JP6622060B2 - パラメトリックスピーカ、信号処理装置、及び信号処理プログラム - Google Patents

パラメトリックスピーカ、信号処理装置、及び信号処理プログラム Download PDF

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Description

本発明は、パラメトリックスピーカ、信号処理装置、及び信号処理プログラムに関する。
従来、超音波を用いて高い指向性を実現するパラメトリックスピーカが知られている(例えば、特許文献1参照)。パラメトリックスピーカは、超音波帯域の搬送波を音声信号により変調した変調波を放射し、空中の非線形特性により変調波を自己復調して音声を伝達するものである。パラメトリックスピーカによる可聴領域は、変調波(超音波)の高い指向性によって直線状に存在する。そのため、直線状の可聴領域に存在する者のみに音を届けることが可能である。
特開2004−349816号公報
しかしながら、パラメトリックスピーカは、その指向性の高さゆえに壁や天井等の反射の影響を受けやすく、パラメトリックスピーカから直線状に延びる可聴領域から反射により屈曲した領域にも音が届きやすくなる。そのため、音を必要としない者が反射した領域に居る場合、その者にも音が届いてしまう。また、パラメトリックスピーカから直線状に延びる可聴領域内であれば、パラメトリックスピーカから離れた位置にも音が届きやすくなるため、例えばパラメトリックスピーカの近傍だけに可聴領域を設定するようなことは困難である。
本発明は、以上のような実情に鑑み、可聴領域の設定の自由度を高めることができるパラメトリックスピーカ、信号処理装置、及び信号処理プログラムを提供することを目的とする。
(1)本発明のパラメトリックスピーカは、
超音波帯域の搬送波を生成する搬送波生成部と、
可聴帯域の音波信号により前記搬送波を振幅変調して変調波を生成する変調部と、
前記変調波を、搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部と、
複数の超音波発生素子を有するスピーカ本体と、
前記第1分離波と前記第2分離波とをそれぞれ互いに異なる前記超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部と、を備えている。
搬送波を可聴帯域の音波信号によって振幅変調することによって生成された変調波は、搬送波の周波数成分と側帯波の周波数成分とによって構成され、空気中において搬送波の周波数成分と側帯波の周波数成分との差音が可聴音となって再生される。つまり、搬送波の周波数成分と側帯波の周波数成分とが存在する領域において目的の可聴音が再生される。
上記構成のパラメトリックスピーカにおいては、帯域分離部によって変調波が第1分離波と第2分離波とに分離され、第1分離波と第2分離波とは、互いに異なる超音波素子から互いに異なる方向に放射されるように位相が制御される。そのため、第1分離波と第2分離波との双方が重複して存在する限られた領域のみにおいて目的とする可聴音を再生することができ、可聴領域の指向方向を調整することもできる。したがって、可聴領域の設定の自由度を高めることができる。
(2)前記位相制御部は、前記第1分離波と前記第2分離波とが互いに重なる領域が前記スピーカ本体の近傍に設定されるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御することができる。
このような構成によって、パラメトリックスピーカの近傍のみに可聴領域を設定することができ、パラメトリックスピーカから離れた場所にいる者に音が届かないようにすることができる。
(3)前記位相制御部は、前記第1分離波と前記第2分離波とが互いに重なる領域が、前記スピーカ本体から離れるほど狭くなるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御してもよい。
このような構成によって、パラメトリックスピーカから近くにいる者には音が届くが、パラメトリックスピーカから離れた場所にいる者に音が届かないように可聴領域を設定することができる。
(4)前記帯域分離部は、前記第2変調波をさらに周波数成分に応じて複数に分割し、
前記位相制御部は、複数に分割された第2分離波をそれぞれ異なる超音波発生素子から異なる方向に放射させるように各第2分離波の位相を制御することが好ましい。
このような構成によって側帯波に含まれる複数の周波数成分の差音によって目的としない可聴音が再生されるのを抑制することができる。
(5)前記複数の超音波発生素子は、平面状に配列されていることが好ましい。
