JP6636297B2 - 硬質皮膜 - Google Patents

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本発明は硬質皮膜に関する。
近年、自動車製造の分野において、安全性の向上や、車体の軽量化を目的として高張力鋼板が多用される傾向にある。
高張力鋼板は高張力、高強度を有するために、従来用いられてきたプレス鋼板に比べて、プレス成形加工時に高い加圧力が必要となる。従って、高張力鋼板のプレス加工においては、プレス用金型にかかる負担が著しく大きくなるために、金型が摩耗しやすく、金型寿命が短いという問題がある。
金型の摩耗を抑制し、金型寿命を延ばす方法として、金型表面に硬質被膜を形成することにより、金型の表面硬度を高める方法が知られている。炭化チタン(TiC)膜は、硬度が高く、表面に形成することにより金型等の寿命を延ばすことができると期待されている(例えば、特許文献1を参照。)。
特開2014−15636号公報
しかしながら、TiCは製造方法等の違いにより組成や結晶構造に変化が生じ、その特性も変化する。このため、用途に応じた最適なTiC膜を形成することが重要となる。例えば、プレス用金型の表面に形成する硬質被膜には、耐摩耗性と共に高い潤滑特性を有するTiC膜を用いることが好ましい。プレス用金型に限らず、高張力鋼板等の加工に用いる工具等についても同様の特性を有していることが好ましい。
本開示の課題は、耐摩耗性と共に高い潤滑特性を有する硬質皮膜、それを用いたプレス用金型及び工具を実現できるようにすることである。
硬質皮膜の一態様は、母材の表面に形成され、チタン原子に対する炭素原子のモル比[C]/[Ti]が1以上、2以下であり、sp3炭素−炭素結合した炭素原子に対するsp2炭素−炭素結合した炭素原子のモル比[sp2C−C]/[sp3C−C]が2.5以上である。
硬質皮膜の一態様において、(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比は、1以上、10以下とすることができる。
硬質皮膜の一態様において、炭素同士が結合した炭素原子に対する水素と結合した炭素原子のモル比[C−H]/[C−C]が2以上、6以下とすることができる。
硬質皮膜の一態様において、炭素同士が結合した炭素原子の全組成に対するモル比は、0.02以上、0.1以下とすることができる。
プレス用金型の一態様において、本開示の硬質皮膜が設けられ、工具の一態様において、本開示の硬質皮膜が設けられている。
本開示に係る硬質皮膜によれば、耐摩耗性と共に高い潤滑特性を実現できる。
本実施形態のプレス用金型の一部分を示す断面図である。 一変形例のプレス用金型の一部分を示す断面図である。 ビード引き抜き試験に用いる金型を示す図である。 ビード引き抜き試験の実施方法を示す図である。
以下の実施形態においては、プレス用金型を例に説明を行うが、本実施形態の硬質被膜は、プレス用金型の表面に形成するだけでなく、工具等の表面に形成することもできる。
図1は、本実施形態のプレス用金型の断面構成を示している。本実施形態のプレス用金型は、金型母材111の表面に、TiC膜からなる硬質被膜112が形成されている。
硬質皮膜112の表面において、チタン原子(Ti)に対する炭素原子(C)のモル比[C]/[Ti]は1以上、2.0以下である。sp3炭素−炭素結合した炭素原子に対するsp2炭素−炭素結合した炭素原子のモル比[sp2C−C]/[sp3C−C]は2.5以上である。
本願発明者らは、TiC膜の硬度及び弾性率に、TiC膜に含まれるCとTiとの比[C]/[Ti]が大きく影響することを見出した。また、TiC膜の潤滑特性に[sp2C−C]/[sp3C−C]が大きく影響することを見出した。具体的に[C]/[Ti]が大きくなるに従い、硬度及び弾性率が低下し、[sp2C−C]/[sp3C−C]が大きくなると摩擦係数を低減することができる。
このため、硬度及び弾性率が大きいTiC膜を得る観点から、[C]/[Ti]を2.0以下とし、好ましくは1.8以下とし、より好ましくは1.6以下とし、さらに好ましくは1.4以下とする。また、TiC膜の形成し易さの観点から、[C]/[Ti]を1以上とし、好ましくは1.2以上とし、より好ましくは1.3以上とする。
