以下,本発明を実施するための最良の形態について説明する。しかしながら,以下説明する形態は,あくまで例示であって,当業者にとって自明な範囲で適宜修正することができる。
図1は,本発明の固形乳を製造する方法の例を説明するためのフローチャートである。各図中のSは,製造工程(ステップ)を示す。
固形乳の製造方法は,概略的には,液体状の乳・調製乳(液状乳)から固体状の粉乳を製造し,その粉乳から固形乳を製造するものである。固形乳の製造方法は,図1に例示されているように,粉乳製造工程(S100)と,分級工程(S120)と,圧縮成形工程(S130)と,加湿工程(S140)と,乾燥工程(S160)とを含むものである。したがって,固形乳の製造方法は,粉乳の製造方法を含んでいる。
粉乳製造工程(S100)では,液状乳から粉乳を製造する。粉乳の原料となる液状乳では,少なくとも乳成分(たとえば牛乳の栄養成分)を含んでおり,たとえば水分含有率として,40重量%〜95重量%があげられる。一方,液状乳から調製された粉乳では,たとえば水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられる。すなわち,粉乳に含まれる水分が多いと,保存性が悪くなり,風味の劣化や外観の変色が進行しやくなるためである。なお,本工程の詳細については,図2を用いて後述する。
分級工程(S120)は,粉乳製造工程(S100)で得られた粉乳を粒子径毎に分類することで,この粉乳から必要な粒子径の範囲にある粉乳を抽出(選抜)する工程である。粉乳を粒子径毎に分類するためには,たとえばすべての粉乳を目開きの異なる複数の篩に配置や通過させればよい(篩過)。具体的には,すべての粉乳を目開きの大きい篩上に配置することで,この篩の目開きよりも小さな粒子径の粉乳は篩下に通過し,この篩の目開きよりも大きな粒子径の粉乳は篩上に残ることとなる。このようにして,全ての得られた粉乳から,篩上に残った必要以上に大きい粉体(固まり粉,凝塊など)を取り除く。このとき,目開きの大きい篩を通過した粉乳を目開きの小さい篩上に配置することで,同様に操作する。このようにして,篩下に通過した必要以上に小さい粉乳を取り除く。これにより,目開きの小さい篩上には,所望の粒子径の範囲にある粉乳が残ることとなる。すなわち,本工程では,噴霧乾燥工程で得られた粉乳を整粒する。なお,分級に必要な設備を確保できない場合などには,本工程を省略してもよい。
圧縮成形工程(S130)は,比較的低い圧縮圧力で粉乳を圧縮成形(たとえば打錠)し,固形状の粉乳圧縮成形物を得るための工程である。これにより,この粉乳圧縮成形物では,水(溶媒)が侵入できる多数の空隙が確保されながら,後続の工程へ移行できる程度の保形性を維持できることとなる。すなわち,この粉乳圧縮成形物の保形性が悪ければ,後続の工程において,圧縮成形した形状を保てなくなる可能性がある。そして,この粉乳圧縮成形物の空隙率は多数の空隙によって定まり,この空隙率は固形乳の空隙率と密接に関係している。
圧縮成形工程における原料として,たとえば粉乳製造工程(S100)で製造された粉乳のみを用い,添加剤を実質的に添加しないものを用いることができる。添加剤とは,結合剤,崩壊剤,滑沢剤,膨張剤などを意味し,ここでいう添加剤から,栄養成分は除かれる。ただし,固形乳の栄養成分に影響しない添加量として,たとえば0.5重量%程度であれば,粉乳の原料として添加剤を用いてもよい。このような場合,粉乳に遊離脂肪として,たとえば0.5重量%〜4重量%となるように含んだものを用いることが好ましい。これにより,粉乳中の遊離脂肪を滑沢剤や糊のような役割として機能させることができる。
圧縮成形時の圧縮圧力を小さくするためには,粉乳の脂肪含有率が高い粉乳を用いることがよい。このため,圧縮成形の対象となる粉乳では,脂肪含有率として,たとえば5重量%〜70重量%であることが好ましい。
圧縮成形工程において,粉乳から固形状の粉乳圧縮成形物を得るためには,圧縮手段を用いる。そのような圧縮手段として,打錠機,圧縮試験装置などの加圧成形機があげられる。打錠機は粉乳(粉体)を入れる型となる臼と,臼に向かって打ち付け可能な杵とを備えている。そして,臼(型)に粉乳を入れて,杵を打ち付ければ,粉乳に圧縮圧力が加わり,粉乳圧縮成形物を得ることができる。なお,圧縮成形工程において,粉乳の圧縮作業を連続的に行うことが好ましい。
圧縮成形工程において,環境の温度は特に限定されず,たとえば室温でも良く,具体的には,環境の温度として,10℃〜30℃があげられる。このとき,環境の湿度として,たとえば30%RH〜50%RHがあげられる。そして,圧縮圧力として,たとえば1MPa〜30MPa(好ましくは1MPa〜20MPa)があげられる。本態様では,特に粉乳を固形化させる際に,圧縮圧力を1MPa〜30MPaの範囲内で調整することによって,空隙率が30%〜60%の範囲内となるように制御するとともに,粉乳圧縮成形物の硬度が6N〜22Nの範囲内となるように制御することが好ましい。これにより,溶解性と利便性(扱いやすさ)を兼ね備えた,実用性の高い固形乳を製造することができる。なお,粉乳圧縮成形物の硬度として,少なくとも後続の加湿工程や乾燥工程で崩れない(型崩れしない)ような硬度(たとえば4N)が確保されるべきである。
加湿工程(S140)は,圧縮成形工程(S130)で得られた粉乳圧縮成形物を加湿するための工程である。粉乳圧縮成形物を加湿すると,粉乳圧縮成形物の表面には,タック(べとつき)が生じる。その結果,粉乳圧縮成形物の表面近傍の粉体粒子の一部が液状やゲル状となり,相互に架橋することとなる。そして,この状態で乾燥すると,粉乳圧縮成形物(固形乳)の表面近傍の強度を内部の強度よりも高めることができる。本態様では,高湿度の環境下に置く時間(加湿時間)を調整することで,架橋の程度(拡がり具合)を調整し,これにより,加湿工程前の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度(たとえば6N〜22N)を,固形乳として必要な目的の硬度(たとえば40N)にまで高めることができる。ただし,加湿時間の調整によって高めることができる硬度の範囲(幅)は限られている。すなわち,圧縮成形後の粉乳圧縮成形物を加湿するため,ベルトコンベアーなどで運搬する際に,粉乳圧縮成形物の硬度が十分でないと,固形乳の形状を保てなくなる。また,圧縮成形時に粉乳圧縮成形物の硬度が十分すぎると,空隙率が小さく,溶解性に乏しい固形乳しか得られなくなる。このため,加湿工程前の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度が十分に高くなり,かつ固形乳の溶解性を十分に保てるように,圧縮成形されることが好ましい。
加湿工程において,粉乳圧縮成形物の加湿方法は特に限定されず,たとえば粉乳圧縮成形物を高湿度の環境下に置く方法,粉乳圧縮成形物に対して水などを直接噴霧する方法,粉乳圧縮成形物に対して蒸気を吹き付ける方法などがあげられる。粉乳圧縮成形物を加湿するためには,加湿手段を用いるが,そのような加湿手段としては,高湿度室,スプレー,スチームなどがあげられる。
ここで,粉乳圧縮成形物を高湿度の環境下に置く場合,環境の湿度として,たとえば60%RH〜100%RHの範囲内があげられる。そして,加湿時間は,例えば5秒〜1時間であり,高湿度環境における温度は,たとえば30℃〜100℃である。
加湿工程において,粉乳圧縮成形物に加えられる水分量(以下,「加湿量」ともいう)は,適宜調整すればよいが,加湿量として,圧縮成形工程後の粉乳圧縮成形物の質量の0.5重量%〜3重量%が好ましい。加湿量を0.5重量%よりも少なくすると,固形乳に十分な硬度(錠剤硬度)を与えることができず,一方,加湿量が3重量%以上にすると,粉乳圧縮成形物が過剰に液状やゲル状となって溶解し,圧縮成形した形状から変形したり,運搬中にベルトコンベアーなどの装置へ付着したりすることとなる。
