JP6566290B2 - 軟骨再生用移植材料、軟骨再生用移植材料の製造方法 - Google Patents

軟骨再生用移植材料、軟骨再生用移植材料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、軟骨再生用移植材料及び軟骨再生用移植材料の製造方法に関する。
軟骨組織は自己修復能に乏しく、一度、外傷や変形性関節症などにより軟骨欠損が生じると、それらが自然に治癒されることは期待できない。現在、軟骨欠損に対して、患者自身の健常部から採取した軟骨組織を移植する方法(自家骨軟骨移植(Osteochondral autograft))や、ドナーから採取した軟骨組織を移植する方法(同種骨軟骨移植(Osteochondral allograft))、患者自身の軟骨組織から採取した細胞を体外で培養させ、培養した細胞を再び患者へと移植する方法(自家軟骨細胞移植)などが行われている。
近年、培養細胞や成長因子を使用しないPGLA(グリコール酸/L-乳酸共重合体)からなる多孔質性軟骨修復材料が開発され、軟骨欠損の修復に臨床応用されている。軟骨修復材料が軟骨欠損部に移植されると、軟骨欠損部の周囲から細胞が供給されて軟骨修復材料を足場として細胞が増殖し、軟骨組織が再生される。
Carmont MR, Carey-Smith R, Saithna A, Dhillon M, Thompson P, Spalding T, Arthroscopy Volume 25, Issue 7, Pages 810-814, 2009
しかし、自家骨軟骨移植および同種骨軟骨移植では、軟骨組織を採取可能な採取部位や供給源に限りがある。自家軟骨細胞移植として、培養細胞による軟骨修復法も試みられているが、培養細胞を使用するためには、感染のリスクを避けるための設備や処置が必要となる。
また、現在用いられているPGLAからなる多孔質性軟骨修復材料では、材料が自家組織に置き換わるまでに非常に長い時間を要するとの報告がある(非特許文献1)。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、軟骨再生能に優れる軟骨再生用移植材料の提供を課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コラーゲン線維径及びコラーゲン密度について下記の構成とした軟骨再生用移植材料により、軟骨再生が良好に達成されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の通りである。
(1)平均直径が1〜10μmのコラーゲン線維を主成分として含有する軟骨再生用移植材料であって、水分含量0〜20(w/w)%であり、コラーゲン密度が200400mg/cmであり、前記コラーゲン線維の分布が密度勾配を有し、
前記密度勾配が連続密度勾配であり、
一方の端部から、前記一方の端部と対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされており、
前記他方の端部のコラーゲン密度が、300〜500mg/cm あり、
前記軟骨再生用移植材料を10mM、4℃の塩酸に24時間浸漬させて抽出されたコラーゲンが、前記軟骨再生用移植材料に含まれる総コラーゲンのうち75質量%以上であることを特徴とする軟骨再生用移植材料。
(2)前記軟骨再生用移植材料が孔を有し、当該孔の平均孔径が1〜50μmである前記(1)に記載の軟骨再生用移植材料。
(3)20〜37℃での前記密度勾配の方向の圧縮剛性が10〜70N/mmである前記(1)又は(2)に記載の軟骨再生用移植材料。
(4)リン酸緩衝生理食塩水(pH7.5)に20時間浸漬した後での体積増加率が1.5〜2.5倍の範囲内である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の軟骨再生用移植材料。
(5)更に、細胞走化因子、成長因子、細胞増殖因子、血液凝固因子および抗凝固因子からなる群から選択される1種以上の因子を含む前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の軟骨再生用移植材料。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の軟骨再生用移植材料の製造方法であって、
コラーゲン酸性溶液を中性にしてコラーゲン線維を生成するコラーゲン線維生成工程、
前記コラーゲン線維を含有する溶液から前記コラーゲン線維を分取してコラーゲン濃度12〜50(w/v)%の粗コラーゲン線維を形成する粗コラーゲン線維形成工程、
前記粗コラーゲン線維を所定形状に成形する成型工程、および
前記成型工程で得た成形物を乾燥する乾燥工程を行い、
前記成型工程が圧縮濾過成型であることを特徴とする軟骨再生用移植材料の製造方法。
本発明によれば、軟骨再生能に優れる軟骨再生用移植材料を提供することができる。
実施例1のコラーゲン構造体及び比較例1のコラーゲン構造体の、表面の走査型電子顕微鏡像(SEM)を示す写真である。 実施例1のコラーゲン構造体における、上部・中部・下部を説明するための模式図である。 実施例1のコラーゲン構造体及び比較例1のコラーゲン構造体の、上部・中部・下部の各部におけるコラーゲン密度の測定結果を示すグラフである。 実施例1のコラーゲン構造体及び比較例1のコラーゲン構造体の、吸水による体積増加の推移を示すグラフである 移植例1及び比較移植例1において、それぞれ移植24週後の移植部分の大腿骨の薄切切片のサフランニンO 染色の結果を示す写真である。
(1)軟骨再生用移植材料
本発明の軟骨再生用移植材料は、平均直径が1〜10μmのコラーゲン線維を主成分として含有し、水分含量0〜20(w/w)%、コラーゲン密度50〜800mg/cmであり、前記コラーゲンの分布が密度勾配を有するものである。
主成分として含有するとは、本発明の軟骨精製材料としての効果を有する程度であればよいが、好ましくは50(w/w)%以上で含有することである。
本願明細書において、「コラーゲン」とは、真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつである。コラーゲンタンパク質のペプチド鎖3本が螺旋を巻いたものを「コラーゲン分子」と称する。本発明において、「コラーゲン線維」とは、コラーゲン細線維が会合したものであり、前記コラーゲン細線維とは、複数のコラーゲン分子が会合したものをいう。
コラーゲンには、従来からI〜XXIX型が知られているが、本発明で使用するコラーゲンとしてはいずれであってもよく、新たに見出されるコラーゲンであってもよい。生体内に含まれるコラーゲンの大部分は水に不溶性であり、本発明では、コラーゲン線維を形成できるものを広く対象とすることができ、例えば、動物の皮や骨等の原料に含まれるコラーゲンをプロテアーゼなどの酵素を添加して可溶化した「可溶化コラーゲン」を使用することができる。なお、生体内には、動物の皮や骨等の原料には、わずかに中性塩溶液や酸性溶液に溶ける「可溶性コラーゲン」であってもよい。前記「可溶化コラーゲン」や「可溶性コラーゲン」は、化学的処理の際に構成アミノ酸が修飾されていてもよい。
