以下、印刷装置の一実施形態を、図面に従って説明する。
図1に示すように、印刷装置11は、略箱体形状の筐体12を備え、筐体12内には、用紙等の媒体Pを搬送路に沿って搬送する搬送部13と、搬送部13により搬送された媒体Pにインクを吐出して印刷を行う印刷部14とが設けられている。また、筐体12内の下部に筐体12の前面に矩形の開口15を有する状態で凹設されたカセット収容部16には、印刷部14に1枚ずつ給送されるべき媒体Pを積層状態で複数枚収容可能なカセット17が、前面側の開口15を介して挿抜自在な状態で挿着されている。
また、筐体12の前面上部には、ユーザーが印刷装置11に対して印刷に関わる情報を入力したり視認したりするときに使用する液晶パネル等で構成された操作部18が設けられている。そして、筐体12の前面で操作部18よりも下方位置には、水平方向に延びるヒンジピン19が設けられ、そのヒンジピン19には、筐体12の前面の一部を構成する前カバー20が図1に実線で示す閉鎖位置と二点鎖線で示す開放位置との間での開閉可能に支持されている。
また、筐体12の前面において、前カバー20の下端とカセット収容部16の開口15との間には、印刷部14で画像等が印刷された媒体Pを筐体12の外部へ排出可能とする排出口21が設けられている。そして、この排出口21内の下部には排出口21から排出される媒体Pを下方から支持可能な排出台22が排出方向である前方に向かってスライド移動可能に配置されている。
また、排出台22とほぼ同じ高さでカセット収容部16の内奥で上部となる位置には、上面が媒体Pの搬送路の一部を構成可能な板状の搬送路構成部材23が設けられている。この搬送路構成部材23には、レバー部材24が揺動自在に支持され、レバー部材24の下端には給送ローラー25が回転自在に支持されている。この給送ローラー25は、カセット17内に積層状態で載置されている複数枚の媒体Pのうち最上層の媒体Pの上面に接触した状態で回転可能であり、図示しない給送モーターから伝達される駆動力に基づき回転することにより、カセット17内から媒体Pをカセット収容部16の最奥に設けられた分離斜面26に向けて送出する。分離斜面26は、カセット17から給送ローラー25により媒体Pが重なった状態で送出された場合に、それらの媒体Pを一枚ずつに分離して後方斜め上方へと案内する。
図1に示すように、分離斜面26の上端部には左右方向に沿う軸線を中心に回転可能なリタードローラー27が配置されると共に、そのリタードローラー27の前方斜め上方となる位置には、リタードローラー27との間に媒体Pを挟んで回転駆動可能な大径の反転ローラー28が配置されている。また、筐体12内において反転ローラー28の周りには前述した搬送路構成部材23とは別の複数の搬送路構成部材29が反転ローラー28との間及び前述の搬送路構成部材23との間に媒体Pの搬送路を形成可能に設けられている。
そして、それらの搬送路構成部材23,29及び反転ローラー28により、筐体12内には、分離斜面26からリタードローラー27と反転ローラー28との間を通過して後方斜め上方へと送出された媒体Pを受け入れて反転させる反転経路K1と、反転経路K1の下流端から受け入れた媒体Pを印刷部14へと搬送する印刷経路K2が形成されている。また、印刷部14で一面に印刷が行われた媒体Pを両面印刷するために印刷経路K2とは別の経路で反転経路K1の上流端まで戻し搬送可能な戻り経路K3が上下方向(図1におけるZ方向と平行な方向)で隣り合う搬送路構成部材23,29の間に形成されている。搬送部13は、これらの反転経路K1、印刷経路K2及び戻り経路K3を通じて、印刷部14へ給送された媒体Pを、走査方向Sと交差(特に直交)する搬送方向Fに搬送する。
また、筐体12の後部上端部には、媒体Pを載置可能な載置トレイ30が後方斜め上方に向かって延びるように設けられている。載置トレイ30の下端から前方斜め下方に連続する経路は印刷経路K2に対する合流経路K4とされ、この合流経路K4は印刷経路K2と反転経路K1の境界位置よりもやや下流側の位置で印刷経路K2に合流している。さらに、合流経路K4と載置トレイ30の境界位置には、載置トレイ30上に載置された媒体Pを合流経路K4に送出して印刷経路K2へと供給する際に回転する断面D字形状の送出ローラー31が支持されている。
また、図1に示すように、筐体12内において、搬送部13の印刷経路K2から媒体Pが搬送される印刷部14には、媒体Pの搬送方向Fと交差(特に直交)する走査方向Sに沿って延びるガイド軸32が設けられている。ガイド軸32にはキャリッジ33がガイド軸32に沿って走査方向Sへの移動自在に支持され、そのキャリッジ33の下部にはインクを吐出可能な印刷ヘッド34が支持されている。なお、図6に示すように、印刷ヘッド34の下面であるノズル形成面34aには、媒体Pの搬送方向Fに沿って多数のノズル34Nからなるノズル列が形成されている。
また、筐体12内において、印刷ヘッド34(具体的には、そのノズル形成面34a)と上下方向で対向する位置には、印刷部14に搬送された媒体Pを支持可能な支持台35が、走査方向Sと平行な方向に沿って延びるように設けられている。そして、印刷部14に搬送されて支持台35にその裏面を支持された媒体Pに対して、印刷ヘッド34が走査方向Sに移動しながらノズル形成面34aの各ノズル34Nからインクを吐出することにより、媒体Pの表面に画像等が印刷される。
筐体12内の前方上部において前カバー20の裏面側となる位置には、枠体形状をなすホルダ部36が設けられ、ホルダ部36には、それぞれ異なる色のインクを収容した複数(本実施形態では4つ)のインクカートリッジ37が装着されている。すなわち、本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色の各インクを個別に収容した複数(例えば4つ)のインクカートリッジ37が、前カバー20を開放位置にした状態で、ホルダ部36に対して着脱自在とされている。そして、各インクカートリッジ37から個別のインク供給チューブ38を通じて各色のインクが印刷ヘッド34に供給される。
また、図1に示すように、筐体12内で印刷経路K2から支持台35上を通って排出口21に至るまでの媒体Pの搬送路において、印刷部14(具体的には支持台35)よりも上流側には第1の搬送ローラー対39が配置されると共に、印刷部14よりも下流側には第2の搬送ローラー対40が配置されている。搬送ローラー対39と搬送ローラー対40は、それぞれ上下で対をなすローラーが媒体Pをその表裏両側から挟んで回転することにより、その媒体Pを搬送方向Fに搬送可能とされている。
さらに、筐体12内においてホルダ部36の隣位置には基板ユニット41が配置され、その基板ユニット41によりコントローラー45が構成される。基板ユニット41には、例えばワンチップマイコン等で構成されたコンピューター50が実装されている。コンピューター50は、印刷装置11の外部から通信回線を介して入力される情報や、印刷装置11の操作部18から入力される情報に基づき、印刷装置11における搬送部13や印刷部14の動作を制御する。
次に、印刷装置11における制御構成について説明する。
図2に示すように、印刷装置11内のコンピューター50は、中央処理装置としての論理演算機能を有するCPU51、所定の情報を読み出し可能に記憶するROM及び各種の情報を書き込み/読み出し可能に記憶するRAM等からなる記憶部52を備えたデジタルコンピューターとして構成されている。
コンピューター50は、インターフェース(図示略)を介して各種の情報が入力された場合に、印刷装置11による媒体Pの搬送や媒体Pに対する印刷などの処理手順を制御するために必要とされる各種の論理演算を行うと共に、その論理演算において使用される各種情報の読み出し及び書き込みを行う。また、記憶部52には、印刷装置11の稼動状態を制御するために用いられる各種のプログラムが記憶されている。
なお、記憶部52に記憶される各種のプログラムのうちには、印刷時における媒体Pの表面と印刷ヘッド34との間隔の大きさに基づき搬送部13が媒体Pを搬送するときの搬送量を制御する際にコンピューター50が実行する印刷制御プログラムも含まれる。ちなみに、この印刷制御プログラムは、印刷装置11に設けられたカード挿入口(図示略)に挿入可能なメモリカード等の記憶媒体に記憶させておき、その記憶媒体から必要に応じて読み出すようにしたり、インターネット等を通じて必要時にサーバーからダウンロードしたりしてもよい。
また、図2に示すように、コンピューター50には、印刷装置11に設けられた操作部18がその操作に基づく入力情報を入力可能な状態で接続されると共に、例えばユーザーが外部端末として所有するPC(パーソナルコンピューター)53が通信回線を介してデータ通信可能に接続されている。PC53は、印刷情報をコンピューター50に送信することにより、そのコンピューター50の制御に基づいて印刷部14により媒体Pに所望の画像等を印刷させることが可能である。また、印刷時にPC53は、コンピューター50から印刷実行中であることを示す情報等を受信可能である。
また、コンピューター50には、エンコーダー54と媒体センサー55が各々のセンサーで検出した検出信号を入力可能に接続されている。エンコーダー54は、媒体Pを印刷部14へ搬送する際に媒体Pに接触して回転するローラー(例えば第1の搬送ローラー対39のローラー)の回転量を検出する例えばロータリエンコーダーであり、その入力軸はローラーの回転軸と一体回転可能に連結されている。媒体センサー55は、印刷部14に対して搬送方向F上流側の直近位置において媒体Pの有無を検知するものであり、媒体Pの搬送方向Fにおける端部(先端又は後端)を検知すると、その検知状態(オン/オフ)が切り換わる。例えば第1の搬送ローラー対39と支持台35との間を検出位置として、その位置に配置されたフォトセンサー等で構成されている。