乾燥工程(S160)は,加湿工程(S140)で加湿された粉乳圧縮成形物を乾燥させるための工程である。これにより,粉乳圧縮成形物の表面タック(べとつき)がなくなり,固形乳を製品として扱うことができるようになる。つまり,加湿工程と乾燥工程は,圧縮成形後の粉乳圧縮成形物(固形乳)の硬度を高めて,固形乳を製品として必要な品質に調整する工程に相当する。
乾燥工程において,粉乳圧縮成形物の乾燥方法は特に限定されず,加湿工程を経た粉乳圧縮成形物を乾燥させることができる公知の方法を採用でき,たとえば,低湿度・高温度条件下に置く方法,乾燥空気・高温乾燥空気を接触させる方法などがあげられる。
低湿度・高温度の条件下に置く場合,湿度として,たとえば0%RH〜30%RHがあげられる。このように,できるだけ湿度を低く設定することが好ましい。このとき,温度として,たとえば20℃〜150℃があげられる。そして,乾燥時間として,たとえば0.2分〜2時間があげられる。
ところで,固形乳に含まれる水分が多いと,保存性が悪くなり,風味の劣化や外観の変色が進行しやすくなる。したがって,乾燥工程において,乾燥温度や乾燥時間などの条件を制御することによって,固形乳の水分含有率を,原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内に制御(調整)することが好ましい。
このようにして製造された固形乳は一般的に、温水に溶かして飲用に供される。具体的には,蓋のできる容器などへ温水を注いだ後に,固形乳を必要な個数で投入するか,固形乳を投入した後に温水を注ぐ。そして,好ましくは容器を軽く振ることにより,固形乳を速く溶解させ,適温の状態で飲用する。また,好ましくは1個〜数個の固形乳(より好ましくは1個の固形乳)を温水に溶かせば,1回の飲用に必要な分量の液状乳となるように,固形乳の体積として,たとえば1cm3〜50cm3となるように調整してもよい。なお,圧縮成形工程で用いる粉乳の分量を変更することで,固形乳の体積を調整できる。
ここで,固形乳の詳細について説明する。固形乳の成分は基本的には,原料となる粉乳の成分と同様である。固形乳の成分として,脂肪,たん白質,糖質,ミネラル,ビタミン,水分などがあげられる。
固形乳には,空隙(たとえば細孔)が多数存在している。これら複数の空隙は,固形乳において一様に分散(分布)していることが好ましく,これにより,固形乳を偏りなく溶解させることができ,固形乳の溶解性を高めることができる。ここで,空隙が大きい(広い)ほど,水などの溶媒の侵入が容易となるため,固形乳を速く溶解させることができる。一方,空隙が大きすぎると,固形乳の硬度が弱くなるか,固形乳の表面が粗くなる。そこで,各空隙の寸法(大きさ)として,たとえば10μm〜500μmがあげられる。なお,各空隙の寸法(大きさ)や多数の空隙の分布は,たとえば固形乳の表面及び断面を,走査型電子顕微鏡を用いて観察することなど公知の手段により測定することができる。このような測定によって,固形乳の空隙率を定めることができる。
本態様において製造される固形乳の空隙率として,たとえば30%〜60%があげられる。空隙率が大きいほど,溶解性は高まるが,硬度(強度)が弱くなる。また,空隙率が小さいと,溶解性が悪くなる。なお,固形乳の空隙率は,たとえば圧縮成形工程において,圧縮圧力を調整することによって制御することができる。具体的には,圧縮圧力を小さくすることで,固形乳の空隙率は大きくなり,圧縮圧力を大きくすることで,固形乳の空隙率は小さくなる。このように固形乳の空隙率を制御できるため,固形乳の空隙率は,30%〜60%の範囲内に限られることはなく,その用途などに応じて適宜調整される。これらのような空隙率の範囲に調整すれば,後述のとおり,オイルオフなどの問題を解決した良好な固形乳を得ることができる。
固形乳の形状は,圧縮成形に用いる型(打錠機の臼)の形状によって定まるが,ある程度の寸法(大きさ)をもつ形状であれば,特に限定されない。固形乳の形状として,円柱状,楕円柱状,立方体状,直方体状,板状,球状,多角柱状,多角錐状,多角錐台状,及び多面体状などがあげられ,成形の簡便さや運搬の便利さなどの観点から,円柱状,楕円柱状,直方体状が好ましい。なお,固形乳では,運搬する際などで壊れる事態を防止するため,角部分に面取りされていることが好ましい。
固形乳は,水などの溶媒に対して,ある程度の溶解性を持っている必要がある。ここで,溶解性として,たとえば溶質としての固形乳と,溶媒としての水とを所定の濃度となるように用意したときに,固形乳が完全に溶けるまでの時間や,所定時間における溶け残り量(実施例で後述する溶解残渣の質量)で評価することができる。
また,固形乳では,運搬する際などに壊れる事態を極力避けるため,ある程度の硬度(強度)を持つ必要がある。このとき,固形乳の硬度として,好ましくは31N以上,より好ましくは40N以上である。一方,固形乳では,硬度が高すぎると,溶解性が悪くなるので,硬度の上限として,たとえば300Nであり,好ましくは60Nである。なお,硬度は公知の方法で測定すればよい。
続いて,粉乳製造工程について詳細に説明する。図2は,図1のS100に示す粉乳製造工程を詳細に説明するためのフローチャートである。本態様では,粉乳として調製粉乳を製造する場合について説明する。なお,調製粉乳は製造対象となる粉乳の一例に過ぎず,製造対象となる粉乳は,固形乳を製造するために適したものであれば,全粉乳,脱脂粉乳,又はクリーミーパウダーであってもよい。これらの粉乳も,図2を用いて説明した工程と同様の工程を経ることで製造できる。
粉乳製造工程は,概略的には,水分を含む液状乳(原料乳)を調製し,この液状乳を濃縮して,噴霧乾燥させることで,圧縮成形工程(S130)で用いる粉乳を製造するものである。粉乳製造工程の例は,図2に例示されているように,原料乳調製工程(S102)と,清澄化工程(S104)と,殺菌工程(S106)と,均質化工程(S108)と,濃縮工程(S110)と,気体分散工程(S112)と,噴霧乾燥工程(S114)とを含む。
原料乳調製工程(S102)は,粉乳の原料となる液体状の乳類(液状乳)を調製する工程である。したがって,粉乳の原料として,少なくとも乳成分(たとえば牛乳の成分)が含まれ,たとえば水分含有率として,40重量%〜95重量%があげられる。粉乳として調製粉乳を製造する場合,上記の液状乳には,粉乳の原料として,後述する栄養成分が添加されている。なお,粉乳の原料として,生乳(全脂乳),脱脂乳,クリームなどの乳成分のみであってもよく,この場合,必要に応じて,原料乳調製工程を省略してもよい。
上記の粉乳の原料となる乳成分として,生乳由来のものがあげられ,具体的には,牛(ホルスタイン,ジャージー種その他),山羊,羊,水牛などの乳由来のものがあげられる。なお,これらの乳には,脂肪分が含まれている。そこで,本工程において,乳の脂肪分の一部又は全部を遠心分離等などにより取り除いてもよい。これにより,原料乳(液状乳)の脂肪含有率を調節することができる。
上記粉乳の原料となる栄養成分としては,脂肪,たん白質,糖質,ミネラル,ビタミンなどがあげられ,これらのうちの一種以上,好ましくは二種以上,より好ましくは全成分が用いられる。これにより,栄養の補給や強化に優れた粉乳や固形乳を製造することができる。
粉乳の原料となり得るたん白質として,乳たん白質及び乳たん白質分画物,動物性たん白質,植物性たん白質,それらのたん白質を酵素などにより種々の鎖長に分解したペプチド,アミノ酸などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。ここで,乳たん白質として,カゼイン,乳清たん白質(α−ラクトアルブミン,β−ラクトグロブリンなど),乳清たん白質濃縮物(WPC),乳清たん白質分離物(WPI)などがあげられる。動物性たん白質として,卵たん白質があげられる。植物性たん白質として,大豆たん白質や小麦たん白質があげられる。アミノ酸として,タウリン,シスチン,システィン,アルギニン,グルタミンなどがあげられる。
