以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1には、本発明の第1実施形態による防波構造物1とその周辺の領域の縦断面が示されている。当該第1実施形態による防波構造物1は、海岸沿いに設置され、陸側への波の進行を防ぐものである。防波構造物1は、背後壁2と、下部防波壁4と、複数の防波ブロック6と、背後構造体8と、複数の排水管20と、複数の逆流防止弁21と、複数のグレーチング蓋26とを備える。
背後壁2は、海岸沿いに立設された壁体であり、防波構造物1の陸側の端から海の沖側へ向かって所定の厚みの範囲を占めている。背後壁2は、陸地の地盤に接している。また、背後壁2は、後述する上部防波壁14の陸側の位置、詳しくは後述する背後構造体8の陸側の位置に設けられた陸側壁3と、当該背後壁2のうち陸側壁3以外の部分、すなわち当該背後壁2のうち陸側壁3よりも下側の全ての部分である基部5とを有する。
陸側壁3のうち上下方向の所定の中間位置以下の部分と基部5は、海岸沿いに元々設置されていた既設護岸100からなる。すなわち、防波構造物1は、既設護岸100を利用して作製されている。既設護岸100は、鉄筋コンクリート製であり、海岸の地盤に据え付けられた基礎101と、その基礎101上に立設された壁体102とを有する。
陸側壁3の前記中間位置以下の部分は、既設護岸100の壁体102の上部によって形成されている。そして、陸側壁3の前記中間位置よりも上側の部分は、壁体102上に設けられた嵩上げ部10によって形成されている。嵩上げ部10は、コンクリート製であり、壁体102の上端の天面103上に設けられて当該壁体102と一体となっている。嵩上げ部10は、壁体102の天面103から上方へ突出している。嵩上げ部10は、海岸に沿って延びるように壁体102の天面103を覆っている。
下部防波壁4は、海岸において背後壁2の沖側に立設されて波を受けるものである。下部防波壁4は、波から受ける荷重を背後壁2へ伝達可能な形態で施工される。具体的には、下部防波壁4は、背後壁2のうち基部5の沖側の面を覆い、その基部5と一体となるように鉄筋コンクリートで形成されている。下部防波壁4の下部は、基礎101の沖側に隣接した位置で地中に埋設されている。
下部防波壁4は、海の沖側を向いて波を受ける面である下部防波面4aと、当該下部防波壁4の上端に位置する天面4bとを有する。下部防波面4aは、上側へ向かうに従って陸側へ向かうように傾斜した平面である。天面4bは、略水平な平面であり、既設護岸100の壁体102の天面103から一段低い位置にある。
複数の防波ブロック6は、海岸沿いに並んで隣り合うように下部防波壁4の天面4b上に設置される。各防波ブロック6は、コンクリート製の上部防波壁14と、鋼製のフレーム12とを有する。
上部防波壁14は、下部防波壁4の天面4b上に設置されて波を受け、その受けた波を沖側へ返す波返し機能を有するものである。具体的には、上部防波壁14は、上側へ向かうにつれて沖側へ迫り出す形状をなす。上部防波壁14は、沖側を向いて波を受ける面である上部防波面14aを有し、この上部防波面14aが上側へ向かうにつれて沖側へ滑らかに迫り出す湾曲面状(凹面状)をなす。この上部防波面14aの形状により上部防波壁14の波返し機能がもたらされる。
複数の防波ブロック6の上部防波壁14は、海岸沿いに隣り合って並んでおり、それらの上部防波面14aは海岸に沿って連続している。また、上部防波面14aと下部防波壁4の下部防波面4aとは連続し、これらの上部防波面14a及び下部防波面4aによって防波構造物1全体の防波面1a、すなわち防波構造物1の波を受ける面が形成されている。防波面1aに当たった波は、その防波面1aに沿って上昇し、上部防波面14aに沿って反転して沖側へ返されるようになっている。
フレーム12は、上部防波壁14と一体的に設けられ、上部防波壁14から陸側へ突出している。具体的には、フレーム12は、図略の曲板部と、突出部13とを有する。
曲板部は、上部防波面14aに沿った湾曲形状をなす鋼板であり、上部防波壁14中に埋め込まれている。換言すれば、曲板部を覆うようにコンクリート製の上部防波壁14が形成され、その曲板部の湾曲形状に沿って上部防波面14aが形成されている。
突出部13は、曲板部から陸側へ延び、上部防波壁14から陸側へ突出している。突出部13の底部は、アンカー18によって上部防波壁14の上端部に固定されている。突出部13の上端部は、上部防波壁14の上端部に比較的近い高さ位置にある。
