JP6628682B2 - 加工性に優れた高強度ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、特に加工性と強度の両立が必要な自動車部品に用いられる、加工性に優れた高強度ステンレス鋼板およびその製造方法に関するもので、特に自動車、二輪車、バス、鉄道車両などの車体や足回り、ピラー、バンパー、フロントサイドメンバー等の構造用冷延鋼板およびそれらの固定金具、フランジ、クランプ、バンド等の締結部品用冷延鋼板に関わるものである。
近年、環境問題の観点から、自動車、二輪車、バス、鉄道車両などの輸送機器の燃費向上が必須課題になってきている。その解決手段の一つとして、車体の軽量化が積極的に推進されており、その中で高耐食鋼であるステンレス鋼の適用が検討されている。Crを含有するステンレス鋼を適用した場合、錆代低減による軽量化、塗装省略化が適用の着眼である。また、乗員の安全性確保という観点からは、衝突安全性向上が要求されるが、上記の車体軽量化との両立が必要である。衝突安全性向上の対策としては、部材を構成する鋼板の高強度化が有効であり、高強度ステンレス鋼板の適用により安全性と軽量化の両立が達成できる可能性がある。高強度材を上記構造部材に適用する際の問題点は、加工性の確保である。高強度化により加工性が低下すると、複雑形状部品への成型が困難になるためである。特に、高強度ステンレス鋼板は、穴拡げ加工時に割れが発生する問題が多く、自動車、バス、鉄道車両の構造部材で穴拡げ加工を施される場合に問題を残していた。
従来から上記構造部材用のステンレス鋼板としては、焼き入れにより高強度化するマルテンサイト系ステンレス鋼板が知られているが、延性が著しく低いため部材への加工性に問題がある。一方、オーステナイト系ステンレス鋼板としてはS304やS301が使用されている。これらは、延性に優れており、加工誘起変態を活用した高加工硬化特性が得られる。しかしながら、Niを多量に含有しコスト高であったり、環境によっては応力腐食割れが問題になり、構造材としての信頼性を落とす場合があった。
このような問題の中、特許文献1には、面内異方性が小さい高延性高強度の複相組織クロム系ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。ここでは、Cr:10〜14%含有する鋼帯に対して、熱処理条件を規定して仕上焼鈍加熱時の組織をフェライト+オーステナイト組織として冷却速度を調整することで、強度と延性の面内異方性を小さくすることが特徴である。しかしながら、上記のように構造部品として加工する際、特に穴拡げ加工においては、延性以外に深絞り性が問題になり、深絞り性の指標であるr値が低い課題があった。
特許文献2には、Cr:11〜15%含有し、主相をフェライト相とし、2〜20%をマルテンサイト相とする穴拡げ性に優れ、引張強さが600MPa超とする構造用ステンレス鋼板が開示されている。ここでは、製品組織の二相化により、破断伸びが15%以上、穴拡げ率が70%以上となることが示されており、軟質なフェライト相中にマルテンサイト相を生成させることで穴拡げ加工時の割れ起点となる炭窒化物を低減することが特徴である。しかしながら、通常の製法で製品組織を二相化しただけでは、十分な穴拡げ性が得られない場合がある他、マルテンサイト自体が割れの起点となるおそれがある。また、深絞り性が不十分となる課題もあった。これは、マルテンサイトの体積分率だけでなく、その分散状態やフェライト相の結晶方位に起因する塑性異方性が影響するためである。
特許文献3には、Cr:9〜13%を含み、フェライト相を70%以上、炭窒化物およびマルテンサイト相を30%未満含む金属組織を有し、引張強さが600〜900MPaで伸びフランジ性(穴拡げ性と同様)に優れたCr含有高強度冷延鋼板およびその製造方法が開示されている。この鋼は、特許文献2と同様にマルテンサイト相を製品に残留させて伸びフランジ性の向上を図っているが(穴拡げ性が100%以上)、上記と同様に母相のフェライト相の結晶方位によっては、単純に二相化しただけでは十分な伸びフランジ性は得られなかった。
また、特許文献4には、Cr:7〜15%を含み、耐粒界腐食性と穴拡げ性に優れた自動車用クロム含有鋼が開示されている。ここでは、穴拡げ率を90%以上とするために、種々の成分含有量を調整しているが、組織や結晶方位の影響について規定されておらず、成分の規定だけでは穴拡げ性が著しくばらつく場合があった。また、冷延鋼板製造時の条件についても、通常のステンレス鋼等のCr含有鋼の製法を前提としているのみであり、高加工性を得るための製造条件の規定としては不十分であった。
また、特許文献5には、Cr:10〜18%を含み、フェライト−オーステナイトの二相域を呈する組成を有するステンレス鋼板の製造工程において、第一熱処理工程においてマルテンサイト相を20〜80%生成させた後、冷延後の熱処理をAc1変態点未満で熱処理することでフェライト単相組織とする延性に優れた高強度ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。この製造方法では、製品板のフェライト相の結晶方位発達が不十分で塑性異方性が十分に発達せず、穴拡げ性が劣ることがあった。また、炭素および窒素を固着するための合金元素を添加していないため、硬質な炭窒化物が生成するおそれもある。
また、特許文献6には、Cr:10〜18%を含み、冷延素材の組織を微細なラスマルテンサイト組織とすることで、冷延・焼鈍後の母相のフェライト相の集合組織を制御し、特定結晶方位を成長させる、フェライト+マルテンサイト組織となる加工性に優れた高強度ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。しかし、この製造方法でも、平均r値が0.9〜1.2程度であり加工性はまだ不十分であった。
