本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る核融合中性子発生装置は、真空容器内に設けられた水素吸蔵材料を備え、水素吸蔵材料の温度を制御して燃料ガスの吸蔵量および放出量を制御することにより、ガス排気システムおよびガス導入システムを用いることなく中性子や荷電粒子の発生を制御するものである。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。
核融合中性子発生装置10は、図1に示すように、陽極を兼ねた真空容器11、真空容器11の内部に配置された陰極12、陰極12に所定の高電圧を印加するための高電圧導入端子13および高電圧印加手段14、水素吸蔵ユニット15、および温度調整手段16を有する。
真空容器11の形状は、球形、円筒形、6面体など任意の形状が選択可能である。真空容器11は、たとえばアルミニウムやSUS304などのステンレス、チタンなどの導電性の物質で構成されてもよいし、ガラスなどの絶縁性の物質で構成されていてもよい。
陽極は、真空容器11の内壁と陰極12との間に設置され、導電性の物質により構成される。陽極の形状は、陰極12の形状に応じて任意に選択可能である。真空容器11の内壁がアルミニウム、ステンレスまたはステンレスなどの導電性の物質である場合、真空容器11は陽極を兼ねることができる。
以下の説明では、真空容器11が円筒形状を有し、真空容器11の内壁がSUS304などの導電性の物質で構成され、真空容器11の内壁が陽極を兼ねる場合の例について示す。
陰極12は、陽極の内側に設置され、導電性の材質により構成されたかご状の電極である。かご状の陰極12の幾何学的透過率は、90%以上であることが好ましい。また陰極12の形状は、円筒形状や球形状、リング形状などの形状とすることが可能である。陰極12の材質としては、チタンやタンタルなどの導電性があり高融点の材質であれば、各種の材質を用いることができる。以下の説明では、陰極12が純タングステンにより構成され、幾何学的透過率95%の円筒形状を有する場合の例について示す。すなわち、以下では、陽極を兼ねた円筒形状の真空容器11と、円筒形状の陰極12とが同心軸状に設置されており、電圧を印加した際に、周方向に対称な電場分布となる場合の例について説明する。
なお、陽極と陰極12との間には、導電性の材質からなるかご状の電極である中間電極を設置してもよい。この場合、かご状の中間電極の幾何学的透過率は、90%以上であることが好ましい。また、中間電極の形状は円筒形状や球形状、リング形状などの形状とすることが可能である。中間電極は、陽極と陰極12との間の空間に少なくとも1個以上配置可能である。
陰極12は、高電圧導入端子13によって支持されている。高電圧導入端子13は、真空容器11の外側にある高電圧印加手段14を用いて、真空容器11の内側にある陰極12に電圧、電流を導入する役割がある。高電圧導入端子13は、周囲を絶縁体で囲まれており、真空容器11と陰極12とを電気的に絶縁している。高電圧導入端子13は、真空に関しても、真空容器11の外側(大気圧側)と内側(真空側)とをシールしている。高電圧導入端子13としては、たとえばモリブデンの周囲をアルミナで囲った端子を用いることができる。
高電圧印加手段14は、高電圧導入端子13を介して陰極12に負極性の高電圧を印可するための電源である。
ここで、核融合中性子発生装置10における核融合反応発生の流れについて簡単に説明する。まず、高電圧印加手段14により、陽極を兼ねた真空容器11と陰極12との間に負極性の電圧を印加する。なお、真空容器11は接地されている。陰極12と陽極を兼ねた真空容器11との間の負の電圧によって、円筒形状の真空容器11の円径方向内向きの電場が生じる。この電場により、陽極を兼ねた真空容器11と陰極12との間でグロー放電が生じ、燃料ガスイオンが生成される。陰極12と真空容器11との間の空間で生成されたイオンは、陰極12に向かって加速される。加速されたイオンは、かご状の陰極12の隙間を通過して陰極12の内側に収束される。そして加速、収束されたイオン同士による衝突や、イオンと燃料ガスとの衝突等によって核融合反応が生じる。たとえば、燃料ガスに重水素を用いた場合、核融合反応によって中性子や陽子が発生する。
水素吸蔵ユニット15は、真空容器11の内部に設けられ、温度調整手段16により温度制御されて、真空容器11内の燃料ガスを吸蔵し、あるいは真空容器11内に燃料ガスを放出する。
温度調整手段16は、たとえば電源により構成され、水素吸蔵ユニット15を加熱して昇温することにより、水素吸蔵ユニット15から真空容器11内に燃料ガスを放出させる。また、温度調整手段16は、水素吸蔵ユニット15を冷却して降温することにより、真空容器11内の燃料ガスを水素吸蔵ユニット15に吸蔵させる。
図2は、水素吸蔵ユニット15の一例を示す構成図である。図2に示すように、水素吸蔵ユニット15は、真空容器11内の燃料ガスの圧力を制御するための水素吸蔵材料17、水素吸蔵材料17を加熱するための加熱部18、水素吸蔵材料17を冷却するための冷却部19を有する。
水素吸蔵材料17は、重水素、3重水素、またはこれらの混合ガスから構成された燃料ガスを吸蔵、放出する特性のある材料である。図2には、水素吸蔵材料17がリング形状を有し、ジルコニウムやバナジウムなどから構成された合金により構成される場合の例について示した。
水素吸蔵材料17を構成する合金としては、温度を上昇、下降させることにより、重水素やトリチウムなどの燃料ガスを吸蔵、放出する特性があるものを用いる。水素吸蔵材料17の材料としては、加熱した際も材料が蒸発しない非蒸発性の材料を用いることが好ましいが、蒸発した材料を蒸着させる蒸着面を別途設置等するのであれば、蒸発性の材料を用いてもよい。また、水素吸蔵材料の形状は、円筒形状や6面体形状などの任意の形状を用いることが可能であるが、水素吸蔵材料の表面積が大きく、材料を均等に加熱、降温させることが容易な形状が好ましい。
