以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1及び図2には、本発明の一実施形態に係るボルト2が示されている。このボルト2は、ボルト本体4と、ボルト本体4の先端近傍に装着された係止部材6とを備えている。このボルト2には、ナット8が螺着されている。係止部材6は、ナット8とで設置対象の梁等を挟圧する役目を担う。この挟圧により、ボルト2は設置対象に固定される。ボルト本体4の先端近傍には、係止部材6を収納するスリット状の係止部材収納部(以下、単に収納部ともいう)10が形成されている。収納部10は、ボルト本体4の中心軸を含む平面の方向に、ボルト本体4を貫通している。収納部10の横方向の間隔(対向する内側面11同士の間隔)は、係止部材6の厚さよりわずかに大きくされている。収納部10の対向する内側面11は、互いに平行である。ボルト本体4及び係止部材6の材料としては、金属、合成樹脂等が採用されうる。
係止部材6は、基本的に長方形の板状を呈している。後述するように、長方形の係止部材6の一つの角部は、円弧状の面取りが成されている。以下、係止部材6の、長手方向における面取りが成されている側を先端部12と呼び、その反対側を基端部14と呼ぶ。係止部材6の長さは、ボルト本体4の直径より大きい。係止部材6の幅は、ボルト本体4の直径より小さい。係止部材6の長さは、設置対象である梁202等に形成されるボルト孔の直径より大きくされる。係止部材6の一方の長辺部は、収納部10の先端側内面16に当接しうる第一側縁部18である。この第一側縁部18に平行な他方の長辺部は、ボルト2の設置対象の背面に当接しうる第二側縁部20である。収納部10の先端側内面16に第一側縁部18が当接し、設置対象の背面に第二側縁部20が当接した状態で、ナット8が締め込まれると、係止部材6とナット8とが設置対象を挟圧する。この設置対象挟圧時に、係止部材6への挟圧反力を、後述の支軸22ではなく、係止部材6の第一側縁部18と面接触した収納部16の先端側内面16が受けることになる。この構造は、ナット8の高い締め付け力に対しても、十分に耐える強度を有している。係止部材6の基本形状は、長方形板状には限定されない。係止部材6は、上記第一側縁部18、第二側縁部20及び面取り部26が形成されうる形状であればよく、例えば、角柱状、丸棒状であってもよい。
係止部材6は、収納部10内に挿通された状態で、ボルト本体4に対して回動自在に装着されている。このボルト2では、係止部材6の装着機構として、支軸(ピン)22が用いられている。支軸22は、収納部10の内面に直交する方向に装着されている。係止部材6は、この支軸22回りに回動自在に装着されている。図1(a)に示されるように、係止部材6は、回動することにより、収納部10内に隠れてしまう位置(収納位置という)と、収納部10から横方向外方へ突出する位置(突出位置という)とに到ることができる。係止部材6は、収納位置では、その長手方向がボルト本体4の軸方向にほぼ一致しており、突出位置では、その長手方向がボルト本体4の軸方向に対してほぼ垂直な方向を向いている。このボルト2では、係止部材6が突出位置に到ったとき、その第一側縁部18が収納部10の先端側内面16に面接触するように構成されている。
支軸22は、収納部10を貫通した状態で、ボルト本体4に固定されている。支軸22は、収納部10におけるボルト本体4の半径方向外端近傍に形成された図示しない貫通孔に圧入されている。すなわち、支軸22は、収納部10の内側面11における、幅方向外端近傍に位置している。係止部材6の幅方向外端近傍に、支軸22が挿通される貫通孔20が形成されている。図2に示されるように、この貫通孔24の直径は、支軸22の直径より大きい。貫通孔24の位置は、以下の通りである。図2に示されるように、貫通孔24の中心から第一側縁部18への垂線の長さRと、貫通孔24の中心から先端部12への垂線の長さRとが同一とされている。
係止部材6の先端部12の角部には、前述したとおり、円弧状の面取り部(円弧部)26が形成されている。この面取り部26の円弧は、上記貫通孔24の中心を中心としており、その半径は、前述した長さRと同一である。この面取り部26を形成する目的は、係止部材6が支軸22回りに回動するときに、係止部材6の角部が収納部10の先端側内面16に干渉して回動を阻害することを防止することである。係止部材6の回動時には、この面取り部26は、上記先端側内面16に軽く摺動する。
