以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図8は本発明の一実施形態に係る変速制御装置を説明する図であり、図1はその変速制御装置を搭載する車両の一例を示す図である。
図1において、車両100は、動力源として、内燃機関型のエンジン101と、モータジェネレータ(MG)として機能する回転電機103、105とを備えている。この車両100は、これらエンジン101や回転電機103、105の出力する回転動力を駆動輪109に動力伝達機構110を介して伝達して転動させることにより走行する。なお、この車両100は、ドライバが不図示のフットブレーキを踏み込むことで機能する摩擦式ブレーキ(制動機構)140が駆動輪109の回転を摩擦制動することにより減速停止するようになっている。
動力伝達機構110は、エンジン101の出力する回転動力を入力される入力軸111と、デファレンシャルギヤ(差動歯車装置)150に連結されて左右の駆動輪109のそれぞれに伝達する回転動力を出力する出力軸112と、入力軸111および出力軸112との間に介在して回転動力を中継するように伝達する伝達軸113と、入力軸111と伝達軸113の間に配置されてエンジン101の回転動力を回転電機103、105に分配して出力させる動力分配機構115と、出力軸112と伝達軸113との間に配置されて動力分配機構115から伝達される回転動力を備える変速段で自動変速して出力する自動変速機構117と、を備えて構築されている。
この動力伝達機構110は、軸心が共通の軸線となるように、入力軸111、出力軸112および伝達軸113がトランスミッションケース119内に直列に収容されて、それぞれ回転自在に軸受などを介して支持されている。ここで、出力軸112の回転速度(回転数)は車速センサ132が検出し、回転電機103のロータの回転速度は回転速度センサ133が検出し、回転電機105のロータと一体の伝達軸113の回転速度は回転速度センサ135が検出するようにそれぞれ設置されている。これら車速センサ132および回転速度センサ133、135は、後述のECU11にセンサ信号を送信可能に接続されている。なお、図1は、動力伝達機構110が入力軸111などの軸心を中心にして回転対称に構成されているため、図中下側を省略する骨子図(スケルトン図)である。
動力分配機構115は、第1の回転電機(MG1)103と第2の回転電機(MG2)105とが切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えるシングルピニオン型の遊星歯車機構121に連結されて、エンジン101の回転動力を分配出力するようになっている。遊星歯車機構121は、サンギヤS0、プラネタリギヤP0、キャリヤCA0、およびリングギヤR0を回転要素として備えている。第1の回転電機103は、遊星歯車機構121のサンギヤS0にロータが一体回転するように連結されている。第2の回転電機(MG2)105は、遊星歯車機構121のリングギヤR0および伝達軸113と一体的にロータが回転するように連結されている。また、遊星歯車機構121のキャリヤCA0は入力軸111、すなわちエンジン101の出力軸に連結されている。切換ブレーキB0はトランスミッションケース119に設置されて、サンギヤS0を締結または解放する。切換クラッチC0はそのサンギヤS0とキャリヤCA0との間を締結または解放する。なお、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、油圧により駆動して圧接する対象部材との係合圧力を調整することにより締結状態や解放状態や摩擦接触(所謂、摺動)状態を維持する摩擦係合要素により構築されている。
この動力分配機構115は、例えば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放状態にされると、サンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0がそれぞれ相対回転可能な差動状態にされる。このとき、エンジン101の出力(回転動力)が第1の回転電機103と第2の回転電機105(伝達軸113)とに分配されて、例えば、そのエンジン101の分配出力で第1の回転電機103が発電機として駆動され、また、第2の回転電機105が電動機として駆動される。これにより、動力分配機構115は、回転電機103、105による所謂、無段変速状態(電気的CVT:Continuously Variable Transmission)になり、エンジン101の所定回転数に拘わらずに、伝達軸113の回転数を連続的に変化させる差動状態にすることができ、入力軸111の回転速度/伝達軸113の回転速度の変速比を連続的に変化させる電気的な無段変速機として機能可能な無段変速状態とすることができる。なお、回転電機103、105は、電動機として機能する際にインバータ107を介してバッテリ108内に蓄電されている電力の供給(放電)を受けて回転駆動し、また、発電機として機能する際の発電電力はインバータ107を介してバッテリ108に充電(蓄電)される。
また、動力分配機構115は、切換クラッチC0または切換ブレーキB0の一方が締結状態にされると、差動回転不能な非差動状態にされる。例えば、動力分配機構115は、サンギヤS0とキャリヤCA0とが切換クラッチC0により締結されると、リングギヤR0も含めて一体回転されるロック状態にされて差動回転不能な非差動状態とされる。このとき、エンジン101の回転数と伝達軸113の回転数とが一致する変速比「1」に固定される。これにより、動力分配機構115が非無段変速状態の定変速状態になって、自動変速機構117による有段変速可能な状態にされる。
また、この動力分配機構115は、サンギヤS0が切換ブレーキB0によりトランスミッションケース119側に連結されてロック状態にされても、差動回転不能な非差動状態にされる。このとき、リングギヤR0はキャリヤCA0よりも増速回転される。これにより、動力分配機構115が非無段変速状態の定増速(変速)状態になって、自動変速機構117による有段変速可能な状態にされる。
自動変速機構117は、シングルピニオン型の第1遊星歯車機構125、第2遊星歯車機構126、および第3遊星歯車機構127と共に、切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3を備えて、4速の有段式自動変速機として機能する。第1遊星歯車機構125は、サンギヤS1、プラネタリギヤP1、キャリヤCA1、およびリングギヤR1を回転要素として備えている。第2遊星歯車機構126は、サンギヤS2、プラネタリギヤP2、キャリヤCA2、およびリングギヤR2を回転要素として備えている。第3遊星歯車機構127は、サンギヤS3、プラネタリギヤP3、キャリヤCA3、およびリングギヤR3を回転要素として備えている。なお、切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0と同様の摩擦係合要素により構築されている。