更に、コラーゲン線維を構成するコラーゲン分子は、コラーゲン誘導体であってもよい。本発明において、「コラーゲン誘導体」とは、前記コラーゲン分子を構成するアミノ酸に他の官能基を修飾したものを意味する。例えば、アシル化コラーゲンやエステル化コラーゲンなどがある。アシル化コラーゲンとしては、サクシニル化コラーゲン、フタル化コラーゲン、マレイル化コラーゲンなどがある。例えば、酵素処理によって抽出したアテロコラーゲン溶液をpH9〜12に調整し、その後、コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸などの酸無水物を添加してなるサクシニル化コラーゲン、フタル化コラーゲン、マレイル化コラーゲンなどのアシル化コラーゲンなどがある。また、エステル化コラーゲンとしては、可溶化コラーゲンをエステル化したもののほか、不溶性コラーゲンをエステル化した後に酵素反応などで可溶化されたエステル化コラーゲンなどがある。
本発明の軟骨再生用移植材料は、所定の形状を有する固形物である。従って、粉状物、顆粒状物などの流動体は含まないことが好ましい。所定の形状とは、フィルム状やシート状、円柱、円錐、多角柱、多角錐、球などのブロック状などを含む。所定の形状を維持できればよく、不定形であってもよい。なお、「フィルム状」とは200μm未満の薄膜状を、「シート状」とは200μm以上の膜状をいう。また、「ブロック状」とは、平面状物が高さ方向に厚みを形成した塊状をいう。本発明の軟骨再生用移植材料の形状は、ブロック状であることが好ましい。
本発明の軟骨再生用移植材料は、乾燥状態での平均直径が1〜10μmのコラーゲン線維を主成分として含有する。前記したように、コラーゲン溶液には三重螺旋構造を有するコラーゲン分子がバラバラに溶解しており、このようなコラーゲン溶液を風乾などによってフィルム状に成形すると、コラーゲン分子やその会合体によってフィルムが形成される。コラーゲン分子やその会合体は、細くかつ短いためコラーゲン分子間や前記会合体間の間隙が狭く、細胞はこの間隙を通過することができない。このようなフィルム上で細胞を培養しても細胞はフィルム表面に局在するが内部に浸潤することができない。しかも、上記フィルムは細くて短いコラーゲン分子等で構成されるため機械的強度が低い。しかしながら、本発明の軟骨再生用移植材料は、三重螺旋構造を有するコラーゲン分子が会合したコラーゲン細線維が更に会合してなる平均直径が1〜10μmの太いコラーゲン線維を主成分として含有するため、コラーゲン線維間の間隙が大きく、細胞が自由に通過できる。このため本発明の軟骨再生用移植材料を生体に充填すると、軟骨再生用移植材料の内部にまで細胞が浸潤する。しかも、このようなコラーゲンの線維構造は、生体内の腱や靱帯などの結合組織におけるコラーゲンの線維構造と類似するものである。したがって、コラーゲン自体の機械的強度を高く維持することができる。
本発明の軟骨再生用移植材料を構成するコラーゲン線維は、乾燥状態での平均直径が1〜10μm、より好ましくは1〜7μm、さらに好ましくは2〜5μmである。この範囲で、細胞浸潤性に優れる軟骨再生用移植材料を得ることができる。なお、本発明において、上記したコラーゲン線維の平均直径は、乾燥状態、すなわち水分含有量0〜20(w/w)%の軟骨再生用移植材料について、後記する実施例に記載する方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、水分含有量が0〜20(w/w)%、より好ましくは0〜15(w/w)%、さらに好ましくは0〜10(w/w)%である。水分含有量が低い乾燥物であるため熱安定性に優れ、かつ細菌感染などにより変質を回避することができる。しかも、粉末などと相違してフィルム状、シート状、その他、ブロック状などの成形物であるため、生体の欠損部の形状に成形することで生体内への添付や充填も容易となる。なお、本発明における水分含有量は、後記する実施例に記載する方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、好ましくは空隙率が20〜90%、より好ましくは30〜80%、特に好ましくは40〜70%である。多孔であるため、溶媒中に浸漬すると迅速に溶媒中で膨潤する。なお、本発明において空隙率は、水銀圧入法により、Pascal 140及び440(CARLO ERBA INTRUMENTS社製)を用いて測定することができる。
本発明の軟骨再生用移植材料の空隙(孔)は、コラーゲン線維の線維間の間隙に代表されるものであり、好ましくは平均孔径は1〜50μm、より好ましくは5〜30μmである。本発明の軟骨再生用移植材料は、上記したコラーゲン線維が不織布のように折り重なって構成される。従って、上記孔は他の孔と連通できる連通孔となる。このため孔に細胞が侵入すると、連通孔を介して軟骨再生用移植材料の内部に細胞が侵入できる。本発明において「平均孔径」は、後記する実施例に記載した方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、水分含有量が0〜20(w/w)%の場合にコラーゲン密度が50〜800mg/cm、より好ましくは110〜600mg/cm、特に好ましくは200〜400mg/cmである。コラーゲンは、生体内では不溶性コラーゲンとして存在し、皮膚組織では25(w/v)%、腱組織では32(w/v)%と高濃度で結合組織を形成している。動物組織からコラーゲンを抽出するためにはコラーゲンを可溶化する必要があり、この可溶化コラーゲンは粘性が高い。このため高濃度コラーゲン溶液を調製することが困難で、密度の高いコラーゲン構造体は存在しなかった。しかしながら、本発明によれば、コラーゲン密度が50〜800mg/cmであり生体内のコラーゲン密度と均等の軟骨再生用移植材料を提供することができ、この軟骨再生用移植材料は組織等価物として使用することができる。なお、本発明において、コラーゲン密度は、後記する実施例に示す方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料を移植先に移植すると、軟骨再生用移植材料と接した移植部分の自家の細胞が軟骨再生用移植材料の内部へ侵入することが可能である。
本発明の軟骨再生用移植材料は、コラーゲンの分布が密度勾配を有する。密度勾配は、軟骨再生用移植材料の一方の端部から、前記一方の端部と対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされていることが好ましく、軟骨再生用移植材料の一方の端部の表層部から、前記一方の端部の表層部と対向する他方の端部の表層部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされていることがより好ましい。軟骨再生用移植材料は円柱状、多角柱状等の柱状であることが好ましく、円柱状であることがより好ましい。例えば軟骨再生材料が円柱状の場合、円柱の一方の底面から、他方の底面へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされているものが例示できる。
細胞は、コラーゲンの密度の小さいほうから大きいほうへと、移動が促進される傾向にあるとの報告がある(Mimura, T., Imai, S., Kubo, M., Isoya, E., Ando, K., Okumura, N., and Matsusue, Y. (2008) Osteoarthritis Cartilage. 16(9), 1083-91.)。軟骨再生用移植材料の一方の端部と対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされていることにより、軟骨再生用移植材料の内部へと侵入した細胞を、コラーゲン密度の小さい端部からコラーゲン密度の大きい端部へ向けて誘導させることができ、細胞移動の促進によっても軟骨再生を促進することができる。
