遠心ポンプや斜流ポンプ等の水ポンプは、軸受に支持された摺動部材や回転軸等の転動装置を備えている。これらの水ポンプの摺動部は、水中に浸漬された状態で運転される羽根車を支持する水中軸受のような摺動部分と、軸をポンプの扱う水からケーシングを境に軸封する軸封装置と、ケーシング外部で潤滑油に一部浸漬された状態で支持する軸受のような摺動部分がある。
図1は、液体ポンプの一例として両吸込横軸単段の水ポンプの構成例を示す断面図である。水ポンプ100は、水平に延びる回転軸101と、該回転軸101に固定された羽根車102と、ポンプケーシング105とを備えている。回転軸101の一端(図では右側端)には図示しない電動機等の駆動機の回転軸が連結されており、該駆動機により羽根車102がポンプケーシング105内で回転するようになっている。また、回転軸101はその両端部近傍が軸受装置109、109により回転自在に支持されている。
また、ポンプケーシング105内には渦巻き室105aが配置されており、該渦巻き室105a内に羽根車102が配置されている。回転軸101の回転と伴に羽根車102が回転すると、吸込口103から吸い込まれた水は羽根車102と渦巻き室105aとの作用により水の圧力が上昇し、水は吐出口104から吐き出される。
図示した構成の水ポンプ100では、羽根車102の回転によりその両側から水を吸い込む両吸込み構造となっており、羽根車102の水入口には羽根車102により加圧された水が、渦巻き室105aから吸込口103に逆流しないように、ウエアリング102A、102Bがそれぞれ取り付けられている。このウエアリング102A、102Bと羽根車102の間隙は非常に狭いクリアランスとなるように設計されているので、水ポンプ100の運転状態によっては水中で互いに摺動する場合がある。
回転軸101はポンプケーシング105を貫通して延びていて、回転軸101とポンプケーシング105との間の隙間には軸封装置(例えば、メカニカルシール等)108、108が配置され、ポンプケーシング105の内部の水がポンプケーシング105の外部に漏れないようにシールされている。従って、ポンプケーシング105内部の水が軸受装置109、109内に浸入することがないようになっている。軸封装置108、108には摺動部があり、該摺動部に摩耗が生じると、摩耗の程度によっては該摺動部を構成する部品を交換しなければならない。
軸受装置109のウエアリング102A、102Bの直径の差異、製造誤差等によって圧力差が生じ、回転軸101にはスラスト力が発生する。このスラスト力は回転軸101の一方端側(図では左側)を支持する軸受装置109内に配置されているスラスト軸受ユニット109Aで支持されるようになっている。
また、両軸受装置109、109内には、回転軸101に発生するラジアル力を支持するラジアル軸受ユニット109B、109Bが回転軸101の両側端部近傍に位置するように配置されている。これらの2つのラジアル軸受ユニット109B、109Bと1つのスラスト軸受ユニット109Aの合計3つの軸受で回転軸101は支持されている。スラスト軸受ユニット109Aには玉軸受が、ラジアル軸受ユニット109B、109Bにはそれぞれスリーブ型の軸受が用いられている。
上記スラスト軸受ユニット109A、ラジアル軸受ユニット109B、109Bは、いずれも潤滑油貯槽110に収容されている潤滑油により潤滑されている。この潤滑油は潤滑油貯槽110に付属する冷却ジャケット127内を流れる冷却水等の冷却媒体で冷却される。このように回転軸101を冷却するスラスト軸受ユニット109A及びラジアル軸受ユニット109B、109Bで支持することにより、回転軸101を安定させた状態で回転させることができる。
図2は、液体ポンプの一例として横軸多段の水ポンプの構成例を示す断面図である。水ポンプ200は、水平に延びる回転軸201と、該回転軸201に固定された複数の羽根車202と、ポンプケーシング205とを備えている。回転軸201の一端(図では右側端)には図示しない電動機等の駆動機の回転軸が連結されており、該駆動機により複数の羽根車202がポンプケーシング205内で回転するようになっている。また、回転軸201はその両端部近傍が軸受装置209、209により回転自在に支持されている。
回転軸201の回転と伴に複数の羽根車202が回転すると、吸込口203から水が吸い込まれ、羽根車202による遠心作用により、水の圧力が昇圧されて吐出口204から吐き出される。各々の羽根車202の水入口には、羽根車202により加圧された水が、前の段に逆流しないように、ポンプケーシング205と羽根車202との間にウエアリング206がそれぞれ取り付けられている。これらウエアリング206と羽根車202の間隔は非常に狭いクリアランスになるように設計されているため、水ポンプ200の運転状態によっては羽根車202とウエアリング206とが水中で互いに摺動する場合がある。
回転軸201はポンプケーシング205を貫通して延びており、回転軸201とポンプケーシング205との間の隙間にはメカニカルシール等の軸封装置208、208が配置され、ポンプケーシング205内の水が該ポンプケーシング205の外部に漏れないようにシールされている。従って、ポンプケーシング205内の水が軸受装置209、209内に浸入することはない。軸封装置208、208にも摺動する部分があり、該摺動部に摩耗が生じる。従って、この摺動部の摩耗の程度によっては、摺動部を構成する部品を交換しなければならない。
複数の羽根車202は、隣り合う羽根車202間の圧力差により生じるスラスト力が羽根車202の枚数分重なり合いスラスト力が発生する。このスラスト力は横軸多段の水ポンプ200内に設けられたバランス装置207により相殺されるが、過渡運転時等にある程度のスラスト力が残留する。この残留スラスト力は回転軸201の一方端側(図では左端側)の軸受装置209のスラスト軸受ユニット209Aで支持される。
また、両軸受装置209、209にはそれぞれラジアル軸受ユニット209B、209Bが配置されており、これら2つのラジアル軸受ユニット209B、209Bと1つのスラスト軸受ユニット209Aで合計3つの軸受で回転軸201は支持されている。スラスト軸受ユニット209Aには玉軸受が、ラジアル軸受ユニット209B、209Bにはスリーブ型の軸受が用いられている。
