JP6615039B2 - 靭性に優れる耐摩耗性鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、硬質なNb・Ti系炭化物を分散させた耐摩耗性鋼板において、特に靭性の改善を図った鋼板に関する。
自動車部品、産業機械のチェーン部品、歯車などの動力伝達部材や、木材の切断・草刈等に使用する丸鋸、帯鋸などの刃物部材には、耐摩耗性が要求される。一般に鋼材の耐摩耗性は、硬さを高めることによって向上する。そのため、耐摩耗性を重視する部材には、焼入れ等の熱処理を利用して硬質化させた鋼材や、炭素等の合金元素含有量の高い鋼材が多用される。すなわち、鋼材の硬さと耐摩耗性は密接な関係にあり、従来、鋼材に耐摩耗性を付与する手法としては硬さを増大させる手法を採用することが一般的である。
一方、刃が高速回転する丸鋸などの刃物部材では、使用中に折損しないことが重要である。折損を防止するためには鋼材の靭性を確保する必要がある。耐摩耗性の向上に有利な硬質化は、靭性を低下させる要因となる。そのため、一般に「耐摩耗性」と「靭性」はトレードオフの関係にある。
果実、穀物、綿花等の農産物を刈り取る丸鋸など一部の刃物においては、摩耗が比較的穏やかであることから、硬さよりも、折損防止に有利な「靭性」が重視される。そのような刃物用途では、焼入れ等の調質熱処理を経て硬質化された「調質材」ではなく、フェライト相+球状化セメンタイト組織の「非調質材」が適用されることも多い。しかしながら、製品の長寿命化に対する要求は根強く、摩耗が比較的穏やかな用途であっても、耐摩耗性の改善要望が高まりつつある。非調質材において「耐摩耗性」と「靭性」を高いレベルで両立させる技術の構築が望まれる。
特許文献1、2には、熱間鍛造用鋼において摩耗を促進させるフェライト相の硬質化および面積率低減によって鋼の耐摩耗性を向上させることが記載されている。しかし、これらの文献で対象としている鋼はフェライト−パーライト組織であり、フェライト−球状化セメンタイト組織に比べ靭性が劣る。
特許文献3には、結晶粒を微細化させて高強度・高靭性を付与した熱延鋼材を直接切削加工することにより、調質熱処理せずに使用できる機械構造用部品を得る技術が開示されている。しかし、耐摩耗性を必要とする用途では高周波焼入れ−焼戻しの処理が必要となる。
特許文献4には、高炭素鋼の衣材と低炭素鋼の芯材をクラッド化することにより耐摩耗性と靭性を兼備させた丸鋸用鋼板が開示されている。しかし、クラッド化の工程が必要となる。
特許文献5、6には、硬質なNb・Ti系炭化物の分散を利用して耐摩耗性を向上させる技術が開示されている。これらの技術は焼入れ焼戻し処理によって硬質化を図る調質材を対象とするものでる。高い耐摩耗性が得られるが、靭性面では更なる改善が望まれる。
特開平10−137888号公報 特開2003−201536号公報 特開2011−195858号公報 特開昭60−82647号公報 特開2010−138453号公報 特開2013−136820号公報
本発明は、非調質材において、「耐摩耗性」と「靭性」を高いレベルで両立させることを目的とする。
発明者らの調査によれば、特許文献5、6に開示されるような硬質なNb・Ti系炭化物を利用して耐摩耗性を付与する技術において、焼入れ等の調質熱処理を施す前の鋼板(非調質材)は比較的軟質であるにもかかわらず、その段階で、必ずしも良好な靭性を呈するとは限らないことがわかった。詳細な調査の結果、冷間圧延時に硬質な炭化物粒子の近傍にボイドが生じ、それが靭性を阻害する要因となっていることを突き止めた。そこで発明者らは、ボイドが生じにくい製造条件を見つけるべく研究を進めた。その結果、まず、冷間圧延率を低減するとボイドは生じにくくなる傾向が認められた。さらに研究を進めた結果、冷間圧延と焼鈍を繰り返す場合には、中間における冷間圧延率が35%を超えると靭性が著しく劣化する場合があることがわかった。35%以下の比較的軽い圧延率で中間冷間圧延を行い、中間焼鈍を施し、その後、最終的な仕上げ冷間圧延を施す工程によって、粗大なボイドの形成が少ない鋼板が得られ、安定して高い靭性が付与できることを見いだした。この場合、仕上げ冷間圧延率は60%程度まで許容されることが確認された。本発明はこのような知見に基づくものである。