加熱部18および冷却部19は、真空容器11の壁面に設けられた端子16aおよびケーブル16bを介して温度調整手段16により電流、電圧を印可されて動作を制御される。
加熱部18は、水素吸蔵材料17を加熱するためのヒータである。加熱部18は、水素吸蔵材料17の形状に応じて任意の位置に設置可能である。図2には、加熱部18がリング形状の水素吸蔵材料17の中央部に設置される場合の例を示した。
冷却部19は、水素吸蔵材料17を冷却するための冷却器である。冷却部19は、水素吸蔵材料17の形状に応じて任意の冷却器、形状、設置場所を選択可能である。図2には、冷却部19がペルチェ素子により構成される場合の例を示した。この場合、ペルチェ素子により構成された冷却部19の冷却面19aを円筒形状の水素吸蔵材料17の底面に設置し、ヒートシンクと呼ばれる放熱面19bを真空容器11に接続するとよい。
次に、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
図3(a)は、水素吸蔵材料17からの燃料ガスの放出量と水素吸蔵材料17の温度との関係の一例を示す説明図であり、(b)は真空容器11内の燃料ガス圧力と水素吸蔵材料17の温度との関係の一例を示す説明図であり、(c)は真空容器11内の燃料ガス圧力と水素吸蔵材料17の燃料ガス吸蔵量との関係の一例を示す説明図である。
水素吸蔵材料17は、温度に応じて重水素やトリチウムなどの燃料ガスを放出する特性があり、材料を昇温すると燃料ガスを放出し、降温すると燃料ガスを吸蔵する(図3(a)参照)。燃料ガスは、事前に真空容器11内に封入してもよいし、あるいは、事前に水素吸蔵材料17に燃料ガスを吸蔵させておいてもよい。
水素吸蔵材料17の温度を制御することにより、真空容器11内の燃料ガスの圧力を制御することができる(図3(b)参照)。水素吸蔵材料17の温度を上昇させると、真空容器11内の燃料ガス圧力は上昇し、昇温させると圧力は低下する。真空容器11内の燃料ガス圧力と水素吸蔵材料17の温度との関係は、水素吸蔵材料17の燃料ガスの吸蔵量に応じて変化する。このため、燃料ガスの吸蔵量に応じて水素吸蔵材料17の温度を制御することにより、真空容器11内の燃料ガス圧力を制御することができる(図3(c)参照)。
水素吸蔵材料17の温度制御は、たとえば加熱部18を用いて行う。温度調整手段16を構成する電源から加熱部18に印加する印加電圧、印加電流を制御することにより、加熱部18の発熱量を調整し、水素吸蔵材料17の温度を制御する。具体的には、温度調整手段16は、燃料ガスの圧力が数Pa以下の一定値になるように温度調整手段の出力を制御する。
水素吸蔵材料17の温度は加熱部18の発熱量のみを制御することで可能であるが、水素吸蔵材料17の温度を降下させて真空容器11内の圧力を低下させる場合に、加熱部18の制御のみでは水素吸蔵材料17の温度を降下させるのに時間を要してしまう。そこで、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、加熱部18に加えて、冷却部19を備える。冷却部19を利用することにより、水素吸蔵材料17の降温に要する時間を短縮し、圧力制御の応答性を高めることができる。
本実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、温度調整手段16、水素吸蔵材料17および加熱部18を備え、水素吸蔵材料の温度を制御することで真空容器11内の燃料ガスの圧力を調整することができる。このため、ガス排気システムおよびガス導入システムを用いずとも、中性子や荷電粒子の発生を制御することができる。したがって、燃料ガス圧力を制御するためにガス導入システムおよびガス排気システムを必要とする場合に比べ、大幅に装置を小型化、簡素化することができる。
また、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、冷却部19をさらに備えてもよい。この場合、水素吸蔵材料17の温度を降下させて真空容器11内の圧力を低下させる場合には、冷却部19を用いることができるため、水素吸蔵材料17の降温に要する時間を短縮し、圧力制御の応答性を高めることができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11内の燃料ガス圧力が任意の設定値に維持されるように自動制御するものであり、温度調整手段16を自動制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する信号処理手段21と、真空容器11内の燃料ガスの圧力を測定する圧力測定手段22とを備える点で第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については図1に示す第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11内の燃料ガス圧力を測定する圧力測定手段22を有する。燃料ガスの圧力測定手段22としては、電離式真空計や隔膜式真空計など任意の圧力測定手段を用いることができる。なお、燃料ガスの圧力測定手段22の取り付け位置は、真空容器11内の燃料ガス圧力を代表できる場所への設置が好ましい。
圧力測定手段22は、計測信号を信号処理手段21に与える。信号処理手段21は、たとえばPID制御を用いたフィードバック制御回路により構成され、圧力測定手段22により測定された燃料ガスの圧力値を用いて、真空容器11内の燃料ガス圧力を任意の設定値に維持する。具体的には、信号処理手段21は、圧力測定手段22により測定された燃料ガスの圧力の測定値と、燃料ガスの圧力の設定値とを取得し、燃料ガスの圧力の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16である電源の出力を制御し水素吸蔵材料17の温度を制御する。燃料ガスの圧力の設定値は、あらかじめ図示しない記憶媒体に記憶されて信号処理手段21により読み出されてもよいし、図示しない入力回路を介してユーザにより入力されて信号処理手段21に与えられてもよい。