また、図2に示すように、コンピューター50には、印刷装置11において駆動される複数の駆動部56〜59が接続されている。すなわち、搬送部13を駆動する電動モーター等の搬送系駆動部56と、キャリッジ33を駆動する電動モーター等のキャリッジ駆動部57と、印刷時に印刷ヘッド34を駆動するヘッド駆動部58と、印刷ヘッド34と支持台35との間隔の大きさの調整時に駆動される電動モーター等の間隔調整駆動部59がコンピューター50に接続されている。
搬送系駆動部56は、コンピューター50に回転状態を制御されることにより、搬送部13を構成する各ローラー(例えば搬送ローラー対39,40の駆動ローラー)を回転させたり、その回転を停止させたりする。また、キャリッジ駆動部57は、コンピューター50に回転状態を制御されることにより、プーリーや無端状ベルトを介して駆動連結されたキャリッジ33を媒体Pの搬送方向Fと交差(特に直交)するガイド軸32に沿って移動させたり、その移動を停止させたりする。また、ヘッド駆動部58は、コンピューター50の制御に基づき、印刷ヘッド34がインクを吐出する際に駆動される圧電素子等に対して電圧を印加したり、その電圧の印加を停止したりする。
さらに、間隔調整駆動部59は、コンピューター50に回転状態を制御されることにより、例えばピニオンアンドラック機構を介して駆動連結されたガイド軸32の軸受け部材(図示略)を上下方向に沿って移動させたり、その移動を停止させたりする。すなわち、間隔調整駆動部59の電動モーターが回転駆動されると、その回転力がピニオンアンドラック機構により上下方向への移動力に変換され、その上下方向への移動力によりガイド軸32の軸受け部材も上下方向に移動するため、ガイド軸32に支持されたキャリッジ33及びキャリッジ33に支持された印刷ヘッド34も上下方向に移動する。なお、間隔調整駆動部59によって印刷ヘッド34が移動する方向は、支持台35に支持された媒体Pの表面と印刷ヘッド34とが両者の対向する方向に相対移動して、両者の間隔が変化する方向であれば、上下方向に限定されない。
このような間隔調整駆動部59の制御を通じて、印刷ヘッド34と支持台35との間隔PLG(以下「第1の間隔PLG」ともいう。)の大きさである第1のギャップ量Lpg及び支持台35上に支持された媒体Pと印刷ヘッド34との間隔PAG(以下「第2の間隔PAG」ともいう。)の大きさである第2のギャップ量xが調整可能とされる。そして、そのように間隔調整駆動部59により間隔PLG(又はPAG)が調整された場合、その間隔PLG(又はPAG)の値は、一旦、記憶部52に記憶される。なお、第2の間隔PAGの大きさである第2のギャップ量xは、第1の間隔PLGの大きさである第1のギャップ量Lpgよりも、媒体Pの厚さLPに相当する分だけ値が小さい。
本実施形態におけるコンピューター50内のCPU51は、PC53及び操作部18との間でデータ通信することにより各種の処理を行う複数の機能部を有している。すなわち、CPU51は、印刷時における媒体Pの表面Paと印刷ヘッド34との間隔PAGに基づいて搬送部13による媒体Pの搬送量の補正を行うための機能部として、制御部60、データ取得部61、間隔取得部62、判断部63及び補正量取得部64を備えている。なお、本実施形態では、間隔取得部62、判断部63及び補正量取得部64により、補正部の一例が構成される。
制御部60は、印刷装置11を統括的に制御し、搬送系駆動部56、キャリッジ駆動部、ヘッド駆動部58及び間隔調整駆動部59を駆動制御する。制御部60は、搬送系駆動部56を駆動制御することにより媒体Pの搬送量を制御する。また、制御部60は、キャリッジ駆動部57を駆動制御することにより、キャリッジ33に搭載された印刷ヘッド34の走査方向Sにおける移動速度を制御する。さらに制御部60は、キャリッジ33の走査中に印刷データに基づきヘッド駆動部58を駆動制御することにより、印刷ヘッド34のノズル34Nからインク滴を吐出させる。吐出されたインク滴が媒体Pの表面Paに着弾したドットによって、媒体Pには印刷データに基づく文書又は画像等が印刷される。また、制御部60は、間隔調整駆動部59を駆動制御することにより、印刷ヘッド34と支持台35との間隔PLGの大きさ(第1のギャップ量Lpg)を制御する。本例では、間隔調整駆動部59が駆動されることにより、第1の間隔PLGは複数段階の大きさに調整される。制御部60は、複数段階の間隔PLGをPLG段数で扱う。PLG段数は、一例としてPLG1〜PLG7の7段ある。間隔PLGはその段数番号が大きくなるに連れて、第1のギャップ量Lpgが段階的に大きくなる。
データ取得部61は、印刷時に操作部18から入力される印刷情報(印刷条件情報)やPC53から入力される印刷情報(印刷条件情報)などのデータを取得し、その取得したデータを必要に応じて記憶部52に記憶させる。なお、印刷情報には、媒体Pに印刷される画像を表す画像情報の他に、印刷品質(標準、高精細)や印刷色(モノクロ、カラー)を示す印刷モード情報、印刷方法が片面印刷か両面印刷かの区別を示す区別情報及び媒体Pの種別(媒体種)及び厚さLPに関する媒体情報が含まれる。また、データ取得部61は、印刷時にエンコーダー54から入力される媒体Pの搬送量に比例する数のパルスを含む検出情報と、媒体センサー55が検出位置で媒体Pの有無を検知した検知情報とを記憶部52に一旦記憶させる。
間隔取得部62は、印刷ヘッド34と媒体Pの表面Paとの間隔PAGを取得する。この間隔PAGは、媒体Pが用紙である場合、ペーパーギャップともいう。間隔取得部62は、印刷情報に含まれる媒体情報に基づいて第1のギャップ量Lpgを規定するPLG段数と媒体Pの厚さLPとを取得する。そして、間隔取得部62は、PLG段数に応じた第1のギャップ量Lpgを取得する。さらに間隔取得部62は、第1のギャップ量Lpgから媒体Pの厚さLPを差し引くことにより、印刷ヘッド34と支持台35上の媒体Pの表面Paとの間隔PAGの大きさである第2のギャップ量xを取得する。なお、間隔取得部は、第2のギャップ量xを取得するために必要な情報である第1のギャップ量Lpgと媒体Pの厚さLPとを取得するに留まり、両者の差である第2のギャップ量xを取得しない場合もある。
記憶部52には、図3に示すPLGテーブルデータTD1が記憶されている。PLGテーブルデータTD1には、媒体種と媒体サイズとの組合せごとに、PLG段数と媒体Pの厚さLPとが対応付けられている。間隔取得部62は、媒体種と媒体サイズを基に図3に示すPLGテーブルデータTD1を参照することで、そのときの媒体種及び媒体サイズに対応するPLG段数と媒体Pの厚さLPとを取得する。そして、間隔取得部62は、第2のギャップ量xの取得が必要な場合は、取得したPLG段数に応じた第1のギャップ量Lpgから、取得した媒体Pの厚さLPを差し引くことにより、第2のギャップ量xを取得する。なお、図3に示すように、本実施形態の印刷装置11が印刷の対象とする媒体種には、「普通紙」、「写真紙」、「封筒」等があり、媒体サイズには、「A4判」、「A3判」、L判、2L判、封筒定形サイズ(例えばL1×L2,L1×L2)等がある。媒体の厚さLPは、普通紙が例えば「0.11mm」、写真紙が「LP3」,「LP4」,「LP5」等、封筒が「LP6」,「LP7」等にそれぞれ設定されている。
判断部63は、データ取得部61が取得した各種情報から搬送量を補正するうえで必要な各種の情報を取得し、その取得した各種の情報に基づき各種の判断を行う。判断部63は、印刷時の印刷ヘッド34の移動速度であるキャリッジ速度が高速であるか低速であるかの判断、印刷色がモノクロであるかカラーであるかの判断、印刷中の媒体Pの位置が通常領域であるか下端領域であるかの判断、印刷方法が片面印刷であるか両面印刷であるかの判断、印刷品質が標準であるか高精細であるかの判断などを行う。
補正量取得部64は、搬送量PFの補正に用いられる2種類の補正量ΔPF1,ΔPF2のうち、インク滴の着弾位置が風の影響で搬送方向Fにずれる位置ずれの低減に用いられる後者の補正量ΔPF2を取得する。本例の補正量取得部64は、補正量ΔPF2を第2のギャップ量xを基に所定の計算式を用いて計算により取得する。すなわち、補正量取得部64は、判断部63の判断結果に応じた1つの計算式を選択し、その計算式に、間隔取得部62が媒体情報を基に取得した第1のギャップ量Lpg及び媒体Pの厚さLPから規定される第2のギャップ量xに応じた補正量ΔPF2を算出する。補正量ΔPF2は、そのときの媒体情報から決まるPLG段数に応じた第1のギャップ量Lpgから媒体Pの厚さLPを減算して取得される第2のギャップ量xの関数f(x)で表わされる。
この関数f(x)は、印刷装置11ごとに個別に設定する必要がある。しかし、風の影響を決めるパラメーターは複数種あり、複数種のパラメーターの全ての組合せで出荷前に測定することは作業量が多くなる。そこで、媒体Pの搬送量を補正するのに用いる値として、予め設定された基準となる一部のPLG段数(つまり第1のギャップ量Lpg)について基準となる媒体Pの厚さLP0(以下「基準厚さLP0」ともいう。)のときの基準となる第1のギャップ量Lpgと補正量ΔPF2との組合せからなる組データを所定数のみ測定して、記憶部52に記憶しておく。
