式(16)、(16b)、(17)および(17b)と同じであり、
前記式(16−1)、(16−2)および(17−1)において、リン酸架橋中のO原子は、1つ以上がS原子で置換されていてもよい。
11およびZ12は、エキシトン効果を示す蛍光性を有する原子団である。これにより、例えば、二重らせん構造となったときの蛍光の増大が大きく、二重らせん構造をいっそう効果的に検出することができる。
11およびZ12は、エキシトン効果を示す蛍光性を有する原子団であればよく、前記蛍光性を有する原子団は、特に制限されない。エキシトン効果を示すという観点からは、好ましくは、芳香族性を有する原子団が用いられる。Z11およびZ12は、例えば、それぞれ独立に、チアゾールオレンジ、チアゾールピンク、オキサゾールイエロー、シアニン、ヘミシアニン、その他のシアニン色素、メチルレッド、アゾ色素またはそれらの誘導体から誘導される基であることがより好ましい。また、その他の公知の色素から誘導される基も、適宜用いることができる。DNA等の核酸に結合することによって蛍光強度を変化させる蛍光色素は、数多く報告されている。典型的な例では、エチジウムブロミドがDNAの二重らせん構造にインターカレーションして強い蛍光を示すことが知られており、DNA検出に多用されている。また、ピレンカルボキシアミドやプロダンのような微視的極性に応じて蛍光強度を制御できる蛍光色素も知られている。また、前記チアゾールオレンジは、ベンゾチアゾール環とキノリン環をメチン基で連結した蛍光色素であり、通常微弱な蛍光を示すが、二重らせん構造をもつDNAにインターカレーションすることによって強い蛍光発光を与えるようになる。その他、例えば、フルオレセインやCy3等の色素も挙げられる。
11およびZ12は、それぞれ独立に、下記式(7)から(10)のいずれかで表される原子団であることがより好ましい。
式(7)〜(9)中、
1およびX2は、SまたはOであり、
nは、0または正の整数であり、
1〜R10、R13〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
11およびR12のうち、一方は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
15は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
16は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
11中のX1、X2およびR1〜R21と、Z12中のX1、X2およびR1〜R21とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
式(10)中、
Eは、SまたはOであり、
2〜R12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
1は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、
3は、式(10)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
4は、式(10)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良い。
前記式(7)〜(9)中、R1〜R21において、前記低級アルキル基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、前記低級アルコキシ基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であることがさらに好ましい。前記式(10)中、R2〜R12において、前記低級アルキル基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、前記低級アルコキシ基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であることがさらに好ましい。
前記式(7)〜(9)中、R11およびR12において、また、前記式(10)中、R1において、前記連結基が、炭素数2以上のポリメチレンカルボニル基であり、カルボニル基部分で前記式(16)、(16b)、(17)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合することがさらに好ましい。前記ポリメチレンカルボニル基の炭素数は、その上限は特に制限されないが、例えば100以下、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、特に好ましくは10以下である。
11およびZ12は、前記式(7)〜(9)で表される場合は、例えば、それぞれ独立に、式(19)または(20)で示される基であることがより好ましい。
式(19)および(20)中、X1は−S−又は−O−を示す。R1からR10、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、又はアミノ基を示す。R11及びR12の一方は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1およびL2に結合する連結基を示し、R11及びR12の他方は水素原子、または低級アルキル基を示す。
好ましい態様は以下のとおりである。