粉乳の原料となり得る油脂として,動物性油脂,植物性油脂,それらの分別油,水素添加油,及びエステル交換油があげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。ここで,動物性油脂として,乳脂肪,ラード,牛脂,魚油などがあげられる。植物性油脂として,大豆油,ナタネ油,コーン油,ヤシ油,パーム油,パーム核油,サフラワー油,綿実油,アマニ油,MCTなどがあげられる。
粉乳の原料となり得る糖質として,オリゴ糖,単糖類,多糖類,人工甘味料などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。ここで,オリゴ糖として,乳糖,ショ糖,麦芽糖,ガラクトオリゴ糖,フルクトオリゴ糖,ラクチュロースなどがあげられる。単糖類として,ブドウ糖,果糖,ガラクトースなどがあげられる。多糖類としては,デンプン,可溶性多糖類,デキストリンなどがあげられる。
粉乳の原料となり得るミネラル類として,ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,鉄,銅,亜鉛,リン,塩素などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。
清澄化工程(S104)は,液状乳に含まれる微細な異物を除去するための工程である。この異物を除去するためには,たとえば遠心分離機やフィルターなどを用いればよい。
殺菌工程(S106)は,液状乳の水や乳成分などに含まれている細菌などの微生物を死滅させるための工程である。液状乳の種類によって,実際に含まれていると考えられる生物が変わるため,殺菌条件(殺菌温度や保持時間)は,生物に応じて適宜設定される。
均質化工程(S108)は,液状乳を均質化するため工程である。具体的には,液状乳に含まれている脂肪球などの固形成分の粒子径を小さくして,それらを液状乳に一様に分散させる。液状乳の固形成分の粒子径を小さくするためには,たとえば液状乳を加圧しながら狭い間隙を通過させればよい。
濃縮工程(S110)は,後述の噴霧乾燥工程に先立って,液状乳を濃縮するための工程である。液状乳の濃縮には,たとえば真空蒸発缶やエバポレーターを用いればよい。濃縮条件は,液状乳の成分が過剰に変質しない範囲内で適宜設定される。これにより,液状乳から濃縮乳を得ることができる。すなわち,本発明では,濃縮された液状乳(濃縮乳)に気体を分散させ,噴霧乾燥することが好ましい。このとき,濃縮乳の水分含有率として,たとえば,35重量%〜60重量%があげられ,好ましくは,40重量%〜60重量%であり,より好ましくは40重量%〜55重量%である。このような濃縮乳を用いて,気体を分散させた際に,液状乳(濃縮乳)の密度を低下させて嵩高くし,そのように嵩高くした状態の濃縮乳を噴霧乾燥することで,固形乳を製造する際に,好ましい特質を有する粉乳を得ることができる。なお,液状乳の水分が少ない場合や噴霧乾燥工程の対象となる液状乳の処理量が少ない場合には,本工程を省略してもよい。
気体分散工程(S112)は,液状乳(濃縮乳)に,所定の気体を分散させるための工程である。このとき,所定の気体としては,たとえば液状乳の体積の1×10−2倍〜7倍の体積で分散させることがあげられ,好ましくは,液状乳の体積の1×10−2倍〜5倍の体積であり,より好ましくは,液状乳の体積の1×10−2倍〜4倍であり,最も好ましくは,1×10−2倍〜3倍である。
所定の気体を液状乳に分散させるために,所定の気体を加圧することが好ましい。所定の気体を加圧する圧力は,当該気体を液状乳へ効果的に分散させることができる範囲内であれば特に限定されないが,所定の気体の気圧として,たとえば1.5気圧以上10気圧以下があげられ,好ましくは2気圧以上5気圧以下である。液状乳は以下の噴霧乾燥工程(S114)において噴霧されるため,所定の流路に沿って流れており,この気体分散工程では,この流路に加圧した所定の気体を流し込むことで,当該気体を液状乳に分散(混合)させる。このようにすることで,所定の気体を液状乳としての液状乳に容易にかつ確実に分散させることができる。
このように,気体分散工程を経ることにより,液状乳(濃縮乳)の密度は低くなり,見かけの体積(嵩)は大きくなる。なお,液状乳の密度は,液状乳の重さを,液体状態と泡状態の液状乳全体の体積で除したものとして求めてもよい。また,JIS法に準拠したカサ密度測定(顔料:JIS K5101準拠)ものなどで,密度を測定する装置を用いて測定してもよい。
したがって,上記の流路には,所定の気体が分散状態にある液状乳が流れることになる。ここで,当該流路において,液状乳の体積流量は,一定となるように制御されていることが好ましい。
本態様では,所定の気体として二酸化炭素(炭酸ガス)を用いることができる。当該流路において,液状乳の体積流量に対する二酸化炭素の体積流量の比率(以下,その百分率を「CO2混合比率[%]」ともいう)として,たとえば1%〜700%があげられ,2%〜300%が好ましく,3%〜100%がより好ましく,最も好ましくは,5%〜45%である。このように,二酸化炭素の体積流量が液状乳の体積流量に対して一定となるように制御することで,そこから製造される粉乳の均一性を高めることができる。ただし,CO2混合比率が大きすぎると,粉乳が流路を流れる割合が低くなって,粉乳の製造効率が悪化する。したがって,CO2混合比率の上限は700%であることが好ましい。また、二酸化炭素を加圧する圧力は,二酸化炭素を液状乳へ効果的に分散させることができる範囲内であれば特に限定されないが,二酸化炭素の気圧として,たとえば1.5気圧以上10気圧以下があげられ,好ましくは2気圧以上5気圧以下である。なお,二酸化炭素と液状乳を密閉系で連続的に(インラインで)混合することにより,細菌などの混入を確実に防止して,粉乳の衛生状態を高めること(又は高い清浄度を維持すること)ができる。
本態様では,気体分散工程(S112)において用いる所定の気体は,二酸化炭素ガスであるとした。本発明の別の態様では,二酸化炭素ガスに代えて,又は二酸化炭素ガスとともに,空気,窒素(N2),及び酸素(O2)からなる群から選択された1又は2以上の気体を用いてもよいし,希ガス(たとえばアルゴン(Ar),ヘリウム(He))を用いてもよい。このように,さまざまな気体を選択肢とすることができるので,容易に入手できる気体を用いることで,気体分散工程を容易に行うことができる。気体分散工程(S112)において,窒素や希ガスなどの不活性ガスを用いると,液状乳の栄養成分などと反応するおそれがないため,空気や酸素を用いるよりも,液状乳を劣化させる可能性が少なく好ましい。このとき,液状乳の体積流量に対する当該気体の体積流量の比率として,たとえば1%〜700%があげられ,1%〜500%が好ましく,1%〜400%がより好ましく,最も好ましくは,1%〜300%である。たとえば,ベルら(R. W. BELL, F. P. HANRAHAN, B. H. WEBB: “FOAM SPRAY METHODS OF READILY DISPERSIBLE NONFAT DRY MILK”,J. Dairy Sci, 46(12)1963. pp1352-1356)は,脱脂粉乳を得るために無脂肪乳の約18.7倍の体積の空気を吹き込んだとされている。本発明では,上記の範囲で気体を分散させることにより,固形乳を製造するために好ましい特性を有する粉乳を得ることができる。ただし,気体分散工程(S112)において液状乳に所定の気体を分散させた結果として液状乳の密度を確実に低くするためには,所定の気体として,液状乳に分散しやすい気体や,液状乳に溶解しやすい気体を用いることが好ましい。このため,水への溶解度(水溶性)が高い気体を用いることが好ましく,20℃において,水1cm3への溶解度が0.1cm3以上である気体が好ましい。なお,二酸化炭素は,気体に限られることはなく,ドライアイスであってもよいし,ドライアイスと気体の混合物であってもよい。すなわち,気体分散工程では,液状乳へ所定の気体を分散させることができるのであれば,固体を用いてもよい。気体分散工程において,ドライアイスを用いることで,冷却状態の液状乳に急速に二酸化炭素を分散させることができ,この結果,固形乳を製造するために好ましい特性を有する粉乳を得ることができる。
