以下、図面とともに本発明の実施形態について詳述する。
図1に一実施形態として説明する地盤変位観測システム1の概略的な構成を示している。同図に示すように、地盤変位観測システム1は、水力発電所の関連設備(導水路や貯水槽、水圧鉄管等)や送電鉄塔が建設される山間部の傾斜面等、屋外の所定範囲(以下、観測エリア2と称する。)における地盤変位を観測(計測)するシステムである。
地盤変位観測システム1は、観測エリア2に面的に配設され、計測値を含む無線信号(後述の計測データ500)を随時送信する複数のセンサノード10、観測エリア2内もしくは観測エリア2の近傍に設置され、センサノード10と無線通信するゲートウェイ装置20、システムセンタやクラウド等に設けられ、ゲートウェイ装置20と有線方式又は無線方式の通信網5(インターネット、携帯通信網、専用線等)を介して通信するサーバ装置30、電力会社の事業所等に設置され、通信網5を介してサーバ装置30にアクセスするユーザ端末40を含む。
図2にセンサノード10の主な構成を示している。同図に示すように、センサノード10は、制御装置11、無線装置12、温度センサ13、傾斜センサ15、蓄電池17、及び太陽電池18を備える。制御装置11、無線装置12、温度センサ13、及び傾斜センサ15は、各種制御線(I2C(Inter-Integrated Circuit)、SPI(Serial Peripheral Interface)、USB(Universal Serial Bus)等)を介して通信可能に接続されている。
制御装置11は、センサノード10の各構成の統括的な制御、温度センサ13や傾斜センサ15が出力する計測値の取得、計測値を含んだ無線信号の送信制御、ゲートウェイ装置20との間の通信制御等を行う。
無線装置12は、ゲートウェイ装置20や他のセンサノード10の無線装置12と無線通信を行う。無線装置12は、例えば、特定小電力無線局(315MHz帯、426MHz帯、1200MHz帯、920MHz帯等)、小電力無線局(2.4GHz帯等)、近距離無線通信(Zigbee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、無線LAN、電子タグ等)、微弱な無線局等として機能する。尚、無線装置12は、ゲートウェイ装置20と直接通信するものであってもよいし、センサネットワーク機能やアドホック機能等により他の無線装置12を介して間接的にゲートウェイ装置20と通信するものであってもよい。
温度センサ13は、温度に応じた電気信号を出力する素子(測温抵抗体(サーミスタ等)、熱電対、赤外線検出素子等)を用いて構成される。温度センサ13は、センサノード10における温度(センサノード10周辺の外気温、傾斜センサ15が取り付けられている基台の温度等)を計測する。
傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)(1軸又は2軸)に応じた電気信号(例えば、傾斜角に応じた大きさのアナログ電圧)を出力する素子を用いて構成され、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を応用したもの、板ばねを用いた振り子式のもの、フロート式(錘と浮きを併用したハイブリッド機構)のもの等がある。本実施形態の傾斜センサ15は、傾斜角を2軸で検出するタイプであるものとする。
蓄電池17は、二次電池(リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池等)であり、センサノード10の構成要素を動作させるための駆動電力を供給する。
太陽電池18は、太陽電池パネルや充電制御装置(チャージコントローラ)を備え、太陽電池パネルの発電電力を蓄電池17に供給する。尚、太陽電池18に代えて、もしくは太陽電池18とともに、蓄電池17に電力を供給する他の自然エネルギー利用の発電設備(風力発電設備等)をセンサノード10に設けてもよい。自然エネルギー利用の発電設備を用いることでセンサノード10を長期に亘って安定して動作させることができる。
図3に制御装置11のハードウェアを示している。同図に示すように、制御装置11は、中央処理装置111、記憶装置112、及び計時装置113を備える。
中央処理装置111は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)等である。記憶装置112は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non Volatile RAM)等である。
計時装置113は、RTC(Real Time Clock)等を用いて構成され、現在日時を示す情報を出力する。計時装置113が計時する日時と後述するゲートウェイ装置20の計時装置23が計時する日時とは、ゲートウェイ装置20と制御装置11との間の無線通信により随時同期が取られる。
図4に制御装置11の機能及び制御装置11が記憶する情報を示している。同図に示すように、制御装置11は、計測処理部411、計測データ送信部412、及び消費電力/計測時期制御部413の各機能を有する。これらの機能は、制御装置11の中央処理装置111が、記憶装置112に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
計測処理部411は、計測値の計測時機が到来すると、温度センサ13又は傾斜センサ15から計測値(温度、傾斜角)を取得し、取得した計測値を計測データ送信部412に渡す。後述するように、計測処理部411は、例えば、異なる温度の夫々ついて、温度が所定時間以上一定であることを検知したときの傾斜角を取得する。
計測データ送信部412は、計測処理部411から渡された計測値を含むデータである計測データ500をゲートウェイ装置20に向けて送信する。
図5に計測データ500のフォーマットを示している。同図に示すように、計測データ500は、送信元のセンサノード10を特定する識別子であるノードID511、計測値512、及び計測値512を取得した日時である計測日時513等の情報を含む。ノードID511には、制御装置11が記憶している図4のノードID421が設定される。計測値512には、温度センサ13の出力値や傾斜センサ15の出力値が設定される。尚、計測データ500の各項目は必ずしも全てが一度に送信されなくてもよく、ノードID511と他の一つ以上の項目との組合せが個別に送信される構成としてもよい。