また、発明者らは、後記の実施例において示すように、軟骨再生用移植材料の内部へ侵入した細胞を軟骨組織へと分化させるためには、該細胞の密度が高くなるよう、所定のコラーゲン密度を有する材料を用いることが重要であることを見出した。このことは、高細胞密度では軟骨細胞分化が促進されることからも合理的に理解できる。一方の端部から対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされている軟骨再生用移植材料では、コラーゲン密度の大きい側を、軟骨を再生させるべき位置になるように配置させることで、軟骨組織への細胞の分化の促進により軟骨再生を促進することができる。
軟骨再生用移植材料中のコラーゲンの密度勾配が、徐々に大きくされていることを示すために、例えば、前記密度勾配の方向と交わるように軟骨再生用移植材料を体積換算で3等分し、軟骨再生用移植材料を前記一方の端部を含む第一の端部、中間部、及び前記他方の端部を含む第二の端部に分けてもよい。そして、前記第一の端部のコラーゲン密度よりも前記中間部のコラーゲン密度が小さく、前記中間部のコラーゲン密度よりも第二の端部のコラーゲン密度が小さいことを示してもよい。このとき前記第一の端部は、第一の端部、中間部、及び第二の端部のなかで最も大きなコラーゲン密度を有している。
第一の端部のコラーゲン密度と第二の端部とのコラーゲン密度の比は、第一の端部のコラーゲン密度と第二の端部のコラーゲン密度が有意に異なるものであれば、特に制限されるものではないが、好ましくは3:1〜1.1:1であり、より好ましくは、2:1〜1.2:1である。
第一の端部のコラーゲン密度は、好ましくは200〜600mg/cm、より好ましくは300〜500mg/cmである。第一の端部のコラーゲン密度が上記範囲内であることにより、軟骨の再生能がより向上するため好ましい。
本発明の軟骨再生用移植材料には、前記端部が、コラーゲン密度の大きい方の端部又は小さい方の端部であることを示すための印が設けられていてもよい。前記印としては、文字、記号、マーク、色による標識等が挙げられる。また、軟骨再生用移植材料自体の形状によって、コラーゲン密度の大きい方の端部又は小さい方の端部であることをを示してもよい。
前記密度勾配は、不連続密度勾配であってもよく、連続密度勾配であってもよい。コラーゲンの分布が不連続密度勾配を有する軟骨再生用移植材料の一例としては、コラーゲン密度が異なる複数の層が積層されたものなどが挙げられる。コラーゲンの分布が連続密度勾配を有する軟骨再生用移植材料の一例としては、軟骨再生用移植材料がコラーゲンを含有する単一層からなり、前記単一層内でコラーゲン分布の密度勾配が連続的な分布をとるものなどが挙げられる。
本発明の軟骨再生用移植材料に係るコラーゲンの分布は、密度勾配が連続密度勾配であることが好ましい。コラーゲンの分布が連続的であることにより、軟骨再生用移植材料の内部へと侵入した細胞の細胞移動が促進される。特に、単一層においてコラーゲンの分布が連続的であることにより、層間の接合部においても細胞の移動や増殖等が妨げられる恐れもないため好ましい。また、前記単一層は同一原料から構成されていることが好ましい。
本発明の軟骨再生用移植材料は、コラーゲン線維内を架橋するものや、コラーゲン線維間を架橋して形成されたものであってもよい。ただし、コラーゲン線維の架橋の度合いが低いほど、生体内での分解性が高められるとの観点から、コラーゲン線維の架橋の程度は低いほうが好ましい。コラーゲン線維の架橋の程度が低いほど、材料の生体内でのコラゲナーゼなどによる分解性が良好であり、材料の自家組織への置き換わりに優れる。
生体内での分解性を示す指標として、コラーゲンの酸抽出率を採用することができる。酸抽出率の高い材料であれば、生体内での分解性も高い傾向にあるといえる。本発明の軟骨再生用移植材料は、10mM、4℃の塩酸に24時間浸漬させて抽出されたコラーゲンが、総コラーゲンのうち好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上である。なお、本発明において、軟骨再生用移植材料のコラーゲンの酸抽出率は、後記する実施例に示す方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。上記条件により求められたコラーゲンの酸抽出率を上記範囲内とすることで、生体内での分解性に優れ、自家組織への置き換わりに優れる軟骨再生用移植材料とすることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、20〜37℃での前記密度勾配の方向の圧縮剛性が好ましくは10〜70N/mm、より好ましくは25〜60N/mm、さらに好ましくは40〜55N/mmである。
軟骨再生用移植材料の圧縮剛性は、密度勾配の方向で測定することが好ましい。なお、本発明において、軟骨再生用移植材料の圧縮剛性は、後記する実施例に示す方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、三重螺旋構造を有するコラーゲン分子が会合したコラーゲン細線維が更に会合してなる平均直径が1〜10μmの太いコラーゲン線維を主成分として含有するため、コラーゲン自体の機械的強度を高く維持することができる。軟骨再生材料としては、軟骨組織に準ずる程度の機械的強度を有していることが望ましい。本発明の軟骨再生用移植材料は、コラーゲン自体の機械的強度が高められているので、機械的強度を高めるための架橋を付与せずとも、生体内での分解性及び機械的強度の両方を兼ね備えた軟骨再生用移植材料とすることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.5)に20時間浸漬した後での体積増加率が、好ましくは1.5〜2.5倍の範囲内、より好ましくは1.7〜2.3倍の範囲内、さらに好ましくは1.9〜2.1倍の範囲内である。上記条件により求められた体積増加率を上記である軟骨再生用移植材料は、軟骨再生用移植材料を生体組織へ埋設する場合に特に有用である。軟骨再生用移植材料と生体内の埋設対象部分とが完全に嵌合する形状でなくとも、軟骨再生用移植材料の体積が移植先で適度に増加することにより、形状の不一致により生じた間隙を増加した体積の分により補填することができ、容易に且つ強固に軟骨再生用移植材料を嵌合させることができる。なお、本発明において、軟骨再生用移植材料の体積増加率は、後記する実施例に示す方法と同一の条件又は互換性のある条件で測定することにより求めることができる。
本発明の軟骨再生用移植材料には、更に、細胞走化因子、成長因子、細胞増殖因子、血液凝固因子および抗凝固因子からなる群から選択される1種以上の因子を含むものであってもよい。このような成分の添加により、軟骨再生用移植材料に創傷治癒、腫瘍細胞増殖阻止、免疫調節、骨形成、造血の調節、止血、抗凝血などの効能を付与することができる。
例えば、走化因子としては、エリスロポエチン、インターロイキン1(IL−1)などのサイトカイン、インターロイキン8(IL−8)、NAP−2、MIP−2などのケモカインがある。
また、成長因子としては、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin−like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、血小板由来成長因子(Platelet−derived growth factor:PDGF)などがある。