そして、印刷時に今回の印刷に適用されるPLG段数を求め、このPLG段数に対応する第1のギャップ量Lpgの値を間に挟む2つの第1のギャップ量Lpgと補正量ΔPFとの組合せからなる2つの組データを選択し、その選択した2つの組データを用いた補間計算を行って今回のPLG段数に対応する補正量ΔPF2を算出する。詳しくは、今回の印刷時に適用される第1のギャップ量Lpgと、選択した2つのうち一方の組データ中の基準となる第1のギャップ量Lpg(例えばX1(図14参照))と、媒体Pの厚さLP及び基準厚さLP0の各情報に基づいて、差分dx(=Lpg−X1−(Lp−Lp0))を取得する。その差分dxと関数f(x)とに基づき補正量の差分dyを求める。一方の組データ中の基準補正量Y1に補正量の差分dyを加算することで、今回の第2のギャップ量x1に対応する補正量ΔPF2(Y1+dy)を求める。
本実施形態では、第2のギャップ量xを求めず、印刷装置11の制御上のパラメーターである、PLG段数、媒体Pの厚さLP、基準厚さLP0の情報と、一部の基準となるPLG段数に対応する組データを含む補正テーブルデータTD3とを基に、第2のギャップ量xに応じた補正量ΔPF2を取得する。なお、本例では、第2のギャップ量xと、風の影響による搬送方向Fへのインク滴の着弾位置のずれ量との関係を表わす曲線状の関数で表わされるグラフ線を直線又は折れ線に近似した一次関数を使用する。そして、第2のギャップ量xに応じた補正量ΔPF2を求める計算式として、複数種の一次関数(y=f(x)=ax+b)を用いる(図15参照)。
そして、以上のようなコンピューター50による制御に基づき印刷部14は媒体Pに対して画像等を印刷する。この種の印刷方法として、キャリッジ33の1回の移動(走査)で印刷ヘッド34におけるノズル34N(図7等参照)のノズル列の長さ分の画像の印刷を行い、次いで、そのノズル列の長さ分だけ媒体Pを搬送方向Fに搬送し、その後同様の画像の印刷及び媒体Pの搬送を繰り返し行う、バンド印刷(以下「通常バンド印刷」)という印刷手法がある。本実施形態の印刷装置11では、操作部18から入力される印刷情報又はPC53から入力される印刷情報の中に通常バンド印刷の指令情報が含まれている場合、制御部60は搬送部13及び印刷部14を制御して通常バンド印刷を行わせる。
図4に示すように、通常バンド印刷では、1回目の搬送量PF1の媒体Pの搬送の後にノズル列の長さと対応した画像長さGLの1回目画像GR1が媒体P上に印刷される。そして次に、2回目の搬送量PF2の媒体搬送の後に1回目画像GR1と同じ画像長さGLの2回目画像GR2が媒体P上に印刷される。そして次に、3回目の搬送量PF3の媒体搬送の後に1回目画像GR1及び2回目画像GR2と同じ画像長さGLの3回目画像GR3が媒体P上に印刷される。
そして、この場合において、1回目の搬送量PF1と2回目の搬送量PF2と3回目の搬送量PF3とが等しければ、図4に示すように、1回目画像GR1と2回目画像GR2と3回目画像GR3とは、搬送方向Fにおいて隣り合う画像同士の間に隙間を作って印刷されたり部分的に重なって印刷されたりすることはない。ところが、こうした通常バンド印刷において走査毎での搬送量に差があると、隣り合う画像同士が、両画像の間に隙間を作ったり部分的に重なったりすることがある。
すなわち、図5に示すように、通常バンド印刷において、1回目の搬送量PF1と2回目の搬送量PF2は等しいが、それらの搬送量PF1,PF2よりも3回目の搬送量PF3が大きい場合には、2回目画像GR2と3回目画像GR3との間に隙間ができて白く見える白バンディング領域WAが形成される。
また、図6に示すように、通常バンド印刷において、1回目の搬送量PF1と2回目の搬送量PF2は等しいが、それらの搬送量PF1,PF2よりも3回目の搬送量PF3が小さい場合には、2回目画像GR2と3回目画像GR3とが部分的に重なって黒く帯状に印刷される黒バンディング領域KAが形成される。
ところで、例えば図7に示すように、通常バンド印刷では、ノズル形成面34aに多数のノズル34Nで形成されたノズル列の長さと対応する搬送量PFだけ搬送方向F(同図の白抜き矢印方向)に媒体Pが間欠搬送されるが、その際の搬送量PFと媒体Pに形成される画像の画像長さGLとが不一致となる場合がある。例えば、キャリッジ33及び印刷ヘッド34が媒体Pの搬送方向Fと交差する方向(図7では紙面と直交する方向)へ移動したときに巻きおこす風の影響で、印刷ヘッド34から吐出されたインクINCの着弾位置が媒体Pの搬送方向Fに位置ずれし、媒体P上に形成される画像の画像長さGLが搬送量PFよりも大きくなることがある。また、印刷ヘッド34が移動する過程では、印刷ヘッド34におけるノズル列間で隣り合うノズル34Nから吐出されたインク滴によって形成される一種のインク滴のカーテンの隙間に気流が流れ込むことで、インク滴が搬送方向Fと平行な方向において外側へ広がる。この場合、インクINCの各着弾位置が、媒体Pの搬送方向Fと平行な方向に広がるように位置ずれし、媒体Pに形成される画像の画像長さGLが搬送量PFよりも大きくなることがある。
また、図8に示すように、こうした場合に生じる搬送量PFと画像長さGLとの差は、支持台35上に支持された媒体Pの表面Paと印刷ヘッド34のノズル形成面34aとの間隔PAG(例えばペーパーギャップ)の大きさに応じて変化する。第2の間隔PAGの大きさは、第1の間隔PLGの大きさ(第2ギャップ量)から、媒体Pの厚みLPを減算することにより取得される。図7及び図8の例では、図8の場合の方が図7の場合よりも、第1の間隔PLG及び第2の間隔PAGが大きいので、搬送量PFと画像長さGLとの差も、図8の場合の方が図7の場合よりも大きくなる。
このため、本実施形態では、搬送量PFを画像長さGLに合わせて補正をすることにより、風の影響によりインク滴の着弾位置が搬送方向Fにずれても、その搬送を挟んだ前回の印刷結果と今回の印刷結果との搬送方向Fにおける相対的な位置ずれを抑えることができる。その結果として、前回の印刷結果と今回の印刷結果との間の重なり又は隙間に起因するバンディングを低減する。なお、図7及び図8のように、通常バンド印刷方式では、搬送量PFが搬送方向Fに沿って一定のノズルピッチで配列された全ノズル34NのうちインクINCの吐出に使用される使用ノズル34Nの全数(例えば全ノズル数n−m(但しmは例えば2〜10))又は全数に近い数分の総ノズルピッチ長に相当する搬送量で大送りされる。この種の大送りの間欠搬送が行われる印刷方式には、通常バンド印刷の他に、変則バンド印刷方式(「マイクロフィード印刷方式」ともいう。)がある。
通常バンド印刷は、印刷ヘッド34の全ての使用ノズル34Nの全ノズルピッチの累積長(総ノズルピッチ長)に等しい所定距離ずつ媒体Pを大送りで間欠搬送を行いつつ、間欠搬送の合間に印刷ヘッド34からインクを吐出して印刷する印刷方式である。一方、変則バンド印刷とは、媒体Pをノズルピッチの(0.5×J)倍(但しJは奇数)と等しい微小距離での間欠搬送(微小送り)と、全ノズルピッチの累積長(総ノズルピッチ長)以下でこの累積長に近い距離の間欠搬送(大送り)とを交互に行いつつ、間欠搬送の合間に印刷ヘッド34からインクを吐出して印刷する印刷方式である。
ここで、図7及び図8に示す搬送量PFは、通常バンド印刷と変則バンド印刷の場合、印刷モードと印刷データとに基づき決まる設定搬送量PFoを、搬送系の補正量ΔPF1で補正することで取得される(PF=PFo+ΔPF1)。搬送系の補正量ΔPF1には、搬送ローラー対39,40のローラー径の誤差に起因する補正量ΔPF11及び媒体Pと搬送ローラー対39,40との滑り量を考慮した補正量ΔPF12とが含まれる。そして、本実施形態では、搬送系の補正がなされた搬送量PF(=PFo+ΔPF1)を、風の影響によりインク滴の着弾位置が搬送方向へずれるずれ量を小さくするための補正量ΔPF2で搬送量PFを補正することで、補正後の搬送量PFa(=PFo+ΔPF1+ΔPF2)を取得する。
ここで、吐出されたインク滴が風に流されて着弾位置が搬送方向Fにずれる要因としては、次のものが挙げられる。すなわち、キャリッジ速度Vcr、機内の空間の広さ、印刷ヘッド34と媒体Pの表面Paとの間隔PAGの大きさ(第2のギャップ量)、インク滴の吐出速度Vm、印刷ヘッド34の1回の移動(走査)当たりのインク吐出率(印刷デューティ)(%)、インク重量(又はインク密度)などである。
キャリッジ速度Vcrは、速いほどキャリッジ33が単位時間当たりに押し退ける空気の体積が多くなることから、より強い気流が発生する。機内の空間の広さは、狭いほどキャリッジ33が移動したときに押し退ける空気により発生する気流の流速が速くなることから、より強い風が発生する。間隔の大きさ(第2のギャップ量)は、広いほどインク滴が媒体Pの表面Paに着弾するまでに気流によって流される滞空時間(飛翔時間)が長くなり、その時間が長いほどインク滴の搬送方向Fへの着弾位置のずれ量が大きくなる。吐出速度Vmは、ノズル34Nから吐出されるインク滴の初速度であって、インク滴の飛行中の速度は、インク滴が飛行中に受ける空気抵抗によって、吐出位置から着弾位置に近づくに連れて徐々に低下する。このため、吐出速度Vmが低速なインク滴ほど、所定のギャップを隔てた表面Paに着弾するまでの滞空時間が長くなり、その吐出されたインク滴の搬送方向Fへの位置ずれ量が大きくなる。