図4に戻り、消費電力/計測時期制御部413は、センサノード10の構成要素のうち駆動電力を必要とする構成(例えば、制御装置11、無線装置12、傾斜センサ15等)を制御対象として消費電力の制御を行う。この消費電力制御は、例えば、計測処理部411による単位時間当たりの計測値512の取得回数(単位時間当たりのサンプリング数)の増減、制御対象についてのスタンバイモードへの移行や機能停止等により行われる。消費電力/計測時期制御部413は、例えば、ゲートウェイ装置20から送られてくる消費電力の制御を指示する命令(以下、制御指示600と称する。)に従い、制御対象について消費電力の制御を行う。
また消費電力/計測時期制御部413は、計測データ(温度や傾斜角)を取得するタイミングを制御する。
図6にゲートウェイ装置20から送られてくる制御指示600のフォーマットを示している。同図に示すように、制御指示600は、制御対象となるセンサノード10の構成要素を特定する情報(傾斜センサ15の識別子等)である制御対象611、制御の内容に関する情報である制御内容612(傾斜センサ15を低消費電力モードに移行させる、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モード(動作が可能なモード)に移行させる、計測データ(温度や傾斜角)を取得するタイミング)等の情報を含む。
図4に戻り、制御装置11は、制御情報422を記憶している。制御情報422は、制御指示600の制御内容612に関する情報である。制御情報422はゲートウェイ装置20から受信した制御指示600によって随時更新される。消費電力/計測時期制御部413は、制御情報422を参照しつつ制御対象について消費電力の制御や計測データ(温度や傾斜角)を取得するタイミングの設定を行う。
図7にゲートウェイ装置20のハードウェアを示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、中央処理装置21、記憶装置22、計時装置23、無線装置24、出力装置25、及び通信装置26を備える。
中央処理装置21は、例えば、MPU、CPU等であり、記憶装置22は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置21及び記憶装置22は、ゲートウェイ装置20に情報処理装置としての機能を実現する。計時装置23は、RTC等を用いて構成され、日時情報を出力する。無線装置24は、センサノード10の無線装置12と無線通信する装置であり、例えば、特定小電力無線局、小電力無線局、微弱な無線局等である。出力装置25は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、液晶パネル、スピーカ等である。通信装置26は、NIC(Network Interface Card)や無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してサーバ装置30等の他の装置と通信する。
図8にゲートウェイ装置20の機能及びゲートウェイ装置20が記憶する情報を示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、計測データ受信部811、計測データ送信部813、制御指示中継部814、地盤変位検知部815、及び検知方法選択部816の各機能を有する。これらの機能は、ゲートウェイ装置20の中央処理装置21が、記憶装置22に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。またゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900及び地盤変位判定結果テーブル950を記憶する。
計測データ受信部811は、センサノード10の制御装置11が送信する計測データ500(温度や傾斜角)を受信し、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する。
図9に計測値管理テーブル900の一例を示している。同図に示すように、計測値管理テーブル900は、ノードID911、グループID912、計測値914(温度、傾斜角)、及び計測日時915の各項目を有するレコードの集合である。
ノードID911には、当該レコードの計測値914の送信元のセンサノード10のノードIDが設定される。グループID912には、当該レコードのノードID911で特定されるセンサノード10の傾斜センサ15が所属している、後述するグループの識別子(以下、グループIDと称する。)が設定される。計測値914には、センサノード10において計測された温度9141と傾斜角9142(傾斜センサ15の出力値)が設定される。計測日時915には、当該レコードの計測値914が計測された日時が設定される。
図8に戻り、計測データ送信部813は、計測データ受信部811が受信した計測データ500をサーバ装置30に中継送信する。制御指示中継部814は、サーバ装置30から送られてくる制御指示600を受信すると、これをセンサノード10に中継送信する。
地盤変位検知部815は、現在、地盤変位が生じているか否かを判定する処理(後述する地盤変位検知処理S2955)を行い、その結果を地盤変位判定結果テーブル950に出力する。地盤変位判定結果テーブル950の詳細については後述する。
同図に示すように、地盤変位検知部815は、ベクトル演算部8151及び温度補正処理部8152を有する。ベクトル演算部8151は、後述する各種のベクトル演算を行う。温度補正処理部8152は、後述する温度補正に関する処理を行う。
検知方法選択部816は、後述する傾斜角の検知方法(方法(1)又は方法(2))を選択する。検知方法選択部816による具体的な傾斜角の検知方法の選択に関する処理の詳細については後述する。
図10にサーバ装置30のハードウェアを示している。同図に示すように、サーバ装置30は、中央処理装置31、記憶装置32、通信装置33、及び出力装置34を備える。