スラスト軸受ユニット209Aとラジアル軸受ユニット209B、209Bは、いずれも潤滑油貯槽210に収容されている潤滑油により潤滑されている。この潤滑油は潤滑油貯槽210に付属する冷却ジャケット227内を流れる冷却水等の冷却媒体で冷却される。このように冷却するスラスト軸受ユニット209A及びラジアル軸受ユニット209B、209Bにより回転軸201を支持することにより、回転軸201を安定させた状態で回転させることができる。
図3は、液体ポンプの一例として横軸斜流ポンプの構成例を示す断面図である。水ポンプ300は、水平に延びる回転軸301と、該回転軸301に固定された羽根車302と、ポンプケーシング305とを備えている。回転軸301は水平に延びるその一端(図では左側端)はポンプケーシング305を貫通し外部に突出し、軸受装置309により支持され、他端はポンプケーシング305内でガイドベーン316により支持された内筒318内に配置された水中軸受311に支持されている。羽根車302は内筒318に隣接して軸受装置309側に配置されている。回転軸301の軸受装置309側の端部には図示しない電動機等の駆動機の回転軸が連結されており、該駆動機により羽根車302がポンプケーシング305内で回転するようになっている。回転軸301の回転と伴に羽根車302が回転すると、吸込口303から吸い込まれた水は羽根車302に供給され、該羽根車302によりガイドベーン316側に推進力が加えられ、ガイドベーン316では羽根車302から供給される水は滞ることがないように整流され、吐出口304から吐き出される。
なお、ポンプケーシング305の下部には、ポンプ休閑期に停止している水ポンプ300のポンプケーシング305内の水をケーシング外に排出するためのドレンポート312が設けられている。ポンプケーシング305の上部には、水ポンプ300の運転開始時に、ポンプケーシング305内の大気を真空ポンプで吸引し真空にして、該ポンプケーシング305内に吸込側から水を吸い上げるための機器取付ポート314が設けられている。これらドレンポート312や機器取付ポート314には、図示はないバルブが設けられ、水ポンプ300の定常運転時は該バルブを閉止している。
上記のように内筒318は、水ポンプ300の運転中はポンプケーシング305内で水没した状態になっている。内筒318内に配置された水中軸受311と回転軸301の間隔は非常に狭いクリアランスで水中で互いに摺動する。
前記駆動機を連結する側の回転軸301とポンプケーシング305との間の隙間には軸封装置308(例えば、メカニカルシール等)が配置されており、これによりポンプケーシング305内部の水が外部に漏れないようにシールされている。従って、水ポンプ300内部の水は軸受装置309に浸入することはない。軸封装置308にも摺動部があり、該摺動部にも摩耗が生じるから、摩耗の程度によっては、該摺動部を構成する部品を交換しなければならない。
水等の液体は、羽根車302によりガイドベーン側に推進力が加えられるので、羽根車302及び回転軸301には、その反作用として前記駆動機を連結する方向にスラスト力が加わる。このスラスト力は軸受装置309内に配置されたスラスト軸受ユニット309Aで支持されるようになっている。
軸受装置309には、上記スラスト軸受ユニット309Aに加えて、回転軸301に加わるラジアル力を支持するためのラジアル軸受ユニット309Bが配置されている。これらラジアル軸受ユニット309Bとスラスト軸受ユニット309Aと水中軸受311との合計3つの軸受で回転軸301は支持されている。スラスト軸受ユニット309A及びラジアル軸受ユニット309Bには、玉軸受やころ軸受が用いられている。また、スラスト軸受ユニット309A及びラジアル軸受ユニット309Bは潤滑油貯槽310に収容されている潤滑油により潤滑されている。
なお、上記図1乃至図3の水ポンプに示す水ポンプ100、200、300では、軸受装置109、209、309の潤滑は、潤滑油貯槽110、210、310に収容された潤滑油で行っている。なお、図4に示すような、強制給油装置により各軸受装置に潤滑油を供給する場合もある。図4は図1に示す水ポンプ100の軸受装置109、109へ潤滑油を供給するための強制給油装置の配管系統を示す図であるが、水ポンプ200、300への強制給油装置の配管系統も図4と略同じであるので、その図示と説明は省略する。
水ポンプ100の回転軸101の端部は電動機Mの回転軸に連結されている。水ポンプ100の外部には、強制給油装置126が配置されている。水ポンプ100の軸受装置109、109には、強制給油装置126から潤滑油が強制的に供給される。強制給油装置126は、潤滑油ポンプ121、フィルター124、潤滑油冷却器123、複数の油圧観測計器125、及び潤滑油タンク122等の構成機器を備えている。
水ポンプ100には、図1に示すように、軸受装置109、109、羽根車102、ポンプケーシング105、ウエアリング102A、102B内の水と大気(ポンプによっては潤滑油)の混合を妨げる軸封装置108、108、潤滑油中のスラスト軸受ユニット109A、及びラジアル軸受ユニット109B、109Bのように、使用環境も機能・役割も異なる摺動部を備えている。これらの摺動部は、使用時間の経過とともに徐々に摩耗等が生じる。この摩耗等の点検作業が定期的に行われる。定期点検には、大きく2つの点検があり、簡単であるが頻度が多い通常点検と、ポンプを分解し、内部の状況に応じてメインテナンス部品の交換や補修を行う分解点検がある。分解点検は、連続運転中の水ポンプ100を停止して分解するため、長期の施工期間と多くの費用が必要となるので頻繁には行えない。
即ち、水ポンプはメインテナンス対象の摺動部品だけをみても、前述のように使用環境も機能・役割も異なる摺動部が複数存在する。これらの摺動部を構成する個々の部品のメインテナンス時期は長いものも短いものもあり、各々異なっている。しかしながら、点検部品・消耗品ごとに異なる交換時期ごとに分解を行うことは経済性の点から問題がある。
ところで、分解点検については、これまでの揚水/排水設備では水ポンプが用いられるので、社会インフラ機能の維持管理の信頼性の観点から、使用される機器の故障等の異常現象が顕在化してから機器を分解点検する事後保全ではなく、それらが顕在化する前に対処する予防保全が採択されてきた。
予防保全の考え方は、以下のようなものがある。機器の予防保全による維持管理をするには、機器毎の修理や取替えの目安となる修理・取替えの標準年数の設定が必要となる。特に故障停止すると致命的な機器で、状態監視(傾向管理)が難しい機器については、設備の信頼性を維持するために時間計画保全(定期的な取替・更新)を実施することが必要である。