インク吐出率(印刷デューティ)(%)は、印刷ヘッド34の1回の移動で全ての使用ノズル34Nを用いて吐出可能な最大総吐出量に対する実総吐出量の比率を示す。インク吐出率率は、例えば大ドットのインク滴が全ノズル34Nから吐出されると「100%」になり、大ドットのインク滴が半数のノズル34Nから吐出されると「50%」になる。さらに全ノズル34Nからインク滴が吐出されても、その吐出されたインク滴が中ドットであれば、インク吐出率は例えば「50%」になり、その吐出されたインク滴が小ドットであれば、インク吐出率は例えば「20%」になる。インク滴が全ノズル34Nから一斉に吐出されると、隣のノズル列に属する隣同士のインク滴の列同士が、それぞれの吐出流の勢いによって互いに反発し合う力が生じる。このため、印刷ヘッドからノズル列ごとに吐出された複数列のインク滴は、互いの反発し合う力によって印刷ヘッド34の搬送方向における中心から外側へ扇状に広がる(図7及び図8)。ここで、インク吐出率は、キャリッジ33が走査方向Sに1回移動する1パス分の印刷データを取得する度に、制御部60がその1パス分の印刷データを解析し、1パス分の全画素(全ドット)のうち吐出の画素の数の比率(%)を、吐出の画素の画素サイズ(大・中・小)を重み付けして計算することによって取得される。
インク重量(又はインク密度)は、大きいほど風の影響を受けにくいため、着弾位置のずれ量が小さく済み、そのずれ量を補正するための補正量もインク重量が大きいほど小さくすればよい。つまり、インク滴の重量が第1の重量であるときの補正量は、第1の重量よりも重い第2の重量であるときの補正量よりも大きくすればよい。ここで、インク滴の重量が異なるモードには、1つに印刷色を規定するカラー印刷モードとモノクロ印刷モードとがあり、他の1つにはインク滴サイズ(ドットサイズ)を規定する標準印刷モードと高精細印刷モードとがある。後者の印刷品質を規定するモードは、低品質・標準・高精細の3段階に分かれてもよい。モノクロ印刷モードで使用される黒インクには黒色の顔料又は染料が含まれ、カラー印刷モードで使用されるカラーインクには例えばCMY各色の顔料又は染料が含まれる。このため、モノクロ印刷かカラー印刷かによって、インクに含まれる顔料又は染料の比重及び含有量が異なるので、インク密度が異なる。そして、同一のインク滴サイズであれば、インク密度が高いほど、インク重量が重くなるので、風の影響を受けにくくなり、補正量は小さく済む。
また、本実施形態では、印刷ヘッド34はノズル34Nから異なるサイズのインク滴を吐出できる。本例では、例えば大サイズ、中サイズ、小サイズの計3種類のサイズでインク滴を吐出することができる。普通印刷モードでは、大サイズと中サイズの大きめの2種類のサイズでインク滴が吐出され、高品質印刷モードでは中サイズと小サイズの小さめの2種類のサイズでインク滴が吐出される。ここで、インク比重を一定とみなすと、普通印刷モードでは、インク滴の平均サイズが相対的に大きくインク滴の平均重量も相対的に大きい。一方、高品質印刷モードでは、インク滴の平均サイズが相対的に小さいことから、インク滴の平均重量も相対的に小さい。このため、インク滴の平均サイズにより小さな(より軽い)ものが使用される印刷品質の高いものほど、補正量を大きくする。
次に第1の間隔PLGの選択の仕方について説明する。ここで、印刷装置11内のコンピューター50は、印刷指令と共に入力する印刷条件情報に含まれる媒体種(例えば用紙種)及び媒体サイズ(例えば用紙サイズ)の組合せによって、図3に示すPLGテーブルデータTD1を参照して1つのPLG段数と媒体Pの厚さとの各情報を取得する。さらに制御部60は、印刷情報に含まれる、印刷モード(標準/高精細)と、片面印刷/両面印刷の区別情報との組合せに応じて、先に選択したPLG段数を補正する。
こうして1つのPLG段数が決まると、間隔取得部62は、PLG段数を基に、図13に示すテーブルデータTD2を参照して、そのPLG段数に応じたギャップ量Lpg(mm)を取得する。そして、間隔取得部62は、印刷ヘッド34と支持面35aとの間隔PLGの大きさである第1のギャップ量Lpgと、媒体Pの厚さLPとを取得し、必要に応じて両者の差を計算することで、印刷ヘッド34と媒体Pの表面Paとの間隔PAG(例えばペーパーギャップ)のギャップ量である第2のギャップ量x(=Lpg−LP)を取得する。
例えば印刷モードは、標準印刷モードよりも高精細印刷モードの方がギャップ量の大きいPLG段数が選択される。これは高精細モードの方が媒体Pの単位面積当たりに着弾させるインク量が相対的に多く、媒体Pに吸収されたインクによって膨潤した媒体Pにも印刷ヘッド34が擦れを回避できるように、高精細印刷モードにおいて標準印刷モードよりもギャップのより広いPLG段数が選択される。
また、両面印刷/片面印刷の印刷面指定情報については、片面印刷時よりも両面印刷時の方がより広いPLG段数が選択される。これは、両面印刷では、表面(片面)を印刷したときに媒体Pはインクを吸収して膨潤しているうえ比較的カールし易く、このような媒体Pに対する印刷ヘッド34の擦れを回避するためである。このため、両面印刷時は、少なくとも裏面印刷時に、片面印刷時のギャップ量よりも広いギャップ量が得られるPLG段数が選択される。本例では、両面印刷時は、表面と裏面とを区別することなく一律に片面印刷時のPLG段数よりも大きな同じPLG段数が選択される。なお、両面印刷における表面印刷時は、片面印刷時と同じPLG段数とし、裏面印刷時に片面印刷時よりも大きなギャップ量のPLG段数を選択する構成としてもよい。
また、印刷装置11では、ユーザーが操作部18を操作して擦れ防止機能の有効/無効を選択することが可能になっている。コンピューター50は、操作部18から擦れ防止機能を有効にする旨の入力信号を受け付けると、その機能が無効の場合のギャップ量よりも大きいなギャップ量が得られるPLG段数を選択する。このように本例は、媒体情報を基に図3に示すPLGテーブルデータTD1を参照して決定したPLG段数を、片面印刷/両面印刷の区別情報と、擦れ防止機能の無効/有効の情報とに基づいて、両面印刷時と擦れ防止機能の有効時に、より大きなギャップ量が得られるPLG段数に変更する。
次に、図9〜図12を参照して、印刷中に媒体Pが位置する3種類の領域について説明する。媒体Pは搬送過程において、媒体Pの搬送方向の先端(上端)が搬送ローラー対39,40間に位置する図9に示す上端領域と、媒体Pが搬送ローラー対39,40によって2箇所で支持される図10に示す中央領域と、媒体Pの搬送方向の後端(下端)が搬送ローラー対39,40間に位置する図11に示す下端領域との3種類の搬送位置を順番にとる。
図9に示すように、媒体Pが上端領域に位置するときは、搬送ローラー対39,40間に位置する媒体の上端部分が上流側の搬送ローラー対39のみによって支持された状態にあり、その上端部分は媒体Pの張りで支持台35の支持面35aに沿って延びている。一方、図10に示すように、媒体Pが中央領域に位置するときは、媒体Pの中央部分が搬送ローラー対39,40によって両側二箇所で支持(挟持)されるので、媒体Pの印刷領域の部分は浮き上がることがなく、支持台35の支持面35aに沿って支持される。
また、図11に示すように、媒体Pが下端領域に位置するときは、搬送ローラー対39,40間に位置する媒体Pの下端部分が下流側の搬送ローラー対40のみによって支持された状態にある。このとき、媒体Pの下端部分よりも搬送方向下流側で既に印刷が終わった部分はインクの吸収による膨潤によってカールし易くなっており、下端部分が支持面35aから浮き上がり易くなっている。
図12に示すように、媒体Pの下端部分が例えば角度θで斜めに浮き上がると、浮き上がっていない実線で示す媒体Pのときのインク着弾範囲の搬送方向Fの幅L1に比べ、二点鎖線で示す浮き上がった媒体Pのときのインク着弾範囲の幅L2がより長くなる。このため、本実施形態では、上端領域と中央領域とを合わせて通常領域とした場合、媒体Pが通常領域にあるときの搬送量の補正量よりも、下端領域にあるときの搬送量の補正量をより大きくしている。
ここで、制御部60は、媒体センサー55が媒体Pの先端を検知した際の媒体Pの位置を基準としてエンコーダー54から入力するパルス信号のパルスの数を計数することで、その計数値に基づき媒体Pの搬送位置を管理している。そして、判断部63は、制御部60が管理する媒体Pの搬送位置と、媒体Pが通常領域にあるときの搬送位置の範囲を表わす第1の範囲と、媒体Pが下端領域にあるときの搬送位置の範囲を表わす第2の範囲とを比較し、媒体Pが通常領域に属するか下端領域に属するかを判断する。
本実施形態では、図5に示す白バンディング領域WAや図6に示す黒バンディング領域KAを低減する又は無くすため、媒体Pの搬送量PFを、印刷時におけるPLG段数に応じた第1のギャップ量Lpg及び媒体Pの厚さLPから決まる第2のギャップ量xに応じて補正する。記憶部52には、コンピューター50がそのような印刷時の搬送量の補正時に使用する、図3、図13及び図14に示す各テーブルデータTD1〜TD3が記憶されている。
まず、図13に示すテーブルデータTD2は、複数のPLG段数とギャップ量Lpgとの関係を示すテーブルである。一例として、PLG1〜PLG7の合計7段のPLG段数ごとのギャップ量Lpgが示されている。なお、ギャップ量Lpgの単位は[0.01mm]である。例えばPLG1のギャップ量「130」は、支持台35の支持面35aと印刷ヘッド34のノズル形成面34aとの間隔が「130」×[0.01mm]=1.3mmであることを意味する。
一方、図14に示す補正テーブルデータTD3は、印刷色モード、搬送領域及びPLG段数別に補正量を計算する際に使用する計算式の係数及び定数を決める各種データが設定されたテーブルデータである。この補正テーブルデータTD3には、印刷色モードごと、搬送領域ごと、印刷速度モード(キャリッジ速度Vcr)ごと、及びPLG段数ごとに、ギャップ量xに応じた補正量ΔPF2を計算する際に使用する一次関数の計算式をグラフ(図15参照)に表わした直線の傾き(つまり計算式中の係数)を決める傾き計算用設定値が設定されている。印刷色モードは、モノクロ印刷モードとカラー印刷モードとに区分けされている。また、搬送領域は、通常領域と下端領域との2つに区分けされている。また、印刷速度モードは、高速と低速とに区分けされている。さらにPLG段数は、PLG1〜PLG3と、PLG4〜PLG5と、PLG6〜PLG7との3つの範囲に区分けされている。