また、[sp2C−C]/[sp3C−C]を2.5以上とし、好ましくは3以上とする。[sp2C−C]/[sp3C−C]は、できるだけ大きい方が好ましいが、通常のTiCの成膜方法においては上限は20以下程度となり、一般的には10以下程度となる。
硬度及び弾性率を大きくする観点から、TiC膜の全組成に対する炭素同士で結合した炭素原子のモル比[C−C]は低い方が好ましく、具体的に0.1以下が好ましく、0.09以下がより好ましく、0.08以下がさらに好ましい。sp2C−C結合している炭素原子を存在させ摩擦係数を小さくする観点からは、[C−C]がある程度高い方が好ましく、具体的には0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましい。
また、TiC膜の表面における水素と結合した炭素については、炭素と結合した炭素原子に対する水素と結合した炭素原子のモル比[C−H]/[C−C]を2以上とすることが好ましく、2.5以上とすることがより好ましく、そして6以下とすることが好ましく、5以下とすることがより好ましい。TiC膜の表面におけるチタンと結合した炭素原子に対する水素と結合した炭素原子の比[C−H]/[C−Ti]は、0.3以上とすることが好ましく、0.4以上とすることがより好ましく、そして0.6以下とすることが好ましく、0.5以下とすることがより好ましい。
TiC膜の表面における、原子組成は、実施例において述べるX線光電子分光分析(XPS)法により求めることができる。
TiC膜の摩擦係数を小さくする観点から、その表面において、(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比を1以上とすることが好ましく、2以上とすることがより好ましい。(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比は、理論的にはいくら大きくてもよい。実際には10程度が上限となり、通常は5以下程度となる。
(111)結晶面の格子間隔は鉄の格子間隔とほぼ一致した約2.5Åであり、(200)結晶面の格子間隔は約2.1Åである。鉄の格子間隔と異なる(200)結晶面の配向比が大きい方が、鉄に対する摩擦係数を小さくできると考えられる。(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比は、実施例において述べるX線回折法により求めることができる。
プレス用金型として十分な耐久性を示すために、TiC膜からなる硬質皮膜112は十分な硬度と弾性率を有していることが好ましい。具体的に、硬質皮膜112の硬度は、33GPa以上であることが好ましい。硬質皮膜112の弾性率は280GPa以上であることが好ましく、290GPa以上であることがより好ましく、300GPa以上であることがさらに好ましい。硬度及び弾性率は、実施例において詳細に説明するナノインデンテーション法により測定することができる。
また、被加工材の凝着を抑制できるように、硬質皮膜112は摩擦係数が小さいことが好ましい具体的には、摩擦係数が0.45以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。摩擦係数は、実施例において詳細に説明するビード引き抜き試験により測定することができる。
本実施形態の硬質皮膜112を形成する際には、金型母材111の熱による歪み及び変形の発生を抑えるために、金型母材111が高温に曝されることがない条件において形成することが好ましい。具体的には、高速度鋼又はダイス鋼等により形成された金型母材111の焼き戻し温度以下で形成できることが好ましい。従って、硬質被膜112は物理気相堆積(PVD)法により形成する。特に、イオン源にカソーディックアーク装置を用いるカソーディックアークイオンプレーティング法が好ましい。
成膜装置は、例えばチャンバーと、チャンバー内に設けられた、カソードと、アノードと、ワークホルダとを有している。カソードはターゲットホルダであり、その表面にはターゲットが固定されている。アノードはカソードの周りを囲むように設けられている。ワークホルダは回転テーブルであり、ワークホルダの上にはワーク(基板)が載置されている。チャンバー内にヒーターが設置されており、載置したワークを任意の温度に加熱することができる。