中央処理装置31は、例えば、MPU、CPU等である。記憶装置32は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置31及び記憶装置32は、サーバ装置30に情報処理装置としての機能を実現する。通信装置33は、NICや無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してゲートウェイ装置20やユーザ端末40と通信する。出力装置34は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、液晶パネル、スピーカ等である。
図11にサーバ装置30の機能及びサーバ装置30が記憶する情報を示している。同図に示すように、サーバ装置30は、計測データ受信部1111、制御指示送信部1114、及び監視制御機能提供部1115の各機能を有する。これらの機能は、サーバ装置30の中央処理装置31が、記憶装置32に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
計測データ受信部1111は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500を受信する。
制御指示送信部1114は、計測値管理テーブル1122の内容に基づきセンサノード10の構成要素について電力供給の要否を随時判定し、その結果に応じて制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。例えば、制御指示送信部1114は、制御対象についてのスタンバイモードへの移行や機能停止を指示する内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。このように制御指示送信部1114は、センサノード10の構成要素について電力供給の要否を随時判定し、不要な構成要素への電力供給を抑制するので、消費電力を抑えてセンサノード10を効率よく稼働させることができる。
また制御指示送信部1114は、例えば、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モードに移行させる内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。
また制御指示送信部1114は、計測データを取得するタイミングの設定を指示する内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。
監視制御機能提供部1115は、通信網5を介してアクセスしてくる情報処理装置(パーソナルコンピュータ等)であるユーザ端末40に、計測値管理テーブル1122に基づく情報の提供やセンサノード10の制御のための機能の提供を行う。これらの機能は、例えば、Webページを介してユーザ端末40に提供される。
同図に示すように、サーバ装置30は、計測値管理テーブル1122を記憶する。計測値管理テーブル1122の内容は、図9に示した計測値管理テーブル900の内容を含む。サーバ装置30は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500によって計測値管理テーブル1122の内容を随時更新する。
=検知精度の向上=
続いて地盤変位の検知精度を向上するための仕組みについて説明する。
<外乱による傾斜>
前述したように、本実施形態における傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)を2軸で検出するタイプであり、傾斜角を、二次元座標系(X,Y)の平面上のベクトル(大きさ(傾斜角),方位角)として表現した値を出力する。二次元座標系(X,Y)の原点Oは、例えば、傾斜センサ15の設置時(動作開始時)から24時間が経過した時点までの平均値に設定される。尚、傾斜センサ15の計測値には正規分布を示す誤差が含まれているが、上記誤差は、統計的に有意な数の計測値を取得してそれらの平均(例えば96回移動平均等)を求めることにより低減することができる。
前述したように、地盤変位の検知精度を向上させるには、地盤のわずかな動きが正確に傾斜センサ15に伝わるように傾斜センサ15を設置する必要があり、例えば、地盤にコンクリート基礎を埋め込み、コンクリートに対して傾斜センサ15を金物等により堅牢に固定するといった方法がとられる。しかしこの方法を採用したとしても、前述した事象により、傾斜センサ15が次第に傾斜する現象(以下、この傾斜のことを「外乱による傾斜」と称する。)が発生する。
そこで外乱による傾斜の推移を検証すべく、本発明者等は、図12に示す実験系1200を構成し、屋内実験室にて実験を行った。同図に示すように、コンクリートブロック1211(縦25cm×横25cm×高さ10cm)の上面を2箇所削孔(直径1cm,深さ 10cm)して夫々に棒鋼1213(直径0.6cm,長さ20cm)を埋設し、各棒鋼1213の上端に夫々傾斜センサ15(センサノード)を固定した。コンクリートブロック1211は、安定性の高い除振台1212の上に載置した。試験期間は44日間(905時間)とし、1時間に1回の頻度で傾斜角(X,Y 座標の2軸)と温度(温度センサにより測定される屋内実験室の気温)を測定した。
図13は、経過時間と傾斜角(X座標)の関係(1時間に1回の頻度で取得したデータの96回移動平均)であり、図14は経過時間と傾斜角(Y座標)の関係(1時間に1回の頻度で取得したデータの96回移動平均)である。これらの図より、時間が経過しても傾斜角が安定する傾向はみられないことがわかる。
図15は、上記検証により得られた「外乱による傾斜ベクトル」の大きさ(傾斜角,X,Y座標系で表記)の軌跡である。同図に示すように、始点と終点とが大きく離れて傾斜角が大きく変動していることがわかる。
そこでこうした傾斜センサ15の特性を踏まえ、本実施形態では以下のようにして地盤変位の検知精度を向上させている。
まず図16に示すように、近い位置に設置されている傾斜センサ15を同じグループ(グループIDを「A」、「B」、「C」・・・」としている。)に分類する。尚、グループは、同じグループに所属している複数の傾斜センサ15の夫々に地盤変位による傾斜ベクトルが一様に作用するように(同じ真の傾斜角が計測されるように)設ける。但し、上記一様性に必ずしも厳密性は要求されず、地盤変位観測システム1に対して求められる地盤変位の検知精度や除去不可能な誤差の大きさ等との関係である程度の許容範囲を有していてもよい。