図15に示す計算式を表わす一次関数のグラフにおいて、X軸はギャップ量x(但し、図15の例ではギャップ量(x+LP0))、Y軸は補正量ΔPF2を示す。そして、図14に示す傾き計算用設定値(Y1,Y2,X1,X2)は、一次関数の直線(図15)の傾きを規定する直線上の基準となる2点の座標(X1,Y1)、(X2,Y2)を示す。なお、PLG1〜PLG5は、普通紙、写真紙等の相対的に厚さが薄い第1の媒体に対して通常バンド印刷及び変則バンド印刷を行うときに設定される高速印刷モードで使用される。一方のPLG6〜PLG7は、封筒等の相対的に厚さが厚い第2の媒体に対して通常バンド印刷及び変則バンド印刷を行うときに設定される低速印刷モードで使用される。なお、以下では、通常バンド印刷及び変則バンド印刷を、「バンド印刷に相当する印刷」と称し、総称して単に「バンド印刷」呼ぶ。
例えば、印刷モードがモノクロ印刷の場合でPLG段数がPLG4の場合、ギャップ量xは「190(X1)」〜「255(X2)」の範囲内の値であって、ギャップ量xが「190(X1)」の場合の補正量は「H3BK(Y1)」であり、ギャップ量が「255(X2)」の場合の補正量は「H4BK(Y2)」であることを意味する。なお、補正テーブルデータTD3の設定値は、印刷装置11の出荷前に基準のPLG段数について基準厚さLP0の普通紙を用いて各パラメーター(キャリッジ速度、印刷色、搬送領域)を変化させてバンド印刷方式で行ったテスト印刷の印刷結果に基づく搬送方向Fのずれ量の測定結果から得られたものである。そして、補正テーブルデータTD3では、テスト印刷の印刷結果のずれ量の測定値から得られた補正量ΔPF(Y1,Y2)と基準PLG段数のギャップ量Lpg(X1,X2)との関係を、印刷色(モード)、搬送領域(通常/下端)ごとに表わしたものとなっている。
図14に示す補正テーブルデータTD3において、PLG段数が例えば「1〜3」に対応する傾き計算用設定値(Y1,Y2,X1,X2)=(H1BK,H3BK,130,190)は、PLG段数が「1〜3」であるときに計算式を特定するために使用される。そして、傾き計算用設定値(Y1,Y2,X1,X2)は、一次関数を表わす直線(図15)の両端二点の座標(X1,Y1)、(X2,Y2)を示す。これら両端二点の間のPLG段数に対応する補正量ΔPFは、これら両端二点の座標を用いた補間計算により算出される。
図15に示すグラフは、基準厚さLP0(例えば0.11mm)の媒体Pを用いてバンド印刷に相当する印刷を行ったときのPLG段数に応じたギャップ量Lpgと補正量ΔPF2との関係を示す一次関数の計算式をグラフ化したものである。よって、X軸は、基準厚さLP0の媒体に適用したときのギャップ量Lpg、つまりギャップ量(x+LP0)となっている。このグラフをマイナスX方向へ基準厚さLP0(=0.11mm)分だけシフトさせると、X軸をギャップ量xとした一次関数のグラフとなる。なお、本例では、印刷装置11の出荷前の測定結果の値を用いて、PLG段数のギャップ量Lpgと補正量ΔPF2との関係を示すグラフで計算式を特定しているが、上記のギャップ量xと補正量ΔPF2との関係を示す一次関数の計算式を用いてもよい。
図15において、PLG段数がPLG1〜PLG3及びPLG4〜PLG5の場合のグラフAは、印刷ヘッド34を搭載したキャリッジ33の移動速度(キャリッジ速度Vcr)が相対的に速い第1の移動速度である高速印刷モードの場合のグラフである。その一方、PLG段数がPLG6〜PLG7の場合のグラフBは、印刷ヘッド34を搭載したキャリッジ33の移動速度が第1の移動速度よりも遅い第2の移動速度である低速印刷モードの場合のグラフである。高速印刷モードのときの第1の移動速度は、一例として1秒間に360インチ進む360cpsである。また、低速印刷モードのときの第2の移動速度は、一例として1秒間に180インチ進む180cpsである。
グラフBのPLG段数がPLG6〜PLG7の場合に、低速印刷モードを適用しているのは、次の理由による。ギャップ量が大きいほど、印刷ヘッド34から吐出されたインク滴が媒体Pの表面Paに着弾するまでの滞空時間が長くなり、滞空時間が長いほどインク滴が風に流される搬送方向Fの距離、つまりずれ量が長くなる。そのため、キャリッジ速度Vcrを相対的に遅くして巻き起こる風を弱くすることでインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を小さく抑えるためである。図15のグラフAとグラフBから理解されるように、一般にギャップ量xが大きくなるほど、風の影響による搬送量の補正に用いる補正量ΔPF2も大きくなるが、低速印刷モードを適用することで、高速印刷モードを適用した場合に比べ補正量ΔPF2を小さく抑えることが可能である。
次に、図16及び図17を参照しながら、本実施形態の印刷装置11においてコンピューター50が印刷制御プログラムを実行することにより行われる搬送制御処理について説明する。操作部18及びPC53から印刷情報と共に印刷の指令を受け付けると、印刷装置11のコンピューター50は、まず搬送系駆動部56を駆動して指定の給送元(例えばカセット17)にセットされた媒体Pを印刷部14へ給送する。媒体Pは印刷開始位置に給送される。その後、コンピューター50は、キャリッジ駆動部57を駆動制御することで、印刷ヘッド34が1回目の走査方向Sへの移動(走査)を行うと共に、その移動中にヘッド駆動部58を駆動制御して印刷ヘッド34からインク滴を吐出させることで1回目の走査による1パス分(1行分)の印刷が行われる。そして、次に媒体Pの1回目の間欠搬送が行われる。本ルーチンは、この1回目の間欠搬送に先立ち実行される。そして、印刷装置11の印刷中において、コンピューター50は、キャリッジ駆動部57及びヘッド駆動部58を駆動制御することによる印刷ヘッド34の1回の移動分(1パス分)の印刷と、搬送系駆動部56を駆動制御することによる媒体Pの間欠搬送とを交互に行わせる。本ルーチンは、媒体Pを間欠搬送する度にコンピューター50により実行される。なお、印刷の指令を受け付けたときにコンピューター50のデータ取得部61は、操作部18及びPC53から入力した印刷情報を記憶部52に一時記憶させている。
さて、本ルーチンが開始されると、ステップS11において、コンピューター50は、これから行われる媒体Pに対する印刷の方式がバンド印刷であるか否かを判断する。すなわち、コンピューター50の判断部63は、操作部18から入力される印刷に関する情報及びPC53から入力される印刷情報の中にバンド印刷に属する通常バンド印刷又は変則バンド印刷の指令情報が含まれているか否かを判断する。そして、バンド印刷の指令情報は含まれていない(S11=NO)と判断した場合、コンピューター50は本ルーチンを終了する。
一方、バンド印刷の指令情報が含まれている(S11=YES)と判断した場合は、次のステップS12において、搬送量PFを取得する。すなわち、コンピューター50の制御部60は、印刷情報に含まれる次の1走査分の画像情報と、そのときの印刷方式に応じた次のパスに適用される送り規則とに基づいて搬送量PFを決定する。
次のステップS13において、コンピューター50は、これから行われる媒体Pの間欠搬送が、ノズル列の長さに近い搬送距離で間欠搬送される所謂大送りであるか否かを判断する。すなわち、通常バンド印刷の場合、基本的に間欠搬送は全て大送りなので、毎回の間欠走査で「大送り」と判断される。また、変則バンド印刷の場合、微小送りと大送りとが交互に行われるため、大送りに該当する回に限り「大送り」と判断される。そして、搬送モードが所謂大送りではない(S12=NO)と判断した場合、コンピューター50は本ルーチンを終了する。
その一方、今回の間欠搬送が大送りである(S12=YES)と判断した場合は、次のステップS14において、コンピューター50は、LPG段数及び媒体の厚さLPを取得する。すなわち、間隔取得部62は、印刷の指令を受け付けたときにデータ取得部61が記憶部52に一時記憶させた印刷情報の中から媒体情報を取得し、媒体情報に含まれる媒体種と媒体サイズとを基に図3に示すPLGテーブルデータTD1を参照して、PLG段数と媒体の厚さLPとを取得する。こうして媒体種(普通紙、光沢紙、封筒等)と媒体サイズ(A4判、A3判、封筒定格サイズ等)との組合せに応じたPLG段数と厚さLPとの情報が取得される。さらに間隔取得部62は、PLG段数を基に、図13に示すテーブルデータTD2を参照して取得した対応する第1の間隔PLGの大きさであるギャップ量Lpg(mm)から、媒体Pの厚さLPを差し引くことで、第2の間隔PAGの大きさである第2のギャップ量x(=Lpg−LP)を取得する。
次のステップS15において、コンピューター50は、キャリッジ速度Vcrを判断する。本例では、バンド印刷では、媒体種に応じてキャリッジ速度Vcr(つまり印刷ヘッド34の移動速度)を異ならせている。すなわち、媒体種が普通紙や写真紙等の相対的に厚さの薄い第1の媒体である場合は高速印刷モードを適用し、媒体種が封筒等の相対的に厚さの厚い第2の媒体である場合は低速印刷モードを適用する。判断部63は、媒体種の情報を基に適用される印刷速度モードを取得し、その取得した印刷速度モードに応じたキャリッジ速度Vcrを取得する。例えば普通紙や写真紙等の第1の媒体である場合、キャリッジ速度Vcrは相対的に高速な第1の移動速度(例えば360cps)と判断され、封筒等の第2の媒体種である場合、キャリッジ速度Vcrは第1の移動速度よりも低速な第2の移動速度(例えば180cps)と判断される。そして、コンピューター50は、キャリッジ速度Vcrが高速か低速かの判断結果を記憶部52に一時的に記憶させた後、次のステップS16に処理を移行する。