なお、信号処理手段21は、たとえばCPUなどのプロセッサ、RAM、およびROMをはじめとする記憶媒体などにより構成されてもよい。この場合、信号処理手段21のプロセッサは、この記憶媒体に記憶されたプログラムに従って、圧力測定手段22による燃料ガスの圧力の測定値と、燃料ガスの圧力の設定値とを取得し、燃料ガスの圧力の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16を制御する機能を実現するとよい。
次に、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
上述の第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11内の燃料ガスを任意の圧力にするためには、真空容器11に燃料ガスを充填、もしくは水素吸蔵材料17に燃料ガスをあらかじめ吸蔵させた状態で、水素吸蔵材料17の温度を加熱部18、冷却部19および温度調整手段16を用いて制御する。一方で、放電中の真空容器11内の温度変化、装置外への燃料ガスのリーク、核融合反応による燃料ガスの消費等の影響で真空容器11内の燃料ガス圧力は常時変化している。このため、真空容器11内の圧力は、一定に保つことが好ましい。しかし、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10を用いる場合、真空容器11内の燃料ガス圧力を調整するためには、温度調整手段16の出力を手動で調整する必要がある。
そこで、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、信号処理手段21を用いて、燃料ガスの圧力が任意の設定値を維持するように、温度調整手段16を自動制御する。
図5は、第2実施形態に係る信号処理手段21による燃料ガスの圧力制御の手順の一例を示すフローチャートである。図5において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
まず、ステップS1において、信号処理手段21は、燃料ガスの圧力の設定値P0を取得する。次に、ステップS2において、信号処理手段21は、圧力測定手段22により測定された真空容器11内の燃料ガス圧力の測定値P1を取得する。
次に、ステップS3において、信号処理手段21は、燃料ガス圧力の設定値P0が測定値P1より高いか否かを判定する。設定値P0が測定値P1より高い場合は、信号処理手段21は、加熱部18に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を昇温するよう温度調整手段16を制御する(ステップS4)。一方、設定値P0が測定値P1以下である場合は、信号処理手段21は、加熱部18への印加電圧、印加電流を抑制、停止するとともに、冷却部19を構成するペルチェ素子に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を降温するよう、温度調整手段16を制御する(ステップS5)。
なお、ステップ3において燃料ガス圧力の測定値P1が設定値P0から所定範囲内である場合は、ステップS4およびS5のいずれにも進むことなく、すなわち、水素吸蔵材料17の温度調整を行なうことなく、ステップS2に戻って測定値P1の監視を続けてもよい。
以上の手順により、水素吸蔵材料17の温度を燃料ガス圧力の測定値P1に応じて自動制御することにより、燃料ガスの圧力が数Pa以下の任意の値になるように制御することができる。
第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、圧力測定手段22により測定された燃料ガスの圧力の測定値P1に応じて信号処理手段21が水素吸蔵材料17の温度を制御することができる。このため、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、真空容器11内の燃料ガスの圧力を任意の設定値P0に自動で調整することができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第3実施形態について説明する。
図6は、本発明の第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、放電電圧、放電電流が任意の設定値に維持されるように自動制御するものであり、高電圧印加手段14が電圧電流測定手段14aを有し、信号処理手段21が放電電圧、放電電流を任意の設定値に維持するように自動制御する点で第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については図4に示す第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
なお、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、圧力測定手段22を備えずともよい。この場合、信号処理手段21は、温度調整手段16を自動制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能を有さずともよい。図6には、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10が圧力測定手段22を備えるとともに信号処理手段21が温度調整手段16を自動制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能を有する場合の例を示した。
