上記の通り、特許文献1記載の製造方法では、熱処理を行った後のマトリックス材の粘度を上昇させることで、マトリックス材の流出が抑制されたプリプレグを得ている。このため、プリプレグの製造工程のうち、熱処理を行う前の工程において、マトリックス材の流出を抑制すること等については一切考慮されていない。すなわち、例えば、離型紙上に樹脂フィルムを形成する工程や、離型紙同士の間に炭素繊維を挟んで加圧する工程等では、熱処理前の粘度が低いマトリックス材を取り扱う必要がある。
従って、このように粘度が低く、離型紙上で拡展し易いマトリックス材を離型紙上に塗布しても、所望の厚さ(樹脂量)の樹脂フィルムを形成することができない懸念がある。また、離型紙上に樹脂フィルムを形成しても、該樹脂フィルムの粘度が低く、離型紙上から流出し易いため、樹脂フィルムの厚さ(樹脂量)を維持することが容易ではない。さらに、一般的に、樹脂フィルムが形成された離型紙は巻き取りロール等に巻き取られるが、この際、粘度が低い樹脂フィルムが離型紙同士の間に張り付き易くなっているため、離型紙の取り扱いが困難となる。
そして、マトリックス材を含浸させるべく、炭素繊維を樹脂フィルムに接触させるように、離型紙同士の間に挟んで加圧する際にも、炭素繊維から粘度の低いマトリックス材が流出してしまい易い。
その結果、特許文献1記載の製造方法を用いても、プリプレグ中のマトリックス樹脂が不足することを十分に回避できない懸念がある。
また、上記の通り、特許文献1記載の製造方法では、プリプレグを形成するべくマトリックス材に硬化を生じさせている。このため、プリプレグを加熱・加圧成形して構造体を形成する際の成形性が低下してしまうことや、強度を十分に向上させた構造体を得ることが困難になってしまう懸念もある。
次に、炭素繊維は、その表面がサイジング剤によって被覆された状態で市販されている。このような市販品に対し、特許文献2、3記載の方法のようにサイジング剤を塗布する場合、表面処理工程や、サイジング剤用の樹脂がさらに必要となる。従って、CFRPの構造体を得るための工程が煩雑になることや、コストが増大することが懸念される。また、サイジング剤用の樹脂がマトリックス材中に混入してしまうと、マトリックス樹脂の硬化阻害等が生じて構造体の強度を十分に向上させることが困難になることが考えられる。
特に、特許文献2の表面処理工程では、サイジング剤を有機溶媒等に溶解して炭素繊維に塗布するため、サイジング剤溶液中から有機溶媒等を完全に乾燥除去することは容易ではない。有機溶媒等が残存してしまった場合も、マトリックス樹脂の硬化阻害等が生じ易くなり、構造体の強度や耐熱性が低下してしまうことが懸念される。
さらに、特許文献3では、上記の通り、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂以外の樹脂(ビニルエステル樹脂等)との混合物からマトリックス材が構成されている。このように異なる種類の樹脂を複数混合すると、樹脂同士が良好な相溶性を示さないことや、複数の樹脂の間で成形収縮率がばらつくこと等が考えられる。従って、構造体にひび割れ等が生じ易くなり、構造体の強度等を十分に向上させることが困難になる懸念がある。
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、容易且つ良好にプリプレグを形成すること、及び簡便且つ低コストに炭素繊維との接着性を高めることが可能であり、炭素繊維強化複合材料からなる構造体の強度特性等を効果的に向上させることが可能なマトリックス材を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の両方又は前記第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを含むマトリックス樹脂を含有する、炭素繊維強化複合材料用のマトリックス材であって、前記第1エポキシ樹脂は、1分子中に4個のエポキシ基を有し、エポキシ当量が106である多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂からなり、前記第2エポキシ樹脂は、1分子中に3個のエポキシ基を有し、エポキシ当量が92であるp−アミノフェノール型エポキシ樹脂、又は、1分子中に2個のエポキシ基を有し、エポキシ当量が177であるテトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の少なくともいずれか一方からなり、前記第3エポキシ樹脂は、1分子中に2個のエポキシ基を有し、且つ重量平均分子量が8000であるビスフェノールA型エポキシ樹脂からなり、前記マトリックス樹脂の下記の式(A)で求められる平均エポキシ当量が109〜162であることを特徴とする。
マトリックス樹脂の平均エポキシ当量=100/[(第1エポキシ樹脂の重量%[phr]/106)+(p−アミノフェノール型エポキシ樹脂の重量%[phr]/92)+(テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の重量%[phr]/177)+(第3エポキシ樹脂の重量%[phr]/4000)] …(A)
本発明に係るマトリックス材中、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂は、一般的なエポキシ樹脂に比して、エポキシ基同士の間の主鎖骨格の分子量が小さく且つ芳香族環の含有率が大きいエポキシ樹脂からなる。つまり、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の分子が剛直であるため、マトリックス材の硬化後の強度を高めることができる。
また、このような第1エポキシ樹脂等を含むことで、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を効果的に小さくすることができる。すなわち、このマトリックス材は、炭素繊維の表面において化学結合を形成するためのエポキシ基を多く含むため、炭素繊維との接着強度を良好に高めることができる。
また、第3エポキシ樹脂は、上記の通り、重量平均分子量が8000であり、比較的分子量が大きいエポキシ樹脂からなる。このため、第3エポキシ樹脂を含むことで、マトリックス材の軟化時の粘度(以下、単に粘度ともいう)が、過度に低下することを効果的に回避でき、該粘度が適切な範囲となるように容易に調整することができる。