ここで傾斜センサ15の二次元座標系(X,Y)における前述した傾斜角のベクトル(大きさ(傾斜角),方位角)が、例えば、図17に示すように時系列的に変化(変化前のベクトル(細い実線で示すベクトル)からΔt時間経過後の変化後のベクトル(太い実線で示すベクトル)に変化)した場合を考える。
この場合、図18に示すように、傾斜センサ15には、「外乱による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」が作用している。ここで「外乱による傾斜ベクトル」は、変化前のベクトルと方向は一致しているが大きさが増大している(尚、停止や逆戻りすることもあるが、ここでは説明の簡単のため、大きさが時系列的に増大する場合を例示している。)。そしてこの「外乱による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」とを合成したものが変化後のベクトルに等しくなる。
ここで「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち、「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分(この成分もベクトルである)は、図19に示すように、変化前のベクトルと変化後のベクトルとから、代数学的もしくは幾何学的な演算(ベクトル演算)により求めることができる。そしてこのような垂直な方向の成分は、同一のグループに所属する傾斜センサ15の夫々について求めることができる。図20に同一のグループに所属する他の傾斜センサ15により上記垂直な方向の成分を求めた例を示す。
図19及び図20に示すように、「外乱による傾斜ベクトル」は傾斜センサ15ごとに異なるが、「地盤変位による傾斜ベクトル」については一致している(同一のグループに所属する各傾斜センサ15には「地盤変位による傾斜ベクトル」が一様に作用するという前述した前提による。)。従って、以上のようにして求めた、同一のグループに所属している複数の傾斜センサ15の夫々について求めた「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち、「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分をベクトル演算により合成すれば、「地盤変位による傾斜ベクトル」を求めることができる。図21に、図19及び図20の「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を合成している様子を示す。
このように、以上の方法によれば、複数の傾斜センサ15の計測値(「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分)を用いて「地盤変位による傾斜ベクトル」の測定精度を向上させることができる。また統計的に有意な数の計測値を得ることが難しい場合でも測定精度を確保することが可能になる。
<温度変化による傾斜>
前述したように、「地盤変位による傾斜」の測定精度を低下させる要因となる事象のうち、事象a及び事象bについては、長期的にみれば次第に安定する傾向があるが、事象cについては屋外の温度変化に伴い常時発生し、長期的に安定化することもなく、「地盤変位による傾斜」の測定に与える影響が大きい。そこで本発明者らは、事象cが「外乱による傾斜ベクトル」に与える影響について調べた。
図22は、上記検証にて得られた温度(屋内実験室の温度)の変化を示すグラフであり、図23は、温度と傾斜角(X座標)の関係(直線近似)であり、図24は温度と傾斜角(Y座標)の関係(直線近似)である。これらの図より、温度と傾斜角との間には一定の相関があることがわかる。
このように温度と傾斜角には一定の相関がみられる。従って、傾斜角に温度補正を施す(例えば0度に換算する)ことで「地盤変位による傾斜ベクトル」の測定精度を向上させることができる。
但し、温度の変化によりコンクリート基礎が膨張・収縮し、傾斜するという物理的な現象の過程において、温度の変化とコンクリート基礎の膨張/収縮との間にはある程度の時間差が生じる。そのため、「温度の変化が遅い」場合は傾斜角の追従性は良いが、「温度の変化が速い」場合は傾斜角の追従性が悪くなり、両者の間で温度補正の結果に差(温度の変化に対する傾斜角の変化の追従性の違いに起因する差)が生じることとなる。そして温度変化の態様は、設置環境や季節、天候等の様々な条件により大きく異なるため、このような差は頻繁に生じうる。
<温度補正>
以上を踏まえ、本実施形態の地盤変位観測システム1では、以下のようにすることにより、「温度変化による傾斜」が発生した傾斜センサ15(センサノード10)であっても「地盤変位による傾斜」を高い精度で測定することができるようにしている。
「温度変化による傾斜」が発生した傾斜センサ15では,傾斜角(X,Y座標の96回移動平均値)の軌跡は、図15に示したとおり、同一方向への進行・後退を繰り返し、ほぼ一直線となっている。これを「始点」を基準としたベクトルの大きさと方向で示すと、図25のとおりとなる。同図に示すように、「温度変化による傾斜ベクトル」は、温度がA度のときとB度のときとで方向は変わらず、大きさのみが異なる。
ここで「地盤変位による傾斜」が発生すると、図26に示すように「温度変化による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」とが合成されて「合成ベクトル」となる。そして「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち「温度変化による傾斜ベクトル」を基準とした垂直な方向の成分は、図27に示すように「温度変化による傾斜ベクトル」と「合成ベクトル」とを用い、図中の「温度変化による傾斜ベクトル」の延長線(破線)に対する垂直な方向の成分(点線)として容易に求めることができる(以下、この方法のことを方法(1)と称する。)。尚、方法(1)では、「地盤変位による傾斜ベクトル」の上記延長線(破線)の「水平な方向の成分」については「温度変化による傾斜ベクトル」と区別がつかず、求めることができない。
