以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
<実施の形態1>
(IGBT900Bについて)
図1を参照して、IGBT900B(電力用半導体装置)は、アクティブエリアAR1と、アクティブエリアAR1の外周に設けられたインタフェースエリアAR2と、インタフェースエリアAR2の外周に設けられたエッジターミネーションエリアAR3とを含むものである。アクティブエリアAR1は、電力用半導体装置の基本的な機能を担う部分であり、本実施の形態においてはIGBTの基本的な機能を担う部分である。エッジターミネーションエリアAR3は、電力用半導体装置の静的状態における耐圧特性の向上、安定化および信頼性向上と、動的状態における破壊耐量の確保のための部分である。インタフェースエリアAR2は、アクティブエリアAR1およびエッジターミネーションエリアAR3とを互いに接合する部分であり、動的状態における破壊耐量の確保のために特に重要な部分である。
IGBT900BのアクティブエリアAR1は、エミッタ電位のエミッタ電極13aと、ゲート電位のゲートパッド29と、ゲートパッド29から延びるゲート配線部28と、を有する。
図2を参照して、IGBT900Bが有する構造(構造Bと称する)について説明する。図2は、図1の線II−IIに沿う断面構造を示す。IGBT900Bは、基板SB(半導体基板)と、エミッタ電極13a(第1の電極)と、ゲート接続電極13bと、電極13cおよび13dと、コレクタ電極4(第2の電極)と、ゲート電極22と、ゲート配線層22wと、キャパシタ電極23および32と、トレンチ絶縁膜10と、層間絶縁膜12aおよび12bと、パッシベーション膜14および15とを有する。本実施の形態においては基板SBはシリコン(Si)から作られている。基板SBは上面S1(第1の面)および下面S2(第1の面と反対の第2の面)とを有する。上面S1および下面S2の各々はアクティブエリアAR1とインタフェースエリアAR2とエッジターミネーションエリアAR3とに跨っている。基板SBは、n-ドリフト層1(ドリフト領域)と、nバッファ層2と、pコレクタ層3(コレクタ領域)と、n+エミッタ層5と、p+層6と、pベース層8と、n層24と、pガードリング9とを含む。
n-ドリフト層1はアクティブエリアAR1とインタフェースエリアAR2とエッジターミネーションエリアAR3とに跨って設けられている。n-ドリフト層1は、n型(第1の導電型)を有し、たとえば1×1012〜1×1015cm-3程度の不純物濃度を有する。n-ドリフト層1は、フローティングゾーン(FZ)法で製造するFZウエハ、またはエピタキシャル法で製造するエピタキシャルウエハによって準備され得る。この場合、基板SBのうちn-ドリフト層1以外の部分はイオン注入およびアニーリング技術によって形成され得る。
n層24はn-ドリフト層1およびpベース層8の間に設けられている。n層24は、n型を有し、n-ドリフト層1の不純物濃度に比して高濃度でpベース層8に比して低濃度な不純物ピーク濃度を有し、たとえば1×1015〜1×1017cm-3程度の不純物ピーク濃度を有する。n層24が達する基板SBにおける上面S1からの深さ位置は、pベース層8より深く、たとえば0.5〜1.0μm程度深い。
nバッファ層2は、アクティブエリアAR1においてn-ドリフト層1およびpコレクタ層3の間に位置する部分を有し、また本実施の形態においてはインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3においてn-ドリフト層1およびコレクタ電極4の間に位置する部分を有する。nバッファ層2は、n型を有し、かつn-ドリフト層1の不純物濃度に比して高い不純物濃度を有し、たとえば1×1015〜1×1017cm-3程度の不純物ピーク濃度を有する。nバッファ層2が達する基板SBにおける下面S2からの深さ位置は、たとえば1.5〜50μm程度である。
上述したn-ドリフト層1、n層24およびnバッファ層2は、全体として、n型を有する領域(第1の領域)を構成している。なおn層24およびnバッファ層2の一方または両方は省略されてもよい。
pベース層8(第2の領域)は、n-ドリフト層1およびn層24を有する領域(第1の領域)上に設けられており、本実施の形態においてはn層24の直上に設けられている。pベース層8が達する基板SBにおける上面S1からの深さ位置は、n+エミッタ層5より深く、n層24より浅い。pベース層8は、p型(第1の導電型と異なる第2の導電型)を有し、たとえば不純物ピーク濃度1×1016〜1×1018cm-3程度を有する。
n+エミッタ層5(第3の領域)は、pベース層8上に設けられており、上面S1に配置されている。n+エミッタ層5は、たとえば0.2〜1.0μm程度の深さを有する。n+エミッタ層5は、n型を有し、たとえば1×1018〜1×1021cm-3程度の不純物ピーク濃度を有する。
p+層6は、pベース層8上に設けられており、上面S1に配置されている。p+層6は、たとえば表面不純物濃度1×1018〜1×1021cm-3程度を有する。p+層6が達する基板SBにおける上面S1からの深さ位置は、n+エミッタ層5と同じかまたはより深いことが好ましい。
pコレクタ層3は、アクティブエリアAR1にのみ設けられ、下面S2を部分的に成している。pコレクタ層3は、p型を有し、たとえば1×1016〜1×1020cm-3程度の表面不純物濃度を有する。pコレクタ層3の、基板SBにおける下面S2からの深さは、たとえば0.3〜1.0μm程度である。