上記目的は、質量%で、C:0.60〜1.25%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.20%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.30〜1.50%、Nb:0.10〜0.50%、Ti:0〜0.50%、Mo:0〜0.50%、V:0〜0.50%、Ni:0〜2.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、フェライト相の金属素地中に、セメンタイト粒子と、Nb、Tiの1種以上を含有する炭化物(以下「Nb・Ti系炭化物」という。)の粒子が分散した金属組織を有し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度が3000〜9000個/mm2、円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が1250個/mm2以下である鋼板によって達成される。ここで、Ti、Mo、V、Niは任意添加元素である。この鋼板の板厚は例えば0.2〜4.0mmである。
ここで言う「Nb・Ti系炭化物」は、炭化物を構成する金属元素としてNbおよびTiの1種または2種を含有する硬質炭化物である。Nb・Ti系炭化物の種類としては、NbCを主体とするタイプ、TiCを主体とするタイプ、および(Nb,Ti)Cを主体とするタイプが挙げられる。本発明では所定量のNbを含有する鋼を対象としているので、鋼成分にTiを含有しない場合はNbCを主体とするタイプの硬質炭化物が生成する。このようなTiを含有しないタイプのNb含有硬質炭化物も、本明細書では「Nb・Ti系炭化物」と呼んでいる。鋼成分にTiを含有する場合は(Nb,Ti)Cを主体とするタイプが生成する他、Ti含有量に応じてTiCを主体とするタイプやNbCを主体とするタイプも混在し得ると考えられる。鋼素地中には球状化したセメンタイト(Fe3C)の粒子も存在する。ある炭化物がNb・Ti系炭化物であるかどうかは、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析法)等の分析手法により確認できる。
ボイドはNb・Ti系炭化物粒子の表面と鋼素地(マトリックス)の間の存在する空隙である。円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度は以下のようにして求めることができる。
〔ボイドの個数密度の求め方〕
圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)を研磨した観察面を共焦点レーザー顕微鏡により観察し、観察画像上で、Nb・Ti系炭化物に隣接して存在するボイドのうち、円相当径が1.0μm以上であるボイドの個数をカウントし、そのカウント総数を観察総面積(mm2)で除した値を相当径1.0μm以上のボイドの個数密度(個/mm2)とする。ただし、観察面積は90μm×60μm×20視野とする。観察視野から一部がはみ出しているボイドは、観察視野内に現れている部分の円相当径が1.0μm以上であればカウント対象とする。ここで、あるボイドの円相当径は、観察画像上における当該ボイドの面積と等しい円の直径である。ボイドの面積は観察画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより測定することができる。
上記鋼板において、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度が3000〜9000個/mm2であることがより好ましい。Nb含有炭化物粒子の個数密度は以下のようにして求めることができる。
〔Nb・Ti系炭化物粒子の個数密度の求め方〕
圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)を研磨したのちエッチングした観察面を共焦点レーザー顕微鏡により観察し、観察画像上で、円相当径が0.5μm以上であるNb・Ti系炭化物粒子の個数をカウントし、そのカウント総数を観察総面積(mm2)で除した値を円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度(個/mm2)とする。ただし、観察面積は90μm×60μm×20視野とする。観察視野から一部がはみ出しているNb・Ti系炭化物粒子は、観察視野内に現れている部分の円相当径が0.5μm以上であればカウント対象とする。ここで、あるNb・Ti系炭化物粒子の円相当径は、観察画像上における当該Nb・Ti系炭化物粒子の面積と等しい円の直径である。Nb・Ti系炭化物粒子の面積は観察画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより測定できる。
上記鋼板は例えば以下の方法により製造することができる。
溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を製造する工程(鋳造工程)、
鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4時間加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
熱間圧延を施す工程(熱延工程)、