図5は、上記予防保全の考え方の基礎となる「機器の使用経過年数と故障率」に関する典型的な概念を示す図(概念曲線図)である。図5は、機器の故障の推移が設置当初に初期不良が多発した後、ごく稀にしか故障の発生しない安定期に至り、その後、最終的には機器は摩耗して再び故障が多発するという経験的な概念を一般的、定性的に表したものであり、縦軸は故障率、横軸は経過年を示す。
T1は初期故障期故障率減少の期間を示し、T2は偶発故障期故障率一定の期間(耐用寿命)を示し、T3は摩耗故障期故障率増加期間を示す。ここでは、修理・取替の標準年数は機器の耐用寿命と略同じであり、基本的には修繕・取替は故障率が増加する時期、即ち摩耗故障期にもほぼ重なる。故障が増加していく時期の前に機器を取り換えれば、故障率の上昇は一定以下に抑えられ、設備全体の信頼性が確保できる。
耐用寿命T2より早めに取替えを行うと故障率の上昇を抑えやすくなるが、ランニングコストは高くなる傾向になる。一方、耐用寿命T2により近い時期に取替えを行うとランニングコストは低くなる傾向になるが、故障率の上昇の傾向により信頼性が低下する虞がある。
ところで、修理・取替えの標準年数(或いは機器の耐用寿命)を多数の機器の組み合わせにより構築されたポンプにおいて設定するのはなかなか困難である。
これまでは、予防保全の考え方にしたがって、分解点検を行なうメインテナンスサイクルは、個々の部品のメインテナンス時期のうち一番短いメインテナンス時期の部品に合わせて行われ、その際に全ての交換部品の交換作業が行われていた。このように決められた時間毎に分解点検を行うメインテナンスをすることを「時間計画保全」というが、このようなやり方は、例えば部品が未だ健全な状態であっても、一度の分解点検に合わせてそれらも取替えてしまうことになる。
更に言えば、揚水/排水設備においては、複数台の水ポンプがある場合や予備機が無い場合がある。複数台の水ポンプがある場合は、水ポンプは各々のポンプの型式やポンプ口径が異なる場合がある。加えて水ポンプ以外の主要な駆動機(エンジンや電動機)や、クラッチやインバータ等の回転速度をコントロールする機器もあり、揚水/排水設備全体としてメインテナンスを考えると、これらを考慮する時間保全が必要となる。
また、揚水/排水設備における水ポンプは、ポンプの構造や回転軸の型式などによる所謂ポンプ型式の違いや、排水、上水、或いは河川水や海水などの取り扱い水の違い、所謂ポンプの使用用途の違い、更にはユーザーの運用の方針などにより機器の劣化の程度や要因が異なる。そのため、交換部品の状態に問題がない場合や、より早く交換すべきであった場合、あるいは、摩耗ではなく他の腐食等の要因であった場合もある。即ち、前述のように定性的な傾向だけでなく、より実際の運動条件等から高精度で実用的な寿命を推定することが必要である。
このようなことから、時間保全により一義的に決められた期間毎に点検することが経済的にも、また実施的な保全の意味からも有効とは必ずしも言えないことが指摘されている。また、近年、回転機器の運転状態を観測し、異常を検知するシステムの提案もなされている。
例えば、特許文献1においては、回転機器の状態診断の精度を向上させ、十分なメインテナンス対応を行うために、状態診断手段として、回転機器から採取された変位、速度、加速度、及びその振動スペクトルデータと、回転機器の軸受等から採取される衝撃データと、必要に応じて潤滑油性状分析データを含め、それらデータに基づきそれぞれのパラメータの基準値との比較を行うことにより、回転機器の異常、もしくは異常の兆候の有無につき状態診断を行うことと、更に診断結果通知手段による診断結果に従って回転機器毎の保全頻度を外部へ通知することが提案されている。
また、特許文献2においては、増速機に用いられる潤滑油の劣化状況を総合的に評価し、潤滑油の劣化状況を判断することができる潤滑油の劣化評価装置及び潤滑油の劣化評価システムが提案されている。具体的には、増速機から排出される潤滑油の一部を抜き出し、抜き出した潤滑油中に含まれる夾雑物、潤滑油の粘度を少なくとも分析する潤滑油性状分析装置と、新潤滑油を潤滑油性状分析装置に送給して、潤滑油性状分析装置で分析された潤滑油と新油の中に含まれる夾雑物の量と粘度の分析結果を4段階(評価A〜D)に区分して各々評価し、その各々の評価結果に基づいて潤滑油の劣化状態を総合評価する潤滑油劣化判定装置とシステムである。
上記提案においては、機械軸受部の状態や、潤滑油の状態から軸受部や機械の状態や、潤滑油の劣化の状態を観測して総合的な診断する試みが提案されている。しかしながら、水ポンプにおいて、潤滑油に係る軸受部の温度や振動を観測していても異常が検知されていない状況であっても、潤滑油を調べてみると、摩耗粉の発生量が通常よりも多く、水ポンプを分解点検してみると、潤滑油に浸された軸受部の損傷が起こり始めていたということがあった。
また、取扱い水やユーザの運転方針等により、水ポンプの年間の運転時間が少なく、軸受の摩耗や潤滑油の性状よりも他の要因によりポンプ寿命を考慮する方が適切な場合もある。このような場合は、例えば腐食やキャビテーションの進行によるポンプの寿命は考慮されるべきである。即ち、水ポンプの場合は、使用環境も役割も異なる摺動部が複数存在するので、検知して得られるデータは、複数の要因が重なった情報となることが多い。そのため、上記提案されている従来の総合観測システムでは対応できないという課題があった。
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態では液体ポンプとして水を取り扱う水ポンプを説明するが、本発明が対象とする液体ポンプは水に類似する液体を取り扱う液体ポンプを指すものとする。
図6は水ポンプの今まで得られたフィールドデータ(過去のフィールドデータ)から、水ポンプの構造や軸型式等、所謂水ポンプの機種や型式の違い、排水、上水、或いは河川水や海水等の取り扱い水、所謂水ポンプ使用用途の違い、更にユーザの水ポンプ運用の方針などの条件の違い等の基礎的事項で複数のグループに分類(基礎的分類)された中の、あるグループについて、機械的状態観測パラメータ(データ)として軸受の表面温度を、潤滑油性状分析パラメータ(データ)として潤滑油中の摩耗粉濃度を代表として、横軸に故障までの時間(寿命時間)を100として運転経過時間をそれに対する割合で示し、縦軸に潤滑油が循環する軸受の温度(軸受温度)と潤滑油中の摩耗粉濃度の観測値を水ポンプが平常で運転されている時の値を基準値1としてそれに対する相対比をとって標準的な状態推移を表した図(グラフ)である。