pガードリング9は、上面S1に設けられ、p型を有する。pガードリング9は、pウエル領域9aおよびpエッジ領域9bを有する。pウエル領域9aは、アクティブエリアAR1において上面S1に設けられたp+層6を介してエミッタ電極13aに接続されている。pウエル領域9aは、少なくとも部分的にインタフェースエリアAR2に含まれ、上面S1においてインタフェースエリアAR2とエッジターミネーションエリアAR3との間に端部を有する。pウエル領域9aにより、IGBT900Bの遮断能力がより高められる。
pエッジ領域9bは、エッジターミネーションエリアAR3に含まれており、インタフェースエリアAR2から離れている。なお図2においてはpエッジ領域9bは模式的に1つのみ示されているが、保持する電圧に応じて複数のpエッジ領域9bを互いに離れて配置するような設計がなされる。
アクティブエリアAR1において基板SBの上面S1上にゲートトレンチTGおよびキャパシタトレンチTCが設けられている。ゲートトレンチTGの側壁は、n-ドリフト層1およびn層24(第1の領域)と、pベース層8と、n+エミッタ層5と、の各々に面している。キャパシタトレンチTCの側壁は、本実施の形態においては、n-ドリフト層1とn層24とpベース層8との各々に面している。またアクティブエリアAR1において最も外側に位置するキャパシタトレンチTCは、pガードリング9のpウエル領域9a内に達している。トレンチ絶縁膜10は基板SBのゲートトレンチTGおよびキャパシタトレンチTCを覆っている。
ゲート電極22は、トレンチ絶縁膜10を介してゲートトレンチTGに埋め込まれた部分を有し、トレンチ絶縁膜10を介してn+エミッタ層5およびn層24(第1の領域)の間のpベース層8に対向している。キャパシタ電極23は、トレンチ絶縁膜10を介してキャパシタトレンチTCに埋め込まれた部分を有する。キャパシタ電極23が設けられることで、IGBT900Bの飽和電流密度が抑制され、かつ、IGBT900Bの負荷が短絡された場合のゲート電圧の発振現象が抑制される。なおキャパシタトレンチTCおよびキャパシタ電極23は省略されてもよい。
層間絶縁膜12aは基板SBの上面S1上に設けられている。層間絶縁膜12a上には、エミッタ電極13aと、ゲート接続電極13bと、電極13cおよび13dとが設けられている。エミッタ電極13aは、アクティブエリアAR1に設けられ、基板SBの上面S1に接している。具体的には、エミッタ電極13aは、層間絶縁膜12aに設けられたコンタクトホールを介して、n+エミッタ層5およびp+層6の各々に接している。ゲート接続電極13bはコンタクトホールを介してゲート配線層22wに接している。よってゲート接続電極13bはゲート電極22と短絡されておりゲート電位を有する。電極13cはコンタクトホールを介してpウエル領域9aに接している。電極13cはエミッタ電極13aと短絡されていてもよい。電極13dは、フローティング電極であり、IGBT900Bにおいてはコンタクトホールを介してpエッジ領域9bに接している。
層間絶縁膜12bは基板SBの上面S1上に設けられている。層間絶縁膜12bは基板SBとゲート配線層22wとを互いに絶縁している。層間絶縁膜12bは、層間絶縁膜12aの一部と基板SBとの間に位置する部分を有してもよい。
コレクタ電極4は基板SBの下面S2に設けられている。コレクタ電極4はアクティブエリアAR1においてpコレクタ層3に接している。コレクタ電極4は、図2に示すように、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3において、nバッファ層2(より一般的には、前述した第1の領域)に接していてもよい。
エッジターミネーションエリアAR3にはチャネルストップ構造CSが設けられることが好ましい。本実施の形態においては、基板SBの上面S1に、n領域34と、p領域38と、n+領域35とが順に形成されている。また上面S1に、これらの領域を貫通してn-ドリフト層1に至るチャネルストップトレンチTSが設けられている。チャネルストップトレンチTS内には、トレンチ絶縁膜10を介してチャネルストップ電極32が設けられている。チャネルストップ電極32上にフローティング電位の電極13dが設けられてもよい。なお上述したチャネルストップ構造CSの代わりに他の構造が用いられてもよく、たとえば単純にn+領域35からなる構造が用いられてもよい。
図3を参照して、基板SBの下面S2においてpコレクタ層3が占める面積の割合をλとすると、λは55%以上70%以下であることが好ましい。つまり、55≦100×(Xp×Yp)/(Xn×Yn)≦70が満たされることが好ましい。ここで、XnおよびYnがIGBT900Bのチップサイズを示す。λ<55%となると、IGBTのアクティブエリアAR1のpコレクタ層3からのホール注入が不十分となり、オン電圧(VCE(sat))が上昇する。λ>70%となると、後述するようにIGBTのターンオフ動作時の局所的な温度上昇によるウィークスポット(図2の矢印WS)の電界強度がIGBTのオン状態からpコレクタ層3からのキャリア注入が起こり、矢印WS部分にキャリアが存在することで緩和されず、遮断能力が低下する。以上より、λ値にはIGBTの性能バランスから、適切な領域が存在する。なお下面S2においてアクティブエリアAR1およびインタフェースエリアAR2が占める割合の合計は、70%超であることが好ましく、たとえば75%程度である。
(IGBT900Aについて)
図4を参照して、比較例のIGBT900Aには、上記IGBT900Bと異なり、アクティブエリアAR1以外にもpコレクタ層3が設けられている。具体的には、基板SBの下面S2全体にpコレクタ層3が設けられている。これら以外の構成は、上述したIGBT900Bとほぼ同様である。
IGBT900Aは、ターンオフ動作を繰り返すと、基板SBの上面S1におけるアクティブエリアAR1とインタフェースエリアAR2との境界、すなわち矢印WS(図2)、の局所的温度上昇が特に生じやすい。この現象がIGBT900Aの遮断能力を制限し得る。
(IGBT900Bの作用効果について)
