以下、本発明に係るモータ制御装置のいくつかの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、各実施形態の説明において、共通する構成には、同じ参照番号を付与することにより、説明を省略する場合がある。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態におけるモータ制御装置60の構成を概略的に示す図である。なお、本実施形態では、モータ40は、車両において、燃料タンクに貯留された燃料を汲み上げて、燃料噴射装置へ供給する燃料ポンプを駆動するために用いられる。そのため、燃料ポンプ及びモータ40は、燃料タンク内に設置され、燃料に含浸される。このような理由から、モータコントローラ10と、モータ40とは別体として設けられている。
モータ40は、回転磁界を発生するため複数相のステータコイルを含むステータ部と、その回転磁界により回転するロータ部とを有し、これらステータ部とロータ部とが、金属製筐体41の内部に収容されている。このモータ40として、例えばブラシレスモータを採用することができる。さらに、ブラシレスモータとして、例えば、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)などの3相の永久磁石同期モータを用いることができる。ただし、モータ40は、3相以外の多相のステータコイルを備えたものであっても良い。
また、モータ40は、図2に示すように、3相のステータコイルがスター結線されたものであっても良いし、図3に示すように、3相のステータコイルがデルタ結線されたものであっても良い。スター結線、デルタ結線に係わらず、各相のステータコイルは、それぞれ、浮遊容量を介してモータの金属製筐体41と結合している。このため、各相のステータコイルの電位が変動した場合、その変動した電位がモータの金属製筐体41の電位に影響を与える。その結果、モータの金属製筐体41は、変動している各相のステータコイルの電位のほぼ平均値に相当する電位となる。
モータ40は、負荷線30を介して、モータコントローラ10のインバータ回路13と接続される。負荷線30は、シールド線であって、ハーネス部と、図示しないコネクタ部とからなる。コネクタ部はハーネス部の両端にそれぞれ設けられている。そして、それぞれのコネクタ部をモータコントローラ10及びモータ40に接続することで、モータコントローラ10とモータ40とが負荷線30を介して電気的に接続される。
より具体的には、負荷線30のハーネス部は、その内部に芯線として、U相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33を有している。これらのU相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33が、それぞれ、モータ40のステータ部の各相のステータコイル(U相ステータコイル、V相ステータコイル、W相ステータコイル)に接続される。そして、負荷線30には、それらU相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33の周囲を覆うように、絶縁材料を介して、導電性被膜34が設けられている。この導電性被膜34の外周には、さらに、絶縁性被膜が形成されている。
負荷線30の導電性被膜34は、一方のコネクタ部がモータ40に接続されたときに、接続線35を介して、モータ40の金属製の筐体に電気的に接続される。また、他方のコネクタ部がモータコントローラ10に接続されたとき、接続線36を介して、モータコントローラ10の燃料ポンプモータグランド(FPG)端子に電気的に接続される。なお、モータコントローラ10も金属製の筐体を有するが、負荷線30の導電性被膜34に接続された接続線36は、そのモータコントローラ10の金属製筐体に電気的に導通することなく、FPG端子を介して、直接、モータコントローラ10内の回路部のグランド線22に接続される。
モータコントローラ10において、図1及び図5に示すように、FPG端子とグランド線22との間には、AC結合手段としてのコンデンサ16が挿入されている。これにより、モータ40の筐体41の電位変動が生じたときに、その電位変動に基づいて変化するコモンモード電流(交流成分)が、コンデンサ16を通過して、グランド線22に流れ込む。グランド線22は、アース線4を介して車両のボデーにボデーアースされている。また、モータコントローラ10の金属製の筐体は、アース線4とは別個のアース線3により、車両のボデーにボデーアースされている。
