次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図2は、図1のA−A断面図である。なお、ガスセンサ100は、例えば自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を、センサ素子101により検出するものである。また、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。測定電極44は、例えば、Ptと、NOxを還元する触媒活性を持つ白金族元素と、ZrO2との多孔質サーメット電極である。触媒活性を持つ白金族元素としては、例えば、ルテニウム,ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),オスミウム(Os),イリジウム(ir)などが挙げられる。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。また、ヒータ部70は、セラミックスからなる第1基板層1,第2基板層2,及び第3基板層3を備えている。ヒータ部70は、ヒータ72と、ヒータ72を囲む第2基板層2及び第3基板層3を備えたセラミックスヒータとして構成されている。ヒータ72は、図2に示すように、発熱部76とリード部79とを備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72の発熱部76は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72のリード部79は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱部76が発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72の発熱部76は、第1内部空所20及び第2内部空所40の下方に埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
ヒータ72の発熱部76及びリード部79について詳細に説明する。発熱部76は、抵抗発熱体であり、図2に示すように、複数(本実施形態では3個)の直線部78を備えている。なお、複数の直線部78は、前方から後方に向かって、順に第1〜第3直線部78a〜78cと称する。複数の直線部78は、いずれもリード部79の第1リード79aと第2リード79bとの間を接続している。すなわち、複数の直線部78の各々は、左端が第1リード79aに接続され、右端がリード部79bに接続されている。複数の直線部78は、いずれも長さ方向がセンサ素子101の短手方向(左右方向)に平行になるように配設されている。なお、直線部78の長さ方向は、直線部78の軸方向,換言すると電流が流れる方向とする。複数の直線部78は、長さ方向(左右方向)と直交する前後方向に沿って並べられている。なお、前後方向は、センサ素子101の長手方向であり、第1方向とも称する。また、前後方向は、ガス流通部(ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位)内の被測定ガスの流通方向でもある。複数の直線部78は、互いに電気的に並列になるように配設されている。このように、発熱部76は、複数の直線部78のみで構成され、屈曲部を有さない構成をしている。
発熱部76は、本実施形態では、貴金属とセラミックスとを含むサーメット(例えば、白金(Pt)とアルミナ(Al2O3)とのサーメット)とした。なお、発熱部76は、サーメットに限らず、例えば貴金属などの導電性物質を含むものであればよい。発熱部76に用いる貴金属としては、白金,ロジウム(Rh),金(Au),パラジウム(Pd)の少なくとも1以上の金属,又はその合金などが挙げられる。
ヒータ72において、第1〜第3直線部78a〜78cは内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,及び測定電極44との位置関係が調整されている。これについて説明する。図2では、内側ポンプ電極22をヒータ72に向けて垂直に(=センサ素子101の上下方向すなわち各層1〜6の積層方向に平行に)投影した領域である内側主ポンプ電極投影領域Apを一点鎖線枠で示している。同様に、補助ポンプ電極51をヒータ72に投影した内側補助ポンプ電極投影領域Aqを破線枠で示し、測定電極44をヒータ72に投影した測定電極投影領域Amを二点鎖線枠で示している。なお、図1に示すように、測定電極44の真上には補助ポンプ電極51の天井電極部51aが存在する。そのため、図2における内側補助ポンプ電極投影領域Aqと測定電極投影領域Amとは一部重複している。図2からわかるように、第1直線部78aは、内側主ポンプ電極投影領域Apと重複するように位置している。換言すると、第1直線部78aは、内側ポンプ電極22と上下に対向する(内側ポンプ電極22の真下に位置する)ように配設されている。第2,第3直線部78b,78cは、内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複するように位置している。換言すると、第2,第3直線部78b,78cは、補助ポンプ電極51と上下に対向する(補助ポンプ電極51の真下に位置する)ように配設されている。また、第3直線部78cは、測定電極投影領域Amとも重複するように位置している。換言すると、第3直線部78cは、測定電極44と上下に対向する(測定電極44の真下に位置する)ように配設されている。
