JP6577650B1 - 同期放送用測定器 - Google Patents

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Abstract

【課題】同期放送システムにおいて、音声品質の客観的な評価を実現する技術を提供する。【解決手段】基準値生成部(611)は、基準パイロット信号におけるN個の観測位相のそれぞれについて、基準パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した基準値を生成する。観測値生成部(612)は、復調器で復調された復調パイロット信号におけるN個の観測位相のそれぞれについて、復調パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した観測値を生成する。エラー電力算出部(614)は、座標上での基準値と観測値との距離を算出し、該距離の平均値をエラー電力として算出する。客観評価値算出部(615)は、座標上での原点から基準値までの距離を基準電力として、エラー電力と基準電力との比に応じて値が変化する評価値を客観評価値として算出する。【選択図】図6

Description

本開示は、FM同期放送の品質を測定する技術に関する。
周波数変調された同一周波数かつ同一プログラムの音声放送波を、複数の送信所から送信するFM同期放送(以下、同期放送)が知られている。同期放送において、複数の到来波が共存する受信地域(以下、重複エリア)では、いずれかの到来波が他方の到来波の干渉波となり、受信品質を劣化させる。その劣化特性は、到来波間のD/Uと遅延時間差に関係し、遅延時間差が大きいほど良好な受信品質を得るために必要なD/Uが大きくなる。なお、D/Uは、希望波に対する干渉波の比を表す。
D/U=0dBとなる等電界地点では、遅延時間差が等しければ受信品質の劣化が生じないこと、および等電界地点から離れた地点では、D/Uが大きくなるため受信品質が担保されることが実証されており、現在実用放送が実施されている。
ところで、重複エリアにおいて、受信障害を抑制するためには、等電界地点での各到来波の遅延が一致するように各送信所での送信タイミングを調整する必要がある。
また、送信所間で放送波の変調度の違いは、重複エリアで受信される二つの到来波の周波数偏差となって現れ、受信品質を劣化させる原因となる。なお、放送波の変調度は、各送信所にて変調に用いる音声信号の振幅が異なること、各送信所に設置されたFM変調器の特性に固体差があること等によって差が生じる。
つまり、同期放送を実現するためには、共通の重複エリアを有する2つの送信所に設置されるFM変調器の物理的な特性の同一性と、変調に用いる音声信号の同一性と、変調に関わる制御の時間的な同期性を担保する必要がある。
これらの要求を満たすために、特許文献1には、既存のオシロスコープやスペクトラムアナライザを用いて到来波の解析を可能とする技術が開示されている。即ち、特許文献1には、二つの送信所から同時に試験波を送信させ、且つ、試験波の周波数を電波法の範囲内で異ならせることにより、重複エリアで取得される受信信号から、二つの到来波の分離抽出を可能とする技術が記載されている。また、特許文献1には、二つの送信所から交互にトーンバーストを送信させることで、各送信所からの遅延時間、ひいては両送信所からの到来波の遅延時間差の測定を可能とする技術も記載されている。
特許第6280077号公報
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術は、同期放送の音声品質に関わる音声信号の遅延時間差やD/Uを測定しているに過ぎず、最終的な音声品質の評価は、実際に放送波を受信して再生し、その聴こえ方を評価者が主観的に評価する主観評価に頼らざるを得ず、評価者によって評価結果のばらつきが大きいという問題があった。
本開示の1つの局面は、同期放送システムにおいて、音声品質の客観的な評価を実現する技術を提供することにある。
本開示の一態様は、同期放送用測定器であって、アンテナ(41)と、復調器(45)と、時刻情報取得部(2)と、基準値生成部(611)と、観測値生成部(612)と、エラー電力算出部(614)と、客観評価値算出部(615)と、出力部(7)と、を備える。