この自動変速機構117では、サンギヤS1およびサンギヤS2が一体回転するように連結されて、切換クラッチC2を介して伝達軸113に締結または解放可能に連結されている。また、リングギヤR2およびサンギヤS3は一体回転するように連結されて、切換クラッチC1を介して伝達軸113に締結または解放可能に連結されている。さらに、リングギヤR1、キャリヤCA2およびキャリヤCA3は出力軸112に一体回転するように連結されている。そして、切換ブレーキB1、B2、B3はトランスミッションケース119に設置されており、切換ブレーキB1は一体回転するサンギヤS1およびサンギヤS2を締結または解放し、切換ブレーキB2はキャリヤCA1を締結または解放し、切換ブレーキB3はリングギヤR3を締結または解放する。
このように構成された動力伝達機構110は、後述するECU11の駆動制御によって、動力分配機構115の切換クラッチC0と切換ブレーキB0のいずれかが駆動されて締結状態にされ、自動変速機構117の切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3が選択的に駆動されて締結状態にされる。これにより、動力分配機構115から伝達軸113を介して伝達されるエンジン101や回転電機103、105の回転動力は、車速等の各種運転状況に応じて後述の変速段に切り換えられることにより、変速されつつ出力軸112から駆動輪109側へと出力される。すなわち、動力伝達機構110が有段変速機を構成している。
また、動力伝達機構110は、後述するECU11の駆動制御によって、動力分配機構115の切換クラッチC0と切換ブレーキB0が解放状態にされることで無段変速状態とされ、自動変速機構117を含めて電気的な無段変速機として機能可能な状態にされる。
なお、動力伝達機構110は、自動変速機構117の切換クラッチC1、C2の一方が締結状態にされることにより回転動力を出力可能に伝達経路が形成されるが、その双方共に解放状態にされることにより回転動力の伝達経路が遮断状態にされる。
詳細には、この動力伝達機構110は、図2の締結作動表に示すように、動力分配機構115の切換クラッチC0および切換ブレーキB0と、自動変速機構117の切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3とが選択的に締結されることにより、無段変速段、あるいは、1速(1st)、2速(2nd)、3速(3rd)、4速(4th)、5速(5th)、R(Reverse)、N(Neutral)のいずれかの有段変速段が選択されて伝達経路が形成される。なお、図2に図示する「○」は選択駆動時に締結状態にされることを示し、また「◎」は上述の有段変速時の選択駆動時には締結状態にされるが無段変速時の選択駆動時には解放状態にされることを示している。また、車両100は、不図示のシフトレバーの選択操作により、例えば、駐車「P(パーキング)」、後進走行「R(リバース)」、動力伝達経路遮断の中立「N(ニュートラル)」、前進走行「D(ドライブ)」、前進走行「M(マニュアル)」のいずれかを選択可能に備えており、「D」ポジションの選択時に無段変速制御を実行し、また、「M」ポジションの選択時に有段変速制御を実行するようになっている。
そして、図3に示すように、ECU(Electronic Control Unit)11は、予めメモリ12内に格納されている制御プログラムに従って車両100全体を統括制御するようになっている。ECU11は、図中左側に示す各種センサ情報等の信号入力を受けて、図中右側に示す各種装置機器に制御情報等の信号出力をすることにより、例えば、エンジン101や回転電機103、105の駆動を制御し、また、動力伝達機構110の切換クラッチC0、C1、C2と切換ブレーキB0、B1、B2、B3の駆動を制御して動力分配機構115や自動変速機構117を制御するようになっている。
ここで、ECU11は、図3中の左側に信号入力用インタフェースが準備されている。このECU11は、詳細な図示は省略するが、例えば、エンジン水温のセンサ信号、シフトレバーの選択ポジションのセンサ信号、回転電機103の回転数の回転速度センサ133のセンサ信号、回転電機105の回転数の回転速度センサ135のセンサ信号、エンジン101の回転数NEのセンサ信号、吸気温度のセンサ信号、Mモード(手動変速操作)スイッチの切換信号、エアコン(エアーコンディショナ)の操作信号、車速(出力軸112)の車速センサ132のセンサ信号、動力伝達機構110におけるAT(Automatic Transmission)の油温のセンサ信号、ECT(Electronic Controlled Transmission)のスイッチの操作信号、サイドブレーキの操作信号、フットブレーキ(ブレーキペダルの踏込量)のセンサ信号、触媒温度のセンサ信号、アクセル開度(アクセルペダルの踏込量)のセンサ信号、カム角のセンサ信号、スノーモードの設定信号、車両前後方向の加速度のセンサ信号、オートクルーズ走行等の自動運転走行の各種信号、過給器のタービンの回転数NTのセンサ信号、車両の重量(車重)のセンサ信号などの各種信号が入力可能になっている。
また、ECU11は、図3中の右側に信号出力用インタフェースが準備されている。このECU11は、詳細な図示は省略するが、例えば、インジェクタ(燃料噴射装置)の駆動制御信号、吸気管の電子スロットル弁の駆動制御信号、過給圧の調整制御信号、電動エアコンへの制御信号、エンジン101の燃焼室のプラグの点火信号、回転電機103(MG1)の駆動制御信号、回転電機105(MG2)の駆動制御信号、並列処理する別個の駆動制御処理を実行するコントローラA、Bへの制御信号、ギヤ比インジケータへの表示信号、スノーモードインジケータへの表示信号、ATライン圧コントロールソレノイドへの駆動制御信号、ABS(Anti-lock Brake System)アクチュエータへの駆動制御信号、Mモード(手動変速操作)インジケータへの表示信号、ATソレノイドへの駆動制御信号、AT電動オイルポンプへの駆動制御信号、ポンプへの駆動制御信号、電動ヒータへの駆動制御信号、ギヤ比インジケータへの表示信号などの各種信号、並列処理するオートクルーズ走行等の自動運転走行のコントロール制御処理を実行するコントローラCへの制御信号が出力可能になっている。
