以下、実施形態によるブレーキシステムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図6等に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1ないし図8は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、それぞれがブレーキ装置(駐車ブレーキ装置)であり、後述の駐車ブレーキ制御装置24と共にブレーキシステム(電動駐車ブレーキシステム)を構成している。図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dと、オイルシールとも呼ばれるピストンシール6Eとを含んで構成されている。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ4の外周側を跨いで形成されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられ、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
この場合、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B1内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
ピストンシール6Eは、シリンダ6B1の開口端側に設けられている。ピストンシール6Eは、シリンダ6B1とピストン6Dとの間をシールする弾性シールとして構成されている。ここで、ピストンシール6Eは、シリンダ6B1内に液圧を供給してピストン6Dを押動するときに、ピストン6Dの移動方向に液圧によってピストンシール6Eの内周側が屈曲するように弾性変形される。一方、液圧を解除してピストン6Dをシリンダ6B1内へと戻すときには、ピストンシール6Eの弾性復元力によるロールバック機能により、ピストン6Dを制動解除位置まで戻すことができる。即ち、ピストンシール6Eは、制動解除時にピストン6Dをディスクロータ4から離れる方向に戻す戻し部材(ピストン位置調整装置)となるものである。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6には、電動アクチュエータ7と押圧部材保持機構8とが設けられている。電動アクチュエータ7は、ピストン6Dを推進する電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機構(図示せず)等を含んで構成されている。押圧部材保持機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構である。即ち、押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。押圧部材保持機構8は、例えば、スピンドルナット機構等の回転直動変換機構として構成されている。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、駐車ブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより押圧部材保持機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(駐車ブレーキないし補助ブレーキ)を付与する。
即ち、駐車ブレーキ装置としての後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキを付与するためのアプライ要求となる駐車ブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じてピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持することが可能となっている。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置15)からの液圧供給により車両の制動が可能となっている。
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する押圧部材保持機構8を有し、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能なブレーキ装置となっている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、駐車ブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、駐車ブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、押圧部材保持機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、駐車ブレーキ装置として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、駐車ブレーキ装置は、例えば、電動ドラム式の駐車ブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式ブレーキ装置等を用いてもよい。即ち、駐車ブレーキ装置は、電動モータ(電動アクチューエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動駐車ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて各ディスクブレーキ5,6は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントロールユニット17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20、または、液圧供給装置用コントロールユニット17と駐車ブレーキ制御装置24とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置24に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成され、ブレーキペダル9の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。
このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置15(以下、ESC15という)に送られる。ESC15は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置され、マスタシリンダ12からの液圧をブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC15は、ブレーキペダル9の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,6に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,6の液圧を高めることができる。
このために、ESC15は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントロールユニット17(以下、コントロールユニット17という)を有している。コントロールユニット17は、ESC15の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行う。これにより、コントロールユニット17は、ブレーキ側配管部16A〜16Dから各ディスクブレーキ5,6に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動停止制御、自動運転制御等が実行される。
コントロールユニット17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC15の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC15を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部16A〜16Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、各種のECU)、コントロールユニット17、駐車ブレーキ制御装置24等は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、マスタシリンダ液圧を検出するM/C圧力センサ21、ホイルシリンダ液圧を検出するW/C圧力センサ22からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)も挙げられる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、操作スイッチとしての駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)23が設けられている。駐車ブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。駐車ブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じた駐車ブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置24へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置24に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(駐車ブレーキ要求信号)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、駐車ブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ23からリリース要求信号が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、駐車ブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、押圧部材保持機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(解除状態)となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置24での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置24での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。オートアプライ、オートリリースは、駐車ブレーキスイッチ23が故障したときに、自動的に制動力の付与または解除を行うスイッチ故障時補助機能として構成することができる。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ23によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合も、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキスイッチ23の操作に応じて制動力の付与と解除を行う。例えば、駐車ブレーキ制御装置24は、駐車ブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)制動力を付与し、その操作が終了すると制動力の付与を解除する。このとき、駐車ブレーキ制御装置24は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることができる。