IGBT900Aと異なり、図2に示すIGBT900Bによれば、pコレクタ層3がエッジターミネーションエリアAR3およびインタフェースエリアAR2に設けられていない。これにより、IGBT900Bの遮断動作において、矢印WSでの温度上昇が抑制される。またアクティブエリアAR1の構成についてはIGBT900Aと同様であるため、オン電圧が上昇するような悪影響はない。以上から、IGBT900Bは、低いオン電圧と高い遮断能力との両方を有する。
(IGBT900Cについて)
図5を参照して、IGBT900Cにおいては、pウエル領域9aへの電極13cのコンタクト(図4参照)が設けられていない。pウエル領域9aは、上面S1においてエミッタ電極13aとpウエル領域9aの端部(図中、矢印WS)との間をp型の領域でつなぐ電気的経路を構成している。この電気的経路は、アクティブエリアAR1およびエッジターミネーションエリアAR3の間でインタフェースエリアAR2を横断しており、幅LEEBRを有する抵抗領域を有する。この抵抗領域はその全体が層間絶縁膜12bに覆われている。詳しくは後述するが、幅LEEBRは、IGBTの遮断動作時に抵抗領域の両端にて温度上昇を分担することで両端の一方での局所的な温度上昇を抑制するように定められている。IGBT900A(図4)では矢印WSの箇所にて局所的な温度上昇が発生するところを、IGBT900Cにおいては上記抵抗領域が設けられることで、抵抗領域の両端にて温度上昇が分担される。このような効果をバラスト抵抗と称し、また上記抵抗領域のことをバラスト抵抗領域とも称する。
なお上記以外の構成は、上述したIGBT900Bとほぼ同様である。
IGBT900Cによれば、動作時に、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界の位置(図5の矢印WS)に対応するバラスト抵抗領域の一方端(図中、幅LEEBRの右端)の位置だけでなく、他方端(図中、幅LEEBRの左端)の位置においても局所的な昇温が生じる。これにより昇温が分散されるので、矢印WSでの局所的な昇温を緩和することができる。ここで、アクティブエリアAR1の構成についてはIGBT900Aと同様であるため、オン電圧への悪影響はみられない。以上から、IGBT900Cは、低いオン電圧と高い遮断能力との両方を有する。
(IGBT900Dについて)
図6を参照して、IGBT900Dは、上述したIGBT900Bおよび900Cの各々の特徴を有している。具体的には、IGBT900Bと同様に、pコレクタ層3がアクティブエリアAR1にのみ設けられている。またIGBT900Cと同様に、幅LEEBRを有するバラスト抵抗領域が設けられている。これら以外の構成は、上述したIGBT900Bまたは900Cとほぼ同様である。IGBT900Dによれば、上述したIGBT900Bおよび900Cの各々の作用によって、低いオン電圧と高い遮断能力との両方が得られる。
(IGBT900Cの効果の検証)
図7は、4500VクラスIGBTのターンオフ動作のシミュレーションに用いた回路図である。図8は、図7の回路を用いて得られたターンオフ波形、すなわち時間tとコレクタ・エミッタ電圧VCEとの関係を示す。図9は、比較例としてのIGBT900A(破線)と、LEEBR=200μmの実施例としてのIGBT900C(実線)の各々について、コレクタ電流密度JCが急激に低下する直前(図8の矢印に示す時点)での、線D−D´(図4および図5)に沿う座標Xにおける温度分布を示す。図10は、デバイス内部のピーク温度TmaxとLEEBRとの関係を示す。
上記シミュレーションの結果から、バラスト抵抗領域で電圧分担が行われることで、デバイス内部のピーク温度Tmaxを抑えられることができ、特にLEEBRを100μm以上とすることで、Tmaxを800K以下とすることができた。以上のように、バラスト抵抗領域を設けることで、発熱による破壊を防止することができること、言い換えればIGBTの遮断能力が高められることがわかった。
(IGBT900Bおよび900Dの効果の検証)
図11は、比較例としてのIGBT900A(破線)と、実施例としてのIGBT900D(実線)との各々のターンオフ波形の例を示す。図12Aは、比較例のオン状態時(図11のtON)における電流ポテンシャルおよびホール濃度を図4の視野で示す。図12Bは、比較例のターンオフ中のコレクタ・エミッタ電圧VCEのピーク時(図11の破線のtpeak)における電流ポテンシャルおよびホール濃度を図4の視野で示す。図13Aは、実施例のオン状態時(図11のtON)における電流ポテンシャルおよびホール濃度を図6の視野で示す。図13Bは、実施例のターンオフ中のコレクタ・エミッタ電圧VCEのピーク時(図11の実線のtpeak)における電流ポテンシャルおよびホール濃度を図4の視野で示す。図14Aおよび図14Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=tON(図11)におけるデバイス内部のキャリア濃度を示す。図15Aおよび図15Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=tpeak(図11)におけるデバイス内部のキャリア濃度を示す。図16Aおよび図16Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=ttail(図11)におけるデバイス内部のキャリア濃度を示す。図17Aおよび図17Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=tON(図11)におけるデバイス内部の電界強度を示す。図18Aおよび図18Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=tpeak(図11)におけるデバイス内部の電界強度を示す。図19Aおよび図19Bのそれぞれは、比較例および実施例のt=ttail(図11)におけるデバイス内部の電界強度を示す。
