1.含フッ素ポリイミド
本発明で用いるポリイミドは、繰り返し単位中に1個以上のフッ素原子を有する含フッ素ポリイミドであり、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上反応させて得られる含フッ素ポリイミドである。含フッ素ポリイミドの製造のためには、好ましくは、酸二無水物及びジアミンのうち少なくとも1種の化合物として、分子内にフッ素原子を有するものを用いる。該ポリイミドを含む、本発明の基材表面を構成する樹脂組成物中のフッ素含量は、1〜60質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜50質量%である。上記フッ素含有量とするためには、使用される酸二無水物又はジアミンの一方又は両方が1個以上のフッ素原子を含めばよい。かかるフッ素含有量の樹脂組成物により構成される基材表面では細胞が三次元的な組織を形成し易い。本発明では、フッ素原子を有するポリイミドを含フッ素ポリイミドと称することがあり、その前駆体であるポリアミド酸を含フッ素ポリアミド酸と称することがある。また、本明細書中で、「含フッ素ポリアミド酸」を「ポリアミド酸」、「含フッ素芳香族ポリアミド酸」を「芳香族ポリアミド酸」、「含フッ素ポリイミド」を「ポリイミド」、「含フッ素芳香族ポリイミド」を「芳香族ポリイミド」と各々称することがある。
本発明の基材において細胞の足場となる表面を構成する樹脂組成物は、ポリイミドに加えて、ポリアミド酸を一部に含んでいてもよい。本明細書中では、イミド化率が0%のものをポリアミド酸、イミド化率が0%を超えるものをポリイミドと称する。
酸二無水物として式(1)で示される化合物を用い、ジアミンとして式(2)で示される化合物を用いて得られる本発明のポリイミドは、その主鎖(主鎖骨格とも言う)中に式(3)で示される繰り返し単位を含む。
式(1)〜(3)において、X0は、酸二無水物残基を表し、4価の有機基である。Y0は、ジアミン化合物残基を表し、2価の有機基である。
また、本発明で用いるポリイミドは、より好ましくは、
主鎖(主鎖骨格)中に式(3)で示される繰り返し単位を含み、
式(3)中、X0は4価の有機基であり、Y0は2価の有機基であり、
X0及びY0に含まれるフッ素原子の合計は1個以上であり、
Y0は、ビフェニル基を含み、該ビフェニル基の2つのベンゼン環の各々が1つのアミノ基で置換されたジアミン化合物の構造であって、前記各アミノ基が窒素原子への単結合に置換された構造を有する
含フッ素ポリイミドである。ここでY0は、特に好ましくは、下記式(D)で示される基である。
本発明で用いられる樹脂組成物中の含フッ素ポリイミドは式(3)で示される繰り返し単位を有している限り、どのような製法で製造されたものでもよく、式(1)で示される酸二無水物と式(2)で示されるジアミンとを反応させて得られる含フッ素ポリイミドには限定されない。本発明での「酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上反応させて得られたポリイミド」において、酸二無水物は酸二無水物の誘導体の形態でもよく、ジアミンはジアミンの誘導体の形態でもよいことは当業者に自明である。
ポリイミドを製造する方法としては、実施例で示すような二段合成法や、一段合成法が使用できる。
ポリイミドの二段合成法は前駆体としてポリアミド酸を合成し、ポリアミド酸をポリイミド酸に変換する方法である。前駆体としてのポリアミド酸はポリアミド酸誘導体であってもよい。ポリアミド酸誘導体としては、例えばポリアミド酸塩、ポリアミド酸アルキルエステル、ポリアミド酸アミド、ビスメチリデンピロメリチドからのポリアミド酸誘導体、ポリアミド酸シリルエステル、ポリアミド酸イソイミドなどが挙げられる。
ポリイミドの一段合成法としては、例えば高温溶融重合法、イソシアナート法、テトラカルボン酸ジチオ無水物法、イオン液体を用いる方法などの、溶媒を用いる一段合成法が使用できる。その他の一段合成法としては、ナイロン塩型モノマーを経由する重合法、高温固相重合法、高圧下での高温固相重合法、水中での固相重合法などが挙げられる。
また、本発明において、「酸二無水物残基」は上記構造を形成する4価の有機基であればよく、実際に酸二無水物が反応して形成された残基である必要はなく、同様に、「ジアミン化合物残基」は上記構造を形成する2価の有機基であればよく、実際にジアミン化合物が反応して形成された残基である必要はない。
1.1.ジアミン
本発明では、重合に用いる式(2)で示されるジアミンとして、ビフェニル基を含み、該ビフェニル基の2つのベンゼン環の各々が1つのアミノ基で置換されたジアミン化合物を少なくとも含むことを特徴とする。該ビフェニル基の水素原子は、アミノ基以外の他の置換基により置換されていてよく、アミノ基以外の他の置換基により置換されていることがより好ましい。他の置換基の数は特に限定されないが、1又は2個であることが好ましい。
該ジアミン化合物の好適な形態としては式(IX):
[式中、
R
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち、1個は−NH
2であり、残りの4個はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、−SO
3H及び−OHからなる群から選択される基であり、
R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち、1個は−NH
2であり、残りの4個はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、−SO
3H及び−OHからなる群から選択される基であり、
或いは、R
11とR
21、及び/又は、R
15とR
25は、一体となって−S(=O)
2−を形成してもよい]
で示される化合物が挙げられる。
前記アルキル基としては、エチル基又はメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
前記アルコキシ基としては、エトキシ基又はメトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
前記アルキル基は、一部又は全部の水素原子がフッ素原子により置換されていてもよく、好ましくは、トリフルオロメチル基である。
前記アルコキシ基は、一部又は全部の水素原子がフッ素原子により置換されていてもよく、好ましくは、トリフルオロメトキシ基である。
式(IX)の化合物として特に好ましい化合物群としては、
化合物群1: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のフッ素原子で置換されたアルキル基(好ましくはトリフルオロメチル基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のフッ素原子で置換されたアルキル基(好ましくはトリフルオロメチル基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群2: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはメチル基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはメチル基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群3: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が−OHであり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が−OHであり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群4: R11とR21とが一体となって−S(=O)2−を形成し、R12、R13、R14及びR15のうち1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり、残りが水素原子であり、且つ、R22、R23、R24及びR25のうち1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり、残りが水素原子である。
化合物群5: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が−SO3Hであり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が−SO3Hであり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群6: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
上記化合物群1〜6において、R13及びR23が−NH2である。
化合物群1のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)が好ましい。
化合物群2のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ジメチルー4.4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
化合物群3のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
化合物群4のなかでも特に、
で示される化合物、すなわちO−トリジンスルホンが好ましい。
化合物群5のなかでも特に、
で示される化合物、すなわちO−トリジンジスルホン酸が好ましい。
化合物群6のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ジメトキシー4.4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
すなわち式(2)で示されるジアミンは、Y
0が
式(D)
[ただし、式Dにおいては、R
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち1個は上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2に相当し窒素原子への単結合を示し、残りは上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2以外の基であり、且つ、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち1個は上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2に相当し窒素原子への単結合を示し、残りは上記式(IX)について定義したR