以上のように、防波ブロック6がコンクリート製の上部防波壁14と鋼製のフレーム12との複合体からなることにより、防波ブロック6は外力に対して高い粘り強さを持っている。このため、防波ブロック6が津波の波力のような大きな外力を受ける場合であっても、当該防波ブロック6の脆性破壊を防げるようになっている。
背後構造体8は、各防波ブロック6を海に対して背後から、すなわち陸側から支えるものである。背後構造体8は、コンクリート製であり、下部防波壁4の天面4b上で上部防波壁14の陸側に設けられ、海岸に沿って延びている。背後構造体8は、各防波ブロック6の上部防波壁14の陸側の面及び各防波ブロック6のフレーム12の突出部13全体を覆って上部防波壁14及びフレーム12を陸側から支えている。換言すれば、背後構造体8は各防波ブロック6と一体となっており、各防波ブロック6の突出部13は背後構造体8中に埋まっている。また、背後構造体8は、下部防波壁4の天面4bとフレーム12の突出部13の底部との間に入り込んで下部防波壁4と突出部13とを相互に繋いでいる。背後構造体8の天面は、上部防波壁14の天面と略面一になっている。背後構造体8の天面及び上部防波壁14の天面と陸側壁3の天面は、ほぼ同じ高さ位置にある。
背後構造体8は、陸側壁3との間に排水空間24をあけて陸側壁3の沖側の位置に設けられている。すなわち、前記陸側壁3は、背後構造体8との間、換言すれば上部防波壁14との間に排水空間24をあけて陸側の位置に設けられている。排水空間24は、沖側から上部防波壁14及び背後構造体8を陸側へ乗り越えた波の水を排水するための空間である。排水空間24は、海岸沿いに延びる溝状をなし、沖側から上部防波壁14及び背後構造体8を乗り越えた波の水の流入を許容するように上向きに開放されている。
排水空間24の沖側の端は背後構造体8の陸側の面によって画定され、排水空間24の陸側の端は陸側壁3の沖側の面によって画定されている。すなわち、排水空間24は、背後構造体8の陸側の面と陸側壁3の沖側の面との間の空間である。排水空間24の沖側の端を画定する背後構造体8の陸側の面は、概ね下方へ向かうに従って陸側へ向かうように傾斜している。背後構造体8の上端の陸側の縁部と陸側壁3(嵩上げ部10)の上端の沖側の縁部とによって、排水空間24の上端の開口が画定されている。この開口から排水空間24に波の水が流入するようになっている。
複数の排水管20は、排水空間24に流入した水を防波構造物1の沖側の空間へ導くものである。各排水管20は、下部防波壁4に埋め込まれている。複数の排水管20は、排水空間24が延びる方向、すなわち海岸に沿う方向において、ある間隔おきに設置されている。各排水管20の一端は、下部防波壁4の上端部のうち背後構造体8の陸側の面と陸側壁3の沖側の面との間に位置する領域に設けられている。この各排水管20の一端の開口は、排水空間24の底部に繋がっている。また、各排水管20の他端は、下部防波壁4の上部の下部防波面4a近傍に設置されている。この各排水管20の他端の開口は、下部防波面4aの沖側の空間に開放されている。
各排水管20は、総体的にはその一端から他端へ向かうに従って下方へ向かうように傾斜しており、その両端間の複数個所で傾斜の勾配が変化している。この各排水管20の傾斜により、排水空間24から各排水管20の一端の開口を通って各排水管20内に流入した水が各排水管20の他端へ流れ、その他端の開口から下部防波面4aの沖側の空間へ放出されるようになっている。
各排水管20には、逆流防止弁21が設けられている。具体的には、逆流防止弁21は、各排水管20の前記他端の近傍、すなわち各排水管20の出口近傍に設けられている。逆流防止弁21は、排水管20内において当該逆流防止弁21に対して排水空間24側の位置から下部防波面4aの沖側の空間へ向かう水の流れは許容する一方、当該逆流防止弁21の沖側の位置から排水管20内を通って排水空間24へ向かう水の流れは阻止する。すなわち、逆流防止弁21は、排水空間24から排水管20内を通って防波構造物1の海側の空間へ水が流れるのを許容する一方、防波構造物1の海側の空間から排水管20内を通って排水空間24へ水が流れるのを阻止するように排水管20に設けられている。この逆流防止弁21が各排水管20に設けられていることにより、排水空間24内に流入した水は当該排水空間24から各排水管20を通じて海へ排水される一方、大きな波が防波面1aに打ち寄せた時や潮位が各排水管20の高さ位置を越えた時には海水が防波構造物1の海側の空間から各排水管20を通って排水空間24へ流れ込むのが阻止される。