図12A、図12B、図13A、図13B、図14A、図14B、図15A、図15B、図16Aおよび図16Bから、実施例のIGBT900D(構造D)のキャリア濃度は、アクティブエリアAR1においては比較例のIGBT900Aと同程度であるものの、エッジターミネーションエリアAR3においては低くなった。これはpコレクタ層3からのホール注入がインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3では生じないためと考えられる。なおこの作用は、IGBT900Dと同様のコレクタ構造を有するIGBT900B(構造B)においても同様と考えられる。
また上記作用から、図17A、図17B、図18A、図18B、図19Aおよび図19Bに示すように、ターンオフ動作中のインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3における電界緩和および空乏化が促進される。特に図19Aおよび図19Bを参照して、上面S1におけるインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界での電界緩和は、遮断能力の向上に寄与する。
図20を参照して、高い遮断能力と低いオン電圧との適切な均衡を取るには、基板SBの下面S2においてpコレクタ層3が有する面積の割合λが適切である必要がある。図中、λ=100%は、比較例のIGBT900Aのコレクタ構造に対応する。図示された結果から、λは55%以上70%以下であることが好ましい。λ値を55〜70%とすることで、オン電圧VCE(sat)を上昇させる悪影響なく、高いターンオフ時最大遮断電流密度JC(break)との両方を実現することができる。
なおグラフにおけるλ=75%の結果は、pコレクタ層3がアクティブエリアAR1およびインタフェースエリアAR2に設けられエッジターミネーションエリアAR3には設けられない構造に対応している。λが75%にまで増大すると、ターンオフ時最大遮断電流密度JC(break)の顕著な低下が見られた。このことから、pコレクタ層3をインタフェースエリアAR2に設けないことが、JC(break)を高める上で重要であることが分かった。
図21は、比較例としてのIGBT900A(破線)および実施例としてのIGBT900D(実線)における、pコレクタ層3の形成のためのイオン注入のドーズ量とターンオフ時最大遮断電流密度JC(break)との関係の例を示す。図22は、比較例(破線)および実施例(実線)のRBSOAとして、電源電圧VCCと、飽和電流密度JC(sat)および最大パワー密度Pmaxとの間の関係を示す。図22中の各線で囲まれる領域がリカバリー安全動作領域(Safe Operating Area:SOA)といわれる領域である。IGBTのターンオフ時の遮断能力には、pコレクタ層3からのホール注入効率が影響する。またpコレクタ層3のドーズ量は、IGBTにおけるオン電圧VCE(sat)とターンオフ損失EOFFとの間のトレードオフ特性を制御するパラメータである。このVCE(sat)とEOFFとのトレードオフ特性の制御のためにpコレクタ層3のドーズ量が調整される場合であっても、図21から、比較例(破線)よりも実施例(実線)の方が高いJC(break)を確保することができ、かつJc(break)に対するpコレクタ層3のドーズ量依存性が小さく、優れたIGBTである。その上、図22より、実施例はRBSOAを拡大し、かつターンオフ時の遮断するパワー密度が向上し、優れた効果を示す。
下記の表1に、IGBT900A〜900D(構造A〜D)の構造上の特徴と、定格電流密度Jc(rated)を基準としたターンオフ時最大遮断電流密度JC(break)との関係をまとめる。
上記のように、構造A(IGBT900A)に比して構造B〜D(IGBT900B〜900D)は、高いJC(break)、すなわち高いターンオフ遮断能力を有し、特に構造D(IGBT900D)は顕著に高い能力を有する。
図23は、他の比較例としてのIGBT900Zの構成を示す。IGBT900Zは、上述したIGBT900A〜900Dと異なり、プレーナ型のゲート電極11を有する。図24は、実施例としてのIGBT900D(実線)、比較例としてのIGBT900A(破線)およびIGBT900Z(一点鎖線)における、オン電圧VCE(sat)とターンオフ損失EOFFとの間のトレードオフ特性を示す。この結果から、IGBT900Dは、図21および表1で説明したように高いターンオフ遮断能力を有しつつ、オン電圧VCE(sat)およびターンオフ損失EOFF間のトレードオフ特性においても優れたものであることがわかる。
(IGBT900Eおよび900Fについて)
図25を参照して、IGBT900D(図6)の変形例のIGBT900Eにおいては、nバッファ層2がアクティブエリアAR1にのみ設けられており、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3には設けられていない。nバッファ層2のパターンはpコレクタ層3のパターンと同じであってもよい。なおこのような構造がIGBT900Dに代わりIGBT900Bと組み合わされてもよい。
図26を参照して、IGBT900B(図2)の変形例のIGBT900Fにおいては、アクティブエリアAR1は、MIS(Metal Semiconductor Semiconductor)構造セルが配置されたMIS構造部分(図中、左部および右部)と、MIS構造セルが配置されていない非MIS構造部分(図中、中央部)とを有する。図中、中央部は、アクティブエリアAR1におけるゲート配線部28およびゲートパッド29(図1)が設けられた部分AR1gである。部分AR1gにはpコレクタ層3が設けられておらず、この結果、下面S2でバッファ層2とコレクタ電極4とが接している。MIS構造は典型的にはMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造である。このような構造も、IGBT900Dによるものと同様の効果を示す。
