(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、本実施形態の照射治療装置について図1から図2を用いて説明する。図1の符号1は、炭素イオンなどの粒子線ビームを患者の病巣組織(がん)に照射して治療を行う照射治療装置である。
このような照射治療装置1を用いた放射線治療技術は、重粒子線がん治療技術などとも称され、がん病巣(患部)を炭素イオンがピンポイントで狙い撃ちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる。なお、粒子線とは、放射線のなかでも電子より重いものと定義され、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義される。重粒子線を用いるがん治療では、従来のエックス線やガンマ線や陽子線を用いたがん治療と比較して、患者の体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有している。そのため、照射回数と副作用を少なくすることができ、治療期間をより短くすることができる。
図1に示すように、照射治療装置1は、炭素イオンを生成するイオン生成器2と、炭素イオンを加速する前段加速器である線形加速器3と、主加速器であるリング状のシンクロトロン加速器4と、加速されたイオンビーム(粒子線ビーム)を輸送するビーム輸送装置5(輸送システム)と、患者が配置される治療室を構成する回転ガントリ6と、を備える。
本実施形態では、イオン生成器2で生成された炭素イオンが、線形加速器3で光速の約10%まで加速され、粒子線ビームとなってシンクロトロン加速器4に入射される。この粒子線ビームは、シンクロトロン加速器4の主リング内を約百万回周回する間に光速の約70%まで加速され、ビーム輸送装置5を介して回転ガントリ6まで導かれる。
なお、照射治療装置1には、内部が真空にされる真空ダクト7(ビームパイプ)が設けられる。この真空ダクト7の内部を粒子線ビームが進行する。本実施形態では、線形加速器3やシンクロトロン加速器4やビーム輸送装置5が有する真空ダクト7が一体となり、粒子線ビームをイオン生成器2から回転ガントリ6まで導く輸送経路を構成する。つまり、真空ダクト7は、粒子線ビームRを通過させるのに充分な真空度を有する密閉された連続空間である。
また、シンクロトロン加速器4は、真空ダクト7の周囲に配置され、粒子線ビームを制御する電磁石装置9,10を備える。例えば、粒子線ビームの収束および発散を制御する制御用の電磁石装置9や、真空ダクト7の屈曲部に配置される屈曲用の電磁石装置10などが設けられる。なお、これらの電磁石装置9,10は、複数の偏向電磁石や四極電磁石などで構成される。
さらに、シンクロトロン加速器4は、磁場と加速電場の周波数を制御することで粒子線ビームを加速する高周波加速空洞11を備える。また、シンクロトロン加速器4は、線形加速器3からシンクロトロン加速器4に粒子線ビームを入射させる入射装置12や、シンクロトロン加速器4からビーム輸送装置5に粒子線ビームを出射させる出射装置13などを備える。
また、ビーム輸送装置5は、シンクロトロン加速器4から出射された粒子線ビームを回転ガントリ6まで輸送する。このビーム輸送装置5は、シンクロトロン加速器4と同様に、制御用の電磁石装置14や、屈曲用の電磁石装置15を備える。なお、その他の装置や電磁石がシンクロトロン加速器4やビーム輸送装置5に設けられていても良い。
図2に示すように、回転ガントリ6は、円筒形状を成す大型の装置である。この回転ガントリ6は、その円筒の中心軸Jが水平方向を向くように設置される。この水平軸Jを中心として回転ガントリ6が回転可能となっている。また、回転ガントリ6の下部には、回転ガントリ6を回転させる回転駆動装置16が設けられる。なお、回転ガントリ6は、その外周に固定されたリング状のフレーム6aを介して回転駆動装置16に支持される。