図2において、支軸22から収納部10の基端側内面28までの垂線の長さD1は、支軸22から係止部材6の基端部14と第一側縁部18との交点C1までの直線距離D2より短く、支軸22から係止部材6の基端部14と第二側縁部20との交点C2までの直線距離D3より長くされている。その結果、係止部材6は、第一側縁部18側への回転(反時計回り回転)はできるが、第二側縁部20側への回転(時計回り回転)はできない。係止部材6の角部C1が、収納部10の基端側内面28に干渉するからである。問題が生じないように、より確実に係止部材6の第二側縁部20側への回転(時計回り回転)を防止するために、第一側縁部18の基端側に、図示のごとき板状(針状でもよい)の逆回転防止用のストッパ30を設けるのが好ましい。この板状ストッパ30は、係止部材6が収納位置から時計回りに回転しようとすると、ボルト本体4における収納部10の上方の部位に当接し、さらなる係止部材6の回転を阻止する。
係止部材6は、その回動支点である貫通孔24を起点として、基端部14までの長手方向長さが、先端部12までの長手方向長さより長くされている。係止部材6の重心は、貫通孔24より基端部14側に位置している。係止部材6の、支軸22による枢支位置は、係止部材6の長手方向の中央点より先端部12側にずれている。係止部材6は、枢支位置を境にした長い部分6Lと短い部分6Sとからなる。長い部分6Lは、短い部分6Sより重量が大きい。この構成により、後述するように、設置対象へのボルト2の設置時に、容易に係止部材6を収納部10から突出させて、その突出位置に到らせることができる。
上記ボルト本体4の基端には、スパナー等の回転工具が係合するための、直方体状の係合凸部32が設けられている。特に直方体状には限定されない。例えば、一対のいわゆるDカット部が互いに平行に形成されたものであってもよい。ボルト2にナット8を強力に締め込むとき、ボルトの共回り防止のために、この係合凸部32にスパナー等を係合してボルト2を静止させておくことができる。
図3には、上記ボルト2を屋根に固定する手順が示されている。より詳細には、屋根の上から、ボルト2を、板状構造部材の一種である波板状の屋根板204を貫通して、基板に固定する方法が示されている。本実施形態における設置対象の基板として、リップ溝型鋼からなる梁202が挙げられている。具体的な取付部は、リップ溝型鋼202の上板206である。屋根板204は、梁202の上に取り付けられている。屋根板204には第一貫通孔H1が形成されている。第一貫通孔H1は、ナット8が挿通されうる大きさを有する。上板206にはボルト孔としての第二貫通孔H2が形成されている。第二貫通孔H2は、ボルト2は挿通されうるが、ナット8は挿通され得ない大きさを有する。第一貫通孔H1と第二貫通孔H2とは、鉛直方向の同軸状に位置している。図3に示されるように、屋根板204が波板からなるため、第一貫通孔H1と第二貫通孔H2との間には空間が存在する。
まず、ボルト2にはナット8を螺合しておく。係止部材6は、収納部10内に隠れた状態、すなわち、収納位置に収納しておく。この状態のボルト2を、その先端から第一貫通孔H1及び第二貫通孔H2に挿通する(図3(a))。収納位置にある係止部材6は、その長い部分6Lが上方に位置し、短い部分6Sが下方に位置している。このような下向き装着の際には、係止部材6を安定して収納位置に保持するために、係止部材6に対し、図2に示されるようなリング状にされた糸状部材34を装着しておいてもよい。この糸状部材34は、例えば、係止部材6の基端部14と第二側縁部20との交点C2の近傍に形成された貫通孔35に連結されているのがよい。この糸状部材を上方に引いておくことにより、係止部材6の回動が防止され、ボルト2を貫通孔H1、H2に挿通することが容易となる。
ついで、例えば、ボルト2を振ったり軸回りに繰り返し回転させたりすることにより、係止部材6を収納部10から横へ突出させる(図3(b))。係止部材6の長い部分6Lが、上方に位置しているので容易に外方へ突出してくる。係止部材6が突出位置に到ると、その第一側縁部18が、収納部10の先端側内面16に接する。係止部材6が突出位置にある状態のボルト2は、その係止部材6の長手方向が、ほぼ梁202の長手方向を向くようにされているのが好ましい。これは、後述するように、ボルト2を上方に引き上げたとき(図3(c)、(d))に、係止部材6の長い部分6Lの先端が、梁202の底板210(図13、14)や図示しないリップに当接することを回避するためである。
この状態のボルト2を上方に引き上げる(図3(c))。さらにボルト2を上方に引き上げると、係止部材6の第二側縁部20が上板206の下面に当接する。ボルト2をこの状態に保持したまま、ナット8を締め込む(図3(d))。ナット8の締め込み時には、ボルト本体4の共回りを防止するために、係合凸部32をスパナ等によって拘束しておく。この拘束により、ナット8の締め込みが容易となる。この締め込みにより、ナット8と係止部材6とが上板206を挟圧し、ボルト2が梁202にしっかりと固定される。挟圧反力は、係止部材6を介した収納部10の先端側内面16と、ボルト本体4の雄ねじとが受ける。
