JP6607751B2 - Fe−Co合金粉末およびその製造方法並びにアンテナ、インダクタおよびEMIフィルタ - Google Patents
Fe−Co合金粉末およびその製造方法並びにアンテナ、インダクタおよびEMIフィルタ Download PDFInfo
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Δσs=(σs−σs1)/σs×100 …(1)
ここで、σsは耐候性試験前の飽和磁化(Am2/kg)、σs1は耐候性試験後の飽和磁化(Am2/kg)である。
「Fe−Co合金粉末のCo/Feモル比」は粉体の化学組成におけるCoとFeのモル比を意味する。
前駆体の乾燥物を還元性ガス雰囲気中で250〜650℃に加熱することにより、Fe−Co合金相を持つ金属粉末を得る工程(還元工程)、
還元後の金属粉末粒子の表層部に酸化保護層を形成する工程(安定化工程)、
を有する製造方法が提供される。
〔化学組成〕
本明細書において、Fe−Co合金粉末におけるCo含有量は、CoとFeのモル比によって表す。このモル比を「Co/Feモル比」と呼ぶ。一般に、Co/Feモル比の増加に伴って飽和磁化σsが増大する傾向がある。本発明に従えば、同じCo/Feモル比で比べると、従来一般的なFe−Co合金粉末よりも高いσsが得られる。そのσs改善効果は広いCo含有量範囲において得られる。高周波用アンテナ等、高いσsを必要とする用途を考慮すると、Co/Feモル比は0.15以上であることが好ましく、0.25以上がより好ましい。高いσsを得る点においてはCoを多く含有することが望ましいが、過剰なCo含有はコスト増を招く要因となるため、Co/Feモル比は0.70以下とすることが望ましく、0.60以下とすることがより好ましく、0.50以下とすることがさらに好ましい。本発明に従えばCo/Feモル比を0.40以下、あるいはさらに0.35以下の範囲とした場合においても高いσsを得ることができる。
金属磁性粉末を構成する粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めることができる。TEM画像上である粒子を取り囲む最小円の直径をその粒子の径(長径)と定める。その径は、金属コアの周囲を覆う酸化保護層を含めた径を意味する。ランダムに選択した300個の粒子について径を測定し、その平均値を当該金属磁性粉末の平均粒子径とすることができる。本発明では、平均粒子径が100nm以下のものを対象とする。一方、平均粒子径が10nm未満の超微細粉末は、製造コストの上昇や取り扱い性の低下を伴うので、通常、平均粒子径は10nm以上とすればよい。
TEM画像上のある粒子について、上記の「長径」に対して直角方向に測った最も長い部分の長さを「短径」と呼び、長径/短径の比をその粒子の「軸比」と呼ぶ。粉末としての平均的な軸比である「平均軸比」は以下のようにして定めることができる。TEM観察により、ランダムに選択した300個の粒子について「長径」と「短径」を測定し、測定対象の全粒子についての長径の平均値および短径の平均値をそれぞれ「平均長径」および「平均短径」とし、平均長径/平均短径の比を「平均軸比」と定める。本発明に従うFe−Co合金粉末の平均軸比は、1.40より大きく1.70未満の範囲であることが望ましい。1.40以下になると形状磁気異方性が小さくなることに起因して複素比透磁率の虚数部μ”が大きくなり、損失係数δ(μ)の低下を重視する用途では不利となる。一方、平均軸比が1.70を超えると飽和磁化σsの向上効果が小さくなりやすく、複素比透磁率の実数部μ’の向上を重視する用途ではメリットが低減する。
保磁力Hcの許容範囲は52.0〜78.0kA/mである。Hcが低すぎると周波数430MHz以上の特性においてtanδ(μ)が大きなものとなり、アンテナに使用する際に損失が増大する。一方、Hcが高すぎると高周波特性において複素比透磁率の実数部μ’を低下させる要因となる。この場合、σsの増大によるμ’の向上効果が相殺され好ましくない。Hcは70.0kA/m未満であることがより好ましく、62.0kA/m以下であることが一層好ましい。後述のCo添加手法を採用することにより、52.0〜62.0kA/mの保磁力範囲にコントロールすることができる。
σs≧50[Co/Fe]+151 …(2)
ここで、[Co/Fe]は粉体の化学組成におけるCoとFeのモル比を意味する。
(2)式を満たす金属磁性粉末は、従来一般的なFe−Co合金粉末と比べ、より少ないCo添加量において高いσsを呈するものであり、Feよりも高価なCoの使用量を節約できる点でコストパフォーマンスに優れる。