なお、回転ガントリ6には、真空ダクト7や電磁石装置15が取り付けられる。これらの真空ダクト7や電磁石装置15は、ビーム輸送装置5の一部を構成する。また、真空ダクト7は、回転ガントリ6の外部からその中心軸Jに沿って導かれ、回転ガントリ6の外周側を一旦抜け出した後に、再び回転ガントリ6の内部に向けて半径方向に延びる。
また、真空ダクト7の端部には、粒子線ビームRを照射する照射部17が設けられる。なお、粒子線ビームRは、水平軸Jに対して直交する方向に照射部17から照射される。さらに、回転ガントリ6は、治療室Tの一部を構成する。なお、患者Kは、治療室Tに設けられたベッド18に寝かされる。このベッド18は、患者Kを載置した状態で移動可能となっている。そして、ベッドによって患者Kを粒子線ビームRの照射位置に移動させて位置合わせを行うことができる。そのため、患者Kの病巣組織に最適な精度で粒子線ビームRを照射することができる。
また、回転ガントリ6に支持される真空ダクト7には、3箇所の屈曲部7a,7b,7cが形成されている。なお、それぞれの各屈曲部7a,7b,7cには、粒子線ビームRの進行方向を屈曲部7a,7b,7cに沿って偏向させる電磁石装置15が設けられる。第1実施形態では、1箇所の屈曲部7a,7b,7cに対して2個ずつの電磁石装置15が設けられる。つまり、6個の電磁石装置15が回転ガントリ6に支持される。
なお、各屈曲部7a,7b,7cは、真空ダクト7の延設方向を90°変化させるように所定の曲率で湾曲されている。各電磁石装置15が発生させる偏向磁場によって、屈曲部7a,7b,7cの曲率に沿って粒子線ビームRが偏向される。
本実施形態では、真空ダクト7が3箇所の屈曲部7a,7b,7cで屈曲されていることで、回転ガントリ6の水平軸Jに沿って進行する粒子線ビームRを水平軸Jに対して直交する方向に導くことができる。なお、真空ダクト7において、回転ガントリ6の水平軸Jに沿う部分には、回転機構(図示略)が設けられている。そして、この部分が回転ガントリ6の回転とともに回転するようになっている。
さらに、真空ダクト7の端部近傍には、スキャニング電磁石19が設けられる。このスキャニング電磁石19は、粒子線ビームRを、x方向に偏向走査するx偏向走査磁石(図示略)とy方向に偏向走査するy偏向走査磁石(図示略)とを有している。そして、スキャニング電磁石19は、粒子線ビームRを制御することで、細い粒子線ビームRを患者Kの患部形状に3次元的に合致させて走査することができる。
本実施形態では、回転駆動装置16を駆動させることにより回転ガントリ6を回転させることで、患者K(水平軸J)を中心として照射部17を360°(例えば右回転、左回転180°ずつ)回転させることができる。そして、患者Kの周囲のいずれの方向からも粒子線ビームRを照射することができる。そのため、患者Kの負担を軽減しつつ、最適な方向から粒子線ビームRを正確に患部に照射することができる。
なお、粒子線ビームRは、患者Kの体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度が低下するとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受け、ある一定の速度まで低下すると急激に停止する。そして、粒子線ビームRの停止点近傍では、ブラッグピークと呼ばれる高エネルギーが放出される。照射治療装置1は、このブラッグピークを患者Kの病巣組織(患部)の位置に合わせることにより、正常組織のダメージを抑えつつ、病巣組織のみを死滅させることができる。
次に、第1実施形態の電磁石装置15について図2から図10を用いて説明する。図2に示すように、第1実施形態では、6個の電磁石装置15が回転ガントリ6に設けられる。また、真空ダクト7の3箇所の屈曲部7a,7b,7cに設けられる各電磁石装置15は、同一構成であるので、真空ダクト7の1箇所の屈曲部7aに設けられる各電磁石装置15を例示する。