特開昭63−169334号公報 特開2005−272938号公報 特開2006−118018号公報 特開2004−43964号公報 特開2004−323960号公報 特開2008−138270号公報
上記のように、Cr含有ステンレス鋼板において、高強度化と穴拡げ性の向上に関する検討は種々成されているが、強度と加工性を安定的に両立させることはできなかった。また、フェライト+マルテンサイトの二相鋼とした場合には、硬質なマルテンサイトと軟質なマルテンサイトの界面で欠陥が発生し、穴拡げ性が劣化することが考えられるため、フェライト単相であることが望ましい。このようなことから、本発明は従来技術の問題点を解決し、高強度でかつ加工性に優れたCr含有ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明では、従来技術であるフェライト+マルテンサイト二相化による穴拡げ性向上技術とは全く異なる思想により、フェライト単相鋼を高強度化しつつ、母相の結晶方位を制御することでr値を向上させ、穴拡げ性を向上させることを課題とするものである。
上記課題を解決するために、本発明者らは高温でフェライト相とオーステナイト相の二相となるCr含有ステンレス鋼の強度と加工性について金属組織的な観点から入念に研究した。そして、従来技術とは異なる観点で加工性を向上(特に深絞り性の指標となるr値および穴拡げ性)させる技術を見出した。即ち上記文献の中で、特に特許文献2と3は金属組織を二相化して穴拡げ性を向上させる技術があるが、母相であるフェライト相の変形特性に大きく依存し、二相化だけでは十分な特性が得られないことを知見した。そして、フェライト単相組織のまま高強度化し、さらに集合組織制御によりr値を同時に向上させることで、穴拡げ性を向上できることを見出した。具体的には、最終製品の金属組織制御にあたり、再結晶と相変態を同時に活用した。その結果、フェライト単相のままで、[1]組織細粒化による延性を確保しつつの高強度化と、同時に、[2]フェライト相の加工性向上に有効なフェライト相の({111}〈011〉、{211}〈011〉)の発達と、加工性を低下させる特定結晶方位({311}〈136〉)の抑制を両立して、加工性(r値と穴拡げ性)の向上を達成することができる。その際、各製造工程のフェライト相と第二相の結晶方位関係を精査し、冷延素材の組織を微細なラスマルテンサイト組織化することで、冷延・焼鈍後のフェライト相の結晶方位を制御し、加工性(r値、穴拡げ性)を向上させるものである。
上記課題を解決する本発明の要旨は、
(1) 質量%にて、C:0.001〜0.03%、N:0.001〜0.03%、Si:0.05〜3.0%、Mn:0.1〜15.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:10%以上18%未満を含有し、さらにTi:0.30%以下、Nb:0.50%以下の1種または2種を含有し、TiとNbの合計が、8(C+N)〜0.75%であり、さらに、B:0.0002〜0.0030%、Al:0.030〜0.300%、Mo:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜1.2%、Cu:0.1〜2.0%、V:0.05〜1.00%、Sn:0.005〜0.500%、W:0.005〜3.00%、Co:0.01〜0.30%、Sb:0.005〜0.500%、Ta:0.01〜0.10%、Ga:0.0002%〜0.1000%、REM:0.001〜0.200%の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、γp(ガンマポテンシャル)が65〜85%であり、X線回折による板厚中心のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<011>結晶方位強度が3.0以上、{211}<011>結晶方位強度が3.0以上、{311}〈136〉結晶方位強度および{100}<011>結晶方位強度の比({311}〈136〉結晶方位強度/{100}<011>結晶方位強度)が2.5以下であり、フェライト粒径が20μm以下、およびフェライト相面積率が90%以上であることを特徴とする加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。なお、γpは(1)式のCastroの式を用いて評価する。
γp=420(%C)+470(%N)+23(%Ni)+9(%Cu)+7(%Mn)
−11.5(%Cr)−11.5(%Si)−12(%Mo)−23(%V)−47(%Nb)
−49(%Ti)−52(%Al)+189 (1)
なお、(%X)は、各成分Xの質量割合を示す。不可避的不純物量程度しか含有していない場合はゼロとする
(2) 平均r値が1.5以上であることを特徴とする(1)に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
) rminが1.0以上、n×(1+rmin)が0.40以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
nはn値(加工硬化指数)、rminは最小r(ランクフォード)値である。
) 引張強度が440MPa以上、破断伸びが20%以上、穴拡げ率が100%以上であることを特徴とする(1)〜()のいずれかひとつに記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