また、図5に示すように、コンデンサ16と並列に、FPG端子とグランド線22との間に、抵抗17とツェナーダイオード18とが接続されている。従って、コンデンサ16だけでは、電流の直流成分を流さないため、モータ40の金属製筐体41が所定電位に帯電する虞があるが、ツェナーダイオード18により、所定電圧以上の電位に帯電することを防止することができる。
さらに、上述したように、本実施形態では、負荷線30の導電性被膜34を利用して、モータ40の金属製筐体41をモータコントローラ10のグランド線22に接続するよう構成されている。このように、負荷線30には、芯線としてのU相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33に加えて、モータ40の金属製筐体41をグランド線22に接続する接続配線の一部として利用される導電性被膜34も設けられている。そのため、負荷線30に負荷がかかった場合など、芯線と導電性被膜34とが短絡する可能性も考慮する必要がある。この点に関して、本実施形態では、抵抗17がコンデンサ16と並列に設けられている。このため、万一、U相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33のいずれかと導電性被膜34とが短絡したとしても、導電性被膜34からグランド線122へと過大な電流が流れることを防止することができる。
モータコントローラ10は、図1及び図5に示すように、主として、異常検出部12を備えた制御部11、インバータ回路13、位置検出回路14、及び切替回路としての切替スイッチ15を有する。インバータ回路13は、図5に示すように、モータ40のU相ステータコイル、V相ステータコイル、W相ステータコイルに対応して、それぞれ車載バッテリ1とグランド(ボデーアース)との間で直列接続された3対のスイッチング素子を有している。なお、車載バッテリ1のマイナス端子は、アース線2を介してボデーアースされている。そして、それぞれ対となるスイッチング素子の接続点が、U相端子、V相端子、及びW相端子を介して、負荷線30のU相電流線31、V相電流線32、及びW相電流線33に接続され、ひいてはモータ40の各相のステータコイルに接続されている。
モータコントローラ10の制御部11は、インバータ回路13の各スイッチング素子に対して操作信号を出力する。具体的には、制御部11は、3対のスイッチング素子の内、所定の組み合わせの高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とを同時にオンさせつつ、そのオンさせる高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子の組み合わせを切り替えるように操作信号を出力する。その結果、所定の組合せの順序で、車載バッテリ1からモータ40の各相のステータコイルに駆動電流が通電され、モータ40の回転子を回転させるための回転磁界が発生される。
このように、インバータ回路13の各スイッチング素子が操作信号に従ってスイッチングされると、順番にモータ40の各相のステータコイルに電流が通電される。この電流の通電により、各相のステータコイルにおける電位が変動する。このような電位変動が生じると、図4に示すように、モータ40のステータコイルと金属製筐体41との間の浮遊容量を介して、電流がモータ40の金属製筐体41に漏洩して、コモンモード電流となる。なお、図4は、インバータ回路13の任意の組み合わせの高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とが同時にオンされて、対応するモータ40のステータコイルに駆動電流が流れる場合の、等価回路を示している。
モータ40の金属製筐体41に漏洩したコモンモード電流は、金属製筐体41から、接続線35、負荷線30の導電性被膜34,及び接続線36を介して、モータコントローラ10のグランド線22に流れ込む。従って、インバータ回路13における各スイッチング素子のスイッチング動作によって生じた駆動電流に基づくコモンモード電流の導通経路は、インバータ回路13→負荷線30の芯線→モータ40→モータ40の金属製筐体41→負荷線30の導電性被膜34→インバータ回路13というループを描くことになる。つまり、図4の等価回路に示すように、インバータ回路13を電源とみなした場合、コモンモード電流は、負荷線30の芯線によるインピーダンスZ1、モータ40のステータコイルによるインピーダンスZ2、浮遊容量によるインピーダンスZ3、負荷線30の導電性被膜34によるインピーダンスZ4、及びコンデンサ16などによるインピーダンスZ5を持つ閉回路を還流する。