(i)Z11およびZ12が、それぞれ独立に、前記式(19)で表される原子団であり、前記式(19)中、X1は、Sであり、R1からR10は、水素原子であり、R11およびR12のうち、一方は、前記式(16)、(17)、(16b)および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、他方は、メチル基である。
(ii)Z11およびZ12が、それぞれ独立に、前記式(19)で表される原子団であり、前記式(19)中、X1は、Sであり、R1、R4、R5、R6、R7、R9およびR10は、水素原子であり、R2、R3およびR12は、メチル基であり、R8は、ハロゲン原子であり、R11は、前記式(16)、(17)、(16b)および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基である。
(iii)Z11およびZ12が、それぞれ独立に、前記式(7)で表される原子団であり、前記式(7)中、X1は、Sであり、nは、1であり、R1からR10、R15、R16およびR17は、水素原子であり、R11は、前記式(16)、(17)、(16b)および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、R12は、メチル基である。
11およびZ12が、それぞれ独立に、下記の各化学式のいずれかで表される原子団であることができる。これらは順にチアゾールオレンジ(D514)、D640、D436、D534、D543、およびチアゾールピンク(D570)である。尚、原子団Dで始まる名称については非特許文献3を参照のこと。
上記各化学式中、nは、正の整数である。
前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中、Bは、天然核酸塩基骨格を有していても良いが、前述の通り、人工核酸塩基骨格を有していてもよい。例えば、Bが、Py(ピリミジン環)、Py der.、Pu(プリン環)、またはPu der.で表される構造であることが好ましい。ただし、前記Pyとは、下記式(11)で表記される6員環のうち、1位にEと結合する共有結合手を有し、5位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、前記Py der.とは、前記Pyの6員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良く、前記Puとは、下記式(12)で表記される縮合環のうち、9位にEと結合する共有結合手を有し、8位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、前記Pu der.とは、前記Puの5員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良い。
本発明の標識一本鎖核酸において、核酸の基本骨格は、特に制限されず、例えば、オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、修飾オリゴヌクレオシド、ポリヌクレオチド、修飾ポリヌクレオチド、ポリヌクレオシド、修飾ポリヌクレオシド、DNA、修飾DNA、RNA、修飾DNA、LNA、PNA(ペプチド核酸)、または、これらキメラ分子のいずれであっても良いし、その他の構造であっても良い。また、前記核酸の基本骨格は、天然のものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。前記核酸は、本発明のプライマーやプライマーセットの場合、例えば、塩基対結合を形成し得るものであればよく、核酸試料や標的核酸配列の場合、例えば、相補鎖合成のための鋳型として機能すればよい。このため、前記核酸は、例えば、部分的に、または、全体が完全に人工的な構造からなるヌクレオチド誘導体であってもよい。前記核酸を構成する人工塩基としては、例えば、2-アミノ-6-(N,N-ジメチルアミノ)プリン ピリジン-2-オン、5-メチルピリジン-2-オン、2-アミノ-6-(2-チエニル)プリン、ピロール-2-カルボアルデヒド、9-メチルイミダゾ[(4,5)-b]ピリジン、5-ヨード-2-オキソ(1H)ピリジン 2-オキソ-(1H)ピリジン、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン、7-(2-チエニル)-イミダゾ[4,5-b]ピリジン、ブロモチミン、アザアデニンまたはアザグアニンから選択することができる。
本発明の標識一本鎖核酸としては、基本骨格は、例えば、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、それらの修飾体であることが好ましい。本発明において、「ヌクレオチド」とは、例えば、デオキシヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれであってもよく、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」は、例えば、デオキシヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれか一方から構成されてもよいし、両者を含んでもよい。本発明において、核酸の構成塩基数は、特に制限されない。核酸という用語は、一般に、ポリヌクレオチドという用語と同義である。オリゴヌクレオチドという用語は、一般に、ポリヌクレオチドの中でも、特に構成塩基数が少ないものを示す用語として用いる。一般には、例えば、2〜100塩基長、より一般的には2〜50塩基長程度のポリヌクレオチドを「オリゴヌクレオチド」と呼ぶが、これらの数値に限定されるものではない。ポリヌクレオチドという用語は、本発明において、例えば、ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド、ならびに、ペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸、S-オリゴ核酸などの人工合成核酸をも含むものとする。