) (1)に記載の成分組成のスラブを用い、熱間圧延において、スラブ加熱温度を1100〜1200℃として粗圧延を行い、仕上げ圧延を開始温度が900℃以上、終了温度が800℃以上、その差が200℃以内となるように仕上げ圧延を行い、600℃以上で巻取った後、冷間圧延し、冷間圧延後の焼鈍処理として700〜1000℃で熱処理し、熱処理後の冷却速度を1〜10℃/secとすることを特徴とする(1)〜()のいずれかひとつに記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板の製造方法。
) 前記ステンレス鋼板は、自動車構造部品用として使用される(1)〜()のいずれかひとつに記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
) 前記ステンレス鋼板は、自動車締結部品用として使用される(1)〜()のいずれかひとつに記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば特に高価な合金元素を添加せずとも、高強度で加工性に優れたCr含有鋼板を提供することができ、特に自動車、バス、鉄道等の運輸に関わる構造部材や締結部品に適用することにより、環境対策、安全性向上などに大きく寄与できる。
結晶方位分布とr値および穴拡げ性を示す図である。 製品板のn×(1+rmin)と穴拡げ性の関係を示す図である。 製品板の結晶粒径と引張強度の関係を示す図である。
以下に本発明の限定理由について説明する。
鋼の成分範囲について説明する。
Cは、成形性と耐食性を劣化させる。また、Cが高いと、本発明で必要とするフェライト相の結晶方位強度(集合組織)が得られにくくなるとともに鋼中にマルテンサイトが残存してしまうため、その含有量は少ないほど良く、上限を0.03%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.001%とした。更に、製造コストと溶接部の粒界腐食性を考慮すると0.002〜0.02%が望ましい。
Nは、Cと同様に成形性と耐食性を劣化させる他、Nが高いと、本発明で必要とするフェライト相の結晶方位強度(集合組織)が得られにくくなるとともに鋼中にマルテンサイトが残存してしまうため、その含有量は少ないほど良く、上限を0.03%とした。ただし、過度の低下は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.001%とした。更に製造コストと加工性および耐食性を考慮すると、0.005〜0.015%が望ましい。
Siは、脱酸元素として添加される場合がある他、耐酸化性の向上をもたらすが、固溶強化元素であり、過度の添加は急激に延性を低下させる他、すべり系の制限により{311}を発達させるため、上限を3.0%とした。ただし、過度の低下は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.05%とした。更に、製造コストと耐食性を考慮すると0.1〜1.0%が望ましい。
Mnは、Ni同様、オーステナイト安定化元素であり、相変態による結晶粒微細化に有効である。また、スケール密着性の向上や異常酸化の抑制にも寄与する。この作用は0.1%以上で発現するため、下限を0.1%とした。ただし、過度に添加した場合、MnSを形成して耐食性を低下させる他、鋼中にマルテンサイトが残存してしまうため、上限を15.0%とした。更に、製造コストと耐食性を考慮すると1.0〜5.0%が望ましい。
Pは、Si同様、固溶強化元素であるため、材質上その含有量は少ないほど良いため、上限は0.05%とした。更に、製造コストと耐食性を考慮すると0.01〜0.02%が望ましい。
Sは、耐食性を劣化させる元素であるため、上限を0.01%とした。更に、製造コストや、部品とした際の隙間腐食抑制を考慮すると0.0005〜0.0050%が望ましい。
Crは、耐食性や耐酸化性を向上させる元素であり、排気部品環境を考慮すると異常酸化抑制の観点から10%以上が必要である。一方、Crの過度の添加は硬質化をもたらし成形性を劣化させる。また、Crはフェライト安定化元素であるため、過度に添加すると、オーステナイト相変態が起こらなくなる。さらに、コストアップの観点から、上限は18%未満とした。なお、製造コストや靭性劣化による鋼板製造時の板破断ならびに加工性を考慮すると、10.5%以上、15%未満が望ましい。
本発明は、Ti:0.30%以下、Nb:0.50%以下の1種または2種を含有し、TiとNbの合計を8(C+N)〜0.75%の範囲とする。ここで、Ti、Nb、C、Nは、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
Tiは、C,N,Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させるために添加する元素である。また、0.30%超の添加は固溶Tiにより硬質化し、靭性が劣化するため、上限を0.30%とした。更に製造コスト等を考慮すると、0.06〜0.25%が望ましい。
Nbは、Tiと同様に、C,N,Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させるために添加する元素である。また、加工性の向上や高温強度の向上に加え、隙間腐食の抑制や再不動態化を促進させるため、必要に応じて添加される。ただし、過度の添加は硬質化をもたらし成形性を劣化させる他、再結晶を遅延させるため上限を0.50%とした。更に製造コスト等を考慮すると、0.05〜0.3%が望ましい。
また、TiとNbの合計が8(C+N)未満であると、過剰なC、Nが鋼中に固溶して硬化させるので、TiとNbの合計を8(C+N)以上とする。さらに、TiとNbの合計が0.75%を超えると固溶Tiや固溶Nb、および、NbとTiの炭窒化物や金属間化合物が硬質化をもたらし、靭性や成形性を劣化させるため、TiとNbの合計を0.75%以下とする。