ここで、内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44の温度をそれぞれ温度Tp,Tq,Tm[℃]とすると、複数の直線部78は、複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおいて温度Tp>温度Tq>温度Tmとなるように、単位長さあたりの抵抗値が調整されている。理由は後述するが、こうすることで、センサ素子101における特定ガス濃度(NOx濃度)の測定精度の低下が抑制される。なお、「複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したとき」とは、複数の直線部78の平均温度が700℃以上900℃以下のいずれかの温度であるときとする。また、温度Tp,Tq,Tmは、それぞれ内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44の温度の平均値とする。複数の直線部78が上述した温度範囲のいずれの温度に発熱したときにおいても温度Tp>温度Tq>温度Tmであることが好ましい。上述したように、複数の直線部78は互いに並列に接続されているため、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度における直線部78の単位長さあたりの抵抗値が高いほど、直線部78の単位長さあたりの発熱量は小さくなる。そして、単位長さあたりの発熱量が小さい直線部78に対向している電極ほど、温度は低くなりやすい。そのため、本実施形態では、700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度における複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値が、後方に位置する直線部78ほど高くなるようにしている。これにより、温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たすようになっている。なお、上述したように、第3直線部78cは内側補助ポンプ電極投影領域Aqと測定電極投影領域Amとの両方と重複するように位置している。ただし、内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複している第2,第3直線部78b,78cの単位長さあたりの抵抗値の平均値と、測定電極投影領域Amと重複している第3直線部78cの単位長さあたりの抵抗値の平均値とを比較すると、本実施形態では後者の方が抵抗値が高い。これにより、温度Tq>温度Tmを満たすようになっている。ここで、内側主ポンプ電極投影領域Apと重複する直線部78(本実施形態では第1直線部78a)の単位長さあたりの抵抗値の平均値を単位抵抗値Rp[μΩ/mm]とする。同様に、内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複する直線部78(本実施形態では第2,第3直線部78b,78c)の単位長さあたりの抵抗値の平均値を単位抵抗値Rq[μΩ/mm]とする。測定電極投影領域Amと重複する直線部78(本実施形態では第3直線部78c)の単位長さあたりの抵抗値の平均値を単位抵抗値Rm[μΩ/mm]とする。このとき、複数の直線部78が上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度において単位抵抗値Rp<単位抵抗値Rq<単位抵抗値Rmを満たしていれば、温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たしやすい。
本実施形態では、複数の直線部78はいずれも同じ材質(上述した白金を含むサーメット)とし、複数の直線部78の長さ方向に垂直な断面積が、後方に位置する直線部78ほど小さくなるようにしている。これにより、上述した温度範囲のいずれの温度においても、後方に位置する直線部78ほど単位長さあたりの抵抗値が高くなり、単位抵抗値Rp<単位抵抗値Rq<単位抵抗値Rmを満たすようになっている。ここで、内側主ポンプ電極投影領域Apと重複する直線部78(本実施形態では第1直線部78a)の長さ方向に垂直な断面積の平均値を断面積Sp[mm2]とする。同様に、内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複する直線部78(本実施形態では第2,第3直線部78b,78c)の長さ方向に垂直な断面積の平均値を断面積Sq[mm2]とする。測定電極投影領域Amと重複する直線部78(本実施形態では第3直線部78c)の長さ方向に垂直な断面積の平均値を断面積Sm[mm2]とする。このとき、複数の直線部78が断面積Sp>断面積Sq>断面積Smを満たしていれば、単位抵抗値Rp<単位抵抗値Rq<単位抵抗値Rmを満たすことができ、温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たしやすい。なお、本実施形態では、第1直線部78aの断面積は、どの部分でも同じ値(幅及び厚さが一定)とした。第2直線部78b及び第3直線部78cについても同様とした。
断面積Sp,Sq,Smの調整は、例えば、複数の直線部78の幅を異ならせるか、又は直線部78の厚さを異ならせるか、の少なくとも一方により行えばよい。なお、複数の直線部78の幅は、いずれも0.05mm以上2.0mm以下としてもよい。複数の直線部78の厚さは、いずれも0.003mm以上0.1mm以下としてもよい。