上記したナット締め込み時のボルト2の共回り対策として、係合凸部32の拘束に代えて、又はこれと共に、係止部材6の長い部分6Lを利用することも可能である。すなわち、この長い部分6Lを、リップ溝形鋼の底板210(図13、14)や図示しないリップに当接させておくことにより、ボルト2の軸回りを防止することができる。この目的のために、上記長い部分6Lの長さを、リップ溝形鋼の横断面における内部幅(図示しないリップと底板210との間隔)の1/2以上にしておく。図3(c)又は図4(a)に示される状態のボルト2を、その中心軸回りに時計方向に回転させる。そうすると、長い部分6Lの先端が、底板210又は図示しないリップに当接する。この状態で、ナット8を締め込めば、ボルト本体4の共回りが防止される。
図3及び図4に示されるように、屋根板204と梁202との間には空間が存在する。このため、ナット8を上板206にまで締め込む(図3(d))には工夫を要する。本実施形態では、図4(b)、(c)に示されるような長尺の締め付け工具36が用いられる。(b)は正面図、(c)は平面図である。図示のごとく、この締め付け工具36は、横断面が正六角形の六角筒形を呈している。
図4(d)に示されるように、この六角筒は、ちょうどナット8の外周に嵌合しうる大きさである。この締め付け工具36は、六角穴付きスパナとも呼べる。締め付け工具36の、ナット8に嵌合しうる端部を第一嵌合部38と呼ぶ。この締め付け工具36の六角柱形状の内部には、ボルト2が干渉することなく挿通されうる。一方、六角柱形状の外面には、スパナ等の回転工具を係合させることができる。この回転工具を係合させる部位を第二嵌合部40と呼ぶ。本実施形態では、締め付け工具36の両端部は、いずれも第一嵌合部38となりうる。締め付け工具36の全長にわたって、第二嵌合部40となりうる。
この締め付け工具36の長さは、屋根板204を構成する波板の谷底から山頂までの距離に、スパナ等の回転工具が係止されうる軸方向寸法を加えた程度にされている。換言すれば、締め付け工具36は、その一端が上記上板206の手前側表面(上面)に当接しているときに、第二嵌合部40が、屋根板204の第一貫通孔H1から手前外方(上方)に露出しうる長さである。締め付け工具の形状構造は、図4(b)、(c)に示されたものには限定されない。例えば、その第一嵌合部38が、ナット8の6個の側面のうち、対向する二面それぞれに当接して係合するような締め付け工具であってもよい。このように、締め付け工具がナット8の対向二面に当接し係合する動作も、嵌合と呼ばれる。
長尺の上記締め付け工具36に代えて、図示していないスペーサーを使用してもよい。このスペーサーは、円筒形が好ましい。この円筒形のスペーサーの外径は、屋根板204の第三貫通孔(図4の第一貫通孔H1に相当)の内径より小さく、上板206の第四貫通孔(図4の第二貫通孔H2に相当)の内径より大きい。スペーサーの内径は、ボルト本体4の外径より大きく、ナット8の外径より小さい。スペーサーの長さは、屋根板204を構成する波板の谷底から山頂までの距離以上であるのが望ましい。
まず、この円筒形のスペーサーを、ボルト本体4の上から外周側に嵌合する。次いで、ナット8を、ボルト本体4の上から螺合する。これで、スペーサーは、図4(a)に示されるボルト2の、ナット8より先端側(図4(a)中の下側)に装着される。スペーサーが装着された状態で、ナット8を締め込むと、スペーサーの下端と係止部材6とにより、梁202の上板206が挟圧される。これにより、ボルト2が、梁202に固定される。スペーサーは、円筒形に限定されず、多角筒形等であってもよい。
以上説明されたボルトの設置方法、すなわち、上記締め付け工具36又は図示しないスペーサーを用いた設置方法の適用対象は、図1に示されるようなボルト2、及び、後述する図5から図15に示されるようなボルト42、64、82、102、106、110には限定されない。上記設置方法は、例えば、実開昭53−145060号公報、特開平11−311229号公報、特許第3532559号公報等に開示されているボルトにも適用されうる。特開平11−311229号公報に開示されたネジ付きピンでは、係止片は、支持軸によってネジ部(ボルト本体)に回動自在に取り付けられている。締結時の反力は、上記支持軸が受ける。上記設置方法の適用対象は、以上のような、係止片が支持軸によってボルト本体に回動自在に取り付けられたボルトにも適用可能である。
いままでは、ボルト2を上から下に向けて設置対象に設置することが例示されている。しかし、このボルト2を、対象物の横を向いた貫通孔に対し、水平方向に装着することも容易に成されうる。例えば、図2に示されたボルト2を、係止部材6の第一側縁部18が上に位置した状態で水平方向を向いた姿勢にする。係止部材6は、その回転が抑止されている。この姿勢のボルト2を、上記貫通孔に挿通する。ついで、ボルト2を、その中心軸回りに約180°回転させる。そうすると、係止部材6は、その第一側縁部18が下方に位置するので、90°回転してその長い部分6Lが重力の作用によって下方にを向く。この状態のボルト2を手前に引き戻すと、係止部材6の第二側縁部20が設置対象の背面に当接する。ボルト2をこの状態に保持したまま、ナット8を締め込む。ボルト2は設置対象にしっかりと固定される。