本発明は、必要に応じてさらに以下の元素を含有することができる。
Bは、粒界に偏析することで製品の二次加工性を向上させる元素である。排気系部品を二次加工する際の縦割れを抑制する他、特に冬場に割れが生じないためには、0.0002%以上添加すると良い。ただし、過度の添加は加工性、耐食性の低下をもたらすため、上限を0.0030%とした。更に、精錬コストや延性低下を考慮すると、0.0003〜0.0015%が望ましい。
Alは、脱酸元素として添加される他、酸化スケールの剥離を抑制する効果がある。この効果は0.030%以上で発現するため、下限を0.030%とした。一方、0.300%以上の添加は、伸びの低下、溶接溶け込み性および表面品質の劣化をもたらすため、上限を0.300%とした。更に、精錬コストと鋼板製造時の酸洗性を考慮すると、0.050〜0.150%が望ましい。
Moは、耐食性を向上させる元素であり、特に隙間構造を有する場合には隙間腐食を抑制する元素である。この効果は0.1%以上で発現するため、下限を0.1%とした。また、2.0%を超えると著しく成形性が劣化する他、製造性が悪くなるため、上限を2.0%とした。合金コストと生産性を考慮すると、0.1〜0.5%が望ましい。
Niは、オーステナイト安定化元素であり、相変態による結晶粒微細化に有効である。また、隙間腐食の抑制や再不動態化を促進させる。この作用は0.1%以上で発現するため、下限を0.1%とした。但し、過度の添加は硬質化し成形性を劣化させる他、応力腐食割れが生じやすくなるため、上限を1.2%とした。なお、原料コストを考えると0.2%〜1.0%が望ましい。さらに望ましくは上限は0.8%である、0.5%以下でもよい。
Cuは、NiやMn同様、オーステナイト安定化元素であり、相変態による結晶粒微細化に有効である。また、隙間腐食の抑制や再不動態化を促進させるため、必要に応じて添加される。この作用は0.1%以上で発現するため、下限を0.1%とした。但し、過度の添加は硬質化する他、靭性および成形性を劣化させるため、上限を2.0%とした。合金コストと生産性を考慮すると、0.15〜1.0%が好ましい。
Vは、隙間腐食を抑制させるため、必要に応じて添加される。この作用は、0.05%以上から発現するため、下限を0.05%とした。但し、過度の添加は、硬質化し成形性を劣化させるため、上限を1.00%とした。なお、原料コストを考慮すると、0.10〜0.50%が望ましい。
Snは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて0.005%以上添加する。ただし、0.500%超の添加により鋼板製造時のスラブ割れが生じる場合が有るため、上限を0.500%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.003〜0.300%が望ましい。
Wは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて0.005%以上添加する。ただし、3.00%超の添加により硬質化し、鋼板製造時の靭性劣化やコスト増に繋がるため、上限を3.00%とする。更に、精錬コストや製造法を考慮すると、0.01〜0.10%が望ましい。
Coは、高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて0.01%以上添加する。0.30%超の添加により鋼板製造時の靭性劣化やコスト増に繋がるため、上限を0.30%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.01〜0.10%が望ましい。
Sbは、粒界に偏析して高温強度を上げる作用をなす元素である。これは、0.005%以上から発現するため、下限を0.005%とした。但し、0.500%を超えると、Sb偏析が生じて、溶接時に割れが生じるので、上限は0.500%とする。高温特性と製造コストおよび靭性を考慮すると、0.03〜0.30%が望ましい。さらに望ましくは、0.050〜0.200%である。
Taは、CやNと結合して靭性の向上に寄与するため必要に応じて0.01%以上添加する。ただし、0.10%超の添加によりコスト増になるため、上限を0.10%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.01〜0.08%が望ましい。
Gaは、耐食性向上や水素脆化抑制のため、0.1000%以下で添加してもよい。硫化物や水素化物形成の観点から下限は0.0002%とする。好ましくは0.0010%以上である。
REM(希土類元素)は、耐酸化性の向上に有効であり、必要に応じて0.001%以上添加する。また、0.200%を超えて添加してもその効果は飽和し、REMの硫化物による耐食性低下を生じるため、0.001〜0.200%で添加する。製品の加工性や製造コストを考慮すると、下限を0.002%とし、上限を0.10%とすることが望ましい。REMは、一般的な定義に従う。スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で添加しても良いし、混合物であっても良い。
その他の成分について本発明では特に規定するものではないが、Hfは高温強度向上のために0.001%〜1.0%添加しても良い。また、Biを必要に応じて0.001〜0.02%含有しても構わない。なお、As、Pb等の一般的な有害な不純物元素はできるだけ低減することが望ましい。
本発明の鋼板は、上記の成分範囲内でγpを65%以上になるように調整する。γpが低すぎると、フェライト−オーステナイト変態に高温での加熱が必要となり、本発明で必要とするフェライト相の結晶方位強度(集合組織)が得られにくくなるとともに結晶粒を微細化することが難しくなるので、65%以上とした。また、γpが高すぎると鋼中にマルテンサイト生成が避けられず、フェライト相を主体とした鋼板ではなくなるため、85%以下とした。さらに、材質と結晶粒径の両立を考慮すると、γpが72%以上、80%以下が望ましい。γpは(1)式のCastroの式を用いて評価する。