カソードとアノードとの間にはアーク電源が接続されており、カソードとアノードとの間にアーク放電を発生させることができる。ワークホルダにはバイアス電源が接続されており、ワークにバイアス電圧を印加することができる。アーク放電を発生させることにより、ターゲットを蒸発させイオン化することができる。ワークに印加されたバイアス電圧によりイオンを加速させてワークの表面に被着させることができる。
カソードには磁力発生源である磁石又は電磁コイルが設けられている。磁石又は電磁コイルによりカソードからワークまで延びる磁力線が形成されている。アーク放電により発生した電子(e)の一部は、磁力線に巻き付くように運動を行い、この電子がチャンバー内のガス分子と衝突することにより、チャンバー内に導入されたガスがプラズマ化する。磁力線がワークまで延びているため、発生したイオンを効率良くワークまで到達させることができる。ターゲットをチタンとし、チャンバー内に炭化水素ガスを導入すれば、TiC膜を形成できる。
[C]/[Ti]が1に近く、且つ[sp2C−C]/[sp3C−C]が大きいTiC膜を得るためには、炭素源となる炭化水素ガスを十分にイオン化させチタンと反応させることが好ましい。このため、炭化水素ガスをターゲット近傍の強いプラズマ雰囲気に曝すことができるように、炭化水素ガスを供給するノズルをターゲットの近傍に配置することが好ましい。具体的に、ターゲットの中心からターゲットの外周部までの最短距離D1に対する、ターゲットの中心からノズルオリフィスの中心までの距離D2の比D2/D1を好ましくは5倍以下、より好ましくは4倍以下にする。これにより、炭化水素ガスが効率良くターゲットの表面に行き渡り、炭化水素ガスの分解及びイオン化が十分に行われる。また、ノズル本体によるターゲットの表面における放電を阻害しないようにする観点からは、D2/D1を好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上とする。D2/D1をこのような範囲とすることによりC−Ti/Cの値も大きくすることができる。
チャンバー内に複数のターゲットを配置することもできる。この場合、各ターゲットに炭化水素ガスを均一に供給できるように、ノズル本体の流路方向に直交する断面積S1に対する、ノズル本体から真空チャンバー内に炭化水素ガスを放出するオリフィスの面積S2の比率S2/S1をできるだけ小さくすることが好ましい。具体的に、S2/S1を0.05以下とすることが好ましい。このような構成とすることにより、ノズル本体内に充満したガスが各ノズルから均等に排出される。
TiC膜を形成する際のカソード電流の値は高い方が好ましく、120A以上とすることが好ましく、130A以上とすることがより好ましく、140A以上とすることがさらに好ましい。カソード電流が高い方が、カソードから発生したイオンを拡散させることなくワーク方向に向かわせる効果が大きく、ドロップレットの生成量に対するイオンの生成量が相対的に多くなり、被膜を占めるドロップレットの割合を抑えることができる。一方、ワークの温度上昇を500℃以下に抑えるためにはカソード電流を高くしすぎないことが好ましい。このため、カソード電流を300A以下とすることが好ましく、280A以下とすることがより好ましい。
チャンバー内の圧力がある程度高い方がイオンの密度が上昇し、(111)結晶面に対する(200)結晶面の存在比が大きくなると期待される。このため、チャンバー内の圧力は、2.0Pa以上が好ましく、2.5Pa以上がより好ましい。また、3.5Pa以下が好ましく、3.0Pa以下がより好ましい。