このような構成により、簡素な構成のスピーカ本体を用いて可聴領域の設定の自由度を高めることができる。
(6)前記スピーカ本体は、人体に装着して用いられてもよい。
この構成によれば、使用者の身体にスピーカ本体を装着し、その者の耳の近傍に可聴領域を設定することによってその者のみに音を届けることが可能となる。
(7)前記位相制御部は、前記第1分離波及び前記第2分離波のそれぞれの放射に伴って発生するグレーティングローブが互いに重なる領域の大きさに基づいて、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御することが好ましい。
この構成によれば、例えば、各分離波により発生するグレーティングローブが互いに重なる領域を小さくするように第1分離波及び第2分離波の位相を制御することによって、グレーティングローブに起因する、目的としない可聴音の発生を抑制することが可能となる。
(8)本発明の信号処理装置は、可聴帯域の音波信号によって超音波帯域の搬送波を振幅変調することにより生成された変調波を、前記搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、前記変調波の側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部と、
前記第1分離波と前記第2分離波とを、それぞれ互いに異なる超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部と、を備えているものである。
(9)本発明の信号処理プログラムは、可聴帯域の音波信号によって超音波帯域の搬送波を振幅変調することにより生成された変調波を、前記搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、前記変調波の側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部、及び、
前記第1分離波と前記第2分離波とを、それぞれ互いに異なる超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部として、コンピュータを機能させるものである。
本発明によれば、パラメトリックスピーカにおける可聴領域の設定の自由度を高めることができる。
実施形態に係るパラメトリックスピーカを備えた音響システムの概略構成図である。 スピーカ本体の正面説明図である。 パラメトリックスピーカの原理を示す説明図である。 変調波が可聴音に復調される原理を示す説明図である。 側帯波の分割を説明する図である。 変調波の位相制御を説明する図である。 評価実験におけるマイクロホンの配置を示す図である。 評価実験1における搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の放射方向を示す説明図である。 再生された可聴音の音圧レベルを示す図である。 搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の音圧レベルを示す図である。 評価実験2における搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の放射方向を示す説明図である。 再生された可聴音の音圧レベルを示す図である。 搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の音圧レベルを示す図である。 評価実験3における搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の放射方向を示す説明図である。 再生された可聴音の音圧レベルを示す図である。 搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の音圧レベルを示す図である。 評価実験4における搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の放射方向を示す説明図である。 再生された可聴音の音圧レベルを示す図である。 搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の音圧レベルを示す図である。 グレーティングローブの発生方向を示す説明図である。 グレーティングローブによる可聴領域を示す説明図である。
<実施形態>
以下、実施形態に係るパラメトリックスピーカを図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るパラメトリックスピーカを備えた音響システムの概略構成図である。