本願発明に係るマトリックス材では、これらの第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の両方又は第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162となるように含む。
なお、本明細書において、「エポキシ当量」は、エポキシ樹脂の分子量を、該エポキシ樹脂1分子に含まれるエポキシ基の数で除することで算出される値である。つまり、マトリックス樹脂では、エポキシ当量(平均エポキシ当量)が小さくなるにつれて、単位重量あたりのエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の数が多くなり、該エポキシ樹脂の粘度が低下する傾向にある。
従って、平均エポキシ当量を上記の範囲に設定することで、マトリックス材の粘度を適切な範囲に調整することができる。すなわち、このように粘度が調整されたマトリックス材では、樹脂フィルム、プリプレグ、炭素繊維強化複合材料(CFRP)からなる構造体等を形成するべくマトリックス材を取り扱う全ての工程において、好適な粘度を示す。
具体的には、樹脂フィルムを形成する工程においては、離型紙上に軟化させたマトリックス材を塗布することで、所望の厚さ(樹脂量)の樹脂フィルムを容易に形成できる。また、樹脂フィルムが離型紙上から流出することを抑制でき、樹脂フィルムの厚さ(樹脂量)を容易に維持することができる。
さらに、樹脂フィルムが他部材等に過剰に張り付いてしまうことを回避できるため、例えば、離型紙を巻き取りロール等に巻き取る際にも、樹脂フィルムが離型紙に張り付いてしまうことを抑制できる。つまり、離型紙の取り扱い性を向上させることができる。
また、プリプレグを形成する工程においても、炭素繊維を樹脂フィルムと接触させた状態で離型紙同士の間に挟んで加圧する際に、マトリックス材を炭素繊維の内部まで十分に含浸させることができる。また、含浸させたマトリックス材が炭素繊維から流出することを抑制できる。
その結果、過不足ない量のマトリックス材を炭素繊維の内部まで十分に含浸させて良好にプリプレグを形成することができる。また、マトリックス材が他の部材等に過剰に張り付くことを回避できるため、プリプレグの取り扱い性を向上させることができる。
さらに、このプリプレグを加熱・加圧成形して構造体を形成する工程においても、プリプレグを精度よく成形することができ、構造体を容易且つ効率的に得ることが可能になる。また、上記の通り、過不足ない量のマトリックス材を十分に含浸させた良好なプリプレグから構造体を得ることができるため、該構造体の強度特性等を効果的に向上させることができる。
ここで、上記の通り、炭素繊維の表面において化学結合を形成するためのエポキシ基を多く含むマトリックス材では、炭素繊維との接着強度を高めることができる。しかしながら、エポキシ当量を大きくし過ぎると、エポキシ樹脂の粘度が上昇して、炭素繊維の表面に対するエポキシ樹脂の濡れ性が低下する傾向にある。これによって、炭素繊維の表面とエポキシ樹脂との接触面積が減少すると、互いの接着強度を高めることが困難になってしまう。従って、マトリックス材と炭素繊維との接着性を良好に高めるためには、単位重量あたりのエポキシ基数と、マトリックス材の粘度とを適切に均衡させる必要がある。
本願発明に係るマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を上記の範囲とすることで、単位重量あたりのエポキシ基数と、マトリックス材の粘度との均衡も適切に図ることが可能になっている。
すなわち、炭素繊維の表面とマトリックス材との接触面積を増大させつつ、互いの界面にエポキシ基による化学結合を良好に形成することができる。その結果、炭素繊維とマトリックス材との界面の接着強度を一層良好に高めることができる。
また、エポキシ樹脂中のエポキシ基数が多いほど、エポキシ樹脂の硬化強度を高めることができる一方で、靱性は低下してしまう。このマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が上記の範囲に調整されているため、マトリックス材の硬化強度と靱性(耐衝撃性)との均衡についても適切に図ることができる。
これらの結果、マトリックス材及び炭素繊維から形成されるCFRPの構造体について、異方性による特定方向の強度低下を抑制しつつ、該構造体全体の強度を効果的に向上させることが可能になる。また、耐熱性や耐衝撃性等の特性にも優れた構造体を得ることができる。
さらに、このマトリックス材では、炭素繊維の表面に新たにサイジング剤を設けることなく、上記のように特性に優れた構造体を得ることができる。従って、構造体を得るための工程が煩雑になることや、コストが増大することを抑制できる。
また、上記の通り、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂のみから構成され、エポキシ樹脂以外の樹脂(他種類の樹脂)を含まない。このため、複数種類の樹脂が混合された場合のように、複数の樹脂の間で成形収縮率がばらつくことや、樹脂同士が良好に相溶しないこと等を回避することができる。その結果、樹脂の硬化阻害、構造体のひび割れ等を抑制することができ、該構造体の強度や耐熱性を良好に向上させることができる。
以上から、本願発明に係るマトリックス材では、容易且つ良好にプリプレグを得ること、及び簡便且つ低コストに炭素繊維との接着性を高めることができる。従って、良好なプリプレグを高精度に成形して構造体を作製することができるため、該構造体の強度、耐熱性、耐衝撃性等を十分に向上させることが可能になる。その結果、航空機部材として好適に用いることが可能な構造体を得ることができる。すなわち、信頼性の高い航空機部材を供給することが可能になる。
上記のマトリックス材において、第1エポキシ樹脂の添加割合が20〜70phrであり、第2エポキシ樹脂の添加割合が20〜75phrであり、第3エポキシ樹脂の添加割合が5〜20phrであるマトリックス樹脂を含有することが好ましい。この場合、第1エポキシ樹脂〜第3エポキシ樹脂を混練した後のマトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162となるように容易に調整して、上記の特性を示すマトリックス材を得ることができる。
