本発明は、以下に説明する複数の発明を包含する発明群に属する発明であり、以下に、その発明群の実施の形態として、第1および第2の実施の形態について説明するが、そのうち、第2の実施の形態が、本出願人が特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
以下、本発明に係る走行用アクスル装置の実施の形態を、ホイールローダに搭載した場合を例に挙げ、図1ないし図8を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図6は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、ホイールローダ1は、ホイール式建設機械の代表例である。このホイールローダ1は、後部車体2と、この後部車体2の前側に左,右方向に揺動可能に連結された前部車体3と、後部車体2の左,右方向の両側に設けられた後輪4(左側のみ図示)と、前部車体3の左,右方向の両側に設けられた前輪5(左側のみ図示)と、前部車体3の前側に府仰動可能に設けられたローダバケット6と、後述のリヤアクスル装置11、フロントアクスル装置12とを含んで構成されている。
ここで、後部車体2には、駆動源となるエンジン7、トルクコンバータ8、トランスミッション9、油圧ポンプ(図示せず)等が搭載されている。トランスミッション9は、前,後方向に延びたプロペラシャフト9Aを介してリヤアクスル装置11に接続され、プロペラシャフト9Bを介してフロントアクスル装置12に接続されている。後部車体2の上側には、オペレータが搭乗するキャブ10が設けられている。
リヤアクスル装置11は、後部車体2の下側に位置して設けられている。このリヤアクスル装置11は、左,右方向に延びて形成され、その左,右の端部に後輪4がそれぞれ取付けられている。
一方、フロントアクスル装置12は、前部車体3の下側に位置して設けられている。このフロントアクスル装置12は、リヤアクスル装置11と同様に左,右方向に延びて形成され、その左,右の端部に前輪5がそれぞれ取付けられている。
ここで、リヤアクスル装置11とフロントアクスル装置12とは、本発明による走行用アクスル装置を構成し、両者はほぼ同一の構成を有している。このため、本実施の形態では、リヤアクスル装置11の構成について詳細に説明し、フロントアクスル装置12の構成の説明は省略するものとする。
リヤアクスル装置11は、プロペラシャフト9Aに接続されることにより左,右の後輪4を回転駆動するものである。リヤアクスル装置11は、図2、図3に示すように、後述のデファレンシャルケース14、左,右のアクスルチューブ15、デファレンシャル機構20、左,右の遊星歯車減速機構28、左,右のアクスル軸33、左,右のブレーキ機構34を含んで構成されている。
ケーシング13は、後部車体2の下面側に左,右方向に延びて設けられ、リヤアクスル装置11の外殻を構成している。ケーシング13は、後述のデファレンシャル機構20が収容されたデファレンシャルケース14と、デファレンシャルケース14の左,右両側に設けられた左,右のアクスルチューブ15とにより構成されている。
デファレンシャルケース14は、ケーシング13の左,右方向の中間部に配置され、全体として左,右方向に延びる円筒状に形成されている。デファレンシャルケース14の左,右方向の両端は、円環状のチューブ取付部14Aとなり、チューブ取付部14Aの軸方向端面14A1には、左,右のアクスルチューブ15がそれぞれ取付けられている。また、チューブ取付部14Aの内周面14A2には、後述するリングギヤ32のデファレンシャル側嵌合部32Bが嵌合している(図4参照)。
デファレンシャルケース14の内部には、デファレンシャルケース14の内周面から縮径した円環状の左,右の隔壁14Bが設けられている。これにより、デファレンシャルケース14の内部は、左,右のブレーキ機構収容部14Cと、各ブレーキ機構収容部14C間に位置するデファレンシャル機構収容部14Dとに仕切られている。ブレーキ機構収容部14Cには、後述するブレーキ機構34の非回転ディスク36が取付けられるディスク取付段部14C1と、後述するピストン37が取付けられるピストン取付段部14C2が設けられている(図4参照)。また、デファレンシャルケース14の前側(前部車体3側)には、前方に向けて突出する突出筒14Eが設けられ、この突出筒14E内には後述の入力軸17が回転自在に配置されている。