また、ECU11は、装置各部に設置されているセンサなどからの各種入力信号に基づいて対応する各種出力信号を生成し、例えば、不図示のソレノイドなどに駆動制御信号を出力する。このECU11は、動力伝達機構110を構成する動力分配機構115や自動変速機構117の切換クラッチC0、C1、C2および切換ブレーキB0、B1、B2、B3の締結・解放を切り換える締結油圧あるいは解放油圧を適宜に供給して変速制御処理を実行させる。
この動力伝達機構110の動力分配機構115や自動変速機構117は、切換クラッチC0、C1、C2および切換ブレーキB0、B1、B2、B3が適宜締結されることにより、それぞれの回転要素(サンギヤS、キャリヤCA、リングギヤR)が図4の共線図に示す回転速度の関係を維持する状態で回転する。なお、図4の共線図では、連結されて一体回転する回転要素(サンギヤS、キャリヤCA、リングギヤR)が一つの縦線にまとめられて、図中に数字で示す回転速度比(変速比)になるように各縦線の離隔間隔が設定されており、その縦線を横断する直線状の交差線とその縦線との交点がその回転要素毎の回転速度になるように作図されている。この図4には、1速の変速比(1st:3.357)などの変速段毎の変速比が図示されており、動力分配機構115や自動変速機構117において、後述するように一体回転する各回転要素毎の縦線間距離に応じた各変速比も図示されている。
例えば、図4に示すように、動力分配機構115は、図2に示す切換クラッチC0または切換ブレーキB0が締結状態の有段変速時には、サンギヤS0、キャリヤCA0およびリングギヤR0の噛み合い位置が固定されて直結状態で回転される。このとき、動力分配機構115は、回転動力が伝達される経路が形成され、回転要素毎の縦線に対して直交する交差線とその縦線との交点が横一線となって等速回転になる。すなわち、動力分配機構115の締結状態時には、サンギヤS0とロータが一体回転する回転電機103と、キャリヤCA0と一体回転する入力軸111に出力軸が連結されるエンジン101と、リングギヤR0とロータが一体回転する回転電機105とが等速回転されて、入力軸111から伝達軸113を介して出力軸112の前段の自動変速機構117に回転動力が伝達出力される。
要するに、動力分配機構115の締結状態の有段変速時において、入力軸111から出力軸112に伝達出力される回転動力の変速比は、自動変速機構117の切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3の締結状態や解放状態に応じた有段変速切換により決定される。
また、動力分配機構115は、図2に示す切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放状態の無段変速時には、歯数に応じた変速比で噛み合い位置が変化されるサンギヤS0、キャリヤCA0およびリングギヤR0の回転要素毎の縦線に対して傾斜する交差線とその縦線との交点が上下に異なって差動回転になる。すなわち、動力分配機構115の解放状態(無段変速)時には、回転電機103に連結されているサンギヤS0と、エンジン101に連結されているキャリヤCA0(入力軸111)と、回転電機105に連結されているリングギヤR0との差動回転が許容されて、入力軸111から出力される回転動力が出力軸112の前段の自動変速機構117側の伝達軸113に伝達される。
要するに、動力分配機構115の解放状態の無段変速時における、入力軸111から出力軸112に伝達出力される回転動力の変速比は、動力分配機構115の切換クラッチC0および切換ブレーキB0の締結状態や解放状態に応じた回転電機103、105の差動回転に基づく無段変速比に加えて、自動変速機構117の切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3の締結状態や解放状態に応じた有段変速切換により決定される。
このとき、自動変速機構117は、切換クラッチC1、C2が締結状態の場合、それぞれの縦線に対して直交する交差線とその縦線との交点が横一線となって等速回転される。すなわち、自動変速機構117は、伝達軸113や動力分配機構115を介して等速の変速比で入力軸111から伝達される回転動力をそのまま等速伝達して出力軸112を等速回転させる。
また、自動変速機構117は、切換クラッチC1、C2および切換ブレーキB1、B2、B3の締結状態や解放状態に応じてサンギヤS1〜S3、キャリヤCA1〜CA3、およびリングギヤR1〜R3がそれぞれの歯数に応じた変速比で回転される変速機構を構成することにより、その回転要素の縦線に対して傾斜する交差線とその縦線との交点が上下に異なる回転速度で差動回転される。すなわち、自動変速機構117は、サンギヤSなどの回転要素のそれぞれが適宜に差動回転することにより、動力分配機構115や伝達軸113を介して入力軸111から伝達される回転動力を伝達経路の回転要素間の変速比で変速して出力軸112に出力し回転させる。
そして、ECU11は、取得するセンサ信号などの各種情報に基づいてメモリ12内の制御プログラムを実行することにより、例えば、メモリ12内に格納されている図5に示す変速線図などのマップに従って動力伝達機構110の切換クラッチC0、C1、C2と切換ブレーキB0、B1、B2、B3の駆動を制御するようになっている。
具体的に、ECU11は、例えば、効率のよい走行を実現するために、図5の変速線図に示すように、出力軸112から出力することを要求されるトルクと車速とをパラメータとして、動力伝達機構110の切換クラッチC0、C1、C2と切換ブレーキB0、B1、B2、B3とを締結状態または解放状態にする駆動制御信号を出力して変速制御処理を実行するようになっている。ここで、図5は、車速と出力(要求)トルクとをパラメータとして変速切換制御を実行する際に用いる変速線SHd、SHuを示す変速線図の一例を示している。この図5には、有段変速と無段変速とを切り換えるための有段変速領域と無段変速制御領域との変速境界線GCc、GCtを示す変速切換線図の一例も図示されている。さらに、図5には、エンジン101の回転動力を走行トルクにするエンジン走行と、回転電機103、105の回転動力を走行トルクにするモータ走行とを切り換えるために、エンジン走行領域とモータ走行領域との動力境界線PTを示す動力源切換線図の一例も図示されている。
詳細には、ECU11は、図5中の変速線SHd、SHuを横切るタイミングに変速段切換制御処理を実行するようになっている。このとき、ECU11は、加速中に、低速側から高速側に向かってアップシフト変速線SHuを横切るタイミングに、例えば、2速から3速にアップシフトさせる変速段切換制御処理を実行する。また、ECU11は、減速中に、高速側から低速側に向かってダウンシフト変速線SHdを横切るタイミングに、例えば、4速から3速にダウンシフトさせる変速段切換制御処理を実行する。