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち−NH
2以外の基である]
で示される基であるジアミンを含むことが好ましく、更に、式(D
1)〜(D
6)
のいずれかで示される基であるジアミンを含むことがより好ましい。
1.2.含フッ素ポリアミド酸
式(3)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(1)の酸二無水物と式(2)のジアミンとを反応させて得られるポリアミド酸をイミド化して得ることができ、該ポリアミド酸は、その主鎖(主鎖骨格)中に式(4)で表される繰り返し単位を含む。
ポリアミド酸の1分子に含まれる式(4)の繰り返し単位の数は1〜1300であることが好ましく、1〜1000であることがより好ましい。
前記ポリアミド酸の分子量は、重量平均分子量として、1000〜100万であることが好ましく、5000〜70万であることがより好ましい。分子量がこの範囲内であると重合時にゲル化する恐れが無く、低粘度で重合やフィルム化が容易になり、適当な耐熱性や膜強度の付与と維持が期待できる。重量平均分子量は更に好ましくは1万〜50万である。
上記重量平均分子量は、後述する実施例と同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
前記ポリアミド酸は、好ましくは芳香族ポリアミド酸又は脂肪族ポリアミド酸であり、より好ましくは芳香族ポリアミド酸である。以下にポリアミド酸の好適な実施形態を説明する。
1.2.1.芳香族ポリアミド酸の具体例
芳香族酸二無水物とはX0が芳香族基を含む式(1)の化合物であり、芳香族ジアミンとはY0が芳香族基を含む式(2)の化合物である。芳香族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が、X0が芳香族基を含む式(1)の酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが、Y0が芳香族基を含む式(2)のジアミンを少なくとも含む。含フッ素芳香族ポリアミド酸とは、式(4)において、重合繰り返し単位に含まれる酸二無水物に由来するX0とジアミンに由来するY0の一方又は両方が1個以上のフッ素原子及び1個以上の芳香族環構造を有するものである。
芳香族ポリアミド酸の好ましい実施形態では、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
1)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が前記式(D)で示される基であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(I)で表される重合単位を含む。
Dは前記式(D)で示される、少なくとも1種の2価の芳香族基であり、好ましくは前記式(D1)〜(D6)のいずれか、より好ましくは(D1)で示される2価の芳香族基である。
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示す。
X1、D、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。
pは0又は1である。
上記式(I)及び(E1)中、p=0である場合は、X1は存在せず、左右のベンゼン環が直接結合しており、p=1である場合は、左右のベンゼン環がX1を介して結合する。
X1は、具体的には、アルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンチオ基、−O−及び−S−からなる群から選択される少なくとも1つの基であり、これらの中でも、アルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基からなる群から選択される少なくとも1つの基が好ましく、アルキレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基からなる群から選択される少なくとも1つの基がより好ましく、アルキレン基及びアリーレンオキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの基が更に好ましく、これらはハロゲン原子(フッ素原子等)で置換されていてもよい。
X1の例であるアルキレン基としては、−C(CA3)2−及び−C(CA3)2−C(CA3)2−からなる群から選択される少なくとも1つの基を例示することができ、式中Aは独立して水素原子又はフッ素原子であり、好ましくは全てがフッ素原子である。X1の例である上述したアルキレン基の中では、Aが全てフッ素原子である−C(CA3)2−、すなわち−C(CF3)2−が好適である。かかるフッ素置換アルキレン基は、嵩高い構造を取り接触角が大きくなるため、生体物質付着防止性が向上するとともに三次元培養が容易となる。アルキレン基は、Dにフッ素原子が含まれない場合は、フッ素置換されたアルキレン基であることが特に好ましい。
X1の例であるアリーレン基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例であるアリーレンオキシ基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例であるアリーレンチオ基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、各々独立して、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基に置換している好適な置換基は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、Dにフッ素原子が含まれない場合、少なくとも1つ以上のフッ素原子で置換されることが好ましい。
X1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基の中では、以下の群から選択される少なくとも1つの基が好適である。
[上記式中、W
1及びW
2はそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を示す。]
この場合、W1とW2は同一である、即ちW1とW2は共に酸素原子であるか或いは硫黄原子であることが好ましく、共に酸素原子であることがより好ましい。
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる。X1、Dにフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子であることが好ましい。
更に好ましい実施形態では、
pが1であり、
X1が、上記のX1のうち、フッ素原子を含有するアルキレン基であるか、フッ素原子を有していてもよいアリーレンオキシ基であり、
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6がフッ素原子又は水素原子であり、
Dは前記の通りである。
更に好ましい実施形態では、
X
1は、基x1:
−C(CF
3)
2−
基x2:
又は、基x3:
であることが好ましく、
Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5及びZ
6は、全て水素原子であるか、全てフッ素原子であることが好ましく、
Dは前記の通りである。
この実施形態において、X1が基x1のときZ1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は全て水素原子であることが好ましく、X1が基x2又はx3のときZ1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は全てフッ素原子であることが好ましい。
この実施形態において、X1は、基x1であることがより好ましい。
Dは好ましくは前記式(D1)〜(D6)のいずれか、より好ましくは前記式(D1)で示される基である。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が後述する式(E3)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E4)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX1、D、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は式(I)に関し上記で定義した通りである。
1.2.2.脂肪族ポリアミド酸
本発明において、着色の観点から芳香族ポリアミド酸樹脂の代わりに又はこれと共に脂肪族ポリアミド酸樹脂を採用することができる。
脂肪族ポリアミド酸樹脂は、例えば(1)芳香族ジアミンと脂肪族酸二無水物、(2)脂肪族ジアミンと芳香族酸二無水物、又は(3)脂肪族ジアミンと脂肪族酸二無水物の重合物である。脂肪族ポリアミド酸樹脂は、芳香族又は脂肪族のジアミン及び酸二無水物の一方又は両方が1分子中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の脂肪族構造を含むことが好ましく、前記脂肪族ポリアミド酸樹脂は、下記式(III)又は(IV)で表される構造を含むことが好ましい。
式(III)で表される脂肪族ポリアミド酸
好適な脂肪族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
3)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が前記式(D)で示される基であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(III)で表される重合単位を含む。
Dは前記式(D)で示される、少なくとも1種の2価の芳香族基であり好ましくは前記式(D1)〜(D6)のいずれか、より好ましくは(D1)で示される2価の芳香族基である。
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示す。
X3、D、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。
pは0又は1である。