次のステップS16において、コンピューター50は、今回の印刷時における印刷の使用色を判断する。すなわち、判断部63は、今回の印刷モードがモノクロ印刷とカラー印刷のうち何れであるかを判断する。なお、この判断も操作部18及びPC53から入力される印刷情報に基づいて行う。そして、コンピューター50は、その判断結果を記憶部52に一時的に記憶させた後、次のステップS17に処理を移行する。
次のステップS17において、コンピューター50は、媒体の搬送領域を判断する。すなわち、判断部63は、印刷中の媒体Pの搬送位置が通常領域に属するか下端領域に属するかを判断する。判断部63は、制御部60が管理する媒体Pの搬送位置と、媒体Pが通常領域にあるときの搬送位置の範囲を表わす第1の範囲と、媒体Pが下端領域にあるときの搬送位置の範囲を表わす第2の範囲とを比較し、媒体Pが通常領域にあるか下端領域にあるかを判断する。そして、コンピューター50は、その判断結果を記憶部52に一時的に記憶させた後、次のステップS18に処理を移行する。
次のステップS18において、コンピューター50は、キャリッジ速度、印刷色、搬送領域に応じた計算式を選択する。この計算式の選択は、補正量取得部64が行う。図15に示すように、キャリッジ速度Vcrが高速である高速印刷モードのときには、補正量取得部64は、グラフAの中の計算式を選択し、そのグラフAの中から、印刷色(モノクロ/カラー)の条件と、媒体Pの搬送位置が属する搬送領域(通常領域/下端領域)の条件とに応じた1つのグラフで表わされる計算式を選択する。
次のステップS19において、コンピューター50は、選択した計算式を用いてギャップ量に応じた補正量の計算を行う。この処理では、補正量取得部64が第2のギャップ量xの関数で示される計算式f(x)に基づき第2のギャップ量xに応じた補正量ΔPF2を算出する。詳しくは、コンピューター50が図17に示す補正量算出ルーチンを実行することにより行う。なお、補正量算出処理ルーチンの処理内容の詳細は、後述する。
次のステップS20において、コンピューター50は、搬送量を補正する。すなわち、制御部60は、補正量取得部64が取得した補正量ΔPF2により搬送量PFを補正する。なお、本実施形態では、ステップS14〜S20の各処理により、補正ステップの一例に相当する。
そして、次のステップS21において、コンピューター50は、搬送量PFで媒体を搬送する。すなわち、制御部60が、搬送系駆動部56を駆動制御し、搬送ローラー対39,40の回転によって媒体Pを搬送量PFで搬送する。この間欠搬送によって媒体Pは次の印刷位置まで搬送される。このとき、ステップS20で搬送量が補正された場合、制御部60が、搬送系駆動部56を駆動制御し、媒体Pは、補正後の搬送量で搬送される。なお、本実施形態では、ステップS21の処理が、制御ステップの一例に相当する。
次に図16を参照して補正量算出ルーチンについて説明する。この補正量算出ルーチンはコンピューター50の補正量取得部64が実行する。なお、このルーチンを開始する前に、間隔取得部62により今回の印刷に適用するべきPLG段数及び媒体Pの厚さLPが決定されている。また、今回の印刷色モード(モノクロ印刷/カラー印刷)、媒体Pの現在の搬送位置が属する搬送領域、印刷ヘッド34の移動速度(キャリッジ速度Vcr)を規定する印刷速度モード(高速/低速)なども決定されている。これらの決定された各情報は、記憶部52に一時記憶されている。
まずステップS31では、印刷色、搬送領域、キャリッジ速度、PLG段数に応じた傾き計算用設定値Y1,Y2,X1,X2を取得する。すなわち、補正量取得部64は、今回の印刷に適用される印刷色モード(モノクロ/カラー)、搬送領域(通常/下端)、印刷速度モード(高速/低速)及びPLG段数(PLG1〜7)を記憶部52から読み出し、これらのパラメーターを基に図14に示す補正テーブルデータTD3を参照して、傾き計算用設定値Y1,Y2,X1,X2を取得する。
次のステップS32では、ギャップ量の差分dxを計算する。すなわち、補正量取得部64は、差分dxを、以下の(1)式により計算する。
dx=Lpg−X1−(Lp−Lp0)…(1)
ここで、Lpgは、今回の印刷に適用されるPLG段数に応じたギャップ量(mm)、X1は、今回のPLG段数に応じたX基準座標、Lpは今回印刷される媒体Pの厚さ(mm)、Lp0は、製品出荷前のテスト印刷に使用された媒体P(例えば普通紙)の基準厚さ(例えば0.11mm)である。この差分dxは、製品出荷前のテスト印刷で使用した基準のPLG段数のときのギャップ量x0(=X1−LP0)と今回の印刷に適用されるギャップ量xとの差分に相当する。
次のステップS33では、傾きaを計算する。すなわち、補正量取得部64は、傾き計算用設定値(Y1,Y2,X1,X2)を用いて、傾きaを、式a=(Y2−Y1)/(X2−X1)により計算する。
次のステップS34では、補正量の差分dyを計算する。すなわち、補正量取得部64は、差分dyを、以下の(2)式により計算する。
dy=int(dx・a+0.5)…(2)
ここで、演算子int( )は、( )内の値を超えない最大の整数を表わし、本例では、dx・aの値を四捨五入することにより差分dyを整数で求める。
ステップS35では、補正量ΔPF2を計算する。すなわち、補正量取得部64は、補正量ΔPF2を、式ΔPF2=Y1+dyにより計算する。こうして補正量ΔPF2が算出されると、図16におけるステップS20に進む。なお、間隔取得部62が、印刷に適用されるPLG段数に応じた第1のギャップ量Lpgと、媒体Pの厚さLPとの差を計算して第2のギャップ量x(=Lpg−LP)を取得し、図15のグラフをマイナスX軸方向に基準厚さLP0だけシフトさせたギャップ量xの一次関数で表わされる計算式を用いて、補正量ΔPF2を算出してもよい。
次に、本実施形態の印刷装置11の作用について説明する。なお、前提として、今回の印刷の印刷方式がバンド印刷であるときに搬送量の補正が行われる。バンド印刷では、印刷ヘッド34のノズル列長近くの搬送距離で媒体Pを搬送方向Fに大送りする間欠搬送が含まれる。
さて、印刷指令を受け付けると、コンピューター50により今回の印刷で適用される印刷色モード(モノクロ/カラー)、印刷速度モード(高速/低速)、印刷対象となる媒体Pの媒体種及び媒体サイズが、PC53から入力された印刷情報等に基づき判別される。そして、コンピューター50は、媒体種及び媒体サイズを基に図3に示すPLGテーブルデータTD1を参照して、PLG段数と媒体Pの厚さLPとが取得される。さらにPLG段数は、片面印刷か両面印刷かの区別情報、及び擦れ防止機能の有効/無効の情報に基づいて適切な段数に適宜変更される。こうしてPLG段数が決まると、制御部60は必要に応じて間隔調整駆動部59を駆動させて、選択したPLG段数に調整する。この結果、印刷ヘッド34と支持台35との間隔PLGが、PLG段数に応じた第1のギャップ量Lpgに調整される。
そして、搬送部13により印刷経路K2から印刷部14へと媒体Pが搬送され、搬送される媒体Pの先端が媒体センサー55により検出されると、エンコーダー54からのパルスの例えばパルスエッジ数の計数を開始することで、その計数値に基づいて印刷中における媒体Pの搬送位置が把握される。媒体Pが印刷開始位置に到達すると、以後、キャリッジ33が走査方向Sへ移動しながら印刷ヘッド34からインク滴を吐出する1走査分の印刷と、媒体Pを次の印刷位置まで搬送する間欠搬送とを交互に行うことで、媒体Pに対する印刷が進められる。通常バンド印刷及び変則バンド印刷を含むバンド印刷時は、間欠搬送に先立ち、搬送量が第2のギャップ量x等に応じた補正量で補正される。
いま仮に、今回の印刷の設定条件は、媒体Pの媒体種が写真紙で媒体サイズが2L判であって、PLG段数がPLG4、媒体の厚さLPがLP0よりも厚いLP4であり、かつ印刷色モードがモノクロ印刷、搬送領域が通常、印刷速度モード(キャリッジ速度)が高速に設定されているものとする。
すると、その設定条件に対応した傾き計算用設定値(Y1,Y2,X1,X2)が記憶部52の補正テーブルデータTD3を参照して取得される。すなわち、図13に示すテーブルデータTD2から、PLG4に対応するギャップ量Lpg(=230[0.01mm])が読み出されると共に、図14に示す補正テーブルデータTD3から、モノクロ、通常、高速で、PLG4の場合の傾き計算用設定値(Y1=H3BK,Y2=H5BK,X1=190,X2=255)が、読み出される。
そして次に、今回の印刷時における媒体Pの表面Paと印刷ヘッド34との間隔PAGの大きさである第2のギャップ量xが計算される。いま仮に、今回の媒体Pの媒体種が光沢紙であるとすると、光沢紙の厚さLPは基準厚さLP0(=0.11mm)よりも厚いため、先に説明した(1)式を用いて求まる差分dxは、dx=Lpg−X1−(Lp−Lp0)により算出される。図15のグラフに示すように、PLG4かつ厚さLP4のとき、座標(X1,Y1)の点と点RとのX軸方向の差分dxは、dx=55−LP3と算出される。また、(2)式を用いて補正量の差分dyは、dy=int(dx・a+0.5)により算出される。そして、補正量の差分dyを基準補正量Y1に加算することにより補正量ΔPF2(=Y1+dy)が算出される。そうした今回の印刷に適用されるPAG段数及び媒体Pの厚さLPに適合した補正量ΔPF2を用いて媒体Pの搬送量PFが補正される。