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC15およびブレーキ側配管部16A,16B,16C,16Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
このとき、シリンダ6B1とピストン6Dとの間をシールしているピストンシール6Eは、ブレーキ液圧を解除してピストン6Dをシリンダ6B1内へと戻すときに、弾性復元力によるロールバック機能を発揮する。これにより、ピストンシール6Eは、ピストン6Dを所望の制動解除位置まで戻すことができ、車両走行時に回転するディスクロータ4からブレーキパッド6Cを離間させるための隙間を確保することができる。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、駐車ブレーキ制御装置24から後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が押圧部材保持機構8により直線運動に変換され、ピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、押圧部材保持機構8は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、押圧部材保持機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置24から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aが駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、押圧部材保持機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、駐車ブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
次に、駐車ブレーキ制御装置24について、図3を参照しつつ説明する。
制御装置としての駐車ブレーキ制御装置24は、左右一対の後輪側ディスクブレーキ6,6と共にブレーキシステム(電動駐車ブレーキシステム)を構成している。駐車ブレーキ制御装置24は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25を有し、駐車ブレーキ制御装置24には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、入力側が駐車ブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。
駐車ブレーキ制御装置24は、運転者の駐車ブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、押圧部材保持機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、駐車ブレーキ制御装置24は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、駐車ブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29等が接続されている。車両データバス20からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置24(の演算回路25)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット17)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置24に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット17で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット17に駐車ブレーキ制御装置24の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置24は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムが格納されている。これに加え、メモリ26には、後述の図6に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、後輪側ディスクブレーキ6の各部(制動に係る部材)の温度の算出(推定)に用いる処理プログラム等が格納されている。また、メモリ26には、温度推定の処理プログラムで用いる各種の計算式、係数、ブレーキ液圧の閾値(第1の所定値)、ブレーキトルクのトルク所定値(第2の所定値)等も格納されている。さらに、メモリ26には、後述する各熱容量体(ロータディスク部4A、ロータハット部4B、ホイール31、ブレーキパッド6C、キャリパ6B)の現在の温度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ5)が逐次更新可能に記憶(保存)される。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24をESC15のコントロールユニット17と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置24をコントロールユニット17と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置24は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれの駐車ブレーキ制御装置24を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置24には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ部27、左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29等が内蔵されている。これら電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29は、それぞれ演算回路25に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部29,29により検出される電動モータ7A,7Aのモータ電流の変化(電流値の変化)に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの当接・離接の判定、電動モータ7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
ここで、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24は、ディスクロータ4の温度を算出(推定)する温度推定手段としての温度推定部(図6の制御処理)と、電動モータ7A,7Bの駆動を制御することにより車両に制動力を与える制御手段としての制御部とを含んで構成されている。温度推定部は、図4に示すディスクブレーキ6の熱容量モデルに基づいて、ディスクブレーキ6の各部、即ち、制動に係る各部材(各熱容量体)の推定温度を求める。具体的には、温度推定部は、ロータディスク部4Aの温度θ1、ロータハット部4Bの温度θ2、車輪(後輪3)のホイール31の温度θ3、ブレーキパッド6Cの温度θ4、シリンダ(ホイールシリンダ)となるキャリパ6Bの温度θ5を算出する。なお、図5に示すように、ディスクロータ4は、制動時にブレーキパッド6Cが摺接(摩擦係合)する部位をロータディスク部4Aとし、車輪ハブユニットに取付けられホイール31と当接する部位をロータハット部4Bとしている。
図4に示すように、実施形態で用いるディスクブレーキ6の熱容量モデルは、ロータディスク部4Aとロータハット部4Bとホイール31とブレーキパッド6Cとキャリパ6Bとの5つの熱容量体で構成されている。ここで、各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの質量、比熱、温度を次のように表す。
ロータディスク部4A:質量m1、比熱Cp1、温度θ1
ロータハット部4B:質量m2、比熱Cp2、温度θ2
ホイール31:質量m3、比熱Cp3、温度θ3
ブレーキパッド6C:質量m4、比熱Cp4、温度θ4
キャリパ6B:質量m5、比熱Cp5、温度θ5
また、ロータディスク部4Aへの入熱量を「Qin」、ロータディスク部4Aから大気への放熱量を「Qdisc」とする。ロータハット部4Bの放熱量を「Qhat」とし、ホイール31の放熱量を「Qwheel」とし、キャリパ6Bの放熱量を「Qcylinder」とする。なお、ブレーキパッド6Cの放熱量は入熱源となるロータディスク部4Aに近接しているため無視する。さらに、ロータディスク部4Aとロータハット部4Bとの間の伝熱量を「Q1→2」とし、ロータハット部4Bとホイール31との間の伝熱量を「Q2→3」とし、ロータディスク部4Aとブレーキパッド6Cとの間の伝熱量を「Q1→4」とし、ブレーキパッド6Cとキャリパ6Bとの間の伝熱量を「Q4→5」とする。
そして、入熱量Qin、各熱容量体4A,4B,31,6C,6B間の伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5、放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderを総合すると、ロータディスク部4Aの熱量は、次の数1式の熱微分方程式で表すことができる。
ロータハット部4Bの熱量は、次の数2式の熱微分方程式で表すことができる。
ホイール31の熱量は、次の数3式の熱微分方程式で表すことができる。
ブレーキパッド6Cの熱量は、次の数4式の熱微分方程式で表すことができる。
キャリパ6Bの熱量は、次の数5式の熱微分方程式で表すことができる。