噴霧乾燥工程(S114)は,液状乳中の水分を蒸発させて粉乳(粉体)を得るための工程である。この噴霧乾燥工程(S114)で得られる粉乳は,気体分散工程(S112)及び噴霧乾燥工程(S114)を経て得られた粉乳である。この粉乳は,気体分散工程(S112)を経ずに得られた粉乳に比べて,嵩高くなる。前者は,後者の1.01倍以上10倍以下の体積となることが好ましく,1.02倍以上10倍以下でもよく,1.03倍以上9倍以下でもよい。
噴霧乾燥工程(S114)では,気体分散工程(S112)において液状乳に所定の気体が分散され,液状乳の密度が小さくなった状態のまま,液状乳を噴霧乾燥する。具体的には,気体を分散する前の液状乳に比べて,気体を分散した後の液状乳の体積が1.05倍以上3倍以下,好ましくは1.1倍以上2倍以下の状態で,噴霧乾燥することが好ましい。つまり、噴霧乾燥工程(S114)は,気体分散工程(S112)が終了した直後に噴霧乾燥を行う。ただし,気体分散工程(S112)が終了した直後は,液状乳が均一な状態ではない。このため,気体分散工程(S112)が終了した後0.1秒以上5秒以下,好ましくは0.5秒以上3秒以下で噴霧乾燥工程を行う。つまり,気体分散工程(S112)と噴霧乾燥工程(S114)が連続的であればよい。このようにすることで,液状乳が連続的に気体分散装置に投入されて気体が分散され,気体が分散された液状乳が連続的に噴霧乾燥装置に供給され,噴霧乾燥され続けることができる。
水分を蒸発させるためには,噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いればよい。ここで,スプレードライヤーは,液状乳を流すための流路と,液状乳を流路に沿って流すために液状乳を加圧する加圧ポンプと,流路の開口部につながる流路よりも広い乾燥室と,流路の開口部に設けられた噴霧装置(ノズル,アトマイザーなど)とを有するものである。そして,スプレードライヤーは,加圧ポンプで液状乳を上述した体積流量となるように流路に沿って乾燥室に向かって送り,流路の開口部の近傍において,噴霧装置で濃縮乳を乾燥室内に拡散させ,液滴(微粒化)状態にある液状乳を乾燥室内の高温(たとえば熱風)で乾燥させる。つまり,乾燥室で液状乳を乾燥することで,水分が取り除かれ,その結果,濃縮乳は粉末状の固体,すなわち粉乳となる。なお,乾燥室における乾燥条件を適宜設定することで,粉乳の水分量などを調整して,粉乳を凝集しにくくする。また,噴霧装置を用いることで,液滴の単位体積当たりの表面積を増加させて,乾燥効率を向上させるのと同時に,粉乳の粒径などを調整する。
上述したような工程を経ることにより,固形乳を製造するのに適した粉乳を製造することができる。具体的には,本態様では,粉乳製造工程に気体分散工程を含むことによって,粉乳の圧縮成形性を向上できる。この優れた圧縮成形性を利用して,上述した圧縮成形工程(S130)において,圧縮圧力を調整すれば,そこから製造される固形乳の空隙率を制御でき,硬度を調整できる。つまり,圧縮成形性の高い粉乳を用いて固形乳を製造すると,空隙率が高くても,製造上で実用的な硬度の高い固形乳を得ることができる。空隙率の高い固形乳は,溶媒が入り込みやすいため,溶解性に優れている。なお,圧縮成形時の圧縮圧力は,粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)が実用的な硬度(たとえば,6N〜22N)となるようにする。これにより,圧縮成形工程から加湿工程までの間で粉乳圧縮成形物が型崩れしにくくなるといった,製造上で実用的な硬度を得ることができる。また,粉乳圧縮成形物は,加湿工程及び乾燥工程を経ることで,運搬上や輸送上で実用的な硬度を得ることができる。
さらに,上述した態様(図1)によれば,固形乳の製造方法が,分級工程(S120)を含むことによって,粉乳の平均粒子径を大きくできる。これにより,固形乳を製造するのに適した粉乳を確実に製造することができる。したがって,本態様では,粉乳製造工程に分級工程を含むことが好ましい。
なお,噴霧乾燥工程(S114)又は上述した分級工程(S120)の後に,必要に応じて,充填工程を行ってもよい。この充填工程では,粉乳を袋や缶などに充填する。これにより,粉乳の運搬が容易になる。
なお,本発明の固形乳は,乾燥工程(S160)後の固形乳のみならず,圧縮成形工程(S130)後の未硬化の固形乳(粉乳圧縮成形物)も含むものとする。
以下,本発明について実施例を用いて具体的に説明する。しかしながら,本発明は,以下の実施例に限定されるものではない。
本発明者らは,固形乳の製造方法に関し,圧縮成形性に優れた粉乳を製造することで実用的な硬度を有する固形乳を製造することを目的として鋭意研究した。具体的には,上記の固形乳の製造方法が,気体分散工程(S112)を含む場合(実施例1〜3)と,それを含まない場合(比較例1)とについて特性を比較した。さらに,気体分散工程において,液状乳に対して所定の気体を分散させる割合を変えることで,液状乳の密度(粉乳の嵩密度)の違い(変化)による効果についても研究した(実施例1〜3)。
[実施例1]
図2に示す粉乳製造工程に従って,粉乳を製造した。具体的には,乳成分,たん白質,糖質,ミネラル類,ビタミン類を水に加えて混合し,さらに,脂肪を加えて混合することにより,粉乳の原料となる液状乳を調製した(S102)。続いて,清澄化,殺菌,均質化,濃縮の各工程を経ることにより(S104〜S110),比較的低濃度に調製した液状乳から濃縮乳を得た。
そして,濃縮乳を噴霧乾燥させる直前に,加圧した所定の気体を当該濃縮乳に通過させた(S112)。具体的には,所定の気体として,二酸化炭素を用い,この二酸化炭素をスプレードライヤーの流路に,密閉系で連続的に一定の体積流量となるように流し込むことで,濃縮乳に混合させた。これにより,二酸化炭素は濃縮乳に分散された状態となった。
二酸化炭素を分散させた直後に,スプレードライヤーの加圧ポンプを用いて,当該濃縮乳を所定の体積流量で流路に沿って,スプレードライヤーの乾燥室に向けて流した(通液した)。このとき,当該濃縮乳では,流路を流れている間に,所定の気体が分散された状態を維持していた。所定の気体が分散される直前の状態にある濃縮乳の体積流量(m3/h)に対する,当該濃縮乳に分散させる直前のこの所定の気体の体積流量(Nm3/h)の比率(以下,「CO2混合比率」という)は15%であった。
前記の濃縮乳では,密度が低下した状態のまま,流路の開口部から乾燥室に向けて噴霧された。その結果,濃縮乳は,乾燥室内で乾燥され,粉乳となった(S114)。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このとき,粉乳100gの成分を分析したところ,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gであった。そして,この粉乳の平均粒子径は295μmであった。粉乳の平均粒子径[μm]は,篩い分け法により,目開き710μm,500μm,355μm,250μm,180μm,150μm,106μm,75μmの篩の各画分の質量を測定し,全質量に対する各画分の質量の割合を用いて算出した。
続いて,この得られた粉乳を分級し(S120),目開き355μmの篩上に残った粉乳を回収した。この回収した粉乳の平均粒子径は584μmであり,その収率(全質量に対する各画分の質量の割合)は28%であった。