なお、理解を助けるために、真空ダクト7の各屈曲部7a,7b,7cに設けられた2個ずつの電磁石装置15のうち、粒子線ビームRの上流側の電磁石装置を第1電磁石装置15Aとし、粒子線ビームRの下流側の電磁石装置を第2電磁石装置15Bとして以下に説明する。また、粒子線ビームRの進行方向をs方向としたときに、このs方向に直交し、かつ真空ダクト7の屈曲の内側に向く方向をx方向とする。つまり、x方向は、真空ダクト7の屈曲に沿って変化する方向である。さらに、s方向およびx方向の両方に直交する方向をy方向とする。
図3に示すように、第1電磁石装置15Aは、真空ダクト7の屈曲部7aの周囲に配置される超伝導電磁石であって粒子線ビームRの進行方向を屈曲部7aに沿って偏向させる偏向磁場を発生させる第1偏向電磁石20と、真空ダクト7を軸とした場合に、偏向電磁石20と同軸に積層して配置される超伝導電磁石であって粒子線ビームRを所定方向に収束させる収束磁場を発生させる2個の第1四極電磁石21,22と、を備える。
なお、2個の第1四極電磁石21,22うち、一方の第1四極電磁石21を、粒子線ビームRの進行方向(s方向)に沿う寸法が長い第1長寸四極電磁石21と称し、他方の第1四極電磁石22を、粒子線ビームRの進行方向(s方向)に沿う寸法が短い第1短寸四極電磁石22と称して以下に説明する。また、第1長寸四極電磁石21の長さ寸法N1は、第1短寸四極電磁石22の長さ寸法N2の2倍となっている。つまり、第1短寸四極電磁石22の長さ寸法N2が、第1長寸四極電磁石21の長さ寸法N1よりも短くなっている。なお、2個の短寸四極電磁石22の長さ寸法N2を合わせた寸法が、第1長寸四極電磁石21の長さ寸法N1と同一となっている。さらに、第1長寸四極電磁石21が粒子線ビームRの進行方向の上流側に配置され、第1短寸四極電磁石22が粒子線ビームRの進行方向の下流側に配置される。
また、第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22とが、真空ダクト7の進行方向に沿って並んで配置される。なお、第1長寸四極電磁石21および第1短寸四極電磁石22は、真空ダクト7の外周を囲むように配置され、その外側をさらに囲むように第1偏向電磁石20が配置される。つまり、粒子線ビームRの進行方向において、第1偏向電磁石20の配置範囲に、第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22とが並んで配置される。
第1実施形態では、第1偏向電磁石20と第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22とが、1個の電磁石セット23A(第1超電導コイル群)を構成する。この電磁石セット23Aが1個の断熱容器24に密閉収容される。また、第1偏向電磁石20と第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22とを冷却するための冷却媒体25が、電磁石セット23Aとともに断熱容器24に密閉収容される。また、断熱容器24には、冷却媒体25を冷却する冷凍ヘッド26が取り付けられている。これらの装置が一体となって第1電磁石装置15Aを構成する。
図7は、断熱容器24を直線状に展開した分解図である。なお、実際の断熱容器24は、真空ダクト7に沿った曲率で湾曲されている。本実施形態の断熱容器24は、真空ダクト7の外周面に対してクリアランス(間隙)をとって配置される内筒24Aと、この内筒24Aの外側に同軸に配置される外筒24Bと、真空ダクト7の外周面に対してクリアランスとって開口される孔が形成され、外筒24Bと同一の外径を有する端板24C,24Dと、を備える。
また、内筒24Aの両端の周縁は、それぞれ端板24C,24Dの内周縁に密着され、外筒24Bの両端の周縁は、それぞれ端板24C,24Dの外周縁に密着される。これにより、内筒24Aの外周面と、外筒24Bの内周面と、端板24C,24Dの内面とに囲まれた密閉空間が形成される。なお、互いの部材は溶接などで組み合される。さらに、断熱容器24の密閉空間は、真空状態に保持される。また、第1偏向電磁石20と第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22と冷却媒体25とは、断熱容器24の内筒24Aと外筒24Bと端板24C,24Dとにより支持される。そして、断熱容器24は、これらの装置を密閉収容して外気から断熱する。