グレーチング蓋26は、排水空間24の上端の開口を覆う格子状の蓋である。複数のグレーチング蓋26は、排水空間24が延びる方向、すなわち海岸に沿う方向に並んで配置され、背後構造体8の上端の陸側の縁部と陸側壁3(嵩上げ部10)の上端の沖側の縁部との間に嵌め込まれている。グレーチング蓋26は、排水空間24への水の透過を許容する一方、その格子間の間隔よりも大きな異物が排水空間24へ落ち込むのを阻止する。また、グレーチング蓋26は、その上を人が通行可能な強度を有する。
次に、当該第1実施形態による防波構造物1の施工方法について説明する。
図2に示すように、防波構造物1の一部として利用される既設護岸100が海岸に設置されている。
この既設護岸100の基礎101の沖側に隣接した地盤を掘削して除去する。そして、その地盤を除去したスペースに、既設護岸100から沖側へ間隔をあけて型枠を設置する。そして、その設置した型枠と既設護岸100の沖側の面との間の空間において配筋を行うとともに、既設護岸100に複数の差し筋を設置する。各差し筋は、既設護岸100の沖側の面から突出するように既設護岸100に設置する。その後、型枠と既設護岸100の沖側の面との間の空間にコンクリートを打設することにより、既設護岸100の沖側の面を覆う下部防波壁4(図3参照)を施工する。なお、下部防波壁4のコンクリートの打設前には、前記型枠と既設護岸100の沖側の面との間の空間のうち下部防波壁4の上部が形成される領域に、逆流防止弁21付きの複数の排水管20をそれらの排水管20が取るべき位置及び姿勢に配設する。これにより、前記のようにコンクリートを打設することによって施工された下部防波壁4の上部には、複数の排水管20が埋め込まれて設置される。下部防波壁4の施工後には、前記のように地盤を除去してできたスペースのうち下部防波壁4によって占有されていないスペースを埋め戻す。
一方、防波構造物1を施工する現場に複数の防波ブロック6を用意する。これらの防波ブロック6は例えば工場等で製造し、その製造した防波ブロック6を現場に搬送する。
次に、図4に示すように、下部防波壁4の天面4b上に複数の防波ブロック6を設置する。この際、複数の防波ブロック6が海岸に沿って並ぶようにそれらの防波ブロック6を天面4b上に設置する。下部防波壁4には複数のアンカー18を当該下部防波壁4の天面4bから突出するように取り付けておき、そのアンカー18に防波ブロック6のフレーム12の突出部13の底部を結合させる。これにより、アンカー18を介してフレーム12を下部防波壁4に固定する。
その後、既設護岸100の壁体102の天面103上に嵩上げ部10を施工して陸側壁3を形成するとともに、背後構造体8を下部防波壁4の天面4b上の上部防波壁14の陸側の位置において陸側壁3との間に排水空間24を残すように施工する(図5参照)。
具体的には、嵩上げ部10を施工するための型枠として、壁体102の上端部の陸側の面に沿って当該壁体102の天面103よりも上側へ突出する陸側の型枠と、壁体102の上端部の沖側の面に沿って当該壁体102の天面103よりも上側へ突出する沖側の型枠とを設置する。また、背後構造体8を施工するための型枠を、下部防波壁4の天面4b上に各防波ブロック6の突出部13の陸側の端縁から陸側に離し且つ壁体102から沖側に離して設置する。そして、嵩上げ部10の施工用の陸側の型枠と沖側の型枠との間のスペースにコンクリートを打設することにより、嵩上げ部10を形成する。また、背後構造体8の施工用の型枠と各防波ブロック6の上部防波壁14の陸側の面との間のスペースにコンクリートを打設することにより、背後構造体8を形成する。前記のように形成した嵩上げ部10と壁体102の上部からなる陸側壁3と、前記のように形成した背後構造体8との間に、排水空間24が形成される。
最後に、複数のグレーチング蓋26(図1参照)を、それらのグレーチング蓋26が排水空間24の長手方向に並ぶように、排水空間24の上端の開口を画定する背後構造体8の上端の陸側の縁部と陸側壁3(嵩上げ部10)の上端の沖側の縁部との間に嵌め込む。
以上のようにして当該第1実施形態による防波構造物1が施工される。