上記式(III)及び(E3)中、p=0である場合は、X3は存在せず、左右のエチレン基が直接結合しており、p=1である場合は、左右のエチレン基がX3を介して結合する。X3で示される2価の有機基は、好ましくは脂肪族基を有する2価の有機基であり、炭素数1〜40の脂肪族炭化水素基が特に好ましい。前記有機基としては、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、及び環と環とを単結合等の結合基で結合した構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する有機基が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基及びシロキサン基からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。X3で示される2価の有機基は、例えば以下に示される基から選択される少なくとも1つの基であることが好ましい。
X3の例である2価の有機基(pは1の場合)は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。
上記式(III)及び(E3)中、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれる。X3、Dにフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子である。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が前記式(E1)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E4)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX3、D、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は式(III)に関し上記で定義した通りである。
式(IV)で表される脂肪族ポリアミド酸
好適な脂肪族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
4)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が前記式(D)で示される基であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(IV)で表される重合単位を含む。
Dは前記式(D)で示される、少なくとも1種の2価の芳香族基であり、好ましくは前記式(D1)〜(D6)のいずれか、より好ましくは(D1)で示される2価の芳香族基である。
Z1、Z2、Z3、及びZ4は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示す。
X4、D、Z1、Z2、Z3、及びZ4の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。
X4で示される脂肪族基を有する4価の有機基としては、炭素数1〜40の脂肪族炭化水素基が好ましい。前記有機基としては、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、及び環と環とを単結合等の結合基で結合した構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する有機基が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基及びシロキサン基からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。具体的に、X4は、下記から選ばれる少なくとも1つの基であることが好ましく、これらは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよい。
上記式(IV)及び(E4)中、Z1、Z2、Z3、及びZ4は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれる。X4、Dにフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、及びZ4の少なくとも1つはフッ素原子である。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が前記式(E1)で示される基である酸二無水物や、X0が前記式(E3)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0が式(D)で示される基であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX4、D、Z1、Z2、Z3及びZ4は式(IV)に関し上記で定義した通りである。
1.2.3.含フッ素ポリアミド酸の製造方法
式(4)或いはその具体例である式(I)、(II)、(III)又は(IV)で示される前記ポリアミド酸は、式(1)で示される芳香族又は脂肪族の酸二無水物と、式(2)で示される芳香族又は脂肪族のジアミンとを溶媒中で公知の手法によりアミド化反応させることにより、製造することができる。ここで、原料として用いる酸二無水物及びジアミン化合物は、得ようとするポリアミド酸樹脂の構造に応じて適宜選択すればよい。
式(1)で示される芳香族酸酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(10FEDAN)、4,4’−[(1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(6F4HEDAN)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)等が挙げられる。
式(1)で示される脂肪族酸二無水物としては、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸酸二無水物等が挙げられる。
式(2)で示される芳香族ジアミンとしては、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、2,2’−ジメチルー4.4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、O−トリジンスルホン、O−トリジンジスルホン酸、2,2’−ジメトキシー4.4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
アミド化反応は、溶媒中に酸二無水物とジアミンとを溶解させた溶液を、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中、室温で攪拌して均一溶液とすることにより進行する。溶媒は、原料として用いる酸二無水物及びジアミンに応じて適宜選択すればよい。アミド化反応終了後の反応混合物は、溶媒中にポリアミド酸を含む。当該反応混合物はそのまま熱イミド化又は化学イミド化に供することができる。また、生成されたポリアミド酸を反応混合物から分離し再度適当な溶媒に溶解してから熱イミド化又は化学イミド化に供することも可能である。
アミド化反応は有機溶媒中で行われることが好適である。上記有機溶媒としては、原料である酸二無水物とジアミンとの反応が効率よく進行でき、かつこれらの原料に対して不活性であれば、特に限定されるものではない。例えば、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ジメチルスルフォキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メタノール等の極性溶媒;トルエンやキシレン等の非極性溶媒等が挙げられる。中でも、極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。
1.3.含フッ素ポリイミドの製造方法
前記ポリアミド酸を、熱イミド化又は化学イミド化のいずれかによりイミド化してポリイミドを含む樹脂組成物を得る。ただし、熱イミド化で得られたポリイミドは、触媒の残存の可能性がなく、細胞培養用途ではより好ましい。
ポリアミド酸をイミド化する際、ポリアミド酸が完全にポリイミドに転化されるとは限らず、生成された樹脂組成物中には、ポリイミドだけでなくポリアミド酸や、その他の成分が含まれていてよい。後述するイミド化率の範囲内でイミド化されていることが好ましい。
1.3.1.熱イミド化
熱イミド化によりイミド化する場合、例えば、前記ポリアミド酸を、空気中で、又はより好ましくは窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、或いは真空中で、好ましくは温度50〜400℃、より好ましくは100〜380℃、好ましくは時間0.1〜10時間、より好ましくは0.2〜5時間の条件下で焼成してイミド化反応を行うことによりポリイミドを含む樹脂組成物を得ることができる。熱イミド化反応に供する前記ポリアミド酸は、適当な溶媒中に溶解された形態であることが好ましい。溶媒としては、ポリアミド酸を溶解するものであれば良く、アミド化反応に関して上記した溶媒を用いることもできる。例えば、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ジメチルスルフォキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メタノール等の極性溶媒;トルエンやキシレン等の非極性溶媒等が挙げられる。中でも、極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。上記の通り、アミド化反応後の反応混合物をそのまま熱イミド化に供してもよい。前記ポリアミド酸の溶液中の前記ポリアミド酸の濃度は特に限定されないが、得られる樹脂組成物の重合反応性と重合後の粘度、その後の製膜、焼成での取り扱いやすさから、好ましくは、5重量%以上、より好ましくは10重量%、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。
1.3.2.化学イミド化
化学イミド化によりイミド化する場合では、適当な溶媒中で後述の脱水環化試薬の使用によりポリアミド酸を直接イミド化することができる。
前記脱水環化試薬は、ポリアミド酸を化学的に脱水環化してポリイミドとする作用を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。このような脱水環化試薬としては、3級アミンを単独で用いるか、又は、3級アミンとカルボン酸無水物とを組合せて用いることが、イミド化を効率よく促進させうる点で好ましい。