このボルト2は、上向きに装着することも可能である。このボルト2を、設置対象の上下方向に貫通された孔に、下方から上向きに挿通する。ついで、この位置でボルト2を中心軸回りに繰り返し回転させる。そうすると、係止部材6の長い部分6Lが収納部10から突出してくる。このタイミングに合わせて、ボルト2を手前(下方)に引き戻す。長い部分6Lの先端が設置対象の背面に当たる。ボルト2を引き続けると、係止部材6の第二側縁部20が設置対象の背面に面接触する。ボルト2のこの状態を保持したまま、ナット8を締め込む。ボルト2は設置対象にしっかりと固定される。
図5から図8には、他のボルト42が示されている。このボルト42の、図1のボルト2との相違点は、係止部材46のボルト本体44への装着機構である。このボルト42では、係止部材46が、ボルト本体44の収納部48に形成された案内通路(後述の係合溝58)に沿って移動可能且つ回転可能に装着されている。このボルト42では、後述する係合突起50及び係合溝58が、係止部材46の装着機構に含まれる。このボルト42の、図1のボルト2との同一構成部分については、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。
このボルト42の係止部材46は、長方形の板状を呈している。係止部材46の表裏両面49それぞれに、被案内突部としての円錐状の係合突起50が突設されている。係合突起50は円錐状には限定されない。切頭円錐状、円柱状、先端が半球状にされた円柱状等であってもよい。係合突起50の材質は、係止部材46の材質と同一であるのが好ましいが、特に限定はされない。係合突起50は、係止部材46に対して、溶接、接着剤による接着、係止部材46に形成された小穴への圧入等により固定しうる。また、係止部材46の面に装着孔を形成し、この装着孔に公知のボールプランジャーを装着してもよい。ボールプランジャーのボールが係合突起として作用しうる。ボールプランジャーを用いる場合、収納部48の後述する横溝58Hは不要となる。
係合突起50は、係止部材46の表裏各面49の同一位置に突設されている。係合突起50は、図5及び図6に示されるように、表裏各面49の長手方向中心軸上であって、長手方向の中央点より先端側にずれた位置に突設されている。係止部材46は、係合突起50の位置を境にして、基端側の長い部分46Lと、先端側の短い部分46Sとからなる。長い部分46Lは、短い部分46Sより重量が大きい。この構成により、設置対象へのボルト42の設置時に、容易に係止部材6を収納部48から突出させることができる。
係止部材46の先端部52の両角部には円弧状の面取り部54が形成されている。この面取り部54を形成する目的は、係止部材46が回動するときに、係止部材46の角部が収納部48の内面に干渉して回動が阻害されることを防止することである。係止部材46の回動時には、この面取り部54は、収納部48の先端側内面16に軽く摺動する。このボルト42の係止部材46は、時計回りにも反時計回りにも回転自在である。係止部材46を、その長い部分46Lがボルト42の先端側に位置し、短い部分46Sがボルト42の基端側に位置するように回転させうる。また、このボルト42では、係止部材46の両側縁部51のいずれもが、収納部48の先端側内面16に面接触することができ、設置対象の背面に面接触することができる。係止部材46の両側縁部51のいずれもが、前述した第一側縁部となり且つ第二側縁部となりうる。係止部材46の基端部53にも、面取り部が形成されてもよい。
収納部48の対向する両内側面56それぞれの対向する位置に、上記係合突起50が係合しうる、上記案内通路としての係合溝58が形成されている。係止部材46は、この係合溝58に沿って移動可能であり、係合突起50を中心とした回転が可能である。ボルト42をその中心軸回りに繰り返し回転させたとき、係止部材46の長い部分46Lが収納部48から突出する。この係止部材46は、図3(b)、(c)に示されると同様の姿勢となる。係合溝58の横断面はV字状を呈している。横断面は、V字状には限定されず、上記係合突起の形状に対応させるのがよい。例えば、係合突起が先端半球状の円柱状であれば、係合溝はU字状横断面であるのが好ましい。この係合溝58は、各面56の長手方向中心軸上に延びる縦溝58Vと、この縦溝58Vに直交して横方向に延びる横溝58Hを含んでいる。