このように、方法(1)によれば、「温度変化による傾斜ベクトル」の方向と「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向とが互いに直角に近い場合には、垂直な方向の成分は「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさに近い値として検出されるが、逆に「温度変化による傾斜ベクトル」の方向と「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向とが互いに水平に近い場合には、垂直な方向の成分は「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさよりも小さく検出されてしまう。また両者が完全に水平の関係にある場合は、垂直な方向の成分は全く検出されなくなってしまう。
そこで本実施形態の地盤変位観測システム1では、次の方法(以下、方法(2)と称する。)も採用する。この方法では、まず異なる温度の夫々ついて、温度が所定時間(例えば3時間)以上一定であることを検知した場合に傾斜角を取得し、異なる温度の夫々について取得した傾斜角に基づき、「温度変化による傾斜ベクトル」を求める。より具体的には、異なる温度の夫々について、温度が安定しているときに傾斜角を取得し、温度と傾斜角との相関を求める。そして求めた温度と傾斜角との相関を用いて「地盤変位による傾斜ベクトル」について補正を行い、「地盤変位による傾斜ベクトル」の測定精度の向上を図る。尚、上記補正は、例えば、前述した「合成ベクトル」から「温度変化による傾斜ベクトル」の変化分を差し引くことにより行う。
ここで前述したように、温度の変化に傾斜角の変化が追従する温度と傾斜角の相関は安定しており、「地盤変位による傾斜ベクトル」について正確な温度補正を施すことが可能である。このため、方法(2)では「温度変化による傾斜ベクトル」の影響を低減することができ、図28に示すように「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさ(傾斜角)と方向とを正確に求めることができる。
但し、方法(2)では、前述したように毎日の測定ごとに傾斜角について所要の十分な測定精度(0.01〜0.02度の変動幅に安定)が要求される。そのため、誤差(正規分布)を低減すべく、毎日の測定ごとに十分なサンプリング回数でサンプリングを行い、それらの平均値を算出することが望ましい。尚、一般に夜間は昼間に比べて温度が安定しているので、ほぼ1日ごとのインターバルで方法(2)により「地盤変位による傾斜ベクトル」を求めることができる。もちろん、検出のインターバルは短ければ短いほどよいが、「状態変化を予兆の段階で捉える、あるいは年間で数(mm)程度の緩慢な地盤の変化を長期的に監視する」といった目的であれば、1日ごとのインターバルとした場合でも有効な情報を得ることができる。
ところで、方法(2)により「地盤変位による傾斜ベクトル」が検出された場合には、梅雨や台風時の大雨、積雪後の雪解けによる地下水位の上昇、地震の発生等を契機として急激な地盤変位が生じる可能性があり、通常は監視を強化することが求められ、例えば、より短いインターバルで「地盤変位による傾斜ベクトル」を検出することが要求される。そこで方法(2)が適用されている間に「地盤変位による傾斜ベクトル」が検出された場合、もしくは、水位計、地震計等により、梅雨や台風時の大雨、積雪後の雪解けによる地下水位の上昇、あるいは地震等の現象の発生等、地盤変位を引き起こす要因となりうる現象が検知された場合には、例えば、検知方法を方法(2)から方法(1)に切り替えてより短いインターバルでの監視を開始するようにする。
但し、前述したように、方法(1)では、「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち「温度変化による傾斜ベクトル」を基準とした垂直な方向の成分しか測定することができず、「温度変化による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向が互いに直角に近い場合、垂直な方向の成分は「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさに近い値として検出されるが、逆に「温度変化による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向が互いに水平に近い場合には、垂直な方向の成分は、「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさよりも小さく検出されてしまう。また完全に水平の場合には、垂直な方向の成分が全く検出されなくなってしまう。
そこで、方法(1)を適用している場合に、方法(2)を適用している際に検出された「地盤変位による傾斜ベクトル」を用いてベクトル演算を行うようにする。ここで「地盤変位による傾斜ベクトル」は、地盤変位がさらに進行した場合でも、大きさは変化しても方向は不変である。そのため、「温度変化による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」とがなす角度Φは一定(方法(2)が適用されていたときと同じ)となり、「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさは、方法(2)が適用されていた際に計測された角度Φを用いて、垂直な方向の成分/sinΦとして算出することができる。但し、角度Φが0度となる場合(完全に水平の場合)はこの方法における限界となる。しかし角度Φが0度であることが予め方法(2)が適用されていたときに確認できていれば、事前に何らかの対策(例えば、別のコンクリート基礎を設置する等)を講じることができる。
尚、方法(1)においても、方法(2)と同様に毎回の測定ごとに傾斜角の測定値には所要の精度(0.01〜0.02度の変動幅に安定)が要求される。そこで誤差(正規分布)を低減するため、毎回の測定値ごとに十分なサンプリング回数でサンプリングし、平均値を算出することが好ましい。