リード部79は、発熱部76の左側に配設された第1リード79aと、右側に配設された第2リード79bとを有している。第1,第2リード79a,79bは発熱部76への通電用のリードであり、ヒータコネクタ電極71と接続されている。第1リード79aは正極リードであり、第2リード79bは負極リードである。この第1リード79a,第2リード79b間に電圧が印加されることで発熱部76に電流が流れ、発熱部76が発熱する。リード部79は、導電体であり、発熱部76と比べて単位長さあたりの抵抗値が低くなっている。そのため、リード部79は発熱部76とは異なり通電時にはほとんど発熱しないようになっている。例えば、リード部79は、発熱部76と比べて体積抵抗率の低い材質であったり、断面積が大きかったりすることで、単位長さあたりの抵抗値が低くなっている。本実施形態では、リード部79は、発熱部76と比べて貴金属の割合が高いことで体積抵抗率が低くなっており、且つ、発熱部76と比べて幅が広いことで断面積が大きくなっている。
こうして構成されたガスセンサ100の製造方法を以下に説明する。まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておく。また、スペーサ層5となるグリーンシートにはガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷処理・乾燥処理を行う。形成するパターンは、具体的には、例えば上述した各電極や各電極に接続されるリード線、大気導入層48,ヒータ72,などのパターンである。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行う。ヒータ72となるパターン形成用のペーストは、上述したヒータ72の材質からなる原料(例えば貴金属とセラミック粒子)と、有機バインダー及び有機溶剤等を混合したものを用いる。
このとき、ヒータ72となるパターンは、複数の直線部78が上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおいて温度Tp>温度Tq>温度Tmとなるように、配置と単位抵抗値Rp,Rq,Rmの少なくとも一方を調整して形成する。例えば、単位抵抗値Rp<単位抵抗値Rq<単位抵抗値Rmとなるように、すなわち断面積Sp>断面積Sq>断面積Smとなるように形成する。例えば、複数の直線部78の幅を異ならせるには、そのようなパターンを形成できるような形状のマスクを用いる。また、複数の直線部78の厚さを異ならせるには、例えば厚さの小さい直線部78となる部分のパターンと比べて、厚さの大きい直線部78となる部分のパターンを形成するペーストの粘度を高くしたり、厚さの大きい直線部78となる部分のパターンを形成する際の印刷回数を増やしたりする。
このように各種のパターンを形成したあと、グリーンシートを乾燥する。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行う。パターン印刷・乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行う。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分ける。そして、切り分けた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。
このようにしてセンサ素子101を得ると、センサ素子101を組み込んだセンサ組立体を製造し、保護カバーなどを取り付けることで、ガスセンサ100が得られる。なお、ヒータ72の形状や、ヒータ72の発熱時に温度Tp>温度Tq>温度Tmとなるようにヒータ72を調整する点を除いて、上記のようなガスセンサの製造方法は公知であり、例えば国際公開2013/005491号に記載されている。
こうして構成されたガスセンサ100では、使用時に、ヒータ72がヒータコネクタ電極71を介して電源(例えば自動車のオルタネータ)に接続され、第1リード79a,第2リード79b間に直流電圧(例えば12〜14V)が印加される。そして、印加された電圧により、発熱部76に電流が流れて発熱部76が発熱する。これにより、センサ素子101全体が上記固体電解質(各層1〜6)が活性化する温度(例えば、700℃〜900℃)に調整される。このとき、センサ素子101では、上述したように複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値が調整されていることで、複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときに温度Tp>温度Tq>温度Tmとなる。これにより、センサ素子101における特定ガス濃度(NOx濃度)の測定精度の低下が抑制される。この理由について説明する。