γp=420(%C)+470(%N)+23(%Ni)+9(%Cu)+7(%Mn)
−11.5(%Cr)−11.5(%Si)−12(%Mo)−23(%V)−47(%Nb)
−49(%Ti)−52(%Al)+189 (1)
なお、(%X)は、各成分Xの質量割合を示す。不可避的不純物量程度しか含有していない場合はゼロとする。
次に集合組織と加工性(r値、n値、穴拡げ性)の関係について説明する。
本発明においては、母相のフェライト相の結晶方位が加工性に極めて重要であり、かつ鋼板の板厚方向の平均的な結晶方位分布がr値向上に寄与し、構造材の基本的な成型性の一つである穴拡げ性向上に有益に作用することを見出した。図1に鋼A(0.005%C−0.43%Si−1.85%Mn−0.022%P−0.0010%S−0.23%Ni−11.0%Cr−0.79%Cu−0.05%Al−0.011%N、γp=77)と鋼B(0.005%C−0.42%Si−0.66%Mn−0.021%P−0.0004%S−0.16%Ni−10.9%Cr−0.07%Al−0.009%N、γp=59)の結晶方位分布とr値を示す。鋼Aは熱延後に冷延(板厚1mm)・焼鈍(A:800℃×60sec)したものである。一方、鋼Bは熱延後に冷延(板厚1mm)・焼鈍(900℃×60sec)したものである。
ここで、集合組織の測定は、X線回折装置(理学電気興業株式会社製)を使用し、Moの−Kα線を用いて、板厚中心領域(機械研磨と電解研磨の組み合わせで中心領域を現出)の(200)、(110)、(211)正極点図を得、これらのデータから、球面調和関数を用いてODF(orientation distribution function)を得た。
図1は上記鋼Aと鋼Bの結晶方位の強度分布を等高線で示したものであり、{111}<011>はr値を向上させ、{211}<011>については、{111}<011>よりもr値は低い結晶方位であるが、45°方向のr値を増加させる方位であり、3.0以上と強い。{311}<136>はr値を低減させ、{100}<011>については、r値への影響は小さいが、相変態により{311}〈136〉の生成が抑制されたことにより生じた結晶方位である。この鋼Aは、{111}〈011〉強度が3.0以上、{211}<011>強度が3.0以上と強く、{311}〈136〉結晶方位強度と{100}<011>結晶方位強度の比({311}〈136〉結晶方位強度/{100}<011>結晶方位強度)が2.5以下であり、平均r値が1.9と高い。一方、鋼Bの結晶方位強度は鋼Aと異なるため、平均r値が1.4と低い。平均r値は1.5以上であれば、構造部材として満足な加工性を有することから、X線回折による全板厚の結晶方位強度において、フェライト相の{111}<011>強度が3.0以上、{311}〈136〉結晶方位強度と{100}<011>結晶方位強度の比が2.5以下とする。この条件を満たす集合組織とすることで、平均r値が1.5以上となる高加工性ステンレス鋼板を提供することができる。
即ち本発明は、X線回折による板厚中心のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<011>結晶方位強度が3.0以上、{211}<011>結晶方位強度が3.0以上、{311}〈136〉結晶方位強度および{100}<011>結晶方位強度の比({311}〈136〉結晶方位強度/{100}<011>結晶方位強度)が2.5以下と規定する。
平均r値の評価は、製品板からJIS13号B引張試験片を採取して、圧延方向、圧延方向と45°方向、圧延方向と90°方向に14.4%歪を付与した後に(2)式および(3)式を用いて算出した。
r=ln(W0/W)/ln(t0/t) (2)
ここで、W0は引張前の板幅、Wは引張後の板幅、t0は引張前の板厚、tは引張後の板厚である。
m=(r045+r90)/4 (3)
ここで、rmは平均r値、r0は圧延方向のr値、r45は圧延方向と45°方向のr値、r90は圧延方向と90°方向のr値である。
また、最小r値(rmin)とは、r0、r45、r90のうち最も値が小さいr値である。
n値、すなわち加工硬化指数の評価は、製品板からJIS13号B引張試験片を採取して、JIS Z 2253に従い応力歪曲線を得た後、%塑性ひずみが5%と15%の試験力(N)を求め、(4)式を用いて算出した。
Figure 0006628682
ここで、e1=0.05、e2=0.15はそれぞれ二点の塑性ひずみ(−)、F1、F2はそれぞれe1、e2に対応した試験力(N)である。
穴拡げ性の評価は、JIS Z 2256に準拠し、φ10mmの打ち抜き穴に60°の円錐ポンチを押し込んで少しずつ穴を拡げ、穴に亀裂が入った時点でポンチを停止し、穴径の変化から穴拡げ率λを(5)式を用いて求めた。
λ=100×(D−D0)/D0 (5)
ここで、Dは穴拡げ試験後の穴径で、D0は穴拡げ前の穴径である。
本発明が対象とする自動車構造部品に用いられる鋼板には、440MPa以上の高強度を有するとともに、高い平均r値に加え高い穴拡げ性が求められる。本発明は前述のように、フェライト主体の組織として、[1]組織細粒化による延性を確保しつつの高強度化と、同時に、[2]フェライト相の加工性向上に有効なフェライト相の集合組織を実現して、加工性(r値と穴拡げ性)の向上を達成するものである。