さらに本実施形態では、前回の1走査分の印刷データに基づき算出されるインク吐出率(%)(印刷デューティ)をパラメーターとして、このパラメーターが印刷ヘッド34から吐出されたインクの搬送方向Fと平行な方向への広がりに対する寄与率を求め、その寄与率に応じて補正量ΔPF2を調整する。また、前回の1走査分の印刷データに基づき算出されるインク滴の平均サイズ、あるいは印刷品質(標準/高精細)から取得されるインク滴の平均サイズをパタメーターとして、このパラメーターが印刷ヘッド34から吐出されたインクが風の影響で搬送方向Fと平行な方向にどの程度流され易くするのかその寄与率を求める。そして、その寄与率に応じて補正量ΔPF2を調整する。
例えば図7に示すように、キャリッジ33が走査方向Sに移動するときは、空気を押し退けることにより風が発生する。また、隣同士のノズル列に属するノズル34Nからインク滴を吐出しながら印刷ヘッド34が移動する過程では、インク滴でできた一種のカーテンを形成しつつ走査方向Sに移動する。この印刷ヘッド34の移動過程では、各インク滴のカーテンの隙間に気流が流れ込むので、インク滴は搬送方向Fと平行な方向において外側へ広がる(図7、図8参照)。
このときインク滴の着弾位置の搬送方向へのずれ量は、第2の間隔PAGが相対的に狭い図7の方よりも、第2の間隔PAGが相対的に広い図8の方が大きくなる。この場合、図7の場合に搬送量に加えられる補正量ΔPF2よりも、図8の場合に搬送量に加えられる補正量ΔPF2の方がより大きい。また、印刷色がモノクロのときとカラーのときとで補正量ΔPF2を異ならせている。これはモノクロ印刷時の黒インクの密度と、カラー印刷時のカラーインクの密度とが、顔料の違いなどから異なる。そしてインク密度が大きいほど、風に流されにくいので、補正量は小さく調整される。
また、媒体Pは、1枚印刷される過程で、その搬送位置が、搬送ローラー対39,40のうち上流側の搬送ローラー対39のみによって支持された上端領域(図9)と、搬送ローラー対39,40のうち両方に支持された中央領域(図10)と、下流側の搬送ローラー対39のみによって支持された下端領域(図11)とをとる。ここで、媒体Pの搬送位置が下端領域に属するときは、媒体Pの既に印刷が終わった部分はインクの吸収による膨潤によってカールし易くなっており、下端部分が支持面35aから浮き上がり易くなっている。この場合、図12に示すように、媒体Pの下端部分が例えば角度θで斜めに浮き上がると、浮き上がっていない実線で示す媒体Pのときのインク着弾範囲の搬送方向Fの幅L1に比べ、二点鎖線で示す浮き上がった媒体Pのときのインク着弾範囲の幅L2がより長くなる。しかし、本実施形態では、上端領域と中央領域とを合わせた通常領域にあるときの搬送量の補正量よりも、下端領域にあるときの搬送量の補正量をより大きくしている。
このため、前回の走査時の印刷結果と今回の走査時の印刷結果との搬送方向Fにおける相対的な位置ずれを小さく抑えることができる。その結果、例えば図5に示す白バンディング領域WAや図6に示す黒バンディング領域KAを低減又は解消することができる。よって、図4に示すように、バンディングの発生が抑制された高品質のバンド印刷を行うことができる。
上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)搬送部13により印刷部14に搬送された媒体Pに対して印刷ヘッド34からインクを吐出して印刷するときには、その印刷時における媒体Pの表面Paと印刷ヘッド34との間隔PAGの大きさ(第2のギャップ量x)に対応した補正量ΔPF2で媒体Pが調整される。そのため、例えば印刷対象となる媒体Pの種類により、印刷時における間隔PAGの大きさに適した搬送量で媒体Pが搬送されるので、媒体Pの搬送方向Fにおいて生じるインクINCの着弾位置の位置ずれを抑制することができる。
(2)印刷ヘッド34の走査方向Sへの移動速度が相対的に速い場合には遅い場合よりも印刷ヘッド34が移動時に空気を押しのけて巻きおこす風も強くなり、媒体Pに対する印刷ヘッド34からのインクINCの着弾位置の搬送方向の位置ずれも大きくなる場合は、そのような位置ずれが抑制される。すなわち、移動速度が第1の移動速度のときの補正量は、第1の移動速度よりも遅い第2の移動速度のときの補正量よりも大きな値に設定される。そして、同じ搬送量が指令された場合、第1の移動速度のときの第1の調整搬送量が、第2の移動速度のときの第2の調整搬送量よりも大きな値に調整される。したがって、印刷ヘッド34の移動速度の違いに応じて大きさを変化させた調整搬送量で媒体Pを搬送することができ、印刷ヘッド34の移動速度が異なる場合にも媒体Pの搬送方向において生じるインクINCの着弾位置の位置ずれを、より適切に抑制できる。
(3)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、印刷ヘッド34と媒体Pとの間隔PAGの大きさが第1の値であるときの補正量よりも、第1の値よりも大きい第2の値であるときの補正量をより大きくする。よって、印刷ヘッド34と媒体Pとの間隔PAGの大きさに拘らず、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(4)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、印刷ヘッド34の移動速度であるキャリッジ速度Vcrが第1の移動速度にあるときの補正量よりも、キャリッジ速度Vcrが第1の速度よりも高速な第2の移動速度にあるときの補正量をより大きくする。よって、キャリッジ速度Vcrに拘らず、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(5)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、印刷色モードがモノクロ印刷モードのときの補正量と、印刷色がカラー印刷モードのときの補正量とを異ならせた。よって、印刷色がモノクロかカラーかによらずバンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(6)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、媒体Pが搬送ローラー対39,40との位置関係で上端領域と中央領域とを含む通常領域に位置するときの補正量よりも、下端領域に位置するときの補正量をより大きくする。よって、媒体Pが上端領域、中央領域及び下端領域のどの領域に位置しても、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(7)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、キャリッジ33が1回移動(走査)する1パス当たりに全使用ノズルで吐出可能な最大総吐出量に対する実総吐出量の比率を表わすインク吐出率(印刷デューティ)(%)に応じた異なる補正量ΔPF2を適用した。特に、インク吐出率(%)が第1の率であるときの補正量よりも、第1の率よりも吐出率の高い第2の率のときの補正量をより大きくした。よって、インク吐出率(%)の高いパスで1行分の印刷を終えた後も、インク吐出率の低いパスで1行分の印刷を終えた後も、共にそれぞれのインク吐出率(%)に応じたインク滴の着弾位置の搬送方向Fへの広がり度合に応じた適切な補正後の搬送量で媒体Pを搬送することができる。従って、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(8)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、インク滴の平均サイズが第1の平均サイズであるときの補正量よりも、第1平均サイズよりも小さい第2の平均サイズであるときの補正量をより大きくする。よって、インク滴の平均サイズが相対的に大きい第1の平均サイズのときも、相対的に小さい第2の平均サイズのときも、共にバンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(9)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、インク滴の重量(μg)が第1の重量であるときの補正量よりも、第1の重量よりも小さい第2の重量であるときの補正量をより大きくする。よって、インク滴の重量の大小に依らず、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(10)風の影響によるインク滴の着弾位置の搬送方向Fへのずれ量を低減するために搬送量PFを補正量ΔPF2で補正する場合、インクの密度(g/ml)が第1の密度であるときの補正量よりも、第1の密度よりも小さい第2の密度であるときの補正量をより大きくする。よって、インクの密度の高低に依らず、バンディングを適切に低減し、高品質の印刷物を提供することができる。
(11)通常バンド印刷方式と変則バンド印刷方式など、全ノズルピッチ長に等しい所定距離もしくは全ノズルピッチ長よりも短くかつ全ノズルピッチ長に近い所定距離で媒体Pを大送りする間欠搬送を含むバンド印刷方式の印刷が行われる場合に、搬送量を補正量ΔPF2で補正する。よって、バンド印刷方式において媒体Pが大送りされる前の印刷結果と大送りされた後の印刷結果との搬送方向Fにおける相対的な位置ずれを抑制することができる。その結果、媒体Pが大送りされる前後の各印刷結果(印刷ドット群)の重なりや隙間に起因するバンディングを低減することができる。この点で、印刷画像の品質の低下を回避できる。