また、上記のマトリックス材において、前記多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂が下記の構造式(1)で示され、前記p−アミノフェノール型エポキシ樹脂が下記の構造式(2)で示され、前記テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂が構造式(3)で示され、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂が下記の構造式(4)で示されるものであり、前記多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂と、前記p−アミノフェノール型エポキシ樹脂及び前記テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の少なくともいずれか一方とを混合した混合エポキシ樹脂を80〜95phr含み、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂を20〜5phr含むマトリックス樹脂を含有することが好ましい。
ただし、式(4)におけるnは繰り返し数を意味する。
ここで、phr(per hundred resin)は、マトリックス樹脂(エポキシ樹脂)の全重量を100としたときの重量の割合を示す。
構造式(1)〜(3)で示すエポキシ樹脂は、エポキシ基同士の間の主鎖骨格の分子量が小さく且つ芳香族環の含有率が大きい。このため、マトリックス材の硬化後の強度を高めること、及びマトリックス材と炭素繊維との接着強度を高めることができる。また、構造式(4)で示すエポキシ樹脂は、比較的容易に分子量を大きくすることができるため、マトリックス材の粘度を上記の適切な範囲に容易に調整することができる。
さらに、このマトリックス樹脂では、上記の第3エポキシ樹脂の含有量を5phr以上とすることで、粘度が過度に低下することを回避でき、20phr以下とすることで、粘度が過度に上昇することを回避できる。すなわち、この第3エポキシ樹脂の含有量を20〜5phrとすることで、マトリックス材の粘度を上記の適切な範囲に容易に調整することが可能になる。
この際、残部のマトリックス樹脂である、構造式(1)で示す第1エポキシ樹脂と、構造式(2)及び構造式(3)の少なくともいずれか一方で示す第2エポキシ樹脂とを混合した混合エポキシ樹脂の含有量が80〜95phrとなる。最終的に得られる構造体の用途等に応じて、上記の範囲内で混合エポキシ樹脂の割合を調整することで、マトリックス材と炭素繊維との界面の接着強度を良好に高めることができる。また、マトリックス材の粘度や靱性等の特性についても、硬化強度との均衡を図りつつ、適切に向上させることができる。
上記の混合エポキシ樹脂では、前記多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂を20〜70phr、前記p−アミノフェノール型エポキシ樹脂及び前記テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の少なくともいずれか一方を75〜20phrとすることが一層好ましい。
上記のマトリックス材において、前記マトリックス樹脂100重量部に対して、41〜66重量部の硬化剤をさらに含有することが好ましい。この場合、前記マトリックス材を効果的に硬化させることができ、一層良好な強度特性等を有する構造体を効率良く得ることが可能になる。
上記のマトリックス材は、50℃での複素粘度が200〜480Pa・sであることが好ましい。すなわち、マトリックス材を軟化させて取り扱う際の一般的な温度である50℃において、マトリックス材の複素粘度が上記の範囲となるように調整することが好ましい。この場合、マトリックス材の含浸性の向上と流出の抑制との両立を良好に図ることができる。すなわち、樹脂フィルム、プリプレグ、構造体等を形成するべくマトリックス材を取り扱う全ての工程において好適な粘度を示すマトリックス材を効果的に得ることができる。
上記のマトリックス材において、炭素繊維に対するマイクロドロップレット法による接着強度が77〜94MPaであることが好ましい。この場合、構造体の異方性によって相対的に低下し易い特定方向の強度についても十分に高めることができ、航空機部材としても好適に用いることが可能な特性を備える構造体を得ることができる。
ここで、マイクロドロップレット法による接着強度は、例えば、特開平8−334455号公報に記載されているマイクロドロップレット法による複合材の界面特性評価方法によって測定することができる。つまり、1本の炭素繊維に付着して硬化したマトリックス材を剪断の力で引き抜くのに必要な力から算出される。
なお、このように、マイクロドロップレット法を用いることで、構造体の異方性によって相対的に低下し易い上記の特定方向の強度についても、容易且つ効率的に評価することができる。すなわち、例えば、該構造体について、直接上記の特定方向、すなわち、炭素繊維の繊維方向に直交する方向や、積層方向の強度を評価する場合、実際に構造体を作製する工程が必要となる。しかしながら、マイクロドロップレット法を用いる場合、上記の通り、1本の炭素繊維にマトリックス材を塗布して硬化させることで測定試料を作製することができる。従って、プリプレグないし構造体を作製する必要がない分、短時間且つ簡便に評価を行うことができる。
本発明のマトリックス材中のマトリックス樹脂は、第1エポキシ樹脂と第2エポキシ樹脂の両方又は第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを含み、平均エポキシ当量が109〜162となるように調整されている。これによって、マトリックス材の粘度を適切な範囲とすることができ、マトリックス材の含浸性の向上と流出の抑制との両立を図ることができる。その結果、過不足ない量のマトリックス材を炭素繊維の内部まで十分に含浸させて良好なプリプレグを作製することができる。ひいては、このプリプレグから得られる構造体の強度等の特性を効果的に向上させることができる。
