JP6615039B2 - 靭性に優れる耐摩耗性鋼板 - Google Patents
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圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)を研磨した観察面を共焦点レーザー顕微鏡により観察し、観察画像上で、Nb・Ti系炭化物に隣接して存在するボイドのうち、円相当径が1.0μm以上であるボイドの個数をカウントし、そのカウント総数を観察総面積(mm2)で除した値を相当径1.0μm以上のボイドの個数密度(個/mm2)とする。ただし、観察面積は90μm×60μm×20視野とする。観察視野から一部がはみ出しているボイドは、観察視野内に現れている部分の円相当径が1.0μm以上であればカウント対象とする。ここで、あるボイドの円相当径は、観察画像上における当該ボイドの面積と等しい円の直径である。ボイドの面積は観察画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより測定することができる。
圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)を研磨したのちエッチングした観察面を共焦点レーザー顕微鏡により観察し、観察画像上で、円相当径が0.5μm以上であるNb・Ti系炭化物粒子の個数をカウントし、そのカウント総数を観察総面積(mm2)で除した値を円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度(個/mm2)とする。ただし、観察面積は90μm×60μm×20視野とする。観察視野から一部がはみ出しているNb・Ti系炭化物粒子は、観察視野内に現れている部分の円相当径が0.5μm以上であればカウント対象とする。ここで、あるNb・Ti系炭化物粒子の円相当径は、観察画像上における当該Nb・Ti系炭化物粒子の面積と等しい円の直径である。Nb・Ti系炭化物粒子の面積は観察画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより測定できる。
溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を製造する工程(鋳造工程)、
鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4時間加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
熱間圧延を施す工程(熱延工程)、
必要に応じて、熱延工程で得た熱延鋼板に500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
圧延率35%以下の冷間圧延を施し、次いで500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する手順を、1回以上行う工程(中間冷延焼鈍工程)、
圧延率60%以下の冷間圧延を施す工程(仕上げ冷延工程)、
必要に応じて、300〜500℃で1〜5時間保持する焼鈍を施す工程(歪取り焼鈍工程)、
を上記の順に有する製造方法。
圧延率(%)=(h0−h1)/h0×100 …(1)
ここで、h0は圧延前の板厚(mm)、h1は圧延後の板厚(mm)である。
本明細書において、鋼の成分元素に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明では、焼入れ焼戻しやオーステンパーに代表される相変態を利用した組織調整(いわゆる調質熱処理)を施していない、非調質材における耐摩耗性と靭性の両立を意図している。従って、本発明に従う鋼板は、金属素地(マトリックス)がフェライト相である。その金属素地中に球状化セメンタイト粒子と、Nb・Ti系炭化物粒子が分散している。
本発明に従う耐摩耗性鋼板は、例えば以下の工程によって製造することができる。
鋳造→鋳片加熱→熱間圧延→(熱延板焼鈍)→中間冷間圧延→中間焼鈍→仕上げ冷間圧延→(歪取り焼鈍)
この場合、「中間冷間圧延→中間焼鈍」の部分の工程は1回または複数回行うことができる。本明細書では、1回または複数回行う「中間冷間圧延→中間焼鈍」の工程を「中間冷延焼鈍工程」と呼んでいる。なお、必要に応じて酸洗等のスケール除去工程が挿入される。以下、上記各工程について説明する。