増殖因子としては、脳由来神経栄養因子(Brain−derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte−colony stimulating factor:G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte−macrophage−colony stimulating factor:GM−CSF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGFまたはFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)などがある。
また、凝固因子としては、フィブリノーゲン・フィブリン(第I因子)、プロトロンビン・トロンビン(第II因子)、組織因子(第III因子、トロンボプラスチン)などがあり、抗凝固因子としては、ヘパリン、アンチトロンビンIIIなどがある。
このような添加物は、軟骨再生用移植材料に含浸その他によって結合するものであってもよく、結合手を介して軟骨再生用移植材料に結合するものであってもよく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、軟骨再生用移植材料を上記成分溶解液に含浸し、上記成分を吸着させた後に乾燥してなる軟骨再生用移植材料は、これを創傷部に充填すると、上記成分を徐放するため、ドラッグデリバリーシステムなどの一部材として使用することができる。
結合手としては、コラーゲン結合ドメインのポリペプチド鎖を例示することができる。例えば、フォンビルブラント因子のコラーゲン結合ドメインや、コラゲナーゼのコラーゲン結合ドメインを例示することができる。予め上記成分にコラーゲン結合ドメインのポリペプチド鎖を結合すると、前記結合手を介して成分がコラーゲン線維と安定して結合することができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、フィルム状、シート状、ブロック状等に成形されたものである。前記ブロック状には、柱状、球状、推状のほか、任意の形状に成形されたものであってもよい。特に、軟骨部分を含む各種生体組織の特定形状に成形することもできる。前記特定形状としては、例えば、膝関節を構成する半月板、所定の軟骨の形状などを例示することができる。または、本発明の軟骨再生用移植材料を皮下に埋設し、または人工骨として骨折部に充填することで、近傍の細胞を増殖させ、骨及び軟骨の再生機能を促成することができる。
或いは、軟骨再生を促すために、生体組織を人為的に欠損させてできた欠損部の形状に成形して、欠損部に軟骨再生用移植材料を充填することもできる。このとき、骨髄部分に達するまで骨を削り、欠損部に軟骨再生用移植材料を充填して骨髄の成分を軟骨再生用移植材料に滲みこませることを行なってもよい。本発明の軟骨再生用移植材料は多孔質であるため、骨髄成分を保持することができ、骨髄成分中の細胞などの働きによって、より一層効果的に軟骨再生を促すことができる。
特に軟骨再生用移植材料の一方の端部と対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされている軟骨再生用移植材料の場合、軟骨再生用移植材料を軟骨等の欠損部に充填する際に、コラーゲン密度の大きい側を軟骨を再生させるべき部分に対応させて配置させることが好ましい。上記配置により、軟骨再生用移植材料の内部へと侵入した細胞をコラーゲン密度の小さい側からコラーゲン密度の大きい側へと誘導させることができ、軟骨再生を促進することができる。
なお、本発明の軟骨再生用移植材料に更に他の構造が付加されたものを、移植に用いてもよい。
本発明の軟骨再生用移植材料は、軟骨再生のために使用可能である。また、軟骨再生用移植材料を治療対象部位に移植することは、軟骨再生方法として実施することができる。
軟骨再生とは、細胞の増加、分化、成熟等の軟骨の修復又は軟骨の発生過程で生じる様々な現象のうち少なくとも一つを示していればよい。軟骨は、軟骨に特徴的な成分を検出することによっても確認することができる。検出は、サフラニンO、アルシアンブルー等の各種染色液や抗体による染色によっても行うことができる。その他、内視鏡等を用いて直接軟骨を観察することによっても確認することができる。
軟骨再生は、治療対象部位にもともと存在する細胞(内在性の細胞)によるものであってもよいし、例えば軟骨再生用移植材料とともに移植された細胞(外来性の細胞)によるものであってもよい。これらの細胞としては、軟骨細胞、骨芽細胞、軟骨細胞の前駆細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞等を挙げることができる。
(2)軟骨再生用移植材料の製造方法
上記軟骨再生用移植材料の製造方法に限定はない。しかしながら、コラーゲン酸性溶液を中性にしてコラーゲン線維を生成するコラーゲン線維生成工程、前記コラーゲン線維を含有する溶液から前記コラーゲン線維を分取してコラーゲン濃度12〜50(w/v)%の粗コラーゲン線維を形成する粗コラーゲン線維形成工程、前記粗コラーゲン線維を所定形状に成形する成形工程、および前記成形工程で得た成形物を乾燥する乾燥工程とにより上記軟骨再生用移植材料を製造することができる。本発明の軟骨再生用移植材料の製造方法は、前記成型工程が圧縮濾過成型によるものである。
前記粗コラーゲン線維形成工程に次いで、前記粗コラーゲン線維を親水性有機溶媒に分散させた後に前記親水性有機溶媒から前記コラーゲン線維を分取して脱水するコラーゲン線維脱水工程を行い、その後に成形および乾燥して軟骨再生用移植材料を製造することもできる。また、前記コラーゲン線維脱水工程に次いで、前記脱水したコラーゲン線維を架橋処理および/または薬剤処理を行う処理工程を行い、ついで、前記処理したコラーゲン線維を乾燥する乾燥工程を行うことで、架橋軟骨再生用移植材料を製造することもできる。
本発明で使用するコラーゲンは、ウシ、ブタ、鳥、魚などの動物の皮膚やその他のコラーゲンを含む組織から採取することができる。一般に、コラーゲンは、動物の結合組織に多く含まれるが、熱処理によって抽出するとコラーゲンが熱変性して特有の三重螺旋構造が壊され、ゼラチンとなる。本発明では、三重螺旋構造を有するコラーゲンを使用する。このようなコラーゲンの抽出法として、動物の骨、皮などを材料として、酸処理、酵素処理による可溶化法等がある。好ましくは、コラーゲンの抽出原料として、ウシ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ、ウマ、魚類等の真皮や腱がある。胎児由来などの若い動物の組織を使用すると収率が向上するため好ましい。
また、酵素処理してなるコラーゲン溶液としては、例えば、牛皮の真皮層を細砕し、脱脂したものを使用することができる。この組織をコラーゲン終濃度0.5〜5(w/v)%となるよう蒸留水に懸濁後、塩酸を加えてpH3.0に調整する。コラーゲン重量に対し百分の一量の酸性プロテアーゼを加え25℃、72時間可溶化処理を行う。酵素反応停止後、上記酵素可溶化コラーゲン液を塩析し、回収した塩析沈澱をコラーゲン濃度1〜5(w/v)%となるように蒸留水に分散させ、塩酸を加えて均一に溶解してコラーゲン溶液とすることができる。
上記したコラーゲン酸性溶液のpHは、1.0〜6.0であることが好ましく、より好ましくは3.0〜4.0である。pHが上記範囲を超えるとコラーゲンの線維化が困難となる場合がある。