音響システム10は、信号生成装置11と、パラメトリックスピーカ12とを備えている。信号生成装置11は、信号源13と、フィルタ処理部14と、を備えている。信号源13は、音声信号やオーディオ信号等の可聴帯域の音波信号を生成し、フィルタ処理部14に出力する。フィルタ処理部14は、信号波に所定の特性を付与したうえで当該信号波をパラメトリックスピーカ12へ出力する。
図3は、パラメトリックスピーカ12の原理を示す説明図である。パラメトリックスピーカ12は、20kHz以上の高い周波数で人間が音として知覚できない超音波を搬送波として生成し、信号生成装置11により生成された可聴音である音波信号によって搬送波を振幅変調し、生成された変調波を空気中に放射する。放射された変調波は空気中を伝播する過程で空気の非線形性により歪みを生じ、この歪みによって可聴音が自己復調する。
具体的に、パラメトリックスピーカ12は、スピーカ本体21と、信号処理部22とを備えている。図2は、スピーカ本体21の正面説明図である。スピーカ本体21は、超音波を放射する複数の超音波発生素子23を備えている。複数の超音波発生素子23は、支持基板24上に平面状に配列された状態で設けられている。例えば、図2における上下方向に一列に並べられた複数の超音波発生素子23が、図2における左右方向に複数列で設けられている。図2に示す例では、上下一列に並べられた複数(例えば10個)の超音波発生素子23が、左右N列に配列されている。図2において、各列の間隔がdで示されている。
図1に示すように、信号処理部22は、搬送波生成部31と、変調部32と、帯域分離部33と、位相制御部34と、増幅部35とを備えている。
搬送波生成部31は、所定の周波数の超音波からなる搬送波を生成し、変調部32に出力する。この搬送波生成部31は、例えば水晶振動子等を用いた高周波発振器を含んで構成されている。本実施形態では、40kHzの搬送波を生成して変調部32に出力する。
変調部32は、信号生成装置11から入力された音波信号によって、搬送波生成部31から入力された搬送波を振幅変調し、振幅変調波を生成する。
帯域分離部33は、変調波を周波数成分に応じて複数の分離波に分離するものである。
ここで、搬送波の周波数をf、時間をt、搬送波の最大振幅をAとすると、搬送波v(t)は、次の式(1)で表すことができる。
また、信号生成装置11によって生成された音波信号の周波数をf、可聴音の最大振幅をAとすると、可聴音v(t)は、次の式(2)で表すことができる。
そして、可聴音の含有量を示す変調度をm(m≦1)とし、可聴音v(t)で搬送波v(t)を振幅変調すると、生成される変調波v(t)は、次の式(3)、(4)で表すことができる。
式(3)(4)で表される変調波v(t)は、三角関数の加法定理を用いて次の式(5)で表すことができる。
式(5)より、変調波v(t)は、搬送波に加えて、搬送波の周波数fと可聴音の音波信号の周波数fとの和の周波数(f+f)を有する側帯波と、差の周波数(f−f)を有する側帯波とによって構成されていることがわかる。このような変調波v(t)をパラメトリックスピーカ12から空気中に大音圧で放射すると、空気の非線形性により変調波が歪み、搬送波と両側帯波の差音が可聴音として再生される。
なお、本実施形態では、搬送波の周波数fと可聴音の音波信号の周波数fとの和の周波数(f+f)を有する側帯波と、差の周波数(f−f)を有する側帯波との差音による高調波歪みの発生で音質が低下するのを防止するため、フィルタ等を用いて和の周波数(f+f)を除去することによって、搬送波と差の側帯波(f−f)との差音を利用するSSB(Single Side Band)変調方式を用いることとしている。図4は、差の周波数(f−fS1)及び(f−fS2)を有する2つの側帯波と、搬送波との差音が可聴音として再生されることを例示している。
図1に戻って、信号処理部22の帯域分離部33は、変調波を、上記のような搬送波の周波数成分を有する第1分離波(以下、単に「搬送波」ともいう)と、側帯波の周波数成分を有する第2分離波(以下、単に「側帯波」ともいう)とに分離する。
また、帯域分離部33は、分離した側帯波(第2分離波)を、周波数に応じてさらに複数に分割する。一般的な音声や楽曲等の可聴音は多くの周波数を含むため、このような可聴音で搬送波を振幅変調すると、変調波は広帯域の信号となる。そのため、変調波を搬送波と側帯波とに分離すると、側帯波には多くの周波数が含まれ、側帯波間にも多くの差音が生じ、これらが復調されることによって目的としない可聴音(混変調歪み)が発生するおそれがある。
例えば、図5に示すように、4つの周波数fB1〜fB4を有する側帯波が存在するとき、各周波数の側帯波間に多くの差音が発生することになる。