=処理説明=
続いて、地盤変位観測システム1において行われる処理について説明する。
<地盤変位観測処理>
図29は、地盤変位観測システム1において行われる処理(以下、地盤変位観測処理S2900と称する。)を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位観測処理S2900について説明する。
センサノード10の制御装置11は、ゲートウェイ装置20からの制御指示600の受信有無をリアルタイムに監視している(S2911)。制御指示600を受信すると(S2911:YES)、制御装置11は、受信した制御指示600の内容に従ってセンサノード10の構成要素についての消費電力の制御や計測データ(温度や傾斜角)を取得するタイミングの設定を行う(S2912)。制御指示600を受信していない場合(S2911:NO)、制御装置11はS2913からの処理を行う。
S2913では、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15が、現在、オン(傾斜角を計測可能な状態)であるか否かを判定する。傾斜センサ15がオンである場合(S2913:YES)、処理はS2914に進む。一方、傾斜センサ15がオフ(傾斜センサ15がスタンバイ状態等で傾斜角を計測できない状態)である場合(S2913:NO)、処理はS2911に戻る。
S2914では、制御装置11は、現在が温度の計測時機か否かを判定する。尚、温度の計測時機は、原則として、その到来間隔が、少なくとも傾斜角の計測時機の到来間隔よりも短くなるように設定される。現在が温度の計測時機である場合(S2914:YES)、制御装置11は、当該センサノード10の温度センサ13から計測値を取得する(S2915)。現在が計測時機でない場合(S2914:NO)、処理はS2916に進む。
S2916では、制御装置11は、現在が傾斜角の計測時機か否かを判定する。現在が傾斜角の計測時機である場合(S2916:YES)、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15から計測値を取得する(S2917)。現在が傾斜角の計測時機でない場合(S2916:NO)、処理はS2918に進む。
尚、傾斜角の計測時機は、例えば、要求されている検知精度を確保するのに必要とされる頻度に設定される。また方法(2)が選択されている場合には、例えば、S2915で計測された温度に基づき、温度が所定時間以上変化していないことを検知した場合に傾斜角の計測時機が発生するように設定される。
S2918では、制御装置11は、送信データが有るか(S2915及びS2917の少なくともいずれかにおいて新たに取得した計測値(温度や傾斜角)があるか)否かを判定する。送信データが有る場合(S2918:YES)、制御装置11は、計測値を設定した計測データ500を生成してゲートウェイ装置20に送信する(S2919)。一方、送信データが無い場合(S2918:NO)、処理はS2911に戻る。
ゲートウェイ装置20は、センサノード10からの計測データ500の受信時機が到来した否かをリアルタイムに監視している(S2951)。現在が計測データ500の受信時機である場合(S2951:YES)、ゲートウェイ装置20は、計測データ500の受信を開始し(S2952)、計測データ500を受信すると、ゲートウェイ装置20は、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する(S2953)。尚、ゲートウェイ装置20は、計測データ500を随時サーバ装置30に中継送信し、一方でサーバ装置30は、計測データ500を受信すると、計測値管理テーブル900の内容を、受信した計測データ500の内容に更新する。
S2954では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位検知処理を開始するか否かを判定する。ゲートウェイ装置20が地盤変位検知処理を開始すると判定した場合(S2954:YES)、処理はS2955に進み。ゲートウェイ装置20が地盤変位検知処理を開始しないと判定した場合(S2954:NO)、処理はS2952に戻る。尚、ゲートウェイ装置20は、例えば、計測データ500を受信することが予定されているセンサノード10からの計測データ500の受信が完了した場合に地盤変位検知処理を開始すると判定する。また、ゲートウェイ装置20は、例えば、タイムアウトした(予定されている受信期間が終了した)場合に地盤変位検知処理を開始すると判定する。
S2955では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位が生じているか否かを判定する処理(以下、地盤変位検知処理S2955と称する。)を実行する。ここで地盤変位検知処理S2955には、前述した方法(1)に対応した処理(以下、地盤変位検知処理(方法(1))S2955と称する。)と、前述した方法(2)に対応した処理(以下、地盤変位検知処理(方法(2))S2955と称する。)とがある。ゲートウェイ装置20は、後述する検知方法選択処理S2958において現在、選択している方法に応じていずれかの処理を選択する。尚、以下の説明において、ゲートウェイ装置20は、デフォルトの検知方法として、方法(2)を選択するものとする。地盤変位検知処理S2955の詳細については後述する。
S2956では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位検知処理S2955の結果が、「地盤変位有り」であるか否かを判定する。ゲートウェイ装置20は、例えば、後述する地盤変位判定結果テーブル950の判定結果952に「有」が設定されているグループが一つでもあれば、地盤変位検知処理S2955の結果が「地盤変位有り」であると判定する。またゲートウェイ装置20は、例えば、後述する地盤変位判定結果テーブル950の判定結果952に「有」が設定されているグループが予め定められた数以上あれば、地盤変位検知処理S2955の結果が「地盤変位有り」であると判定する。