本発明では、上記コラーゲン酸性溶液を中性にする。コラーゲン溶液は、酵素処理によって調製した場合も、酸処理によって調製した場合も、溶液中にコラーゲン分子を溶解するため液性が酸性である。このようなコラーゲン酸性溶液にアルカリ性や中性緩衝液を添加する。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液などを使用することができる。また、中性緩衝液としては、リン酸とリン酸ナトリウムとからなるpH7.0〜9.5のリン酸緩衝液、HEPES[2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid]緩衝液(pH6.8−8.2)、クエン酸‐リン酸緩衝液(pH2.6〜7.0)、50mM Tris緩衝液(pH7.4)、50mMリン酸(pH7.4)など、pH7.0近傍で緩衝作用を有するものを広く使用することができる。なお、中性とはpH6.0〜9.0であればよい。
上記したアルカリ性溶液や中性緩衝液には、pHを変化させない範囲で他の塩などを含んでいてもよい。このような塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを例示することができる。このような塩の添加によってコラーゲン溶液がヒトの体液と等張になると、生体内のコラーゲンと同様に約67nmのずれをもったコラーゲン線維を形成することができる。従って、添加する塩の量は、中性処理後のコラーゲン溶液の浸透圧が、ヒトの体液と等張にしうる量とすることが好ましい。
本発明では、中性後のコラーゲン溶液のコラーゲン濃度は、0.01〜5(w/v)%、より好ましくは0.1〜5(w/v)%、特に好ましくは0.3〜5(w/v)%である。0.01(w/v)%より低濃度であるとその後の濃縮も容易でない。一方、コラーゲンは粘性が高いため、5(w/v)%より高濃度のコラーゲン溶液の調製は困難である。
本発明では、上記中性処理後のコラーゲン溶液を、温度4〜45℃、より好ましくは30〜37℃の範囲で静置する。この範囲で、前記コラーゲン溶液に溶解したコラーゲン分子は、上記中性処理により溶液中で会合し、ゲル状物を形成する。
本発明では、次いで上記したゲル状物を含む溶液を緩やかに撹拌する。穏やかな撹拌によりゲル状物を構成するコラーゲン分子相互の会合が促進され、コラーゲン線維の構造を保ちつつ線維間の水分が放出され、太く、かつ線維長の長いコラーゲン線維が前記溶液中に析出する。従って、撹拌の程度は、コラーゲン分子の会合が促進できる程度であればよい。強度の撹拌を行うと生成したコラーゲン線維が物理的に破断され、細く短いコラーゲン線維となる。穏やかな撹拌により析出するコラーゲン線維の溶液中の平均直径は1〜100μmであり、線維長さは1〜10mmである。
このコラーゲン線維が析出した溶液をろ過し、または遠心分離すると前記コラーゲン線維を分取することができる。本発明では、コラーゲン溶液から分取されたコラーゲン線維を「粗コラーゲン線維」と称する。したがって、粗コラーゲン線維はコラーゲン線維と水分とを主成分とする。粗コラーゲン線維に含まれるコラーゲン線維の濃度が12(w/v)%に満たない場合には、再度、遠心分離やろ過などを行い、コラーゲン濃度12〜50(w/v)%、より好ましくは15〜40(w/v)%、特に好ましくは18〜30(w/v)%に濃縮する。
ろ過により上記コラーゲン濃度の粗コラーゲン線維を分取するには、ポアサイズが1μm〜1mm、より好ましくは10μm〜100μmのろ紙を使用することが好ましい。ポアサイズが上記範囲であれば、大量のコラーゲン線維を効率的に処理することができる。
一方、前記コラーゲン溶液を遠心分離して、粗コラーゲン線維を分取することもできる。例えば、10000〜20000rpmで10分から1時間遠心する。なお、上記範囲のコラーゲン濃度に調整するため、遠心分離は複数回行ってもよい。
本発明では、分取した粗コラーゲン線維を所定形状に成形する。成形された粗コラーゲン線維の形状は、フィルム状、シート状のほか、各種の立体構造に成形できる。軟骨再生用移植材料を組織充填用に使用する場合には、生体内の充填部と嵌合しうる形状に成形してもよい。
例えば、コラーゲン線維が析出したコラーゲン溶液をろ過して粗コラーゲン線維を分取する場合には、例えば、ロートの中間部に形成した多孔のろ紙載置部にろ紙を配設してコラーゲン溶液をろ過すれば、ろ紙上にシート状またはブロック状に粗コラーゲン線維を堆積することができる。予め、前記ろ紙載置部を所定形状に変形して鋳型として使用し、ろ紙載置部に粗コラーゲン線維を堆積させ、所定形状に成形することもできる。上記は、粗コラーゲン線維形成工程と成形工程とを連続して行う態様の一例である。また、ろ紙上に積層した粗コラーゲン線維を所定形状の鋳型に充填して成形してもよい。
本発明の軟骨再生用移植材料は、本発明の軟骨再生用移植材料を構成するコラーゲンの分布に密度勾配を有するものである。コラーゲンの分布に密度勾配を付与する方法は、特に制限されるものではないが、成形工程において、粗コラーゲン線維中のコラーゲン線維の分布に偏りを生じさせることで、コラーゲンの分布が密度勾配を有する軟骨再生用移植を製造することができる。
粗コラーゲン線維中のコラーゲン線維の分布に偏りを生じさせる方法として、本発明の軟骨移植材料の製造方法では、成形工程として圧縮濾過成型を採用する。圧縮濾過成型の方法としては、例えば、壁面にろ紙等のフィルターを配設した鋳型に粗コラーゲン線維を充填し、粗コラーゲン線維を圧縮することが挙げられる。すると、圧縮によりフィルターから粗コラーゲン線維に含まれる水分が脱水されるとともに、フィルター付近でコラーゲン線維が集積して、フィルター付近を最大とするコラーゲン線維の密度勾配が形成された粗コラーゲン線維を成型することができる。
上記圧縮には、遠心力による圧縮も含まれる。すなわち上記した成形方法は、遠心操作によって粗コラーゲン線維を形成した場合も同様に応用することができる。この場合、鋳型中における遠心力の力の方向の端を最大とするコラーゲン線維の密度勾配が形成される。遠心力の力の方向とフィルターの配設位置を一致させることで、遠心操作によりフィルターから粗コラーゲン線維に含まれる水分が脱水されるとともに、フィルター付近でコラーゲン線維が集積して、フィルター付近を最大とするコラーゲン線維の密度勾配が形成された粗コラーゲン線維を成型することもできる。例えば、遠心分離の際に、遠心管の底面にろ紙等のフィルターを配設して、これを鋳型として使用し、遠心分離と同時に粗コラーゲン線維を所定の形状に成形することができる。遠心の操作は前記粗コラーゲン線維形成工程を兼ねていてもよく、上記の方法は、粗コラーゲン線維形成工程と成形工程とを連続して行う態様の一例とすることもできる。
ついで、成形した粗コラーゲン線維を乾燥する。本発明の製造方法では、コラーゲン濃度が12〜50(w/v)%の粗コラーゲン線維を成形したため、成形した粗コラーゲン線維を凍結乾燥や風乾、温熱乾燥、真空吸引その他により脱水および乾燥し、軟骨再生用移植材料を製造することができる。なお、予め、円柱や角柱などの形状の軟骨再生用移植材料を得て、これを削るなどの方法で更に造型を行ってもよい。乾燥の程度は、水分含有量0〜20(w/w)%である。コラーゲン溶液に比較して、保存安定性に優れるからである。
本発明の軟骨再生用移植材料は、上記乾燥した後に、これを圧縮成形してもよい。本発明の軟骨再生用移植材料を構成するコラーゲン線維は、平均直径が1〜10μmであり、その長さは一般に1〜10mmである。このように太くて長いコラーゲン線維が不織布のように堆積し、細胞浸潤性と強度とが確保されるため、圧縮成形を行っても細胞浸潤性や強度を低下させることなく、コラーゲン濃度を上昇させることができる。このような圧縮成形は、乾燥後に行う以外の工程、例えば、粗コラーゲン線維を所定形状に成形する際などにおこなってもよい。