また、この構造体では、炭素繊維とマトリックス材との界面の接着強度を十分に向上させて、異方性による強度低下を抑制することができるとともに、耐熱性や耐衝撃性等を兼ね備えることができる。この際、炭素繊維の表面に新たにサイジング剤を設ける必要や、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂以外の樹脂を複数混合して用いる必要がない。従って、良好な強度特性を備え、航空機部材としても好適に用いることが可能な構造体を低コスト且つ簡便に得ることができる。
以下、本発明に係るマトリックス材につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係るマトリックス材は、硬化剤が添加されたマトリックス樹脂からなり、炭素繊維強化複合材料(carbon-fiber-reinforced plastic;CFRP)に用いられる。すなわち、先ず、このマトリックス材に炭素繊維を含浸させることでプリプレグを作製する。このプリプレグを複数積層して加熱・加圧成形する。これによって、マトリックス材を硬化させることで、CFRPの構造体を得ることができる。
マトリックス材は、上記したようにマトリックス樹脂を樹脂成分として含む。本実施形態において、マトリックス樹脂は、エポキシ樹脂のみからなり、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の両方又は第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを含む。すなわち、第1エポキシ樹脂と第3エポキシ樹脂とを必須の成分とする。また、マトリックス樹脂の後述する平均エポキシ当量は109〜162である。
第1エポキシ樹脂は、1分子中に4個のエポキシ基を含む多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂からなり、例えば、構造式(1)で示すテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを好適に採用することができる。この種のエポキシ樹脂としては、商品名「アラルダイトMY721」(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)等の市販品を使用することができる。
第1エポキシ樹脂は、一般的なエポキシ樹脂に比して、エポキシ基同士の間の主鎖骨格の分子量が小さく且つ芳香族環の含有率が大きい。すなわち、第1エポキシ樹脂は、比較的、分子が剛直であり且つエポキシ当量が小さいため、優れた硬化強度を示す。
マトリックス樹脂に含まれるエポキシ樹脂は、下記に挙げる第2エポキシ樹脂をさらに含んでもよい。この場合、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を容易且つ効果的に調整して上記の範囲とすることができる。なお、第2エポキシ樹脂も第1エポキシ樹脂と同様に優れた硬化強度を示す分子構造を有する。
第2エポキシ樹脂は、1分子中に3個のエポキシ基を含むp−アミノフェノール型エポキシ樹脂及び1分子中に2個のエポキシ基を含むテトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の少なくともいずれか一方からなる。
p−アミノフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、構造式(2)で示す、N,N−ビス(オキシラニルメチル)−4−(オキシラニルメトキシ)アニリンを好適に採用することができる。この場合、商品名「jER630」(三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。
また、テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂としては、例えば、構造式(3)で示す、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4−ビス(グリシジルオキシ)−1,1'−ビフェニルを好適に採用することができる。この場合、商品名「YX4000」(三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。
第3エポキシ樹脂は、1分子(高分子)中に2個のエポキシ基を有し、重量平均分子量が8000であるビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる。例えば、構造式(4)で示す4,4'−イソプロピリデンジフェノールと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンの重縮合物を好適に採用することができる。この場合、商品名「jER1006FS」(三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。
ただし、式(4)におけるnは繰り返し数を意味する。
第3エポキシ樹脂は、上記の通り、重量平均分子量が8000であり、比較的分子量が大きいエポキシ樹脂からなる。このため、第3エポキシ樹脂の含有量を調整することで、マトリックス材の軟化時の粘度(以下、単に粘度ともいう)が、過度に低下することを効果的に回避して、適切な範囲となるように容易に調整できる。
本願発明に係るマトリックス材では、上記の第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の両方又は第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162となるように含む。
このマトリックス樹脂(エポキシ樹脂)における平均エポキシ当量は、具体的には、下記の式(A)に従って算出することができる。
マトリックス樹脂の平均エポキシ当量=100/[(第1エポキシ樹脂の重量%[phr]/106)+(p−アミノフェノール型エポキシ樹脂の重量%[phr]/92)+(テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の重量%[phr]/177)+(第3エポキシ樹脂の重量%[phr]/1000)] …(A)
