(実施の形態1)
まず図1〜図9を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。
図1を参照して、まずフィルム1が準備される。このフィルム1は、PET(Polyethylene Terephthalate)などの耐溶剤性および耐水性に優れた材料により形成されており、たとえば平板形状を有している。ここで耐溶剤性および耐水性に優れるとは、溶剤および水の接触を受けることにより当該フィルム1が破れたり穴が開いたり膨潤するなどの破損を生じることがないことを意味している。
フィルム1は、一方の主表面であるフィルム上側主表面1aと、それに対向する他方の主表面であるフィルム下側主表面1bとを有している。これらフィルム上側主表面1aおよびフィルム下側主表面1bは、たとえば矩形の平面形状を有している。
図2を参照して、当該フィルム1などの母材のフィルム上側主表面1a上に、写真製版技術の実施により感光可能な(感光性材料からなる)感光性ペースト2が供給され乾燥される。ここで感光性ペースト2は、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給される。なお図2においては左右両端部の一部においてフィルム上側主表面1a上に感光性ペースト2が供給されていない領域が存在するように示されている。しかし実際には感光性ペースト2はフィルム上側主表面1aのほぼ全面に、その全体においてほぼ同一の厚みを有するように塗布される。
ここでは導体の配線を形成するための感光性ペースト2が準備される。このため当該感光性ペースト2は、導体の粉末と感光性樹脂とを混ぜ込むことにより得られる。ここでは紫外光であるi線(波長365nm)に対して強い感度をもつネガ型の感光性樹脂が用いられた例を示すが、使用される感光性樹脂はこれに限らず、たとえばポジ型の感光性樹脂が用いられてもよい。また導体の粉末は、配線等に用いられる一般的な材料(たとえば銀または銅)を用いることができる。
図3を参照して、たとえばガラスにより形成され、フィルム1とほぼ同一の(矩形状の)平面形状およびサイズを有するマスク3が準備される。このマスク3は、主表面に沿って透光部3aと遮光部3bとのパターンがある規則に従い、当該マスクの平面視における全面において交互に繰り返された構成を有している。なお透光部3aまたは遮光部3bのパターンは、一般公知のクロムなどの金属材料により形成されている。ここでは透光部3aは後述する光源を透過する部分であり、遮光部3bは当該光源を遮光する部分であるとする。
このマスク3を用いて、フィルム1上の感光性ペースト2に対して通常の写真製版技術を用いた処理(露光処理および現像処理)がなされる。具体的には、まずたとえば一般公知のコンタクト露光、プロキシミティ露光または投影露光などができる露光機を用いて、フィルム1のフィルム上側主表面1a上の感光性ペースト2上に接触することによりフィルム1と互いに重畳するようにマスク3がセットされる。ただし感光性ペースト2とマスク3との間には間隔が設けられていてもよい。そして、マスク3の上方から下方に向けて、光源である紫外光4が照射される。これにより、特に透光部3aの真下の感光性ペースト2が露光されるが、遮光部3bの真下の感光性ペースト2は露光されない。
図4を参照して、露光処理が終わった後、現像処理がなされる。現像処理には、炭酸カルシウムまたは苛性ソーダなどのアルカリ性の現像液が用いられる。これにより感光性ペースト2は、透光部3aの真下であり紫外光4により照射された領域が残存部5aとして残存し、遮光部3bの真下であり紫外光4により照射されなかった領域が非残存部5bとして少なくとも部分的に除去される。このようにして感光性ペースト2は、残存部5aと非残存部5bとを有する露光後ペースト5となる。
図5を参照して、写真製版技術の処理が終わった後、純水を用いて露光後ペースト5を含むフィルム1に対してリンス処理がなされる。これにより非残存部5bが完全に除去され、残存部5aが転写パターン6として形成される。転写パターン6は、図の上側の(フィルム1と接触する側と反対側の)パターン上側主表面6aと、パターン上側主表面6aと対向する(フィルム1と接触する側の)パターン下側主表面6bとを有している。そして最後に乾燥工程がなされる。
以上により、フィルム1のフィルム上側主表面1a上には、感光性ペースト2の転写パターン6(パターン)が、互いに間隔をあけて複数形成される。これにより、母材としてのフィルム1と、そのフィルム上側主表面1a上の転写パターン6とからなる転写部材7が形成される。
図6を参照して、次に、セラミック粉末にガラスなどの焼結助剤と有機バインダと溶剤と可塑剤などとを混合させた原料粉末を液状にさせたスラリーを準備し、これに対して一般公知のドクターブレード法などによる処理を施す。これにより無地セラミックグリーンシート8が形成される。なおここでは配線パターンなどが形成される前の無地の状態のセラミックグリーンシートを無地セラミックグリーンシートと呼ぶことにする。
無地セラミックグリーンシート8は、たとえばフィルム1とほぼ同一の(矩形状の)平面形状およびサイズを有する、平板形状の部材である。無地セラミックグリーンシート8は、一方の主表面であるシート上側主表面8aと、それに対向する他方の主表面であるシート下側主表面8bとを有している。
図7を参照して、当該無地セラミックグリーンシート8のたとえばシート上側主表面8a上に、バインダ材料9が形成される。ここでバインダ材料9とは、シート上側主表面8a上に所望の部材を接合させるために配置される部材を意味する。
バインダ材料9は基本的に樹脂材料を含むように構成されている。具体的には、バインダ材料9として、ここではたとえばテルピネオールに、樹脂材料としてのエチルセルロースを7.5質量%以上含むビヒクル材料が用いられることが好ましい。またバインダ材料9は、たとえばシート上側主表面8a上のほぼ全面に形成されることが好ましい。バインダ材料9は、一方の主表面としてのバインダ上側主表面9aと、それに対向する他方の主表面としてのバインダ下側主表面9bとを有している。バインダ上側主表面9aは、図の上側の(無地セラミックグリーンシート8と接触する側と反対側の)主表面であるのに対し、バインダ下側主表面9bは、図の下側の(無地セラミックグリーンシート8と接触する側の)主表面である。
バインダ材料9はシート上側主表面8a上に、たとえばスクリーン印刷法により、ほぼ均一の厚みを有するように形成される。ここでスクリーン印刷法に用いるスクリーンマスクとしては、無地セラミックグリーンシート8を破損させないように考慮したうえで、エマルジョンを用いたメッシュスクリーンマスク、またはメタルマスクのいずれかが用いられる。
図8を参照して、転写部材7と無地セラミックグリーンシート8とが互いに重ね合わせられるように重畳される。このとき、位置決めピンもしくはガイドなどの治具を用いることにより、または画像アライメントなどを行なうことにより、転写部材7と無地セラミックグリーンシート8との位置合わせがなされる。
このとき、転写部材7については転写パターン6がフィルム1の下方に配置された態様とされ、かつ無地セラミックグリーンシート8の上方にバインダ材料9が載置された態様とされる。これにより、転写パターン6とバインダ材料9とが対向されながら互いに接触される。より具体的には、転写パターン6のパターン上側主表面6aと、バインダ材料9のバインダ上側主表面9aとが互いに接触するように設置される。
次に、パターン上側主表面6aとバインダ上側主表面9aとが互いに接触された状態で、図8中に矢印で示すように、フィルム下側主表面1bの上方から下方に向けて、および無地セラミックグリーンシート8のシート下側主表面8bの下方から上方に向けて、加圧力10が加えられる。この加圧力10は、少なくとも50kgf/cm2以上(5MPa以上)であり、10秒以上加圧される。しかし5MPa以上で15秒以上加圧されることがより好ましく、7MPa以上および/または20秒以上加圧されることがより好ましい。この加圧力により、パターン上側主表面6aとバインダ上側主表面9aとが互いに密着されるようになる。
さらに、少なくともこの加圧時には、当該加圧とともに、転写パターン6とバインダ材料9との温度が90℃以上となるように加熱される。この加熱温度は転写パターン6に含まれる材料(ポリビニルブチラールなどの樹脂)のガラス転移温度(以上)であることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましい。
なお上記の加熱および加圧を行なう工程は、一軸プレスに代表される機械プレス、または静水圧プレスによりなされることが好ましい。