本発明では、粗コラーゲン線維を分取する前に、粗コラーゲン線維にその3〜2000質量部、好ましくは5〜1000質量部、より好ましくは10〜100質量部、特に好ましくは10〜30質量部の親水性有機溶媒を添加し、粗コラーゲン線維が分散する親水性有機溶媒を調製し、ついでろ過して粗コラーゲン線維を分取して粗コラーゲン線維を脱水してもよい。本発明で使用する粗コラーゲン線維は、コラーゲン濃度が12〜50(w/v)%と従来のコラーゲン溶液と比較してコラーゲン濃度が高い。このため、例えば100%エタノールなどの高濃度の親水性有機溶媒に分散させることができ、これによって親水性が高い粗コラーゲン線維を効率的に脱水することができる。粗コラーゲン線維が分散する親水性有機溶媒はコラーゲン溶液よりも流動性が高く、溶液のろ過効率および粗コラーゲン線維成形後の乾燥効率を向上させることができる。ろ過操作時の目詰まりが抑制されるため、厚みのあるブロック状のコラーゲン構造体を製造することができる。
従来からエタノールなどによるコラーゲンの脱水は知られて、アルコール濃度を漸次高めつつ脱水することが一般であった。しかしながら、本発明では粗コラーゲン線維のコラーゲン濃度が12〜50(w/v)%と高濃度であるため、例えばエタノールを使用する場合でも、100%エタノールを使用することができる。このため親水性有機溶媒による脱水を簡便かつ効率的に行うことができる。
粗コラーゲン線維を分散させる親水性有機溶媒としては、水と混和しうる炭素含有溶媒であればよく、例えばアルコール、ケトン、エーテル、エステル、極性非プロトン性溶媒などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t‐ブタノール等の炭素数1〜6の一価アルコールやエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールなどがある。ケトンとしてはアセトン、メチルエチルケトンなどがある。また、エーテルとしてはジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテルや、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルなどがある。更に、エステルとしては酢酸エチル、乳酸エチルなどがあり、極性非プロトン性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジンなどがある。中でも好ましくは水と任意の割合で混和しうるもの、例えばアセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。中でも、エタノール、アセトン、ジエチルエーテルまたはこれらの混合液を好適に使用することができる。
なお、使用する親水性有機溶媒の温度は、15℃以下であることが好ましい。コラーゲン線維を変性させず、コラーゲン分子の三重螺旋構造を維持しうるからである。
粗コラーゲン線維を分散した親水性有機溶媒は、ろ過などにより粗コラーゲン線維を親水性有機溶媒と分離し、結果的に粗コラーゲン線維を脱水することができる。粗コラーゲン線維を含む親水性有機溶媒をろ過する際に、ロートの中間部に形成した多孔のろ紙載置部にろ紙を配設し、前記した粗コラーゲン線維が分散する親水性有機溶媒をろ過すれば、ろ紙上に粗コラーゲン線維がシート状に堆積する。これにより、粗コラーゲン線維の脱水と粗コラーゲン線維の成形とを連続して行うことができる。堆積量を多くしてブロック状に成形することもできる。なお、脱水後の粗コラーゲン線維を所定の鋳型によって形成することもできる。
コラーゲンは、親水性が高いため乾燥は容易でなく、特に立体物の乾燥は容易でない。しかしながら、本発明では、上記コラーゲン濃度の粗コラーゲン線維を使用し、親水性有機溶媒を使用して粗コラーゲン繊維を脱水するためコラーゲン密度が高く立体形状を維持しうるコラーゲン構造体を製造することができる。
成形後の粗コラーゲン線維は、形状やサイズにもよるが、凍結乾燥のほか、風乾によっても乾燥することができる。風乾によれば、安価でありコラーゲン線維の熱変性も防止することができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、更に架橋構造を有するものであってもよい。架橋構造の導入によって生体に埋設された後の分解を抑制することができる。架橋する方法は、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドなどのアルデヒド類、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース等をコラーゲン線維やコラーゲン構造体に接触させることで導入することができる。また、カルボジイミド系、エポキシド系およびイミダゾール系架橋剤を添加して架橋することもできる。また、紫外線やγ線、電子線などの照射によっても架橋することができる。なお、コラーゲンは、自然乾燥を行うと一部に架橋構造が形成される場合がある。
本発明の軟骨再生用移植材料は、架橋の有無に関わらず、細胞走化因子、成長因子、細胞増殖因子、血液凝固因子および抗凝固因子からなる群から選択される1種以上の因子を結合することができる。因子の結合は、化学的結合のほか、吸着、担持などの物理的結合であってもよい。
因子を結合する工程は、軟骨再生用移植材料を製造するいずれの工程で行ってもよい。例えば、粗コラーゲン線維の乾燥工程に先立ついずれかの工程で、コラーゲン線維に細胞走化因子、成長因子、細胞増殖因子、血液凝固因子および抗凝固因子からなる群から選択される1種以上の因子を結合することができる。どの段階で因子を結合するかは、添加する成分の化学的特性その他によって適宜選択することができる。例えば、粗コラーゲン線維に上記因子を添加して均一に撹拌し、物理的に結合した後に、粗コラーゲン線維を所定形状に成形し、および乾燥して、軟骨再生用移植材料を製造することができる。また、粗コラーゲン線維を親水性有機溶媒中に分散し、当該溶媒をろ過して脱水した粗コラーゲン線維に上記成分を混合した後、乾燥して軟骨再生用移植材料を製造することができる。
更に、水分含有量が0〜20(w/w)%の軟骨再生用移植材料を製造した後に上記因子の水溶液を軟骨再生用移植材料に含浸させ、その後に再度水分含有量が0〜20(w/w)%となるように乾燥させてもよい。
上記因子を軟骨再生用移植材料に化学的に結合するには、予めコラーゲンとの結合手を形成した因子を使用してもよい。このような結合手として、フォンビルブラント因子のコラーゲン結合ドメインや、コラゲナーゼのコラーゲン結合ドメインのポリペプチド鎖がある。例えば、上記因子にコラーゲン結合ドメインのポリペプチド鎖を結合させておき、軟骨再生用移植材料にこのような結合手を有する因子の溶液を含浸すると、前記結合手を介して前記因子が結合する。コラーゲン結合ドメインのアミノ酸配列は、コラーゲンを基質とする酵素コラゲナーゼと同様にコラーゲンに特異的に結合することができる。
本発明の軟骨再生用移植材料は、コラーゲン密度が高くかつ所望の形状に成形されている点に特徴がある。形状としては、フィルム状、シート状のほか、ブロック状、その他、用途に応じて選択できる。従前から、フィルム状やシート状などの薄層状の成形品は存在し、コラーゲンスポンジや管状コラーゲン構造体は存在したが、コラーゲン濃度が高く、かつブロック状物のコラーゲン構造体は存在しなかった。乾燥前のコラーゲン濃度を向上させることが困難なためである。本発明では、特に粗コラーゲン線維を親水性有機溶媒に分散して粗コラーゲン線維を脱水することで、簡便に粗コラーゲン線維による大きな堆積物を形成することができ、かつ風乾などによって容易に乾燥することができる。なお、大きな堆積物を所定形状の鋳型に充填して成形し、複雑な形状のコラーゲン構造体を製造することもできる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)コラーゲン構造体の調製