穴拡げ率が100%以上であれば、自動車構造部品用鋼材として満足な加工性を有する。図2に示すように、穴拡げ性はn値および最小r値(rmin)と相関関係に有り、n×(1+rmin)が0.40以上の条件を満たす材質とすることで、自動車構造部品用鋼材に適する穴拡げ率100%以上となる高加工性ステンレス鋼板を提供することができる。図2において、穴拡げ率が100%以上を□、それ以外を黒四角としている。さらに望ましくは、n×(1+rmin)が0.45以上である。最小r値が1.0以上であれば、n×(1+rmin)を0.40以上とすることができる。
次に、結晶組織および高温強度について説明する。
この際の組織形態については、上記のようにフェライト主体となる組織である必要がある。本発明におけるフェライト主体組織とは、フェライト相率(面積率)が90%以上となる組織である。望ましくは、95%以上である。さらに望ましくはフェライト相率100%の単相組織である。フェライト相率の測定は、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)および画像解析より測定した。マルテンサイト生成量は、TSL社OIM(Orientation Imaging Microscopy)解析ソフトを用いてフェライト相とマルテンサイトの分率を定量的に測定した。フェライト相率が90%未満となると、r値が不良または測定不能となるとともに穴拡げ率が不良となる。
このとき、フェライトの結晶粒径は20μm以下とする。図3に示すように、フェライト組織であっても、結晶粒径を20μm以下とすることにより、引張強度が高強度部材として一般的に要求される強度レベルである440MPa以上となる高強度ステンレス鋼板を提供することができる。更に望ましくは、結晶粒径10μm以下である。図3において、強度が440MPa以上を○、それ以外を●としている。結晶粒径は平均結晶粒径である。フェライトの結晶粒径は、EBSD法により測定した。粒径の測定条件は、測定倍率1000倍で0.3〜0.6μmステップの条件とし、得られたデータをOIM解析ソフトにより方位差15°以上を粒界として一つの粒界を設定し円相当径を算出した。得られた円相当径を算術平均によって求めた値を結晶粒径とした。
また、引張破断伸びも穴拡げ性に対して重要であるが、20%以上の破断伸びで十分な穴拡げ性が得られ、高強度構造部材としての加工も可能であることから、好ましくは破断伸びを20%以上とする。さらに望ましくは25%以上である。
本発明は、前記本発明の成分を含有するとともに、上述のように、本発明の集合組織およびフェライト粒径が20μm以下、かつフェライト相面積率が90%以上の結晶組織を有することにより、平均r値が1.5以上、n×(1+rmin)が0.40以上とでき、引張強度が440MPa以上、破断伸びが20%以上、穴拡げ率が100%以上の加工性と高温強度を有するステンレス鋼板を実現することができる。
次に製造方法について説明する。
前述の本発明の成分組成を有するスラブを鋳造する。鋳造されたスラブは、1100〜1200℃で加熱される。冷延・焼鈍板の集合組織発達の観点からは、熱延板にはラスマルテンサイト量が多い程良く、生成量としては80%超が望ましい。また、加熱温度が低すぎるとスケール生成が少なくなり圧延ロールと鋼材の焼き付きにより表面品質が低下するため、下限温度を1100℃とした。炉の性能、経済性の観点から、スラブ加熱温度は1100〜1200℃とした。更に生産性や表面疵を考慮すると、1120℃〜1160℃が望ましい。
スラブ加熱後、熱間圧延工程では、複数パスの粗圧延が施され、複数スタンドからなる仕上圧延が一方向に施される。粗圧延後、高速で仕上圧延が施され、コイル状に巻き取られる。本発明では、巻取り時に微細組織を得るために、粗圧延温度(上記スラブ加熱温度)と、巻取温度を規定する。製造時の割れや破断を防ぐためには、熱延板の組織を微細組織にすることが重要である。また、組織微細化させた熱延板を冷延することで、{111}〈011〉結晶方位と{211}〈011〉結晶方位を発達させつつ、{311}〈136〉方位の発達を抑制し、{311}〈136〉と{100}〈011〉結晶方位の比を2.5以下にすることが可能となる。ただし、巻取温度が低すぎると巻取時に再結晶と相変態が生じないため、仕上圧延は高温かつ高速で行う必要が有る。そこで、仕上げ圧延温度を開始温度が900℃以上、終了温度が800℃以上、その差が200℃以内となるように行う。また、巻取温度も600℃以上で行うものとする。これにより、後述の冷延板焼鈍条件と相まって、鋼板の結晶粒径と引張強度を本発明範囲内とすることができる。本発明では、熱延板厚さは適宜選択すれば良いが、巻取形状、板厚精度、表面性状を考慮すると、2〜15mm程度が望ましい。
熱延終了後、熱延板焼鈍は行わずに下記の冷間圧延と冷延板焼鈍を行う。熱延板焼鈍を省略することにより、後述の冷延板焼鈍条件と相まって、結晶粒径を本発明範囲内とするとともに、鋼板の集合組織を本発明の好ましい組織とすることができる。
冷延板焼鈍後の組織を得るためは、フェライト+オーステナイト二相域で焼鈍する必要がある。このとき、過度に高温で焼鈍すると、鋼中にマルテンサイトが生成し延性が低下する。また、冷延板の{111}結晶方位も相変態してしまい、製品板の{111}結晶方位が弱くなる。そこで、上限温度を1000℃とした。また、加熱温度が低すぎると、再結晶が十分に起こらず、冷延加工組織が鋼中に残存し、加工性(r値および穴拡げ性)が低下してしまう。よって、熱処理温度を700〜1000℃とした。さらに望ましくは750〜900℃である。また、焼鈍温度が本発明範囲内であっても、冷却速度が速過ぎるとマルテンサイトが生成してしまい、フェライト面積率が低減してr値及び穴拡げ性が低下する。また、冷却速度が遅過ぎるとフェライト結晶粒が成長し20μm以上に粗大化してしまう。そのため、焼鈍後の冷却速度は上限を10℃/sec以下、下限を1℃/sec以上とする。基本的に空冷するのが望ましいが、水冷してもフェライト単相組織となる場合には水冷してもよい。