そのため、本実施形態の帯域分離部33は、例えば、周波数fを閾値として複数の周波数fB1〜fB4を2つの周波数帯の側帯波(高域側帯波及び低域側帯波)に分割することによって、各側帯波間に存在する差音を少なくし、混変調歪みを抑制する。
図1に示すように、位相制御部34は、変調波を分離して生成した搬送波と側帯波(さらに複数に分割した側帯波)をそれぞれ異なる方向へ放射させるように、搬送波及び側帯波の位相を制御するものである。この位相制御部34による制御の詳細については、後述する。
増幅部35は、複数の超音波発生素子23毎に設けられている。この増幅部35は、例えば超音波帯域の増幅特性が良好なオペアンプ等を用いて構成されている。
搬送波生成部31、変調部32、帯域分離部33、および位相制御部34は、例えばCPU等の演算部やメモリ等の記憶部、その他、入出力インターフェース等を備えたコンピュータから構成されている。そして、演算部が、記憶部に読み込まれたコンピュータプログラムを実行することにより、搬送波生成部31、変調部32、帯域分離部33、および位相制御部34が実現されている。
(位相制御部34による制御)
図6は、変調波の位相制御を説明する図である。本実施形態の位相制御部34は、搬送波をスピーカ本体21の正面方向に放射し、低域側帯波及び高域側帯波をそれぞれ正面方向に対して互いに逆方向に傾斜して放射するように、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の位相を制御する。図6には、搬送波が放射される領域をP2、低域側帯波が放射される領域をP3、高域側帯波が放射される領域をP4で示し、各領域P2〜P4が重なる略三角形の領域をP1で示している。
図2に示すように、スピーカ本体21における超音波発生素子23の各列において、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波は、それぞれ異なる超音波発生素子23から放射される。また、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波は、それぞれ超音波発生素子23の全ての列から放射される。そして、低域側帯波及び高域側帯波は、それぞれ隣合う列同士で遅延時間が付与されることによって位相が制御され、正面方向に対して傾斜して放射される。つまり、位相制御部34は、各超音波発生素子23から放射される音波に遅延時間を付与する遅延フィルタにより構成される。
図6において、tは時刻、x(t)及びxB’(t)は低域側帯波及び高域側帯波、x(t)は搬送波、θ(ただし、k=B,B’)は低域側帯波及び高域側帯波の放射方向、dは超音波発生素子23の列間隔(図2参照)、cは音速、τ(ただし、k=B,B’)は、隣合う超音波発生素子23の列から放射される低域側帯波及び高域側帯波の遅延時間の差、Nは超音波発生素子23の列数(図2参照)、Dki(ただし、k=B,B’,C、i=1,2,…,N)は、低域側帯波、高域側帯波、及び搬送波に対するi列目の超音波発生素子23から放射される音波に付与される遅延時間である。
低域側帯波及び高域側帯波は、超音波発生素子23の列数Nの個数に分解され、それぞれ独立して遅延時間Dkiが付与される。これにより、各超音波発生素子23から放射される各側帯波の位相がずらされ、同相化された各側帯波x(t−Dki)の波面が、正面方向に対して傾斜した角度θに直交して形成され、各側帯波x(t−Dki)が正面方向に対して傾斜した方向に放射される。
遅延時間Dki(ただし、k=B,B’,C、i=1,2,…,N)は、超音波発生素子の列間隔dと、各側帯波と搬送波の放射方向θ(ただし、k=B,B’,C)と、各側帯波及び搬送波の遅延時間の差τ(ただし、k=B,B’,C)と、固定遅延Dとから、次の式(6)、(7)で表すことができる。
また、図6に示す可聴領域P1における可聴音x(t)は、次の式(8)で表すことができる。
図6における領域P1では、搬送波x(t)と各側帯波x(t),xB’(t)とが合成される。図4を参照して説明したように、変調波から復調される可聴音は、搬送波と側帯波との差音により生じるため、領域P1では、従来のパラメトリックスピーカから放射される変調波x(t)と同様の合成波が存在し、当該領域P1で合成波が可聴音へ復調される。これに対して、領域P2には搬送波のみが存在し、領域P3,P4には側帯波のみが存在するため、これらの領域P2〜P4では、目的とする可聴音は再生されない。また、搬送波及び側帯波は、いずれも超音波帯域の音波であり、人間にとっては非可聴音となるため、領域P2〜P4は非可聴領域となる。そのため、搬送波と側帯波とを1つのパラメトリックスピーカ12(スピーカ本体21)から異なる方向へ放射することによって可聴領域P1をパラメトリックスピーカの近傍における限られた範囲に形成することが可能となる。
