本発明は、動力源としてエンジンおよび電動機を有するハイブリッド車両に好適に適用されるが、動力源としてエンジンのみを有するエンジン駆動車両にも適用され得る。また、発電専用のエンジンと発電機、および走行用の電動機を備えるシリーズ型のハイブリッド車両にも適用され、登坂時に発電のためのエンジン回転速度を増加させる場合、すなわち発電機による発電電力を増加させる場合に、走行モードに応じてその増加幅を変更すれば良い。エンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関で、電動機としては、発電機としても用いることができるモータジェネレータが好適に用いられる。
自動変速機としては、複数の摩擦係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式や平行軸式等の有段の自動変速機、或いはベルト式等の無段変速機が用いられる。また、遊星歯車装置等の差動機構の入力要素にエンジンが連結され、反力要素に発電機が連結され、出力要素に駆動輪が連結され、発電機の回転速度制御でエンジンの回転を無段階で変速して出力要素から出力する電気式無段変速機を備えた車両にも適用され得る。例えば、加速要求がない登坂時にエンジンを始動しておいて、再加速時に発電機のトルク制御で速やかに駆動力を発生させる場合、第2走行モードでは第1走行モードに比較してエンジン回転速度を低くし、或いは回転停止させることもできる。エンジンは必ずしも自力回転である必要はなく、発電機のトルク制御等で連れ廻り回転させるだけでも良い。その場合は、アイドル回転速度以下であっても良い。
第2走行モードの目標走行状態は、例えば目標車速や目標車間距離、目標加速度、目標駆動力、目標制動力、目標ステアリング角などである。具体的には、運転者が設定した目標車速で走行するように目標駆動力を算出して略一定の車速で定速走行する定速走行モードや、先行車両との間の車間距離に基づいて目標駆動力を算出して予め定められた目標車間距離で追従走行する追従走行モード、或いは走行ルートの道路情報等に基づいて目標車速を逐次設定して目標駆動力を算出するとともにステアリング角を自動的に制御して走行する自動運転走行モードなどで、本発明の実施に際しては何れか一つの第2走行モードが可能であれば良い。定速走行モードおよび追従走行モードにおいてステアリング角を運転者が操作する場合は手動操舵走行モードと見做すことができる。自動運転走行モードにおいてステアリング角を自動的に制御して走行する場合は自動操舵走行モードと見做すことができる。なお、目標トルクや目標加速度に基づいて駆動力制御を行うこともできる。
自動運転走行モードとしては、例えば地図情報および走行ルート情報に基づいて目標車速を逐次自動的に設定し、その目標車速に応じて目標駆動力を算出するとともに、走行ルートに従って走行するようにステアリング角を自動的に制御する場合があるが、カメラ等で周辺の道路状況等を認識して車庫入れや縦列駐車等を運転者の操作無しで行うものでも良い。また、駐車場などから予め定められた走行ルートに従って車両を自動的に玄関先等の所定位置まで呼び出すだけでも良く、種々の態様が可能である。この自動運転走行モードは、運転者等の乗員が乗車している有人自動運転走行モードの他、運転者を含めて乗員が一人もいない無人自動運転走行モードも可能である。本明細書では、少なくとも道路情報に基づいて目標走行状態を設定して自動的に加減速する場合を自動運転走行モードと言い、ステアリング角の自動制御は要件ではない。道路情報は、道路勾配やカーブ等の情報で、地図情報から得ることもできるし、路車間通信などで取り込むこともできる。また、カメラで車線等を撮影して加減速を行う場合でも良い。
坂路走行制御部は、少なくとも降坂路の坂路走行時に平坦路走行時に比較してエンジン回転速度を高く維持するように自動変速機を制御するもので、降坂路の坂路走行時だけエンジン回転速度の増大制御を行うものでも、登坂路および降坂路の両方でエンジン回転速度の増大制御を行うものでも良い。また、自動変速機のアップシフトを制限するだけでなく、ダウンシフトを行って積極的にエンジン回転速度を上昇させても良い。
(a) 差動用回転機のトルク制御でエンジンの回転速度を無段階に変速して中間伝達部材に伝達することができる電気式差動部と、(b) 前記中間伝達部材と駆動輪との間に配設され、出力回転速度に対する該中間伝達部材の回転速度の変速比が異なる複数のギヤ段を機械的に成立させることができる自動変速機と、を有する車両に関し、(c) 前記自動変速機の前記出力回転速度に対する前記エンジン回転速度の変速比が異なる複数の模擬ギヤ段を成立させるように前記電気式差動部を制御する模擬有段化制御部を有する車両制御装置の場合、(d) 模擬有段化による燃費の悪化を抑制するため、第2走行モード時には第1走行モード時よりも模擬有段化を制限することが望ましい。具体的には、模擬有段化の際にエンジンが作動させられる制御領域を狭くして、最適燃費線に近づけるのであり、第2走行モード時には模擬有段化を中止しても良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車用の車両用駆動装置10の骨子図で、制御系統の要部を併せて示した図である。この車両用駆動装置10は、エンジン12、電気式差動部14、および自動変速機16を直列に備えている。エンジン12は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関で、エンジン出力制御装置40によって出力が制御される。エンジン出力制御装置40は、例えば図4に示される電子スロットル弁100、燃料噴射装置102、点火装置104等を備えており、電子制御装置50から供給される制御信号に従ってそれ等の電子スロットル弁100、燃料噴射装置102、点火装置104等がそれぞれ制御されることにより、エンジン出力が電気的に制御される。電気式差動部14は、差動歯車機構としてシングルピニオン型の遊星歯車装置18を備えている。遊星歯車装置18は、エンジン12に連結されたキャリアCA0、第1モータジェネレータMG1に連結されたサンギヤS0、および中間伝達部材20に連結されたリングギヤR0とを差動回転可能に備えており、中間伝達部材20には第2モータジェネレータMG2が連結されている。なお、電気式差動部14および自動変速機16は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、図1の骨子図では下側半分が省略されている。