温度推定部は、数1式〜数5式に基づいて各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。一方、駐車ブレーキ制御装置24の制御部は、例えば、駐車ブレーキスイッチ23の操作によるアプライ要求があったときに、温度推定部が算出した推定温度に基づいて該温度に応じた目標制動力(目標推力、目標押圧力)を算出し、かつ、この目標制動力となるように電動モータ7Aを駆動する。即ち、制御部は、温度推定部が推定(算出)した推定温度に基づいて電動モータ7Aによる目標押圧力(電動モータ7Aにより付与すべき目標押圧力)を算出する押圧力算出部(押圧力算出手段)と、押圧力算出部により算出された目標押圧力となるように電動モータ7Aを駆動する駆動制御部(駆動制御手段)とを有している。
この場合、目標押圧力(目標制動力)は、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cの熱収縮に伴うピストン6Dの推力(押圧力)の低下を考慮して、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cの温度が低下しても(熱収縮しても)必要な制動力(電動モータ7Aによる押圧力)を確保できる値として算出される。なお、制御部は、例えば、アプライ要求があったときの推定温度が所定の温度よりも高いときに、アプライから所定時間経過後に再アプライ(リクランプ)する構成としてもよい。いずれの場合も、制御部は、温度推定部が算出(推定)した推定温度に応じた制動力を付与する。
ここで、駐車ブレーキ制御装置24は、後述する図6の制御処理により、数1式〜数5式に基づいて各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出する。このとき、ロータディスク部4Aへの入熱量Qinは、次の数6式を用いて算出する。
数6式中の「α」は、ディスクロータ4側へ流入する制動熱量の割合、「Tr(t)」は、インナ側とアウタ側との2枚のブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間に加わるブレーキトルク(制動トルク)、「ω(t)」は、車輪速から求められるディスクロータ4の回転角速度を表している。数6式中の「α」は、予め設定された所定値となる。車輪速(または回転角速度)は、例えば、車両データバス20から取得することができる。また、ブレーキトルクTr(t)は、次の数7式を用いて算出することができる。
数7式中の「Sp」は、ピストン6Dの断面積、「μ」は、ブレーキパッド6Cの摩擦係数、「r」は、ディスクロータ4の有効半径、「P(t)」は、ピストン6Dのブレーキ液圧を表している。数7式中の「Sp」と「μ」と「r」は、それぞれ予め設定された所定値となる。ブレーキ液圧は、例えば、M/C圧力センサ21(または、W/C圧力センサ22)の検出値を車両データバス20から取得することができる。
ところで、推定温度に基づいて目標押圧力(電動モータ7Aにより付与すべき押圧力)を算出する場合、この算出される目標押圧力が低くなることを抑制するためには、推定温度が実際の温度(実温度)以上となるように推定温度を算出する必要がある。これに対して、例えば、ブレーキ液圧が無負荷(0)のときに、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとが当接した状態で車両が走行すると、推定温度が実温度を下回る可能性がある。ここで、前述の特許文献1によれば、車両の走行中はディスクロータ4の温度が下がるものと推定している。即ち、ブレーキペダル9の踏込みが解除されているときは、ブレーキ液圧(ピストン推力)が0となり、ディスクロータ4(ロータディスク部4A)への入熱量が0となるため、ディスクロータ4の温度は放熱により低下する。
一方、後輪側ディスクブレーキ6は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである。このような後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、車両の発進時に、駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されなくても、アクセルペダルが踏まれることで、アプライ状態からリリース状態に自動的に解除(オートリリース)される。このとき、運転者はブレーキペダル9を踏んでいないため、シリンダ6B1内にブレーキ液圧の負荷がなく、ピストンシール6Eの変形量が減ることにより、ピストンシール6Eの復元力(ロールバック機能)が小さくなる可能性がある。
このような場合、ピストン6Dの戻し量が小さくなる(不足する)ことにより、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4とがわずかに接触(当接)した状態で車両が走行し、ディスクロータ4の温度が上昇する可能性がある。なお、駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されたときに、ブレーキペダル9が踏まれていなくても駐車ブレーキの解除が行われる構成の場合も、同様にディスクロータ4の温度が上昇する可能性がある。
これに対して、温度推定は、ブレーキ液圧P(t)からブレーキトルクTr(t)が算出され、このブレーキトルクTr(t)と車輪速ω(t)とからディスクロータ4の入熱量Qinが算出される。このため、ブレーキペダル9が踏まれていないとき、即ち、ブレーキ液圧が無負荷(P(t)=0)のときは、入熱量Qinが0となり、ディスクロータ4の推定温度は上昇しない。この結果、ディスクロータ4の推定温度と実際の温度(実温度)との差が大きくなり、ディスクロータ4の推定温度が実温度を下回るおそれがある。この場合、推定温度に基づいて算出される目標押圧力(電動モータ7Aにより付与すべき押圧力)が実温度の目標押圧力よりも小さく算出され、ディスクロータ4に対するブレーキパッド6Cの押圧力(推力、制動力)が小さくなるおそれがある。
そこで、第1の実施形態では、推定温度が実温度を下回ることを抑制すべく、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部を次のように構成している。即ち、温度推定部は、電動駐車ブレーキがリリースされたときのピストンシール6Eによるピストン6Dの戻し量を検知する。具体的には、温度推定部は、ピストン戻し量が小さいか否か(オートリリース後であるか否か)を判定する。そして、温度推定部は、ピストン戻し量が小さいと判定したときは、ブレーキトルクTr(t)をトルク所定値(第2の所定値)に設定する。これにより、温度推定部は、ピストン戻し量が小さいことに起因する入熱量Qinを考慮して、各部の温度を推定(算出)することができる。なお、トルク所定値は、例えば、ピストン戻し量が小さいときに実際に加わるブレーキトルクと同等の値(当接トルク)として設定することができる。トルク所定値は、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。
また、温度推定部は、車両発進後のブレーキ液圧を監視する。即ち、ブレーキ液圧が所定値としての閾値(第1の所定値)を超えて負荷されると、ピストンシール6Eの復元力によるピストン6Dの戻し量が増え、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの接触が解除される。これにより、ピストン戻し量が小さいことに起因する入熱量Qinが0になる。そこで、温度推定部は、ピストン戻し量が小さいと判定された後に、ブレーキ液圧が閾値を越えて負荷されると、ブレーキトルクTr(t)をトルク所定値から0にし、ピストン戻し量が小さいことに起因する入熱量Qinを0にする。この場合、閾値は、例えば、ピストンシール6Eの復元力によってディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの接触を(完全に)解除することができる液圧値として設定することができる。閾値は、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。
次に、駐車ブレーキ制御装置24の演算回路25で行われる温度推定の制御処理について、図6を参照しつつ説明する。なお、図6の制御処理は、駐車ブレーキ制御装置24に通電している間、所定の制御周期で、即ち、所定時間(例えば、10ms)毎に繰り返し実行される。
S1で、駐車ブレーキ制御装置24が起動すると、S2で、ディスクロータ4を含む各熱容量体の温度の推定(算出)を開始する。ここで、駐車ブレーキ制御装置24は、例えば、ドアの開閉、アクセサリON、イグニッションONにより起動する。温度推定を開始するときの各熱容量体(4A,4B,31,6C,6B)の温度(θ1,θ2,θ3,θ4,θ5)の初期温度(初期値)は、例えば、前回の駐車ブレーキ制御装置24の制御終了(シャットダウン)のときにメモリ26に記憶(保存)された各熱容量体の温度(終了時推定温度)を用いる。この場合、制御終了から制御開始までのカウント時間によりこの間(シャットダウン中)の各熱容量体の放熱量を算出し、その放熱量に基づいて終了時推定温度を補正したものを初期温度としてもよい。また、予め設定したカウント時間と温度低下量との相関関係に対応する2次元テーブル(マップ)を用いて終了時推定温度を補正したものを初期温度としてもよい。
続くS3では、車両データバス20から車輪速とブレーキ液圧を取得する。この場合、ブレーキ液圧(被制動部材を押圧する力)は、ブレーキパッド6Cの押付力(ピストン6Dの推力)に対応する状態量で、例えば、M/C圧力センサ21(または、W/C圧力センサ22)の検出値(ブレーキ液圧)として取得することができる。車輪速(被制動部材の速度)は、ディスクロータ4の回転角速度に対応する状態量で、例えば、車輪速センサ(図示せず)の検出値として取得することができる。
S4では、オートリリース後であるか否かを判定する。S4は、電動駐車ブレーキがリリースされたときのピストン6Dの戻し量を検知するための処理、換言すれば、ピストンの戻し量が小さいか否かを判定するための処理である。ブレーキペダル9が踏まれていない(即ち、シリンダ6B1内にブレーキ液圧の負荷がない)状態で電動モータ7Aがリリース方向に駆動されることにより駐車ブレーキが解除された場合、ピストンシール6Eの復元力によるピストン戻し量が小さくなる。そこで、S4では、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作(ブレーキペダル6が踏まれた状態での駐車ブレーキスイッチ23による解除操作)によらず解除されたか否かを判定する。より具体的には、S4では、アクセルペダルの操作により駐車ブレーキが自動的に解除された後であるか否かを判定する。
S4で「NO」、即ち、オートリリース後でないと判定された場合は、S5に進む。S5では、ブレーキ液圧に基づいてブレーキトルクを算出する。ブレーキトルクTr(t)は、上述した数7式を用いて算出する。この場合、数7式のP(t)は、S3で取得したブレーキ液圧を用いる。