マトリックス樹脂が第1エポキシ樹脂と第3エポキシ樹脂からなる場合、p−アミノフェノール型エポキシ樹脂の重量%及びテトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂の重量%はいずれも0である。従って、この場合、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量は、第1エポキシ樹脂及び第3エポキシ樹脂の各々のエポキシ当量と重量%から算出される。
第1エポキシ樹脂のエポキシ当量は、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂の分子量を4で除した値である。第3エポキシ樹脂のエポキシ当量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子量を2で除した値である。重量%は、マトリックス樹脂の全重量を100%としたときの重量割合、換言すれば、phr(=per hundred resin)である。すなわち、エポキシ当量(平均エポキシ当量)が小さくなるにつれて、単位重量あたりのエポキシ樹脂(マトリックス樹脂)に含まれるエポキシ基の個数が多くなり、エポキシ樹脂の粘度は低下する傾向にある。
平均エポキシ当量の計算の一例につき、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(第1エポキシ樹脂・エポキシ当量=106)を30phr、N,N−ビス(オキシラニルメチル)−4−(オキシラニルメトキシ)アニリン(第2エポキシ樹脂・エポキシ当量=92)を30phr、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4−ビス(グリシジルオキシ)−1,1'−ビフェニル(第2エポキシ樹脂・エポキシ当量=177)を30phr、4,4'−イソプロピリデンジフェノールと1−クロロ−2,3−エポキシプロパンの重縮合物(第3エポキシ樹脂・エポキシ当量=1000)を10phr含むマトリックス樹脂である場合を例に挙げて説明する。
すなわち、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量は、式(A)に基づき、以下のようにして求められる。
マトリックス樹脂の平均エポキシ当量
=100/[(30/106)+(30/92)+(30/177)+(10/1000)]
≒127
本実施形態においては、第1エポキシ樹脂、第2エポキシ樹脂、第3エポキシ樹脂のそれぞれについて、種類や配合を調整することで、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を109〜162の範囲内に設定している。これによって、マトリックス材の粘度を適切な範囲に調整することができる。すなわち、このように粘度が調整されたマトリックス材では、樹脂フィルム、プリプレグ、炭素繊維強化複合材料(CFRP)からなる構造体等を形成するべくマトリックス材を取り扱う全ての工程において、好適な粘度を示す。
具体的には、樹脂フィルムを形成する工程においては、離型紙上に軟化させたマトリックス材を塗布することで、所望の厚さ(樹脂量)の樹脂フィルムを容易に形成できる。また、樹脂フィルムが離型紙上から流出することを抑制でき、樹脂フィルムの厚さ(樹脂量)を容易に維持することができる。
さらに、樹脂フィルムが他部材等に過剰に張り付いてしまうことを回避できるため、例えば、離型紙を巻き取りロール等に巻き取る際にも、樹脂フィルムが離型紙に張り付いてしまうことを抑制できる。つまり、離型紙の取り扱い性を向上させることができる。
また、プリプレグを形成する工程においても、炭素繊維を樹脂フィルムと接触させた状態で離型紙同士の間に挟んで加圧する際に、マトリックス材を炭素繊維の内部まで十分に含浸させることができる。また、含浸させたマトリックス材が炭素繊維から流出することを抑制できる。
その結果、過不足ない量のマトリックス材を炭素繊維の内部まで十分に含浸させて良好にプリプレグを形成することができる。また、マトリックス材が他の部材等に過剰に張り付くことを回避できるため、プリプレグの取り扱い性を向上させることができる。
さらに、このプリプレグを加熱・加圧成形して構造体を形成する工程においても、プリプレグを精度よく成形することができ、構造体を容易且つ効率的に得ることが可能になる。また、上記の通り、過不足ない量のマトリックス材を十分に含浸させた良好なプリプレグから構造体を得ることができるため、該構造体の強度特性等を効果的に向上させることができる。
ここで、上記の通り、炭素繊維の表面において化学結合を形成するためのエポキシ基を多く含むマトリックス材では、炭素繊維との接着強度を高めることができる。しかしながら、エポキシ当量を大きくし過ぎると、エポキシ樹脂の粘度が上昇して、炭素繊維の表面に対するエポキシ樹脂の濡れ性が低下する傾向にある。これによって、炭素繊維の表面とエポキシ樹脂との接触面積が減少すると、互いの接着強度を高めることが困難になってしまう。従って、マトリックス材と炭素繊維との接着性を良好に高めるためには、単位重量あたりのエポキシ基数と、マトリックス材の粘度とを適切に均衡させる必要がある。
本願発明に係るマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を上記の範囲とすることで、単位重量あたりのエポキシ基数と、マトリックス材の粘度との均衡も適切に図ることが可能になっている。
すなわち、炭素繊維の表面とマトリックス材との接触面積を増大させつつ、互いの界面にエポキシ基による化学結合を良好に形成することができる。その結果、炭素繊維とマトリックス材との界面の接着強度を一層良好に高めることができる。
また、エポキシ樹脂中のエポキシ基数が多いほど、エポキシ樹脂の硬化強度を高めることができる一方で、靱性は低下してしまう。このマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が上記の範囲に調整されているため、マトリックス材の硬化強度と靱性(耐衝撃性)との均衡についても適切に図ることができる。
これらの結果、マトリックス材及び炭素繊維から形成されるCFRPの構造体について、異方性による特定方向の強度低下を抑制しつつ、該構造体全体の強度を効果的に向上させることが可能になる。また、耐熱性や耐衝撃性等の特性にも優れた構造体を得ることができる。