前記ペプチド核酸(PNA)は、一般に、オリゴヌクレオチドのデオキシリボース主鎖が、ペプチド主鎖で置換された構造を有する。前記ペプチド主鎖としては、例えば、アミド結合によって結合したN−(2−アミノエチル)グリシンの反復単位があげられる。PNAのペプチド主鎖に結合させる塩基としては、例えば、チミン、シトシン、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、5−メチルシトシン、チオウラシルおよび2,6−ジアミノプリン等の天然に存在する塩基、ブロモチミン、アザアデニンおよびアザグアニン等の人工塩基があげられるが、これに限定されない。
LNAは、一般に、糖−リン酸骨格において、リボースの2'位の酸素原子と4'位の炭素原子との間がメチレン架橋で結合された、2つの環状構造を持つ核酸である。LNAを含むオリゴヌクレオチドがDNAとアニールすると、二本鎖のコンフォメーションが変化し、熱安定性が上昇する。LNAは、通常のオリゴヌクレオチドに比較して核酸に対する結合力が強いため、例えば、オリゴヌクレオチドの設計条件によって、より確実、強固なハイブリダイゼーションが可能となる。
本発明の標識一本鎖核酸は、前述の一対の蛍光性原子団を少なくとも2個有する標識構造を含むものであり、その結果、例えば、前記蛍光性原子団を含まない未標識核酸と比較して、ターゲットに対する特異性が高く、ハイブリダイゼーションが強くなる場合がある。すなわち、本発明の標識一本鎖核酸は、例えば、基本骨格が同じ塩基配列であり且つ同じ核酸断片長である未標識核酸と比べて、融解温度(Tm値)が向上することがある。このため、前記未標識核酸よりも、より強固にターゲットにハイブリダイズすることが可能な場合がある。したがって、このような性質を有する本発明の標識一本鎖核酸の場合には、例えば、効率良く、特異性の高い検出が可能となる。
本発明の標識一本鎖核酸は、このような特徴も有することから、例えば、従来のPNAやLNA等と同様に、Tm値を上げることで増幅の特異性を向上させるという応用技術になり得る。また、本発明の標識プライマーの基本骨格をPNAやLNAとすることによって、未標識のPNAやLNAよりも、さらにTm値を高くできる場合があるため、より一層ハイブリダイゼーションの効率を向上できる可能性がある。特に、後述するように、1塩基から数塩基の変異を識別する場合や、挿入や欠失を検出する場合、本発明の標識一本鎖核酸(例えば、標識PNA、標識LNA等も含む)を用いることで、効率よく、特異性の高い検出が可能となる。本発明の標識一本鎖核酸を、例えば、プライマーまたはプローブとして用いれば、ターゲット配列に対するフルマッチかミスマッチかによってTm値の差が大きく、ハイブリダイゼーション効率が異なることがある。このため、1塩基識別等の変異の検出がさらに容易になる可能性がある。また、本発明における標識一本鎖核酸は、未標識核酸と比較してTm値が高くなるため、例えば、特定領域に強固に結合し、その領域をマスクし、増幅の鋳型にならないような、PCR clamp法、PNA PCR clamp法、LNA PCR clamp法、PNA-LNA PCR clamp法へのプライマーとしての応用の可能性もある。
式(1)で表される構造の具体例を示せば、下式(1−3)〜(1−10)で表されるヌクレオチド構造、またはそれらの幾何異性体、立体異性体もしくは塩である構造である。
上記式(1−3)〜(1−10)中、nは正の整数である。
本発明の標識一本鎖核酸として特に好ましいのは、前述の(1−1)〜(1−10)で示す一対の蛍光性原子団を有する標識一本鎖核酸である。
次に、本発明の標識一本鎖核酸における一対の蛍光性原子団は、
(i)一つの分子内の二つの平面化学構造が同一平面内ではなく、ある一定の角度をもって存在するが、その分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには二つの平面化学構造が同一平面内に並ぶように配置することによって蛍光発光が生じるものであるか、
(ii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子群からなるものであるか、または、
(iii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子の化学構造を同一分子内に有することを特徴とするものである。
前記(ii)または(iii)の場合において、前記色素分子が、前記(i)記載の分子であることが好ましい。
[標識一本鎖核酸の合成]
本発明における標識一本鎖核酸は、特許文献1および2に記載の方法を参照して、調製できる。例えば、前記式(1−1)〜(1−10)に示す化合物も特許文献1および2に記載の方法を参照して合成できる。