また、図6には高電圧印加手段14が陰極12への印加電圧(放電電圧)、印加電流(放電電流)を測定する電圧電流測定手段14aを備える場合の例について示したが、電圧電流測定手段14aは高電圧印加手段14とは別体として設けられてもよい。この場合、電圧電流測定手段14aは、たとえば陰極12への印加電圧、印加電流を測定する電圧プローブ、電流プローブなどであってもよい。
信号処理手段21は、たとえばPID制御を用いたフィードバック制御回路により構成され、電圧電流測定手段14aにより測定された陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を用いて、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を任意の設定値に維持する。具体的には、信号処理手段21は、電圧電流測定手段14aによる陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の測定値と、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の設定値とを取得し、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16である電源の出力を制御し水素吸蔵材料17の温度を制御する。陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の設定値は、あらかじめ図示しない記憶媒体に記憶されて信号処理手段21により読み出されてもよいし、図示しない入力回路を介してユーザにより入力されて信号処理手段21に与えられてもよい。
なお、信号処理手段21は、たとえばCPUなどのプロセッサ、RAM、およびROMをはじめとする記憶媒体などにより構成されてもよい。この場合、信号処理手段21のプロセッサは、この記憶媒体に記憶されたプログラムに従って、電圧電流測定手段14aにより測定された陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の測定値と、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の設定値とを取得し、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16を制御する機能を実現するとよい。
次に、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
図7(a)は真空容器11内の燃料ガス圧力と陰極印加電圧(放電電圧)との関係の一例を示す説明図であり、(b)は陰極印加電流(放電電流)と陰極印加電圧(放電電圧)との関係の一例を示す説明図である。
上述の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11内の燃料ガスを任意の圧力に自動制御する。ところで、本明細書の実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、グロー放電を利用して燃料ガスをイオン化している。一般に、グロー放電は、電極間距離が一定の場合、真空容器11内の燃料ガス圧力が上昇すると、図7(a)に示すように印加電圧(放電電圧)は低下する。また、図7(b)に示すように、印加電圧(放電電圧)は、印加電流(放電電流)によっても変化する。また、印加電圧(放電電圧)は、装置の動作時間、陰極12の温度などの影響を受け、同一の燃料ガス圧力条件においても放電電圧が変化してしまうことがある。
そこで、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、信号処理手段21を用いて、陰極12への印加電圧(放電電圧)、印加電流(放電電流)が任意の設定値を維持するように、温度調整手段16を自動制御して真空容器11内の燃料ガス密度を調整する。
図8は、第3実施形態に係る信号処理手段21による陰極印加電圧(放電電圧)、陰極印加電流(放電電流)の制御の手順の一例を示すフローチャートである。図8において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
まず、ステップS11において、信号処理手段21は、陰極印加電圧(放電電圧)、陰極印加電流(放電電流)の設定値V0、I0を取得する。次に、ステップS12において、信号処理手段21は、電圧電流測定手段14aにより測定された陰極印加電圧(放電電圧)、陰極印加電流(放電電流)の測定値V1、I1を取得する。
次に、ステップS13において、信号処理手段21は、測定値V1、I1が、ともに設定値V0、I0から所定範囲内にあるか否かを判定する。所定範囲内にある場合は、ステップS12に戻り、測定値V1、I1の監視を続ける。一方、所定範囲内にない場合は、ステップS14に進む。
次に、ステップS14において、信号処理手段21は、印加電圧の測定値V1が設定値V0より高いか否かを判定する。測定値V1が設定値V0より高い場合は、信号処理手段21は、加熱部18に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を昇温するよう温度調整手段16を制御する(ステップS15)。水素吸蔵材料17を昇温することにより、燃料ガス圧力を上昇させ(図3(b)参照)、放電電圧を低下させることができる(図7(a)参照)。一方、測定値V1が設定値V0以下である場合は、信号処理手段21は、加熱部18への印加電圧、印加電流を抑制、停止するとともに、冷却部19を構成するペルチェ素子に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を降温するよう、温度調整手段16を制御する(ステップS16)。水素吸蔵材料17を降温することにより、燃料ガス圧力を低下させ(図3(b)参照)、放電電圧を増加させることができる(図7(a)参照)。