ワークの表面に密度が高い被膜を形成するためには、ワークの表面に供給された原子に、安定した原子配列を形成するために十分なエネルギーを供給することが重要である。ワークの表面において原子に十分なエネルギーを供給する方法として、ワークの温度を高くすることが考えられる。しかし、プレス用金型の場合には、金型母材であるワークの熱変形等を抑える必要があり、ワークの温度を十分に高くすることは困難である。ワークの加熱以外に十分なエネルギーを供給する方法として、ワークに到達するイオンのエネルギーを大きくすることが考えられる。ワークに到達するイオンのエネルギーを大きくする方法として、カソードからワークへ向かう磁場(垂直磁場)の強度を大きくすることが考えられる。垂直磁場の強度を大きくすることにより、ワークに到達するイオンの密度が向上し、ワークに到達したイオンのエネルギーの指標である基板電流密度も大きくなる。
このように成膜においては、ターゲット中心からワーク方向への磁場強度を高めることが好ましい。しかし、発生した磁力線は反対極側へ戻ろうとする性質がある。この傾向は磁力発生源の中心から外側に位置するほど、顕著となり磁力線は短い軌跡で反対極へ戻ろうとする。従って、ターゲットの周囲ではワーク方向からそれていき、ワークへ届くイオン量が減少し、基板電流密度を高めることができない。
本願発明者らは、水平磁場を制御することにより、ワーク方向への磁束密度を2〜4倍向上させることを見出した。ターゲットの主面と直交し、ワーク側に延びる方向をX方向(垂直方向)とし、ターゲットの動径方向をr方向(水平方向)とする座標系を考える。ターゲットの中心をX=0,r=0とし、ターゲットの半径をRとし、Xのプラス側にワークがあるとする。X=2R,r=2Rの位置における磁束密度を1.8mT以上、10mT以下で、r方向の磁力ベクトル(r成分磁力ベクトル)のX方向の磁力ベクトル(X成分磁力ベクトル)に対するベクトル比(|Z/r|)を2.5以下とすれば、カソードから発生したイオンを拡散させることなく、ワーク方向へ導くことが可能となる。これにより、基板電流密度を高めることが可能となり、密度が高い被膜を形成することができる。また、(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比を大きくできる。
TiC膜を成膜する際にチャンバー内に導入する炭化水素ガスは、特に限定されないが、メタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)、ペンタン(C512)、ヘキサン(C614)、ヘプタン(C716)、オクタン(C818)、ノナン(C920)、デカン(C1022)などのCnn+2の化学式で表記できるアルカン、エチレン(C24)、プロピレン(C36)、ブテン(C48)、ペンテン(C510)、ヘキセン(C612)などのCn2n(n≧2)の化学式で表記できるアルケン、アセチレン(C22)、プロピン(C34)などのCn2n(n≧2)の化学式で表記できるアルキン、及びベンゼン(C66)、トルエン(C65CH3)、ジメチルベンゼン(C6426)、トリメチルベンゼン(C6339)等の芳香族炭化水素等を用いることができる。これらの炭化水素は単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
金型母材111には、プレス用金型として従来から用いられている各種材料を用いることができる。具体的には、SKD11及びSKD61等のダイス鋼、SKH51等の高速度鋼、SK5及びSKS3等の各種工具鋼、超硬材、並びにSUS440C、SUS420J2及びSUS304等のステンレス鋼材等を用いることができる。これらの中では、特に、高温焼き戻しにより、2次硬化が起こるSKD11等のダイス鋼及びSKH51等の高速度鋼が高い硬度が得られバックアップ力強化による耐摩耗性向上の点から好ましい。
また、金型母材111における硬質被膜112が形成される表面は、算術平均表面粗度Raが0.1μm以下であることが好ましい。物理気相堆積(PVD)法により形成した硬質被膜112は、緻密で平滑性の高い被膜であるため、金型母材111表面の表面状態が硬質被膜112の表面状態として反映されやすい。このため、金型母材111の表面粗
度をこのような範囲とすることにより、硬質被膜112の表面における滑り性をより向上させることができる。