このECU11は、図5中の変速境界線GCc、GCtを横切るタイミングに有段変速と無段変速とを切り換える制御処理を実行するようになっている。このとき、ECU11は、高トルク側から低トルク側に向かって無段変速境界線GCcを横切るタイミングに、自動変速機構117の変速段はそのままで、動力分配機構115の切換クラッチC0と切換ブレーキB0とを解放状態にして無段変速制御領域に移行する変速種切換制御処理を実行する。また、ECU11は、低トルク側から高トルク側に向かって有段変速境界線GCtを横切るタイミングに、自動変速機構117の変速段はそのままで、動力分配機構115の切換クラッチC0または切換ブレーキB0の一方を締結状態にして有段変速制御領域に移行する変速種切換制御処理を実行する。
ここで、本実施形態の動力伝達機構110は、図2に示すように、動力分配機構115の切換ブレーキB0と、自動変速機構117の切換クラッチC2とを締結状態にして5速に変速する機構に構成されている。このため、ECU11は、有段変速制御により5速が選択されて低トルクで高速走行している状態のまま減速されて無段変速境界線GCcを横切るタイミングには、自動変速機構117の変速段はそのままで、動力分配機構115の切換ブレーキB0を解放状態にして実質4速での無段変速制御領域に移行する変速切換制御処理を実行するようになっている。また、ECU11は、有段変速制御により4速が選択されて低トルクで走行している状態のまま加速されて有段変速境界線GCtを横切るタイミングには、自動変速機構117の変速段はそのままで、動力分配機構115の切換ブレーキB0を締結状態にして実質5速での有段変速制御領域に移行する変速切換制御処理を実行するようになっている。
また、ECU11は、走行開始時などの図5中の動力境界線PT内のモータ走行領域では、エンジン101を動力伝達経路から切り離し、あるいは、空転状態にするとともに、動力分配機構115の切換クラッチC0と切換ブレーキB0とを解放状態(無段変速制御領域)にして、回転電機105を適宜に駆動させて回転動力を伝達することにより車両100を加速走行させるようになっている。なお、ECU11は、車両100の走行を開始して図5のモータ走行領域外に移行した後には、エンジン101の回転動力を伝達して車両100を走行させるエンジン走行領域とする。このときに、ECU11は、例えば、バッテリ108の蓄電電力を回転電機105に供給して回転駆動させることにより、走行トルクを出力軸112に伝達出力させる、所謂、トルクアシストを適宜実行するようにしてもよい。なお、このトルクアシストは、駆動輪109の転動するトルクを回転電機103に伝達して負荷(入力)することにより、その回転電機103を発電機として駆動させて、その発電電力を回転電機105に供給して実行するようにしてもよい。
さらに、車両100には、例えば、高速道路上でのアクセル操作等を簡略化してドライバの運転操作を支援することにより自動走行を実現する、所謂、オートクルーズ走行モード(自動走行モード)が不図示のスイッチ操作等により選択指示可能に備えており、ECU11は、そのオートクルーズ走行モードの選択指示を自動運転走行信号から取得した場合、メモリ12内の制御プログラムを実行して、車速などの各種取得情報を自動運転走行制御コントローラCに送るようになっている。自動運転走行制御コントローラCは、ECU11から受け渡される車速などの各種取得情報に基づいてオートクルーズ制御信号を生成してECU11に返送する。ECU11は、受け取った制御信号に基づく車両100の自動運転走行制御処理を実行することにより、オートクルーズ走行を実現するようになっている。
自動運転走行制御コントローラCは、このオートクルーズ走行では、車速を一定に保ちつつ走行する定速制御モードと、先行車両に一定の車間距離を保ちつつ追随するように走行する車間制御モードとを、ECU11と連携して実行するようになっている。このECU11および自動運転走行制御コントローラCは、ドライバによるオートクルーズ走行の選択指示や各種走行条件の指定などの操作信号を取得して定速制御モードや車間制御モードを実行する。また、車両100においては、この定速制御モードや車間制御モードのオートクルーズ走行モードを実行可能にする各種機器が搭載されており、例えば、車速や加速度を検出するセンサ類に加えて、放射するミリ波の反射波を受け取って車間距離を検出する所謂、ミリ波レーダセンサや、先行車両との間で所謂、車車間通信を行ってブレーキ信号などの各種情報を受け取る通信機能を備えている。なお、本実施形態では、ミリ波レーダセンサで車間距離を検知する場合を一例にして説明するが、これに限るものでなく、例えば、カメラを搭載して撮影画像の画像処理により先行車両との間の車間距離を検出するようにしてもよい。
このオートクルーズ走行の定速制御モードでは、設定されている走行速度を維持するように、エンジン101や回転電機103、105の駆動や動力伝達機構110の切換と共に、摩擦式ブレーキ140の作動を自動制御するようになっている。例えば、高速道路の下り坂の走行中には、エンジン101のエンジンブレーキや回転電機103、105の回生制動を動力伝達機構110の変速比の切換により効果的に利用するとともに、摩擦式ブレーキ140による摩擦制動を効かせて走行速度を設定速度に維持する。ここで、回転電機103、105の回生制動は、駆動輪109の転動するトルクを伝達負荷して発電させる、所謂、回生制御処理の実行により機能し、その回転電機103、105が発電機として駆動する際に発生する制動力を利用するものである。なお、回転電機103、105を発電機として駆動させるために負荷されるトルクは、回生トルクと称され、また、その発電電力は回生電力と称される。また、本実施形態での説明において、回生制動は、便宜上、回転電機103、105で機能させると説明するが、回転電機103、105の一方または双方のいずれで機能させてもよく、エンジン101との連携などに応じて、適宜、選択して機能させればよい。
また、オートクルーズ走行の車間制御モードでは、先行車両に一定の車間距離を保ちつつ追随するように、先行車両からの離隔距離をミリ波レーダセンサにより検知しつつ、先行車両との間の車車間通信でフットブレーキの踏込などの制動情報等を取得することにより、エンジン101や回転電機103、105の駆動や動力伝達機構110の切換と共に、摩擦式ブレーキ140の作動を自動制御するようになっている。例えば、高速道路の先行車両の減速走行中の車間制御モードでは、エンジン101のエンジンブレーキや回転電機103、105の回生制動を動力伝達機構110の変速比の切換により効果的に利用するとともに、摩擦式ブレーキ140を適宜に自動的に作動させて先行車両との車間距離を一定に保ちつつ追随する。