図5に示されるとおり、本実施形態では、縦溝58Vは収納部48の内側面56の長手方向全長に亘って形成されている。横溝58Hは、収納部48の内側面56の幅方向全長に亘って形成されている。内側面56の長手方向における横溝58Hの形成位置は、収納部48の先端側内面60から、ほぼ係止部材46の長さだけ基端側に離間した位置とされている。横溝58Hから収納部48の基端側内面62までの離間距離は、係止部材46の幅の1/2より僅かに長くされている。従って、ボルト42を上下左右に動かした場合であっても、係止部材46が収納部48から簡単に脱落することが回避される。一方、以下の通り、係止部材46の収納部48への着脱が容易となる。
図8には、係止部材46を収納部48へ装着する手順が示されている。まず、係止部材46を横倒しにする(図8(a))。この姿勢の係止部材46を、ボルト本体44の収納部48に挿入する。このとき、係合突起50を横溝58Hに挿通して係合させる。横溝58Hは、係合突起50の縦溝58Vへの出入り口の役目を担う。次いで、係合突起50を縦溝58Vに係合させ、係止部材46を縦溝58Vに沿って下降させる(図8(b))。係止部材46を、その係合突起50回りに回転させて、縦向きにする(図8(c))。すなわち、係止部材46を収納部48内に収納する。係止部材46を収納部48から取り出す場合は、以上と逆の手順に沿えばよい。このボルト42では、係止部材46を異なる形状のものに変更することも容易である。
このボルト42では、係合突起50が係止部材46の両面49に突設され、係合溝58が収納部48の両内側面56に形成されている。しかし、かかる構成には限定されない、係合突起50は係止部材46の片面にのみ突設され、係合溝58は収納部48の片側内面にのみ形成されていてもよい。しかし、係止部材46のスムーズな移動及び回転のためには、係合突起50及び係合溝58ともに、両面に形成されているのが好ましい。
縦溝58Vの形成範囲は、収納部48の内側面56の全長には限定されず、横溝58Hの形成範囲は、収納部48の内側面56の全幅には限定されない。横溝58Hは直線状で無くてもよい。また、横溝58Hの形成方向は、縦溝58Vに直交する方向には限定されず、縦溝58Vと交差する方向であればよい。縦溝58Vの先端側端部は、収納部48の先端側内面60から係止部材46の幅の1/2の位置であってもよく、縦溝58Vの基端側端部は、横溝58Hの位置であってもよい。また、横溝58Hの形成範囲は、縦溝58Vの位置から収納部48のいずれか一方の横方向端部までであってもよい。すなわち、係合溝58の形状が、L字状、J字状等となる。しかし、係合溝58の形成を、図5に示される範囲とすれば、溝の形成は容易となる。また、係合溝58は、収納部48の内側面56に直接形成しなくてもよい。例えば、合成樹脂等から、成形によって上記係合溝が形成された薄板を、収納部48の内側面56に貼着してもよい。
図9及び図10には、さらに他のボルト64が示されている。このボルト64の、図1のボルト2との相違点は、係止部材68のボルト本体66への装着機構である。このボルト64では、係止部材68をボルト本体66の収納部70に装着するために、磁石が用いられている。このボルト64の、図1のボルト2との同一構成部分については、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。
このボルト64の係止部材68は、図5のボルト42の係止部材46と同様に、長方形の板状を呈しており、先端部72の両角部には円弧状の面取り部74が形成されている。
このボルト64では、そのボルト本体66及び係止部材68が磁性材料から形成されている。磁性材料としては、例えば、各種鉄鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼等が採用されうる。
上記装着機構として、磁石から形成された吸着部材76が用いられている。この吸着部材76は円板状を呈している。上記磁石には、磁石粉末が混練されたゴム、いわゆるゴム磁石等も含まれる。この吸着部材76の直径は、係止部材68の幅及び収納部70の内側面80の幅のいずれよりも小さくされている。
係止部材68の表裏両面78それぞれに、吸着部材76が固着されている。この係止部材68は、収納部70内に挿入されている。収納部70の間隔は、係止部材68の吸着部材76が固着された部分の厚さより僅かに大きい。係止部材68は、吸着部材76の磁力により、収納部70の内側面80に吸着している。従って、係止部材68は、重力程度の小さい外力では変位しない。
吸着部材76の中心位置は、係止部材68の面78の幅方向中央に一致した位置とするのが好ましい。吸着部材76の中心位置は、図9に示されるように、係止部材68の長手方向中央点から、先端側に変位した位置とするのが望ましい。かかる配置により、係止部材68には、吸着部材76の中心位置を境にして、基端側の長い部分68Lと先端側の短い部分68Sとが生じる。長い部分68Lは、短い部分68Sより重量が大きい。ボルト64をその中心軸回りに繰り返し回転させたとき、長い部分68Lが収納部70から突出する。この係止部材68は、図3(b)、(c)に示されると同様の姿勢となる。また、外力により、係止部材68を収納部70の長手方向に移動させることもできる。