この際、コモンモード電流は、モータコントローラ10の筐体に漏洩することなく、直接、モータコントローラ10のインバータ回路13に還流される。この結果、コモンモード電流は、図4に示すように、モータコントローラ10のインバータ回路13とモータ40(金属製筐体41含む)との間を還流するだけとなる。このため、モータ40とモータコントローラ10とを別体とした場合において、コモンモード電流が流れる経路のループ面積を極力小さくすることができ、コモンモード電流によるノイズを効果的に低減することが可能となる。従って、図4に示すように、車両にラジオ放送やテレビ放送などを受信するためのアンテナが設けられている場合であっても、ラジオノイズの発生源となることを抑制することができる。
なお、上述したように、モータコントローラ10の筐体は、グランド線22に接続されるアース線4とは独立して、アース線3により、車両のボデーにボデーアースされている。このように、モータコントローラ10とその筐体とのボデーアースを別経路で行っているので、コモンモード電流がモータコントローラ10の筐体を流れることをより確実に防止することができる。
また、上述したように、本実施形態では、モータ40の金属製筐体41を、モータコントローラ10のグランド線22に接続するための接続配線として、負荷線30の導電性被膜34を利用している。このため、接続配線専用の配線を別途設ける必要が無い。さらに、モータ40内の実際の中点電位を取り出すための配線も不要であるため、モータコントローラ10は、簡単な構成で、モータの筐体電位を簡単に取り込むことが可能である。
次に、本実施形態の特徴的な構成である、位置検出回路14、切替スイッチ15などについて説明する。
本実施形態のモータコントローラ10の位置検出回路14は、モータ40の各相のステータコイルにおいて、駆動電流が流れていない空きコイルに誘起される誘起電圧からモータ40(ロータ部)の回転位置を検出するように構成されている。そのため、図5に示すように、インバータ回路13とU相端子とを接続する電流線から分岐する分岐線25、インバータ回路13とV相端子とを接続する電流線から分岐する分岐線26、及びインバータ回路13とW相端子とを接続する電流線から分岐する分岐線27が、位置検出回路14に接続されている。これらの分岐線25〜27によって、位置検出回路14は、各相のステータコイルの誘起電圧を取り込むことができる。
位置検出回路14は、分岐線25から枝分かれする配線に一端が接続された抵抗RU2、分岐線26から枝分かれする配線に一端が接続された抵抗RV2、及び、分岐線27から枝分かれする配線に一端が接続された抵抗RW2を有している。これらの抵抗RU2、RV2、RW2は同じ抵抗値を有しており、それぞれの抵抗RU2、RV2、RW2の他端は、共通の配線に接続されている。すなわち、これらの抵抗RU2、RV2、RW2はスター結線されている。そのため、各抵抗RU2、RV2、RW2の他端が接続される共通配線には、各ステータコイルの中点電位に相当する電圧が生じる。この共通配線は、切替スイッチ28を介して、各相の比較器CPU、CPV、CPWの一方の入力端子に接続されている。従って、各相の比較器CPU、CPV、CPWの一方の入力端子には、基準電圧として、各相のステータコイルの中点電位に相当する電圧が入力される。
一方、U相の比較器CPUの他方の入力端子には、分岐線25が抵抗RU1を介して接続されている。同様に、V相の比較器CPVの他方の入力端子には、分岐線26が抵抗RV1を介して接続され、W相の比較器CPWの他方の入力端子には、分岐線27が抵抗RW1を介して接続されている。このため、各相の比較器CPU、CPV、CPWでは、各相のステータコイルの誘起電圧と中点電位に相当する電圧との比較が行われ、いわゆるゼロクロス点が生じたとき、判定結果が反転するようになっている。
信号生成部29は、各比較器CPU、CPV、CPWからの比較結果を入力し、それらの比較結果に基づいて、モータ40のロータ部が通電相を切り替えるべき回転位置に達するごとに立ち上り、もしくは立ち下がる位置検出信号(ゼロクロス信号)を生成する。生成されたゼロクロス信号は制御部11に与えられる。
上述した切替スイッチ28は、異常検出部12からの切替信号に従って、各相の比較器CPU、CPV、CPWの一方の入力端子に入力される基準電圧を、各相のステータコイルの中点電位に相当する電圧から、モータ40の筐体電位へと切り替えるものである。各相のステータコイルへのいずれの通電経路にも断線異常が発生していない場合、異常検出部12は、各相のステータコイルの中点電位に相当する電圧が基準電圧として各相の比較器CPU、CPV、CPWに与えられるように切替スイッチ28を初期状態に設定する。しかし、異常検出部12は、各相のステータコイルへの通電経路のいずれかに断線異常が発生したことを検出すると、モータ40の筐体電位が基準電圧として各相の比較器CPU、CPV、CPWに与えられるように切替信号により切替スイッチ28を切り替える。