図2は、電気式差動部14の3つの回転要素S0、CA0、R0の回転速度を直線で結ぶことができる共線図で、サンギヤS0の回転速度Nmg1は第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)、キャリアCA0の回転速度Neはエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)、リングギヤR0の回転速度Nmg2は第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)であり、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の回生トルク制御や力行トルク制御により、差動入力回転速度であるエンジン回転速度Neに対する差動出力回転速度であるMG2回転速度Nmg2を連続的に無段階で変更できる。すなわち、電気式差動部14は、変速比γ0(=Ne/Nmg2)を無段階で変更できる電気式無段変速機として機能し、第1モータジェネレータMG1は差動用回転機として機能する。また、エンジン12が連結されたキャリアCA0は入力要素で、第1モータジェネレータMG1が連結されたサンギヤS0は反力要素で、中間伝達部材20に連結されたリングギヤR0は出力要素である。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、インバータ22を介して充放電可能な蓄電装置24に接続されており、電子制御装置50から供給されるモータ制御信号に従ってそれぞれモータトルクが電気的に制御される。これ等のモータジェネレータMG1およびMG2は、何れも電動機および発電機としての機能を有するもので、第1モータジェネレータMG1は主として発電機として用いられて反力を発生し、第2モータジェネレータMG2は主として電動機として用いられて駆動力を出力する。エンジン12、電気式差動部14、および第2モータジェネレータMG2は、車両用駆動装置10の動力源として機能する。なお、本実施例ではエンジン12、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2が、それぞれキャリアCA0、サンギヤS0、リングギヤR0に直接連結されているが、変速歯車やクラッチ等を介在させても良い。
自動変速機16は遊星歯車式の有段変速機で、前記中間伝達部材20の回転を変速して出力軸32から出力する。具体的には、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えているとともに、油圧式摩擦係合装置として2つのクラッチC1、C2、および3つのブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が設けられている。そして、図3の係合作動表に示されるように、それ等のクラッチCおよびブレーキBの何れか2つが係合させられることにより、中間伝達部材20の回転速度Nmg2と出力軸32の回転速度(出力回転速度)Noutとの比である変速比γ1(=Nmg2/Nout)が異なる4つの前進ギヤ段1st〜4thと後進ギヤ段R(リバース)が成立させられ、それ等が総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。クラッチCおよびブレーキBは、油圧制御回路42から油圧が供給されることにより係合させられるようになっており、油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106(図4参照)等が電子制御装置50から供給される変速制御信号に従って電気的に制御されることによって係合、解放制御される。ATソレノイドバルブ106は、例えばクラッチCおよびブレーキBに個別に配置される。上記出力軸32は、終減速装置34を介して左右の駆動輪36に連結されている。
このような車両用駆動装置10においては、電気式差動部14と自動変速機16とによって、全体として無段変速制御を行うことができる。また、電気式差動部14の変速比が一定となるようにMG1回転速度Nmg1等を制御することで、全体として有段変速と同様の変速制御を行うことも可能である。何れの場合も、自動変速機16が変速される際には、その変速が速やかに且つ円滑に行われるようにするため、その変速に伴う中間伝達部材20の回転速度変化に対応して電気式差動部14の各部の回転速度、例えばMG1回転速度Nmg1等が制御される。
本実施例の車両用駆動装置10はまた、自動ブレーキシステム44および自動操舵システム46を備えている。自動ブレーキシステム44は、駆動輪36および図示しない従動輪(非駆動輪)に設けられた各ホイールブレーキ38のブレーキ力すなわちブレーキ油圧を、電子制御装置50から供給されるブレーキ制御信号に従って電気的に制御する。ホイールブレーキ38にはまた、図示しないブレーキペダルが足踏み操作されることにより、ブレーキマスターシリンダを介してブレーキ油圧が供給されるようになっており、そのブレーキ油圧すなわちブレーキ操作力Brkに応じたブレーキ力を機械的に発生する。自動操舵システム46は、電子制御装置50から供給されるステアリング角制御信号に従って電動機等によりステアリング角Φを電気的に制御する。ステアリング角Φは、ステアリングホイールの回転角度でも操舵車輪の角度でも良い。
電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、モータジェネレータMG1、MG2のモータトルク制御、自動変速機16の変速制御、自動ブレーキシステム44によるブレーキ力制御、自動操舵システム46によるステアリング制御など、本実施例の車両用駆動装置10の各種の制御を行うコントローラとして機能するもので、CPU、ROM、RAM、および入出力インターフェースなどを有するマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する。必要に応じて、エンジン制御用やモータ制御用、変速制御用等に分けて構成することもできる。
図4は、電子制御装置50に入力される信号及びその電子制御装置50から出力される信号を例示したもので、その一部について具体的に説明すると、エンジン回転速度センサ70、MG1レゾルバ(回転速度センサ)72、MG2レゾルバ(回転速度センサ)74、出力回転速度センサ76、フットブレーキセンサ78、アクセル操作量センサ80、ステアリング角センサ82、車両加速度センサ83が接続され、それぞれエンジン回転速度Ne、MG1回転速度Nmg1、MG2回転速度Nmg2、出力軸32の回転速度(出力回転速度)Nout、ブレーキペダルの踏込み操作力(ブレーキ操作力)Brk、アクセルペダルの踏込み操作量(アクセル操作量)Acc、ステアリング角Φ、車両加速度Gを表す信号が供給される。出力回転速度Noutは車速Vに対応する。