TAP密度は0.8〜1.5g/cm3、角形比SQは0.3〜0.6、SFDは3.5以下の範囲にそれぞれあることが好ましい。
Δσs=(σs−σs1)/σs×100 …(1)
ここで、σsは耐候性試験前の飽和磁化(Am2/kg)、σs1は耐候性試験後の飽和磁化(Am2/kg)である。
Δσsが12.0%以下であるものがより好ましく、10.0%未満であるものが一層好ましい。
Fe−Co合金粉末と樹脂を90:10の質量割合で混合して作製したトロイダル形状のサンプルを用いて、当該Fe−Co合金粉末によって発現する透磁率・誘電率を評価することができる。その際に使用する樹脂としては、エポキシ樹脂をはじめとする公知の熱硬化性樹脂や、公知の熱可塑性樹脂が採用できる。このような成形体としたとき、1GHzにおいて、複素比透磁率の実数部μ’が2.50以上、複素比透磁率の損失係数tanδ(μ)が0.05未満となる性質を有することが好ましく、μ’が2.70以上、tanδ(μ)が0.03未満となる性質を有することがより好ましい。このtanδ(μ)は小さければ小さいほど好ましいが、通常0.005以上の範囲で調整されていればよい。
特に本発明に従えば、1GHzのμ’が3.50以上、tanδ(μ)が0.025未満、2GHzのμ’が3.80以上、tanδ(μ)が0.12未満、かつ3GHzのμ’が4.00以上、tanδ(μ)が0.30未満という極めて優れた高周波特性を発揮させることができるFe−Co合金粉末を作り分けることも可能である。
上記のFe−Co磁性粉末は、以下のような工程で製造することができる。
〔前駆体形成工程〕
Feイオンが溶解している水溶液に酸化剤を導入して核晶を生成させ、その後、FeおよびCoを成分に持つ前駆体を析出成長させる。ただし、析出反応に使用するCoの全量を、核晶生成開始後かつ析出反応終了前の時期に前記水溶液中に添加する。すなわち、核晶が生成する初期の酸化反応は、Coが添加されていないFe含有水溶液中で行い、Coを含まないオキシ水酸化鉄の核晶を生成させる。以下において、核晶生成開始前(すなわち酸化剤導入開始前)の水溶液を「反応元液」と呼び、核晶生成開始前の時期を「初期段階」と呼ぶ。また、核晶生成開始後(すなわち酸化剤導入開始後)かつ析出反応終了前の時期を「途中段階」と呼び、途中段階で水溶性の物質を液中に添加して溶解させる操作を「途中添加」と呼ぶ。
上記の方法で得られた前駆体の乾燥物を還元性ガス雰囲気中で加熱することにより、Fe−Co合金相を持つ金属粉末を得る。還元性ガスとしては、代表的には水素ガスが挙げられる。加熱温度は250〜650℃の範囲とすることができ、500〜650℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると還元反応が進まないために好ましくなく、また加熱温度が高すぎると金属粉末の粒子間の焼結が進行してしまうために好ましくない。加熱時間は10〜120minの範囲で調整すればよい。
還元工程を終えた金属粉末は、そのまま大気に曝すと急速に酸化するおそれがある。安定化工程は、急激な酸化を回避しながら粒子表面に酸化保護層を形成する工程である。還元後の金属粉末が曝される雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、当該雰囲気中の酸素濃度を増大させながら20〜200℃、より好ましくは60〜100℃で金属粉末粒子表層部の酸化反応を進行させる。上記還元工程と同じ炉中で安定化工程を実施する場合は、還元工程を終了後、炉内の還元性ガスを不活性ガスで置換し、上記温度範囲において当該不活性ガス雰囲気中に酸素含有ガスを導入しながら粒子表層部の酸化反応を進行させるとよい。金属粉末を別の熱処理装置に移して安定化工程を実施してもよい。また、還元工程後に金属粉末をコンベア等で移動させながら連続的に安定化工程を実施することもできる。いずれの場合も、還元工程後に、金属粉末を大気に曝すことなく、安定化工程に移行させることが重要である。不活性ガスとしては、希ガスおよび窒素ガスから選ばれる1種以上のガス成分が適用できる。酸素含有ガスとしては、純酸素ガスや空気が使用できる。酸素含有ガスとともに、水蒸気を導入してもよい。水蒸気は酸化皮膜を緻密化させる効果がある。金属磁性粉末を20〜200℃好ましくは60〜100℃に保持するときの酸素濃度は、最終的には0.1〜21体積%とする。酸素含有ガスの導入は、連続的または間欠的に行うことができる。安定化工程の初期の段階で、酸素濃度が1.0体積%以下である時間を5.0min以上キープすることがより好ましい。