当該第1実施形態による防波構造物1では、上部防波壁14とその上部防波壁14の陸側の位置に設けられた陸側壁3との間に上向きに開放された排水空間24が設けられるので、大きな波が沖側から上部防波壁14の上端を乗り越えた場合であっても、その波の水を排水空間24に流入させることができる。このため、沖側から防波構造物1全体を乗り越えて当該防波構造物1の陸側の領域へ至る波の水の流量である越波流量を低減できる。しかも、排水空間24の機能によって越波流量を低減できることから、越波流量を抑制するために防波構造物1の高さを必要以上に増大させなくてもよい。このため、防波構造物1越しの良好な眺望を確保しつつ、防波構造物1の陸側への越波流量を低減できる。
また、当該第1実施形態では、防波構造物1のうちで波返しに寄与しない上部防波壁14の陸側の領域に排水空間24が設けられている。このため、防波構造物1の波返し機能を確保しながら、防波構造物1の陸側への越波流量を低減できる。
また、当該第1実施形態では、上部防波壁14の陸側の面及びフレーム12の突出部13全体を覆って上部防波壁14を陸側から支える背後構造体8が設けられているので、この背後構造体8によって波に対する上部防波壁14の耐力を強化することができる。しかも、当該第1実施形態では、背後構造体8の陸側の面によって排水空間24の沖側の端が画定される。すなわち、当該第1実施形態では、背後構造体8で上部防波壁14の耐力を強化しつつ、その背後構造体8を排水空間24を画定するための構造体として利用できる。
また、当該第1実施形態による防波構造物1は、排水空間24に流入した水を下部防波面4aの沖側の空間へ導く排水管20を備えているので、排水空間24に流入した波の水を排水管20を通じて海へ排出できる。このため、排水空間24に水が溜まって溢れるのを防ぐことができる。
また、排水管20には逆流防止弁21が設けられているので、排水空間24内の水は排水管20を通じて海へ排水できる一方、大きな波が防波面1aに打ち寄せた時や潮位が排水管20の高さ位置を越えた時には海水が防波面1aの沖側の空間から排水管20を通って排水空間24へ流れ込むのを阻止できる。
また、当該第1実施形態による防波構造物1では、排水空間24の上端の開口をグレーチング蓋26が覆っている。このため、防波構造物1越しの良好な眺望を確保しつつ、防波構造物1の陸側へ至る越波流量を低減できる効果を維持したまま、グレーチング蓋26上の人の通行が可能となる一方、上部防波壁14を乗り越えた波の水はグレーチング蓋26を透過させて排水空間24に流入させることができる。また、グレーチング蓋26は、その格子間の間隔を越えた大きさの異物は透過させないので、そのような異物の排水空間24への落ち込みを防ぐことができる。
(第2実施形態)
図6には、本発明の第2実施形態による防波構造物1とその周辺の領域の縦断面が示されている。この第2実施形態による防波構造物1では、背後構造体8が下部防波壁4と後述のように上部102aが除去された後の既設護岸100の壁体102の上で陸側壁3と一体的にコンクリートで形成され、排水空間24はその陸側壁3と背後構造体8が一体となった構造物30によって囲まれた空間となっている。以下、当該第2実施形態による防波構造物1の構成について具体的に説明する。
当該第2実施形態による防波構造物1は、既設護岸100を利用して作製されているという点では前記第1実施形態による防波構造物1と共通している。ただし、当該第2実施形態による防波構造物1は、既設護岸100の壁体102の上部102aが除去され、その上部102aが除去された後の既設護岸100を用いて作製されている。
上部102aが除去された後の壁体102の天面103aと下部防波壁4の天面4bとは、ほぼ同じ高さ位置に設けられている。上部防波壁14の陸側で壁体102の天面103a及び下部防波壁4の天面4bの上に前記構造物30が設けられている。構造物30が有する背後構造体8は、上部防波壁14の陸側の面とフレーム12の突出部13全体を覆って当該上部防波壁14及びフレーム12を陸側から支えている。
排水空間24は、前記構造物30によって囲まれることにより画定されている。具体的に、この第2実施形態では、各防波ブロック6のフレーム12の突出部13の高さ方向の寸法が、前記第1実施形態における突出部13の高さ方向の寸法よりも小さい。これにより、前記構造物30のうちの突出部13の上側に当該突出部13と干渉しない領域が確保され、その領域に排水空間24が設けられている。すなわち、排水空間24がフレーム12の突出部13の直上にその突出部13と干渉しないように設けられ、当該排水空間24の深さが前記第1実施形態における排水空間24の深さよりも小さくなっている。