オートクルーズ設定スイッチ84は、運転者の加減速操作を必要とすることなく定速走行または追従走行を行うクルーズ走行モードの選択操作や目標車速VtagCの設定、その目標車速VtagCの増減、追従走行時の目標車間距離DtagCの設定などを行う装置で、例えばステアリングホイール等に配設され、その目標車速VtagC、目標車間距離DtagC等を表す信号が電子制御装置50に供給される。ナビゲーションシステム86は、地図情報を備えていて目的地に応じて走行ルートを設定したり、その地図や走行ルートをインストルメントパネル等に配置された表示装置に表示したり、GPS(Global Positioning System ;全地球測位システム)、VICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System;道路交通情報通信システム)、車車間通信、路車間通信等により自車位置や渋滞、道路勾配、高度、法定速度、信号情報、天候などの各種道路交通情報を取得したりするもので、それ等の情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。表示装置やその近傍には、タッチ操作や押圧操作、回転操作などで各種の選択操作、設定操作等を行うことができる操作部材が設けられている。必要に応じてナビゲーションシステム86とは別に外部から情報を受け取る情報通信機器が設けられても良い。レーダー88は、先行車両や後方車両との間の車間距離、付近の通行人、或いは障害物との間の距離を検出するもので、それ等の情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。カメラ90は、車両の前方や後方、側方等に存在する他車両や通行人、障害物、信号機、車線、ガードレール、駐車位置、予め定められた指標などを撮影するムービーカメラ、スチールカメラなどで、その映像情報を表す信号が電子制御装置50に供給される。
有人自動運転スイッチ92は、運転者や乗員が乗車した状態で、車両の駆動力およびステアリング角Φを自動的に制御して走行する自動運転走行モードを選択するスイッチで、無人自動運転スイッチ94は、運転者や乗員が乗車していない状態で、車両の駆動力およびステアリング角Φを自動的に制御して走行する自動運転走行モードを選択するスイッチである。この無人自動運転スイッチ94は、例えば車両のドアロックを無線で施錠、開錠する無線キー等に組み込まれる。これ等の自動運転は、例えば地図情報や走行ルート情報、各種の道路交通情報等に基づいて目標車速を逐次自動的に設定し、その目標車速に応じて目標駆動力を算出するとともに、走行ルートに従って走行するようにステアリング角Φを自動的に制御するものであるが、地図情報や走行ルート情報が不要な車庫入れや縦列駐車等を運転者の操作無しで行うものでも良い。また、駐車場などから予め定められた走行ルートに従って車両を自動的に玄関先等の所定位置まで呼び出すだけでも良く、種々の態様が可能である。車庫入れや駐車場からの呼び出しなどは、無人自動運転走行モードが適当である。無人自動運転走行モードはまた、例えば先行する誘導車両に続いて隊列走行(追従走行)する場合にも好適に採用される。これ等の有人自動運転スイッチ92および無人自動運転スイッチ94をナビゲーションシステム86に組み込み、有人自動運転走行モード、無人自動運転走行モードの選択をナビゲーションシステム86で行うことができるようにしても良い。前記オートクルーズ設定スイッチ84についても、一部または全部の機能をナビゲーションシステム86に組み入れることができる。
上記電子制御装置50からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置40(図1参照)に対してエンジン制御信号が出力され、エンジン12の電子スロットル弁100のスロットル弁開度や、燃料噴射装置102による燃料供給量、点火装置104によるエンジン12の点火時期などが電気的に制御される。第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2は、インバータ22にモータ制御信号が出力されることにより、それ等のモータトルクが個別に電気的に制御される。油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106等には変速制御信号が出力され、クラッチCやブレーキBがそれぞれ係合、解放制御されることにより、自動変速機16の所定のギヤ段が電気的に成立させられる。自動ブレーキシステム44にはブレーキ制御信号が出力され、ホイールブレーキ38のブレーキ力が電気的に制御される。自動操舵システム46にはステアリング角制御信号が出力され、電動機等によってステアリング角Φが電気的に制御される。
この電子制御装置50は、図1に示されるように機能的にハイブリッド制御部52、有段変速制御部54、ステアリング制御部56、ブレーキ制御部58、自動運転走行モード制御部60、クルーズ走行モード制御部62、運転操作走行モード制御部64、および登降坂AI(人工知能)制御部66を備えている。ハイブリッド制御部52は、自動運転走行モード制御部60から供給される目標駆動力Ftag2で車両が駆動されるように、各部の伝達損失、補機負荷、電気式差動部14の変速比γ0、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク、自動変速機16のギヤ段(変速比γ1)等に基づいて目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NeおよびエンジントルクTeとなるように、エンジン出力制御装置40を介してエンジン12を制御する。電気式差動部14の変速比γ0は、エンジン12を効率の良い作動域、例えば図10に示す最適燃費線上で作動させるように定められる。目標駆動力Ftag2は、無人または有人の自動運転走行モードの場合、予め定められた走行ルートに従って走行するように、自動運転走行モード制御部60の機能を説明する図6の目標車速演算部112、F/F(フィードフォワード)制御演算部132、F/B(フィードバック)制御演算部134、駆動力調整部138等により、法定速度や道路勾配等の各種の道路交通情報等に基づいて逐次設定される。また、クルーズ走行モードの定速走行時には予め設定された目標車速VtagCで走行し、クルーズ走行モードの追従走行モード時には予め定められた目標車間距離DtagCで追従走行するように、目標駆動力Ftag2が逐次設定される。運転者の加減速操作(アクセル操作やブレーキ操作)に従って駆動力を制御する運転操作走行モード時には、アクセル操作量Accおよび車速V等から目標駆動力FtagMが逐次算出され、その目標駆動力FtagMに基づいて目標駆動力Ftag2が設定される。