まず、温度Tp>温度Tmとすることによる測定精度の向上について説明する。一般に、測定電極付近では、被測定ガスに含まれる特定ガス以外の成分が還元される場合がある。特に、測定電極は還元触媒としての機能を有するため、このような還元が生じやすい。そして、還元により生じた物質が特定ガス(NOx)と化学反応してしまう場合がある。例えば、被測定ガス中の水が還元されて、酸素と水素に分解される場合がある。そして、これにより生じた水素がNOx中の酸素と化学反応し、水及び窒素に変化してしまう場合がある。このような化学反応が生じると、本来は測定電極周辺でNOxが還元されることで発生するはずの酸素の量が減少してしまい、この酸素の量に基づいて検出されるNOx濃度が変化(減少)してしまう。これにより、センサ素子の測定精度が低下する場合がある。また、このような特定ガス以外の成分の還元(例えば水の酸素と水素への分離反応)は、高温になるほど生じやすい。一方、内側ポンプ電極22の周辺には、上述した主ポンプセル21による第1内部空所20内の酸素濃度の調整前の被測定ガスがガス導入口10側から流入する。そのため、内側ポンプ電極22の周辺は測定電極44周辺と比較して酸素濃度が高い場合が多い。これにより、内側ポンプ電極22の周辺では、上述した特定ガス以外の成分の還元(例えば水の分解)が生じにくく、NOxが化学反応することによる測定精度の低下は生じにくい。以上のことから、本実施形態では、温度Tp>温度Tmとすることで、特定ガス以外の成分の還元が生じやすい測定電極44(及びその周辺)については、温度Tmが低いことでNOxの化学反応による測定精度の低下を抑制できるようにしている。一方、特定ガス以外の成分の還元が生じにくい内側ポンプ電極22の温度Tpを高くすることで、発熱部76により内側ポンプ電極22周辺の固体電解質層(例えば第2固体電解質層6,スペーサ層5,第1固体電解質層4,及び第3基板層3)をより活性化できる。これにより、主ポンプセル21及び主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の性能の低下を抑制でき、これによっても測定精度の低下を抑制できる。
次に、温度Tqとセンサ素子101の測定精度との関係について説明する。補助ポンプ電極51の周辺には、主ポンプセル21による第1内部空所20内の酸素濃度の調整後の被測定ガスが第1内部空所20側から流入する。そのため、補助ポンプ電極51の周辺には、内側ポンプ電極22の周辺と比較すると酸素濃度が低い場合が多く、例えば上述した水の還元(分離反応)などが起きやすい。このため、一般に、補助ポンプ電極周辺についても、内側ポンプ電極周辺と比較するとNOxが化学反応することによる測定精度の低下が生じやすい。しかし、本実施形態では、温度Tp>温度Tqとすることで、温度Tqが低いため補助ポンプ電極51周辺でのNOxの化学反応による測定精度の低下を抑制できる。また、温度Tq>温度Tmとすることで、発熱部76により補助ポンプ電極51周辺の固体電解質層(例えば第2固体電解質層6,スペーサ層5,第1固体電解質層4,及び第3基板層3)をより活性化できる。このため、補助ポンプセル50及び補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81の性能の低下を抑制でき、これによっても測定精度の低下を抑制できる。
なお、測定電極44に含まれる触媒活性を持つ白金族元素は、高温になるほど酸化して劣化しやすい。そのため、温度Tpや温度Tqよりも温度Tmを低くすることで、酸化による測定電極44の劣化を抑制することもできる。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3,第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6が本発明の積層体に相当し、内側ポンプ電極22が内側主ポンプ電極に相当し、測定電極44が測定電極に相当し、リード部79がリード部に相当し、直線部78が直線部に相当し、発熱部76が発熱部に相当し、ヒータ72が発熱体に相当する。また、補助ポンプ電極51が内側補助ポンプ電極に相当し、外側ポンプ電極23が外側主ポンプ電極及び外側補助ポンプ電極に相当する。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100によれば、センサ素子101は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなり、外部から被測定ガスを導入するガス流通部が内部に設けられた積層体(各層1〜6)と、ガス流通部の内周面に配設された内側主ポンプ電極(内側ポンプ電極22)と、ガス流通部の内周面に配設され、且つ内側ポンプ電極22よりも被測定ガスの下流側(後方)に配設された測定電極44と、積層体の内部に配設されたヒータ72と、を備えている。ヒータ72は、第1リード79a及び第2リード79bを有するリード部79と、第1リード79aと第2リード79bとの間を接続する直線部78を複数有する発熱部76と、を有している。複数の直線部78は、ガス流通部内の被測定ガスの流通方向(前後方向)に沿って並べられている。そして、複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおける測定電極44の温度Tmが内側ポンプ電極22の温度Tpよりも低くなるように、複数の直線部78の配置と複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値との少なくとも一方が調整されている。これにより、センサ素子101の特定ガス濃度(NOx濃度)の測定精度の低下を抑制できる。また、発熱部76により内側ポンプ電極22周辺の固体電解質層をより活性化できる。また、センサ素子101は、積層体の外表面に配設された外側主ポンプ電極(外側ポンプ電極23)を備えている。