ここで、水ポンプの故障までの期間(時間)とは、故障発生率が高くなる期間としてもよい。なお、機械的状態観測パラメータや、潤滑油性状分析パラメータは、ポンプの年間の運転時間が少なく、軸受の摩耗や潤滑油の性状よりも他の要因によりポンプ寿命を考慮する方が適切な場合も、取扱い水やユーザの運転方針などにより基礎的分類で分類される。また、分類の条件に加えて、機械的状態観測パラメータや、潤滑油性状分析パラメータは、ポンプの塗装の耐用年数や、取り扱い水の液質との関係からポンプに生じうる腐食の許容値等を考慮して設定される。
図6のグラフは、過去に潤滑油の劣化が原因ではなく、それ以外の要因から軸受の損傷により故障まで至ったフィールドデータより抽出したものである。同図において、破線Aは潤滑油中の摩耗粉濃度を、実線Bは軸受温度を示す。フィールドデータとして蓄積されたデータは、同一の様相を示すものは少なく、多くは機種、使用温度条件、回転周波数、軸受の個数や面圧、起動停止回数などの条件の違いにより異なる。これらの条件がポンプの運転にとって厳しいかどうかの厳しさの程度により、寿命は異なってくるが、機械的観測パラメータや潤滑油性状分析パラメータの示す強度の推移は大きく変わらない。
このような規格化・標準化することで、実際のメインテナンス時に、使用されているポンプの状態を実測する場合、そのポンプの基礎的分類から、そのポンプの機械的状態観測パラメータや、潤滑油性状分析パラメータの標準的な状態推移を特定し、実際の実測した時点の時期が故障までの期間のどの程度の割合まで進展したかということがわかる。次に実測で得られた機械的状態観測パラメータ(軸受温度)と、潤滑油性状分析パラメータ(潤滑油中の摩耗粉濃度)と標準的な状態推移グラフを比較することにより、分解点検の時期や分解点検を行うべき場所についての判断をすることができる。
機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータは、初期運転こそ若干の変動がみられるが、その後安定した状態となるので、その安定した状態を基準値1とすることが好ましい。その後運転を継続するにつれて各パラメータの値は1より大きくなり、故障直前の末期的時期に向けて大きな値になっていく。
ところで、これまで、揚水/排水設備におけるポンプの定期点検は通常半年乃至1年に1回程度行われてきた。また、ポンプの分解点検は5年乃至10年に1回行われてきた。このようにポンプの分解点検は、これまで予防保全として決められた時間で実施されてきたものだが、その時期を、あらためて図6に示すグラフで確かめると、44%乃至60%の時期に行われているケースが多い。
〔異変なし、常時基準値1の場合〕
図7は、図6における分類のポンプについて、定期点検を8回行ったときの状況を示す図である。図示すように軸受温度の実測値(▲印で表示)も、摩耗粉濃度の実測値(×印で表示)も、故障までの期間の60%の時期に行われたデータでは基準値に収まっていたので、分解点検は行わず、次回の70%の時期に分解点検を延期する判断をした。なお、図7においても図6と同様、破線Aは潤滑油中の摩耗粉濃度を、実線Bは軸受温度を示す。
次に、70%の時期に得られたデータも、典型的な状態推移グラフの動きと異なり基準値に収まっていたので、分解点検は行わず、次回の80%の時期まで分解点検を延期する判断をした。そして80%の時期に得られたデータも基準値に収まっていたので、更に90%の時期まで延期することにした。但し、90%の時期に仮に異変が見られない場合でも、想定故障時期の90%の時期が過ぎていることから、状況の如何によらず分解点検を行うことにした。なお、使用条件や使用状況、運用状況等を踏まえて、更に分解点検の実施要否の再考を管理者に求められるように、本スケジューラは、これまでの計測と診断の結果から簡易点検の点検箇所と、その点検の推奨時期を管理者に示すことができる機能を設定することが好ましい。管理者はこの機能の設定により、スケジューラが指摘する箇所を、ファイバースコープ等を用いた点検装置で簡易的に確認し、分解点検の要否をすることが可能になる。
〔基準値1以上典型的な状態推移グラフ以下の異変〕
図8は、図6における分類のポンプについて、定期点検を8回行ったとしたときの別の状況を示す図である。同図において、実線Cは摩耗粉濃度を、破線Dは軸受温度をそれぞれ示す。図示するように軸受温度の実測値(▲印で表示)も、摩耗粉濃度の実測値(×印表示)も、故障までの期間の60%の時期に行われたデータでは基準値に収まったので、分解点検は行わず、次回の70%の時期に分解点検を延期する判断をした。
次に、70%の時期に得られたデータでは、軸受温度の実測値(▲印で表示)は基準値に収まっていたが摩耗粉濃度の実測値(×印表示)は基準値をやや上回っていが、典型的な状態推移グラフを下回っていたので、そのまま次回の80%の時期まで運転を継続し、80%の時点で分解点検をすることにした。また、分解点検時に注力する部分は、潤滑油に係る軸受の点検に注力することにした。この時得られた摩耗粉について、鉄、銅、錫、樹脂材量の成分分析をしたところ、鉄、銅の割合が大きかったので、これらの成分を摺動面に用いているころがり軸受を主たる点検、交換ターゲットとして準備し、80%の時期の分解点検で、ころがり軸受を交換した。ころがり軸受には摺動による軽微な損傷が見られた。なお、錫と樹脂の割合が多い場合にはすべり軸受と判断できる。ころがり軸受交換後の運転状態は、軸受温度、摩耗粉濃度とも基準値に収まっていた。なお、80%の時期に得られたデータでは、摩耗粉濃度が更に上昇しており、更に運転を継続すれば、ポンプ一式を交換しなければならなくなる虞があるところ、未然に状態の悪化を防ぐことができた。
〔軸受温度上昇先行カーブ〕
図9は、図6における分類のポンプについて、過去にオイルの劣化が原因で故障まで至ったフィールドデータより抽出した状況を示す図である。フィールドデータとして蓄積されたデータは、同一の様相を示すことは少なく、多くは機種、使用温度条件、回転周波数、潤滑油交換回数、潤滑油冷却条件、潤滑油量等の条件の違いにより異なる。これらの条件がポンプの運転にとって厳しいかどうかの厳しさの程度により、寿命は異なってくるが、機械的状態観測パラメータ(軸受温度)や潤滑油性状分析パラメータ(摩耗粉濃度)の示す強度の推移は大きく変わらない。