(実施例1)
豚皮の真皮層を肉挽き等で細砕し、脱脂後十分に洗浄した組織を原料とした。終濃度5mg/mlのペプシン、50mM酢酸となるよう混合した可溶化水溶液に、コラーゲン終濃度0.5質量%となるように前記原料を懸濁し、4℃、一晩可溶化処理を行った。上記のようにして得た酵素可溶化コラーゲン液に、終濃度5質量%となるよう塩化ナトリウムを加えて塩析させ、遠心分離により沈殿を回収した。回収した塩析物を、コラーゲン濃度0.4(w/v)%となるように蒸留水に分散させ、塩酸を加えてpH3.0に調整して均一に溶解し、コラーゲン溶液とした。
このコラーゲン溶液10ml(温度4℃)に、温度4℃の中性緩衝液としてリン酸緩衝生理食塩水(pH7.5)を125ml添加し、温度37℃で24時間穏やかな撹拌を行った。緩やかに撹拌すると会合が促進してコラーゲン線維が形成され溶液中に分散した。次いで、17500rpm、20分の遠心分離により沈殿を回収し、粗コラーゲン線維を得た。
得られた粗コラーゲン線維を温度20℃のエタノール10gに投入し、ミキサーを用いて十分に分散させ、得られた分散液を、内部直径が5mmで脱脂綿を平面に圧縮したものが底面に詰められたシリンジ状の鋳型に注ぎ、プランジャを押して圧縮成型することで高さ5mmの成形物を得た。
次いで、成形物を室温で風乾し、実施例1のコラーゲン構造体を得た。実施例1のコラーゲン構造体は円柱状であり、直径5mm、高さ3mmであった。
(比較例1)
コラーゲンスポンジとして市販されている細胞培養基材を入手し、これを比較例1のコラーゲン構造体とした。比較例1のコラーゲン構造体は円柱状であり、直径5mm、高さ3mmであった。
(2)水分含有量
下記方法によりコラーゲン構造体の水分含有率を測定した。
(i)水分含有量の測定方法
コラーゲン構造体の質量(w1)をメトラートレド社製精密天秤AT250にて測定した。ついで、FTS SYSTEM社製真空乾燥機FLEXI-DRY FD-3-85D-MPにて15時間真空乾燥させて水分を蒸発させた後、コラーゲン構造体の質量(w2)を測定した。真空乾燥前後の質量変化(w1−w2)を水分量とし、コラーゲン構造体の質量(w1)に対する前記水分量の百分率(%)を水分含有量とした。
結果を表1に示す。実施例1のコラーゲン構造体の水分含有量は、16.40(w/w)%であり、比較例1のコラーゲン構造体の水分含有量は、16.23(w/w)%であった。
(3)コラーゲン構造体を構成するコラーゲン線維の平均直径、孔径
上記コラーゲン構造体について、乾燥状態における線維の平均直径、平均孔径を下記方法により測定した。
(i)コラーゲン線維の平均直径
実施例1のコラーゲン構造体を日本電子社製走査型電子顕微鏡(SEM)CarryScope JCM-5700で観察した(図1(a))。観察されたコラーゲン線維の内、無作為に20本の線維を選出してそれらの直径を測定した。20本の線維の直径の平均を算出し、平均直径とした。
比較例1のコラーゲン構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した(図1(b))。比較例1のコラーゲン構造体では、線維状の構造は観察されず、比較例1のコラーゲン構造体は海綿状の多孔質体であることが判明した。孔の枠を構成している膜状のコラーゲンを無作為に20カ所選出し、その部分の膜の厚みを測定した。20カ所の膜厚の平均を算出し、平均膜厚とした。
(ii)コラーゲン構造体の平均孔径
実施例1のコラーゲン構造体を走査型電子顕微鏡像(SEM)で観察し、無作為に選んだ20カ所の線維孔の直径を測定した。20ヶ所の孔径の平均を算出し、平均孔径とした。
比較例1のコラーゲン構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、観察された孔のうち、無作為に20個の孔を選出して、画像処理ソフトImageJによるエリア測定でそれぞれの孔の画像から孔の面積を計算し真円換算して、孔の直径を算出した。20個の孔の直径の平均を求め、平均直径とした。
結果を表2に示す。実施例1のコラーゲン構造体の平均孔径は11.11μmであり、直径が5〜7μmの細胞を浸潤させる十分な間隙を有していた。
(4)コラーゲン密度
コラーゲン密度を下記方法により測定した。
(i)コラーゲン構造体のコラーゲン密度の測定法
実施例1コラーゲン構造体を、メスを用いて円柱の底面及び上面に対して水平方向に3分割した。3分割されたサンプルを成形時の圧縮の方向に沿って、順に上部・中部・下部とした(図2参照)。上部・中部・下部のそれぞれを1mLの6N HClにて110℃、24時間加水分解後、蒸発乾固し、0.02N HClで再溶解した。得られた溶液をサンプルとし、日立製L−8800 Amino Acid Analyzerでアミノ酸組成を測定した。ヒドロキシプロリン量(Hypro量)より、〔Collagen(mg)=係数×Hypro(mg) 〕の式を用いてコラーゲン量を計算した(係数はブタ真皮由来ペプシン可溶化コラーゲンより算出:7.15)。算出されたコラーゲン量を体積にて除することで、上部・中部・下部のそれぞれの部分におけるコラーゲン密度を概算した(N=3)。
比較対照として、比較例1のコラーゲン構造体に対しても、同様の方法でコラーゲン密度を算出した(N=3)。なお、比較例1のコラーゲン構造体における測定値のデータの収集に際しては、計測の結果、密度の高かった方のサンプルを下部側とし、計測の結果、密度の低かった方のサンプルを上部側として、データを収集した。
比較対照として、比較例1のコラーゲン構造体に対しても、同様の方法で、上部・中部・下部のそれぞれの部分におけるコラーゲン密度を算出した(N=3)。
(ii)コラーゲン構造体全体のコラーゲン密度の測定
実施例1のコラーゲン構造体において、上記(i)コラーゲン構造体のコラーゲン密度の測定法にて得られた、上部・中部・下部のそれぞれの部分のコラーゲン密度の平均値を求め、実施例1のコラーゲン構造体全体の密度を算出した(N=3)。
比較対照として、比較例1のコラーゲン構造体に対しても、同様の方法でコラーゲン構造体全体のコラーゲン密度を算出した(N=3)。
結果を表3及び図3に示す。図3(a)は、実施例1のコラーゲン構造体を上部・中部・下部に3等分し、各部におけるコラーゲン密度を測定した結果を示すグラフである。図3(b)は、比較例1のコラーゲン構造体を上部・中部・下部に3等分し、各部におけるコラーゲン密度を測定した結果を示すグラフである。
実施例1のコラーゲン構造体では、上部、中部、下部の順にコラーゲンの密度勾配が観察された。一方で、比較例1のコラーゲン構造体には、有意なコラーゲンの密度勾配は観察されなかった。
(5)吸水性及び体積増加率
コラーゲン構造体の吸水性及び体積増加率を下記方法により測定した。
(i)コラーゲン構造体の吸水性の測定方法
100mlあたり、KCl 20 mg、KHPO 20 mg、NaCl 800 mg、NaHPO 115 mgの組成で調製したリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に、コラーゲン構造体全体を浸して室温で静置し、吸水開始から0.5時間、1時間、2時間、4時間、20時間の各時点でリン酸緩衝生理食塩水からコラーゲン構造体を取り出して、コラーゲン構造体から余分な水分を除去し、メトラートレド社製精密天秤AT250にてコラーゲン構造体の重量を測定した。重量変化量(吸水量)を吸水前のコラーゲン構造体の体積で除することで、体積当たりの吸水率を算出した(N=4)。
(ii)コラーゲン構造体の体積増加率の測定方法