また、センサ素子101は、ガス流通部の内周面に配設され、内側ポンプ電極22よりも被測定ガスの下流側且つ測定電極44よりも被測定ガスの上流側(前方)に配設された内側補助ポンプ電極(補助ポンプ電極51)、を備えている。そして、複数の直線部78は、複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおける補助ポンプ電極51の温度Tqが内側ポンプ電極22の温度Tpよりも低くなるように、複数の直線部78の配置と複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値との少なくとも一方が調整されている。これにより、センサ素子101の特定ガス濃度(NOx濃度)の測定精度の低下を抑制できる。また、センサ素子101は、積層体の外表面に配設された外側補助ポンプ電極(外側ポンプ電極23)を備えている。
さらに、複数の直線部78は、複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおける測定電極44の温度Tmが補助ポンプ電極51の温度Tqよりも低くなるように、複数の直線部78の配置と複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値との少なくとも一方が調整されている。このため、発熱部76により補助ポンプ電極51周辺の固体電解質層をより活性化できる。
また、発熱部76が有する複数の直線部78は互いに電気的に並列になるように配設されている。そのため、例えば発熱部が図4に示したような一筆書き形状である場合、換言すると発熱部の構成要素が互いに電気的に直列に接続である場合と比べて、複数の直線部78の配置や単位長さあたりの抵抗値を調整することによる温度Tp,Tq,Tmの調整がしやすい。
さらにまた、複数の直線部78は、長さ方向に垂直な断面積が調整されることで、単位長さあたりの抵抗値が調整されている。また、ガスセンサ100は、センサ素子101を備えている。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、複数の直線部78の長さ方向に垂直な断面積を調整することで、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度における複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値を調整したが、他の手法で単位長さあたりの抵抗値を調整してもよい。例えば、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度における複数の直線部78の体積抵抗率を調整することで、単位長さあたりの抵抗値を調整してもよい。例えば、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度における複数の直線部78の体積抵抗率が、後方に位置する直線部78ほど高くなるようにしてもよい。ここで、内側主ポンプ電極投影領域Apと重複する直線部78(上述した実施形態では第1直線部78a)の体積抵抗率の平均値を体積抵抗率ρp[μΩ・cm]とする。同様に、内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複する直線部78(上述した実施形態では第2,第3直線部78b,78c)の体積抵抗率の平均値を体積抵抗率ρq[μΩ・cm]とする。測定電極投影領域Amと重複する直線部78(上述した実施形態では第3直線部78c)の体積抵抗率の平均値を体積抵抗率ρm[μΩ・cm]とする。このとき、複数の直線部78が、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度において体積抵抗率ρp<体積抵抗率ρq<体積抵抗率ρmを満たしていてもよい。こうすれば、単位抵抗値Rp<単位抵抗値Rq<単位抵抗値Rmを満たすことができ、上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度において温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たしやすい。例えば、複数の直線部78に含まれる貴金属(導体)の割合を異ならせることで、体積抵抗率ρp,ρq,ρmを調整することができる。複数の直線部78のうち1以上の直線部78に、他の直線部78には含まれず他の直線部78に含まれる貴金属よりも体積抵抗率の低い貴金属を含有させることで、体積抵抗率ρp,ρq,ρmを調整してもよい。上述した実施形態の直線部78に含まれる白金と比べて体積抵抗率の低い貴金属としては、ロジウム,金などが挙げられる。あるいは、複数の直線部78のうち1以上の直線部78に、主成分の貴金属と比べて抵抗温度係数(単位:[%/℃])の小さい材質を他の直線部78よりも多く含有させることで、体積抵抗率ρp,ρq,ρmを調整してもよい。このような抵抗温度係数の小さい材質としては、ニクロム(ニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金),カンタル(登録商標:鉄,クロム,及びアルミニウムを含む合金),二珪化モリブデン(MoSi2)などが挙げられる。