このように規格化・標準化することで、実際にメインテナンス時に、使用されるポンプの状態を実測する場合、そのポンプの基礎的分類から、そのポンプの機械的状態観測パラメータや、潤滑油性状分析パラメータの標準的な状態推移を特定し、実際に実測した時点の時期が故障までの期間のどの程度の割合まで進展したかということがわかる。次に実測で得られた機械的状態観測パラメータ(軸受温度)と、潤滑油性状分析パラメータ(潤滑油中の摩耗粉濃度)と標準的な状態推移グラフを比較することにより、分解点検の時期や分解点検を行うべき場所についての判断をすることができる。なお、機内の潤滑油が減少した場合には、不足分を補うため潤滑油を追加するが、潤滑油の減少、追加量に関する情報を本スケジューラに取り込み、それに応じて補正を行うことができる。
潤滑油の劣化が進むと高分子化が進む。このため図9の実線Cで示すように軸受温度の上昇が破線Dで示す摩耗粉の濃度の上昇より先に見られる(図6では破線Aで示すように軸受温度の上昇が実線Bで示す摩耗粉濃度の上昇より先に見られる)。潤滑油の温度が上昇すると油膜強さが低下し、摺動部局部で次第に油膜が破れるようになり、摺動部の金属が摩耗するようになる。このように潤滑油の温度上昇に遅れて摩耗粉濃度が上昇する。
〔基準値1以下の典型的な状態推移グラフ以下の変異〕
図10は、図9におけるポンプについて、定期点検を8回行ったときの状況を示す図である。図10において軸受温度は実線Cで示し、摩耗粉濃度は破線Dで示している。図示するように軸受温度の実測値(▲印で表示)も、摩耗粉濃度の実測値(×印表示)も故障までの期間の60%の時期に行われたデータでは基準値1内に収まっていたので、分解点検を行わず、次回の分解点検を延期する判断をした。
次に、70%の時期に得られたデータも基準値に収まったので、分解点検は行わず、次回の80%の時期まで分解点検を延期する判断をした。そして80%の時期に得られたデータで、摩耗粉濃度は基準値内に収まっていた。軸受温度は基準値を上回っていたが、典型的な状態推移のグラフを下回っていた。摩耗粉が出ていないことから、潤滑油交換を行い、90%の時期まで分解点を延期することにした。但し、90%の時期に仮に異変が見られない場合でも、想定故障時期の90%の時期が過ぎていることから、状況の如何によらず分解点検を行うことにした。潤滑油交換により運転状態は、軸受温度、摩耗粉濃度とも基準値内に収まっていた。
〔3つ目のカーブ〕
図11は、機械的状態観測パラメータや潤滑油性状分析パラメータとして、軸受温度(実線G)や潤滑油中の摩耗粉濃度(破線E)を用いているが、更にポンプの振動加速度(2点鎖線F)を機械的観測パラメータとしたものである。このパラメータにより、水中軸受の寄与の状況もわかるようになる。なお、図11は、振動加速度をパラメータとしているが、本パラメータはポンプの軸受の仕様を踏まえて、振動の振幅値でも振動の速度でも良く、またポンプの回転数成分のみに着目し、回転数Nと回転数Nの倍数の周波数に絞ってパラメータとしてもよい。
図12は、図9における機種について、定期点検を6回おこなったときの状況を示す図である。軸温度の実測値(×印で表示)、摩耗粉濃度の実測値(*で表示)及び振動か速度の実測値(●印で表示)は4回目の定期点検まで基準値に収内に収まっていた。しかし5回目の定期点検で振動加速度がやや上昇し、6回目では明白に大きな振動加速度をカウントするようになった。5回目と6回目の軸温度の実測値、摩耗粉濃度の実測値は基準値内に収まっていることから、油潤滑されている軸受には異常がなく、振動加速度の上昇の原因はそれ以外の水中軸受等によるものと考えられた。
そこで、ポンプ性能特性を測定し、必要な性能が出ていることが確認できたので、水中軸受等の交換の準備ができるまで、そのポンプの運転を継続してもらい、準備ができた時点で分解点検を行った。水中軸受(すべり軸受)が損傷していたので交換して再稼動したところ、振動加速度は基準値内に収まった。
〔メインテナンス・スケジューラ〕
以上、本願発明に係るメインテナンス・スケジューラの簡単な実施例を紹介したが、要するに図13に示すようなものがある。図13は本願発明に係るメインテナンス・スケジューラの概念を示す。メインテナンス・スケジューラは大きな骨格としては、下記のプロセスと機能を備えていることである。
(1)サンプリングデータ(機械的状態観測データ、即ち被推定液体ポンプの運転状況を把握するための実測データ)の分類化・規格化のデータ加工プロセス
(2)サンプリングデータの状況を評価するために、過去から蓄積したフィールドデータの分類化・規格化・標準化のデータ加工プロセス
(3)加工された互いのデータを比較検討し、被推定液体ポンプの現在の正常異常の判断と残余寿命の推定をするとともに、今後のメインテナンスすべき箇所を推定し、そのスケジュールを提案する機能
(4)得られたサンプリングデータと判断の結果の履歴を保存するともに、蓄積したフィールドデータとして更新し、評価の基準を更新する機能
図14は、図13に示した概念の骨格をもとに、更に詳細に本メインテナンス・スケジューラの機能を概念的に整理したものを示す。図示するように本スケジューラは、下記の「基礎分類機能」、「データ規格化標準化機能」、「検索機能」、「対比機能」、「評価・推定機能」、「履歴管理機能」を備えている。
・基礎分類機能
本機能は、今までの蓄積されたフィールドデータの加工において、フィールドデータをポンプの構造や軸の型式などによる所謂ポンプ機種や型式の違いや、排水、上水、或いは河川水や海水等の取り扱い水の違い、所謂ポンプの使用用途の違い、更にユーザの運用の方針等の条件の違い等の基礎的事項で分類(基礎的分類)を行うものである。一方、実際に現在メインテナンスを行う対象となるポンプから得られたサンプリングデータの加工において、そのポンプの運転条件をフィールドデータの基礎的分類と同じように分類し、そのポンプがどのような類型の基礎的分類に含まれるのかを特定するものである。
・データ規格化標準化機能
本機能は、基礎分類されたデータについて、フィールドデータにおいては、選ばれた機械的状態観測パラメータと潤滑油性状分析パラメータについて、機種、使用温度条件、回転周波数、軸受の個数や面圧、起動停止回数、潤滑油交換回数、潤滑油冷却条件、潤滑油量などの条件を考慮して補正し標準化するとともに、ポンプ故障までの期間を規格化するものである。また、サンプリングデータにおいてもフィールドデータと同じように規格化・標準化を行うものである。
・検索機能
本機能は、サンプリングデータから、その基礎分類の類型に応じた標準化、規格化されたデータをフィールドデータより検索するもので、フィールドデータから、サンプリングデータの基礎分類に応じて標準化・規格化されたデータを検索して提供するものである。