鋳造工程では冷却過程においてNb・Ti系炭化物を生成させる。Nb・Ti系炭化物の形成サイズは鋳片の冷却速度および鋳片加熱温度によってコントロールすることができる。例えば、溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御し、1500℃から900℃までの温度域の滞在時間を30分以上確保し、得られた鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4.0時間加熱保持する手法が有効である。この鋳片の加熱処理は、熱間圧延前の鋳片加熱を利用して行うとよい。
熱間圧延条件は例えば仕上圧延温度800〜900℃、巻取温度750℃以下とすることができる。必要に応じて熱延板焼鈍を行うことができる。熱延板焼鈍を行う場合は、500℃以上Ac1点未満の温度域に例えば10〜50時間加熱保持する条件が採用できる。上記の鋳造・鋳片加熱条件、および熱間圧延条件により、鋼板L断面における円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度を3000〜9000個/mm2とすることができる。この段階でのNb・Ti系炭化物粒子の個数密度は、仕上げ冷間圧延後の鋼板にほぼ反映される。
上記の中間製品板材に圧延率35%以下の比較的軽度の冷間圧延を施す。この冷間圧延は、最終的な仕上げ冷間圧延よりも前に行うことから、本明細書では「中間冷間圧延」と呼んでいる。中間冷間圧延率が35%以下の場合には、仕上げ冷間圧延時にボイドの成長が生じ難くなることがわかった。そのメカニズムについてはまだ十分に解明されていないが、以下のようなことが考えられる。すなわち、Nb・Ti系炭化物粒子は非常に硬質で塑性変形しないため、冷間圧延時にNb・Ti系炭化物粒子の周囲にボイドが発生するが、焼鈍において微細なボイドは消滅するため、発生したボイドが十分小さい場合には靭性は劣化しない。しかし、中間冷間圧延率が35%を超えると焼鈍で消滅しない粗大なボイドが発生し、仕上げ冷間圧延にてこのボイドが成長することで円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が増加して靭性が劣化する場合があった。また、中間冷間圧延率が大きくなるにつれてこの影響は大きくなり、特に中間冷間圧延率が45%を超えると靭性の劣化が著しかった。また、中間冷間圧延率が35%超え45%以下の範囲であっても、中間冷間圧延と中間焼鈍を複数回繰り返す場合には、中間焼鈍にて消滅しなかったボイドの残留と冷間圧延時のボイドの成長が繰り返されることで靭性が著しく劣化する場合が認められた。よって、中間冷間圧延はNb・Ti系炭化物粒子の周囲に発生したボイドが焼鈍にて十分消滅するよう、圧延率35%以下の範囲で行う。ただし、中間冷間圧延では例えば10%以上の圧延率を確保することが効率的であり、15%以上の圧延率に管理してもよいが、あまり低いとこの工程を設ける効果が十分に享受できない。
上記中間冷間圧延を終えた鋼板に対して焼鈍を施す。この焼鈍は仕上げ冷間圧延より前に行うことから、本明細書では「中間焼鈍」と呼んでいる。中間焼鈍の加熱保持温度は500℃以上Ac1点未満とする。この温度で保持することにより、中間冷間圧延で発生したボイドの消滅が十分に進行する。また、セメンタイトの球状化も進行する。500℃未満ではボイドの消滅が不十分となる。また、セメンタイトの球状化が不十分となる場合もある。一方、Ac1点以上に昇温するとオーステナイト相が生成し、金属素地がフェライト相である組織状態が得られない。中間焼鈍の加熱保持時間(材料温度が500℃以上Ac1点未満の範囲にある時間)は10〜50時間とすることが好ましい。
中間焼鈍後の鋼板に冷間圧延を施す。この冷間圧延は最終的な目標板厚に減じる工程であることから、本明細書では「仕上げ冷間圧延」と呼んでいる。仕上げ冷間圧延率は60%以下とする必要がある。これより圧延率が大きくなると、上述の中間冷間圧延および中間焼鈍を適正条件で行ったものであっても、ボイドが過度に生成しやすい。すなわち、鋼板の靭性を安定して改善することが難しくなる。一方、この仕上げ冷間圧延は鋼板の最終的な形状(平坦性)を改善するためにも有効である。そのためには例えば10%以上の圧延率を確保することが好ましい。最終板厚は例えば0.2〜4.0mmの範囲で設定することができる。
仕上げ冷間圧延後には必要に応じて歪取り焼鈍を行うことができる。化学組成および仕上げ冷間圧延率に応じて加熱温度、保持時間をコントロールすることにより、強度レベルを調整することができる。歪取り焼鈍の加熱温度は300〜500℃の範囲で設定する。中間焼鈍の加熱保持時間(材料温度が300℃以上500以下の範囲にある時間)は1〜5時間とすることが好ましい。