<実施の形態2>
図27を参照して、本実施の形態のIGBT900Gが有する構造(構造Gと称する)について説明する。
構造Gにおいて基板SBは、n-ドリフト層1と、nバッファ層2と、pコレクタ層3と、n+エミッタ層5と、p+層6と、pベース層8と、n層24と、pウエル領域9aと、p-延長領域9jと、複数のp-フィールドリミッティングリング9gとを含む。pウエル領域9aはインタフェースエリアAR2において層間絶縁膜12bに覆われている。
p-延長領域9jは、上面S1においてpウエル領域9aから外側(図中、右側)へ延び、pウエル領域9aよりも浅い。p-延長領域9jは、p型を有し、pウエルに比して低いピーク不純物濃度および表面不純物濃度を有する。
さらに図28を参照して、p-フィールドリミッティングリング9gはp型を有する。p-フィールドリミッティングリング9gは、エッジターミネーションエリアAR3においてp-延長領域9jの外側に上面S1に設けられている。上面S1上においてp-フィールドリミッティングリング9gの各々の内側にはn-ドリフト層1が位置し、p-フィールドリミッティングリング9gのそれぞれは、内側に位置するn-ドリフト層1と共に単位構造US1〜US6(総称してUSともいう)を構成している。また単位構造USの幅Wcellpitchは一定の値である。p-フィールドリミッティングリング9gはより外側(図中、右側)のものほど上面S1上において単位構造USの幅Wcellpitchに対してより小さい割合の、p-フィールドリミッティングリング9gの幅Wp-を有する。単位構造USはより外側のものほどより小さい平均ドーズ量を有する。ここで単位構造USの平均ドーズ量とは、特定の単位構造USのp-フィールドリミッティングリング9gの形成のために注入されたイオン数を、当該単位構造USが上面S1上において有する面積で除した数値である。言い換えれば、単位構造USの平均ドーズ量は、単位構造USの内部構造を無視した、より巨視的な観点でのドーズ量である。
図28で例示した構造においては、基板SBの上面S1上において単位構造USの各々は一定の幅Wcellpitchを有する。またp-フィールドリミッティングリング9gはより外側(図中、右側)のものほど上面S1上において小さい幅Wp-を有する。このような単位構造USを得るには、たとえば、フィールドリミッティングリング9gを形成するためのイオン注入工程において、外側のものほどより小さい幅を有する複数の開口が一定ピッチで設けられたイオン注入マスクを用いればよい。なお、イオン注入がより狭い幅でなされたフィールドリミッティングリング9gほど、活性化アニール後、すなわち拡散後、の最終的な深さは小さくなる。なお図28ではp-フィールドリミッティングリング9gは個々に存在するように示しているが、不純物領域として当初形成されていた複数のp-フィールドリミッティングリング9gのうちの1/3〜1/2程度が活性化アニールに起因してp-延長領域9jとつながる。
好ましくは、幅Wp-は、外側に向かって単位構造USごとに一定寸法だけ減じている。この場合、幅Wcellpitch一定という条件下では、単位構造USの平均ドーズ量は、外側に向かって単位構造USごとに線形に変化する。単位構造USの内部構造を無視した、より巨視的な観点では、図29に示すように、図中矢印方向に一定の濃度勾配で不純物濃度が減少するような疑似的p-ウエル9pが設けられていることになる。この構成では、上面S1上において、p-延長領域9j(図27)では不純部濃度がおおよそ一定であるのに対して、その外側に位置する疑似的p-ウエル9pでは外側に向かって不純物濃度が線形に小さくなる。
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1のIGBT900Dの構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
本実施の形態によれば、エッジターミネーションエリアAR3に設けられるp-フィールドリミッティングリング9gによって構成される単位構造USは、より外側のものほどより小さい平均ドーズ量を有する。この構成により、上述したような平均ドーズ量の制御がなされていないものに比してより小さいエッジターミネーションエリアAR3であっても、インタフェースエリアAR2における電界強度を十分に抑えることができる。よって、アクティブエリアAR1の面積を大きく犠牲にすることなく、アクティブエリアAR1とインタフェースエリアAR2との境界での温度上昇を抑制し得る。すなわち、低いオン電圧と高い遮断能力との両方を有することができる。特に、単位構造USの各々が一定の幅Wcellpitchを有する場合、低いオン電圧と高い遮断能力との両方を、より確実に得ることができる。
次に上述した作用効果の検証結果について、以下に説明する。
図30Aは、比較例(破線)としてのIGBT900A(図4)と、実施例(実線)としてのIGBT900G(図27)とにおける、コレクタ・エミッタ電圧VCEおよびコレクタ電流密度JCの各々のターンオフ波形のシミュレーション結果を示す。図30Bは、これら比較例(破線)および実施例(実線)における、デバイス内部のピーク温度のシミュレーション結果を示すグラフ図である。図30Aおよび図30Bにおける「×」はデバイスの破壊を意味する。図30Aの矢印で示す時点でのデバイス内部状態に関するより詳しいシミュレーション結果を図31Aおよび図31Bに示す。図31Aは、比較例および実施例における、デバイス内部の温度を示す。図31Bは、比較例および実施例におけるデバイス内部のインパクトイオン化率を示す。図31Aおよび図31Bにおいて、矢印で示す破線部が、インタフェースエリアAR2に対応している。このシミュレーション結果から、比較例に比して実施例の方がインタフェースエリアAR2の局所的温度上昇が小さい。よって実施例の方が、IGBTのターンオフ動作時のデバイス内部温度上昇が小さく、高い遮断能力を有すると考えられる。