一方、S4で「YES」、即ち、オートリリース後であると判定された場合は、S6に進む。S6に進む場合は、ピストン戻し量が小さいと判定された場合に対応する。S6では、液圧ブレーキの作動があったか否か、即ち、ブレーキ液圧が所定値としての閾値(第1の所定値)を超えたか否かを判定する。S6は、車両発進後のブレーキ液圧を監視する処理である。即ち、S6は、ピストン戻し量が小さいと判定された後に、ブレーキ液圧が閾値を超えて負荷されることにより、ピストン戻し量が十分になったか否か、即ち、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの接触が解除された(離間した)か否かを判定するための処理である。ブレーキ液圧の閾値は、ピストンシール6Eの復元力によってディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの接触を解除するために必要な液圧値として設定されている。
S6で「YES」、即ち、ブレーキ液圧が閾値を超えたと判定された場合は、S5に進む。一方、S6で「NO」、即ち、ブレーキ液圧が閾値以下であると判定された場合は、S7に進む。S7では、ブレーキトルクをトルク所定値(第2の所定値)に設定する。即ち、S7では、液圧が閾値以下であっても、ブレーキトルクを、この閾値を超えた液圧が付与された状態のブレーキトルクに相当する値とする。トルク所定値は、例えば、予め設定された固定値(定数)であり、ピストン戻し量が小さいときに実際に加わるブレーキトルクと同等の値として設定されている。
S5でブレーキトルクを算出したら、または、S7でブレーキトルクをトルク所定値に設定したら、S8に進む。S8では、車輪速とブレーキトルクとに基づいて、ディスク入熱量、即ち、ロータディスク部4Aの入熱量Qinを算出する。入熱量Qinは、上述した数6式を用いて算出する。この場合、数6式のω(t)は、S3で取得した車輪速を用いる。数6式のTr(t)は、S5で算出したブレーキトルク、または、S7で設定したブレーキトルク(トルク所定値)を用いる。即ち、S4で「NO」またはS6で「YES」と判定された場合は、S5で算出したブレーキトルクを用いて入熱量Qinを算出する。一方、S4で「YES」と判定され、かつ、S6で「NO」と判定された場合は、S7で設定したブレーキトルクを用いて入熱量Qinを算出する。
S8で入熱量Qinを算出したら、続くS9では、図4の各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの大気中への放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderを算出する。放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinderは、ディスクロータ4の回転角速度ω(t)と、各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5と外気温(ホイール内空気温度)θairとの温度差とに基づいて、下記の数8式により算出することができる。外気温θairは、例えば、車両データバス20を介して取得される外気温センサ(図示せず)の検出値(外気温)を、そのとき(現在の制御周期)の外気温θairとすることができる。
なお、数8式中、「k1〜3」は、各熱容量体の強制対流熱伝達率の補正係数、「n1〜3,5」は、各熱容量体の自然対流熱伝達率の補正係数、「nα」は、空気自然対流による代表熱伝達率、「S1〜3,5」は、各熱容量体の表面積であり、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS10では、図4の各熱容量体4A,4B,31,6C,6B間の伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5を算出する。伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5は、各熱容量体4A,4B,31,6C,6B間の温度差および各熱容量体4A,4B,31,6C,6B間の熱抵抗R1→2,R2→3,R1→4,R4→5に基づいて、下記の数9式により算出することができる。熱抵抗R1→2,R2→3,R1→4,R4→5は、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS11では、S8ないしS10の処理で求めた入熱量Qin、放熱量Qdisc,Qhat,Qwheel,Qcylinder、伝熱量Q1→2,Q2→3,Q1→4,Q4→5から、各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度変化量を制御周期毎に算出する。即ち、直前の制御周期の温度推定値に現在の制御周期の温度変化量を加味(更新)することにより、リアルタイムで温度推定値を求めることができる。次の数10式は、各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出(推定)する式である。なお、各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの比熱Cp1〜Cp5と質量m1〜m5は、それぞれ予め設定された所定値である。
続くS12では、駐車ブレーキ制御装置24の制御が終了したか否かを判定する。ここで、駐車ブレーキ制御装置24の制御は、例えば、イグニッション(IG)がOFFであり、各熱容量体の推定温度が予め定められた所定温度まで低下したときに終了する。
S12で、「NO」、即ち、駐車ブレーキ制御装置24の制御が終了していないと判定された場合は、S3の前に戻り、S3以降の処理を繰り返す。一方、S12で、「YES」、即ち、駐車ブレーキ制御装置24の制御が終了したと判定された場合は、S13に進み、ディスク温度の推定を終了する。このとき、駐車ブレーキ制御装置24のメモリ26には、制御終了の直前の各熱容量体4A,4B,31,6C,6Bの温度θ1,θ2,θ3,θ4,θ5が終了時推定温度として記憶(保存)される。
このように、第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されるとき(即ち、アクセルペダルの踏込みによりオートリリースされたとき)、運転者の解除操作によりブレーキパッド6Cの押圧力の保持が解除されるときより温度の変化傾向を高くする補正をして温度を推定する。このとき、温度推定部は、S5で算出されるブレーキトルクではなく、S7で設定されるブレーキトルク(トルク所定値)を用いて入熱量Qinを算出することにより、温度の変化傾向を高くする補正をする。
また、温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された後に、ブレーキ液圧が閾値(所定値)を超えたとき、温度の変化傾向を高くする補正をしない。即ち、車両の発進時のオートリリースによりS4で「YES」と判定された後、運転者のブレーキペダルの操作等によりブレーキ液圧が閾値を超えると、S6で「YES」と判定される。これにより、S5で算出されるブレーキトルクを用いて入熱量Qinが算出されるため、温度の変化傾向を高くする補正が終了する。
このように、温度推定部は、温度の変化傾向の補正後であって、液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cが押圧されたときに、温度の変化傾向の補正を解除する。即ち、温度推定部は、温度の変化傾向を高くする補正の後であって、液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cが押圧されたときに、温度の変化傾向を高くする補正を解除する。
そして、駐車ブレーキ制御装置24の制御部は、運転者の駐車ブレーキスイッチ23の操作によるアプライ要求、駐車ブレーキのアプライの判断ロジックによるアプライ要求、ABS制御によるアプライ要求に基づいて、電動モータ7Aを駆動し、車両に制動力(駐車ブレーキ、必要に応じて補助ブレーキ)を付与する。このとき、制御部の押圧力算出部は、温度推定部で上述のように推定(算出)される推定温度(例えば、ロータディスク部4Aの温度θ1)に基づいて、電動モータ7Aによる目標押圧力、即ち、電動モータ7Aにより付与すべき目標押圧力を算出する。
この場合、目標押圧力は、ディスクロータ4およびブレーキパッド6Cの温度が低下しても(熱収縮しても)必要な制動力を確保できる値として算出される。そして、制御部の駆動制御部は、押圧力算出部により算出された目標押圧力となるように、電動モータ7Aを駆動する。この結果、駐車ブレーキをアプライしたときのブレーキパッド6Cの押圧力(ピストン6Dの推力)の過不足を抑制することができる。即ち、駐車ブレーキ制御装置24は、推定温度に応じてアプライ推力(押圧力)を調整することにより、または、必要に応じてリクランプ(再度のアプライ)を行うことにより、ブレーキパッド6C(またはディスクロータ4)が熱収縮しても、必要な制動力(押圧力)を確保することができる。
かくして、第1の実施の形態では、図6のS4で「YES」と判定され、かつ、S6で「NO」と判定されると、S7でブレーキトルクがトルク所定値に設定される。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、温度の変化傾向を高くする補正をして温度を推定する。このため、温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、その後は、この解除に伴う温度上昇(ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇)を考慮して、温度を推定することができる。
図7および図8は、温度と制動トルクとブレーキ液圧との時間変化を示している。このうちの図7は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作により解除された場合、換言すれば、駐車ブレーキのリリース後にブレーキパッド6Cとディスクロータ4とが接触していない場合を示している。図8は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された場合、換言すれば、駐車ブレーキのリリース後にブレーキパッド6Cとディスクロータ4とが(わずかに)接触している場合を示している。
図8中の特性線41は、図6のS4,S6、S7の処理により、温度の変化傾向を高くする補正をした場合の推定温度に対応する。これに対して、図8中の特性線42は、温度の変化傾向を高くする補正をしない場合の推定温度に対応する。第1の実施形態では、特性線41から明らかなように、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。しかも、駐車ブレーキ制御装置24の制御部(押圧力算出部)は、温度上昇が考慮された推定温度に基づいて電動モータ7Aによる目標押圧力を算出することができる。このため、算出される目標押圧力が実温度での目標押圧力に対して低くなることを抑制できる。