上述した実施形態では、第1直線部78aのいずれの場所においても、長さ方向に垂直な断面積は同じとしたが、これに限られない。例えば、第1直線部78aのうち一部が幅広であるなど、断面積が変化する箇所があってもよい。このように一部の断面積を変化させることでも、第1直線部78aの断面積の平均値を調整することができる。第2,第3直線部78b,78cについても、同様である。また、直線部78は、長さ方向の両端の少なくとも一方が、リード部79との接続部分に近くなるほど幅が広くなる形状をしていてもよい。図3は、この場合の変形例のヒータ72Aの説明図である。なお、図3では、直線部78の両端は、円弧状に幅が広くなる形状をしているが、これに限らず、直線状に幅が広くなる形状をしていてもよい。このように、直線部78の端部が、リード部79との接続部分に近くなるほど幅が広くなる形状をしていることで、直線部78の端部が熱膨張による応力に対して強くなり、応力の影響による直線部78の端部の劣化(断線など)をより抑制できる。特に、直線部78の幅が細い場合には、端部をこのような形状にすることが好ましい。
なお、上述した実施形態のヒータ72において、複数の直線部78の断面積を調整することと、体積抵抗率を調整することと、を組み合わせてもよい。例えば、第1直線部78aの体積抵抗率の平均値を断面積の平均値で除した値は、第1直線部78aの単位長さあたりの抵抗値の平均値となる。そのため、断面積Sp,Sq,Smの調整と体積抵抗率ρp,ρq,ρmの調整とを組み合わせて、単位抵抗値Rp,Rq,Rmを調整することができ、これによって温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たすようにしてもよい。
上述した実施形態では、発熱部76は3個の直線部78を有していたが、これに限らず、直線部78は複数個であればよい。なお、センサ素子101が内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,及び測定電極44を備える場合には、これらの電極の各々について、電極に対向する(電極の投影領域に含まれる)直線部78が少なくとも1個以上存在するようにしてもよい。なお、センサ素子101は補助ポンプ電極51を備えなくてもよい。この場合、内側ポンプ電極22及び測定電極44の各々について、電極に対向する(電極の投影領域に含まれる)直線部78が少なくとも1個以上存在するようにしてもよい。
上述した実施形態では、複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値を調整することで、温度Tp>温度Tq>温度Tmとなるようにしたが、これに限られない。例えば、複数の直線部78の単位長さあたりの抵抗値を調整することに加えて又は代えて、複数の直線部78の配置を調整してもよい。直線部78の配置の調整の具体例としては、直線部78の数を調整することや、各電極と直線部78との距離を調整することや、各電極に対向する直線部78の数を調整したりすることなどが挙げられる。例えば、測定電極投影領域Amに重複しないように第3直線部78cを前後のいずれかにずらして配置すれば、測定電極44と第3直線部78cとの距離がヒータ72と比べて大きくなるため、測定電極44の温度Tmはさらに低くなる。また、内側主ポンプ電極投影領域Apに対向する直線部78を発熱部76がさらに備えるようにすれば、内側ポンプ電極22の温度Tqはさらに高くなる。このように、複数の直線部78の配置を調整することでも、複数の直線部78が上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおける温度Tp,温度Tq,温度Tmの大小関係を調整することができる。ここで、ヒータ72のうち内側主ポンプ電極投影領域Apの発熱密度(=複数の直線部78のうち内側主ポンプ電極投影領域Apと重複する部分の発熱量/内側主ポンプ電極投影領域Apの面積)を発熱密度Hp[W/mm2]とする。同様に、ヒータ72のうち内側補助ポンプ電極投影領域Aqの発熱密度(=複数の直線部78のうち内側補助ポンプ電極投影領域Aqと重複する部分の発熱量/内側補助ポンプ電極投影領域Aqの面積)を発熱密度Hq[W/mm2]とする。ヒータ72のうち測定電極投影領域Amの発熱密度(=複数の直線部78のうち測定電極投影領域Amと重複する部分の発熱量/測定電極投影領域Amの面積)を発熱密度Hm[W/mm2]とする。このとき、複数の直線部78が上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおいて発熱密度Hp>発熱密度Hq>発熱密度Hmを満たすようにしてもよい。こうすれば、温度Tp>温度Tq>温度Tmを満たしやすい。なお、発熱密度Hp,Hq,Hmは、複数の直線部78の配置と単位長さあたりの抵抗値との少なくとも一方を調整することによって、調整することができる。
上述した実施形態では、複数の直線部78が上述した温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおいて温度Tp>温度Tq>温度Tmとなるようにしたが、温度Tp,Tq,Tmの大小関係はこれに限られない。複数の直線部78が700℃以上900℃以下の温度範囲の少なくともいずれかの温度に発熱したときにおいて、少なくとも温度Tp>温度Tmであれば、センサ素子101の測定精度の低下を抑制する効果は得られる。例えば、温度Tp=温度Tqや温度Tp<温度Tqであってもよいし、温度Tq=温度Tmや温度Tq<温度Tmであってもよい。ただし、温度Tp>温度Tqであることが好ましい。また、温度Tq>温度Tmであることが好ましい。なお、上述した単位抵抗値Rp,Rq,Rmの大小関係、断面積Sp,Sq,Smの大小関係、体積抵抗率ρp,ρq,ρmの大小関係、発熱密度Hp,Hq,Hmの大小関係についても同様である。