・対比機能
本機能は、同じ基本的分類において、選ばれた機械的状態観測パラメータと潤滑油性状分析パラメータについて規格化・標準化されたサンプリングデータとフィールドデータを比較する機能である。
・評価推定機能
本機能は、前記対比機能により標準化・規格化されたフィールドデータとサンプリングデータを比較して、サンプリングデータが異常であるか正常であるかを評価し、異常であればその原因となる異常個所の特定を推定するとともに、いつごろ対処すべきかを提案し、また、正常であれば、次回のメインテナンスの対象箇所と、メインテナンス時期について提案する機能である。
・履歴管理機能
本機能は、前記サンプリングデータとそのときの評価・判断・アクション・結果などを記録保存するとともに、それをフィールドデータにフィードバックし、更新する機能である。この更新を行うことにより、フィールドデータによる標準化・規格化がより充実して行えることになる。
図15は、本メインテナンス・スケジューラの評価・推定機能の具体的な処理フローを示す図である。先ず評価・推定機能をスタートし、ステップST1で標準化・規格化されたサンプリングデータとフィールドデータの比較し、続くステップST2で残存寿命の推定を行う。続くステップST3では、摩耗粉量・変化量は基準値以下否かを判断し、基準値以下でない(No)場合、続くステップST4で各金属成分濃度(各金属粉濃度)が基準値以下か否かを判断し、基準値以下でない(No)場合、続くステップST5では閾値以上の濃度で検出された金属成分(金属粉)から損傷部位を予測する。
前記ステップST3で摩耗粉量・変化量が基準値以下である(Yes)場合、ステップST6で温度が基準値以下かを判断し、基準値以下でない(No)場合、続くステップST7で、潤滑油交換を提案・実施する。なお、前記ステップST4で各金属成分濃度は、基準値以下である(Yes)場合もステップST7の処理を行う。また、前記ステップST6で温度が基準値以下を判断し、基準値以下である(Yes)場合、ステップST8で、振動加速度は基準値以下かを判断し、基準値以下でない(No)場合、続くステップST9では、水中軸受やウエアリング部の調査・交換を提案する。また、前記ステップST5で損傷部位を予測、ステップST7で潤滑油交換を提案・実施、ステップST9で水中軸受やウエアリング部の調査・交換を提案した後、ステップST10で、ポンプの異常の有無、異常個所、メインテナンス時期の提案を行う。
上記実施形態では、標準化・規格化されたサンプリングデータと標準化・規格化されたフィールドデータの比較を、機械的状態観測パラメータを軸受温度、振動加速度、潤滑油性状分析パラメータを潤滑油中の摩耗粉濃度として行った場合を例示している。このように機械的状態観測パラメータと潤滑油性状分析パラメータを適切に選ぶことで、ポンプの異常の有無、異常個所の特定、メインテナンス対応時期を提案することができる。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラで用いるフィールドデータは、どこに格納されていてもよい。即ち、メインテナンス作業を行っている場所で用いられる端末機器と付随した記憶手段に格納しても良いし、また遠隔の記憶手段に保存され、必要に応じて通信等でメインテナンス作業を行っている場所の端末機器にダウンロードして用いても良い。フィールドデータには、使用環境も役割も異なる摺動部が複数存在するポンプの情報が含まれており、ポンプの機種、ポンプにおける水中軸受、軸封、潤滑油中のスラスト、ラジアル軸受等の摺動部の種類の情報、及びこれらの個数の情報が含まれる。また、各ポンプの故障原因と故障箇所に関する情報が含まれている。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラは、フィールドデータを分類する分類手段があり、それの持つ基礎分類機能により、フィールドデータはポンプの構造や軸の型式等、所謂ポンプ機種や型式の違いや、排水、上水、或いは河川水や海水などの取り扱い水の違いによる所謂ポンプの使用用途の違い、更にユーザの運用の方針などの条件の違い等の情報が含まれており、それらにより分類される。
また、分類手段により、フィールドデータを、例えば過去に潤滑油の劣化が原因ではなく、それ以外の要因から軸受の損傷により故障にまで至った場合や、過去に潤滑油の劣化が原因で故障にまで至った場合等の故障原因によってグループ分けをすることも可能である。基礎分類機能による分類と、故障原因別にグループ分けすることによって、フィールドデータから実際のメインテナンス対象のポンプにより近い範囲のフィールドデータを抽出することができる。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラは、パラメータ選定手段を備える。具体的には、フィールドデータに含まれるポンプの状態を表す複数の状態パラメータの中から、パラメータ選定手段により、幾つかのパラメータを選ぶことができる。選ばれたパラメータにより、例えば、機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータを選び、運転開始から故障に至るまでに、各パラメータが正常値から異常化していくデータ推移の傾向が、機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータのどちらか先かどうかでフィールドデータを2つのグループに分ける。前者のパラメータが先に生じるデータについては、過去の潤滑油の劣化が原因ではなく、それ以外の要因から軸受の損傷により故障までに至ったグループに含め、後者のパラメータが先に生じるデータについては、過去に潤滑油の劣化が原因で故障にまで至ったグループに含めるといった分類機能に役立てられる。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラは、規格化・標準化手段を備えている。規格化・標準化手段には、フィールドデータ及びサンプリングデータの規格化・標準化機能があり、その機能により、例えば過去に潤滑油の劣化原因ではなく、それ以外の要因から軸受の損傷により故障にまで至ったデータの蓄積により抽出したフィールドデータのグループについては、フィールドデータに含まれる、機種、使用温度条件、回転周波数、軸受の個数や面圧、起動停止回数等の情報は、それらの条件の違いにより、時間軸の長さや、温度に依存するパラメータの出力値などが異なるので、それらのデータについて、例えばポンプ故障までの期間を100とし、各々のパラメータの基準値を1として規格化したり、重みづけし、規格化・標準化されたデータによる状態推移グラフを得ることができる。