上記吸水性の測定方法において、吸水前および吸水開始時点から20時間後に余分な水分を取り除いたコラーゲン構造体の直径及び高さを定規にて測定し、下記の式にて体積を算出した。
(半径×半径)×π×高さ
次いで、吸水開始から20時間経過後のコラーゲン構造体の体積増加率を、下記の式にて算出した。
吸水開始から20時間後のコラーゲン構造体の体積 ÷ 吸水前のコラーゲン構造体の体積
結果を図4及び表4に示す。比較例1のコラーゲン構造体では、吸水による体積増加はほとんど生じなかったのに対し、実施例1のコラーゲン構造体では、吸水により顕著に体積が増加していた。
(6)酸抽出率
コラーゲン構造体の酸抽出率を下記方法により測定した。
(i)酸抽出率の測定方法
実施例1のコラーゲン構造体に対し、40mlの10mM HClを加え、4℃で24時間撹拌し、コラーゲンを抽出した。当該抽出法によって抽出されるコラーゲン量は、コラーゲンの架橋の度合いを反映しているものと考えられる。抽出液を6N HClにて110℃、24時間加水分解後、蒸発乾固し、0.02N HClで再溶解した。得られた溶液をサンプルとし、日立製L−8800 Amino Acid Analyzerでアミノ酸組成を測定した。ヒドロキシプロリン量(Hypro量)より、〔Collagen(mg)=係数×Hypro(mg) 〕の式を用いてコラーゲン量を計算した(係数はブタ真皮由来ペプシン可溶化コラーゲンより算出:7.15)。また、同時に上記酸抽出を経ていないコラーゲン構造物をそのままアミノ酸分析することで、コラーゲン構造体一個当たりの総コラーゲン量を算出した(N=3)。抽出されたコラーゲン量を、コラーゲン構造体の総コラーゲン量の平均値で除することで、コラーゲンの酸抽出率を概算した。
比較対照として、比較例1のコラーゲン構造体に対しても、同様の方法でコラーゲンの酸抽出率を算出した(N=3)。
結果を表5に示す。実施例1のコラーゲン構造体は、架橋処理を経て製造されておらず、上記酸抽出によってほぼ全てのコラーゲンが可溶化された。一方で、比較例1のコラーゲン構造体は、上記酸抽出によっては、ほとんど可溶化できず、かなり強固な架橋処理が行われているもの考えられる。
(7)剛性
コラーゲン構造体の剛性を下記方法により測定した。
(i)剛性の測定方法
直径5mm、高さ3mmの円柱状の実施例1のコラーゲン構造体を試料として用いた。測定装置はデジタルフォースゲージFGP−100(日本電産シンポ株式会社)と縦型荷重試験スタンドFGS−50VB(日本電産シンポ株式会社)を用いた。速度1mm/sで、コラーゲン構造体の円柱の底面及び上面に垂直な方向に荷重をかけて試料を圧縮し、圧縮剛性を測定した(N=3)。測定値の解析には、フォースゲージFGPシリーズ、Excel用アドインソフト、トリえもんUCB Ver1.00(日本電産シンポ株式会社)を使用した。
比較対照として、直径5mm、高さ3mmの円柱状の比較例1のコラーゲン構造体を試料として用い、比較例1のコラーゲン構造体に対しても、実施例1のコラーゲン構造体に対して行ったものと同様の方法で、比較例1のコラーゲン構造体の圧縮剛性を測定した(N=3)。
結果を表6に示す。実施例1のコラーゲン構造体は、比較例1のコラーゲン構造体と比べて高剛性の構造体であることが分かる。
(8)軟骨欠損部への移植実験
(移植例1)
日本白色家兎(体重2.5−3.0 kg)の膝蓋大腿関節の大腿骨側に直径5mm,深さ5mmの骨軟骨欠損を作製した。円柱状であり、直径5mm,高さ3mmの実施例1のコラーゲン構造体をリン酸緩衝液に4℃で2時間浸漬させた後、兎の骨軟骨欠損部に移植した。移植24週後、移植部分の大腿骨を採取して、固定、脱灰、パラフィン包埋を行った。薄切切片を作製後、サフランニンO 染色を行った。
(比較移植例1)
日本白色家兎(体重2.5〜3.0 kg)の膝蓋大腿関節の大腿骨側に直径5mm,深さ5mmの骨軟骨欠損を作製した。円柱状であり、直径5mm,高さ3mmの比較例1のコラーゲン構造体をリン酸緩衝液に4℃で2時間浸漬させた後、兎の骨軟骨欠損部に移植した。移植24週後、移植部分の大腿骨を採取して、固定、脱灰、パラフィン包埋を行った。薄切切片を作製後、サフランニンO 染色を行った。
サフランニンO 染色の結果を図5に示す。
実施例1のコラーゲン構造体が移植された移植例1の群では、移植後24週では軟骨欠損部は軟骨組織で覆われ、軟骨下骨も再生された。コラーゲン材料は完全に吸収されて消失していた(図5A,B)。
一方、比較例1のコラーゲン構造体が移植された比較移植例1の群では、コラーゲン構造体が移植された部分への自家組織由来の細胞の浸潤が認められはしたが、これらの細胞は軟骨の組織の細胞へとは分化しておらず、軟骨再生が全く認められなかった。また、コラーゲン材料の残存が認められた(図5C,D)。
これらの結果から、実施例1のコラーゲン構造体は、比較例1のコラーゲン構造体と比較しても、非常に優れた軟骨再生能を有することが分かる。また、実施例1のコラーゲン構造体は、自家の軟骨組織への置き換わりが非常に早いことからも、軟骨再生用移植材料として極めて優良であることが示された。
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。

Claims (6)

  1. 平均直径が1〜10μmのコラーゲン線維を主成分として含有する軟骨再生用移植材料であって、水分含量0〜20(w/w)%であり、コラーゲン密度が200400mg/cmであり、前記コラーゲン線維の分布が密度勾配を有し、
    前記密度勾配が連続密度勾配であり、
    一方の端部から、前記一方の端部と対向する他方の端部へかけて、前記密度勾配のコラーゲン密度が大きくされており、
    前記他方の端部のコラーゲン密度が、300〜500mg/cm あり、
    前記軟骨再生用移植材料を10mM、4℃の塩酸に24時間浸漬させて抽出されたコラーゲンが、前記軟骨再生用移植材料に含まれる総コラーゲンのうち75質量%以上であることを特徴とする軟骨再生用移植材料。
  2. 前記軟骨再生用移植材料が孔を有し、当該孔の平均孔径が1〜50μmである請求項1に記載の軟骨再生用移植材料。
  3. 20〜37℃での前記密度勾配の方向の圧縮剛性が10〜70N/mmである請求項1又は2に記載の軟骨再生用移植材料。
  4. リン酸緩衝生理食塩水(pH7.5)に20時間浸漬した後での体積増加率が1.5〜2.5倍の範囲内である請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟骨再生用移植材料。
  5. 更に、細胞走化因子、成長因子、細胞増殖因子、血液凝固因子および抗凝固因子からなる群から選択される1種以上の因子を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟骨再生用移植材料。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨再生用移植材料の製造方法であって、
    コラーゲン酸性溶液を中性にしてコラーゲン線維を生成するコラーゲン線維生成工程、
    前記コラーゲン線維を含有する溶液から前記コラーゲン線維を分取してコラーゲン濃度12〜50(w/v)%の粗コラーゲン線維を形成する粗コラーゲン線維形成工程、
    前記粗コラーゲン線維を所定形状に成形する成型工程、および
    前記成型工程で得た成形物を乾燥する乾燥工程を行い、
    前記成型工程が圧縮濾過成型であることを特徴とする軟骨再生用移植材料の製造方法。
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