3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも特に、ピリジン、DABCO、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタンが好ましく、DABCOがより好ましい。3級アミンは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。カルボン酸無水物は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
化学イミド化においてポリアミド酸を溶解する溶媒としては、溶解性に優れる極性溶媒が好適である。例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらの中でも特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンからなる群より選ばれる1種以上であることが均一反応をする観点から好ましい。アミド化反応の溶媒としてこれらの溶媒を用いた場合、アミド化反応後の反応混合物からポリアミド酸を分離せずそのまま化学イミド化に用いることができる。
前記ポリイミド溶液を調製するに際しては、上述したポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を混合すればよく、混合によりイミド化が進行し、ポリイミド溶液が得られる。
また、芳香族ポリアミド酸の溶液及び脂肪族ポリアミド酸の溶液を別々に調製して、これらを混合して、芳香族ポリイミドと脂肪族ポリイミドをランダム又は交互に重合させてもよい。
ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を含む前記混合物中でのポリアミド酸の混合量は、ポリイミド生成時に室温でポリイミドが析出しない程度の濃度であればよい。かかる観点から、ポリアミド酸の混合量は、ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の合計質量に対し、ポリアミド酸の濃度として45質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。ポリアミド酸の濃度の下限は特に制限されず、例えば、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上である。いずれにしても、具体的な濃度は予備実験により決定すればよい。
前記混合物中での脱水環化試薬の混合量は、ポリアミド酸の混合量に応じて適宜設定すればよく、例えば、脱水環化試薬として3級アミンを用いる場合には、ポリアミド酸中のアミド単位に対して、0.005当量以上、0.3当量以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01当量以上、0.2当量以下である。3級アミンが0.005当量未満であると、イミド化が充分に進行しない虞があり、一方、0.3当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。また脱水環化試薬としてカルボン酸無水物をも併用する場合には、ポリアミド酸中のアミド単位に対して、カルボン酸無水物を1当量以上、20当量以下とすることが好ましく、より好ましくは1.1当量以上、15当量以下である。カルボン酸無水物が1当量未満であるとアミド結合が残り脱水剤としての効果を十分に発揮できない虞があり、一方、20当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。
前記混合物中での溶媒の混合量は、ポリアミド酸の濃度が上述した範囲になるよう適宜設定すればよい。
前記ポリイミド溶液を調製するにあたり、ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の混合順序には、特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸と溶媒との混合物に対して、脱水環化試薬を直接加えるか、若しくは脱水環化試薬を溶媒に溶解してポリアミド酸に加えるようにすればよい。また、脱水環化試薬として3級アミンとカルボン酸無水物との組合せを用いる場合の両者の混合順序も特に制限されず、例えば、3級アミンとカルボン酸無水物を同時に加えてもよいし、まず何れか一方をポリアミド酸樹脂と溶媒との混合物に加え、ある程度攪拌した後に、他方を加えるようにしてもよい。
前記ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の混合は、通常、特段加熱や冷却を行うことなく、好ましくは5〜40℃、より好ましくは20〜30℃で行われるが、イミド化を促進するために必要に応じて100℃程度以下の範囲で加温してもよい。
前記ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を混合する際の混合時間は、特に制限されないが、自転公転式混合法を用いた場合には極めて効率よく混合が進むので、例えば1分間〜30分間程度とすることができる。具体的な混合時間は、予備実験により決定すればよい。その後、得られたポリイミドは、脱水環化触媒等の成分を除去する観点から、アセトンなどの有機溶媒に溶解させて希釈し、水含有メタノール中に再沈させて、精製することもできる。化学的にイミド化したポリイミドは、溶媒可溶性があるため、精製された粉末状ポリイミドを合成時とは別の有機溶媒に溶解させてポリイミド溶液を調製してもよい。
1.4.含フッ素ポリイミドの化学構造
以上のようにして得られた樹脂組成物は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有するポリイミドを含有する。該ポリイミドは、より好ましくは、下記式(V)で表される繰り返し単位構造を含む芳香族ポリイミドである。かかる特定構造を有するポリイミドを表面に含む基材では、細胞の三次元的な培養が可能である。
上記式(V)において、X1、D、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6及びpの定義と好適な具体例は、式(I)の定義で説明したものと同様である。
また、以上のようにして得られた樹脂組成物は、は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有する脂肪族基を有する脂肪族ポリイミド、より好ましくは、下記式(VI)〜(VIII)のいずれかで表される繰り返し単位構造を含む少なくとも1種の脂肪族ポリイミドを含むことができる。かかる特定構造を有するポリイミドを表面に含む基材では、細胞の三次元的な培養が可能である。
[上記式(VII)中、X
3、D、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5及びZ
6の定義と好適な具体例は、式(III)の定義で説明したものと同様とする。]
[上記式(VIII)中、X
4、D、Z
1、Z
2、Z
3及びZ
4の定義と好適な具体例は、式(IV)の定義で説明したものと同様とする。]
前記ポリイミドを含む樹脂組成物は、必要に応じて、通常用いられる各種添加剤、例えば、分散剤、有機溶媒、無機充填材、離型剤、カップリング剤、難燃剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。前記ポリイミドとその前駆体である未反応のポリアミド酸とを主成分とする樹脂組成物である。ポリイミドと前記ポリアミド酸との合計量が、樹脂組成物の全量に対して、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
本発明において「ポリイミドを含む樹脂組成物」は、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上重合させて得られるポリアミド酸をイミド化することにより得られるポリイミド樹脂を指す。
本発明で用いられる樹脂組成物中のポリイミドは、製法に関わりなく、式(3)で示される繰り返し単位を含むポリイミドであることができ、前記式(3)中のX0及びY0は、本明細書中で説明した酸二無水物、ジアミン及び/又はポリアミド酸におけるX0及びY0と同様の構造であることができる。特に好ましい式(3)で示される繰り返し単位の例は、上記の式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)のいずれかで表される構造である。
式(V)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E1)で表される基であり且つY0がY1である構造である。式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(V)において、式(E1)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY1が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E1)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y1及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E2)で示される基、式(E3)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY2、Y3、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VI)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E2)で表される基であり且つY0がY2である構造である。式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VI)において、式(E2)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY2が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E2)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y2及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E2)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E3)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y2の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y3、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VII)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E3)で表される基であり且つY0がY3である構造である。