本発明の標識一本鎖核酸の製造に応用できる製造方法(合成方法)としては、例えば、以下の方法がある。すなわち、まず、DNAの簡便なラベル化法として、DNA中の活性なアミノ基とラベル化剤中の活性化されたカルボキシル基とを緩衝溶液中で反応させる方法が広く用いられている。この方法は、特に、リンカーまたは色素の導入に応用できる。アミノ基の導入法としては、GLEN RESEARCH社が販売しているAmino modifierホスホロアミダイトを利用する方法などがある。
修飾DNAを基本骨格とする核酸の合成方法は良く知られており、例えば、いわゆるホスホロアミダイト法等により合成することができる。その原料となるホスホロアミダイト試薬も、公知の方法で簡便に合成することができる。本発明の核酸がDNA、特に短いオリゴDNAの場合、例えば、DNA自動合成機等で簡便に合成することができる。また、例えば、PCR等により、長鎖状の核酸(DNA)等を合成することもできる。DNAと色素分子との結合箇所は、前述の通り特に制限されないが、例えば、チミジンの5位が特に好ましい。チミジンの5位からさまざまな置換基を伸ばしたヌクレオチド誘導体の三リン酸はDNAポリメラーゼによる導入効率が比較的良いことが知られている。これにより、例えば、本発明の核酸が、短いオリゴDNAである場合のみならず、長鎖DNAである場合にも簡便な合成が可能である。
例えば、チアゾールオレンジを利用した、一本鎖DNAである本発明の蛍光プライマー(標識核酸)は、例えば、(1)DNA自動合成機で合成したDNAに緩衝溶液中で色素をつけるだけで調製でき、合成的に容易である、(2)酵素的に調製した長鎖DNAと色素を反応させることで、長鎖の蛍光プライマーの作製も可能である、などの利点を有している。また、例えば、500nm付近の比較的長波長の光で励起できる。
本発明の標識一本鎖核酸は、標的核酸とハイブリダイズするためのプローブまたは標的核酸を増幅するためのプライマーとして用いられる。
本発明は、本発明の標識一本鎖核酸をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズし得る条件下において、プローブとのハイブリダイズの有無を、蛍光を測定することにより求める、標的核酸の検出方法を包含する。標的核酸の検出方法に用いることができる核酸増幅方法、具体的には以下のとおりである。
この核酸増幅方法は、核酸試料中の標的核酸配列を増幅する方法であって、下記(A)工程と下記(B')工程とを含む。
(A)前記核酸試料を準備する工程
(B')下記(B1')工程および(B2')工程を含む工程
(B1')プライマー、または、一対のプライマーを含むプライマーセットを用いて、核酸試料中の標的核酸配列を増幅する工程
(B2')前記(B1')工程で増幅した一本鎖の核酸配列と、本発明の標識一本鎖核酸からなるプローブとのハイブリダイゼーションを行う工程
前記本発明の標識一本鎖核酸からなるプローブは、例えば、前記式(16)、(16b)、(17)、または(17b)で表される構造を少なくとも一つ含むものであることができる。
上記の核酸増幅方法におけるプライマーおよびプライマーセットは、特に制限されず、例えば、目的の標的核酸配列や、核酸増幅反応の種類等に応じて、適宜設定できる。また、本発明における核酸増幅方法の種類は、特に制限されず、前述のような、SMAP法やLAMP法等の各種等温増幅法やPCR法等があげられ、前記第一の核酸増幅方法と同様に行うことができる。
プローブとして用いる本発明の標識一本鎖核酸の塩基配列は、標的核酸配列に応じて適宜設計でき、ストリンジェントな条件下で、前記標的核酸にハイブリダイズするように設計される。「ストリンジェントな条件」は、例えば、本発明のプローブとその相補鎖との二重鎖の融解温度Tm(℃)、および、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度等に依存して決定できる。具体例として、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等を参照できる。
上記の核酸増幅方法によれば、本発明の標識一本鎖核酸をプローブとして使用するため、例えば、核酸増幅反応液の蛍光強度を検出するのみで、例えば、標的核酸配列の増幅の有無を判断することができる。これは、例えば、以下のような理由による。プローブが相補的な核酸配列にハイブリダイゼーションすると、二本鎖核酸が形成されるため、前記二本鎖核酸に前記標識プライマーの原子団(色素)がインターカレーションまたはグループバインディングされる。この際、例えば、前述のような前記原子団(色素)のエキシトン効果が生じないため、前記原子団は蛍光発光を生じる。一方、ハイブリダイゼーションしなかった場合には、エキシントン効果が生じるため、前記原子団は蛍光発光を生じない。このため、例えば、プローブが、核酸増幅反応により得られた増幅産物にハイブリダイゼーションしない場合や、増幅が起きない場合、蛍光発光を生じる原子団が見られない、または、増加しないことなる。したがって、蛍光強度を検出すれば、増加した場合には、標的核酸配列が増幅したと判断でき、非増加の場合には、標的核酸配列が増幅していないと判断できる。特に本発明の標識一本鎖核酸は、ハイブリダイゼーションしない場合の蛍光バックグランドが、従来のエキシントン効果を有する標識プローブを用いた場合に比べて、検出感度が高くなるという利点がある。