図32Aは、比較例としてのIGBT900A(図4)における、位置Xと、基板の上面での電界強度Eedgeとの関係を、動的状態(実線)および静的状態(破線)の各々について示す。図32Bは、実施例としてのIGBT900G(図27)における、位置Xと、基板の上面での電界強度Eedgeとの関係を、動的状態(実線)および静的状態(破線)の各々について示す。ここで静的状態の条件としては、コレクタ・エミッタ電圧VCES=3600V、ゲート電圧VG=0V、温度T=423Kを用いた。動的状態としては、図30Aにおいて矢印で示す状態を用いた。この結果から、IGBT900Aに比してIGBT900Gの方が、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界近傍において、電界強度Eedgeが、静的状態だけでなく動的状態においても小さくなる。このようにIGBT900GではIGBT900Aより電界強度が抑制されることで、インパクトイオン化が抑制されることにより(図31B)、局所的温度上昇が抑制される(図31A)と考えられる。
上述したように本実施の形態によればターンオフ遮断能力を高めることができる。その上、アクティブエリアAR1の構成は、比較例のIGBT900A(図4)と同様とすることができるので、他の特性への特段の悪影響はない。よって本実施の形態においても、前述したIGBT900D(図6)と同程度の諸特性を確保することができる。
また本実施の形態によれば、エッジターミネーションエリアAR3の幅を小さくすることができる。シミュレーションによる見積もりでは、幅寸法を40〜50%程度低減することが可能である。このことについて、以下に説明する。
図33は、コレクタ・エミッタ電圧VCES=4500Vかつ温度T=298Kの下での、比較例(破線)としてのIGBT900A(図4)と、実施例(実線)としてのIGBT900G(図27)とにおける、線F−F´に沿う位置Xedgeと、電界強度Eとの関係を示す。この結果から、同じコレクタ・エミッタ電圧VCESの保持時に、比較例に比して実施例の方が、電界強度Eをより抑制しつつ(図中、下向き矢印参照)、位置Xedgeに必要な寸法が抑制される(図中、左向き矢印参照)。
図34は、上記比較例(破線)および実施例(実線)における、耐圧クラスVclassとエッジターミネーションエリアAR3の必要幅Wedgeとの関係を示すグラフ図である。比較例に比して実施例の方が、耐圧クラスVclassに関わらず、エッジターミネーションエリアAR3の必要幅Wedgeを40〜50%小さくすることができる。つまり本実施例の図27のデバイス構造により、半導体装置に占めるアクティブエリアAR1のサイズを変えることなく、図3に示す半導体装置のチップサイズであるXnおよびYnを小さくする、チップサイズのシュリンク効果が見込まれる。つまり、本実施例により半導体装置を作り込むウエハ1枚当たりの半導体装置の数(理論チップ数)を増やすことができ、チップコストを低減することができる。
次に変形例について説明する。図35を参照して、IGBT900Hは、p-フィールドリミッティングリング9gの各々の上に層間絶縁膜12aおよび12bを介してフローティング電極13eを有する。フローティング電極13eの各々は、幅方向(図35における横方向)において、層間絶縁膜12aおよび12bを介して直下にあるp-フィールドリミッティングリング9gの内側に配置されている。図36Aを参照して、IGBT900Iにおいては、ゲート接続電極13b(図27参照)が、p-延長領域9jを覆う層間絶縁膜12aおよび12bを介して、p-延長領域9j上にまで延びている。ただし幅方向(図中、横方向)において、ゲート接続電極13bはp-延長領域9jの内側に位置するように形成され、またフローティング電極13eは前述したようにp-フィールドリミッティングリング9gの内側に位置するように形成される。図36Bを参照して、IGBT900Jは、IGBT900I(図36A)においてフローティング電極13eが省略された構造を有する。これらの構造により、図32B、図33中のIGBT900Gによる特徴的なエッジターミネーションエリアAR3の電界強度分布を、IGBTの性能を保障する動作温度範囲で、電気的なストレスが印加されても経時変化せず安定化させた上で、より高い耐圧やより高い遮断能力が得られる。
<実施の形態3>
本実施の形態においては、実施の形態1で説明したバラスト抵抗領域(図5:IGBT900Cにおけるpウエル領域9aの幅LEEBRを有する部分)と同様の構成を有するダイオードについて説明する。なおIGBT900Cと同様の構成については、一部、説明を繰り返さない。
図37を参照して、本実施の形態のダイオード800A(電力用半導体装置)は、図11に示すIGBTと同様に、アクティブエリアAR1と、アクティブエリアの外周に設けられたインタフェースエリアAR2と、インタフェースエリアAR2の外周に設けられたエッジターミネーションエリアAR3と、を含むものである。アクティブエリアAR1は、本実施の形態においてはダイオードの基本的な機能を担う部分である。