式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VII)において、式(E3)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY3が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E3)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y3及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E3)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E2)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y3の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y2、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VIII)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E4)で表される基であり且つY0がY4である構造である。式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VIII)において、式(E4)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY4が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E4)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y4及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E4)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E2)で示される基、式(E3)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y4の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y2、Y3等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
1.5.ポリイミド含有樹脂組成物の化学的、物理的特徴
1.5.1.イミド化率
前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物は、イミド化の時点又は後述する細胞培養用基材の形態とする時点で加熱処理又は環化触媒処理を行うことによりイミド化率を高めることができる。
本発明において基材の表面を構成するポリイミドを含む樹脂組成物でのイミド化率は、20%以上であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上であり、好ましくは100%以下、より好ましくは99.5%以下、さらに好ましくは99%以下である。イミド化率をこの範囲とすることにより、樹脂組成物の柔軟性と疎水性が、細胞の三次元培養が可能となる範囲に調整され好適である。また、得られた膜をオートクレーブ等による滅菌処理等により再加熱した場合もクラックや寸法変化を起こすことがなく好ましい。なお、イミド化率とは、ポリアミド酸をイミド化して得られるポリイミドにおいて、ポリアミド酸のアミド結合から脱水縮合してイミド基へと変換された割合である。芳香族基を有するポリイミドのイミド化率は実施例に記載の方法で測定することができる。また脂肪族基を有するポリイミドのイミド化率は、実施例に記載のIR測定を用いたイミド化測定法における、「ベンゼン環骨格振動に由来する1500cm−1付近の吸光度」の代わりに、C−H変角に由来する1460cm−1付近の吸光度」を基準ピークとすることで、同様にIR測定を用いたイミド化測定法により測定可能である。ここで、上述したイミド化の条件でポリアミド酸をポリイミドに変換することにより、イミド化率を上記範囲に調節することができる。また、以下の基準を満たすことによって上記範囲のイミド化率を実現することが可能である:(1)加熱処理によりイミド化率を高める場合には、好ましくは温度50〜400℃、より好ましくは100〜380℃、好ましくは時間0.1〜10時間、より好ましくは0.2〜5時間の条件下で処理する、(2)環化触媒処理によりイミド化率を高める場合には、脱水環化触媒と反応させる温度は、室温でよいが、好ましくは温度5〜40℃、より好ましくは20〜30℃、混合時間は、化学イミド化に関して既述の条件で処理する。混合後の静置時間は好ましくは24時間以上、より好ましくは48時間以上である。
1.5.2.水接触角
本発明の細胞培養用基材においてポリイミドを含む樹脂組成物(フィルム状、膜状、板状等の形状に加工された状態)により構成される表面の水接触角は、好ましくは70°以上、より好ましくは73°以上、更に好ましくは75°以上であり、好ましくは115°以下、より好ましくは112°以下、更に好ましくは110°以下である。水接触角がこの範囲内であるとき、細胞が基材表面に適度な強度で付着し易く、該表面を足場として細胞が三次元的な組織を形成することが可能となる。なお、接触角は自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)を用いて温度25℃において水による接触角測定を行うことにより算出できる。
1.5.3.引張弾性率
前記ポリイミドを含む樹脂組成物はまた、柔軟性に優れるものであるが、柔軟性は、引張弾性率によって評価することができる。例えば、引張弾性率が2GPa以下とすることができる。このように前記樹脂組成物が引張弾性率が2GPa以下である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。引張弾性率がこの範囲である柔軟性を有する樹脂組成物により構成される表面上において細胞は三次元組織を形成し易い。前記樹脂組成物の引張弾性率は、より好ましくは1.5GPa以下、更に好ましくは1.2GPa以下である。引張弾性率の下限は特に限定されないが、好ましくは0.3GPa以上、より好ましくは0.5GPa以上である。引張弾性率(GPa)は、実施例に示す、動的粘弾性測定方法により測定することができる。
1.5.4.ポリイミドの分子量
前記樹脂組成物中での前記ポリイミドの分子量は、重量平均分子量として、1000〜100万であることが好ましく、5000〜70万であることがより好ましい。分子量がこの範囲内であると重合時にゲル化する恐れが無く、低粘度で重合やフィルム化が容易になり、適当な耐熱性や膜強度の付与と維持が期待できる。重量平均分子量は更に好ましくは1万〜50万である。
上記重量平均分子量は、後述する実施例と同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
2.細胞培養用基材
本発明の細胞培養用基材は、表面の少なくとも一部が前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されていることを特徴とする。
細胞培養用基材とは、細胞培養に用いられる、細胞の増殖の足場となる表面を有する部材である限り形態は特に限定されない。例えばフィルム状又は板状の形態である細胞培養用基材は、その一方の表面に細胞を含む培地を載せて細胞培養を実施することや、該基材をシングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、培養シャーレ、培養ディッシュ、フラスコ、培養バック等の各種細胞培養用容器に収容して固定し、該容器に細胞を含む培地を加えて細胞培養を実施することができる。また、細胞培養用基材は、それ自体が、シングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、培養シャーレ、培養ディッシュ、フラスコ、培養バック等の各種細胞培養用容器の形態であってもよい。培養バックは浮遊細胞や幹細胞等を浮遊状態で培養する等の際に用いることが可能である。
前記樹脂組成物により構成される表面は、細胞培養用基材の表面のうち、細胞培養時に細胞を含む培地と接触する表面の一部又は全部であり、好ましくは、細胞培養用基材の表面のうち、細胞培養時に細胞を含む培地の鉛直方向下方に位置する表面の一部又は全部である。細胞培養用基材の表面の全体が前記樹脂組成物から構成されていてもよい。細胞培養用基材の、前記樹脂組成物により表面が構成されている部分では、培養時に細胞が足場として利用する最表面が前記樹脂組成物により構成されていればよく、該部分の厚さ方向に沿って前記最表面から離れた位置の材料は特に限定されない。すなわち本発明の細胞培養用基材は、少なくとも、細胞培養時に細胞を含む培地と接触する表面の一部又は全部に、前記樹脂組成物により構成される層を備えていればよい。例えば、図1に示す実施形態1のように、細胞培養用基材の、前記樹脂組成物を表面Sに含む部分は、表面だけでなく、厚さ方向の全体にわたって前記樹脂組成物により構成されていてもよく、或いは、図2に示す実施形態2のように、培養時に細胞にとっての足場となる最表面S及びその近傍に前記樹脂組成物のフィルム1が形成され、フィルム1の前記最表面Sと反対の側には任意の材料からなる支持体2が配置されていてもよい。
本発明の細胞培養用基材の好ましい実施形態は、前記樹脂組成物により構成されるフィルム状の細胞培養用基材(実施形態1)、又は、支持体と、該支持体に一体化され表面の少なくとも一部を覆う、前記樹脂組成物により構成されるフィルムとを備える細胞培養用基材(実施形態2)である。すなわち、図1に示すように、実施形態1に係る細胞培養用基材10は前記樹脂組成物により構成されるフィルム1を備える。図2に示すように、実施形態2に係る細胞培養用基材10は前記樹脂組成物により構成されるフィルム1と支持体2とを備える。どちらの実施形態においても、前記樹脂組成物により構成されるフィルムは同様の方法で形成することができる。実施形態2において支持体は、フィルム状、多孔質の支持体や、メッシュ状の支持体等を使用しても良く、板状、培養ディッシュ、フラスコ等の各種細胞培養用容器の形状等の、細胞培養用途に用いることができる任意の形状とすることができる。