さらに、このマトリックス材では、炭素繊維の表面に新たにサイジング剤を設けることなく、上記のように特性に優れた構造体を得ることができる。従って、構造体を得るための工程が煩雑になることや、コストが増大することを抑制できる。
また、上記の通り、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂のみから構成され、エポキシ樹脂以外の樹脂(他種類の樹脂)を含まない。このため、複数種類の樹脂が混合された場合のように、複数の樹脂の間で成形収縮率がばらつくことや、樹脂同士が良好に相溶しないこと等を回避することができる。その結果、樹脂の硬化阻害、構造体のひび割れ等を抑制することができ、該構造体の強度や耐熱性を良好に向上させることができる。
このマトリックス材では、第1エポキシ樹脂の添加割合を20〜70phrとし、第2エポキシ樹脂の添加割合を20〜75phrとし、第3エポキシ樹脂の添加割合を5〜20phrとすることが好ましい。これによって、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162となるように容易に調整することが可能になる。
すなわち、マトリックス材の粘度を上記の適切な範囲に容易に調整することができ、容易且つ良好にプリプレグを得ることが可能になる。また、エポキシ基の数が過剰となること、すなわち、マトリックス材の架橋密度が過剰に高くなることを抑制して、マトリックス材の脆化を抑制できる。また、エポキシ基の数を十分に増大させて、炭素繊維とマトリックス材との接着強度を良好に向上させることができる。このため、優れた強度特性と靭性とを兼ね備えた構造体を得ることができる。
本実施形態に係るマトリックス材において、例えば、第1エポキシ樹脂が構造式(1)で示すエポキシ樹脂であり、第2エポキシ樹脂が構造式(2)又は構造式(3)の少なくともいずれか一方で示すエポキシ樹脂であり、第3エポキシ樹脂が構造式(4)で示すエポキシ樹脂であるときには、第1エポキシ樹脂と第2エポキシ樹脂とを混合した混合エポキシ樹脂の割合を80〜95phrとし、第3エポキシ樹脂の割合を20〜5phrとすることが好ましい。
このマトリックス材では、第3エポキシ樹脂の含有量を5phr以上とすることで、粘度が過度に低下することを回避でき、20phr以下とすることで、粘度が過度に上昇することを回避できる。すなわち、第3エポキシ樹脂の含有量を20〜5phrとすることで、マトリックス材の粘度を上記の適切な範囲に容易に調整することが可能になる。
この際、残部の混合エポキシ樹脂の含有量は、80〜95phrとなる。この範囲内で、混合エポキシ樹脂の割合を調整することで、マトリックス材と炭素繊維との界面の接着強度を良好に高めることができる。また、マトリックス材の粘度や靱性等の特性についても、硬化強度との均衡を図りつつ、適切に向上させることができる。この混合エポキシ樹脂としては、第1エポキシ樹脂の含有量を20〜70phr、第2エポキシ樹脂の含有量を75〜20phrとすることが一層好ましい。
上記の割合で、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂の両方又は第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂とを含有することで、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量を容易に109〜162の範囲内とすることができる。その結果、マトリックス材の粘度を上記の適切な範囲に容易に調整することができる。この粘度の適切な範囲としては、マトリックス材の50℃での複素粘度が200〜480Pa・sであることが好適な例として挙げられる。
すなわち、マトリックス材を軟化させて取り扱う際の一般的な温度である50℃において、マトリックス材の複素粘度が上記の範囲となるように調整することが好ましい。この場合、マトリックス材の含浸性の向上と流出の抑制との両立を良好に図ることができる。すなわち、樹脂フィルム、プリプレグ、構造体等を形成するべくマトリックス材を取り扱う全ての工程において好適な粘度を示すマトリックス材を得ることができる。
また、炭素繊維の表面にエッチング処理等が施されることによって、該炭素繊維の表面に凹凸形状が設けられる場合がある。この場合、上記の通りマトリックス材の粘度を調整することによって、該炭素繊維の凹凸形状内にマトリックス材を効果的に良好に進入させることが可能になる。これによって、炭素繊維の表面とマトリックス材との接触面積を拡大することができるとともに、互いの間にアンカー効果を生じさせることができ、上記の接着強度を一層高くすることができる。
マトリックス材に含まれる硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させることができるものであればよく、例えば、芳香族ポリアミン等を用いることができる。好適には、構造式(5)で示す4,4−ジアミノジフェニルスルフォンを採用することができる。この場合、商品名「Aradur976−1」(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)等の市販品を使用することができる。
なお、上記「アラルダイト」、「jER」、「Aradur」はともに登録商標である。
また、マトリックス樹脂に対する硬化剤の添加割合は、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量に応じて設定されればよいが、マトリックス樹脂を100重量部とするとき、硬化剤が41〜66重量部となることが好ましい。硬化剤を41重量部以上とすることで、マトリックス材を十分に硬化させることができる。また、硬化剤を66重量部以下とすることで、余剰となった硬化剤によって想定外の副反応が生じることを抑制できる。すなわち、硬化剤の添加割合を上記の通り設定することで、一層良好な強度特性等を有する構造体を効率良く得ることが可能になる。
以上のように構成されるマトリックス材から得られるCFRPの構造体を、例えば、航空機部材等の用途として用いる場合、炭素繊維としては、低密度、高強度、高弾性率等の特徴から、PAN系のものが好適に用いられる。PAN系炭素繊維は、PAN(ポリアクリロニトリル)繊維を高温で炭化して得られるものである。また、この炭素繊維の特性として、好ましくは、引張強度;2000〜7000MPa、引張弾性率;200〜1000GPa、密度;1.5〜2.5g/cm3である。