TiC膜からなる硬質被膜112は、金型母材111の表面に直接形成してもよいが、図2に示すように、中間層113を介して金型母材111の表面に形成することもできる。中間層113は、例えば金型母材111側から順次形成された金属窒化物層113A及び窒炭化チタン(TiCN)層113Bとすることができる。金属窒化物層113Aは、窒化チタン(TiN)層又は窒化クロム(CrN)層等とすることができる。また、金型母材111側から順次形成されたCrN層とTiN層との積層体とすることもできる。
金型母材111側に金属窒化物層113Aを設け、金属窒化物層113Aと硬質皮膜112との間にTiCN層113Bを設けることにより硬質被膜112の密着性が向上する。金属窒化物層113Aと硬質皮膜112との間のTiCN層113Bは、TiCxy(但し、x+y=1、x<1、xは金属窒化物層113Aの表面から遠ざかるにつれて1に近づくように徐々に増大する)からなることが好ましい。TiCN層113BをCとNとの比率が徐々に変化する傾斜組成を有する層とすることにより、金属窒化物層113Aと硬質皮膜112との密着性をより向上させることができる。TiCN層113Bは、CとNの比率が連続的に変化している方が、膜内における剥離等が生じにくくなり好ましい。しかし、ステップ状に変化していてもよい。
硬質被膜112の厚さは、特に限定されないが、十分な耐摩耗性を得る観点から1μm以上とすることが好ましく、被膜の内部応力バランスを維持してより高い密着力を確保する観点から、4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。また、中間層113の厚さは、硬質被膜112の密着性をより高く維持する観点から、2μm〜8μm程度とすることが好ましく、3μ〜5μm程度とすることがより好ましい。
なお、図2において硬質被膜112と、中間層113との境界を明確に記載しているが、製法及び膜厚等によっては、各層の境界が明確には特定できない場合もある。
中間層113は、例えば先に述べた成膜装置により形成することができる。この場合、中間層113の形成に引き続き硬質皮膜112の形成を行うことができる。先に述べた成膜装置において、ターゲットをチタンとし、チャンバー内に供給するガスを窒素とすればTiN層を形成できる。チャンバー内に供給するガスを窒素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスとすればTiCN層を形成できる。ターゲットをクロムとし、チャンバー内に窒素ガスを導入すれば、CrN層を形成できる。
本実施形態においては、母材がプレス用金型の金型母材である例を示した。しかし、母材は、耐摩耗性及び硬度等が要求される、パンチ、ドリル、エンドミル、タップ、転造ダイス等の冷間成型工具、カッター、裁断刃、打ち抜き等の工具及び加工装置等の母材であってもよい。焼き入れ等により硬度の調整を行う工具等の母材についても、母材を高温に曝すことなく形成できる本実施形態の硬質被膜は非常に有用である。工具の母材の表面に本実施形態の硬質皮膜を形成することにより、被膜の剥離が生じにくく且つ磨耗等が生じにくい工具が実現できる。
(評価方法)
−結晶構造−
被膜の結晶構造は、X線回折装置(リガク社製:RINT2500 VHF)を用いて測定した。X線入射角は2°とし、回折角(2θ)は20°〜120°の範囲でX線回折スペクトルを測定した。ターゲットには銅を用いた。TiCの(200)面のピーク強度h(200)、半価幅(200)、(111)面のピークの強度h(111)、半価幅(111)を求め、h(200)/h(111)の値を、(111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比とした。
−組成解析−
被膜の組成は、X線光電子分光(XPS)装置(日本電子製:JPS-9020)を用いて測定した。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定時間は0.2msとし、1つの試料について32回測定を行った。炭素中を進む光電子の非弾性平均自由工程を考慮すると、表面から9nmまでの範囲について測定されると考えられる。さらに、光電子は表面から深くなるにつれて脱出しにくくなり、光電子の検出は表面から深くなるほど減衰する。従って、今回測定された情報の50%は表面からおよそ1.5nmまでの最表層の情報で占められていると考えられる。
XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピーク及びチタン2p(Ti2p)ピークから、炭素(C)とチタン(Ti)とのモル比を求めた。また、C1sピークを、チタンと結合したC−Ti、炭素同士がsp3結合したsp3C−C及び炭素同士がsp2結合したsp2C−C、炭素と水素とがsp3結合したsp3C−H及び炭素と水素とがsp2結合したsp2C−H、炭素と酸素との一重結合(O−C単結合)の6つの成分にカーブフィッティングにより分解し、炭素と酸素との二重結合(C=O二重結合)の成分は除外とした。C−Tiの結合エネルギーは281.5eV、sp3C−Cの結合エネルギーは283.8eV、sp2C−Cの結合エネルギーは284.3eV、sp2C−Hの結合エネルギーは284.8eV、sp3C−Hの結合エネルギーは285.3eVとし、O−C単結合エネルギーは285.9eVとした。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をO−C成分を除くC1sの全ピークの面積により割った値を、全炭素に対する各成分の組成比とした。さらに、各成分の組成比にCのモル比を掛けることにより、硬質皮膜の全組成に対する各成分の組成比を求めた。sp3C−Cの組成比とsp2C−Cの組成比との和をC−Cの組成比とし、sp3C−Hの組成比とsp2C−Hの組成比との和をC−Hの組成比とした。
−物理特性−
被膜の硬度及び弾性率(ヤング率)は、ナノインデンテーション装置(Hysitron社製:TI-950 Triboindenter)により測定した。ダイヤモンドの圧子は稜線角が115°の三角錐のBerkovich型とし、ダイヤモンド圧子の押し込み加重を2600μNとして荷重−変位曲線を求め、得られた荷重−変位曲線から硬度及び弾性率を算出した。
−ビード引き抜き試験−
被膜を形成したプレス用金型の摩擦係数及び破断加圧荷重は、ビード引き抜き試験により測定した。具体的に、図3に示すオス側金型311及びメス側金型312からなるプレス用金型310を準備した。図4に示すように、20×300×1.4mmの高張力鋼材SPFC980Y(100k級ハイテン)からなる鋼板315を、プレス用金型310に挟み込んだ。鋼板315を挟み込んだプレス用金型310を小型プレス機にセットし、10kNの押し付け荷重を加えた状態で、挟み込まれた鋼板315の一端を500mm/minの一定速度で引っ張った。各距離における引抜荷重F及び押付荷重Pを測定し、「摩擦係数μ=引抜荷重F/押付荷重P/2」の式より各距離における摩擦係数を算出し、引張距離が20mm〜100mmの間の摩擦係数の平均値を、各サンプルの摩擦係数とした。
(実施例1)
まず、図3に示した形状及び寸法で、その表面がRa=0.05μm程度に鏡面仕上げされたSKD11からなるオス側金型母材及びメス側金型母材のセットを準備した。
オス側金型母材及びメス側金型母材の表面に、アークイオンプレーティングを用いた成膜装置を用いて、アークイオンプレーティング法により被膜を形成した。具体的にはまず、成膜装置のワークホルダの上に、オス側金型母材及びメス側金型母材を載置した。ターゲットには純チタン(JIS2種)を用いた。続いて、チャンバー内を3×10-3Paまで減圧した。オス側金型母材及びメス側金型母材の温度はヒーターによりそれぞれ450℃とした。続いて、ガス導入口からアルゴン(Ar)ガスを供給しつつ、排気することによりチャンバー内の圧力を所定の圧力に維持し、ワークとチャンバーの間で放電させることにより、アルゴンボンバードを行い、金型母材の表面をクリーニングした。
次に、中間層及び硬質皮膜の形成を行った。Arガスの供給を止めた後、供給ガスを窒素ガスとし、圧力は4.0Paに維持した。同時に、アーク放電を発生させ、Tiからなるターゲットを蒸発させた。蒸発したTi及び窒素は、アーク放電によりイオン化し、バイアス電圧が印加されたオス側金型母材及びメス側金型母材に向けて供給され、それぞれの表面にTiN層を形成した。TiN層の成膜後、圧力を2.7Paに変更した上で供給ガスを徐々に窒素ガスからメタンガスに切り換え、TiCN層を形成した。TiCN層の成膜後に供給ガスをメタンガスのみとし、TiCからなる硬質皮膜の形成を行った。得られたTiN層の厚さは約1μmであり、TiCN層の厚さは約2μmであり、硬質皮膜の厚さは約1μmであった。