本発明に従うFe−Co合金粉末は、アンテナの構成材料として使用できる。例えば、導体板と、それに平行に配置される放射板とを有する平面アンテナが挙げられる。平面アンテナの構成は例えば特許文献3の図1に開示されている。本発明に従うFe−Co合金粉末は、430MHz以上の電波を送信、受信 または送受信するアンテナ用の磁性体素材として極めて有用である。特に700MHz〜6GHzの周波数帯域で使用されるアンテナへの適用がより効果的である。
〔反応元液の作成〕
1mol/Lの硫酸第一鉄水溶液700mLに、0.2mol/Lの硫酸イットリウム水溶液をY/Feモル比が0.023となるように加えて、約1LのFe、Y含有溶液を用意した。5000mLビーカーに、純水2600mLと、炭酸アンモニウム溶液350mLを添加し、温調機で40℃に維持しながら撹拌し、炭酸アンモニウム水溶液を得た。なお、炭酸アンモニウム溶液の濃度としては、前記Fe、Y含有溶液中のFe2+および途中で添加するCo2+の総量に対し炭酸CO3 2-が3当量となるように調整した。この炭酸アンモニウム水溶液中に前記Fe、Y含有溶液を加え、反応元液とした。
上記の反応元液に3.4mol/LのH2O2水溶液を5mL添加しオキシ水酸化鉄の核晶を生成させた。その後、この液を60℃に昇温し、反応元液中に存在していた全Fe2+の40%が酸化するまで液中に空気を163mL/minの吹き込み速度で通気した。このときに必要な通気量は、予め予備実験により把握してある。予備実験においては、反応元液に空気を吹き込み、横河電機株式会社製の酸素濃度計(型番:OX61)を用いて反応元液の上面における酸素濃度を計測し、その酸素濃度の上昇速度が0.4体積%/min以上となった時点を酸化の完結点として必要通気量を算出した。その後、反応元液中のFeの総量に対しCo/Feモル比が0.35(=35モル%)となる量のCoを液中に添加した(途中添加)。Coの途中添加は1mol/Lの硫酸コバルト水溶液を混合する方法で行った。Co添加後、0.3mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液をFeとCoの総量に対しAl/(Fe+Co)モル比が0.055となるように添加し、酸化が完結するまで(すなわち前駆体の形成反応が終了するまで)空気を163mL/minの吹き込み速度で通気した。Co途中添加後、前駆体形成反応終了までの液温は60℃とした。このようにして得た前駆体含有スラリーを、濾過、水洗したのち、空気中110℃で乾燥して、前駆体の乾燥物(粉末)を得た。本例では、Co添加を途中添加のみで賄い、仕込み組成におけるトータルCo/Feモル比は0.35である。Coの仕込み添加量を表1中に示す。
上記の前駆体の乾燥物を通気可能なバケットに入れ、そのバケットを貫通型還元炉内に装入し、炉内に水素ガスを流しながら630℃で40min保持することにより還元処理を施した。
還元処理後、炉内の雰囲気ガスを水素から窒素に変換し、窒素ガスを流した状態で炉内温度を降温速度20℃/minで80℃まで低下させた。その後、安定化処理を行う初期のガスとして、窒素ガス/空気の体積割合が125/1となるように窒素ガスと空気を混合したガス(酸素濃度約0.17体積%)を炉内に導入して金属粉末粒子表層部の酸化反応を開始させ、その後徐々に空気の混合割合を増大させ、最終的に窒素ガス/空気の体積割合が25/1となる混合ガス(酸素濃度約0.80体積%)を炉内に連続的に導入することにより、粒子の表層部に酸化保護層を形成した。安定化処理中、温度は80℃に維持し、ガスの導入流量もほぼ一定に保った。
以上の工程により、Fe−Co合金相を磁性相に持つ供試粉末を得た。
ICP発光分析装置により供試粉末の組成分析を行った。その結果を表1中に示す。
〔平均粒子径、平均軸比〕
供試粉末について、TEM観察による上述の方法で平均粒子径および平均軸比を測定した。結果を表1中に示す。
供試粉末の体積抵抗率は、JIS K6911に準拠した二重リング電極方法により、供試粉末1.0gを電極間に挟んで13〜64MPa(4〜20kN)の垂直荷重を付与しながら印加電圧10Vにて測定する方法により求めた。測定には、三菱化学アナリテック社製粉体抵抗測定ユニット(MCP―PD51)、同社製高抵抗抵抗率計ハイレスタUP(MCP−HT450)、同社製高抵抗粉体測定システムソフトウェアを用いた。結果を表2中に示す。
〔BET比表面積〕
BET比表面積は、ユアサアイオニクス社製の4ソーブUSを用いて、BET一点法により求めた。結果を表2中に示す。
〔TAP密度〕
TAP密度は、ガラス製のサンプルセル(5mm径×40mm高さ)に供試粉末を入れ、タップ高さ10cmとして、200回タッピングを行って測定した。結果を表2中に示す。