目標車速VtagC、目標車間距離DtagCは、オートクルーズ設定スイッチ84からの信号に基づいてクルーズ走行モード制御部62により設定され、目標駆動力FtagMは、アクセル操作量Accおよび車速V等に基づいて運転操作走行モード制御部64により逐次算出される。目標車間距離DtagCは、例えば大中小の3段階の中から選択され、それぞれ車速Vに応じて可変設定されるとともに、クルーズ走行モード制御部62ではレーダー88によって検知される先行車両との間の実際の車間距離Dが目標車間距離DtagCとなるようにフィードバック制御等により目標駆動力FtagCを算出し、その目標駆動力FtagCに基づいて目標駆動力Ftag2が設定される。なお、目標駆動力Ftag2が負(マイナス)の場合は、エンジンブレーキや第2モータジェネレータMG2の回生制御によって動力源ブレーキを発生させ、ブレーキ制御部58によって制御されるホイールブレーキ38のブレーキ力と合わせて目標駆動力Ftag2が得られるようにする。電子制御装置50は、複数の走行モードで走行することが可能な車両制御装置の機能を備えている。
ハイブリッド制御部52はまた、エンジン効率が比較的悪いとされる低出力トルク域或いは低車速域では、エンジン12を停止又はアイドル状態とし、第2モータジェネレータMG2のみを動力源として用いて走行するように、予め定められた動力源マップに従って動力源を切り換える。図5の左下部分(低駆動力で且つ低車速の領域)に示される一点鎖線は動力源切換マップの一例で、車速Vおよび駆動力に基づいて定められており、低車速で且つ低駆動力の領域がモータ走行領域とされており、エンジン12を始動或いは停止させるなどして動力源の切換制御を実行する。駆動力としては、エンジントルクやモータトルク、自動変速機16のギヤ段等から実際の駆動力を推定することもできるが、自動運転走行モード制御部60で算出される目標駆動力Ftag2を用いることが適当である。図示は省略するが、モータ走行からエンジン走行へ切り換える切換線と、エンジン走行からモータ走行へ切り換える切換線との間には、ビジーシフトを防止するためにヒステリシスが設けられている。また、エンジン12を動力源として走行するエンジン走行時であっても、回生制御される第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置24からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動(力行制御)して駆動輪36にトルクを付与することにより、エンジン12の動力を補助するためのトルクアシストを実行する。すなわち、図5のエンジン走行領域においても、必要に応じて第2モータジェネレータMG2によるトルクアシストが行われる。
有段変速制御部54は、予め定められた変速マップに従って自動変速機16の変速制御を行うもので、変速マップに従って求められた目標ギヤ段を成立させるように油圧制御回路42のATソレノイドバルブ106を介してクラッチCおよびブレーキBを係合、解放制御する。変速マップは変速条件で、例えば図5に示されるように駆動力および車速Vに基づいて設定されており、車速Vが高くなるに従って変速比γ1が小さい高速側のギヤ段に切り換えられ、駆動力が高くなるに従って変速比γ1が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるように定められている。駆動力としては、例えば自動運転走行モード制御部60で算出される目標駆動力Ftag2が用いられる。図5の実線はアップシフト線で、破線はダウンシフト線であり、それ等の間には所定のヒステリシスが設けられている。
ステアリング制御部56は、有人または無人の自動運転走行モードが選択されている場合に、自動運転走行モード制御部60から供給される目標ステアリング角Φtagとなるように自動操舵システム46を制御する。この目標ステアリング角Φtagは道路情報等に基づいて定められ、例えば予め定められた走行ルートに従って走行したり、カメラ90によって検出される車線等に沿って走行したり車線を切り換えたり、カメラ90によって検出された駐車位置情報に基づいて車庫入れや縦列駐車を行ったり、或いはレーダー88やカメラ90によって検出された通行人や障害物との接触を回避したりするため、車速Vや駆動力等に応じて適宜設定される。図6は、自動運転走行モード制御部60の駆動系の機能を説明するためのもので、ステアリング制御については省略されている。このようにステアリング制御部56によって目標ステアリング角Φtagとなるように自動操舵システム46を制御する自動運転走行モードは自動操舵走行モードであり、ステアリング制御部56によるステアリング角Φの自動制御が行われないクルーズ走行モードは手動操舵走行モードである。
ブレーキ制御部58は、有人または無人の自動運転走行モードが選択されている場合に、自動運転走行モード制御部60から供給される目標ブレーキ力Btagでホイールブレーキ38が作動させられるように自動ブレーキシステム44を制御する。この目標ブレーキ力Btagは、予め定められた停止位置で停車したり、カメラ90によって検出するか外部から入力された信号情報(赤信号)に従って停車したり、レーダー88によって検出される先行車両との間の車間距離を確保したり、或いはレーダー88やカメラ90によって検出された通行人や障害物との衝突を回避したりするため、図6に示す目標車間距離演算部116、実車間距離演算部118、車速安全マージン演算部114、目標ブレーキ力演算部140等により所定の減速度で減速するように適宜設定される。自動運転走行モードだけでなく、定速走行や追従走行を行うクルーズ走行モード、運転者の加減速操作に従って駆動力を制御する運転操作走行モードにおいても、衝突回避などの一定の条件下で目標ブレーキ力Btagを設定してホイールブレーキ38を強制的に作動させるようにすることもできる。
自動運転走行モード制御部60は、駆動系に関して図6に示すように走行計画生成部110および走行制御部130を機能的に備えている。走行計画生成部110は、目標車速演算部112、車速安全マージン演算部114、目標車間距離演算部116、実車間距離演算部118を備えており、目標車速演算部112には、ナビゲーションシステム86から車両位置情報、道路、勾配、高度、法定速度等の地図情報、インフラ(インフラストラクチャー)情報、走行ルートおよび進路、天候などの情報が供給される。ナビゲーションシステム86には、運転者によって目的地や走行ルート等が設定される他、自動運転に運転者の操作を加味した協調運転、時間優先、燃費優先、上限車速、希望車速等を設定可能である。インフラ情報は、道路や信号機等に設けられた情報通信機器から供給される道路や信号等の情報である。目標車速演算部112は、これ等の情報に基づいて自動運転を行う際のベースとなる目標車速Vtag1を逐次設定する。この目標車速演算部112には、前記クルーズ走行モード制御部62から定速走行時の目標車速VtagCが供給されるようになっており、クルーズ走行モードではその目標車速VtagCを目標車速Vtag1に設定する。