本発明の細胞培養用基材における、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される層(「フィルム」或いは「膜」ともいう)の厚さ(支持体の厚さを含まない)は、基材全体として適度な酸素ガス透過度となるように適宜調整することができるが、典型的には0.1μm以上、5mm以下とすることが好ましく、0.5μm以上、3mm以下とすることがより好ましく、1μm以上、2mm以下とすることが更に好ましく、5μm以上、1mm以下とすることが特に好ましい。
フィルムを形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶液流延法、溶液キャスト法などの溶液製膜法;カレンダー法;プレス成形法などが挙げられる。これらの方法のなかでは、生産性に優れていることから、溶液製膜法が好ましい。
フィルム形成のための溶液としては、前記含フッ素ポリアミド酸の溶液や、前記含フッ素ポリイミドの溶液が利用できる。前記ポリアミド酸の溶液を用いたフィルム形成では、熱イミド化とフィルム形成を同時に行うことができる。本発明では、前記含フッ素ポリアミド酸が溶媒中に溶解した溶液と、前記含フッ素ポリイミドが溶媒中に溶解した溶液を総称して「樹脂溶液」と呼ぶ。
さらに、前記樹脂組成物のフィルムは、延伸されていてもよい。該フィルムの延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。一軸延伸は、縦延伸(フィルムの巻取り方向の延伸)であってもよく、横延伸(フィルムの幅方向の延伸)であってもよい。縦延伸の場合、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であってもよく、フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、縦延伸後に横延伸を行なう逐次二軸延伸であってもよく、縦横延伸を同時に行なう同時二軸延伸であってもよい。また、フィルムの厚さ方向の延伸又はフィルムのロールに対して斜め方向の延伸を行なってもよい。延伸方法、延伸温度及び延伸倍率は、目的とする前記含フッ素ポリイミドフィルムの光学特性、機械的強度などに応じて適宜選択することが好ましい。
フィルムを形成する典型的な方法としては、前記樹脂溶液を製膜用支持体の表面に、例えば、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スプレイコーティング法、バーコーティング法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法等の通常の方法で塗布して塗膜を形成する。前記樹脂溶液を製膜用支持体に塗布する際の塗布量は、乾燥膜厚が0.1μm以上、1mm以下となるようにすることが好ましく、0.5μm以上、500μm以下となるように調整することがより好ましい。その後、溶媒を除去し、必要に応じて焼成することで熱イミド化又は化学イミド化された含フッ素ポリイミドを含むフィルムを得ることができる。
製膜用支持体を構成する材料としては、例えば、石英;ガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス等の無機ガラス;カーボン;金、銀、銅、シリコン、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;環状オレフィン開環重合/水素添加体(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)等の環状オレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂;エポキシ樹脂;AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PST)、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニルエーテル、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミド酸(PAA)、ポリアミドイミドアクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂等の樹脂;上記金属、又はその酸化物若しくは混合酸化物等を表面に有するガラス、金属、樹脂;木材等が挙げられる。前記混合酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)等の透明導電性酸化物、SiO2等が挙げられる。混合酸化物等を表面に有する金属としては、SiO2/Si基材等が挙げられる。製膜用支持体は、それ自体が実施形態2における「支持体」であることができ、この場合は、フィルムと該支持体との組み合わせによって本発明の細胞培養用基材が形成される。この実施形態2において、該支持体は、板状、フィルム状等の任意の形態であることができ、細胞培養用容器の形態を有していてもよい。また、製膜用支持体上で形成されたフィルムは、フィルム形成後に剥離され、フィルム単体で前記実施形態1の細胞培養用基材として用いられてもよい。或いは、製膜用支持体から剥離されたフィルムを他の支持体の表面に貼付して一体化し、フィルムと支持体とを備える前記実施形態2の細胞培養用基材としてもよい。フィルムと支持体とを一体化する手段としては接着剤等の任意の手段を採用することができる。この場合の支持体の材料及び形状は、実施形態2において支持体として製膜用支持体を用いる場合の製膜用支持体の材料及び形状と同様である。
含フッ素ポリイミド含有樹脂組成物から構成されるフィルムの全体厚み(支持体を含まない)は、0.1μm以上、1mm以下とすることが好ましく、0.5μm以上、500μm以下とすることがより好ましく、1μm以上、300μm以下とすることがさらに好ましい。
なお前記樹脂溶液が、化学イミド化処理により得られたポリイミドの溶液である場合、当該溶液の塗膜を、溶媒が抜ける温度と時間で加熱することが好ましく、例えば、窒素雰囲気下、好ましくは50〜400℃、より好ましくは100〜300℃、好ましくは10分〜5時間、より好ましくは30分〜3時間の条件下で焼成して前記樹脂組成物から構成されるフィルムとすることができる。
本発明の細胞培養用基材における、前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面は、平滑な表面であることが好ましい。平滑な表面としては、例えば表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra)が0.5μm以下である表面が好ましい。好ましくは、0.1μm以下、さらに好ましくは0.01μm以下である。本発明において中心線平均粗さ(Ra)はレーザー法で測定した値であり、例えば菱化システム製表面粗さ計R5300GL−L−A100−ACを用いて測定することができる。
本発明によれば、作成が容易な平滑な表面上で細胞を三次元的に培養することが可能となる。ただし、本発明の細胞培養用基材でのポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面は目的に応じて適切な粗さとなるよう加工されていてもよく、例えば、非特許文献1に記載されているようなラビング処理により微細な凹凸を形成することも可能である。また、本発明の細胞培養用基材に直径50〜500μm、深さ50〜300μmの円柱又は円錐の穴(キャビティ)を付与することで大きさが均一なスフェロイド、三次元細胞集合体等を形成することが可能となる。さらにキャビティ構造を付与することで、培地除去時に培地ととともにスフェロイド、三次元細胞集合体等が基材から除かれることも回避することができる。
本発明の細胞培養用基材は、これまでに述べた効果に加えて、好ましくは更に以下の効果を有する。本発明の基材は好ましくは高い耐熱性を有するため高圧蒸気滅菌が可能である。高圧蒸気滅菌を行うことで、γ線滅菌時にみられる基材の品質の変化がなく、またEOG滅菌時の残存ガスの除去等が不要となり、簡便な滅菌処理により、細胞培養時の雑菌混入のリスク及び培養細胞の増殖を抑制する成分が混入するリスクが低減できる。なお、一般的なポリスチレン製細胞培養用基材は耐熱性が低いため高圧蒸気滅菌を行うことはできない。上記滅菌方法以外にも、本発明の細胞培養用基材は一般的な滅菌方法での滅菌が可能である上述の高圧蒸気滅菌の他、γ線滅菌、電子線滅菌、エタノールなどのアルコール滅菌、EOG滅菌などの方法により滅菌することができるが、これらは一例であり他の滅菌方法を採用しても良い。また、本発明の基材は好ましくは透明で、一般的に免疫染色等で使用されている蛍光色素の励起波長、蛍光波長付近に自家蛍光がなく、蛍光色素を用いた免疫染色にも利用することができる。本発明の細胞培養用基材が前記樹脂組成物により構成されるフィルム状の細胞培養用基材である場合、一般的に本段落で述べた効果を有する。
3.細胞培養用容器
本発明はまた、前記細胞培養用基材を少なくとも一部に備える細胞培養用容器を提供する。具体的には、本発明の細胞培養用容器は、図7−1及び7−2に示すような、細胞培養用基材を容器内部又は底部に設置したり、一方の表面が、細胞及び培地の収容部の底面を形成し、他方の表面が容器外に露出するように配置された細胞培養用基材、を少なくとも一部に備えるものであっても良い。
本発明の細胞培養用容器では、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面が培養される細胞の足場として機能する為、細胞の生存率が高く、細胞の機能を高く維持しながらの細胞培養、特に三次元的な細胞培養が可能となる。
本発明の細胞培養用容器は、本発明の細胞培養用基材を備えていればよく、全体としてどのような形状であってもよい。例えば、シングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、バッグ等の各種容器の形状であることができる。本発明の細胞培養用容器はまた、大量培養装置や潅流培養装置などの培養装置における細胞培養用容器の形態であってもよい。
図7−1には、本発明の細胞培養用容器の一実施形態である細胞培養用容器100を示す。図8−1に示す細胞培養用容器100は、容器底部及びその縁から起立した容器側壁を形成する壁部材20を備え、容器底部に細胞培養用基材10が配置されて、収容部101が形成される。細胞培養用基材10の構成は上記の通りである。壁部材20を、開口した側から平面視したときの内郭形状及び外郭形状はそれぞれ例えば円、多角形(四角形、三角形等)などの任意の形状であることができる。