アンテナは、二つの送信元からそれぞれ送信されるFM同期放送用の放送波が混在した混在波を受信する。FM同期放送用の放送波は、同一周波数の搬送波を同一の音声データにより周波数変調することで生成される。復調器は、アンテナからの受信信号から、ステレオコンポジット信号を復調する。時刻情報取得部は、二つの送信元にてFM変調のタイミングを合わせるために用いられる時刻情報を取得する。基準値生成部は、時刻情報に基づく一定周期のタイミングに同期したパイロット信号を基準パイロット信号とし、基準パイロット信号の1周期をN等分した各ポイントでの位相を観測位相として、基準パイロット信号におけるN個の観測位相のそれぞれについて、基準パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した基準値を生成する。観測値生成部は、復調器で復調されたステレオコンポジット信号から抽出されるパイロット信号を復調パイロット信号として、復調パイロット信号におけるN個の観測位相のそれぞれについて、復調パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した観測値を生成する。エラー電力算出部は、N個の観測位相のそれぞれについて、同相成分および直交成分を座標軸とする座標上での基準値と観測値との距離を算出し、該距離の平均値をエラー電力として算出する。客観評価値算出部は、座標上での原点から基準値までの距離をパイロット電力として、エラー電力とパイロット電力との比に応じて値が変化する評価値を客観評価値として算出する。出力部は、客観評価値算出部にて算出された客観評価値に関連する関連情報を出力する。
このような構成によれば、二つの送信所からの放送波が混合された混合波を受信し、混合波から抽出された復調パイロット信号の揺らぎの大きさを表すエラー電力を利用した評価値が客観評価値Voとして算出される。従って、同期放送システムにおける音声品質を、実際に音声を再生することなく、客観的な数値を用いて評価することができる。その結果、音声品質の確認作業を簡易に行なうことができ、音声品質について対策を必要とする地点等も容易に見つけることができる。
同期放送システムの概要を示す説明図である。 同期放送用測定器の構成を示すブロック図である。 復調器の構成を示すブロック図である。 ステレオコンポジット信号のスペクトラムを示す説明図である。 パイロット信号の周波数スペクトラムであり、(a)は干渉が少ない場合、(b)は干渉が多い場合を示す。 評価値計測部の構成を示すブロック図である。 パイロット信号のコンスタレーションを示す説明図である。 パイロット信号エラー比の算出に関わるパラメータを示す説明図である。 評価値相関情報の例を示す説明図である。 PSERと遅延時間差およびD/Uとの関係を計測した結果を示すグラフである。 遅延時間差およびD/Uを変化させて主観評価を実施した結果を示すグラフである。
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.同期放送システム]
まず、本開示に係る同期放送用測定器1が用いられる同期放送システムについて説明する。
同期放送システム100は、図1に示すように、配信局101と複数の送信所102,103を備える。配信局101は、同一の音声信号を、所定の伝送網104を介して各送信所102,103に配信する。送信所102,103は、それぞれの放送エリアA1,A2の少なくとも一部が、互いに重なり合うように配置される。以下では、重なり合う放送エリアを重複エリアAdという。送信所102,103は、伝送網104を介して配信局101から受信した同一の音声信号により、同一周波数の搬送波を周波数変調した放送波を送信することで、FM同期放送(以下、単に同期放送)を行う。また、送信所102,103では、後述する1ppsに同期したクロックを用いてFM変調のタイミングを含むFM変調特性が、両送信所間で同一となるように制御される。
音声信号の配信に用いる伝送網104は、送信所102,103毎に異なっていてもよいし、同じでもよい。また、伝送網104は、例えば無線伝送網やIP伝送網などで構成されるが、これらに限定されるものではない。
そして、同期放送用測定器1は、重複エリアAd等において、同期放送の放送品質に関わるパラメータの測定に用いられる。
[2.同期放送用測定器の構成]
図2に示すように、同期放送用測定器1は、時刻情報取得部2と、ローカル信号生成部3と、受信部4と、解析処理部6と、出力部7とを備える。
時刻情報取得部2は、GPSアンテナ21とGPS受信機22とを備え、予め定められた標準時刻を表す時刻情報を取得する。GPSは、Global Positioning Systemの略である。