また、異常検出部12は、各相のステータコイルへの通電経路のいずれかに断線異常が発生したことを検出すると、切替スイッチ28への切替信号の出力と同時に、切替スイッチ15にも切替信号を出力する。
切替スイッチ15は、導電性被膜34、FPG端子などを介して、モータコントローラ10内に取り込まれるモータ40の筐体電位の接続先を、モータコントローラ10の回路部のグランド線22とするか、上述した切替スイッチ28とするかを切り替えるものである。各相のステータコイルへのいずれの通電経路にも断線異常が発生していない場合、切替スイッチ15は、初期状態として、モータ40の筐体電位の接続先を、モータコントローラ10の回路部のグランド線22とするように設定されている。これにより、上述した通り、コモンモード電流によるノイズの抑制を図ることができる。
図6のタイミングチャートには、各相のステータコイルへのいずれの通電経路にも断線異常が発生していない場合の、モータ40(ロータ部)の回転位置の検出原理が示されている。この場合、図6に示されるように、位置検出回路14において、各相の比較器CPU、CPV、CPWでは、空きコイルとなっている各相のステータコイルの誘起電圧と中点電位に相当する電圧との比較が行われて、比較結果に応じたレベルの信号が出力される。これら各相の比較器CPU、CPV、CPWの比較結果に基づいて、信号生成部29が位置検出信号(ゼロクロス信号)を生成することにより、位置検出が行われる。
この際、図6に示されるように、モータ40の筐体電位は、モータコントローラ10のグランド線22に接続されているので、モータ40の筐体電位の変動が抑制されている。
ここで、いずれかのステータコイルへの通電経路に断線異常が生じると、分岐線25〜27に抵抗RU2、RV2、RW2をスター結線することによって生成した中点電位に相当する電圧が、本来の中点電位からずれてしまう可能性がある。各比較器CPU、CPV、CPWに基準電圧として入力される電圧が、本来の中点電位からずれてしまうと、信号生成部29は、モータ40の実際の回転位置に応じた回転検出信号を生成することができなくなり、その結果、他のステータコイルの通電経路が正常であっても、モータ40を継続して駆動することができなくなってしまう。
その点、本実施形態においては、異常検出部12は、各相のステータコイルへの通電経路のいずれかに断線異常が発生したことを検出すると、切替信号により、モータ40の筐体電位の接続先を切替スイッチ28とするように切替スイッチ15を切り替える。さらに、異常検出部12は、モータ40の筐体電位が基準電圧として各相の比較器CPU、CPV、CPWに与えられるように切替スイッチ28を切り替える。これにより、切替スイッチ15、28を介して、モータの筐体電位が、基準電圧として、各比較器CPU、CPV、CPWの一方の入力端子に供給される。
図7のタイミングチャートには、基準電圧として、モータ40の筐体電位を用いた場合の、モータ40の回転位置の検出原理が示されている。なお、図7には、U相の高電位側の通電経路に断線異常が発生した場合(例えば、高電位側スイッチング素子のオープン故障など)の各部の波形が示されている。この場合、モータ40の筐体電位の接続先は、切替スイッチ15、28によりグランド線22から位置検出回路14に切り替えられる。このため、筐体電位の変動自体は大きくなっている。しかしながら、モータ40の筐体41には、通電経路が断線しても、各相のステータコイルの電位のほぼ平均値に相当する電位が現れる。従って、この筐体電位を各層のステータコイルの電位と比較する基準電圧として用いることにより、断線異常が発生していない場合と同等の位置検出信号を得ることができる。
制御部11は、位置検出回路14から入力された位置検出信号の立ち上り、及び立ち下がりのタイミングで通電相が切り替えられるように、操作信号を生成して出力する。この操作信号は、PWM信号であり、PWM信号のデューティ比により、モータ40に通電される駆動電流の大きさを制御することが可能である。例えば、駆動電流が大きくなるとモータトルクが高くなるので、モータ40の回転数は増加する。逆に、駆動電流が小さくなると、モータ40の回転数は減少する。このように、PWM信号のデューティ比により、モータ40の回転数を制御することができる。