供試粉末の磁気特性(バルク特性)として、VSM装置(東英工業社製;VSM−7P)を使用して、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で、保磁力Hc(kA/m)、飽和磁化σs(Am2/kg)、角形比SQを測定した。耐候性については、金属磁性粉末を温度60℃、相対湿度90%の空気環境に168h(1週間)保持する試験前後のσsの変化量率Δσsにより評価した。Δσsは前述の(1)式により算出される。これらの結果を表3中に示す。
また、表3中には前記(2)式右辺の値、およびσs(Am2/kg)と(2)式右辺の値の差を示す。σsと(2)式右辺の値の差が0または正になる場合に(2)式を満たす。
供試粉末とエポキシ樹脂(株式会社テスク製;一液性エポキシ樹脂B−1106)を90:10の質量割合で秤量し、真空撹拌・脱泡ミキサー(EME社製;V−mini300)を用いてこれらを混練し、供試粉末がエポキシ樹脂中に分散したペーストとした。このペーストをホットプレート上で60℃、2h乾燥させて金属粉末と樹脂の複合体としたのち、粉末状に解粒して、複合体粉末とした。この複合体粉末0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機により9800N(1Ton)の荷重をかけることにより、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体を得た。この成形体について、ネットワーク・アナライザー(アジレント・テクノロジー社製;E5071C)と同軸型Sパラメーター法サンプルホルダーキット(関東電子応用開発社製;CSH2−APC7、試料寸法:φ7.0mm−φ3.04mm×5mm)を用い、0.1〜4.5GHzにおける複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”、並びに複素比誘電率の実数部ε’および虚数部ε”を測定し、複素比透磁率の損失係数tanδ(μ)=μ”/μ’および複素比誘電率の損失係数tanδ(ε)=ε”/ε’を求めた。表4、表5に、1GHz、2GHzおよび3GHzにおけるこれらの結果を例示する。
硫酸イットリウム水溶液をY/(Fe+Co)モル比が0.019となるように加えたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。製造条件および結果を実施例1と同様に表1〜表5に示す(以下の各例において同じ)。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を5.9mL(実施例3)、7.4mL(実施例4)に変更しことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。
核晶生成後、Co添加前の酸化反応時における液温を60℃から50℃に変更したことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を5.9mLに変更しことを除き、実施例5と同様の条件で実験を行った。
仕込み組成におけるトータルCo/Feモル比を0.35から0.30に変更し、硫酸イットリウム水溶液をY/(Fe+Co)モル比が0.024となるように加えたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
硫酸イットリウム水溶液をY/(Fe+Co)モル比が0.020(実施例8)、0.012(実施例9)となるように加えたことを除き、実施例7と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を5.9mLに変更しことを除き、実施例8と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を5.9mLに変更し、硫酸イットリウム水溶液をY/(Fe+Co)モル比が0.015となるように加えたことを除き、実施例7と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を7.4mLに変更しことを除き、実施例10と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を7.4mLに変更しことを除き、実施例11と同様の条件で実験を行った。
核晶生成後、Co添加前の酸化反応時における液温を60℃から50℃に変更したことを除き、実施例8と同様の条件で実験を行った。
核晶を生成させる際のH2O2添加量を5.9mL(実施例15)、7.4mL(実施例16)に変更しことを除き、実施例14と同様の条件で実験を行った。