GPSアンテナ21は、GPS衛星からの電波を受信する。GPS受信機22は、GPSアンテナ21での受信信号から、1秒周期のパルス信号である1秒パルス信号(以下、1pps)を、時刻情報として取得する。
ローカル信号生成部3は、受信信号の周波数をダウンコンバートするためのローカル信号Loを生成して受信部4に供給する。
受信部4は、アンテナ41と、増幅器42と、ミキサ43と、A/D変換器44と、復調器45とを備える。
アンテナ41は、無指向性アンテナにより構成される。同期放送用測定器1が、重複エリアAdにて使用される場合、アンテナ41は、二つの送信所102,103からの放送波が混合された混合波を受信する。
増幅器42は、アンテナ41からの受信信号を増幅する。
ミキサ43は、ローカル信号生成部3から供給されるローカル信号Loを用いて、受信信号を中間周波数帯の信号にダウンコンバートする。
A/D変換器44は、ミキサ43にてダウンコンバートされた受信信号を予め設定されたサンプリング周期Tsにてサンプリングする。以下の復調器45および解析処理部6に関する説明では、A/D変換器44でのサンプリングによって得られたデジタル値の系列を、単に、受信信号という。他のデジタル値の系列も同様である。
復調器45は、デジタル方式の復調器であり、図3に示すように、FM復調部451と、信号分離部452と、ステレオ復調部453とを備える。
FM復調部451は、互いに直交する(即ち、位相が90°異なる)二つの搬送波を、それぞれ受信信号に乗じる直交変換を行い、更に、FM変調された搬送波がとり得る、搬送波周波数を中心とする周波数範囲の信号を抽出することで、受信信号の同相成分Iおよび直交成分Qを生成する。更に、予め設定された時間期間Δt毎に、同相成分Iおよび直交成分Qを用いて位相を算出すると共に、直前の時間期間Δtに算出された位相との差分である瞬時位相変化分を算出する。なお、時間間隔Δtは、サンプリング周期Tsの整数倍である。ここではΔt=Tsとする。そして、算出した瞬時位相変化分を、予め用意された変換テーブルまたは変換式を用いてFM変調度に置き換えるΔf検波を行うことで、ステレオコンポジット信号Scを生成する。FM変調度は、無変調時にゼロとなり、正負の符号を有した値をとる。
ステレオコンポジット信号Scは、図4に示すように、19kHzのパイロット信号Spと、15kHz以下の周波数成分を有するL+R信号Saと、38kHzを中心に±15kHzの周波数成分を有するL−R信号Smとを有する。なお、L+R信号Saは、ステレオ音声信号を表すL信号およびR信号を加算した信号である。L−R信号Smは、L信号からR信号を減算した信号によって、パイロット信号の2倍の周波数(即ち、38kHz)を有する搬送波をAM変調した信号である。
図3に戻り、信号分離部452は、3つのバンドパスフィルタを有し、FM復調部451にて復調されたステレオコンポジット信号Scから、パイロット信号Sp、L+R信号Sa、およびL−R信号Smを個別に抽出する。
ステレオ復調部453は、信号分離部452にて抽出されたL+R信号SaおよびL−R信号Smを用いてステレオ復調を実施する。具体的には、ステレオ復調部453は、信号分離部452にて抽出されたパイロット信号Spの品質が予め設定された許容範囲内である場合、L+R信号SaとAM復調されたL−R信号Smとを加減算することで生成されるL信号およびR信号(即ちステレオ音声信号)を音声信号Soとして出力する。また、ステレオ復調部453は、抽出されたパイロット信号Spの品質が許容範囲外である場合は、L+R信号Sa(即ち、モノラル音声信号)を音声信号Soとして出力する。
なお、復調器45は、パイロット信号Spの復調に必要な構成以外が省略されてもよい。また、以下では、ステレオ復調部453にて復調、抽出されたパイロット信号Spを復調パイロット信号という。
図2に戻り、解析処理部6は、復調器45から出力される各信号を用いて、測定地点における受信品質の評価に必要な測定を実行する。解析処理部6での処理の詳細については後述する。
解析処理部6は、その機能を、全てハードウェアによって実現してもよいし、少なくとも一部を、CPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、非遷移的実体的記録媒体ともいう)を有する周知のマイクロコンピュータが実行する処理によって実現してもよい。この場合、マイクロコンピュータが実現する各種機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