第1の実施の形態では、図6のS4で「YES」と判定されても、S6で「YES」と判定されると、S5でブレーキトルクを算出する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された後に、ブレーキ液圧が閾値(所定値)を超えたとき、温度の変化傾向を高くする補正をしない。換言すれば、温度推定部は、温度の変化傾向の補正後であって、ブレーキ液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cが押圧されたときに、温度の変化傾向の補正を解除する。このため、温度推定部は、駐車ブレーキの解除に伴う温度上昇(ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇)を考慮する必要がなくなると、温度の変化傾向を高くする補正(変化傾向の変更)をせずに、温度を推定することができる。このため、図8の特性線41から明らかなように、ブレーキ液圧が閾値(所定値)を超えた後も、推定温度と実温度との差が大きくなることを抑制することができる。
次に、図9は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、推定温度に追加温度(温度上昇値)を加算(上乗せ)して温度を推定することにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第2の実施形態では、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、解除のときの推定温度に追加温度としての最大温度上昇値(第3の所定値)を加算(上乗せ)して推定温度を算出する。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、S6で「NO」、即ち、ブレーキ液圧が閾値以下であると判定されると、S21に進み、車両が停車中であるか否かを判定する。車両が停車中であるか否かは、例えば、車両データバス20から取得される車輪速を用いて判定することができる。
S21で「YES」、即ち、車両が停車中であると判定されると、S5に進む。一方、S21で「NO」、即ち、車両が停車中でない(走行中である)と判定されると、S22に進む。S22では、最大温度上昇値を推定温度に上乗せする。即ち、S22では、ピストン戻し量が小さいことにより走行中に温度上昇することを考慮して、推定温度に対して追加温度(加算温度)としての最大温度上昇値を加算する。最大温度上昇値は、例えば、ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇の最大値として設定することができる。最大温度上昇値は、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。S22で最大温度上昇値を推定温度に上乗せしたら、S12に進む。なお、図9のS1−S6,S8−S13は、図6に示す第1の実施形態のS1−S6,S8−S13と同様の処理である。
第2の実施形態は、上述の如きS22の処理により推定温度に最大温度上昇値を上乗せするもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第2の実施形態では、図9のS4で「YES」と判定され、かつ、S6およびS21で「NO」と判定されると、S22で推定温度に最大温度上昇値が加算される。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、推定温度に最大温度上昇値を加算することにより、温度の変化傾向を高くする補正をして温度を推定する。このため、温度推定部は、ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇を考慮して温度を推定することができ、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。
次に、図10および図11は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて温度の変化傾向を変更して温度を推定することにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第3の実施形態では、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて、温度の変化傾向を変更し温度を推定する。この場合、液圧が小さいほど温度の変化傾向を高くする。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、S3で車輪速とブレーキ液圧を取得すると、S31に進む。S31では、(直近の)リリース時のブレーキ液圧が閾値(所定値)を超えたか否かを判定する。閾値は、例えば、図6のS6の閾値と同様の値とすることができる。即ち、閾値は、ピストンシール6Eの復元力によってディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの接触を解除することができる液圧値として設定することができる。
S31で「YES」、即ち、リリース時のブレーキ液圧が閾値を超えたと判定された場合は、S5に進む。一方、S31で「NO」、即ち、リリース時のブレーキ液圧が閾値以下であると判定された場合は、S32に進む。S32では、リリース後に液圧ブレーキの作動があったか否か、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値を超えたか否かを判定する。閾値は、例えば、S31の閾値と同じ値とすることができる。S32で「YES」、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値を超えたと判定された場合は、S5に進む。一方、S32で「NO」、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値以下であると判定された場合は、S33に進む。
S33では、リリース時のブレーキ液圧から図11のテーブルを用いてブレーキトルクを設定する。例えば、リリース時のブレーキ液圧がP1の場合は、ブレーキトルクをT1とする。なお、図11は、P0<P1<P2<P3、T0>T1>T2>T3の関係となっている。即ち、液圧が小さいほど温度の変化傾向が高くなるように、液圧が小さいほどブレーキトルクが大きくなっている。この場合、T0は、リリース時にブレーキ液圧がP0以下のときのピストン戻し量におけるブレーキトルクと同等の値として設定されている。同様に、T1は、リリース時にブレーキ液圧がP0よりも大きくP1以下のときのピストン戻し量におけるブレーキトルクと同等の値として設定されている。T2およびT3についても同様である。図11のテーブルは、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。
S33で、リリース時のブレーキ液圧から図11のテーブルを用いてブレーキトルクを設定したら、S8に進む。なお、図10のS1−S3,S5,S8−S13は、図6に示す第1の実施形態のS1−S3,S5,S8−S13と同様の処理である。
第3の実施形態は、上述の如きS33の処理によりブレーキトルクを設定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第3の実施形態では、図10のS31およびS32で「NO」と判定されると、S33でリリース時のブレーキ液圧から図11のテーブルを用いてブレーキトルクが設定される。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときのブレーキ液圧に応じて、温度の変化傾向を変更し温度を推定する。このため、温度推定部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときの液圧から、この解除に伴うその後の温度変化(温度上昇)を考慮して、温度を推定することができる。これにより、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。しかも、温度推定部は、ブレーキ液圧が小さいほど温度の変化傾向を高くしている。このため、温度推定部により推定される推定温度の精度を向上できる(推定温度と実温度との差を小さくできる)。
次に、図12および図13は、第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて推定温度に加算(上乗せ)する追加温度(温度上昇値)を変更して温度を推定することにある。なお、第4の実施形態では、図9に示す第2の実施形態および図10に示す第3の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第4の実施形態も、第3の実施形態と同様に、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて、温度の変化傾向を変更し温度を推定する。この場合、第4の実施形態では、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて、推定温度に加算(上乗せ)する追加温度(温度上昇値)を変更し温度を推定する。具体的には、液圧が小さいほど推定温度に加算する追加温度を高くすることにより、温度の変化傾向を高くする。
このために、駐車ブレーキ制御装置24は、S32で「NO」、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値以下であると判定されると、S21に進み、車両が停車中であるか否かを判定する。そして、S21で「NO」、即ち、車両が停車中でない(走行中である)と判定されると、S41に進む。S41では、リリース時のブレーキ液圧から図13のテーブルを用いて推定温度に上乗せする温度上昇値を設定(決定)すると共に、その温度上昇値を推定温度に上乗せする。例えば、リリース時のブレーキ液圧がP1の場合は、推定温度にH1を上乗せする。
なお、図13は、P0<P1<P2<P3、H0>H1>H2>H3の関係となっている。即ち、液圧が小さいほど温度の変化傾向が高くなるように、液圧が小さいほど推定温度に上乗せする温度上昇値が大きくなっている。この場合、H0は、リリース時にブレーキ液圧がP0以下のときのピストン戻し量における温度上昇の最大値として設定されている。同様に、H1は、リリース時にブレーキ液圧がP0よりも大きくP1以下のときのピストン戻し量における温度上昇の最大値として設定されている。H2およびH3についても同様である。図13のテーブルは、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。