第1実施形態では、第1長寸四極電磁石21と第1短寸四極電磁石22との間の断熱壁を省略することができるので、電磁石セット23Aを収容した断熱容器24を軽量化できるとともに小型化できる。
図3に示すように、冷凍ヘッド26には、冷凍機(図示略)により冷却された極低温のヘリウムガスが供給される。また、冷却媒体25は、各電磁石20,21,22から冷凍ヘッド26まで熱伝導させる高純度のアルミニウムで構成された固体の部材となっている。なお、図3では、理解を助けるために図示を簡略化しているが、冷却媒体25は、各電磁石20,21,22のそれぞれに接触している。つまり、冷却媒体25は、各コイル20A,21A,22Aに熱的に接続されている。これら電磁石20,21,22を、超電導現象が発現する臨界温度以下まで冷却する。
なお、冷却媒体が、液体ヘリウムや液体窒素などの液体冷媒の場合には、冷媒液面の変化や揺らぎによって冷却が不安定となることが考えられる。本実施形態では、冷却媒体25が固体であることで、粒子線ビームRの輸送経路が回転ガントリ6の回転とともに動いても、各電磁石20,21,22を安定的に冷却することができる。
図3に示すように、第2電磁石装置15Bは、第1電磁石装置15Aを同一構成の装置となっている。なお、第2電磁石装置15Bの粒子線ビームRの進行方向(s方向)に対する向きは、第1電磁石装置15Aと反転されて(逆向きに)配置される。
第2電磁石装置15Bは、第2偏向電磁石20と、2個の第2四極電磁石21,22とを備える。なお、第2電磁石装置15Bは、第1電磁石装置15Aと向きが逆転されているので、2個の第2四極電磁石21,22うち、第2長寸四極電磁石21が粒子線ビームRの進行方向の下流側に配置され、第2短寸四極電磁石22が粒子線ビームRの進行方向の上流側に配置される。なお、第1実施形態では、第2偏向電磁石20と第2長寸四極電磁石21と第2短寸四極電磁石22とが、1個の電磁石セット23B(第2超電導コイル群)を構成する。
図4は、図3に示す第1電磁石装置15A(電磁石セット23A)のA−A断面を簡略化して図示したものである。なお、第1偏向電磁石20は、偏向磁場M1を形成する2個の偏向コイル20A(励磁コイル)を有している。これらの偏向コイル20Aが対向して配置され、その間を通過する粒子線ビームRの進行方向を偏向磁場M1の作用で曲げて、軌道を円弧状にすることができる。そして、偏向コイル20Aを通過した粒子線ビームRを、接線方向に直進される。
また、第1長寸四極電磁石21は、y方向に粒子線ビームRを収束させる収束磁場M2を形成する4個の四極コイル21A(励磁コイル)を有している。これらの四極コイル21Aは、真空ダクト7を軸として軸対称(点対称、回転対象)に配置され、収束磁場M2を発生させる。なお、収束磁場M2は、粒子線ビームRが軌道中心から遠ざかる発散成分を抑える磁場である。
また、第1偏向電磁石20(偏向コイル20A)は、第1長寸四極電磁石21(四極コイル21A)の外周に配置され、第1偏向電磁石20と第1長寸四極電磁石21とが、真空ダクト7を軸として同心円状に積層して配置されている。
なお、粒子線ビームRの収束とは、粒子線ビームRのビームサイズσ(直径方向の長さ;外径)が小さくなることであり、粒子線ビームRの発散とは、粒子線ビームRのビームサイズσが大きくなることである。
図4に示すように、第1長寸四極電磁石21の四極コイル21Aを通過する粒子線ビームRにおいて、x軸上の点P1に位置する荷電粒子は、外方向へのローレンツ力が働く。一方、y軸上の点P2に位置する荷電粒子は、中心方向へのローレンツ力が働く。つまり、第1長寸四極電磁石21は、粒子線ビームRをx方向に発散させ、かつy方向に収束させる。このように四極コイル21Aは、x方向に粒子線ビームRを発散させると、y方向に粒子線ビームRが収束される性質を有する。