核晶生成後、反応元液中に存在していた全Fe2+の53%が酸化するまで液中に空気を196mL/minの吹き込み速度で通気し、その後Coを途中添加したこと、およびCo途中添加後、酸化が完結するまで、空気を49.0mL/minの吹き込み速度で通気したことを除き実施例10と同様の条件で実験を行った。
安定化処理の温度を80℃から70℃に変更し、安定化処理後に、再度、同じ炉中で還元処理および安定化処理を1回実施したことを除き、実施例17と同様の条件で実験を行った。この場合、2回目の還元処理および安定化処理の条件は、それぞれ1回目の還元処理および安定化処理の条件と同様とした。
〔反応元液の作成〕
1mol/Lの硫酸第一鉄水溶液と1mol/Lの硫酸コバルト水溶液をFe:Coのモル比が100:5となるように混合して約800mLの溶液とし、これに0.2mol/Lの硫酸イットリウム水溶液をY/(Fe+Co)モル比が0.026となるように加えて、約1LのFe、Co、Y含有溶液を用意した。5000mLビーカーに、純水2600mLと、炭酸アンモニウム溶液350mLを添加し、温調機で40℃に維持しながら撹拌し、炭酸アンモニウム水溶液を得た。なお、炭酸アンモニウム溶液の濃度としては、前記Fe、Co、Y含有溶液中のFe2+に対し炭酸CO3 2-が3当量となるように調整した。この炭酸アンモニウム水溶液中に前記Fe、Co、Y含有溶液を加え、反応元液とした。本例では、初期段階(反応元液)の仕込みCo/Feモル比は0.05である。
上記の反応元液に3mol/LのH2O2水溶液を5mL添加しオキシ水酸化鉄の核晶を生成させた。その後、この液を60℃に昇温し、反応元液中に存在していた全Fe2+の40%が酸化するまで液中に空気を163mL/minの吹き込み速度で通気した。このときに必要な通気量は、予め予備実験により把握してある。その後、0.3mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液をFeとCoの総量に対しAl/(Fe+Co)モル比が0.055となるように添加し、酸化が完結するまで(すなわち前駆体の形成反応が終了するまで)空気を163mL/minの吹き込み速度で通気した。このようにして得た前駆体含有スラリーを、濾過、水洗したのち、空気中110℃で乾燥して、前駆体の乾燥物(粉末)を得た。
上記の前駆体の乾燥物を通気可能なバケットに入れ、そのバケットを貫通型還元炉内に装入し、炉内に水素ガスを流しながら630℃で40min保持することにより還元処理を施した。
還元処理後、炉内の雰囲気ガスを水素から窒素に変換し、窒素ガスを流した状態で炉内温度を降温速度20℃/minで80℃まで低下させた。その後、安定化処理を行う初期のガスとして、窒素ガス/空気の体積割合が125/1となるように窒素ガスと空気を混合したガス(酸素濃度約0.17体積%)を炉内に導入して金属粉末粒子表層部の酸化反応を開始させ、その後徐々に空気の混合割合を増大させ、最終的に窒素ガス/空気の体積割合が25/1となる混合ガス(酸素濃度約0.80体積%)を炉内に連続的に導入することにより、粒子の表層部に酸化保護層を形成した。安定化処理中、温度は80℃に維持し、ガスの導入流量もほぼ一定に保った。
以上の工程により、Fe−Co合金相を磁性相に持つ供試粉末を得た。
比較例2、3、4および5では、初期段階の仕込みCo/Feモル比をそれぞれ0.10、0.15、0.20および0.25としたことを除き、いずれも比較例1と同様の条件で実験を行った。
Claims (19)
- 平均粒子径100nm以下、Co/Feモル比が0.15〜0.50のFe−Co合金粉末であって、保磁力Hcが52.0〜78.0kA/m、飽和磁化σsが160.0Am2/kg以上であり、60℃、相対湿度90%の空気環境に168h保持する方法で行う耐候性試験に供したとき、下記(1)式によるΔσsが15.0%以下となるFe−Co合金粉末。
Δσs=(σs−σs1)/σs×100 …(1)
ここで、σsは耐候性試験前の飽和磁化(Am2/kg)、σs1は耐候性試験後の飽和磁化(Am2/kg)である。 - 飽和磁化σsが167.0Am2/kg以上であり、前記(1)式によるΔσsが12.0%以下となる請求項1に記載のFe−Co合金粉末。
- 飽和磁化σsが170.0Am2/kg以上、保磁力Hcが52.0〜62.0kA/mであり、前記(1)式によるΔσsが10.0%未満となる請求項1に記載のFe−Co合金粉末。
- 飽和磁化σsが170.0Am2/kg以上、保磁力Hcが52.0〜62.0kA/m、BET比表面積が30.0〜42.5m2/gであり、前記(1)式によるΔσsが10.0%未満となる請求項1に記載のFe−Co合金粉末。