ゲートウェイ装置20が、地盤変位検知処理S2955の結果が「地盤変位有り」であると判定した場合(S2956:YES)、ゲートウェイ装置20は、地盤変位を検知した旨を出力装置25に出力する(S2957)。一方、ゲートウェイ装置20が、地盤変位検知処理S2955の結果が「地盤変位有り」でないと判定した場合(S2956:NO)、処理はS2958に進む。
S2958では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位を検知する方法として、前述した方法(1)又は方法(2)のいずれかを選択する処理(以下、検知方法選択処理S2958と称する。)を実行する。検知方法選択処理S2958の詳細については後述する。
S2959では、サーバ装置30が制御指示600を生成する。S2960では、サーバ装置30が制御指示600をゲートウェイ装置20を介してセンサノード10に送信する。
<地盤変位検知処理(方法(1))>
図30は、前述した地盤変位検知処理(方法(1))S2955を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位検知処理S2955(方法(1))について説明する。
まずゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、グループ(グループID)を一つ選択する(S3011)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択したグループに所属する傾斜センサ15の組を選択する(S3012)。尚、ゲートウェイ装置20は、例えば、夫々の「外乱による傾斜ベクトル」の方向のなす角が0゜に近い傾斜センサ15の組を優先して選択する。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択した傾斜センサ15の夫々について、時系列的な変化の前後のベクトルを取得する(S3013)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択した傾斜センサ15の夫々について、前述した演算を行うことにより「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち「温度変化による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を求める(S3014)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、選択した傾斜センサ15の夫々について求めた「温度変化による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさの平均を求める(S3015)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、S3015で求めた平均値の絶対値が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(S3016)。上記絶対値が予め設定された閾値以上である場合(S3016:YES)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位有り」と判定する(S3017)。その後はS3019に進む。一方、上記絶対値が予め設定された閾値を未満である場合(S3016:NO)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位無し」と判定する(S3018)。その後、処理はS3019に進む。
S3019では、ゲートウェイ装置20は、S3017又はS3018の判定結果を地盤変位判定結果テーブル950に設定する。
S3020では、ゲートウェイ装置20は、全てのグループを選択済みか否かを判定する。全てのグループを選択済みである場合(S3020:YES)、処理は図29のS2959に進む。未選択のグループが残存する場合(S3020:NO)、処理はS3011に戻る。
図31に、地盤変位判定結果テーブル950の一例を示している。同図に示すように、地盤変位判定結果テーブル950は、グループID951、判定結果952、平均値953、及び判定日時954の各項目を有するレコードの集合である。判定結果952には、当該レコードのグループID951の判定結果が設定される(「地盤変位有り」の場合は「有」、「地盤変位無し」の場合は「無」が設定される。)。平均値953には、当該レコードのグループ951についてS3015の処理で求めた平均値(後述する地盤変位検知処理(方法(2))S2955が適用される場合は図32のS3215の処理で求めた平均値)が設定される。尚、ユーザは合成ベクトル953から合成ベクトルの方向と大きさを知ることができる。判定日時954には、当該レコードのグループ951について当該判定結果952の判定を行った日時が設定される。地盤変位判定結果テーブル950の内容を参照することで、ユーザはグループごとに(観測エリア2の所定領域ごとに)地盤変位が生じているか否かを把握することができる。
<地盤変位検知処理(方法(2))>
図32は、前述した地盤変位検知処理(方法(2))S2955を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位検知処理(方法(2))S2955について説明する。
まずゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、グループ(グループID)を一つ選択する(S3211)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択したグループに所属する各傾斜センサ15について、時系列的な変化の前後のベクトルを取得する(S3212)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900に基づき、各傾斜センサについて温度と傾斜角との相関を求める(S3213)。