このように排水空間24が構成されることによって、前記第1実施形態のように突出部13の陸側に排水空間24を設ける場合に必要となる領域が不要になる。このため、海岸線及び上下方向に直交する方向における構造物30の寸法を小さくすることができる。
構造物30の天面、すなわち背後構造体8の天面及び陸側壁3の天面は、上部防波壁14の天面とほぼ同じ高さ位置にある。排水空間24の上端の開口は、この構造物30の天面に形成されている。すなわち、排水空間24の上端の開口は、背後構造体8の上端部と陸側壁3の上端部との間に形成されている。
また、当該第2実施形態では、排水管20が排水空間24の底部の沖側に隣接した位置から沖側へ向かって上部防波面14aへ延びている。すなわち、排水管20の一端は、背後構造体8のうち排水空間24の底部の沖側に隣接する部位に設けられている。この排水管2の一端の開口は、排水空間24の底部に繋がっている。排水管20の他端は、上部防波壁14における上部防波面14a近傍の位置に設置されている。この排水管2の他端の開口は、上部防波面14aの沖側の空間に開放されている。排水管20は、背後構造体8と上部防波壁14を貫通している。排水管20は、その一端から他端へ向かうに従って、すなわち沖側へ向かうに従って下方へ向かうように傾斜している。排水管20の傾斜の勾配は、排水管20全体で略一定になっている。排水管20は、フレーム12の突出部13よりも上側に配置されている。
当該第2実施形態による防波構造物1の前記以外の構成は、前記第1実施形態による防波構造物1の構成と同様である。
次に、当該第2実施形態による防波構造物1の施工方法について説明する。
当該第2実施形態では、まず、既設護岸100の壁体102の上部102a(図7参照)を掘削機械等により除去する。
次に、既設護岸100の基礎101の沖側に隣接した地盤を掘削して除去した後、前記第1実施形態の場合と同様にして既設護岸100の沖側にコンクリートを打設し、その既設護岸100と一体となる下部防波壁4(図8参照)を施工する。この下部防波壁4は、その天面4bが前記のように上部102aを除去した後の壁体102の天面103aと略面一になるように施工する。
また、複数の防波ブロック6を、防波構造物1を施工する現場に用意する。当該第2実施形態では、排水管20を取り付けた状態の複数の防波ブロック6を現場に用意する。例えば、各防波ブロック6を工場で製造する際にその防波ブロック6に排水管20を取り付け、その排水管20が取り付けられた状態の防波ブロック6を現場に搬送する。
その後、図9に示すように、排水管20が取り付けられた状態の複数の防波ブロック6を下部防波壁4の天面4b上に設置する。この防波ブロック6の設置工程は、前記第1実施形態における防波ブロック6の設置工程と同様である。
次に、図10に示すように、下部防波壁4の天面4b及び壁体102の天面103aの上で上部防波壁14の陸側に、背後構造体8と陸側壁3を一体的に有する構造物30を施工する。この時、背後構造体8と陸側壁3との間に排水空間4を残すように構造物30を施工する。
具体的には、構造物30の陸側壁3の陸側の側面を形成するための陸側型枠を壁体102の陸側の側面の上方で地面から突出するように設置する。また、その設置した陸側型枠と上部防波壁14の陸側の面との間のスペースにおいて、排水空間24を残すための型枠、すなわち排水空間24を囲む排水空間用型枠を設置する。この排水空間用型枠は、防波ブロック6の突出部13から上側へ間隔をあけて設置する。また、排水空間用型枠を設置する際、各防波ブロック6の上部防波壁14から陸側へ延びる排水管20の先端を排水空間用型枠で囲まれた空間の底部の沖側に隣接する位置にセットし、その排水管20の姿勢を当該排水管20が取るべき傾斜姿勢に設定する。
その後、上部防波壁14と排水空間用型枠との間及び陸側型枠と排水空間用型枠との間に生コンクリートを流し込む。この生コンクリートは、上部防波壁14と陸側型枠との間で排水空間用型枠の下側の空間にも充填され、各防波ブロック6のフレーム12の突出部13全体を覆うとともにその突出部13の底部と下部防波壁4の天面4bとの間にも入り込む。このコンクリートが固化することにより構造物30が形成され、その構造物30の天面において開口した排水空間24が当該構造物30に形成される。