左,右のアクスルチューブ15は、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aに取付けられ、デファレンシャルケース14から左,右方向の外側に向けて延在している。アクスルチューブ15内には、後述する遊星歯車減速機構28、アクスル軸33が配置されている。ここで、デファレンシャルケース14側に位置するアクスルチューブ15の基端部は、円環状のケース取付部15Aとなり、このケース取付部15Aの軸方向端面15A1は、デファレンシャルケース14(チューブ取付部14A)の軸方向端面14A1に、複数のボルト16を用いて取付けられている。また、ケース取付部15Aの内周面15A2には、後述するリングギヤ32のチューブ側嵌合部32Cが嵌合している(図4参照)。アクスルチューブ15の基端側は、ケース取付部15Aから徐々に縮径する漏斗状の減速機構収容部15Bとなり、アクスルチューブ15の先端側は、減速機構収容部15Bから左,右方向の外側に延在するアクスル軸収容筒部15Cとなっている。
入力軸17は、デファレンシャルケース14の突出筒14E内に、2個の軸受18を介して回転可能に支持されている(図3参照)。入力軸17のうち突出筒14Eの外部に突出した一端側には、フランジ部17Aが設けられ、このフランジ部17Aは、プロペラシャフト9Aに接続される。また、入力軸17のうちデファレンシャルケース14内に延びた他端側には、ベベルギヤからなるピニオンギヤ19が設けられている。
デファレンシャル機構20は、デファレンシャルケース14のデファレンシャル機構収容部14D内に収容されている。このデファレンシャル機構20は、入力軸17を介して入力されたエンジン7の回転力を、後述する左,右の回転軸27および左,右のアクスル軸33を介して左,右の後輪4に分配するものである。ここで、デファレンシャル機構20は、デファレンシャルケース14の各隔壁14Bに左,右の軸受21を介して回転可能に支持されたギヤケース22と、ギヤケース22内に設けられたスパイダ23に回転可能に支持された複数のデファレンシャル用ピニオンギヤ24と、ギヤケース22内に設けられ各デファレンシャル用ピニオンギヤ24と噛合する左,右のサイドギヤ25と、ギヤケース22の外周側に取付られた環状のデファレンシャル用リングギヤ26とを含んで構成されている。
デファレンシャル用リングギヤ26は、内周側にギヤケース22が固定された環状のベベルギヤからなり、入力軸17のピニオンギヤ19に噛合している。また、左,右のサイドギヤ25は、左,右の回転軸27にそれぞれスプライン結合されている。そして、デファレンシャル機構20は、エンジン7の回転力が入力軸17、デファレンシャル用リングギヤ26を介してギヤケース22に伝わることにより、ギヤケース22の回転を、デファレンシャル用ピニオンギヤ24、左,右のサイドギヤ25を介して左,右の回転軸27に分配する。
左,右の回転軸27は、デファレンシャルケース14内を左,右方向に延びて設けられている。これら左,右の回転軸27は、デファレンシャル機構20によって分配されたエンジン7の回転力を遊星歯車減速機構28に伝達するものである。ここで、回転軸27は、左,右方向に延びる軸体からなり、デファレンシャル機構20側に位置する回転軸27の基端部は、サイドギヤ25にスプライン結合されている。一方、アクスルチューブ15側に位置する回転軸27の先端部には、後述する太陽歯車29が一体形成されている。さらに、太陽歯車29の近傍に位置する回転軸27の外周側には、後述する各回転ディスク35が係合する雄スプライン27Aが設けられている。
次に、左,右のアクスルチューブ15の減速機構収容部15Bにそれぞれ設けられた左,右の遊星歯車減速機構28について説明する。
左,右の遊星歯車減速機構28は、デファレンシャルケース14と左,右のアクスルチューブ15との間にそれぞれ設けられ、各アクスルチューブ15の減速機構収容部15B内に収容されている。これら左,右の遊星歯車減速機構28は、回転軸27の回転を減速して左,右のアクスル軸33に伝達するものである。ここで、遊星歯車減速機構28は、図4に示すように、回転軸27の先端部に一体形成された太陽歯車29と、内周面に内歯車32Aが形成された後述のリングギヤ32と、太陽歯車29とリングギヤ32の内歯車32Aとに噛合し、太陽歯車29の周囲を自転しつつ公転する複数(1個のみ図示)の遊星歯車30と、各遊星歯車30を回転可能に支持し各遊星歯車30の公転をアクスル軸33に伝達するキャリア31とを含んで構成されている。