このボルト64の係止部材68は、時計回りにも反時計回りにも回転自在である。係止部材68を、その長い部分68Lがボルト64の先端側に位置し、短い部分68Sがボルト64の基端側に位置するように回転させうる。また、このボルト64では、係止部材68の両側縁部79のいずれもが、収納部70の先端側内面81に面接触することができ、設置対象の背面に面接触することができる。係止部材68の両側縁部79のいずれもが、前述した第一側縁部となり且つ第二側縁部となりうる。しかも、係止部材68は交換が容易である。係止部材68の基端部73にも、面取り部が形成されてもよい。
吸着部材76の形状及び厚さは、図示のものに限定されない。係止部材68が収納部70内で移動及び回転ができる形状で有ればよい。しかし、前述の通り、吸着部材76は、係止部材68の幅及び収納部70の内側面80の幅のいずれよりも小さくされているのがよい。装着対象の貫通孔への干渉を防止し、また、ナット8の締め込み時に、吸着部材が他部材と干渉することを防止するためでもある。吸着部材76は、係止部材68の両面それぞれに装着されなくてもよい。係止部材68の片側の面にのみ一個の吸着部材76を設けてもよい。また、一個の吸着部材、例えば円柱状の吸着部材を、係止部材68を貫通してその両端部が係止部材68の両面に露出するように装着してもよい。
図11及び図12には、さらに他のボルト82が示されている。このボルト82の、図9のボルト64との相違点は、そのボルト本体84及び係止部材86が、非磁性材料から形成されている点である。この相違に伴い、係止部材86のボルト本体84への装着機構も異なっている。このボルト82の、図9のボルト64との同一構成部分については、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。上記非磁性材料としては、例えば、アルミニウム合金、銅合金、オーステナイト系ステンレス鋼、合成樹脂等が採用されうる。
上記装着機構として、磁性材料から形成された保持部材88、及び、磁石から形成された吸着部材90が用いられている。収納部92の対向内側面94には保持部材88が装着され、係止部材86の両外面96には吸着部材90が装着されている。この係止部材86は、収納部92内に挿入されている。係止部材86は、吸着部材90の磁力により、収納部92の内側面94の保持部材88に吸着している。従って、係止部材86は、重力程度の小さい外力では変位しない。
上記保持部材88は、帯状を呈している。保持部材88は、収納部92の対向する両内側面94それぞれの幅方向中央部を長手方向(ボルト本体84の軸方向)に延在している。保持部材88は、上記内側面94の長手方向全長に亘って延びている。しかし、かかる構成には限定されず、上記内側面94の先端側及び基端側の少なくとも一方において、係止部材86の幅の半分以下の長さの未設置範囲が有ってもよい。保持部材88の幅は、上記内側面94の幅の1/3程度にされているが、かかる寸法には限定されない。保持部材88は、上記内側面94に対し、スポット溶接、接着剤等によって固着することができる。
上記吸着部材90は円板状を呈している。吸着部材90を構成する磁石には、磁石粉末が混練されたゴム、いわゆるゴム磁石等も含まれる。吸着部材90は、係止部材86の表裏両面96それぞれの同一位置に、スポット溶接、接着剤等によって固着されている。吸着部材90は、図11に示されるように、表裏各面96の長手方向中心軸上であって、長手方向の中央点より先端側にずれた位置に固着されている。係止部材86には、吸着部材90の位置を境にして、基端側の長い部分86Lと先端側の短い部分86Sとが生じる。長い部分86Lは、短い部分86Sより重量が大きい。ボルト82をその中心軸回りに繰り返し回転させたとき、長い部分82Lが収納部92から突出する。この係止部材86は、図3(b)、(c)に示されると同様の姿勢となる。また、外力により、係止部材86を収納部92の長手方向に移動させることもできる。
このボルト82の係止部材86は、時計回りにも反時計回りにも回転自在である。係止部材86を、その長い部分86Lがボルト82の先端側に位置し、短い部分86Sがボルト82の基端側に位置するように回転させうる。また、このボルト82では、係止部材86の両側縁部97のいずれもが、収納部92の先端側内面98に面接触することができ、設置対象の背面に面接触することができる。係止部材86の両側縁部97のいずれもが、前述した第一側縁部となり且つ第二側縁部となりうる。しかも、係止部材86は交換が容易である。係止部材86の先端部99及び基端部100の両方に、面取り部74が形成されてもよい。