図1に示すように、モータコントローラ10は、例えば車内LANを介して上位ECU50と接続されている。このため、モータコントローラ10は、CAN(登録商標)プロトロルやLINプロトコルなどの通信プロトコルに従って相互に通信を行うことが可能である。上位ECU50は、モータ40の制御に関する目標値を決定し、通信により、その目標値をモータコントローラ10に与える。
例えば、上位ECU50は、車両のエンジンの運転状態、運転負荷などに基づき、燃料ポンプから燃料噴射装置に供給すべき燃料の燃料圧を算出し、その燃料圧を達成するためのモータ40の目標回転数を定める。そして、上位ECU50は、算出した目標回転数をモータコントローラ10に与える。すると、モータコントローラ10の制御部11は、モータ40の回転数を目標回転数に一致させるための操作信号を生成し、インバータ回路13に出力する。このようにして、モータ40の回転数が目標回転数に一致するように、回転制御が行われる。
次に、制御部11の異常検出部12について説明する。異常検出部12は、モータの駆動制御の開始前や、所定時間毎に、各相のステータコイルへの通電経路に断線異常が生じていないかを検出する。例えば、異常検出部12は、断線異常を検出するため、全ての通電パターンで各相のステータコイルへ電流が通電されるように、同時にオンする高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とを、順番に切り替えていく。
その際、高電位側スイッチング素子を介して流れる電流の大きさを測定するために、図5に示されるように、車載バッテリ1とインバータ回路13とを接続する電源線19に高電位側シャント抵抗20が設けられている。この高電位側シャント抵抗20の下流側の一端が、接続線21を介して、制御部11に接続されている。このため、制御部11の異常検出部12は、通電パターンごとに、高電位側シャント抵抗20の端子電圧に基づいて、高電位側の通電経路に電流が流れているか否かを検出することができる。また、低電位側スイッチング素子を介して流れる電流の大きさを測定するために、インバータ回路13とGND端子とを接続するグランド線22に低電位側シャント抵抗23が設けられている。この低電位側シャント抵抗23の上流側の一端が、接続線24を介して、制御部11に接続されている。このため、制御部11の異常検出部12は、通電パターンごとに、低電位側シャント抵抗23の端子電圧に基づいて、低電位側の通電経路に電流が流れているか否かを検出することができる。
なお、シャント抵抗20、23及び接続線21、24は、高電位側と低電位側とのどちらか一方だけに設けても良い。また、シャント抵抗20、23を設けずに、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子のオン抵抗に応じた電位に基づいて、通電経路に電流が流れているか否かを検出することも可能である。
例えば、U相ステータコイル→V相ステータコイル、及びU相ステータコイル→W相ステータコイルへの通電パターンにおいて通電経路に電流が流れていないことが検出されたとする。しかし、それ以外の通電パターン(V相→U相、V相→W相、W相→U相、W相→V相)では通電経路に電流が流れていることが検出されたとする。この場合、異常検出部12は、U相の高電位側の通電経路に断線異常が発生したことを検出する。
また、例えば、U相ステータコイルを含むすべての通電パターンにおいて通電経路に電流が流れていないことが検出された場合、異常検出部12は、U相の電流線31に断線異常が発生したことを検出する。
なお、上述した断線異常の検出手法は単なる例示にすぎず、いずれかの通電経路の断線異常を検出するために、他の公知の断線検出手法を適用しても良い。
次に、制御部11及び異常検出部12によって実行される制御処理について、図8及び図9のフローチャートを参照して説明する。なお、図8のフローチャートに示す処理は、車両のIGスイッチがオンされると開始される。
処理が開始されると、まずステップS100において、断線異常の検出処理が行われる。続くステップS110では、ステップS100の検出処理において、いずれかのステータコイルの通電経路において断線異常が検出されたか否かを判定する。この判定処理において、断線異常が検出されなかったと判定すると、ステップS120の処理に進む。一方、断線異常を検出したと判定すると、ステップS130の処理に進む。
ステップS120では、制御部11は公知のセンサレスモータ制御を実行する。すなわち、停止しているモータを強制起動し、モータの回転数が空きコイルの誘起電圧を検出可能な回転数まで上昇すると、誘起電圧に基づくセンサレス駆動に移行する。この際、異常検出部12は、切替スイッチ15、28を図5に示す初期状態に保持している。このため、空きコイルの誘起電圧は、各ステータコイルの中点電位に相当する電圧と比較され、また、モータ40の筐体電位はモータコントローラ10のグランド線22に接続される。