さらに、この車両100には、完全自動運転走行モードが不図示のスイッチ操作等により選択指示可能に備えられている。完全自動運転走行モードは、例えば、上述のオートクルーズ走行モードの車間制御モードと同様に、先行車両との間で車車間通信を行って一定の車間距離を保ちつつ追随することにより、複数台の縦列走行を実現する縦列自動走行モードを少なくとも構成する。この縦列自動走行モードでは、例えば、工場等の決められた敷地内で部品や工具等の荷物を複数台の車両で運搬する際などに、少なくとも後続車両に乗員の乗車のない状態での無人走行を可能にする。
ここで、完全自動運転走行モードとしては、例えば、予め設定される目的地までのルートをナビゲーションシステムが備えるマップ情報に従って決定し、その目的地までの自動運転走行を実現するルート自動走行モードを含んでいてもよく、このルート自動走行モードでも、乗員の乗車のない状態での無人走行を可能にする。なお、このルート自動走行モードは、詳細な説明は省略するが、例えば、上述の路車間通信による赤信号等の道路情報や撮像映像の画像処理による走行車線や歩行者等の周辺情報などの各種情報を取得しつつ交通状況に応じて目的地までの自動運転走行を実現する。
また、完全自動運転走行モードとしては、例えば、公園等の敷地内で決められた走行経路と停車位置が予め設定されていて、上記の道路情報や周辺情報などの各種情報を取得しつつ巡回するなどの既定走行を実現する既定自動走行モードを含んでいてもよく、この既定自動走行モードでも、乗員の乗車のない状態での無人走行を可能にする。
このような完全自動運転走行モードは、縦列自動走行モード、ルート自動走行モード、あるいは既定自動走行モードに限るものではなく、ドライバの乗車の必要ない走行を実現する他のモードを含んでいてもよい。例えば、リモートシステムを搭載してドライバが乗車することのない車両において、不図示のリモートコントローラが操作されて入力される遠隔位置からの運転指示に従って走行して停止する、無人走行可能なリモート自動走行モードを完全自動運転走行モードに含めて、受け取る運転指示を自動運転走行信号として処理などすればよい。
そして、ECU11は、完全自動運転走行モードの選択指示を自動運転走行信号から取得した場合、オートクルーズ走行モードの場合と同様に、メモリ12内の制御プログラムを実行して、車速などの各種取得情報を自動運転走行制御コントローラCに送るようになっている。自動運転走行制御コントローラCは、ECU11から受け渡される車速などの各種取得情報に基づいて完全自動運転走行制御信号を生成してECU11に返送する。ECU11は、受け取った制御信号に基づく車両100の自動運転走行制御処理を実行することにより、完全自動運転走行を実現するようになっている。
このECU11および自動運転走行制御コントローラCは、上述のオートクルーズ走行モードと同様に、ドライバによる完全自動運転走行の選択指示や各種走行条件の指定などの操作信号を取得して縦列自動走行モード、ルート自動走行モード、既定自動走行モード、あるいはリモート自動走行モードを実行する。また、車両100においては、オートクルーズ走行モードに必要な各種機器が縦列自動走行モードなどの完全自動運転走行モードを実行可能にする。
ところで、ECU11は、メモリ12内の制御プログラムを実行することにより、手動走行モードと、オートクルーズ走行モードと、完全自動運転走行モードと、を実行するようになっている。すなわち、ECU11は、有人自動運転モードとして、手動走行モードと、オートクルーズ走行モードと、有人の完全自動運転走行モードとを実行可能に構成されて、無人自動運転モードとして、無人の完全自動運転走行モードを実行可能に構成されている。
例えば、ECU11は、手動走行モードでは、ドライバの手動操作に応じたセンサ信号等の取得情報などに基づいてメモリ12内の制御プログラムを実行することにより、エンジン101や回転電機103、105の駆動や動力伝達機構110の切換を実行して車両100の走行を実現する。
また、ECU11は、オートクルーズ走行モードや完全自動運転走行モードでは、選択指示スイッチや走行条件の指定スイッチなどの操作信号に応じた車速などの走行条件を取得すると共にミリ波レーダセンサや車車間などの通信機能を稼動させて自動走行に必要な各種情報を取得して、メモリ12内の制御プログラムを実行する。これにより、ECU11は、エンジン101や回転電機103、105の駆動や動力伝達機構110の変速段の切換と共に、摩擦式ブレーキ140の作動を自動制御して車両100の走行を実現する。
ここで、ECU11は、シフトレバーの手動操作に基づく制御処理、あるいは、オートクルーズ走行モードなどの自動運転走行制御処理の実行に伴う変速要求が確認された場合に、切換クラッチC0などの摩擦係合要素への供給油圧を制御して動力伝達機構110の変速段を切り換える変速制御処理を実行する。
このECU11は、動力伝達機構110の変速段を切り換える変速制御処理時に、動力伝達機構110の切換クラッチC0などの摩擦係合要素に供給する締結油圧や解放油圧を制御することにより、回転電機103、105の回転駆動を、すなわち、回転電機103、105に入出力させる回転トルクを制御するようになっている。ECU11は、回転電機103、105に入出力させる回転トルクの大きさを調整することによって、動力伝達機構110の入力軸111および出力軸112の回転数を変速段に応じた回転速度に同期させるようになっている。
このとき、ECU11は、出力軸112(駆動輪109)側から伝達される回転トルク(回生トルク)を回転電機103、105に負荷して制動回転させることにより、動力伝達機構110の回転速度の同期をアシストしつつ、その回転電機103、105が発電機として機能して発電する回生電力をバッテリ108に充電(蓄電)させて車両100の燃費を向上させるようになっている。ECU11は、回転電機103、105に伝達入力する回転トルクの大きさを動力伝達機構110の摩擦係合要素への供給油圧を制御して調整することにより、回転電機103、105に回生発電させてバッテリ108に充電させる電力量を調整する。
また、ECU11は、バッテリ108内の蓄電電力を回転電機103、105に放電(供給)して電動機として駆動回転させることにより、そのバッテリ108内の蓄電電力を消費させつつ、動力伝達機構110の回転速度の同期をアシストさせるようになっている。ECU11は、回転電機103、105に出力させる回転トルク(駆動トルク)の大きさに応じて動力伝達機構110の摩擦係合要素への供給油圧を制御して調整するようになっている。このECU11は、動力伝達機構110の摩擦係合要素に供給する油圧を小さくしつつ、回転電機103、105から出力させる回転トルクを小さくすることにより、その回転電機103、105への電力供給によるバッテリ108内の蓄電電力の消費を抑えて、車両100の燃費向上を実現する。