本発明のように、製品板で集合組織を発達させ、高r値、高穴拡げ特性を得るためには、途中工程にて再結晶と、相変態(フェライト相→オーステナイト相→フェライト相)を同時にさせることが重要であることを見出した。本発明では、熱間圧延板焼鈍を施さずに酸洗処理し、冷間圧延工程に冷間圧延素材として供する。これは、通常の製法とは異なる(通常は熱間圧延板焼鈍を施す)ものである。通常の製造方法では、フェライト単相域で熱間圧延板焼鈍を施して、整粒再結晶組織を得る方法が一般的である。これに対して本発明では、熱延板焼鈍を行わないので、熱延工程で生成したマルテンサイト組織が残存したまま冷延し、冷延後焼鈍することで、r値が向上する。なお、十分に微細なマルテンサイトが生成される場合には熱延板焼鈍を行ってもよい。本発明の鋼を、熱延中あるいは高温熱延板焼鈍中にオーステナイト域に加熱すると、冷却中にマルテンサイト変態を起こすが、本発明の成分系ではラス状の極めて微細な組織であるため、その後の冷延・焼鈍時に微細組織の結晶粒界近傍から{111}方位が発達し易いためと考えられる。{111}方位粒はBCC結晶構造を有するフェライト鋼のr値を向上させる結晶方位であるが、一般的には、硬質なマルテンサイトと軟質なフェライト相の二相組織を冷延すると、硬質なマルテンサイト相によりフェライト相に不均一変形が導入され、{111}方位結晶粒は生成し難い。しかしながら、本発明の成分系においてはラスマルテンサイト組織の形態が極めて細かいことから冷延板焼鈍時の変態・再結晶時に細かいラスマルテンサイトから{111}結晶方位を有するフェライトが発達する作用が発現すると考えられる。この集合組織の発現性は、マルテンサイト相とフェライト相の硬度差にもよる可能性があり、本発明の成分系では両相の硬度バランスが適正であるためと考えられる。また、この冷延後の焼鈍時に、フェライト+オーステナイト二相域で焼鈍することにより、相変態しやすい{100}〈011〉を相変態させつつ、相変態しにくい〈111〉方位粒を再結晶させる。加工された{100}〈011〉は、再結晶した場合r値を大きく低下させる{311}〈136〉再結晶粒を生成させるが、オーステナイト相に変態させることでこの再結晶粒の生成を抑制することが可能となる。また、この相変態した{100}〈011〉は、冷却時に方位記憶効果によりもとの{100}〈011〉近傍の方位を持ったフェライト相あるいはマルテンサイト相へと変態する。この方位記憶効果を起こすにはMn添加による強度上昇が重要であるため、本発明の成分系が適正であると考えられる。また、相変態させずに残存させた{111}方位粒は、焼鈍中に{111}方位粒へと再結晶する。以上より、非常に{111}方位が発達しつつ、{311}〈136〉の形成を抑制した高加工性鋼を得ることができる。
以上のように、本発明で規定する成分組成のスラブを用い、熱間圧延において、スラブ加熱温度を1100〜1200℃として粗圧延を行い、仕上げ圧延を開始温度が900℃以上、終了温度が800℃以上、その差が200℃以内となるように仕上げ圧延を行い、600℃以上で巻取った後、冷間圧延し、冷間圧延後の焼鈍処理として700〜1000℃で熱処理し、熱処理後の冷却速度を1〜10℃/secとすることにより、本発明で規定するフェライト相の結晶方位強度(集合組織)を実現するとともに、フェライト粒径が20μm以下、フェライト相面積率が90%以上の鋼板とすることができ、引張強度が440MPa以上、破断伸びが20%以上、穴拡げ率が100%以上の品質を実現することができる。また、rminが1.0以上、フェライト相面積率が90%以上かつ、平均r値が1.5以上とすることができる。
なお、鋼板の製造方法について、本発明で規定した以外の条件については適宜選択すれば良い。例えば、熱延条件や熱延板厚、製品板厚、冷延板焼鈍雰囲気、冷延におけるパススケジュールや冷延率、ロール径についても特別な設備を必要とせず、既設設備を効率的に使用すれば良い。また、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。
上記本発明のステンレス鋼板は、自動車構造部品用、あるいは自動車締結部品用として使用すると好適である。自動車構造部品用、自動車締結部品用のステンレス鋼板に要求される高強度と良好な加工性を具備しているからである。ここで、自動車構造部品としては例えばサスペンションやシャシー、アーム、メンバーを挙げることができる。また、自動車締結部品としては例えばフランジやブラケットを挙げることができる。
表1に示す成分組成の鋼を溶製してスラブに鋳造した。鋳造したスラブを表2に示す条件で熱間圧延して5mm厚の熱延コイルとした。その後、熱延コイルの焼鈍を行わずに酸洗した。表2の比較例B2のみは熱延板焼鈍を行っている。その後、1mm厚まで冷間圧延し、表2に示す条件で焼鈍・酸洗を施して製品板とした。このようにして得られた製品板に対して、引張試験(引張強度、破断伸び)、r値・n値測定、穴拡げ試験、集合組織評価を行った。結果を表3に示す。試験条件は前述のとおりとした。表3の集合組織に関する「311/100」欄には、{311}〈136〉結晶方位強度および{100}<011>結晶方位強度の比({311}〈136〉結晶方位強度/{100}<011>結晶方位強度)を記載している。
Figure 0006628682
Figure 0006628682
Figure 0006628682
Figure 0006628682
Figure 0006628682
Figure 0006628682