以上の手順により、水素吸蔵材料17の温度を印加電圧の測定値V1に応じて自動制御することにより、陰極12への印加電圧、印加電流が任意の値になるように自動制御することができる。
第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、図6に示すように圧力測定手段22を備えるとともに信号処理手段21が温度調整手段16を制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能を有してもよい。この場合、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
また、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、電圧電流測定手段14aにより測定された陰極印加電圧(放電電圧)、陰極印加電流(放電電流)の測定値V1、I1に応じて信号処理手段21が水素吸蔵材料17の温度を制御することができる。このため、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を任意の設定値V0、I0に自動で調整することができる。
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第4実施形態について説明する。
図9は、本発明の第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、核融合反応率が任意の設定値に維持されるように自動制御するものであり、核融合反応率に係るデータを測定可能な核融合反応率測定手段23を有し、信号処理手段21が核融合反応率を任意の設定値に維持するように自動制御する点で第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については図6に示す第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
なお、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、圧力測定手段22を備えずともよい。この場合、信号処理手段21は、温度調整手段16を自動制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能を有さずともよい。また、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、電圧電流測定手段14aを備えずともよい。この場合、信号処理手段21は、温度調整手段16を自動制御することにより陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を自動制御する機能を有さずともよい。図9には、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10が圧力測定手段22および電圧電流測定手段14aを備え、信号処理手段21が温度調整手段16を自動制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能および温度調整手段16を自動制御することにより陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を自動制御する機能を有する場合の例を示した。
核融合反応率測定手段23としては、たとえば中性子生成量を測定する中性子検出器を用いることができる。核融合反応率測定手段23として用いる中性子測定器としては、たとえば3He検出器や液体シンチレータ検出器などの任意の中性子検出器を用いることができる。また、中性子検出器が測定する中性子は、核融合反応で発生した高速中性子や熱化した熱中性子など、使用する中性子計測器に応じて任意のエネルギーの中性子を選択することができる。また核融合反応率測定手段23は、陽子などの荷電粒子を測定する測定器を用いてもよい。
以下の説明では、核融合反応率測定手段23として、中性子生成量を測定する中性子測定器を用いる場合の例について示す。
信号処理手段21は、たとえばPID制御を用いたフィードバック制御回路により構成され、核融合反応率測定手段23により測定された核融合反応率を用いて、核融合反応率を任意の設定値に維持する。具体的には、信号処理手段21は、核融合反応率測定手段23により測定された核融合反応率の測定値と、核融合反応率の設定値とを取得し、核融合反応率の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16である電源の出力を制御し水素吸蔵材料17の温度を制御する。核融合反応率の設定値は、あらかじめ図示しない記憶媒体に記憶されて信号処理手段21により読み出されてもよいし、図示しない入力回路を介してユーザにより入力されて信号処理手段21に与えられてもよい。
信号処理手段21は、核融合反応率測定手段23で得られた測定値を、フラックスや真空容器11内の全体での核融合の発生量など、任意の単位形式に変換することができる。また任意の核融合反応率を設定した際には、あらかじめデータ採取しておいた核融合反応率と、放電電圧、放電電流、燃料ガス圧力との関係をもとに、自動で放電電圧、放電電流、燃料ガスの初期状態を設定することができる。
なお、信号処理手段21は、たとえばCPUなどのプロセッサ、RAM、およびROMをはじめとする記憶媒体などにより構成されてもよい。この場合、信号処理手段21のプロセッサは、この記憶媒体に記憶されたプログラムに従って、核融合反応率測定手段23により測定された核融合反応率の測定値と、核融合反応率の設定値とを取得し、核融合反応率の測定値が設定値を維持するように、温度調整手段16である電源の出力を制御し水素吸蔵材料17の温度を制御する機能を実現するとよい。