ここで,目開き355μmの篩上に残った粉乳から固形乳を製造した。具体的には,まず,単発打錠機(岡田精工(株)製「N−30E」)を用いて,外形が幅2.4cm,奥行き3.1cmの直方体となるように,粉乳を圧縮成形した(S130)。このとき,加湿工程及び乾燥工程を経た後に得られる固形乳の質量が5.6gとなるように,粉乳の使用量を調整した。また,圧縮成形時の圧縮圧力は1.8MPaとした。これにより,実施例1の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)を得た。次に,コンビオーブン(Combi oven,(株)フジマック製「FCCM6」)を加湿機として用いて,加湿機内の室温を65℃,湿度を100%RHに維持し,それらの条件下で,粉乳圧縮成型物を45秒間(加湿時間)で放置し,当該粉乳圧縮成型物を加湿した(S140)。そして,空気恒温槽(ヤマト科学(株)製「DK600」)を乾燥機として用いて,当該粉乳圧縮成形物を95℃,5分間で乾燥した。このようにして,実施例1の固形乳(硬化後の固形乳)を製造した。
この実施例1の固形乳は,1個あたりの質量は5.6gであった。また,この固形乳では,圧縮成形時の直方体の幅と奥行きが維持されており,その厚みを,マイクロメーターで測定したところ,1.33cmであった。
そして,実施例1の固形乳の空隙率を,下記の数式から求めたところ,49%であった。
空隙率[%]=[1−(W/PV)]×100
なお,上記の数式において,Wは固形乳の質量[g]を,Pはベックマン空気式密度計を用いて測定した固形分の密度[g/cm3]を,Vはマイクロメーターで測定した厚みと,型(臼)の形状(幅及び奥行き)とから算出した固形乳の体積[cm3]を示している。
さらに,実施例1の固形乳の硬度を,後述する方法で測定したところ,44Nであった。また,実施例1の粉乳圧縮成形物(圧縮成形したもので加湿工程及び乾燥工程の双方を経ていない未硬化の固形乳)の硬度は4Nであった。
固形乳や粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度は,ロードセル式錠剤硬度計(岡田精工(株)製)を用いて測定した。具体的には、この硬度計の破断端子(幅1mm)で,直方体形状をなす固形乳の短軸方向に0.5mm/sの一定速度で押し,固形乳が破断したときの荷重[N]を求めて測定した。つまり,前述のようにして求めた荷重を,固形乳の硬度(錠剤硬度)[N]とした。
また,実施例1の固形乳の溶解性は,以下の2種類の第1試験方法と第2試験方法とで調べて,両者の結果から総合的に評価した。
第1試験方法は,固形乳の溶解性を視覚的に調べるものである。具体的には,1個5.6gの固形乳1個又は複数個をほ乳瓶に投入し,続いて,所定量の50℃の湯水(試験液)を,ほ乳瓶に注ぎ,この状態のまま所定の時間(10秒間)で静置した。ここで,ほ乳瓶に投入する固形乳の数と,ほ乳瓶に注ぐ湯水の量を調整することで,ほ乳瓶内の内容物における固形乳の濃度(以下,「溶質濃度」ともいう)を調整した。本実施例では,溶質濃度を変更したり,溶質濃度が同じであっても,ほ乳瓶に投入する固形乳の個数やほ乳瓶に注ぐ湯水の質量を変更したりすることで,複数種類の試験方法(具体的には,後述する表1の試験A,試験B,試験C,試験Dの4種類)で固形乳の溶解性を調べた。
その後,ほ乳瓶に蓋をして,ほ乳瓶を所定の振騰時間(15秒間)で振騰した。そして,振騰した直後に,ほ乳瓶の内容物の全量を角型バットにあけた。続いて,角型バットにあけた内容物における不溶塊の有無を,目視により判断した。また,不溶塊がある場合には,不溶塊の個数と大きさ(最も長い部分の寸法)を計測するとともに,各不溶塊を切断して,不溶塊の内部に水が染み込んでいるかどうかを,目視により判断した。なお,不溶塊とは,試験に用意した固形乳が試験液に溶けきらなかった部分(溶け残り部分)をさす。
そして,第1試験方法で調べた結果を以下に示す6つの場合に分類し,この分類した6つの場合に対して,それぞれ,スコア「0」〜「5」を割り当てた。ここで,スコアとは,固形乳の溶解性の程度を示す指標であり,スコアの数値が小さいほど,固形乳の溶解性が優れていたことを示している。
スコア「0」:不溶塊が1つもなかった場合
スコア「1」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,各不溶塊の大きさが5mm以下であり,かつ,その内部に水が染み込んでいた場合(各不溶塊がスラリー状又は一部が溶解状態となっている場合)
スコア「2」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,各不溶塊の大きさが5mm以下であり,かつ,不溶塊のうち少なくとも1つの不溶塊の内部に水が染み込んでいなかった場合
スコア「3」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,大きさが5mmを超え10mm以下であり,かつ,内部に水が染み込んでいなかった不溶塊が少なくとも1つあった場合
スコア「4」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,大きさが10mmを超え20mm以下であり,かつ,内部に水がしみ込んでいなかった不溶塊が少なくとも1つあった場合
スコア「5」:大きさが20mm以上の不溶塊が少なくとも1つあった場合
下記の表1は,上記の第1試験方法によって固形乳の溶解性において,固形乳の個数と,湯水の質量と,溶質濃度と,振騰時間との関係を示す表である。
第2試験方法は,固形乳の溶解性を,溶解度のように定量的に調べるものである。具体的には,固形乳を2個(11.2g),ほ乳瓶に投入し,続いて,80g(80mL)の50℃の湯水(試験液)を,ほ乳瓶に注いで,溶質濃度を12.3質量%とし,この状態のまま10秒間で静置した。
その後,手で円を描くように,ほ乳瓶を比較的穏やかに(具体的には,1秒あたり4回で)回転させながら,5秒間で振騰した。そして,5秒が経過した直後に,ほ乳瓶の内容物の全量を,質量が既知の篩に配置した。篩として,目開きが0.50mm(32メッシュ)のものを用いた。そして,篩上にある溶解残渣の質量[g]を計測した。具体的には,篩上の溶解残渣が篩から脱落しないように,溶解残渣と篩の表面とをふき取った後,篩と溶解残渣の総質量を計測し,計測した総質量と,篩の質量との差を算出することで,篩上の溶解残渣の質量を求めた。なお,この第2試験方法では,溶解残渣の質量が小さいほど,固形乳の溶解性が優れていたことを示している。
そして,各実施例(又は比較例)では,第1試験方法においてスコアが低く(具体的には,試験A〜試験Dの全てにおいてスコアの数値が「2」以下),かつ,第2試験方法においても溶解度が高い(具体的には,溶解残渣の質量が「3.0g」未満)と判断できた場合に,各実施例の固形乳の溶解性が非常に優れている(◎)と評価した。また,第1試験方法及び第2試験方法の一方で溶解性が優れていると判断できた場合には,各実施例の溶解性が比較的優れている(○)と評価し,第1試験方法及び第2試験方法の双方で溶解性が低かった場合には,各実施例の溶解性が比較的劣っている(△)と評価し,特に第2試験方法で溶解残渣が4.5gを超えた場合には,各実施例の溶解性が非常に劣っている(×)と評価した。
実施例1の固形乳の溶解性を評価したところ,第1試験方法の試験A〜試験Dの全てにおいてスコアの数値が「2」以下であり,第2試験方法において溶解残渣の質量が1.8g(3.0g未満)であった。したがって,実施例1の固形乳では,溶解性が非常に優れている(◎)と評価した。
[実施例2]
実施例2では,気体分散工程においてCO2混合比率を30%とした以外は,実施例1と同様に粉乳を製造した。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果は,実施例1の粉乳と完全に一致した。すなわち,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gで構成されていた。また,この粉乳(分級前)の平均粒子径は308μmであった。