このようにECU11は、変速要求と共に受け取る自動運転走行信号あるいは手動操作信号から、オートクルーズ走行モード、完全自動運転走行モード、あるいは手動走行モードの選択指示情報と共に各種走行状況を把握して、回転電機103、105に入出力させる回転トルクを調整することにより、車両100の燃費を効果的に向上させるようになっている。すなわち、ECU11が変速制御部を構成して変速制御装置として機能する。
具体的に、ECU11は、動力伝達機構110の変速段を低速側に切り換える、所謂、ダウン変速の変速制御処理を実行する際、駆動輪109側からの回転制動力として働く回生トルク(回転トルク)を回転電機103、105に負荷(入力)して発電機として機能させる。これにより、ECU11は、動力伝達機構110の変速段に応じた回転速度の同期タイミングを遅延させつつ調整する最適化を実現しつつ、その回転電機103、105に回生発電させることにより、その発電電力をバッテリ108に充電させて、車両100の実質的な燃費向上を効果的に実現する。このとき、動力伝達機構110は、ダウン変速により入力軸111(エンジン101や回転電機103、105)側の回転速度を上昇させつつ出力軸112(駆動輪109)側の回転速度に同期させて動力伝達経路を確立する。
例えば、ECU11は、図6のタイムチャートに示すように、低速側の変速段に切り換えるダウン変速要求があると、動力伝達機構110の切換クラッチC0、C1、C2や切換ブレーキB0、B1、B2、B3の摩擦係合要素のうちの該当箇所が解放油圧の供給状態から締結油圧の供給状態に切り換えられる。この場合、エンジン101側の入力軸111と駆動輪109側の出力軸112との間では、その該当箇所の摩擦係合要素への供給油圧による締結状態に応じて一体回転するトルク相から推移して、慣性で回転することを許容されるイナーシャ相が開始される。なお、イナーシャ相の前後には、減速走行に応じた駆動輪109の負トルクの回生トルクが回転電機103、105に負荷されて回生発電が行われている。
このイナーシャ相では、動力伝達機構110が概略自由回転する状態で、駆動輪109側から小さな負トルク(回転トルク)が伝達される状態から、その負トルクが締結油圧に応じて増大されて回転電機103、105に回生トルクとして負荷されることにより、エンジン101側との回転速度の同期処理と共に回生発電が行われる。ここで、動力伝達機構110の切換クラッチC0などの摩擦係合要素への締結油圧は、ダウン変速や後述のアップ変速のいずれでも、後述する図8の変速切換制御処理により調整される油圧制御量の制御値により制御されるようになっている。
このとき、動力伝達機構110は、ダウン変速時には、低速回転する解放状態のイナーシャ相開始から変速段の切換制御が進むに連れて、急激に高速回転する状態に変化することが、負荷される回生トルクにより制限(調整)されつつ増速回転される。この後に、動力伝達機構110は、イナーシャ相の終了により締結状態となって変速切換制御が終了したときには、ダウン変速後の高速回転する状態になって動力伝達経路が確立される。
ここで、回転電機(MG1)103は、動力伝達機構110のイナーシャ相の期間中には負トルクにより回転される。回転電機(MG2)105は、駆動輪109の回転力の大きさで発生される負トルクが負荷されて回転される。この回転電機105に負荷される負トルクは、ダウン変速前の変速段でのコースト走行に応じた駆動輪109の回転力の大きさから、動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧および解放油圧に応じてトルク相の期間中に徐々に減少する方向に推移される。この後に、回転電機105に負荷される負トルクは、イナーシャ相の期間を経てダウン変速後の変速段でのコースト走行に応じた駆動輪109の回転力の大きさになる。
この動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧は、図6中に実線で示すように、トルク相開始からイナーシャ相終了程度まで、本発明の実施形態の適用前には、自由回転する回転電機105に駆動輪109の回転力が無駄に(強制的に)伝達されないように、解放状態にする程度の小さな大きさのまま推移させていた。
これに対して、本実施形態での動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧は、図6中に破線で示すように、駆動輪109の回転力を制動力(負トルク)として回転電機105に伝達負荷させて積極的に有効利用するように、イナーシャ相の期間中に一時的に大きくなるように設定されている。
これにより、回転電機105は、ダウン変速時に、発電機として機能して、特にイナーシャ相の期間中に多く発電することができ、バッテリ108に充電される回生電力を増量して、車両100の実質的な燃費を向上させることができる。
その一方で、このときの回転電機105は、回生発電による回生制動を発生させてブレーキとして機能する。このことから、特にイナーシャ相の期間中における車両100の前後方向の重力加速度G(gravitational acceleration)、所謂、車両前後Gは、図6中に実線で示す小さな変動程度から、破線で示すように大きく変化する。要するに、動力伝達機構110への締結油圧を、図6中に示す一点鎖線の供給ラインから破線の供給ラインに増加させる変速制御処理を実行すると、車両前後Gが図6中に実線で示す小さな変動程度から破線で示す大きな変動に変化してしまう。このため、車両100には、その車両前後Gの大きな変動が回転制動力の増強に伴う変速ショックとして車室内に伝播してしまう。
また、このECU11は、動力伝達機構110の変速段を高速側に切り換える、所謂、アップ変速の変速制御処理を実行する際、バッテリ108内の蓄電電力を放電させて回転電機103、105に供給することにより電動機として機能させて、回転駆動力として働く駆動トルク(回転トルク)を出力させてアシストさせる。これにより、ECU11は、動力伝達機構110の変速段に応じた回転速度の同期タイミングを早めるように調整する最適化を実現しつつ、その回転電機103、105への供給電力を抑えることにより、バッテリ108の蓄電電力の消費を軽減して、車両100の実質的な燃費向上を効果的に実現する。このとき、動力伝達機構110は、アップ変速により入力軸111側の回転速度を降下させつつ出力軸112側の回転速度に同期させて動力伝達経路を確立する。