必要に応じて、熱延工程で得た熱延鋼板に500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
圧延率35%以下の冷間圧延を施し、次いで500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する手順を、1回以上行う工程(中間冷延焼鈍工程)、
圧延率60%以下の冷間圧延を施す工程(仕上げ冷延工程)、
必要に応じて、300〜500℃で1〜5時間保持する焼鈍を施す工程(歪取り焼鈍工程)、
を上記の順に有する製造方法。
圧延率は下記(1)式によって定まる。
圧延率(%)=(h0−h1)/h0×100 …(1)
ここで、h0は圧延前の板厚(mm)、h1は圧延後の板厚(mm)である。
本発明によれば、Nb含有鋼の非調質材において、靭性を改善することができた。この鋼材は優れた耐摩耗性と靭性を兼ね備えている。果実、穀物、綿花等を刈り取る丸鋸など、従来、非調質材を適用していた刃物部品においては、耐摩耗性向上による寿命延伸効果が得られる。また、従来、耐摩耗性の向上とトレードオフであった靭性の劣化が抑制される。
〔化学組成〕
本明細書において、鋼の成分元素に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cは、鋼板の強度を確保するために必要な元素である。ここではC含有量0.60%以上の鋼を対象とする。C含有量が高くなると粗大な炭化物が多くなり靭性低下の要因となる。C含有量は1.25%以下に制限される。
Siは、脱酸剤として添加されることがあるが、多量に含有すると靭性が劣化する。Si含有量は0.50%以下に制限される。通常、0.01〜0.50%の含有量範囲で調整すればよい。
Mnは、鋼板の強度向上に有効であり、0.30%以上の含有量を確保する。多量のMn含有は熱延鋼板の硬質化を招き、製造性低下の要因となる。Mn含有量は1.20%以下に制限され、1.00%未満に管理してもよい。
PおよびSは、靭性に悪影響を及ぼすので、含有量は少ないことが望ましい。Pは0.030%以下、Sは0.030%以下にそれぞれ制限される。通常、Pは0.001%以上、Sは0.0005%以上の範囲で調整すればよい。
Crは、鋼板の強度向上に有効であり、0.30%以上の含有量を確保する。多量のCr含有は靭性低下の要因となる。Cr含有量は1.50%以下に制限される。
Nbは、鋳造後の冷却過程で鋼中に非常に硬質なNb・Ti系炭化物粒子を形成し、耐摩耗性、特に耐アブレシブ摩耗性の向上に寄与する。上記作用を十分に発揮させるために0.10%以上のNb含有量を確保する。ただし、Nbを多量に添加するとNb・Ti系炭化物粒子の生成量が過大となり、靭性を損なう要因となる。種々検討の結果、Nb含有量は0.50%以下に制限する必要がある。0.45%以下に管理してもよい。
Tiは、Nbと同様、鋳造後の冷却過程で鋼中に非常に硬質なNb・Ti系炭化物粒子を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する。従って、必要に応じてTiを添加することができる。その場合0.01%以上のTi含有量とすることがより効果的である。ただし、Tiを多量に添加すると靭性を損なう要因となる。種々検討の結果、Tiを添加する場合は0.50%以下の含有量範囲で行う必要がある。0.30%以下のTi含有量に管理してもよい。
Mo、VおよびNiは、いずれも靭性向上に有効な元素である。そのため必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。その場合、Moは0.10%以上、Vは0.10%以上、Niは0.10%以上の含有量とすることがより効果的である。これらの元素を過剰に添加してもコストに見合った靭性向上効果は期待できない。Moは0.50%以下、Vは0.50%以下、Niは2.00%以下の含有量範囲に抑えることが望ましい。
〔金属組織〕
本発明では、焼入れ焼戻しやオーステンパーに代表される相変態を利用した組織調整(いわゆる調質熱処理)を施していない、非調質材における耐摩耗性と靭性の両立を意図している。従って、本発明に従う鋼板は、金属素地(マトリックス)がフェライト相である。その金属素地中に球状化セメンタイト粒子と、Nb・Ti系炭化物粒子が分散している。