出力部7は、D/A変換器71と、モニタ72と、出力端子73とを備え、出力処理、表示処理を少なくとも実施する。出力処理は、受信部4にて受信信号から抽出される各種信号(以下、抽出信号)および解析処理部6での解析結果を、そのまま又はD/A変換器71にてアナログ信号に変換し、出力端子73を介して外部に出力する処理である。表示処理は、抽出信号および解析結果を画像化して、モニタ72に表示する処理である。
なお、受信部4および解析処理部6を構成する各部は、共通クロックCKに従って動作する。共通クロックCKは、測定器1の内部で生成される基準クロックを分周することで、周期がfsの非同期クロックを生成し、この非同期クロックの立ち上がりエッジを1ppsに同期させることで生成される。
[3.解析処理部での処理]
解析処理部6は、波形記憶部60と、評価値計測部61とを備える。
[3−1.波形記憶部]
波形記憶部60は、復調パイロット信号Spを、予め設定された測定対象期間(例えば、100ms)分記憶する。
ここで、図5は、復調パイロット信号Spをスペクトラムアナライザで観測することで得られる周波数スペクトラムである。図5(a)は、混合波を構成する二つの到来波間の干渉が少ない場合であり、図5(b)は、その干渉が多い場合である。なお、干渉は、観測地点における二つの到来波間の遅延時間差が大きいほど、また、信号レベル差(即ち、信号レベル比)が小さいほど、多くなる。図5からわかるように、復調パイロット信号Spの近傍におけるノイズフロアは、干渉が少ない場合は小さく、干渉が多い場合は大きくなる。そして、復調パイロット信号Spは、ノイズフロアが大きいほど、その影響を受けて、瞬時的な振幅や位相の変化である揺らぎが大きくなる。
[3−2.評価値計測部]
図2に戻り、評価値計測部61は、復調パイロット信号Spを用いて、客観的な評価値であるパイロット信号エラーレート(以下、PSER)と、PSERに対応づけられる主観評価値とを生成する。PSERは、Pilot Signal Error Ratioの略である。
評価値計測部61は、図6に示すように、基準値生成部611と、観測値生成部612と、基準電力算出部613と、エラー電力算出部614と、客観評価値算出部615と、主観評価値算出部616と、評価値相関記憶部617と、位相差算出部618と、位相補正部619とを備える。
基準値生成部611には、二つの送信所102,103にてFM変調時に使用される揺らぎのないパイロット信号である基準パイロット信号Sfの波形を表す波形値が記憶されている。波形値は、同相成分Ifおよび直交成分Qfにより表された複素データのデータ列である。
ここで、予め設定された指定期間をTxとし、パイロット信号Spの周期をTp=Tx/fp、共通クロックCKの周期をTs=Tx/fs、fp,fsをいずれも整数で表すものとする。例えば、Tx=1msである場合、パイロット信号Spの周波数が19kHzであればfp=19と表され、共通クロックCKの周波数が48kHzであればfs=48と表される。
但し、fpは、測定対象となる同期放送システム100の仕様によって決まる。fsは、Mを正整数として、fs=M×Nを満たし、かつ、fpとは互いに素となる値に設定される。
基準パイロット信号Sfの波形値は、基準パイロット信号Sfを、その周期をfs等分した間隔でサンプリングしたfs個の複素データD(0)〜D(fs−1)で構成される。そして、nを0以上の整数として、基準パイロット信号Sfを共通クロックCKでサンプリングした場合、n番目のサンプル値がD(X)となる。但し、Xは、(1)式で表される。
X=n×fp mod fs (1)
つまり、期間Txの間(即ち、基準パイロット信号Sfのfp周期分の間)に、fs回のサンプリングが実行され、各サンプル値は、いずれも基準パイロット信号Sfの異なる位相に対応した値となる。
従って、基準パイロット信号Sfのサンプル値を、同相成分Ifを実数、直交成分Qfを虚数とする複素座標平面上にプロットすると、図7(a)に示すように、1周期をfs等分したfs個の位相を順番に遷移するコンスタレーションを描くことになる。図7(a)は、fp=19、fs=48の場合を示す。