車速安全マージン演算部114は、目標車間距離演算部116で定められた目標車間距離Drefと、実車間距離演算部118でレーダー88からの信号等に基づいて算出された実車間距離Dとの差に応じて車速安全マージンVmを求めるもので、目標車速Vtag1から車速安全マージンVmが減算されることによって目標車速Vtag2が算出される。目標車間距離Drefおよび実車間距離Dは先行車両との間の車間距離で、目標車間距離Drefは先行車両との衝突を回避できる十分な距離が現在車速V等に応じて設定される。目標車間距離Drefよりも実車間距離Dが大きい場合は、不必要に車速Vを上昇させることを防止するため、車速安全マージンVm=0で下限ガードされる。なお、先行車両だけでなく、歩行者や障害物、前方に来ると予測される側方車両との距離に基づいて車速安全マージンVmを求めるようにしても良い。
走行制御部130は、F/F(フィードフォワード)制御演算部132、F/B(フィードバック)制御演算部134、走行抵抗演算部136、駆動力調整部138、および目標ブレーキ力演算部140を備えている。F/F制御演算部132は、目標車速Vtag2で走行するのに必要なFF駆動力値Fffを予め定められたフィードフォワード制御式等に従って算出するもので、F/B制御演算部134は、目標車速Vtag2と現在車速Vとの偏差ΔVに基づいてFB補正値Ffbを予め定められたフィードバック制御式等に従って算出するものである。また、走行抵抗演算部136では、車両のロードロード(R/L)、道路勾配、乗車人数や積載荷重等に基づいて走行抵抗Frを算出し、上記FF駆動力値FffとFB補正値Ffbと走行抵抗Frとを加算することによりベースの目標駆動力Ftag1を算出する。ロードロードは、予めナビゲーションシステム86等に設定しておいても良いが、通信回線でダウンロードしたり、実駆動力F、道路勾配、車速V等から算出したりすることもできる。
駆動力調整部138は、走行モードに応じて目標駆動力Ftag1を調整して最終的な目標駆動力Ftag2を設定する。この駆動力調整部138には、前記クルーズ走行モード制御部62から、目標車間距離Dtagで追従走行するように算出された目標駆動力FtagCが供給されるとともに、前記運転操作走行モード制御部64から、アクセル操作量Accおよび車速V等に基づいて算出された目標駆動力FtagMが供給されるようになっており、クルーズ走行モード時および運転操作走行モード時にはそれ等の目標駆動力FtagC、FtagMがベースの目標駆動力Ftag1として用いられる。そして、例えば無人の自動運転走行モードではドラビリよりも燃費を優先させることが望ましく、有人の自動運転走行モードではドラビリよりも乗り心地を優先させることが望ましく、クルーズ走行モードではある程度のドラビリを確保することが望ましく、運転操作走行モードでは燃費よりもドラビリを優先させるることが望ましい。このため、例えば目標駆動力Ftag1の変化率の最大値である変化レートに関し、運転操作走行モードでは変化レートを最も大きくするか、変化レートの制限無しとして、目標駆動力Ftag1から目標駆動力Ftag2を設定する。クルーズ走行モードでは運転操作走行モードよりも小さい変化レートで目標駆動力Ftag1を制限して目標駆動力Ftag2を設定し、有人自動運転走行モードではクルーズ走行モードよりも小さい変化レートで目標駆動力Ftag1を制限して目標駆動力Ftag2を設定し、無人自動運転走行モードでは有人自動運転走行モードよりも小さい変化レートで目標駆動力Ftag1を制限して目標駆動力Ftag2を設定する。
上記目標駆動力Ftag2は、目標ブレーキ力演算部140へ供給されるとともに、前記ハイブリッド制御部52、有段変速制御部54へ出力される。目標ブレーキ力演算部140は、目標駆動力Ftag2が負(マイナス)の場合に、ハイブリッド制御部52によって発生させられる動力源ブレーキと合わせて目標駆動力Ftag2が得られるホイールブレーキ38の目標ブレーキ力Btagを算出し、ブレーキ制御部58に出力する。この目標ブレーキ力Btagに従って自動ブレーキシステム44が制御されることにより、ホイールブレーキ38が目標ブレーキ力Btagで作動させられ、ハイブリッド制御部52の制御で得られる動力源ブレーキと合わせて目標駆動力Ftag2が得られる。
図1に戻って、前記登降坂AI制御部66は、登坂路および降坂路の両方の坂路走行時に、平坦路走行時に比較してエンジン回転速度Neを高く維持するように自動変速機16を制御する。例えば登坂路のカーブ等で駆動力が低下した場合に前記図5の変速マップに基づくアップシフトを制限することにより、エンジン回転速度Neを高回転に維持して再加速時のドラビリを向上させたり、登坂路でのパワーON時には前記図5の変速マップを低駆動力側或いは高車速側へずらしてダウンシフトし易くし、或いは強制的にダウンシフトを行ったりすることにより、エンジン回転速度Neを上昇させて登坂性能を向上させたりする。また、降坂路で駆動力が低下した場合には、図5の変速マップに基づくアップシフトを制限したり、強制的にダウンシフトを行ったりすることにより、エンジン回転速度Neを上昇させてエンジンブレーキを増大させる。自動変速機16の変速制御だけでなく、電気式差動部14の変速制御を併用することでエンジン回転速度Neを上昇させることができる。図7の実線は、登坂路のカーブ等で駆動力が低下した場合に、登降坂AI制御部66によってエンジン回転速度Neを高く維持した場合のタイムチャートの一例で、時間t1は、道路勾配が所定値以上で登降坂制御フラグがONとされた時間である。道路勾配は、例えば車両加速度Gおよびエンジントルク、モータトルク等から算出できるが、勾配センサ等で検出しても良いし、地図情報や道路情報から読み込むようにしても良い。そして、時間t2で目標駆動力Ftag2が低下した場合、図5の変速マップに従って変速制御が行われると、図7に破線で示すように自動変速機16がアップシフトされてエンジン回転速度Neが低下させられるが、本実施例では、実線で示すようにアップシフトが禁止されることによりエンジン回転速度Neが高回転に維持される。この登降坂AI制御部66は坂路走行制御部に相当する。