次に、本実施の形態に用いられる遊星歯車減速機構28のリングギヤ32について説明する。
リングギヤ32は、デファレンシャルケース14の内面側とアクスルチューブ15の内面側との間に跨って設けられ、回転軸27の軸方向(左,右方向)に延在している。図4および図5に示すように、リングギヤ32は、例えばクロム鋼等の硬度の高い特殊鋼を用いて円筒状に形成され、衝撃荷重等に対する耐久性に優れている。リングギヤ32の内周面には全周に亘って内歯車32Aが形成され、この内歯車32Aには遊星歯車減速機構28の各遊星歯車30が噛合する構成となっている。リングギヤ32は、軸方向の一側がデファレンシャルケース14内に位置すると共に軸方向の他側がアクスルチューブ15内に位置する状態で、回転軸27の軸中心と同心上に配置されている。
ここで、リングギヤ32の軸方向一側の外周面はデファレンシャル側嵌合部32Bとなり、このデファレンシャル側嵌合部32Bは、デファレンシャルケース14に設けられたチューブ取付部14Aの内周面14A2に嵌合している。一方、リングギヤ32の軸方向他側の外周面はチューブ側嵌合部32Cとなり、このチューブ側嵌合部32Cは、アクスルチューブ15に設けられたケース取付部15Aの内周面15A2に嵌合している。即ち、リングギヤ32の外周面は、図5中の二点鎖線で示す境界部32Dを挟んでデファレンシャル側嵌合部32Bとチューブ側嵌合部32Cとに仕切られ、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとは、リングギヤ32の境界部32Dの位置で接続されている。また、リングギヤ32のデファレンシャル側嵌合部32Bの軸方向端面は、ブレーキ機構34のピストン37との間で各回転ディスク35と各非回転ディスク36とを挟持するディスク当接面32Eとなっている。
このように、衝撃荷重等に対する耐久性に優れたリングギヤ32に、デファレンシャル側嵌合部32Bとチューブ側嵌合部32Cとを設け、このリングギヤ32を、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとに嵌合(印ろう嵌合)させることにより、遊星歯車減速機構28のリングギヤ32を利用してデファレンシャルケース14とアクスルチューブ15との接続部の強度を高めることができる構成となっている。
アクスル軸33は、左,右のアクスルチューブ15内をそれぞれ軸方向(左,右方向)に延びて配置され、軸受33Aを介して回転可能に支持されている。各アクスル軸33は、遊星歯車減速機構28によって減速された左,右の回転軸27の回転を左,右の後輪4に伝えるものである。各アクスル軸33は、基端側が遊星歯車減速機構28のキャリア31にスプライン結合され、各アクスルチューブ15内を左,右方向に延びている。各アクスル軸33の先端側は、アクスルチューブ15から突出し、その突出端部に設けられた円板状のフランジ部33Bには後輪4が取付けられている。
左,右のブレーキ機構34は、デファレンシャルケース14の左,右のブレーキ機構収容部14C内にそれぞれ設けられている。各ブレーキ機構34は、例えば湿式多板型のブレーキ機構として構成され、左,右の回転軸27に制動を与えるものである。ここで、ブレーキ機構34は、後述する複数(例えば2枚)の回転ディスク35と、複数(例えば3枚)の非回転ディスク36と、ピストン37とを含んで構成されている。なお、実際の回転ディスク35および非回転ディスク36は、それぞれ多数枚の薄肉な板体によって構成されているが、図面を簡略化するために2枚の回転ディスク35と、3枚の非回転ディスク36を図示している。
回転ディスク35は、円環状の板体により形成され、非回転ディスク36と共にブレーキ機構収容部14Cのディスク取付段部14C1に取付けられている。回転ディスク35は、非回転ディスク36と軸方向に交互に隣合う状態で、回転軸27の外周側に配置されている。回転ディスク35の内周側は雌スプライン35Aとなり、回転軸27に設けられた雄スプライン27Aにスプライン結合されている。これにより、各回転ディスク35は、回転軸27に対して軸方向に移動可能な状態で、回転軸27と一緒に回転することができる。