また、過去に潤滑油の劣化が原因で故障にまで至ったデータの蓄積により抽出したフィールドデータのグループについても同じように、フィールドデータに含まれる機種、使用温度条件、回転周波数、潤滑油交換回数、潤滑油冷却条件、潤滑油量などの情報は、それらの条件の違いがあるが、時間軸の長さや、温度に依存するパラメータの出力値などが異なるので、例えば各データについてポンプ故障までの期間を100とし、各々のパラメータの基準値を1として規格化したり、重みづけしたりすることにより、規格化・標準化されたデータにより液体ポンプの状態推移グラフが得られる。
機械的状態観測パラメータとしては、少なくとも潤滑油中のスラスト軸受やラジアル軸受の温度測定データが状況を把握できるパラメータが好ましく、潤滑油性状分析パラメータとしては、潤滑中の摩耗粉濃度、金属成分量、摩耗粉の粒度分布、汚染度、色が選ばれる。潤滑油の温度、特にスラスト軸受やラジアル軸受の温度、潤滑油の粘度や潤滑油の水分濃度、更には潤滑油の酸価や色から選ばれる。更に機械的状態観測パラメータとしてポンプの全体的な状況を示すパラメータについての状態推移グラフを用意する。このようなパラメータとしては振動変位、振動速度、振動加速度等が選ばれる。即ち、これらの指標は、フィールドデータに含まれることが望ましく、サンプリングしてサンプリングデータとすることが好ましい。なお、サンプリングデータを得る際に、これらのパラメータの観測に要する測定機器については、既存の知られている機器で測定して良い。
次に、本発明に係るメインテナンス・スケジューラには、少なくとも選択された機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータについて、定期点検時に実機で観測したデータを入力する入力手段と、入力された実機の機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータの各観測値から、前記の2種類の状態推移グラフと対比してどちらのパラメータの異変が先行しているかを判断する比較判断手段が備えられている。
更に、本発明に係るメインテナンス・スケジューラには、実機の機種、運転時間、使用温度条件、回転周波数、軸受の個数や面圧、起動停止回数などの運転条件を入力する運転条件入力手段を備えており、それらの条件から、実機の定期点検時までの経過時間が、状態推移グラフで想定される寿命(故障停止)上、どの程度の時間的位置にいるのかを推定して示す推定寿命演算手段が備えられている。推定寿命演算には、前述したフィールドデータから状態推移グラフを得た演算が基本的に用いられる。
同じく、本発明に係るメインテナンス・スケジューラには、実機の機種、使用潤滑油の特性、使用温度条件、回転周波数、潤滑油交換回数、潤滑油冷却条件、潤滑油量等の潤滑油の使用条件を入力する潤滑油使用条件入力手段を備えており、これらの条件も推定寿命演算手段で実機の定期点検時までの経過時間が、状態推移グラフで想定される寿命(故障停止)上、どの程度の時間的位置にいるのかを推定するのに用いられる。比較判断手段と推定寿命演算手段により基本的には次回のメインテナンス対応の時期と内容、即ち通常点検か分解点検が決められる。本発明に係るメインテナンス・スケジューラには、比較判断手段と推定寿命演算手段により次回のメインテナンス対応の時期と内容を判断するメインテナンス・スケジュール判断手段が備えられている。
揚水/排水設備におけるポンプの定期点検は通常半年乃至1年に1回程度行われる。実機の各パラメータのデータの収集は、定期点検の都度行い、係員の手入力によりメインテナンス・スケジューラの入力手段に入力してもよいし、選択された機械的状態観測パラメータと潤滑油性状分析パラメータを測定する計測機器を実機に備え、該計測機器で常時測定してオンラインでメインテナンス・スケジューラに入力するようにしてもよい。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラでは、実機で観測され入力された機械的状態観測パラメータと潤滑油性状分析パラメータの各観測値から、前述した比較判断手段で少なくとも2種類の状態推移グラフと対比してどちらのパラメータの異変が先行しているかを判断し、更に異変箇所を推定する異変箇所推定手段を備えている。
例えば、潤滑油中の摩耗粉の濃度を潤滑油性状分析パラメータとしたとき、潤滑油中の摩耗粉の濃度の上昇が先に見えた場合には、油潤滑によるスラスト軸受、ラジアル軸受に損傷が発生していると疑われる。或いは、機械的状態観測パラメータとして、軸受の温度を選び、その上昇が先に見えた場合には、潤滑油の劣化が疑われる。また、機械的状態観測パラメータとしてもう一つの振動加速度を選び、摩耗粉濃度も軸受温度も基準値内になっているにもかかわらず振動加速度が大きくなる場合には、潤滑油によるスラスト軸受、ラジアル軸受の損傷も潤滑油の劣化もどちらも可能性が低い。従って、その他の摺動部、特に水中での摺動部における損傷の可能性が高い。逆に、摩耗粉濃度及び軸受温度の上昇と、振動加速度が大きくなる場合は、潤滑油によるスラスト軸受、ラジアル軸受の損傷が疑われる。
このように、実機で観測され入力された機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータの各観測値から、前述した比較判断手段で少なくとも2種類の状態推移グラフと対比してどちらのパラメータの異変が先行しているかを判断することにより、異変箇所の推定が行われる。
本発明に係るメインテナンス・スケジューラでは、更に比較判断手段の判断結果について対策の緊急度を判定する緊急度判定手段を備えている。即ち、ボンプ機器に備えられている緊急停止スイッチが作動していなくとも、例えば摩耗粉濃度や軸受温度の観測値が、基準値より乖離する程度が著しい場合には、警報を係員や管理者に可及的速やかに伝え、停止を提案するものである。その警報をする条件は、摩耗粉濃度の程度に閾値を設け、観測値が閾値以上である場合には警報を行う。
上記警報を行う具体的例を摩耗粉濃度を例に、図16により説明する。ここでは相対比「2」を閾値としている。これにより摩耗粉濃度の相対比が閾値「2」より高い「L」の場合は警報を係員や管理者に伝える。
ところで、観測値が、例えば図16の「M」,「M’」のように基準値「1」より大きく閾値「2」に満たない場合がある。このようなとき、更に状態推移グラフ(摩耗粉濃度I)の値より大きい「M」とそれ以下の場合「M’」がある。