上記登降坂AI制御部66はまた、走行モードに応じて登降坂AI制御を制限する制限部を備えており、図8のフローチャートのステップS1〜S11(以下、単にS1〜S11という)に従って信号処理を実行する。図8のS1では、自動運転走行モードが選択されているか否かを、有人自動運転スイッチ92および無人自動運転スイッチ94の何れかがON操作されたか否かによって判断する。自動運転走行モードが選択されている場合はS2を実行し、無人自動運転走行モードが選択されているか否かを、無人自動運転スイッチ94がON操作されたか否かによって判断する。そして、無人自動運転スイッチ94がON操作されている場合は、S4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定し、無人自動運転スイッチ94がON操作されていない場合はS5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定する。また、S1の判断がNO(否定)の場合、すなわち自動運転走行モードが選択されていない場合は、S3を実行し、クルーズ走行モードが選択されているか否かを、オートクルーズ設定スイッチ84により選択操作されたか否かによって判断する。そして、オートクルーズ設定スイッチ84で選択操作されている場合は、S6でクルーズ走行モードが選択されていると判定し、オートクルーズ設定スイッチ84で選択操作されていない場合は、S7で通常の走行モード、すなわち運転者の加減速操作に従って駆動力制御および変速制御が行われるとともに、ステアリング操作に従ってステアリング角Φが変更される運転操作走行モードが選択されていると判定する。上記無人自動運転走行モード、有人自動運転走行モード、およびクルーズ走行モードは、何れも加減速操作を必要とすることなく目標走行状態(目標車速や目標車間距離、目標駆動力、目標ステアリング角など)を設定して駆動力制御および変速制御を行う第2走行モードであり、運転操作走行モードは、運転者の加減速操作に従って駆動力制御および変速制御を行う第1走行モードである。
そして、S4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS8で制限1を設定し、S5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はS9で制限2を設定し、S6でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はS10で制限3を設定し、S7で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はS11で制限なしとする。S8〜S10で設定される制限1〜3は、平坦路走行時と比較した場合のエンジン回転速度Neの増加幅の相違で、その増加幅が制限1<制限2<制限3の関係を満たすように設定されている。すなわち、アップシフトの制限やダウンシフトの実行でエンジン回転速度Neの増加幅を大きくすれば、登坂路での加速性能や再加速性能が向上し、或いは降坂路で大きなエンジンブレーキ力が得られるが、エンジン回転速度Neの上昇で燃費が損なわれるため、走行モードに応じて増加幅を制限して燃費との調和を図るようにしたのである。具体的には、登降坂路での加減速に対する要求程度(運転者の期待度)が小さい程、エンジン回転速度Neの増加幅を小さくして燃費を向上させる一方、登降坂路での加減速に対する要求程度が大きい程、エンジン回転速度Neの増加幅を大きくして適度なドラビリが得られるようにする。このエンジン回転速度Neの増加幅は、自動変速機16のアップシフトの制限段数やダウンシフトの段数によって変化させることができるとともに、電気式差動部14の無段変速制御によって更に細かくエンジン回転速度Neを制御することが可能である。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、有人走行に比較して加減速に対する要求程度を考慮する必要がないため、エンジン回転速度Neの増加幅を小さくして燃費向上を図ることができる。エンジン回転速度Neの増加幅を0、すなわち登降坂AI制御を中止しても良い。乗員がいる有人自動運転走行モードでは、加減速に対する要求程度が無人自動運転走行モードよりは大きいため、エンジン回転速度Neを増加させて加減速性能を確保することが望ましい。しかし、クルーズ走行モードや運転操作走行モードに比較して加減速に対する要求程度は低いため、それ等の走行モードよりもエンジン回転速度Neの増加幅が小さい制限2が設定される。クルーズ走行モードでは、目標車速Vtagで走行したり目標車間距離Dtagで先行車両に対して追従走行したりするため、自動運転走行モードよりも加減速に対する要求程度は高く、有人自動運転走行モードよりもエンジン回転速度Neの増加幅が大きい制限3が設定される。但し、運転者がリアルタイムで加減速操作する運転操作走行モードに比較して、加減速に対する要求程度は低いため、運転操作走行モードよりもエンジン回転速度Neの増加幅を小さくできる。運転操作走行モードでは、運転者が自ら加減速要求を行うため、登降坂路においても加減速に対して優れたドラビリが必要で、登降坂AI制御を制限することなく実施することが望ましい。
なお、上記登降坂路での加減速に対する要求程度(運転者の期待度)は、運転者による運転操作寄与度にも対応し、一般に運転操作寄与度が小さい程加減速に対する要求程度は小さいと考えられる。例えばステアリング角Φが自動的に制御される無人自動運転走行モードや有人自動運転走行モードは、ステアリング角Φを運転者が操作するクルーズ走行モードに比較してドラビリに対する要求程度が低いと考えられ、この点からも、クルーズ走行モードに比較して無人自動運転走行モードや有人自動運転走行モード時のエンジン回転速度Neの増加幅を小さくして燃費を向上させることが望ましい。
また、上記各走行モードでは、それぞれ一律に登降坂路走行時のエンジン回転速度Neの増加幅が定められるが、例えばクルーズ走行モードの追従走行モードの場合、車間距離Dおよび車速Vに基づいて加減速を予測し、加減速の可能性が高い場合にエンジン回転速度Neの増加幅を大きくすることもできる。すなわち、車間距離Dが短い場合や車速Vが高い場合は急な加減速が必要になる可能性が高いと予測でき、エンジン回転速度Neの増加幅を大きくするのである。他の走行モードにおいても、車間距離Dや車速V等に基づいて登降坂路走行時におけるエンジン回転速度Neの増加幅を変更することが可能である。
図1に戻って、前記ハイブリッド制御部52は、機能的に模擬有段化制御部68を備えている。模擬有段化制御部68は、出力回転速度Noutに対するエンジン回転速度Neの変速比γ2(=Ne/Nout)が異なる複数の模擬ギヤ段を成立させるように電気式差動部14を制御するもので、変速比γ2は、電気式差動部14の変速比γ0と自動変速機16の変速比γ1とを掛け算した値(γ2=γ0×γ1)となる。複数の模擬ギヤ段は、例えば図9に示すように、それぞれの変速比γ2を維持できるように出力回転速度Noutに応じて第1モータジェネレータMG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。図9は、複数の模擬ギヤ段として模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段を有する10段変速が可能な場合で、全体として機械式有段変速機と同様のドラビリやエンジン音等の運転フィーリングが得られる。この場合、エンジン12は、図10に斜線で示す模擬有段制御領域の範囲でエンジントルクおよびエンジン回転速度Neが変化させられる。