最後に、排水空間24の上端の開口を覆うように複数のグレーチング蓋26を背後構造体8の上端の陸側の縁部と陸側壁3の上端の沖側の縁部との間に嵌め込む。
当該第2実施形態による防波構造物1の施工方法の前記以外の構成は、前記第1実施形態による防波構造物1の施工方法と同様である。
当該第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
(第3実施形態)
図11には、本発明の第3実施形態による防波構造物1とその周辺の領域の縦断面が示されている。この第3実施形態による防波構造物1は、基本的には前記第1実施形態による防波構造物1と同様の構成を有し、それに加えて、排水空間24の上端の開口の上を通過した波の水が陸側へ進行するのを抑制するためのパラペット40を有する。
具体的に、パラペット40は、排水空間24の上端の開口の陸側に隣接して設けられ、その排水空間24の上端の開口よりも上側、換言すれば上部防波壁14の天面、背後構造体8の天面及びグレーチング蓋26の上面よりも上側に突出している。詳しくは、パラペット40は、陸側壁3から上方へ延びている。すなわち、パラペット40は、陸側壁3の嵩上げ部10の高さ方向の寸法が第1実施形態における嵩上げ部10の高さ方向の寸法よりも増大されることによって形成されている。このパラペット40は、海岸線に沿う方向、すなわち陸側壁3の長手方向に延びている。
当該第3実施形態による防波構造物1の以上の構成以外の構成は、前記第1実施形態による防波構造物1の構成と同様である。
当該第3実施形態による防波構造物1では、上部防波壁14を乗り越えた波の水が排水空間24の上端の開口の上を陸側へ通過しようとする場合であっても、パラペット40によって、その波の水が防波構造物1の陸側へ進行するのを抑制できるとともに、その波の水が排水空間24に流入するようにその波の水の進行の向きを変えることができる。このため、防波構造物1の陸側への越波流量をより低減できる。
当該第3実施形態の防波構造物1によって得られるこれ以外の効果は、前記第1実施形態の防波構造物1によって得られる効果と同様である。
(第4実施形態)
図12には、本発明の第4実施形態による防波構造物1とその周辺の領域の縦断面が示されている。この第4実施形態による防波構造物1は、基本的には前記第2実施形態による防波構造物1と同様の構成を有し、それに加えて、パラペット40を有する。このパラペット40は、前記第3実施形態におけるパラペット40と同様の機能を有するものである。
具体的に、パラペット40は、排水空間24の上端の開口の陸側に隣接して設けられ、その排水空間24の上端の開口よりも上側、換言すれば上部防波壁14の天面、背後構造体8の天面及びグレーチング蓋26の上面よりも上側に突出している。詳しくは、パラペット40は、構造物30の陸側壁3が前記第2実施形態における陸側壁3よりも上方まで延ばされることによって形成されている。すなわち、パラペット40は、構造物30の陸側壁3と一体的に形成されている。また、パラペット40は、海岸線に沿う方向、すなわち陸側壁3の長手方向に延びている。
当該第4実施形態による防波構造物1の以上の構成以外の構成は、前記第2実施形態による防波構造物1の構成と同様である。
当該第4実施形態による防波構造物1では、前記第3実施形態による防波構造物1と同様、パラペット40によって、波の水が防波構造物1の陸側へ進行するのを抑制できるとともに、その波の水が排水空間24に流入するようにその波の水の進行の向きを変えることができる。このため、防波構造物1の陸側への越波流量をより低減できる。
当該第4実施形態の防波構造物1によって得られるこれ以外の効果は、前記第2実施形態の防波構造物1によって得られる効果と同様である。
(排水空間とパラペットによる越波流量の低減効果の実証実験)
防波構造物に排水空間を設けることによる越波流量の低減効果及び排水空間に加えてパラペットを設けることによる越波流量の低減効果を実証するための水理実験を行った。以下、その水理実験について説明する。
この水理実験では、防波構造物の複数の簡易なモデルを作製し、その作製したモデルを実験に供した。実験に供した複数のモデルは、本発明による防波構造物の特徴を備えた第1〜第3モデル、及び、第1〜第3モデルの比較対象となる比較モデルである。