一方、ステップS130では、制御部11は断線異常時制御を実行する。この断線異常時制御を、図9のフローチャートを参照して説明する。
まずステップS200において、断線箇所の特定が行われる。続くステップS210では、切替スイッチ15、28に切替信号を出力して、各比較器CPU、CPV、CPWの一方の入力端子に入力される基準電圧を、モータ40の筐体電位に切り替える。そして、ステップS220において、ステップS200で特定した断線箇所に基づき、断線箇所を除く通電パターンにて、モータの駆動制御を継続して実行する。例えば、上述したように、U相の高電位側に断線異常が発生した場合には、このU相の高電位側を除く通電パターン(V相→U相、V相→W相、W相→U相、W相→V相)にてモータの駆動制御が行われる。また、U相の電流線などが断線し、U相の高電位側及び低電位側ともに電流が通電できない場合には、断線箇所を除く通電パターンは、V相→W相、W相→V相となる。
なお、各相のステータコイルのいずれかの通電経路において断線異常が発生した場合、燃料ポンプを駆動するモータを正常駆動することができない状態となるため、この状態を車両の走行を司る制御装置(例えばエンジンECU、トランスミッションECU等)へ伝達し、当該制御装置が、いわゆるリンプホーム制御を行うようにしても良い。
また、各相のステータコイルのいずれかの通電経路に断線異常が発生した場合には、モータ40の回転数、電流値、電圧値などに上限値を設定するようにしても良い。断線異常の発生時に、モータ40の出力性能を抑制することで、モータ40の駆動の安定的な継続に寄与することができるためである。
以上、説明したように、本実施形態によるモータ制御装置60によれば、ステータコイルのいずれかの通電経路に断線異常が発生した場合に、モータ40の筐体の電位を用いてモータの回転位置を検出する。いずれかのステータコイルの通電経路に断線異常が生じても、モータ40の筐体41には、各ステータコイルへの印加電圧や誘起電圧による電位変動に応じた電位が生じる。そのため、いずれかのステータコイルの通電経路に断線異常が生じた場合でも、モータ40の筐体41の電位を用いることでロータ部の回転位置の検出が可能となり、その検出した回転位置に基づきモータ40を継続して駆動することが可能となる。また、モータ40の筐体電位の場合、モータコントローラ10は、モータ内配線を用いることなく簡単に取り込むことが可能である。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態におけるモータ制御装置について説明する。図10は、第2実施形態におけるモータ制御装置のモータコントローラ110の構成を示す図である。
図10に示すように、第2実施形態では、2つの位置検出回路114、116が設けられている。位置検出回路114は、第2の位置検出回路として、第1実施形態の位置検出回路14と同様に、各相のステータコイルの誘起電圧と、各相のステータコイルの電圧から生成される中点電位に相当する電圧との比較結果から、位置検出信号を出力するものである。一方、位置検出回路116は、第1の位置検出回路として、モータ40の筐体41の電位を、所定の基準電位と比較した比較結果から、回転位置信号を出力するものである。そのため、位置検出回路116は、基準電圧を生成するための直列接続された抵抗R1、R2と、基準電圧と筐体電位とを比較する比較器CP、及び比較器CPでの比較結果から位置検出信号を生成する信号生成部117を備えている。
モータ40の筐体電位は、モータ40の回転に応じて変動する変動成分を含むので、直列抵抗R1、R2によって生成された基準電圧との比較結果から、ロータの回転位置を示す回転位置信号を生成することができる。
本実施形態では、切替スイッチ115は、モータ40の筐体電位の接続先を、モータコントローラ110内のグランド線22から、位置検出回路116に切り替えるものとなっている。また、位置検出回路114内に切替スイッチは設けられておらず、代わりに、制御部11に取り込む位置検出信号を、位置検出回路114の位置検出信号から、位置検出回路116の位置検出信号に切り替える切替スイッチ118が設けられている。切替スイッチ115、118は、いずれも、異常検出部112が各相のステータコイルのいずれかの通電経路に断線異常の発生を検出したとき、異常検出部112からの切替信号によって切り替えられる。