上述した実施形態では、図2における内側補助ポンプ電極投影領域Aqと測定電極投影領域Amとは一部重複していたが、これに限らず重複していなくてもよい。例えば、測定電極44の真上には補助ポンプ電極51の天井電極部51aが存在していなくてもよい。また、センサ素子101では、前方から後方に向かって内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44がこの順にガス流通部に配設されていたが、被測定ガスの上流から下流に向かって内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44の順に配設されていればよい。例えば、ガス導入口10の代わりに、第2固体電解質層6を上下に貫通する孔がガス導入口として配設されており、このガス導入口に近い側からセンサ素子101の前端に向かって内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44がこの順にガス流通部に配設されていてもよい。
上述した実施形態では、複数の直線部78はいずれも左右方向の長さが同じとしたが、これに限られない。また、上述した実施形態では、図2に示すように、複数の直線部78は内側主ポンプ電極投影領域Ap,内側補助ポンプ電極投影領域Aq,及び測定電極投影領域Amよりも左右方向の外側まで配設されているが、これに限られない。また、上述した実施形態では、複数の直線部78は長さ方向(左右方向)と直交する第1方向(前後方向)に沿って配設されていたが、第1方向は直線部78の長さ方向と直交する方向に限らず、交差する方向であればよい。
上述した実施形態では、複数の直線部78は、いずれも同じ第1リード79a,第2リード79b間を接続していたが、これに限られない。例えば、第1リード79a(正極リード),第2リード79b(負極リード)がそれぞれ複数存在しており、第1直線部78aが接続される第1リード79a,第2リード79bと、第2直線部78bが接続される第1リード79a,第2リード79bと、が異なっていてもよい。なお、このように複数の直線部78のうち少なくとも1つが他の直線部78とは異なる第1リード79a,第2リード79bに接続されている場合、複数の直線部78のうち少なくとも1つが、他の直線部78と比べて印加される電圧が異なっていてもよい。ただし、例えば単位長さあたりの抵抗値が大きい直線部78と小さい直線部78とが存在する場合に、単位長さあたりの抵抗値が大きい直線部78に印加する電圧が高すぎると、単位長さあたりの抵抗値が大きい直線部78に近い電極の温度が低くならない場合があるため、この点を考慮して印加電圧を定める必要がある。逆に、単位長さあたりの抵抗値が大きい方の直線部78に印加する電圧を低くすることで、単位長さあたりの抵抗値が大きい直線部78に近い電極の温度をその分低くすることができる。
上述した実施形態では、発熱部76は、複数の直線部78のみで構成され、屈曲部を有していないが、屈曲部を有していてもよい。ただし、一般に、高温になるほど発熱部は酸化(例えば貴金属成分である白金が酸化)して劣化しやすく、特に屈曲部は直線部と比べて劣化による断線等が生じやすい。より具体的には、屈曲部は熱膨張による応力の影響で微少なクラックが発生しやすい。そして、クラックにより屈曲部の表面積が増加することで酸化が促進されたり、さらにクラックが伸展したりすることで、屈曲部は断線等が生じやすく寿命が短い傾向にある。そのため、発熱部76は屈曲部を備えないことが好ましい。発熱部76が屈曲部を備えないことで、発熱部76の寿命が長くなる。
上述した実施形態では、第1リード79a,第2リード79bは直線状の形状をしていたが、第1リード79a,第2リード79bが屈曲部を有していてもよい。リード部79は発熱部76ほど高温にならないため、屈曲部を有していても、上述した酸化による劣化の問題が生じにくい。
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23が外側主ポンプ電極と外側補助ポンプ電極とを兼ねていたが、これに限らず外側主ポンプ電極と外側補助ポンプ電極とが別々にセンサ素子101の外表面(例えば第2固体電解質層6の上面)に配設されていてもよい。
上述した実施形態では、ヒータ72は帯状としたが、これに限らず線状(例えば断面が円又は楕円)としてもよい。
上述した実施形態では、センサ素子101を備えたガスセンサ100として説明したが、本発明はセンサ素子101単体としてもよい。なお、ヒータ部70は第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3を備えていたが、ヒータ72の下側の層が第1基板層1及び第2基板層2の2層ではなく、1層だけであってもよい。また、ヒータ部70はヒータ絶縁層74を備えていたが、ヒータ72を囲むセラミックス体(例えば第1基板層1,第2基板層2)が絶縁性を有する材質(例えば、アルミナのセラミックス)であれば、ヒータ絶縁層74は省略してもよい。また、センサ素子101の大きさは、例えば前後方向の長さが25mm以上100mm以下、左右方向の幅が2mm以上10mm以下、上下方向の厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。