ダイオード800Aは、基板SB(半導体基板)と、アノード電極13(第1の電極)と、カソード電極4D(第2の電極)と、層間絶縁膜12とを有する。基板SBは、n-ドリフト層1(ドリフト領域)と、nバッファ層2と、アノード層8Dと、pガードリング9と、p層26と、n+層27と、n+領域35とを含む。アノード電極13は、アクティブエリアAR1に設けられ、基板SBの上面S1においてアノード層8Dに接している。アノード層8Dはn-ドリフト層1上に設けられている。カソード電極4Dは基板SBの下面S2において、p層26およびn+層27からなる半導体層に接している。n+層27はアクティブエリアAR1にのみ設けられている。nバッファ層2は、上記半導体層と、n-ドリフト層1との間に設けられている。層間絶縁膜12は、アクティブエリアAR1に開口を有する。
アノード層8Dは、たとえば0.5〜10μm程度の深さを有する。アノード層8Dは、p型を有し、たとえば1×1016〜1×1020cm-3程度のピーク不純物濃度を有する。pガードリング9は、たとえば5〜10μm程度の深さを有する。pガードリング9は、たとえば1×1016〜1×1020cm-3程度のピーク不純物濃度を有する。n+領域35は、たとえば0.2〜1μm程度の深さを有する。n+領域35は、n型を有し、たとえば1×1018〜1×1021cm-3程度のピーク不純物濃度を有する。p層26は、たとえば0.3〜5μm程度の深さを有する。p層26は、たとえば1×1016〜1×1020cm-3程度の表面不純物濃度を有する。n+層27は、たとえば0.3〜5μm程度の深さを有する。n+層27は、たとえば1×1018〜1×1020cm-3程度の表面不純物濃度を有する。
ダイオード800Aにおいてpウエル領域9aは、上面S1においてアノード電極13とpウエル領域9aの端部(図中、右端)との間をp型の領域でつなぐ電気的経路を構成している。この電気的経路は、アクティブエリアAR1およびエッジターミネーションエリアAR3の間でインタフェースエリアAR2を横断しており、幅LABRを有する抵抗領域を有する。この抵抗領域はその全体が層間絶縁膜12に覆われている。pウエル領域9aは幅Wp0を有する。インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界と、n+層27の外周端とは、幅WGRの間隔を有する。
幅LABR、Wp0およびWGRは、ダイオード800Aの設計上、重要なパラメータである。幅LABRは、ダイオードのリカバリー動作時に抵抗領域の両端にて温度上昇を分担することで両端の一方での局所的な温度上昇を抑制する、バラスト抵抗効果が得られるように定められている。具体的には、図37に示す矢印WSでの局所的な電流集中による温度上昇が分担されることで、局所的な温度上昇が抑制される。この観点で幅LABRは、具体的には100μm以上とされている。
比較例のダイオード800Z(図38)には、上述したバラスト抵抗領域が設けられていない。なお図38においては模式的に1つのpエッジ領域9bが示されているが、図37と同様の複数のpエッジ領域9bが存在する。ダイオード800Zは、リカバリー動作時、基板SBの上面S1におけるアクティブエリアAR1とインタフェースエリアAR2との境界、すなわち矢印WS、の局所的温度上昇が生じやすい。この現象がダイオード800Zの遮断能力を制限する。
これに対して本実施の形態によれば、ダイオードのリカバリー動作時に、後述する図40Aのように、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界の位置に対応するバラスト抵抗領域で電流分散することで、インタフェースエリアAR2とエッジターミネーションエリアAR3との境界での電流集中による局所的な温度上昇を抑制する。ここで、アクティブエリアAR1の構成については従来のダイオードと同様とすることができるため、オン電圧上昇のような悪影響は見られない。以上のように、IGBT900Cと同様、ダイオード800Aも、低いオン電圧と高い遮断能力との両方を有する。
次に上述した作用効果の検証結果について、以下に説明する。
図39は、実施例(実線)としてのダイオード800Aおよび比較例(破線)としてのダイオード800Zの各々について、リカバリー動作時の電圧VAKおよび電流密度JAの波形と、デバイス内部のピーク温度Tとを示す。図40Aは、実施例(実線)および比較例(破線)の各々について、時刻td(図39)での、線G−G´(図37および図38)に沿う位置Xと、電流密度JAとの関係を示し、図40Bは位置Xと温度Tとの関係を示す。バラスト抵抗領域を設けていない比較例(破線)では、インタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3の境界近傍に位置するインタフェースエリアAR2の端部にて、電流密度JAの集中が生じ、また温度Tの局所的上昇が生じる。その結果、図39に示すように、ダイオード800Zは遮断動作を完了することができずに破壊に至る。これに対してダイオード800Aは、電流密度JAがインタフェースエリアAR2内で極端な集中なしに分散され、またデバイス破壊の目安となる800K以上の昇温が生じた箇所も存在しない。ダイオード800Aは、バラスト抵抗領域が電流を分担することで、破壊することなく遮断動作を行う。よって実施例のダイオードの遮断能力が向上する。
図41、図42Aおよび図42Bは、ダイオード800Aの幅LABRおよびWp0(図37)と、時刻td(図39)でのデバイス内部の温度および電流密度との関係を示す。この結果から、ダイオードの遮断能力向上のために電流密度の集中および局所的昇温を抑制するには、LABR<Wp0とする必要がある。