図5は、図3に示す第1電磁石装置15A(電磁石セット23A)のB−B断面を簡略化して図示したものである。第1短寸四極電磁石22は、前述した第1長寸四極電磁石21を、真空ダクト7を軸として90°回転させた状態になっている。つまり、第1短寸四極電磁石22は、第1長寸四極電磁石21と機械的な構造が同一で電流の方向が逆転している。
また、第1短寸四極電磁石22は、x方向に粒子線ビームRを収束させる収束磁場M2を形成する4個の四極コイル22A(励磁コイル)を有している。これらの四極コイル22Aは、真空ダクト7を軸として軸対称(点対称、回転対象)に配置され、収束磁場M2を発生させる。
また、第1偏向電磁石20(偏向コイル20A)は、第1短寸四極電磁石22(四極コイル22A)の外周に配置され、第1偏向電磁石20と第1短寸四極電磁石22とが、真空ダクト7を軸として同心円状に積層して配置されている。
なお、図4および図5に示すように、第1長寸四極電磁石21(四極コイル21A)と第1短寸四極電磁石22(四極コイル22A)とは、断面視において鏡面対象に配置される。また、四極コイル21A,22Aが真空ダクト7に対向する第1層を形成している。そして、偏向コイル20Aが第1層の上に積層する第2層を形成している。偏向コイル20Aを積層するために、2つの四極コイル21A,22Aの厚さ(s方向と垂直方向の厚さ)は、同一寸法となっている。
図5に示すように、第1短寸四極電磁石22の四極コイル22Aを通過する粒子線ビームRにおいて、x軸上の点P1に位置する荷電粒子は、中心方向へのローレンツ力が働く。一方、y軸上の点P2に位置する荷電粒子は、外方向へのローレンツ力が働く。つまり、第1短寸四極電磁石22は、粒子線ビームRをx方向に収束させ、かつy方向に発散させる。このように、四極コイル22Aは、x方向に粒子線ビームRを収束させると、y方向に粒子線ビームRが発散される性質を有する。
なお、図3に示す第2電磁石装置15B(電磁石セット23B)のD−D断面は、図4のA−A断面と同一構成であるので、この説明を省略する。また、図3に示す第2電磁石装置15B(電磁石セット23B)のC−C断面は、図5のB−B断面と同一構成であるので、この説明を省略する。
図6は、電磁石セット23A,23Bの各コイル20A,21A,22Aを直線状に展開した分解図である。なお、実際の電磁石セット23A,23Bの各コイル20A,21A,22Aは、真空ダクト7に沿った曲率で湾曲されている。
各コイル20A,21A,22Aは、超電導線を長円形の渦巻状に巻回して形成され、主面が真空ダクト7の外周面に合うように曲面を構成する。ここで、超電導線は、NbTi、Nb3Sn、Nb3Al、MgB2などの低温超電導体、または、Bi2Sr2Ca2Cu3O10線材や、REB2C3O7線材などの高温超電導体で構成される。
なお「REB2C3O7」の「RE」は、希土類元素(例えば、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)など)およびイットリウム元素の少なくともいずれかを意味している。また、「B」はバリウム(Ba)を意味している。また、「C」は銅(Cu)を意味している。また、「O」は酸素(O)を意味している。
なお、低温超電導体を用いた場合は、低温超電導体が延性を有するため、容易に曲面を形成することが可能となる。さらに、真空ダクト7の屈曲部7a,7b,7cに沿った形状を容易に形成することができる。一方、高温超電導体を用いた場合は、高温で超電導状態が発現するために冷却負荷が軽減され、運転効率が向上する。
図8は、電磁石セット23A,23Bの回路図である。本実施形態では、一方の電磁石セット23A(第1電磁石装置15A)の偏向電磁石20と、この偏向電磁石20に隣接する他方の電磁石セット23B(第2電磁石装置15B)の偏向電磁石20と、が1つの電源27Aに直列に接続される。また、一方の電磁石セット23Aの第1短寸四極電磁石22と、この第1短寸四極電磁石22に隣接する他方の電磁石セット23Bの第2短寸四極電磁石22と、が1つの電源27Bに直列に接続される。なお、第1長寸四極電磁石21および第2長寸四極電磁石21は、それぞれ別個の電源27C,27Dに接続されている。