基準値「1」より大きく閾値「2」に満たない場合で、典型的な状態推移グラフ(摩耗粉濃度I)の値以下の「M’」の場合は、状態推移よりも良い状態であるので、状態推移グラフとの時間軸の差「b」だけ寿命が長くなりうると判断できる。推定寿命演算手段により、その分寿命を長く算出して係員や管理者に報告しても良い。
しかし基準値「1」より大きく閾値「2」に満たない場合で、状態推移グラフの値より大きい「M」の場合は、その状態が「c」のように、その後悪化するのか(閾値「2」に近づいていく)、「d」のように維持されるのか(閾値「2」にも基準値「1」にも近寄らないで横ばい)、「e」のように一時的な現象で回復する(再び基準値「1」に戻る)のか時間軸に対して調べる必要がある。従って、本発明に係るメインテナンス・スケジューラでは、係員や管理者に各パラメータの時間的変化を測定することを要請する通知を行う。但し、オンラインで入力される場合には必ずしも通知は必要ない。
このようにして、本メインテナンス・スケジューラでは、基準値「1」よりも大きく閾値「2」に満たない範囲に観測されたパラメータの時間的な傾きを得て、「c」のようにその状態がその後悪化する(閾値「2」に近づいていく)とみられる場合は、あとどのくらいの時間で閾値「2」を越えるのかを係員や管理者に伝える。
一方、「d」のようにその状態で維持される(閾値にも基準値にも近寄らないで横ばい)と見られる場合や、「e」のように一時的な現象で回復する(再び基準値「1」に戻る)と見られる場合には、そのまま通常点検を続ける。しかし「d」の状態(閾値「2」にも基準値「1」にも近寄らないで横ばい)と見られる場合は、典型的な状態推移グラフのY軸(縦軸)が点線fに示すように移動したものとして扱うので、閾値「2」に近づく時期は「i」に示すように早まる。一方、一時的な現象で回復する(再び基準値「1」に戻る)と見られる「e」の場合には、従来通りの典型的な状態推移グラフとして考えて良い。以上のように、推定寿命手段では、異変の状況によりその後の寿命を推定する。
このように、使用環境も役割も異なる摺動部が複数存在する水ポンプ(図1乃至図3に示すような水ポンプ)の場合であっても、特定のパラメータに関して、典型的な故障にいたるまでのグラフと実データを対比することで、損傷箇所を推定できるとともに、次回のメインテナンス・スケジュールや、異常に対してどの程度の緊急性と準備期間で対応すべきかを提案することができる。
なお、定期点検等での測定パラメータは、機械的状態観測パラメータと、潤滑油性状分析パラメータを挙げたが、その他のポンプ機器の温度、駆動機の電流値やトルク、異音の状況、軸封部の漏れや、ポンプ性能の状態、起動停止頻度や回数などの履歴も測定し、更に異常確認と寿命予測、メインテナンス時期の提案を行っても良い。
ところで、メインテナンス対象のポンプからデータをサンプリングするにあたっては、なるべく同等の測定機器、測定方法、測定手段であることが望ましい。しかし、測定機器については、日進月歩で新しいものが現れる一方、過去からのポンプの測定データは、昔の測定機器をそのまま用いて、その推移を評価するのが普通である。そこで、サンプリングデータ測定時、及びフィールドデータには、測定機器、測定方法、測定手段の情報を含むことが望ましい。
例えば、潤滑油中の摩耗粉の濃度は、撹拌された状態であるかどうか、潤滑油を取り出す位置における撹拌の状態によって異なるので、ポンプ運転時に潤滑油を採取したのか停止時に採取したのかの情報や、潤滑油の採取位置の情報をサンプリングデータ及びフィールドデータに取り込む情報として含むことが望ましい。これらの情報を分類機能により、測定機器、測定方法、測定手段で分類することにより、より精度の高い診断及びスケジュール設定が可能となる。
また、例えば異常箇所の特定については、ポンプや摺動部などの機器側に以下のような工夫をすることで、簡便に異常の発生や異常箇所の特定が行える。
図17は、潤滑油中で用いられるラジアル軸受ユニットの概略構成を示す図である。ラジアル軸受ユニット20は、ラジアル軸受21を備え、該ラジアル軸受21は軸受ホルダ22と該軸受ホルダ22に保持されたすべり軸受23を具備する。
図17(a)に示すラジアル軸受ユニット20は、軸受ホルダ22の軸10に近接する部位に、この部位を特定できる特殊組成の材料や蛍光材料からなる特定部材22aを装着している。そしてこの特殊組成の材料や蛍光材料22aと軸10との間をクリアランスΔaとし、該クリアランスΔaをすべり軸受23の内径の摩耗による許容拡大範囲とした。これによりすべり軸受23が許容拡大範囲以上に摩耗した場合に、軸10の振れ回りにより、該軸10が特定部材22aに当り、該特定部材22aを構成する特殊組成の材料や蛍光材料の摩耗粉が潤滑油に含まれるようになる。潤滑油中の摩耗粉を測定した時に、特殊組成の材料や蛍光材料が測定できれば、このすべり軸受23の耐用限界が容易に把握できる。
図17(b)に示すラジアル軸受ユニット20は、軸受ホルダ22ではなく、軸受ホルダ22に近接する位置に、軸10との間にそれぞれ異なるクリアランスΔb、Δcを設けてブッシュ24a、24bを配置したものである。ブッシュ24a、24bは固定されて回転せず、ブッシュ24a、24bの軸10の接近する部位に該ブッシュ24a、24bを特定できる特殊組成の材料や蛍光材料を装着している。潤滑油中に小さいクリアランスΔbのブッシュ24aの特殊組成の材料や蛍光材料を検出すると、すべり軸受23の交換を推奨する予備的な警報を発生させ、大きいクリアランスΔcのブッシュ24bの特殊組成の材料や蛍光材料を検出すると、すべり軸受23の耐用限界を知らせる警報を発生させる。
上記特定部材22aやブッシュ24a、24bに装着する材料として蛍光材料であれば、ブラックライト等で反応するので、精密な成分測定機器を用いることなく、しかも簡単にすべり軸受23の摩耗状況を把握できる。
また、通常点検ごとに潤滑油を採取し、その都度分析業者に送付して分析することは、手間がかかることであるので、対象ポンプに潤滑油の状況を見ることができるサイトグラスを設け、通常点検では、サイトグラスから見た潤滑油の色が規定値に近づいた場合に潤滑油を採取してもよい。或いはサイトグラスの代わりに、潤滑油貯留槽に導く検知管と検知棒を備え、検知棒に付着した潤滑油の色を見ることでも良い。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。