このような炭素繊維に対する、マトリックス材のマイクロドロップレット法による接着強度は、77〜94MPaであることが好ましい。この範囲内であれば、硬化後のマトリックス材が十分な強度を有するため、構造体を種々の用途に活用することができる。すなわち、上記の接着強度を77MPaよりも大きくすることで、マトリックス材と繊維との接着性を十分に高めることができ、互いの界面で破壊が生じることを効果的に回避できる。一方、上記の接着強度が94MPa以内であれば、マトリックス材の架橋密度が過剰に高くなるほど、エポキシ基の数を増大させる必要がないため、構造体の靱性が低下すること等を抑制できる。
ここで、マイクロドロップレット法による接着強度は、例えば、特開平8−334455号公報に記載されているマイクロドロップレット法による複合材の界面特性評価方法によって測定することができる。
つまり、先ず、一定長さの炭素繊維の両端をホルダに固着した後、溶融状態のマトリックス材を該炭素繊維に付着させてマイクロドロップレットを形成する。
次に、上記のホルダを加熱炉等に入れ、マイクロドロップレットを硬化させた後、炭素繊維の移動のみを許容し、マイクロドロップレットの移動を阻止するブレードを炭素繊維上に配設する。そして、ブレード又はホルダのいずれか一方を固定した状態で、他方を移動させ、該ブレードによりマイクロドロップレットが炭素繊維から剥離するまで荷重を加える。この際にマイクロドロップレットに作用する最大荷重を測定し、この値を測定前のマイクロドロップレットと炭素繊維との接触面積で除することで、接着強度(剪断強度)が算出される。
以上から、本願発明に係るマトリックス材では、容易且つ良好にプリプレグを得ること、及び簡便且つ低コストに炭素繊維との接着性を高めることができる。従って、良好なプリプレグを高精度に成形して構造体を作製することができるため、該構造体の強度、耐熱性、耐衝撃性等を十分に向上させることが可能になる。その結果、航空機部材として好適に用いることが可能な構造体を得ることができる。すなわち、信頼性の高い航空機部材を供給することが可能になる。
なお、本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
[実施例1〜7、比較例1]
第1エポキシ樹脂を構成する多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂としてハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製のアラルダイトMY721(以下、MY721ともいう)を採用した。第2エポキシ樹脂を構成するp−アミノフェノール型エポキシ樹脂としてjER630を採用し、テトラメチルビフェノール型固形エポキシ樹脂としてYX4000(いずれも三菱化学社製)を採用した。第3エポキシ樹脂を構成するビスフェノールA型エポキシ樹脂として三菱化学社製のjER1006FSを採用した。硬化剤として、Aradur976−1(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)を採用した。
これらの第1エポキシ樹脂(MY721)及び第2エポキシ樹脂(jER630及び/又はYX4000)の両方又は該第1エポキシ樹脂のみと、第3エポキシ樹脂(jER1006FS)とからなるエポキシ樹脂に、上記の硬化剤を添加して実施例に係るマトリックス材を作製した。具体的には、MY721、jER630、YX4000、jER1006FS、硬化剤それぞれの配合比率を図1に示す範囲で変化させて実施例1〜7のマトリックス材を作製した。
また、第1エポキシ樹脂(MY721)及び第2エポキシ樹脂(jER630)と、硬化剤とを図1に示す割合で添加して作製され、第3エポキシ樹脂(jER1006FS)を含まない比較例1のマトリックス材を作製した。
MY721、jER630、YX4000、jER1006FSそれぞれのエポキシ当量は、106、92、177、1000である。これらのエポキシ当量と、図1に示すMY721、jER630、YX4000、jER1006FSの配合比率とに基づいて、実施例1〜7及び比較例1のマトリックス樹脂の平均エポキシ当量をそれぞれ算出した。
これらの実施例1〜7及び比較例1のマトリックス材それぞれについて、50℃での複素粘度η*(Pa・s)を測定し、図1に併せて示した。この測定は、商品名「Physica MCR301」(Anton Paar社製)を用いて行った。測定条件は、周波数1Hz、振り角γ10%(36deg)、昇温速度3℃/分である。
さらに、炭素繊維に、商品名「T800SC」(東レ社製)を採用して炭素繊維Aとした。なお、炭素繊維Aの特性としては、繊維径が5.5μm、引張強度が5880MPa、引張弾性率が294GPaとなっている。
そして、実施例1〜7のマトリックス材それぞれについて、炭素繊維Aとの界面の接着強度(剪断強度τ)をマイクロドロップレット法によって測定した。この測定は、複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を用いて行った。具体的には、先ず、1本の炭素繊維Aの両端を粘着テープによってホルダに固着する。この炭素繊維Aの表面に、スパチュラ等によって溶融状態のマトリックス材を付着させてマイクロドロップレットを形成する。
次に、ホルダを加熱炉に入れ、空気中、180℃、2時間の条件で、マイクロドロップレットを硬化させた。その後、炭素繊維A上に配設したブレードと、ホルダとを0.1mm/分の速さで相対的に移動させることで、該ブレードによって、マイクロドロップレットに引張荷重を加えた。これによって、マイクロドロップレットが炭素繊維Aから剥離するのに必要な最大引張荷重F(N)を求め、F/(πDL)に基づいて剪断強度τ(MPa)を算出した。ここで、Dは、炭素繊維Aの直径(m)であり、Lは、マイクロドロップレットの繊維接着長さ(m)である。
上記の測定を6回行って平均値を求め、該平均値から標準偏差を引いた値を剪断強度τとした。この剪断強度τによって、炭素繊維Aとマトリックス材との界面の接着強度の評価を行った。