図6に戻り、基準値生成部611は、基準パイロット信号Sfのサンプル値を順番に読み出して位相差算出部618に供給すると共に、読み出したサンプル値を、M個おきに抽出することでデータ数を1/Mに間引いたものを基準値として、基準電力算出部613およびエラー電力算出部614に供給する。
この基準値を、複素座標平面上にプロットすると、図7(b)(c)に示すように、1周期をfs/M(=N)等分したfs/M個の位相を順番に遷移するコンスタレーションを描くことになる。なお、図7(b)は、M=6の場合であり、図7(c)は、M=8の場合である。
図6に戻り、観測値生成部612は、受信部4から復調パイロット信号Spを取得し、復調パイロット信号Spにヒルベルト変換を施すことで復調パイロット信号Spのサンプル値毎に同相成分Ipおよび直交成分Qpを求めることで、復調パイロット信号Spを複素化する。
また、観測値生成部612は、複素化された復調パイロット信号Spを位相差算出部618に供給すると共に、基準値生成部611での処理と同様にデータ数を1/Mに間引いたものを観測値として、位相補正部619に供給する。
位相差算出部618は、復調パイロット信号Spの位相が不明であるため、復調パイロット信号Spと基準パイロット信号Sfとの関係を固定した状態で両者の位相差を算出する。
具体的には、観測値生成部612から供給される復調パイロット信号Spのサンプル値毎に、同相信号Ipおよび直交成分Qpから瞬時位相(以下、復調位相)θpを算出するとともに、基準値生成部611から供給される基準パイロット信号Sfのサンプル値毎に、同相成分Ifおよび直交成分Qpから瞬時位相(以下、基準位相)θfを算出する。なお、復調位相θpおよび基準位相θfの算出には、(2)式を用いる。但し、(2)式において、xは、pまたはfを表す。
θx=tan−1(Qx/Ix) (2)
そして、復調位相θpから基準位相θfを減算した結果の測定対象期間に渡る平均値(以下、平均位相差)を位相補正量Δθ(=θp−θf)として算出する。
位相補正部619は、観測値生成部612から供給される全ての観測値の位相から、位相差算出部618で算出された位相補正量Δθを減じることで、全ての観測値の位相を補正して、エラー電力算出部614に供給する。この補正により、観測値(ひいては復調パイロット信号Sp)の位相を、基準値(ひいては基準パイロット信号Sf)の位相に一致させている。
基準電力算出部613は、基準値生成部611から出力される基準値の同相成分Ifおよび直交成分Qfに基づいて、基準パイロット信号Sfの強度を表す基準電力Pfを算出する(図8(a)参照)。なお、基準パイロット信号Sfは既知であり、基準電力Pfも既知の一定値であるため、算出を行うことなく、固定値を用いてもよい。
エラー電力算出部614は、位相補正部619からの観測値(Ip,Qp)と基準値生成部611からの基準値(If,Qf)との差分(ΔI,ΔQ)を算出する(図8(b)参照)。エラー電力算出部614は、更に、差分の2乗和ΔI+ΔQ(即ち、観測値と基準値との距離)を、測定対象期間に渡って平均した結果をエラー電力ΔPとして算出する。
客観評価値算出部615は、基準電力Pfと、エラー電力ΔPとを用いて、(3)式にて定義されるPSERを算出し、これを客観評価値Voとして出力する。
PSER=10×LOG(Pf/ΔP) (3)
主観評価値算出部616は、評価値相関記憶部617に記憶された評価値相関情報を用いて、客観評価値算出部615にて算出された客観評価値Voを、主観評価値Vsに変換して出力する。
なお、主観評価値Vsは、復調した音声を実際に聴いた、実験者による主観的な評価を表現する値である。ここでは、1〜5で表現され、1は「干渉音で原音が聞きづらい」、2は「干渉音が多く原音との違いが気になる」、3は「干渉音があるのがやや気になる」、4は「干渉音を認めるが気にならない」、5は「原音との違いがわからない」を表す。
また、評価値相関情報の一例を、図9に示す。評価値相関情報は、客観評価値Voと主観評価値Vsとの対応関係を、実験によって調べることで生成される。図9に示されたグラフ中の点は、実験により得られた対応関係の実測値である。この実測値に基づき、最小二乗法等を用いて算出された近似直線が、評価値相関情報として用いられる。但し、この評価値相関情報は、遅延時間差が0〜26.3μS、即ち、パイロット信号の半周期以内である場合に有効である。
ここで、評価値相関情報の生成に用いる実測値の取得方法について説明する。