第1モデルは、前記各実施形態の防波構造物の上部防波壁と同様の特徴を持つ上部防波壁を有するとともに、その上部防波壁の陸側の位置に上向きに開放された排水空間を有する。この第1モデルでは、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が2.0mに設定されている。
第2モデルは、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が3.0mに設定されていること以外は、第1モデルと同様の構成を有する。
第3モデルは、排水空間の上端の開口の陸側に隣接して上方へ突出するパラペットを有すること以外は、第2モデルと同様の構成を有する。すなわち、この第3モデルでは、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が3.0mに設定され、且つ、前記パラペットが設けられている。
比較モデルは、排水空間を持っていないこと以外は、第1モデルと同様の構成を有する。すなわち、この比較モデルでは、排水空間が設けられていないとともに、パラペットも設けられていない。
以上のような第1〜第3モデル及び比較モデルについて、各モデルの設置場所の海底勾配や打ち寄せる波の条件を同一に設定した水理実験をそれぞれ行い、各モデルで生じた越波流量を測定した。図13には、その第1〜第3モデル及び比較モデルについての測定結果から得た、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離と越波流量比との相関関係が示されている。
越波流量比は、比較モデルについての越波流量に対する第1〜第3モデルの各々についての越波流量の比、すなわち比較モデルで測定された越波流量で第1〜第3モデルの各々で測定された越波流量を除することによって得た値である。なお、比較モデルの越波流量比は1.0として図13に表している。
図13に示されているように、第1モデルでは越波流量比が0.5付近になっていて1.0よりも小さいことから、防波構造物に排水空間を設けることによって、排水空間を持たない比較モデルのような防波構造物に比べて越波流量を低減できることが判る。
また、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が3.0mである第2モデルの越波流量比は同水平距離が2.0mである第1モデルの越波流量比よりも小さい。このことから、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が大きくなることによって、すなわち排水空間の開口の範囲が大きくなることによって、越波流量をより低減できることが判る。
また、上部防波壁の沖側の先端から排水空間の上端の開口の陸側の端までの水平距離が同じ3.0mである第2モデルと第3モデルを比較すると、第3モデルの越波流量比は第2モデルの越波流量比よりも僅かに小さくなることが判る。よって、パラペットを設けることにより越波流量の低減効果を向上できることが判る。
本発明による防波構造物は、前記のようなものに必ずしも限定されない。本発明による防波構造物の構成として、例えば以下のような構成を採用可能である。
排水空間24には、当該排水空間24に流入した水の透過を許容する充填物、例えば砕石等が充填されていてもよい。
また、排水管20が防波ブロック6の上部防波壁14を貫通している形態の防波構造物1について、必ずしも、防波ブロック6の製造時に排水管20を防波ブロック6に取り付けなくてもよく、例えば、防波構造物1を施工する現場に防波ブロック6を搬送した後、排水管20を防波ブロック6に取り付けたり、防波ブロック6を下部防波壁4上に設置した後、排水管20を防波ブロック6に取り付けたりしてもよい。この場合、防波ブロック6の製造時に上部防波壁14に排水管20を通すための孔を形成しておき、防波ブロック6を現場に搬送した後、上部防波壁14に形成された孔に排水管20を挿入することによって防波ブロック6に排水管20を取り付けたり、防波ブロック6を下部防波壁4上に設置した後、上部防波壁14に形成された孔に排水管20を挿入することによって防波ブロック6に排水管20を取り付けたりすればよい。
パラペットが設けられる位置は、必ずしも排水空間24の上端の開口の陸側に限定されない。例えば、排水空間24の上端の開口の沖側にパラペットが設けられていてもよい。この場合には、パラペットによって、排水空間24の開口の沖側の位置で陸側へ進行する波の流量を低減できる。このため、この場合も、防波構造物1の陸側へ至る越波流量を低減できる。