この鋼板は、冷間圧延工程でNb・Ti系炭化物粒子の近傍に生成するボイドの存在量が少ない。具体的には、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が1250個/mm2以下、より好ましくは1000個/mm2以下に抑えられている。この種のボイドのうち円相当径1.0μm以上のボイドは、非調質材である鋼板の靭性を低下させる大きな要因となることがわかった。Nb含有量およびTi含有量が上述の適正範囲に抑えられていれば、円相当径1.0μm以上のボイド個数密度を1250個/mm2以下に制限することによって、靭性の顕著な改善効果が得られる。円相当径1.0μm以上のボイド個数密度は1000個/mm2以下であることがより好ましい。ボイドの生成が少ないほど靭性改善には有利となるが、過剰にボイドを制限することは適切な板厚の冷間圧延製品を得る上で、工程上の制約を招く要因となる。通常、円相当径1.0μm以上のボイド個数密度は300個/mm2以上の範囲とすればよい。このボイド個数密度の低減は、例えば、比較的軽圧延率での中間冷間圧延工程を挿入した製造方法(後述)によって実現できる。
Nb・Ti系炭化物粒子は、耐摩耗性を向上させる機能を発揮する。特に、L断面において、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度が3000〜9000個/mm2に調整されていることがより効果的である。Nb・Ti系炭化物粒子の個数密度は、鋳造時の冷却速度や熱間圧延前の鋳片加熱温度を適正化する公知の手法(例えば特許文献5に開示の技術)によってコントロール可能である。
〔製造方法〕
本発明に従う耐摩耗性鋼板は、例えば以下の工程によって製造することができる。
鋳造→鋳片加熱→熱間圧延→(熱延板焼鈍)→中間冷間圧延→中間焼鈍→仕上げ冷間圧延→(歪取り焼鈍)
この場合、「中間冷間圧延→中間焼鈍」の部分の工程は1回または複数回行うことができる。本明細書では、1回または複数回行う「中間冷間圧延→中間焼鈍」の工程を「中間冷延焼鈍工程」と呼んでいる。なお、必要に応じて酸洗等のスケール除去工程が挿入される。以下、上記各工程について説明する。
〔鋳造・鋳片加熱〕
鋳造工程では冷却過程においてNb・Ti系炭化物を生成させる。Nb・Ti系炭化物の形成サイズは鋳片の冷却速度および鋳片加熱温度によってコントロールすることができる。例えば、溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御し、1500℃から900℃までの温度域の滞在時間を30分以上確保し、得られた鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4.0時間加熱保持する手法が有効である。この鋳片の加熱処理は、熱間圧延前の鋳片加熱を利用して行うとよい。
〔熱間圧延・(熱延板焼鈍)〕
熱間圧延条件は例えば仕上圧延温度800〜900℃、巻取温度750℃以下とすることができる。必要に応じて熱延板焼鈍を行うことができる。熱延板焼鈍を行う場合は、500℃以上Ac1点未満の温度域に例えば10〜50時間加熱保持する条件が採用できる。上記の鋳造・鋳片加熱条件、および熱間圧延条件により、鋼板L断面における円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度を3000〜9000個/mm2とすることができる。この段階でのNb・Ti系炭化物粒子の個数密度は、仕上げ冷間圧延後の鋼板にほぼ反映される。
〔中間冷間圧延〕
上記の中間製品板材に圧延率35%以下の比較的軽度の冷間圧延を施す。この冷間圧延は、最終的な仕上げ冷間圧延よりも前に行うことから、本明細書では「中間冷間圧延」と呼んでいる。中間冷間圧延率が35%以下の場合には、仕上げ冷間圧延時にボイドの成長が生じ難くなることがわかった。そのメカニズムについてはまだ十分に解明されていないが、以下のようなことが考えられる。すなわち、Nb・Ti系炭化物粒子は非常に硬質で塑性変形しないため、冷間圧延時にNb・Ti系炭化物粒子の周囲にボイドが発生するが、焼鈍において微細なボイドは消滅するため、発生したボイドが十分小さい場合には靭性は劣化しない。しかし、中間冷間圧延率が35%を超えると焼鈍で消滅しない粗大なボイドが発生し、仕上げ冷間圧延にてこのボイドが成長することで円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が増加して靭性が劣化する場合があった。また、中間冷間圧延率が大きくなるにつれてこの影響は大きくなり、特に中間冷間圧延率が45%を超えると靭性の劣化が著しかった。また、中間冷間圧延率が35%超え45%以下の範囲であっても、中間冷間圧延と中間焼鈍を複数回繰り返す場合には、中間焼鈍にて消滅しなかったボイドの残留と冷間圧延時のボイドの成長が繰り返されることで靭性が著しく劣化する場合が認められた。よって、中間冷間圧延はNb・Ti系炭化物粒子の周囲に発生したボイドが焼鈍にて十分消滅するよう、圧延率35%以下の範囲で行う。ただし、中間冷間圧延では例えば10%以上の圧延率を確保することが効率的であり、15%以上の圧延率に管理してもよいが、あまり低いとこの工程を設ける効果が十分に享受できない。
〔中間焼鈍〕