非回転ディスク36は、各回転ディスク35をそれぞれ左,右方向から対面して挟むように設けられている。図6に示すように、非回転ディスク36の外周縁には、複数の固定用突起36Aが突設され、これら各固定用突起36Aは、ディスク取付段部14C1の内周面に形成された突起係合部(図示せず)に軸方向に移動可能に係合している。これにより、各非回転ディスク36は、デファレンシャルケース14に対して軸方向に移動可能に、かつ、デファレンシャルケース14に対して非回転状態で取付けられている。この場合、各非回転ディスク36は、最もリングギヤ32側に位置する非回転ディスク36がリングギヤ32のディスク当接面32Eに当接することにより、軸方向の移動が制限される構成となっている。
ピストン37は、ブレーキ機構収容部14Cのピストン取付段部14C2に取付けられている。ピストン37は、段付き円筒体からなり、ピストン取付段部14C2の内周面に軸方向に摺動可能に取付けられている。ピストン37とピストン取付段部14C2との間には円環状のブレーキ油室37Aが形成され、ピストン37は、ブレーキ油室37A内にブレーキ圧が供給されることにより軸方向に摺動する。これにより、リングギヤ32のディスク当接面32Eとピストン37との間で各回転ディスク35と各非回転ディスク36とが挟持され、各非回転ディスク36が各回転ディスク35に摩擦接触することにより、回転軸27に制動力が付与される。
本実施の形態によるリヤアクスル装置11は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
まず、キャブ10に搭乗したオペレータは、周囲のレバー、ペダル類(いずれも図示せず)を操作して走行用のトランスミッション9を作動させる。トランスミッション9の出力軸の回転力は、プロペラシャフト9Aからリヤアクスル装置11の入力軸17、デファレンシャル機構20、左,右の回転軸27を介して遊星歯車減速機構28に伝達され、遊星歯車減速機構28は、左,右の回転軸27の回転を減速して左,右のアクスル軸33に伝達する。
即ち、遊星歯車減速機構28の各遊星歯車30は、回転軸27の先端部に一体形成された太陽歯車29とリングギヤ32の内歯車32Aとに噛合し、太陽歯車29の周囲を自転しつつ公転する。この遊星歯車30の公転は、キャリア31を介してアクスル軸33に伝達され、アクスル軸33は大きなトルクをもって回転することができる。これにより、各アクスル軸33のフランジ部33Bに取付けられた左,右の後輪4を回転駆動することができる。これと同様に、トランスミッション9の出力軸の回転を、プロペラシャフト9Bからフロントアクスル装置12に伝えることにより、左,右の前輪5を回転駆動することができる。
このように、後輪4および前輪5を回転駆動することにより、ホイールローダ1を走行させることができ、例えば山積みされた土砂にローダバケット6を突込んで土砂を掬上げる作業(掘削作業)を行うことができる。
ここで、ホイールローダ1を用いた掘削作業時には、ローダバケット6によって土砂を掬上げるときの反力(掘削反力)によって、前輪5を支点として後輪4が地面から浮上し、ローダバケット6に作用する荷重が除去されると同時に後輪4が急激に地面に着地することがある。この場合には、リヤアクスル装置11に衝撃荷重が作用し、この衝撃荷重はホイールローダ1の車格(車体重量)が大きくなるほど増大する。
このように、浮上した後輪4が急激に地面に着地する現象によってリヤアクスル装置11に衝撃荷重が作用すると、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aと左,右のアクスルチューブ15のケース取付部15Aとの接続部に対し、軸方向と直交する方向への荷重が作用する。この結果、互いに接続されたチューブ取付部14Aの軸方向端面14A1とケース取付部15Aの軸方向端面15A1との間にせん断力が発生する。
これに対し、本実施の形態では、遊星歯車減速機構28を構成するリングギヤ32を、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとの間に跨って配置し、リングギヤ32の軸方向一側の外周面にデファレンシャル側嵌合部32Bを設けると共に、リングギヤ32の軸方向他側の外周面にチューブ側嵌合部32Cを設けている。そして、リングギヤ32のデファレンシャル側嵌合部32Bを、チューブ取付部14Aの内周面14A2に嵌合すると共に、チューブ側嵌合部32Cを、ケース取付部15Aの内周面15A2に嵌合している。