そして,実施例2でも,実施例1と同様に固形乳を製造した。上記の単発打錠機による圧縮成形後に得られる,外形が直方体状の固形乳で1個あたりの質量が5.6gとなるように,粉乳を用意し,圧縮圧力は1.8MPaとした。この固形乳の厚みは1.40cmであった。
また,実施例2の固形乳における空隙率は51%であり,硬度は,42Nであった。このとき,粉乳圧縮成形物(分級工程後の粉乳を圧縮成形したもので加湿工程及び乾燥工程の双方を経ていない未硬化の粉乳)の硬度は4Nであった。
実施例2の固形乳の溶解性を評価したところ,第1試験方法の試験A〜試験Dの全てにおいてスコアが「1」以下であり,第2試験方法において溶解残渣の質量が1.6g(3.0g未満)であった。したがって,実施例2の固形乳では,溶解性が非常に優れている(◎)と評価した。
[実施例3]
実施例3では,気体分散工程においてCO2混合比率を45%とした以外は,実施例1と同様に粉乳を製造した。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果は,実施例1の粉乳と完全に一致した。すなわち,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gで構成されていた。また,この粉乳(分級前)の平均粒子径は321μmであった。続いて,目開き355μmの篩の上に残った粉乳を回収した。この回収した粉乳の平均粒子径は561μmであり,その収率(全質量に対する回収した質量の割合)は39%であった。
そして,実施例3でも,実施例1と同様に固形乳を製造した。上記の単発打錠機による圧縮成形後に得られる,外形が直方体状の固形乳で1個あたりの質量が5.6gとなるように,粉乳を用意し,圧縮圧力は1.5MPaとした。この固形乳の厚みは1.48cmであった。
また,実施例3の固形乳の空隙率は54%であり,その固形乳の硬度は40Nであった。このとき,粉乳圧縮成形物(分級工程後の粉乳を圧縮成形したもので圧縮成形したもので加湿工程及び乾燥工程の双方を経ていない未硬化の固形乳)の硬度は,4Nであった。
実施例3の固形乳の溶解性を評価したところ,第1試験方法の試験A〜試験Dの全てにおいてスコアが「0」であり,かつ,第2試験方法においても,溶解残渣の質量が0.7g(3.0g未満)と,評価基準の3.0gをはるかに下回った。このため,実施例3の固形乳では,溶解性が非常に優れている(◎)と評価した。
(比較例1)
比較例1では,気体分散工程におけるCO2混合比率を0%とした(つまり,気体分散工程を省略した)以外は,実施例1と同様に粉乳を製造した。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果は,実施例1の粉乳と完全に一致した。すなわち,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,及びその他7gで構成されていた。また,この粉乳(分級前)の平均粒子径は263μmであった。続いて,目開き355μmの篩の上に残った粉乳を回収した。この回収した粉乳の平均粒子径は524μmであり,その収率(全質量に対する回収した質量の割合)は,23%であった。
そして,比較例1でも,実施例1と同様に固形乳を製造した。上記の単発打錠機による圧縮成形後に得られる,外形が直方体状の固形乳で1個あたりの質量が5.6gとなるように,粉乳を用意し,圧縮圧力は2.3MPaとした。また,この固形乳の厚みは,1.24cmであった。
また,比較例1の固形乳の空隙率は44%であり,その固形乳の硬度は,50Nであった。このとき,粉乳圧縮成形物(分級工程後の粉乳を圧縮成形したもので圧縮成形したもので加湿工程及び乾燥工程の双方を経ていない未硬化の固形乳)の硬度は3Nであった。
比較例1の固形乳の溶解性を評価したところ,第1試験方法の試験A〜試験Dの全てにおいてスコアが「2」以下であったが,第2試験方法において溶解残渣の質量が3.2g(3.0g以上)と,評価基準の3.0gを上回った。したがって,比較例1の固形乳では,溶解性が比較的劣っている(○)と評価した。
上述した実施例1〜3及び比較例1に対する評価結果をまとめたものを,表2,表3,表4,及び図3に示す。表2は,実施例1〜3及び比較例1の粉乳の平均粒子径と,分級後の平均粒子径とを示すものである。表3は,実施例1〜3及び比較例1の固形乳の各測定値と,溶解性の評価結果とを示すものである。表4は,表3に示す溶解性の総合評価のもととなる溶解性試験結果を詳細に示すものである。図3は,実施例1〜3及び比較例1の固形乳について,粉乳製造時のCO2混合比率[%]と,第2試験方法による溶解残渣の質量[g]との関係を示すグラフである。
表1〜表3から分かるように,実施例1〜3の固形乳では,比較例1のものに比較して,空隙率が高かった。このことは,実施例1〜3の固形乳が溶解性の点で,比較例1のものに比較して優れていたことからも立証される。一方,実施例1〜3の固形乳では,比較例1を圧縮成形する圧縮圧力よりも,低圧(2.3MPaに比較して1.5〜1.8MPa)で圧縮成形して製造したものであるが,圧縮圧力の低下に伴い,空隙率が高くなったにもかかわらず,加湿乾燥後の固形乳の硬度は40N〜44Nと高かった(十分に実用的な硬度であった)。また,実施例1〜3の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度も,比較例1のものの硬度である3Nに比較して高かった。すなわち,実施例1〜3によれば,空隙率が高いにもかかわらず,硬度が高い粉乳圧縮成形物や固形乳を得ることができることが分かった。これは,粉乳の高い空隙率のために,圧縮成形性が高まったためであると考えられる。このため,実施例1〜3の固形乳では,高い空隙率のために溶解性が優れており,かつ,高い硬度のために壊れにくくて扱いやすくなった。その結果,実施例1〜3の固形乳が非常に実用的であることが分かった。また,実施例1〜3によれば,CO2混合比率を高くするほど,固形乳の空隙率が高くなり,溶解性が高まることが分かった。
また,本発明者らは,実施例1〜3及び比較例1の粉乳に対して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更することで,所望の空隙率と所望の硬度を兼ね備えた固形乳を製造することができるかを検証するために,実際に種々の固形乳を製造し,それら固形乳の空隙率と硬度を測定した。ただし,ここでは,固形乳の製造にあたり,圧縮成形工程のみを行った。つまり,固形乳の製造にあたり,圧縮成形後の粉乳の硬度を高める工程(加湿工程及び乾燥工程)を省略した。なお,本明細書では,このように硬度を高める工程を省略して製造された固形乳を「粉乳圧縮成形物」や「未硬化の固形乳」ともいう。このときの測定結果を表5及び図4に示す。表5は,実施例1〜3及び比較例1の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率と硬度との関係を示す表である。図4は,実施例1〜3及び比較例1の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率(44%〜56%)と硬度との関係を示すグラフである。
表5及び図4から分かるように,圧縮圧力を変更することにより,空隙率の値と硬度の値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができた。具体的には,圧縮圧力を大きくすることで,硬度が高い粉乳圧縮成形物を製造することができ,圧縮圧力を小さくすることで,空隙率が大きい粉乳圧縮成形物を製造することができ,圧縮圧力を大きい場合と小さい場合との中間に調整することで,適度な空隙率と適度な硬度とを兼ね備えた粉乳圧縮成形物を製造することができることが分かった。なお,表5及び図4に示す硬度は,硬度を高める工程を省略した場合のものであるため,加湿工程及び乾燥工程を行うことで,粉乳圧縮成形物の硬度を,さらに高めることができる。