なおここでは転写部材7が先に形成され、その後に無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9が準備されるものとして説明されている。しかしそれらの形成される順序はこれに限らず、たとえば無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9が準備され、その後に転写部材7が形成されてもよい。
これにより、転写部材7を構成する乾燥された転写パターン6(パターン上側主表面6a)がバインダ材料9(バインダ上側主表面9a)上に転写されるために接着される。また逆に、転写パターン6(パターン下側主表面6b)はフィルム1のフィルム上側主表面1aから剥離するようになる。
図9を参照して、以上のように転写パターン6を転写させることにより、転写パターン6が無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に接着されるように形成される。またフィルム1が転写パターン6から剥がされる。この転写パターン6は、無地セラミックグリーンシート8上に形成されたたとえば導体の配線パターンである。これにより、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上にバインダ材料9と(複数の、乾燥された)転写パターン6とを有するセラミックグリーンシート101が形成される。セラミックグリーンシート101には互いに間隔をあけて複数の転写パターン6が形成されている。
後述するように、たとえば当該セラミックグリーンシート101が複数形成され、それらが積層され相互間の配線等が電気的に接続された状態で焼成されることにより、多層セラミック部品(セラミック基板)が形成される。
なお上記においては、バインダ材料9として、テルピネオールにエチルセルロースを7.5質量%以上含ませたビヒクル材料が用いられる。しかしバインダ材料9に含まれる樹脂材料としては、エチルセルロース以外にも、以下に示す単官能ポリマーおよび多官能ポリマーからなる群から選択される1種または2種以上を組み合わせ混合したものが用いられてもよい。
具体的には、上記単官能ポリマーとしては、たとえばアクリル系ポリマーとしてのメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、エチルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(n≒4〜13)が用いられる。
また上記多官能ポリマーとしては、たとえばポリエチレングリコールジメタクリレート(n≒2〜13)、ポリエチレングリコールジアクリレート(n≒2〜13)、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(n≒2〜13)、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジメタクリレート(m+n≒4〜18)、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジメタクリレート(m+n≒4〜18)、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート(m+n≒4〜18)、エチレンオキシド変性ビスフェノールFジアクリレート(m+n≒4〜18)、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート(m+n≒4〜18)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、グリセリンジメタクリレートが用いられる。
またバインダ材料9に用いられる溶剤としては、上記のテルピネオール以外にも、以下に挙げられる群から選択される1種または2種以上を組み合わせ混合したものが用いられてもよい。具体的には、上記溶剤としては、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、エチレングリコール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、シクロヘキサノン、フェニルプロピレングリコール、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、フェニルジグリコール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、シクロペンタノン、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、オクタンジオールが用いられる。
次に、比較例およびその課題等を説明しながら、本実施の形態の作用効果について説明する。
図10は、比較例における被写体91への配線パターンなどの形成方法を示す概略図である。図10を参照して、比較例においては、被写体91であるたとえば無地セラミックグリーンシートが準備される。被写体91はたとえば矩形の平板形状であり、被写体上側主表面91aとそれに対向する被写体下側主表面91bとを有している。被写体上側主表面91a上への配線パターンなどの形成は、スクリーン版92を用いたスクリーン印刷法によりなされる。
スクリーン版92は、マスクフレーム94と、エマルジョン95と、メッシュ96とを有している。図10および図11を参照して、マスクフレーム94は、たとえば矩形の外枠を構成する平面形状を有している。エマルジョン95は、マスクフレーム94の枠に囲まれた領域に膜状に供給された領域であり、乳液を含んでおり、上方から下方へペーストを供給可能な構成を有している。メッシュ96は、エマルジョン95と平面的に重なる領域に複数、たとえば互いに菱形を形成するように交差する態様として形成されている。
たとえば被写体上側主表面91a上へ配線パターンなどを形成する際には、エマルジョン95およびメッシュ96の上方から、たとえば形成すべき導体などがペースト状にされたインクとしてのローリング用ペースト97が供給される。このローリング用ペースト97が、印刷スキージ98と呼ばれるたとえばゴム状のヘラのような部材を用いて上方から押し出される。これにより、ローリング用ペースト97はエマルジョン95を下方へ通過し、さらに下方のメッシュ96の間隙を通って被写体上側主表面91a上に供給される。ローリング用ペースト97が被写体上側主表面91a上にて乾燥などされることにより、被写体上側主表面91a上にはたとえば配線パターンなどが印刷された印刷パターン99が形成される。
ただし図12を参照して、この場合に形成される印刷パターン99はメッシュ96の形状に追随した平面形状となる。このため印刷パターン99は、その縁部が周期的に図の左右方向および上下方向に波を形成する。つまり印刷パターン99はそのパターン開放端が直線状ではなくうねりを生じる形状となり、矩形の平面形状を得ることができなくなる。すると当該印刷パターン99をたとえば高周波通信機器の高周波信号の通信に用いることが困難となる。
また当該印刷パターン99が周期的に太くなった領域と細くなった領域とを有するように(太さがばらつくように)形成される。このような印刷パターン99が形成されれば、この被写体91を用いて形成された多層セラミック部品を用いてたとえば高周波信号の通信を行なう際に不具合を生じる可能性がある。
また比較例の方法によれば、ローリング用ペースト97が乾燥する前に被写体91上に供給される。このため、ローリング用ペースト97中に含まれる溶剤により被写体91であるセラミックグリーンシートなどが損傷を受ける可能性がある。また被写体91上にローリング用ペースト97が供給された後にこれに対して写真製版技術の処理がなされた場合、アルカリ性の現像液により被写体91であるセラミックグリーンシートなどが溶解する可能性がある。
セラミックグリーンシートはセラミック粉末、樹脂、溶剤、可塑剤および焼結助剤などにより形成されるため、耐溶剤性および耐水性が必ずしも高くない。このため、上記のペースト状の部材の供給などによるダメージを抑制する観点から、溶剤などによる損傷を与え得ない乾燥された感光性材料をセラミックグリーンシート上に供給することが好ましい。
そこでメッシュによるスクリーン印刷法を用いずに所望のパターンを形成する方法として、配線パターンなどとして形成したい材質を感光性材料として耐水性および耐溶剤性に優れたフィルム上に形成し、乾燥された感光性材料を所望の基板上に転写する方法が用いられる。
具体的には、第1案としてたとえばフィルムの一方の主表面上に感光性ペーストのパターンが形成された後に、当該パターンを覆うように接着剤を塗布することによる転写部材の形成方法が提案されている。ただし当該第1案においては、感光性ペーストのパターンにより形成された段差の上に接着剤を薄く形成することが困難であるため、感光性ペーストのパターンの厚みに比べて充分に厚い接着剤を供給する必要がある。このような厚い接着剤は、これが転写されたセラミックグリーンシート等を焼成することにより、焼成後の当該接着剤中に炭化物または気泡などが発生し不具合を来す可能性がある。