前記標識一本鎖核酸プローブは、例えば、前記(B1')工程の核酸増幅反応の前に反応液に添加してもよいし、前記(B1')工程の核酸増幅反応の後に反応液に添加してもよい。前者の場合、蛍光強度の検出は、例えば、前記(B1')工程の核酸増幅反応と並行して、連続的または断続的に行ってもよいし、前記(B1')工程の終了後に行ってもよい。前記(B1')工程の反応終了後に行う場合は、あわせて、バックグラウンドとして、前記(B1')工程の反応開始前にも検出することが好ましい。他方、前記(B1')工程と(B2')工程とを別個に行う場合は、例えば、前記標識一本鎖核酸プローブを前記(B1')工程の核酸増幅反応の後に反応液に添加することが好ましい。この場合、蛍光強度の検出は、例えば、(B1')工程の後に行う。その際、バックグラウンドとして、例えば、前記(B1')工程の後であって、前記標識一本鎖核酸プローブの添加前もしくは添加直後の蛍光強度を、あわせて検出することが好ましい。検出方法の具体例は、前述の通りである。
(1)本発明における標識一本鎖核酸プローブは、液相でのホモジニアスアッセイ(96穴マイクロプレート又はキャピラリーなどを使用)で使用できる。
(2)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、PCRプローブとして使用できる。DNA増幅反応中での増幅曲線の検出(リアルタイムPCR)、TaqManプローブに代わるローコストな手法として応用できる。プライマーの標識、もしくは内部標識プローブとして使用することができる。
(3)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、DNAチップにおける捕捉プローブもしくは標識プローブとして使用することができる。ハイスループットで試薬不要なシステムであり、標識過程・洗浄過程が不要である。人為的に生じる誤差を大きく回避できる。ガラスやそれに代わる固相担体素材(金、ITO、銅などの基板、ダイヤモンドやプラスチックなど多検体を貼り付けることが可能な素材)においての同時多項目(ハイスループット)な解析が可能である。
(4)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、ビーズ、ファイバー、又はヒドロゲルへ固定化できる。半液体・半固体での環境下で遺伝子を検出することができる。液体のような測定環境を有しながら、固体のように持ち運ぶことが可能である。
(5)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、ブロッティング(サザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロットなど)用のプローブとして使用できる。目的の遺伝子断片だけを発光させて検出することができる。本発明の方法によれば、ハイブリダイゼーション操作の後、洗浄が不要である。
(6)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、細胞内核酸の検出・追跡のためのプローブとして使用することができる。これにより、細胞内のDNA/RNAの時空間的解析が可能になる。蛍光顕微鏡やセルソーターを使用することができる。DNAの標識、RNAへの転写・スプライシングの追跡、RNAiの機能解析などに応用できる。本発明の方法では、洗浄の必要が無いので、生細胞の機能追跡に適している。
(7)本発明の標識一本鎖核酸プローブは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)のプローブとして使用することができる。本発明の方法により、組織の染色などを行うことができる。本発明の方法では、洗浄の必要が無いので、人為的に生じる誤差が小さい。すなわち、本発明の標識一本鎖核酸プローブは、標的生体分子を認識しないときは蛍光を発しない蛍光色素として働くため、これを用いれば、煩雑な洗浄工程を必要としないバイオイメージングが確立できる。そのことは、高信頼性、低労力でリアルタイムな蛍光観測につながる。
(8)本発明の標識核酸プローブは複数の波長の色素団を利用することが可能であるため、1分子レベルで検出・追跡する際において,これらの励起光の背景光や散乱光の波長を大きく回避するデザインを容易に構築することが可能である。例えば、生体分子を1分子レベルで観測する場合において、励起光の漏れなどの背景光や散乱光が邪魔をする状態になり、これを回避する方法が種々必要となってくる。このような場合に本発明は特に有用である。
本発明の標識一本鎖核酸プローブの蛍光強度は、例えば、結合した色素部分のエキシトン相互作用のコントロールにより、効果的に変化させることができる。本発明において、特に、エキシトン相互作用を用いたアプローチによれば、on-offプローブとして機能するために十分高い消光性能を得ることができる。このようなon-off蛍光ヌクレオチドのデザインは、例えば、洗浄を必要としないバイオイメージングアッセイの確立のために非常に重要である。エキシトン効果を利用したプローブが示す光物理的性質は、非常に特徴的であるのみならず、DNAシークエンシング(配列決定)、ジェノタイピング(遺伝子型解析)、DNA構造遷移のモニタリングおよび遺伝子発現観測のための新規な蛍光DNAプローブのデザインに好適である。
また、本発明の標識一本鎖核酸をプローブとして用いれば、例えば、標的核酸配列を定量することにより、当該配列の増幅・分解・タンパク結合等の現象が生じたことを即座に検出するとともに、それらの現象量を定量することもできる。この検出および定量は、以下の説明により可能となるが、この説明は例示であり、本発明を限定するものではない。すなわち、まず、本発明のプローブ(核酸)が前記標的核酸配列と一定の物質量比でハイブリダイゼーションし、二本鎖を形成する。形成される二本鎖の物質量は、前記標的核酸配列の物質量と正比例するので、前記二本鎖の蛍光強度を測定することで、標的核酸配列を検出するとともに、その物質量を定量することができる。この場合において、本発明の標識一本鎖核酸は、バックグランドの蛍光発光がより抑制されているので、前記二本鎖の蛍光強度測定を妨害せず、より正確な測定が可能となる。