上記模擬有段化制御部68はまた、走行モードに応じて模擬有段化制御を制限する制限部を備えており、図11のフローチャートのステップR1〜R11(以下、単にR1〜R11という)に従って信号処理を実行する。図11のR1〜R7では、前記図8のS1〜S7と同様にして走行モードを判定する。S4〜S7の判定結果を読み込んでも良い。そして、R4で無人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR8で制限1を設定し、R5で有人自動運転走行モードが選択されていると判定された場合はR9で制限2を設定し、R6でクルーズ走行モードが選択されていると判定された場合はR10で制限3を設定し、R7で運転操作走行モードが選択されていると判定された場合はR11で制限なしとする。R8〜R10で設定される制限1〜3は、模擬有段化の際にエンジン12が作動させられる制御領域(図10の斜線部)の相違で、その制御領域の範囲が制限1<制限2<制限3の関係を満たすように設定されている。すなわち、模擬有段化でエンジン12の制御領域を大きくすれば、変速時にエンジン回転速度Neが大きく変化することで有段変速機と同様の運転フィーリング(ドラビリやエンジン音等)が得られる反面、最適燃費線からの乖離で燃費が損なわれるため、走行モードに応じて制御領域を制限して燃費との調和を図るようにしたのである。具体的には、加減速に対する要求程度(運転者の期待度)が小さい程、エンジン12の制御領域を小さくして燃費を向上させる一方、加減速に対する要求程度が大きい程、エンジン12の制御領域を大きくして適度なドラビリが得られるようにする。
無人自動運転走行モードは、乗員不在であり、有人走行に比較して加減速に対する要求程度を考慮する必要がないため、エンジン12の制御領域を小さくして燃費向上を図ることができる。模擬有段化制御を中止してエンジン12を最適燃費線上で作動させるようにしても良い。乗員がいる有人自動運転走行モードでは、加減速に対する要求程度が無人自動運転走行モードよりは大きいため、エンジン12の制御領域を大きくして運転フィーリングを向上させることが望ましい。しかし、クルーズ走行モードや運転操作走行モードに比較して加減速に対する要求程度は低いため、それ等の走行モードよりもエンジン12の制御領域が狭い制限2が設定される。クルーズ走行モードでは、目標車速Vtagで走行したり目標車間距離Dtagで先行車両に対して追従走行したりするため、自動運転走行モードよりも加減速に対する要求程度は高く、有人自動運転走行モードよりもエンジン12の制御領域が大きい制限3が設定される。但し、運転者がリアルタイムで加減速操作する運転操作走行モードに比較して、加減速に対する要求程度は低いため、運転操作走行モードよりもエンジン12の制御領域は小さくて良い。運転操作走行モードでは、運転者が自ら加減速要求を行うため、優れた運転フィーリングが得られることが望ましく、模擬有段化制御を制限することなく実施することが望ましい。
なお、上記加減速に対する要求程度(運転者の期待度)は、運転者による運転操作寄与度にも対応し、一般に運転操作寄与度が小さい程加減速に対する要求程度は小さいと考えられる。例えばステアリング角Φが自動的に制御される無人自動運転走行モードや有人自動運転走行モードは、ステアリング角Φを運転者が操作するクルーズ走行モードに比較して加減速に対する要求程度が低いと考えられ、この点からも、クルーズ走行モードに比較して無人自動運転走行モードや有人自動運転走行モード時のエンジン12の制御領域を狭くして燃費を向上させることが望ましい。
このように、本実施例の車両用駆動装置10の電子制御装置50によれば、坂路走行時には平坦路走行時に比較してエンジン回転速度Neを高く維持するように自動変速機16を制御する登降坂AI制御部66を備えており、坂路走行時に優れたドラビリが得られる一方、第2走行モード(無人、有人の自動運転走行モード、およびクルーズ走行モード)時には第1走行モード(運転操作走行モード)時よりも登降坂AI制御時のエンジン回転速度Neの増加幅が制限されるため、燃費が向上する。第2走行モードでは、運転者が加減速操作を行っていないことから、ドラビリに対する運転者の要求が限定的で、エンジン回転速度Neの増加幅が制限されることでドラビリが多少悪くてなっても運転者に違和感を生じさせる可能性は少ない。特に、道路情報に基づいて目標走行状態を設定し、自動的に加減速を行う自動運転走行モードでは、ドラビリよりも滑らかな乗り心地や燃費を優先することが乗員の意図に合致していると考えられる。
また、第2走行モードとして追従走行モード(クルーズ走行モード)および無人或いは有人の自動運転走行モードを備えており、自動運転走行モード時には追従走行モード時よりも登降坂AI制御時のエンジン回転速度Neの増加幅が小さくされるため、追従走行モード時のドラビリを確保しつつ、自動運転走行モード時にエンジン回転速度Neの増加幅が小さくされることで、燃費を一層向上させることができる。すなわち、追従走行モードは先行車両に追従して走行するものであるため、自動運転走行モードに比較して加減速に対する運転者の要求程度が高いと考えられ、自動運転走行モード時よりもエンジン回転速度Neの増加幅を大きくして坂路走行時のドラビリを確保するようにしたのである。
また、第2走行モードとして自動操舵走行モード(無人、有人の自動運転走行モード)および手動操舵走行モード(クルーズ走行モード)を備えており、自動操舵走行モード時には手動操舵走行モード時よりも登降坂AI制御時のエンジン回転速度Neの増加幅が小さくされるため、手動操舵走行モード時のドラビリを確保しつつ、自動操舵走行モード時にエンジン回転速度Neの増加幅が小さくされることで、燃費を一層向上させることができる。すなわち、手動操舵走行モードはステアリング角Φを運転者が操作するため運転者の運転操作寄与度が大きく、自動操舵走行モードに比較して運転者のドラビリに対する要求程度が高いと考えられるため、自動操舵走行モード時よりもエンジン回転速度Neの増加幅を大きくして坂路走行時のドラビリを確保するようにしたのである。