したがって、例えば、パラメトリックスピーカの近傍に居る対象者のみに音を届けることができ、パラメトリックスピーカから離れた非対象者には音を届けないようにすることができる。また、低域側帯波及び高域側帯波の正面方向に対する傾斜角度をより小さくすることによって、パラメトリックスピーカからより離れた位置へ可聴領域を延ばしつつ、全ての帯域を正面方向に放射する場合に比べて可聴領域の幅を小さくすることができ、所定の距離までの範囲(例えば、反射面となる壁等に到達するまでの範囲)に可聴領域を制限することも可能である。したがって、壁等によって反射した音が非対象者に届いてしまうようなことも防止することができる。
なお、上記実施形態では、搬送波(第1分離波)を正面方向に放射し、低域側帯波及び高域側帯波(第2分離波)を正面方向に対して傾斜した方向に放射しているが、低域側帯波及び高域側帯波の一方を正面方向に放射し、低域側帯波及び高域側帯波の他方と搬送波とを正面方向に対して傾斜した方向に放射することもできる。また、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波のすべてを正面方向に対して傾斜する方向に放射してもよい。この場合、可聴領域の指向方向を正面方向から傾斜した方向に設定することができる。
<評価実験>
本出願の発明者は、以上に説明したようなパラメトリックスピーカの可聴領域の設定が有効であること確認するために評価実験を行った。具体的には、パラメトリックスピーカから放射した音波(変調波)を複数のマイクロホンで収録し、収録した可聴音の音圧レベルを算出し、その分布を求めた。図7に示すように、マイクロホンMは、0.1m間隔で縦横に110点配置し、パラメトリックスピーカ12のスピーカ本体21は、幅及び奥行(距離)が0mの位置(座標(0,0))に配置した。その他の条件は、次の表1の通りである。音源には、日本語1音声を用い、搬送波の周波数を40kHzとした。側帯波は、39kHzを閾値として32kHz〜39kHzを低域側帯波の周波数とし、39kHz〜39.9kHzを高域側帯波の周波数とした。
(評価実験1)
評価実験1では、図8に示すように、パラメトリックスピーカ12の正面方向を0°として、搬送波(第1分離波)を0°方向に放射し、低域側帯波(第2分離波)を0°方向からマイナス側(図8の左側)に傾斜した方向に放射し、高域側帯波を0°方向からプラス側(図8の右側)に傾斜した方向に放射した。
図9に、図7に示す複数のマイクロホンMによって測定した可聴音の音圧レベルを示す。図9における横軸及び縦軸は、図7におけるマイクロホンの配置に対応している。また、図9には、音圧レベルの高い可聴領域を円A1により囲んで示している。
図9(a)は、従来のパラメトリックスピーカから正面方向(0°方向)に変調波を放射した場合における可聴音の音圧レベルを示している。図9(a)から明らかなように、可聴領域A1は、パラメトリックスピーカの位置(幅及び距離が0mの位置)から正面方向に直線状に延びており、指向性の高い音場が形成されていることがわかる。
図9(b)は、搬送波(図中Cで示す)を正面方向(0°方向)に放射し、低域側帯波(図中LSで示す)を−5°方向に放射し、高域側帯波(図中HSで示す)を+5°方向に放射した場合の可聴音の音圧レベルを示す。この場合、可聴領域A1が正面方向に直線状に延びているが、図9(a)の場合よりも可聴領域A1の幅が狭く、指向性がより鋭くなっているといえる。
図9(c)は、搬送波Cを正面方向(0°方向)に放射し、低域側帯波LSを−10°方向に放射し、高域側帯波HSを+10°方向に放射した場合の可聴音の音圧レベルを示す。この場合、可聴領域A1が正面方向に直線状に延びているが、図9(a)(b)の場合よりも可聴領域A1の幅が狭くなっている。また、図9(c)では、可聴領域A1がパラメトリックスピーカから近い範囲で制限されていることがわかる。したがって、パラメトリックスピーカの正面方向であっても、可聴領域A1よりも離れた位置では目的とする可聴音が再生されない。したがって、搬送波及び側帯波の位相をそれぞれ独立して制御することにより、パラメトリックスピーカからの可聴領域A1の距離を制限することができる。
図9(d)は、搬送波Cを正面方向(0°方向)に放射し、低域側帯波LSを−15°方向に放射し、高域側帯波HSを+15°方向に放射した場合の可聴音の音圧レベルを示す。また、図9(e)は、搬送波Cを正面方向(0°方向)に放射し、低域側帯波LSを−20°方向に放射し、高域側帯波HSを+20°方向に放射した場合の可聴音の音圧レベルを示す。