まず、PSERと遅延時間差およびD/Uとの関係を計測する。具体的には、評価素材となる音声信号に、2台のFM変調器を用いて同期して変調をかけ、更に、遅延時間差およびD/Uを調整した2つの信号を合成し、その合成信号から抽出したパイロット信号についてPSERを計測した。評価素材としては、ラジオ放送で多くの割合を占めるアナウンサーによる読み上げトークシーンを表す1分間の音声信号を用いた。また、合成信号のうち、干渉が起こらない無変調の期間を除いて、1分間の間に計測されたPSERの平均値を採用した。
図10は、PSERと遅延時間差との関係を、D/Uが0dB、1dB、2dB、3dBの場合のそれぞれについて示した計測結果である。図10に示すように、二つのパイロット信号の位相差が180°となる、遅延時間差が26.3μSで、PSERの極小値が検出される。これは二つのパイロット信号が互いに打ち消し合うことで、受信信号(即ち、合成信号)を復調できなくなることにより生じる劣化である。それ以降、二つのパイロット信号の位相差が360°となる、遅延時間差が53μSまでは、PSERは増加傾向になる。
次に、同期放送の主観評価を、D/Uと遅延時間差とを変化させて実施する。具体的には、評価素材として、上述のPSER計測に使用したものと同じものを20秒の長さに短縮して用いた。評価者は7名であり、上述の評価値1〜5で表される評点の最高点と最低点とを1個ずつ除いて5名の平均値を評点とした。
図11は、主観評価の結果である。そして、D/Uと遅延時間差とをインデックスとして、遅延時間差が0〜26.3μSの範囲内にある、図10に示すPSERと図11に示す主観評価値とを対応づけることで、図9に示す実測値が得られる。
図10および図11に示すように、遅延時間差が0〜26.3μSでは、PSERと主観評価とは、同一の傾向を示し、強い相関関係が見られる。しかし、26.3μSを超えるとPSERは増大する(即ち、品質が良くなる)傾向を示すのに対して、主観評価は評点が低下する(即ち、品質が劣化する)傾向を示す。つまり、客観評価Vo(即ち、PSER)に基づいて有効な主観評価Vsが得られる遅延時間差の範囲は、パイロット信号の半周期の範囲である0〜26.3μSとなる。
出力部7は、客観評価値Vo、主観評価値Vsをモニタ72に表示させるだけでなく、基準値および観測値によって表現されるコンスタレーション等をモニタ72に表示させてもよい。
[4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(4a)同期放送用測定器1では、二つの送信所102,103からの放送波が混合された混合波を受信し、混合波から抽出したパイロット信号である復調パイロット信号Spのゆらぎ度を表すPSERを客観評価値Voとして算出する。従って、同期放送システム100における音声品質を、音声を再生することなく、客観的な数値を用いて評価することができる。その結果、音声品質の確認作業を簡易に行なうことができ、音声品質について対策を必要とする地点等も容易に見つけることができる。
(4b)同期放送用測定器1では、客観評価値Voを、主観評価値Vsに変換して出力するため、客観評価値Voが表す受信品質を、同期放送用測定器1の使用者が理解し易い形態で提示することができる。
[5.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
(5a)上記実施形態では、位相差算出部618は、位相差補正量Δθを、間引き前のサンプル値を用いて算出するように構成されているが、間引き後のサンプル値を用いて算出するように構成されてもよい。
(5b)上記実施形態では、エラー電力ΔPの算出に、基準パイロット信号Sfおよび復調パイロット信号Spのサンプル値を間引く処理を行っているが、サンプル値を間引く処理は省略してもよい。
(5c)上記実施形態では、時刻情報として、GPS衛星からの信号を受信することで出られる時刻情報を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、準天頂衛星などの衛星からの信号を受信することで得られる時刻情報や、電波時計などに利用される日本標準時の時刻情報を送出する長波を用いた標準電波などを受信することで得られる時刻情報等を用いてもよい。
(5d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
(5e)上述した同期放送用測定器の他、当該同期放送用測定器としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、音声品質評価方法など、様々な形態で本発明を実現することもできる。