実施例1〜7のマトリックス材のそれぞれについて、上記の通り剪断強度τを求め、図1に併せて示した。
[実施例8〜16、比較例2]
実施例1〜7及び比較例1と同様に、MY721、jER630、YX4000、jER1006FS、硬化剤のそれぞれの配合比率を図2に示す範囲で変化させて実施例8〜16及び比較例2のマトリックス材を作製した。実施例8〜16及び比較例2のマトリックス材のそれぞれについても、実施例1〜7及び比較例1と同様に平均エポキシ当量を算出し、50℃での複素粘度η*(Pa・s)を測定した。
また、炭素繊維に、商品名「IMS60」(東邦テナックス社製)を採用して炭素繊維Bとした。なお、炭素繊維Bの特性としては、繊維径が5.5μm、引張強度が5800MPa、引張弾性率が290GPaとなっている。そして、実施例8〜16のマトリックス材のそれぞれについて、炭素繊維Bとの界面の接着強度(剪断強度τ)をマイクロドロップレット法によって上記と同様に測定した。
実施例8〜16及び比較例2のマトリックス材のそれぞれのエポキシ当量、50℃での複素粘度η*と、実施例8〜16の剪断強度τについても、図2に併せて示した。
[比較例3]
一般的なエポキシ樹脂として、商品名「jER828」(三菱化学社製)を採用し、上記の硬化剤を添加して比較例3のマトリックス材とした。
この比較例3のマトリックス材についても同様に、50℃での複素粘度η*と炭素繊維A、Bのそれぞれとの界面の接着強度(剪断強度τ)をマイクロドロップレット法によって測定した。その結果を図3にそれぞれ示す。なお、jER828のエポキシ当量は190である。また、比較例3のマトリックス樹脂100重量部に対する硬化剤の添加割合を33重量部とした。
図1より、実施例1〜7のマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162の範囲内であり、50℃での複素粘度η*が200〜480Pa・sの範囲内であった。これに対して、第3エポキシ樹脂を含まない比較例1のマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が99であり、50℃での複素粘度η*が32Pa・sであった。
炭素繊維Aに対する剪断強度τは、実施例1〜7のマトリックス材のうち、実施例1のマトリックス材において最大となった。すなわち、MY721、jER630、YX4000、jER1006FSのそれぞれの配合比率が、40、40、0、20であり、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が120であるとき、剪断強度τの値が94MPaとなった。
また、炭素繊維Aに対する剪断強度τは、実施例5のマトリックス材において最小となった。すなわち、MY721、jER630、YX4000、jER1006FSのそれぞれの配合比率が、30、10、50、10であり、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が146のとき、剪断強度τの値が80MPaとなった。
図3より、第3エポキシ樹脂を含まない比較例3のマトリックス材では、50℃での複素粘度η*が12Pa・sであった。また、炭素繊維Aに対する比較例3のマトリックス材の剪断強度τは55MPaであった。
図2より、実施例8〜16のマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が109〜162の範囲内であり、50℃での複素粘度η*が200〜480Pa・sの範囲内であった。これに対して、第3エポキシ樹脂を含まない比較例2のマトリックス材では、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が107であり、50℃での複素粘度η*が66Pa・sであった。
炭素繊維Bに対する剪断強度τは、実施例8〜16のマトリックス材のうち、実施例8のマトリックス材において最大となった。すなわち、MY721、jER630、YX4000、jER1006FSのそれぞれの配合比率が、60、20、5、15であり、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が121であるとき、剪断強度τの値が94MPaとなった。
また、炭素繊維Bに対する剪断強度τは、実施例16のマトリックス材において最小となった。すなわち、MY721、jER630、YX4000、jER1006FSのそれぞれの配合比率が、20、0、75、5であり、マトリックス樹脂の平均エポキシ当量が162のとき、剪断強度τの値が77MPaとなった。
図3より、炭素繊維Bに対する比較例3のマトリックス材の剪断強度τは49MPaであった。
すなわち、第3エポキシ樹脂を含む実施例1〜16のマトリックス材では、第3エポキシ樹脂を含まない比較例1〜3のマトリックス材に比して、粘度が、過度に低下することが効果的に回避され、且つ適切な範囲に調整されていることが確認された。
また、実施例1〜16のマトリックス材はいずれも、一般的なエポキシ樹脂からなる比較例3のマトリックス材よりも剪断強度τが大きいことが確認された。
さらに、実施例1〜16のマトリックス材は、第1エポキシ樹脂の添加割合が20〜70phrであり、第2エポキシ樹脂の添加割合が20〜75phrであり、第3エポキシ樹脂の添加割合が5〜20phrであった。また、第1エポキシ樹脂と第2エポキシ樹脂とを混合した混合エポキシ樹脂を80〜95phr含み、第3エポキシ樹脂を20〜5phr含み、マトリックス樹脂100重量部に対して、41〜66重量部の硬化剤が添加されている。
従って、上記の条件を満たすマトリックス材では、一般的なエポキシ樹脂からなるマトリックス材よりも粘度を好適な範囲とすることができ、且つ炭素繊維の界面との接着強度を高めることができる。具体的には、実施例1〜16のマトリックス材では、剪断強度τが77〜94MPaであり、一般的なエポキシ樹脂からなるマトリックス材の剪断強度τの1.6〜1.9倍に高められている。
このように適切に粘度が調整され且つ剪断強度τが高められたマトリックス材から、良好なプリプレグを得て、最終的にCFRPの構造体を作製することで、該構造体全体の強度特性等を効果的に向上させることができる。その結果、航空機部材として適用可能な優れた特性を備える構造体を得ることができる。