次に、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
図10は、陰極印加電圧(放電電圧)と、陰極印加電流(放電電流)と、中性子生成量との関係の一例を示す説明図である。
上述の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11内の燃料ガスを任意の圧力に自動制御する。また、上述の第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、放電電圧、放電電流を自動制御する。上述のとおり、本明細書の実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、グロー放電を利用して燃料ガスをイオン化している。この場合、一般に、印加電圧(放電電圧)が上昇し、あるいは印加電流(放電電圧)が上昇すると、図10に示すように核融合反応率は上昇する。また、核融合反応量は、真空容器11内の燃料ガスの量、装置の動作時間、陰極12の温度などの影響を受け、変化してしまうことがある。
そこで、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、信号処理手段21を用いて、核融合反応率が任意の設定値を維持するように、温度調整手段16を自動制御して真空容器11内の燃料ガス密度を調整する。
図11は、第4実施形態に係る信号処理手段21による核融合反応率の制御の手順の一例を示すフローチャートである。図11において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図11には、信号処理手段21が核融合反応率測定手段23の出力にもとづいて中性子生成量を用いて核融合反応率を制御する場合の例について示した。
まず、ステップS21において、信号処理手段21は、中性子生成量の設定値g0を取得する。次に、ステップS22において、信号処理手段21は、核融合反応率測定手段23の出力にもとづいて中性子生成量の測定値g1を取得する。
次に、ステップS23において、信号処理手段21は、中性子生成量の測定値g1が設定値g0より高いか否かを判定する。測定値g1が設定値g0より高い場合は、信号処理手段21は、加熱部18に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を昇温するよう温度調整手段16を制御する(ステップS24)。水素吸蔵材料17を昇温することにより、燃料ガス圧力を上昇させ(図3(b)参照)、放電電圧を低下させ(図7(a)参照)、中性子生成量を低下させることができる(図10参照)。一方、測定値g1が設定値g0以下である場合は、信号処理手段21は、加熱部18への印加電圧、印加電流を抑制、停止するとともに、冷却部19を構成するペルチェ素子に電圧、電流を印可して水素吸蔵材料17を降温するよう、温度調整手段16を制御する(ステップS25)。水素吸蔵材料17を降温することにより、燃料ガス圧力を低下させ(図3(b)参照)、放電電圧を上昇させ(図7(a)参照)、中性子生成量を増加させることができる(図10参照)。
なお、ステップ23において中性子生成量の測定値g1が設定値g0から所定範囲内である場合は、ステップS24およびS25のいずれにも進むことなく、すなわち、水素吸蔵材料17の温度調整を行なうことなく、ステップS22に戻って測定値g1の監視を続けてもよい。
以上の手順により、水素吸蔵材料17の温度を核融合反応率の測定値に応じて自動制御することにより、核融合反応率が任意の値になるように自動制御することができる。
第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、図9に示すように圧力測定手段22を備えるとともに信号処理手段21が温度調整手段16を制御することにより真空容器11内の燃料ガス圧力を自動制御する機能を有してもよい。この場合、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、図9に示すように電圧電流測定手段14aを備えるとともに信号処理手段21が温度調整手段16を自動制御することにより陰極12への印加電圧(放電電圧)および印加電流(放電電流)を自動制御する機能を有してもよい。この場合、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
また、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、核融合反応率測定手段23により測定された核融合反応率の測定値に応じて信号処理手段21が水素吸蔵材料17の温度を制御することができる。このため、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、核融合反応率を任意の設定値に自動で調整することができる。
(第5の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第5実施形態について説明する。
図12は、本発明の第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、アーク放電が発生した際も、アーク放電発生前の放電状態に復帰させるよう自動制御するものであり、アーク放電の発生を検知するアーク放電検知手段24を有し、信号処理手段21がアーク放電の発生時にアーク放電発生前の正常な放電状態に復帰させるように水素吸蔵材料17の温度を自動制御する点で第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については図9に示す第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