(12)画像情報と共に入力される印刷情報に含まれる媒体情報に基づき印刷時における印刷ヘッド34と媒体Pの表面Paとの間隔PAGの大きさである第2のギャップ量x(=Lpg−LP)が決定される。すなわち、媒体情報に含まれる媒体種と媒体サイズを基にPLGテーブルデータTD1(図3)を参照してPLG段数及び媒体Pの厚さLPを取得し、そのPLG段数に対応する第1のギャップ量Lpg(図13)から厚さLPを差し引くことで第2のギャップ量xを取得する。このように決定される第2のギャップ量xに基づき容易に補正量ΔPF2を取得することができる。
(13)印刷時における支持台35と印刷ヘッド34との間隔に対応した第1のギャップ量Lpgを取得し、予め記憶部52に記憶された基準の第1のギャップ量Lpgと補正量との組合せからなる複数の組データを含む補正テーブルデータTD3を記憶部52に記憶する。媒体情報を基にPLGテーブルデータTD1を参照して取得した1つの第1のギャップ量Lpgの値を挟む2つの第1のギャップ量を含む2つの組データを補正テーブルデータTD3から取得する。そして、取得した2組の組データを用いて補間計算を行って1つの第1のギャップ量Lpgのときの補正量を取得する。すなわち、(1)式により求めた差分dxを用いて(2)式に基づき調整補正量dyを求め、基準補正量Y1に調整補正量dyを加えることで、補正量(Y1+dy)を取得する。このように媒体情報に基づく第1のギャップ量Lpgと、基準の2つの第1のギャップ量Lpgと補正量との組合せからなる2つの組データとを用いて、印刷時の第1のギャップ量Lpg及び媒体Pの厚さLPに応じた補正量を比較的簡単に取得することができる。よって、記憶部52に記憶しておく基準の組データの数を少なく抑えつつ、基準の組データ以外のPLG段数(第1のギャップ量Lpg)に応じた補正量を、第2のギャップ量xを直接計算することなく、比較的簡単に取得することができる。
なお、上記実施形態は以下に示すように変更してもよい。
・計算式を一次関数としたが、媒体面ギャップが大きくなるほど補正量の上昇率が徐々に大きくなる二次関数や三次関数などの曲線関数で表わされる計算式を用いてもよい。例えば図18に示すように、高速印刷モードでは、曲線関数f1(x)〜f4(x)を使用し、低速印刷モードでは曲線関数g1(x)〜g4(x)を使用する。この構成によれば、計算式の関数が近似式ではないので、一層精度のよい補正量ΔPF2を取得でき、搬送量をより適切に補正することができる。その結果、バンディングを一層効果的に低減することができる。
・ギャップ量と補正量との関係を示す計算式を用いる構成に替え、ギャップ量と補正量との全ての組合せを含む補正テーブル(参照データの一例)を記憶部52に記憶してもよい。この場合、今回の印刷時に適用されるギャップ量を基に補正テーブルを参照して対応する補正量ΔPF2を取得する。例えば搬送量を補正する補正量の取得に当たり、計算式を用いた計算処理を省くことができる。
・印刷色(モノクロ印刷/カラー印刷)を、補正量を決めるパラメーターとしなくてもよい。
・印刷中に媒体Pの搬送位置が上端領域に属するときも、中央領域に属するときに比べ補正量を大きくしてもよい。また、媒体Pの搬送位置が属する搬送領域が通常領域であるか下端領域であるかを、補正量を決めるパラメーターとしない構成でもよい。
・印刷時に適用するPLG段数(又はギャップ量Lpg)を決定する場合、媒体情報(媒体種、媒体サイズ)、片面印刷か両面印刷かの区別情報、擦れ防止機能の有効/無効情報のうち全ての情報に基づく必要はなく、少なくとも1つの情報に基づけばよい。例えば擦れ防止機能を無くしてもよい。また、例えば片面印刷と両面印刷で同じPLG段数(ギャップ量Lpg)が設定されてもよい。
・搬送量の補正は、補正前の搬送量に風の影響による補正量を加算することにより搬送量を大きくする補正に限らず、例えば補正前の搬送量から補正量を減算することにより搬送量を小さくする補正としてもよい。例えば、風の影響によって搬送方向Fにおいて使用ノズルエリアに対してインク着弾エリアが相対的に狭くなる場合は、補正前の搬送量から補正量を減算する(あるいはマイナスの補正量を加算する)ことにより、バンディングを低減することができる。
・第1のギャップ量Lpgから媒体Pの厚さLPを差し引くことで、印刷ヘッド34と媒体Pとの間隔PAGの大きさである第2のギャップ量xを取得したが、他の方法で第2のギャップ量xを取得してもよい。例えば、媒体情報(媒体種と媒体サイズ)と第2のギャップ量xとが対応付けられたテーブルデータを記憶部52に記憶し、媒体情報からこのテーブルデータを参照して媒体情報に応じた第2のギャップ量xを取得してもよい。さらに印刷情報のうち媒体情報委以外の情報に基づいて第2のギャップ量xを取得してもよい。また、距離センサーで印刷ヘッドと媒体の表面までの距離を検出することで、第2のギャップ量x(ペーパーギャップ)を取得してもよい。
・印刷ヘッド34の走査方向Sへの移動速度が閾値速度とは異なる場合でもPLGを調整せずにPAGを求めてもよい。
・上記実施形態において、液体吐出装置は、インクを吐出する印刷装置11に限定されず、インク以外の他の液体を吐出する液体吐出装置であってもよい。この種の液体吐出装置においても同様に吐出された液体(液滴)の媒体への着弾位置の搬送方向への位置ずれを低減し、液滴の着弾位置精度を高めることができる。
・バンド印刷に属する通常バンド印刷と変則バンド印刷とのうち一方のみに、風の影響による補正量ΔPF2による搬送量の補正を適用してもよい。また、通常バンド印刷と変則バンド印刷以外にも、大送り(例えばノズル列の2/3以上の搬送距離)が行われる印刷方式において搬送量を補正してもよい。
・搬送量の補正の適用は大送りを含む印刷方式に限定されない。例えば使用ノズルの搬送方向の長さの1/2、1/3、1/4等の所定のピッチずつ媒体Pが小送りで搬送される印刷方式に、搬送量の補正量ΔPF2による補正を適用してもよい。この構成によれば、媒体Pの小送り搬送前後における前回の印刷結果と今回の印刷結果との搬送方向Fにずれを抑制することができる。
・補正量を決めるパラメーターは、インク滴の着弾位置の風の影響による搬送方向へのずれを生じさせる原因となる適宜なパラメーターを選択することができる。例えばPLG段数(又は第1のギャップ量Lpg)のみ、あるいは第2のギャップ量xのみをパラメーターとしてもよい。例えば第1のギャップ量Lpgに応じた補正量で搬送量を補正してもよい。このように第1のギャップ量Lpgの大きさに対する媒体Pの厚さLPはかなり小さいので、媒体Pの厚さLPを考慮せず、第1のギャップ量Lpgを間隔の大きさの一例とした構成であっても、媒体の搬送方向Fに生じるインクの着弾位置の位置ずれに起因する印刷品質の低下を抑制することができる。
・また、補正量を決めるパラメーターは、印刷時における印刷ヘッド34の移動速度(又はキャリッジ速度Vcr)、あるいは印刷速度モード(高速/低速)等の印刷ヘッドの移動速度に係る情報のみでもよい。さらにインク吐出率(%)(印刷デューティ)のみをパラメーターとしたり、印刷色のみをパラメーターとしたりしてもよい。また、印刷ヘッド34の走査1回当たりのインク滴の平均サイズのみをパラメーターとしたり、インク滴の平均重量又は平均密度のみをパラメーターとしたりしてもよい。また、上述した複数種のパラメーターのうち、2種又は3種など複数種のパラメーターを組み合わせて補正量を決めてもよい。
・間隔調整駆動部59に替え、例えば手動操作でPLG段数(又は第1のギャップ量Lpg)を調整可能な間隔調整機構を備えた構成でもよい。この場合、センサーで間隔を検出したり、ユーザーが操作部18を操作して印刷装置11に間隔を入力したりしてもよい。
・第1のギャップ量Lpg又は第2のギャップ量xが一定の1つのみ使用される印刷装置に適用してもよい。つまり、ギャップ量Lpg,xを、補正量を決めるパラメーターとしなくてもよい。この場合、キャリッジ速度に応じて補正量を変化させればよい。すなわち、データ取得部61(速度情報取得部の一例)が取得した印刷情報に含まれる印刷速度に関するモード情報に基づく印刷ヘッド34の移動速度(つまりキャリッジ速度Vcr)が、第1の移動速度のときよりも、第1の移動速度よりも遅い第2の移動速度のときに補正量をより大きくする。この構成によっても、風の影響でインク滴の着弾位置が搬送方向にずれても、前回の印刷結果と今回の印刷結果との搬送方向における相対位置の位置ずれを小さく抑え、印刷品質の低下を抑制することができる。
上記実施形態及び変形例から把握される技術的思想を以下に記載する。
(1)媒体を搬送する搬送部と、前記媒体の搬送方向と交差する方向に移動しながら前記媒体に印刷ヘッドから液体を吐出して印刷を行う印刷部と、前記印刷ヘッドが印刷を行うときの移動速度の情報を取得する速度情報取得部と、前記速度情報取得部が取得した移動速度に応じた補正量で前記媒体の搬送量を補正することにより調整搬送量を取得し、前記搬送部を制御して当該調整搬送量で前記媒体を搬送させる制御部とを備えたことを特徴とする印刷装置。この構成によれば、印刷ヘッドが搬送方向と交差する方向に移動するときに印刷装置内で空気を押し退けることで発生する気流によって、印刷ヘッドから吐出された液体が媒体に着弾するまでの過程で流されたことから着弾位置が搬送方向にずれても、そのずれ量に応じた補正量で搬送量が補正された調整搬送量で媒体の搬送が行われる。よって、媒体が搬送される前の印刷結果に対して適切な位置に次の印刷を行うことができる。