また,表5及び図4から,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物と,比較例1に関連した粉乳圧縮成形物とを比較すると,同じ空隙率(たとえば49%)では,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物の硬度(それぞれ,4N,7N,12N)が,比較例1に関連した粉乳圧縮成形物の硬度(2N)よりも高い傾向にあることが分かった。これは,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物の方が,比較例1に関連した粉乳圧縮成形物よりも圧縮成形性に優れていることを示すものと考えられた。
そして,上記の傾向は,粉乳製造時において,CO2混合割合が高いほど,顕著となることが分かった。このため,CO2混合割合が高いほど,空隙率の数値と硬度の数値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができることとなる。たとえば,硬度が20N以上の粉乳圧縮成形物が必要である場合,実施例3(CO2混合割合が45%)では,圧縮圧力を調整するだけで,製造対象となる粉乳圧縮成形物の空隙率を36%〜44%の間で選択できるのに対して,比較例1(CO2混合割合が0%)では,圧縮圧力を調整しても,製造対象となる粉乳圧縮成形物の空隙率は,34%近傍にとどまり,選択の範囲(幅)が狭かった。
さらに,表5及び図4から,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物と,比較例1に関連した粉乳圧縮成形物とを比較すると,同じ硬度(たとえば3N)では,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物の空隙率(それぞれ,51〜52%,54%,58%)が,比較例1に関連の粉乳圧縮成形物の空隙率(それぞれ,48%)よりも高い傾向にあることが分かった。これは,実施例1〜3に関連した粉乳圧縮成形物の製造に用いた粉乳が,比較例1に関連した未硬化の固形乳の製造に用いた粉乳よりも,同じ圧縮圧力を受けても,空隙を高く維持できることを示すものと考えられた。上記の傾向は,粉乳製造時において,CO2混合割合が高いほど,顕著となることが分かった。
ここで,実施例1〜3と比較例1とを比較すると,主な違いは,粉乳を製造する際に,気体分散工程を行うか,それを省略するかの点である。比較例1のように気体分散工程を省略すると,実施例1〜3のように気体分散工程を行った場合に比較して,粉乳の平均粒子径が小さくなり,固形乳の空隙率が低くなることが分かった。しかしながら,比較例1の固形乳も,実施例1〜3には劣るものの,十分に実用的な硬度と空隙率を有するものであった。これは,分級工程において,平均粒子径が大きい粉乳を抽出(選抜)したためであると考えられた。そこで,本発明者らは,分級工程の有無について研究した。
具体的には,分級工程を行った場合(上記実施例1〜3及び比較例1)と,分級工程を省略した場合(実施例4〜6及び比較例2)について比較した。実施例4〜6及び比較例2の粉乳の製造方法及び固形乳の製造方法は,分級工程を省略した以外は同じであるので,それらの説明を省略する。
上述した実施例4〜6及び比較例2に対する評価結果をまとめたものを,表6及び図5に示す。
表6は,実施例4〜6及び比較例2の固形乳の各測定値と,溶解性の評価結果とを示す図である。なお,表6に示す実施例4〜6及び比較例2の粉乳の平均粒子径は,表2に示す分級前の粉乳の平均粒子径に相当する。表7は,表6に示す溶解性総合評価のもととなる溶解性試験結果を詳細に示すものである。図5は,実施例4〜6及び比較例2の固形乳について,粉乳製造時のCO2混合比率[%]と,第2試験方法による溶解残渣の質量[g]との関係を示すグラフである。なお,図5には,比較のため,実施例1〜3及び比較例1の固形乳についての関係(図3)も示されている。
また,本発明者らは,実施例4〜6及び比較例2の粉乳に対して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更することで,様々な空隙率の粉乳圧縮成形物を製造し,それら粉乳圧縮成形物の硬度を測定した。このときの測定結果を表8及び図6に示す。表8は,実施例4〜6及び比較例2の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率と硬度との関係を示すものである。図6は,実施例4〜6及び比較例2の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率(44%〜56%)と硬度との関係を示すグラフである。なお,図6には,比較のため,実施例1〜3及び比較例1の粉乳圧縮成形物についての関係が点線で示されている。
表8及び図6から分かるように,表5及び図4から得られた知見と同様に,圧縮圧力を変更することにより,空隙率の数値と硬度の数値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができた。また、その粉乳圧縮成形物は、硬度や空隙率は分級工程の有無では変化がないことが分かった。
さらに,表7と表4を比較すれば分かるように,又は図5から分かるように,実施例4〜6及び比較例2のように分級工程を省略すると,実施例1〜3及び比較例1のように分級工程を行った場合に比較して,CO2混合比率にかかわらず,固形乳の溶解性が悪くなる傾向にあることが分かった。すなわち,実施例1〜3及び比較例1のように分級工程を行う方が,溶解性の点でより好ましいことが分かった。
そして,比較例2の固形乳の溶解性を評価したところ,第2試験方法において溶解残渣の質量が5.0g(4.5g超)と,評価基準の4.5gを上回った。したがって,比較例2の固形乳では,溶解性が非常に劣っている(×)と評価した。すなわち,比較例2の固形乳は製品の品質として実用的ではないものであった。これは,比較例2に関連した粉乳が固形乳の製造に適していないことに相当する。したがって,比較例2から,気体分散工程と分級工程の双方を何れも行わないと,固形乳の製造に適した粉乳を製造することが困難であることが分かった。また,比較例1と比較例2との比較から,分級工程を行うだけでも,固形乳の製造に適した粉乳を製造することができることが分かった。
すなわち,実施例1〜3と実施例4〜6の比較から,気体分散工程を行うことにより,固形乳の製造に適した粉乳をより確実に製造することができることが分かった。さらに、比較例1と比較例2から,粉乳を分級するだけも,溶解性の高い固形乳を製造できることが分かった。したがって,気体分散工程を行って噴霧乾燥した粉乳により,固形乳の製造に適した粉乳を製造することができ,さらにその粉乳を分級してから圧縮成形し、加湿工程と乾燥工程を経ることによって,溶解性がより高い固形乳を製造することができる。
次に,気体分散工程(S112)で濃縮乳に分散させる気体として,窒素ガスを用いて,気体分散工程を含む場合(実施例7及び8)と,それを含まない場合(比較例3)とについて特性を比較した。また,実施例1〜3と同様に気体分散工程において,液状乳に対して所定の気体を分散させる割合を変えることで,液状乳の密度(粉乳の嵩)の違い(変化)による効果についても研究した(実施例7及び8)。
[実施例7]
実施例7では,気体分散工程において窒素ガスを用いた以外は実施例1と同様に粉乳を製造した。このとき,窒素ガスの混合比率(以下,「N2混合比率」という)は,7%であった。
このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gで構成されていた。
[実施例8]