従来であれば、6個の電磁石20,21,22がある場合に、6個の電源が必要であったが、本実施形態では、電源27A,27B,27C,27D(直流電源)の個数を最小限に抑えることが可能となり、電源供給線の簡素化や低コスト化を図ることができる。また、各電磁石20,21,22に供給する電力の電圧値や電流値を一定にできるので、電力の制御が容易になる。
図3および図6に示すように、粒子線ビームRの進行方向に沿って、第1電磁石装置15Aの第1長寸四極電磁石21の四極コイル21A、第1電磁石装置15Aの第1短寸四極電磁石22の四極コイル22A、第2電磁石装置15Bの第2短寸四極電磁石22の四極コイル22A、第2電磁石装置15Bの第2長寸四極電磁石21の四極コイル21Aの順で並んでいる。つまり、粒子線ビームRのx方向のビームサイズσは、第1電磁石装置15Aおよび第2電磁石装置15Bを通過するときに、x方向に発散−収束−発散(y方向に収束−発散−収束)の順番で3段階に変化する。
なお、粒子線ビームRの進行方向に沿って、第1偏向電磁石20の偏向コイル20A、第2偏向電磁石20の偏向コイル20Aの順番で並んでいる。ここで、偏向コイル20Aを通過する粒子線ビームRは、x方向に収束されるとともに、y方向に発散される。つまり、偏向コイル20Aも粒子線ビームRを収束および発散させる作用を有している。本実施形態では、第1短寸四極電磁石22および第2短寸四極電磁石22の四極コイル22Aによる粒子線ビームRの収束方向(x方向)が、第1偏向電磁石20および第2偏向電磁石20の偏向コイル20Aによる粒子線ビームRの収束方向(x方向)と同じになっている。
なお、各四極コイル21A,22Aにおいて、粒子線ビームRを収束および発散させる強さは、各四極コイル21A,22Aに印加される直流電流の強度により制御することができる。また、各四極コイル21A,22Aのサイズ(長さ寸法)によっても粒子線ビームRを収束および発散させる強さが変化する。本実施形態では、四極コイル21A,22Aに供給する電力の電流値および電圧値を同一にして、四極コイル21A,22Aの長さ寸法N1,N2(図3参照)の違いにより、粒子線ビームRを収束および発散させる強さを異ならせている。例えば、第1長寸四極電磁石21(四極コイル21A)は、第1短寸四極電磁石22(四極コイル22A)の長さ寸法N2と比較して、2倍の長さ寸法N1を有している。そのため、第1長寸四極電磁石21が粒子線ビームRを収束および発散させる強さは、第1短寸四極電磁石22と比較して2倍となっている。
このように、四極電磁石21,22(四極コイル21A,22A)の長さ寸法N1,N2の違いにより、粒子線ビームRを収束および発散させる強さを異ならせることで、四極コイル21A,22Aの配置に応じて四極コイル21A,22Aの寸法を設定して製造することで、粒子線ビームRの収束の強さを調整できる。
図9は、各電磁石20,21,22の収束の強さを説明する表である。この表において、プラスの数値は、粒子線ビームRが収束していることを示し、マイナスの数値は、粒子線ビームRが発散していることを示す。なお、第1偏向電磁石20が粒子線ビームRをx方向に収束する強さを1(基準値)としている。
第1偏向電磁石20は、粒子線ビームRを1倍の強さでx方向に収束させるとともに、y方向に発散させる。また、第1長寸四極電磁石21は、粒子線ビームRを2倍の強さでx方向に発散させるとともに、y方向に収束させる。また、第1短寸四極電磁石22は、粒子線ビームRを1倍の強さでx方向に収束させるとともに、y方向に発散させる。また、第2短寸四極電磁石22は、粒子線ビームRを1倍の強さでx方向に収束させるとともに、y方向に発散させる。また、第2長寸四極電磁石21は、粒子線ビームRを2倍の強さでx方向に発散させるとともに、y方向に収束させる。また、第2偏向電磁石20は、粒子線ビームRを1倍の強さでx方向に収束させるとともに、y方向に発散させる。