また第2案としてたとえばフィルムの一方の主表面上にパターンが形成されそれが所望の基板上に転写された後、基板上において当該パターンが転写されなかった部分に配線パターンが形成され、最後に上記の基板上に転写されたパターンが水に溶かされることにより除去される方法が提案されている。しかしこの案においては、基板上において当該パターンが転写されなかった部分に配線パターンなどを形成するためにペースト状のインクが供給されるため、当該部分にペーストを確実に充填できず、最終的に形成されるパターンに欠損が生じる可能性がある。
さらに第3案として、フィルムの一方の主表面上に離型性のある感光性材料を塗布することによる転写方法が提案されている。しかしこの案においては、離型処理により、塗布された感光性材料の現像時に残存すべきパターンも除去されるべき材料と一緒に除去されてしまう恐れがある。つまりこの案においては、感光性材料が露光処理および現像処理の後に担持されにくいという課題がある。
以上のように、乾燥されたインクを転写する方法を用いたとしても、セラミックグリーンシート上などに転写されたパターンの形状不良を来す可能性がある。
以上の課題に鑑み、本実施の形態においては上記のように、転写部材7に形成され既に乾燥された感光性材料としての転写パターン6が、無地セラミックグリーンシート8上に直接ではなく、無地セラミックグリーンシート8上に形成されたバインダ材料9上に転写形成される。このためまずは、無地セラミックグリーンシート8上に直接転写パターン6が形成される場合に想定される、無地セラミックグリーンシート8の損傷の発生を確実に抑制することができる。
また本実施の形態においては、たとえば上記第2案のように転写部材に形成されたパターンを転写後に除去するわけではなく、転写部材7に形成された転写パターン6をそのまま形成すべきたとえば配線パターンとして利用するために転写する。このため当該パターンの除去工程を省くことができる。したがって除去工程に用いられる溶剤などによる転写パターン6の損傷を抑制することができ、形成される転写パターン6の形状を安定させることができる。
この作用効果は、特にバインダ材料9にエチルセルロースが7.5質量%以上含まれることにより顕著になる。以下の表1はバインダ材料9に含まれる樹脂材料(エチルセルロース)の含有量と、当該バインダ材料9の上に転写パターン6を転写したときの転写率との関係を示している。なお転写率とは、たとえば図5に示すフィルム1上に形成された転写パターン6の質量のうち、図9に示すバインダ材料9上に転写される転写パターン6の質量の割合を百分率で示したものである。またここで用いられた当該転写パターン6の平面形状は1辺が100μmの正方形状である。
表1より、バインダ材料9に含まれるエチルセルロースが7.5質量%未満であれば、転写パターン6の転写率が低く、バインダ材料9の上に形成される転写パターン6が欠損を形成する可能性があるといえる。しかしバインダ材料9に含まれるエチルセルロースが7.5質量%となれば、転写パターン6の転写率が100%となるため、バインダ材料9の上に形成される転写パターン6の欠損の発生が抑制されることがわかる。また表中にないが、バインダ材料9に含まれるエチルセルロースが7.5質量%を超える場合(たとえばエチルセルロースが10質量%含まれる場合)においても転写率が100%となる。以上より、バインダ材料9にエチルセルロースが7.5質量%以上含まれれば、転写パターン6の転写率を高め、欠損の発生を抑制することができる。
また転写パターン6をバインダ材料9上に転写する際には、転写パターン6とバインダ材料9とが接触された状態で、少なくとも50kgf/cm2以上で10秒以上加圧され、かつ90℃以上に加熱される。このようにすれば、転写パターン6の転写率を高め、欠損の発生を抑制することができる。
以上のように、乾燥された感光性ペーストとしての転写パターン6を、メッシュを用いることなく転写によりバインダ材料9上に形成することにより、転写パターン6にうねりまたは欠損を生じることなく、かつ無地セラミックグリーンシート8に損傷を生じることなく、高精度で微細なパターンを確実に形成することができる。欠損のない高精度で微細なパターンは、高周波通信機器の高周波信号の伝送に適している。このため本実施の形態は特に、高精細な配線パターン等の形成に適している。
(実施の形態2)
本実施の形態は、無地セラミックグリーンシート8上の領域のうち一部の領域のみに高精細な配線パターン等がを形成する加工がなされる。この点において本実施の形態は、無地セラミックグリーンシート8上のほぼ全面に対して高精細な配線パターン等を形成する加工がなされる実施の形態1とは異なっている。以下、図13〜図19を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態1と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図13を参照して、まず実施の形態1の図1および図2の工程と同様の処理がなされた後、透光部3aと遮光部3bとを有するマスク3が準備される。このマスク3は実施の形態1のマスク3と同様に、たとえばガラスにより形成され、フィルム1とほぼ同一の(矩形状の)平面形状およびサイズを有している。
ただし当該マスク3は、平面視における一部の領域のみにおいて透光部3aと遮光部3bとのパターンが交互に繰り返される構成を有している。具体的には、図13においてはその左右方向に関する中央部よりやや左寄りの狭い領域のみにおいて透光部3aと遮光部3bとの双方のパターンが交互に繰り返された態様を有しているが、それ以外の大半の領域には透光部3aが形成されず、その全体が遮光部3bとなっている。
当該マスク3を用いて、実施の形態1の図3の工程と同様の露光処理がなされる。
図14を参照して、図13のマスク3を用いて、実施の形態1の図4の工程と同様の現像処理がなされ、感光性ペースト2が残存部5aと非残存部5bとを有する露光後ペースト5となる。
図15を参照して、実施の形態1の図5の工程と同様にリンス処理がなされ、残存部5aが(互いに間隔をあけた複数の)転写パターン6として形成される。ただし透光部3aの範囲が実施の形態1に比べて狭いため、転写パターン6が形成される範囲も実施の形態1に比べて狭い。
図16を参照して、実施の形態1の図6および図7の工程と同様に無地セラミックグリーンシート8が準備され、シート上側主表面8a上にバインダ材料9が形成される。ただし本実施の形態においては、バインダ材料9は無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域のみに形成される。具体的には、後述するようにバインダ材料9と転写パターン6とを対向させながら接触させる際に、転写パターン6が接触し得る領域に対応する領域のみにバインダ材料9が形成される。この点において本実施の形態は、シート上側主表面8a上のほぼ全面にバインダ材料9が形成される実施の形態1とは異なっている。ただし実施の形態1,2のいずれにおいても、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の少なくとも一部にバインダ材料9が形成される。
図17を参照して、実施の形態1の図8の工程と同様に、転写パターン6とバインダ材料9とが対向されながら互いに接触される。そしてパターン上側主表面6aとバインダ上側主表面9aとが互いに接触された状態で、加圧および加熱され、両者が密着される。
図18を参照して、実施の形態1の図9の工程と同様に、転写パターン6を転写させることにより、転写パターン6が無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に接着されるように形成され、フィルム1が転写パターン6から剥がされる。これにより、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域(すなわちバインダ材料9が形成された領域)のみに転写パターン6が拡がるように形成される。
この点において本実施の形態は、転写パターン6の形成される領域がシート上側主表面8a上のほぼ全面に形成されるバインダ材料9のほぼ全面に拡がっている実施の形態1とは異なっている。
なお実施の形態1においても転写パターン6は互いに間隔をあけて複数形成されるため、平面視において転写パターン6の形成されない領域が存在する。しかしながら少なくとも転写パターン6は、無地セラミックグリーンシート8の平面視におけるほぼ全面に拡がるように形成されている。このため実施の形態1のような状態をここでは無地セラミックグリーンシート8の全面に転写パターン6が形成されると表現する。そして本実施の形態のように転写パターン6が無地セラミックグリーンシート8の主表面上の一部の領域のみにしか拡がらないように分布される態様を、ここでは無地セラミックグリーンシート8の主表面上の一部の領域のみに転写パターン6が形成されると表現する。ここではこのように表現し分けることにより、両者を区別している。