成膜の際に、ターゲットの中心からターゲットの外周部までの最短距離D1に対する、ターゲットの中心からノズルオリフィスの中心までの距離D2の比D2/D1を4とした。成膜の際のカソード電流は160Aとした。
得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.42、[C]が0.58であり、[C−Ti]が0.36、[sp3C−C]が0.007、[sp2C−C]が0.035、[sp3C−H]が0.060、[sp2C−H]が0.11であった。従って、[C]/[Ti]は1.4、[sp2C−C]/[sp3C−C]は5、[C−C]は0.042、[C−H]/[C−C]は4.0、[C−H]/[C−Ti]は0.47であった。硬度は40GPa、弾性率は350GPaであり、摩擦係数は0.39であり、破断加重は39kNであった。h(200)/h(111)は2.1であり、(200)面の半価幅は0.91、(111)面の半価幅は0.83であった。
(実施例2)
D2/D1を2とした以外は、実施例1と同様にして被膜の形成を行った。得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.42、[C]が0.58であり、[C−Ti]が0.36、[sp3C−C]が0.014、[sp2C−C]が0.054、[sp3C−H]が0.046、[sp2C−H]が0.11であった。従って、[C]/[Ti]は1.4、[sp2C−C]/[sp3C−C]は3.9、[C−C]は0.068、[C−H]/[C−C]は2.3、[C−H]/[C−Ti]は0.43であった。硬度は43GPa、弾性率は356GPaであった。
(比較例1)
D2/D1を6とした以外は、実施例1と同様にして被膜の形成を行った。得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.30、[C]が0.70であり、[C−Ti]が0.25、[sp3C−C]が0.21、[sp2C−C]が0.16、[sp3C−H]が0.018、[sp2C−H]が0.069であった。従って、[C]/[Ti]は2.3、[sp2C−C]/[sp3C−C]は0.76、[C−C]は0.37、[C−H]/[C−C]は0.24、[C−H]/[C−Ti]は0.35であった。硬度は28GPa、弾性率は269GPaであり、摩擦係数は0.41であり、破断加重は27kNであった。h(200)/h(111)は0.89であり、(200)面の半価幅は1.87、(111)面の半価幅は1.68であった。
(比較例2)
D2/D1を12とした以外は、実施例1と同様にして被膜の形成を行った。得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.26、[C]が0.74であり、[C−Ti]が0.19、[sp3C−C]が0.24、[sp2C−C]が0.17、[sp3C−H]が0.027、[sp2C−H]が0.12であった。従って、[C]/[Ti]は2.8、[sp2C−C]/[sp3C−C]は0.71、[C−C]は0.41、[C−H]/[C−C]は0.36、[C−H]/[C−Ti]は0.77であった。硬度は22GPa、弾性率は226GPaであった。
(比較例3)
ホロカソード(HCD)イオンプレーティング法により、硬質皮膜を形成した。具体的には、成膜装置のワークホルダの上に、オス側金型母材及びメス側金型母材を載置し、原料として純チタンを用いた。炉内を十分に真空引きした後、排気しつつアルゴン(Ar)ガスを一定流量で供給した上で、ワークとチャンバーの間で放電させることにより、アルゴンボンバードを行い、金型母材の表面をクリーニングした。