この表に示すように、粒子線ビームRは、第1電磁石装置15Aおよび第2電磁石装置15Bを通過するときに、収束と発散を繰り返すが、理論上、そのときの収束および発散の強さの合計が0になる。つまり、2個の偏向電磁石20および2個の短寸四極電磁石22を合わせた収束(発散)の強さと、2個の長寸四極電磁石21の収束(発散)の強さとのバランス(平準化)を保つように調整することができる。なお、真空ダクト7の各屈曲部7a,7b,7c(輸送経路の各箇所)で粒子線ビームRを収束および発散させながら進行させても、ビームサイズσの変化を最小限に保つことができる。
図10は、粒子線ビームRのビームサイズσの変化を示すグラフである。実線はx方向の変化を示し、点線はy方向の変化を示す。このグラフに示すように、真空ダクト7の各屈曲部7a,7b,7cにおいて、長寸四極電磁石21が粒子線ビームRをx方向に発散させることで、偏向電磁石20が粒子線ビームRをy方向に発散させることを抑えている。なお、本実施形態では、2個の長寸四極電磁石21の収束の強さが、2個の偏向電磁石20および2個の短寸四極電磁石22を合わせた収束の強さよりも、若干強くなるように設定している。そして、ビームサイズσの変化率(ビームサイズσのs微分)は、小さく抑えられることが分かる。そのため、ビームサイズσが過度に大きくなることがないため、真空ダクト7や偏向コイル20Aや四極コイル21A,22Aの口径を小さく抑えることができる。
本実施形態では、同一構成の複数の電磁石装置15A,15B(電磁石セット23A,23B)が断熱容器24に一体的に収納され、これらの装置で粒子線ビームRの輸送経路を構成することができる。そして、同一の設計図および同一の製造ラインで多数の電磁石装置15A,15Bおよび断熱容器24を量産することができ、生産性を向上させることができ、コストダウンが図れる。また、照射治療装置1を現地で組み立てる際に、据付調整の簡素化が可能となり、工期を短縮することができる。
また、偏向電磁石20と四極電磁石21,22と冷却媒体25とが、断熱容器24により一体化されるので、その製造性が向上する。なお、偏向電磁石20と四極電磁石21,22とが同心円状に重なって配置され、粒子線ビームRの進行方向に短い配置となるので、回転ガントリ6の小型化および軽量化に貢献でき、回転の制御性が良好となり、粒子線ビームRの照射精度を向上させることができる。さらに、粒子線ビームRを安定的に輸送することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電磁石装置15Cについて図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図11に示すように、第2実施形態の電磁石装置15Cは、2個の電磁石セット23A,23Bが、1個の断熱容器28に密閉収容される。つまり、1個の電磁石装置15Cは、2個の偏向電磁石20と、4個の四極電磁石21,22とを備える。そして、これら電磁石セット23A,23Bの各電磁石20,21,22を、冷却するための一体化された冷却媒体29が、電磁石セット23Aとともに断熱容器28に密閉収容される。
第2実施形態では、長寸四極電磁石21と短寸四極電磁石22との間の断熱壁を省略することができる。また、各電磁石セット23A,23Bの間の断熱壁を省略することができる。そのため、電磁石セット23A,23Bを収容した断熱容器28を軽量化させることができるとともに小型化できる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電磁石装置15Dについて図12を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図12に示すように、第3実施形態の電磁石装置15Dは、1個の偏向電磁石30と、3個の四極電磁石31A,31B,31Cとを備える。第3実施形態では、1個の偏向電磁石30と3個の四極電磁石31A,31B,31Cとが、1個の電磁石セット23Cを構成する。これら電磁石30,31A,31B,31Cが、1個の断熱容器32に密閉収容される。そして、これら電磁石セット23Cの各電磁石30,31A,31B,31Cを、冷却するための一体化された冷却媒体33が、電磁石セット23Cとともに断熱容器32に密閉収容される。