図19を参照して、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上のうち、バインダ材料9が形成された領域(一部の領域)以外の領域(他の領域)に、たとえばスクリーン印刷法により感光性ペースト2(図2参照)のようなペースト状材料を供給することにより、印刷パターン11が形成される。印刷パターン11の具体的な形成方法は、たとえば実施の形態1の比較例の図10〜図12に示す方法に準ずる。印刷パターン11は互いに間隔をあけて複数形成される。以上により、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上にバインダ材料9と(複数の、乾燥された)転写パターン6とが積層された構成および(複数の)印刷パターン11を有するセラミックグリーンシート102が形成される。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は、実施の形態1の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏する。
実施の形態1における転写部材7を用いて形成された高精細な転写パターン6は、これを焼成する際に、これが形成される無地セラミックグリーンシート8とのいわゆる収縮整合性が良好でない場合がある。ここで収縮整合性とは、転写パターン6と無地セラミックグリーンシート8と(バインダ材料9と)の材質が異なるために生じ得る焼成時の収縮量の差および収縮のタイミングの差が原因で、これらの密着性が低下したり、焼成後の生成物が破損したりする程度を意味する。つまり収縮整合性が良好でないとは、上記タイミングの差が大きく、収縮により焼成後に破損する可能性が高いことを意味する。具体的には、無地セラミックグリーンシート8とその上の転写パターン6との収縮整合性が良好でないとは、無地セラミックグリーンシート8の主表面に沿う方向に関する寸法20mmにつき、無地セラミックグリーンシート8の主表面に交差する厚み方向に関する反りが約0.05μmを超えて発生する状態をいう。また逆に当該反りが約0.05μm以下である場合を、上記収縮整合性が良好であるという。
そこで本実施の形態においては、このような収縮整合性が良好でない転写パターン6を形成する領域を、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8aのうち一部の領域に限定し、他の領域には無地セラミックグリーンシート8との収縮整合性が良好な、厚膜の印刷パターン11が形成される。
印刷パターン11は、無地セラミックグリーンシート8との収縮整合性を良好にする観点から、比較的厚く形成される場合がある。具体的には、印刷パターン11の(主表面に交差する方向の)厚みは、たとえば転写パターン6の(主表面に交差する方向の)厚みの50%以上150%以下であることが好ましい。
このようにすれば、たとえば実施の形態1のセラミックグリーンシート101のように転写パターン6の形成される領域が無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8aのほぼ全面に拡がる場合に比べて、収縮整合性が良好でない領域の割合が少なくなる。このため局所的な収縮ずれを吸収し、セラミックグリーンシート102の収縮整合性を良好にすることができる。
本実施の形態は、たとえば高周波信号を伝送するために高精細な配線パターン等が必要な領域が、形成される多層セラミック部品等の一部の領域に限定される場合に好適である。
(実施の形態3)
本実施の形態は、無地セラミックグリーンシート8上における実施の形態2の厚膜の印刷パターン11が、転写による高精細な配線パターン等が形成される前に形成される。この点において本実施の形態は、印刷パターン11が転写パターン6の転写の後に形成される実施の形態2とは異なっている。以下、図20〜図23を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態1,2と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図20を参照して、本実施の形態においても互いに対向するシート上側主表面8aおよびシート下側主表面8bを有する無地セラミックグリーンシート8が準備される。次に、無地セラミックグリーンシート8のうち高精細な配線パターンが必要ではない領域において、たとえばシート上側主表面8a上に、スクリーン印刷法による印刷パターン11が形成される。ここで印刷パターン11は、たとえばシート上側主表面8a上のうち実施の形態2において印刷パターン11が形成される領域と同じ領域に、互いに間隔をあけて形成される。また印刷パターン11は、実施の形態2と同様に、無地セラミックグリーンシート8との収縮整合性を良好とする厚みとなっている。
図21を参照して、印刷パターン11が形成された後に、実施の形態2の図16の工程と同様に、シート上側主表面8a上にバインダ材料9が形成される。ここでバインダ材料9は、シート上側主表面8a上のうち、たとえば図16においてバインダ材料9が形成された領域と同じ領域(印刷パターン11が形成された領域以外の領域)のみに形成される。このように本実施の形態においても、バインダ材料9は無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域のみに形成される。
図22および図23を参照して、実施の形態2の図17および図18の工程と同様の処理がなされることにより、バインダ材料9のバインダ上側主表面9a上に転写パターン6が、たとえば複数互いに間隔をあけて形成される。
以上により、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上にバインダ材料9と(複数の、乾燥された)転写パターン6とが積層された構成および(複数の)印刷パターン11を有するセラミックグリーンシート103が形成される。図23のセラミックグリーンシート103は外見上は図19のセラミックグリーンシート102とほぼ同一の構成を有している。しかし本実施の形態のセラミックグリーンシート103は、印刷パターン11が、無地セラミックグリーンシート8へのバインダ材料9の形成および転写パターン6の転写の前に形成されている。この点において本実施の形態は、バインダ材料9の形成および転写パターン6の転写の後に印刷パターン11が形成される実施の形態2の製造方法と異なっている。
次に、比較例およびその課題等を説明しながら、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は、実施の形態1,2の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏する。
図24を参照して、本実施の形態の比較例においては、たとえば実施の形態2と同様に、無地セラミックグリーンシート8上に、先にバインダ材料9および転写パターン6が形成され、その後に印刷パターン11が形成された態様を示している。
ここでスクリーン印刷法は、基本的に段差がある被印刷体に対して精度よく印刷することが困難な印刷方法である。このため図24のように先にバインダ材料9および転写パターン6が形成されシート上側主表面8a上に段差が形成された後に印刷パターン11を形成すれば、印刷パターン11を形成するために用いる(たとえば図10のスクリーン版92のような)マスクの縁部が転写パターン6の縁部に意図せず重なってしまう場合がある。これにより先に形成された転写パターン6などの端部に欠損が生じ、当該欠損による空隙部に印刷パターン11を形成するためのペーストが流れ込む可能性がある。
あるいはシート上側主表面8a上の転写パターン6などによる段差により、印刷パターン11を形成するために用いるマスクが被印刷体の表面に届かなくなるため印刷パターン11が被印刷体の表面に届かず、印刷パターン11のインクがかすれるなどの不具合が生じる可能性もある。以上により図24のようにたとえば印刷パターン11のインクがバインダ材料9側に過剰に流れ込み両者が接触する(印刷パターン11のインクがにじむ)などの不具合などが生じる可能性がある。
以上の不具合は、転写パターン6などの厚みが大きい場合に特に生じやすくなる。具体的には、転写パターン6の厚み方向に関する突起量が上記の複数の印刷パターン11のうち隣り合う1対の印刷パターン11の間の、シート上側主表面8aに沿う方向の距離の1/4以上であれば、上記の不具合が生じやすくなる。たとえば隣り合う1対の印刷パターン11の間の間隔が100μmである場合、転写パターン6の突起量が25μm以上であれば印刷パターン11が形状不良を生じる可能性が高くなる。以上より、転写パターン6の突起量に対して隣り合う1対の印刷パターン11の間隔が短くなれば、印刷パターン11の形状不良が生じやすくなるといえる。