上記中間冷間圧延を終えた鋼板に対して焼鈍を施す。この焼鈍は仕上げ冷間圧延より前に行うことから、本明細書では「中間焼鈍」と呼んでいる。中間焼鈍の加熱保持温度は500℃以上Ac1点未満とする。この温度で保持することにより、中間冷間圧延で発生したボイドの消滅が十分に進行する。また、セメンタイトの球状化も進行する。500℃未満ではボイドの消滅が不十分となる。また、セメンタイトの球状化が不十分となる場合もある。一方、Ac1点以上に昇温するとオーステナイト相が生成し、金属素地がフェライト相である組織状態が得られない。中間焼鈍の加熱保持時間(材料温度が500℃以上Ac1点未満の範囲にある時間)は10〜50時間とすることが好ましい。
なお、「中間冷間圧延→中間焼鈍」の工程は、必要に応じて複数回行ってもよい。その場合も各中間冷間圧延での圧延率は35%以下とし、各中間焼鈍での加熱保持温度および加熱保持時間も上述の通りとする。
〔仕上げ冷間圧延〕
中間焼鈍後の鋼板に冷間圧延を施す。この冷間圧延は最終的な目標板厚に減じる工程であることから、本明細書では「仕上げ冷間圧延」と呼んでいる。仕上げ冷間圧延率は60%以下とする必要がある。これより圧延率が大きくなると、上述の中間冷間圧延および中間焼鈍を適正条件で行ったものであっても、ボイドが過度に生成しやすい。すなわち、鋼板の靭性を安定して改善することが難しくなる。一方、この仕上げ冷間圧延は鋼板の最終的な形状(平坦性)を改善するためにも有効である。そのためには例えば10%以上の圧延率を確保することが好ましい。最終板厚は例えば0.2〜4.0mmの範囲で設定することができる。
〔歪取り焼鈍〕
仕上げ冷間圧延後には必要に応じて歪取り焼鈍を行うことができる。化学組成および仕上げ冷間圧延率に応じて加熱温度、保持時間をコントロールすることにより、強度レベルを調整することができる。歪取り焼鈍の加熱温度は300〜500℃の範囲で設定する。中間焼鈍の加熱保持時間(材料温度が300℃以上500以下の範囲にある時間)は1〜5時間とすることが好ましい。
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、鋳造→鋳片加熱→熱間圧延→中間冷間圧延→中間焼鈍→仕上げ冷間圧延→歪取り焼鈍の工程で供試材の鋼板を得た。
鋳造に際しては溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を得た。鋳片を1250〜1350℃で1時間加熱保持したのち抽出して、熱間圧延を行った。熱間圧延条件は、仕上圧延温度(熱間圧延最終パスの圧延温度)850℃、巻取温度590℃とし、板厚7.0mmの熱延鋼板を得た。後工程で仕上げ冷間圧延率を振った実験を行う際に得られる供試材の板厚を揃えるために、熱延鋼板を研削加工して、板厚3.1mm(40%圧延用)、4.2mm(55%圧延用)、または6.3mm(70%圧延用)に調整した中間製品板材を用意した。
各中間製品板材に、圧延率20%の中間冷間圧延を施したのち、550℃×17時間の中間焼鈍を施した。中間焼鈍後の板材に表2中に記載した圧延率で仕上げ冷間圧延を施し、板厚1.5mmの冷延鋼板を得た。その後、組成および仕上げ冷間圧延率に応じて、硬さが32±2HRCとなるように300〜450℃の範囲に設定した温度で3時間保持する歪取り焼鈍を施し、供試材とした。
Figure 0006615039
各供試材について、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の金属組織観察を行った。その結果、いずれも金属素地がフェライト相であり、金属素地中に球状化セメンタイト粒子と、Nb・Ti系炭化物粒子が分散している金属組織を有していた。
また、各供試材のL断面を共焦点レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製;OLS3000)により観察し、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度、および円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度を測定した。これらの測定は、それぞれ上掲の「Nb・Ti系炭化物粒子の個数密度の求め方」および「ボイドの個数密度の求め方」に従った。さらに、各供試材について、以下の方法で耐摩耗性試験および衝撃試験を行った。
〔耐摩耗性試験〕
供試材から摩擦面が直径10mmの円形となる試験片を切り出し、ピンオンディスク型摩耗試験機により試験を行った。摩耗材としてJIS R6001の規定による粒度が#3000であるWA(アルミナ)砥粒を用意した。この砥粒を50gあたり水300mLと混合して、研磨液を調製した。試験片を試料ホルダに固定して、鋼製の円板表面にバフ研磨布を貼付した回転体のフラットな表面上に、十分な量の研磨液を供給しながら、試験片表面を試験荷重F=5Nで押し付け、摩擦速度0.4m/s、摩擦距離L=750mの条件で摩耗試験を行った。試験前後の試料板厚差から摩耗により消失した材料の体積を算出し、これを摩耗減量W(mm3)とした。そして、下記(2)式により比摩耗量C(mm3/(Nm))を求めた。