本実施形態では、保持部材88が磁性材料から形成され、吸着部材90が磁石から形成されている。しかし、かかる構成には限定されない。保持部材88が磁石から形成され、吸着部材90が磁性材料から形成されてもよい。
この吸着部材90の直径は、保持部材88の幅と同等の幅にされておればよい。吸着部材90の直径は、係止部材86の幅及び収納部92の内側面94の幅のいずれよりも小さくされる。保持部材88及び吸着部材90の設置は、いずれも二箇所には限定されない。保持部材88は、収納部92の一方の内側面94にのみ設けてもよく、吸着部材90は、係止部材86の片側の面96にのみ設けてもよい。また、一個の吸着部材、例えば円柱状の吸着部材を、係止部材86を貫通してその両端部が係止部材86の両面に露出するように装着してもよい。
図13には、さらに他のボルト102が示されている。このボルト102の、図1のボルト2との第一の相違点は、ボルト本体104の先端に、リーマー122付きのドリル刃120が設けられている点である。第二の相違点は、ボルト本体104の先端部近傍、及び、この先端部近傍から軸方向基端側に離間した部位の二箇所に、収納部10が設けられ、各収納部10に係止部材6が装着されている点である。このため、このボルト102のボルト本体104は、図1のボルト2のボルト本体4よりも長くされている。このボルト102の、図1のボルト2との同一構成部分ついてには、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。
このリーマー122付きのドリル刃120によれば、ボルト本体104の外径より大きい径の第二貫通孔H2が穿孔されうる。従って、梁202に予め第二貫通孔H2を形成しておく必要がない。このボルト102自身が、リーマー122付きのドリル刃120により、上板206及び下板212の両方に、ボルト本体104を挿通するための第二貫通孔H2を同軸状に穿孔し、且つ、その孔H2にスムーズに挿通されうる。ボルト本体104の先端にリーマー122付きのドリル刃120を設けるのは、2連の係止部材6を有するボルト102には限定されない。例えば、1個の係止部材を備えた、図1のボルト2、図5のボルト42、図9のボルト64、図11のボルト82、後述の図15のボルト110等の先端にドリル刃120を形成することは容易である。
図13に示されるように、上下の両係止部材6は、その形状、寸法及び構造が同一にされており、上下の両収納部10も、その形状、寸法及び構造が同一にされている。このボルト102では、図示のごとく、2個の係止部材6が、溝形鋼からなる梁202の上板206と下板212とにそれぞれ係止しうる。ボルト本体104の長さ、及び、二箇所の収納部10の位置は、装着対象の上板206と下板212との間隔に従って決定される。
このように、ボルト本体104が、その軸方向に離間した2箇所で、梁202等の装着対象に係止される。その結果、ボルト102に対する引っ張り荷重、及び、横荷重によるモーメント等に対する抗力が向上する。このボルト102では、ボルト本体104の基端側の係止部材6の位置から先端までは、雄ねじの形成は不要である。
梁202の上板206及び下板212の両方に予め第二貫通孔H2が形成されている場合は、ボルト先端のリーマー122付きドリル刃120は不要である。この場合、ボルト先端の形状を、図1のボルト2の先端形状と同一にしておけばよい。また、ボルト102に対する引っ張り荷重に対する抗力向上は不要で、横荷重によるモーメント等に対する抗力向上のみを要する場合、先端側の係止部材6及び収納部10は設けなくてもよい。
図14には、さらに他のボルト106が示されている。このボルト106も、そのボルト本体108の先端に、リーマー126付きのドリル刃124が設けられている。このボルト106の、図13のボルト102との第一の相違点は、ボルト本体108の先端側の外径が、基端側の外径より小さくされている点である。このために、ボルト本体108の、大径部と小径部との段差部に、貫通孔を拡径するための、リーマー128が設けられている。さらに、ボルト106の先端側を細くした結果、上記先端のリーマー126付きのドリル刃124の外径が、図13のボルト102のドリル刃の外径より小さくされている。第二の相違点は、ボルト106の先端側には係止部材とその収納部が形成されていないことである。すなわち、このボルト106には、基端側の係止部材6及び収納部10しか設けられていない。このボルト106の、図13のボルト102との同一構成部分ついてには、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。