鋳造に際しては溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を得た。鋳片を1250〜1350℃で1時間加熱保持したのち抽出して、熱間圧延を行った。熱間圧延条件は、仕上圧延温度(熱間圧延最終パスの圧延温度)850℃、巻取温度590℃とし、板厚7.0mmの熱延鋼板を得た。後工程で仕上げ冷間圧延率を振った実験を行う際に得られる供試材の板厚を揃えるために、熱延鋼板を研削加工して、板厚3.1mm(40%圧延用)、4.2mm(55%圧延用)、または6.3mm(70%圧延用)に調整した中間製品板材を用意した。
供試材から摩擦面が直径10mmの円形となる試験片を切り出し、ピンオンディスク型摩耗試験機により試験を行った。摩耗材としてJIS R6001の規定による粒度が#3000であるWA(アルミナ)砥粒を用意した。この砥粒を50gあたり水300mLと混合して、研磨液を調製した。試験片を試料ホルダに固定して、鋼製の円板表面にバフ研磨布を貼付した回転体のフラットな表面上に、十分な量の研磨液を供給しながら、試験片表面を試験荷重F=5Nで押し付け、摩擦速度0.4m/s、摩擦距離L=750mの条件で摩耗試験を行った。試験前後の試料板厚差から摩耗により消失した材料の体積を算出し、これを摩耗減量W(mm3)とした。そして、下記(2)式により比摩耗量C(mm3/(Nm))を求めた。
比摩耗量C=摩耗減量W/(試験荷重F×摩擦距離L) …(2)
各供試材から、2mmUノッチ衝撃試験片(試験片長さ:55mm、試験片高さ:10mm、試験片幅:板厚=1.5mm、衝撃方向:圧延方向)を作製し、JIS Z2242:2005に従う方法で常温(23℃)のシャルピー衝撃値を測定した。ここでは試験数n=5とし、それらのうち最も低い値(成績の悪い値)を当該供試材の衝撃値として採用した。非調質材が適用可能な高速回転刃物(農産物刈り取り用丸鋸など)の素材として使用することを考慮した場合、この試験による衝撃値が50J/cm2以上であることが望まれる。従って、この衝撃値が50J/cm2以上であるものを合格(靭性;良好)と判定した。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.60〜1.25%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.20%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.30〜1.50%、Nb:0.10〜0.50%、Ti:0〜0.50%、Mo:0〜0.50%、V:0〜0.50%、Ni:0〜2.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、フェライト相の金属素地中に、セメンタイト粒子と、Nb、Tiの1種以上を含有する炭化物(以下「Nb・Ti系炭化物」という。)の粒子が分散した金属組織を有し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、円相当径0.5μm以上のNb・Ti系炭化物粒子の個数密度が3000〜9000個/mm2、円相当径1.0μm以上のボイドの個数密度が1250個/mm2以下である鋼板。
- 溶鋼が液相線温度から固相線温度まで冷却する間の冷却速度を5〜20℃/minに制御して鋳片を製造する工程(鋳造工程)、
鋳片を1200〜1350℃に0.5〜4時間加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
熱間圧延を施す工程(熱延工程)、
圧延率35%以下の冷間圧延を施し、次いで500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する手順を、1回以上行う工程(中間冷延焼鈍工程)、
圧延率60%以下の冷間圧延を施す工程(仕上げ冷延工程)、
を上記の順に有する請求項1に記載の鋼板の製造方法。 - 上記熱延工程と中間冷延焼鈍工程の間に、
熱延工程で得た熱延鋼板に500℃以上Ac1点未満の温度で10〜50時間保持したのち冷却する焼鈍を施す工程(熱延板焼鈍工程)、
を有する請求項2に記載の鋼板の製造方法。 - 前記仕上げ冷延工程後に、
300〜500℃で1〜5時間保持する焼鈍を施す工程(歪取り焼鈍工程)、
を有する請求項2または3に記載の鋼板の製造法。
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