上述した第2実施形態のモータ制御装置によっても、第1実施形態のモータ制御装置と同様に、いずれかのステータコイルの通電経路に断線異常が生じた場合でも、モータ40の筐体41の電位を用いることでロータ部の回転位置の検出が可能となり、その検出した回転位置に基づきモータ40を継続して駆動することが可能となる。
図11は、位置検出回路116によるモータ40の回転位置の検出原理を示したタイミングチャートである。なお、図11にも、U相の高電位側の通電経路に断線異常が発生した場合(例えば、高電位側スイッチング素子のオープン故障など)の各部の波形が示されている。
この場合、モータ40の筐体電位の接続先は、切替スイッチ115によりグランド線22から位置検出回路116に切り替えられる。このため、モータ40の筐体電位の変動は大きくなっている。この変動するモータ40の筐体電位が、比較器CPにおいて所定の基準電圧と比較される。すると、図11に示すように、各ステータコイルの誘起電圧と基準電圧とを比較した場合のゼロクロス点と同様のタイミングでゼロクロス点が発生し、第1実施形態と同様の位置検出信号を生成することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態におけるモータ制御装置について説明する。図12は、第3実施形態におけるモータ制御装置のモータコントローラ210の構成を示す図である。
図12に示すように、第3実施形態では、第1実施形態と同様に1つの位置検出回路214しか設けられていない。しかしながら、3つの切替スイッチ215、228、230を設けることにより、第2実施形態と同様に、いずれかのステータコイルの通電経路に断線異常が生じた場合、位置検出回路214が、モータ40の筐体41の電位と所定の基準電位との比較結果から回転位置信号を出力できるように構成されている。以下、この点について詳しく説明する。
まず、切替スイッチ215は、モータ40の筐体電位の接続先を、モータコントローラ210のグランド線22から切替スイッチ230に切り替え可能となっている。切替スイッチ230は、U相比較器CPUの他方の入力端子に入力される測定電圧を、分岐線25によるU相ステータコイルの電圧からモータ40の筐体電位に切り替え可能となっている。さらに、切替スイッチ228は、U相比較器CPUの一方の入力端子に入力される基準電圧を、各ステータコイルの中点電位に相当する電圧から直列抵抗R1、R2により生成される所定の基準電圧に切り替え可能となっている。
異常検出部212は、各相のステータコイルのいずれかの通電経路に断線異常が発生したことを検出すると、それぞれの切替スイッチ215、228、230に切替信号を出力する。すると、位置検出回路214では、U相比較器CPUに関して、U相のステータコイル電圧と中点電位に相当する電圧とを比較していた状態から、モータ40の筐体電位と所定の基準電位とを比較する状態に切り替わる。この切り替わり後の状態において、信号生成部229は、比較器CPUの比較結果だけに基づいて、位置検出信号を生成する。
このような構成により、1つの位置検出回路214しか設けていないにも係わらず、第2実施形態と同様に、いずれかのステータコイルの通電経路に断線異常が生じた場合には、モータ40の筐体電位と所定の基準電圧との比較結果に基づく位置検出信号を生成することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
例えば、上述した各実施形態では、切替スイッチ15、115、215を備え、モータ40の筐体電位の接続先を、モータコントローラ10、110、210のグランド線22と、位置検出回路14、116、214とのいずれかに切り替え可能とした。しかしながら、切替スイッチ15、115、215及びコンデンサ16、抵抗17、ツェナーダイオード18を省略し、モータ40の筐体電位は、常に、位置検出回路14、116、214に接続されるものとしても良い。
また、上述した各実施形態では、本発明によるモータ制御装置が燃料ポンプを駆動するモータ40を制御するために用いられる例について説明したが、本発明によるモータ制御装置は他の用途に用いられるモータの制御に適用されても良い。例えば、エアコン装置における電動圧縮機のモータを制御するために用いても良いし、ディーゼルエンジンにおいて排ガス浄化のために尿素水を使用する場合に、その尿素水を組み上げるポンプを駆動するモータを制御するために用いても良い。さらには、エンジンルームに配されるファンを駆動するモータを制御するために用いても良い。つまり、モータ40が厳しい環境条件に置かれ、モータコントローラ10をモータ40と一体化することが困難であって、モータコントローラ10とモータ40とを別体とする場合には、本発明のモータ制御装置を用いることが好適である。