比摩耗量C=摩耗減量W/(試験荷重F×摩擦距離L) …(2)
上記砥粒の硬さは約1600HVである。この摩耗試験は微細な砂の混入によるアブレシブ摩耗を模擬している。硬さが32±2HRCに調整された鋼材において、この試験による比摩耗量Cが5.0×10-4mm3/Nm以下であれば優れた耐摩耗性を有していると判断できる。従って、比摩耗量Cが5.0×10-4mm3/(Nm)以下であるものを合格(耐摩耗性;良好)と判定した。
〔衝撃試験〕
各供試材から、2mmUノッチ衝撃試験片(試験片長さ:55mm、試験片高さ:10mm、試験片幅:板厚=1.5mm、衝撃方向:圧延方向)を作製し、JIS Z2242:2005に従う方法で常温(23℃)のシャルピー衝撃値を測定した。ここでは試験数n=5とし、それらのうち最も低い値(成績の悪い値)を当該供試材の衝撃値として採用した。非調質材が適用可能な高速回転刃物(農産物刈り取り用丸鋸など)の素材として使用することを考慮した場合、この試験による衝撃値が50J/cm2以上であることが望まれる。従って、この衝撃値が50J/cm2以上であるものを合格(靭性;良好)と判定した。
Figure 0006615039
本発明例のものは、ボイドが少なく、靭性に優れる。耐摩耗性にも優れる。すなわち、非調質材において、優れた耐摩耗性と靭性を備える非調質材が実現された。
これに対し、比較例であるNo.5、10、13は、仕上げ冷間圧延率が高いので円相当径1.0μm以上のボイドが多くなり、靭性が悪かった。比較例14〜16はNbを含有しない鋼を用いたので硬質なNb・Ti系炭化物の生成がなく、耐摩耗性が悪かった。比較例17〜19はC含有量が少ない鋼を用いたので硬質なNb・Ti系炭化物の生成が不足し、耐摩耗性の向上が不十分であった。No.20、21はTi含有量が過剰である鋼、No.22、23はNb含有量が過剰である鋼をそれぞれ用いたので、これらはNb・Ti系炭化物の生成量が多く、それに伴って円相当径1.0μm以上のボイドが多くなった。その結果、靭性を改善することができなかった。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.60〜1.25%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.20%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.30〜1.50%、Nb:0.10〜0.50%、Ti:0〜0.50%、Mo:0〜0.50%、V:0〜0.50%、Ni:0〜2.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、フェライト相の金属素地中に、セメンタイト粒子と、Nb、Tiの1種以上を含有する炭化物(以下「Nb・Ti系炭化物」という。)の粒子が分散した金属組織を有し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度が3000〜9000個/mm2、円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が1250個/mm2以下である鋼板。
  2. 溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を製造する工程(鋳造工程)、
    鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4時間加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
    熱間圧延を施す工程(熱延工程)、
    圧延率35%以下の冷間圧延を施し、次いで500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する手順を、1回以上行う工程(中間冷延焼鈍工程)、
    圧延率60%以下の冷間圧延を施す工程(仕上げ冷延工程)、
    を上記の順に有する請求項1に記載の鋼板の製造方法。
  3. 上記熱延工程と中間冷延焼鈍工程の間に、
    熱延工程で得た熱延鋼板に500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
    を有する請求項2に記載の鋼板の製造方法。
  4. 前記仕上げ冷延工程後に、
    300〜500℃で1〜5時間保持する焼鈍を施す工程(歪取り焼鈍工程)、
    を有する請求項2または3に記載の鋼板の製造法。
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