なお、各四極電磁石31A,31B,31Cにおいて、粒子線ビームRの進行方向(s方向)に沿う寸法N3は、同一寸法となっている。また、中央に配置される四極電磁石31Bは、その両隣に配置される四極電磁石31A,31Cを、真空ダクト7を軸として、軸周りに90°回転させた状態になっている。つまり、中央に配置される四極電磁石31Bは、その両隣に配置される四極電磁石31A,31Cと機械的な構造が同一で電流の方向が逆転している。そのため、中央に配置される四極電磁石31Bは、粒子線ビームRをx方向に収束させるとともに、y方向に発散させる。一方、その両隣に配置される四極電磁石31A,31Cは、粒子線ビームRをy方向に収束させるとともに、x方向に発散させる。
第3実施形態では、四極電磁石31A,31B,31Cの間の断熱壁を省略することができる。そのため、電磁石セット23Cを収容した断熱容器32を軽量化できるとともに小型化できる。
本実施形態に係る照射治療装置を第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
なお、本実施形態では、スキャニング電磁石19を用いて粒子線ビームRの照射範囲を制御しているが、コリメータやレンジシフタなどの機器を用いることで、粒子線ビームRの照射範囲や進入の深さなどを制御しても良い。また、これらの機器とスキャニング電磁石19とを組み合わせて用いても良い。
なお、患者が呼吸を行うことによって、僅かに動いてしまう患部の位置を把握するために、X線などを用いて患者の呼吸状態を把握し、この呼吸のタイミングに同期させて粒子線ビームRを照射する呼吸同期制御装置などを設けるようにしても良い。
なお、本実施形態では、炭素イオンを用いた放射線治療技術を例示しているが、負パイ中間子、陽子、ヘリウムイオン、ネオンイオン、シリコンイオン、またはアルゴンイオンなどを用いて放射線治療を行っても良い。
なお、本実施形態では、シンクロトロン加速器4で粒子線ビームRを加速しているが、サイクロトロン加速器やFFAG加速器などの加速装置を用いて粒子線ビームRを加速しても良い。
なお、本実施形態では、冷却媒体25として極低温のヘリウムガスを用いているが、液体窒素や液体ヘリウムなどの液体の冷却媒体を用いて電磁石20,21,22を冷却しても良い。
なお、本実施形態では、偏向電磁石は、対向する2個の励磁コイルを有する構成を例示しているが、それ以外の数の励磁コイルで偏向電磁石を構成しても良い。また、本実施形態では、収束用(発散用)の電磁石(四極電磁石)として4個の励磁コイルを有する構成を例示しているが、それ以外の数の励磁コイルで収束用の電磁石を構成しても良い。特に対向する偶数個(6個)の励磁コイルで収束用の電磁石が構成される場合もある。
なお、本実施形態では、真空ダクト7を軸として四極電磁石21,22の外周に偏向電磁石20が設けられているが、偏向電磁石20を真空ダクト7の周囲に配置し、この偏向電磁石20の外周に四極電磁石21,22を配置しても良い。
なお、本実施形態では、ビーム輸送装置5の真空ダクト7の屈曲部の電磁石装置15に本発明が適用されることを例示したが、シンクロトロン加速器4の真空ダクト7の屈曲部に配置される屈曲用の電磁石装置10に本発明を適用しても良い。なお、粒子線ビーム輸送装置は、粒子線ビームRの輸送経路を有する装置であれば良く、この粒子線ビーム輸送装置には加速器が含まれる。
以上説明した実施形態によれば、1個の偏向電磁石20に対して少なくとも2個の四極電磁石21,22を粒子線ビームRの進行方向に並べて配置し、偏向電磁石20および四極電磁石21,22を一体的に収容して断熱する断熱容器24を持つことにより、粒子線ビームRの輸送経路を簡素化・短尺化することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。