なおここで転写パターン6の突起量とは転写パターン6のバインダ上側主表面9aに対して厚み方向に突起する量を示す。転写パターン6はその転写工程の際に少しバインダ上側主表面9aに対して下方にめり込むため、転写パターン6本体の厚みと区別する観点からこのように「突起量」と表現している。
そこで本実施の形態においてはシート上側主表面8a上に何も形成されておらずこれが平坦な状態で、転写パターン6などよりも先に印刷パターン11が形成される。これにより上記のような印刷パターン11の印刷かすれまたはにじみなどの不具合の発生を抑制することができる。したがって転写パターン6および印刷パターン11の双方の形状を安定させ、これら両者の電気的特性を向上させることができる。
(実施の形態4)
本実施の形態は、高精細な転写パターンが、実施の形態1〜3よりも厚く形成される。以下、図25〜図30を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態1と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図25を参照して、まず本実施の形態においても実施の形態1の図1〜図2と同様の処理がなされる。その後、フィルム上側主表面1aの上に形成された感光性ペースト2の上に積層されるように、感光性ペースト12が供給および乾燥される。この感光性ペースト12は、感光性ペースト2と同様の手順により、すなわちたとえばスクリーン印刷法により感光性ペースト2の上に塗布されるように供給される。感光性ペースト12は感光性ペースト2と同一の材質(たとえば配線パターン用の導体材料)により形成される。
このように本実施の形態においては、感光性ペースト2,12のパターンが複数積層されるように形成される。これにより最終的には一体としての、感光性ペースト2などよりも厚い感光性ペースト13が形成される。なお図25においては2層の感光性ペースト2,12が積層されているが、これに限らず、3層以上の感光性ペーストが積層される態様としてもよい。
図26を参照して、厚い感光性ペースト13が形成されたフィルム1に対して、図3の工程と同様にマスク3を用いた露光処理がなされる。また図27および図28を参照して、図4〜図5の工程と同様に現像処理、リンス処理および乾燥工程がなされる。これにより、厚い感光性ペースト13のうち紫外光4により照射された残存部5aが、最終的に厚い転写パターン14(パターン)として、互いに間隔をあけて複数形成される。転写パターン14は、図の上側の(フィルム1と接触する側と反対側の)パターン上側主表面14aと、パターン上側主表面6aと対向する(フィルム1と接触する側の)パターン下側主表面14bとを有している。以上により、母材としてのフィルム1と、そのフィルム上側主表面1a上の厚い転写パターン14とからなる転写部材7が形成される。
図29および図30を用いて、図28の転写部材7を用いて、図8および図9と同様の処理がなされる。すなわちパターン上側主表面14aと、シート上側主表面8a上のバインダ上側主表面9aとが互いに接触された状態で、加圧および加熱され、たとえば導体の配線パターンである転写パターン14がバインダ材料9上に転写形成される。以上により、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上にバインダ材料9と(複数の、乾燥された)転写パターン14とを有するセラミックグリーンシート104が形成される。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は、実施の形態1の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏する。
本実施の形態のようにフィルム1上に複数の感光性ペースト2,12を積層させて厚い感光性ペースト13を形成することにより、厚い転写パターン14を有するセラミックグリーンシート104を形成することができる。本実施の形態は、転写パターン14としてのたとえば高精細な配線パターン等が、大電流を流す必要があり、または抵抗をより低くする必要があることにより、広い断面積を要する場合に有効である。
なお本実施の形態においては厚い転写パターン14が形成されるため、これに印刷パターン11を併せて形成する場合には、突起量が大きいことによる印刷パターン11の形状不良の発生を抑制する観点から、実施の形態3のように、先に転写パターン14を形成しその後に印刷パターン11を形成することがより好ましい。
(実施の形態5)
本実施の形態においては、実施の形態1〜3のセラミックグリーンシートの製造方法を応用して、無地セラミックグリーンシートにキャパシタ素子が形成される。以下、図31〜図49を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態1〜3と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図31を参照して、まず実施の形態1の図1〜図2と同様の処理がなされた後、透光部3aと遮光部3bとを有するマスク3が準備される。このマスク3においては、露光機によりマスク3がフィルム1に重畳された際にキャパシタ素子を形成するための転写パターンを形成したい領域に対応する領域に透光部3aが、それ以外の領域に遮光部3bが、形成されている。そして当該マスク3を用いて、実施の形態1の図3の工程と同様の露光処理がなされる。
図32および図33を参照して、実施の形態1の図4および図5の工程と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に、導体材料からなる転写パターン6が形成され、転写部材7が形成される。
図34を参照して、実施の形態2などと同様に、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域にバインダ材料9が形成される。このバインダ材料9は、シート上側主表面8a上のうち特にキャパシタ素子を形成したい領域に対応する領域に形成される。ただしバインダ材料9は実施の形態1のように、シート上側主表面8a上のほぼ全面に形成されてもよい。
図35および図36を参照して、実施の形態1の図8および図9と同様の処理がなされることにより、バインダ材料9上に転写パターン6が転写される。この転写パターン6は導体から形成され、キャパシタ素子の下部電極として機能する部分である。なお図36においては単一の転写パターン6のみが示されているが、必要に応じて互いに間隔をあけて複数の転写パターン6が転写形成されてもよい。
図37を参照して、再度図1の工程と同様のフィルム1が準備され、フィルム上側主表面1a上に、感光性ペースト15が、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給され乾燥される。ここで供給される感光性ペースト15は、キャパシタの上部電極と下部電極との間に挟まれる誘電体を形成するためのものである。このため当該感光性ペースト15は、上記感光性ペースト2を構成する導体の粉末の代わりに、以下の群から選択される1以上の任意の種類数の金属酸化物粉末が適宜混合されたものと、感光性樹脂とを混ぜ込むことにより得られる。上記金属酸化物粉末は具体的には、酸化ホウ素(B2O3)、アルミナ(Al2O3)、チタン酸化ホウ素(Ti2BO3)、酸化シリコン(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化鉛(PbO)からなる群である。
図38を参照して、再度透光部3aと遮光部3bとを有するマスク3が準備される。ここでも露光機によりマスク3がフィルム1に重畳された際にキャパシタ素子を形成するための転写パターンを形成したい領域に対応する領域に透光部3aが、それ以外の領域に遮光部3bが、形成されている。そして当該マスク3を用いて、感光性ペースト15に対して露光処理がなされる。
図39を参照して、現像処理により、感光性ペースト15は、透光部3aの真下であり紫外光4により照射された領域が残存部16aとして残存し、遮光部3bの真下であり紫外光4により照射されなかった領域が非残存部16bとして少なくとも部分的に除去される。このようにして感光性ペースト15は、残存部16aと非残存部16bとを有する露光後ペースト16となる。
図40を参照して、露光後ペースト16を含むフィルム1に対してリンス処理および乾燥工程がなされる。これにより非残存部16bが完全に除去され、残存部16aが転写パターン17として形成される。転写パターン17は、図の上側の(フィルム1と接触する側と反対側の)パターン上側主表面17aと、パターン上側主表面17aと対向する(フィルム1と接触する側の)パターン下側主表面17bとを有している。これにより、母材としてのフィルム1と、そのフィルム上側主表面1a上の転写パターン17とからなる転写部材7が形成される。