続いて、各傾斜センサについて、時系列的な変化の前後のベクトルの差を求め、S3213で求めた温度と傾斜角との相関を用いて補正することにより「地盤変位による傾斜ベクトル」を求める(S3214)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、選択中のグループの各傾斜センサ15の夫々について求めた「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさの平均を求める(S3215)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、S3215で求めた平均値の絶対値が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(S3216)。上記絶対値が予め設定された閾値以上である場合(S3216:YES)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位有り」と判定する(S3217)。その後はS3219に進む。一方、上記絶対値が予め設定された閾値を未満である場合(S3216:NO)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位無し」と判定する(S3218)。その後、処理はS3219に進む。
S3219では、ゲートウェイ装置20は、S3217又はS3218の判定結果を地盤変位判定結果テーブル950に設定する。
S3220では、ゲートウェイ装置20は、全てのグループを選択済みか否かを判定する。全てのグループを選択済みである場合(S3220:YES)、処理は図29のS2959に進む。未選択のグループが残存する場合(S3220:NO)、処理はS3211に戻る。
<検知方法選択処理>
図33は、図29における検知方法選択処理S2958を説明するフローチャートである。以下、同図とともに検知方法選択処理S2958について説明する。前述したようにゲートウェイ装置20は、デフォルトの検知方法として方法(2)を選択している。
まずゲートウェイ装置20は、現在の検知方法970を参照し、現在の検知方法が方法(1)又は方法(2)のいずれであるかを調べる(S3311)。現在の検知方法が方法(1)である場合は(S3311:方法(1))、S3321の処理に進む。現在の検知方法が方法(2)に設定されている場合は(S3311:方法(2))、S3331の処理に進む。
S3321では、ゲートウェイ装置20は、現在、方法(1)に切り換える条件が成立しているか否かを判定する。上記条件が成立している場合(S3321:YES)、ゲートウェイ装置20は、現在の検知方法を方法(1)に切り換え(現在の検知方法970を現在の検知方法が方法(1)である旨に更新)(S3322)、その後は図29のS2959の処理に進む。上記条件が成立していない場合は(S3321:NO)、図29のS2959の処理に進む。
ここで現在の検知方法を方法(1)に切り換える上記条件としては、例えば、「地盤変位による傾斜ベクトル」が検出されている場合、水位計、地震計等により、梅雨や台風時の大雨、積雪後の雪解けによる地下水位の上昇、あるいは地震等の現象の発生等、地盤変位を引き起こす要因となりうる現象が検知されている場合である。尚、ゲートウェイ装置20は、水位計、地震計等により上記現象が検知された旨の情報を、観測エリア2に設置され当該ゲートウェイ装置20と通信可能に接続されている水位計、地震計等から取得する。またゲートウェイ装置20は、例えば、上記情報を通信網5を通じて取得する。
S3331では、ゲートウェイ装置20は、現在、方法(2)に切り換える条件が成立しているか否かを判定する。上記条件が成立している場合は(S3331:YES)、ゲートウェイ装置20は、現在の検知方法を方法(2)に切り換え(現在の検知方法970を現在の検知方法が方法(2)である旨に更新)(S3332)、その後は図29のS2959の処理に進む。上記条件が成立していない場合は(S3321:NO)、図29のS2959の処理に進む。
ここで現在の検知方法を方法(2)に切り換える上記条件としては、例えば、「地盤変位による傾斜ベクトル」が検出されない場合、水位計、地震計等から地盤変位を引き起こす要因となりうる現象が検知された旨の情報を取得していない場合等がある。
尚、方法(2)から方法(1)への切り換えや、方法(1)から方法(2)への切り換えを、例えば、ユーザがユーザ端末40を操作して手動で行うようにしてもよい。
以上に説明したように、本実施形態の地盤変位観測システム1にあっては、温度が所定時間以上一定であることを検知したとき、即ち、夜間等の温度が安定している時間帯に計測された傾斜角に基づき、温度と傾斜角との相関を求めるので、温度と傾斜角との相関を正確に求めることができ、これを用いて時系列的な変化の前後における各ベクトルの差について補正を行うことで、地盤変位による傾斜ベクトルを精度よく求めることができる。このため、例えば、1日ごとのインターバル等で傾斜角を計測した場合でも、地盤変位を検知することが可能になる。
また本実施形態の地盤変位観測システム1にあっては、地盤変位による傾斜ベクトルが検知された場合、より短い時間間隔で計測された傾斜センサ15の計測値を用いて精度よく地盤変位による傾斜ベクトルを検知するので、梅雨や台風時の大雨、積雪後の雪解けによる地下水位の上昇、地震の発生等を契機として生じる地盤変位に備えて監視を強化することができる。
ところで、以上の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
例えば、ゲートウェイ装置20とサーバ装置30を共通のハードウェア(ゲートウェイ装置20とサーバ装置30の双方の機能を兼ね備えた装置)としてもよい。
また前述した地盤変位観測処理S2900においてゲートウェイ装置20が主体となって行う処理については、これをサーバ装置30が主体となって行う処理としてもよい。
また例えば、ゲートウェイ装置20又はサーバ装置30が、前述した地盤変位検知処理(方法(1))S2955と地盤変位検知処理(方法(2))S2955とを並行して行うようにしてもよい。もしくはゲートウェイ装置20又はサーバ装置30が、両者(地盤変位検知処理(方法(1))S2955及び地盤変位検知処理(方法(2))S2955)を、傾斜角の測定が行われる期間の一部の期間において並行して行うようにしてもよい。