また、本実施例では出力回転速度Noutに対するエンジン回転速度Neの変速比γ2が異なる複数の模擬ギヤ段を成立させるように電気式差動部14を制御する模擬有段化制御部68を備えており、その模擬ギヤ段の変速を伴う加減速時にエンジン回転速度Neが変化させられることで有段変速機と同様の運転フィーリング(ドラビリやエンジン音など)が得られる一方、第2走行モード(無人、有人の自動運転走行モード、およびクルーズ走行モード)時には第1走行モード(運転操作走行モード)時よりも模擬有段化制御時のエンジン回転速度Neの制御領域が制限されるため、燃費が向上する。第2走行モードでは、運転者が加減速操作を行っていないことから、ドラビリを含む運転フィーリングに対する運転者の要求が限定的で、エンジン回転速度Neの制御領域が制限されることで運転フィーリングが多少悪くてなっても運転者に違和感を生じさせる可能性は少ない。特に、道路情報に基づいて目標走行状態を設定し、自動的に加減速を行う自動運転走行モードでは、運転フィーリングよりも滑らかな乗り心地や燃費を優先することが乗員の意図に合致していると考えられる。
また、第2走行モードとして追従走行モード(クルーズ走行モード)および無人或いは有人の自動運転走行モードを備えており、自動運転走行モード時には追従走行モード時よりも模擬有段化制御時のエンジン回転速度Neの制御領域が狭くされるため、追従走行モード時の運転フィーリングを確保しつつ、自動運転走行モード時にエンジン回転速度Neの制御領域が狭くされることで、燃費を一層向上させることができる。すなわち、追従走行モードは先行車両に追従して走行するものであるため、自動運転走行モードに比較して加減速に対する運転者の要求程度が高いと考えられ、自動運転走行モード時よりもエンジン回転速度Neの制御領域を大きくすることにより、ドラビリを含めて優れた運転フィーリングが得られるようにしたのである。
また、第2走行モードとして自動操舵走行モード(無人、有人の自動運転走行モード)および手動操舵走行モード(クルーズ走行モード)を備えており、自動操舵走行モード時には手動操舵走行モード時よりも模擬有段化制御時のエンジン回転速度Neの制御領域が狭くされるため、手動操舵走行モード時の運転フィーリングを確保しつつ、自動操舵走行モード時にエンジン回転速度Neの制御領域が狭くされることで、燃費を一層向上させることができる。すなわち、手動操舵走行モードはステアリング角Φを運転者が操作するため運転者の運転操作寄与度が大きく、自動操舵走行モードに比較してドラビリに対する運転者の要求程度が高いと考えられるため、自動操舵走行モード時よりもエンジン回転速度Neの制御領域を大きくすることにより、ドラビリを含めて優れた運転フィーリングが得られるようにしたのである。
なお、上記実施例の登降坂AI制御部66は、坂路走行時に平坦路走行時に比較してエンジン回転速度Neを高く維持するため、自動変速機16のアップシフトを制限したり強制的にダウンシフトを行ったりしていたが、電気式無段変速機として機能する電気式差動部14において、第1モータジェネレータMG1の回転速度Nmg1を制御してエンジン回転速度Neを上昇させることもできる。例えば、第2モータジェネレータMG2を動力源として走行するモータ走行モード時に、平坦路走行ではエンジン回転速度Neを略0に維持する一方、登坂路では加速要求に備えてエンジン回転速度Neを上昇させておくことができる。エンジン12を始動して自力回転させても良いが、単にクランキングするだけでも良い。その場合に、クルーズ走行モードや無人或いは有人の自動運転走行モードなどの第2走行モードでは、そのエンジン回転速度Neの増加幅を小さくし、或いは回転停止状態のままに維持しても良い。電気式差動部14は自動変速機に相当する。
また、前記実施例では電気式差動部14および前進4段の変速が可能な自動変速機16を有する車両用駆動装置10について説明したが、例えば図12に示す車両用駆動装置200にも適用できるなど、本発明は種々の車両制御装置に適用され得る。図12の車両用駆動装置200は、動力源としてエンジン202およびモータジェネレータMGを備えているとともに、前進8速の変速が可能な自動変速機204を有するハイブリッド車両に関するものである。エンジン202は断接クラッチK0を介してモータジェネレータMGのモータ軸206に連結されており、それ等のエンジン202およびモータジェネレータMGの出力は、モータ軸206からトルクコンバータ208を介して自動変速機204の入力軸222に伝達される。トルクコンバータ208のステータ(案内翼車)210は、ステータブレーキBsによって選択的に回転停止させられるようになっている。
自動変速機204は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置212を主体として構成されている第1変速部214と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置216およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置218を主体として構成されている第2変速部220とを共通の軸心上に備えており、入力軸222の回転を変速して出力軸224から出力し、図示しない終減速装置等を介して左右の駆動輪を回転駆動する。第2遊星歯車装置216および第3遊星歯車装置218は、両者のキャリアおよびリングギヤがそれぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置216のピニオンギヤが第3遊星歯車装置218の第2ピニオンギヤ(外側のピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。この自動変速機204は、油圧式摩擦係合装置として4つのクラッチC1〜C4、および2つのブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が設けられており、図13の係合作動表に示されるように、それ等のクラッチCおよびブレーキBの何れか2つが係合させられることにより、前進8速の前進ギヤ段1st〜8thと後進2速の後進ギヤ段Rev1、Rev2が成立させられ、クラッチCおよびブレーキBが総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。
このような車両用駆動装置200においても、前記エンジン出力制御装置40、油圧制御回路42、自動ブレーキシステム44、自動操舵システム46、電子制御装置50等が設けられることにより、運転操作走行モードやクルーズ走行モード、有人自動運転走行モード、無人自動運転走行モードで走行することが可能で、前記登降坂AI制御部66により走行モード毎に登降坂AI制御が行われることにより、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。