図41を参照して、無地セラミックグリーンシート8上の積層構造のうち最上層の転写パターン6のパターン上側主表面6b上に、たとえばスクリーン印刷法により、再度バインダ材料9が形成される。ここではバインダ材料9のうち図の上側の(転写パターン6と接触する側と反対側の)主表面がバインダ上側主表面9aであり、図の下側の(転写パターン6と接触する側の)主表面がバインダ下側主表面9bである。
図42を参照して、当該最上層のバインダ材料9のバインダ上側主表面9aと、上記の転写パターン17のパターン上側主表面17aとが互いに接触された状態で、上記と同様に加圧および加熱される。これにより図43を参照して、上記と同様にバインダ上側主表面9a上に、金属酸化物を含む転写パターン17が転写される。この転写パターン17はキャパシタ素子の上部電極と下部電極との間に挟まれる誘電体として機能する部分である。なおこのときも、上記の導体の転写パターン6を転写するときと基本的に同一の加圧力10および加熱温度の条件により転写することが可能である。
図44、図45および図46を参照して、再度図31〜図33の工程と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に、導体材料からなる転写パターン6が形成される。
図47を参照して、無地セラミックグリーンシート8上の積層構造のうち最上層の転写パターン17のパターン上側主表面17b上に、たとえばスクリーン印刷法により、再度バインダ材料9が形成される。ここではバインダ材料9のうち図の上側の(転写パターン17と接触する側と反対側の)主表面がバインダ上側主表面9aであり、図の下側の(転写パターン17と接触する側の)主表面がバインダ下側主表面9bである。
図48を参照して、当該最上層のバインダ材料9のバインダ上側主表面9aと、図46の転写パターン6のパターン上側主表面6aとが互いに接触された状態で、上記と同様に加圧および加熱される。これにより図49を参照して、上記と同様にバインダ上側主表面9a上に転写パターン6が転写される。この転写パターン6は導体から形成され、キャパシタ素子の上部電極として機能する部分である。
以上のように、本実施の形態においては、感光性ペースト2,15の転写パターン6,17を形成する工程と、無地セラミックグリーンシート8上にバインダ材料9を形成する工程と、当該バインダ材料9上に転写パターン6,17を転写形成する工程とからなる成膜工程が3回繰り返される。そのうち1回目(図31〜図36)および3回目(図44〜図49)の成膜工程においては感光性導体ペーストの転写パターン6が形成され、2回目(図37〜図43)の成膜工程においては感光性誘電体ペーストの転写パターン17が形成される。そして1回目、2回目および3回目のそれぞれの成膜工程において無地セラミックグリーンシート8の上に転写される転写パターン6,17同士が互いに重畳されることにより、下部電極と誘電体と上部電極とがこの順に積層されたキャパシタ素子が形成される。各部材の間ごとにバインダ材料9が挟まれるが、この部分と転写パターン17とを含めて単一の誘電体として機能することができる。
以上により、下部電極と誘電体と上部電極とがこの順に積層されたキャパシタ素子を有するセラミックグリーンシート105が形成される。なお以上において、無地セラミックグリーンシート8上に積層されるキャパシタ素子の下層から転写パターン6、転写パターン17、転写パターン6の順に平面視におけるサイズが小さくなっている。しかしこのような態様に限らず、たとえば互いに積層される転写パターン6、転写パターン17および転写パターン6がすべて平面視におけるサイズがほぼ等しくなるように形成されていてもよい。
なお本実施の形態においても、たとえば実施の形態2,3と同様に、必要に応じて、無地セラミックグリーンシート8のキャパシタ素子が形成される領域以外の領域に、印刷パターン11が形成されてもよい。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態においては、実施の形態1〜3などと同様の、転写部材7を用いた転写形成により高精細なパターンを形成することにより、パターンおよび無地セラミックグリーンシート8での欠損の発生が抑制された高精細なキャパシタ素子を形成することができる。したがって本実施の形態は、特に高い精度が要求されるキャパシタ素子を形成する場合に実益がある。
なお、キャパシタ素子に求められる静電容量の精度が概ね目標値±20%以上のばらつきが許容される場合には、たとえば下部電極が、上記の転写による形成方法の代わりに通常のスクリーン印刷法により形成されてもよい。
(実施の形態6)
本実施の形態においても実施の形態5と同様に、実施の形態1〜3のセラミックグリーンシートの製造方法を応用して、無地セラミックグリーンシートにキャパシタ素子が形成されるが、その手順において実施の形態5とは若干の相違がある。以下、図50〜図59を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態5と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図50を参照して、まず実施の形態5の図31〜図33と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に、キャパシタ素子の上部電極として機能する部分である転写パターン6が形成される。その後に、形成された転写パターン6を覆うように、フィルム上側主表面1a上のほぼ全面に、感光性ペースト15が、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給され乾燥される。この感光性ペースト15は実施の形態5と同様に金属酸化物粉末を含んでいる。次に、たとえば図38の工程と同様のマスク3を用いて、感光性ペースト15に対して露光処理がなされる。マスク3は、たとえば転写パターン6と平面的に重なる領域の少なくとも一部に透光部3aが形成され、それ以外の領域に遮光部3bが形成されたものが用いられる。
図51を参照して、実施の形態5の図39の工程と同様の現像処理により、感光性ペースト15は、透光部3aの真下すなわち転写パターン6の真上の少なくとも一部の領域において残存部16aとして残存する。また遮光部3bの真下であり紫外光4により照射されなかった領域が非残存部16bとして少なくとも部分的に除去される。
図52を参照して、実施の形態5の図40の工程と同様のリンス処理および乾燥工程により、残存部16aが転写パターン17として形成される。転写パターン17は、図の上側の(パターン上側主表面6aと接触する側と反対側の)パターン上側主表面17aと、パターン上側主表面17aと対向する(パターン上側主表面6aと接触する側の)パターン下側主表面17bとを有している。つまり転写パターン17は、転写パターン6の上に積層するように形成される。この転写パターン17は、キャパシタ素子の上部電極と下部電極との間に挟まれる誘電体として機能する部分である。
図53を参照して、図52にて転写パターン6上に形成された転写パターン17を覆うように、フィルム上側主表面1a上のほぼ全面に、感光性ペースト2が、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給され乾燥される。この感光性ペースト2は導体粉末を含んでいる。
図54を参照して、次に、たとえば図44の工程と同様のマスク3を用いて、感光性ペースト2に対して露光処理がなされる。マスク3は、たとえば転写パターン17と平面的に重なる領域の少なくとも一部に透光部3aが形成され、それ以外の領域に遮光部3bが形成されたものが用いられる。
図55を参照して、図51の工程と同様の現像処理により、感光性ペースト2は、透光部3aの真下すなわち転写パターン17の真上の少なくとも一部の領域において残存部16aとして残存する。
図56を参照して、図52の工程と同様のリンス処理および乾燥工程により、残存部16aが転写パターン6として形成され、非残存部16bは除去される。転写パターン6は、図の上側の(パターン上側主表面17aと接触する側と反対側の)パターン上側主表面6aと、パターン上側主表面6aと対向する(パターン上側主表面17aと接触する側の)パターン上側主表面6bとを有している。つまり転写パターン6は、転写パターン17の上に積層するように形成される。この転写パターン6は、キャパシタ素子の下部電極として機能する部分である。
以上により、フィルム1上には、転写パターン6と転写パターン17と転写パターン6との積層パターンが、互いに重畳するようにこの順に積層された態様として形成される。