S41で、リリース時のブレーキ液圧から図13のテーブルを用いて温度上昇値を決定すると共に、その温度上昇値を推定温度に上乗せしたら、S12に進む。なお、図12のS1−S3,S5,S8−S13は、図6に示す第1の実施形態のS1−S3,S5,S8−S13と同様の処理である。また、図12のS21は、図9に示す第2の実施形態のS21と同様の処理である。さらに、図12のS31,S32は、図10に示す第3の実施形態のS31,S32と同様の処理である。
第4の実施形態は、上述の如きS41の処理により、リリース時のブレーキ液圧に応じた温度上昇値を推定温度に上乗せするもので、その基本的作用については、第2の実施形態および第3の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第4の実施形態も、第2の実施形態および第3の実施形態と同様に、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。
次に、図14は、第5の実施形態を示している。第5の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されたとき、推定温度に基づいて算出される目標押圧力に追加押圧力を加算して目標押圧力を算出することにある。なお、第5の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第5の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24の温度推定部は、第1の実施形態のような温度の変化傾向を高くする補正は行わない。第5の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24の押圧力算出部が、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されたとき、推定温度に基づいて算出される目標押圧力(必要推力)に追加押圧力(追加推力)を加算して目標押圧力(必要推力)を算出する。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、S2で温度推定を開始すると、続くS51で推定温度を算出(推定)する。この推定温度の算出は、例えば、図6に示す第1の実施形態のS3,S5,S8−S11の処理により行うことができる。S51で算出される推定温度は、ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇が考慮されていない推定温度となる。
続くS52では、S51で算出した推定温度から必要推力、即ち、電動モータ7Aによる目標押圧力を算出する。この目標押圧力は、ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇が考慮されていない目標押圧力となる。
続くS53では、アプライ要求があるか否かを判定する。例えば、運転者の駐車ブレーキスイッチ23の操作によるアプライ要求、駐車ブレーキのアプライの判断ロジックによるアプライ要求、ABS制御によるアプライ要求があるか否かを判定する。S53で「NO」、即ち、アプライ要求がないと判定された場合は、S12に進む。一方、S53で「YES」、即ち、アプライ要求ありと判定された場合は、S54に進む。S54では、車両が停車中であるか否かを判定する。S54は、例えば、図9に示す第2の実施形態のS21と同様の処理である。
S54で「NO」、即ち、車両が停車中でない(走行中である)と判定された場合は、S12に進む。この場合は、車両が走行中のアプライ要求であるため、この処理とは別の処理によりアプライ(電動モータ7Aの駆動)を行う。一方、S54で「YES」、即ち、車両が停車中でると判定された場合は、S55に進み、オートリリース後であるか否かを判定する。この判定は、今回のアプライ要求の前に行われたリリース(直近のリリース)がオートリリースであるか否か、具体的には、アクセルペダルの操作により駐車ブレーキが自動的に解除された後であるか否かを判定する。
S55で「YES」、即ち、オートリリース後であると判定された場合は、S56に進む。S56では、目標押圧力(必要推力)に追加押圧力を上乗せする。即ち、S56では、S52で算出された目標押圧力に、ブレーキ温度最大上昇分に対応した追加押圧力を加算し、その加算値(例えば、最大押圧力)を目標押圧力とする。換言すれば、S56では、S52で算出された目標押圧力に、ブレーキ温度最大上昇分に対応する押圧力を上乗せした値を目標押圧力(必要推力)としてから、S57に進む。一方、S55で「NO」、即ち、オートリリース後でないと判定された場合は、S56を介することなくS57に進む。
S57では、目標押圧力(必要推力)でアプライを行う。即ち、S57では、S52で算出された目標押圧力、または、S56で算出された目標押圧力となるように、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動する。この場合、S55で「NO」と判定された場合は、S52で算出された目標押圧力となるように電動モータ7Aを駆動する。一方、S55で「YES」と判定された場合は、S56で算出された目標押圧力となるように電動モータ7Aを駆動する。S57で電動モータ7Aを目標押圧力となるまで駆動したら、S12に進む。なお、図14のS1,S2,S12,S13は、図6に示す第1の実施形態のS1,S2,S12,S13と同様の処理である。
第5の実施形態は、上述の如きS56の処理により目標押圧力に追加押圧力を上乗せするもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第5の実施形態では、図14のS55で「YES」と判定されると、目標押圧力に追加押圧力が加算される。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の押圧力加算部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、その後は、温度推定部により推定される推定温度が実温度を下回る可能性を考慮して、目標押圧力に追加押圧力が加算される。このため、電動モータ7Aにより実際に付与される目標押圧力が低くなることを抑制できる。
なお、第5の実施形態では、S52の処理をS53の処理よりも前に行う構成とした場合を例に挙げて説明した。即ち、第5の実施形態では、S51で推定温度を算出したら続くS52で目標押圧力(必要推力)を算出する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、S52の処理をS53の処理の後に行う構成としてもよい。具体的には、S52の処理を、例えば、S53とS54との間、または、S54とS55との間で行ってもよい。即ち、目標押圧力の算出は、アプライ要求があってから行ってもよい。この場合には、目標押圧力の算出が常時行われなくなり、駐車ブレーキ制御装置24の演算負荷を低減することができる。
次に、図15および図16は、第6の実施形態を示している。第6の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されたとき、推定温度に基づいて算出される目標押圧力に追加押圧力を加算して目標押圧力を算出すると共に、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて追加押圧力を変更することにある。なお、第6の実施形態では、図14に示す第5の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第6の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置24の押圧力算出部は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて、追加押圧力を変更する。より具体的には、液圧が小さいほど、追加押圧力を大きくする。このために、駐車ブレーキ制御装置24は、S54で「YES」と判定されると、S61に進む。S61では、例えば、今回のアプライ要求の前に行われた(直近の)リリース時のブレーキ液圧が閾値(所定値)を超えていたか否かを判定する。閾値は、例えば、図10のS31の閾値と同様の値とすることができる。
S61で「NO」、即ち、ブレーキ液圧が閾値以下であったと判定された場合は、S62に進む。S62では、リリース時のブレーキ液圧から図16のテーブルを用いて追加押圧力を設定(決定)すると共に、その追加押圧力をS52で算出された目標押圧力に上乗せする。例えば、リリース時のブレーキ液圧がP1の場合は、S52で算出された目標押圧力にF1を上乗せする。
なお、図16は、P0<P1<P2<P3、F0>F1>F2>F3の関係となっている。即ち、液圧が小さいほど追加押圧力が大きくなっている。この場合、F0は、ブレーキ液圧がP0以下でリリースしたときの温度上昇によって必要となる追加押圧力として設定されている。同様に、F1は、ブレーキ液圧がP0よりも大きくP1以下でリリースしたときの温度上昇によって必要となる追加押圧力として設定されている。F2およびF3についても同様である。図16のテーブルは、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。
S62で、リリース時のブレーキ液圧から図16のテーブルを用いて追加押圧力を決定すると共に、その追加押圧力をS52で算出された目標押圧力に上乗せしたら、S57に進む。一方、S61で「YES」と判定された場合は、S62を介することなくS57に進む。なお、図15のS1,S2,S12,S13は、図6に示す第1の実施形態のS1,S2,S12,S13と同様の処理である。図15のS51−S54,S57は、図14に示す第5の実施形態のS51−S54,S57と同様の処理である。
第6の実施形態は、上述の如きS62の処理により目標押圧力に追加押圧力を上乗せするもので、その基本的作用については、第5の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第6の実施形態では、図15のS61で「NO」と判定されると、S62でリリース時のブレーキ液圧から図16のテーブルを用いて追加押圧力を決定し、その追加押圧力をS52で算出された目標押圧力に加算する。即ち、駐車ブレーキ制御装置24の押圧力算出部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときのブレーキ液圧に応じて追加押圧力を変更する。このため、押圧力算出部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときの液圧に応じた追加目標押圧力を加算することができる。しかも、押圧力算出部は、ブレーキ液圧が小さいほど追加押圧力を大きくする。このため、押圧力算出部は、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持を解除するときのブレーキ液圧が小さいほど目標押圧力を大きくすることができる。