例えば、ECU11は、図7のタイムチャートに示すように、高速側の変速段に切り換えるアップ変速要求があると、図6に示す上述のダウン変速時と同様に、動力伝達機構110の切換クラッチC0などの摩擦係合要素のうちの該当箇所が解放油圧の供給状態から締結油圧の供給状態に切り換えられる。この場合、エンジン101側の入力軸111と駆動輪109側の出力軸112との間では、その該当箇所の摩擦係合要素への供給油圧による締結状態に応じてトルク相から推移してイナーシャ相が開始される。
このイナーシャ相では、動力伝達機構110が概略自由回転する状態で、エンジン101側から分配される正トルク(回転トルク)が伝達される状態から、その正トルクが締結油圧に応じて増大されて回転電機105に駆動トルクとして負荷されることにより、駆動輪109側との回転速度の同期処理がアシストされる。また、このイナーシャ相では、回転電機105にバッテリ108から電力供給されることにより、その回転電機105から正トルク(回転トルク)が締結油圧に応じた駆動トルクとして負荷(出力)されることにより、駆動輪109側との回転速度の同期処理がアシストされる。
このとき、動力伝達機構110は、アップ変速時には、高速回転する解放状態のイナーシャ相開始から変速段の切換制御が進むに連れて減速回転される。この後に、動力伝達機構110は、イナーシャ相の終了により締結状態となって変速切換制御が終了したときには、アップ変速後の低速回転する状態になって動力伝達経路が確立される。
ここで、回転電機(MG1)103は、ダウン変速時と同様に、動力伝達機構110のイナーシャ相の期間中には負トルクにより回転される。回転電機(MG2)105は、エンジン101側から分配される回転電機103との間の差動回転に応じた大きさで発生される回転トルク(正トルク)が負荷(入力)され、また、バッテリ108から電力供給されて駆動することにより駆動トルクを出力する。この回転電機105に負荷される正トルクは、アップ変速前の変速段でのコースト走行に応じたエンジン101と回転電機103の間の差動回転力の大きさから、動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧および解放油圧に応じてイナーシャ相の期間中に徐々に増加する方向に推移する。この後に、回転電機105から出力される正トルクは、イナーシャ相の期間を経てアップ変速後の変速段でのコースト走行に応じたエンジン101と回転電機103の間の差動回転力の大きさになる。
この動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧は、図7中に実線で示すように、ダウン変速時と同様に、トルク相開始からイナーシャ相終了程度まで、本発明の実施形態の適用前には、解放状態にする程度に小さい大きさのまま推移させていた。この動力伝達機構110では、エンジン101側から回転電機105に伝達されて、また、その回転電機105に電力供給することにより出力される正トルクは、図7中に一点鎖線で示す程度から回転電機103との間での分配差動分だけ減少された図7中に実線で示す程度の差動トルク(回転トルク)に調整されていた。
これに対して、本実施形態での動力伝達機構110の摩擦係合要素への締結油圧は、図7中に破線で示すように、回転電機105への電力供給を抑えることにより、出力させる正トルクを抑制するのに合わせて(入出力のバランスを取るように)、トルク相開始時点から小さくなるように設定されている。
これにより、回転電機105は、アップ変速時に、電動機として機能するためにバッテリ108から供給される駆動電力を、特にイナーシャ相の期間中に少なく抑制することができ、車両100の実質的な燃費を向上させることができる。
その一方で、このときのエンジン101や回転電機105側から伝達される駆動トルクは、動力伝達機構110へのアシスト力として機能する。このことから、特にイナーシャ相の期間中における車両100の車両前後Gは、図7中の実線で示す小さな変動程度から、破線で示すように大きく変化する。要するに、動力伝達機構110への締結油圧を、図7中に示す一点鎖線の供給ラインから破線の供給ラインに減少させる変速制御処理を実行すると、車両前後Gが図7中に実線で示す小さな変動程度から破線で示す大きな変動に変化してしまう。このため、車両100には、その車両前後Gの大きな変動が駆動トルクのアシストの消失に伴う、所謂、加速度抜けの変速ショックとして車室内に伝播してしまう。
このことから、ECU11は、動力伝達機構110のダウン変速あるいはアップ変速の変速制御処理を、上述の各種の走行モードや、車両100に乗員が乗車しているか否かに応じて実行し、乗り心地などのドライバビリティと共に、車両100の実質的な燃費向上を実現するようになっている。すなわち、ECU11は、手動走行モードは有人の走行モードとして実行し、オートクルーズ走行モードは有人の自動運転モードとして実行し、完全自動運転走行モードは乗員の有無に応じて有人または無人の自動運転モードとして実行する。
詳細には、ECU11は、上述の各種の走行モードや乗員の有無に応じたダウン変速あるいはアップ変速により、動力伝達機構110の切換クラッチC0などの摩擦係合要素に供給する締結油圧や解放油圧を予め設定されている油圧制御量の制御値の変更量で調整することによって、回転電機103、105に入出力する回生トルクや駆動トルクの大きさを最適にするようになっている。
ここで、変速切換制御中の回転電機103、105の入出力トルク(回生トルクや駆動トルク)の調整は、駆動輪109の回転制動力や回転電機105の回転駆動力の変動が乗員に変速ショックとして感じさせる程度の変化を生じるか否かを判断基準にして設定すればよい。
例えば、ドライバが乗車する状況の走行中に、手動で変速操作される有人の手動走行モードでは、ドライバ自身が変速操作を手動で入力しているので、変速ショックを感じたとしても意図した操作に起因するものであることから、通常設定されている制御値(油圧制御量)を利用するとして油圧制御量の変更ナシがメモリ12内に設定されている。
また、ドライバが乗車する状況の走行中に、選択指示で実行される有人のオートクルーズ走行モードでは、意図しないタイミングの変速ショックはドライバビリティ(乗り心地など)の悪化と感じ易いことから、手動走行モードで用いる通常設定の制御値よりも変速ショックを軽減する油圧制御量の軽減小変更量がメモリ12内に設定されている。なお、このオートクルーズ走行モードでは、アクセル操作と共に変速切換が自動化されて走行することから、意図しないタイミングでの変速切換に起因する変速ショックに対して敏感になって、ドライバビリティの悪化と感じ易い。