次に、中間層及び硬質皮膜の形成を行った。まず、アルゴン、窒素ガス混合雰囲気下でTiN層を形成した。その後、窒素供給量を減少、アセチレンガス(C22)を徐々に導入しTiCN層を形成した。その後、窒素ガス供給を止めTiC硬質被膜を形成した。いずれの層においても基盤電圧は、基盤電流密度が一定となるよう制御し成膜を行った。また、いずれの層も炉内雰囲気はガス流量一定とした。また炉内温度の制御は行わなかったが、成膜の過程で350℃〜460℃程度に上昇した。得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.07、[C]が0.93であり、[C−Ti]が0.06、[sp3C−C]が0.32、[sp2C−C]が0.32、[sp3C−H]が0.05、[sp2C−H]が0.17であった。従って、[C]/[Ti]は13、[sp2C−C]/[sp3C−C]は1.0、[C−C]は0.64、[C−H]/[C−C]は0.34、[C−H]/[C−Ti]は3.7であった。硬度は7GPa、弾性率は93GPaであり、摩擦係数は0.39であり、破断加重は39kNであった。h(200)/h(111)は0.69であり、(200)面の半価幅は1.93、(111)面の半価幅は1.52であった。
(比較例4)
化学気相堆積(CVD)法により、硬質皮膜を形成した。具体的には、装置内を1000℃に加熱した後、常圧下にてTiCl4、H2ガスを導入した混合ガス雰囲気下でオス側金型母材及びメス側金型母材の表面へコーティングを施した。得られた硬質被膜の組成比は、[Ti]が0.41、[C]が0.59であり、[C−Ti]が0.40、[sp3C−C]が0.026、[sp2C−C]が0.055、[sp3C−H]が0.018、[sp2C−H]が0.091であった。従って、[C]/[Ti]は1.4、[sp2C−C]/[sp3C−C]は2.1、[C−C]は0.081、[C−H]/[C−C]は1.3、[C−H]/[C−Ti]は0.27であった。硬度は33GPa、弾性率は331GPaであり、摩擦係数は0.46であり、破断加重は22kNであった。h(200)/h(111)は0.06であり、(200)面の半価幅は0.53、(111)面の半価幅は0.41であった。
各実施例及び比較例における評価結果を表1〜表3にまとめて示す。[C]/[Ti]が2.0以下である実施例1、2は、イオンプレーティングにより形成した比較例1〜3と比べて、硬度及び弾性率が大きい。CVD法により形成した比較例4と比べて、摩擦係数が小さく、プレス用金型等として適している。
Figure 0006636297
Figure 0006636297
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本発明に係る硬質皮膜は、耐摩耗性と共に高い潤滑特性を有し、金型及び工具等の分野において有用である。
111 金型母材
112 硬質被膜
113 中間層
113A 窒化物層
113B 炭窒化物層
310 プレス用金型
311 オス側金型
312 メス側金型
315 鋼板

Claims (5)

  1. 母材の表面に形成され、チタン原子に対する炭素原子のモル比[C]/[Ti]が1以上、2.0以下であり、sp3炭素−炭素結合した炭素原子に対するsp2炭素−炭素結合した炭素原子のモル比[sp2C−C]/[sp3C−C]が2.5以上であり、
    (111)結晶面に対する(200)結晶面の配向比は、1以上、10以下である、硬質皮膜。
  2. 炭素同士が結合した炭素原子に対する水素と結合した炭素原子のモル比[C−H]/[C−C]は、2以上、6以下である、請求項に記載の硬質皮膜。
  3. 炭素同士が結合した炭素原子の全組成に対するモル比[C−C]は、0.02以上、0.1以下である、請求項1又は2に記載の硬質皮膜。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬質皮膜が設けられていることを特徴とする工具。
  5. 母材と、
    前記母材の表面に形成された硬質被膜とを備え、
    前記硬質被膜は、チタン原子に対する炭素原子のモル比[C]/[Ti]が1以上、2.0以下であり、sp3炭素−炭素結合した炭素原子に対するsp2炭素−炭素結合した炭素原子のモル比[sp2C−C]/[sp3C−C]が2.5以上であることを特徴とするプレス用金型。
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