次に、図17は、第7の実施形態を示している。第7の実施形態の特徴は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、アプライ要求があったときに、推定温度に追加温度(温度上昇値)を加算(上乗せ)して温度を推定することにある。なお、第7の実施形態では、図14に示す第5の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第7の実施形態では、S51で推定温度を算出(推定)したら、S53に進む。即ち、第7の実施形態では、S51とS53との間で目標押圧力(必要推力)を算出しない(S51とS53との間にS52の処理はない)。第7の実施形態では、S57の処理の直前、即ち、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動する直前に目標押圧力(必要推力)を算出する(S72)。
第7の実施形態では、S55で「YES」、即ち、オートリリース後であると判定された場合は、S71に進む。S71では、最大温度上昇値を推定温度に上乗せする。即ち、S71では、ピストン戻し量が小さいことにより走行中に温度上昇することを考慮して、推定温度に対して追加温度としての最大温度上昇値を加算する。最大温度上昇値は、例えば、ピストン戻し量が小さいことによる温度上昇の最大値として設定することができる。最大温度上昇値は、例えば、実験、計算、シミュレーション等により予め求めておく。S71で最大温度上昇値を推定温度に上乗せしたら、S72に進む。一方、S55で「NO」、即ち、オートリリース後でないと判定された場合は、S71を介することなく、S72に進む。
S72では、S51で算出した推定温度、または、S71で最大温度上昇値が上乗せされた推定温度から必要推力、即ち、電動モータ7Aによる目標押圧力を算出する。この場合、S55で「NO」と判定された場合は、S51で算出された推定温度から目標押圧力を算出する。一方、S55で「YES」と判定された場合は、S51で算出された推定温度に最大温度上昇値を加算した加算値(加算推定温度)から目標押圧力を算出する。続くS57では、S72で算出された目標押圧力となるように電動モータ7Aを駆動する。
なお、図17のS1,S2,S12,S13は、図6に示す第1の実施形態のS1,S2,S12,S13と同様の処理である。図17のS51,S53−S55,S57は、図14に示す第5の実施形態のS51,S53−S55,S57と同様の処理である。
第7の実施形態は、上述の如きS71の処理により推定温度に最大温度上昇値を上乗せするもので、その基本的作用については、第5の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第7の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。また、第7の実施形態では、アプライ要求があったときに推定温度に最大温度上昇値を加算する。このため、駐車ブレーキ制御装置24の演算負荷を低減することができる。
次に、図18は、第8の実施形態を示している。第8の実施形態の特徴は、アプライ要求があったときに、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて推定温度に加算(上乗せ)する追加温度(温度上昇値)を変更して温度を推定することにある。なお、第8の実施形態では、図17に示す第7の実施形態および図15に示す第6の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第8の実施形態では、S54で「YES」と判定されるとS61に進む。S61は、例えば、図15に示す第6の実施形態のS61と同様の処理である。S61で「NO」、即ち、ブレーキ液圧が閾値以下であったと判定された場合は、S81に進む。S81では、リリース時のブレーキ液圧から図13に示すようなテーブルを用いて推定温度に上乗せする温度上昇値(追加温度)を設定(決定)すると共に、その温度上昇値を推定温度に上乗せする。そして、S82に進む。一方、S61で「YES」と判定された場合は、S81を介することなくS82に進む。
S82では、S51で算出した推定温度、または、S81でリリース時のブレーキ液圧に応じた温度上昇値が上乗せされた推定温度から必要推力、即ち、電動モータ7Aによる目標押圧力を算出する。なお、図18のS1,S2,S12,S13は、図6に示す第1の実施形態のS1,S2,S12,S13と同様の処理である。図18のS51,S53,S54,S57は、図14に示す第5の実施形態のS51,S53,S54,S57と同様の処理である。図18のS61は、図15に示す第6の実施形態のS61と同様の処理である。
第8の実施形態は、上述の如きS81の処理により、リリース時のブレーキ液圧に応じた温度上昇値を推定温度に上乗せするもので、その基本的作用については、第5の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第8の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。
次に、図19は、第9の実施形態を示している。第9の実施形態の特徴は、ブレーキペダルが踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチが解除側に操作されることによるリリース以外のリリースのときに、温度の変化傾向を高くする補正をして温度を推定することにある。なお、第9の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
S3で車輪速とブレーキ液圧を取得すると、S91に進む。S91では、車輪(後輪3)がロック状態であるか否か判定する。ロック状態であるか否かは、例えば、車輪速から判定することができる。S91で「YES」、即ち、車輪(後輪3)がロック状態である(停止している)と判定された場合は、S5に進む。一方、S91で「NO」、即ち、車輪(後輪3)がロック状態でない(回転している)と判定された場合は、S92に進む。
S92では、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより駐車ブレーキがリリースされた後であるか否かを判定する。この判定は、例えば、駐車ブレーキ制御装置24のメモリ26に更新可能に記憶される(直近の)リリース時の操作状況から判定することができる。S92で「YES」、即ち、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であると判定された場合は、S5に進む。一方、S92で「NO」、即ち、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後でないと判定された場合は、S93に進む。
S93では、リリース後に液圧ブレーキの作動が1回以上あったか否か、即ち、リリース後にブレーキ液圧が所定値としての閾値(第1の所定値)を1回以上超えたか否かを判定する。このS93の処理は、例えば、図10に示す第3の実施形態のS32と同様の処理である。S93で「YES」、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値を1回以上超えたと判定された場合は、S5に進む。一方、S93で「NO」、即ち、リリース後にブレーキ液圧が閾値を1回以上超えていないと判定された場合は、S7に進む。なお、図19のS1−S3,S5,S7−S13は、図6に示す第1の実施形態のS1−S3,S5,S7−S13と同様の処理である。
第9の実施形態は、上述の如きS92の処理により、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第9の実施形態も、第1の実施形態と同様に、ブレーキパッド6Cの押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、温度の変化傾向を高くする補正(即ち、ブレーキトルクをトルク所定値に補正)をして温度を推定する。このため、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。
次に、図20は、第10の実施形態を示している。第10の実施形態の特徴は、アプライ要求があったときに、ブレーキペダルが踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチが解除側に操作された後でない場合に、推定温度に追加温度を加算して温度を推定する構成としたことにある。なお、第10の実施形態では、図17に示す第7の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第10の実施形態では、S54で「YES」と判定されると、S92に進む。S92では、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより駐車ブレーキがリリースされた後であるか否かを判定する。より具体的には、今回のアプライ要求の前に行われたリリースが、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより行われたリリースであるか否かを判定する。このS92の処理は、図19に示す第9の実施形態のS92と同様の処理である。S92で「NO」と判定された場合は、S71に進み、S92で「YES」と判定された場合は、S72に進む。なお、図20のS1,S2,S12,S13、S51,S53,S54,S57,S71,S72は、図17に示す第7の実施形態のS1,S2,S12,S13、S51,S53,S54,S57,S71,S72と同様の処理である。
第10の実施形態は、上述の如きS92の処理により、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第7の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第10の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。
次に、図21は、第11の実施形態を示している。第11の実施形態の特徴は、アプライ要求があったときに、ブレーキペダルが踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチが解除側に操作された後でない場合に、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて推定温度に加算する追加温度を変更して温度を推定することにある。なお、第11の実施形態では、図18に示す第8の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第11の実施形態では、S54で「YES」と判定されると、S92に進む。S92では、図20のS92と同様に、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより駐車ブレーキがリリースされた後であるか否かを判定する。S92で「NO」と判定されるとS81に進み、S92で「YES」と判定されるとS82に進む。なお、図21のS1,S2,S12,S13、S51,S53,S54,S57,S81,S82は、図18に示す第8の実施形態のS1,S2,S12,S13、S51,S53,S54,S57,S81,S82と同様の処理である。