- Co/Feモル比が0.25〜0.40である請求項1〜4のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- 粉末を構成する粒子の平均軸比(=平均長径/平均短径)が1.40より大きく1.70未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- JIS K6911に準拠した二重リング電極方法により、金属粉末1.0gを電極間に挟んで25MPa(8kN)の垂直荷重を付与しながら印加電圧10Vにて測定した場合の体積抵抗率が1.0×108Ω・cm以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- 当該粉末とエポキシ樹脂を90:10の質量割合で混合して作製した成形体を磁気測定に供したとき、1GHzにおいて、複素比透磁率の実数部μ’が2.50以上、かつ複素比透磁率の損失係数tanδ(μ)が0.05未満となる性質を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- 当該粉末とエポキシ樹脂を90:10の質量割合で混合して作製した成形体を磁気測定に供したとき、2GHzにおいて、複素比透磁率の実数部μ’が2.80以上、かつ複素比透磁率の損失係数tanδ(μ)が0.12未満となる性質を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- 当該粉末とエポキシ樹脂を90:10の質量割合で混合して作製した成形体を磁気測定に供したとき、3GHzにおいて、複素比透磁率の実数部μ’が3.00以上、かつ複素比透磁率の損失係数tanδ(μ)が0.30未満となる性質を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末。
- Feイオンを含有する水溶液に酸化剤を導入して核晶を生成させ、その後、FeおよびCoを成分に持つ前駆体を析出成長させるに際し、析出反応に使用する全Co量をCo/Feモル比0.15〜0.50の範囲とし、そのCoの全量を核晶生成開始後の時期に前記水溶液中に添加して前駆体を得る工程(前駆体形成工程)、
前駆体の乾燥物を還元性ガス雰囲気中で250〜650℃に加熱することにより、Fe−Co合金相を持つ金属粉末を得る工程(還元工程)、
還元後の金属粉末粒子の表層部に酸化保護層を形成する工程(安定化工程)、
を有する請求項1に記載のFe−Co合金粉末の製造方法。 - 前記Coの全量を、析出反応に使用する全Fe量の10%が析出反応に消費された時点以降の時期に前記水溶液中に添加する請求項11に記載のFe−Co合金粉末の製造方法。
- 前記Coの全量を、析出反応に使用する全Fe量に占める既に析出反応に消費されたFe量の累積割合が10〜80%である時期に前記水溶液中に添加する請求項11に記載のFe−Co合金粉末の製造方法。
- 前駆体形成工程において、希土類元素(Yも希土類元素として扱う)が水溶液中に存在している状態で前記核晶を生成させる請求項11〜13のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末の製造方法。
- 前駆体形成工程において、希土類元素(Yも希土類元素として扱う)、Al、Si、Mgの1種以上が水溶液中に存在している状態で前記析出成長を進行させる請求項11〜14のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末の製造方法。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末を使用して形成されたアンテナ。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末を樹脂組成物と混合した成形体を構成部材に有する周波数430MHz以上の電波を受信、送信、または送受信するアンテナ。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末を使用して形成されたインダクタ。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載のFe−Co合金粉末を使用して形成されたEMIフィルタ。
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JP2015188892A JP6607751B2 (ja) | 2015-09-25 | 2015-09-25 | Fe−Co合金粉末およびその製造方法並びにアンテナ、インダクタおよびEMIフィルタ |
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