本発明の細胞培養用容器は、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが組み合わされて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが一体化されて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材のみにより構成されていてもよい。本発明の細胞培養用基材がフィルム状等の柔軟な基材である場合は、剛性を有する適当な支持部材(フレーム等)を用いて張設した状態で細胞培養用容器の底を形成することも可能である。
図7−2(a)には、本発明の細胞培養用容器の一実施形態である細胞培養用容器100を示す。図7−2(a)に示す細胞培養用容器100は、容器底部を形成する細胞培養用基材10と、細胞培養用基材10の縁から起立した容器側壁を形成する壁部材20とを備え、細胞培養用基材10と壁部材20とにより収容部101が形成される。細胞培養用基材10の構成は上記の通りであり、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sは容器内(収容部101)に臨むように配置される。壁部材20を、開口した側から平面視したときの内郭形状及び外郭形状はそれぞれ例えば円、多角形(四角形、三角形等)などの任意の形状であることができる。
図8(a)、8(b)及び8(c)に示す細胞培養用容器100は、本発明の細胞培養用容器の他の実施形態である、マルチウェルプレートである。図8(a)、8(b)及び8(c)に示す細胞培養用容器100は、細胞培養用基材10と、細胞培養用基材10の含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sを覆うように配置された、厚さ方向に貫通する複数(図では24)の貫通孔が形成されたプレート状の壁部材20とを備える。壁部材20の各貫通孔を囲う部分と細胞培養用基材10とにより細胞及び培地を収容する収容部101が複数形成される。細胞培養用基材10の構成は上記の通りであり、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sは容器内(収容部101)に臨むように配置される。ここで図8(c)では、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sが容器内(収容部101)に臨み、且つ、細胞培養用基材10の表面Sと反対側の面が、平坦面上に細胞培養用容器100を置いた時に前記平坦面に接触せず、前記表面Sと反対側の面と前記平坦面との間に空隙4が形成されるように壁部材20に接続されている。
図9に示す細胞培養用容器100は、本発明の細胞培養用容器の更なる実施形態である。図9に示す細胞培養用容器100は、容器底部を形成する細胞培養用基材10と、容器側壁を形成する壁部材20とを備え、細胞培養用基材10と壁部材20とにより収容部101が形成される。ここで細胞培養用基材10は、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sが容器内(収容部101)に臨み、且つ、細胞培養用基材10の表面Sと反対側の面が、平坦面上に細胞培養用容器100を置いた時に前記平坦面に接触せず、前記表面Sと反対側の面と前記平坦面との間に空隙4が形成されるように壁部材20に接続されている。
図7−1、図7−2(a)、図8(a)、8(b)及び8(c)、並びに図9に記載されている各実施形態の細胞培養用容器100ではいずれにおいても、壁部材20と細胞培養用基材10とがどのような手段で接続されていてもよく、例えば感圧式の両面テープ等の接着性材料又は接着性部材を介して接続することができる。
以上のように容器内の底面に含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sが配置された細胞培養用容器を製造することができる。本発明の細胞培養用容器はこの形態には限定されず、任意の形態であることができる。
4.培養方法
本発明はまた、細胞を培養する方法であって、前記細胞培養用基材の、前記ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面上で細胞を培養する工程を含む方法を提供する。
本発明の細胞培養用基材の、前記ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面上において、三次元的な組織を形成可能な細胞を適当な時間培養することにより、三次元培養することができる。しかしながら、本発明の細胞培養方法は必ずしもこのような形態に限定されず、三次元的な組織を形成しない細胞を培養する形態や、三次元的な組織を形成可能な細胞を三次元的な組織が形成される前の段階まで培養する形態なども包含される。
別の実施形態において、本発明はまた、細胞を培養する方法であって、前記細胞培養用基材の含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面に細胞及び培地が接し、細胞を培養する工程を特徴とする方法を提供する。
具体的には図8−1に示すように、細胞培養用基材10(図1又は図2に示す構造を有する)を容器に入れて設置し、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面S(図1、2参照)に細胞3及び培地2が接した状態で細胞を培養しても良い。
その他に例えば、図6に示すように、細胞培養用基材10(図1又は図2に示す構造を有する)の、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面S(図1、2参照)に細胞3及び培地2が接し、細胞培養用基材10の他方の表面が空気等の酸素含有ガス4に接した状態で細胞を培養しても良い。例えば図7−2(b)に示すように、平坦面300上に幅の狭い適当なスペーサー200を配置し、スペーサー200上に細胞培養用容器100を載せても良い。図8(a)(b)(c)に示す細胞培養用容器100も同様に使用することができる。図8(c)及び図9に示す細胞培養用容器100は、壁部材20の底側の端部が、細胞培養用基材10よりも下に突出しているため、平坦面上に置いたとき、壁部材20の前記端部がスペーサーとして機能し、細胞培養用基材10の表面Sとは反対側の表面と平坦面との間には空隙4が形成され、該空隙4に酸素含有ガス(空気等)が存在させることができる。
以上の培養方法は、例示であり本発明の細胞培養方法は必ずしもこのような形態に限定されず、前記細胞培養用基材の含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面に細胞及び培地が接し、細胞を培養する工程であれば、特に限定されない。
本発明の細胞培養用基材を用いて培養される細胞の種類は特に限定されないが、例えば、ヒト正常肝細胞、ラット正常肝細胞、マウス正常肝細胞、ヒト肝臓癌細胞、ヒト肝芽腫細胞、ラットヘパトーマ細胞、マウスヘパトーマ細胞、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells:iPS細胞)、胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)、間葉系幹細胞等の一般的に3次元培養を行うことが求められている細胞や、各種前駆細胞及び幹細胞を含む、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵臓細胞、乳腺細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、樹状細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞、各種血液系細胞、その他間葉系前駆細胞、各種癌細胞等の他の細胞が挙げられる。
細胞は適当な培地中で培養することができる。培地の種類は特に限定されないが、例えば、任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。具体的にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、MCDB培地、ウィリアムス培地E等が挙げられるが、これらには限定されず、細胞が増殖や分化に必要な成分が含まれる培地であれば利用可能である。さらに、血清や各種増殖因子、分化誘導因子を添加した培地を使用してもよい。
5.三次元培養
本発明はまた、細胞を三次元培養する方法であって、前記細胞培養用基材の、前記ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面上で細胞を三次元培養する工程を含む方法を提供する。
ここで三次元培養により形成される組織としては、スフェロイド、三次元細胞集合体等が挙げられる。スフェロイド又は三次元細胞集合体はラット正常肝細胞のような単一な細胞で形成されたスフェロイド又は三次元細胞集合体でも、各種線維芽細胞や血管内皮細胞等とラット正常肝細胞のような2種以上の異なる細胞種が混在したスフェロイド又は三次元細胞集合体でも良い。使用できる細胞としては、上記の各種細胞が挙げられる。
三次元培養する際の培地の種類は特に限定されないが、例えば任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。具体的にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、MCDB培地、ウィリアムス培地E等が挙げられるが、これらには限定されず、細胞が増殖や分化に必要な成分が含まれる培地であれば利用可能である。さらに、血清や各種増殖因子、分化誘導因子を添加した培地を使用してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
<フッ素含有量の測定方法>
元素分析装置(ジェイサイエンス製 マイクロコーダー JM−10)により、ポリイミドフィルム中のフッ素含有量の定量を行った。
<イミド化率の測定方法>
FT−IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック製 Nicolet Nexus670)によるポリイミドフィルム分析で、ポリイミドのCN伸縮振動に由来する1370cm-1付近の吸光度(A(1370cm-1))とベンゼン環骨格振動に由来する1500cm-1付近の吸光度(A(1500cm-1))との吸光度比(A(1370cm-1)/A(1500cm-1))を用いて、以下の式に基づいてポリイミドフィルムのイミド化率を算出した。
イミド化率(%)
=[試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))]÷[熱処理後の試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))]×100