表1の鋼No.1〜23、表2、表3のA1〜A23が本発明例である。この結果から明らかなように、本発明で規定する成分組成を有する鋼を本発明方法にて製造した場合、本発明で規定するフェライト相の結晶方位強度(集合組織)を実現するとともに、フェライト粒径が20μm以下、フェライト相面積率が90%以上、平均r値が1.5以上、最低r値が1.0以上、n×(1+rmin)が0.40以上となり、その結果、引張強度が440MPa以上、破断伸びが20%以上、穴拡げ率が100%以上と、加工性に優れている。
表1の鋼No.24〜36、表2、表3のB1〜B20が比較例である。
B1は冷延板焼鈍温度が高すぎるため、フェライト面積率が不足するとともに、{211}<011>結晶方位強度が低く、r値が測定不能かつ加工性が不良であった。B7、B8はγpが低すぎ、集合組織が本発明範囲を外れ、平均r値が未達であった。B11はCが高すぎ、B12はNが高すぎ、集合組織が本発明範囲を外れ、加工性が不良であった。
B2は熱延板焼鈍を行い、B4は巻取温度が低く、B5は冷延板焼鈍後の冷却速度が遅く、いずれも結晶粒径が20μmを超え、引張強度が未達であった。また、B7、B8はγpが低すぎ、B10はCrが高すぎ、いずれも結晶粒径が20μmを超え、引張強度が未達であった。
B3は冷延板焼鈍温度が低く、B14はNb含有量が高め外れであるとともに熱延仕上げ圧延温度差が大きく、鋼板に未再結晶があり、いずれも加工性が不良であった。B6は冷延板焼鈍後の冷却速度が速すぎ、B9はγpが高すぎ、B11はCが高すぎ、B12はNが高すぎ、B13はTi、Nbが低すぎ、いずれもフェライト面積率が不足するとともに、平均r値、最低r値、n×(1+rmin)が未達あるいは測定不能であり、加工性が不良であった。B15〜B17は、それぞれCu、Si、Niのいずれかの成分が高すぎ、加工性が不良であった。

Claims (7)

  1. 質量%にて、C:0.001〜0.03%、N:0.001〜0.03%、Si:0.05〜3.0%、Mn:0.1〜15.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:10%以上18%未満を含有し、さらにTi:0.30%以下、Nb:0.50%以下の1種または2種を含有し、TiとNbの合計が、8(C+N)〜0.75%であり、
    さらに、B:0.0002〜0.0030%、Al:0.030〜0.300%、Mo:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜1.2%、Cu:0.1〜2.0%、V:0.05〜1.00%、Sn:0.005〜0.500%、W:0.005〜3.00%、Co:0.01〜0.30%、Sb:0.005〜0.500%、Ta:0.01〜0.10%、Ga:0.0002%〜0.1000%、REM:0.001〜0.200%の1種または2種以上を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなり、γp(ガンマポテンシャル)が65〜85%であり、
    X線回折による板厚中心のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<011>結晶方位強度が3.0以上、{211}<011>結晶方位強度が3.0以上、{311}〈136〉結晶方位強度および{100}<011>結晶方位強度の比({311}〈136〉結晶方位強度/{100}<011>結晶方位強度)が2.5以下であり、
    フェライト粒径が20μm以下、フェライト相面積率が90%以上であることを特徴とする加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
    なお、γpは(1)式のCastroの式を用いて評価する。
    γp=420(%C)+470(%N)+23(%Ni)+9(%Cu)+7(%Mn)
    −11.5(%Cr)−11.5(%Si)−12(%Mo)−23(%V)−47(%Nb)
    −49(%Ti)−52(%Al)+189 (1)
    なお、(%X)は、各成分Xの質量割合を示す。不可避的不純物量程度しか含有していない場合はゼロとする。
  2. 平均r値が1.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
  3. minが1.0以上、n×(1+rmin)が0.40以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
    なお、nはn値(加工硬化指数)、rminは最小r(ランクフォード)値である。
  4. 引張強度が440MPa以上、破断伸びが20%以上、穴拡げ率が100%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
  5. 請求項1に記載の成分組成のスラブを用い、熱間圧延において、スラブ加熱温度を1100〜1200℃として粗圧延を行い、仕上げ圧延を開始温度が900℃以上、終了温度が800℃以上、その差が200℃以内となるように仕上げ圧延を行い、600℃以上で巻取った後、冷間圧延し、冷間圧延後の焼鈍処理として700〜1000℃で熱処理し、熱処理後の冷却速度を1〜10℃/secとすることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板の製造方法。
  6. 前記ステンレス鋼板は、自動車構造部品用として使用される請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
  7. 前記ステンレス鋼板は、自動車締結部品用として使用される請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度ステンレス鋼板。
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