図9(d)(e)のいずれの場合も、パラメトリックスピーカの正面に可聴領域A1が形成されているが、正面方向にはほとんど延びておらず、パラメトリックスピーカのごく近傍にのみ可聴領域A1が形成されている。したがって、パラメトリックスピーカの近傍に居る者のみに音を届け、パラメトリックスピーカから離れた者には音が届かないように可聴領域A1を制限することができる。
図10は、図9(e)に示したように、搬送波Cを正面方向(0°方向)、低域側帯波LS及び高域側帯波HSを、それぞれを−20°方向及び+20°方向に放射した場合において、搬送波C、低域側帯波LS、及び高域側帯波HSの音圧レベルを個別に測定した結果を示す。図10(a)に示すように低域側帯波LSは、円L1で囲んで示す音圧レベルの高い領域が正面方向に対して概ね−20°傾斜した方向に発生していることがわかる。同様に、図10(b)に示すように、搬送波Cは、音圧レベルの高い領域が正面方向に発生し、図10(c)に示すように、高域側帯波HSは、音圧レベルの高い領域が+20°方向に発生していることがわかる。したがって、位相制御部34による搬送波C及び側帯波LS,HSの位相の制御(指向方向の制御)が適切に行われているといえる。
(評価実験2)
評価実験2では、図11に示すように、パラメトリックスピーカの正面方向を0°として、搬送波(第1分離波)を0°方向に放射し、高域側帯波(第2分離波)を0°方向からマイナス側(図11の左側)に傾斜した方向に放射し、低域側帯波を0°方向からプラス側(図11の右側)に傾斜した方向に放射した。
図12には、図9と同様の態様で音圧レベルを測定した結果を示す。図12に示す測定結果においても、図9に示す測定結果と同様の傾向の測定結果が得られていることがわかる。ただし、側帯波の放射方向が±15°方向及び±20°方向である場合について、図9(d)(e)と図12(d)(e)とを比較すると、図9(d)(e)の方がより小さい範囲に可聴領域が設定されているといえる。
図13は、図12(e)に示したように、搬送波Cを正面方向(0°方向)、低域側帯波LS及び高域側帯波HSを、それぞれを+20°方向及び−20°方向に放射した場合において、搬送波C、低域側帯波LS、及び高域側帯波HSの音圧レベルを個別に測定した結果を示す。この結果も、図10に示す結果と同様の傾向が見られた。
(評価実験3)
評価実験3では、図14に示すように、パラメトリックスピーカの正面方向を0°として、搬送波(第1分離波)をマイナス側(図14の左側)に傾斜した方向に放射し、低域側帯波を0°方向に放射し、高域側帯波を0°方向からプラス側(図14の右側)に傾斜した方向に放射した。
図15には、図9と同様の態様で音圧レベルを測定した結果を示す。図15に示す測定結果においても、図9に示す測定結果と同様の傾向の測定結果が得られていることがわかる。ただし、側帯波LS,HSの放射方向が±15°方向及び±20°方向である場合について、図9(d)(e)と図15(d)(e)とを比較すると、図9(d)(e)の方がより小さい範囲に可聴領域が設定されているといえる。
図16は、図15(e)に示したように、搬送波Cを−20°方向、低域側帯波LSを0°方向、高域側帯波HSを+20°方向に放射した場合において、搬送波C、低域側帯波LS、及び高域側帯波HSの音圧レベルを個別に測定した結果を示す。この結果も、図10に示す結果と同様の傾向が見られた。
(評価実験4)
評価実験4では、図17に示すように、パラメトリックスピーカの正面方向を0°として、搬送波(第1分離波)をプラス側(図17の右側)に傾斜した方向に放射し、低域側帯波をマイナス側(図17の左側)に傾斜した方向に放射し、高域側帯波を0°方向に放射した。
図18には、図9と同様の態様で音圧レベルを測定した結果を示す。図18に示す測定結果においても、図9に示す測定結果と同様の傾向の測定結果が得られていることがわかる。ただし、搬送波及び低域側帯波の放射方向が±5°及び±10°について、図9(b)(c)と図18(b)(c)とを比較すると、図18(b)(c)の方が可聴領域の幅が小さくなり、より鋭い指向性が得られているといえる。
図19は、図18(e)に示したように、搬送波Cを20°方向、低域側帯波LSを−20°方向、高域側帯波HSを0°方向に放射した場合において、搬送波C、低域側帯波LS、及び高域側帯波HSの音圧レベルを個別に測定したものである。この結果も、図10に示す結果と同様の傾向が見られた。
(グレーティングローブの検討)
例えば、図10(a)(c)に示すように、低域側帯波及び高域側帯波では、音圧レベルの高い領域が、円L1で囲んで示す本来の側帯波の放射方向だけでなく、円L2で囲んで示す領域にも生じていることが分かる。これは、アレイ状に配列された超音波発生素子から放射される本来の側帯波(メインローブ)に対して妨害波となる音波(グレーティングローブ)である。このようなグレーティングローブが他のグレーティングローブと重なると、例えば、図9(e)に示すように、本来の可聴領域A1以外に、可聴音が再生される領域A2が生じる可能性がある。