なお、上記「熱処理後の試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))」は、試料ポリイミドフィルムを、完全イミド化(イミド化率:100%)する温度及び時間の条件で処理したポリイミドフィルムにおける測定値である。
<重量平均分子量の測定>
装置:東ソー株式会社製 HCL−8220GPC
カラム:TSKgel Super AWM−H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りNMP):0.01mol/L
測定方法:0.5%の溶液を溶離液で作製し、ポリスチレンで作製した検量線をもとに分子量を算出した。
ポリアミド酸、ポリイミドともに同じ方法で測定可能である。
<動的粘弾性測定方法>
装置:ティー・エイ・インスツルメント社製
動的粘弾性 RSA III
測定方法:厚さ20μmのポリイミドフィルムを5×40mmの短冊状に作製し、25℃での伸びと応力を測定し、引っ張り弾性率を算出した。
<水接触角の測定>
装置:自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)
測定方法:25℃の温度での水2μlの滴下直後の液滴の付着角度を測定した。
<酸二無水物>
酸二無水物として、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)(自社合成品)を用いた。
<ジアミン>
ジアミンとして、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)(東京化成工業製)、又は2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP)(東京化成工業製)を用いた。
各化合物の化学構造と分子中のフッ素原子の数は次表に示す通りである。
酸二無水物とジアミンを下記表に示すように組み合わせて実施例及び比較例のポリイミドのフィルムを調製した。
≪調製例1≫6FDA/TFMB
100ml容量の三口フラスコに2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン 3.141g(9.81ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.359g(9.81ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は25万であった。
≪実施例1≫
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルムの厚みが30μmとなるようにフィルム状に製膜し、300℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、硝子より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。
得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は31質量%であり、イミド化率は92%であり、水接触角は94°であり、引張弾性率は1.68GPaであった。引張弾性率の値は当初の測定では50.8MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.68GPaに訂正した。
≪実施例2≫
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン0.013g(0.1ミリモル)、無水酢酸0.84g(8.2ミリモル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが30μmとなるようにフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、基材より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は31質量%であり、イミド化率は93%であり、水接触角は94°であり、引張弾性率は1.45GPaであった。当該ポリイミドフィルムを溶媒に溶解して測定された重量平均分子量は25万であった。引張弾性率の値は当初の測定では51.2MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.45GPaに訂正した。
<細胞培養によるスフェロイドの形成>
ラット初代肝細胞の取得
Wistarラット、オス、6週齢、体重130gを日本エスエルシー株式会社より購入した。ラット初代肝細胞の取得は培養細胞実験ハンドブック (羊土社) 第10章、肝細胞記載の方法を参考に実施した。具体的には、Wistarラットをペントバルビタール麻酔下で開腹し、門脈にカテーテルを挿入して前かん流液(Ca2+とMg2+不含のEGTA溶液)を注入した。同時に肝臓下部の下大静脈を切開して血液を放出させた。次に胸腔を開き、右心房に入る下大静脈を切開し、肝臓下部の下大静脈をかん止で止めてかん流を行った。肝臓からの脱血が十分になされたことを確認した後にかん流を止め、かん流液をコラゲナーゼ溶液に換えて、かん流を行った。細胞間組織がコラゲナーゼにより消化されたことを確認した後、かん流を止めた。肝臓を切り離し、ガラスシャーレに移した後、冷したハンクス溶液を添加して、ピペッティングにより細胞を分散させた。次に150mm濾過器により未消化の組織を除去した。細胞懸濁液は、50G、1分の遠心分離を数回繰り返して非実質細胞を除去した。得られた肝細胞の生存率はトリパンブルー排除法で計測し、生存率70%以上の肝細胞をラット初代肝細胞として培養試験に使用した。
ラット初代肝細胞の培養
前述の方法で取得したラット初代肝細胞を、以下組成の培地で懸濁し、5.3×104cells/cm2となるようにポリスチレン製のマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)、6FDA/TFMB膜(実施例1で得られたもの)、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)に播種し、37℃,5% CO2条件下で培養した。6FDA/TFMB膜は高圧蒸気滅菌処理後に細胞培養に使用した。培地は毎日交換した。なお、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)には微細な凹凸が存在するため、細胞懸濁液を播種する前に以下の操作を行い、凹凸内の気泡を除去する脱気作業を実施した。
脱気作業
・William’s E medium(和光純薬)を1wellあたり500μLづつ分注した。
・300−500×g、3分間遠心分離。
・室温で30分間静置。
培地組成
William’s E medium(和光純薬)+10% FBS(和光純薬) + 8.6nM インスリン + 255nM デキサメサゾン + 50ng/mL EGF + 5KIU/mL アプロチニン + 抗生物質(ペニシリン(100unit/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL)/アムホテリシンB(0.25μg/mL))
培養5日目の位相差顕微鏡写真を図3に示した。
一般的に付着細胞の培養で使用されるマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)では単層状に細胞が増殖し細胞凝集塊の形成は見られなかったが、6FDA/TFMB膜、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)では3次元的な構造の細胞凝集塊の形成が確認された。なお、Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)で形成された細胞凝集塊は大きさが不均一で、かつ細胞凝集塊のほとんどがウェル中央部分に密集していた。一方で、本発明の培養基材上で培養した細胞凝集塊は大きさが均一で、適度なサイズであり、かつ基材全面にスフェロイドが分布していた。
培養24時間毎に0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理後、0.4w/v%トリパンブルー溶液(和光純薬)及び血球計算盤を用いて総細胞数の測定を行った。また、培養24時間毎に培養液をサンプリングし、−20℃で保存した。
免疫染色
培養5日目に6FDA/TFMB膜上に形成された細胞凝集塊のカドヘリン及びアクチンの免疫染色を実施した。具体的には、固定液として4%パラホルムアルデヒド/PBS(−)溶液、ブロッキング液として0.1% BSA添加PBS(−)溶液、洗浄液として0.05% Triton−X/PBS(−)溶液を使用した。また、抗体としては、Rabbit E-cadherin polyclonal antibody(Santa Cruz社)、Biotinylated anti-rabbit IgG antibody(Vector Laboratories社)、Streptavidin-Fluorescein(PerkinElumer社)、Rhodamine phalloidin(Invitrogen社)を使用し、共焦点レーザースキャン顕微鏡 LSM700 (ZEISS社)を使用して蛍光顕微鏡写真の撮影を行った。蛍光顕微鏡像を示した。緑色がカドヘリン、赤色がアクチンである。結果を図4に示す。
これにより、6FDA/TFMB膜上に形成された細胞凝集塊がカドヘリンを発現したスフェロイドであることが確認された。
アルブミン定量
培養5日目の各試験区の培養液を用いてアルブミンの定量を実施した。アルブミンの定量にはRat Albumin ELISA Quantitation Set (Bethyl Laboratories社)を使用し、添付されているプロトコールに従ってアルブミンの定量実験を行った。各試験区のアルブミン定量の結果を図5に示した。6FDA/TFMB膜でNanoCulture Plate MSパターン/高接着よりも多量のアルブミン生成が確認された。
<実施例2の6FDA/TFMB膜を用いた細胞培養によるスフェロイドの形成>
実施例2で得られた6FDA/TFMB膜を用いた培養試験を実施した。なお、6FDA/TFMB膜は高圧蒸気滅菌後に培養試験に使用した。上述と同様の方法でWistarラット、オス、6週齢、体重130gからラット初代肝細胞を取得し、上述と同様の培養条件及び培地を用いて培養試験を行った。培養5日目に位相差顕微鏡を用いて培養細胞の様子を観察したところ、6FDA/TFMB膜において細胞凝集塊の形成が確認された。