図57を参照して、実施の形態5の図34の工程と同様に、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域にバインダ材料9が形成される。
図58および図59を参照して、実施の形態5の図35および図36などと同様の処理がなされることにより、上記の積層パターンが一括してバインダ材料9上に転写される。これにより、無地セラミックグリーンシート8上には、バインダ材料9を挟んで、転写パターン6と転写パターン17と転写パターン6との積層パターンが、互いに重畳するようにこの順に積層されたキャパシタ素子が形成される。
以上のように、本実施の形態においては、感光性導体ペーストの転写パターン6と、感光性誘電体ペーストの転写パターン17と、感光性導体ペーストの転写パターン6との積層パターンが互いに重畳するようにこの順に、フィルム1上に積層されることにより、これらの積層パターンを有する転写部材が形成される。その後その転写部材の積層パターンが一括して無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に転写される。
以上により、下部電極と誘電体と上部電極とがこの順に積層されたキャパシタ素子を有するセラミックグリーンシート106が形成される。この点において本実施の形態は、転写部材に各転写パターン6,17が個別に形成されその都度無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に転写される実施の形態5とは異なっている。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態においては、キャパシタ素子を構成する上部および下部電極としての導体の転写パターン6と、誘電体の転写パターン17とが単一の転写部材中に一括して形成され、それらが一括して転写されることによりセラミックグリーンシート106が形成される。このため、キャパシタ素子を構成する各層が個別に転写パターンとして形成されるたびに個別に転写される実施の形態5に比べて少ない工程数で、高精細なキャパシタ素子を形成することができる。本実施の形態についても、特に高い精度が要求されるキャパシタ素子を形成する場合に実益がある。
(実施の形態7)
本実施の形態においては、実施の形態1〜3のセラミックグリーンシートの製造方法を応用して、無地セラミックグリーンシートに抵抗素子が形成される。以下、図60〜図71を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態1〜3と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図60を参照して、まず実施の形態1の図1〜図2と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に感光性ペースト2が供給され乾燥される。ただしここでは最終的に抵抗素子の対向電極を形成するための感光性ペースト2が供給されるため、上記の各実施の形態において供給される感光性ペースト2よりも厚みがやや薄くなるように供給されることが好ましい。
図61、図62および図63を参照して、実施の形態1の図3、図4および図5の工程と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に、導体材料からなる転写パターン6が形成され、転写部材7が形成される。
図64および図65を参照して、実施の形態5の図34、図35および図36などと同様に、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域にバインダ材料9が形成され、その上に転写パターン6が転写される。ここではバインダ材料9はシート上側主表面8a上のうち特に抵抗素子を形成したい領域に対応する領域に形成されるが、シート上側主表面8a上のほぼ全面に形成されてもよい。
これにより、バインダ材料9のバインダ上側主表面9a上には、たとえば互いに間隔をあけて1対の転写パターン6が転写される。この転写パターン6は導体から形成され、抵抗素子を構成する1対の対向電極として機能する部分である。なお図65においては1つのバインダ材料9上に形成された1対の転写パターン6のみが示されているが、必要に応じて互いに間隔をあけて複数のバインダ材料9およびそれぞれの上に1対の転写パターン9の組が転写形成されてもよい。
図66を参照して、再度図1の工程と同様のフィルム1が準備され、フィルム上側主表面1a上に、感光性ペースト18が、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給され乾燥される。ここで供給される感光性ペースト15は、抵抗素子を構成する抵抗体パターンを形成するためのものである。このため当該感光体ペースト18は、たとえば上記感光性ペースト2を構成する導体の粉末の代わりに、以下の粉末を含んでいる。すなわち感光体ペースト18は、酸化ルテニウム(RuO2)および/または銀パラジウム(AgPd)などの抵抗体(高抵抗導体を含む)の粉末を含み、それと感光性樹脂とを混ぜ込むことにより得られたものである。なお上記の酸化ルテニウム(RuO2)および/または銀パラジウム(AgPd)などの抵抗体にさらにガラスを一定割合で添加することにより、当該抵抗体の電気抵抗値が所望の値となるように調整されたものが用いられてもよい。
図67を参照して、再度透光部3aと遮光部3bとを有するマスク3が準備される。透光部3aは抵抗素子用の転写パターンを形成したい領域に対応する領域に形成されている。そして当該マスク3を用いて、感光性ペースト18に対して露光処理がなされる。
図68を参照して、現像処理により、感光性ペースト18は、透光部3aの真下であり紫外光4により照射された残存部19aと、遮光部3bの真下であり紫外光4により照射されなかった非残存部19bとを有する露光後ペースト19となる。
図69を参照して、露光後ペースト16を含むフィルム1に対してリンス処理および乾燥工程がなされ、残存部19aが転写パターン20として形成される。転写パターン20は、図の上側の(フィルム1と接触する側と反対側の)パターン上側主表面20aと、パターン上側主表面20aと対向する(フィルム1と接触する側の)パターン下側主表面20bとを有している。これにより、母材としてのフィルム1と、そのフィルム上側主表面1a上の転写パターン20とからなる転写部材7が形成される。
図70を参照して、無地セラミックグリーンシート8上の積層構造のうち最上層の転写パターン6のパターン上側主表面6a上に、実施の形態5の図41と同様に、たとえばスクリーン印刷法により、再度バインダ材料9が形成される。
その後、たとえば最上層の1対のバインダ材料9のバインダ上側主表面9aを跨ぐように、上記の転写パターン20のパターン上側主表面20aの少なくとも一部が1対のバインダ上側主表面9aのそれぞれに接触した状態で、上記と同様に加圧および加熱される。これにより図71を参照して、1対のバインダ上側主表面9a上に、これらを跨ぐように、抵抗体を含む転写パターン20が転写される。この転写パターン20は抵抗素子の抵抗体パターンとして機能する部分である。なおこのときも、上記の導体の転写パターン6を転写するときと基本的に同一の加圧力10および加熱温度の条件により転写することが可能である。
以上のように、本実施の形態においては、感光性ペースト2,18の転写パターン6,20を形成する工程と、無地セラミックグリーンシート8上にバインダ材料9を形成する工程と、当該バインダ材料9上に転写パターン6,20を転写形成する工程とからなる成膜工程が2回繰り返される。そのうち1回目(図60〜図65)の成膜工程においては感光性導体ペーストの転写パターン6が形成され、2回目(図66〜図71)の成膜工程においては感光性抵抗体ペーストの転写パターン20が形成される。そして1回目および2回目のそれぞれの成膜工程において無地セラミックグリーンシート8の上に転写される転写パターン6,20同士が、(たとえば1対の転写パターン6の少なくとも一部と平面的に重なるようにこれらを跨ぐように)少なくとも部分的に重畳されることにより、1対の対向電極および抵抗体パターンを有する抵抗素子が形成される。
以上により、1対の対向電極および抵抗体パターンがこの順に積層された抵抗素子を有するセラミックグリーンシート106が形成される。なお以上において、1対の対向電極としての転写パターン6に比べて、抵抗体パターンとしての転写パターン20の平面視におけるサイズが小さくなっている。しかしこのような態様に限らず、たとえば互いに積層される1対の転写パターン6(これらの間に挟まれる領域を含む)の平面視における面積の和と、これらを跨ぐ転写パターン20の平面視における面積とがほぼ等しくなるように形成されていてもよい。