1…同期放送用測定器、2…時刻情報取得部、3…ローカル信号生成部、4…受信部、6…解析処理部、7…出力部、21…GPSアンテナ、22…GPS受信機、41…アンテナ、42…増幅器、43…ミキサ、44…A/D変換器、45…復調器、60…波形記憶部、61…評価値計測部、71…D/A変換器、72…モニタ、73…出力端子、451…復調部、452…信号分離部、453…ステレオ復調部、611…基準値生成部、612…観測値生成部、613…基準電力算出部、614…エラー電力算出部、615…客観評価値算出部、616…主観評価値算出部、617…評価値相関記憶部、618…位相差算出部、619…位相補正部。

Claims (4)

  1. 同一周波数の搬送波を同一の音声データにより周波数変調することで生成され、二つの送信元からそれぞれ送信されるFM同期放送用の放送波が混在した混在波を受信するアンテナ(41)と、
    前記アンテナからの受信信号から、ステレオコンポジット信号を復調するように構成された復調器(45)と、
    前記二つの送信元にてFM変調のタイミングを合わせるために用いられる時刻情報を取得するように構成された時刻情報取得部(2)と、
    前記時刻情報に基づく一定周期のタイミングに同期したパイロット信号を基準パイロット信号とし、前記基準パイロット信号の1周期をN等分した各ポイントでの位相を観測位相として、前記基準パイロット信号における前記N個の観測位相のそれぞれについて、前記基準パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した基準値を生成するように構成された基準値生成部(611)と、
    前記復調器で復調された前記ステレオコンポジット信号から抽出されるパイロット信号を復調パイロット信号として、前記復調パイロット信号における前記N個の観測位相のそれぞれについて、前記復調パイロット信号を同相成分および直交成分にて表現した観測値を生成するように構成された観測値生成部(612)と、
    前記N個の観測位相のそれぞれについて、前記同相成分および直交成分を座標軸とする座標上での前記基準値と前記観測値との距離を算出し、該距離の平均値をエラー電力として算出するように構成されたエラー電力算出部(614)と、
    前記座標上での原点から前記基準値までの距離をパイロット電力として、前記エラー電力と前記パイロット電力との比に応じて値が変化する評価値を客観評価値として算出するように構成された客観評価値算出部(615)と、
    前記客観評価値算出部にて算出された前記客観評価値に関連する関連情報を出力するように構成された出力部(7)と、
    を備える同期放送用測定器。
  2. 請求項1に記載の同期放送用測定器であって、
    前記客観評価値と、音声品質の主観的な評価を表すために用意された主観評価値との相関を示す評価値相関情報を記憶するように構成された記憶部(617)を更に備え、
    前記出力部は、前記評価値相関情報を用いて特定される前記客観評価値に対応した前記主観評価値を、前記関連情報の一つとして出力する
    同期放送用測定器。
  3. 請求項1または請求項2に記載の同期放送用測定器であって、
    前記観測値生成部は、前記基準パイロット信号と前記復調パイロット信号との位相差を算出し、該位相差を用いて前記観測値の位相と前記基準値の位相とが一致するように、前記観測値の位相を補正し、
    前記エラー電力算出部は、位相が補正された前記観測値を用いて前記エラー電力を算出するように構成された、
    同期放送用測定器。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の同期放送用測定器であって、
    予め設定された指定期間をTxとし、前記パイロット信号の周期をTp=Tx/fp、前記受信信号をサンプリングする際のサンプリング周期をTs=Tx/fs、fp,fsをいずれも整数で表すものとして、fsは、fs=M×Nで表され、且つ、fpとは互いに素となる値に設定され、
    前記観測値生成部は、前記復調パイロット信号を表すデータ列を均等に1/Mに間引くことで、前記観測値を生成するように構成された
    同期放送用測定器。
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