さらに、ドライバが乗車する状況の走行中に、選択指示で実行される有人の完全自動運転走行モードでは、意図しないタイミングの変速ショックはよりドライバビリティの悪化と感じ易いことから、オートクルーズ走行モードで用いる制御値よりも変速ショックをより軽減する油圧制御量の軽減大変更量がメモリ12内に設定されている。なお、この有人の完全自動運転走行モードでは、より自動化が進んでいることから、上述のオートクルーズ走行モードよりも走行状態に注意が払われることがなく、意図しないタイミングでの変速ショックにはより敏感になって、ドライバビリティの悪化とより感じ易い。
一方、乗員の乗車しない状況で走行する無人の完全自動運転走行モードでは、ドライバビリティの悪化と判断される変速ショックを感じる乗員がいないことから、上述の有人の各種走行モードで用いる制御値よりも変速ショックの増大を許容する油圧制御量の増大変更量がメモリ12内に設定されている。
すなわち、上述の各種走行モードで利用される油圧制御量としては、無人の完全自動運転走行モードでの増大変更量で増大した増大制御値>有人の手動走行モードでの変更ナシの通常制御値>有人のオートクルーズ走行モードでの軽減小変更量で軽減した軽減小制御値>有人の完全自動運転走行モードでの軽減大変更量で軽減した軽減大制御値、という大小関係になる。
具体的に、ECU11は、メモリ12内の制御プログラムを実行することにより、図8のフローチャートに示す変速切換制御処理を実行するようになっている。
まず、ECU11は、走行制御処理が開始されると、完全自動運転走行モードが設定されているか否か確認して(ステップS11)、完全自動運転走行モードの設定が確認できなかった場合には、さらに、オートクルーズ走行モードが設定されているか否か確認する(ステップS12)。
ステップS11、S12において、完全自動運転走行モードやオートクルーズ走行モードの設定を確認できなかったECU11は、手動走行モードで用いる通常設定の制御値を利用する油圧制御量の変更ナシをメモリ12内に設定した後に(ステップS13)、この油圧選択設定処理を終了して走行制御処理を継続するとともに、予め設定されている間隔でステップS11から繰り返す。
ステップS12において、オートクルーズ走行モードの設定を確認したECU11は、手動走行モードで用いる油圧制御量の制御値を軽減する軽減小変更量をメモリ12内に設定した後に(ステップS14)、この油圧選択設定処理を終了して走行制御処理を継続するとともに、予め設定されている間隔でステップS11から繰り返す。
一方、ステップS11において、完全自動運転走行モードの設定を確認したECU11は、さらに、乗員の有無に応じた車両の重量(車重)のセンサ信号の変化から車両100への乗車のない無人での走行モードであるか否か確認する(ステップS15)。
ステップS15において、無人での完全自動運転走行モードでないことを確認したECU11は、手動走行モードで用いる油圧制御量の制御値をオートクルーズ走行モードの場合よりも軽減する軽減大変更量をメモリ12内に設定した後に(ステップS16)、この油圧選択設定処理を終了して走行制御処理を継続するとともに、予め設定されている間隔でステップS11から繰り返す。
また、ステップS15において、無人での完全自動運転走行モードであることを確認したECU11は、手動走行モードで用いる油圧制御量の制御値を増大する増大変更量をメモリ12内に設定した後に(ステップS17)、この油圧選択設定処理を終了して走行制御処理を継続するとともに、予め設定されている間隔でステップS11から繰り返す。
これにより、ECU11は、車両100の走行モードが、無人の完全自動運転走行モード、有人の手動走行モード、有人のオートクルーズ走行モード、有人の完全自動運転走行モードのいずれであるかに応じて、メモリ12内に設定されている変更量を使用して変更した油圧制御量(制御値)を用いて、動力伝達機構110の摩擦係合要素への供給油圧を適宜に調整することができる。
例えば、無人の完全自動運転走行モードの場合には、有人の各種走行モードよりも大きな回生電力をダウン変速時に発生させてバッテリ108内に効率よく充電することができ、アップ変速時にはバッテリ108から放電する消費電力を抑えることができる。さらに、有人のオートクルーズ走行モードまたは完全自動運転走行モードのいずれであるかに応じて、動力伝達機構110の摩擦係合要素への供給油圧を適宜に調整して、ドライバビリティを悪化させることなく、バッテリ108への充電と放電電力の抑制を効果的に実行することができる。
このように、本実施形態のECU11においては、有人または無人の自動運転モードに応じて、ダウン変速制御時にはバッテリ108に充電する回生電力を効率よく発電して、また、アップ変速制御時にはそのバッテリ108から供給する消費電力を抑えることができ、車両100の燃費を効果的に向上させることができる。
また、本実施形態の他の態様としては、例えば、図9および図10に示すように、エンジン101と連携させる1つの回転電機207を動力源として搭載する車両200に適用してもよい。この車両200は、簡単に説明すると、エンジン101や回転電機207の回転動力を入力軸211に連結されているトルクコンバータ205と伝達軸213とを介して動力伝達機構210に伝達し、その回転動力を動力伝達機構210から出力軸212に出力して駆動輪109を転動させることにより走行するようになっている。
ここで、動力伝達機構210は、エンジン101と回転電機207の間に連結クラッチK0を有すると共に、切換クラッチC1、C2、C3、C4および切換ブレーキB1、B2を配置して、2組のダブルピニオン型の遊星歯車機構221、222を備えている。遊星歯車機構221は、サンギヤS1、プラネタリギヤP11、P12、キャリヤCA11、21、およびリングギヤR1を回転要素として備え、遊星歯車機構222は、サンギヤS21、S22、プラネタリギヤP21、P22、キャリヤCA12、22、およびリングギヤR2を回転要素として備えている。なお、図9は、動力伝達機構210が入力軸211などの軸心を中心にして回転対称に構成されているため、図中下側を省略する骨子図である。
この動力伝達機構110は、図10の締結作動表に示すように、切換クラッチC1、C2、C3、C4および切換ブレーキB1、B2が選択的に締結されることにより、1速(1st)、2速(2nd)、3速(3rd)、4速(4th)、5速(5th)、6速(6th)、7速(7th)、8速(8th)、R1(Reverse1)、R2(Reverse1)のいずれかの有段変速段が選択されて伝達経路が形成される。なお、図10に図示する「○」は選択駆動時に締結状態にされることを示している。
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。