本発明の標識一本鎖核酸をプライマーとして用いて、標的核酸を増幅することを含む、標的核酸の増幅方法を包含する。本発明の標識一本鎖核酸をプライマーとして用いる標的核酸の増幅方法は、従来公知の種々の核酸増幅方法を例示でき、その反応形式は、何ら制限されない。前記核酸増幅方法としては、例えば、等温増幅法や、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法等があげられる。前記等温増幅法とは、一般に、等温で核酸増幅反応を行う方法である。このような方法としては、例えば、日本特公平7−114718号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示される鎖置換型増幅(SDA;strand displacement amplification)法;米国特許第5824517号明細書(その全記載は、ここに特に開示として援用される)、国際公開第99/09211号パンフレット(その全記載は、ここに特に開示として援用される)または国際公開第95/25180号パンフレット(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示されている改良SDA法;日本国特許第2650159号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示されている核酸配列増幅(NASBA;nucleic acid sequence based amplification)法;国際公開第00/28082号パンフレット(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示されているランプ法(LAMP;Loop-Mediated Isothermal Amplification)法;国際公開第02/16639号パンフレット(その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示されているICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids);自立複製(3SR;self-sustainedsequence replication)法;TMA(transcription-mediated amplification)法;日本国特許第2710159号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)に開示されているQベータレプリカーゼ法;日本国特許第389726号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)、日本特許第3942627号公報(その全記載は、ここに特に開示として援用される)およびNATURE METHODS(Vol.4,No.3,March 2007,pp.257-262)(その全記載は、ここに特に開示として援用される)、Mitani Y., ら2007., Nat. Methods 4(3): 257-262. (その全記載は、ここに特に開示として援用される)等に開示されている方法(以下、「SmartAmp(Smart Amplification Process)法」という)、Invader法、RCA(rolling cycle amplification)法等があげられる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
チアゾールオレンジ(TO)とチアゾールピンク(TP)の足場が導入されたオリゴDNA鎖の合成は、特許文献2に記載のアミダイト法(例えば、実施例2参照)により合成を行った。TOの導入は、目的の位置にNHS-Carboxy-dTを導入した直後にTO2ジアミドを反応させ、その後の配列は従来通りの方法で合成を行った。CPGからの切り出しおよび脱保護は28%アンモニア水中、55℃で4時間かけて行った。精製は逆相(RP-18)カラムを装備したHPLCで行った。
TO2ジアミド
その後、精製して得られた核酸とTP-エステルを、特許文献1に記載の方法(例えば、実施例6(チアゾールオレンジから誘導される構造を1分子中に2箇所導入した化合物の合成)参照)に従って、炭酸水素ナトリウムバッファー下で反応させ、逆相(RP-18)カラムを装備したHPLCで精製を行い、目的物を得た。
TP-エステル
上記方法で調製したチアゾールオレンジ(TO)とチアゾールピンク(TP)を導入したオリゴDNA鎖(配列番号1(5個とも塩基配列は共通))は以下のとおりである。
20-mer.EX16-12TOTP : 5'-TGTGZATCtTTCTCTTTCTC-3'
20-mer.EX8-12TOTP : 5'-TGTGTATCtTTCZCTTTCTC-3'
20-mer.EX10-12TOTP : 5'-TGTGTATCtTZCTCTTTCTC-3'
20-mer.EX14-12TOTP : 5'-TGTGTAZCtTTCTCTTTCTC-3'
20-mer.EX18-12TOTP : 5'-TGZGTATCtTTCTCTTTCTC-3'