このボルト106によれば、梁202に予め第二貫通孔H2及び第三貫通孔H3を形成しておく必要がない。ボルト本体108の先端のリーマー126付きドリル刃124により、上板206には第二貫通孔H2の下孔が穿孔され、下板212には第三貫通孔H3が穿孔される。また、リーマー128により、第二貫通孔H2の下孔が拡径されることにより、第二貫通孔H2が完成される。梁202の上板206及び下板212の両方に予め第二貫通孔H2及び第三貫通孔H3が形成されている場合は、ボルト先端のドリル刃124及び段差部のリーマー128は不要である。この場合、ボルト先端の形状を、図1のボルト2の先端形状と同一にしておけばよい。必要に応じて、ボルト106の先端側の細径部に収納部を形成し、そこに係止部材を装着することは容易である。
図13のボルト102及び図14のボルト106には、図1に示された収納部10及び係止部材6が設けられている。しかし、かかる構成には限定されない。上記ボルト102、106に、図5、図9、図11及び後述する図15に示されているような収納部48、70、92、及び、係止部材46、68、86、112を設けることは容易である。
図15には、さらに他のボルト110が示されている。このボルト110の、図5のボルト42との相違点は、係止部材112のボルト本体111への装着機構である。この係止部材112の外形及び収納部48の形状は、図5のボルト42のそれら46、48と同様である。係止部材112は長方形板状を呈している。このボルト110では、係止部材112の移動を案内するための案内通路として、図5の係合溝58に代えて、係合スリット114が採用されている。係合スリット114は、溝とは異なって、図示のごとくボルト本体111を貫通している。係合スリット114は、収納部48の両内側面56から外方に向けてボルト本体111を貫通している。このボルト110の、図5のボルト42との同一構成部分については、同一符号が付されて、その説明及びその作用の説明が省略される。
一方、係合スリット114に係合して案内される被案内突部として、図5の長さの短い係合突起50に代えて、長い係合ピン113が採用されている。係合ピン113は、係合スリット114内に挿通されている。この係合ピン113は、係止部材112の両面116に突設されている。本実施形態では、係合ピン113は、係止部材112の両面116それぞれの中央に突設されている。係合ピン113の突設方法としては、例えば、まず、係止部材112の中央部に図示しない貫通孔を形成しておく。この係止部材112を収納部48内に挿入する。次いで、僅かにテーパ状となっている係合ピン113を、係合スリット114を通して上記貫通孔に圧入して固定する。他の方法として、係合ピン113を接着剤によって係止部材112の面116に固着してもよい。また、必要に応じて、係合ピン113の一端又は両端を切断する。図示のごとく、係合ピン113の先端がボルト本体111の外周面近くに位置しているのは、この突設方法を採用した結果である。
係合スリット114は、ボルト本体111の中心軸に平行に延びている。係合スリット114は、収納部48の内側面56の幅方向中央部を長手方向に延びている。係合スリット114の長さ及び両端の位置は、図15(a)に示されるごとく、係止部材112をその係合ピン113回りにスムーズに回転させうる長さ及び位置に決定されている。
係合ピン113が、係止部材112の面116の中央に突設されているため、この係止部材112には、係合ピン113を境にした長い部分と短い部分とが生じない。しかし、係止部材112の角部に、面取り部54が形成されている。ボルト110を軸方向に繰り返し振ったり、軸回りに繰り返し回転させることにより、係止部材112は、係合ピン113回りに容易に回転しうる。その結果、係止部材112は、図15(a)に実線で示されるように、その側縁部115が、収納部48の先端側内面60に面接触しうる。
既に説明された図5、図9及び図11の各係止部材46、68及び86に対しても、かかる係止部材112の構成、すなわち、係止部材の中央部に被案内凸部が形成され、角部に面取り部が形成されている構成、を採用しうる。また、面取り部は、円弧状には限定されず、直線状であってもよい。本実施形態では、面取り部54は、係止部材112の全角部に形成されているが、一部の角部にのみ形成してもよい。また、上記係合ピン113を係止部材112の中央からずれた位置に形成することにより、係止部材112に長い部分と短い部分とを生じさせてもよい。
図15に示された装着機構によっても、係止部材112の両側縁部115のいずれもが、収納部48の先端側内面60に面接触することができ、設置対象の背面に面接触することができる。係止部材112の両側縁部115のいずれもが、前述した第一側縁部となり且つ第二側縁部となりうる。
本実施形態では、係合ピン113が係止部材112の両面116に突設されている。しかし、かかる構成には限定されず、係合ピン113は、係止部材112の一方の面116にのみ突設されてもよい。この場合、係合スリット114は、収納部48の一方側の内側面56にのみ形成されてもよい。