なお、アーク放電検知手段24およびアーク放電の発生時にアーク放電発生前の正常な放電状態に復帰させるように水素吸蔵材料17の温度を自動制御する機能を有する信号処理手段21は、図1に示す第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10、図4に示す第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10、図6に示す第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10のいずれとも組み合わせることが可能である。図12には、アーク放電検知手段24およびアーク放電の発生時にアーク放電発生前の正常な放電状態に復帰させるように水素吸蔵材料17の温度を自動制御する機能を有する信号処理手段21が図9に示す第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10に追加された場合の例を示した。
第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、アーク放電検知手段24によりアーク放電の発生を検知する。アーク放電検知手段24は、たとえば陰極印加電圧および陰極印加電流の時間変化を計測し、陰極印加電圧の時間変化、陰極印加電流の時間変化があらかじめ設定した閾値を超えると、アーク放電が発生したと検知し、信号処理手段21にその旨の情報を示す信号を出力する。
本第5実施形態に係る高電圧印加手段14は、アーク放電が発生した際に、出力が自動停止せずに、自動復帰する機能を有する電源を用いることが好ましい。
信号処理手段21は、たとえばCPUなどのプロセッサ、RAM、およびROMをはじめとする記憶媒体などにより構成される。信号処理手段21のプロセッサは、この記憶媒体に記憶されたプログラムに従って、アーク放電検知手段24からアーク放電検知信号が入力されると、アーク放電発生前の正常な放電状態に放電を復帰させる機能を実現する。また、正常な放電状態に復帰した後は、信号処理手段21のプロセッサは、あらかじめ設定した燃料ガス圧力値P0(図5参照)、陰極印加電圧値V0および陰極印加電流値I0(図8参照)、あるいは核融合反応率(図11参照)を維持するよう制御する機能を実現するとよい。
次に、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
上述のとおり、本明細書の実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、グロー放電を利用して燃料ガスをイオン化している。この場合、陰極12の表面状態や温度変化などによっては、突発的にアーク放電が発生してしまうときがある。アーク放電が生じてしまうと、陰極印加電圧および核融合反応率が低下してしまう。この場合、たとえば第3実施形態の図8に示す手順や第4実施形態の図11に示す手順で説明した信号処理手段21の機能により、陰極印加電圧の増加や核融合反応率の増加を試みようと、水素吸蔵材料17を降温させて真空容器11内の燃料ガスの圧力を下げてしまうことが予想される。
しかし、アーク放電による陰極印加電圧の低下や核融合反応率の低下に応じて燃料ガス圧力を下げてしまうと、正常な放電の開始電圧が上がってしまい、さらなるアーク放電を引き起こす可能性があるほか、アーク放電前の正常な放電状態への復帰に時間を要してしまう。
そこで、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、アーク放電検知手段24がアーク放電を検知すると、信号処理手段21を用いてアーク放電発生前の放電状態、任意の設定状態に早期に復帰させる。
図13は、第5実施形態に係る信号処理手段21によるアーク放電検知時における正常な放電状態への復帰手順の一例を示すフローチャートである。図13において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図13には、正常な放電状態に復帰した後に、信号処理手段21が、あらかじめ設定した核融合反応率を維持するよう制御する場合の例を示した。図11と同等のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
ステップS31において、アーク放電検知手段24は、印加電圧、印加電流測定値の時間変化が設定閾値を超えたか否かを判定することにより、アーク放電が発生したか否かを判定する。アーク放電が発生した場合、アーク放電検知手段24はアーク放電検知信号を信号処理手段21に出力し、ステップS32に進む。一方、アーク放電が発生していない場合は、ステップS22に進み、あらかじめ設定した核融合反応率を維持するように温度調整手段16を制御する。
次に、ステップS32において、信号処理手段21は、所定の設定時間だけ水素吸蔵材料17の温度を維持するよう、温度調整手段16を制御する。
次に、ステップS33において、信号処理手段21は、真空容器11内の放電状態がアーク放電から正常な放電状態、本明細書の実施形態に係る核融合中性子発生装置10ではグロー放電、に復帰しているか否かを判定する。放電状態がグロー放電か否かの確認方法としては、陰極印加電圧および陰極印加電流の測定値にもとづく方法や、核融合反応率の測定値にもとづく方法などを用いることができる。
ステプS33で真空容器11内の放電状態が正常な放電に復帰していないと判定されると、ステップS34において、信号処理手段21は、真空容器11内の燃料ガスの圧力を所定の圧力まで昇圧するよう水素吸蔵材料17を昇温するように温度調整手段16を制御することにより、燃料ガスの放電状態をアーク放電の発生前の放電状態に戻すよう試みて、ステップS33に戻る。
一方、ステップS33で真空容器11内の放電状態が正常な放電に復帰したと判定されると、ステップS22に進み、あらかじめ設定した核融合反応率を維持するように温度調整手段16を制御する。