一般に、グレーティングローブは、次の式(9)によってその発生方向θを算出することができる。
ただし、θは、0°方向に対するグレーティングローブの発生方向(発生角度)、θは、0°方向に対するメインローブの放射方向(放射角度)、fは音波の周波数、cは音速、dは超音波発生素子の列間隔である。
図20に示すように、変調波を構成する搬送波、低域側帯波、高域側帯波の各メインローブの放射方向θと、それぞれのグレーティングローブの発生方向θとは、0°方向を挟んで互いに反対側に現れる。そして、式(9)によると、グレーティングローブの発生方向θは、周波数fが大きくなるほど小さくなる。そのため、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波のメインローブの放射方向θが同一である場合、メインローブとグレーティングローブとがなす角度(θ+θ)も、より周波数fの大きい搬送波が小さくなり、より周波数fの小さい低域側帯波が大きくなる。
以上のようなメインローブ及びグレーティングローブの性質を考慮することによって、グレーティングローブ同士が重なり合う領域、つまり目的としない可聴音の発生する領域を制御することが可能となる。
例えば、図21には、搬送波、高域側帯波、及び低域側帯波を、周波数の小さいものほど放射角度θを大きくした場合(図21(a)参照)と、逆に、周波数の小さいものほど放射角度θを小さくした場合(図21(b)参照)とを示している。両者を比較すると、それぞれのグレーティングローブが重なる領域A2は、後者の方が前者よりも小さくなる。つまり、グレーティングローブの重なりによって生成される可聴領域A2が小さくなる。したがって、周波数の大きさに応じて搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の放射方向(位相)を設定することによって、グレーティングローブに起因して発生する可聴領域を制御することが可能であることがわかる。言い換えると、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波のグレーティングローブが互いに重なる領域の大きさに基づいて、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の位相を制御することによって、グレーティングローブに起因する、目的としない可聴音の発生を抑制することが可能となる。
なお、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波のいずれか1つをスピーカ本体の正面方向に放射するような場合、又は、少なくとも2つを正面方向に対して互いに逆向きに傾斜させて放射するような場合においても、上記式(9)の関係を用いてグレーティングローブが互いに重なる領域の大きさに基づいて、搬送波、低域側帯波、及び高域側帯波の位相を制御することができる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において適宜変更可能である。
例えば、スピーカ本体を構成する複数の超音波発生素子は、平面状に配列されるに限らず、曲面状に配列されていてもよい。
上記実施形態では、側帯波を低域側帯波と高域側帯波とに2分割していたが、3以上に分割してもよい。
上記スピーカ本体は、例えば、使用者の身体に装着して使用することができる。例えば、使用者の頭、顔、首、腕等にスピーカ本体を装着し、可聴領域を使用者の耳の付近に設定することによって、ヘッドホン等を用いなくても使用者のみに音を届けることが可能となる。なお、使用者の身体への「装着」には、例えば使用者の衣服のポケット等に入れた状態で携帯することも含む。
12:パラメトリックスピーカ
21:スピーカ本体
23:超音波発生素子
31:搬送波生成部
32:変調部
33:帯域分離部
34:位相制御部

Claims (6)

  1. 超音波帯域の搬送波を生成する搬送波生成部と、
    可聴帯域の音波信号により前記搬送波を振幅変調して変調波を生成する変調部と、
    前記変調波を、搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部と、
    複数の超音波発生素子が第1の方向に配列されてなる列が前記第1の方向に直交する第2の方向に複数列配置されたスピーカ本体と、