この場合、リングギヤ32は、クロム鋼等の硬度の高い特殊鋼を用いて形成されているので、このリングギヤ32を、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとに嵌合(印ろう嵌合)させることにより、デファレンシャルケース14とアクスルチューブ15との接続部の強度を高めることができる。従って、ホイールローダ1の掘削作業時に、後輪4が地面から浮上した後に急激に地面に着地する現象によってリヤアクスル装置11に衝撃荷重が作用したとしても、チューブ取付部14Aの軸方向端面14A1とケース取付部15Aの軸方向端面15A1との間にせん断力が発生するのを、リングギヤ32によって抑えることができる。この結果、格別な補強部材を用いることなく、既存の部品である遊星歯車減速機構28のリングギヤ32を利用して、デファレンシャルケース14と左,右のアクスルチューブ15との接続部の強度を高めることができる。
かくして、本実施の形態によるリヤアクスル装置11は、デファレンシャルケース14と左,右のアクスルチューブ15との間に、左,右の回転軸27の回転を減速する左,右の遊星歯車減速機構28を備え、各遊星歯車減速機構28は、デファレンシャルケース14の内面側と各アクスルチューブ15の内面側との間に跨って設けられたリングギヤ32を有し、このリングギヤ32には、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aの内周面14A2に嵌合するデファレンシャル側嵌合部32Bと、アクスルチューブ15のケース取付部15Aの内周面15A2に嵌合するチューブ側嵌合部32Cとが設けられる構成としている。
従って、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aと左,右のアクスルチューブ15のケース取付部15Aとの接続部を、チューブ取付部14Aとケース取付部15Aとに嵌合されたリングギヤ32によって補強することができる。この結果、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aと左,右のアクスルチューブ15のケース取付部15Aとの接続部の強度を高めることができ、リヤアクスル装置11の信頼性を高めることができる。なお、フロントアクスル装置12は、リヤアクスル装置11と同様の構成を有しているので、リヤアクスル装置11と同様な作用効果を得ることができる。
また、デファレンシャルケース14内に設けられたブレーキ機構34は、回転軸27と共に回転する複数の回転ディスク35と、デファレンシャルケース14に対して非回転状態に取付けられた複数の非回転ディスク36と、非回転ディスク36を回転ディスク35に押付けるピストン37とにより構成され、リングギヤ32のデファレンシャル側嵌合部32Bの軸方向端面は、ピストン37との間で各回転ディスク35と各非回転ディスク36とを挟持するディスク当接面32Eとして構成されている。
従って、例えば従来技術で述べたエンドプレート等を用いることなく、リングギヤ32のディスク当接面32Eとピストン37との間で各回転ディスク35と各非回転ディスク36とを挟持することができる。この結果、遊星歯車減速機構28のリングギヤ32を利用して、各非回転ディスク36を各回転ディスク35に摩擦接触させ、回転軸27に制動力を付与するこができるので、リヤアクスル装置11の部品点数を低減することができ、製造コストの低減にも寄与することができる。
次に、図7および図8は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、リングギヤのうちデファレンシャル側嵌合部に対応する内周面に、内歯車を切欠いた切欠き部が設けられていることにある。なお、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施の形態によるリヤアクスル装置に用いられる遊星歯車減速機構41は、第1の実施の形態による遊星歯車減速機構28と同様に、太陽歯車29、各遊星歯車30、キャリア31、後述のリングギヤ42等によって構成されている。しかし、リングギヤ42の構成が、第1の実施の形態によるリングギヤ32とは相違している。
リングギヤ42は、デファレンシャルケース14の内面側とアクスルチューブ15の内面側との間に跨って設けられ、回転軸27の軸方向(左,右方向)に延在している。リングギヤ42は、衝撃荷重等に対する耐久性に優れたクロム鋼等の特殊鋼を用いて段付き円筒状に形成され、軸方向の一側がデファレンシャルケース14内に位置すると共に軸方向の他側がアクスルチューブ15内に位置する状態で、回転軸27の軸中心と同心上に配置されている。