図43は、アクティブエリアAR1(図37)の面積Sactive cell(すなわちアノード電極13の面積)に対するバラスト抵抗領域の面積Sabrの割合γと、リカバリー動作時の最大遮断電流密度JA(break)およびデバイス内部最大温度Tmaxとの関係を示す。図37の例では、図44に示すように、面積Sabrは実質的にインタフェースエリアAR2の面積と同じである。JA(break)は実デバイスでの実験結果であり、Tmaxはシミュレーション結果である。シミュレーションによってTmaxが800K以下となるγが選択されると(図中、安全領域SZ)、高いJA(break)を有する実デバイスが得られる。具体的には、γが2%以上40%以下であることにより、高いJA(break)が得られることが分かる。
また図37を参照して、幅WGRは幅Wp0よりも大きくされることが好ましい。諸パラメータの議論をまとめると、ダイオード800Aの遮断能力を高めるためには、以下の関係を満たす必要がある。
LABR < Wp0
2% ≦ γ ≦ 40%
WGR > Wp0
<実施の形態4>
本実施の形態においては、実施の形態2で説明したIGBT900G(図28)が有する単位構造USと同様の構成を有するダイオードについて説明する。なおこのIGBT900G、または前述したダイオード800A(図37)と同様の構成については、一部、説明を繰り返さない。
図45Aを参照して、本実施の形態のダイオード800Bは、基板SBの上面S1上に層間絶縁膜12aおよび12bをインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3において有する。また基板SBは、上面S1に設けられp型を有するアノード層8D(不純物層)を有する。また基板SBは、エッジターミネーションエリアAR3において上面S1にp-延長領域9jおよび複数のp-フィールドリミッティングリング9gを有する。実施の形態3と同様に、上面S1上においてp-フィールドリミッティングリング9gの各々の内側にはn-ドリフト層1が位置し、p-フィールドリミッティングリング9gのそれぞれは、内側に位置するn-ドリフト層1と共に単位構造US(図28)を構成している。なお図45B〜図45Dのそれぞれは変形例のダイオード800C〜800Eを示す。ダイオード800C(図45B)はIGBT900H(図35)と同様にフローティング電極13eを有する。ダイオード800D(図45C)においては、IGBT900I(図36A)のゲート接続電極13bと同様に、アノード電極13が層間絶縁膜12aおよび12bを介してp-延長領域9j上にまで延びている。ダイオード800E(図45D)は、ダイオード800D(図45C)においてフローティング電極13eが省略された構造を有する。
図46Aは、実施例(実線)としてのダイオード800Bと、比較例(破線)としてのダイオード800Z(図38)との各々について、リカバリー動作時の電圧VAKおよび電流密度JAの波形を示し、図46Bはリカバリー動作時のデバイス内部のピーク温度Tを示す。比較例においては、t=5.5μsでVAKの急激な低下とT>800Kへの急激な温度上昇とが生じている。すなわちリカバリー動作途中でダイオードの破壊が生じている。これに対して実施例においては破壊なしに遮断が完了している。
図47A〜図47Dのそれぞれは、比較例の線H−H´(図38)における位置Xと表面電界強度Esurfaceとの関係をt=t1〜t4(図46Aおよび図46B)において示す。図48A〜図48Fのそれぞれは、実施例の線H−H´(図45A)における位置Xと表面電界強度Esurfaceとの関係をt=t1〜t6(図46Aおよび図46B)において示す。図49A〜図49Dのそれぞれは、比較例の線H−H´における位置Xと電流密度jsurfaceとの関係をt=t1〜t4において示す。図50A〜図50Fのそれぞれは、実施例の線H−H´における位置Xと電流密度jsurfaceとの関係をt=t1〜t6において示す。図51A〜図51Dのそれぞれは、比較例の線H−H´における位置Xとデバイス上面S1の温度Tsurfaceとの関係をt=t1〜t4において示す。図52A〜図52Fのそれぞれは、実施例の線H−H´における位置Xとデバイス上面S1の温度Tsurfaceとの関係をt=t1〜t6において示す。
これらの結果より、比較例に比して実施例においては、リカバリー動作中にインタフェースエリアAR2およびエッジターミネーションエリアAR3、特にインタフェースエリアAR2、の電界強度が低く、またインタフェースエリアAR2の温度上昇が抑制された。よってダイオード800Bは、IGBT900Gと同様に、高い遮断能力を有すると考えられる。この結果、SOAを拡大する効果が得られる。
図53は、比較例(三角形で表記)および実施例(円形で表記)におけるリカバリーSOAを説明するグラフ図である。ここで、(dj/dt)maxは、遮断時に許容される電流密度の時間微分の最大値であり、Pmaxは最大パワー密度である。dj/dt値は、たとえば図46Aに示すような領域での電流密度波形の傾きであり、この値が大きいほどダイオードは高速でリカバリー動作が可能である(つまり、ダイオードのリカバリー動作時の遮断能力が大きい)。この結果から、実施例によれば、従来例より約3倍の大きなdj/dt値により高速なリカバリー動作が可能でありまた50倍以上の大きなパワー密度の遮断が可能なため、リカバリーSOAが向上することがわかる。
上記各実施の形態の電力用半導体装置は3300〜6500V程度の高耐圧クラスに特に適したものであるが、電力用半導体装置の耐圧の大きさは特に限定されるものではなく、たとえば600V程度以上であってもよい。また半導体基板の材料はシリコンに限定されるものではなく、たとえば、炭化珪素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ材料であってもよい。また半導体基板の第1および第2の導電型としてのn型およびp型は互いに入れ替えられてもよい。
本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。