    前記第1分離波と前記第2分離波とを、それぞれ互いに異なる前記超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部と、を備え、
    前記複数列のそれぞれは、前記第1分離波と前記第2分離波との両方を放射し、かつ、前記列に含まれる前記複数の超音波発生素子それぞれは、前記第1分離波と前記第2分離波とのうちのいずれか1つを放射し、
    前記位相制御部は、前記列ごとに、前記列から放射させる前記第1分離波及び前記第2分離波のそれぞれに対して、放射させる方向に応じた遅延時間を付与し、
    前記帯域分離部は、前記第2分離波を周波数成分に応じて複数に分割して複数の分割波とし、
    前記位相制御部は、前記第1分離波及び前記複数の分割波を異なる方向に放射させるようにそれぞれの位相を制御し、
    前記互いに異なる方向は、前記第1分離波及び前記複数の分割波の全てが重なる領域が前記スピーカ本体の近傍に設定され、かつ、前記スピーカ本体から離れるほど狭くなるような方向である、パラメトリックスピーカ。
  2. 前記複数の超音波発生素子が平面状に配列されている、請求項1に記載のパラメトリックスピーカ。
  3. 少なくとも前記スピーカ本体が、人体に装着して用いられる請求項1又は2に記載のパラメトリックスピーカ。
  4. 前記位相制御部は、前記第1分離波及び前記第2分離波のそれぞれの放射に伴って発生するグレーティングローブが互いに重なる領域の大きさに基づいて、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する、請求項1〜のいずれか1項に記載のパラメトリックスピーカ。
  5. 可聴帯域の音波信号によって超音波帯域の搬送波を振幅変調することにより生成された変調波を、前記搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、前記変調波の側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部と、
    前記第1分離波と前記第2分離波とを、第1の方向に複数の超音波発生素子が配列されてなる列が前記第1の方向に直交する第2の方向に複数列配置されている複数の超音波素子のうち、それぞれ互いに異なる超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部と、を備えて、
    前記複数列のそれぞれは、前記第1分離波と前記第2分離波との両方を放射し、かつ、前記列に含まれる前記複数の超音波発生素子それぞれは、前記第1分離波と前記第2分離波とのうちのいずれか1つを放射し、
    前記位相制御部は、前記列ごとに、前記列から放射させる前記第1分離波及び前記第2分離波のそれぞれに対して、放射させる方向に応じた遅延時間を付与し、
    前記帯域分離部は、前記第2分離波を周波数成分に応じて複数に分割して複数の分割波とし、
    前記位相制御部は、前記第1分離波及び前記複数の分割波を異なる方向に放射させるようにそれぞれの位相を制御し、
    前記互いに異なる方向は、前記第1分離波及び前記複数の分割波の全てが重なる領域が前記複数の超音波発生素子を有するスピーカ本体の近傍に設定され、かつ、前記スピーカ本体から離れるほど狭くなるような方向である、信号処理装置。
  6. 可聴帯域の音波信号によって超音波帯域の搬送波を振幅変調することにより生成された変調波を、前記搬送波の周波数成分を有する第1分離波と、前記変調波の側波帯の周波数成分を有する第2分離波とに分離する帯域分離部、及び、
    第1の方向に複数の超音波発生素子が配列されてなる列が前記第1の方向に直交する第の方向に複数列配置されている複数の超音波素子のうち、前記第1分離波と前記第2分離波とを、それぞれ互いに異なる超音波発生素子から互いに異なる方向に放射させるように、前記第1分離波及び前記第2分離波の位相を制御する位相制御部として、コンピュータを機能させ、
    前記位相制御部は、前記列ごとに、前記列から放射させる前記第1分離波及び前記第2分離波のそれぞれに対して、放射させる方向に応じた遅延時間を付与し、
    前記帯域分離部は、前記2分離波を周波数成分に応じて複数に分割して複数の分割波とし、
    前記位相制御部は、前記第1分離波及び前記複数の分割波を異なる方向に放射させるようにそれぞれの位相を制御し、
    前記互いに異なる方向は、前記第1分離波及び前記複数の分割波が重なる領域が前記複数の超音波発生素子を有するスピーカ本体の近傍に設定され、かつ、前記スピーカ本体から離れるほど狭くなるような方向である、信号処理プログラム。
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