第11の実施形態は、上述の如きS92の処理により、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第8の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第11の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。
次に、図22は、第12の実施形態を示している。第12の実施形態の特徴は、アプライ要求があったときに、ブレーキペダルが踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチが解除側に操作された後でない場合に、推定温度に基づいて算出される目標押圧力に追加押圧力を加算して目標押圧力を算出することにある。なお、第12の実施形態では、図14に示す第5の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第12の実施形態では、S54で「YES」と判定されると、S92に進む。S92では、図21のS92と同様に、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより駐車ブレーキがリリースされた後であるか否かを判定する。S92で「NO」と判定されるとS56に進み、S92で「YES」と判定されるとS57に進む。なお、図22のS1,S2,S12,S13、S51−S54,S56,S57は、図14に示す第5の実施形態のS1,S2,S12,S13、S51−S54,S56,S57と同様の処理である。また、S52の処理は、S53の処理の後、例えば、S53とS54との間、または、S54とS92との間で行ってもよい。
第12の実施形態は、上述の如きS92の処理により、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第5の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第12の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。
次に、図23は、第13の実施形態を示している。第13の実施形態の特徴は、アプライ要求があったときに、ブレーキペダルが踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチが解除側に操作された後でない場合に、推定温度に基づいて算出される目標押圧力に追加押圧力を加算して目標押圧力を算出すると共に、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて追加押圧力を変更することにある。なお、第13の実施形態では、図15および図16に示す第6の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し(同一の処理に同一のステップを付し)、その説明を省略する。
第13の実施形態では、S54で「YES」と判定されると、S92に進む。S92では、図22のS92と同様に、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作されることにより駐車ブレーキがリリースされた後であるか否かを判定する。S92で「NO」と判定されるとS62に進み、S92で「YES」と判定されるとS57に進む。なお、図23のS1,S2,S12,S13、S51−S54,S57、S62は、図15に示す第6の実施形態のS1,S2,S12,S13、S51−S54,S57、S62と同様の処理である。
第13の実施形態は、上述の如きS92の処理により、ブレーキペダル9が踏まれた状態で駐車ブレーキスイッチ23が解除側に操作された後であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第6の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第13の実施形態も、目標押圧力が低くなることを抑制できる。
なお、各実施形態では、左右の後輪側ディスクブレーキ6を電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左右の前輪側ディスクブレーキ5を電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、前輪と後輪の全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。即ち、車両の少なくとも一対の車輪のブレーキを、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成することができる。
各実施形態では、駐車ブレーキ装置(電動駐車ブレーキ機構)として、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。
さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態に基づくブレーキシステムとして、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
(1).第1の態様としては、電動機により被制動部材に制動部材を押圧し該制動部材の押圧力を保持する保持機構を有し、電動機による押圧とは別に付加される液圧により被制動部材に制動部材を押圧可能なブレーキ装置と、被制動部材の温度を推定する温度推定手段と、を有し、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されるとき、運転者の解除操作により制動部材の押圧力の保持が解除されるときより温度の変化傾向を高くする補正をして温度を推定する。
この第1の態様によれば、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、その後は、この解除に伴うブレーキ装置の温度上昇を考慮して、温度を推定することができる。このため、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。
(2).第2の態様としては、第1の態様において、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された後に、液圧が所定値を超えたとき、温度の変化傾向を高くする補正をしない。
この第2の態様によれば、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された後、液圧が所定値を超えることにより、この解除に伴うブレーキ装置の温度上昇を考慮する必要がなくなると、温度の変化傾向を高くする補正をせずに、温度を推定することができる。このため、液圧が所定値を超えた後、温度推定手段の推定温度と実温度との差が大きくなることを抑制することができる。
(3).第3の態様としては、第1の態様において、温度推定手段は、温度の変化傾向の補正後であって、液圧により被制動部材に制動部材が押圧されたときに温度の変化傾向の補正を解除する。
この第3の態様によれば、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除された後、液圧により被制動部材に制動部材が押圧されることにより、この解除に伴うブレーキ装置の温度上昇を考慮する必要がなくなると、温度の変化傾向の補正を解除して、温度を推定することができる。このため、液圧により被制動部材に制動部材が押圧された後、温度推定手段の推定温度と実温度との差が大きくなることを抑制することができる。
(4).第4の態様としては、電動機により被制動部材に制動部材を押圧し該制動部材の押圧力を保持する保持機構を有し、電動機による押圧とは別に付加される液圧により被制動部材に制動部材を押圧可能なブレーキ装置と、被制動部材の温度を推定する温度推定手段と、を有し、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて温度の変化傾向を変更し温度を推定する。
この第4の態様によれば、温度推定手段は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧から、この解除に伴うブレーキ装置の温度変化を考慮して、温度を推定することができる。このため、推定温度が実温度を下回ることを抑制できる。
(5).第5の態様としては、第4の態様において、温度推定手段は、液圧が小さいほど温度の変化傾向を高くする。
この第5の態様によれば、温度推定手段により推定される推定温度の精度を向上できる(推定温度と実温度との差を小さくできる)。
(6).第6の態様としては、電動機により被制動部材に制動部材を押圧し該制動部材の押圧力を保持する保持機構を有し、電動機による押圧とは別に付加される液圧により被制動部材に制動部材を押圧可能なブレーキ装置と、被制動部材の温度を推定する温度推定手段と、温度推定手段が推定した推定温度に基づいて、電動機による目標押圧力を算出する押圧力算出手段と、を有し、押圧力算出手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されたとき、推定温度に基づいて算出される目標押圧力に追加押圧力を加算して目標押圧力を算出する。
この第6の態様によれば、押圧力算出手段は、制動部材の押圧力の保持が運転者の解除操作によらず解除されると、その後は、温度推定手段により推定される推定温度が実温度を下回る可能性を考慮して、目標押圧力を算出することができる。このため、電動機による目標押圧力が低くなることを抑制できる。
(7).第7の態様としては、第6の態様において、押圧力算出手段は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じて追加押圧力を変更する。
この第7の態様によれば、押圧力算出手段は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧に応じた追加目標押圧力を加算することができる。
(8).第8の態様としては、第6の態様において、押圧力算出手段は、液圧が小さいほど追加押圧力を大きくする。
この第8の態様によれば、押圧力算出手段は、制動部材の押圧力の保持を解除するときの液圧が小さいほど目標押圧力を大きくすることができる。