以上の手順により、アーク放電が発生した場合に、アーク放電発生前の放電状態、任意の設定状態に早期に復帰させることができる。
第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1−第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、アーク放電検知手段24がアーク放電を検知すると、信号処理手段21を用いてアーク放電発生前の放電状態、任意の設定状態に早期に復帰させることができる。
(第6の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第6実施形態について説明する。
図14は、本発明の第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、水素吸蔵材料17の周囲を囲む保護材25を有し、この保護材25によって、陰極12やプラズマからの放射熱が水素吸蔵材料17の温度制御に及ぼす影響を低減するとともに水素吸蔵材料17を真空容器11内に挿入した際の陰極12と陽極との間の電界の乱れを抑制する点で第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については図12に示す第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
なお、水素吸蔵材料17の保護材25は、第1−第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10のいずれとも組み合わせることが可能である。図14には、保護材25が図12に示す第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10に追加された場合の例を示した。
第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、保護材25により水素吸蔵材料17を囲っている。保護材25は、たとえば水素吸蔵材料17の燃料ガスの吸蔵性能および脱離性能、いわゆるコンダクタンスを低下させないような、開口率の高い金網状の形状を有するとよく、たとえば開口率が80%のメッシュ形状を有するとよい。また、保護材25は、陰極12と陽極を兼ねた真空容器11との間の電界分布への影響が小さい位置に設置することが好ましい。また、保護材25の電位は、陽極を兼ねた真空容器11と同電位となっていることが好ましい。このため、保護材25の材料としては、導電性の材料を用いることが好ましい。また、保護材25の材料としては、陰極12よりも低い熱放射率を有する材料を用いるとよい。
次に、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
水素吸蔵材料17を真空容器11内に挿入した際に、水素吸蔵材料17によって陰極12と陽極との間の電界を乱してしまうと、陰極12と陽極との間でのイオンの加速効率が低下し、核融合反応率が低下してしまう場合がある。また、水素吸蔵材料17と陰極12との間には、局所的な放電が生じてしまう可能性がある。ここで、局所的な放電とは、アーク放電や水素吸蔵材料17と陰極12との間のグロー放電などをいう。
そこで、第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、陽極を兼ねた真空容器11と同電位の保護材25で水素吸蔵材料17を囲むことにより、水素吸蔵材料17を静電遮蔽する。また、保護材25は、陰極12と真空容器11との間の電界を乱さない位置に配置される。また、陰極12と保護材25との距離が、陰極12と真空容器11の内壁との距離と同程度になるように配置することで、局所的なグロー放電の発生を抑制することができる。
また、本明細書の実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、水素吸蔵材料17の温度を制御することで真空容器11内の圧力を制御するが、加熱部18以外からの熱の流入があると、水素吸蔵材料17の温度制御性能が悪化する可能性がある。加熱部18以外から流入する可能性がある熱としては、たとえば高温になった陰極12からの放射熱などが挙げられる。
そこで、第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、陰極12よりも熱放射率の小さな材料で構成された保護材25で水素吸蔵材料17を囲むことにより、陰極12からの放射熱の流入を最小限に抑えることができる。
すなわち、第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1−第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、水素吸蔵材料17を真空容器内に挿入した際の陰極と陽極間の電界の乱れを抑制することができるとともに、陰極12やプラズマからの放射熱が水素吸蔵材料17の温度制御に及ぼす影響を低減することができる。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、温度調整手段16、水素吸蔵材料17および加熱部18を備え、水素吸蔵材料の温度を制御することで真空容器11内の燃料ガスの圧力を調整することができる。このため、ガス排気システムおよびガス導入システムを用いずとも、中性子や荷電粒子の発生を制御することができる。したがって、燃料ガス圧力を制御するためにガス導入システムおよびガス排気システムを必要とする場合に比べ、大幅に装置を小型化、簡素化することができる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
また、本発明の実施形態では、フローチャートの各ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別実行される処理をも含むものである。