リングギヤ42の内周面には、各遊星歯車30が噛合する内歯車42Aと、この内歯車42Aを切欠いた切欠き部42Bとが形成されている。ここで、図7に示すように、内歯車42Aは、遊星歯車30の軸方向寸法Aと同等の軸方向寸法を有している。即ち、リングギヤ42の内周面のうち遊星歯車30が噛合する範囲だけに内歯車42Aが形成され、遊星歯車30が噛合しない軸方向寸法Bの範囲は、内歯車42Aの歯底円径よりも大径な内径寸法を有する円筒状の切欠き部42Bとなっている。このように、切欠き部42Bを設けることにより、リングギヤ42の軸方向の全域に亘って内歯車42Aを設ける場合に比較してリングギヤ42の軽量化を図ることができる構成となっている。
一方、リングギヤ42に内歯車42Aを形成する前の素材は、例えば内歯車42Aの歯先円径よりも小径な小径筒部(軸方向寸法Aの範囲)と、内歯車42Aの歯底円径よりも大径な大径筒部(軸方向寸法Bの範囲)とを有している。このリングギヤ42の素材の小径筒部のみに歯車加工を施すことにより内歯車42Aが形成され、大径筒部はそのまま円筒状の切欠き部42Bとなっている。これにより、リングギヤ42の軸方向寸法の全域に亘って内歯車42Aを加工する必要がなく、リングギヤ42の製造コストを低減することができる構成となっている。
リングギヤ42の軸方向一側の外周面はデファレンシャル側嵌合部42Cとなり、このデファレンシャル側嵌合部42Cは、デファレンシャルケース14に設けられたチューブ取付部14Aの内周面14A2に嵌合している。一方、リングギヤ42の軸方向他側の外周面はチューブ側嵌合部42Dとなり、このチューブ側嵌合部42Dは、アクスルチューブ15に設けられたケース取付部15Aの内周面15A2に嵌合している。この場合、図7に示すように、内歯車42Aはチューブ側嵌合部42Dに対応する内周面に形成され、切欠き部42Bはデファレンシャル側嵌合部42Cに対応する内周面に形成されている。
即ち、リングギヤ42の外周面は、図8中の二点鎖線で示す境界部42Eを挟んでデファレンシャル側嵌合部42Cとチューブ側嵌合部42Dとに仕切られ、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとは、リングギヤ42の境界部42Eの位置で接続されている。また、リングギヤ42のデファレンシャル側嵌合部42Cの軸方向端面は、ブレーキ機構34のピストン37との間で各回転ディスク35と各非回転ディスク36とを挟持するディスク当接面42Fとなっている。
このように、第2の実施の形態においても、衝撃荷重等に対する耐久性に優れたリングギヤ42に、デファレンシャル側嵌合部42Cとチューブ側嵌合部42Dとを設け、このリングギヤ42を、デファレンシャルケース14のチューブ取付部14Aとアクスルチューブ15のケース取付部15Aとに嵌合(印ろう嵌合)させることにより、遊星歯車減速機構41を構成する既存のリングギヤ42を利用して、デファレンシャルケース14とアクスルチューブ15との接続部の強度を高めることができる構成となっている。
第2の実施の形態によるリヤアクスル装置は、上述の如き遊星歯車減速機構41を備えるもので、その基本的作用については、第1の実施の形態によるリヤアクスル装置11と格別差異はない。
然るに、第2の実施の形態によれば、リングギヤ42のチューブ側嵌合部42Dに対応する内周面にのみ内歯車42Aが形成され、デファレンシャル側嵌合部42Cに対応する内周面には、内歯車42Aを切欠いた切欠き部42Bが形成されている。これにより、遊星歯車30が噛合する範囲のみに内歯車42Aを形成することができる。この結果、リングギヤ42の軸方向寸法の全域に亘って内歯車42Aを加工する必要がなく、リングギヤ42の軽量化を図ることができ、かつリングギヤ42の製造コストを低減することができる。
なお、第1の実施の形態では、回転軸27の回転を1段減速してアクスル軸33に伝達する遊星歯車減速機構28を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば回転軸27の回転を2段以上に減速する遊星歯車減速機構を用いる構成としてもよい。このことは、第2の実施の形態による遊星歯車減速機構41についても同様である。
さらに、実施の形態では、走行用アクスル装置が適用されるホイール式建設機械としてホイールローダ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前,後に車輪を有するホイール式の油圧ショベル、鉱山用大型ダンプトラック、トラクタ等の他のホイール式建設機械にも広く適用できるものである。