実施例8では,N2混合比率を450%として実施例7と同様に粉乳を製造した。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gで構成されていた。
(比較例3)
比較例3では,気体分散工程におけるN2混合比率を0%とした(つまり,気体分散工程を省略した)以外は,実施例7と同様に粉乳を製造した。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果は,実施例7の粉乳と完全に一致した。すなわち,粉乳100gは,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,及びその他7gで構成されていた。
そして,実施例7及び8,比較例3においても実施例1と同様に固形乳を製造した。上述した単発打錠機による圧縮成形後に得られる,外形が直方体状の固形乳で1個あたりの質量が5.6gとなるように,粉乳を用意し,圧縮成形時の圧縮圧力を変更することで,所望の硬度を兼ね備えた固形乳を製造することができるかを検証するために,実際に個々の固形乳を製造し,それら固形乳の空隙率と硬度を測定した。ただし,ここでは,固形乳の製造にあたり,圧縮成形工程のみを行った。つまり,固形乳の製造にあたり,圧縮成形後の粉乳の硬度を高める工程(加湿工程及び乾燥工程)を省略した。このときの測定結果を表9及び図7に示す。表9は,実施例7,8及び比較例3の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率と硬度との関係を示す表である。図7は,実施例7及び8,比較例3の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率(30%〜75%)と硬度との関係を示すグラフである。
表9及び図7から分かるように,圧縮圧力を変更することにより,空隙率の値と硬度の値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができた。
また,表9及び図7から,実施例7及び8に関連した粉乳圧縮成形物と,比較例3に関連した粉乳圧縮成形物とを比較すると,同じ空隙率(たとえば35%)では,実施例7に関連した粉乳圧縮成形物の硬度(7N)が,比較例3に関連した粉乳圧縮成形物の硬度(3N)よりも高い傾向にあることが分かった。実施例8に関連した粉乳圧縮生成物にあっては,比較例3の空隙率よりも高い空隙率で,また硬度も高かった。これは,実施例7及び8に関連した粉乳圧縮成形物の方が,比較例3に関連した粉乳圧縮成形物よりも圧縮成形性に優れていることを示すものと考えられた。
そして,上記の傾向は,粉乳製造時において,N2混合割合が高いほど,顕著となることが分かった。このため,N2混合割合が高いほど,空隙率の数値と硬度の数値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができることとなる。たとえば,硬度が3N以上の粉乳圧縮成形物が必要である場合,実施例8(N2混合割合が450%)では,圧縮圧力を調整するだけで,製造対象となる粉乳圧縮成形物の空隙率を48%〜62%の間で選択できるのに対して,比較例3(N2混合割合が0%)では,圧縮圧力を調整しても,製造対象となる粉乳圧縮成形物の空隙率は,35%近傍にとどまり,選択の範囲(幅)が狭かった。
また,表9及び図7から,実施例7,8に関連した粉乳圧縮成形物と,比較例3に関連した粉乳圧縮成形物とを比較すると,同じ硬度(たとえば3N)では,実施例7及び8に関連した粉乳圧縮成形物の空隙率(それぞれ,39%,63%)が,比較例3に関連した粉乳圧縮成形物の空隙率(35%)よりも高い傾向にあることが分かった。これは,実施例7及び8に関連した粉乳の方が,比較例3に関連した粉乳よりも同じ圧縮圧力を受けても空隙を高く維持できることを示すものと考えられた。上記の傾向は,粉乳製造時において,N2混合割合が高いほど,顕著になることが分かった。
ここで,実施例1〜3及び比較例1と,実施例7,8及び比較例3とを比較すると,気体分散工程で分散させる気体が異なっていても,気体の混合割合が高いほど圧縮圧力を変化させることで硬度や空隙率をより幅広く選択できる点は変わらないことがわかった。なお,これらの実施例及び比較例では,同じ成分の粉乳を使用していた。そこで,本発明者らは,異なる成分を有する粉乳を用いて研究した。
具体的には,実施例7,8及び比較例3と異なる成分を有する粉乳,すなわち,粉乳100gに対し,脂質26g,たん白質12g,糖質,57g,その他5gで構成される粉乳を(以下,粉乳Bという)用いた。そして,実施例7,8及び比較例3で用いた粉乳(以下,粉乳Aという)と,粉乳Bを用いた場合(実施例9,10及び比較例4)について比較した。異なる成分の粉乳を製造するようにしたほかは,実施例9,10及び比較例4の粉乳の製造方法及び固形乳の製造方法は,同じであるので,それらの説明を省略する。
[実施例9]
実施例9では,実施例7と同様に粉乳を製造した。このとき,N2混合比率は,6%であった。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果,粉乳Bの成分で構成されていた。
[実施例10]
実施例10では,N2混合比率を270%として実施例9と同様に粉乳を製造した。このようにして得られた粉乳は,後述する比較例の粉乳に比べて嵩高いものが得られた。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果,粉乳Bの成分で構成されていた。
(比較例4)
比較例4では,気体分散工程におけるN2混合比率を0%とした(つまり,気体分散工程を省略した)以外は,実施例9と同様に粉乳を製造した。このようにして製造した粉乳の成分を分析した結果は,粉乳Bと完全に一致した。すなわち,粉乳100gは,脂質26g,たん白質12g,糖質57g,及びその他5gで構成されていた。
そして,実施例9及び10,比較例4においても実施例7と同様に固形乳を製造した。上述した単発打錠機による圧縮成形後に得られる,外形が直方体状の固形乳で1個あたりの質量が5.4gとなるように,粉乳を用意し,圧縮成形時の圧縮圧力を変更することで,所望の硬度を兼ね備えた固形乳を製造することができるかを検証するために,実際に個々の固形乳を製造し,それら固形乳の空隙率と硬度を測定した。ただし,ここでは,固形乳の製造にあたり,圧縮成形工程のみを行った。つまり,固形乳の製造にあたり,圧縮成形後の粉乳の硬度を高める工程(加湿工程及び乾燥工程)を省略した。このときの測定結果を表10及び図8に示す。表10は,実施例9,10及び比較例4の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率と硬度との関係を示す表である。図8は,実施例9及び10,比較例4の粉乳に関して,圧縮成形時の圧縮圧力を変更して製造した粉乳圧縮成形物の空隙率(30%〜75%)と硬度との関係を示すグラフである。
表10及び図8から分かるように,表9及び図7から得られた知見と同様に,圧縮圧力を変更することにより,空隙率の数値と硬度の数値の組み合わせが異なる,種々の粉乳圧縮成形物を製造することができた。また,粉乳の成分が変わっても,表9及び図7から得られた知見と同様に,気体の混合割合が高いほど圧縮圧力を変化させることで硬度や空隙率をより幅広く選択できることがわかった。
すなわち,実施例7及び8と実施例9及び10の比較から,粉乳の成分が異なっても,気体の混合割合が高いほど圧縮圧力を変化させることで硬度や空隙率をより幅広く選択できることが分かった。
以上で詳細に説明したように,実施例によれば,粉乳製造時に気体分散工程や分級工程を行うことで,空隙率が高く,かつ硬度の高い固形乳を,容易に製造することができるという大きなメリット(利点)を,粉乳製造者又は固形乳製造者にもたらすことができることが分かった。