(ZはTO標識したTを表し、tはTP標識したTを表す)
[実施例2]
(2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブと従来のエキシトン効果を有する蛍光プローブのスペクトル比較実験)
チアゾールオレンジの励起波長(490nm)で励起し、スペクトルの測定を行なった。スペクトル測定は島津社の蛍光測定装置(RF5300)を用いて行なった。濃度は各蛍光プローブ、および相補鎖(配列番号2)ともに1 μM、温度は23℃で測定を行なった。結果を図1A〜Cに示す。図1Aは、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブを用いた場合であり、図1BおよびCは、従来のエキシトン効果を有する蛍光プローブのスペクトルである。図1Aに示す2つのエキシトン効果を有する場合、FRET効果によるチアゾールピンクの波長(601nm)の蛍光を確認することができた。その際、1本鎖時(バックグラウンド)と2本鎖時(測定時)のシグナル強度の比(S/N比)は4.6であった。2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した場合、測定対象の波長のS/N比が4.6と1つの場合(図1B:S/N=2.1、図1C:S/N=1.8)よりも2倍以上良好になった。
これは1本鎖の場合、チアゾールオレンジ(533nm)はエキシトン効果により、蛍光エネルギーは有る程度失活しているものの、チアゾールピンクが近くに存在することによりFRETの効果を受けエネルギーを受けると同時に、このエネルギーもエキシトン効果により失活していることを示すものである。
[実施例3]
2つのエキシトン効果を有する蛍光色素を導入した蛍光核酸プローブの融解曲線解析はBioRad社のリアルタイムPCR装置(CFX96)を用いて行なった。濃度は各蛍光プローブ、および相補鎖ともに1μMで、25μlの容量で測定を行なった。4℃から95℃まで0.5℃刻みで昇温しながら測定を行なった。結果を図2A〜Eに示す。図2に示す結果は、チアゾールオレンジの蛍光の比較である(励起波長:495 nm)。チアゾールオレンジとチアゾールピンク間の距離が適正な場合FRETの効果により、チアゾールオレンジの蛍光が大きく低減している。
図2A〜Eの結果から、本実施例で用いた蛍光標識一本鎖核酸(DNA)では、2つのエキシトン効果を有する蛍光色素間の距離は間の塩基が3つ程度が最もFRETの効果を発揮していると考えられた。近すぎる(間の塩基が1つ)もしくは遠すぎる(間の塩基が5つ)場合には、FRETの効果は低くなる場合があることが分かる。図2A〜Eに示す融解曲線解析結果を得るために用いた各蛍光核酸プローブの塩基配列は以下のとおりである。
本発明は、蛍光標識プローブやプライマーを利用する分野に有用である。
配列番号1:実施例1で合成したオリゴDNA鎖(20マー)の塩基配列
配列番号2:実施例1で合成したオリゴDNA鎖(20マー)の相補鎖の塩基配列

Claims (9)

  1. エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を少なくとも2個有する標識一本鎖核酸であって、
    前記一対の蛍光性原子団の1つ(以下、一対の蛍光性原子団Aと呼ぶ)が有する発光ピーク波長は、一対の蛍光性原子団の別の1つ(以下、一対の蛍光性原子団Bと呼ぶ)が有する励起ピーク波長より短く、
    前記一対の蛍光性原子団Aは、下記式(7)で表される蛍光性原子団を有し、前記一対の蛍光性原子団Bは、下記式(8)で表される蛍光性原子団を有し、
    式(7)〜(8)中、
    1 、SまたはOであり、
    nは、0または正の整数であり、
    1〜R10、R13〜R17は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
    11およびR12のうち、一方は、核酸に結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
    15は、式(7)または(8)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
    16は、式(7)または(8)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
    一対の蛍光性原子団A中の式(7)の一方の蛍光性原子団中のX1およびR1〜R17と、他方の蛍光性原子団中の 1 よびR1〜R17とは、互いに同一でも異なっていてもよく、
    一対の蛍光性原子団B中の式(8)の一方の蛍光性原子団中の 1 よびR1〜R17と、他方の蛍光性原子団中の 1 よびR1〜R17とは、互いに同一でも異なっていてもよく、
    前記一対の蛍光性原子団Aと、前記一対の蛍光性原子団Bとは、フォレスター共鳴エネルギー・トランスファー(FRET)効果を有し、
    前記一対の蛍光性原子団Aを有する塩基と、前記一対の蛍光性原子団Bを有する塩基の間の距離は、2塩基〜4塩基であることを特徴とする標識一本鎖核酸。
  2. 前記エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、下記式(16)、(16b)、(17)、または(17b)で表される構造を有する請求項1に記載の標識一本鎖核酸。
    式(16)、(16b)、(17)、および(17b)中、