ただし図72および図73を参照して、ここでは図70および図71の工程の変形例として、図70のように再度バインダ材料9を形成することなく、最上層の転写パターン6のパターン上側主表面6aを跨ぐように、シート上側主表面8aに接するバインダ材料9上に抵抗体を含む転写パターン20が直接転写されてもよい。この場合は、感光性ペースト2,18の転写パターン6,20を形成する工程と、バインダ材料9上に転写パターン6,20を転写形成する工程とからなる成膜工程は2回繰り返されるが、バインダ材料9を形成する工程は1回のみとなる。このため図70および図71の工程を用いた場合に比べて工程数を削減することができる。またこの場合においても、1回目および2回目のそれぞれの成膜工程において無地セラミックグリーンシート8の上に転写される転写パターン6,20同士が、(たとえば1対の転写パターン6の少なくとも一部と平面的に重なるようにこれらを跨ぐように)少なくとも部分的に重畳されることにより、1対の対向電極および抵抗体パターンを有する抵抗素子が形成される。
なお本実施の形態においても、たとえば実施の形態2,3と同様に、必要に応じて、無地セラミックグリーンシート8の抵抗素子が形成される領域以外の領域に、印刷パターン11が形成されてもよい。また上記においては対向電極を形成した後に抵抗体を形成しているが、逆に抵抗体を形成した後に対向電極を形成する構成としてもよい。
以上により、対向電極と抵抗体とがたとえばこの順に積層された抵抗素子を有するセラミックグリーンシート107が形成される。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態においては、実施の形態1〜3などと同様に、転写部材7を用いた転写形成により高精細なパターンを形成することにより、パターンおよび無地セラミックグリーンシート8での欠損の発生が抑制された高精細な抵抗素子を形成することができる。したがって本実施の形態は、特に高い精度が要求される抵抗素子を形成する場合に実益がある。
(実施の形態8)
本実施の形態においても実施の形態7と同様に、実施の形態1〜3のセラミックグリーンシートの製造方法を応用して、無地セラミックグリーンシートに抵抗素子が形成されるが、その手順において実施の形態7とは若干の相違がある。以下、図74〜図79を用いて、本実施の形態における多層セラミック部品を構成するセラミック基板を形成するためのセラミックグリーンシートの製造方法について説明する。ただし以下において実施の形態7と重複する箇所においては同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図74を参照して、まず実施の形態7の図60〜図63と同様の処理がなされることにより、フィルム上側主表面1a上に、抵抗素子を構成する1対の対向電極として機能する部分である転写パターン6が形成される。その後に、形成された転写パターン6を覆うように、フィルム上側主表面1a上のほぼ全面に、感光性ペースト18が、たとえばスクリーン印刷法により塗布されるように供給され乾燥される。この感光性ペースト18は実施の形態7と同様に抵抗体の粉末を含んでいる。
図75を参照して、次に、たとえば実施の形態7の図67の工程と同様のマスク3を用いて、感光性ペースト18に対して露光処理がなされる。マスク3は、感光性抵抗体パターンを形成すべき領域と平面的に重なる領域に透光部3aが形成され、それ以外の領域に遮光部3bが形成されたものが用いられる。
図76を参照して、実施の形態7の図68および図69の工程と同様の現像処理、リンス処理および乾燥工程により、感光性ペースト18の露光後の残存部が転写パターン20として形成される。転写パターン20は、フィルム1上の1対の転写パターン6を跨ぐように、つまり転写パターン20の少なくとも一部が1対の転写パターン6のそれぞれのパターン上側主表面6aの少なくとも一部と接触するように、形成される。このようにして、図の上側の(フィルム1と反対側の)パターン上側主表面20aと、図の下側の(1対の転写パターン20の間の領域においてフィルム上側主表面1aに接する)パターン下側主表面20bとを有する転写パターン20が形成される。この転写パターン20は抵抗素子の抵抗体パターンとして機能する部分である。
以上により、フィルム1上には、たとえば互いに間隔をあけて形成された1対の転写パターン6と、当該1対の転写パターン6のそれぞれのパターン上側主表面6aの少なくとも一部と接触するように形成された転写パターン20とが、少なくとも部分的に重畳するようにこの順に積層された積層パターンが形成される。
図77を参照して、実施の形態7の図64と同様に、無地セラミックグリーンシート8のシート上側主表面8a上の一部の領域にバインダ材料9が形成される。
図78および図79を参照して、上記の他の実施の形態と同様の加圧および加熱による処理がなされることにより、上記の積層パターンが一括してバインダ材料9上に転写される。これにより、無地セラミックグリーンシート8上には、バインダ材料9を挟んで、1対の転写パターン6と、これら双方の少なくとも一部と重畳するように積層された転写パターン20とからなる抵抗素子が形成される。
なお図79においては、図78において転写パターン20の比較的上方にある1対の転写パターン6が、加圧により転写パターン20の比較的下方に、バインダ材料9と接触するように転写されている。しかしこのような態様に限らず、たとえば転写後においても転写前と同様に転写パターン20の比較的上方に1対の転写パターン6が配置されてもよい。また上記においては対向電極を形成した後に抵抗体を形成しているが、逆に抵抗体を形成した後に対向電極を形成する構成としてもよい。
以上のように、本実施の形態においては、感光性導体ペーストの転写パターン6と、感光性抵抗体ペーストの転写パターン20とが、少なくとも部分的に重畳するように、たとえばこの順に、フィルム1上に積層されることにより、これらの積層パターンを有する転写部材が形成される。その後その転写部材の積層パターンが一括して無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に転写される。
以上により、対向電極と抵抗体とがたとえばこの順に積層された抵抗素子を有するセラミックグリーンシート108が形成される。この点において本実施の形態は、転写部材に各転写パターン6,20が個別に形成されその都度無地セラミックグリーンシート8上のバインダ材料9上に転写される実施の形態7とは異なっている。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態においては、抵抗素子を構成する対向電極としての導体の転写パターン6と、抵抗体の転写パターン20とが単一の転写部材中に一括して形成され、それらが一括して転写されることによりセラミックグリーンシート108が形成される。このため、抵抗素子を構成する各層が個別に転写パターンとして形成されるたびに個別に転写される実施の形態7に比べて少ない工程数で、高精細な抵抗素子を形成することができる。本実施の形態についても、特に高い精度が要求されるキャパシタ素子を形成する場合に実益がある。
図80を参照して、なお実際には、以上に述べた実施の形態1〜8で形成されたセラミックグリーンシート101〜108が複数積層されたセラミック基板シート111が形成される。図80では一例として、焼成前のセラミックグリーンシート101を焼成前セラミックグリーンシート101aで示し、これがたとえば5層積層されることにより形成されたセラミック基板シート111を示している。
図81を参照して、セラミック基板シート111が焼成されることにより、セラミック基板112が形成される。なお図81においては、焼成後のセラミックグリーンシート101,102,103,104,105,106のそれぞれを焼成後セラミック基板101b,102b,103b,104b,105b,106bで示している。ただし焼成によりこれらの複数のセラミックグリーンシートが一体化されるため、実際には各焼成後セラミック基板101b〜106bの境界線は消滅する。
なお図81においては、セラミック基板112を形成するために積層される複数のセラミックグリーンシート101〜108が任意に組み合わせ可能であることを説明するために、(図80とは異なり)セラミックグリーンシート101〜106のそれぞれが合計6層積層された構成を示している。
上記のセラミック基板112は、転写工程で形成された高精細なパターンにより構成される配線および素子等を含んでいる。このため特に高い精度を有する配線および素子等を含むセラミック基板112を、たとえば電子部品およびパッケージとして用いられる多層セラミック部品として、提供することができる。
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。