    Bは、天然核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシル)骨格または人工核酸塩基骨格を有する原子団であり、
    Eは、
    (i)デオキシリボース骨格、リボース骨格、もしくはそれらのいずれかから誘導される構造を有する原子団、または
    (ii)ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有する原子団であり、
    11およびZ12は、それぞれ、エキシントン効果を示す蛍光性原子団であり、同一でも異なっていてもよく、
    1、L2およびL3は、それぞれ、リンカー(架橋原子または原子団)であり、主鎖長(主鎖原子数)は任意であり、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、L1、L2およびL3は、互いに同一でも異なっていても良く、
    Dは、CR、N、P、P=O、BもしくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基または任意の置換基であり、
    bは、単結合、二重結合もしくは三重結合であるか、
    または、前記式(16)および(16b)中、L1およびL2は前記リンカーであり、L3、Dおよびbは存在せず、L1およびL2がBに直接結合していてもよく、
    ただし、
    式(16)、および(17)中、Eは、前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
    式(16b)、および(17b)中、Eは、前記(ii)の原子団であり、
    式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
  3. 前記式(16)で表される構造が、下記式(16−1)または(16−2)で表される構造であり、
    前記式(16b)で表される構造が、下記式(16b−1)または(16b−2)で表される構造であり、
    前記式(17)で表される構造が、下記式(17−1)で表される構造であり、
    前記式(17b)で表される構造が、下記式(17b−1)で表される構造である、
    請求項2に記載の標識一本鎖核酸。
    式(16−1)、(16−2)、(16b−1)、(16b−2)、(17−1)および(17b−1)中、
    l、mおよびnは任意の正の整数であり、同一でも異なっていても良く、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、
    B、E、Z11、Z12およびbは、前記式(16)、(16b)、(17)および(17b)と同じであり、
    前記式(16−1)、(16−2)および(17−1)において、リン酸架橋中のO原子は、1つ以上がS原子で置換されていてもよい。
  4. 前記エキシントン効果を示す一対の蛍光性原子団を有する塩基は、前記式(16)で表される構造を有する、請求項2または3記載の標識一本鎖核酸。
  5. 11およびZ12が、それぞれ独立に、下記式(7)から(8)のいずれかで表される原子団である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸。
    式(7)〜(8)中、
    1 、SまたはOであり、
    nは、0または正の整数であり、
    1〜R10、R13〜R17は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
    11およびR12のうち、一方は、前記式(16)、(17)、(16b)、および(17b)中のL1もしくはL2に結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
    15は、式(7)、または(8)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
    16は、式(7)、または(8)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
    11中の 1 よびR1〜R17と、Z12中の 1 よびR1〜R17とは、互いに同一でも異なっていても良い。
  6. 前記式(7)または(8)で表されるZ11およびZ12が、下記式(19)または(20)で示される基である請求項1から5のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸。
    式(19)および(20)中、
    1、R1からR10、R13およびR14、R11ならびにR12は、式(7)〜(8)と同じである。
  7. 標的核酸を増幅するためのプライマーまたは標的核酸とハイブリダイズするためのプローブとして用いられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸。
  8. 請求項1から6のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズし得る条件下において、プローブとのハイブリダイズの有無を、蛍光を測定することにより求める、標的核酸の検出方法。
  9. 請求項1から6のいずれか一項に記載の標識一本鎖核酸をプライマーとして用いて、標的核酸を増幅することを含む、標的核酸の増幅方法。
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